愛国主義のイデオロギー装置としてのオリンピック:シモーヌ・バイルス途中棄権への右派メディアの非難

米国の体操選手、シモーヌ・バイルスが途中棄権したことは、たぶん、世界的にはトップの報道の出来事ですが、日本のメディアの関心は低いですね。

Daily Beastによると、米国内の右派メディアなどがバイルスに対して一斉に非難の声を上げているとのこと。 「保守的な評論家やライターの多くが、バイルスに「傲慢」「利己的」というレッテルを貼り、彼女が子どもたちの良いお手本にならないと主張」という記事のなかで、いくつかの右派の論客やメディアを紹介しています。

いずれも、メンタルの問題を理由に途中棄権するなどは許せないというわけですが、国を代表している選手が自分の都合で棄権し、しかも謝罪すらしない、結果として金メダルはロシアがさらった…といったことを罵っている。こうした人たちが複数の右派メディアなどで繰り返しているようです。(右派メディアそのものにアクセスして確認できていません)バイルスは、先に、自身の性的虐待被害とメンタルな問題を抱えてきたことを公表しています。彼女が黒人で最も人気のあるアスリートのひとりであることとともに、彼女のこれまでの行動にも右派にはがまんならなかったのかもしれません。

国際スポーツを国別の戦いとみなし、アスリートを国家の代表とみなすことに疑問の気持ちをもつ人は極めて少ない。スポーツは国別の競技でなければならない理由はないにもかかわらず、ほとんどの人が国別競技を肯定しています。なぜなのかを考える必要があります。 国別競技は、愛国主義と共振して増幅されるような心理構造をつくりだし、右派のアイデンティティでもある愛国主義がこの関係を率直に示しているように思います。表彰式はこの心理をシンボリックに可視化して再生産する仕掛けですから、もともと人々が本来的にもっている愛国心が表出したというよりも、オリンピックそのものが愛国心を生み出す装置の一翼を担い、アスリートがこの装置を表舞台で担うようにスポーツの教育や産業ができあがっているということでしょう。だから途中棄権などは愛国主義を刺激して攻撃される。戦争における徴兵拒否、敵前逃亡、戦線離脱などへの非難とほぼ同じ心理が作用していると思います。

バイルスのようなケースがでてきたので、ニュースになったわけですが、表面化されない形でオリンピックがナショナリズムや愛国主義を人々の心理に浸透させる効果が発揮されていて、このことをほとんどの人は気づかずに当たり前の感情として受け入れている。日本の場合ももちろん同じ構図があると思います。メディアのオリンピック中継は感情を愛国主義に動員する格好の手段になっています。だからボイコットなのですが、多くの人たちは、この感情に誘惑されて観て感動したい、ということになります。バッハも政府も広告代理店もテレビもネットも愛国主義の装置になりうるということを忘れてはならないと思っています。

抗議声明(名古屋:わたしたちの表現の不自由展中止問題)

名古屋市栄の市民ギャラリーで起きた展覧会の中止事件は、2019年の愛知トリエンナーレで中止のきっかけをつくった出来事とよく似ている。問題全体の構造をみると、公的な展示施設や行政vs脅迫・攻撃者という構図は「見かけ」であり、イデオロギーの構図がかすると、公権力と脅迫者の側には心情的な共同性があり(下記の声明では心情的共謀と表現されている)、むしろ展覧会の主催者との対立がはっきりしている。公権力があからさまな違法行為による弾圧を行使することは稀で、たいていは、こうした権力の意向を汲む者たちがテロや暴力の担い手になる。更んにその背景には、いまだに根強い「日本人は正しい」と信じる「日本人」たちの自民族中心主義だ。植民地支配や戦争責任を明確にできていないだけでなく、これらについて議論することすらままならない事態が、学校でも世論を代弁するとされるメディアにおいてもますます強まっている。こうした背景と公権力のサポタージュによる事実上の検閲の行使とは密接に関係している。日本の状況は理性や道理が通用しないナショナリズムに支配されてきたが、それが、もう一段強化されているように思う。しかも、上からだけでなく、下からも。

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2021710

抗議声明

 202176日(火)から711日(日)までの会期で,名古屋市民ギャラリー栄において開催されていた展覧会「私たちの『表現の不自由展・その後』」は,「施設の安全管理のため」という理由で,78日(木)から711日(日)の間,市民ギャラリー栄が臨時休館となり中断させられている。

