ウクライナの平和運動+ユーリイ・シェリアジェンコへのインタビュー

(前書き)下記に訳出したのは、ウクライナ平和主義者運動の声明とこの運動を中心的に担ってきたユーリイ・シェリアジェンコのインタビューです。この声明については、日本アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会が4月に日本語訳を公開しています。以下の訳は、小倉によるものです。ウクライナはロシアからの侵略に対して武装抵抗としての自衛のための戦争を展開している。武力行使の正当性はウクライナ側にあるというのが世界でも日本でも圧倒的多数の人々の共通理解だろう。他方で、そうであっても、武力行使によって侵略者と戦うという選択肢をとらないとする人達がいる。それが下記のウクライナ平和主義者運動など、ウクライナのなかの少数派の主張になると思う。日本のなかでの自衛隊をはじめとして原則として軍隊に否定的な立場をとる論者であっても、ウクライナにおけるロシア侵略に対する武力による抵抗を積極的に肯定する意見をもつ人達も少くない。私は、侵略されても、なお武力による自衛権行使という手段をとることには否定的だ。なぜそういなのか、では、どうすべきなのか、といった問題は別途論じたいとは思う。(小倉利丸)


ウクライナ平和主義者運動の声明

2022年4月17日、ウクライナの平和主義者たちは、この運動の事務局長であるYurii Sheliazhenkoのインタビューとともに、ここに再掲された声明を採択した。

ウクライナ平和主義者運動は、ロシアとウクライナの間で紛争の平和的解決のための架け橋が双方で盛んに焼き払われ、何らかの主権的野心を達成するために流血を無期限に続ける意図が示されていることを深刻に懸念している。

私たちは、ロシアの侵略がエスカレートする前にドンバスでロシアとウクライナの戦闘員がミンスク合意で想定された停戦を互いに違反したことを改めて非難し、致命的なエスカレーションと数千人の死者をもたらした2022年2月24日のロシアのウクライナ侵略の決断を非難する。

私たちは、公式のプロパガンダによって過激で不倶戴天の敵意が強化され、法律に盛り込まれた、紛争当事者にナチスに匹敵する敵や戦争犯罪者という相互のラベル貼りを非難する。私たちは、法律は戦争を煽るものではなく、平和を築くものであるべきだと信じている。また、歴史は、戦争を続けるための言い訳ではなく、人々がいかにして平和な生活に戻ることができるかの例を示すべきであると考えている。私たちは、犯罪に対する説明責任は、特に大量虐殺のような最も重大な犯罪においては、独立した有能な司法機関によって、公平かつ公正な調査の結果、法の正当な手続きによって確立されなければならないと主張する。私たちは、軍事的残虐行為の悲劇的な結果が、憎悪を煽り新たな残虐行為を正当化するために利用されてはならないことを強調する。それどころか、このような悲劇は闘志を冷まし、戦争を終わらせる最も無血の方法を粘り強く模索することを後押しするものであるべきだ。

私たちは、双方の軍事行動や、民間人に危害を加える敵対行為を非難する。私たちは、すべての銃撃を停止し、すべての側が殺された人々の記憶を尊重し、十分な悲しみの後に、冷静かつ誠実に和平交渉に取り組むべきであると主張する。

私たちは、交渉によって達成できない場合、軍事的手段によって一定の目標を達成しようとするロシア側の発言を非難する。

私たちは、和平交渉の継続は戦場での最良の交渉ポジションを勝ち取ることにかかっているというウクライナ側の発言を非難する。

私たちは、和平交渉中の両陣営の停戦に対する消極的な姿勢を非難する。

私たちは、ロシアとウクライナの平和な人々の意思に反して、民間人に兵役の実施、軍事任務の遂行、軍への支援を強制する慣行を非難する。私たちは、このような慣行は、特に敵対行為中に、国際人道法における軍人と民間人の区別の原則に著しく違反するものであると主張する。兵役に対する良心的兵役拒否の権利を軽視するいかなるものも容認することはできない。

私たちは、軍事衝突をさらにエスカレートさせるようなウクライナの武装過激派にロシアとNATO諸国が提供するあらゆる軍事支援を非難する。

私たちは、ウクライナと世界中の平和を愛するすべての人々に、いかなる状況においても平和を愛する人々であり続け、他の人々が平和を愛する人々となるのを助け、平和で非暴力的な生き方に関する知識を収集し広め、平和を愛する人々を結びつける真実を伝え、暴力なしで悪と不正に抵抗し、必要で有益、不可避、そして正当な戦争に関する神話を否定していくよう呼びかける。私たちは、平和計画が軍国主義者の憎悪や攻撃の対象にならないようにするために、今、何か特別な行動をとることを求めてはいませんが、世界中の平和主義者が、最高の夢を実際に実現するための良い想像力と経験を持っていることを確信しています。私たちの行動は、恐怖心ではなく、平和で幸せな未来への希望によって導かれるべきなのです。私たちの平和のための仕事によって、夢がもたらす未来をより身近なものにしましょう。

戦争は人類に対する犯罪です。したがって、私たちはいかなる戦争も支持せず、戦争のすべての原因を取り除くために努力することを決意します。”

ユーリイ・シェリアジェンコへのインタビュー

●ウクライナ平和主義運動事務局長、ユーリイ・シェリアジェンコ博士にインタビューしました。
あなたは、急進的で原則的な非暴力の道を選びました。しかし、ある人々は、これは立派な態度だが、侵略者を前にすると、もう通用しない、と言います。あなたは彼らにどう答えるのですか?

私たちの立場は「急進的」ではなく、合理的であり、あらゆる実際的な意味合いにおいて議論や 再考の余地があります。しかし、伝統的な言葉を使えば、確かに一貫性のある平和主義なのです。私は、一貫した平和主義が「うまくいかない」ということには同意できません。それどころか、それは非常に効果的ですが、実際、どんな戦争の努力に対してもほとんど役に立ちません。一貫した平和主義は、軍事戦略に従属させることはできませんし、軍国主義者の戦いに操られ、戦争の道具にされることもありません。それは、何が起こっているのかを理解することに基づくものだからです。この戦争は、あらゆる面で攻撃者の戦いであり、その犠牲者は、暴力的行為者によって分割統治された平和を愛する人々、強制と欺瞞によって意に反して戦争に引きずり込まれ、戦争のプロパガンダによって騙され、大砲の餌にされ、戦争機械の資金調達のために収奪されている人々なのです。一貫した平和主義は、平和を愛する人々が戦争機械による抑圧から自らを解放し、非暴力で平和への人間の権利、そして普遍的な平和と非暴力の文化の他のすべての価値と成果を支持することを助けます。

非暴力は望ましい結果をもたらすな生き方であり、常にそうあるべきもので、単なる戦術のようなものではありません。たとえば、今私たちは人間だが、明日には獣に襲われるから獣になるべきだと考える人がいるとすれば、それは馬鹿げています……。

●とはいえ、ウクライナの同胞の多くは、武力抵抗を決意しています。それは、彼ら自身の決断の権利であると思いませんか?

戦争への全面的な参加は、メディアが伝えるところですが、それは軍国主義者の希望的観測の反映であり、彼らは自分自身と全世界を欺くためにこのような絵を描くために多くの努力を払っています。実際、最近の評価社会学グループRating sociological groupの世論調査では、回答者の約80%が何らかの形でウクライナの防衛に携わっているが、軍や領土防衛に従事して武装抵抗したのはわずか6%で、ほとんどの人は物質的あるいは情報的に軍を「支持」するだけであることが分かっています。それが本当の意味での支持かどうかは疑問です。最近、ニューヨーク・タイムズ紙は、キエフの若い写真家の話を紹介しました。彼は戦争が近づくと「強烈な愛国主義者になり、オンラインではちょっとしたいじめをする」ようになりましたが、その後、憲法や人権法をきちんと守らずに軍事動員を行うためにほとんどすべての男性が国境警備隊によって強制的にウクライナにとどまることを強制されていることに対して違法行為を犯して国境を越えるために密輸業者に金を払ったことで、友人たちを驚かせたそうです。そして、ロンドンから「暴力は私の武器ではない」と書いていたのです。4月21日のOCHA人道的影響状況報告書によると、510万人が国境を越えたのを含め、約1280万人が戦争から逃れたといいます。

クリプシス[動物生態学の用語で、外敵から身を守るために環境に溶け込んで見つかりにくくすること]は、逃げたり死んだふりと並んで、自然界で見られる最も単純な対捕食者適応・行動様式です。そして、環境平和は、すべての自然現象が真に矛盾しない存在であり、政治的・経済的平和、暴力のない生命のダイナミズムを発展させるための実存的基盤です。ウクライナやロシア、その他のポストソビエト諸国では、西側諸国とは異なり、平和文化が非常に未発達で原始的であり、支配的な軍国主義独裁者が多くの反対意見を残酷に封じ込めるために、平和愛好家の多くがこのような単純な決断に頼っているのです。ですから、プーチンやゼレンスキーの戦争への支持を人々が公然と大衆的に示すとき、それを本物と見なすことはできません。人々が見知らぬ人やジャーナリストや世論調査員と話すとき、そしてプライベートで考えていることを言うときでさえ、それはある種の二重思考で、平和を愛する反対意見は忠誠心のある言葉の層の下に隠される可能性があるのです。第一次世界大戦中、兵士が銃撃戦でわざと失敗したり、塹壕の真ん中で「敵」とクリスマスを祝ったりしているのを見て、司令官は人々が戦争プロパガンダの実存しない敵の話を信じていないことを悟ったのです。

また、私は暴力や戦争を支持する民主的な選択の概念を2つの理由から否定します。第一に、戦争のプロパガンダと「軍事的愛国主義教育」の影響下での誤った知識を持った無教育な選択は、それを尊重できるほど自由な選択ではありません。第二に、私は軍国主義と民主主義が両立するとは思っていない(だからこそ、私にとってウクライナはロシアの犠牲者ではなく、ウクライナとロシアの平和を愛する人々は、ソ連後の軍国主義的温情主義政府の犠牲者なのです)。多数決を強制するための少数派(個人も含む)に対する大多数の暴力が「民主的」だとは思わないのです。真の民主主義とは、公共の問題に関する誠実で批判的な議論への日常的普遍的関与であり、意思決定への普遍的参加です。民主的な意思決定は、多数派に支持され、少数派(一個人を含む)や自然を傷つけないほど慎重であるという意味で合意的でなければならず、反対する人々の黙認を不可能にし、彼らを害し、「人々」から排除するならば、それは民主的決定とはいえないのです。 これらの理由から、私は「正義の戦争を行い、平和主義者を罰するという民主的決定」を受け入れることができません。それは定義上民主的であるはずがなく、誰かがそれを民主的だと思っても、そのような「民主主義」に価値や正義があるのかは疑わしいのです。

●このような最近の動きにもかかわらず、ウクライナには非暴力の長い伝統があることを私は知りました。

これは事実です。ウクライナには平和や非暴力に関する出版物がたくさんありますし、私自身も「ウクライナの平和な歴史」という短編映画を作りましたし、ウクライナや世界の平和の歴史に関する本も書きたいと思っています。しかし、私が心配しているのは、非暴力が変革や進歩のためというよりも、抵抗のために使われることが多いということです。ウクライナでは、非暴力のふりをした反ロシアヘイトキャンペーン(市民運動「Vidsich」)が行われていましたが(現在も行われています)、今では公然と軍国主義に転じ、軍隊を支持するよう呼びかけています。プーチンが「民間人、特に女性や子どもは軍隊の前に人間の盾となる」と悪名高い発言をした2014年のクリミアとドンバスにおける親ロシア派の暴力的権力奪取の際には、非暴力的行動が戦争の道具にされたのです。

●西側の市民社会は、どのようにウクライナの平和主義者を支援できると思いますか?

このような状況で平和の大義をどのように支援するかは、3つの方法があります。まず、私たちは真実を伝えるべきです。平和への暴力的な道はないこと、現在の危機には双方の側に不品行の長い歴史があり、自分たちは天使であり望むことは何でもでき、彼らは悪魔であり、その醜さのために苦しむべきだというような態度を取れば、核の黙示録も排除せずにさらなるエスカレーションを招くでしょう。真実を伝えることは、すべての側にとって冷静さと平和交渉の助けになるはずです。真実と愛が東西を一つにするのです。真実は一般にその矛盾しない性質から人々を団結させますが、嘘は自分自身や常識を矛盾させ、私たちを分裂させ支配しようとします。

平和の大義に貢献する第二の方法:貧しい人々、戦争の犠牲者、難民や避難民、良心的兵役拒否者を支援することです。性別、人種、年齢、あらゆる保護されるべき理由によって差別されることなく、都市部の戦場からすべての民間人を避難させるようにすること。国連機関や、赤十字のような人々を援助する組織、または現場で働くボランティアに寄付すること。小さな慈善団体はたくさんあり、人気のあるプラットフォームでオンラインの地元のソーシャルネットワーキンググループを見つけることができますが、それらのほとんどは武装勢力に協力しているので、彼らの活動をチェックして、武器やさらなる流血とエスカレーションのために寄付していないことを確認するよう注意して下さい。

第三に、最後になりますが、人々には平和教育が必要です。恐怖と憎しみを克服し、非暴力による解決策を受け入れるための希望が必要です。平和文化の未発達、創造的な市民や責任ある有権者ではなく、むしろ従順な徴兵制を生み出す軍国主義教育は、ウクライナ、ロシア、ソ連崩壊後のすべての国に共通する問題です。平和文化の発展や市民としての平和教育への投資なくして、真の平和は達成されません。

●今後の展望をお聞かせください。

タラントのアウグスト・リギ高校のイタリア人学生数人が、戦争のない未来を願う手紙をくれました。それに対して私はこう書きました。「戦争のない未来に対するあなたの希望が好きだし、共感します。戦争のない未来に対するあなたの希望は、私も気に入っているし、共感します。それは、世界中の人々が、何世代にもわたって、計画し、築き上げてきたものなのです。よくある間違いは、言うまでもなく、Win-Winではなくて、Winになろうとすることです。人類の将来の非暴力的な生き方は、暴力を用いない、あるいは暴力を限界まで抑えた社会経済的・生態学的正義の達成と人類の発展に関する平和文化、知識、実践に基づくものであるべきです。平和と非暴力の進歩的な文化は、次第に暴力と戦争の古風な文化に取って代わるでしょう。兵役への良心的拒否は、そのような未来を実現するための方法の一つです。

私は、世界中のすべての人々が権力に真実を告げ、銃撃をやめて対話を始めるよう要求し、必要な人々を助け、平和文化と非暴力的市民としての教育に投資することで、軍隊も国境もないより良い世界を共に築くことができることを望みます。真実と愛が大きな力となり、東洋と西洋を包含する世界です。

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Yurii Sheliazhenko, Ph.D. (Law), LL.M., B. Math, Master of Mediation and Conflict Management, KROK University (Kyiv) の講師兼研究員である。さらに、良心的兵役拒否欧州事務局(ベルギー・ブリュッセル)理事、ワールド・ビヨンド・ウォー(米国・バージニア州シャーロッツビル)理事、ウクライナ平和主義運動事務局長を務める。

インタビューは、オーストリア・クラーゲンフルト大学(AAU)名誉教授で、AAUの平和研究・平和教育センターの創設者で前所長のウェルナー・ウィンターシュタイナーが担当した。

出典:https://wri-irg.org/en/story/2022/ukrainian-pacifists-war-crime-against-humanity

(Common Dreams)ボリス・ジョンソン、ゼレンスキーにロシアとの和平交渉を断念するよう圧力をかけた。(ウクライナ紙報道とともに)

(前書き)以下は、Common Dreamsに掲載された記事の翻訳および、その後ろに、この記事の根拠となっているウクライナのUkrayniska Pravdaの記事の翻訳を掲載しました。ウクライナの戦争は状況の進展のなかでその性格を変化させつつある。侵略者のロシアを徹底的に敗北に追いやろうとする欲望が西側諸国で支配的になってきた5月前後の時期に明らかになった開戦と停戦をめぐるウクライナ政府内部の動向だ。すくなくとも、この記事を信頼するとすれば、2月のロシアによる侵略当初、西側はウクライナの早い時期の降伏を計画し、亡命政権樹立を企図していたことになる。しかし戦況がウクライナに有利になるとみると、今度は、ロシアとの停戦協議を阻止するかの行動を英国がとるようになった。国家の行動を支えているのは国益であり、人々の権利でもなければ平和でもない。国益とは国家権力を握る社会集団の権力基盤の拡大再生産を意味していおり、これにイデオロギー装置が普遍的な価値をめぐる「物語」の衣裳をまとわせることになる。以下の記事がでてから1ヶ月以上たち、現在はロシアが東部で優勢であると報じられている。東部の戦争は2014年以降継続しており、長期化は、結果として人々の生存の権利を奪うことになる。正義の戦争ほど止めることは難しいし、敗北を甘受する理屈も立ちにくい。これが正義を戦争や暴力によって実現しようとするばあいの最大の難問でもある。正義と力の間には何ひとつ相関関係はなく、不正義が勝利することは当たり前のようにして歴史では繰り返さており、戦争が終結してみると、実は正義の側にも不正義が、不正義の側にも幾許かの正義があったりもする、というふうに、「戦後」の時代の価値観から歴史の再評価が行われたりもする。いかなる時代の評価になろうとも、事実として存在するのは、戦争によって犠牲となった人々の存在だ。こうした犠牲を最小化するために、戦争は何の役にもたたない。正義という概念の曖昧さを自覚してあえて言うのだが、目的を達成するための手段は、力の行使によることもありうるという人類の歴史を20〜21世紀の近代国家体制が極限にまで推し進めたことを反省すべきであり、未来の歴史において、正義であれ人権であれ、自由であれ平等であれ、普遍的価値お実現を暴力という手段に委ねることによっては、そもそもの目的それ自体も実現してない、ということを私たちはきちんと証明することに迫られている。(小倉利丸)


ストップ・ザ・ウォー連合は、「英国政府はウクライナの平和を阻害する存在となった。そこでの紛争はロシアとNATOの代理戦争に発展しており、その被害を被るのはウクライナの人々である」と述べた。

JAKE JOHNSON

2022年5月6日
ウクライナのニュースメディアUkrayinska Pravdaは木曜日、英国のボリス・ジョンソン首相が先月キエフを突然訪問した際、戦争終結のための和解に向けたウクライナとロシアのわずかな進展が見られた後でも、ロシアとの平和交渉を打ち切るようヴォロディミル・ゼレンスキー大統領に圧力をかけた、と報じた。

