(声明)警察法改悪反対、サイバー警察局新設に反対します

以下、転載します。(警察法改悪反対・サイバー局新設反対2・6実行委員会のウエッブから) 団体賛同は3月4日に第二次締め切り


団体賛同を募っています。(詳しくはこちらへ)

1月28日に国会に提出された「警察法の一部を改正する法律案」において、警察庁は新たに「サイバー警察局」の新設と長官官房機能の大幅強化を打ち出し、大幅な組織再編を計画しています。私たちは、以下の理由から、警察法改正案には絶対反対です。

(1) 言論・表現を専門に取り締る警察組織の新設。

「サイバー」領域とは、私たちが日常生活の基盤として利用している電子メール、SNSなどによるコミュニケーションの領域そのものであり、憲法電気通信事業法などで「通信の秘密」が保障されている領域でもあります。また、コミュニケーションの自由は、言論、表現の自由、思想信条や信教の自由の必須条件でもあり、民主主義の基盤をなすものです。このような私たちのコミュニケーション領域は、一般の市民だけでなく報道機関も利用し、選挙など政治活動の場でもあり、医療関係者や弁護士など人権に関わって活動する人々の基盤をなすものです。サイバー警察局は、高度な技術力を駆使して、こうした活動そのものを犯罪の疑いの目をもって捜査対象に据えることになります。

(2) 都道府県の警察の枠組を超えて警察庁が捜査権限を持つことが可能な組織再編。

法案では「サイバー」領域について、警察庁みずからが各都道府県の警察の枠組を超えた捜査権限をもつことを可能にする制度、人事、そして技術力の確保を提案しています。各都道府県警察の権限は大幅に後退することになり、将来、更に「サイバー」以外の分野での警察の中央集権化への道筋をつけるものになりかねません。また、警察庁長官官房が、情報技術に関連する広範囲にわたる権限を持つことになり、技術が重要な役割を果す「サイバー」領域に関しては、民主主義的な検証が行なえず、警察が思いのままに網羅的な監視技術を拡大させうるものになります。戦前の国家警察の反省から生まれた自治体警察の枠組は、事実上骨抜きにされることになるでしょう。

警察はこれまでにわかっているだけでもすでに、被疑者写真約1170万件、指紋1135万件、DNA型141万件など膨大な個人情報収集しています。(204回国会 参議院 内閣委員会2021年5月11日) また捜査機関の民間通信事業者への問い合わせ件数も膨大な数です。(2021年上半期、Lineだけで1,421件の情報開示)しかし、その実態はほとんど明らではありません。そして、人々のコミュニケーションがインターネットのメールやSNSを中心としたものになるなかで、ビッグデータと呼ばれる膨大な個人情報収集の仕組みが普及し、これをAIで解析することによって人々の行動や考え方に影響を及ぼすことができる時代になっています。

こうした時代状況を踏えたとき、法案が意図するサイバー警察局は、私たちの日常的なコミュニケーションを常時監視し、分析し、取り締る言論警察、思想警察あるいはサイバー特高警察と言ってもいいような存在になることは容易に予想できることです。

以上から、私たちは、警察法の一部を改正する法律案に強く反対します。

2022年2月14日

呼びかけ団体:警察法改悪反対・サイバー局新設反対2・6実行委員会(注)

(LeftEast)プーチンのウクライナに対する帝国主義的戦争を非難する

以下は、LeftEastが出した声明の翻訳です。包括的に、左派がとるべきスタンスを端的に提起していると思います。LeftEastは、東欧からロシアの地域を中心に左翼運動と思想の発信メディアとして優れた論評の公開の場となってきました。最近は特にジェンダーの問題にも傾注しています。


LeftEast
2022年2月25日
LeftEastのメンバーは、ウクライナで戦争にエスカレートした暴力的な軍事侵略に愕然としている。これは、この数十年間見られなかった規模の流血に我々の地域を投げ込む恐れがある。私たちは、クレムリンの犯罪的な侵略を明確に非難し、ロシア軍を国際国境まで撤退させることを要求する。私たちは、この戦争を引き起こした米国、NATO、およびその同盟国の責任を忘れてはいないが、現在の状況における明らかな侵略者は、ロシアの政治的・経済的エリートである。私たちは、ロシアの許しがたい帝国主義的なウクライナ侵略を暴露することに努力を傾注するが、NATOのアグレッシブな拡大とウクライナのポスト・マイダン体制もこうした方向に道を開いたのである。革命的精神とウクライナ、ロシア、地域の人民との連帯のもとに、私たちは、今日のモスクワに「ノー!」と言い、将来のモスクワとNATOの間の誤った選択に「ノー!」と言う。私たちは、即時停戦と交渉のテーブルへの復帰を要求する。グローバル資本の利益とその軍事機械は、人民の血の一滴にも値しない。平和と土地とパンを!

「サンクトペテルブルクで発見されたグラフィティ。画像は https://twitter.com/submedia より

私たちは、私たちをこうした状況に導いた、少数独裁資本主義oligarchic capitalism、権威主義的新自由主義、そしてグローバルな反共勢力によって培われた地域反共主義を拒否する。プーチン自身が2月21日の「歴史演説」で「非共産化を望むか?まあ、私たちにはそれがお似合いだ。しかし、よく言われるように、中途半端なところでやめる必要はない。ウクライナにとって本当の非共産化が何を意味するのか、見せる用意がある 」と脅した。今日のクレムリンによる攻撃は、断絶が一気に進んだことを表している。少数の右翼政治家が利益を得ることは確かだが、ほとんどの人にとって、極端なナショナリズムや極右思想は、苦しみと憎しみの連鎖をもたらすだけである。経済的には、この反共産主義が、ロシア、ウクライナ、東欧全域で見られる少数独裁資本主義、そして貧困をもたらした。政治的には、かろうじて国民の代表であるかのように装う政府をもたらした。

私たちは、次のことを強く主張する。

(1) 私たちは、この直接的な戦争行為についてクレムリンの責任を追及する! ロシア国家は、まったく反動的な帝国への郷愁の名において、また、過去と現在の東欧の革命運動によって例示された国際主義的連帯に明確に対抗して、ウクライナに侵攻したのである。プーチンの「偉大なるロシア」ナショナリズムは、東欧の豊かな文化的多様性を否定することによって、国際的地位を獲得しようとする犯罪的かつ無益な試みである。私たちは、この地域のすべてのエスニックコミュニティとともに立ち、すべての人のためのよりよい世界のための闘いを通じた平和的連帯のビジョンを支持する。

(2) 私たちは、この戦争の発端はクレムリンであり、今日の主要な侵略者であると考えるが、この悲惨な状況に対して米国とその多くの同盟国、そして多国籍資本が負っている責任も念頭に置いている。NATOの拡大に対するロシアの懸念についてロシアとの交渉を拒否したことが、ウクライナ政府を含む多くの人々が非エスカレーションを求めたにもかかわらず、戦争の炎を燃え上がらせてしまったのである。パンデミックの後、米国や他の先進資本主義国の経済・政治エリートは、失敗しつつある民主主義の正当性と欧州大西洋「統合」の経済ヘゲモニーから人々の目をそらそうと考えた。彼らは、東欧の人々の犠牲の上に、資本蓄積の活性化を推し進めた。好戦的な敵であり、現代の帝国主義者であるプーチンは、ロシアとウクライナの社会的再生産の悲惨なポスト社会主義とパンデミック関連の危機を利用して、ナショナリズムの感情に火をつけ、古いエスノナショナリズムの紛争から利益を得つつこれを(再)生産するために、今、このようなことをしている。搾取的で拡張主義的な欧州大西洋「統合」は、今や権威主義者にとっての開戦理由となっている。それが、ウクライナで本格的な戦争に発展している。