 その臨時休館の根拠は,市民ギャラリー栄の「職員が郵送された封筒を開けたところ,10回ほど爆竹のような破裂音がした」(東海テレビの報道より)という事態によるものと報じられているが,主催者側には何ら説明もなされていない。そもそも報道によると,問題の郵便物は,「施設職員が警察官立ち会いの下で開封した」(毎日新聞より)のであり,施設職員立会いの下で警察官が中身を検査したり,開封したりしたものではなく,当初より重大な危険性があるという認識ではなかったことがうかがえる。さらに,その後,ギャラリー栄と名古屋市中区役所があるビル全体は閉鎖されてもいない。このような子供だましの脅しに屈し,さらには,正当な理由も説明もなく展覧会を中止に追い込むことは,まさに,犯罪者の思うつぼであり,また,その犯罪行為に加担していることになるだろう。

 名古屋市は,2019年の表現の不自由展の中止の際と同様,行政が果すべき憲法上の責務を果さず,公権力によって十分に対処が可能な軽微な事案を展覧会中止の口実に利用した。今回も全く同様であり,公権力によるサボタージュであり,巧妙に攻撃者の行動を利用して,中止を正当化したものである。名古屋市の対処を客観的に判断するとすれば,攻撃者と名古屋市との間には心情的共謀関係があると判断せざるをえない。とりわけ名古屋市長河村は,いわゆる「従軍慰安婦」をめぐる歴史認識において容認しえない虚偽発言を繰り返し,大村県知事リコール運動の署名偽造についても,その道義的責任すら認めず,新型コロナ対策でも適切な対応をせずに犠牲を拡大するなど,そもそも憲法が義務づけている公権力の担い手としての責任を果していない。河村もまた,名古屋不自由展を中止に追いやりたいと願っている一人であることは間違いないだろう。だからこそ攻撃者と行政の間に心情的共謀がありえると私たちは解釈するのだ。

 直ちに,名古屋市は臨時休館を解除して,展覧会を再開すべきである。

 この展覧会は,あいちトリエンナーレ2019の企画であった「表現の不自由展・その後」が,今回と同様に,脅迫を主な根拠として中断させられたことを契機として企画されたものである。その展示作品の中には,民族差別的主張によって展覧会が中止させられたという経緯を持つものも含まれている。

 また,同時期に東京,大阪において開催予定だった「表現の不自由展」においても,これに反対する人々の大声や街宣車による抗議行動により,会場の使用が取り消され,延期に追い込まれているという状況である。つまり,安易に脅迫に屈するという判断・行動は,その脅迫や民族差別的主張こそが犯罪行為であるにもかかわらず,その実行者の思惑通りの結果を生み,公開することができない作品を作り上げてしまい,不当に公開を妨げる検閲的な行為となっている。このようなことは,絶対に止めなければならない。

 加えて,あいちトリエンナーレ2019における「表現の不自由展・その後」の中止に際しては,多くの平和的行動を取った市民による46000筆超の展示再開を求める署名が提出されているが,愛知県,名古屋市ともに,これらを全く無視してきた。その一方で,展覧会に反対する側のちゃちな脅しに屈して,次々と展覧会を中止に追い込むとは,いったい,どういう了見なのだ。

 これは,あいちトリエンナーレ2019における事態に続く「文化テロ」である。テロの脅しに絶対屈しないと主張したのは,日本政府ではなかったか。であるならば,「文化テロ」に屈しない姿を見せるためにも,名古屋市は,展示を再開すべきなのだ。

art4all

artinopposition

Artstrike

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art4all

art4allは,あいちトリエンナーレ2019における「表現の不自由展・その後」の検閲に際し,再開を求める運動を開始し,その後も表現の自由を求める活動を続けている。

artinopposition

artinoppositionは,歴史的・社会的にも忘却されてしまう状況に抗い,問題提起を促し,アートの表現とは何なのか,なぜ表現があるのかを・思考・する場である。

Artstrike

Artstrikeは,1986年の富山県立近代美術館における検閲事件を契機として始まった運動である。

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連絡先:jun@artstrike.info

(共同声明)東京オリンピック・パラリンピックにおける生体認証技術の使用を直ちに中止することを求める

人を生体認証によって特定するという試みは、たぶん近代権力が迷い込んだ支配の究極の形態そのものが行き着いた隘路だろう。人間は嘘吐きであるから、いかなる証明も信用ならない、という深い猜疑心を権力が抱くとき、権力の末期症状が垣間みえてきたということを意味しているようにも思う。オリンピックについても監視社会についての言いたいことは多々ある。いずれ書くことになるだろう。