プラウダは、ゼレンスキー大統領の「側近」と顧問チームの匿名の情報源を引用して、「ジョンソンはキエフに2つの分かりやすいメッセージを持ってきた」と報じた。

「第一は、プーチンは戦争犯罪者であり、交渉ではなく、圧力をかけるべきだということ。そして第二に、たとえウクライナがプーチンと保証に関する何らかの協定を結ぶ用意があるとしても、彼らはそうではない。我々はあなた方(ウクライナ)とは(協定を)結べるが、彼とは結べない。いずれにせよ、彼は皆をねじ伏せるだろう」ゼレンスキーの側近の一人は、ジョンソンの訪問の本質をこう総括した…。

ジョンソンの立場は、2月当時、ゼレンスキーに降伏して国外脱出することを示唆した西側諸国が、今では以前想像していたほどプーチンが強力ではないと感じている、というものであった。

しかも、彼に「圧力をかける」チャンスはある。そして、西側はそれを利用したいと考えている。

ジョンソン首相は外遊中の公式発言で、英国は米国やドイツなど西側諸国と並んで、「この悲劇を終わらせ、ウクライナが自由な主権国家として存続・繁栄するために軍事・経済支援を強化し、世界規模の同盟を呼びかける」ことを誓った。

「私は今日、英国がこの進行中の戦いで揺るぎない立場で彼らと共ににあることを明らかにした。我々は長い目で見ている」と、英国の右翼指導者は語った。

4月9日のジョンソン訪問の前に、ベラルーシとトルコで開かれたハイレベル外交協議は外交的突破口を開くことができなかった。しかし3月中旬、ロシアとウクライナの代表団が、モスクワ軍の撤退と引き換えにウクライナがNATO加盟を断念する15項目の平和協定に向けて「大きな前進を見せた」との報告がなされたのだが。

しかし、ロシアが壊滅的かつ違法な攻撃を続ける中、協議はその後行き詰った。

4月12日、ロシアのプーチン大統領は、和平交渉は「暗礁に乗り上げた」と宣言した。そして、ゼレンスキーは3月下旬にプーチンと直接会談することを要求したが、ウクライナ大統領の顧問の一人は先月のラジオインタビューで、「今はまだ両大統領の交渉の時ではない」と述べた。

Mykhailo Podoliakは、「もう少し後になれば、おそらく(実現するだろう)。しかし、この交渉におけるウクライナの立場は、非常に強いものであってほしい」と述べた

ジョンソン首相もまた、紛争がすぐに外交的に解決されるとの見通しを公に否定している。ジョンソン首相は4月20日、記者団に対し、プーチン大統領との交渉は「足を顎でつかまれたワニを相手にするようなものだ」と述べた

ジョンソン首相は、「彼の誠実さの欠如が明らかな今、ウクライナ人がプーチンと交渉できるかは非常に難しい」と述べた。「彼の戦略は、明らかに、ウクライナを出来るだけ飲み込み、取り込もうとするもので、おそらく、強者の立場から何らかの交渉を可能にしようとするものだろう。」と述べた

和平交渉の停止を求めるジョンソンの報道に対して、ゼレンスキー自身がどう反応したかは不明だ。英国首相がキエフに到着した同日、ゼレンスキーはAP通信のインタビューに応じ、「この国を拷問した人物や人々とは誰も交渉したがらない」と語った。

「これは、すべて理解できる。そして、男として、父親として、私はこれを非常によく理解している」と続けた。

しかし、ゼレンスキーは、「もし機会があれば、外交的解決のための機会を失いたくない」とも付け加えた。

金曜日、ゼレンスキーはイギリスのシンクタンク、チャタムハウスでのバーチャル講演で、ロシアとの平和的解決に向けた「すべての橋が破壊されたわけではない」と述べた

プラウダの報道は、ジョンソンや他の西側指導者の公的な発言とともに、グローバルな大国が、何千人もの民間人を殺し、世界的な影響を及ぼす人道的危機を引き起こしたロシアの戦争に対する外交的解決の可能性を積極的に潰しているという長年の懸念を高めた。

英国を拠点とするストップ・ザ・ウォー連合the War Coalitionの呼びかけ人であるリンゼー・ジャーマンは、金曜日の声明で「英国政府は、大量の武器輸送と扇動的なレトリックによって戦争の継続を助長し、ウクライナの平和を阻害する存在となった」と述べた。「この紛争は、ロシアとNATOの代理戦争に発展しており、その結果を被るのはウクライナの人々である」。

「私たちは、計り知れない結果をもたらす紛争のエスカレートのリスクを軽減すること、即時停戦と交渉による解決を求めるキャンペーンを行っています」とジャーマンは述べている。

ロシアの侵攻は3カ月目に入り、モスクワはウクライナ東部に攻撃を集中させ、西側の兵器で重武装したウクライナ軍はロシア軍を主要都市から追い出そうとしている。

「ウクライナ軍兵士は金曜日、ウクライナ北東部のロシア軍に対して攻勢に出た。東部の領土を支配するための過酷な戦いは、どちらも大きな突破口を開くことができないまま、ますます残忍な消耗戦になっている」「ウクライナでは、西側同盟国から提供されたより高性能な武器と長距離砲が前線に流れ込み、ウクライナがより攻撃的な行動を取れるようになったため、国の一部において攻勢に転じたと主張した」と、ニューヨークタイムズは報じている

先週、Common Dreamsが報じたように、米国防総省のロイド・オースティン長官は、バイデン政権がウクライナ軍を武装化する目的は、「ロシアがウクライナに侵攻できない程度まで弱体化することを確認することだ」と述べた。

外交政策アナリストや平和運動家は、オースティンの発言は、米国がロシアとの長期的な代理戦争にコミットしており、核武装した2つの大国が直接対決する危険性があることを示す厄介なものだと受け止めている

政策研究所の新国際主義プロジェクトのディレクターであるフィリス・ベニスは、金曜日にCommon Dreamsに電子メールで「米国の行動は、ワシントンの優先順位が、ウクライナ人を守ることではなく、ロシアを弱めることであることを明確にしている」と語った。

タイムズ紙は水曜日に、匿名のアメリカ政府関係者を引用して、数十億ドル相当の最新兵器に加えて、バイデン政権はウクライナに 「ロシア将兵の多くをターゲットにして殺害可能にするロシア部隊に関する情報を提供し、その将兵たちがウクライナ戦争で戦死した」と報じた

国防総省はこの報道を否定したが、ジョン・カービー報道官は、米軍がウクライナにある程度の情報を提供しており、今後も提供し続けることを認めた。

クインシー責任ある国家戦略研究所the Quincy Institute for Responsible Statecraftのロシアとヨーロッパ問題上級研究員のアナトール・リーベンは、木曜日のコラムで、「ロシアの将軍に関する情報をウクライナに与えることは、危険な賭けである」と警告している。

「バイデン政権と米国のエスタブリッシュメントは、たった一つの質問を自問自答する必要がある。もし立場が逆だったら、第三国が意図的に米軍司令官の殺害を手助けすることに、米国はどう反応するだろうか?」と、リーベンは書いている。「バイデン政権は、米国の戦略はウクライナ防衛を支援することであり、ロシアに完全な敗北を押し付け、これを利用してロシア国家を弱体化させたり破壊したりすることではない、とロシアに保証するために直ちに行動しなければならない。」「最初のステップは、ワシントンが、クリミアとドンバスの地位の問題の外交的解決を支持し、ロシアがウクライナでの攻勢を止め、停戦に同意するなら、米国はその停戦を尊重することを公に宣言することだ」とリーベンは主張した。

この記事は、政策研究所のフィリス・ベニスのコメントを追加して更新された。

出典:https://www.commondreams.org/news/2022/05/06/boris-johnson-pressured-zelenskyy-ditch-peace-talks-russia-ukrainian-paper


ゼレンスキーの「降伏」からプーチンの降伏へ:ロシアとの交渉はどうなっているのか

ロマン・ロマニューク – 2022年5月5日(木) 09:30
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ロシアとの和平交渉は、ウクライナが70日間の全面戦争を経て、絶望から自らの強さと真の同盟者たちの輪を実感するまでの物語である。

「もし戦争が始まった日に、今のような和平協定にサインすることが許されていたら、我々は迷うことなくサインしていただろう。しかし、今やこの協定は我々にとって妥協に過ぎると思われる」と、ゼレンスキー大統領の側近がウクライナ・プラウダとの会話でオフレコで語っている。

一般的に言って、攻撃開始早々、ウクライナはある種の戦術的降伏を覚悟していたが、ロシアの将来の敗北を示す最初の試みに道を譲ったのである。

そのようなシナリオを公に認めることは、今のゼレンスキー陣営にとってあまりにも勇気のいることであることは明らかである。しかし、大統領府の閣内では、このような経過がもはや空想としてではなく、現実のものとして語られているのである。より正確に言えば、ウクライナが現実化できることである。

ゼレンスキーがそう信じる背景には、世界政治における2つの大きな変化がある。

第一に、ウラジーミル・プーチンとその軍隊の「力」の神話が、イルピンやルビズネの郊外で徐々に潰されつつあること。

第二に、西側の孤立主義とウクライナを本当に助けようとしない姿勢は、ついにブチャボロディアンカ、マリウポルの集団墓地に葬り去られた。

ウクライナ・プラウダは、この2つの変化がロシアとの和平交渉の行方にどのように影響しているのか、誰が誰と話しているのか、ボリス・ジョンソンの緊急訪問がどのように流れを変えたのかを調べてみた。

降伏までの72時間

ウラジーミル・プーチンは72時間以内にウクライナを攻略しなければならなかった。ウクライナの選択肢はただ一つ、降伏することだった。

この2つのシンプルな文章は、ロシアとウクライナの戦争と、それによる和平交渉の出発点を要約することができる。

このシナリオをキエフとゼレンスキーに報告したのは、クレムリンではなく西側のパートナーであることを、その信憑性を疑う人たちのために明らかにしておく必要がある。

「つまり、本格的な戦争が始まる前に、ゼレンスキーはウクライナを離れて亡命政権を樹立するという最初の申し出を受けたということだ。この申し出は、ミュンヘン会議中に大統領に誠実に行われたものです。そして彼らは、ウクライナに帰らない方が(ゼレンスキーにとって)良いと言いました」と、ミュンヘンでの代表団の一人がウクライナ・プラウダに内密に語っている。

ゼレンスキーは、ワルシャワかロンドンか、あるいは他の場所を「居住地」として選ぶように言われた。 パートナーたち全員が驚いたことに、大統領はウクライナに帰国した。

このときゼレンスキーは、「今朝はウクライナで朝食をとったし、夕食もウクライナでとる」と発言し、西側を批判する有名な演説と同様に、会議の聴衆に衝撃を与えた。

パートナーたちの立場は理解できる。彼らはプーチンの準備について知っていたし、彼の軍隊の計画についても知っていたし、ウクライナ各地に集まった120の攻撃大隊-戦術グループのさまざまなレベルの司令官たちに、参謀用の封筒でどんな任務が送られるかも知っていたのだ。そして、ウクライナに勝ち目がないことを「知っていた」のである。

「当初、私たちはロシア連邦の正確な計画を知りませんでした。しかし、キエフ近郊で死んだロシア軍司令官の参謀文書を押収したとき、すべてを理解しました。そこには、特定のグループがいつ、どこにいるべきか、精鋭の落下傘部隊が72時間以内にキエフの官庁街を制圧しなければならないこと、などがすべて記されていたのです。その72時間というのは、すべてのパートナーから聞いていたのと同じ時間です」 ゼレンスキーの「セキュリティ担当」トップの一人が、ウクライナ・プラウダとのインタビューでそう説明している。

1日が過ぎ、2日目が過ぎ、3日目が過ぎたが、キエフはまだ生きていた。首都周辺の森は、焼けたロシア軍の装甲と兵士の死体で埋め尽くされていたーそしてキエフはまだ生きていた。ホストメルやワシルキフの飛行場は火の海、ロシアのヘリコプターが飛んできては落ち、それでもキエフは耐えていた。

「3日目には、自分たちは生き残れるということを実感しました。私たちには力があるのだと。3日目になって、初めてシェルターから出ることができました」と、大統領府の代表者は言う。

そして3日目直後の2月27日朝、ロシアとウクライナは交渉開始を発表した。

фото: ツイッター Михайла Подоляка

“イスタンブール和平”

プーチンの計画の第一段階は失敗し、「世界第二の軍隊」による電撃戦は失敗に終わった。しかしロシア大統領は、会談中にウクライナを降伏させるに十分な力があるとまだ信じていた。

ウクライナ交渉団のリーダー、ダヴィド・アラカミア氏がインタビューで語ったように、ゼレンスキーの最初の任務は、ロシア側にウクライナが交渉の用意があるとの印象を与えることだった。

「成功すれば、ロシアの代表団が帰国して、この人たち(ウクライナ代表団のメンバー-UP)と話し合うことが可能で、何らかの検討が可能であると大統領に報告する感じになるように、任務を設定した」とアラカミアは述べた。

しかし、ロシア側は、第1回目の会談に、話し合うためではなく、ウクライナの降伏を正式に決定するためにやってきた。

「長い話を短くすると、その合意の本質は、我々(ウクライナ)はただあきらめるということ、このことをデビッド(アラカミア)がそれをどこか念頭に置いていた。そして、更にその上に、脱ナチ化とその他の(ロシア側の)要求もある」と、代表団の一人は言った。

代表団には、このような要求に応じる力も権限もなかったことは明らかだ。特に、大統領から与えられた指示はまったく違うものだったのだから。

「我々の代表団は、ロシアは2月23日時点の国境線に戻ること、つまり新たな占領や軍隊の撤収などを明確にした指示を受けて、2月28日の最初の会議に臨んだ」と、交渉準備に関わったゼレンスキー・チームの主要メンバーの1人は言う。

しかし、アラカミアたち(代表団)は大統領の主要任務を果たした。ウラジーミル・メディンスキー(プーチンの首席交渉官)とのコンタクトが確立し、現在も続いていると言わざるを得ないのである。

この公式の交渉ルートだけがロシアとの平和条約締結のために機能しているわけではないのだが。キエフとモスクワの交渉に──水面下で──参加しているもう1人の人物が、ロシアの大富豪ロマン・アブラモビッチだ。

「ロマンはアラカミアとも接触している。彼の利点は、プーチンに直接アクセスできる唯一の人物であることだろう。彼(プーチン)はどこにいようと、直接会っている。すべての(ロシアの)公式代表団は、自分たちのボスをテレビで見るだけだ。メディンスキーはプーチンと話すことができる──ただし、電話でだけだが」と、キエフのバンコヴァ(大統領府がある通り)の交渉に詳しいウクライナ・プラウダの情報筋は言う。

メディンスキーのプーチンへの接近度について、元Dozhdのジャーナリストたちによって設立されたロシアの調査報道誌『Proekt』が興味深い話を伝えている[Dozhd、別名「TV Rain」は、ロシアの独立テレビチャンネルで、2022年3月1日にロシア政府によって閉鎖された]。Proektによると、イスタンブール協定に関する有名な演説の後、政府の公式の目的に固執したことでメディンスキーが公式のプロパガンダによってボロボロになり始めたとき、彼はプーチンに電話をかけようとしたという。しかし、丸一日、電話はつながらなかった。

ところで、イスタンブールについて。これが今日のロシア・ウクライナ会談の重要なポイントだ。

イスタンブール会談後にメディンスキーが提起した合意事項のポイントは、実際に事実である。

「我々は “脱ナチ化”、”脱軍事化”、ロシア語などのくだらないものをすべて一掃した。我々はそこで、ウクライナが厳格で明確な安全保障と引き換えにNATOに加盟する用意がないことを指摘した。協定の枠組みは準備された。

しかし、その後、代表団はただ先に進むことができなかった。クリミアとドンバスの問題は、領土的な地位の問題です。ここでは誰もこの問題について話す権限さえありません。大統領たちが会って、どこに向かうかを決めればいい。首脳同士の会談が必要だ」とバンコバの情報筋の一人が語っている。

この会談はほぼ準備されていた。キエフ近郊と北部で非常に大きな損失を出し、チェルニヒフとハルキフの包囲に何ヶ月も失敗し、西側の厳しい制裁を受けたロシアは、ウクライナとの協定をどうしても必要としているのだ。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が、「ロシアの求めていることは正当であり、制裁解除のためにウクライナと交渉している」と、ロシアの要求が成立するように取り繕っているのには理由がある。彼らにとって、これは極めて重要な問題なのだ。

欧米はドイツのオラフ・ショルツ首相を通じて、ウクライナとの合意がない限り、誰もロシアへの制裁を解除しない、と明確な答えを出した。

“ボリス・ジョンソン”、さもなくばプーチンに “プレッシャー”

ロシア側は、誰が何と言おうと、シグナルを読むことができ、実はゼレンスキー・プーチン会談の準備はできていた。

しかし、2つのことが起こった。その後、ウクライナ代表団のメンバーであるミハイロ・ポドリアクが、今は大統領会談の「時ではない」と公然と認めざるを得なくなったのである。

まず、ロシア軍が一時的に占領したウクライナ領で行った残虐行為、レイプ、殺人、虐殺、略奪、無差別爆撃、その他何百、何千もの戦争犯罪が明らかになったことである…。

ブチャイルピンボロディアンカアゾフスタルについてプーチンと話すことができないとしたら、我々はいかにして、何について話すことができるだろうか。

プーチンと世界の人々の間のモラルのギャップ、価値観のギャップはあまりにも大きく、クレムリンでさえ、それをカバーできるほど長い交渉のテーブルを持ち合わせていない。

ロシアとの合意に対する第2の──もっと予想外の──「障害」が、4月9日にキエフで発生した。

イスタンブールの結果を受けて、ウクライナの交渉担当者とアブラモビッチ/メディンスキーが、将来可能な協定の構成について一般論として合意するとすぐに、英国のボリス・ジョンソン首相がほとんど予告なしにキエフに姿を現したのである。

「ジョンソン氏はキエフに2つのシンプルなメッセージを持ち込んだ。1つは、プーチンは戦争犯罪者であり、交渉ではなく、圧力をかけるべきだということ。そして2つ目は、たとえウクライナがプーチンと保証に関する何らかの協定に署名する用意があるとしても、それは無理だということだ。あなた方(ウクライナ)とは(協定に)署名してもいいが、彼とはできない。いずれにせよ、彼は皆をねじ伏せるだろう」、ゼレンスキーの側近の一人は、ジョンソン訪問の本質をこう総括した。

この訪問とジョンソンの言葉の裏には、ロシアとの協定に関わりたくないという単純な理由だけでは済まされないものがある。

ジョンソンの立場は、2月当時、ゼレンスキーに降伏して逃亡することを示唆していた西側諸国集団が、今ではプーチンが以前想像していたほど実際には強力ではないと感じている、というものだった。

Фото Лєри Полянськовоїна

しかも、彼を「押さえる」チャンスはある。そして、西側はそれを利用したいのだ。

ジョンソンは、今Vasylkiv roosterの幸せな所有者は、霧のアルビオンに戻って飛んで後3日後、プーチンはウクライナとの会談 “は暗礁に乗り上げていた “と公に述べた。

