ロシア:「戦争に反対する社会主義者」連合のマニフェスト


以下は、LEFTEASTに掲載されたロシアの戦争に反対する社会主義者連合の宣言です。英語からの重訳なので、訳文の後ろにロシア語原文を掲載しておきます。(小倉利丸)


2022年3月17日
LeftEast編集部注:ロシアの非公式グループ「戦争に反対する社会主義者」のマニフェストの原文(以下も同様)を英語版で転載します。

この勢力は、平和と安定の約束を基盤にしつつも、結局は国を戦争と経済的破局に導いた。

歴史上の他の戦争と同様、現在の戦争も皆を賛成派と反対派に二分している。クレムリンのプロパガンダは、国民全体が権力の周りに結集したと私たちに信じ込ませようとしている。そして、惨めな祖先、親欧米のリベラル派と外敵の傭兵が平和のために戦っている。まったくもって、どうしようもない嘘だ。今回、クレムリンの長老たちは少数派であった。ほとんどのロシア人は、ロシア当局をまだ信頼している人々の間でさえ、民族紛争的な戦争を望んでいない。彼らは、プロパガンダによって描かれた世界が崩壊するのを見ないように、目をつぶっている。彼らは、今起きていることは戦争ではなく、とりわけ攻撃的なものでもなく、ウクライナの人々を「解放」するための「特別作戦」であると、まだ願っているのである。残酷な爆撃や都市への砲撃の悲惨な映像は、すぐにこれらの神話を破壊するだろう。そして、プーチンの最も忠実な有権者たちでさえ、「こんな不当な戦争に同意した覚えはない!」と言うだろう。

しかし、すでに今、全国で数千万人の人々が、プーチン政権のやっていることに恐怖と嫌悪感を抱いている。こうした人々は、さまざまな信条を持った人たちだ。そのほとんどは、プロパガンダが主張するようなリベラル派ではまったくない。その中には、左翼、社会主義者、共産主義者がたくさんいる。そしてもちろん、これらの人々、つまりわが国民の大多数は、わが母国に対する誠実な愛国者である。

私たちは、この戦争に反対する人々は偽善者であると嘘を言われてきた。彼らは戦争に反対しているのではなく、西側諸国を支持しているだけなのだと。それは嘘だ。私たちは、米国とその帝国主義政策の支持者であったことは一度もない。ウクライナ軍がドネツクやルガンスクを砲撃したとき、私たちは黙っていなかった。プーチンとその仲間たちの命令でハリコフ、キエフ、オデッサが空爆されているいまも、黙ってはいない。

戦争に反対して闘う理由はたくさんある。社会正義、平等、自由を支持する私たちにとって、そのうちのいくつかは特に重要である。

  • 不公平な、征服のための戦争である。ロシア国家にとって、兵士を殺し殺さなければならないような脅威は存在しなかったし、現在も存在しない。今日、彼らは「誰も解放しない」のだ。人民の運動を支援することもない。ただ、ロシアに対する権力を永遠に維持することを夢見る一握りの億万長者の命令で、正規軍がウクライナの平和な都市を破壊しているに過ぎない。
  • この戦争は、我々の民衆に数え切れないほどの災いをもたらす。ウクライナ人もロシア人も、そのために血の犠牲を払っている。しかし、遠く離れた後方でも、貧困、インフレ、失業はすべての人に影響を与えている。そのツケは、オリガルヒや役人ではなく、貧しい教師、労働者、年金生活者、失業者が払うことになる。私たちの多くは、子どもたちに食べさせるものがなくなるだろう。
  • この戦争によって、ウクライナは廃墟と化し、ロシアは一つの大きな監獄と化すだろう。反対派のメディアはすでに閉鎖されている。ビラや無害なピケ、ソーシャルネットワークへの投稿であってさえ、人々は刑務所に入れられる。まもなくロシア人は、刑務所か軍隊の登録・入隊所のどちらかを選ぶしかなくなるだろう。戦争は、生きている世代がまだ見たことのない独裁政治をもたらす。
  • この戦争は、わが国に対するあらゆるリスクと脅威を著しく増大させる。一週間前にはロシアに同調していたウクライナ人でさえ、今では我が軍と戦うために民兵に入隊しているのだ。プーチンは、その侵略によって、ウクライナのナショナリストの犯罪や、アメリカやNATOのタカ派の陰謀をすべて無効にしてしまった。プーチンは、新たなミサイルや軍事基地が国境の周囲にほぼ確実に出現することを彼らに許してしまった。
  • 最後に、平和のための闘いは、すべてのロシア人の愛国的義務である。私たちは、歴史上最も恐ろしい戦争の記憶の保持者であるからだけではない。しかし、この戦争はロシアの完全性と存在そのものを脅かしているからでもある。

プーチンは、自分の運命をわが国の運命と緊密に結びつけようとしている。もし彼の思い通りになれば、彼の敗北は必然であり、国家全体の敗北となるだろう。そして、戦後のドイツのような運命が本当に待っていることになる。占領、領土分割、集団的罪悪感のカルト化である。

これらの災厄を防ぐ方法はただ一つである。戦争は、私たち自身によって、つまりロシアの男性と女性によって止められなければならない。この国は私たちのものであり、宮殿やヨットを持つ一握りの狂気の老人たちのものではない。取り戻すときが来たのだ。我々の敵は、キエフやオデッサではなく、モスクワにいる。彼らをそこから追い出す時が来たのだ。戦争はロシアではない。戦争はプーチンとその政権である。したがって、我々、ロシアの社会主義者、共産主義者は、この犯罪的な戦争に反対している。ロシアを救うために、プーチンを止めたいのだ。

介入するな!

独裁は許さない!

貧困はいらない!

下訳にDeepLを用いました。

Манифест коалиции «Социалисты против войны»

March 03, 2022

Эта власть держалась на обещаниях мира и стабильности, а в итоге привела страну к войне и экономической катастрофе. 

Как и любая другая война в истории, нынешняя делит всех на две партии: за и против. Кремлевская пропаганда пытается убедить нас, что вся нация сплотилась вокруг власти. А за мир борются жалкие отщепенцы, прозападные либералы и наемники внешнего врага. Это полностью несостоятельная ложь. На этот раз кремлевские старцы оказались в меньшинстве. Братоубийственной войны не хочет большинство россиян, даже среди тех, кто все еще доверяет российской власти. Они изо всех сил закрывают глаза, чтобы не видеть, как разваливается мир, нарисованный пропагандистами. Они еще надеются, что происходящее не война, тем более не агрессивная, а «специальная операция», призванная «освободить» украинский народ. Страшные кадры жестоких бомбежек и обстрелов городов скоро уничтожат эти мифы. И тогда даже самые верные избиратели Путина скажут: мы не давали вам согласия на эту несправедливую войну!

Но уже сейчас по всей стране десятки миллионов людей испытывают ужас и отвращение от того, что делает путинская администрация. Это люди разных убеждений. Большинство из них вовсе никакие не либералы, как утверждают пропагандисты. Среди них очень много людей левых, социалистических или коммунистических взглядов. И разумеется, эти люди – большинство нашего народа – искренние патриоты нашей Родины. 

Нам врут, что противники этой войны – лицемеры. Что они выступают не против войны, а лишь в поддержку Запада. Это – ложь. Мы никогда не были сторонниками США и их империалистической политики. Когда украинские войска обстреливали Донецк и Луганск, мы – не молчали. Не будем молчать и сейчас, когда Харьков, Киев и Одессу бомбят по приказу Путина и его камарильи.

Существует очень много причин бороться против войны. Для нас, сторонников социальной справедливости, равенства и свободы, несколько из них особенно важны.

– Это несправедливая, захватническая война. Не существовало и не существует такой угрозы российскому государству, ради которой нужно было отправлять наших солдат убивать и умирать. Сегодня они никого не «освобождают». Не помогают никакому народному движению. Просто регулярная армия разносит в щепки мирные украинские города по приказу горстки миллиардеров, мечтающих сохранить свою власть над Россией навеки.

– Эта война ведет к неисчислимым бедствиям для наших народов. И украинцы, и русские дорого платят за нее своей кровью. Но даже далеко в тылу нищета, инфляция, безработица коснется каждого. Платить по счетам будут не олигархи и чиновники, а нищие учителя, рабочие, пенсионеры и безработные. Многим из нас будет нечем кормить детей. 

– Эта война превратит Украину в руины, а Россию в одну большую тюрьму. Оппозиционные СМИ уже закрыты. За листовки, безобидные пикеты, даже за посты в социальных сетях людей бросают за решетку. Скоро у россиян останется только один выбор: между тюрьмой и военкоматом. Война несет с собой такую диктатуру, которой живущие поколения еще не видели.

– Эта война в разы увеличивает все риски и угрозы для нашей страны. Даже те украинцы, которые еще неделю назад симпатизировали России, теперь записываются в ополчение, чтобы сражаться с нашими войсками. Своей агрессией Путин обнулил все преступления украинских националистов, все интриги американских и натовских ястребов. Путин дал им в руки такие аргументы, что по периметру наших границ почти наверняка появятся новые ракеты и военные базы. 

– Наконец, борьба за мир – это патриотический долг каждого россиянина. Не только потому, что мы – хранители памяти о самой страшной войне в истории. Но и потому, что эта война угрожает целостности и самому существованию России. 

Путин пытается намертво связать свою собственную судьбу с судьбой нашей страны. Если ему это удастся, то его неизбежное поражение станет поражением всей нации. И тогда нас действительно может ждать судьба послевоенной Германии: оккупация, территориальный раздел, культ коллективной вины.

Есть только один способ предотвратить эти катастрофы. Войну должны прекратить мы сами – мужчины и женщины России. Эта страна принадлежит нам, а не горстке обезумевших стариков с дворцами и яхтами. Пора вернуть ее себе. Наши враги не в Киеве и Одессе, а в Москве. Пора выгнать их оттуда. Война – это не Россия. Война – это Путин и его режим. Поэтому мы, российские социалисты и коммунисты против этой преступной войны. Мы хотим остановить ее, чтобы спасти Россию. 

Нет интервенции!

Нет диктатуре!

Нет нищете!

Коалиция «Социалисты против войны»

ウクライナの戦争と新帝国主義に反対する。虐げられた人々との連帯の手紙

(訳者前書き)以下は、東欧の批判的左翼による優れた論評を掲載してきたLEFTEASTに掲載された論文の翻訳。著者のキルンは、ヨーロッパ世界が突然ウクライナ難民への門戸を開放する政策をとったことの背景にある「ヨーロッパ」と非ヨーロッパの間に引かれている構造的な排除に内在する戦争の問題を的確に指摘している。ヨーロッパが繰り返し引き起こしてきた戦争がもたらした難民には門戸を閉ざしているにもかかわらず、なぜウクライナはそうではないのか。ヨーロッパのレイシズムがここには伏在しているという。同時に、左翼が、ナショナリズムの罠に陥ることなく、国境や民族を越えて資本主義批判の原則を立てうるかどうかが試されているとも言う。ロシアにも米英EUにも与しない国際的な連帯を、ウクライナの問題としてだけではなく、欧米もロシアも仕掛けてきたグローバルサウスにおける戦争の問題を視野に入れて新たな階級闘争の理論化が必要だとも指摘している。私がこれまで読んできた論文のなかで共感できるところの多いもののひとつだ。(小倉利丸)


ガル・キルン著
投稿日
2022年3月10日

ウクライナの国旗の色で書かれた落書き。「ピース・ラブ」 [Photo Credit: Loco Steve, Flickr].

COVID-19の大流行による長い冬が終わり、初めて垣間見える春の訪れのなかで、新たな流血が目撃されるようになっている。ロシアによるウクライナへの侵攻と戦争が1週間以上続き、国際関係の断絶を否定できない時期が続いていることを私たちは目の当たりにした。地上、サイバースペース、国際空間において、信じられないほど速いスピードで事態が動いている。ウクライナへの侵攻は、NATOや米国政府によって数カ月前から予告されていたにもかかわらず、あらゆる戦争がそうであるように、多くの人々を驚かせた。キプロスや旧ユーゴスラビアでの戦争を除けば、ヨーロッパが戦争を経験したのは1945年以降初めてだと言う人さえいる。より広い視野に立てば、今週は、少数の超大国だけが小国や人々の将来を決定するという、一見すると過去の冷戦―熱戦の帝国主義的パラダイムへの回帰と呼ぶこともできる。このパラダイムは、冷戦のみならず、第一次世界大戦前のヨーロッパの大帝国間のグローバルな競争の時代にも明らかであった。冷戦だけでなく、第一次世界大戦前のヨーロッパ大帝国の世界的な競争時代にも見られたパラダイムである。例えば、プーチンはしばしば新しいヒトラーとして描かれ、彼自身もウクライナ政府を「ナチス化」だと描いている。どちらの同一視も誤りではあるが、1939年と第二次世界大戦の始まりとの類推が強まっていることを示している。むしろ、1914年の第一次世界大戦の勃発の方が、歴史的なアナロジーとしてふさわしい。しかし、戦争が地域的に収まったとしても、1991年以降の旧ユーゴスラビアにおける紛争や、過去20年間のポストソビエトの文脈でロシアの政治・軍事機構が行った一連の戦争を連想させるようになるかもしれない。この戦争は、ロシア的ミールの文明空間としてドゥーギンの新ファシズムの思想を体現している。おそらく、ようやく死につつある歴史的イメージはヨーロッパだけでなく、南半球の一部でも「解放」/「英雄」国家としてのロシアのイメージである。

批判的で唯物論的な分析を主張するならば、歴史を心理学的に分析し、ある人格(ここではプーチン)を病理学的に分析するという、メディアを通じてしばしば繰り返される言葉の綾には反対せざるを得ない。プーチンのイデオロギー装置は、少なくとも外交政策においては、アメリカによる世界支配に反対するという、ますます説得力のない反帝国主義のスタンスを必死になって主張してきたことは注目に値する。シリアは、主要超大国の最初の大きなにらみ合い、つまり代理戦争となった。それ以外ではISILに対する共通の戦いで結束しているにもかかわらず、である。この現在のロシアの「反帝国主義」姿勢は、第二次世界大戦中のソ連に遡り、反植民地闘争によって部分的に担われつつ長いこと議論の的になってきたイデオロギーに基づくものだ。 ソ連は、ファシズムに対する現実的で血なまぐさい闘いに基づいて、自らを国際的な反ファシスト闘争の象徴として宣伝することができた。この遺産は、戦後ヨーロッパの公式の記憶の礎となっていた。しかし、反ファシズムは、反全体主義のイデオロギーと、EUの特殊な記憶政治に取って代わられることになった。反全体主義とは、主に(新たな)ナショナリズムと反共産主義に基づくもので、ロシア(「旧ソ連」)が第一の敵となり、ファシズムの過去はホロコーストの追憶に還元されることになった。この記憶の転換は、今日も西側諸国における反ロシアの立場に影響を与え続けている。

ウクライナ戦争によって、反帝国主義・反ファシスト闘争の継承者として自らを提示するロシアのイデオロギー的な遮蔽(ドネツク地方でこれに言及することは偶然ではない)は、ついに枯れ果てた(願わくば、あまりにも長い間「反西洋」または「反米」の外観をロマンティックに描いてきた左翼も、願わくはそうであってほしい)。はっきりさせておきたいのは、プーチンはいかなる約束も、「より良い世界」のイメージさえも提供していないことである。ロシアでは、間違いなく、反ファシズム、左翼、民主的な反対派をすでに押しつぶし、もし許されるなら、ロシアの外でも同じことをするだろうということだ。左翼の新たな課題の一つは、「愚か者たちの反帝国主義」と呼ばれてきたもので今やついに息切れしてしまったアメリカの覇権主義に反対する権威主義的指導者たちに対する古い左翼のロマン主義を振り払うことである。

今日、私たちはどこに希望の光を指し示すことができるのか、また指し示すべきなのだろうか。この論文のタイトルが示すように、私たちの希望はウクライナやロシア、そしてそれ以外の国々の抑圧された人々に託されるべきものだ。つまり、ロシアや他の場所での戦争に反対する意志と希望を持っている人々、今日ウクライナで命をかけて戦う人々、自分自身を守る人々、戦場から逃げてくる人々との連帯ネットワークを組織するボランティア、そして戦争によるエスニシティの武器化にもかかわらず、社会変革と平和のプロジェクトに深く献身しているすべての人々である。

しかし、このような希望を明確にするためには、この特別な戦争を始めたのが誰であるかを明確にする必要がある。私は、この批判的な左翼の立場が、地政学的にアメリカの覇権主義に加担する新しいヨーロッパに関する主流のリベラルと保守のコンセンサスに吸収される必要はないと主張したい(『New Left Review』のWolfgang Streeckの論文を参照されたい)。左翼は、迫り来る環境と社会の破局がますます顕著になる世界において、反戦の遺産とその将来の地平を省みる必要がある。このような風潮は、デフォルトで恐怖と不安を中心に動員される。恐怖、不安、絶望は、人間の自然な反応や原動力ではなく、数十年にわたる新自由主義的改革と2年間のパンデミックの後、大きく不安定化した社会構造が有する徴候だ。この絶望の高まりが、ディストピアの地平線、戦争への明確で短絡的な道筋を提供している。今や、世界中の多くの人々にとって、大規模な世界大戦が(あらゆる)紛争に対するあたりまえの答えであるようにさえ思えてきた。NATOとEUの加盟国が最近発表したヨーロッパの再軍事化には、戦争のラッパが強く鳴り響いている。ドイツの現政権は、2022年に1000億ユーロ(ロシアの3倍)というこれまでで最も野心的な軍事予算を提案し、この点で先導的な役割を担っている。このように軍需産業と軍に現金を投入することで、ドイツは今後数年間、軍事的攻勢をかける勢力に変貌していくだろう。そして、より多くの武器への要求が、石油産業や軍需産業の大喝采を招きつつも、軍事化は、より大きな安定をもたらすことも戦争を防ぐことも決してないというかつての常識を拭い去っている。

では、今日および将来の寡頭政治的、地政学的戦争にどう対処すればよいのだろうか。手短に言えば、ロシア軍がこの戦争を直ちに停止し、いわゆる超大国がひとつのテーブルに着いて、ウクライナの将来について議論することである。その一方で、より長い回答の一部ではあるが、非軍事化の未来のための立場を明確にすることがこれまで以上に必要である。これは、人種やネーションの線引きではなく、むしろ階級的認識と反帝国主義であり、今再び非同盟である。全世界の指導者、特にEUの軍国主義の高まりを応援するのではなく、非軍国主義化と軍拡競争の終結を応援すべきなのは確かであろう。この戦争と将来の戦争の終結を考えるには、平和のパラダイムを理論的、政治的に考え直す必要がある。バリバールがかつて書いたように、西洋の政治哲学全体が戦争によって深く刻み込まれてきたとすれば、これを平和のパラダイムへと方向転換するときが来たのである。軍事ブロックや超大国を超えた積極的中立の政治を推進し、非同盟運動や反帝国主義闘争の遺産を再考することが、今すぐできる具体的な措置であろう。

最後に、公然と人種差別的、民族主義的な政策を押し付けることによって状況を武器化し、ヨーロッパの現実にとって危険が高まっている2つの警告のサインを指摘することによって、結論としたい。この2つの警告は、「白い」西欧文明空間を優先させ、ある生命が他の生命よりも重要であると繰り返す道徳の二重基準を呼び起こす二つの憂慮すべき傾向を示している。

第一に、EUが単純に、突然、難民を受け入れているのを見るのは悲劇的である。公然と保守的な政治家たちは、この変化を「自然なこと」として受け入れ、現在のウクライナからの難民は同じ「文化的」「文明的」な場所から来ているのだと述べる。しかし、ウクライナ以外の場所から来た難民は全く異なる扱いを被りつづけている。シェンゲンの国境では、武装した沿岸警備隊、有刺鉄線、警棒、拷問などで出迎え、また、2022年以前、一部のヨーロッパ政府は、公然と参戦した地域(特にアフガニスタン)からの人々に対して、反難民・反移民の風潮があったことは注目すべきだ。神聖なEUにやってくる人々は、疑わしい、我々の文化に対する潜在的な脅威とみなされ、ある人々にはイスラム過激派やテロリストとさえ映った。反移民、反難民の政策やレトリックは、EUをはるかに過激で保守的な空間にし、ヨーロッパ内から難民がやってきたらヨーロッパのオルバンやヤンシャがみなあっという間に難民推進派になり、国境を開放し、戦争で荒廃したインフラに資金を提供することを認めたのだ。言うまでもなく、連帯は、自分たちの「Blut und Boden」文明分化にとってより都合のよい、ある「タイプ」の難民だけに留保されるものではない。だから、現場でも議会でも、左翼にとっては、今こそ難民や移民をもっと受け入れるアプローチを推し進め、イエメンやソマリア、アフガニスタン、シリアからの人々にも、今ウクライナからの人々に与えられているのと同じ援助を与え、そこでも戦争を止めるために同じだけの労力を発揮する時なのである。

第二に、今回の制裁は、ロシアの産業界や一部のオリガルヒまで対象として、急ピッチで実施されたことである。しかし、私たちは公然と検閲する時代に入り、敵との関連や遺産からあらゆる空間を浄化/純化することを目的とするキャンセルカルチャー2.0に突入している。しかし、この敵がどのように定義されているかは重要な問題である。パスポートを理由に誰かを排除することを目的とした制裁がさらに強化されれば、これは悪影響を及ぼし、おそらく我々の社会の軍事化と不安定化を長引かせることになるのは周知の事実である。戦争を止めるというよりも、このようなキャンセルや制裁は現在、プーチンの権威主義を強化し、「ロシア」の統一と自己破壊に手を貸し、それまで暗黙あるいは公然と彼を批判してきた人々の多くにマイナスの影響を及ぼす。「私たちの側」「私たちに反対する側」の人たちの間のどこで線を引くのか(一部の文化施設では、チャイコフスキーやドストエフスキーなど、ロシアの芸術家の演劇やコンサートをレパートリーから外すことさえしている)。これは、ファシスト思想家カール・シュミットが精緻に描いた、友/敵の人種的論理である。私たちは、すべての寡頭政治家、そして「自由世界」のすべての指導者に対しても、階級意識と反帝国の立場を実践しつつ彼らの戦争と占領に反対して階級の次元で染めあげるような基準を課す準備ができているのだろうか。彼らの戦争犯罪のリスト増えつづけ、終わりがない。今こそ、上述したような平等な倫理を課すのか、それとも単に、このヘゲモン/帝国権力に沿って従っていくのかを決める時ではないか。後者の場合、将来の戦争の再生産は間違いなく起きる。前者の場合、私たちは非軍事化の地平に基づく世界のビジョンを明示するチャンスを得る。

ロシア当局が主導するこの恐ろしい戦争とそれがもたらすであろう影響に照らして、怒り、不安、恐怖、さらには絶望を感じるのは普通のことだ。同時に、批判的な左翼は、道徳的で人種化された自由主義者や保守主義者のコンセンサスに基づいてヨーロッパを統一しようとする安易な努力と歩調を合わせるべきではない。戦争はしばしばイデオロギー的言説をヘゲモニー化し、右傾化させる。厳密な国家/人種化された枠組みの強化にこの領域を委ねることには意味がない。私たちは、抑圧された人々との連帯に参加し、反戦キャンペーンを組織し、国旗を越えて互いに支え合う方法を見出す必要がある。未来の平和のために本当に組織化するためには、非軍事化をエコロジーや社会正義の問題と結びつけることが必要なのだ。

リュブリャナ大学の研究員で、ユーゴスラビア崩壊後の移行期に関する研究プロジェクトを主導。また、国際研究グループPartisan Resistances(グルノーブル大学)の一員でもあり、スロベニアでは左派(Levica)党員である。

下訳にDeepLを用いました。

戦争とアナキスト:ウクライナにおける反権威主義の視点


(訳者まえがき)この論文は、アナキストのサイトCrimethIncに掲載された論文。2014年以降のウクライナの民衆運動をアナキストの観点から分析している。商業メディアや国主導のメディアはどこの国であれ、戦争を常に国家と国家の武力行使として捉え、国のなかに存在する多様な異論を無視する。国家の視線は、いつのまにか多様なはずの大衆を「国民」という心情に統合し、自らを国家と同一化して「戦争」を論じるような言論空間を作り出す。ウクライナも例外ではないが、以下の文章にあるように、ウクライナはひとつではない。西側の支配者たちにとって好都合なウクライナ、ロシアの支配者にとって好都合な別のウクライナがあり、それらがメディアを席巻しているが、そのどちらでもないウクライナがある。このどちらでもないウクライナは、まさに、ウクライナという国家と社会システムが抱えてきた矛盾の歴史を体現しており、それ自体が闘争の構造をなしている。スターリン主義とナチズムによる弾圧、そして資本主義化のなかで旧ソ連、東欧圏の反体制運動は、三重の弾圧を経験してきた。この意味でアナキズムが反体制運動に占める格別の位置があると思う。ウクライナのアナキストたちが直面した思想的な試練は、明かな侵略者を前にして、この侵略者とどう対峙するかという問いは、無傷では答えられない問いであることが以下の文章からもわかる。戦うとすれば、ウクライナの腐敗した政府や極右の武装集団との連携は避けられない。他方で、戦わないという選択は、侵略を肯定することであり権力の増殖を許すことでもあり、それ自体もまた権力の否定への道を自ら閉すことになる。彼らが直面した選択肢の問題は、言うまでもなく私たちの選択の問題でもある。日本にいる私自身に即していえば、常備軍を持つことを否定し、武力による解決を放棄しているハズのこの国で、国家間の武力行使の問題に武力をもってこの国の「軍隊」と肩を並べて、この国が「敵」と呼ぶ相手に銃口を向けるという選択肢は。私には「ない」。だからといってウクライナで抵抗する人々にも同じ選択肢をとるべきだということは言えない。私たちが抱えてきた「戦後」の課題、つまり国家を武装解除することを大前提とした社会構築という課題は、私たちの課題であって、彼らとの共通の課題だということはできないからだ。

なお、この論文に対してアナキストの間で批判もある。Fighter Anarchistは、全体として分析に高い評価を与えつつも、いくつかの論点で異論を提起している。ウクライナの社会構造への分析がないこと、たとえば「マイダン後のヴェルホヴナ議会は、ロシア語の使用を制限することを目的とした法案No.5670-dによって、「ロシア世界」の代表者に切り札を与えてしまった」こと、クリミアが新自由主義政策のなかで貧困問題を抱えてきたことなどを指摘している。アナキスト運動が与えた影響の評価にも異論が述べられている。こうした異論があることをCrimethInc自身が紹介していることは議論をオープンに受けいれる姿勢として好感がもてる。(小倉利丸)

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この記事は、ウクライナの社会運動参加者が、過去9年間にそこで繰り広げられた困難な出来事をどのように見ているかという文脈を与えるために、ウクライナのアナキストによって書かれたものである。私たちは、世界中の人々にとって、彼らが以下に述べる出来事と、それらの展開がもたらす疑問と取り組むことが重要であると信じている。この文章は、私たちがこれまでに発表したウクライナロシアの他の視点との関連で読まれるべきものだ。


この文章は、ウクライナのアクティブな反権威主義活動家数名によって構成された。我々は一つの組織を代表しているわけではないが、この文章を書きつつ起こりうる戦争に備えるために集まったのである。

私たちの他に、文章に書かれている出来事の参加者、私たちの主張の正確さをチェックしたジャーナリスト、ロシア、ベラルーシ、ヨーロッパのアナーキストなど10人以上によってこの文章は編集された。できるだけ客観的な文章を書くために、多くの修正や説明や論点の明確化をおこなった。

戦争が勃発した場合、反権威主義運動が生き残れるかどうかはわからないが、私たちはそうなるように努力する。とりあえず、この文章は、私たちが蓄積してきた経験をネット上に残すための試みである。