(3) 私たちは、皮肉にもプーチンと彼の「非共産化」の約束によって具現化された地域的反共産主義を拒否する。彼は羊の皮をかぶった狼のような連帯を左派の一部から得ており、プーチンを「共産主義者」とみなそうとするリベラルな人々がいるが、彼の政府は野党のロシア左翼the Russian Left、反ファシスト、アナキスト、反戦運動を排除し、残忍な扱いをしてきた。しかしまた、決定的に重要なこととして、私たちは、ロシア、ウクライナ、および東欧の小市民的日和見主義的政権において、軍国主義的右翼のレトリックと他人の不幸から利益を得ることを組み合わせて、ナショナリズムと極右思想を育む少数独裁資本主義に基づく反社会的な体制を拒否する。

(4) 私たちは、ここ数年のロシアとウクライナ双方における、いわゆる「非共産化法および非共産化改革decommunization laws and reforms」を拒否する。ロシアとUSA/NATOという私たちにとっての二つの「敵の陣営」は、権威主義的反共主義的新自由主義の道を歩んできた帝国主義・資本主義勢力である。彼らが共有するこの道をウクライナもまた歩んでいるが、とりわけ、新自由主義的労働法、土地へのアクセスを妨げることを目的とした土地「改革」、小農民の追い立て、そしてここ数年の経済・社会政策改革によって証明されているように、人々は搾取や貧困のリスクに極めて脆弱になり、ロシアとウクライナだけではなく地域とグローバル双方に影響を与える前例のない社会経済危機を招いている。
(5) 現在のウクライナ政府を美化して完全に民主的な自由の担い手であるというのと現実は異なり、私たちはウクライナのポストマイダン体制に疑問を投げかけている。すなわち、左翼や野党への弾圧、主要野党の追放、人気のある反政府メディアの封鎖、差別的言語政策、ウクライナの政治・エスニック・文化の多様性を認識し受け入れようとしないこと、過去7年間のミンスク合意への妨害行為などだ。ウクライナの極端な「非共産化」改革もまた、私たちが単に過去の持続不可能な状況への回帰を望むことはできないことを明らかにしている。

(6) 私たちは、人種差別的で軍国主義的な欧州大西洋の統一や、報復主義的なユーラシア主義に救いを求める陣営主義の解決を拒否し、その代りに、ラディカルな社会変革、民主主義、労働者の権力、インクルーシブであること、そして解放のための真の闘いを支持する。

(7)血と貧困と分裂しか予感させないこれらの反動的イデオロギーに対して、私たちは、東欧の革命運動の遺産を支持する。その(多くの)伝統の中で我々は、資本主義、帝国主義、軍国主義に対する闘いと宗教、エスニック、ジェンダー平等の約束を批判的に追及する。この闘いは、ウクライナ人とロシア人、そしてこの地域の歴史的に抑圧されてきたグループ―ロマ、ユダヤ、タタール、移民コミュニティ、女性、性的マイノリティ―にとって、より良い未来への唯一の希望であり、すべての労働者とこの地域で抑圧されている人々との連帯である。この精神に基づき、我々はウクライナとロシアの政治犯への連帯と、両国のラディカルな反資本主義的な民主主義のための運動とその勢力への支持を宣言する。

私たちは、即時停戦、経済的・政治的エリートには影響を与えるが影響を受ける国の労働者や人民には影響を与えない反戦の努力、そして私たちの地域を戦争に巻き込んだ平和プロセスと社会・経済政策における過去の過ちを棚卸しする交渉を求める。私たちは、ウクライナとロシアの反資本主義・反戦運動と連帯する。私たちは、自由民主主義の約束に幻想を抱いていない。階級闘争以外に戦争はない!

私たちは、まだ戦争の影響を受けていない国の同志に、ウクライナや他のすべての紛争地域からの難民を完全かつ人道的に受け入れるよう自国政府に圧力をかけ、平和への道を迅速に描くことを要求し、侵略と好戦的愛国主義によって生活(命)の影響を受けている人々との連帯を表明するよう求めます。私たちには、左翼の国際主義と平和主義の歴史がある。

ウクライナのインフラと市民社会へのサイバー攻撃は人権侵害だ

以下は、EUおよびウクライナのコミュニケーションの権利団体が共同で出した声明の日本語訳(JCA-NET)を転載しました。


ウクライナのインフラと市民社会へのサイバー攻撃は人権侵害だ
2022年2月18日|午後5時19分
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更新日 2022年2月24日 – 私たちは、重要なサービスやインフラに影響を及ぼすサイバー攻撃が続く中、国中の人口密集地を標的としたロシアの大規模な軍事侵攻に耐えているウクライナの人々とともにあります。デジタルの権利侵害はオフラインの暴力を可能にし、エスカレートさせます。人々の安全と幸福に不可欠なデジタルシステムを標的とした計算された攻撃は、容認できるものではありません。

国際社会は、ウクライナの市民社会と最も危険にさらされている人々を支援するために、以下の提言を早急に取り入れる必要があります。ウクライナでデジタルサービスを提供し、機密性の高いユーザーデータを扱うすべての公共および民間事業体は、潜在的なセキュリティおよび人権問題について自社のサービスを早急に見直し、サービスへの予想される影響をユーザーに明確に伝え、この危機の中、そしてウクライナ政府に取って代わるというロシアの明白な意図を考慮して、自社のスタッフや関係者の福利厚生について検討する必要があります。MetaCloudflareを含む技術系企業(日本語)が、ウクライナのユーザーを保護するために、特別なセキュリティ対策を実施し、言語の専門家を含む特別オペレーションセンターを設置する初期の努力を歓迎します。我々は、情報操作や悪用に注意を払いながら、ユーザーがアカウントやデータを簡単にロックダウンまたは削除できるようにし、ネットワーク、アプリ、サービスのセキュリティと回復力を強化するために、技術系企業が迅速に行動を起こすことを奨励します。また、ウクライナ、ロシア、その他の国々の市民社会の声を確実にオンラインに残し、検閲の試みから保護するようプロバイダーに要請しています。


ロシアによる8年にわたるウクライナへの武力侵略と、現在進行中の大規模な侵略の脅威と並んで、ウクライナの重要インフラと市民サービスに対するサイバー攻撃は、人々の人権を危険にさらしています。我々は国際社会に対し、ウクライナとその人権擁護者に対し、人々がサイバー脅威から守られるよう、必要な支援を提供するよう要請します。

ウクライナの重要インフラを標的としたサイバー攻撃は、人々の人権を損なっています。2022年1月13~14日2月15日の直近の攻撃では、二つの大手国立銀行や、新生児の両親の支援からCOVID-19ワクチン接種の証明の提供まで、50以上の公共サービスへのアクセスを人々に提供する電子統治プラットフォームDiaなど、重要公共サービスインフラが標的とされています。サイバー戦争は人権に対する攻撃であり、人々のプライバシー、表現の自由、安全・安心、情報へのアクセスに壊滅的な影響を与えます。サイバー攻撃は、電力網、病院、政府サービスなどの重要なシステムをオフラインにし、緊張を悪化させ、危機を悪化させ、人命を危険にさらす可能性があります。

ジャーナリスト、市民社会組織、人権擁護者標的としたサイバー作戦は特に憂慮すべきものであり、いかなる状況においても禁止されるべきものです。市民の自由、権利、民主主義を守るために活動する個人は、それ自体が重要なインフラであり、しばしば直接サービスを提供し、最も弱い立場の人々のニーズを擁護しているのです。

行動への呼びかけ

国際社会は一丸となって、ウクライナとその人権擁護者に対し、継続的なサイバー脅威への耐性を高めるとともに、過去の攻撃の調査や加害者の責任を追及するための追加支援を行う必要があります。