「我々はイスタンブールで一定の合意に達し、ウクライナの安全保障はクリミア、セヴァストポリ、ドンバスの領域には及ばないというものだった……。今、安全保障は一つのことであり、クリミア、セヴァストポリ、ドンバスとの関係を調整する問題は、これらの合意から排除されようとしている」とプーチンは述べている

その3日後、ローマン・アブラモビッチが再びキエフに到着し、ゼレンスキー大統領は、ロシアとの安全保障協定は2つあり得ると公式に述べた。1つはウクライナ自身のロシアとの共存を調整するもの、もう1つは安全の保証だけを対象とするものである。

「モスクワは、すべての問題を解決する単一の協定を希望している。しかし、誰もがロシアと同じテーブルに着くとは限らない。彼らにとっては、ウクライナの安全保障は1つの問題であり、ロシアとの協定は別の問題である。

ロシアはすべてを1つの文書にすることを望んでおり、人々は『申し訳ない、ブチャで起きたことを目の当たりにし、状況は変化している』と言っている」と、ゼレンスキーはジョンソンのプーチンへのメッセージを伝えている。

その後、二国間交渉は一旦保留となった。

今後どのように協力していくか、安全保障の保証人となりうる者をすべて交渉に参加させるにはどうすればいいか、誰を参加させるか、などを決めなければならなかった。

そして最も重要なことは、ウクライナは、ロシアとの対決において西側諸国がウクライナに寄り添う用意がどれほどあるのか、という宿命的な質問に対する答えを自ら理解しなければならなかったことである。

ウクライナは結局、欺かれ、破壊され、怒れるクレムリンと対面することにならないか。

21世紀のヨーロッパの交渉、戦争、歴史の行方も、この質問の答えにかかっている。

そして、このような複雑な質問に対する答えは、Ukrainska Pravdaで間もなく掲載されるであろう別の記事を読んでいただく価値があります。

ロマン・ロマニュク、UP
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ロシアの反戦運動(5月9日)

以下は、ロシアのフェミニスト反戦レジスタンスのTelegramチャンネルからいくつかの写真などをピックアップしました。最後にビデオ作品がひとつ掲載されています。ロシアで反戦運動の主要な担い手となっている女性たちへのインタビューです。ロシア語ですが、Youtubeなので、翻訳機能が使えます。ある程度のことは把握できると思います。ここでは取り上げていませんが、反政府・反戦運動への弾圧が厳しくなるなかで、活動家たちは19世紀帝政ロシア末期のナロードニキの運動を想起するようになってもいるようです。実際に、軍の兵士募集の施設の放火や政府施設への攻撃が起きており、これがニュースになっているという記事もありますが未確認です。以下で紹介した写真の冒頭に新聞の発行を知らせる記事があります。デジタルの時代にあえて紙媒体の新聞を発行する理由は、高齢者やネットへのアクセスを得意としない人達がもっぱら主流のメディアや政府のプロパガンダにのみ依存して判断している状況を変えるために、紙媒体での発信が必要と考えたとのこと。内容も固いものばかりでなく、工夫をこらしています。以下の紹介では実際の新聞が読めませんが、ここからダウンロードして読むことができます。大規模な抗議行動がほぼ不可能になっているなかで、抗議はより分散的になっています。しかし、こうした運動を繋いでいるのがTelegramのようにいくつかのSNSやネットによる発信です。こうした発信が当局によって弾圧されかねないことは誰にでもわかることです。弾圧を回避し、抵抗の行動を多くの人達が共有して運動を拡げる上で、メディアへの弾圧は非常に危惧されます。

このビデオでは、フェミニストの反戦レジスタンスの女性メンバー7人が取り上げられている。ある者はロシアにいるため顔も名前も伏せられ、ある者はロシアを去らざるを得なかったが、彼らはあらゆるレベルで戦争と好戦感情と闘い続けている。
ロシアでは女性の反戦組織が急成長しており、その数は数千にのぼる。

戦争パレードの代わりに平和のプロテストを。MEMORIAL が仮想の赤の広場でデジタル・プロテストを開始

ロシアの人権団体で、現在は解散を命じられている「メモリアル」がドイツから以下のような呼びかけを行なっている。実空間でのデモが難しいならバーチャルで、ということで赤の広場に世界中から100万人を集めたいと呼び掛けている。以下は、ドイツの「メモリアル」のサイトからの呼びかけ。明日が9日、まだ5万人そこそこしか集まっていないが、むしろ5万人も集まっているというべきかもしれない。(小倉利丸)


以下、メモリアル・ドイツのサイトの呼びかけです。

ベルリン/モスクワ、2022年5月4日 – ロシアでは、ウラジーミル・プーチンが5月9日に軍事パレードを計画しているが、ウクライナでの侵略戦争に対する抗議は厳しく禁止されている。平和的なデモを行おうとする者は、厳しい処罰を受けることが予想される。人権団体MEMORIAL(元々はロシアで設立され、現在はロシアで迫害されている)は、人々がとにかく抗議することを可能にする型破りな取り組みで対応している。ウェブサイト「redsquareprotest.org」は、ロシアや世界中の人々に、史上初の仮想赤の広場を訪れ、デジタルデモに参加するよう呼びかけている。

“私たちの赤の広場へ来てください!” – 100万人のデジタル・デモ参加者を目標に

参加者は、ワンクリックで自分のアバターを作成し、デジタル化された赤の広場を歩き、増え続けるデモ参加者に加わることができます。プーチンとその政権に阻止されることなく、デジタル化されたモスクワの中心であるこの場所に少なくとも100万人を集めることが目標です。

「ロシアでは、多くの人々が迫害を恐れて抗議行動を起こすことを躊躇しています」と、MEMORIAL InternationalとMEMORIAL Germany理事会メンバーのAnke Giesen博士は説明します。だから私たちは、このデジタルな代替手段を作り、「私たちの赤の広場に来て、クレムリンのプロパガンダショーに反対する意思表示をしてください」と呼びかけているのです」。

最初の2人のデモ参加者。MEMORIALの共同設立者であるSvetlana GannushkinaとIrina Sherbakova。

キャンペーンを開始するために、MEMORIALの2人の著名な顔ぶれが赤の広場にアバターを設置しました。イリーナ・シェルバコワとスベトラーナ・ガヌシキナは、その献身的な活動により、ドイツの連邦功労十字章やノーベル平和賞の代わりとなる賞など、多くの賞を受賞しています。彼らのデジタル版は、抗議の署名を掲げ、デジタル・デモに参加するよう世界中に呼びかけています。

1968年、赤の広場は、ロシアのチェコスロバキア侵攻に対する抗議デモの舞台となった場所です。「危険な状況にもかかわらず、私たちのメンバーの多くはモスクワの中心部で何度もデモを行ってきました」とシェルバコワは言います。「逮捕され、起訴され、高い罰金を払わされた者もいれば、亡命せざるを得なくなった者もいる。ロシアでは表現の自由が事実上不可能になっており、このキャンペーンがそのことにも注意を喚起することを期待しています」。

一方、80歳のSvetlana Gannushkinaは、まだモスクワに住んでいます。今年、彼女は赤の広場の抗議行動に参加しようとして、すでに何度も逮捕されています。

亡命中のMEMORIALの労働と仕事を支援するための寄付を募集中

ロシアにあるMEMORIALの本社の存在そのものが、今、脅かされています。この人権団体は現在、強制的に解散させられている。昨年末、ロシアの最高裁判所は、地域支部を含むこの国際的な統括組織を禁止する方向に動いたのです。ロシア国外での活動を継続するために、ベルリンにメモリアル・ドキュメンテーション・センターを設立することが計画されています。今回のキャンペーンでは、ウェブサイトに寄付のためのオプションが組み込まれました。
メモリアル – 「オルタナティブ・ノーベル賞」受賞者

メモリアル・インターナショナルは、ロシア国内の80以上の地域に分散した人権団体を擁しています。ソビエトの労働収容所システムの生存者の人権と社会的支援のために立ち上がりながら、政治的暴虐を調査することに専心しています。1989年1月の設立以来、この組織はそのコミットメントを評価され、多くの賞を受賞しています。2004年には「もうひとつのノーベル賞」とも呼ばれる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞しています。

キャンペーン推進のため、アンケ・ギーセン博士とイリーナ・シェルバコワは、さらなる背景情報の提供やインタビューに応じる予定です。

プロモーション用ウェブサイト(下記のサイトは閉鎖されているようです。下の「参加方法」にあるURLにアクセスしてください:訳者)

www.redsquare.org

出典:https://www.memorial.de/index.php/8022-friedensprotest-statt-militaerparade-memorial-ruft-zur-digitalen-demonstration-auf-dem-virtuellen-roten-platz-auf


参加方法

参加方法は難しくない。下記にアクセスする。*英語版

https://www.redsquareprotest.org/en/

英文のメッセージが表示される。

画像には「赤の広場の抗議へようこそ。
メモリアルインターナショナルは、ロシア最大の人権団体です。. 元々はモスクワに拠点を置いていましたが、メモリアルインターナショナルはロシアでは許可されていません。」と書かれている。「NEXT」をクリックする。
英文の意味 「ロシア政府は、憲法に違反して、言論の自由の表明を抑えつけています。. 侵略に対するいかなる抗議も罰せられる犯罪になります。. そのため、私たちは赤の広場をデジタルで再現し、ウクライナでのロシアの侵略戦争とロシアでの言論の自由の抑圧に対する平和で安全な抗議に皆さんを招待しました。.
注:ロシアから来た場合は、ここで潜在にありうる問題について知ってください。」

上記のアナウンスの下にある「Enter」で赤の広場に入場できるが、ロシア国内からの参加者向けに下記の注意がある。

参加者の皆様へ
ロシアのウクライナ侵略戦争への抗議に参加していただき、ありがとうございます。
この赤の広場プロテストでは、抑圧的な警察の暴力を心配する必要はありません。
ここでは、あなたは匿名です。メールアドレスや住所、電話番号、名前などを聞くことはありません。物理的に抗議行動に参加するのに比べれば、私たちの赤の広場抗議行動は安全な空間です。

ロシア政府は組織的に言論の自由を抑圧しており、憲法(第29条)にも違反しています。

クレムリンの侵略戦争に反対する声を上げる人々にとって、その結果は深刻なものです。2022年3月4日以降、ロシア政府による侵略の終結を求めるデモ参加者は、3年から15年の実刑判決のリスクを負っています。

この機会に、ウクライナへの残虐な侵略とロシアでの人権侵害に抗議しましょう。

ロシアから参加する場合、あなたの国では犯罪行為となる可能性がありますので、注意してください。参加は匿名で、追跡はほとんど不可能ですが、この点についてはいかなる保証もできません。

立ち上がり、声を上げていただき、ありがとうございます。

勇気を持って、前向きでいてください🏳️🌈。

メモリアル・インターナショナル

参加すると下記のような表示になる。

(Telegram)ロシア国内の反戦アクション(その2)

前回投稿以降にフェミニスト反戦レジスタンスのTelegramに投稿された様々な異議申し立ての取り組みを紹介します。

参加者が手作りしたメーデーステッカーの一例。
“美しいデザインのシールは長持ちする “ということに着目し、メーデー “コレクション “を用意したのです。私たちは、ソ連のスローガンである『平和』で勝負しようとしているのです。労働 PEACEを強調した “May”。また、働く人々が税金から戦争費用を負担することで、私たちがより貧しくなり、仕事の価値や意義が低下するようなことがあってはならない、ということも強調しようとしています。ピーター”
ロシアのニジニ・ターギル出身のアーティスト、アリサ・ゴルシェニナが、「平和」という言葉をロシア国内のさまざまな言語で綴るパフォーマンスを披露しました。
写真:Alisa Gorshenina (https://www.instagram.com/p/CdBFU6vrLPA/)


ロシア反戦メーデーの行動を紹介:仕事を放り出して鳩に餌をやる

以下、フェミニスト反戦レジスタンスのTelegramから5月1日の行動報告のごく一部を紹介します。

ロシアの反政府運動はかなりシビアだなと思います。集団での組織的な行動ができないので、それぞれが自発的に何か別の非政治的な振舞いを演じつつ、実際には戦争反対をアピールする。目立たないと意味ないが、警察が来るような目立ちかたにならすに、というあたりの匙加減がありそうですが、それでも、みながんばっていると思います。鳩の餌やりの写真をみると一見のどかそうですが、逮捕された場合の準備などの告知が何度も出ています。以下にあるように何人か拘束された人達もいます。これらは行動のごく一部です。


(参加にあたっての注意)

  1. 12:00から16:00まで、あなたの街の平和をテーマにした通りや広場、名前に「平和」と入っている通りに行ってみてください。
  2. パスポートを忘れずに。また、その他のシンボルにも気をつけましょう(旗やポスターは注意を引くことがあることを忘れずに)。
  3. ハトの餌には、パールミレット、小麦、大麦、レンズ豆、キビ、エンドウ豆などの穀物を乾燥した状態で選んでください。
  4. 一緒にハトに餌をやりに来た人とは自由に会話をすることができますが、念のため注意事項(個人情報をすぐに教えない、過去や現在の抗議活動の経験を話さない、SNSのアドレスや電話番号は教えず、テレグラム/エレメント/シグナルのニックネームのみ教える)を確認してください。
  5. 餌やりの時間は自由ですが、その過程自体が、同じ町の気の合う仲間と出会う機会であることを忘れないでください。もし一度に誰とも会えなくても、急いで帰る必要はありません。
  6. ハッシュタグ「#anti-war_firstMay」をつけて、テキストレポート、散歩の写真、広場や通りでハトに餌をやっている写真など、レポートを送ってください。顔なし写真で送るのがベストです。
  7. この行動が警察の目に留まらないことを願っています。実際、法律に違反しているわけではないのですが、事前に安全対策をしておいた方がいいでしょう。情報セキュリティ(携帯電話のアクティビストチャット)、物理的なセキュリティも忘れずに。可能なら弁護士を立てるか、人権団体の連絡先をすべて保管しておくことです。

以下のいくつかの写真はTelegramから転載しました。撮影者は同じ人ではありませんし、すべての写真を転載しているわけではなく、いくつかピックアップしました。

今日、キーロフでは、いくつかの広場で反戦行動が行われた(https://activatica.org/content/9d781407-8841-4a81-9bff-cb2dfe084633/v-kirove-1-maya-proshla-antivoennaya-akciya)。フェミニスト反戦抵抗の行動に参加したキーロフの女性たちは、平和を求めるアスファルトに「平和を!」「ロシアに自由を!」「戦争に反対!」そして国際平和の象徴であるハトに餌を与えた。この行動に対する市民の反応は上々であった。会場には警察はおらず、3人の活動家が参加した。
サンクトペテルブルクで、Novaya GazetaのジャーナリストElena LukyanovaとAlexei Dushutinが、アーティストのElena Osipovaの反戦ピケを撮影した際に拘束されたとSotaが報じた。

以下、メーデー行動としてTelegramに投稿されたものをいくつか紹介します。


チュメン、モスクワ、エカテリンブルク、ドゥブナ、チェボクサリ、クラスノヤルスク、スルグト、ノボシビルスク、キーロフ、サンクトペテルブルク、ロストフオンドン、ボスクレセンスク、イジェフスク、ヤロスラブリ、ゼレノグラド-ロシアの多くの都市で活動家が今日他の仕事を投げ出し、路上で平和の鳥に餌付けをしていました。ウォーキングと同時に、参加者は反戦ステッカーを貼り、通行人に話しかけ、中には他の活動家と出会い、互いに知り合うことができた人もいました。キャンペーンは継続中で、写真や感想を共有しています。

🕊️「鳩に餌をやるのは、とても機転が利くことがわかった。返事を待たずに良いことをするのは、こんなに気持ちの良いことなのかと、もう忘れていました。
スルグット”

🕊️”人々は何が起こっているのかにかなり注意を払っていた、何人かの女性は長い間私を見ていた、私にはそれが承認されているように思えた。私はリュックに反戦ステッカーと赤旗を貼っていたのですが、それも注目されました。他の活動家の方にもお会いしたのですが、とても感じがよくて、思わず笑顔になってしまい、近寄っていって言葉を交わしました。

🕊️「エカテリンブルグで平和の鳥に餌をあげています。サイレンが鳴り響く中、数台の車が通り過ぎた時は本当に怖かったですが、幸いにも私の後を追うことはありませんでした。”

🕊️「Novosibirsk, Mira Street.
2時間ほどぶらぶらと歩き、公園に立ち寄りました。誰にも会えなかったけど、とにかく行ってよかった」。

🕊️「こんにちは。電話でチェボクサリー。一人で外出。ずっと一カ所にいるのは落ち着かないので、ミラアベニューを散歩してみた。人混みには鳩はおらず、ほとんどが庭にいた。でも、このアクションと自作ステッカーを組み合わせることにしました。道の両側を歩き、メインの歩行者天国や中庭で貼っていきました。うまくいったようです。ステッカーのアイデアをくれた彼女たちと、それを企画してくれたあなたに感謝します。

🕊️「これが私の最初の行動です)その前は、親戚や友人と戦争について話していました、なぜなら話さなければならないからです、声を出さなければならないからです。私の親戚の中で、この狂気の沙汰を支持しているのはたった一人、私の友人の中でも支持している人はいませんし、職場でも誰も戦争を支持していません。そう、残念ながらこういう人たちは反戦行動には出てこないんです。”私でなければ誰が?”と自問自答しました。

私の町では確かに抵抗運動があることは分かっている(町中に緑のリボンやステッカーがぶら下がっている)。

お疲れ様でした。一緒にこの狂気を止めよう”

🕊️「エカテリンブルグ」。ピースクリニックの外でハトを餌付け)交番の近くにあるゴミ箱から誘い出したのですが…。そして、コーヒーを買い、文字が書かれた紙幣で支払った。今日は休んで、他に何ができるか考えよう。”仕事はしない”。

――――――――――――――――――――――――

🕊️「こんにちは!今日、母と私はミティシチのミラ通りの文化センター横の石碑の近くと劇場近くの噴水の近く(通り自体からは少し離れていますが、そこで鳩を見つけました)で鳩に餌をあげていました。最も注目すべきは、同じ志を持つ家族に出会えたことだ。なんということだろう、彼らの美しく、優しい顔。親愛なる同胞の皆さん、もしこれを読んでいるならば、私はあなたに敬意を表します。そして、私たちみんなに平和を! 🕊”

🕊️「モスクワ、マリーノ。建築・公園国際プロジェクト「平和の善き天使」。娘と一緒にハトに餌をやるためにわざわざこの場所を選びました。すべてのアクションが街の中心部にあると、ここには誰もいないような気がします。そして、誰にも会わず、誰にも気づかれなかったけれど、「何か悪いことが起きたらどうしよう」というベタな恐怖と自己検閲を克服する、という目標は達成されました そんなことで諦めてはいけない)ありがとうございます!”