現在、世界ではロシアとウクライナの戦争の可能性が盛んに議論されている。まずロシアとウクライナの戦争は、2014年から続いていることを明らかにしておく必要がある。

しかし、その前に。

キエフのマイダン抗議運動

2013年、ウクライナでは、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領がEUとの協定に署名しないことに不満を持つ学生デモ隊に対するベルクトBerkut(警察の特殊部隊)の暴行をきっかけに、大規模な抗議活動が始まった。この暴行事件は、社会の多くの層に行動を喚起するものとなった。ヤヌコビッチ大統領が一線を越えたことは、誰の目にも明らかだった。この抗議運動は、最終的に大統領の逃亡につながった。

ウクライナでは、これらの出来事は “尊厳の革命 “と呼ばれている。ロシア政府は、ナチスのクーデター、アメリカ国務省のプロジェクトなどと表現している。デモ参加者自体は、シンボルを掲げた極右活動家、ヨーロッパの価値観やヨーロッパ統合について語るリベラルな指導者、政府に反対して出かけた普通のウクライナ人、少数の左翼など、雑多な人々であった。デモ参加者の間では反オリガルヒ的な感情が支配的であり、ヤヌコヴィッチがその任期中に側近とともに大企業を独占しようとしたため、それを快く思わないオリガルヒがデモに資金を提供した。つまり、他のオリガルヒにとっては、今回のデモは自分たちのビジネスを守るチャンスだったのである。また、中堅・中小企業の代表の多くは、ヤヌコビッチ一派が彼らに金を要求して自由に商売をすることを許さなかったために、抗議行動に参加した。一般市民は、警察の著しい腐敗や恣意的な行為に不満を抱いていた。親ロシア派の政治家であることを理由にヤヌコビッチに反対していたナショナリストたちが、再び幅をきかせるようになった。ベラルーシやロシアの国外居住者は、ヤヌコヴィッチがベラルーシやロシアの独裁者アレクサンドル・ルカシェンコやウラジミール・プーチンの友人であると認識して抗議行動に参加した。

マイダン集会のビデオをご覧になった方は、非常に暴力的であることに気づいたかもしれない。デモ隊は引き揚げる場所がないため、最後まで闘うしかなかった。ベルクトはスタングレネード[音や光で一時的に混乱させることで戦闘不可能にする装備]にスクリューナットを巻いていて、爆発した後に破片が目に入ったりして、負傷者が続出した。終盤、治安部隊は軍事兵器を使用し、106人のデモ隊を殺害した。

これに対し、デモ隊はDIYで手榴弾や爆発物を作り、マイダンに銃器を持ち込んだ。ちょっとした分業体制で火炎瓶が製造された。

2014年のマイダン抗議デモでは、当局は傭兵(titushkas)を使い、彼らに武器を与え、調整し、組織的な忠誠勢力として使おうとした。彼らとの棍棒やハンマー、ナイフを使った戦いがあった。

マイダンは「EUとNATOが操作したもお」であるという意見に反して、欧州統合支持者は平和的な抗議行動を呼びかけ、戦闘的な抗議者たちを手先だと揶揄していた。EUと米国は、政府ビルの占拠を批判した。もちろん、「親欧米」の勢力や組織も抗議行動に参加したが、彼らが抗議行動全体をコントロールしたわけではない。極右を含むさまざまな政治勢力が積極的に運動に介入し、自分たちのアジェンダを指示しようとした。彼らはすぐにとるべきスタンスを確認し、最初の戦闘分遣隊を作り、皆に参加を呼びかけ、訓練と指導を行った結果として、組織的な勢力になった。

しかし、どの勢力も絶対的な支配力を持つことはなかった。主な傾向は、腐敗し不人気なヤヌコビッチ政権に向けられた自然発生的な抗議動員であったということだ。おそらくマイダンは、数ある “盗まれた革命 “のひとつに分類できるだろう。何万人もの一般市民の犠牲と努力は、権力と経済を支配する道を歩む一握りの政治家によって簒奪されたのである。

2014年の抗議活動におけるアナーキストの役割

ウクライナのアナキストには長い歴史があるにもかかわらず、スターリンの時代には、アナキストと何らかの形でつながった者はみな弾圧され、運動は消滅し、結果として革命的経験の伝達も途絶えてしまった。1980年代に歴史家たちの努力によって運動は回復し始め、2000年代にはサブカルチャーや反ファシズムの発展によって大きな盛り上がりを見せた。しかし、2014年当時、それはまだ深刻な歴史的課題に対応できる状態ではなかった。

デモが始まる前、アナーキストは個人の活動家であったり、小さなグループに散らばっていたりしていた。運動が組織化され、革命的であるべきだと主張する者はほとんどいなかった。このような出来事に備えていたよく知られている組織としては、マフノ・アナルコ・シンジカリスト革命同盟(RCAS of Makhno)があったが、暴動の始まりに、参加者が新しい状況に対する戦略を立てられなかったため、解散してしまった。

マイダンの出来事は、特殊部隊が家に押し入り、決定的な行動をとらなければならないのに、自分の武器はパンクの歌詞、菜食主義、100年前の本、せいぜい街頭での反ファシズムや地域の社会紛争に参加した経験だけ、といった状況のようなものだった。その結果、人々は何が起こっているのかを理解しようとするなかで、多くの混乱が生じた。

当時は、状況に対する統一的なビジョンを形成することは不可能だった。多くのアナーキストたちが、ナチスとバリケードの同じ側に立つことを望まず、抗議行動を支持しない判断をしたのは、極右勢力の存在による。このことは、デモに参加することを決めた人たちをファシズムと非難する人たちもいて、運動に多くの論争をもたらした。

デモに参加したアナーキストたちは、警察の蛮行やヤヌコビッチ自身や彼の親ロシア的な立場に対して不満を抱いていた。しかし、彼らは本質的にアウトサイダーの範疇にあったため、デモに大きな影響を与えることはできなかった。

結局、アナーキストたちはマイダン革命に個人または小グループで、主にボランティア/非軍事的な取り組みに参加した。しばらくして、彼らは協力して自分たちの「百人組」(60〜100人の戦闘グループ)を作ることにした。しかし、分遣隊detachment の登録(マイダンでは必須の手続き)の際、多勢に無勢のアナキストたちは、武器を持った極右の参加者たちによって排除された。アナキストたちは存続し続けはしたものの、もはや大規模な組織的集団を作ろうとはしなかった。

マイダンで殺された者の中には、皮肉にもその死後にウクライナの英雄とされたアナーキスト、セルゲイ・ケムスキーがいた。彼は、治安部隊との対立が激しくなった局面で、狙撃手に撃たれたのである。抗議デモの最中、セルゲイは「聞こえるか、マイダン」と題する抗議文を出し、その中で、直接民主主義と社会変革を強調しながら、革命を発展させる可能な方法を論じている。この文章は、こちらで英語版をご覧いただけます。

アナーキスト部隊の集結。

戦争の始まり:クリミア併合

ロシアとの武力衝突は、8年前の2014年2月26日から27日の夜、クリミア議会議事堂と閣僚理事会が正体不明の武装集団に占拠されたことから始まった。彼らはロシアの武器、制服、装備を使っていたが、ロシア軍のシンボルは持っていなかった。プーチンはこの作戦にロシア軍が参加した事実を認めなかったが、後にドキュメンタリー宣伝映画「クリミア:祖国への道」の中で自ら認めている。

2014年3月9日、クリミアでウクライナ軍部隊を阻止する記章のない制服を着た武装した男たち。

ここで、ヤヌコビッチの時代、ウクライナ軍の状態が劣悪だったことを理解する必要がある。クリミアで22万人のロシア正規軍が活動していることを知っていながら、ウクライナ臨時政府はあえてそれに立ち向かおうとはしなかった。

占領後、多くの住民が今日まで続く弾圧に直面した。弾圧された人々の中に私たちの同志もまた含まれている。最も有名なケースをいくつか簡単に振り返ることができる。アナキストのアレクサンドル・コルチェンコは、民主化運動家のオレグ・センソフとともに逮捕され、2014年5月16日にロシアに移送されたが、5年後、囚人交換の結果、釈放された。アナキストのアレクセイ・シェスタコビッチは拷問を受け、頭にビニール袋を被せられて窒息状態にされ、殴られ、報復の脅しを受けたが、何とか逃亡した。アナキストのエフゲニー・カラカシェフは2018年にVkontakte(ソーシャルネットワーク)への再投稿で逮捕され、現在も拘束されている。

囚人交換後のアナキストのアレクサンドル・コルチェンコ。

偽情報(ディスインフォメーション)

ロシア国境に近いロシア語圏の都市では、親ロシア派の集会が開催された。参加者はNATOや過激なナショナリスト、ロシア語圏の人々を標的にした弾圧を恐れていた。ソ連崩壊後、ウクライナ、ロシア、ベラルーシの多くの家庭には家族の絆があったが、マイダンの出来事は個人的な関係に深刻な裂け目を生じさせることになった。キエフの外にいてロシアのテレビを見ていた人たちは、キエフがナチスに占領され、そこでロシア語を話す人たちが粛清されていると思い込んでいた。

ロシアは、次のようなメッセージングでプロパガンダを展開した。「キエフからドネツクにナチスがやってきて、ロシア語圏の住民を粛清しようとしている(キエフもロシア語圏の都市のひとつだが)。偽情報の言説では、プロパガンダ担当者は極右の写真を使い、あらゆる種類のフェイクニュースを流した。戦争行為で最も悪名高いでっちあげび次にようなものがある。戦車にくくりつけられて道路を引きずられたとされる3歳の男の子の磔刑というものだ。ロシアでは、この話は連邦政府のチャンネルで放送され、インターネット上で広まった。

ロシアのチャンネルによるフェイクニュース。3歳児の処刑とはりつけを見たという女性がその様子を語る。

2014年、私たちの意見では、偽情報は武力紛争を発生させる上で重要な役割を果たた。ドネツクとルガンスクの一部の住民は、自分たちが殺されることを恐れ、武器を取り、プーチンの軍隊を呼び寄せた。

ウクライナ東部の武力紛争

「戦争の引き金が引かれた」、ロシア連邦保安庁(FSB、KGBの後継組織)の大佐であるイゴール・ガーキンの言葉だ。ロシア帝国主義の支持者であるガーキンは、親ロシア派の抗議を過激化させることを決意した。彼はロシア人の武装集団と国境を越え、スラビャンスクの内務省の建物を占拠して武器を手に入れた。(2014年4月12日)親ロシア派の治安部隊はガーキンと合流するようになった。ガーキンの武装集団に関する情報が明らかになると、ウクライナは反テロ作戦を発表した。

軍隊の能力が低いことをがわかると、ウクライナ社会の一部は、国家主権を守ろうと決意し、大規模な志願運動を組織した。ある程度軍事的能力のある者が教官となり、あるいは義勇軍の大隊を結成した。また、人道的なボランティアとして正規軍や義勇軍に参加する人々もいた。彼らは、武器、食料、弾薬、燃料、輸送、民間車のレンタルなどのために資金を調達した。義勇大隊の参加者は、しばしば国軍の兵士よりも優れた武装と装備を持っていた。これらの分遣隊は、かなりのレベルの連帯と自己組織化を示し、実際に領土防衛という国家機能を代替し、(当時は装備が貧弱だった)軍隊が敵にうまく対抗できるようにしたのである。

親ロシア派が支配する地域は急速に縮小し始めた。そこにロシア正規軍が介入してきた。

時系列で3つのポイントを挙げることができる。

1.ウクライナ軍は、武器やボランティア、軍事専門家がロシアからやってくることを認識した。そこで、2014年7月12日、ウクライナ・ロシア国境での作戦を開始した。しかし、軍事行軍中にウクライナ軍はロシアの大砲の攻撃を受け、作戦は失敗に終わった。武装勢力は大きな損失を被った。
2.ウクライナ軍はドネツクを占領しようとした。進軍中、イロヴァイスク付近でロシア正規軍に包囲された。義勇軍の大隊に所属していた私たちの知人も捕虜になった。彼らはロシア軍を目の当たりにしたのだ。3カ月後、捕虜交換で帰国することができた。
3.ウクライナ軍は、大きな鉄道の分岐点があるデバルツェフ市を制圧した。これにより、ドネツクとルガンスクを結ぶ直通道路は寸断された。長期停戦に向けたポロシェンカ(当時のウクライナ大統領)とプーチンの交渉の前夜、ロシア軍の支援を受けた部隊によりウクライナ陣地が攻撃された。ウクライナ軍は再び包囲され、大きな損害を被った。

2014年、イロヴァイスクで行動を行う義勇軍の戦闘員たち。

当面は(2022年2月現在)、停戦と条件付きの「平和と静寂」の秩序に合意し、一貫して違反があるものの維持されている。毎月数人が死亡している。

ロシアは、正規のロシア軍の存在と、ウクライナ当局が管理していない地域への武器の供給を否定している。捕虜になったロシア軍は、訓練のために警戒態勢を敷き、目的地に到着して初めて、自分たちがウクライナの戦争の真っ只中にいることに気づいたと主張している。国境を越える前に、彼らはクリミアで同僚たちがしたように、ロシア軍のシンボルを取り除いた。ロシアでジャーナリストたちが戦死した兵士の墓地を見つけたが、墓石に刻まれた碑文には2014年としか書かれておらず、彼らの死に関する情報はすべて不明だ。

未承認共和国の支持者たち

マイダンの反対派の思想的基盤も多様であった。主な統一思想は、警察への暴力への不満と、キエフでの暴動への反対であった。ロシアの文化的な物語や映画、音楽で育った人たちは、ロシア語の破壊を恐れていた。ソ連の支持者や第二次世界大戦の勝利の賛美者たちは、ウクライナはロシアと同盟を結ぶべきだと考え、過激なナショナリストの台頭を不満に思っていた。ロシア帝国の支持者たちは、マイダンの抗議行動をロシア帝国の領土に対する脅威と受け止めた。これらの同盟国の考えは、ソ連とロシア帝国の国旗、そして第二次世界大戦の勝利のシンボルであるセント・ジョージ・リボンを示すこの写真で説明することができるだろう。彼らを権威主義的な保守派、旧秩序の支持者として描くことができる。

ソ連、ロシア帝国、そして第二次世界大戦の勝利のシンボルであるセント・ジョージ・リボンの国旗。

親ロシア派は、ロシアに同調する警察、企業家、政治家、軍人、フェイクニュースに怯える一般市民、ロシア愛国主義者や各種君主主義者など様々な極右思想をもつ個人、親ロシア帝国主義者、タスクフォースグループ「ルシッチRusich」、PMC(民間軍事会社)グループ「ワグナーWagner」、悪名高いネオナチのアレクセイ・ミルチャコフAlexei Milchakov、最近亡くなった、排外主義のロシアナショナリストのメディアプロジェクト「スプートニクとポグロム」の創設者のエゴール・プロスビルニンEgor Prosvirnin、その他多くの人たちで構成されていた。タスクフォースグループ「ルシッチRusich」、PMC(民間軍事会社)グループ「ワグナーWagner」、悪名高いネオナチのアレクセイ・ミルチャコフAlexei Milchakov、最近亡くなった、排外主義のロシアナショナリズロのメディアプロジェクト「スプートニックとポグロム」の創設者のエゴール・プロスビルニンEgor Prosvirnin、その他多くの人たちが含まれている。また、ソ連と第二次世界大戦の勝利を称える権威主義的な左翼もいた。

ウクライナにおける極右勢力の台頭

説明したように、右翼は戦闘部隊を組織し、ベルクトと物理的に対決する準備を整えることで、マイダンの間に共感を得ることに成功した。彼らは武力を持つことで、独立性を維持し、他の者たちは、彼らを考慮に入れることを余儀なくされた。彼らが鉤十字、狼の鉤、ケルト十字、SSのロゴといったあからさまなファシズムのシンボルを使用していたにもかかわらず、ヤヌコヴィッチ政権の勢力と戦う必要性から、多くのウクライナ人が彼らとの協力を呼びかけ、彼らの信用を落とすことは困難だった。

マイダン後、右翼は親ロシア勢力の集会を積極的に弾圧した。軍事作戦が始まると、彼らは義勇軍を結成し始めた。最も有名なのは「アゾフ」大隊だ。当初は70人の戦闘員で構成されていたが、今では装甲車、大砲、戦車中隊、そしてNATOの基準に沿った軍学校の独立プロジェクトを持つ800人の連隊になっている。アゾフ大隊は、ウクライナ軍で最も戦闘力の高い部隊の一つである。このほか、ウクライナ義勇軍「右派セクターRight Sector」部隊やウクライナ・ナショナリスト組織the Organization of Ukrainian Nationalistsなどのファシスト軍団もあったが、あまり広く知られてはいない。

その結果、ウクライナの右翼はロシアのメディアで悪評を買った。しかし、ウクライナの多くの人々は、ロシアで嫌われているものをウクライナの闘争のシンボルだと考えていた。例えば、ロシアでは主にナチスの協力者として知られるナショナリスト、ステパン・バンデラStepan Banderaの名前は、デモ参加者が嘲笑の対象として積極的に使用した。また、ネットでユダヤ教・メソニック陰謀論の支持者に挑発的なメッセージを送るために、ユダヤ教・バンデラ派Judeo-Banderansを名乗る者もいた。

やがて、このような荒らしが極右の活動を活発化させるようになった。右翼は公然とナチスのシンボルを身につけ、マイダンの一般支持者は自分たちはロシアの赤ん坊を食べるバンデラ主義者だと主張し、そのような趣旨の情報をネットで拡散した。極右が主流派になり、テレビ番組や他の企業メディアのプラットフォームに招かれ、そこで愛国者、ナショナリズトとして紹介された。マイダンのリベラルな支持者たちは、ナチスはロシアのメディアが作り出したデマだと信じて、彼らの味方をした。2014年から2016年にかけては、ナチスであろうと、アナキストであろうと、組織犯罪シンジケートの幹部であろうと、公約を何一つ実行しない政治家であろうと、戦う覚悟のある者は誰でも受け入れられたのである。

鉤十字とNATO旗を持つ極右の戦闘員たち。アゾフ大隊はNATOに対して否定的な態度をとっている。現在、米国はアゾフに武器を譲渡していない。

極右台頭の理由は、危機的状況においてよりよく組織化され、他の反乱軍に効果的な戦闘方法を提案することができたからである。ベラルーシでもアナキストが同様のことを提供し、大衆の共感を得ることができたが、ウクライナでの極右のような大きな規模にはならなかった。

停戦が始まり、過激な戦闘員の必要性が低下した2017年までに、SBU(ウクライナ治安局)と州政府は「反システム」あるいは右翼運動の展開方法について独自の視点を持つオレクサンドル・ムジチコ、オレグ・ムジチル、ヤロスラフ・バビッチなどを投獄したり無力化したりして、右翼運動を引き込んだ。

現在も右翼は大きな運動ではあるが、その人気は小さいといってよく、指導者も保安庁や警察、政治家と関係があり、本当に独立した政治勢力とは言い難い。民主主義陣営では、極右の問題についての議論が頻繁に行われるようになり、人々は懸念を黙って否定するのではなく、自分たちが扱っているシンボルや組織について理解を深めている。

戦時中のアナキストと反ファシストの活動

軍事作戦の開始とともに、親ウクライナ派といわゆるDNR/LNR(「ドネツク人民共和国」「ルハンスク人民共和国」)支持派に分かれるようになった。

戦争の最初の数カ月間、パンク・シーンには「戦争にノーと言え」という感情が広がっていたが、それは長くは続かなかった。親ウクライナ派と親ロシア派を分析してみよう。

親ウクライナ派

大規模な組織がなかったため、最初のアナキストと反ファシストの志願者は、個人としての戦士、軍医、ボランティアとして個々に戦場に赴いた。彼らは自分たちの部隊を作ろうとしたが、知識も資源も不足していたため、この試みは失敗に終わった。中には、アゾフ大隊やOUN(ウクライナ・ナショナリスト組織)に参加する者もいた。理由はありふれたもので、最もアクセスしやすい部隊に入隊したのだ。その結果、右翼的な政治に転向する者もいた。

[編集部注:これらの出来事の詳細は分からないし、著者たちが全面的に戦争の渦中にいる間は確認することも難しいが、ファシストが組織する民兵に参加した反ファシストあるいは「アナキスト」とされる者は、そもそも本当のアナキストではなかったのは明らかであるが、私たちは、このパラグラフをそのまま維持する。それは、批判的であること、そして出来事の渦中にいる人々の声を中心に据えることが重要であると考えるからである。それについての私たち[CrimethInc]の考えは、ここで読むことができる] 。

デスナの右翼セクターの基地で訓練を受ける反ファシストたち。この写真には、武力紛争に参加したモスクワの反ファシスト2人が含まれていることに注目したい。

戦闘に参加しなかった人たちは、東部で負傷した人たちのリハビリや、前線近くにある幼稚園に防空壕を建設するための資金集めを行った。また、ハリコフには「自治Autonomy」という名のスクワットがあり、アナーキストの社会文化センターとして開放されていた。当時、彼らは難民の救済に力を注いでいた。彼らは住宅と恒久的な本当に自由な市場を提供し、新しく到着した人たちの相談に乗り、資源を案内し、教育活動も行いました。さらに、センターは理論的な議論の場となった。残念ながら、2018年、このプロジェクトは消滅した。

これらの行動はすべて、特定の人たちやグループの個人的な取り組みであり、一つの戦略の枠組みの中で起きたものではない。

この時期の最も重要な現象のひとつは、かつて大規模だった過激なナショナリスト組織「Autonomnyi Opir」(自治的抵抗)ダッた。彼らは2012年に左傾化し始め、2014年にはメンバー個人が “アナキスト “と自称するほど左傾化していた。彼らは自分たちのナショナリズムを「自由」のための闘争とし、サパティスタ運動とクルド人をロールモデルとして、ロシアのナショナリズムに対抗するものとしている。ウクライナ社会の他のプロジェクトと比較して、彼らは最も親密な同盟者と見なされたので、アナキストたちのなかには彼らに協力する者たちもいたが、また別の者たちはこの協力や組織自体を批判した。AOのメンバーはまた、志願大隊に積極的に参加し、軍人の間で「反帝国主義」の思想を発展させようとした。また、女性の戦争参加の権利も擁護し、女性隊員も戦闘に参加した。AOは戦闘員や医師を養成する訓練所を支援し、軍隊に志願し、リヴィウでは難民を収容する社会センター「シタデルCitadel」を組織した。

2014年、モスクワ。ロシアの侵略に反対して行進するアナキストたち。

親ロシア派

現代のロシア帝国主義は、ロシアがソ連の後継者であるという認識に基づいている。これは、政治体制においてではなく、領土においてである。プーチン政権は、第二次世界大戦におけるソ連の勝利を、ナチズムに対する思想的な勝利ではなく、ロシアの強さを示すヨーロッパに対する勝利とみなしている。ロシアやロシアが支配力を及ぼしている諸国では、人々が情報にアクセスすることが少ないため、プーチンのプロパガンダマシンは複雑な政治的概念をわざわざ作り出すこともない。そのシナリオは、基本的に次のようなものだ。アメリカとヨーロッパは強いソ連を恐れていた、ロシアはソ連の後継者であり、旧ソ連の全領土はロシアである、ロシアの戦車は[第二次大戦で]ベルリンに入った、だから同じことは「もう一度できる」、ここで誰が一番強いかをNATOに見せつける、ヨーロッパが「腐っている」のは、そこでゲイと移民がすべて手におえないからだ。

2014年、2015年にロシアで大人気だったステッカー。碑文には “We can do it again. “とある。

左翼の間で親ロシアの立場を維持するイデオロギー基盤は、ソ連と第二次世界大戦での勝利の遺産としてだ。ロシアは、キエフの政府がナチスとその軍に掌握されたと主張しているので、マイダンの反対派は自分たちを反ファシズム、反キエフ政権の闘士だと表現したのである。このブランド戦略は、権威主義的な左派-たとえばウクライナの「ボロトバBorotba」組織など-に共感を呼んだ。2014年の最も重要な出来事の際、彼らはまず革命に忠誠的な立場をとり、その後、親ロシア的な立場をとった。オデッサでは、2014年5月2日、彼らの活動家数名が街頭暴動で殺害された。また、ドネツク州やルガンスク州の戦闘にもこのグループが参加し、そこで死亡した者もいる。

“ボロトバ “は、自分たちの動機をファシズムと戦いたいからだと説明した。彼らはヨーロッパの左翼に、”ドネツク人民共和国 “と “ルハンスク人民共和国 “に連帯するよう促した。ウラジスラフ・スルコフVladislav Surkov(プーチンの政治戦略家)の電子メールがハッキングされて、ボロトバのメンバーがスルコフから資金提供を受け、スルコフの部下に監督されていたことが明らかにされた。

ロシアの権威主義的な共産主義者が離脱した共和国を受け入れたのも、同様の理由からである。

マイダンの極右支持者の存在も、非政治的な反ファシストたちに “DNR “や “LNR “を支持する動機を与えた。ここでも、彼らの一部はドネツク州やルガンスク州での戦闘に参加し、そこで命を落とした者もいた。

ウクライナの反ファシストの中には、「非政治的 」な反ファシスト、つまり 「祖父たちがそれと戦ったから」ファシズムに対して否定的な態度をとるというサブカルチャーに属する人たちがいた。彼らのファシズムに対する理解は抽象的で、彼ら自身、政治的に支離滅裂で、性差別主義で同性愛嫌悪でロシアへの愛国者、などということがよくあった。

いわゆる共和国を支持するという考えは、ヨーロッパの左翼の間で広く支持されるようになった。イタリアのロックバンド「バンダ・バソッティBanda Bassotti」やドイツの政党「ディ・リンケDie Linke」がその代表的な支持者である。バンダ・バソッティは資金集めのほか、「ノボロシアNovorossia」にも遠征した。欧州議会の一員であるディ・リンケは、あらゆる方法で親ロシア派のシナリオを支持し、親ロシア派過激派とのビデオ会議を手配し、クリミアや未承認共和国へも足を運んだ。ディ・リンケの若手メンバーやローザ・ルクセンブルク財団(ディ・リンケ党財団)は、こうした立場は参加者全員が共有しているわけではなく、サハラ・ワーゲンクネヒトSahra Wagenknechtやセヴィム・ダーデレンSevim Dağdelenといった党の最も著名なメンバーが流布させていると主張している。

2014年、ドネツクでのバンダ・バソッティ。

親ロシアの立場は、アナキストの間で人気を得ることはなかった。個人の発言では、アナキストのシンボルのタトゥーを入れたアメリカ出身の総合格闘技選手、ジェフ・モンソンJeff Monsonの立場が最も目立っていた。彼は以前は自分をアナキストだと思っていたが、ロシアでは公然と与党「統一ロシア」のために働き、ロシア下院の代議士を務めている。

親ロシア「左派」陣営を要約すると、ロシア特務機関の仕事と思想的無能力の結末が見えてくる。クリミア占領後、ロシア連邦保安庁の職員が地元の反ファシストやアナキストに接触し、活動の継続を許可するが、今後はクリミアがロシアの一部であるべきだという考えを扇動に盛り込むようにと話を持ちかけた。ウクライナには、反ファシストを標榜しながらも、本質的には親ロシア的な立場を表明する小規模な情報・活動グループがあり、ロシアのために活動しているのではないかと疑う人も少なくない。ウクライナではその影響力は小さいが、メンバーは “内部告発者 “としてロシアのプロパガンダに奉仕している。