1. ジャーナリスト、市民社会、人権擁護者への直接支援

ウクライナの市民社会に対して、彼ら自身と彼らのサーバーやデバイス上の機密データを保護し、将来の攻撃を防ぐための技術的手段を提供することが急務となっています。我々は、技術系企業、非営利団体、資金提供者が支援プログラムを拡大し、ウクライナの活動家に無料で安全なVPN、ウイルス対策プログラム、暗号化、DDoS保護、その他の不可欠なデジタルツール、機器、サービスを提供することを強く求めます。

デジタル・セキュリティの支援を必要とする市民社会組織、人権擁護者、ジャーナリストは、アクセス・ナウの24時間365日対応のデジタル・セキュリティ・ヘルプラインhelp@accessnow.org)に接続することができます。

2. 明確で人間優先のサイバーセキュリティ基準の確立と維持

サイバーセキュリティおよびサイバー犯罪の法および規範を推進する国連機関およびその他の国際機関は、その作業において人権を中心に据え、人間中心のアプローチをとり、サイバー攻撃を許可または実行する者を非難すべきです。

来たる第49回国連人権理事会に参加する諸国は、サイバー戦争がウクライナの人権を脅かすものとして非難し、その人権への影響の調査を求め、加害者に責任を取らせる措置を取るべきです。さらに、人権擁護者、偽情報、および関連するテーマに関するすべての決議が、デジタルの権利保護を強化し、監視、検閲、接続の遮断による人権への影響に注意喚起する必要があります。

3. 現在の緊張をエスカレートさせ、利用しようとする企てを阻止すること

ソーシャルメディアプラットフォームやその他のテクノロジー企業は、ロシアとウクライナの紛争における緊張をエスカレートさせることを目的とした偽情報キャンペーンの拡散を防ぐために必要な投資を行う必要があります。

同様に、政策立案者とインターネット・サービス・プロバイダーの双方は、偽情報を口実にインターネットや通信プラットフォームへのアクセス制限を正当化することを控えるべきです。表現の自由や情報へのアクセスを制限することは、不安や不確実な時に弱い立場の人々にとって特に危険をまねき、彼らをさらに危険にさらすだけです。

政府とテクノロジー企業は、現在の緊張状態を利用して破壊的で犯罪的な活動をカモフラージュしようとする不正な行為者からも注意深く守らなければなりません。人権を損なうサイバー攻撃については、たとえ特定の政府関係者に直接起因しない攻撃であっても、きちんと調査することが不可欠であり、これを放置することは全体的な不処罰の環境を助長することになるからです。

署名者

Access Now
Centre for Democracy and Rule of Law
Digital Security Lab Ukraine

出典:https://www.accessnow.org/cyberattacks-ukraine-human-rights/

ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアの政治秩序を不安定にしかねない

以下はTruthoutの論文の翻訳です。



米英の当局者やメディアは、以前からロシアのウクライナ侵攻が「間近に迫っている」と警告している。このような侵攻の見通しがどうであれ、ロシアの政治体制の性格と、侵攻によってそれがどのように変化しうるかという重要な問題を提起しているのも事実である。

投稿者
ヴォロディミル・イシチェンコ著
投稿日
2022年2月21日

米英の当局者やメディアは、以前からロシアのウクライナ侵攻が「間近に迫っている」と警告してきた。そのような侵攻の見通しがどうであれ、ロシアの政治体制の性格と、侵攻によってそれがどのように変化しうるかという重要な問題を提起しているのも事実である。

多くの人が言っているように、仮にロシアがウクライナ軍を破り、ウクライナの大部分(特に南東部と中部)を占領できたと仮定してみよう。問題は、このウクライナの一部をどうするかである。問題は、ロシア軍に対するウクライナの大規模なゲリラ戦の可能性が低いことにあるのではない。問題は、現在のようなロシア国家が、ウクライナ人にも世界にもほとんど何も提供できないことである。

ロシア帝国主義の復活、ドンバス問題を武力で解決しようとするウクライナ、NATOの拡大、ノルドストリーム2(ドイツとロシアを結ぶガスパイプライン)の土台が掘り崩されること、米英の国内政治、あるいはこれらの組み合わせなど、現在のエスカレーションの背景に何があるにせよ、ロシアは、「差し迫った侵略」というメディアのキャンペーンには真の根拠がないと思わせるようなことを現在ほとんど何もしておらず、単にそう言っているに過ぎないのである。

ウクライナに親ロシア政権を樹立すれば、ロシアにとってこれらの問題のいくつかは確実に解決される。しかし、ロシアが軍事侵攻のコスト(後述するものもある)を負担する用意があるとか、現在進行中のエスカレーションがそうした試みの一環であると考えるべきでもないだろう。しかし、ロシアは、その強圧的な外交戦略の中で実際に何を計画していのるかにかかわらず、侵攻が可能であるとの信念を広めたいと考えているようだと認識することはできる。

ウクライナでゲリラ戦が起こりそうにない理由

最近の世論調査によると、ウクライナ人の33%がロシアが介入してきた場合に武力抵抗する用意があり、さらに22%が非暴力抵抗に賛成しているという。しかし、この2つの数字は懐疑的に見るべきだろう。

第一に、他の世論調査でも、ロシアの侵攻を防ぐために生活の質を犠牲にする覚悟のあるウクライナ人はそれほど多くないことが示されている。例えば、11月末の調査では、ウクライナ国境沿いのロシア軍増強の可能性に対応するための戒厳令の発動を支持する市民は33%にすぎず、58%が反対している。

第二に、このような世論調査の結果は、市民の公言する意図を示すだけで、実際の行動を予測することはできない。多くの人は、愛国者や「本物の男」から社会的に期待される回答をする傾向がある(「もちろん、戦うさ、俺はシシーじゃない!」)。例えば、2014年4月に行われた世論調査によると、ウクライナ南東部にロシア軍が侵攻した場合、(西部よりも親ロシア的な)南東部の住民の21%が「武装抵抗の準備がある」と回答している。しかし、この数百万人のうち、直後にドンバスで戦争が始まったときに戦場に行ったのはごく一部である。

ロシアはウクライナを占領することで、ロシア国内からの不安定化のリスクを高め、自らを弱体化させることになる。世論調査によれば、ウクライナとの大規模な戦争はロシア人の間で人気がない。

現在、英米圏のメディアの出版物は、ウクライナ人(女性子供を含む)がロシア軍と戦う準備ができているように描いているが、ほとんどのウクライナ人の現実をうまく表現していない。本当に戦うのはごく少数の人々だけである。軍や警察の残党、ドンバスですでに戦った退役軍人や志願兵の一部、そして右翼の過激派(悪名高いアゾフ運動Azov movementなど)であろう。ロシア軍に対する彼らの抵抗は、もちろん、アフガニスタンほど強くはないが、2014年以降の分離主義的なドンバスほど弱くはないだろう。しかし、その抵抗は、親ロシアのウクライナで確立された政治体制を、旧ソ連全体で最も抑圧的なもののひとつにするのに十分なものであるだろう。

親ロシアのウクライナで何が起こるか?