(共同声明)東京オリンピック・パラリンピックにおける生体認証技術の使用を直ちに中止することを求める

202179

よびかけ団体(あいうえお順)

2020「オリンピック災害」おことわり連絡会

JCA-NET

アジア女性資料センター

盗聴法に反対する市民連絡会

日本消費者連盟

武器取引反対ネットワーク(NAJAT

問い合わせ

hantocho-shiminren@tuta.io

070-5553-5495 小倉利丸


私たちは、政府・民間を問わず、網羅的大量監視の導入には反対の立場である。この原則を前提にした上で、以下、特に深刻な問題を引き起す生体認証技術の利用に絞って私たちの見解を明らかする。

私たちの要求は以下である。

  • 組織委員会は、生体認証技術の使用を一切中止すること。
  • 組織委員会と契約を結んだ企業も、における生体認証技術の使用を中止すること。
  • 日本政府は、憲法や国際法に保障された基本的人権やプライバシーの権利を尊重し、オリンピック・パラリンピックにおける生体認証技術の使用を促進する政策と財政支出を中止すること。
  • オリンピック・パラリンピックに関係するすべての組織は、官民を問わず、取得している生体情報データを直ちに廃棄すること。
  • 警察等の捜査機関、法執行機関は、生体認証に関わる装備を廃棄し、生体認証技術を使用しないこと。

東京オリンピック・パラリンピックにおける生体認証技術、AI技術の利用

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会は、2015年にNECと生体認証などの技術分野で東京2020スポンサーシップ契約を締結した。締結に際して、森喜朗組織委員会会長(当時)は「最先端の生体認証や行動検知などのセキュリティー技術を導入いただくことで、大会の安全面をサポートいただきたい」とのコメントを出した。オリンピック・パラリンピックにおける顔認証の使用は今回が初めてだ。NECは約30万人の大会関係者の本人確認に顔認証を利用すると公表している。

また、組織委員会と契約したセコムなど警備業界は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体を設立し、監視カメラとAIによる統合監視システムを構築し、リアルタイムで警察、消防、救急と情報共有する体制を構築するといわれている。セコムは既に、17年東京マラソンにおいて警備員にウエアラブルカメラを装着させ、AIを用いて沿道の観客の異常行動を監視した実績がある。またALSOKは、NTTと共同で、東京スカイツリーに4K監視カメラを設置して周辺の道路や自動車の動きなどをAI監視する「5G警備」の実証実験を実施しており、こうした監視技術がオリンピック・パラリンピックでも活用される可能性がある。

さらにまた警視庁は、監視カメラを搭載したバルーンによる東京臨海地域の網羅的監視を公表した。警視庁が導入したシステムは、軍事用途として海外で開発され、生体認証システムなどを搭載することが可能なものとみられる。

従来からある出入国管理における生体認証の導入に加えて、GPS監視、生体認証、AI技術の駆使など、東京オリンピック・パラリンピックは監視社会化の実証実験の様相を呈している。人権やプライバシー侵害の諸問題は全くといっていいほど議論されていない。組織委員会は顔認証などの利用についての詳細の開示を拒否している。

以上の状況を踏まえ、また以下の理由から、私たちは、顔認証をはじめとする生体認証システムそのものの導入に反対する。

生体情報は生涯不変の個人情報である

生体情報は生涯変えることのできない最も重要な個人情報である。生体認証技術によって取得された個人情報が将来その個人の一生にわたって、本人以外の者達によって自由に利用されるリスクを回避する実効性ある手だては、現状では皆無である。生体情報を取得して個人を認証する技術の仕様が公開されていない場合はなお更である。また、本人以外の者が取得した自分の生体情報を消去する権利も確立していない。法も制度も人間の人生約100年にわたって確実に個人情報を保護することを約束できる制度は存在しない。将来、より確実に個人情報が保護されるような社会が到来する可能性があるわけでもない。むしろ、企業と政府がより自由に私たちの生体情報を利用するような社会になる可能性の方が大きい。独裁国家が到来し、個人情報が悪用される可能性すらあるだろう。こうした観点からみて、オリンピック・パラリンピックに限らず、生体認証技術については、政府も民間企業もその開発から販売・利用に至る一切から手を引くべきである。

