戦争を内部から拒否し、平和のために打って出る――ソフィアからの発信

以下に訳出したのは、昨年ブルガリアのソフィアで開催された戦争に反対する恒久的なアセンブリthe Permanent Assembly Against the War(PAAW)で出された宣言である。この集会は、トランスナショナル・ソーシャル・ストライキ・フォーラム(TSS)とブルガリアのLevFemが共催した集会のなかで企画された。

TSSについては、別途訳した自己紹介文を参照してください。LevFemは、ウエッブによると以下のような活動をしている団体だ。

「LevFemは2018年に設立された左翼フェミニスト団体。 資本主義経済の中で生み出される社会経済的不平等が、ジェンダー不平等の拡大に直結していることに関連する問題を取り上げている。LevFemは主に、保健、社会福祉、教育、介護などの女性化された主要部門の女性労働者や、疎外されたコミュニティの代表者をフェミニズム運動の目標に一致させるために活動している。交差性の原則に基づいて、フェミニスト運動をLGBTI+の活動や反人種差別と結びつけている。」

この集会にはロシアのフェミニスト反戦レジスタンス、ウクライナ、クルディスタン、グルジアの活動家など、戦争当事国やこの戦争に深刻な影響を受けている国々からの参加者を得て開催されたと述べられている。ロシアのフェミニスト反戦レジスタンスについては私のブログでも紹介してきた。この集会を組織したトランスナショナル・ソーシャル・ストライキ(TSS)は、昨年7月に宣言を出し、この戦争へのスタンスを示しており、以下の宣言もこの昨年7月の線を踏襲している。

私は、彼らの戦争へのスタンスに非常に強いシンパシーを感じるのだが、なかでも、私達が、国家に収斂するような動き――その最たるものが戦争になる――に加担すべきではないという原則を、「トランスナショナル」な観点で打ち出していることだ。しかも、この観点には、家父長制がもたらす暴力や戦争を忌避し逃亡する人達にこそ目をむけるべきだとする主張が重ねあわされており、ウクライナ(あるいはNATO)かロシアか、という国別で色分けして踏み絵にすることを拒否し、むしろ、労働者であること、マイノリティであること、女性であること、などトランスナショナルなアイデンティティを連帯の基礎に置いて、戦争には加担しない立場を鮮明にしている。だから、避難する人達や戦争を忌避したり拒否したり脱走する人達への視点を重視し、領土のために、国家ために殺すこと、殺されることを拒否することこそが、祖国なきプロレタリアの立ち位置だ、ということを鮮明にしていると思う。また、EUや日本がロシアに対して口にする西側資本主義の価値についても、その欺瞞的な姿勢との闘い――だからトランスナショナルなストライキが運動課題の中心になる――が必要だと主張している。以下の宣言の最後に、「核の脅威を拒否すること、服従して死ぬことを拒否すること、前線で殺すか死ぬかの運命にある人のヒロイン、母親になることを拒否すること、殴られレイプされることを拒否すること、戦争とその副作用の代償を支払うことを拒否すること、これらすべてが、私たちが今生きている戦争政治に対する一つの強力なトランスナショナル・ストライキになり得る」とあり、この言葉は力づよい。この運動が目下目標にしているのは、主にヨーロッパ圏だと思われるが、ぜひ日本の反戦平和運動にもこうした動きがあることを知ってほしいと思い訳した。(小倉利丸)

2022年10月7日

戦争反対の恒久的なアセンブリのステートメント

9月10日、ブルガリアのソフィアにおいて、TSSプラットフォームとLevfemが主催するトランスナショナル集会の中で、戦争に反対する恒久的なアセンブリ(PAAW)の最初のオフライン会合が開かれ、ヨーロッパ各地と中央アジアから120人以上の人々が集まりました。ソフィアでは、オンライン会議と冬に開催される予定の別のトランスナショナル会議を通じて、平和のトランスナショナル・ポリティクスに向けた可能な限り幅広い収束を求め続けることを決定しました。その間、私たちは戦争とその致命的な結末に反対するすべての闘争と行動を支援し、その可視性を高めていくつもりです。私たちは、総会の報告に加え、最新の動向とそれに対する闘いを強化する必要性を強調する必要があると考えています。

