ウクライナはなぜ11の「親ロシア」政党を停止したのか?(ソツヤルニ・ルークによる声明も加えて)

(訳者前書き)以下は、LINKS, Internasional Journal of Socialist Renewalに掲載された記事の翻訳です。イシチェンコの文章は、この他「ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアの政治秩序を不安定にしかねない」を訳してある。

戦時下には、平時には許されていた基本的人権が国家緊急事態を口実に制限されるようになるのは、民主主義を標榜する国においても一般的にみられる。特に政権に批判的な団体や個人を敵国の同調者などというレッテルを貼って排除・弾圧することに世論も容易に同意を与えてしまうために、戦争に便乗した権力の集中と人権への抑圧が進み、これが戦後の権威主義や独裁へと繋がることがある。こうした事態はロシアだけでなくウクライナでも起きている。

ウクライナの国内政治のなかで、とくにマイダン以降、左翼の運動がどのように扱われてきたのかについて、下記のエッセイでその概略がわかる。戦時にあって、労働者の権利や生存の権利はどう扱われているのか、政府への異論や反対運動を組織する余地は与えられているのか。こうした観点から戦争を見ることなく。ゼレンスキーを中心としたウクライナを一枚岩に還元していいのだろうか。私はロシアの侵略行為に正当性の欠片すら見出すことはできない。ウクライナの国内政治や統治機構が抱えてきた矛盾についても、戦争を理由に、この矛盾への批判を棚上げする理由を見出すこともできない。

2015年にウクライナでは2015年に「脱共産化」法が成立しており、左翼運動は周辺化されざるをえない制度的な条件があった。日本でも類似の偏見があるが、多様な共産主義(コミュニズム)、社会主義をかつてのソ連や中国など社会主義諸国と同一視することによって、左翼の反資本主義運動全体をありもしない画一的な存在に還元して切り捨てる政治統制の手法は、自由と民主主義を標榜する諸国が共通して持ち出すイデモロギー的な自己防衛だ。アナキズムも含めた反資本主義の無視できない有力な運動や思想の潮流が一貫して20世紀の社会主義諸国に対して厳しい批判を提起しつつ、資本主義にも与しない、という明確な立場をとってきたことを支配者たちは知っているハズにもかかわらずだ。イシチェンコの下記のエッセイの立場は、ゼレンスキー政権による左翼政党の活動停止措置は、親ロシア活動が原因ではなく、むしろ現在の戦争が終結した後のウクライナの統治機構における権力を確実に左翼を排除したある種の権威主義的な構造へと転換しようとする意図に基くものだととみているように思う。(小倉利丸 2022/3/27加筆)


ウクライナはなぜ11の「親ロシア」政党を停止したのか?(ソツヤルニ・ルークによる声明も加えて)。

ヴォロディミル・イシチェンコ著

2022年3月21日 – Links International Journal of Socialist Renewal reposted from Al Jazeera

週末、Volodymyr Zelenskyy大統領の政府は、「ロシアとのつながり」の疑いを理由に、ウクライナの11政党を活動停止処分にした。停止された政党の大半は小規模で、中には全く重要でないものもあったが、そのうちの一つである野党「生活のためのプラットフォーム」は最近の選挙で2位になり、現在450議席あるウクライナ議会で44議席を占めている。

これらの政党がウクライナの多くの人々から「親ロシア派」と認識されていることは事実である。しかし、現在の同国において「親露」が何を意味するのかを理解することが重要だ。

2014年以前のウクライナ政治には、欧州・大西洋圏の国際機関よりもロシア主導の国際機関との緊密な統合、あるいはウクライナがロシアやベラルーシと連邦国家になることを求める大きな陣営があった。しかし、ユーロマイダン革命やクリミア、ドンバスにおけるロシアの敵対的行動により、親ロシア派はウクライナ政治において周縁化された。同時に、親ロシア派というレッテルが誇張されるようになり、ウクライナの中立を求める者を指す言葉として使われるようになった。また、主権主義、国家開発主義、反欧米、非自由主義、ポピュリスト、左翼、その他多くの言説を貶め、黙らせるために使われ始めたのである。

このように多種多様な意見や立場が一つのレッテルの下にまとめられ、非難されるようになったのは、主に、2014年以来ウクライナの政治領域を支配してきた親欧米、新自由主義、ナショナリズトの言説を批判し、これらに疑問を投げかけるものに対してであり、ウクライナ社会の政治の多様性を実際に反映しているわけではなかった。

しかし、ウクライナで「親ロシア」の烙印を押され、最近ゼレンスキー政権によって停止処分を受けた政党や政治家は、ロシアとの関係は極めて様々だ。ある者はロシアのソフトパワーへの取り組みと関係があるかもしれないが–こうした関係が適切に調査・証明されることはほとんどないが–、他の者たちは実際には彼ら自身がロシアの制裁下にある。