さらに、仮に親ロ政権が誕生した場合、ウクライナの人々の間ではその権力の正統性が低くなることが予想される。政府は直ちに西側の制裁下に置かれるため、西側であまり財産を持っていない人々から形成される必要がある。ウクライナの政治エリートには、あまり選択肢がない。したがって、新政府はユーロマイダン革命で解任された一部の古参幹部(一部はロシアに去ったが、多くはウクライナに残った)とマージナルな政党の代表で構成されることになるだろう。英国外務省が最近発表した親ロ派政権の可能性リストは、本格的な計画とは言い難いが、ロシアがウクライナに忠実な政府を形成する上でどのような問題に直面するのかを示している。

当初は受動的であった人々は、より多くの弾圧を受け、西側の制裁によってさらなる困難に直面する可能性がある。ここに、正統性に乏しい新政府が加わる。親ロシア派政府に対する主な抵抗勢力は、おそらく武装しておらず、非武装であろう。その基盤は大都市の中産階級であり、彼らの状況は最も急激に悪化する可能性が高い。

同時に、ウクライナはロシアやベラルーシと同じ政治空間に入り込み、これらの国の政府に対する国内の反発を実際に強めるだろう(孤立したものではなく、以前の暴力的でナショナリストのユーロマイダンEuromaidanの抗議行動で起こったように)。ロシアはウクライナを占領することで、内部からの不安定化のリスクを高め、自らを弱体化させるだろう。世論調査は、ウクライナとの大規模な戦争はロシア人の間で人気がないことを示唆している。

占領によってどの社会集団が利益を得るのか、親ロシア派政府は誰に頼ることができるのか、明確ではない。数千万人のウクライナ人の生活水準を向上させることで、制裁や弾圧の影響を相殺するロシアの能力は非常に限られている。併合されたクリミアでは賃金や年金が引き上げられ、ロシアは半島に多額の投資を行っているが、一般的な経済状況はまだロシアの最貧地域と同程度である。親ロシア派のウクライナを想定した場合、何らかの上辺だけにせよ社会的正統性を確保するために必要な資源の動員や抜本的な再分配は、ポストソビエト・ロシアの利益供与型資本主義とは相容れないものであろう。

米国政府関係者の中には、プーチンがソビエト連邦を復活させようとしていると懸念する者もいる。しかしそのためには、軍事的な拡大以上に、現代ロシアを根本的に変革する必要があることを、彼らは概して無視している。

受動革命?

左翼の論評の中には、ポスト・ソビエトの変容を受動革命の事例として説明しようとする者もいる。この言葉は、イタリアのマルクス主義者アントニオ・グラムシによって有名になった。グラムシはこの言葉をさまざまなプロセスに使ったが、とりわけ、19世紀に外国王朝の支配下にあった小国や領土の寄せ集めからイタリアを統一した「リソルジメント」に対して用いた。周知のように、これは進歩的なブルジョアジーの覇権の下での民衆革命としてではなく、サルデーニャ・ピエモンテ王国の軍事・外交行動によって行われたのである。プーチンは今、利益供与的なブルジョアジーとソビエト連邦の再統一を夢見る左翼運動の政治的弱さを軍事力で補って、ポストソビエト空間において「ピエモンテの機能」を果たしているというのだろうか。

ウクライナを占領する試みは、ロシアの支配階級に、その支配を不安定にする高いリスクを冒すか、その基盤を根本的に見直すかの選択を迫るものであろう。

受動革命とは根本的な違いがいくつかある。イタリアでは、受動革命によって、より強力で近代的な独立国家が誕生した。ブルジョア秩序と国民国家への移行が行われた。革命的な変革は、(フランス革命のときのように)「下から」の封建貴族に対するジャコバン派の革命的な脅威を防ぐために「上から」行われた。

問題は、新たな「ジャコバン」的社会革命の脅威のもとでの強制的近代化という意味での、ポスト・ソビエトの受動革命が存在しないことである。ポスト・ソビエトの変容は、実はソビエト連邦崩壊のずっと前に始まっていた進行中の危機なのである。これらの変革は、実は、近代化ではなく、停滞と脱近代化のシグナルなのである。ポスト・ソビエトのマイダン革命は、ポスト・ソビエトの支配階級である利益供与型資本家を脅かすものではなく、その階級の一派が別の派閥に取って代わることを助けたに過ぎないのである。

「文明的」アイデンティティ政治

今のロシアの問題は、「ソビエト帝国」を復活させようとしていることではない。問題は、ロシアが大国外交を行おうとしているが、もはやソ連ではないことである。

かつてソ連を信じる人が少なくなったとしても第三世界や大衆運動を味方につけ、東欧のように力ずくで近代化に成功した国ですら大きなノスタルジアを呼び起こした普遍的な進歩的プロジェクトは、今のロシアには存在しない。今、ロシアは「ソフトパワー」の魅力不足を、強圧的な外交という「ハードパワー」で補っている。

これは、ロシアの悪名高い 「事なかれ主義 」と関係がある。相手に対して自分が持っている優位性を明確にすることが困難な場合、人は、自分がクラブの他の皆と同じ「権利」を持っているとされる否定的な特性や行動のノーマライゼーションに頼ろうとする。例えば、クリミア併合を正当化するのは、それ以前にNATOがユーゴスラビアを空爆し、コソボの独立を認めたからである。これは、ポストソビエトのヘゲモニーの危機がいまだ解決されていないことの表れであり結果である。真に覇権的な支配のためには、「彼らは我々より劣っている」と言うだけでは不十分である。”我々は確かに彼らより優れている “と納得させることが決定的に重要なのである。

2021年春のロシア・ウクライナ間のエスカレーションを受けたジュネーブでのプーチン・バイデン首脳会談後、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、欧米列強による「国際ルール」の選択的適用を批判する論文を発表した。ラブロフによると、「ルール」は恣意的であり、少数の国によって確立されたものだという。国際法に基づくものではなく、国連などの場で議論されてもいない。この批判を、ラブロフは 「民主主義 」という言葉で言い表している。西側諸国は「内なる」民主主義の侵害には敏感だが、ロシアをはじめとする非西側諸国の主権と国家イデオロギーに対する権利を認めるような「外なる」国際民主主義は望んでいないと主張した。欧米は多極化する世界の現実を認識していない、と書いている。プーチンと習近平が署名した最近の共同声明も、基本的に同じ論旨で始まっている。

しかし、ここでラブロフが主張しているのは、民主主義ではなく、一種の「文明」的なアイデンティティ・ポリティクスである。西欧覇権下の世界とは対照的な多極化した世界を認めるべきという要求には、ロシアがより良く代表するような人類のための何らかのポジティブなプロジェクトに基づいていないのである。むしろラブロフは、もっぱらその明確なアイデンティティの主張に基づいて国際レベルで受け入れられ、対等に扱われる文明的アイデンティティに訴えるという自らに割り当てられた役割への権利を要求したにすぎない。

ロシアはウクライナと世界に何を提供できるのか?

昨年夏、プーチンはウクライナとロシアの歴史と関係に関する有名な論文を発表し、ウクライナ人とロシア人は “一つの同じ民族 “であると主張した。ロシア語やウクライナ語で “people “は、文化的に異なるエスニックグループと政治的な国民の両方を意味する言葉である。この論文は、プーチンがウクライナの主権を認めず、侵略の脅威を正当化したものと解釈されることが多い。しかし、これは誤解を招きやすい単純な解釈である。プーチンは、ロシアとウクライナの望ましい関係は、ドイツとオーストリアのような関係であり得ることを示唆している。プーチンの構想では、ウクライナとロシアは「同じ国民」の2つの国家であり、複雑な歴史的経緯から別々ではあるが、異なるバージョンの地域文化的アイデンティティを表現し、平和的に共存することが可能だとする。

しかし、これは「同じ国民」の2つの国家の唯一可能なモデルではなく、プーチン自身が東ドイツでどれだけ長く働いたかを考えると、おそらく最も自明なモデルではないだろう。驚くべきことに、彼はロシアとウクライナの関係を、ドイツ連邦共和国(FRG)とドイツ民主共和国(GDR)の関係のように明確にはしていない。プーチンの語り方では、ウクライナ人とロシア人は、外国勢力によって人為的に分断された「同じ国民」なのだ。彼は「A」とは言うが、「B」とは言わない。「同じ国民であれば、我々の国家の方が優れている。我々はより良いモデルを提供し、最も強い者が生き残るようにする」。プーチンがこれを言わないのは、ウクライナの主権を認めているからではなく、ウクライナの略奪的寡頭制エリートや民族主義的市民社会よりも根本的に優れたモデルを提示できないからだ。