ソフィアでの集会は、ロシアのフェミニスト反戦レジスタンス、ウクライナ、クルディスタン、グルジアの活動家など、戦争の影響を直接受けている、あるいは受けていた国々からの参加で幕を開けました。現地の状況から出発することで、私たちは、現状に対するあらゆる政治的代替案を打ち消そうとする、グローバルな関係の再構築の継続的な致命的な過程を把握することができました。PAAWは当初から、ウクライナの戦争が、大西洋主義と親プーチン主義 の間のオルタナティブ、東西間の文明の衝突、包括的な人種差別と植民地主義的言説を あらゆる場所に押し付けようとする、過激な分裂主義であると認識していました。これに対する応答として、PAAWは、これらの分断を乗り越え、それを超える戦争に反対するトランスナショナルな大衆運動を構築する必要性を確認しました。ソフィアでの議論とこの声明は、戦争を率直に議論し、搾取と抑圧のない未来のために闘う可能性を取り戻すトランスナショナルな平和政治を構築する場として、PAAWの重要性を確認するものです。

私たちが第三次世界大戦と呼んでいるものの兆候が、ますます恐ろしく浮かび上がってきています。中央アジアのキルギスとタジキスタン、そしてアゼルバイジャンとアルメニアの国境地帯で、軍事的緊張がエスカレートしているのを私たちは目の当たりにしてきました。この地域ではロシアの派兵解除により、民族主義者と宗教団体の間の緊張が爆発し、より多くの暴力と多くの死者を出しています。これらの地域は、資産やオリガルヒだけでなく、数百万世帯の生活を支える移民の送金にも大きな打撃を与えた制裁の影響に、すでに屈服しています。エルドアン政権は、現在進行中の覇権争いを利用し、国際戦争における新たな中心性から利益を得て、シリア北東部に対する低強度戦争と山岳部での化学兵器の使用によって権力を拡大し、クルディスタンでの革命を阻止しようと試みているのです。EUによれば、ウクライナでは「ヨーロッパのための戦争」が戦われています。このプロパガンダの姿勢は、プーチンの侵略と西側の反応がヨーロッパの国境を越えて生み出す暴力と悲惨さのレベルを無視し、正当化するために使われています。

ウクライナでは、近づく冬によって深刻化した大規模な人道的危機が進行中であり、何百万人もの避難民が到着することのない支援を必要としている。一方、ロシアは核による脅威を強めており、その反対勢力は「相応の報いを受けるだろう」と断言しています。この差し迫った破滅は、現在の生存を超えた何かを主張するあらゆる可能性を阻止することを目的としています。しかし、プーチンが約30万人の部分動員を発表して以来、ほぼ同数の人々がロシアを離れ、ロシアの数十の都市で女性主導の抗議行動が起こり、数千人が逮捕さ れました。

これに対して、ヨーロッパのいくつかの国は、国境を越えるロシア市民に厳しい制限を課しています。当初は、ロシア連邦をさらに苦しめ、国内の反体制的な感情を醸成することが目的だと明言されていました。しかし、プーチンが部分動員を発表した後、EUは「動員を逃れることは戦争を拒否することとイコールではない」「EUは自国の安全を第一に考え、これまで通り亡命権を制限する必要がある」と宣言したのです。ヨーロッパ諸国は、ウクライナからの女性や子どもたちを受け入れることで、慈愛に満ちた父性的な態度を示しました。彼女たちは今、すべての移民女性が最終的に行き着くところ、つまり、重要な部門における低賃金と搾取された仕事、そして制度的人種差別にさらされているのですが、国のために死ぬという当然の義務を果たすのを拒否した男性に対しては、残酷さを示しているのです。