オリンピック・パラリンピックでは生体情報の提供を拒否できない

日本においては生体認証技術の利用について、実効性のある規制はないに等しい。取得された生体認証データが、GPSデータなどの行動検知技術と組み合わされることによって、個人のプライバシー侵害の深刻度はより一層大きくなる。急速な感染拡大が再度発生しているなかで、感染対策を口実とした監視が更に強化されかねないところにきている。しかも取得された個人データがどのように企業や政府で共有され利用されるのか、その技術もルールも不透明なままだ。たしかに日本の個人情報保護法では生体情報は個人情報とされているが、その取得にあたっては本人からの同意を必要としていない。第三者への提供などのときにのみ形式的に本人の同意が必要とされているにすぎない。自己情報コントロール権は確立されていない。オリンピック・パラリンピックに関しては、同意を拒否すれば参加や取材活動そのものを断念する以外になく、事実上の強制である。また、オリンピック・パラリンピック反対運動などの参加者に対してこうした技術がどのように利用されているのかも不明なままだ。

ポスト・オリンピック・パラリンピックに継承される監視技術

オリンピック及びパラリンピック組織委員会は、生体情報の取得を深刻な問題として真剣に受けとめていない。政府は、セキュリティ対策を名目に、当初からオリンピックを高度な監視技術の活用の場として位置づけてきた。スポンサーとなったNECや警備業界もまた自らのビジネスが人権を犠牲にすることへの真摯な検証もなく、オリンピック・パラリンピックを格好のビジネスチャンスとして捉えている。政府、業界の対応から明かなように、オリンピックが招きよせた監視インフラは、ポスト・オリンピックに継承されるだろう。オリンピック・パラリンピックは、さらに高度な監視社会化を促進するきっかけになるのは間違いない。

いつの時代もオリンピック・パラリンピックは監視イベントだった

国家イベントとしてのオリンピック・パラリンピックは、常に国家安全保障の名のもとに民衆の安全を脅かし、強権的な都市再開発と貧困層の排除、市民的自由を抑圧する都市監視システム強化のきっかけをつくってきた。2010年、バンクーバーオリンピック・パラリンピックでは1000台の監視カメラが設置された。2012年、ロンドンオリンピック・パラリンピックではこれまでにない高度な監視カメラシステムが大量に導入された。北京オリンピック・パラリンピックではネット監視が強化された。リオオリンピック・パラリンピックでは、イラクやアフガニスタンで米軍が使用した軍事監視システムが転用・導入された。パナソニックが都市の監視技術の分野でスポンサーになってもいる。このように、オリンピックそのものが監視産業の格好の利益と結びついた監視イベントとしての性格をもっている。そして、今回は、この傾向が、生体認証、GPSAIによる監視など新たな領域での監視技術の導入へと拡大された。

世界各地で生体認証技術やAIの利用が規制・禁止へと向っているにもかかわらず

すでに米国の自治体やEUなど世界各地で生体認証の利用に歯止めをかけようとする動きがある。米国では、サンフランシスコ市、ボストン市、メイン州などが顔認証技術を厳しく規制し、この動きが広がりつつある。EUにおいても欧州データ保護会議(EDPB)とヨーロッパのデータ保護スーパーバイザー(EDPS)が公共空間における生体認識技術の禁止を求めている。国連においてもユネスコなどでAI規制に具体的な動きがみらる。プライバシー団体などを中心に、生体認証技術そのものの禁止を求める世界規模での活動も広がりをみせている。

これに対して、日本政府、組織委員会、スポンサー企業の現在の態度は、こうした流れに明らかに逆行・敵対している。むしろオリンピック・パラリンピックは、途上国への監視技術輸出の商談の場となりかねず、監視社会のグローバルな拡散のきっかけになりかねない。

監視社会化と不可分のオリンピック・パラリンピックそのものの中止が必要

このように、オリンピック・パラリンピックそのものが監視社会化と不可分一体なのである。オリンピック・パラリンピックはたかがスポーツイベントだと高を括ることはできない。オリンピック・パラリンピックをきっかけに導入された社会インフラは確実にその後も残る。私たちに残された唯一の選択肢は、オリンピック・パラリンピックの中止である。これが新型コロナ感染の拡大を阻止するだけでなく、監視社会化の拡大をも阻止する最も今必要とされている有効な対応である。

以上

賛同団体を募ります。

この声明に賛同いただける団体は、団体名と「生体認証技術反対声明賛同」と記載して

hantocho-shiminren@tuta.io

までメールを送信してください。

利用目的

IOC/JOC 組織委員会、政府オリパラ担当大臣、NEC、警備共同企業体、セコム、アルソック、報道関係に送付する。ブログ等で公表する。ブログでは、声明、説明資料、賛同団体について「転載自由」として公表する。賛同団体の連絡先については公表しない。当該賛同団体との連絡以外には使用せず、他の賛同団体にも提供しない。