多くの人が、ロシアが国際秩序を修正しようしていると非難している。実際には、ロシアの報復主義は修正主義ではなく、現状維持のための保守的な防衛策であり、大国の地位にしがみつこうとする試みである。ここに、現在のロシアのレトリックが国際的にアピールする限界がある。世界は、現状維持よりも、変化と世界的な大問題の解決を必要としている。

プーチンは昨年のバルダイ・クラブ Valdai Clubでの演説で、自らのビジョンを「健全な保守主義」と表現し、「後退し、混沌に沈むことを防ぐ」ことを第一義に掲げたことが話題になった。しかし、ロシアの「文明」だけでなく、人類全体の普遍的な価値観について問われると、非常に簡潔かつ曖昧な表現にとどまった。

ウクライナ占領の試みは、ロシアの支配階級に、その支配を不安定にする高いリスクを取るか、その基盤を根本的に見直すかの選択を迫ることになる。今のところ、彼らが第二のシナリオに対応する準備ができている兆候はない。しかし、この危機がどのように終結しようとも、核世界戦争に発展する直前で、ロシアの大国としての主張と後進的な政治・社会秩序との間の緊張を高めることになるだろう。

著作権、Truthout.org。許可を得て転載。

Volodymyr Ishchenko ベルリン自由大学東欧研究所の研究員。抗議行動と社会運動、革命、急進的な右翼と左翼の政治、ナショナリズムと市民社会を中心に研究している。現代ウクライナ政治、ユーロメイダン蜂起とそれに続く2013年から14年にかけての戦争に関する多くの査読付き論文やインタビュー記事を執筆し、Post-Soviet Affairs, Globalizations, New Left Reviewなどのジャーナルに掲載された。2014年以降、The GuardianやJacobinなどの主要な国際メディアへの寄稿も目立つ。共著『マイダン蜂起、ウクライナにおける動員、急進化、革命、2013-2014年』(原題:The Maidan Uprising、Mobilization, Radicalization, and Revolution in Ukraine, 2013-2014)を執筆中。

出典:https://truthout.org/articles/a-russian-invasion-of-ukraine-could-destabilize-russias-political-order/

普通のロシア人はこの戦争を望んでいない

以下はJacobinの記事の翻訳です。


02.24.2022

イリヤ・マトヴェーエフ イリヤ・ブドレイツキス
ウラジーミル・プーチンはウクライナへの侵攻を開始し、自軍がウクライナの抵抗を制圧できると考えているようである。しかし、この攻撃はプーチンの政権を大きく揺るがしかねない。ロシア人はすでに、戦争に対する熱意を著しく欠いているのだ。

ロシアが昨夜、ウクライナを攻撃した。最悪の事態が確認された。侵略の程度は完全に把握されていないが、ロシア軍が南東部(いわゆる「人民共和国」の国境沿い)だけでなく、国中のターゲットを攻撃したことはすでに明らかである。今朝、各都市のウクライナ人は爆発音で目を覚ました。

ウラジーミル・プーチンは、この作戦の軍事目的、すなわちウクライナ軍の完全降伏を明確にしている。政治的な計画はまだ不明だが、おそらくキエフに親ロシア政権を樹立することを意図している可能性が高い。ロシア指導部は、抵抗はすぐに打ち破られ、ほとんどの一般ウクライナ人は新政権を忠実に受け入れると想定している。ロシア自身への社会的影響は明らかに深刻である。すでに午前中、欧米の制裁が発表される前から、ロシアの証券取引所は崩壊し、ルーブルの下落はあらゆる記録を更新している。

昨夜のプーチンの演説は、戦争の開戦を宣言したものであり、帝国主義と植民地主義の隠しようもない言葉があらわだ。その意味で、20世紀初頭の帝国主義国家のように公然と発言しているのは、彼の政府だけである。クレムリンはもはや、NATOの拡大さえも含む他の不満の陰に、ウクライナに対する憎悪と懲罰的な「教訓」を与えたいという願望を隠すことはできない。これらの行動は、合理的に理解される「利益」を超えて、プーチンが理解する「歴史的使命」の域にある。

2021年1月にアレクセイ・ナヴァルヌイが逮捕されて以来、警察と治安当局はロシアにおける組織的な反対派を本質的につぶしてきた。ナヴァルヌイの組織は「過激派」とみなされて解体され、彼を擁護するデモは約1万5000人の逮捕者を出し、ほとんどすべての独立系メディアは閉鎖されるか「外国のエージェント」の烙印を押されて、その活動が厳しく制限された。戦争に反対する大規模なデモは起こりそうにない。それを調整できる政治勢力はなく、一人ピケを含むいかなる路上抗議行動への参加も、迅速かつ厳しく罰せられる。ロシアの活動家や知識人は、この出来事にショックを受け、意気消沈している。

ひとつ心強い兆候は、ロシア社会で戦争への明確な支持を見出すことができないことだ。最後の独立系世論調査機関であるレバダ・センター(ロシア政府から「外国人工作員」の烙印を押された)によれば、ロシア当局によるドネツクとルガンスクの「人民共和国」の公式承認を支持しないロシア人は40%、支持するロシア人は45%である。「国旗の周りに結集する」兆候は避けられないが、主要メディアソースを完全に掌握し、テレビでプロパガンダ的なデマゴギーを劇的に展開しているにもかかわらず、クレムリンが戦争への熱意を煽ることができないのは驚くべきことである。

2014年のクリミア併合に続いて起こった愛国的な動員のようなものは、今日では何も起こっていない。この意味で、ウクライナ侵攻は、クレムリンの対外的な侵略は常に国内での権力の正統性を支えることを目的としているという定説を否定するものだ。それどころか、むしろこの戦争は政権を不安定にし、「2024年問題」(ロシアが次に大統領選を行う際に、プーチンの再選を説得力のある形で示す必要性)があるため、その存続さえある程度脅かすことになるだろう。

世界中の左派は、「ロシアのウクライナ侵攻にノー」というシンプルなメッセージのもとに団結する必要がある。ロシアの行動は正当化できない。ロシアの行動は苦しみと死をもたらす。この悲劇の時代に、私たちはウクライナとの国際的な連帯を呼びかけます。

著者について
イリヤ・マトヴェーエフIlya Matveev:ロシアのサンクトペテルブルグを拠点とする研究者、講師。Openleft.ruの創設編集者であり、研究グループPublic Sociology Laboratoryのメンバーでもある。

イリヤ・ブドレイツキーIlya Budraitskisは、モスクワを拠点とする左翼の政治批評家。
https://jacobinmag.com/2022/02/ordinary-russians-war-outbreak-ukraine-vladimir-putin

ウクライナでネオナチの宣伝に協力する欧米メディア

以下はFairの記事の翻訳です。

FEBRUARY 23, 2022

JOHN MCEVOY

BBC image of a young boy receiving weapons training from a neo-Nazi brigade
ネオナチ旅団から武器訓練を受ける少年のBBC画像

商業メディアが戦争を推進するとき、彼らの主要な武器の一つは、省略によるプロパガンダである。

最近のウクライナ危機の場合、西側ジャーナリストは、冷戦終結後のNATOの拡大や、2014年のマイダンクーデターに対する米国の支援に関する重要な文脈を省略している(FAIR.org、1/28/22)。

省略によるプロパガンダの3つ目の重要なケースは、ネオナチのウクライナ軍への統合に関するものだ(FAIR.org、3/7/141/28/22)。もし企業メディアが、ネオナチが入り込んだウクライナの治安機関に対する西側の支援や、これらの部隊がアメリカの外交政策の最前線の代理人として機能していることについてもっと批判的に報道すれば、戦争に対する国民の支持は減り、軍事予算はもっと疑問視されるかもしれない。