🕊️”モスクワ。プロスペクト・ミラ
ハトに餌をやりに来たかっこいい人たちにも会えました。
踏切に入ると、ロスグバルディアの車が止まっているのが見えた。

🕊️「ゲレンデシークはあなたと共にある! 鳩に餌をやるだけの人に出会って、アクションのことを話したんです」。

🕊️「挑発的な黄色と青のオウムの餌を持って(ハトがチェック)、黄色と青の服を着て平和通りに行った(誰も注意しなかったから良かったけど)」。
FASの人には会わなかったが、警官にも会わなかった。人に迷惑をかけたくないので、あえて写真は撮らなかった。
ロシアは自由になる。ウクライナ万歳。ベラルーシを生中継。戦争なんてクソ食らえ✊🕊”

🕊️「祖国の首都の平和大通りを2時間歩く。これが私の最初の行動です。もう外に出られない。「まあ、しょうがないか」という言い訳は、何もしない理由を探しているだけのような気がします。私は、これらのスピーチや 行為はすべて、この悪夢に反対している人たちや、これ以上どうやって生きていけばいいのか本当にわからない人たちの士気を高めるためのものだと気づきました。孤独なピケも、反戦の文章も、ステッカーも、すべて私たちが一人ではないことを示すためのものです。私たちは一人じゃない!!! すべての人に平和と幸福を!
P.s. ピースアベニューで、ハトと人がいて、人がいなくて、ハトがいる場所を見つけるのはとても難しいです。”

🕊️「モスクワでホームレスへの食料配給を行った後、Food Not Bombsの活動家がFeminist Anti-War Resistanceの「戦争ではなくハトに餌をやる」キャンペーンに参加しました

――――――――――――――――――――――――

なぜ労働組合が必要なのか?

メーデーは労働者の祝日であり、今日は特に、社会の幸福が誰の上に成り立っているのかを思い起こす大切な日です。そして、それはあなた方、つまり、働き、生産し、創造する人々にかかっているのです。私たちは人生のかなりの時間を職場で過ごしていますが、労働者が自らの労働条件をコントロールできないことが非常に多いのです。不当な罰金や解雇に立ち向かえず、自分の給料を上げることもできず、ましてや公正な社会の法律を成立させることもできない。これらはすべて一人ではできませんが、団結した上で雇い主と対等に話し合う方法があるのです。当然のことですが。

今日のメーデーは、平和なきメーデー、そして労働。多くの人が戦争反対の声を上げることができないのは、まさに職を失うことを恐れているからです。私たちの国家がいかに私たちの労働と貢献に頼っているか、私たち全員がいなければ、国家は無力であり、戦争をする力もないことを忘れてはなりません。

組合は、自分自身の尊厳、幸福、投票権を守るための手段です。
組合が何をしてくれるのか、具体的に伝えるためのカードを作りました。

ぜひ広めてください。

もしあなたが反戦の姿勢を理由に職場で嫌がらせを受けているなら、組合を結成する用意があるなら-反戦基金(https://cryptpad.fr/form/#/2/form/view/LdD1zufD3MLlUMDvI5FdU569AuY7GXAWZLcvJVOg2k0/)の私たちに手紙を書いてください。私たちは、無料で匿名のカウンセリングと法的サポートを提供します。

インターネットと戦争―自民党「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」批判を中心に

Table of Contents

1 はじめに

戦後の反戦平和運動のなかで「サイバー戦争」に特に注目して、どのようにしたら「サイバー戦争の放棄」が可能なのかに主要な関心をもった議論はまだ少いのではないかと思う。本稿では、この問題を考えるひとつの手掛かりとして、自民党が2022年4月に公表した自民党「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」(以下「提言」と呼ぶ)のなかのサイバー関連への言及を中心に、反戦平和運動がサイバー領域を従来の軍事安全保障の考え方では対応しえない課題であることを確認して、戦争放棄のための運動の再構築のためにささやかながら私からの問題提起にしたいと思う。

2 政府の「次期サイバーセキュリティ戦略」

「提言」に触れる前に、その前提になっている政府による2021年7月に「次期サイバーセキュリティ戦略」に関して簡単にみておきたい。この「戦略」では次のように述べられている。

我が国をとりまく安全保障環境は厳しさを増し、サイバー空間は、地政学的緊張も反映した国家間の競争の場となっている。中国・ロシア・北朝鮮は、サイバー能⼒の構築・増強を⾏い、情報窃取等を企図したサイバー攻撃を⾏っているとみられている。⼀⽅、同盟国・同志国においても、サイバー脅威に対応するため、サイバー軍や対処能⼒の強化が進められており、サイバー事案やサイバー空間に関する国際ルール等をめぐる対⽴等に対して同盟国・同志国等が連携して対抗している。

この現状認識では、明確に周辺諸国を事実上の敵国とした。その上で必要な政策として「先端技術・防衛産業等のセキュリティ確保のための官⺠連携・情報共有等の強化」「⽶豪印やASEAN等同志国との府省庁横断的・各府省庁における国際連携」を指摘している。

特徴的なことは、私たちの日常生活と密接に関わるコミュニケーションの領域の課題と軍事安全保障としてのサイバーセキュリティとがほぼ一体のものとして統合されていることだ。最近の政府の認識は、下図にあるように、「DXとサイバーセキュリティの同時推進」「公共空間化と相互連関・連鎖が進展するサイバー空間全体を俯瞰した安全・安⼼の確保」そして「安全保障の観点からの取組強化」の三位一体から「誰も取り残さないサイバーセキュリティ」が構想されており、明確な軍事安全保障という領域の切り分けはされていない。

Figure 1: 「Cybersecurity for All」を踏まえた対応の強化

こうした構図には私たちが、主権者として、あるいは日本の居住する市民として、意思決定の主体であること、あるいは国籍に関わらず平等な人間的主体であることへの関心はなく、もっぱら、国家が準備する安全保障によって保護される客体としてしか位置づけられていない。安全保障をめぐる議論が伝統的に維持している国家主体を唯一絶対として、民主主義的な異議申し立てが果す役割を無視する観点がここでも一貫している。従って、ひとりひとりの人間が希求する平和や戦争忌避の社会的政治的な要因はここでは一切顧慮されていない。軍事安全保障を丸腰の市民たちに委ねることはできない、という大前提がここにはあり、これが「民衆の安全保障」とは真逆の性格をもたらすことになる。

従来の安全保障の視点にあるこの問題は、「サイバー戦争」によって更に増幅される。どのように増幅されるのかは後述するが、私たちが「サイバー戦争」を考えるときに、まず、念頭に置かなければならないのは、従来の戦争のイメージを取り払う必要があるということだ。サイバー戦争なる状態では、武力行使の主体を自衛隊にのみ求めることはできず、自衛隊や防衛省がサイバー領域、つまり情報通信領域で繋りをもつ全ての領域、コンピュータと接続された個々の武器から軍事通信ネットワーク、情報インフラを支える情報通信企業、そして私たちが利用するインターネットの全体が一体のものとして機能しているために、武力行使や戦闘行為を構成する諸要素をそれ以外と明確に区別することはできない。政府が{重要インフラ」と呼んでいるほとんど全ての経済領域が戦争に加担する構造をもっている。こうしたことが生じるのは、サイバー領域が地理的に切り分けられないこと、インターネットのばあいは、ネットワークがグローバルに接続されており、軍事と非軍事の切り分けが困難であるだけでなく、このネットワーク敵と味方双方を包摂するグローバルな全体性をもっていること、このことがサイバー戦争の特異性を特徴づけている。

Figure 2: 推進体制

社会全体を巻き込む端的な現れが、いわゆるサイバー攻撃と呼ばれる事象になる。一般にサイバー攻撃は、敵の軍事システムを攻撃するのではなく、社会インフラや官民のネットワークを標的にする。動機が国家間の敵対的な関係を背景として敵の「国家」への攻撃であるとしても、私たちが巻き込まれる可能性は高くなり、従来の意味での武力による攻撃と比べてサイバー攻撃にさらされる可能性も高くなるだけでなく、時には攻撃の「踏み台」に私たちのコンピュータが利用されることもありうるし、逆に、非常に安易に、自宅にいてパソコンのキーボードを叩くだけで、サイバー戦争に加担することも、できてしまう。政府や軍、警察の対応は、この攻撃に対してサイバー空間における力の行使や国家を防衛するための防御に中心を置く。この観点に立つと、私たちのコミュニケーション全体が国家安全保障(サイバーセキュリティ)に従属させられ、監視や規制の対象になる。ネットのコミュニケーションはグローバルな構造をもっているから、サイバーセキュリティは、軍が対処する対外的な安全保障と警察が対処する国内の治安との間の境界もあいまいになり、両者が共同で対処するケースが常態になりうる性格を本質的にもっている。従来の戦争においても、反戦や平和の主張が弾圧されてきたように、国家間の摩擦や対立は、反政府的な言論の自由、敵国とされた国の国籍を有する人々の人権が奪われる原因をつくるが、サイバー戦争やサイバー攻撃は、コミュニケーション領域そのものが一種の「戦場」とみなされるために、自由への監視と抑圧はより包括的になる。

3 自民党「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」について

2022年4月に公表された自民党の「提言」からサイバー戦争に関連する箇所をみてみる。 「提言」の冒頭で次のような現状認識を示している。

今年2月、ロシアがウクライナを侵略し、戦後西側諸国が中心となって 築き上げてきた既存の国際秩序を根底から覆すような力による一方的な現状変 更が顕在化した。そして、ロシアのウクライナへの侵略でも見られるように、 様々な種類のミサイルによる市街地への攻撃、武力侵攻前のサイバー攻撃、既存 のメディアやSNS等での偽情報の拡散などを通じた情報戦の展開、原子力発 電所などの重要インフラ施設への攻撃など、これまで懸念されていた戦闘様相 が一挙に現実のものとなっている。

上記の記述のなかで、伝統的な武力行使に該当するのは、ミサイルによる市街地への攻撃、原子力発電所などの重要インフラ施設への攻撃だ。しかし、武力侵攻前のサイバー攻撃、既存のメディアやSNS等での偽情報の拡散などを通じた情報戦は、従来の概念でいえば武力行使に該当しないがこれらを含めて「戦闘様相」と表現している。戦闘あるいは武力行使とは言い難いものの、戦闘に準ずる扱いをしたい、という意図が表われている。そしてまた、「武力攻撃に至らない侵害」やアトリビューション(後述)への言及が続く。

有事の社会機能と自衛隊の継戦能力の維持のために、重要インフラの 防護をより強化するとともに、アトリビューション能力の強化の観点から、攻 撃者を特定し、対抗し、責任を負わせるために、国家として、サイバー攻撃等 を検知・調査・分析する能力を十分に強化する。また、武力攻撃に至らない侵 害を受けた場合の対応について検討する必要があり、特に、サイバー分野にお いては攻撃側が圧倒的に有利なことから、攻撃側に対する「アクティブ・サイ バー・ディフェンス 」の実施に向けて、不正アクセス禁止法等の現行法令 等との関係の整理及びその他の制度的・技術的双方の観点、インテリジェンス 部門との連携強化の観点から、早急に検討を行う。

「アクティブ・サイバー・ディフェンス 」は注記によれば「一般に、受動的な対策にとどまらず、反撃を含む能動的な防御策により攻撃者の目 的達成を阻止することを意図した情報収集も含む各種活動」と定義されている。アクティブ・ディフェンスはサイバーセキュリティ分野でも用いられるが、この自民党の提言の具体的な意味内容は、日本もまたサイバー領域において明確に攻撃能力を持つべきだ、ということだと理解していいと思う。

「アクティブ・サイバー・デイフェンス」は「ディフェンス」といいながら上記のように、「反撃」であって、防衛や防御を意味しない。メディアや野党が話題にしている敵基地攻撃能力に関連する箇所は以下のように書かれている。

憲法及び国際法の範囲内で日米の基本的 な役割分担を維持しつつ、専守防衛の考え方の下で、弾道ミサイル攻撃を含む わが国への武力攻撃に対する反撃能力(counterstrike capabilities)を保有 し、これらの攻撃を抑止し、対処する。反撃能力の対象範囲は、相手国のミサ イル基地に限定されるものではなく、相手国の指揮統制機能等も含むものとす る。

ミサイルはサイバー空間と連動しなければ一発も発射することはできない。ミサイルはこの意味でサイバー空間を介した情報通信能力に支えられた兵器であり、この点を踏まえたとき上記の「相手国の指揮統制機能等」には当然サイバー空間に関わるコンピュータネットワークが含まれることになり、そうなれば、ミサイル攻撃への反撃にはサイバー攻撃が含まれることは明らかだ。指揮統制機能を実空間のどこかに位置する司令部とか大統領官邸とかといった物理的な建物だとみなして、ウクライナの悲惨な市街地空爆のイメージと重ねあわせて問題化するのは、世論のイメージ喚起の手法としては余りに安直であって、このような理解を越えて、地理的に特定することすら困難な指揮統制機能をもつ分散的なネットワークの総体が反撃の対象となる。このことは、「敵」の社会インフラ全体を攻撃対象とすることを意味しており、非戦闘員をまきこむことは避けられない。ミサイル攻撃の「抑止」のための反撃とは、それ自体が歯止めのない全面的な攻撃を内包していることを理解することが重要になる。

「アクティブ・ディフェンス」については、たとえば高市早苗はブログで次のように述べている。

有事においては、『自衛の措置としての武力の行使の三要件』を満たす場合に、「相手方によるサイバー空間の利用を妨げる」ことが可能となりましたが、防衛省・自衛隊のシステムに対する攻撃への対処だけではなく、例えば、航空、鉄道、電力、医療などの民間の「重要インフラ」がサイバー攻撃を受け、国民の生命が危険に晒され、国家社会の存立が危うくなるような事態までを想定して、従来の危機管理の枠組みによる「防御・復旧」に加えて、「アクティブ・ディフェンス」の必要性を判断するべきです。

サイバー攻撃者に対する反撃として、「犯罪に使用されていると判明したサーバに対して大量の接続要求を送信し、当該サーバを使用できなくする」「政府の機密情報を窃取したサーバに対して不正アクセスをすることによって、窃取された情報を削除する」ことを可能とする権限を、捜査機関や特定の国家機関が行使できるよう、新たな法律を制定することを検討するべきです。その場合、当然ですが、反撃を行う「主体」及び「対象」の明確化が必要となります。1

「サーバに対して大量の接続要求を送信し、当該サーバを使用できなくする」とか、相手国政府の「サーバに対して不正アクセスをする」といった行為を推奨し煽ること自体が、逆に同種の反撃を日本も被ることを意味し、これらは、双方の国の市民を無差別に巻き込むことになる。私は憲法の規定がどうあれ自衛の措置としての武力の行使の三要件などというものを国家の権力行使として認めるべきではないと考えるが、そのことは別にして、自民党のタカ派の軍事・防衛の議論は、全体として自衛や防御ではなく、攻撃能力をもつことにシフトしており、高市のように、非戦闘員を巻き込むことを厭わない主張が支配的になってきたことを「提言」が体現している。

また、上に引用した「提言」におけるアトリビューションへの言及、つまり、「アトリビューション能力の強化の観点から、攻 撃者を特定し、対抗し、責任を負わせるために、国家として、サイバー攻撃等 を検知・調査・分析する能力を十分に強化」するという提言は、武力行使容認に繋りかねない重要な観点だ。アトリビューションとは、専門家によると「攻撃 の痕跡や手法などの技術的解析から、攻撃者の意図をめぐる地政学的背景まで、多様な状況証拠の収集と分析を 通じ、匿名性が高いサイバー攻撃の攻撃者や背後の攻撃国を特定(判断)していくプロセス」などと定義される。2これは防護と表裏一体となって、攻撃主体が誰なのかを特定し公表し、「攻撃者の刑事訴追、攻撃に関与した他国政府機関の関係者や 関係法人の資産凍結・渡航禁止などのスマートサンクション(以下制裁)など、公式非難声明に続く政策対応」3 を含むものであるともされている。アトリビューションは、日常的に敵と想定される対象を監視する行為なしには、有効に機能しないと想定されるので、スノーデンが暴露したNSAの網羅的監視から最近のNSOスキャンダル4に至るまで、監視活動(諜報活動)に歯止めがかからず、これを正当化するための概念だと理解しておく必要がある。そしてまた、こうした政策対応がソフトサンクションをどのような理由で正当化しうるのか、その国際法上の枠組はどうなっているのかはまだ未確定といってよく5、先のアクティブ・サイバー・ディフェンスの政治的な再解釈とあわせて考えてみると、攻撃主体への「物理的」な制裁へとエスカレートする危険性を含んでいることも念頭に置いておく必要がある。

4 サイバー領域で先行する軍事連携

実際に、日本はどのような「サイバー戦争」への関わりを進めているのか。提言では、ウクライナへのロシアの侵略を念頭にNATOへのかなり踏み込んだ言及がみられる。

今般のロシアによるウクライナ侵略に対して、NATO諸国は互いに結束し、 力による一方的な現状変更に断固とした姿勢を示し続けて対抗しており、日本 政府としても、こうしたNATO諸国と歩調を完全に合わせ、一体となって努力 を重ねている。こうしたわが国の姿勢は、翻って、インド太平洋地域、とりわけ 東アジア地域におけるNATO諸国の更なる関与を引き出すことにつながるた め、より一層の取組強化が必要である。

日本はNATOの加盟国ではないが、NATOのパートナー国(Partners across the globe)として、様々な会議に閣僚などだけでなく、制服組も出席して、軍事同盟の事実上の同盟国に準ずる位置を担う既成事実の積み重ねがかなり進んでいる。6 サイバー分野ではNATOとの実践的な連携に近い関わりがすでになされている。2018年、安倍政権下で、エストニアに所在するNATOサイバー防衛協力センター(CCDCOE)に日本が正式加盟し、運営委員会に日本のメンバーがすでに正式に参加していることはあまり知られていない。7

2022年4月に開催されたNATOサイバー防衛協力センターによるサイバー防衛演習「ロックド・シールズ2022」に日本は英国軍と合同チームで参加(昨年は日本は、米インド太平洋軍とチームを組んだ)している。(NATO加盟国を含む約30か国)8 ロックシールズは世界最大規模のリアルタイムのサイバーデシフェンス演習だ。

日本の参加組織は、防衛省から、内部部局、統合幕僚監部、陸上自衛隊システム通信団、海上自衛隊システム通信隊群、航空自衛隊作戦システム運用隊、航空自衛隊航空システム通信隊、自衛隊サイバー防衛隊。他府省から内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)、総務省、警察庁、情報処理推進機構(IPA)、JPCERTコーディネションセンター(JPCERT/CC)、重要インフラ事業者等が参加した。今回の演習は次のような想定による。