また、ロシア大使館やイリヤ・キヴァIlya Kivaのような親ロシア派の国会議員から「協力」の申し出があることもある。彼らは、アゾフ大隊のようなナチスへの否定的な態度を利用しようとし、立場を変えれば金を出すといった提案する。今のところ、リタ・ボンダールRita Bondarだけがこのような方法で金を受け取ったことを公然と認めている。彼女はかつて左翼やアナキズムのメディアに書いていたが、金の必要性から、ロシアの扇動家ドミトリー・キゼレフDmitry Kiselevに属するメディアのプラットフォームにペンネームで書いたりした。

ロシア自身、アナキズム運動の排除と、反ファシズムのサブカルチャーからアナキズトを追い出す権威主義的共産主義者の台頭を目の当たりにしている。最近で最も示唆的なのは、2021年に “ソ連兵 “を追悼する反ファシスト大会が開催されたことだ。


ロシアとの本格的な戦争の危機はあるのか?アナーキストの立場

10年前、ヨーロッパで本格的な戦争が起こるという考えは、狂気の沙汰に思えた。21世紀の世俗的なヨーロッパ諸国は、「ヒューマニズム」を誇示し、彼らの犯罪を隠そうとしてきた。軍事行動を起こすにしても、ヨーロッパから遠く離れた場所で行う。しかし、ロシアといえば、クリミア占領とその後の偽の住民投票、ドンバス戦争、MH17便の墜落事故などを目撃している。ウクライナは、国の建物だけでなく、学校や幼稚園の中まで、ハッカー攻撃や爆破予告を常に経験している。

2020年のベラルーシでは、ルカシェンカが投票率80%という結果で選挙の勝利を宣言した。ベラルーシでの蜂起は、ベラルーシのプロパガンダ担当者のストライキにまで発展した。しかし、ロシア連邦保安庁の飛行機の到着後、状況は一変し、ベラルーシ政府は抗議デモを暴力的に制圧することに成功した。

カザフスタンでも同様のシナリオが展開されたが、そこではCSTO(集団安全保障条約機構)協力の一環として、ロシア、ベラルーシ、アルメニア、キルギスの正規軍が体制を支援し反乱鎮圧のために投入された。

ロシアの特務機関は、EUとの国境で紛争を起こすため、シリアからベラルーシに難民を引き入れた。また、ロシア連邦保安庁の中に、すでにおなじみの化学兵器 “ノビチョク “を使って政治的暗殺を行うグループがあったことも明らかになった。スクリパリ一家やナヴァルヌイ以外にも、ロシア国内の政治家を殺害している。プーチン政権は、あらゆる非難に対して、「我々はやってない、おまえたちは嘘をついている」と言う。一方、プーチン自身は半年前に 「ロシア人とウクライナ人は一つの国家であり、共にあるべきだ 」と主張する文章を書いている。ウラジスラフ・スルコフ Vladislav Surkov(ロシアの国家政策を構築する政治戦略家で、いわゆるDNRやLNRの傀儡政権とつながっている)は、「帝国は拡大されなければならない、さもなければ滅びる 」と宣言する文章を発表している。過去2年間、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンでは、抗議運動は残酷に弾圧され、独立系メディアや反対派メディアは破壊されている。ロシアの活動については、こちらで詳しく紹介しているので読むことをお勧めします。

総合的に判断して、本格的な戦争が起こる可能性は高く、昨年よりも今年の方がやや高い。しかし、鋭いアナリストでさえ、いつ戦争が始まるかを正確に予測することは不可能であろう。ロシアで革命が起これば、この地域の緊張は緩和されるかもしれないが、先に書いたように、ロシアでの抗議運動は封じ込められている。

ウクライナ、ベラルーシ、ロシアのアナキストたちは、ほとんどがウクライナの独立を直接または暗黙のうちに支持している。なぜなら、国家的ヒステリー、腐敗、多くのナチスがいるとしても、ロシアやその支配下にある国々に比べれば、ウクライナは自由の島のように見えるからである。大統領の交代制、名目以上の権力を持つ議会、平和的な集会の権利など、ポストソビエト地域特有の現象が残っており、社会からの注目度も加味して、裁判所が公言通りに機能することもある。これがロシアの状況より望ましいと言うのは、何も新しいことを言っているわけではない。バクーニンが書いたように、「最も不完全な共和国は、最も賢明な君主制よりも千倍も優れていると固く信じている」のである。

ウクライナ国内には多くの問題があるが、これらの問題はロシアの介入なしに解決する可能性の方が高い。

万が一、ロシア軍が侵攻してきた場合、戦う価値があるのだろうか?私たちは、その答えは「イエス」だと考えている。ウクライナのアナキストが現時点で考えている選択肢は、ウクライナ軍への入隊、領土防衛への従事、党派活動、ボランティア活動などだ。

ウクライナは今、ロシア帝国主義との闘いの最前線にある。ロシアは、ヨーロッパの民主主義を破壊する長期的な計画を持っている。私たちは、ヨーロッパにおけるこの危険性にまだほとんど注意が払われていないことを知っている。しかし、著名な政治家、極右組織、権威主義的共産主義者の発言を時系列で追っていけば、ヨーロッパにはすでに大規模なスパイ網が存在することに気づくだろう。たとえば、退任後にロシアの石油会社の役職に就く高官もいる(ゲルハルト・シュレーダーGerhard Schröder、フランソワ・フィヨンFrançois Fillon)。

私たちは、「戦争にノーと言おう」とか「帝国の戦争」というスローガンは、効果がなく、ポピュリスト的だと考えている。アナキスト運動はこのプロセスに何の影響も及ぼさないので、そのような声明は全く何の影響も与えない。

私たちの立場は、逃げ出したくない、人質になりたくない、戦わずして殺されたくないという事実に基づいている。アフガニスタンを見れば、「戦争反対」の意味がわかる。タリバンが進出すると、人々は一斉に逃げ出し、空港の混乱で死に、残った人々は粛清される。これはクリミアで起こっていることを描いてもおり、ウクライナの他の地域でロシアが侵攻した後に何が起こるかが想像できる。

2021年、アフガニスタン。タリバンから逃れるためにNATOの飛行機に乗り込もうとする人々。

NATOに対する態度については、この文章の執筆者は2つの立場に分かれている。この状況に対して、肯定的なアプローチをとる者もいる。ウクライナが自力でロシアに対抗できないことは明らかである。大規模なボランティア活動を考慮しても、近代的な技術や武器が必要である。NATOは別として、ウクライナにはそれを助けてくれる同盟国がない。

ここで、シリアのクルディスタンの話を思い出すことができる。現地の人々は、ISISに対抗するためにNATOに協力することを余儀なくされた。NATOからの支援は、西側諸国が新たな利益を得たり、プーチン大統領と妥協点を見出したりすれば、あっという間に消えてしまうことを私たちはよく理解している。現在でも、クルド自治区the Self-Administrationは、代替案がほとんどないことを理解しており、アサド政権に協力せざるを得ない。

ロシアの侵攻の可能性があると、ウクライナの民衆はモスクワとの戦いにおいて、ソーシャルメディア上ではなく、現実の世界で味方を探さざるを得なくなる。アナキストは、プーチン政権の侵略に効果的に対応するための十分な資源をウクライナや他の地域に持っていない。したがって、NATOからの支援を受け入れることを考えなければならない。

もう一つの立場は、この執筆グループの他のメンバーも支持していることだが、NATOもEUも、ウクライナでの影響力を強めることで、現在の「野生の資本主義」の体制を固め、社会革命の可能性をさらに低くしてしまうというものだ。NATOのリーダーであるアメリカを旗艦とするグローバル資本主義のシステムにおいて、ウクライナは、安価な労働力と資源の供給者という、謙虚な辺境という位置づけにある。したがって、ウクライナ社会は、あらゆる帝国主義からの独立の必要性を認識することが重要だ。国の防衛力という文脈では、NATOの技術や正規軍への支援の重要性ではなく、草の根ゲリラ抵抗向う社会の潜在力に重点を置くべきだ。

私たちは、この戦争を主にプーチンとその支配下にある政権に対するものと考えている。独裁者のもとで暮らしたくないというありふれた動機に加え、この地域で最も活動的で独立心が強く、反抗的なウクライナ社会に可能性を見出している。過去30年にわたる人々の長い抵抗の歴史が、その確かな証拠だ。したがって、ウクライナ社会は、あらゆる帝国主義からの独立の必要性を認識することが重要である。国の防衛力という文脈では、NATOの技術や正規軍への支援の重要性ではなく、草の根ゲリラ抵抗の社会の潜在力に重点を置くべきである。

私たちは、この戦争を主にプーチンとその支配下にある政権に対するものと考えている。独裁者のもとで暮らしたくないというありふれた動機に加え、この地域で最も活動的で独立心が強く、反抗的なウクライナ社会に可能性を見出しているのである。過去30年にわたる人々の長い抵抗の歴史が、その確かな証拠だ。このことは、直接民主制の概念がここに肥沃な土壌を持つという希望を私たちに与えてくれる。

ウクライナにおけるアナキストの現状と新たな課題

マイダンと戦争中のアウトサイダーという立場は、運動における士気低下効果があった。ロシアのプロパガンダが 「反ファシズム 」という言葉を独占したため、アウトリーチが阻害された。親ロシア派過激派の中にソ連のシンボルがあったため、「共産主義」という言葉に対する態度は極めて否定的で、「アナルココミュニズム」という組み合わせさえ否定的に受け止められた。親ウクライナの極右勢力に反対するという宣言は、一般庶民の目にはアナキストに疑いの影を投げかけた。ウルトラ右翼は、集会などでシンボルを掲げなければアナキストや反ファシストを攻撃しないという暗黙の了解があった。右翼は多くの武器を手にしていた。この状況はフラストレーションのようなものを生み出し、警察がうまく機能していないため、結果を出さずに誰かが簡単に殺される可能性があった。例えば、2015年には親ロシア派の活動家であるオレス・ブジナOles Buzinaが殺された。

こうしたことが、アナーキストたちがより真剣に問題に取り組むよう促した。

2016年から過激な地下活動が発展し始め、過激な行動に関するニュースが出始めた。火炎瓶だけに限定された旧来のものとは対照的に、武器の買い方や武器貯蔵庫の設置方法を説明する過激なアナキストの資料が登場した。

アナキストの世界では、合法的な武器を持つことが許容されるようになった。銃器を使用するアナキストの訓練キャンプのビデオが出回るようになった。

こうした変化の反響は、ロシアやベラルーシにも及んだ。ロシアでは、FSBが合法的な武器を持ち、エアソフトを練習していたアナキスト・グループのネットワークを一掃した。逮捕者は、テロ行為を自白させるために電気拷問を受け、6年から18年の刑に処された。ベラルーシでは、2020年の抗議デモの際、「黒旗」という名のアナキストの反乱グループが、ベラルーシとウクライナの国境を越えようとして拘束されたことがある。彼らは銃と手榴弾を持っていた。Igor Olinevichの証言によると、彼はキエフで武器を購入したとのことだ。

アナキストの反乱集団 “黒旗”

アナキストの経済的課題についての時代遅れのアプローチも変わった。以前は大多数が「被抑圧者に近い」低賃金の仕事に就いていたとすれば、今は多くの人が高給の仕事、多くはIT部門に就こうとしている。

街頭の反ファシスト団体も活動を再開し、ナチスの襲撃に際して報復行動をとっている。アンティファの戦士たちによる「No Surrender」という名の模擬戦闘競技を開催したり、キエフのアンティファ集団の誕生を描いたドキュメンタリー「Hoods」(英語字幕あり)をリリースしたりと、さまざまな活動を行っている。。

ウクライナにおける反ファシズムは重要な戦線である。なぜなら、地元の多数の極右活動家に加えて、ロシアから多くの悪名高いナチス(セルゲイ・コロトキフSergei Korotkikhやアレクセイ・レフキンAlexei Levkinなど)、ヨーロッパから(デニス「ホワイトレックス」カプースチンDenis “White Rex” Kapustinなど)、さらにはアメリカから(ロバート・ランドRobert Rando)移住してきたのである。アナキストたちは、極右の活動を調査してきた。

様々な種類の活動家グループ(古典的アナキスト、クィア・アナキスト、アナルコ・フェミニスト、フード・ノット・ボムズ、エコ・イニシアチブなど)や、小さな情報プラットフォームが存在する。最近では、テレグラムの@uantifaに、英語での出版物を複製した政治的な反ファシスト資料が登場した。

現在、グループ間の緊張関係は徐々に滑らかになりつつあり、最近では共同行動や社会的紛争への共同参加も多く見られるようになった。中でも、ベラルーシのアナーキスト、アレクセイ・ボレンコフAleksey Bolenkov の国外追放に反対するキャンペーン(彼はウクライナの特殊部隊との裁判に勝ち、ウクライナに残ることができた)や、キエフのある地区(ポディルPodil)を警察の襲撃や極右の攻撃から守ることなどは大きな出来事だった。

私たちはまだ社会全体にほとんど影響を及ぼしていない。これは、組織やアナキストの構造の必要性という考えそのものが、長い間無視されたり否定されたりしてきたことが大きな原因だ。(ネストル・マフノも回顧録の中で、アナーキストの敗北後、この欠点を訴えている)。アナーキストのグループは、SBU[ウクライナ治安維持局]や極右勢力によって、あっという間に破滅させられてしまった。

今、私たちは停滞を脱し、発展しつつあり、それゆえ、新たな弾圧やSBUによる運動の支配を狙う新たな試みが予想される。

現段階では、私たちの役割は、民主主義陣営の中で最もラディカルなアプローチと見解にあると言える。リベラル派が、警察や極右による攻撃があった場合に警察に苦情を申し立てることを好むとすれば、アナーキストは、同様の問題に苦しむ他のグループと協力し、攻撃される可能性がある場合には、施設やイベントの防衛に乗り出すことを提案する。

アナキストは今、共通の関心に基づき、社会の中で草の根的な横のつながりを作り、コミュニティが自衛を含む自分たちの必要に対応できるようにしようとしている。これは、組織や代表者、あるいは警察を中心に団結することが提案されることの多い、ウクライナの一般的な政治的実践とは大きく異なるものである。組織や代表者はしばしば賄賂を受け取り、その周りに集まった人々は騙されたままである。例えば、警察はLGBTのイベントを擁護しても、その活動家が警察の横暴に反対する暴動に参加すれば警察は怒るだろう。実は、だからこそ、私たちのアイデアに可能性があるのだが、戦争が起きてしまえば、また再び武力紛争に参加できる能力が主題になってしまうだろう。

出典:https://ja.crimethinc.com/2022/02/15/war-and-anarchists-anti-authoritarian-perspectives-in-ukraine

下訳にDeepLを用いました。

戦争とプロパガンダ

以下は、Realmediaに掲載された記事の翻訳です。

March 15, 2022

戦争では、真実が最初の犠牲となる。現代ではありがたいことに、YouTube、Twitter、Facebookなどの巨大企業は、たとえその真実が後に間違いであることが判明したとしても、私たちが受け取る情報が真実であることの保証を高めてきた。

私たちのテレビは、国家公認のロシア・トゥデイが見られないことを伝え、スプートニクとともに、Twitter、YouTube、Meta、その他のプラットフォームから削除されたことを伝えている。

YouTubeは、そのシステムが「人々を信頼できるニュースソースにつなぐ」と言うが、その中には国家公認のBBCも含まれている。BBCは、イラクが大量破壊兵器で西側を攻撃する可能性があると言い、アフガニスタンを侵略しなければならず、リビアがバイアグラで住民をレイプしようとしていると報じたことを覚えているだろうか。すべてが嘘だった。

企業の検閲の津波の中で、前例のない犠牲者がこの戦争で出ている。


長年問題なく過ごしてきたグローバル・ツリー・ピクチャーズGlobal Tree Picturesは、突然、オリバー・ストーンの映画「Ukraine On Fire」を「グラフィックコンテンツポリシーに違反したため」YouTubeから削除される事態に見舞われた。

これを受けて、イゴール・ロパトノクIgor Lopatonok監督は著作権者として、Vimeoのリンクから自由に映画をダウンロードする権利を与え、どこに投稿してもよいと発表したが、このリンクも検閲されたようで、現在は機能していない。この映画は、YouTubeのさまざまなアカウントで再投稿されて見ることができ、2014年のウクライナのクーデターに関するいくつかの隠された真実をタイムリーに思い出させてくれるものである。

YouTubeの親会社はGoogleで、その信頼と安全担当ディレクターは、ベン・レンダBen Rendaだが、NATOで戦略プランナーおよび情報マネージャーとして雇われていた人物だ。


アメリカ国民は、イラク国民が砲撃されたように、砲撃されたのです。それは私たちに対する戦争であり、嘘と偽情報と歴史の省略の戦争だった。湾岸戦争が向こうで行われている間に、そういう圧倒的で壊滅的な戦争がここアメリカで行われたのです。- ハワード・ジン

リー・キャンプ – 写真 Real Media


コメディアンで活動家のリー・キャンプ(2019年にReal Mediaがインタビュー)は、過去8年間、風刺番組「Redacted Tonight」を毎週発表し、反帝国主義のニュースをコメディータッチで満載して配信していた。RT Americaが米国の制裁で閉鎖されたとき、彼は巻き添えとでもいうべき形でそこでの仕事を失った。しかし、金曜日、8年間にわたる強烈なインデペンデントな風刺は削除され、彼のチャンネルはYouTubeによって警告なしに閉鎖された。

リー・キャンプの作品の一部は、今のところまだYouTubeで見ることができる。一見の価値ありだ。

キャンペーンを展開中の調査ジャーナリスト、アビー・マーティンAbby Martinは、2012年から2015年までRTアメリカで「Breaking The Set」番組を運営し、その間、ウクライナでのロシアの軍事行動を極めて公然と非難した。その後、彼女はインタビューとドキュメンタリー番組「The Empire Files」を立ち上げ、2018年にアメリカの制裁まで、ベネズエラを拠点とするTeleSurで放送されていた。次にこれは、YouTubeとVimeoでインデペンデントな支援者が資金を提供してシリーズ化された。

彼女のパワフルなドキュメンタリー『Gaza Fights For Freedom』は現在も配信されているが、土曜日に彼女は、キャンプのそれと同様、彼女の作品全体が万能のYouTubeによって予告なしに削除されたことを発表した。


ロイターは、欧米のハイテク検閲の背後にある別の議題を暴露し、Metaプラットフォームが独自のルールを中止し、数十億のFacebookとInstaのユーザーがウクライナのネオナチ・アゾフ大隊を賞賛し(通常は危険な個人と組織に関するポリシーに抵触するので禁止される)、ロシア軍、リーダー、そして市民に対する暴力的脅迫を「その文脈がロシアのウクライナ侵攻にあることが明らかな場合」には許可するという異例の措置を取ったことを明らかにした

Metaの社長であるNick Cleggは、言論の自由を守っているという理由で同社の立場を擁護しているが、これは例外的な状況であることを率直に認めている。明らかに、この言論の自由は、最近の禁止されたユーザーや投稿の嵐には適用されていない。

検閲とプロパガンダは常に戦争の一部であったが、最近の出来事は、一握りの超富裕層のエリートが、我々が見たり共有したりできる情報に口を出すことをより容易なものにしている巨大なハイテク企業の力を露骨に示している。


「現在を支配するものは過去を支配し、過去を支配するものは未来を支配する」 – ジョージ・オーウェル

活動家ラッパーのLowkeyによると、TikTokのヨーロッパ・中東・アフリカ担当ライブストリーム・ポリシー・マネージャーのGreg Andersonは、NATOの「心理作戦」に携わっていたとのことだが、この記事を出稿する時点でこれを独自に確認することはできていない。

調査ジャーナリスト、エイサ・ウィンスタンリーAsa Winstanleは先週、ウクライナのナチスに関するツイートを削除することに同意するまで、自身のツイッターアカウントを停止させられた。彼が投稿したナチスのシンボルをつけたウクライナの女性戦士の画像は、AIによるファクトチェック企業「Logically」によって異議が唱えられたようだが、特に国際女性デーにウクライナ政府のアカウント2つが同じ画像を投稿しているように、彼らは何等きちんとした調査を行なっていない。Logicallyは問い合わせに回答していない。Asaは、このような組織がネット上の自由な発言を阻止する力を持つべきかどうかと問うている。


欧米のメディアは、ウクライナへの侵攻をノンストップで報道し、破壊、難民の殺到、そして非常に多くの悲劇的な個々の人間の物語を紹介している。メディアは、これは私たちの戦争であり、私たちはウクライナと共に立ち向かわなければならないと報じている。

英国が支援するイエメンでのサウジの戦争(Amnestyによれば、約25万人が殺され、1600万人が飢餓に直面している)と比較対照してみてほしい。サウジアラビアに対する厳しい制裁と、いたるところでのメディア報道によって、何百万人もの人々が救われたかもしれないことを想像してほしい。

また、実際に我々の戦争であったアフガニスタンでの報道と比べてみてほしい。ここでも25万人が殺されている。人口の98%が十分な食料を持たず、飢餓に陥っており、300万人の罪のない子供たちが栄養失調に苦しんでいる。


安全保障条約を求めるロシアのこれまでの平和的アプローチを西側諸国が考慮することを拒否していることについて、どれほどの分析、言及があっただろうか。あるいは、ロシアの現在の要求がどのようなものであるのかさえも。ある時点で、私たちは世界大戦と核兵器による全滅の可能性へとエスカレートするか、さもなくば合意に達しなければならない。どうすればそれが実現できるのか、ある程度の見当をつけておくのが合理的ではないだろうか。

最後に、もし欧米のメディアがウクライナの報道のように気候変動に関する報道をしていたらと想像してみよう。相互確証破壊mutually-assured destructionを回避し、平和的解決に至る方法を見つけることができたとしても、我々は緊急かつ根本的に生活様式を再構築し、有限の惑星における無限の経済成長神話を終わらせ、化石燃料の燃焼を止める必要がある。さもなければ、ウクライナは、私たちの周りでほとんど無視されながら展開されている大災害に比べれば、脇役に終わりかねない。

今月初め、アントニオ・グテーレス(国連事務総長)が警告したように、「人類の半分は今、危険地帯に住んでいる」のである。

(The New Fascism Syllabus)純粋な暴力の非合理的な核心へ。ネオ・ユーラシア主義とクレムリンのウクライナ戦争の収束をめぐって


(訳者前書き)以下はThe New Fascism Syllabusに掲載された論文の翻訳である。著者のひとり、アレクサンダー・リード・ロスは、西側左翼運動のなかに気づかれない形で浸透しつつある極右の思想や運動について詳細に論じたAgainst Fascist Creep のなかで、米国からヨーロッパ、ロシアに至る地域を包括する網羅的な現代の極右の動向を批判的に分析した。以下の論文でも彼のこれまでの仕事が踏まえられており、とくに、プーチンの思想的な後ろ盾ともなってきたアキサンダー・ドゥーギンについての記述は、プーチンのウクライナ戦略を支える世界観を理解する上で参考になる。ドゥーギンがほとんど日本では知られていないこともあって、その反米反グローバリズムに基くヨーロッパとアジアを架橋する「ユーラシアニズム」は見過ごされがちだが、現代の極右思想の無視できない一部をなしている。(ユーラシアニズムについてはチャールズ・クローヴァー『ユーラシアニズム』越智道雄訳、NHK出版が参考になる)

ウクライナとの戦争でロシアがしきりに口にするウクライナの現政権=ネオナチとみなす言説は、日本ではほとんどまともには受けとられていないが、以前にこのブログでも紹介したように、ウクライナの政権や軍部あるいは武装民兵のなかにはネオナチや極右の流れに属する者たちがいる。しかし同時に、ロシアの政権の側にもドゥーギンに代表されるれっきとして極右の影響があり、いずれの側にも現代のファシズムの一端を担う存在が少からぬ影響力をもっていることを軽視しない方がいいと思う。権力者たちの暴力を支える思想や哲学あるいは歴史的な系譜などは、戦争の暴力によって一方的に犠牲になる民衆にとってはいずれにせよ人道に対する犯罪を正当化する欺瞞でしかないのだが、同時に、また、その民衆のなかの少なからぬ人々もまたこのイデオロギーのいずれかを内面化して戦争に加担することを選択してしまうことも無視できない。これはフェイクニュースといった次元の問題よりも深刻だ。世界観やイデオロギーが西欧近代を支えた資本主義的な自由と民主主義を中心とするヘゲモニー構造に最初に亀裂を入れたのが、イスラーム原理主義による西欧近代の価値観の否定だったとすると、トランプ現象やブレクジット、EU内部の極右の台頭を経てプーチンの帝国の野望を列ぬく世界観の軸は、左翼を相対的に周辺に追いやる一方で、伝統主義や反啓蒙主義に基く排外主義の正当化とナショナリズムの再構築が主流の政治意識になるという最悪の方向に傾いてきた。日本の文脈でいえば例の「近代の超克」による西欧リベラリズムとマルクス主義を串刺しにして否定しようとするかつての日本主義イデオロギーとほぼ同質のイデオロギーが世界中を席巻しはじめているという風にみてもいい。フェイクニュースはこうした構図の氷山の一角にすぎない。

プーチンを理性を欠いた狂気の独裁者だとみなすのは簡単だが、現実はもっと錯綜しており、思想のレベルでいえば、かつて日本が陥った「近代の超克」とか欧米帝国主義に対するアジア人民の解放戦争とかといった戯言を本気で信じた知識人たちのことを想起すればわかるように、戦争がもたらす狂気をある種の「思想」へと昇華してイデオロギーとして構成する力をあなどってはいけない。私が言いたいのは、分りやすいドゥーギンのユーラシアニズムの欺瞞のことだけではなく、これらをも包含する近代国民国家=近代資本主義の罠のことを言っている。多くのファシズム運動が何らかの左翼のイデオロギー/運動のなかから生み出されてきたことを真摯に反省することが左翼にとって今ほど必要な時はないだろうと思うからだ。多くの反戦運動が、目前の深刻な生命の危機をもたらしているロシアの侵略を厳しく批判しつつも、単純な反ロシア、親ウクライナ(EU+NATO)という構図をとっていないことが救いだ。(小倉利丸)


2022年3月4日 アレクサンダー・リード・ロス、シェーン・バーリー

ナチス軍が3万3000人以上のユダヤ人を虐殺したキエフの渓谷のバビ・ヤール記念館でロシア軍が弾薬を爆破すると同時に、ロシアは「反ファシスト」会議を開催すると発表した。プーチン大統領は、中国、インド、サウジアラビアなどロシアが提携を望む国々を招待し、ウクライナを極右勢力に支配されている国として、その蔑視を図ったのである。プーチンは、ロシアがウクライナを「脱ナチス化」していると主張することで、同国を体制転換の場に位置づけ、その行為を進歩的な博愛として表現している。反ファシズムをアピールすることで、ロシア指導部は第二次世界大戦中にソビエトが東部戦線でナチスを破ったという歴史を利用し、他方でグローバルは紛争を引き起こすことにおける極右の役割について、すでに混乱ししばしば恐怖を感じている人々の会話に歪みをもたらしている。

2月26日、New Fascism Syllabusは、ポツダム大学ライプニッツ現代史センター「共産主義と社会」部門の共同ディレクター、ユリアネ・フュルストJuliane Fürstの「On Ukraine, Putin, and the Realities and Rhetoric of War[ウクライナ、プーチン、そして戦争の現実とレトリックについて]」を公開した。これは、現在ロシアのプーチン大統領が用いている「ファシズム」のレトリックについての研究に対して重要な貢献をするものだ。フュルストは、ドイツで育った経験を振り返り、ソ連がドイツ人とナチズムの関係を「ファシズム」という広いカテゴリーに置き換えたことにやや安堵したと述べ、「そのカテゴリーは悪い意味で、柔軟で包括的だった」と説明している。特に西部ウクライナ人にとっては、ソ連の抑圧を否定したことで、「ファシズムとナチの占領からのソ連の解放という物語に反したニュアンスや個人の回想の余地がない(スターリンが作り、ブレジネフが強化した)ソ連の公式な物語に対する」ナショナリスト的な反応に彼らをさらすことになった。