ウクライナの「親ロシア」政党の多くは、何よりもまず「自己中心的な党」であり、ウクライナに独自の利益と収入源を有している。彼らは南東部に集中するロシア語を話す少数派のウクライナ人の現実的な不満を利用しようとしている。これらの政党は大衆の大きな支持を得ている。例えば、最近活動停止にされた3つの政党は2019年の議会選挙に参加し、合わせて約270万票(18.3%)を獲得し、ロシアの侵攻前に行われた最新の世論調査では、これらの政党は合わせて約16~20%の得票率を記録している。

ゼレンスキーの停止リストに載っていた他の政党は、左翼的な志向を持っていた。社会党や進歩社会党など、1990年から2000年代にかけてウクライナの政治で重要な役割を果たした政党もあるが、今ではすっかり周辺に追いやられている。実際、現在あるいは当面の間、ウクライナではその名前に「左翼」や「社会主義」を冠して一般投票のかなりの得票を確保できる政党は存在しない。ウクライナはすでに2015年に「脱共産化」法に基づいて国内のすべての共産主義政党を停止しており、ベニス委員会the Venice Commission[欧州評議会の憲法問題に関する独立諮問組織:訳注]から強く批判された。 今回の停止処分は、必ずしもウクライナの政治圏から左派を消したいという動機からではないかもしれないが、そうしたアジェンダに寄与していることは確かである。

皮肉なことに、これらの政党の活動停止はウクライナの安全保障にとって全く無意味である。確かに、「進歩的社会主義者」のように、停止された政党の中には長年にわたって強く純粋な親ロシア派であったものもある。しかし、ウクライナで実際的な影響力を持つこれらの政党の指導者や後援者は、実質的にすべてロシアの侵攻を非難し、現在はウクライナの防衛に貢献しているのである。

さらに、政党活動の停止が、これらの政党の党員や指導者によるウクライナ国家に対する何らかの行動の抑止にどのように役立つかは明らかでない。ウクライナの政党組織は、政治・活動家集団としては通常非常に弱く。おそらく、例外として、ウクライナで最も人気のある政治ブロガーの一人が設立した活動停止中の政党に含まれるシャリイ党があるが、現在は人道的活動に注力している。侵略の最中に、クレムリンと直接、あるいはそのプロパガンダ網を通じてロシアと協力しようと考えている人たちは、党組織の外でこうしたことを行うだろう。党の公式口座を通じてロシアの資金を動かそうとする理由もないだろう。

このことは、ウクライナ政府が左翼政党や野党を停止するという決定を下したのは、ウクライナの戦争時の安全保障上の必要性とはほとんど関係がなく、ユーロマイダン以降のウクライナ政治の分極化とウクライナ人のアイデンティティの再定義が、この国における許容可能な言論の境界を超えたさまざまな反対意見に大きく関係していることを示唆している。また、ロシア侵攻のはるか以前から始まったゼレンスキーの政治権力強化の試みとも関係がある。

実際、政党の活動停止という決定は、あるパターンに従っている。昨年以来、政府は定期的に野党メディアと一部の野党指導者に制裁を加えてきたが、不正行為の説得力のある証拠を国民に示すことはなかった。

例えば1年前、政府はプーチンの個人的友人であるヴィクトル・メドベチュクを制裁した。世論調査で、彼の政党がゼレンスキーの「人民のしもべ」党よりも国民の支持を得て、将来の選挙で彼を追い抜く可能性があるとされ始めた直後であった。当時、メドベチュクと彼のテレビ局に対する制裁は、在ウクライナ米国大使館からも支持されていた。この制裁は、プーチンに「ウクライナでロシア寄りの政治家が選挙で勝つことは許されない」と思わせ、戦争の準備を始めさせた要因の一つではないか、と複数のアナリストはその後推測している。

現在、メドベチュク氏は自宅軟禁を逃れ、ウクライナ当局から身を隠している。野党「生活のためのプラットフォーム」は彼を党首からはずし、ロシアの侵攻を非難し、ウクライナを守る軍に参加するよう党員に呼びかけている。

ロシアの侵攻の中で「親露派」政党の活動停止を安全保障上の必要性と分類するのは簡単だが、この動きはこうした広い文脈で分析・理解されるべきものであろう。また、野党、政治家、メディアに対する政府の制裁体制は、以前からウクライナ国内で広く批判を集めていることも指摘しておく必要がある。この制裁は、ウクライナの安全保障・防衛会議に出席している一部のグループが、真剣な議論もなく、怪しげな法的根拠に基づいて、腐敗した利益を追求するために計画し、実施したものだと考える人が国内には多いのである。