最近の報道が示すように、この問題を解決するひとつの方法は、ウクライナのネオナチという不都合な事柄にまったく触れないことである。

アゾフ大隊

MSNBC: Growing Threat of Ukraine Invasion
アゾフ大隊のナチスをイメージしたロゴは、MSNBCの番組で見ることができる(2/14/22)。

2014年、アゾフ大隊はウクライナ東部の親ロシア派分離主義者との戦闘を支援するため、ウクライナ国家警備隊(NGU)に編入された。

当時、この民兵がネオナチズムと関係していることはよく知られていた。部隊のロゴにはナチスを連想させる「ヴォルフス天使」のマークが使われ、兵士の戦闘ヘルメットにはナチスの記章が付けられていた。2010年、アゾフ大隊の創設者は、ウクライナは「世界の白色人種を率いて、セム人主導のUntermenschenに対する最後の十字軍を行うべきだ」と宣言している。

アゾフ大隊は現在、NGUの正式な連隊であり、ウクライナ内務省の権限のもとで活動している。

「銃を持ったおばあさん」

London Times: Leaders in Final Push to Avert Ukraine Invasion
79歳の女性に突撃兵器の使い方を訓練している人々(ロンドンタイムズ、2/13/22)がファシスト勢力のメンバーであることを指摘すれば、この画像の心温まる側面が損なわれてしまうだろう。

2022年2月中旬、ウクライナをめぐる米露間の緊張が高まる中、アゾフ大隊は港町マリウポルでウクライナの民間人向けに軍事訓練コースを開催した。

AK-47の扱いを学ぶ79歳のウクライナ人、ヴァレンティナ・コンスタンティノフスカの映像は、すぐに欧米の放送・印刷メディアで紹介された。

祖国を守るために並ぶ年金生活者の姿は、感情的なイメージとなり、紛争を単純な善と悪の二元論に陥れ、即時の全面的なロシア侵攻を予想する米英の情報機関の評価に重みを与えた。

このようなストーリーは、彼女を訓練しているネオナチ・グループに言及することによって台無しになることはなかった。実際、アゾフ大隊についての言及は、このイベントの主要な報道からほとんど消されていた。

例えばBBC(2/13/22)は、「市民が国家警備隊との数時間の軍事訓練に並ぶ」という映像を流し、国際特派員のオーラ・ゲリンがコンスタンティノフスカを「銃を持ったおばあさん」とかわいらしく表現している。報告書にはアゾフ大隊の記章が見えるが、ゲリンはそれについて何も言及せず、報告書はNGUの戦闘員が子供に弾倉を装填するのを手伝うという変な形で終わっている。

BBC depiction of a boy learning how to load ammo
BBC (2/13/22)は、弾薬の装填方法を教わる少年を描いているが、この訓練が極右準軍事組織のスポンサーであったことには触れていない。

BBC (12/13/14))は、アゾフ大隊のネオナチズムについて報じることにいつもそれほど消極的だったわけではない。2014年、同放送局は、そのリーダーが 「ユダヤ人やその他の少数民族を『人間以下』とみなし、彼らに対する白人のキリスト教十字軍を呼びかけている 「と指摘し、「その記章には3つのナチスのシンボルがある 」と述べていた。

MSNBC (2/14/22) と ABC News (2/13/22) もマリウポリから報道し、アゾフ大隊の隊員がコンスタンチノフスカにライフルの使い方を教えている同様のビデオ映像を見せた。BBCと同様、連隊が極右団体であることについては言及されていない。

Sky Newsは最初の報道(2/13/22)を更新し、「極右」の訓練生について言及した(2/14/22)。Euronews(2/13/22)は最初の報道でアゾフ大隊についてまれに言及した。

「ナチズムの賛美」

Telegraph: Ukraine Crisis: The Neo-Nazi Brigade Fighting Pro-Russian Separatists
欧米の報道機関(デイリー・テレグラフ、8/11/14)が、アゾフ大隊を写真撮影の材料ではなく、ネオナチ勢力として認識していた時期もあったのである。

新聞はややましであった。2月13日、英国の新聞「ロンドン・タイムズ」と「デイリー・テレグラフ」は、一面見開きで、コンスタンチノフスカが武器を準備している様子を掲載したが、アゾフ大隊が訓練コースを運営していることには全く触れなかった。

さらに悪いことに、タイムズとデイリー・テレグラフの両紙は、民兵のネオナチとの関連についてすでに報じていた。2014年9月、タイムズ紙はアゾフ大隊を「重武装した男たちの集団」とし、「少なくとも1人はナチのロゴを付けて…マリウポルの防衛に備える」とし、その集団が「白人至上主義者によって結成された」と書き加えた。一方、デイリー・テレグラフ紙は、2014年にこの大隊を 「親ロシア分離主義者と戦うネオナチ旅団 」と表現している。

NATOの最近のウクライナ防衛の姿勢に照らせば、アゾフ大隊のネオナチの事実は不都合になったようだ。

2021年12月16日、「ナチズムの美化」を非難する国連決議(訳注)に、米国とウクライナだけが反対票を投じ、英国、カナダは棄権した。この決定は、ウクライナ紛争を念頭に置いたものであることは疑いようがない。

欧米の軍国主義の教義では、敵の敵は味方である。そして、その友人がネオナチを参加させたとしても、西側企業のメディアは見て見ぬふりをすることができるのである。

出典:https://fair.org/home/western-media-fall-in-lockstep-for-neo-nazi-publicity-stunt-in-ukraine/

訳注 国連総会決議の該当箇所は以下。

(前略)

次に総会は、2つの決議案を含む「人種主義、人種差別、外国人排斥及び関連する不寛容の撤廃」に関する報告書を取り上げた。

そして、賛成130、反対2(ウクライナ、米国)、棄権49の記録票により、総会は決議案I「ナチズム、ネオナチズム、その他現代的形態の人種主義、人種差別、外国人排斥および関連のある不寛容を助長する慣習の美化の禁止」を採択した。

この規定によって、総会は、記念碑や記念館の建立、ナチスの過去、ナチス運動、ネオナチズムの賛美の名による公的デモの開催、こうしたメンバーや反ヒトラー連合と戦い、ナチス運動と協力し戦争犯罪や人道に対する罪を犯した人々を「民族解放運動の参加者」と宣言したり宣言しようとすることなどによって、ナチスの運動、ネオナチズム、ヴァッフェンSS組織の元メンバーの賛美について深い懸念を表明している。

さらに総会は、立法を含むあらゆる適切な手段によってあらゆる形態の人種差別を撤廃するよう各国に求め、人種差別、外国人排斥およびその他の形態の不寛容によって、あるいは宗教または信念の名において扇動されたテロ攻撃の増加によってもたらされる新たな脅威および新興の脅威に対処するよう促した。 また、教育制度が、歴史について正確な説明を提供し、寛容とその他の国際的な人権原則を促進するために必要な内容を発展させることを保証するよう、各国に求めるものである。 また、ホロコーストを否定したり、否定しようとしたりすること、および、民族的出身や宗教的信条に基づく個人や共同体に対する宗教的不寛容、扇動、嫌がらせ、暴力のいかなる表明も、留保なしに非難する。

(後略)

プーチンのウクライナ侵攻に抗議するロシア人1000人以上逮捕

以下はCommon Dreamsの記事の翻訳です。


プーチンのウクライナ侵攻に抗議し、1000人以上のロシア人が逮捕された。「これは前例のない残虐行為であり、いかなる正当化もできない」とロシア全土の都市から約200人の関係者が発言した。