大西洋北部に位置する架空の島国ベリリアでは、ベリリアの軍事・民生ITシステムに対する多数の協調的なサイバー攻撃が発生し、セキュリティ状況が悪化しているとのことです。これらの攻撃により、政府や軍のネットワーク、通信、浄水システム、電力網の運用に深刻な混乱が生じ、最終的には国民の不安や抗議行動に発展しています。今回の演習では、初めて中央銀行の準備金管理および金融メッセージングシステムのシミュレーションが行われます。さらに、重要インフラの一部として5Gスタンドアローン移動通信プラットフォームが配備され、今後の技術変化についてサイバー防衛者に初めて体験させる。

注目されるのは、仮想敵からの攻撃によって社会が混乱させられ、これが「最終的には国民の不安や抗議行動に発展」するというシナリオになっているという点だ。「国民の不安や抗議行動」にも軍隊が対処することが想定されている。同時に上記の日本からの参加組織をみるとわかるように、自衛隊の他に警察庁が参加し、また「重要インフラ事業者」つまり民間企業からの参加もあったということだ。また、上の概要にあるように、金融システムへの攻撃も想定されているため、Mastercard Inc.やBanco Santander SAなど大手金融機関5~10社が参加しているが、日本からの民間企業や金融機関のどこが参加しているのかを私は把握していない。9 ちなみに、今年のロックド・シールズ2022は、ウクライナの情勢を念頭に置いた設定になっているが、ウクライナはまだCCDCOEには加盟申請中で参加はできていないが、ウライナ出身者が参加しているとも報じられている。10

5 武力行使、武力による威嚇

一般に、武力行使や威嚇の定義は難しい。これらを非常に幅広く解釈して、たとえば、誰も死傷者がおらず、重大な事態にならないが、「敵」とみなされる人物が銃を発砲したような場合、こうした軽微な事象であっても、これを武力行使や威嚇とみなすとすると、こうした事態に対してであっても、ある種の自衛権の行使が可能だとして、過剰な自衛力行使、つまり「反撃」あるいは「敵基地攻撃」につながるかもしれない。他方で、よっぽどの規模の被害が生じない限り、武力行使や威嚇とはみなさないとすると、自衛力の行使は抑制されるともいえるが、逆に、かなりの程度の暴力の行使を行なった場合であっても武力行使ではない、威嚇ではないと開き直ることもできる。

サイバー攻撃の場合は、更にあいまいになる。どの程度のネットの被害をもってサイバー領域にける「武力行使」なのかの判断が難しい。たとえば、防衛研究所の主任研究官でNATOのCCDCOAの運営委員のメンバーでもある河野桂子は次のように述べている。

外国領域における外国人の誘拐、軍用機 による他国の領空侵犯、他国領海内での潜水艦による潜没航行などが、遭難、不可抗力 その他の止むを得ない事情によって正当化されない限り、全てその国に対する武力行使を構 成する (さらに重大であれば武力攻撃にさえ該当しうる) 37 。国によるサイバー手段の使用にこ の考え方をあてはめた場合には、他国に対する有害なサイバー行動(但し、単なるネット}ワー ク侵入(不正アクセス)は除く)の多くの例が武力の行使又はその威嚇に該当する余地が ある。11

河野のこの主張を前提すると、自衛権行使は幅広く容認されてしまうだろう。しかし、河野の紹介によれば、現状では、いったい何がサイバー領域における武力行使なのか、威嚇なのかについては、たとえば、航空機の衝突又は墜落や原子力発電所の融解の例などは武力行使とみなされ、医療施設を攻撃目標とすることもこれに準ずるとみなされうるというのが軍事の専門家たちの見解のようだが、上記のCCDCOEの模擬演習のシナリオをみればわかるように、軍事関係者は、サイバー領域における武力行使をより幅広く把えて、これに対処できる軍事力を構築することが、いかにして国際法上も各国の国内法上も可能なのかを模索しているといえる。

6 「グレーゾーン」と「ハイブリッド」への関心の高まり

先頃、陸上自衛隊が作成した資料のなかで、自衛隊の取り組みとして反戦デモや報道が「武力攻撃に至らない手段で自らの主張を相手に強要する「グレーゾーン」事態に当たる」ものとして例示されて問題化した。12 グレーゾーンという概念が登場したことが注目に値する。デモや報道を取り上げたことも、ちょっとしたミスとか誤解といったものではなく、ここ数年繰り返し自衛隊や政府の国家安全保障が念頭に置いてきた課題だということが見過されがちだ。ロックド・シールズ2022の演習でのシナリオに「最終的には国民の不安や抗議行動に発展」が含まれていたことを想起する必要がある。こうした想定を自由と民主主義を標榜する諸国が疑問もなく軍事的な脅威あるいは攻撃の類とみなしているのだ。このことを念頭に、以下ではサイバー領域に限定してグレーゾーンを取り上げる。

リアル空間における武力行使や侵略行為との類推が容易な分野だけがサイバー攻撃やサイバー戦争の分野なのではないく、その外部にあるサイバー空間のかなりの部分―具体的には日本政府によって定義されている「重要インフラ」の全てが最低限でも視野に入る―への直接的な人的被害が生じていないようなケースを、一般に「グレーゾーン」と呼んでいる。また上述のロックド・シールズ2022の演習のように、国内の民衆によるデモも含むようなばあいは、軍事と非軍事、サイバーとリアルが交差する領域となり、軍隊が警察化し、警察が軍隊化する危険性が大きい領域になる。これは一般に「ハイブリッド戦」として軍事的な対応をすることを正当化しようとする傾向が顕著だ。グレーゾーンやハイブリッド「戦」といった領域をいかにして戦争の対象して自衛隊の守備範囲に囲い込むか、が現在の大きな課題になっている。

防衛白書では「グレーゾーンの事態」と「ハイブリッド戦」を以下のように説明している。

いわゆる「グレーゾーンの事態」とは、純然たる平時でも有事でもない幅広い状況を端的に表現したものです。

例えば、国家間において、領土、主権、海洋を含む経済権益などについて主張の対立があり、少なくとも一方の当事者が、武力攻撃に当たらない範囲で、実力組織などを用いて、問題にかかわる地域において頻繁にプレゼンスを示すことなどにより、現状の変更を試み、自国の主張・要求の受入れを強要しようとする行為が行われる状況をいいます。

いわゆる「ハイブリッド戦」は、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法であり、このような手法は、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強いることになります。

例えば、国籍を隠した不明部隊を用いた作戦、サイバー攻撃による通信・重要インフラの妨害、インターネットやメディアを通じた偽情報の流布などによる影響工作を複合的に用いた手法が、「ハイブリッド戦」に該当すると考えています。このような手法は、外形上、「武力の行使」と明確には認定しがたい手段をとることにより、軍の初動対応を遅らせるなど相手方の対応を困難なものにするとともに、自国の関与を否定するねらいがあるとの指摘もあります。

顕在化する国家間の競争の一環として、「ハイブリッド戦」を含む多様な手段により、グレーゾーンの事態が長期にわたり継続する傾向にあります。

自民党の「提言」では以下のような文脈で用いられている。

グレーゾーンの事態に備え、警察機関と 自衛隊との間でシームレスな対応ができるよう、より実践的な共同訓練の実施 等の取組により、平素からの連携体制を一層強化するとともに、とりわけ原子力 発電所においては、自衛隊による対処が可能となるように、警護出動を含め法的 な検討を行う。 (略) いわゆる「ハイブリッド戦」は、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にし、 様々な手段を複合的に用いて領土拡大・対象国の内政のかく乱等の政策目的を 追求する手法である。国籍不明部隊を用いた秘密裏の作戦、サイ バー攻撃による情報窃取や通信・重要インフラの妨害、さらには、インターネ ットやメディアを通じた偽情報の流布などによる世論や投票行動への影響工 作を複合的に用いた手法と考えられる。このような手法に対しては、軍事面に とどまらない複雑な対応を求められる

上で、「グレーゾーンの事態に備え、警察機関と 自衛隊との間でシームレスな対応」とあるように、警察が関与するということは、国内の問題が念頭にある。国家安全保障の軍事的な側面が非軍事的な側面との境界が限り無くあいまいになっている。そして限りなく非軍事的な領域が軍事的な機能も担うようになっている。やや古い文献では、ネット上の情報の「窃取」、サービスの妨害行為、対象のシステムのデータやシステムそのものの破壊などが「グレーゾーン」に該当するという説明もあるが、たぶん、これらはむしろサイバー攻撃そのものに格上げされているのではないか。そして「偽情報」のような事態がグレーにカウントされるようになってきた。つまり、ますます多くの事象が「攻撃」とみなされ、「反撃」を正当化し、これまでは軍事安全保障の問題とはみなされていなかった事象が安全保障関連として位置づけなおされ、その結果として、私たちのコミュニケーション環境や言論表現領域がますます国家の安全保障による防御対象として監視・統制強化されるようになってきた。

ここで注目すべきなのは「偽情報」への強い関心だ。この関心は、政府や自民党が、自らの権力の宣伝手法における「偽情報」の効果にも関心をもっているということの裏返しでもある。何が偽なのかはウクライナの戦争をみても非常に複雑だ。一般論として言いうることは、政府の政策や社会の多数派に対する批判的な主張や事実は「偽情報」と、みなされる可能性が高いということだ。同時に、戦争状態では情報統制が厳しくなることが一般的だ。これが「グレーゾーン」や「ハイブリッド戦」といった新しい戦争概念の下では、従来の戦争状態の枠を越えて、現在の日本の状況もまた戦争に準ずる状況とみなされて、将来の戦争を予定して、監視・規制が強化されうることになる。自民党の提言は、政府によるネットの言論への監視と介入だけでなく、「投票行動への影響工作」にも言及している点は重要だ。というのも、選挙などの民主主義の重要なプロセスの際に、政権がネット政府批判や野党候補支持の運動を様々な口実を用いて規制したり、ネットへのアクセスそのものをシャットダウンすることが、海外では珍しくないからだ。13

このように、サイバー空間は、コミュニケーション空間でありインターネットは政権や民間資本の重要のインフラでもあると同時に、私たちにとってもまた不可欠なコミュニケ=ーションの権利のための手段でもあるために、政権や民間資本が軍事安全保障を口実に、ネット空間を防衛すると称する事態や、あるいは逆にネットを通じた攻撃を展開するという事態に、私たちのコミュニケーションの環境が否応なく巻き込まれてしまう。自民党の「提言」や「防衛大綱」は、「サイバー攻撃」の概念のなかに、戦争に反対したり政府に反対する言論を含みうるニュアンスがある。反政府的な言論は政府の行動に対する言論上の異議申し立てであり、政府の行動を抑制する意図があるから、当然のこととして、効力を発揮すれば、政府に対する正当な、権利としての妨害行為である。だからこそ、そのこと自体が「サイバー攻撃」だというレッテルを貼られ、正当な権利行使が犯罪化されかねない危険性がある。

自民党の「提言」への批判的な論評がメディアでも出されている。(朝日毎日沖縄タイムス、など)しかし、この「提言」のなかの「サイバー」への言及や批判は非常に手薄だ。アトリビューション、グレーゾーン、ハイブリッド戦などの横文字の煙幕に巻かれた印象が強い。情報通信のプラットフォームに依存する言論・表現の領域が、それ自体が武力行使の現場を構成しているということへの認識が希薄だ。

7 憲法9条が想定している「戦争」の枠を越えている

政府・自民党が「戦争」の概念を根本的に変更しようとしており、そのとっかかりとして「サイバー戦争」「サイバー攻撃」といった従来の戦争に武力行使では想定されていなかった新しい状況を持ち出してきている。憲法9条が想定していた戦争概念がそのまま適用できないサイバー戦争状態を巧みに利用して、戦争と非戦争の区別をあいまい化しつつ、政府のあらゆる活動が多かれ少なかれ戦争との結び付きのなかに包摂されうるような、統治構造が構築されようとしている。

サイバー空間では、戦車や戦闘機といった人を物理的直接的に殺傷する兵器は目立たない。しかし、ほとんど全ての兵器や兵士の装備はネットやコンピュータと不可分一体のものになっている。無人攻撃機はそのわかりやすい例だろう。問題はこれだけに収まらない。軍の兵站から「国民」を戦争へと動員するプロパガンダや政府の行政システムのある側面が戦争や軍事行動と連携し、同時に民間資本も連携する。先のNATOのサイバー防衛戦の模擬訓練に日本から参加していたのは、自衛隊の他に、内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)、総務省、警察庁、情報処理推進機構(IPA)、JPCERTコーディネションセンター(JPCERT/CC)、重要インフラ事業者等だということの意味はとても大きい。コンピュータ・テクノロジーが支配的な社会では、サイバー戦争はそれ自体が直ちに総力戦にならざるをえないのだ。私たちの手元にあるコンピュータデバイスは、戦争状態では、武器にもなるから、武器と非武器の境界はあいまいになる。私たちのネットでの情報発信は、いかに私的な通信であっても、ビッグデータとして解析されることによって、戦略的に意味のある情報となる。世論を操作し、敵に対する効果的なプロパガンダを展開するための重要なデータだからだ。そうである以上、私たちの日常の行動は二重の意味で、戦争とむすびつけられる。自国の政府にとっては、戦争を効果的に遂行するためにいかにして自国民の戦争への動機付けを形成するかという動員戦略にとって不可欠なデータとなる。敵にとっては、逆の意味で敵の状況を把握し世論を操作するために不可欠なものとして戦争とむすびつけられる。

こうした状況のなかで、日常生活もまた、戦争と不可分なものとして、監視の対象にされる。典型的には、インターネットに接続している私たちのデバイスが「敵」の攻撃を受けたり、「敵」の攻撃に利用されうるということを理由に、政府による監視とセキュリティ強化が主張され、そのためには私たちプライバシーや表現の自由が抑制されることがあっても受忍すべきだということになりかねない。

現行の9条に規定されている「武力による威嚇又は武力の行使」「陸海空軍その他の戦力」「交戦」といった概念は、サイバー領域における「攻撃」を効果的にカバーできているとはいえず、その多くが、従来の武力や戦力の概念にはあてはまらないとみなされて大目にみられる反面、「敵」とみなされる対象によるサイバー攻撃が、従来であれば、「犯罪」とされていた行為をある種の戦闘行為や軍事的な攻撃として過剰な意味づけを与えて「反撃」を正当化しようとすることに対しても、十分な歯止めになりうるような構造をもっていない。9条の文言は、従来の戦争に関してすら歯止めになっていないが、更にサイバー戦争を阻止し放棄するためにはますますもって全く不十分なのだ。9条の文言の再定義によってこの限界を克服することは、現実的な取り組みかもしれないが、その場合であっても、自衛のための武力行使を9条は否定していないという政府の見解や学会の多数説を前提としてしまうのであれば、サイバー戦争における自衛のための武力行使は容認され、私たちのコミュニケーションの権利領域全体が国家安全保障の対象領域として統制下に置かれうることになるから、全く意味をなさない。

8 何をすべきなのか

戦争に反対するための行動は、街頭で意思表示をするといった実空間での行動とネットなどのコミュニケーションの空間における表現行為との相互作用のなかで展開される。たとえば、ロシアの反戦運動はネットを通じた国内外への情報発信を巧に実空間でのアクションに繋げている。14ハイブリッド戦やグレーゾーンの軍事化を前提とすると、政府や民間資本がとる行動は、ネットの言論空間から反戦や平和の言説を排除することによって実空間での行動の拡がりを抑制しようとする。どこの国でもまずターゲットになるのはSNSなどの発信者への弾圧であり、ときにはプラットフォームそのものの遮断だったりする。

こうした事態は、これまでの経験からも十分に想定できる戦争に共なう情報統制だ。これに対する対抗手段は、平時におけるコミュニケーションの権利の基本を手離さないことなのだ。15つまり、匿名性やを確保しつつネットワークの遮断や排除を回避するための代替手段をもつことだ。また、メッセージの盗聴を想定して暗号化によるコミュニケーション手段を確保することも重要になる。同時に、ネット以外のよりアナログなコミュニケーションの回路を確保することも重要になる。

こうしたことは、すぐにはできない場合が多く、また、気づいたときには、上記のような対抗手段が違法化されて容易には利用できなくなっている場合が少くない。たいていは、戦争などとは関係のないようにみえる理由を持ち出して、規制を強化する。ヘイトスピーチ対策を名目に、ネットの実名利用を義務化したり、児童ポルノ対策を理由にコンテンツの暗号化を規制したり、Torや暗号化メールサービス(ProtonmailとかTutanota)などの利用を違法化するなどだ。

サイバースペースの軍事化は、実空間における軍事と一体であり、実空間の軍事力の廃棄なしにはサイバースケースの非軍事化は実現できない。この意味で、従来から存在する国民国家の常備軍そのものを廃棄することはサイバースペースの非軍事化のための必要条件でもある。このときに、自衛のための武力行使を認めるのか、それをも否定し文字通りの非武装を主張するのかでサイバースペースの非軍事化に根本的な違いが生じる。私は完全な非武装化、つまり軍隊(自衛隊を含む)によるサイバースペースの利用を排除すること、サイバースペースの非軍事化こそがサイバースペースの平和の実現する唯一の選択肢だと考えている。サイバースペースは、伝統的な意味での「領土」概念あてはまらない。ユーザーはたしかに、どこかの実空間に存在するが、ネットへのアクセスポイントは、VPNを使ってアクセスしたり、Torのネットワークを使ったりする場合のように、その実空間の住所と一致する必要はない。人々は領土的な空間の配置のなかで繋っているのではなく、多元的な条件を通じて繋がっている。地理的な距離ではなく社会的な存在に基づく社会的な距離の関数によってその繋がりが形成されている。つまり、階級、ジェンダー、エスニシティ、言語、文化的な関心、イデオロギー、宗教などだが、戦争状態ではナショナルなアイデンティティが支配的になる。サイバー戦争は、領土をめぐる戦争と連結しつつも、それだけではなく、この社会的な距離を構成している構造をめぐる戦争という側面をもっている。

サイバースペースでこうした戦争に対して私たちに必要なことは、民衆のサイバーセキュリティである。自国政府による安全保障を口実とした監視・統制に対抗することは、戦争で「敵」とみなされた勢力による攻撃からの防御と同時に重要な課題になる。この自国政府からのコミュニケーションの権利の防御は政府や企業に委ねることで実現されるというよりも、私たちのセキュリティ対策で対処しなければならないことだ。民衆の安全保障は、国家や軍隊によっては実現しえないのと同様、民衆のサイバー安全保障もまた私たち自身の手で、国家の思惑とは自立して獲得されるべきことであり、このことが反戦平和運動を下支えすることにもなる。