このような反ソナショナリズムは、ウクライナだけでなくソビエト共和国中のボヘミアンの間で、一種のカウンターカルチャーとなった。モスクワでは、ユージンスキー・サークルYuzhinsky circleと呼ばれるナチスの象徴を好む秘教主義的で伝統主義グループが、ファシズムの祝典のために集まっていた。ユージンスキー・サークルの超国家主義的なコミットメントは本物だが、本気とはいえない反啓蒙主義も蔓延していた。フュルストが指摘するように、「ファシズムは、そのダークな性格と不気味な歴史が滲み出た挑発という漠然とした概念の暗号に劣化してきた」という。しかし、この転換によって、反ファシズムも、特定のイデオロギーを否定するのではなく劣化に、つまり敵の汚染と感染に関する問題になってきた。こうして、プーチンは「脱ナチス化」を通じて、スターリン主義の脱ナチス化―汚染された人々をすべて粛清するキャンペーン―の含意を展開する。フュルストの言葉では、「自分の国家で暮らすというウクライナ人の現実のみならず、プーチンのロシア人像とは別の民衆としての概念そのもの」を変えるためにである。

プーチンの脱ナチス化は、脱ウクライナ化を意味する。プーチンによれば、ウクライナには歴史がなく、「現代のウクライナは、ボルシェビキ、共産主義のロシアによって…歴史的にロシアの土地であるものを分離、切断するというロシアに対して極めて厳しい方法で完全に作られた」ものでだ。2月21日の1時間に及ぶ拷問のような演説で、プーチンはウクライナを「(ロシアの)歴史、文化、精神空間の不可分の一部…親族、血縁、家族の絆で結ばれた人々」と表現している。プーチンは、「極めて過酷」といった感情的な言葉に訴え、ドンバスは「実際にウクライナにむりやり押し込まれた」という彼の主張は、最終的にソ連が準自治共和国に権限を委譲したことが、ウクライナの究極の崩壊につながったと主張しうるような歴史的なフィクションの背景を構成している。

ウクライナの独立について、プーチンは好戦的に「脱共産化を望むか?そうだ、それがまさにお似合いだ。しかし、なぜそれを途中でやめるのか?ウクライナにとって本当の脱共産化が何を意味するのか、我々は示す用意がある」という。つまり、脱共産化とは、ウクライナに与えられた自治権の遺産を、たとえわずかであっても断ち切り、2月24日の演説で彼が「歴史的故郷」としたロシア帝国空間への究極の再同化を意味するのは明らかである。

「脱共産化」という言葉の意味をただちに理解したのは、ファシズム化したソ連のカウンターカルチャーの第一人者で、ユージンスキー・サークルの元メンバー、アレクサンドル・ドゥーギンだった。「大統領は脱共産化について語った。ロシアには1世紀以上の歴史があり、そして、明かにリベラルでもコミュニストでもない新たなイデオロギーの担い手なのだということを言いたかったにすぎないと思う。私たちは帝国の人民である。われわれロシア人は過去ではなく、未来に目を向けているのだ」と応答した。

そして、ウクライナに関するドゥーギンの初期の著作は、プーチンの最近の主張と非常に近いものがある。「ウクライナという国家には地政学的な意味がない」と、ドゥギンは1997年に出版した痛烈な非難に満ちた本『地政学の基礎』で書いている。「文化的な重要性も普遍的な意義もなく、地理的な独自性も民族的な排他性もない」。もちろん、歴史的、哲学的、文化的、その他の口実でウクライナの生存権を否定して行動することは、それ自体が大量殺戮行為である。ドゥーギンにとって、ウクライナ西部の3つの地域だけは―1つの西ウクライナ連邦としてまとめられたボリニア、ガリシア、トランスカルパチア―、大ロシアから切り離すことは可能だが、非NATOに加盟しないという但し書きが伴う。

しかし、こうした共通点にもかかわらず、プーチンの言う「脱ナチス化」、とりわけ反ファシズムは、ドゥーギンにとって特に厄介なものに映ったようだ。ドゥ=ギンが最も大きな影響を受けた一人であるファシスト地政学者のジャン=フランソワ・ティリアールJean-François Thiriartは、ウクライナの超民族主義者ステパン・バンデラStepan Banderaを支持し、ソ連の国境を1939年のモロトフ・リベントロップ条約以前の境界線(つまり、ドゥーギンが考える大ロシアと仮想の西ウクライナ連邦という区分)に押し戻そうと考えた。ドゥーギンが影響を受けたもう一人のベルギー人レキシスト[注:Rexist、ベルギーの戦前のカトリック系極右]、レオン・デグレルLeon Degrelleは、バンデラ軍と協力してウクライナで残忍な武装親衛隊とともにソビエトと戦った自身の経験を賞賛して一冊の本にまとめている。

ドゥギンもクレムリンも、「ナチズム」や「ファシズム」というレッテルを使って、リベラルな反対派を躊躇なく杓子定規に批判する。FSB[ロシア連邦保安庁、ロシアの治安機関]のセルゲイ・ナリシキンSergey Naryshkinは最近、西側がロシアに科した制裁を非難し、それが「『寛容な』リベラル・ファシスト状況」の現だと主張している。ナリシキンが展開した「リベラル・ファシズム」のなかの「キャンセル文化」の一部としての制裁という考え方は、元Foxニュースのパーソナリティ、ジョナ・ゴールドバーグを念頭に置いている。ファシズムの根はリベラルなイデオロギーにあるという彼のテーゼは、この分野の専門家によって完全に否定されているものだ。同時に、ゴールドバーグよりもはるかに本物のファシズムの伝統に精通しているドゥギンが、このような定義の誤りを犯すとは想像しがたい。

3月4日にフェイスブックにドゥギンが、ウクライナ人はアメリカ由来の「ひどいナチス・リベラルのプロパガンダ」に振り回されていると投稿した見解は、ナリシキンと比較・対照できるものだ。ドゥギンは、2004-5年のオレンジ革命と2013-4年のマイダン抗議行動でモスクワに友好的な強権者ヴィクトル・ヤヌコーヴィチを追放するのに貢献したウクライナの自由主義運動を、自由主義とナチズムの合成物であると見なしている。ここでドゥギンは、親欧米(つまりリベラル)の立場を支持するナショナリズト的感情を打ち砕く目的でウクライナを征服するというクレムリンに再び近づいた。

しかし、ウクライナの左翼タラス・ビロウズTaras Bilousが指摘するように、ウクライナではナショナリズムの感情が高揚することもあるが、世代や家族間の争い、社会経済的対立、国の政治的地理的条件に関わる思想的複雑さもまた然りなのである。極右勢力は、世界のあらゆる軍隊でそうであるように軍隊内では存在感を示しているが、大きな政治的権力をウクライナで獲得することができなかった。こうした複雑で多次元的な亀裂を考慮すれば、ドゥギンの立場はおそらくナリシキンの立場よりもさらに説得力がないままであろう。

複数の政治的立場の存在は、その国が指導者原理を志向するシンクレティックなイデオロギー―それはまさにドゥーギンの世界理解の全体主義的枠組みだが―に支配されないとすれば、シームレスな異種混合を示すものにはならない。ウクライナにおけるファシズムの政治的役割を誇張することはさておくとして、ウクライナがナチ・リベラルの国であるという主張は、イギリスが複数政党制民主主義ではなく「愛国的代替労働の国Patriotic Alternative-Labour country」であるという考えと類ていることになるだろう。ナリシキンのリベラル・ファシズムに対する視点が米国の極右の感性に訴えかけるのに対し、ドゥーギンの「ナチ・リベラル」の理解は、彼自身の単純化された世界観の枠内に限定されたものでしかない。残念ながら、彼はこの特徴をクレムリンと共有しているようだ。

現実的なレベルでは、ウクライナの「脱ナチス化」という偽善は、2014年以来、侵略はファシスト、正教会の超国家主義者、そしてドゥギン自身の自称 “ネオ・ユーラシア主義” のネットワークのプロジェクトであったという事実に見出すことができる。当初から、ウクライナに対する侵略は、ドゥギンの後援者であるロシアの「正教会のオリガルヒ」、コンスタンティン・マロフェーエフKonstantin Malofeevによって銀行融資されていた。最初の数年間は、マロフェーエフの仲間のアレクサンダー・ボロダイAlexander Borodaiとイゴール・ガーキンIgor Girkin(マロフェーエフの警備主任になる前にボスニアのジェノサイドに参加した超国家主義者)が現場での活動を主導していた。ギルキンとドゥーギンは、ロシアの反体制派アンドレイ・ピオトコフスキーAndrey Piontkovskyによる辛辣な記事の中で、ロシアの「本物の高邁なヒトラー主義者、真のアーリア人」の一人としてリストアップされている。

オルト・ライトやヨーロッパのファシスト的な「アイデンティティ主義」運動の中で影響力のある人物ドゥギンのイデオロギーは、伝統的なナチズムよりも幾分混交的で複雑である。彼は、現代世界とそれが象徴すると考えているリベラリズムの完全な破壊を確信している。この世界の激変は、彼が 「政治的兵士 」と呼ぶ戦士-司祭に支配されるカースト制度によって識別される家父長制の血と土の共同体の再生へと導くものだ。ドゥーギンは、モスクワがダブリンからウラジオストクまで広がるユーラシア帝国を支配し、イスタンブールがコンスタンティノープル(または「ツァルグラード」)へと回帰することを望んでいる。ドゥギンにとって、ウクライナ侵攻はこの「スラブ大レコンキスタ」の最初のステップに過ぎない。

もちろん、「コンスタンティノープルの再征服」は、ドゥーギンの広範な地理的目的の中の王冠の宝石としての役割を果たすに過ぎない。8月の反ファシスト会議に招待された国々には、現在、極右の強者ナレンドラ・モディが率いるインドがいる。彼のヒンドゥーナショナリズムは、インドのイスラム教徒に対する「最終解決」を唱えたヴァヤック・サヴァルカルVayak Savarkarなどのヒトラー崇拝に由来する。ロシアはまた、新疆ウイグル自治区で多数占めイスラム教徒を大虐殺したにもかかわらず、ナショナリズムを強めている中国の政権をあえて参加させた。

ドゥーギンにとって、この2カ国はロシア、イランとともに「ユーラシア大陸の大国」を構成しているのである。上海の復旦大学中国研究所の上級研究員であるドゥーギンは、中国は国家ボルシェビズムに似た「国家共産主義」路線をとっていると考えており、これを「左翼反ヒトラー国家社会主義」と呼び、自身の「第四政治理論」の「第二のバリエーション」として新ユーラシア主義と結びつけている。つまり、モディのヒンドゥトヴァがヒトラーに共感する超国家主義的な立場をとっていることには疑いようがないが、ドゥーギンは、中国がナチズムの一系統に連なる思想を守り、このこと自体が彼自身の伝統主義に不可欠であると考えているのである。まさに反ファシスト会議なのだ!

一般的な意味で、ドゥーギンの新ユーラシア主義思想は、ファシズム研究者のロジャー・グリフィンが「霊的再生超国家主義palingenetic ultranationalism」と呼ぶ、神話的国家の精神的かつ暴力的な復活を求めるモデルとほぼ合致している。ドゥーギンはプーチンのロシア排外主義と新帝国の下での「大ロシア」への願望を共有しており、それによってファシズムと共産主義の対立を乗り越えたと主張している。そのため、例えばInfowarsにゲスト出演する際、ドゥギンはある意味では「反ファシズム」を主張しながら、他の文脈、例えば『第四政治理論』では、ファシズムと共産主義に必須の「共通根」のようなものとして(つまり、国家社会主義のより至高のバージョンとして)自らの思想を宣伝する、という逆説的な行動をとっているのである。

反ファシズムを「ナチ・リベラリズム」の否定へと改竄することは、形勢逆転のためのシニカルな戦術を表わしている。この戦術は他の場所でも使われている。例えば、ドゥギンの親しい同志であるセルゲイ・グラジエフSergei Glazyevは、イスラエルがウクライナでロシア人をユダヤ人に置き換えようとしていると主張した後、プーチンによってユーラシア統合の顧問の役割を解任されるのだが、こうした人達によるロシア語を話すウクライナ人を「大量虐殺」から守るといった主張でも使われているのだ。このように、ロシアのウクライナ復権論は、「大規模入れ替え理論」の形をとっている。つまり、民族的国民を外国のコスモポリタンに入れ替えるというディープ・ステートの陰謀が、過激さのレベルに応じて、大量のエスニック、人種、宗教的マイノリティの国外追放、さらなる周辺化、あるいはただ絶滅させるのみという口実になる。

同様のレトリックの反転において、ドゥーギンは「反帝国主義」の推進力を利用して、「グローバリズム」に対抗する「伝統主義インターナショナル」を召集し、左派の周辺部分を引き寄せようとしている。彼は、帝国の時代への回帰を唱えながらも、グローバリズムを西洋の「制海権」に内在するとみなしている。ドゥギンは最近、「ロスチャイルド、ソロス、シュワブ、ビル・ゲイツ、ザッカーバーグ」のリベラリズムと切り離されたヨーロッパの基準をロシアが担うと主張した。モスクワの帝国を軸に、海洋パートナーシップや諸権力は、神を破壊する近代主義的な傾向とともに、屈服させられるだろう。-その実現には、少なからぬ残虐性が必要であるような純粋のファンタジーの上に成り立っている妙技

-その実現には、少なからぬ残虐性が必要であるような純粋のファンタジーの上に成り立っている妙技

プーチンは過去に新ユーラシア主義的な思想への沈潜と、より伝統的な熱狂的ロシア愛国主義との間で揺れ動いていたようだが、侵略によってロシアの西側との金融関係が断たれたことで、ロシアはヨーロッパから遠く離れ、この巨体は経済崩壊をインドと中国という地域パートナーに頼って乗り切ろうとしているのである。このような立場から、ドーゥギンが精神的使命と考えること、すなわち近代を抹殺するであろう「大西洋主義者」に対する本質的に保守的なユーラシア戦争においては、ロシアは西洋に対する反発を強めるしかない。ドゥーギンの意味不明な世界では、これは「真の西洋」(すなわちユーラシア)の位置から西洋に引き返し、破壊することを意味する。「ロシアが(西側から)早く完全に切り離されれば切り離されるほど、ロシアは自らのルーツに戻るだろう…つまり、本当の西洋と共通のルーツに…そしてヨーロッパは西洋と手を切る必要があるし、アメリカでさえ、グローバリズムを拒否する人たちに従う必要があるのだ」。西洋を救済するためにこれを破壊する-あまりにもよく知られた無力な運動である。

近代西洋を戦闘的かつ完全に否定し、プーチンの反ファシズムという欺瞞に満ちた主張を利用して反ファシズムそのものに泥を塗ろうとする極右の努力をよそに、西側極右もまた超国家主義政治を世界の舞台へと引き上げる「希望の光」としてのロシアの役割を長らく受け入れてきた。プーチンのウクライナ戦争を最も熱心に支持した一人であるロシア帝国運動the Russian Imperial Movementは、ヨーロッパの極右メンバーを養成する準軍事キャンプを運営しており、アメリカからのファシスト・テロリストはこの国の右翼的政治生活に避難場所を見出そうとしている。マリーヌ・ルペンからマテオ・サルヴィーニに至る政治家たちはプーチンのEU懐疑モデルのラディカル右翼政治を受け入れ、世界支配を目指す彼の努力に付き合ってきた。そして、ドゥーギンの国際的な同志たちは、彼の非自由主義的な立場の故に、今度はイランの神権主義者たちに受け入れられている。

アメリカでは、共和党議員との関係を築いてきた白人民族主義者のニック・フエンテスNick Fuentesがアメリカン・ファースト政治行動会議American First Political Action Conferenceを通じて、プーチンを自分のブランドの政治を再定位するリーダーとして歓迎している。2月25日に開催されたAFPACの会議で、フエンテスは「ロシアに拍手を」と呼びかけ、「プーチン!プーチン! 」の掛け声が飛び交った。

米国では、ロシアのウクライナ攻撃を歓迎するのはファシストの端くれだけのように見えるかもしれないが、AFPACの影響力は議会にも及んでいる。ウェンディ・ロジャーズ下院議員は、自身もAFPACに参加しており、極右民兵組織「オース・キーパーズthe Oath Keepers」のメンバーである。ユダヤ系ウクライナ人の大統領について、「ゼレンスキーはソロスとクリントンのグローバル主義者の傀儡だ」と述べ、ロシアを人民の真の代表、ウクライナを富裕層が支配する人工国家とする反ユダヤ的陰謀物語に同調している。マージョリー・テイラー・グリーンMarjorie Taylor Green下院議員も、親ロシア派の祝賀と喝采の中、AFPACで演説を行った。

ドゥーギンのネオ・ユーラシア主義とクレムリンのウクライナに対するイデオロギーの押しつけ、そしてそれが築きつつある同盟国との間の収束点の現実を考えると、反ファシズムのレトリックを用いることは何を意味しているのだろうか。米国のメディアの言説でよく見られるように、この言葉はブギーマンとして、あるいは政治的美徳の表れとして歪曲されてしまう。現実には、ロシアのファシズムは、君主主義者、正統派神権主義者、変人の地政学者に満ちており、常に危ういものであった。1941年にナチスに侵略されたこの国は、全体としてまとまりがあるというよりも、ファシズムのように見え、話し、歩きながら、自らをより高みにある至高の形とみなす熱狂的な超国家主義のシンクレティズムを展開してきた。右翼伝統主義の教祖ユリウス・エヴォラJulius Evolaが「スーパーファシズム」、あるいは学者ウンベルト・エコの言う「ウルファシスム」がそれである。

私たちは、純粋な暴力における不合理な核心として、反ヨーロッパ、反帝国主義的帝国、反ファシズム的ファシズム、反ナショナリストのウルトラナショナリズム、そしてネーションの存在の抹殺と民間人への砲撃を伴うジェノサイドに対する防衛策をみることができる。ロシアは主権を行使するために、理性に頼ることなく、粗野な強制力、パワーポリティクスに頼りつつ、一方の極にある米帝国へのオルタナティブを提起する。米国の敵として自らを押し出すことで、新たな友好国を獲得しようとするのである。ロシアのナショナリズムは、協調から離れて二元的で非自由主義的な対立へと地政学を再調整するのを手助けしつつ、極右運動の前衛の一部としての役割りを担っている。そして、この現実は、反ファシズムのアピールに揺り動かされる人々には、ほとんど何の意味ももっていない。プーチンとドゥーギンは、逆説を呼び込むことによって、極右の実際の役割について混乱している人々の機嫌を取り、アメリカ、ウクライナ、欧州連合の批判者を、ロシアの攻撃に対する支持的または中立的な立場に引き込むことを望んでいるのである。それゆえ、ウクライナにおける帝国主義との闘いは、そこだけでなく、あらゆる場所での自由と平等のための闘いというレベルで普遍化されなければならない。

このことを理解するためには、反ファシズムにとって重要な「三者の闘い」という分析的枠組みが役に立つ。ロシアは、欧米諸国への挑戦として行動しているにもかかわらず、欧米列強の改革を目指す人々の友人ではない。むしろ、極右の造反者的な役割は、様々なイデオロギー的な支持者たちをこの紛争以上に危険な連合体に結びつける能力を持っている。反ファシズムの歴史的役割は、本質化されたアイデンティティと権威主義的統制に訴えることによって民主的価値を損なおうとする造反者的極右運動から身を守ることだった。しかし、反ファシズムは、政治でもイデオロギーでもなく、エートス、つまり、プーチンが破壊したい戦後世界のバックボーンとして機能する道徳的要請なのである。この点で、プーチン自身が全体主義的支配とネオ・ユーラシアの拡大に向けて「ファシスト的転回」をしてきたかどうかについての議論は続くだろうが、彼の反ファシズムの主張は議論の余地なくまやかしなのである。

Alexander Reid Ross ポートランド州立大学地理学講師、フリーランス・ジャーナリスト。

Shane Burleyはフリーランスのジャーナリストで、The Baffler, The Independent, Jacobin, Truthout, In These Times, Commune, Alternet, and Waging Nonviolenceに記事を書いている。
出典:http://newfascismsyllabus.com/contributions/into-the-irrational-core-of-pure-violence-on-the-convergence-of-neo-eurasianism-and-the-kremlins-war-in-ukraine/

ウクライナ経由ナショナリズムと愛国心をそれとなく煽るマスメディア

8日の夜7時過ぎのNHK「クローズアップ現代」は、ウクライナに残っている人達の深刻な事態を、現地の人達と繋いで報道していたのだが、同時に、ウクライナの外にいるウクライナ出身の人々の様子も取材しており、戦争が否応なく喚起させる庶民への理不尽な暴力を映像を通じて、私たちの感情を動員する番組になっていた。ロシア国内やロシア軍兵士への取材はない。敵のロシア軍の人間たちは砲弾や戦車といった暴力によって象徴される抽象的な存在としてしか実感できない。「こちら」の側には生身の人間が、敵はプーチンか、さもなくばプーチンの手先でしかない非人間的な機械か鉄の塊。こうして私たちの感情は、ウクライナの側に同化するような構図になる。どちらの側にも殺されるべきではない人間が同じようにいることが感じられないのだ。

NHKが取材対象とした人達、とりわけ若い男性たちには共通した傾向がある。それは、ロシア軍に侵略された国を救うために戦うことを(やむなく)決意した若者や、戦うために帰国する若者の姿だ。他方で、意識的に戦うという選択をしない若者(男性)や戦いたくないという気持ちをもって逃げてきた若者は存在しないかのようだ。ウクライナの若者たちは皆武器をとって戦うことを選択しているかのように描かれ、結果として臆病であることが言外にネガティブな態度であるかのような印象が与えられる。そして、戦場に向う自分の息子や夫を涙で送る家族たちが情緒的に描かれる。こうした映像はこの番組に限ったことではなく、ほとんどすべてのニュースや情報番組(ワイドショー)がとる戦争のステレオタイプだ。この構図のなかで、この番組をみた視聴者の心理は、臆病であることを率直に表明することそれ自体を心理的抑えられてしまうような作用が働くのではないか。

そして、こうしたスタンスに重ねあわせられるようにして、日本政府のウクライナ支援の言説が受けとめられるのだろう。日本政府は防衛装備である防弾チョッキを人道支援名目で送るというが、これらが軍事目的で利用される可能性は否定できない。学校でもウクライナ情勢が授業で取り上げられているとも報じられている。一見すると戦争の悲惨さ子どもたちに伝える平和教育のようにも印象づけられるが、果してどうなのか。

マスメディアの報道や政府、政治家たちの言動の前提になっている感情には、侵略者に対して武力によって自国の領土を防衛する軍や市民たちの行動を暗黙のうちに支持するスタンスが大前提になっていると感じる。侵略者に対して、ウクライナにおける自衛のための武力行使を肯定する立場は、誰もが、このウクライナの問題を日本に置き換えて考えるとき、やはり日本もまた自衛のための武力行使は必要であり、だから自衛隊もまた必要だ、という理屈に誘導されてしまうのは目にみえている。しかもこれが「理屈」だけでなく、感情的にもまた国家のために戦うことを正義と感じる情動、つまり愛国心とかナショナリズムを喚起してしまう。ウクライナ国旗やその色をモチーフにした戦争反対は、戦争がナショナリズムや国家に収斂する感情の動員を必須の条件としており、国旗はその象徴的な作用を果しているというシンボリックな効果に対して十分な防御ができていないように思う。国家や宗教的な絶対者に収斂するような一切のシンボルを排することこそが平和への道だからだ。

日本のメディア環境は、国家のために人命を犠牲にすることを肯定する感情が、人々を支配するように促す危険な傾向をかなり濃厚に内包していると思うのだ。やっかいなのは、こうした感情は、常に、非力な庶民を犠牲にする侵略者を撃退して、家族や地域を守るためのいたしかたない戦いという感情を内包させつつこれを国家の防衛に収斂させていく、という仕掛けをともなっているという点だ。私は、国家という観念は、人ひとりの命の重さと比べたら、比べものにならないくらい無意味な観念だと考えるから、国家間紛争などジャンケンで決着つければいいような問題だ、と前にも書いた。しかも正義と暴力の間には、力の強い者が正義であるという一般論が成り立つような相関関係はないことも明らかだ。

日本政府や改憲を見すえている自民党や右翼は、ウクライナを経由して自衛のための武力行使を支えるナショナリズムや愛国心の喚起の絶好のチャンスとみて、自衛隊合憲論をとるリベラルや野党を巻き込み、また世論に根強い9条改憲反対の雰囲気を切り崩そうとするに違いない。私たちが問われているのは、侵略されても自衛権の行使はしない、という選択を支える思想を鍛えることにある。この思想の基盤にあるのは、人間の命を賭けででも守るに値する国家など存在したためしはない、ということをいかにして説得力をもって主張できるか、にある。非武装中立とか自衛隊違憲といった主張すら稀になってしまったこの時代に、再度国家を疑うことから議論を始める必要がある。

(付記)上のエッセイには重大な問うべき問いの回避がある。一切の暴力を否定することは、可能なのか、人類史のなかで、解放のための暴力の歴史を一切否定するのか?というこれまでも繰り返し論じられてきた問いに一言も答えていないし、上のエッセイではこの問いへの答えとしてはまったく不十分だ。今、ウクライナで起きていることと、そこから日本で起きつつある国家の自衛権への肯定感情を批判するという目的を越えて、より普遍的な問いとしての暴力の問題は、別途検討すべき課題だと思っている。国家や普遍的な力(神とか民族とか性にまつわる優劣の序列)に収斂する暴力を認めるつもりはないが、暴力をめぐるそうではない在り方をも完全に否定することが可能かどうかはまだ私のなかでは留保が必要な領域である。

警察法改悪―まだ論じられていない大切な課題について

警察法改悪―まだ論じられていない大切な課題についていくつか簡単に述べておきたい。

衆議院をあっという間に通過してしまった警察法改悪法案だが、たぶんこのままでられば、参議院の審議もほとんど実質的な内容を伴うことなく、成立してしまいそうだ。

今回の警察法改悪とサイバー警察局新設は突然降って湧いたような話ではなく、昨年夏前にはすでに基本的は方向性については警察庁が公表し、マスメディアも報じていた。私たちの取り組みはとても遅く、昨年秋くらいから議論になりはじめたに過ぎず、この遅れの責任は反監視運動として真摯に反省しなければならないと感じている。自分たちの運動の問題を棚に上げた勝手な言い分になるが、従来の刑事司法の改悪に関わる立法問題―たとえば盗聴法や共謀罪が想起される―では、いち早く法曹界や学会の関係団体が批判や抗議声明を出したが、今回は様変りだ。弁護士会は日弁連も都道府県弁護士会も警察法改悪については一言も公式見解すら出していない。研究者や弁護士などのグループでも反対声明が出はじめたのは法案が上程されて審議に入ってからだ。しかも、国民民主党も立憲民主党もこの法案に賛成した。共産党も衆議院内閣委員会での審議直前にやっと反対をかろうじて決定した。明かに、なぜか皆腰が引けているのだ。

通信の秘密、表現の自由、結社の自由について

警察法改悪の問題で見落されているのは、憲法が定めている私たちの言論表現の自由や結社の自由、そして通信の秘密を国家が侵すことへの厳格な禁止との関係だ。これらは言うまでもなく、文字通りの権利としてはもはや私たちにものにはなっておらず、捜査機関が大幅な権限を既に握ってきたことは繰り返すまでもない。