ヨーロッパのエリートたちのこうした態度は、プーチンの家父長制的な戦争と明確につながっています。男性は戦い、死ぬことを強いられ、「母親のヒロイン」を珍重し、胎児や 子ども兵士の広告で中絶反対キャンペーンを展開し、こう言っています。「今日、私を守ってくれれば、明日はあなたを守ることができます。」女性は兵士の産みの親であり、子どもは未来の兵士なのだ。私たちは、エルドアンの性的自由に反対する家父長的政治と、クルド人の抵抗と民主的フェミニスト・プロジェクトを黙らせようとする意志の間に越えられない一線があるのを見ています。家父長的で愛国的な線が、戦争の前線を横切っているのです。

戦争によって悪化した世界的な不安定と金融投機のために、ヨーロッパ全土でエネルギー価格が高騰しているのを私たちは目の当たりにしています。これが、長年の不安定な生活と公共支出の削減によって、すでに困窮している労働者や移民に特に大きな打撃を与えています。NATO同盟のヨーロッパの末端の中心で、各国政府は、労働者、女性、移民、LGBTQ+の人々に対するさらなる悪質な攻撃を実行するために、国旗をまとい登場したのです。ここ数週間、議会の大騒ぎは、ハンガリーやポーランドのような政府に加え、スウェーデンやイタリアなど、さらに多くの政府をも巻き込んで広がっています。英国では、新たに首相に任命されたリズ・トラスを中心とする徒党が、国家給付と公共サービスに対する攻撃を準備しており、その一方で、彼らは賃金レベルがインフレによって破壊されるのを確実にしようと試みています。

英国の政治家たちは、ウクライナ戦争のためにエネルギー料金やその他のコストが急騰していると何度も繰り返しています。何年にもわたる緊縮財政の後、労働者は今、職場や地域社会で抵抗しています。賃金を守ろうとするストライキの波が続いており、「もうたくさんだ」「金を払うな」キャンペーンのような草の根の抵抗への支持が高まっています。ストライキはヨーロッパ全土に広がり、冬には拡大し、インフレによる賃金の引き下げを拒否する大衆的な姿勢が示されるでしょう。

私たちは、戦争の論理と、それが押し付ける国家的・宗教的分裂を拒否します。私たちは、自らを守る人々とともに、徴兵制を拒否し、自分の国に従わず死なないことを決めたすべての人々とともに、立ち上がります。私たちは、戦争の代価を支払うことを拒否するすべての人々と共に立ち上がります。私たちは、すべての人に開かれた国境と移動の自由を要求します。

私たちは、以前はバラバラで、点在する地域の緊張の一部と思われた出来事を、同じ世界の再構築と紛争の一部と見なすことができるようになりました。私たちには、これらの断片を一つにまとめるという任務があります。キルギスタンから英国まで、北シリアからブルガリアまで、スウェーデンからイタリア、ギリシャまで、目の前の死の混乱を乗り切るために、国境を越えた絆を強めていくことになるでしょう。

国境は、国民国家とその同盟によって、私たちを閉じ込め、それがボスのシステムに適さない場合は、私たちが非常に危険な状態でしか移動できないようにするために使用されてきました。そして今、私たちは国境を守るため、あるいは国境を引き直すために、ますます命を捧げることを期待されています。こうした悲惨な命令の代わりに、私たちは国境を越えた平和の政治を必要としています。

私たちは今、軍事化の進展と利潤のために労働者階級の生活水準に課された攻撃に抵抗するストライキと大規模デモの波を見ています。核の脅威を拒否すること、服従して死ぬことを拒否すること、前線で殺すか死ぬかの運命にある人のヒロイン、母親になることを拒否すること、殴られレイプされることを拒否すること、戦争とその副作用の代償を支払うことを拒否すること、これらすべてが、私たちが今生きている戦争政治に対する一つの強力なトランスナショナル・ストライキになり得るのです。