Footnotes:

1

「サイバーセキュリティ対策⑦:アクティブ・ディフェンス」 https://www.sanae.gr.jp/column_detail1210.html

2

瀬戸 崇志「国家のサイバー攻撃とパブリック・アトリビューション」防衛研究所、NIDS コメンタリー第 179 号

3

同上。

4

Amnesty International「秘密裏に行われるサイバー監視の規模は、NSOグループが加担する「国際的な人権の危機」である 」 https://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/hankanshi-info/knowledge-base/amnesty-international-pegasus-project-spyware-digital-surveillance-nso/

5

国際法とサイバー攻撃に関しては、下記を参照。中谷和弘、河野桂子、黒崎将広『サイバー攻撃の国際法―タリン・マニュアル2.0の解説』、信山社。河野桂子「「タリン・マニュアル 2 」の有効性考察の試み ― サイバー空間における国家主権の観点から ―」防衛研究所紀要第 21 巻第 1 号( 2018 年 12 月)

6

「NATO のパートナーシップ政策には NATO 加盟国以外との関係が規定 されており、「平和のためのパートナー(Partnership for Peace:PfP)」、 「地中海ダイアログ(Mediterranean Dialogue:MD)」、「イスタンブール 協力イニシアチブ(Istanbul Cooperation Initiative:ICI)」、「世界のパー トナー(Partnership Across the Globe:PAtG)」という 4 つの枠組みがあ り、日本は NATO と「世界のパートナー(PAtG)」という関係にある。安 倍総理は 2007 年に NATO 本部を訪問し、日本の総理として初めて NAC において演説した。その後 2014 年 5 月に我が国と NATO との間で署名さ れた政 治文書である「 個別パ ー トナーシップ協力計画( Individual Partnership and Corporation Programme between Japan and NATO: IPCP)」に基づき NATO との間で具体的な協力を進めており7、2018 年 5 月には 2 回目の IPCP 改定が行われ、現在、サイバー防衛、海洋安全保障及び人道支援・災害救援(HA /DR)分野などで協力が進められている8。 また、我が国の NATO に対する正式な在外公館として 2018 年 7 月 1 日に は NATO 日本政府代表部が設立された」(石渡宏臣「欧州安全保障情勢の軌跡と展望 ― 安全保障上の課題に対する NATO の対応を中心に ―」『海幹校戦略研究』第 10 巻第 1 号(通巻第 20 号) 2020 年 7 月)たとえば、最近では、2021年10月、航空幕僚長がNATOが主催するNATOパートナー空軍司令官会議にオンラインで参加、https://www.mod.go.jp/asdf/news/release/2021/1018/。 日本とNATOの関係が緊密になったのは安倍政権下で安倍総理とラスムセン 事務総長により初の「日・NATO共同政治宣言 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000003487.pdf 」が出されて以降というのが政府の見解かと思われる。外務省、欧州局政策課「北大西洋条約機構(NATO)について」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100156880.pdf 参照。パートナーシップを結ぶ前の状況については、長廣誠「NATO の視点から見た日・NATO パートナーシップ協力 の意義」海幹校戦略研究 2014 年 12 月(4-2)https://www.mod.go.jp/msdf/navcol/assets/pdf/ssg2014_12_03.pdf 参照。

7

“Japan to Join the NATO Cooperative Cyber Defence Centre of Excellence in Tallinn”, https://ccdcoe.org/news/2018/japan-to-join-the-nato-cooperative-cyber-defence-centre-of-excellence-in-tallinn/ 「日本は、 CCDCOE の主催で 2008 年から開催されてい るサイバー防衛演習 Locked Shields に、2015 年、2016 年はオブザーバー参加、2019 年は正式参 加 (51) している。さらに、2019 年 3 月からは、防衛研究所主任研究官を CCDCOE に派遣し、 CCDCOE の法務部門において、国際法の専門家としての知見をいかし、サイバーと国際法の関 係、サイバーに係る規範の形成等、サイバー防衛に関する法的な研究に従事させている (52) 。」 山﨑治「自衛隊、米国軍等のサイバー攻撃対処能力の強化」レファレンス 832 号、国立国会図書館 調査及び立法考査局。

8

NATOサイバー防衛協力センターによるサイバー防衛演習「ロックド・シールズ2022」への参加について、防衛省。https://www.mod.go.jp/j/press/news/2022/04/19e.html

9

“NATO-Linked Center to Hold ‘Live-Fire’ Cyber Drills as War Rages,”

10

Ionut Arghire, “Over 30 Countries Take Part in NATO’s ‘Locked Shields 2022’ Cyber Exercise,” https://www.securityweek.com/over-30-countries-take-part-natos-locked-shields-2022-cyber-exercise April 19, 2022

11

河野、前掲、「タリン・マニュアル 2」の有効性考察の試み―サイバー空間における国家主権の観点から―」

12

メディア各紙が取り上げた。たとえば、琉球新報社説。「陸自、反戦デモ敵視 文民統制 逸脱許されない」2022/4/1 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1494580.html

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(#KeepItOn) KeepItOn update: 2021年インターネット遮断は誰がしているのか? https://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/hankanshi-info/knowledge-base/keepiton-who-is-shutting-down-the-internet-in-2021/

14

「反戦メーデー。 ロシアで、戦争ではなく鳩に餌をやるストライキを」https://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/blog/2022/04/27/anti-war-labor-day-we-feed-pigeons-not-war-strike-in-russia_jp/、 「ロシア反戦運動:抗議をよりわかりやすくするには?フルガイド」 https://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/blog/2022/04/25/kak-sdelat-protest-zametnym-sobrali-vse-sposoby-03-18_jp/

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小倉利丸「法・民主主義を凌駕する監視の権力と闘うための私たちの原則とは」 https://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/blog/2021/04/16/hankanshi_gensoku/

Author: 小倉利丸

Created: 2022-05-02 Mon 00:14

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途方もない抵抗。戦争と家父長制に反対するロシアのフェミニストたち

途方もない抵抗。戦争と家父長制に反対するロシアのフェミニストたち
2022年4月22日

戦争に反対する恒久的な集まり Permanent Assembly Against the Warに参加しているロシアのフェミニスト反戦レジスタンスのサーシャへのインタビューを掲載する。この戦争が、女性たちが闘ってきた家父長制的暴力の継続であること、ロシアにおけるさまざまな戦争反対の形について語り、国境を越えた戦争反対の5月1日に向けてロシアでもアクションが行われることを予告している。


●TSSプラットフォーム ロシアでフェミニスト反戦レジスタンスはどのように組織されているのですか?

SASHA:フェミニスト反戦レジスタンスは、戦争が始まって2日目の2月25日に始まりました。私たちの最初の行動は、もともとロシア語で書かれたマニフェストでしたが、その後20カ国語以上に翻訳されました。このマニフェストを通じて、私たちは女性やフェミニストのグループを抵抗のために動員し始めました。私たちの行動と組織のための主要なチャンネルはTelegramです。最初の数日間で、すでにTelegramのチャンネル登録者は1万人に達しており、一部のフェミニストやインフルエンサーのサポートのおかげでもあります。こうして私たちは成長し始めたのです。3月6日、私たちはフェミニスト・ブロックとして、大規模な反戦街頭抗議行動に参加しました。この抗議行動はあまり成功しませんでした。ロシア警察が組織的に主要な広場や通りを封鎖したため、たとえ大勢が集まっていても、他のグループと団結することができず、非常に悲惨な結果に終わったからです。3月6日以降、私たちは戦略を変更し、より目立たない日常的な抵抗の戦術に移行することにしました。これらの戦術はより安全で、警察の暴力にさらされることも少ないのですが、それでも都市部での反戦抵抗の兆候を示すことができます。私たちは、都市や村落の中に反戦の「第二の都市」を作りたいと考えています。

●この運動はロシア全土に広がっているのですか?

はい。現在、私たちのTelegramチャンネルには3万人が登録しています。その中には、さまざまな都市や村の数千人の活動家がいて、常に報告やアイデア、新しいアクションの提案などを送ってくれます。ステッカーからパフォーマンスまで、アクションの範囲は多岐にわたります。私たちの運動のビジョンは、あまり組織化された明確な構造を持たず、代わりに人々に自分たちの親密なグループを組織することを提案し、自分たちでチャットグループやFacebookページ、Telegramチャンネルなど、好きなものを組織してもらうようにしています。その際、フェミニスト反戦抵抗のシンボルを使い、私たちと連携することもできます。彼らはチャンネルを通じて私たちに伝えることができますが、そのグループがロシアに拠点を置き、ソーシャルメディアで公開されていない場合(めったにないことですが)、安全ではないので、通常は情報を公開することさえしません。海外のグループについては、より自由に情報を公開することができると思っています。イギリス、チェコ、ドイツなど、海外にも多くのグループがありますが、ロシア国内では、彼らの匿名性、ある意味での「不可視性」を守ろうとしています。このように、ロシア全土にさまざまな親密なグループがあり、私たちのチャンネルは、抵抗に関するアイデアを循環させ、共同で調整するためのプラットフォームだということです。現在、親密なグループの立ち上げ方について、新たなインストラクションを準備しています。多くの人が尋ねてきます。「どうすれば参加できますか?この町やこの都市に誰か知り合いはいませんか?私たちは彼らを組織しているわけではなく、彼ら自身が組織するべきだと思うのです。

●ロシアや他の国で、フェミニストが反戦運動の先頭に立つのはなぜだと思いますか?

第一の理由は、ロシアの文脈に関係しています。フェミニスト運動は政治運動とみなされず、他の政治運動のように弾圧されることもありませんでした。フェミニストは政府から相手にされていなかったのです。政治的な状況を見れば、アナキストやナヴァルニー支持者など、他の多くの政治団体はとっくに弾圧されています。私たちフェミニストは、国家から、パフォーマンスをしたり、講演会やフェスティバルを開いたりしている変な女の子としか見られていなかったのです。プッシー・ライオットで十分だと思われていたのかもしれません。フェミニストに対する弾圧は、ユリア・ツヴェトコワYulia Tsvetkovaが絵を描いたことで投獄された事件もありますし、私たちも何度も警察から嫌がらせを受けましたが、おそらくフェミニスト運動はそれほど標的にされていなかったのだと思います。私たちが反戦レジスタンスを組織する以前は、フェミニズム運動はあまり組織化されていませんでした。全国各地にフェミニストグループがあり、かろうじて協力し合っている状態でした。いろいろな団体を通してたくさんの人が関わっていたにもかかわらず、これほど統一された運動はなかったのです。このフェミニストの反戦抵抗のポイントは、全国のこうしたフェミニスト・グループの自律性を私たちの強みにすることでもあるのです。なぜなら、誰が行動しているのかを把握することが難しくなったからです。

その第二の理由は、軍国主義やあらゆる種類の暴力に対するフェミニストのかなり明白な抵抗です。ロシアで家庭内暴力禁止法や、性的暴力やハラスメントに対するサバイバーの権利のために闘っていた私たちにとって、この戦争と暴力は、私たちが目撃し、闘ってきた家庭内暴力の継続であることは、ただただ明白なことなのです。まず第一に、戦争は、全く異なる力学を持ちながらも、8年間続いている。さらに重要なことは、戦争は終わりと始まりがあるような個別の出来事ではないということです。戦争は、私たちが生きている家父長制暴力の集大成、クライマックスに過ぎないのです。フェミニストである私たちにとって、この戦争は私たちが闘ってきた暴力の一部であり、これからも闘い続けることは自明でしょう。

●女性の身体は征服の暴力にさらされていますが、この戦争には象徴的な意味合いもあります。プーチンが、自由になりたいと願うウクライナを罰しているという事実が、父や夫が自由になりたいと願う娘や妻を罰するのと同じように。

まったくその通りです。プーチンは、一家の長、家長というペルソナを作り上げてきましたが、今回の戦争でそれがさらに強まりました。彼の最も皮肉な仕草は、ブチャにいた兵士を賞賛したことです。これはどういう意味でしょうか?それはつまり 「そうだ、我々はやったのだ、そこでやったことを誇りに思う」という意味です。つまり、レイプや拷問、非常に残酷な暴力によって、まったく罪のない人々を罰し、ロシアの宣伝家が言うところの「浄化」を行い、たまたまプーチンが望む以上に自由を手に入れた人々を罰するということです。彼は政治の世界でさえもこのような行動様式をとっているのです。

●また、戦争から逃れてウクライナの国境を越えた女性たちは、中絶の自由の制限や嫌がらせといった形で、家父長制の暴力に遭遇しています。海外のフェミニストとのつながりはありますか?

戦争は、私たちが住んでいる家父長制をあらゆる側面から浮き彫りにしています。中絶を必要とするウクライナ人女性のための非公式な支援組織が、海外でもポーランドにありますが、永住許可や健康保険なしで中絶することがそれほど簡単ではない他の国にもあります。中絶のほかに、彼女たちは人身売買の危険にもさらされていますが、これにも私たちは取り組んでいます。必要に応じてさまざまな団体と協力し、人身売買や性的搾取を避けるための資料をウクライナ語やロシア語で提供しようとしています。多くのNGOは、単にこの問題を認識していないだけなのです。ポーランドやベラルーシの団体と協力し、情報を発信しています。

●ロシアの状況に話を戻すと、戦争に対する抗議は他にどのようなものがありますか?

抗議の種類は実にさまざまです。それまで政治的な声明を出さなかった専門家集団が、戦争が始まると活発になりました。アニメーター、映画監督、ジャーナリスト、教師、建築家、科学者、IT技術者、音楽家など、さまざまな職業集団から多くの署名活動が行われました。それは、多くの人々が、自分たちは協力し、集団行動を起こすための何らかの根拠を見つける必要があり、その可能性を自分たちの職業的アイデンティティに見出した瞬間であり、印象的で期待に満ちたものでした。しかし、残念ながら、検閲の高まりとともに、こうした取り組みが見られなくなりました。これらのグループがすべて消滅した後も、ロシア労働総同盟(KTR)は活動を続けていました。労働組合「教師」は署名を集め、何千人もの教師が署名しました。これはロシアの近現代史における特異な瞬間です。なぜなら、学校の大半が国営であるため、教師は集団として雇用の安定に関して非常に脆弱であるからです。もう一つの非常に活発なグループは学生です。彼らは多くのイニシアチブを実行し、他の労働者のイニシアチブを支援しようとしています。例えば、昨日(4月19日)、タクシー運転手のストライキがありましたが、学生たちはこのストライキを支援する呼びかけを行いました。また、大学の教員に戦争反対の立場をとるよう呼びかけるアピールを出しました。私たちが協力している反戦病欠の会anti-war sick leave groupにも協力してくれました。このように、さまざまな反戦運動が緊密な網の目のように張り巡らされ、互いに協力し合いながら、さまざまな政治的戦術をとっているのです。

●経済制裁は、現在ロシアの人々にどのような影響を与えていますか?

特に自動車産業では部品が不足しているため、すでに数千人が操業停止状態です。多くの企業が閉鎖され、モスクワでは今後数ヶ月で20万人以上の失業者が出ると市長は言っています。私の母は学校で働いており、紙に関するあらゆる最新情報を追っています。紙はフィンランドから輸入した材料で生産されているため、今は大赤字なのだそうです。紙が足りないから国家試験を中止するかどうか議論しているそうです。出版社も大変です。戦争前もそうでしたが、政府が教科書を書き直すプロジェクトを立ち上げて、印刷所を全て独占し、紙を使いまくって何千万部も学校用マニュアルを刷ったことがありましたから。果たして、彼らはこの教科書の印刷を終えることができるのだろうかと、私は気になっています。さらに、インフレが進行しています。様々なデータによると、ジャガイモ、ニンジン、キャベツ、タマネギといった基本的な物資の価格は、ここ数ヶ月で40%から60%にまで上昇しました。戦争が新たな局面を迎える前から経済危機には陥っていましたが、今はさらに悲惨な結果になっています。

●あなたは「戦争に反対する恒久的な集まり」の一員として、国境を越えた平和の政治を推し進めていますね。なぜ、国境を越えた反戦の協力が重要だとお考えですか?

私たちの究極の目標は、帝国主義と資本主義に対抗することですが、これは国境内ではできないことで、それは無謀なことです。国境内で何か新しいものを作ろうというのは無理です。国境を越えた協力は不可欠であり、抵抗の戦術や異なる戦略を交換することも不可欠です。西側にも批判的な人たちがいて、NATOにも常に批判的でしたが、今や彼らもロシア帝国主義がNATOよりも緊急の問題であることを理解しているのです。

●5月1日、「戦争に反対する恒久的な集まり」は、「戦争を打ち負かす」ための統一行動の日を呼びかけ、戦争に反対する私たちの国境を越えたつながりをアピールしています。この行動日にどのように参加し、支援する予定ですか?

鳩に餌をやって通りや広場を占拠したり、公式の祝典を阻止したりすることも考えられます。

下訳にDeepLを用いました。

反戦メーデー。 ロシアで、戦争ではなく鳩に餌をやるストライキを

以下は、Trans-national Strike Infoのサイトに掲載されていた英語からの翻訳です。

反戦メーデー。 ロシアで戦争ではなく鳩に餌をやるストライキを
2022年4月27日

戦争に反対するフェミニスト

ロシア語

5月1日、12:00から16:00

5月1日、労働者メーデーに、私たちの労働が本当に価値あるものであることを思い出し、実感してください。ストライキ!
そして「平和」と名のつく広場や大通り、その他の街のオブジェのあるところに出かけ、ハトに餌をやり、同じ志を持つ人々と出会い、自分の仕事を振り返ってみてください。

なぜストライキなのか?

ストライキは、連帯と支援のための教訓です。共に行動する能力を鍛え、システムの再生産に自分がどう寄与しているかを振り返る方法なのです。ストライキは、未来が入り込む日常生活の裂け目です。労働の流れから外れ、いつものリズムを壊すことで、自分の仕事(有給、無給)がどのようにシステムの再生産に影響を与えるのか、その速度を減速させるために何ができるのかを理解する機会を作るのです。ハトに餌をやる仲間に会うことで、抵抗するための新しい方法を考え出すことができます。

ロシアでは、デリバリークラブの宅配便、ゴミ収集車の運転手、M-12高速道路の建設業者、ディベンスカヤ圧縮機場の労働者がストライキを行っています。ロシアでは独立した労働組合のリーダーが迫害されています。宅配便労働組合の共同議長であるキリル・ウクラインツェフの自宅が夜間捜索され、反戦を理由に解雇された人々もいます。連帯を示すためにストライキを起こそう ! 5月1日に鳩に餌をやりに出て、同盟者を見つけ、自分なりのストライキの方法を考えよう。

休みの日にどうやってストライキをするんだ?