ただし、今回のサイバー局新設の問題は、従来と質的に異なって、捜査機関が憲法で保障さている言論表現の領域を専門に捜査対象とする組織を新設するということ、つまり、真っ向から憲法21条を否定することを目的とした組織を創ろうというものだ、という点にある。法案では「サイバー事案」として捜査対象となる領域を次のように規定している。

「サイバーセキュリティ(サイバーセキュリティ基本法(平成二十六年法律第百四号)第二条に規定するサイバーセキュリティをいう。)が害されることその他情報技術を用いた不正な行為により生ずる個人の生命、身体及び財産並びに公共の安全と秩序を害し、又は害するおそれのある事案(以下この号及び第二十五条第一号において「サイバー事案」という。)のうち次のいずれかに該当するもの(第十六号及び第六十一条の三において「重大サイバー事案」という。)
(1) 次に掲げる事務又は事業の実施に重大な支障が生じ、又は生ずるおそれのある事案
(i) 国又は地方公共団体の重要な情報の管理又は重要な情報システムの運用に関する事務
(ii)国民生活及び経済活動の基盤であつて、その機能が停止し、又は低下した場合に国民生活又は経済活動に多大な影響を及ぼすおそれが生ずるものに関する事業
(2) 高度な技術的手法が用いられる事案その他のその対処に高度な技術を要する事案
(3) 国外に所在する者であつてサイバー事案を生じさせる不正な活動を行うものが関与する事案」
https://www.gov-base.info/2022/02/22/148741

つまり「国又は地方公共団体の重要な情報の管理又は重要な情報システム」と「国民生活及び経済活動の基盤」などでサイバーセキュリティが関係する分野である。高度な技術的な対処や海外を含む事案が更に対象になる。サイバーセキュリティ基本法2条では次にようにサイバーセキュリティを定義している。

「「サイバーセキュリティ」とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式(以下この条において「電磁的方式」という。)により記録され、又は発信され、伝送され、若しくは受信される情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の当該情報の安全管理のために必要な措置並びに情報システム及び情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保のために必要な措置(情報通信ネットワーク又は電磁的方式で作られた記録に係る記録媒体(以下「電磁的記録媒体」という。)を通じた電子計算機に対する不正な活動による被害の防止のために必要な措置を含む。)が講じられ、その状態が適切に維持管理されていることをいう。」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426AC1000000104

コンピュータ上のデータやネット上のデータの全てがサイバーセキュリティの対象ということになる。スマホやパソコンだけでなく、Suicaとか家庭のスマートメーター、ケーブルテレビなどあらゆる日常生活必需品がサイバー警察局の捜査領域になりうる。いったん警察の捜査対象になるとどうなるか。たとえば、交通取り締まりでは、ドライバーを常にスピード違反や飲酒運転の疑いの眼をもって監視することが「交通安全」の名目で当然視されてているように、私たちの日常のコミュニケーションを犯罪の可能性がありうるものとして警察が常時監視することになる。道路のNシステムが24時間稼動するように、ネットのコミュニケーションも24時間監視されることになるのだ。

ところで、憲法21条を念のために、引用しておこう。

「第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」

21条は、22条のように「公共の福祉に反しない限り」という限定がないところがこの条文の特徴であり重要な点だ。集会、結社、言論など一切の表現の自由のなかには公共の福祉に抵触する表現があってもよいという含意がある。この含意は、公共の福祉が時には「国益」や多数者の利益や利害、あるいは支配的な道徳や倫理と読み替えられて解釈されることによって、反政府的な言論や多数者のそれとは相容れない少数者の道徳や倫理を統制することを正当化しえない歯止めとなっている。

日に日に反政府的な言動や、ナショナリズムを否定する言論への攻撃や規制が厳しくなるなかで、この「公共の福祉」という限定のない21条は重要な意味をもっている。ところがそうであっても、この領域を犯罪捜査の対象として専門に取り締る警察組織が設置されてしまえば、事実上「公共の福祉」という枠のなかに私たちの言論表現の自由が押え込まれることになる。

ネットを念頭に21条を表現すると以下のようになる。

「ネットにおける集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。ネットの検閲は、これをしてはならない。ネットの通信の秘密は、これを侵してはならない。」

予測と行動変容を促す技術との一体化

同時に、捜査機関が私たちのコミュニケーションを網羅的に監視するためには、「検閲」を伴わないわけにはいかないだろう。しかし、かつてのように、集会に警察官が臨席したり、出版物が「×」印の伏せ字を強いられるといったいかにもみっともない不自由な強権発動はやらずに、もっと巧妙になる。ひとつは、公権力による検閲ではなく、民間による自主規制に委ね、民間団体を背後から指導するというやりかただ。映画、音楽、放送や新聞がすでにこうした自主規制によって国家の検閲を回避しつつ実態として公権力の検閲の代弁者となってきたが、この伝統的なやりかたが、インターネットのプラットフォーム企業にまで拡大されるということだ。

もうひとつは、予測と行動変容を促すというより巧妙な方法だ。ビッグデータとAIの時代に政府もIT企業もこぞって研究・開発を進めているのが、この分野だ。膨大な個人データプロファイルし、人々の行動を予測するだけでなく、人々の行動変容を促すような情報操作を官民総がかりで取り組もうとしている。人々は自発的な意思によって、誰に強制されることなく、政権を支持するようなメンタリティが構築される。このような世界はSF映画が先取りしてきたが、むしろ現実がフクションを越えはじめている。

警察領域では、こうした予測と行動変容が行政警察機能の拡大と予防的な取り締まりの歯止めのない拡大としてあらわれることになる。サイバー警察局はこうした方向をもった警察による捜査の実働部隊として全国規模で私たちのコミュニケーションを捜査=監視対象とすることになる。

長官官房による情報の一元管理

国会では全く議論されていないもうひとつの重大な問題が、これまで独立した「局」だった情報通信局が廃止され、その機能の多くが警察庁長官官房に移されることになる点だ。デジタル鑑識などの分野はたぶんサイバー警察局に移されるだろうが、それ以外の警察の情報システムやデータ管理などは長官官房に移され、ここで都道府県警察が保有している個人データなどと合わせて統合的に管理されることになるのではないかと推測している。これまでも都道府県警が保有している個人データの全国的な共有システムが存在したが、これが更に高度化されて、文字通リの意味でのビッグデータとして機能しうることになる。そして、これだけではなく、重要なことは、この長官官房の情報システムが内閣官房のサイバセキュリティーセンターを介して他の省庁や、更には省庁と連携する民間企業との間のデータとも少なくとも構造上は連携可能になるだろうということだ。マイナンバーはもちろん枢要な位置を占めるだろう。

ここで重要なことはサイバー警察局が捜査対象とする官民の重要インフラについては、すでに14分野が指定され、「セプター」(下図参照)と呼ばれる組織を通じて省庁との間で連携がとられる構造ができあがっていることだ。この構造に警察庁長官官房が介入することによって、一気に警察の影響力が大きくなることは間違いない。

この意味でいうと、サイバー警察局は、コミュニケーション領域を捜査する実働部隊あるいは「手足」であり、長官官房は都道府県警からサイバー警察局までを網羅する情報ネットワーク神経系を統合する「頭脳」部分をなし、この両者が一体となって21条領域を骨抜きにする構造として理解する必要がある。

自民党改憲草案との関係

上記のような見立ては決して反監視運動の我田引水的な誇大妄想あるいは被害妄想なわけではない。それは自民党改憲草案の21条改正案をみればはっきりわかると思う。改憲草案は下記のようになっている。

「第二十一条集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。」
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf

この改憲草案を踏まえると、捜査機関が「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」を行なっているかどうかを捜査することや、公共の秩序を害することを「目的として結社をする」可能性を捜査することが当然のこととされるだろうし、捜査機関はわたしたちのコミュニケーションを監視し予防的な措置をとることになるだろう。この改憲草案の文言を念頭に、警察法の改悪=サイバー警察局の設置の含意を解釈しなければならない。言うまでもなく、警察法改悪は改憲を先取りし、改憲によって実現可能な捜査機関の体制を準備するものだ。

サイバー攻撃は私たちの自由の権利を制約する理由にならない

最後に、「サイバー攻撃」の脅威との関係について私の考え方を述べておきたい。国会審議では、与野党揃って「サイバー攻撃」を天下国家の一大事だと口をそろえてその脅威に立ち向かうべきだと主張している。私もサイバー攻撃という事実があり、それが時には私たちの私生活に深刻な事態を招くこともありうることは理解している。しかし、だからといって、捜査機関にフリーハンドで捜査権限を委ねたり、私たちの21条の権利を制限することを認めるような権限を捜査機関に与えることには反対だ。捜査機関の捜査は21条の権利をわずかたりとも制約するものであってはならない。サイバーセキュリティに関しては私たちが権力に依存することなく対処しうる余地がまだまだあるし、そうした試みは世界中の権力による干渉を拒否する民衆のサイバーセキュリティの活動家たちが創意工夫してもいる。

権力にフリーハンドを与えるべきではなく、捜査機関は私たちの自由の権利を侵害しない範囲で捜査すべきなのだ。この点は一歩たりとも譲れない一線だ。すでに私たちの自由は警察によって大幅に削りとられてしまっている。しかもレイシストたちが「自由」という理念そのものを横取りし、まさに政権政党もまた自由と民主主義の名ももとに、私たちの自由を土足で踏みにじってきた。私たちの自由とは、あくまで社会的平等の基盤の上に築かれた自由の実現、つまり自由の再定義のための実践であり、そのためには既存の体制が擁護しようとする「公共の福祉」とは確実に相容れない実践でもあるのだ。

あくまでも反対を

警察法改悪を容認する野党は、この改憲草案への道を容認することになる。また、警察法改悪の問題に沈黙することは、言論表現の自由や通信の秘密の権利が侵害されかねない警察制度の大幅な改変を黙認していることにならないか。本来なら反対していいはずの野党が賛成した今回の事態は、もはや議会野党が与党の補完物にしかなっていないことを示しているのではないかと危惧する。他方で、警察法改革に反対する団体賛同署名は、短期間であるにもかかわらず3月5日時点で140を越える賛同がきている。とても小さな声だが、しかしこのような草の根からの異議申し立ては、議会政党が次第に翼賛化しつつあるなかで重要な力だと思う。

(Truthout)戦争はウクライナの左翼に暴力についての難しい決断を迫っている

以下は、the Truthoutに掲載された記事の翻訳です。ウクライナの左翼は、以下の記事で象徴的に紹介されているように、ウクライナに残るという決断をしたばあいの二つの選択肢、つまり、徹底して非暴力不服従を選択するのか、それとも武器をとるのか、の二つの選択肢の間で決断を迫られている。ウクライナの文脈のなかで、この二つの選択肢がどのような意味をもつのかは下記の記事にあるように、容易な問題ではない。これまでも武力行使を否定してきたウクライナ平和主義運動は国内の極右に狙われ続け、他方でロシア軍に対する武装闘争を選択したイリヤらはアナキストでありながら腐敗した政府の国軍との連携を余儀なくされる。

さて、私の関心はむしろこの戦争への日本国内の論調が、反戦運動も含めて、ナショナリズムの罠を回避しきれていないことへの危惧にある。日本のなかのロシアの侵略戦争への反対という正しい主張が、侵略に対して自衛のための戦争は必要であり、だから自衛力としての自衛隊もまた必要なのだという間違った考え方を正当化しかねないのではないか。人々のナショナリズムの感情が軍事力の行使を正当化する心情として形成されてしまうのではないか、という危惧だ。ウクライナの国や「民族」を防衛すべきとするウクライナイ・ナショナリズムの感情形成への回路があることを反映して、ウクライナの現状を学校で教える日本の教師たちが、「だから、日本もまた、国土を守るために自衛隊が必要であり、私たちも侵略者と闘う覚悟が必要だ」といった感情を子どもたちに与えかねないし、大人も地域の人々も同じようなナショナリズムへの同調という心情の共同体を容易に形成してしまうのではないか。もちろん政権や政治家たちも、この戦争事態を格好のナショナリズムと自衛隊肯定から自衛力としても武力行使の肯定へ、つまり9条改憲の正当化へと繋ごうとすることは目にみえている。

改憲反対という人達のなかで、どれだけの人達が自衛のための戦争もすべきではない、戦争という選択肢は侵略されようともとるべき手段ではない、ということを主張できているだろうか。

(3月6日追記) ユーリイ・シェリアジェンコは、Democracy Nowに何度か登場しています。

https://www.democracynow.org/2022/3/1/ukrainian_pacifist_movement_russia_missile_strike

https://www.democracynow.org/2022/2/16/yurii_sheliazhenko_russian_invasion_ukraine



投稿者
マイク・ルートヴィヒ、トゥルースアウト
発行
2022年3月5日

ロシアが2月24日にウクライナに侵攻して以来、キエフにあるユーリイ・シェリアジェンコYurii Sheliazhenkoさんの5階建ての家に毎日サイレンと爆発音が響いている。シェリアジェンコは「ウクライナ平和主義運動the Ukrainian Pacifist Movement」の事務局長であり、戦争状態にあるこの国で、孤立しながらも断固として平和を求める声を上げている。彼は、武器を持つことを拒否し、ロシア軍の進攻をかわすために隣人と一緒に火炎瓶を作ることを拒否し、「多くのヘイト」を経験してきた。そのロシア軍は、ウクライナ防衛を決意した民間人と戦闘員の厳しい抵抗に直面している。

シェリアジェンコは、ウクライナの活動家を支援するために米国の人々ができることについて電子メールで尋ねられたとき、「まず、平和への暴力的な手段はない、という真実を伝えることだ」と答えた。

キエフ近郊のどこかでは、「イリヤ」とその仲間たちがロシア軍に対抗して武器を取り、戦闘訓練をしている。暴力が激化しているため身元を隠さなければならないイリヤは、隣国の政治的抑圧から逃れ、ロシアの侵攻に抵抗することを決意した無政府主義者である。ウクライナや世界中のアナキスト、民主社会主義者、反ファシストなどの左翼の仲間とともに、イリヤはウクライナ軍の下である程度の自治権をもって自主的な民兵のように活動する「領土防衛territorial defense」部隊のひとつに参加した。抵抗委員会と呼ばれるグループによれば、共済グループや文民的任務を持つボランティアの水平同盟からの支援を受け、反権力者たちは領土防衛機構の中に独自の「国際分遣隊」を持ち、物資のための資金を調達しているとのことである。

「敵が自分を攻撃しているとき、反戦平和主義の立場をとることは極めて困難です。というのも、自分自身を守る必要があるからです」と、イリヤはTruthoutのインタビューで語っている。

シェリアジェンコとイリヤの異なる道は、ウクライナの活動家や進歩的な社会運動が直面している困難でしばしば極めて限定的な選択肢を物語っている。注目すべきは、彼らの政治における暴力の役割に関する異なる見解が、両活動家に、互いに敵対するのではなく、むしろ補完し合うような積極的な闘争を行わせている点である。

イリヤと彼の同志たちは、彼が「明らかに多くの欠点と腐ったシステムをもっている」と言うウクライナ国家について、何の幻想も抱いていない。しかし、ウクライナ、ロシア、東ウクライナの親ロシア分離主義者は2014年以来、低レベルの戦争を行っており、他の多くの左派と同様に、プーチン流の残忍な権威主義を押し付けかねない「ロシア帝国主義の侵略」が現時点での最大の共通の脅威だとイリヤは考えている。ウクライナは民主主義が十分に機能しているとは言えないが、反権威主義の活動家たちは、ロシアの介入とそれに伴う信じられないほど抑圧的な政治状況によって、この国の問題が解決されることはないと語っている。ロシアでは現在、デモ隊が警察の残忍な弾圧に逆らい、長い実刑判決の危険を冒して戦争に抗議している。

「ロシアでは広範な反戦運動が起こっており、私はそれを断固として歓迎します。しかし、私が推測する限り、ここではほとんどの進歩的、社会的、左翼的、自由主義的な運動は、現在ロシアの侵略に反対しており、それは必ずしもウクライナ国家と連帯することを意味していません」とイリヤは言った。

シェリアジェンコは、これまでに何百、何千もの民間人の命を奪った致命的な戦争について、双方の右翼バショナリストを非難している。シェリアジェンコと仲間の平和活動家は、街頭でネオナチに襲われる前に、ウクライナの極右ウェブサイトによって、ロシアに支援された分離主義者との戦争に反対する裏切り者として個人情報をネットに晒されたり「ブラックリスト」入りされたりした。しかし、ウクライナで親ロシア派大統領を退陣させた2014年のマイダン蜂起以降、ファシスト集団や極右ウルトラナショナリストが台頭したことは、プーチンが主張するような流血のロシア侵攻の言い訳にはならないとしている。

「現在の危機には、すべての陣営で不品行が行われてきた長い歴史があり、「我々天使は好き勝手できる」、「彼ら悪魔はその醜さに苦しむべきだ」といった態度をさらに取れば、核の終末も例外とはならないさらなるエスカレーションにつながります。真実は双方の沈静化と平和交渉の助けとなるべきです。とシェリアジェンコは述べてる。

多くの民間人がウクライナ軍に志願しているが、戦争が2週目に入ると、ロシア軍と戦う以外にも活動家にはやることがたくさんある。イリヤによると、「市民ボランティア」は暴力から逃れる家族を助け、世界中のメディア関係者に語りかけ、レジスタンス戦士の家族を支援し、寄付や物資を集め、前線から戻った人たちをケアしているという。労働組合は現在、資源を整理し、戦争で荒廃した東ウクライナから西側やポーランドなどの近隣諸国に逃れる難民を支援している。

ボランティアには様々な政治的背景があるが、イリヤのようなアナキストにとって、抵抗活動に参加することは、現在および戦後の政治や社会発展に影響を与える急進派の力を高めるための手段である。相互扶助と自律的な抵抗を行う草の根の「自己組織」もまた、生き残りの手段としてあちこちで生まれている。

「はっきりさせておくと、私たちの部隊の全員がアナキストを自認しているわけではありません。それよりも重要なのは、多くの人々が自発的に組織して、互いに助け合い、近所や町や村を守り、占領軍に火炎瓶で立ち向かうことです」とイリヤは言う。

一方、シェリアジェンコと散在する平和活動家たちは、非暴力による市民的不服従を含む戦術で、強制的な徴兵制に反対し続けている。シェリアジェンコによると、18歳から60歳までの男性は「移動の自由を禁じられ」、軍関係者の許可がなければホテルの部屋を借りることさえできないという。

シェリアジェンコは、官僚的なお役所仕事と兵役以外の選択肢への差別があり、宗教家でさえ良心的兵役拒否を妨害していると述べた。米国の活動家は、人種、性別、年齢に関係なく、すべての民間人を紛争地域から避難させるよう呼びかけ、紛争をエスカレートさせるような武器をウクライナに持ち込まない援助団体に寄付をすべきだと、彼女は付け加えた。米国主導のNATO連合はすでに軍に多くの武器を供給しており、ウクライナのNATO加盟の可能性が戦争の大きな口実となった。

「平和文化の未発達、創造的な市民や責任ある有権者よりもむしろ従順な徴兵を養成する軍国主義教育は、ウクライナ、ロシア、ポストソビエトのすべての国に共通する問題です」「平和文化の発展と市民としての平和教育への投資なくして、真の平和は達成されないだろう」ととシェリアジェンコは語った。

出典:https://truthout.org/articles/war-is-forcing-ukrainian-leftists-to-make-difficult-decisions-about-violence

(声明)警察法改悪反対、サイバー警察局新設に反対します

以下、転載します。(警察法改悪反対・サイバー局新設反対2・6実行委員会のウエッブから) 団体賛同は3月4日に第二次締め切り


団体賛同を募っています。(詳しくはこちらへ)

1月28日に国会に提出された「警察法の一部を改正する法律案」において、警察庁は新たに「サイバー警察局」の新設と長官官房機能の大幅強化を打ち出し、大幅な組織再編を計画しています。私たちは、以下の理由から、警察法改正案には絶対反対です。

(1) 言論・表現を専門に取り締る警察組織の新設。

「サイバー」領域とは、私たちが日常生活の基盤として利用している電子メール、SNSなどによるコミュニケーションの領域そのものであり、憲法電気通信事業法などで「通信の秘密」が保障されている領域でもあります。また、コミュニケーションの自由は、言論、表現の自由、思想信条や信教の自由の必須条件でもあり、民主主義の基盤をなすものです。このような私たちのコミュニケーション領域は、一般の市民だけでなく報道機関も利用し、選挙など政治活動の場でもあり、医療関係者や弁護士など人権に関わって活動する人々の基盤をなすものです。サイバー警察局は、高度な技術力を駆使して、こうした活動そのものを犯罪の疑いの目をもって捜査対象に据えることになります。

(2) 都道府県の警察の枠組を超えて警察庁が捜査権限を持つことが可能な組織再編。

法案では「サイバー」領域について、警察庁みずからが各都道府県の警察の枠組を超えた捜査権限をもつことを可能にする制度、人事、そして技術力の確保を提案しています。各都道府県警察の権限は大幅に後退することになり、将来、更に「サイバー」以外の分野での警察の中央集権化への道筋をつけるものになりかねません。また、警察庁長官官房が、情報技術に関連する広範囲にわたる権限を持つことになり、技術が重要な役割を果す「サイバー」領域に関しては、民主主義的な検証が行なえず、警察が思いのままに網羅的な監視技術を拡大させうるものになります。戦前の国家警察の反省から生まれた自治体警察の枠組は、事実上骨抜きにされることになるでしょう。

警察はこれまでにわかっているだけでもすでに、被疑者写真約1170万件、指紋1135万件、DNA型141万件など膨大な個人情報収集しています。(204回国会 参議院 内閣委員会2021年5月11日) また捜査機関の民間通信事業者への問い合わせ件数も膨大な数です。(2021年上半期、Lineだけで1,421件の情報開示)しかし、その実態はほとんど明らではありません。そして、人々のコミュニケーションがインターネットのメールやSNSを中心としたものになるなかで、ビッグデータと呼ばれる膨大な個人情報収集の仕組みが普及し、これをAIで解析することによって人々の行動や考え方に影響を及ぼすことができる時代になっています。

こうした時代状況を踏えたとき、法案が意図するサイバー警察局は、私たちの日常的なコミュニケーションを常時監視し、分析し、取り締る言論警察、思想警察あるいはサイバー特高警察と言ってもいいような存在になることは容易に予想できることです。

以上から、私たちは、警察法の一部を改正する法律案に強く反対します。

2022年2月14日

呼びかけ団体:警察法改悪反対・サイバー局新設反対2・6実行委員会(注)

(LeftEast)プーチンのウクライナに対する帝国主義的戦争を非難する

以下は、LeftEastが出した声明の翻訳です。包括的に、左派がとるべきスタンスを端的に提起していると思います。LeftEastは、東欧からロシアの地域を中心に左翼運動と思想の発信メディアとして優れた論評の公開の場となってきました。最近は特にジェンダーの問題にも傾注しています。


LeftEast
2022年2月25日
LeftEastのメンバーは、ウクライナで戦争にエスカレートした暴力的な軍事侵略に愕然としている。これは、この数十年間見られなかった規模の流血に我々の地域を投げ込む恐れがある。私たちは、クレムリンの犯罪的な侵略を明確に非難し、ロシア軍を国際国境まで撤退させることを要求する。私たちは、この戦争を引き起こした米国、NATO、およびその同盟国の責任を忘れてはいないが、現在の状況における明らかな侵略者は、ロシアの政治的・経済的エリートである。私たちは、ロシアの許しがたい帝国主義的なウクライナ侵略を暴露することに努力を傾注するが、NATOのアグレッシブな拡大とウクライナのポスト・マイダン体制もこうした方向に道を開いたのである。革命的精神とウクライナ、ロシア、地域の人民との連帯のもとに、私たちは、今日のモスクワに「ノー!」と言い、将来のモスクワとNATOの間の誤った選択に「ノー!」と言う。私たちは、即時停戦と交渉のテーブルへの復帰を要求する。グローバル資本の利益とその軍事機械は、人民の血の一滴にも値しない。平和と土地とパンを!

「サンクトペテルブルクで発見されたグラフィティ。画像は https://twitter.com/submedia より

私たちは、私たちをこうした状況に導いた、少数独裁資本主義oligarchic capitalism、権威主義的新自由主義、そしてグローバルな反共勢力によって培われた地域反共主義を拒否する。プーチン自身が2月21日の「歴史演説」で「非共産化を望むか?まあ、私たちにはそれがお似合いだ。しかし、よく言われるように、中途半端なところでやめる必要はない。ウクライナにとって本当の非共産化が何を意味するのか、見せる用意がある 」と脅した。今日のクレムリンによる攻撃は、断絶が一気に進んだことを表している。少数の右翼政治家が利益を得ることは確かだが、ほとんどの人にとって、極端なナショナリズムや極右思想は、苦しみと憎しみの連鎖をもたらすだけである。経済的には、この反共産主義が、ロシア、ウクライナ、東欧全域で見られる少数独裁資本主義、そして貧困をもたらした。政治的には、かろうじて国民の代表であるかのように装う政府をもたらした。

私たちは、次のことを強く主張する。

(1) 私たちは、この直接的な戦争行為についてクレムリンの責任を追及する! ロシア国家は、まったく反動的な帝国への郷愁の名において、また、過去と現在の東欧の革命運動によって例示された国際主義的連帯に明確に対抗して、ウクライナに侵攻したのである。プーチンの「偉大なるロシア」ナショナリズムは、東欧の豊かな文化的多様性を否定することによって、国際的地位を獲得しようとする犯罪的かつ無益な試みである。私たちは、この地域のすべてのエスニックコミュニティとともに立ち、すべての人のためのよりよい世界のための闘いを通じた平和的連帯のビジョンを支持する。

(2) 私たちは、この戦争の発端はクレムリンであり、今日の主要な侵略者であると考えるが、この悲惨な状況に対して米国とその多くの同盟国、そして多国籍資本が負っている責任も念頭に置いている。NATOの拡大に対するロシアの懸念についてロシアとの交渉を拒否したことが、ウクライナ政府を含む多くの人々が非エスカレーションを求めたにもかかわらず、戦争の炎を燃え上がらせてしまったのである。パンデミックの後、米国や他の先進資本主義国の経済・政治エリートは、失敗しつつある民主主義の正当性と欧州大西洋「統合」の経済ヘゲモニーから人々の目をそらそうと考えた。彼らは、東欧の人々の犠牲の上に、資本蓄積の活性化を推し進めた。好戦的な敵であり、現代の帝国主義者であるプーチンは、ロシアとウクライナの社会的再生産の悲惨なポスト社会主義とパンデミック関連の危機を利用して、ナショナリズムの感情に火をつけ、古いエスノナショナリズムの紛争から利益を得つつこれを(再)生産するために、今、このようなことをしている。搾取的で拡張主義的な欧州大西洋「統合」は、今や権威主義者にとっての開戦理由となっている。それが、ウクライナで本格的な戦争に発展している。

(3) 私たちは、皮肉にもプーチンと彼の「非共産化」の約束によって具現化された地域的反共産主義を拒否する。彼は羊の皮をかぶった狼のような連帯を左派の一部から得ており、プーチンを「共産主義者」とみなそうとするリベラルな人々がいるが、彼の政府は野党のロシア左翼the Russian Left、反ファシスト、アナキスト、反戦運動を排除し、残忍な扱いをしてきた。しかしまた、決定的に重要なこととして、私たちは、ロシア、ウクライナ、および東欧の小市民的日和見主義的政権において、軍国主義的右翼のレトリックと他人の不幸から利益を得ることを組み合わせて、ナショナリズムと極右思想を育む少数独裁資本主義に基づく反社会的な体制を拒否する。

(4) 私たちは、ここ数年のロシアとウクライナ双方における、いわゆる「非共産化法および非共産化改革decommunization laws and reforms」を拒否する。ロシアとUSA/NATOという私たちにとっての二つの「敵の陣営」は、権威主義的反共主義的新自由主義の道を歩んできた帝国主義・資本主義勢力である。彼らが共有するこの道をウクライナもまた歩んでいるが、とりわけ、新自由主義的労働法、土地へのアクセスを妨げることを目的とした土地「改革」、小農民の追い立て、そしてここ数年の経済・社会政策改革によって証明されているように、人々は搾取や貧困のリスクに極めて脆弱になり、ロシアとウクライナだけではなく地域とグローバル双方に影響を与える前例のない社会経済危機を招いている。
(5) 現在のウクライナ政府を美化して完全に民主的な自由の担い手であるというのと現実は異なり、私たちはウクライナのポストマイダン体制に疑問を投げかけている。すなわち、左翼や野党への弾圧、主要野党の追放、人気のある反政府メディアの封鎖、差別的言語政策、ウクライナの政治・エスニック・文化の多様性を認識し受け入れようとしないこと、過去7年間のミンスク合意への妨害行為などだ。ウクライナの極端な「非共産化」改革もまた、私たちが単に過去の持続不可能な状況への回帰を望むことはできないことを明らかにしている。

(6) 私たちは、人種差別的で軍国主義的な欧州大西洋の統一や、報復主義的なユーラシア主義に救いを求める陣営主義の解決を拒否し、その代りに、ラディカルな社会変革、民主主義、労働者の権力、インクルーシブであること、そして解放のための真の闘いを支持する。

(7)血と貧困と分裂しか予感させないこれらの反動的イデオロギーに対して、私たちは、東欧の革命運動の遺産を支持する。その(多くの)伝統の中で我々は、資本主義、帝国主義、軍国主義に対する闘いと宗教、エスニック、ジェンダー平等の約束を批判的に追及する。この闘いは、ウクライナ人とロシア人、そしてこの地域の歴史的に抑圧されてきたグループ―ロマ、ユダヤ、タタール、移民コミュニティ、女性、性的マイノリティ―にとって、より良い未来への唯一の希望であり、すべての労働者とこの地域で抑圧されている人々との連帯である。この精神に基づき、我々はウクライナとロシアの政治犯への連帯と、両国のラディカルな反資本主義的な民主主義のための運動とその勢力への支持を宣言する。

私たちは、即時停戦、経済的・政治的エリートには影響を与えるが影響を受ける国の労働者や人民には影響を与えない反戦の努力、そして私たちの地域を戦争に巻き込んだ平和プロセスと社会・経済政策における過去の過ちを棚卸しする交渉を求める。私たちは、ウクライナとロシアの反資本主義・反戦運動と連帯する。私たちは、自由民主主義の約束に幻想を抱いていない。階級闘争以外に戦争はない!