ジェシカ・コルベット

2022年2月24日
ウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナへの侵攻を批判する人々は、木曜日に公開書簡を寄せ、ロシアの街頭に出て、現在進行中の空と地上からの攻撃に抗議し、1000人以上の逮捕者を出す結果になった。

ロシア国内外での抗議は、モスクワがロシアの攻撃で少なくとも「ウクライナの軍事インフラの地上施設74カ所」が破壊されたと主張したことから起こった。

36歳のコンピュータープログラマー、ドミトリーは、ロシアの首都でモスクワタイムズに語った。「何もいいことはありません。戦争ではなく、合意形成が必要なのです」。

イリヤ・マトヴェーエフとイリヤ・ブドレイツキーは、Jacobin誌(注)でロシア人の戦争への支持はないと指摘した。
(注)Jacobinの記事 https://jacobinmag.com/2022/02/ordinary-russians-war-outbreak-ukraine-vladimir-putin

「一つの心強い兆候は、ロシア社会で戦争に対する明確な支持が見られないことだ。最後の独立系世論調査機関であるレバダ・センター(Levada Center ロシア政府から「外国人工作員」の烙印を押されている)によれば、ロシア当局によるドネツクとルハンスクの「人民共和国」の公式承認を支持しないロシア人が40%、支持するロシア人が45%である。」

「国旗の周りに結集するいくつかの兆候は避けられないが、主要なメディアソースを完全にコントロールし、テレビでプロパガンダ的なデマゴギーを劇的に流しているにもかかわらず、クレムリンが戦争への熱意を煽ることができないのは驚くべきことだ 」と二人は述べている。

タイムズ紙は、「戦争に抗議する単独ピケット-基本的にロシアで唯一の合法的な公的抗議の形態が、南部の都市トリヤッティから極東の都市ハバロフスクまで行われた」と報じている

独立監視団体OVD-Infoは木曜日、モスクワで午後11時半の時点で、ロシアの数十の都市で少なくとも1705人が拘束されたとツイートしている。

ロシアでの抗議行動とそれに伴う逮捕の映像は、ソーシャルメディア上で流れた。

英国のITVニュースのエマ・バローズは、ロシアの首都の警察の映像を共有し、「今夜のモスクワは恐怖と悲嘆に満ちている」とツイートした。

ガーディアン紙のモスクワ特派員アンドリュー・ロスは、ジャケットに「No to war」と書いた人と「Fuck war」と書いたプラカードを掲げた人の写真と、それで逮捕された2人目の男性のビデオを投稿した。

テレグラフ紙のモスクワ特派員ナタリア・ワシリエヴァも同様に、警察が路上で「No to war」と叫ぶ人々を捕まえていると述べている。

ワシリエヴァは、ロシアがウクライナに侵攻する少し前の水曜日、逮捕者と抗議行動について報じた。水曜日の午後、モスクワのプーシキンスカヤ広場で行われたデモで、少なくとも6人が拘束され、その中には45歳の小児科医、グリゴリー・シェヤノフも含まれていた。

「私はロシアの軍国主義的な姿勢に反対だ。私は平和のために出てきたのです」「今起きていることは、大きな戦争への準備です」とシェヤノフはテレグラフ紙に語った。

プーチンは木曜日未明、ドネツク(DPR)とルガンスク(LPR)の自称人民共和国を、それらの領土における親ロシア分離主義者とウクライナ軍との長年の紛争の後に承認し、ウクライナの軍事攻撃を発表した。

若者主導の気候変動運動「Fridays for Future」のロシア部門は、木曜日に一連のツイートで、「私たちFFFロシアの活動家は、いかなる軍事衝突にも反対する 」と明言したのである。

「私たちは血と死と関わりたくない。私たちや私たちの友人にとって、そんなことは決して望んでいないからだ。政府の行動は私たちの行動ではありません」と同団体は述べている。「未来のロシアのための金曜日 “は、国家のプロパガンダによっていかに “公平 “に描かれていようと、いかなる軍事行動にも常に反対し、現在も、そしてこれからも反対し続けるでしょう。戦争は公平ではありません。」

モスクワタイムズ紙は、ロシアの有名人や記者などの公人も戦争に反対の声を上げていると指摘した。その中には、プーチンの「不公平で率直に言って意味のない」軍事行動に対する公開書簡に署名した150人以上のロシアの科学者や科学記者も含まれている。

この書簡には、「ロシアは戦争を始めることで、自らを国際的な孤立とならず者国家の地位に追いやった」とあり、「ロシアの世界からの孤立は、我が国の文化と技術のさらなる劣化を意味する」と警告している。

ロシアの各都市の200人近い自治体議員が署名した別の公開書簡には、「我々、国民に選ばれた代議員は、ロシア軍によるウクライナへの攻撃を無条件に非難する 」

「これは前代未聞の残虐行為であり、いかなる正当化もできない 」「ロシアでの楽しい生活への希望が、目の前で崩れていく」と、自治体議員の書簡は付け加えている。

ノバヤ・ガゼタ編集長で2021年のノーベル平和賞受賞者ドミトリー・ムラトフは、プーチンが北大西洋条約機構(NATO)加盟国や介入しようとする国々に向けた核の脅威を薄く隠していると多くの人が見ていることを強調した。

最高司令官は、高価な車のキーホルダーのように『核のボタン』を手に回している」「次の一手は核の一斉射撃か?」とムラトフは言う。

「プーチンの報復兵器に関する言葉を、私は他の方法で解釈することはできない。ロシア人の反戦運動だけが、この星の生命を救うことができるのだ」

この記事は、より最近の抑留者の数字を加えて更新されました。

出典:https://www.commondreams.org/news/2022/02/24/over-1000-russians-arrested-protesting-putins-ukraine-invasion?vgo_ee=OgoL22C6mDv9LersUhXCjwA3SuMkJhmkGexv49sZvNU%3D

ウクライナ駐在の英国司令官がネオナチとつながりのある国家警備隊と会い、「軍事協力を深める」ことに

以下はDeclasifiedの記事の翻訳です。


ウクライナ駐在の英国司令官がネオナチとつながりのある国家警備隊と会い、「軍事協力を深める」ことになった。
ウクライナ国家警備隊によると、英国軍は昨年の会合で、1000人規模のネオナチ部隊を含む同軍の訓練を開始することに同意したという。英国国防省はこれに反論している。

MATT KENNARD

2022年2月15日

British commanders (left) meet with senior officials from Ukraine’s National Guard in Kyiv, September 2021. (Photo: NGU)
2021年9月、キエフでウクライナ国家警備隊の高官と会談する英国人指揮官(左)。(写真:NGU)
  • 昨年キエフで行われた会議の写真-英国職員は非公開だと思っていた-がウクライナ国家警備隊(NGU)によって投稿された。
  • 英国国防省は、NGUを訓練する計画はなく、英国人指揮官は誤った引用であったとDeclassifiedに語った。
  • しかし、英軍はNGUに関与しており、「(NGUの)戦闘活動の特殊性」を認識している。
  • 2020年、別の極右ウクライナ人グループのメンバーらしき人物がサンドハーストで訓練を受ける

首都キエフでの会談の詳細と写真は、昨年、ウクライナ国家警備隊(NGU)のウェブサイトにウクライナ語で掲載された。

Declassifiedは、英国国防省(MoD)が2021年9月の会合は非公開であり、公表されるべきではないと考えていたことを理解している。公開されている英国の記録には、この会議についての記載はない。

ウクライナにおける英軍の訓練任務であるオービタル作戦の英国人指揮官3人が、NGUの将校3人と並んで写っている。彼らはテーブルを囲んでメモを取っている。

MoDは、作戦上および人的安全上の問題を理由に、会議に出席した英国人職員の氏名をDeclassifiedに伝えることを拒否している。

しかし、NGUの報告書には、オービタルの副司令官であるアンディ・コックス中佐の名前があり、他に2人の英国人将校が写っており、1人は名札を目立つようにつけている。

2015年に発足したOrbitalは、これまでウクライナの正規軍のみを訓練してきた。国家警備隊に拡大することは、その一部の部隊に極右へのシンパ存在するというセンシティブな問題から、議論を呼ぶだろう。