毎日、私たちは働いています。仕事に行き、勉強し、国の機関や民間企業で働き、経済が機能するプロセスに関与しています。しかし、多くの人は子どもの頃から、自分の労働は何の意味もなく、大きな機械の小さな歯車に過ぎないという考えを教え込まれています。あるいは、仕事をすること自体が美徳であるとも。ストライキは、現在の政治的空白状況の中で、私たちの無意味さに対して異議を唱え、私たちの強さと主体性を確認するための方法です。

そして、もう一つの種類の不払いでかつ目に見えない労働があります──それは、家事労働です。料理、掃除、子供や 高齢者の世話、愛する人の世話をする幾千もの実践、これは多くの女性が一生のうち23年間も余分に労働する大仕事です。もし女性たちが少なくとも1日、この仕事を中断したり減らしたりして、家事を拒否し、休息、コミュニケーション、抗議行動、解放のための実践に専念するために、自分たちのための1日を確保したらどうなるでしょうか?女性たちが、これは労働であり、賃金が支払われるべきものだと主張したらどうでしょう?

自分の労働を可視化するために、労働を止めよう。戦争ではなく、鳩に餌をやるのです。そして、この無為な活動のあいだ、サボタージュの実践について考え、同じ志を持つ人々に会うこともできます。

今年の5月1日には、世界の多くの国で政治的ストライキが行われますが、私たちはこれに参加するための独自の形も提案しています。技術的には職場でのストライキよりシンプルですが、新しい人脈や支援ネットワークを作ることができます。ストライキを学ぼう!」。

多くの人にとって、たとえ1日でも家事や介護を放棄することは特権であることを私たちは理解しています。しかし、多くの女性にとって、他の親族が戦争、性差別、暴力を支持しかねない家庭という空間では、それはとても難しいことであることも、私たちは理解しています。もし、この日に家を出る機会があれば、自分の事を他の人に移し、私たちのアクションに参加し、屋外で時間を過ごしてください。怠けることは時に最も実りある時間なのです。

なぜ鳩に餌をやるのか?

不条理なストリートアクションの一種としてのハトの餌付けは、2019年、選挙における無所属候補を支持する抗議活動の際にロシアで定着していきました。多くの都市で、人々は粟を手に街頭や広場に繰り出し、そこで同じ志を持つ人々と出会い、その過程でコミュニケーションを図りました。私たちは、世界の鳥に餌を与え、戦争に餌を与えるな!このような形を思い起こすことにしました。

女がやめれば、世界は止まる!

Telegram: https://t.me/femagainstwar

ロシア反戦運動:抗議をよりわかりやすくするには?フルガイド

以下は、さきに紹介したロシア各地の反戦運動のアクションを紹介しているサイトに掲載されている抗議アクションのノウハウをまとめたもの。逮捕などの弾圧のリスクや、多数派が戦争賛成とみなされている社会のなかで、街頭にでて戦争反対を訴えるには勇気がいることだが、やれる方法をたくさん提案している。しかも単に提案していくつかの実際の行動を紹介するだけでなく、グラフィティであれば、ステンシルのテンプレートを何種類も用意したり、実践へのハードルを低くする工夫がなされている。ロシアの運動への弾圧は厳しいということばかりが日本でも流布してしまっているが、実はもしかしたら日本の方がロシア当局よりずっと厳しい弾圧体制が敷けるような法制度をもっているのでは、とも感じるところがある。グラフィティはとくに厳しいだろうし、社会運動のなかでグラフィティの文化が脆弱でもある日本のばあい、ストリートをとりもどすこととネットを駆使することを有機的に繋ぐことが重要だと思う。この点で、ロシアの反戦運動はこの両方を繋ぐなかで、とくにネットによるオルタナティブな情報へのアクセスの少ない層(高齢者が多いともいわれている)へのアプローチの重要な場所として実空間でのアクションがあるということだとも思う。


抗議をよりわかりやすくするには?フルガイド
春のムーブメント2022年3月19日

抗議は、集会だけでなく、いろいろな方法で行うことができます。それらを集めてみました。

  1. リボン

グリーンリボンは、SNSを中心に広く浸透している反戦運動のシンボルです。ロシアのすべての都市で、人々は抗議するために利用可能なすべての場所でリボンを結んでいます。

一緒にやろう! リボンを自分自身や、電柱、フェンス、木など、街のどこかにつけてください。リボンは犯罪ではない、ということを再認識しましょう。リボンやバッジ、服に描かれた文字が理由で呼び止められたとしても、何の罪にも問われません。このような行為は禁止されていません。

  1. リーフレット、ステッカー

反戦運動の重要な課題は、プロパガンダによる情報封鎖を解くことです。その方法のひとつが、リーフレットやステッカーです。プリントアウトして配布できるテンプレートも用意しました。

重要:ビラを印刷することは犯罪ではありません。ただし、自分のプリンターで印刷するか(必ず友達と共有してください)、信頼できる印刷屋さんを探してみてください。

配布の仕方もいろいろあります。

  • 自分や近所の家の玄関先のレターボックスにチラシを配布する。
  • 建物の近くや中にある案内板に貼る。
  • 近所の車のワイパーの下に入れておく。
  • Zや 戦争賛美のプロパガンダバナーにも貼る。
  • 歩いているとき、地下鉄に乗っているとき、バッグに貼り付けてください(要注意)。

また、ステッカーは自分で作ることもできます。とても簡単で、白紙のラベルを注文して、マーカーペンで反戦スローガンを書き込めばいいのです。

もしあなたがプリンターを持っていて、リーフレットやポスターをもっと印刷できるのであれば、ぜひ印刷し、友人と共有してください。

  1. グラフィティ

グラフィティは、効果的で簡単なキャンペーン方法です。目立たないようにやっても、何百人もの人の目に留まるのです。では、グラフィティはどのように作ればいいのでしょうか?

テンプレートをダウンロードし、家庭用プリンターで印刷(できれば厚紙に)、輪郭に沿って文字を切り抜く(厚紙の裏にカッターナイフを使うと最も便利)-これで、落書きテンプレートの出来上がりです。

-グラフィティを行う場所と時間を決めます。夜にやるのがベスト。ただし、日中に多くの人が集まる会場で。舗道、歩行者専用道路に面した家の前面、中庭につながるアーチなどが良い。

グラフィティをする場所は、可能であればきれいにしてください。そうすることで、よりスムーズに作業ができるようになります。

グラフィティを行う。スプレー塗料、自動車用塗料、エコ塗料、チョーク、チューブや缶に入ったアクリル絵の具でできます。自宅にある場合もあれば、ショップやドラッグストアで安価な染料を購入することも可能でしょう。

かっこいい!

  1. ポスター、バナー

窓際、ベランダ、橋など街中にバナーやポスターを貼る。

不要なシートと絵の具、カラースコッチテープや緑の紙で作ってもOK!

  1. 紙幣

また、お札に反戦のスローガンを入れるというのも面白い方法です。手にする前はこんな感じだったと、必ずわかるはずです。

  1. 反戦の値札

反戦の値札は、プロパガンダに最も弱い聴衆にアプローチする数少ない方法です。平凡なものを非凡なものに置き換えることで、この国の隅々にまで戦争が及んでいないことはないのだということを示すのです。

リンク先で模型をダウンロードしてください。

注意事項

  • 自宅の近くやよく行くお店には値札を置かないようにしましょう。
  • カメラの真正面に立たないこと。
  • 目立たない服装で、マスクをつけてもよい。
  • 他人の注意を引かないようにする。
  • 1つのショップに値札を置きすぎないこと。
  • 値札を残すためだけに来店してはいけません、ポイントカードを使用してはいけません。
  1. サイレント・ピケッティング

また、サイレント・ピケットという抗議の方法もあります。歩いているときや地下鉄に乗っているときに、服やバッグに貼っておくことができます。気をつけて!

  1. おもちゃのピケ

さらに安全なピケ、つまりおもちゃのピケを持つことができます。以下はその一例です。

  1. “Mariupol 5000 “と “Bucha – Remember, Don’t Forgive”

マリウポリでの恐ろしい出来事を知ったフェミニスト反戦レジスタンスは、死者を追悼する行動「マリウポリ5000」を発表し、自宅の庭に手作りの追悼十字架を設置するよう呼びかけました。

アクション「ブチャ~忘れないで、許さないで~」のお知らせです。

そこで行われた残虐行為は、忘れることも許されることもない。戦争を否定する人たちは、毎日、戦争を思い起こさせるものを見るべきです。

ぜひ、ご参加ください。ウクライナ全土の死者を追悼するため、自宅の中庭に手作りの記念碑を設置しましょう。十字架、棺桶、花輪、花、そして死者に関するポスターなどです。

  1. プロパガンダを台無しにする

当局は戦争支持のパブリックキャンペーンを展開し、新しいシンボル(ZとV)を使ってまで一般市民に訴えようとしています。このような視覚的なプロパガンダには、あらゆる手段で対抗することをお勧めします。

こんな感じ。

そして、これも

ビラやZレターなど、戦争推進のプロパガンダを破り捨てる。そのリスクを判断しましょう

  1. 反戦を訴える本を公共の場に置くこと

活動家たちは、反戦のポストカードを挟んだ本を公共スペースに置いておくという、興味深い行動をとっています。やってみませんか?

  1. 木に反戦の文字を書く

これは消すのが難しく、木へのダメージもほとんどありません。

  1. 反戦の看板を立てたり、記念碑のそばに花を供えたりする。

フェミニスト反戦レジスタンスは3月8日に献花行動を開始しましたが、今でも人々は記念碑や慰霊碑に花を持って行っています。

今ロシアにいるすべての人に、ロシアのほとんどの都市にある大祖国戦争で亡くなった人の記念碑に花を供えることを呼びかけます。

プーチンとその側近が繰り広げた戦争によって殺され、今もなお殺され続けているすべての人々を思い起こそう。戦争犯罪、ウクライナで破壊されたすべての家、学校、幼稚園、そして、逃れたものの、戦争によって人生を完全に破壊された人々のことを思い起こそうではありませんか。この思い出を一緒に守っていきましょう。

  1. 独立系メディアのリーフレットを配布

検閲や封鎖により、戦争に関する真実の情報を得ることはさらに難しくなっています。多くの人にとって、唯一のニュースソースはテレビであり、テレビを通して当局が全開で視聴者にプロパガンダを浴びせています。

独立系メディアのリンクを広めることは、これまで以上に重要です。これは手作りのリーフレットで可能です。

  1. ピケットラインに参加する

ヴェスナが立ち上げたメトロピックと地区でのアクションを思い出してください。

  1. もしあなたの街に地下鉄があるなら、都合の良い日の19時に、反戦のプラカードを持って最寄りの駅に降りましょう。ラッシュアワーでは、15分もあれば何百人もの人に見られますので、あまり長居はしないようにしましょう。
  2. もしあなたの街に地下鉄がなければ、毎日19時に近所の一番混雑している場所にポスターを持って出かけてみてください。通行人と対話し、戦争の真実を伝えましょう。

注意すること、警察を避けること、マスクを着用すること。重要なメッセージや ポスターは、自分で作ったり、アーカイブで探したりして、勉強しましょう。

クリエイティブに、新しい形のプロテストを考案し、その写真をbotでシェアしてください。@picket_against_war_bot です。Vesna’s Visible Protestチャンネルで写真を見ましょう。@nowarmetro です。

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出典:https://telegra.ph/Kak-sdelat-protest-zametnym-Sobrali-vse-sposoby-03-18

付記:DeepLを下訳に使いました。

(Telegram)ロシア国内の反戦アクション

以下は、Telegramのロシア国内の反戦アクションの情報を集約しているサイト(Telegram https://t.me/nowarmetro )からここ数日の間に投降された写真やメッセージを紹介します。Telegramのサイトにアクセスすればもっと多くの写真をみることができます。翻訳にはDeepLを用いました。日付は新しい日(最新が4月24日)から過去に遡る順番になっています。翻訳にはDeepLを用いました。日付は新しい日(最新が4月24日)から過去に遡る順番になっています。日々投降されている画像は増えつづけています。ロシアは検閲と弾圧が非常に厳しい状況と伝えられていますが、反戦の声が圧殺されてはいません。勇気あるスタンディングやグラフィティのから本当にささやかなステッカーまで、あるいはオモチャを使ったり、紙幣にメッセージを書いたり、創意工夫はしたたかで、私たちも学ぶところが沢山あります。紹介した写真はごく一部です。ぜひ上記サイトにアクセスしてみてください。

毎回のメッセージには下記の文言が添えられています。

「自分の住んでいる街でキャンペーンをしよう アイデアは、私たちのガイド(https://telegra.ph/Kak-sdelat-protest-zametnym-Sobrali-vse-sposoby-03-18)からビジュアル抗議を見つけることができます。

📨 あなたの街を写した写真をbotで送信してください。@picket_against_war_bot です。」

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信徒と戦争に反対する人のための反戦イースター

明日、4月24日、ロシアはイースターを迎えます。正教徒にとって、この祝日は、死に対する勝利と永遠の命の希望を象徴するものである。しかし、今日、ロシア政治の焦点となっているのは、生命ではなく、死と破壊である。

ウクライナでは、ロシア軍が何百もの住宅や何十もの教会を破壊し、集団墓地に埋められた何千人もの罪のない人々を殺害し、数え切れないほどの人々を傷つけているのだ。ロシア当局は、復活祭の休戦を放棄し、血を流し続けた。

私たちは、信条や宗教に対する考え方に関係なく、この日曜日を反戦のためのアジテーションに充てることを強く求めます。あなたはできます。

  1. 母親連合の取り組み(https://t.me/souzmaterey/1042)に参加する。例えば、卵を黄色と青に塗ったり、平和のための祈りの礼拝に来たりすることができる。
  2. フェミニスト反戦レジスタンスの行動(https://t.me/femagainstwar/1860)に参加する:メッセンジャーで親族に反戦メールを送ったり、家長へのアピールを録音したりする。
  3. 総主教キリルとロシアの正教会信者に、平和のために闘い、悪に抵抗するよう求める私たちのアピール(https://t.me/vesna_democrat/1322)を広めてください。
  4. その他、目に見える形で戦争に抗議し、写真をbotに送信してください。@picket_against_war_bot です。

山上の垂訓の言葉を思い出してください。「平和をつくる人は幸いである。戦争に反対!

ウラジオでグラフィティを描き、ステッカーを配る反戦活動家たち。ありがとうございました。







エルブルースにも反戦ステッカーが登場。カッコイイ!

(greenleft)プーチンのウクライナ戦争に抵抗するロシアのフェミニストたち(インタビュー)

以下は、オーストラリアのgreenleftに掲載されたロシアのフェミニスト反戦レジスタンス(FAR)のメンバーへのインタビューです。最初にイタリア語で公表されたものの英訳からの重訳です。写真はイタリアのfanpage.itから転載しました。(小倉利丸)

Anti war protest in St Petersburg

ヴィクトリア・ココレヴァ & エラ・ロスマン
2022年4月4日 green left 第1341号

3月上旬、ロシアのフェミニストたちが力を合わせ、現在ロシアで最も組織的な反戦運動である「フェミニスト反戦レジスタンス(FAR)」を組織した。ヴィクトリア・ココレヴァViktorya Kokorevaは、その調整グループのメンバーであるロシアのフェミニスト活動家で歴史家のエラ・ロスマンElla Rossmanに連絡をとった。若い女性が受ける抑圧、逮捕時の暴力、そして国全体の人間性を高めるために戦うことが、いかにロシア女性に委ねられているかについて、二人は語った。


戦争への抵抗の特徴は何ですか?

私たちの運動は今、どんな形であれ戦争を止めようとしています。戦争が始まったとき、ロシアのフェミニストは皆、もちろんショックでした。民間人に対するこの戦争が最初からどのように行われたのか、そして私たちの国が独立した主権国家の領土を侵略することを決定したのですから。

しかし、それはまた、私たちが長年ロシアで行ってきたことすべてに打撃を与えるものでした。過去10年間、フェミニズム運動は活発に発展してきました。事実、私たちの活動家は、家庭内暴力の状況にある女性に支援を提供するなど、国家の組織や団体が行うべきことを行ってきたのです。

戦争が始まると、そのような闘いは一掃されました。ロシアでは、特にあらゆる制裁によって、より多くの貧困と暴力が発生することになるでしょう。

誰もこの戦争を理解していなかったので、フェミニストはロシアで最初の反対勢力となり、反戦のための連合体をつくったのです。現在、私たちの主な活動方針は、抗議することと情報を提供することの2つです。一方、私たちはロシア全土のフェミニスト・グループを団結させ、さまざまな都市で45以上のフェミニスト・グループが組織されています。

イタリア、スイス、アメリカなどでは、私たちのロゴのもとでデモが行われました。私たちは、戦争に反対する街頭抗議行動を組織し、政府に戦争を止めるよう求めています。海外のグループは、地元自治体からロシア政府に対して圧力をかけるよう呼びかけています。

そして2つ目は、情報提供です。ロシアでは、紛争が始まる前から、ほとんどの独立系メディアは妨害されたり閉鎖されたりしていました。現在、ソーシャルメディアは政府によってブロックされたり、速度が落とされたりしています。人々は独立した情報をほとんど得ることができず、ほとんどが国家のプロパガンダです。

私たちは、まずビラを配り、次にソーシャルネットワーク上でオンラインキャンペーンを定期的に行っています。例えば、Odnoklassniki(40〜70代に人気のロシアのソーシャルメディア)では、「これを7人の友だちに送れば、あなたは幸せになれる」というメッセージのパロディを発表しています。しかし、私たちはそれを「不幸の手紙」と呼び、犠牲者の情報とともに反戦の文章を書きました。

●ロシアでは反戦ビラを配るのさえ、今はとても危険です。抗議する人たちにどんなアドバイスがありますか?

今はどんな抗議行動も非常に危険です。祖国への裏切りに関する新しい法律(最高20年の禁固刑)とフェイクニュースに関する法律(最高15年)により、国防省が認めたもの以外、戦争に関する情報を広めることは禁じられているのです。私たちの国ではまだシングルピケットが非合法化されていないにもかかわらず、路上で抗議する者はみな逮捕されます。

すでに多くの若い女性がビラを貼って警察に拉致されているので、私たちは有志に対して危険であることを公然と警告しています。テレグラムのチャンネル(https://t.me/femagainstwar)では、私たちの基本的なセキュリティツールについて説明しています。ビラ配布の準備も、デモと同じように行うことを勧めています。「常に誰かと一緒に行くこと、充電した携帯電話と水を持つこと、お互いに連絡を取り合うこと、OVD-info部門(デモの際に最初の法的支援を行うロシアの人権団体)の弁護士の詳細を手元に置いておくこと」です。

オンラインキャンペーンでは、インターネット上で安全にコミュニケーションするための仕組みも用意しています。暗号化されたメッセンジャーとは何か、チャットができる場所とできない場所、逮捕されたときにすべての通信を削除するためにどのアプリケーションを使えばいいのか、などを説明しています。

Telegramは、その通信が「電脳テロ」や過激派の告発に使われることも多く、危険なものになっています。また、他のグループがオンライン空間でどのような行動をとっているかに目を配り、自分たちを危険にさらしている場合はその旨を定期的に知らせています。

●弾圧はFARにどのような影響を与えていますか?