私たちは、まだ戦争の影響を受けていない国の同志に、ウクライナや他のすべての紛争地域からの難民を完全かつ人道的に受け入れるよう自国政府に圧力をかけ、平和への道を迅速に描くことを要求し、侵略と好戦的愛国主義によって生活(命)の影響を受けている人々との連帯を表明するよう求めます。私たちには、左翼の国際主義と平和主義の歴史がある。

ウクライナのインフラと市民社会へのサイバー攻撃は人権侵害だ

以下は、EUおよびウクライナのコミュニケーションの権利団体が共同で出した声明の日本語訳(JCA-NET)を転載しました。


ウクライナのインフラと市民社会へのサイバー攻撃は人権侵害だ
2022年2月18日|午後5時19分
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更新日 2022年2月24日 – 私たちは、重要なサービスやインフラに影響を及ぼすサイバー攻撃が続く中、国中の人口密集地を標的としたロシアの大規模な軍事侵攻に耐えているウクライナの人々とともにあります。デジタルの権利侵害はオフラインの暴力を可能にし、エスカレートさせます。人々の安全と幸福に不可欠なデジタルシステムを標的とした計算された攻撃は、容認できるものではありません。

国際社会は、ウクライナの市民社会と最も危険にさらされている人々を支援するために、以下の提言を早急に取り入れる必要があります。ウクライナでデジタルサービスを提供し、機密性の高いユーザーデータを扱うすべての公共および民間事業体は、潜在的なセキュリティおよび人権問題について自社のサービスを早急に見直し、サービスへの予想される影響をユーザーに明確に伝え、この危機の中、そしてウクライナ政府に取って代わるというロシアの明白な意図を考慮して、自社のスタッフや関係者の福利厚生について検討する必要があります。MetaCloudflareを含む技術系企業(日本語)が、ウクライナのユーザーを保護するために、特別なセキュリティ対策を実施し、言語の専門家を含む特別オペレーションセンターを設置する初期の努力を歓迎します。我々は、情報操作や悪用に注意を払いながら、ユーザーがアカウントやデータを簡単にロックダウンまたは削除できるようにし、ネットワーク、アプリ、サービスのセキュリティと回復力を強化するために、技術系企業が迅速に行動を起こすことを奨励します。また、ウクライナ、ロシア、その他の国々の市民社会の声を確実にオンラインに残し、検閲の試みから保護するようプロバイダーに要請しています。


ロシアによる8年にわたるウクライナへの武力侵略と、現在進行中の大規模な侵略の脅威と並んで、ウクライナの重要インフラと市民サービスに対するサイバー攻撃は、人々の人権を危険にさらしています。我々は国際社会に対し、ウクライナとその人権擁護者に対し、人々がサイバー脅威から守られるよう、必要な支援を提供するよう要請します。

ウクライナの重要インフラを標的としたサイバー攻撃は、人々の人権を損なっています。2022年1月13~14日2月15日の直近の攻撃では、二つの大手国立銀行や、新生児の両親の支援からCOVID-19ワクチン接種の証明の提供まで、50以上の公共サービスへのアクセスを人々に提供する電子統治プラットフォームDiaなど、重要公共サービスインフラが標的とされています。サイバー戦争は人権に対する攻撃であり、人々のプライバシー、表現の自由、安全・安心、情報へのアクセスに壊滅的な影響を与えます。サイバー攻撃は、電力網、病院、政府サービスなどの重要なシステムをオフラインにし、緊張を悪化させ、危機を悪化させ、人命を危険にさらす可能性があります。

ジャーナリスト、市民社会組織、人権擁護者標的としたサイバー作戦は特に憂慮すべきものであり、いかなる状況においても禁止されるべきものです。市民の自由、権利、民主主義を守るために活動する個人は、それ自体が重要なインフラであり、しばしば直接サービスを提供し、最も弱い立場の人々のニーズを擁護しているのです。

行動への呼びかけ

国際社会は一丸となって、ウクライナとその人権擁護者に対し、継続的なサイバー脅威への耐性を高めるとともに、過去の攻撃の調査や加害者の責任を追及するための追加支援を行う必要があります。

1. ジャーナリスト、市民社会、人権擁護者への直接支援

ウクライナの市民社会に対して、彼ら自身と彼らのサーバーやデバイス上の機密データを保護し、将来の攻撃を防ぐための技術的手段を提供することが急務となっています。我々は、技術系企業、非営利団体、資金提供者が支援プログラムを拡大し、ウクライナの活動家に無料で安全なVPN、ウイルス対策プログラム、暗号化、DDoS保護、その他の不可欠なデジタルツール、機器、サービスを提供することを強く求めます。

デジタル・セキュリティの支援を必要とする市民社会組織、人権擁護者、ジャーナリストは、アクセス・ナウの24時間365日対応のデジタル・セキュリティ・ヘルプラインhelp@accessnow.org)に接続することができます。

2. 明確で人間優先のサイバーセキュリティ基準の確立と維持

サイバーセキュリティおよびサイバー犯罪の法および規範を推進する国連機関およびその他の国際機関は、その作業において人権を中心に据え、人間中心のアプローチをとり、サイバー攻撃を許可または実行する者を非難すべきです。

来たる第49回国連人権理事会に参加する諸国は、サイバー戦争がウクライナの人権を脅かすものとして非難し、その人権への影響の調査を求め、加害者に責任を取らせる措置を取るべきです。さらに、人権擁護者、偽情報、および関連するテーマに関するすべての決議が、デジタルの権利保護を強化し、監視、検閲、接続の遮断による人権への影響に注意喚起する必要があります。

3. 現在の緊張をエスカレートさせ、利用しようとする企てを阻止すること

ソーシャルメディアプラットフォームやその他のテクノロジー企業は、ロシアとウクライナの紛争における緊張をエスカレートさせることを目的とした偽情報キャンペーンの拡散を防ぐために必要な投資を行う必要があります。

同様に、政策立案者とインターネット・サービス・プロバイダーの双方は、偽情報を口実にインターネットや通信プラットフォームへのアクセス制限を正当化することを控えるべきです。表現の自由や情報へのアクセスを制限することは、不安や不確実な時に弱い立場の人々にとって特に危険をまねき、彼らをさらに危険にさらすだけです。

政府とテクノロジー企業は、現在の緊張状態を利用して破壊的で犯罪的な活動をカモフラージュしようとする不正な行為者からも注意深く守らなければなりません。人権を損なうサイバー攻撃については、たとえ特定の政府関係者に直接起因しない攻撃であっても、きちんと調査することが不可欠であり、これを放置することは全体的な不処罰の環境を助長することになるからです。

署名者

Access Now
Centre for Democracy and Rule of Law
Digital Security Lab Ukraine

出典:https://www.accessnow.org/cyberattacks-ukraine-human-rights/

ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアの政治秩序を不安定にしかねない

以下はTruthoutの論文の翻訳です。



米英の当局者やメディアは、以前からロシアのウクライナ侵攻が「間近に迫っている」と警告している。このような侵攻の見通しがどうであれ、ロシアの政治体制の性格と、侵攻によってそれがどのように変化しうるかという重要な問題を提起しているのも事実である。

投稿者
ヴォロディミル・イシチェンコ著
投稿日
2022年2月21日

米英の当局者やメディアは、以前からロシアのウクライナ侵攻が「間近に迫っている」と警告してきた。そのような侵攻の見通しがどうであれ、ロシアの政治体制の性格と、侵攻によってそれがどのように変化しうるかという重要な問題を提起しているのも事実である。

多くの人が言っているように、仮にロシアがウクライナ軍を破り、ウクライナの大部分(特に南東部と中部)を占領できたと仮定してみよう。問題は、このウクライナの一部をどうするかである。問題は、ロシア軍に対するウクライナの大規模なゲリラ戦の可能性が低いことにあるのではない。問題は、現在のようなロシア国家が、ウクライナ人にも世界にもほとんど何も提供できないことである。

ロシア帝国主義の復活、ドンバス問題を武力で解決しようとするウクライナ、NATOの拡大、ノルドストリーム2(ドイツとロシアを結ぶガスパイプライン)の土台が掘り崩されること、米英の国内政治、あるいはこれらの組み合わせなど、現在のエスカレーションの背景に何があるにせよ、ロシアは、「差し迫った侵略」というメディアのキャンペーンには真の根拠がないと思わせるようなことを現在ほとんど何もしておらず、単にそう言っているに過ぎないのである。

ウクライナに親ロシア政権を樹立すれば、ロシアにとってこれらの問題のいくつかは確実に解決される。しかし、ロシアが軍事侵攻のコスト(後述するものもある)を負担する用意があるとか、現在進行中のエスカレーションがそうした試みの一環であると考えるべきでもないだろう。しかし、ロシアは、その強圧的な外交戦略の中で実際に何を計画していのるかにかかわらず、侵攻が可能であるとの信念を広めたいと考えているようだと認識することはできる。

ウクライナでゲリラ戦が起こりそうにない理由

最近の世論調査によると、ウクライナ人の33%がロシアが介入してきた場合に武力抵抗する用意があり、さらに22%が非暴力抵抗に賛成しているという。しかし、この2つの数字は懐疑的に見るべきだろう。

第一に、他の世論調査でも、ロシアの侵攻を防ぐために生活の質を犠牲にする覚悟のあるウクライナ人はそれほど多くないことが示されている。例えば、11月末の調査では、ウクライナ国境沿いのロシア軍増強の可能性に対応するための戒厳令の発動を支持する市民は33%にすぎず、58%が反対している。

第二に、このような世論調査の結果は、市民の公言する意図を示すだけで、実際の行動を予測することはできない。多くの人は、愛国者や「本物の男」から社会的に期待される回答をする傾向がある(「もちろん、戦うさ、俺はシシーじゃない!」)。例えば、2014年4月に行われた世論調査によると、ウクライナ南東部にロシア軍が侵攻した場合、(西部よりも親ロシア的な)南東部の住民の21%が「武装抵抗の準備がある」と回答している。しかし、この数百万人のうち、直後にドンバスで戦争が始まったときに戦場に行ったのはごく一部である。

ロシアはウクライナを占領することで、ロシア国内からの不安定化のリスクを高め、自らを弱体化させることになる。世論調査によれば、ウクライナとの大規模な戦争はロシア人の間で人気がない。

現在、英米圏のメディアの出版物は、ウクライナ人(女性子供を含む)がロシア軍と戦う準備ができているように描いているが、ほとんどのウクライナ人の現実をうまく表現していない。本当に戦うのはごく少数の人々だけである。軍や警察の残党、ドンバスですでに戦った退役軍人や志願兵の一部、そして右翼の過激派(悪名高いアゾフ運動Azov movementなど)であろう。ロシア軍に対する彼らの抵抗は、もちろん、アフガニスタンほど強くはないが、2014年以降の分離主義的なドンバスほど弱くはないだろう。しかし、その抵抗は、親ロシアのウクライナで確立された政治体制を、旧ソ連全体で最も抑圧的なもののひとつにするのに十分なものであるだろう。

親ロシアのウクライナで何が起こるか?

さらに、仮に親ロ政権が誕生した場合、ウクライナの人々の間ではその権力の正統性が低くなることが予想される。政府は直ちに西側の制裁下に置かれるため、西側であまり財産を持っていない人々から形成される必要がある。ウクライナの政治エリートには、あまり選択肢がない。したがって、新政府はユーロマイダン革命で解任された一部の古参幹部(一部はロシアに去ったが、多くはウクライナに残った)とマージナルな政党の代表で構成されることになるだろう。英国外務省が最近発表した親ロ派政権の可能性リストは、本格的な計画とは言い難いが、ロシアがウクライナに忠実な政府を形成する上でどのような問題に直面するのかを示している。

当初は受動的であった人々は、より多くの弾圧を受け、西側の制裁によってさらなる困難に直面する可能性がある。ここに、正統性に乏しい新政府が加わる。親ロシア派政府に対する主な抵抗勢力は、おそらく武装しておらず、非武装であろう。その基盤は大都市の中産階級であり、彼らの状況は最も急激に悪化する可能性が高い。

同時に、ウクライナはロシアやベラルーシと同じ政治空間に入り込み、これらの国の政府に対する国内の反発を実際に強めるだろう(孤立したものではなく、以前の暴力的でナショナリストのユーロマイダンEuromaidanの抗議行動で起こったように)。ロシアはウクライナを占領することで、内部からの不安定化のリスクを高め、自らを弱体化させるだろう。世論調査は、ウクライナとの大規模な戦争はロシア人の間で人気がないことを示唆している。

占領によってどの社会集団が利益を得るのか、親ロシア派政府は誰に頼ることができるのか、明確ではない。数千万人のウクライナ人の生活水準を向上させることで、制裁や弾圧の影響を相殺するロシアの能力は非常に限られている。併合されたクリミアでは賃金や年金が引き上げられ、ロシアは半島に多額の投資を行っているが、一般的な経済状況はまだロシアの最貧地域と同程度である。親ロシア派のウクライナを想定した場合、何らかの上辺だけにせよ社会的正統性を確保するために必要な資源の動員や抜本的な再分配は、ポストソビエト・ロシアの利益供与型資本主義とは相容れないものであろう。

米国政府関係者の中には、プーチンがソビエト連邦を復活させようとしていると懸念する者もいる。しかしそのためには、軍事的な拡大以上に、現代ロシアを根本的に変革する必要があることを、彼らは概して無視している。

受動革命?

左翼の論評の中には、ポスト・ソビエトの変容を受動革命の事例として説明しようとする者もいる。この言葉は、イタリアのマルクス主義者アントニオ・グラムシによって有名になった。グラムシはこの言葉をさまざまなプロセスに使ったが、とりわけ、19世紀に外国王朝の支配下にあった小国や領土の寄せ集めからイタリアを統一した「リソルジメント」に対して用いた。周知のように、これは進歩的なブルジョアジーの覇権の下での民衆革命としてではなく、サルデーニャ・ピエモンテ王国の軍事・外交行動によって行われたのである。プーチンは今、利益供与的なブルジョアジーとソビエト連邦の再統一を夢見る左翼運動の政治的弱さを軍事力で補って、ポストソビエト空間において「ピエモンテの機能」を果たしているというのだろうか。

ウクライナを占領する試みは、ロシアの支配階級に、その支配を不安定にする高いリスクを冒すか、その基盤を根本的に見直すかの選択を迫るものであろう。

受動革命とは根本的な違いがいくつかある。イタリアでは、受動革命によって、より強力で近代的な独立国家が誕生した。ブルジョア秩序と国民国家への移行が行われた。革命的な変革は、(フランス革命のときのように)「下から」の封建貴族に対するジャコバン派の革命的な脅威を防ぐために「上から」行われた。

問題は、新たな「ジャコバン」的社会革命の脅威のもとでの強制的近代化という意味での、ポスト・ソビエトの受動革命が存在しないことである。ポスト・ソビエトの変容は、実はソビエト連邦崩壊のずっと前に始まっていた進行中の危機なのである。これらの変革は、実は、近代化ではなく、停滞と脱近代化のシグナルなのである。ポスト・ソビエトのマイダン革命は、ポスト・ソビエトの支配階級である利益供与型資本家を脅かすものではなく、その階級の一派が別の派閥に取って代わることを助けたに過ぎないのである。

「文明的」アイデンティティ政治

今のロシアの問題は、「ソビエト帝国」を復活させようとしていることではない。問題は、ロシアが大国外交を行おうとしているが、もはやソ連ではないことである。

かつてソ連を信じる人が少なくなったとしても第三世界や大衆運動を味方につけ、東欧のように力ずくで近代化に成功した国ですら大きなノスタルジアを呼び起こした普遍的な進歩的プロジェクトは、今のロシアには存在しない。今、ロシアは「ソフトパワー」の魅力不足を、強圧的な外交という「ハードパワー」で補っている。

これは、ロシアの悪名高い 「事なかれ主義 」と関係がある。相手に対して自分が持っている優位性を明確にすることが困難な場合、人は、自分がクラブの他の皆と同じ「権利」を持っているとされる否定的な特性や行動のノーマライゼーションに頼ろうとする。例えば、クリミア併合を正当化するのは、それ以前にNATOがユーゴスラビアを空爆し、コソボの独立を認めたからである。これは、ポストソビエトのヘゲモニーの危機がいまだ解決されていないことの表れであり結果である。真に覇権的な支配のためには、「彼らは我々より劣っている」と言うだけでは不十分である。”我々は確かに彼らより優れている “と納得させることが決定的に重要なのである。

2021年春のロシア・ウクライナ間のエスカレーションを受けたジュネーブでのプーチン・バイデン首脳会談後、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、欧米列強による「国際ルール」の選択的適用を批判する論文を発表した。ラブロフによると、「ルール」は恣意的であり、少数の国によって確立されたものだという。国際法に基づくものではなく、国連などの場で議論されてもいない。この批判を、ラブロフは 「民主主義 」という言葉で言い表している。西側諸国は「内なる」民主主義の侵害には敏感だが、ロシアをはじめとする非西側諸国の主権と国家イデオロギーに対する権利を認めるような「外なる」国際民主主義は望んでいないと主張した。欧米は多極化する世界の現実を認識していない、と書いている。プーチンと習近平が署名した最近の共同声明も、基本的に同じ論旨で始まっている。

しかし、ここでラブロフが主張しているのは、民主主義ではなく、一種の「文明」的なアイデンティティ・ポリティクスである。西欧覇権下の世界とは対照的な多極化した世界を認めるべきという要求には、ロシアがより良く代表するような人類のための何らかのポジティブなプロジェクトに基づいていないのである。むしろラブロフは、もっぱらその明確なアイデンティティの主張に基づいて国際レベルで受け入れられ、対等に扱われる文明的アイデンティティに訴えるという自らに割り当てられた役割への権利を要求したにすぎない。

ロシアはウクライナと世界に何を提供できるのか?

昨年夏、プーチンはウクライナとロシアの歴史と関係に関する有名な論文を発表し、ウクライナ人とロシア人は “一つの同じ民族 “であると主張した。ロシア語やウクライナ語で “people “は、文化的に異なるエスニックグループと政治的な国民の両方を意味する言葉である。この論文は、プーチンがウクライナの主権を認めず、侵略の脅威を正当化したものと解釈されることが多い。しかし、これは誤解を招きやすい単純な解釈である。プーチンは、ロシアとウクライナの望ましい関係は、ドイツとオーストリアのような関係であり得ることを示唆している。プーチンの構想では、ウクライナとロシアは「同じ国民」の2つの国家であり、複雑な歴史的経緯から別々ではあるが、異なるバージョンの地域文化的アイデンティティを表現し、平和的に共存することが可能だとする。

しかし、これは「同じ国民」の2つの国家の唯一可能なモデルではなく、プーチン自身が東ドイツでどれだけ長く働いたかを考えると、おそらく最も自明なモデルではないだろう。驚くべきことに、彼はロシアとウクライナの関係を、ドイツ連邦共和国(FRG)とドイツ民主共和国(GDR)の関係のように明確にはしていない。プーチンの語り方では、ウクライナ人とロシア人は、外国勢力によって人為的に分断された「同じ国民」なのだ。彼は「A」とは言うが、「B」とは言わない。「同じ国民であれば、我々の国家の方が優れている。我々はより良いモデルを提供し、最も強い者が生き残るようにする」。プーチンがこれを言わないのは、ウクライナの主権を認めているからではなく、ウクライナの略奪的寡頭制エリートや民族主義的市民社会よりも根本的に優れたモデルを提示できないからだ。

多くの人が、ロシアが国際秩序を修正しようしていると非難している。実際には、ロシアの報復主義は修正主義ではなく、現状維持のための保守的な防衛策であり、大国の地位にしがみつこうとする試みである。ここに、現在のロシアのレトリックが国際的にアピールする限界がある。世界は、現状維持よりも、変化と世界的な大問題の解決を必要としている。

プーチンは昨年のバルダイ・クラブ Valdai Clubでの演説で、自らのビジョンを「健全な保守主義」と表現し、「後退し、混沌に沈むことを防ぐ」ことを第一義に掲げたことが話題になった。しかし、ロシアの「文明」だけでなく、人類全体の普遍的な価値観について問われると、非常に簡潔かつ曖昧な表現にとどまった。

ウクライナ占領の試みは、ロシアの支配階級に、その支配を不安定にする高いリスクを取るか、その基盤を根本的に見直すかの選択を迫ることになる。今のところ、彼らが第二のシナリオに対応する準備ができている兆候はない。しかし、この危機がどのように終結しようとも、核世界戦争に発展する直前で、ロシアの大国としての主張と後進的な政治・社会秩序との間の緊張を高めることになるだろう。

著作権、Truthout.org。許可を得て転載。

Volodymyr Ishchenko ベルリン自由大学東欧研究所の研究員。抗議行動と社会運動、革命、急進的な右翼と左翼の政治、ナショナリズムと市民社会を中心に研究している。現代ウクライナ政治、ユーロメイダン蜂起とそれに続く2013年から14年にかけての戦争に関する多くの査読付き論文やインタビュー記事を執筆し、Post-Soviet Affairs, Globalizations, New Left Reviewなどのジャーナルに掲載された。2014年以降、The GuardianやJacobinなどの主要な国際メディアへの寄稿も目立つ。共著『マイダン蜂起、ウクライナにおける動員、急進化、革命、2013-2014年』(原題:The Maidan Uprising、Mobilization, Radicalization, and Revolution in Ukraine, 2013-2014)を執筆中。

出典:https://truthout.org/articles/a-russian-invasion-of-ukraine-could-destabilize-russias-political-order/

普通のロシア人はこの戦争を望んでいない

以下はJacobinの記事の翻訳です。


02.24.2022

イリヤ・マトヴェーエフ イリヤ・ブドレイツキス
ウラジーミル・プーチンはウクライナへの侵攻を開始し、自軍がウクライナの抵抗を制圧できると考えているようである。しかし、この攻撃はプーチンの政権を大きく揺るがしかねない。ロシア人はすでに、戦争に対する熱意を著しく欠いているのだ。

ロシアが昨夜、ウクライナを攻撃した。最悪の事態が確認された。侵略の程度は完全に把握されていないが、ロシア軍が南東部(いわゆる「人民共和国」の国境沿い)だけでなく、国中のターゲットを攻撃したことはすでに明らかである。今朝、各都市のウクライナ人は爆発音で目を覚ました。

ウラジーミル・プーチンは、この作戦の軍事目的、すなわちウクライナ軍の完全降伏を明確にしている。政治的な計画はまだ不明だが、おそらくキエフに親ロシア政権を樹立することを意図している可能性が高い。ロシア指導部は、抵抗はすぐに打ち破られ、ほとんどの一般ウクライナ人は新政権を忠実に受け入れると想定している。ロシア自身への社会的影響は明らかに深刻である。すでに午前中、欧米の制裁が発表される前から、ロシアの証券取引所は崩壊し、ルーブルの下落はあらゆる記録を更新している。

昨夜のプーチンの演説は、戦争の開戦を宣言したものであり、帝国主義と植民地主義の隠しようもない言葉があらわだ。その意味で、20世紀初頭の帝国主義国家のように公然と発言しているのは、彼の政府だけである。クレムリンはもはや、NATOの拡大さえも含む他の不満の陰に、ウクライナに対する憎悪と懲罰的な「教訓」を与えたいという願望を隠すことはできない。これらの行動は、合理的に理解される「利益」を超えて、プーチンが理解する「歴史的使命」の域にある。

2021年1月にアレクセイ・ナヴァルヌイが逮捕されて以来、警察と治安当局はロシアにおける組織的な反対派を本質的につぶしてきた。ナヴァルヌイの組織は「過激派」とみなされて解体され、彼を擁護するデモは約1万5000人の逮捕者を出し、ほとんどすべての独立系メディアは閉鎖されるか「外国のエージェント」の烙印を押されて、その活動が厳しく制限された。戦争に反対する大規模なデモは起こりそうにない。それを調整できる政治勢力はなく、一人ピケを含むいかなる路上抗議行動への参加も、迅速かつ厳しく罰せられる。ロシアの活動家や知識人は、この出来事にショックを受け、意気消沈している。

ひとつ心強い兆候は、ロシア社会で戦争への明確な支持を見出すことができないことだ。最後の独立系世論調査機関であるレバダ・センター(ロシア政府から「外国人工作員」の烙印を押された)によれば、ロシア当局によるドネツクとルガンスクの「人民共和国」の公式承認を支持しないロシア人は40%、支持するロシア人は45%である。「国旗の周りに結集する」兆候は避けられないが、主要メディアソースを完全に掌握し、テレビでプロパガンダ的なデマゴギーを劇的に展開しているにもかかわらず、クレムリンが戦争への熱意を煽ることができないのは驚くべきことである。

2014年のクリミア併合に続いて起こった愛国的な動員のようなものは、今日では何も起こっていない。この意味で、ウクライナ侵攻は、クレムリンの対外的な侵略は常に国内での権力の正統性を支えることを目的としているという定説を否定するものだ。それどころか、むしろこの戦争は政権を不安定にし、「2024年問題」(ロシアが次に大統領選を行う際に、プーチンの再選を説得力のある形で示す必要性)があるため、その存続さえある程度脅かすことになるだろう。