Neo-Nazi insignia on the helmets of Azov fighters in eastern Ukraine. (Image: ZDF)
ウクライナ東部のアゾフ戦闘員のヘルメットに描かれたネオナチの記章。(画像:ZDF)

NGUは、ウクライナ東部で親ロシア派の分離主義者と戦ってきた準軍事的な大隊やボランティアの大隊を取り込んで、2014年に結成された。その中には、1000人の兵士を擁すると報じられているネオナチ部隊「アゾフ大隊」も含まれていた。

現在ではNGUの正式な連隊であり、したがってウクライナ内務省の一部である。アゾフの戦闘員は、ヘルメットに鉤十字やSSルーン文字などのナチの記章をつけてウクライナ東部で写真に撮られている。

この大隊の創設者は、ウクライナは「世界の白色人種を率いて、セム人主導のUntermenschen(亜人)に対する最後の十字軍を行うべきだ」と語っている

「戦闘能力を発展させる」

NGUの報告書は、コックス中佐の言葉を引用している。「英軍は、ウクライナ軍の部隊が戦闘能力を開発するために今日行っている訓練活動に、ウクライナ国家警備隊の代表者を参加させる用意がある 」と約束している。

「現在、ウクライナ国家警備隊との防衛作戦や幕僚の仕事に関する訓練を検討している」とコックスは付け加えている。

そして「我々は、ウクライナ軍のいくつかの部隊で英国の教官がすでに行っている訓練活動にNGUの代表を含めることでこの作業を開始する予定だ」とも述べている。

しかし、MoDはDeclassifiedに対し、NGUの訓練を開始する計画はなく、Coxはおそらく翻訳ミスによつて誤まって引用されたと述べた。

国防総省の広報担当者はDeclassifiedに「英国はウクライナ国家警備隊と訓練を行っていない。この会議は、オービタル作戦に派遣された職員とウクライナの政府組織との間で、相互理解を深めるために定期的に行われたものである」と語った。

2021年9月に行われた英国軍司令官とNGUのキエフ会談の写真。(写真:NGU)

「戦闘作戦の特殊性」

しかし、9月の会合は、英軍とNGUの重要な交戦となるようだ。

報告書によると、英国の指揮官は「ウクライナ国家警備隊の創設の歴史、任務、構造」、「NGU部隊の戦闘作戦の特殊性」、さらに「国家の安全保障と防衛部門における役割と位置づけ」を熟知していたという。

NGUは、「ウクライナ国家警備隊は、イギリス軍との軍事協力を深める」というタイトルで、この会議の報告書を発表している。さらに、「会談の目的は、さらなる軍事協力の拡大について議論することであった」とも書かれている。

NGUには他のNATO軍も協力している。2015年に始まったオペレーション・ユニファイアーの任務の一環として、2000人近いNGUの戦闘員がカナダ軍によって訓練を受けている。

しかし、それは物議を醸してきた。2018年6月、カナダ軍将校はアゾフ連隊の指導者からブリーフィングを受け、同隊のナチス思想に関する警告にもかかわらず、その関係者と写真を撮った。

その後、アゾフは写真をソーシャルメディアに掲載し、カナダの代表団が 」さらなる実りある協力への期待 」を表明したことを付け加えた。後に公開されたカナダの内部文書によると、政府はこの会談がメディアで暴露されることを恐れていた

2021年9月の会談で、NGUの国際協力責任者であるセルヒイ・マルツェフSerhiy Maltsev,大佐は、英国の指揮官たちにこう言った。「カナダ軍による衛兵の能力向上への貢献は、どれほど強調してもし過ぎることはない」

彼はさらに、「カナダのカウンターパートとの共同成果は、NGUと(英国の)オービタル作戦との今後の協力の手本となりうる 」と述べた。

「ウクライナの真の愛国者」

英国司令官との会談の4カ月前、同じNGUのウェブサイトには、アゾフ連隊の7周年を記念する声明が掲載されていた。「勝利の7年間」というタイトルで、ネオナチ部隊に対する贅沢な賛辞が迸る。

このウエッブサイトはアゾフ海北岸の港町を指して「2014年5月初旬、『黒い男たち』がベルジャンスクに到着した」」彼らはウクライナの真の愛国者であり、全国からここに集まり、ウクライナの主権を侵犯した占領者を撃退するために結集した」と記した。

さらに「新たに結成された義勇軍は、思いやりのある男たちによって結成された 」「アゾフは激戦で鍛えられ、生き残った 」と付け加えている。と結んでいる。「今日、アゾフはウクライナ軍の最も有能な部隊の一つであり、その戦闘員は最高レベルの専門技術を持ち、最新の武器と装備を持ち、7年前と同じ勝利への渇望を持っている」 と結んでいる。

しかし、極右過激派と結びついているのはウクライナのNGUだけではない。

2015年、極右政党「右翼セクターRight Sector」のリーダーだったドミトロ・ヤロシュは、当時ウクライナの参謀総長だったヴィクトル・ムジェンコ大佐の軍事顧問に任命された

ヤロシュは右翼セクターの準軍事組織であるウクライナ義勇軍の司令官であり、政府の管理下には入らなかった。

Dmytro Yarosh (right), commander of far-right paramilitary group Ukrainian Volunteer Army, is appointed advisor to Colonel General Viktor Muzhenko (left), then Ukraine’s chief of general staff, 5 April 2015. (Photo: Ukraine Ministry of Defence)
極右準軍事組織ウクライナ義勇軍の司令官ドミトロ・ヤロシュ(右)が、当時のウクライナ参謀総長ヴィクトル・ムジェンコ大佐(左)の顧問に任命される(2015年4月5日)。(写真:ウクライナ国防省)

しかし2017年、キエフ・ポスト紙は「約130人の元右翼セクターの戦闘員が、現在ウクライナ軍の正規の契約兵になっている」と報じた

11月には、ヤロシュは、ウクライナ軍総司令官ヴァレリー・ザルジニーの顧問に任命されたと報じた

ヤロシュは、第二次世界大戦中、過激なウクライナ民族主義者でナチスの協力者だったステパン・バンデラの信奉者であることを自認している。

1941年6月、ナチスがソ連に侵攻した際、バンデラ信奉者はウクライナ西部の都市リヴィウで、銃から金属棒まで様々な武器を使って数日間で4000人のユダヤ人を殺害した。

ホロコーストで殺されたウクライナのユダヤ人は最大で160万人と推定されている。

ジョージ・ワシントン大学の欧州・ロシア・ユーラシア研究所が昨年発表した報告書によると、別の極右グループ「センチュリアCenturia」は、メンバーが現在ウクライナ軍の将校として勤務していることを誇っていることがわかっている。

報告書によると、彼らは「フランス、イギリス、カナダ、アメリカ、ドイツ、ポーランドといった国々の外国人同僚と協力関係を築くことに成功した」という。

報告書によると、センチュリアのメンバーらしき1人は、英国のエリート軍事訓練施設サンドハーストで11カ月間の将校訓練を受けており、2020年に卒業したことが分かった。

英国の「オービタル作戦」はこれまでに、ウクライナ軍のメンバー2万2000人を訓練してきた。2020年には、その訓練は 「より広範な作戦・能力志向の海上・航空能力構築を取り入れるために 」拡大された。

著者について

マット・ケナードはDeclassified UKのチーフインスペクター。ロンドンの調査報道センターでフェロー、ディレクターを歴任。ツイッターでフォローする @kennardmatt