このため、戦争が終われば当事者たちの活動停止が解除されると期待する根拠は乏しい。法務省はおそらく法的措置をとり、政党を永久に禁止するだろう。

しかし、それでは戦争への努力も現政権の政治的野望も実現できない。それどころか、一部のウクライナ人をロシアとの協力に向かわせることになりかねない。

実際、これまでのところ、占領地における侵略者との協力は最小限にとどまっている。国民が親ロシア派の政党や政治家に大挙して賛同する気配はない。また、ロシアがウクライナに傀儡政権を樹立することになれば、まず間違いなくこれらの政党に接近するだろうが、彼らの政治幹部の多くはその申し出を断るだろう–彼らは自分の資本、財産、西側での利益を危険にさらしたくないのだから。これらの「親露」政党の支持を受けて当選した地方指導者の中には、すでに侵略軍に協力するつもりはないと明言している者もいる。

しかし、これらの政党が停止された後に、彼らの地方組織や議会のメンバー、および彼らの積極的な支持者が占領地においてロシア軍に協力する傾向が強まるかもしれない。実際、ウクライナに政治的な未来がなく、むしろ迫害に直面していると確信すれば、ロシアに目を向け始めるかもしれない。そうなれば、大衆が「裏切り者」を探して処罰し始め、ウクライナの「ナチズム」問題についてのロシアのプロパガンダが強化され、暴力が助長される可能性がある。すでにウクライナでは、野党や左翼のブロガーや活動家の捜索や逮捕に関する報道が憂慮されるほど増えている。

今日、ウクライナは存亡の危機に直面している。ウクライナ政府は、今回の停波のような、ウクライナ大衆の一部を疎外し、指導者の意図を疑わせるような動きは、国を強くするどころか弱くし、敵に仕えるだけだということを理解する必要がある。

Volodymyr Ishchenko ベルリン自由大学東欧研究所研究員。研究テーマは、抗議行動と社会運動、革命、急進的な右派・左派政治、ナショナリズム、市民社会。現在、書籍The Maidan Uprising: Mobilization, Radicalization, and Revolution in Ukraine, 2013-2014[マイダン蜂起、ウクライナにおける動員、急進化、革命2013-2014年]の共同原稿を執筆中。

ウクライナの一部政党の一時的な「禁止」についての声明

21/03/2022
Категорія: 英語, 日 本語
✖️最近、国家防衛安全保障会議が、多数のウクライナの政党の活動を一時的に停止することを決定した。このリストには、主要な野党と、名前に「進歩的」「左翼」「社会主義」という言葉が使われているあまり知られていない政党の両方が含まれている。ウクライナのVolodymyr Zelensky大統領は、これらの政党を「ロシアと関係がある」と非難したが、その主張には適法な根拠がなかった。

私たちは、これらの政党の少なくとも一部のメンバー、特にその指導者が、ロシアとつながっていることをはっきりと認識しており、とりわけ彼らのリーダーシップは、

*ロシアの排外主義的野心の危険性を軽視し、クレムリンと直接協力しない場合であっても、侵略を正当化することになる。

*政府の新自由主義的な政策によって引き起こされた民衆の不満を、「西側」が「スラブ文明」を破壊するという戯画的なイメージとの戦いに向けて誤導していた。

*外国人恐怖症、反ユダヤ主義、同性愛嫌悪、憎悪を広めた。

左翼的なフレーズを使い、そのフレーズを乗っ取った人々は、現実には寡頭制のコンセンサスに奉仕しているに過ぎない。

とはいえ、前述の組織やその個々のメンバーのロシア帝国主義者との協力の可能性は、調査されるべきだし、彼らは法廷で裁かれなければならない。人民的抵抗の妨害に関与した具体的な人物は、その行動に対して個々の責任を負わなければならない。我々は、民主的自由の重要性と象徴性を認識し、無差別な党員禁止は今日の闘争にふさわしくないと考えている。

我々はすでに、政府が戦争という状況を悪用してウクライナの労働者の労働権を攻撃しようとしたことを見てきた。そして今、その行動は政治的・市民的自由を制限することを目的としている。我々はこれを支持することはできない。

さらに、進歩的なアジェンダを自動的にクレムリンと結びつけることによって、左翼や社会運動一般に汚名を着せようとするあらゆる試みに警告を発したい。左翼や組合の活動家は今日、軍隊や領土防衛のメンバーとして、装備や食料、医薬品の提供、難民や国内避難民の避難や宿泊に携わるボランティアとして、国際連帯を築き、対外債務の帳消し、ロシア国家の資産の差し押さえ、オフショアリングの容認の停止を要求する団体として、侵略者と戦っている。

私たちは、すでに支持を表明し、ウクライナの自衛権を認め、自国政府に具体的な措置を講じるよう圧力をかけ続けている世界中の数多くの左翼運動に感謝する。

ウクライナの人々は、常に人々から経済的価値を搾取し海外に蓄えるために人々を利用する資本家ではなく、今日計り知れない苦難に耐えており、より公平な明日を手に入れる権利がある。社会主義は、我々の社会により多くの正義をもたらし、共通の目的を追求する最良の方法である。それこそが、我々ソシアルニ・ルークの主張するところなのだ!

出典:http://links.org.au/why-did-ukraine-suspend-11-pro-russia-parties-sotsyalnyi-rukh

下訳にDeepLを用いました。