世界中の左派は、「ロシアのウクライナ侵攻にノー」というシンプルなメッセージのもとに団結する必要がある。ロシアの行動は正当化できない。ロシアの行動は苦しみと死をもたらす。この悲劇の時代に、私たちはウクライナとの国際的な連帯を呼びかけます。

著者について
イリヤ・マトヴェーエフIlya Matveev:ロシアのサンクトペテルブルグを拠点とする研究者、講師。Openleft.ruの創設編集者であり、研究グループPublic Sociology Laboratoryのメンバーでもある。

イリヤ・ブドレイツキーIlya Budraitskisは、モスクワを拠点とする左翼の政治批評家。
https://jacobinmag.com/2022/02/ordinary-russians-war-outbreak-ukraine-vladimir-putin

ウクライナでネオナチの宣伝に協力する欧米メディア

以下はFairの記事の翻訳です。

FEBRUARY 23, 2022

JOHN MCEVOY

BBC image of a young boy receiving weapons training from a neo-Nazi brigade
ネオナチ旅団から武器訓練を受ける少年のBBC画像

商業メディアが戦争を推進するとき、彼らの主要な武器の一つは、省略によるプロパガンダである。

最近のウクライナ危機の場合、西側ジャーナリストは、冷戦終結後のNATOの拡大や、2014年のマイダンクーデターに対する米国の支援に関する重要な文脈を省略している(FAIR.org、1/28/22)。

省略によるプロパガンダの3つ目の重要なケースは、ネオナチのウクライナ軍への統合に関するものだ(FAIR.org、3/7/141/28/22)。もし企業メディアが、ネオナチが入り込んだウクライナの治安機関に対する西側の支援や、これらの部隊がアメリカの外交政策の最前線の代理人として機能していることについてもっと批判的に報道すれば、戦争に対する国民の支持は減り、軍事予算はもっと疑問視されるかもしれない。

最近の報道が示すように、この問題を解決するひとつの方法は、ウクライナのネオナチという不都合な事柄にまったく触れないことである。

アゾフ大隊

MSNBC: Growing Threat of Ukraine Invasion
アゾフ大隊のナチスをイメージしたロゴは、MSNBCの番組で見ることができる(2/14/22)。

2014年、アゾフ大隊はウクライナ東部の親ロシア派分離主義者との戦闘を支援するため、ウクライナ国家警備隊(NGU)に編入された。

当時、この民兵がネオナチズムと関係していることはよく知られていた。部隊のロゴにはナチスを連想させる「ヴォルフス天使」のマークが使われ、兵士の戦闘ヘルメットにはナチスの記章が付けられていた。2010年、アゾフ大隊の創設者は、ウクライナは「世界の白色人種を率いて、セム人主導のUntermenschenに対する最後の十字軍を行うべきだ」と宣言している。

アゾフ大隊は現在、NGUの正式な連隊であり、ウクライナ内務省の権限のもとで活動している。

「銃を持ったおばあさん」

London Times: Leaders in Final Push to Avert Ukraine Invasion
79歳の女性に突撃兵器の使い方を訓練している人々(ロンドンタイムズ、2/13/22)がファシスト勢力のメンバーであることを指摘すれば、この画像の心温まる側面が損なわれてしまうだろう。

2022年2月中旬、ウクライナをめぐる米露間の緊張が高まる中、アゾフ大隊は港町マリウポルでウクライナの民間人向けに軍事訓練コースを開催した。

AK-47の扱いを学ぶ79歳のウクライナ人、ヴァレンティナ・コンスタンティノフスカの映像は、すぐに欧米の放送・印刷メディアで紹介された。

祖国を守るために並ぶ年金生活者の姿は、感情的なイメージとなり、紛争を単純な善と悪の二元論に陥れ、即時の全面的なロシア侵攻を予想する米英の情報機関の評価に重みを与えた。

このようなストーリーは、彼女を訓練しているネオナチ・グループに言及することによって台無しになることはなかった。実際、アゾフ大隊についての言及は、このイベントの主要な報道からほとんど消されていた。

例えばBBC(2/13/22)は、「市民が国家警備隊との数時間の軍事訓練に並ぶ」という映像を流し、国際特派員のオーラ・ゲリンがコンスタンティノフスカを「銃を持ったおばあさん」とかわいらしく表現している。報告書にはアゾフ大隊の記章が見えるが、ゲリンはそれについて何も言及せず、報告書はNGUの戦闘員が子供に弾倉を装填するのを手伝うという変な形で終わっている。

BBC depiction of a boy learning how to load ammo
BBC (2/13/22)は、弾薬の装填方法を教わる少年を描いているが、この訓練が極右準軍事組織のスポンサーであったことには触れていない。

BBC (12/13/14))は、アゾフ大隊のネオナチズムについて報じることにいつもそれほど消極的だったわけではない。2014年、同放送局は、そのリーダーが 「ユダヤ人やその他の少数民族を『人間以下』とみなし、彼らに対する白人のキリスト教十字軍を呼びかけている 「と指摘し、「その記章には3つのナチスのシンボルがある 」と述べていた。

MSNBC (2/14/22) と ABC News (2/13/22) もマリウポリから報道し、アゾフ大隊の隊員がコンスタンチノフスカにライフルの使い方を教えている同様のビデオ映像を見せた。BBCと同様、連隊が極右団体であることについては言及されていない。

Sky Newsは最初の報道(2/13/22)を更新し、「極右」の訓練生について言及した(2/14/22)。Euronews(2/13/22)は最初の報道でアゾフ大隊についてまれに言及した。

「ナチズムの賛美」

Telegraph: Ukraine Crisis: The Neo-Nazi Brigade Fighting Pro-Russian Separatists
欧米の報道機関(デイリー・テレグラフ、8/11/14)が、アゾフ大隊を写真撮影の材料ではなく、ネオナチ勢力として認識していた時期もあったのである。

新聞はややましであった。2月13日、英国の新聞「ロンドン・タイムズ」と「デイリー・テレグラフ」は、一面見開きで、コンスタンチノフスカが武器を準備している様子を掲載したが、アゾフ大隊が訓練コースを運営していることには全く触れなかった。

さらに悪いことに、タイムズとデイリー・テレグラフの両紙は、民兵のネオナチとの関連についてすでに報じていた。2014年9月、タイムズ紙はアゾフ大隊を「重武装した男たちの集団」とし、「少なくとも1人はナチのロゴを付けて…マリウポルの防衛に備える」とし、その集団が「白人至上主義者によって結成された」と書き加えた。一方、デイリー・テレグラフ紙は、2014年にこの大隊を 「親ロシア分離主義者と戦うネオナチ旅団 」と表現している。

NATOの最近のウクライナ防衛の姿勢に照らせば、アゾフ大隊のネオナチの事実は不都合になったようだ。

2021年12月16日、「ナチズムの美化」を非難する国連決議(訳注)に、米国とウクライナだけが反対票を投じ、英国、カナダは棄権した。この決定は、ウクライナ紛争を念頭に置いたものであることは疑いようがない。

欧米の軍国主義の教義では、敵の敵は味方である。そして、その友人がネオナチを参加させたとしても、西側企業のメディアは見て見ぬふりをすることができるのである。

出典:https://fair.org/home/western-media-fall-in-lockstep-for-neo-nazi-publicity-stunt-in-ukraine/

訳注 国連総会決議の該当箇所は以下。

(前略)

次に総会は、2つの決議案を含む「人種主義、人種差別、外国人排斥及び関連する不寛容の撤廃」に関する報告書を取り上げた。

そして、賛成130、反対2(ウクライナ、米国)、棄権49の記録票により、総会は決議案I「ナチズム、ネオナチズム、その他現代的形態の人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容を助長する慣習の美化の禁止」を採択した。

この規定によって、総会は、記念碑や記念館の建立、ナチスの過去、ナチス運動、ネオナチズムの賛美の名による公的デモの開催、こうしたメンバーや反ヒトラー連合と戦い、ナチス運動と協力し戦争犯罪や人道に対する罪を犯した人々を「民族解放運動の参加者」と宣言したり宣言しようとすることなどによって、ナチスの運動、ネオナチズム、ヴァッフェンSS組織の元メンバーの賛美について深い懸念を表明している。

さらに総会は、立法を含むあらゆる適切な手段によってあらゆる形態の人種差別を撤廃するよう各国に求め、人種差別、外国人排斥およびその他の形態の不寛容によって、あるいは宗教または信念の名において扇動されたテロ攻撃の増加によってもたらされる新たな脅威および新興の脅威に対処するよう促した。 また、教育制度が、歴史について正確な説明を提供し、寛容とその他の国際的な人権原則を促進するために必要な内容を発展させることを保証するよう、各国に求めるものである。 また、ホロコーストを否定したり、否定しようとしたりすること、および、民族的出身や宗教的信条に基づく個人や共同体に対する宗教的不寛容、扇動、嫌がらせ、暴力のいかなる表明も、留保なしに非難する。

(後略)

プーチンのウクライナ侵攻に抗議するロシア人1000人以上逮捕

以下はCommon Dreamsの記事の翻訳です。


プーチンのウクライナ侵攻に抗議し、1000人以上のロシア人が逮捕された。「これは前例のない残虐行為であり、いかなる正当化もできない」とロシア全土の都市から約200人の関係者が発言した。

ジェシカ・コルベット

2022年2月24日
ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナへの侵攻を批判する人々は、木曜日に公開書簡を寄せ、ロシアの街頭に出て、現在進行中の空と地上からの攻撃に抗議し、1000人以上の逮捕者を出す結果になった。

ロシア国内外での抗議は、モスクワがロシアの攻撃で少なくとも「ウクライナの軍事インフラの地上施設74カ所」が破壊されたと主張したことから起こった。

36歳のコンピュータープログラマー、ドミトリーは、ロシアの首都でモスクワタイムズに語った。「何もいいことはありません。戦争ではなく、合意形成が必要なのです」。

イリヤ・マトヴェーエフとイリヤ・ブドレイツキーは、Jacobin誌(注)でロシア人の戦争への支持はないと指摘した。
(注)Jacobinの記事 https://jacobinmag.com/2022/02/ordinary-russians-war-outbreak-ukraine-vladimir-putin

「一つの心強い兆候は、ロシア社会で戦争に対する明確な支持が見られないことだ。最後の独立系世論調査機関であるレバダ・センター(Levada Center ロシア政府から「外国人工作員」の烙印を押されている)によれば、ロシア当局によるドネツクとルハンスクの「人民共和国」の公式承認を支持しないロシア人が40%、支持するロシア人が45%である。」

「国旗の周りに結集するいくつかの兆候は避けられないが、主要なメディアソースを完全にコントロールし、テレビでプロパガンダ的なデマゴギーを劇的に流しているにもかかわらず、クレムリンが戦争への熱意を煽ることができないのは驚くべきことだ 」と二人は述べている。

タイムズ紙は、「戦争に抗議する単独ピケット-基本的にロシアで唯一の合法的な公的抗議の形態が、南部の都市トリヤッティから極東の都市ハバロフスクまで行われた」と報じている

独立監視団体OVD-Infoは木曜日、モスクワで午後11時半の時点で、ロシアの数十の都市で少なくとも1705人が拘束されたとツイートしている。

ロシアでの抗議行動とそれに伴う逮捕の映像は、ソーシャルメディア上で流れた。

英国のITVニュースのエマ・バローズは、ロシアの首都の警察の映像を共有し、「今夜のモスクワは恐怖と悲嘆に満ちている」とツイートした。

ガーディアン紙のモスクワ特派員アンドリュー・ロスは、ジャケットに「No to war」と書いた人と「Fuck war」と書いたプラカードを掲げた人の写真と、それで逮捕された2人目の男性のビデオを投稿した。

テレグラフ紙のモスクワ特派員ナタリア・ワシリエヴァも同様に、警察が路上で「No to war」と叫ぶ人々を捕まえていると述べている。

ワシリエヴァは、ロシアがウクライナに侵攻する少し前の水曜日、逮捕者と抗議行動について報じた。水曜日の午後、モスクワのプーシキンスカヤ広場で行われたデモで、少なくとも6人が拘束され、その中には45歳の小児科医、グリゴリー・シェヤノフも含まれていた。

「私はロシアの軍国主義的な姿勢に反対だ。私は平和のために出てきたのです」「今起きていることは、大きな戦争への準備です」とシェヤノフはテレグラフ紙に語った。

プーチンは木曜日未明、ドネツク(DPR)とルガンスク(LPR)の自称人民共和国を、それらの領土における親ロシア分離主義者とウクライナ軍との長年の紛争の後に承認し、ウクライナの軍事攻撃を発表した。

若者主導の気候変動運動「Fridays for Future」のロシア部門は、木曜日に一連のツイートで、「私たちFFFロシアの活動家は、いかなる軍事衝突にも反対する 」と明言したのである。

「私たちは血と死と関わりたくない。私たちや私たちの友人にとって、そんなことは決して望んでいないからだ。政府の行動は私たちの行動ではありません」と同団体は述べている。「未来のロシアのための金曜日 “は、国家のプロパガンダによっていかに “公平 “に描かれていようと、いかなる軍事行動にも常に反対し、現在も、そしてこれからも反対し続けるでしょう。戦争は公平ではありません。」

モスクワタイムズ紙は、ロシアの有名人や記者などの公人も戦争に反対の声を上げていると指摘した。その中には、プーチンの「不公平で率直に言って意味のない」軍事行動に対する公開書簡に署名した150人以上のロシアの科学者や科学記者も含まれている。

この書簡には、「ロシアは戦争を始めることで、自らを国際的な孤立とならず者国家の地位に追いやった」とあり、「ロシアの世界からの孤立は、我が国の文化と技術のさらなる劣化を意味する」と警告している。

ロシアの各都市の200人近い自治体議員が署名した別の公開書簡には、「我々、国民に選ばれた代議員は、ロシア軍によるウクライナへの攻撃を無条件に非難する 」

「これは前代未聞の残虐行為であり、いかなる正当化もできない 」「ロシアでの楽しい生活への希望が、目の前で崩れていく」と、自治体議員の書簡は付け加えている。

ノバヤ・ガゼタ編集長で2021年のノーベル平和賞受賞者ドミトリー・ムラトフは、プーチンが北大西洋条約機構(NATO)加盟国や介入しようとする国々に向けた核の脅威を薄く隠していると多くの人が見ていることを強調した。

最高司令官は、高価な車のキーホルダーのように『核のボタン』を手に回している」「次の一手は核の一斉射撃か?」とムラトフは言う。

「プーチンの報復兵器に関する言葉を、私は他の方法で解釈することはできない。ロシア人の反戦運動だけが、この星の生命を救うことができるのだ」

この記事は、より最近の抑留者の数字を加えて更新されました。

出典:https://www.commondreams.org/news/2022/02/24/over-1000-russians-arrested-protesting-putins-ukraine-invasion?vgo_ee=OgoL22C6mDv9LersUhXCjwA3SuMkJhmkGexv49sZvNU%3D

ウクライナ駐在の英国司令官がネオナチとつながりのある国家警備隊と会い、「軍事協力を深める」ことに

以下はDeclasifiedの記事の翻訳です。


ウクライナ駐在の英国司令官がネオナチとつながりのある国家警備隊と会い、「軍事協力を深める」ことになった。
ウクライナ国家警備隊によると、英国軍は昨年の会合で、1000人規模のネオナチ部隊を含む同軍の訓練を開始することに同意したという。英国国防省はこれに反論している。

MATT KENNARD

2022年2月15日

British commanders (left) meet with senior officials from Ukraine’s National Guard in Kyiv, September 2021. (Photo: NGU)
2021年9月、キエフでウクライナ国家警備隊の高官と会談する英国人指揮官(左)。(写真:NGU)
  • 昨年キエフで行われた会議の写真-英国職員は非公開だと思っていた-がウクライナ国家警備隊(NGU)によって投稿された。
  • 英国国防省は、NGUを訓練する計画はなく、英国人指揮官は誤った引用であったとDeclassifiedに語った。
  • しかし、英軍はNGUに関与しており、「(NGUの)戦闘活動の特殊性」を認識している。
  • 2020年、別の極右ウクライナ人グループのメンバーらしき人物がサンドハーストで訓練を受ける

首都キエフでの会談の詳細と写真は、昨年、ウクライナ国家警備隊(NGU)のウェブサイトにウクライナ語で掲載された。

Declassifiedは、英国国防省(MoD)が2021年9月の会合は非公開であり、公表されるべきではないと考えていたことを理解している。公開されている英国の記録には、この会議についての記載はない。

ウクライナにおける英軍の訓練任務であるオービタル作戦の英国人指揮官3人が、NGUの将校3人と並んで写っている。彼らはテーブルを囲んでメモを取っている。

MoDは、作戦上および人的安全上の問題を理由に、会議に出席した英国人職員の氏名をDeclassifiedに伝えることを拒否している。

しかし、NGUの報告書には、オービタルの副司令官であるアンディ・コックス中佐の名前があり、他に2人の英国人将校が写っており、1人は名札を目立つようにつけている。

2015年に発足したOrbitalは、これまでウクライナの正規軍のみを訓練してきた。国家警備隊に拡大することは、その一部の部隊に極右へのシンパ存在するというセンシティブな問題から、議論を呼ぶだろう。

Neo-Nazi insignia on the helmets of Azov fighters in eastern Ukraine. (Image: ZDF)
ウクライナ東部のアゾフ戦闘員のヘルメットに描かれたネオナチの記章。(画像:ZDF)

NGUは、ウクライナ東部で親ロシア派の分離主義者と戦ってきた準軍事的な大隊やボランティアの大隊を取り込んで、2014年に結成された。その中には、1000人の兵士を擁すると報じられているネオナチ部隊「アゾフ大隊」も含まれていた。

現在ではNGUの正式な連隊であり、したがってウクライナ内務省の一部である。アゾフの戦闘員は、ヘルメットに鉤十字やSSルーン文字などのナチの記章をつけてウクライナ東部で写真に撮られている。

この大隊の創設者は、ウクライナは「世界の白色人種を率いて、セム人主導のUntermenschen(亜人)に対する最後の十字軍を行うべきだ」と語っている

「戦闘能力を発展させる」

NGUの報告書は、コックス中佐の言葉を引用している。「英軍は、ウクライナ軍の部隊が戦闘能力を開発するために今日行っている訓練活動に、ウクライナ国家警備隊の代表者を参加させる用意がある 」と約束している。

「現在、ウクライナ国家警備隊との防衛作戦や幕僚の仕事に関する訓練を検討している」とコックスは付け加えている。

そして「我々は、ウクライナ軍のいくつかの部隊で英国の教官がすでに行っている訓練活動にNGUの代表を含めることでこの作業を開始する予定だ」とも述べている。

しかし、MoDはDeclassifiedに対し、NGUの訓練を開始する計画はなく、Coxはおそらく翻訳ミスによつて誤まって引用されたと述べた。

国防総省の広報担当者はDeclassifiedに「英国はウクライナ国家警備隊と訓練を行っていない。この会議は、オービタル作戦に派遣された職員とウクライナの政府組織との間で、相互理解を深めるために定期的に行われたものである」と語った。

2021年9月に行われた英国軍司令官とNGUのキエフ会談の写真。(写真:NGU)

「戦闘作戦の特殊性」

しかし、9月の会合は、英軍とNGUの重要な交戦となるようだ。

報告書によると、英国の指揮官は「ウクライナ国家警備隊の創設の歴史、任務、構造」、「NGU部隊の戦闘作戦の特殊性」、さらに「国家の安全保障と防衛部門における役割と位置づけ」を熟知していたという。

NGUは、「ウクライナ国家警備隊は、イギリス軍との軍事協力を深める」というタイトルで、この会議の報告書を発表している。さらに、「会談の目的は、さらなる軍事協力の拡大について議論することであった」とも書かれている。

NGUには他のNATO軍も協力している。2015年に始まったオペレーション・ユニファイアーの任務の一環として、2000人近いNGUの戦闘員がカナダ軍によって訓練を受けている。

しかし、それは物議を醸してきた。2018年6月、カナダ軍将校はアゾフ連隊の指導者からブリーフィングを受け、同隊のナチス思想に関する警告にもかかわらず、その関係者と写真を撮った。

その後、アゾフは写真をソーシャルメディアに掲載し、カナダの代表団が 」さらなる実りある協力への期待 」を表明したことを付け加えた。後に公開されたカナダの内部文書によると、政府はこの会談がメディアで暴露されることを恐れていた

2021年9月の会談で、NGUの国際協力責任者であるセルヒイ・マルツェフSerhiy Maltsev,大佐は、英国の指揮官たちにこう言った。「カナダ軍による衛兵の能力向上への貢献は、どれほど強調してもし過ぎることはない」

彼はさらに、「カナダのカウンターパートとの共同成果は、NGUと(英国の)オービタル作戦との今後の協力の手本となりうる 」と述べた。

「ウクライナの真の愛国者」

英国司令官との会談の4カ月前、同じNGUのウェブサイトには、アゾフ連隊の7周年を記念する声明が掲載されていた。「勝利の7年間」というタイトルで、ネオナチ部隊に対する贅沢な賛辞が迸る。

このウエッブサイトはアゾフ海北岸の港町を指して「2014年5月初旬、『黒い男たち』がベルジャンスクに到着した」」彼らはウクライナの真の愛国者であり、全国からここに集まり、ウクライナの主権を侵犯した占領者を撃退するために結集した」と記した。

さらに「新たに結成された義勇軍は、思いやりのある男たちによって結成された 」「アゾフは激戦で鍛えられ、生き残った 」と付け加えている。と結んでいる。「今日、アゾフはウクライナ軍の最も有能な部隊の一つであり、その戦闘員は最高レベルの専門技術を持ち、最新の武器と装備を持ち、7年前と同じ勝利への渇望を持っている」 と結んでいる。

しかし、極右過激派と結びついているのはウクライナのNGUだけではない。

2015年、極右政党「右翼セクターRight Sector」のリーダーだったドミトロ・ヤロシュは、当時ウクライナの参謀総長だったヴィクトル・ムジェンコ大佐の軍事顧問に任命された

ヤロシュは右翼セクターの準軍事組織であるウクライナ義勇軍の司令官であり、政府の管理下には入らなかった。

Dmytro Yarosh (right), commander of far-right paramilitary group Ukrainian Volunteer Army, is appointed advisor to Colonel General Viktor Muzhenko (left), then Ukraine’s chief of general staff, 5 April 2015. (Photo: Ukraine Ministry of Defence)
極右準軍事組織ウクライナ義勇軍の司令官ドミトロ・ヤロシュ(右)が、当時のウクライナ参謀総長ヴィクトル・ムジェンコ大佐(左)の顧問に任命される(2015年4月5日)。(写真:ウクライナ国防省)

しかし2017年、キエフ・ポスト紙は「約130人の元右翼セクターの戦闘員が、現在ウクライナ軍の正規の契約兵になっている」と報じた

11月には、ヤロシュは、ウクライナ軍総司令官ヴァレリー・ザルジニーの顧問に任命されたと報じた

ヤロシュは、第二次世界大戦中、過激なウクライナ民族主義者でナチスの協力者だったステパン・バンデラの信奉者であることを自認している。

1941年6月、ナチスがソ連に侵攻した際、バンデラ信奉者はウクライナ西部の都市リヴィウで、銃から金属棒まで様々な武器を使って数日間で4000人のユダヤ人を殺害した。

ホロコーストで殺されたウクライナのユダヤ人は最大で160万人と推定されている。

ジョージ・ワシントン大学の欧州・ロシア・ユーラシア研究所が昨年発表した報告書によると、別の極右グループ「センチュリアCenturia」は、メンバーが現在ウクライナ軍の将校として勤務していることを誇っていることがわかっている。

報告書によると、彼らは「フランス、イギリス、カナダ、アメリカ、ドイツ、ポーランドといった国々の外国人同僚と協力関係を築くことに成功した」という。

報告書によると、センチュリアのメンバーらしき1人は、英国のエリート軍事訓練施設サンドハーストで11カ月間の将校訓練を受けており、2020年に卒業したことが分かった。

英国の「オービタル作戦」はこれまでに、ウクライナ軍のメンバー2万2000人を訓練してきた。2020年には、その訓練は 「より広範な作戦・能力志向の海上・航空能力構築を取り入れるために 」拡大された。

著者について

マット・ケナードはDeclassified UKのチーフインスペクター。ロンドンの調査報道センターでフェロー、ディレクターを歴任。ツイッターでフォローする @kennardmatt

(Common Dreams)ファイザー社がワクチンの秘密契約を利用して政府に強圧をかける方法

以下は、Common Dreamsの記事の訳です。日本でも健康被害が出た場合の製薬会社などの賠償責任を免除する方針昨年暮に報道され、改正予防接種法に盛り込まれた。しかし、パブリックシチズンの報告書で報じられている内容は、単なる賠償免責にとどまらない深刻な内容をいくつも含んでいる。危機のなかで必死の思いでワクチンを調達しようとする政府の狼狽を資本は最大限に利用した。まさにナオミ・クラインのいうショックドクトリンがCOVID-19ではまさに地球規模で展開されたともいえる。

政府は、納期が遅れてもクレームはつけられないばかりか、ワクチンの寄付を受けることも他国からワクチンを購入することもファイザーの許可が必要だという契約を南米諸国は締結させられた。しかも、ワクチンの特許についても、TRIPS協定の棚上げに反対し、自由なワクチン生産を阻止した。今年に入ってからも、国際的共同購入枠組み(COVAX)が十分に機能せず、一向に途上国へのワクチン供給が進んでいない。先進国は、COVAXへの協力を表向き積極的なポーズをとっているが、ファイザーをはじめとする多国籍製薬資本との契約が平等なワクチン供給の障害になっている可能性がありうる。

医療サービスは、民衆の安全保障の基本的な条件のひとつだ。生存の権利は、地球上のいかなる地域に暮そうとも、平等に享受できなければならない、という原則にてらして、多国籍製薬資本が構造的な不平等を利潤追求のために利用することは、人道に対する犯罪だ。そして先進国政府が社会的平等原則に反して製薬資本の利益に加担することもまた、同罪だ。パブリックシチズンの報告書では、米国とファイザーの契約のなかに「他方の書面による事前の同意なしに、本契約の存在、主題または条件、本契約により企図される取引、または本契約に基づくファイザーと政府の関係に関するいかなる公表も行うことはできない」とあることが報じられている。日本政府は、製薬資本との契約についての守秘義務があるとして契約内容を一切公表していないが、ほぼ米国との契約と同様の契約内容だと推測できる。しかし私たちの知る権利をないがしろにして製薬資本との密約を正当化することはできない。契約を公開することは政府の義務である。

今回のワクチンに限らず、分配の不平等と多国籍製薬資本の医療技術のブラックボックスがもたらすリスクの問題は表裏一体の問題だ。逆に、分配の平等と医療技術の透明性と知識の商品化―知は財産ではなく、共有されるべきものだ―を実現できる体制への転換が必要だ。(小倉利丸)


Exposed: ファイザー社がワクチンの秘密契約を利用して政府に強圧をかける方法

この報告書の著者は、「ファイザーは、命を救うワクチンの独占を利用して、必死な政府から譲歩を引き出している」と述べ、バイデン政権に対策を求めている。

ジェシカ・コーベット(Jessica Corbett

2021年10月19日
火曜日に発表されたパブリック・シチズンの報告書によると、ファイザーは主要なCOVID-19ワクチンの生産者としての立場を利用して、世界各国との秘密の契約を通じて「政府を黙らせ、供給を制限し、リスクを転嫁し、利益を最大化」してきた。

報告書の著者であるパブリック・シチズンのAccess to Medicinesプログラムの法律・政策研究者であるZain Rizviは、声明の中で次のように述べている。「この契約は、一貫して公衆衛生上の必要性よりもファイザー社の利益を優先していいる。密室の中で、ファイザーは権力を行使して、政府から一連の重要な譲歩を引き出している。「国際社会は、製薬企業が主導権を握り続けることを許すことはできません」

今回の報告書ではまず、2月に報じられた、ドイツのBioNTech社とmRNAワクチンを開発した米国の大手製薬会社ファイザー社が、投与量の契約交渉の際にラテンアメリカ政府を「いじめている」という告発について触れている。

パブリック・シチズンは、ファイザー社とアルバニア、ブラジル、コロンビア、ドミニカ共和国、欧州委員会、ペルーとの間で交わされた、編集されていない契約書、ドラフト、最終契約書を入手した。また、消費者の権利を擁護する団体は、チリ、米国、英国との間の編集済みの契約書も調査した。

報告書では、これらの契約書に基づき、致命的なパンデミックの中で、公衆衛生ではなく会社のためにファイザーが使っている6つの戦術を明らかにしている。

  1. ファイザー社は政府を黙らせる権利を持っている

ブラジル政府は今年初め、同社による「不公平で乱暴な」条件の主張にたいして、最終的には「国家主権免責を放棄し、納品が遅れてもファイザーに罰則を課さず、ニューヨーク法に基づく秘密の私的仲裁で紛争を解決することに合意し、民事請求に対してファイザーを広く補償する」という契約を受け入れたと訴えた。

また、ブラジルは、欧州委員会や米国政府との契約に見られるような秘密保持条項にも同意した。

  1. ファイザー社による寄付金の管理

報告書では、ブラジルを例に挙げて、南米の国がワクチンの寄付を受けたり、他の国からワクチンを購入したりするには、まずファイザーの許可を得なければならないことを指摘している。また、「ファイザー社の許可なく、ブラジル国外にワクチンを寄付、配布、輸出、またはその他の方法で輸送すること」も禁止されている。

  1. ファイザー社は「知的財産権の放棄」から自らを守った

報告書によると、ファイザー社のCEOであるアルバート・ボーラは、「パンデミックにおける知的財産の擁護者として頭角を現してきた」とし、「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」に署名した世界貿易機関の加盟国が、危機の間、COVID・19のワクチンや治療薬の知的財産保護を放棄するという提案に反対したことを指摘している。

「しかし、いくつかの契約において、ファイザー社はワクチンの開発、製造、販売において知的財産がもたらすリスクを認識しているようだ」「契約では、ファイザー社が犯しかねない知的財産権侵害の責任を、政府の購入者に転嫁している。その結果、この契約の下では、ファイザー社は誰の知的財産であっても、ほとんど影響を受けることなく使用することができる」とパブリック・シチズンは説明している。

  1. 公的な裁判所ではなく、私的な仲裁人が紛争を秘密裏に決定する

英国の契約では、紛争は国際商業会議所の仲裁規則に基づいて3人の民間仲裁人からなる秘密のパネルで解決されることになっているが、報告書によると、「アルバニアの契約案やブラジル、チリ、コロンビア、ドミニカ共和国、ペルーの協定では、政府はさらに踏み込んで、契約上の紛争はニューヨーク法を適用したICC仲裁の対象とすることになっている」という。

  1. ファイザー社は国家資産を狙うことができる

報告書では、「Pfizer社は、ブラジル、チリ、コロンビア、ドミニカ共和国、ペルーに対し、主権免責の放棄を要求した」と強調し、先に述べた秘密の仲裁パネルが下した決定を行使しようとする企業から、主権免責の原則が国家を守ることができる場合があることを詳述している。パブリック・シチズンによると、この契約の中には、「裁判所がファイザー社に仲裁判断を支払うことを保証するために国有資産を使用すること、および/または政府が支払わない場合にファイザー社を補償するために国有資産を使用すること」を可能にするものもあるという。

  1. 重要な意思決定はファイザーが握っている

「ワクチンの供給が不足した場合はどうなるのか?アルバニアの契約書案やブラジル、コロンビアの契約書では、ファイザーは企業が決定する原則に基づいて納入スケジュールの調整を決定する」と報告書は指摘し、「大多数の契約では、ファイザーの利益が最優先される」と結論づけている。

パブリック・シチズンは、世界の指導者たち、特にジョー・バイデン米国大統領に対して、ファイザー社の交渉戦術を「押し返し」、その独占的な力を「抑制」するよう求めている。

バイデン政権は、「ファイザー社に対し、既存の約束を再交渉し、将来的にはより公平なアプローチをとるよう求める」ことができるほか、「国防生産法に基づいてワクチンのレシピを共有し、複数の生産者がワクチンの供給を拡大できるようにすることで、権力の不均衡をさらに是正する」ことができるとしている。

また、「米政権は、知的財産権に関する規則の広範な放棄を迅速に確保することができる」とし、「ウイルスに対する戦時中の対応には、それ以上のことは要求されない」と宣言している。

パブリック・シチズンの報告書に対し、ファイザー社の広報担当者であるシャロン・カスティーヨは、ワシントンポスト紙に対し、秘密保持条項は「商業契約の標準的なもの」であり、「当事者間の信頼関係の構築を助けるとともに、交渉中に交換され、最終契約に含まれる商業上の機密情報を保護することを目的としている」と述べている

また、カスティーヨは、「ファイザー社は、いかなる国の外交、軍事、文化的に重要な資産にも干渉しておらず、その意図も全くない 」と述べ、「これに反することを示唆することは、無責任で誤解を招く恐れがある 」と付け加えた。

一方、Public Citizen’s Access to Medicines programのディレクターであるPeter Maybardukは、ファイザー社がこの広範囲にわたる契約で「各国の絶望を利用している」と非難した。

「私たちのほとんどは、パンデミックの間、家族や友人を守るために離れた場所にいて犠牲を払ってきた」「ファイザー社は逆に、希少なワクチンをコントロールすることで、選択の余地のない人々から特別な特権を得ようとしたのです」とMaybardukは火曜日に語った。

Appleが暗号政策を転換(エンド・ツー・エンド暗号化が危機に)

ここ数週間、監視社会問題やプライバシー問題にとりくんでいる世界中の団体は、アップルが政策の大転換をしようとしていることに大きなショックを受けました。これまでユーザしか解読できないとされていたエンド・ツー・エンド暗号化で保護されていたはずのiCloudに捜査機関が介入できるようにするという声明をAppleが出したのです。以下はこのアップルの方針転換への世界各国91団体による反対声明です。日本ではJCA-NETが署名団体になっています。

いつものことですが、人権団体が取り組みにくい問題(今回は主に児童ポルノ)を突破口に、暗号化に歯止めをかけようとする米国政権の思惑が背後にあると思います。日本でもデジタル庁が秋から発足します。官民一体の監視社会化に対抗できる有力な武器は暗号化ですが、そのことを「敵」も承知していて、攻勢を強めているように思います。今回はAppleの問題でしたが、日本政府の暗号政策での国際的な取り組みの方向は明確で、捜査機関には暗号データを復号可能な条件を与え、こうした条件を満たさない暗号技術の使用を何らかの形で規制しようとするものになるのではと危惧しています。とくにエンド・ツー・エンドと呼ばれる暗号の場合、解読できるのは、データの送り手と受け手だけです。自分のデータをクラウドに上げている場合、クラウドでデータが暗号化されており、その暗号を解読する鍵をクラウドサービスの会社も持っておらず、コンテンツにアクセスできない、といった場合がこれに該当します。これまでAppleのiCloudはこのようなエンド・ツー・エンド暗号化でユーザーを保護してきたことが重要な「売り」だったわけですが、この方針を覆しました。メールではProtonmailやTutanotaが エンド・ツー・エンド暗号化のサービスを提供しています。Appleが採用した方法は、私の理解する範囲でいうと、自分が保有しているデバイスの写真をiCloudにアップロードするときにスキャンされて、児童ポルノに該当すると判断(AIによる判断を踏まえて人間が判断するようです)された場合には、必要な法的手続がとられたりアカウントの停止などの措置がとられるというもののようです。これをiPhoneなど自分が保有しているデバイスに組み込むというわけです。これはある意味ではエンド・ツー・エンド暗号化の隙を衝くようなやりかたかもしれません。画像スキャンや解析の手法と暗号化との組み合わせの技術が様々あり、技術の詳細に立ち入って論評できる能力はありませんが、問題の本質的な部分は、自分のデバイスのデータをOS提供企業がスキャンしてそれを収集することが可能であるということです。スキャンのアルゴリズムをどのように設計するかによって、いくらでも応用範囲は広がると思います。児童ポルノはこうした監視拡大の最も否定しづらい世論を背景として導入されているにすぎず、同じ技術を別の目的で利用することはいくらでも可能ではないかと考えられます。OS提供企業が捜査機関や政府とどのような協力関係を結ぼうとするのかによって、左右されることは間違いありません。ちなみに、iCloudそのものは暗号化されているというのが一般の理解で、わたしもそう考えてきましたが、復号鍵をAppleが保有しているとも指摘されているので、もしこれが本当なら、そもそものエンド・ツー・エンドの暗号化そのものすら怪しいことになります。

このAppleの決定はたしかに意外ではありますが、他方で全く予想できなかったことかといえばそうではないと思います。とくに米国の多国籍IT企業は、トランプの敗色が濃くなったころから、掌を返したようにトランプやその支持者を見限ったように、企業の最適な利益を獲得するために権力に擦り寄ることはとても得意です。バイデン政権は民主党伝統の「人権」政策を押し立てるでしょうから、今回のAppleの決定もこうした政権の傾向と無関係だとは思いせん。そして、常にインターネットをめぐる問題、あるいは私たちのコミュニケーションの自由を規制しようとする力は、「人権」を巧妙に利用してきました。人道的介入という名の軍事力行使もこの流れのひとつであるように、人権も人道も政治的権力の自己再生産のための道具でしかなく、資本主義がもたらす人権や人道と矛盾する構造を隠蔽する側に立つことはあっても、こうした問題を解決できる世界観も理念も持っているとはいえないと思います。今回は「児童ポルノ」など子どもへの性的暴力が利用されました。児童ポルノをはじめとする子どもの人権を侵害するネットが槍玉に挙げられることはこれまでもあったことですが、こうした規制によって子どもへの性的暴力犯罪が解決したとはいえず、子どもの人権の脆弱な状況に根本的な改善がみられたわけでもなく、もっぱら捜査機関などの権限だけが肥大化するという効果しかもたらしていません。現実にある暴力や差別などの被害を解決するという問題は、現実の制度に内在する構造的な問題を解決することなくしてはありえないことであり、その取り組みは既存の権力者にとっては自らの権力を支えるイデオロギー(家父長制イデオロギーや性道徳規範など)の否定が必要になる問題です。だからこそ、こうした問題に手をつけずに、ネットの表象をその身代わりにすることで解決したかのようなポーズをつくることが繰り返されてきたのだと思います。

この公開書簡の内容はいろいろ不十分なところもあります。上述したようにAppleがなぜ方針転換したのかという背景には切り込んでいませんし、暗号化は悪者も利用する道具であることを前提してもなお暗号化は絶対に譲ってはならない私たちの権利だという観点についても十分な議論が展開されていません。こうした議論が深まらないと、網羅的監視へとつきすすむグローバルな状況に対抗する運動も政策対応以上のものにはならないという限界をかかえてしまうかもしれません。議論は私(たち)に課せられた宿題なので、誰か他の人に、その宿題をやってもらおうという横着をすべきではないことは言うまでもありませんが。

(付記)iCloudの暗号化については以下のAppleのサイトを参照してください。

https://support.apple.com/ja-jp/HT202303?cid=tw_sr

下記の記事が参考になりました。

(The Hacker Factor Blog)One Bad Apple

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出典: https://www.jca.apc.org/jca-net/ja/node/130

JCA-NETをはじめとして、世界中の91の団体が共同で、アップル社に対して共同書簡を送りました。以下は、その日本語訳です。 英語本文はこちらをごらんください。


公開書簡

宛先:ティム・クック
Apple, Inc.CEO

クック氏へ。

世界中の市民権、人権、デジタルライツに取り組む以下の団体は、Appleが2021年8月5日に発表した、iPhoneやiPadなどのApple製品に監視機能を搭載する計画を断念することを強く求めます。これらの機能は、子どもたちを保護し、児童性的虐待資料(CSAM)の拡散を抑えることを目的としていますが、保護されるべき言論を検閲するために使用され、世界中の人々のプライバシーとセキュリティを脅かし、多くの子どもたちに悲惨な結果をもたらすことを懸念しています。

Appleは、テキストメッセージサービス「Messages」の画像をスキャンする機械学習アルゴリズムを導入し、ファミリーアカウントで子どもと特定された人との間で送受信される性的表現を検出すると発表しました。この監視機能は、アップルのデバイスに組み込まれます。このアルゴリズムは、性的に露骨な画像を検出すると、その画像がセンシティブな情報の可能性があることをユーザーに警告します。また、13歳未満のユーザーが画像の送受信を選択すると、ファミリーアカウントの管理者に通知が送られます。

性的表現を検出するためのアルゴリズムは、信頼性が低いことが知られています。芸術作品、健康情報、教育資料、擁護メッセージ、その他の画像に誤ってフラグを立ててしまう傾向があります。このような情報を送受信する子どもたちの権利は、国連の「子どもの権利条約」で保護されています。さらに、Appleが開発したシステムでは、「親」と「子」のアカウントが、実際には子どもの親である大人のものであって、健全な親子関係を築いていることを前提としています。こうした前提は必ずしも正しいものではなく、虐待を受けている大人がアカウントの所有者である可能性もあり、親への通知の結果、子どもの安全と幸福が脅かされる可能性もあります。特にLGBTQ+の若者は、無理解な親のもとで家族のアカウントを利用しているため、危険にさらされています。この変更により、送信者と受信者のみが送信情報にアクセスできるエンドツーエンドで暗号化されたメッセージシステムを通じた機密性とプライバシーがユーザーに提供されなくなります。このバックドア機能が組み込まれると、政府はアップル社に対して、他のアカウントへの通知や、性的表現以外の理由で好ましくない画像の検出を強制することが可能になります。

また、Appleは、米国の「National Center for Missing and Exploited Children(行方不明および搾取される子供のための全国センター)」やその他の子供の安全に関する組織が提供するCSAM画像のハッシュデータベースを自社製品のOSに組み込むと発表しました。これは、ユーザーがiCloudにアップロードするすべての写真をスキャンします。一定の基準に達した場合には、そのユーザーのアカウントを無効にし、ユーザーとその画像を当局に報告します。多くのユーザーは、撮影した写真を日常的にiCloudにアップロードしています。このようなユーザーにとって、画像の監視は選択できるものではなく、iPhoneやその他のAppleデバイス、そしてiCloudアカウントに組み込まれています。

この機能がApple製品に組み込まれると、Appleとその競合他社は、CSAMだけでなく、政府が好ましくないと考える他の画像も含めて写真をスキャンするよう、世界中の政府から大きな圧力を受け、法的に要求される可能性があります。それらの画像は、こうした企業が人権侵害や政治的抗議活動、「テロリスト」や「暴力的」コンテンツとしてタグ付けした画像であったり、あるいはスキャンするように企業に圧力をかけてくる政治家の不名誉な画像などであるかもしれないのです。そしてその圧力は、iCloudにアップロードされたものだけでなく、デバイスに保存されているすべての画像に及ぶ可能性があります。このようにしてAppleは、世界規模での検閲、監視、迫害の基礎を築くことになります。

私たちは、子どもたちを守るための取り組みを支援し、CSAMの拡散に断固として反対します。しかし、Appleが発表した変更は、子どもたちや他のユーザーを現在も将来も危険にさらすものです。私たちは、Appleがこのような変更を断念し、エンドツーエンドの暗号化によってユーザーを保護するという同社のコミットメントを再確認することを強く求めます。また、Appleが、製品やサービスの変更によって不均衡な影響を受ける可能性のある市民社会団体や脆弱なコミュニティと更に定期的に協議することを強く求めます。

敬具

[署名団体]
Access Now (Global)
Advocacy for Principled Action in Government (United States)
African Academic Network on Internet Policy (Africa)
AJIF (Nigeria)
American Civil Liberties Union (United States)
Aqualtune Lab (Brasil)
Asociación por los Derechos Civiles (ADC) (Argentina)
Association for Progressive Communications (APC) (Global)
Barracón Digital (Honduras)
Beyond Saving Lives Foundation (Africa)
Big Brother Watch (United Kingdom)
Body & Data (Nepal)
Canadian Civil Liberties Association
CAPÍTULO GUATEMALA DE INTERNET SOCIETY (Guatemala)
Center for Democracy & Technology (United States)
Centre for Free Expression (Canada)
CILIP/ Bürgerrechte & Polizei (Germany)
Código Sur (Centroamerica)
Community NetHUBs Africa
Dangerous Speech Project (United States)
Defending Rights & Dissent (United States)
Demand Progress Education Fund (United States)
Derechos Digitales (Latin America)
Digital Rights Foundation (Pakistan)
Digital Rights Watch (Australia)
DNS Africa Online (Africa)
Electronic Frontier Foundation (United States)
EngageMedia (Asia-Pacific)
Eticas Foundation (Spain)
European Center for Not-for-Profit Law (ECNL) (Europe)
Fight for the Future (United States)
Free Speech Coalition Inc. (FSC) (United States)
Fundación Karisma (Colombia)
Global Forum for Media Development (GFMD) (Belgium)
Global Partners Digital (United Kingdom)
Global Voices (Netherlands)
Hiperderecho (Peru)
Instituto Beta: Internet & Democracia – IBIDEM (Brazil)
Instituto de Referência em Internet e Sociedade – IRIS (Brazil)
Instituto Liberdade Digital – ILD (Brazil)
Instituto Nupef (Brazil)
Internet Governance Project, Georgia Institute of Technology (Global)
Internet Society Panama Chapter
Interpeer Project (Germany)
IP.rec – Law and Technology Research Institute of Recife (Brazil)
IPANDETEC Central America
ISOC Bolivia
ISOC Brazil – Brazilian Chapter of the Internet Society
ISOC Chapter Dominican Republic
ISOC Ghana
ISOC India Hyderabad Chapter
ISOC Paraguay Chapter
ISOC Senegal Chapter
JCA-NET (Japan)
Kijiji Yeetu (Kenya)
LGBT Technology Partnership & Institute (United States)
Liberty (United Kingdom)
mailbox.org (EU/DE)
May First Movement Technology (United States)
National Coalition Against Censorship (United States)
National Working Positive Coalition (United States)
New America’s Open Technology Institute (United States)
OhmTel Ltda (Columbia)
OpenMedia (Canada/United States)
Paradigm Initiative (PIN) (Africa)
PDX Privacy (United States)
4
PEN America (Global)
Privacy International (Global)
PRIVACY LATAM (Argentina)
Progressive Technology Project (United States)
Prostasia Foundation (United States)
R3D: Red en Defensa de los Derechos Digitales (Mexico)
Ranking Digital Rights (United States)
S.T.O.P. – Surveillance Technology Oversight Project (United States)
Samuelson-Glushko Canadian Internet Policy & Public Interest Clinic (CIPPIC)
Sero Project (United States)
Simply Secure (United States)
Software Freedom Law Center, India
SWOP Behind Bars (United States)
Tech for Good Asia (Hong Kong)
TEDIC (Paraguay)
Telangana (India)
The DKT Liberty Project (United States)
The Sex Workers Project of the Urban Justice Center (United States)
The Tor Project (Global)
UBUNTEAM (Africa)
US Human Rights Network (United States)
WITNESS (Global)
Woodhull Freedom Foundation (United States)
X-Lab (United States)
Zaina Foundation (Tanzania)

愛国主義のイデオロギー装置としてのオリンピック:シモーヌ・バイルス途中棄権への右派メディアの非難

米国の体操選手、シモーヌ・バイルスが途中棄権したことは、たぶん、世界的にはトップの報道の出来事ですが、日本のメディアの関心は低いですね。

Daily Beastによると、米国内の右派メディアなどがバイルスに対して一斉に非難の声を上げているとのこと。 「保守的な評論家やライターの多くが、バイルスに「傲慢」「利己的」というレッテルを貼り、彼女が子どもたちの良いお手本にならないと主張」という記事のなかで、いくつかの右派の論客やメディアを紹介しています。

いずれも、メンタルの問題を理由に途中棄権するなどは許せないというわけですが、国を代表している選手が自分の都合で棄権し、しかも謝罪すらしない、結果として金メダルはロシアがさらった…といったことを罵っている。こうした人たちが複数の右派メディアなどで繰り返しているようです。(右派メディアそのものにアクセスして確認できていません)バイルスは、先に、自身の性的虐待被害とメンタルな問題を抱えてきたことを公表しています。彼女が黒人で最も人気のあるアスリートのひとりであることとともに、彼女のこれまでの行動にも右派にはがまんならなかったのかもしれません。

国際スポーツを国別の戦いとみなし、アスリートを国家の代表とみなすことに疑問の気持ちをもつ人は極めて少ない。スポーツは国別の競技でなければならない理由はないにもかかわらず、ほとんどの人が国別競技を肯定しています。なぜなのかを考える必要があります。 国別競技は、愛国主義と共振して増幅されるような心理構造をつくりだし、右派のアイデンティティでもある愛国主義がこの関係を率直に示しているように思います。表彰式はこの心理をシンボリックに可視化して再生産する仕掛けですから、もともと人々が本来的にもっている愛国心が表出したというよりも、オリンピックそのものが愛国心を生み出す装置の一翼を担い、アスリートがこの装置を表舞台で担うようにスポーツの教育や産業ができあがっているということでしょう。だから途中棄権などは愛国主義を刺激して攻撃される。戦争における徴兵拒否、敵前逃亡、戦線離脱などへの非難とほぼ同じ心理が作用していると思います。

バイルスのようなケースがでてきたので、ニュースになったわけですが、表面化されない形でオリンピックがナショナリズムや愛国主義を人々の心理に浸透させる効果が発揮されていて、このことをほとんどの人は気づかずに当たり前の感情として受け入れている。日本の場合ももちろん同じ構図があると思います。メディアのオリンピック中継は感情を愛国主義に動員する格好の手段になっています。だからボイコットなのですが、多くの人たちは、この感情に誘惑されて観て感動したい、ということになります。バッハも政府も広告代理店もテレビもネットも愛国主義の装置になりうるということを忘れてはならないと思っています。

抗議声明(名古屋:わたしたちの表現の不自由展中止問題)

名古屋市栄の市民ギャラリーで起きた展覧会の中止事件は、2019年の愛知トリエンナーレで中止のきっかけをつくった出来事とよく似ている。問題全体の構造をみると、公的な展示施設や行政vs脅迫・攻撃者という構図は「見かけ」であり、イデオロギーの構図がかすると、公権力と脅迫者の側には心情的な共同性があり(下記の声明では心情的共謀と表現されている)、むしろ展覧会の主催者との対立がはっきりしている。公権力があからさまな違法行為による弾圧を行使することは稀で、たいていは、こうした権力の意向を汲む者たちがテロや暴力の担い手になる。更んにその背景には、いまだに根強い「日本人は正しい」と信じる「日本人」たちの自民族中心主義だ。植民地支配や戦争責任を明確にできていないだけでなく、これらについて議論することすらままならない事態が、学校でも世論を代弁するとされるメディアにおいてもますます強まっている。こうした背景と公権力のサポタージュによる事実上の検閲の行使とは密接に関係している。日本の状況は理性や道理が通用しないナショナリズムに支配されてきたが、それが、もう一段強化されているように思う。しかも、上からだけでなく、下からも。

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2021710

抗議声明

 202176日(火)から711日(日)までの会期で,名古屋市民ギャラリー栄において開催されていた展覧会「私たちの『表現の不自由展・その後』」は,「施設の安全管理のため」という理由で,78日(木)から711日(日)の間,市民ギャラリー栄が臨時休館となり中断させられている。

 その臨時休館の根拠は,市民ギャラリー栄の「職員が郵送された封筒を開けたところ,10回ほど爆竹のような破裂音がした」(東海テレビの報道より)という事態によるものと報じられているが,主催者側には何ら説明もなされていない。そもそも報道によると,問題の郵便物は,「施設職員が警察官立ち会いの下で開封した」(毎日新聞より)のであり,施設職員立会いの下で警察官が中身を検査したり,開封したりしたものではなく,当初より重大な危険性があるという認識ではなかったことがうかがえる。さらに,その後,ギャラリー栄と名古屋市中区役所があるビル全体は閉鎖されてもいない。このような子供だましの脅しに屈し,さらには,正当な理由も説明もなく展覧会を中止に追い込むことは,まさに,犯罪者の思うつぼであり,また,その犯罪行為に加担していることになるだろう。

 名古屋市は,2019年の表現の不自由展の中止の際と同様,行政が果すべき憲法上の責務を果さず,公権力によって十分に対処が可能な軽微な事案を展覧会中止の口実に利用した。今回も全く同様であり,公権力によるサボタージュであり,巧妙に攻撃者の行動を利用して,中止を正当化したものである。名古屋市の対処を客観的に判断するとすれば,攻撃者と名古屋市との間には心情的共謀関係があると判断せざるをえない。とりわけ名古屋市長河村は,いわゆる「従軍慰安婦」をめぐる歴史認識において容認しえない虚偽発言を繰り返し,大村県知事リコール運動の署名偽造についても,その道義的責任すら認めず,新型コロナ対策でも適切な対応をせずに犠牲を拡大するなど,そもそも憲法が義務づけている公権力の担い手としての責任を果していない。河村もまた,名古屋不自由展を中止に追いやりたいと願っている一人であることは間違いないだろう。だからこそ攻撃者と行政の間に心情的共謀がありえると私たちは解釈するのだ。

 直ちに,名古屋市は臨時休館を解除して,展覧会を再開すべきである。

 この展覧会は,あいちトリエンナーレ2019の企画であった「表現の不自由展・その後」が,今回と同様に,脅迫を主な根拠として中断させられたことを契機として企画されたものである。その展示作品の中には,民族差別的主張によって展覧会が中止させられたという経緯を持つものも含まれている。

 また,同時期に東京,大阪において開催予定だった「表現の不自由展」においても,これに反対する人々の大声や街宣車による抗議行動により,会場の使用が取り消され,延期に追い込まれているという状況である。つまり,安易に脅迫に屈するという判断・行動は,その脅迫や民族差別的主張こそが犯罪行為であるにもかかわらず,その実行者の思惑通りの結果を生み,公開することができない作品を作り上げてしまい,不当に公開を妨げる検閲的な行為となっている。このようなことは,絶対に止めなければならない。

 加えて,あいちトリエンナーレ2019における「表現の不自由展・その後」の中止に際しては,多くの平和的行動を取った市民による46000筆超の展示再開を求める署名が提出されているが,愛知県,名古屋市ともに,これらを全く無視してきた。その一方で,展覧会に反対する側のちゃちな脅しに屈して,次々と展覧会を中止に追い込むとは,いったい,どういう了見なのだ。

 これは,あいちトリエンナーレ2019における事態に続く「文化テロ」である。テロの脅しに絶対屈しないと主張したのは,日本政府ではなかったか。であるならば,「文化テロ」に屈しない姿を見せるためにも,名古屋市は,展示を再開すべきなのだ。

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art4allは,あいちトリエンナーレ2019における「表現の不自由展・その後」の検閲に際し,再開を求める運動を開始し,その後も表現の自由を求める活動を続けている。

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artinoppositionは,歴史的・社会的にも忘却されてしまう状況に抗い,問題提起を促し,アートの表現とは何なのか,なぜ表現があるのかを・思考・する場である。

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Artstrikeは,1986年の富山県立近代美術館における検閲事件を契機として始まった運動である。

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連絡先:jun@artstrike.info