今、私たちはロシアで最も組織化されていると言えるでしょう。戦前、Yulia Tsvetkova(女性の権利に関するコミックを描いた活動家イラストレーター)はポルノで投獄され、Anna Dvornichenko(ジェンダー研究の専門家でフェミニストフェスティバルの主催者)は実質的に国から追放されたのです。私たちのグループは多くの弾圧を受けてきましたが、同時に、ロシアの家父長制文化の中で女性は常に過小評価されているので、私たちが政治勢力になるとは思ってもいませんでした。

私たちの中心的なグループは、活動の効果を損なわないよう、意図的に小規模にしています。私たちは、さまざまな都市にあるすべてのフェミニスト・グループに、私たちが提案する行動を自主的に組織し、独自に議論するよう求めており、私たちのグループに参加しないよう要請しています。これはセキュリティの問題であり、もし彼らが私たちの後を追ってきたとしても、自分たちだけで活動を続けることができる多くの自律的な細胞が残っているのですから。

さらに、私たちの中にはすでにロシア領を離れた者もいます。警察がすでに私たちの活動を把握しており、多くの活動家が「電話テロ」の容疑で捜索・逮捕されたからです。この種の容疑は、警察が活動家の活動をしばらく停止させ、威嚇するための新しい手段なのです。

●デモ中の警察の動きについて、もう少し詳しく教えてください。

3月6日には、ロシアでの反戦行動の一環として、女性の隊列がいくつもできました。私たち若い女性の多くが、さまざまな都市で参加しました。逮捕者が出た同じ日の夜、警察が若い女性を殴り、拷問したという情報が何件か入ってきました。サンクトペテルブルクでは、警察官による性的暴力のケースも報告されています。

そして今、ロシアの人権委員会は、内務省と調査委員会がブラテヴォのある警察署を査察すると発表しました。この警察署では、私たちの若い女性の一人が、警官に殴られ、尋問に答えることを強要された音声を録音していました。ちなみに、彼女は幼少期に父親によく殴られていたため、このような状況でも冷静に対応し、なんとかレコーダーの電源を入れたと後で語っています。

3月8日、私たちはウクライナの死者を追悼するグローバルアクションを組織しました。ロシアの女性たちに、すべての都市や村にある第二次世界大戦の記念碑に行き、花を捧げて抗議するよう提案したのです。世界では112都市が参加しました。特に小さな町では、若い女性たちは自分たちだけが戦争に反対しているのだと思っていたのです。そこで、彼女たちは記念碑に行き、反戦の花輪や絵葉書、ポスターの束を見て、驚きました。自分たちだけではないのだと自覚したのです。

●戦争が始まる前、ロシア社会でどのような活動をされていたのですか?

さて、ヨーロッパでは、ロシアの男女平等はボルシェビキの時代に達成されたという誤解がありますが、それは歴史的に見ても正しくありません。近年、中絶の機会は大幅に制限され、中絶できる期間も短縮され、中絶する場合は多くのクリニックで神父に相談することが義務付けられています。

ロシアにはDV法がなく、この犯罪の最高刑は罰金です。また、家族に対する通常の保護はなく、保護を提供する組織もありません。フェミニストはこの法律のために長い間闘ってきましたが、一度も採用されたことがありません。私たちのシェルター施設や暴力被害者への心理的な取り組みは、すべてボランティアの努力によって提供されており、国の支援はありません。

フェミニストはロシア社会を人間らしくしようとしているのです。現在、ロシア社会では暴力に対して非常に寛容です。学校で生徒が殴られても、まあ懲戒処分だし、男性が女性を殴っても、まあ事態は収拾されるでしょう。

フェミニストはこの視点を変え、私たちは違う生き方ができること、暴力について黙っていることは普通ではないことを説明し、示しています。この問題に対する理解は深まっています。フェミニストである若い男性たちが、私たちの行動に参加し始めています。

しかし、私たちは、戦争がこの分野で何年も私たちを後退させると考えています。

[ Green Left and Links – International Journal of Socialist Renewal European Bureauによってイタリアのウェブサイトfanpage.it から翻訳されたものです。Feminist Anti-war Resistance Telegram channelから英訳(http://docs.google.com/document/d/1gYpt1M3jjsio7BGnmgprCJZiT9RK2KXdt8BOuHoYVGc/edit)を読む]。

出典:https://www.greenleft.org.au/content/meet-russias-feminist-resistance-putins-war-ukraine

(WILPF)その世界秩序に F*** you! 平和、自由、連帯のための声

(訳者前書き)以下はWILPF(Women’s International League for Peace and Freedom)に掲載されたエッセイの翻訳です。WILPFは1915年に設立された長い歴史をもつ平和団体で日本にも支部がある国連NGOだ。WILPFのウクライナのコーディネーターでウクライナ東部で活動しているニーナ・ポタルスカへのインタビューをこのブログで既に紹介している。ポロビッチは「戦争が常態化し、死と破壊がロマンチックに語られる状況下で反戦活動家であることの意味」を考えたいと冒頭に述べている。国家は常に死を美化する言説によって、人々を戦場へと駆りたてようとする。すでに死と破壊はロマンチックに語られており、侵略者との闘いは武器によってのみ可能であるかのように、メディアには軍事評論家や戦争の専門家たちが連日戦況を講釈し、戦争のスペクタクル化が著しい。このエッセイでポロビッチは戦時下の反戦運動の困難さを指摘しながらも、「ひとたび戦争が始まれば、自らを守ることができない場合、それはほぼ確実な死を意味します。一方、武器を増やせば戦争はなくならず、死者が増えます」というジレンマを論じながら、戦争を許せば必ず次の戦争を招き寄せること、そして繰り返される戦争をもたらす背景をきちんと見すえてウクライナの戦争を越えた長期的な反戦運動がもつべき世界観を提示している。

「私の立場は、フェミニストや反戦活動家として、私たちの責任は抑圧された人々にあるということです。資本主義的な国民国家という概念に対しての責任はありません。私たちの義務は、国旗や国境、地政学的な物語の支持や再生産にあるのではありません。100年以上にわたるフェミニストの反資本主義、反戦闘争を通じて私たちの先祖から受け継いだ私たちの責任は、平和、連帯、平等、正義、そして家父長制権力と軍国主義の転覆に向けられているのです。私たちの責任は、民衆と私たちが平和のうちに尊厳ある生活を営む集団的な権利に向けられたものです。」

私たちは国家を背負って戦争などしないし、国家にまつわる物語を引き受けない、という明確な姿勢は、ウクライナへのロシアの侵略に武力による自衛が必要ではないか…という選択肢への誘惑をきっぱりと断ち切って戦争を考える上で重要な主張だ。(小倉利丸)

追記:ATTAC関西のブログにロシアのフェミニストによる声明などが掲載されています。

30もの言語で「ネバー・アゲイン」:なぜロシアのフェミニストは抗議行動をやめないのか?(ダリア・セレンコ)

フェミニスト反戦レジスタンス(ロシア)の声明 ロシアのフェミニストは、プーチンの戦争に抗議するために街頭に出ている


このブログのタイトルは不適切と思われるかもしれません。しかし、本当に考えてみると、この言葉はここでは最も不適切なものではありません。不謹慎なのは、私たちの住む世界なのです。

画像引用元:E.V

ネーラ・ポロビッチ
2022年3月7日
このスローガンは、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボで反戦活動家の非公式グループが最近開催した、ウクライナの人々を支援する集会から拝借したものです。私たちはこのスローガンをスローガンのひとつに使い、すぐに最も人気のあるスローガンになりました。ボスニア・ヘルツェゴビナの戦後の復興と回復にきちんと織り込まれたこの世界秩序の結果を、他の無数の人々と同様に、自分たちが求めたわけでもなく、参加したくもない戦争を生き抜き、今も生きているボスニア人の人たちに評価されたからです。

ウクライナの人々を支援する反戦集会(2月、ボスニア・ヘルツェゴビナ、サラエボ)。看板には(左から)「F*** you and your world order」、「反戦こそが唯一の選択肢」と書かれている。写真左から、Gorana Mlinarević、Nela Porobić、Lejla Huremović。

私たちは、ロシア軍がウクライナの主権領域に侵入し、またもや帝国主義的な侵略を開始する映像に対する純粋な怒りとフラストレーションからこのスローガンを使用しました。なぜなら、ウクライナ、アフガニスタン、シリア、イエメン、イラク、パレスチナ、その他無数の国々で、グローバルパワーがこの世界秩序を維持するためにどれだけの人々が死ななければならないかという冷酷な計算が、不適切なのである。不謹慎なのは、帝国主義と破壊が、拡大、収奪、搾取、利潤を追求する終わりのない資本主義プロジェクトの正当な道具として使われる世界秩序なのです

この軍事化された世界秩序の維持に参加している人々のリストは長く、ロシア連邦をはるかに超えて広がっている。米国、中国、イスラエル、日本、パキスタン、インド、EUとその加盟国、NATO、などなどである。南スーダン、カメルーン、シリア、イエメン、アフガニスタン、ナゴルノ・カラバフ、パレスチナ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ラテンアメリカの多くのクーデターと同様、ウクライナ戦争でも、これらの国々の間に無実の傍観者は存在しません。

計算や政治的発言の先にあるもの

私たちは、なぜこのような混乱に陥ったのか、皆知っています。Ray AchesonTom BrambleAlmut RochowanskiVolodymyr Ishchenkoなど、多くの素晴らしい分析があるので、繰り返す必要はありません。私が書きたいのは、平和のために立ち上がり、武器や軍国主義に反対するすべての勇敢な人々、そして戦争が常態化し、死と破壊がロマンチックに語られる状況下で反戦活動家であることの意味です。

冷酷な計算や政治的発言の向こう側には、死や破壊、家族の絆の崩壊、夢の破れなど、それぞれの物語を抱えた何千人もの人間がいます。その中には、大きな悲しみと恐怖の物語もあれば、強さ、思いやり、愛、そして生存の物語もあるのです。ウクライナの戦争に関するほとんど恍惚としたメディアの報道から表面を削り取れば、私たちは個人的、集団的、社会的トラウマを見つけ出すでしょう。それは、戦争責任者やその地政学的ゲームが次の戦争に移行した後も、生き残った人々の間に必然的に長く留まるものなのです。

抵抗の行為

私たちの反戦闘争の文脈はダイナミックであり、急速に変化しています。抑圧的な政権に対する平和的な蜂起があっという間に血なまぐさい戦争に変わるのを見たシリアの女性活動家や、尊厳と平等を求めて闘うために、これらの価値を高く掲げる人々から文字通り一夜にして見捨てられたアフガニスタンの女性たちほどそのことを知っている人はいないでしょう。ウクライナの女性たちは、マイダン以降、平和構築への女性の参加のための条件を整えるため、たゆまぬ努力を続けてきました。彼女たちは皆、反戦活動家であることが安全であるかと思えば、次の瞬間には命を危険にさらすことになるということを身をもって学んだのです。

今、ウクライナの人々にとって最大の抵抗行為は、ロシア政府の帝国主義戦争を生き延びることであり、殺される一人一人が戦争機械の勝利となるのだから。生き残る一人一人は、車輪の歯車なのです。しかし、もちろん、ウクライナの人々は生き延びるだけでなく、戦争に立ち向かっています。彼らはコミュニティーの中で助け合い、国内避難民にシェルターや食料を提供し、戦争犯罪や戦争・避難生活の経験を記録し、道路標識を変えたり戦車を取り囲むなど非暴力による抵抗を行い、身体を使って戦争機械に対抗しているのです。ウクライナ平和運動代表のユーリイ・シェリアジェンコは、『デモクラシー・ナウ』のインタビューで、ウクライナの平和運動が「無謀な軍事化は戦争につながると何年も前から警告」し、非暴力行動の準備をしていたことを語っています。

ウクライナ人の多くももちろん武器を手にしました。女性も男性も同じです。ある者は自発的に、ある者は選択肢を与えられなかったために。時には、人々は生き残るために自らを守ることを余儀なくされます。そのような状況に陥った人は、その選択が非常に困難であることを知っているでしょう。フェミニストとして、そして何よりも戦争を経験した者として、私は各人がその決断を下さなければならない状況を単純化しすぎないように気をつけています。 男性にとって、これは選択の問題ですらないことが多い。なぜなら、(徴兵制を通じて)守る義務を課され、武器を取らず、強制的な軍事化にノーと言う権利を否定されるからです。

軍事化された “連帯”

ウクライナを支援する国々は、ある種の軍事的な連帯を示すために、ウクライナに武器を供給することを急いでいる。これも反戦活動という観点からは難しい問題です。ひとたび戦争が始まれば、自らを守ることができない場合、それはほぼ確実な死を意味します。一方、武器を増やせば戦争はなくならず、死者が増えます。自衛権は必要なのか?もちろんです。その権利によって、彼らの命が救われ、未来が保証されるのでしょうか?私はそうは思いません。私が知っているボスニア・ヘルツェゴビナ出身のほとんどの人は、昔はボスニアを「守る」ことが重要だと認識していたと言うでしょう。今、彼らは、私たちは皆、多くのものを失ってしまったので、死ぬ価値のある国家や国はないと言います。一方、私たちの目の前で戦争を引き起こした世界秩序は残り、私たちをまた新たな紛争へと導いているのです。

私たちフェミニストの責任

しかし、確かにこれらの問題はどれも単純ではありません。私の立場は、常に、どこでも、戦争と軍国主義化に反対するというもので、それは私の生活体験に基づいていますが、同時にフェミニストの価値観に導かれたものでもあります。

私の立場は、フェミニストや反戦活動家として、私たちの責任は抑圧された人々にあるということです。資本主義的な国民国家という概念に対しての責任はありません。私たちの義務は、国旗や国境、地政学的な物語の支持や再生産にあるのではありません。100年以上にわたるフェミニストの反資本主義、反戦闘争を通じて私たちの先祖から受け継いだ私たちの責任は、平和、連帯、平等、正義、そして家父長制権力と軍国主義の転覆に向けられているのです。私たちの責任は、民衆と私たちが平和のうちに尊厳ある生活を営む集団的な権利に向けられたものです。

だからこそ私たちは、たとえ命が危険にさらされても、平和のために声を上げる人々を支援するためにできる限りのことをしなければならないのです。私たちは彼らにそれだけの借りがあります。彼らは危険を承知の上で命をかけています。そうすることで、平和はより良い明日を築くための私たちの集団的努力にしっかりと根ざしているのであって、あまりにも簡単に片付けられてしまうユートピア的な夢になってはならないのです。

平和のために立ち上がるすべての人たち

ウクライナの人々、そして戦争機械に立ち向かい、生き残ろうとする彼らの闘いを支援することは、必須です。その他、ロシアで最も強い反戦の声を上げているロシアのフェミニストたちの行動も重要であり、支持されなければなりません。ウクライナでの戦争に反対することは、プーチンの抑圧的な体制の下では危険であり、最大で15年の懲役になる可能性があります。 フェミニストはロシア各地で反戦デモに参加し、また最近、戦争に反対するマニフェストを発表し、「ロシアのフェミニスト団体と個人のフェミニストはフェミニスト反戦レジスタンスFeminist Anti-War Resistanceに参加し、力を合わせて戦争とそれを始めた政府に積極的に反対しよう」と呼びかけています。また、世界中のフェミニストに参加を呼びかけています。彼らは、プーチンのプロパガンダやフェイクニュースを超えて、フェミニストの立場にしっかりと立ち、いかなるフェミニストも侵略、軍事占領、帝国主義の試みを支持することはできないと知っています。

プーチンの帝国主義的戦争のなかで、ロシアベラルーシで反戦運動に関わることは勇敢な振舞いです。ロシアの独立人権監視団体OVD-infoによると、ロシアでは2月24日から3月6日の間に、1万2702人の反戦デモ参加者が逮捕されています。その数は日々増え続けています。ウクライナでの戦争を止めるための請願書は、現在までに118万人以上の署名を集めています。ロシアの文化労働者科学者学生、教授ソムリエやワイン商出版社、編集者、書店員など、さまざまな立場の人々がロシアの侵略に反対する声を上げているのです。

これで、プーチンのウクライナでの戦争を止めることができるの でしょうか。そう願うしかありません。それは、私たち残りの者がどれだけこれらの声を動員し、支援し、拡大するかによるのです。私たちは皆、分極化し、ますます孤立した世界において(ソーシャルメディアのプラットフォームがあるにもかかわらず)、これが簡単な仕事ではないことを知っています。なぜなら、もし私たちが今、戦争に飢えた声や物語に反撃しなければ、すぐにそれが私たちの知る限りのことになってしまうからです。次の戦争が起こるたびに、戦争はより容易になり、一人一人の死はより受け入れやすくなり、私たちの社会と地球の破壊はより見えづらくなっていくでしょう。私たちはすでにそれを目の当たりにしています。

戦争がどこで起ころうとも、それに反対するフェミニストの責任

止められなかった戦争は、それぞれ新たな戦争の種を蒔くことになります。シリアの活動家は、シリアでプーチンを止められなかったことが、まさにこの瞬間に一役買ったことを私たちに思い起こさせます。彼らは、ウクライナでの戦争に反対する声を上げることの重要性を認識しています。なぜなら、フェミニストの国際連帯の観点からすれば、それぞれの戦争は、それがどこで行われようと、自国での戦争であるからです。

世界が米国のアフガニスタンとイラクへの侵攻を止められなかったとき、多くの国がいわゆる「世界テロ戦争」を受け入れたとき、彼らは国際法を守り、いわゆるグローバルパワーによる帝国主義のゲームを告発することに失敗したのです。こうした失敗や他の多くの失敗が、後に起こるあらゆる戦争への道を開いたのです。

ですから、ウクライナの人々に連帯しながらも、私たちの平和への呼びかけ、反戦運動は、それをはるかに超えるものでなければならないのです。なぜまた戦争が起こってしまったのか、そして戦争を止めるために何をしなければならないのか、私たちの分析は、軍国主義、家父長制、帝国主義、資本主義が、戦争を道具として利用し、繁栄する構造であることを理解した上で行わなければなりません。したがって、これらの構造を廃絶することに同時に取り組まなければ、ウクライナでも他の地域でも、持続可能な平和を築くことはできないのです。

一つ一つの声が重要です。一つ一つの反戦行動が重要です。戦争の影響を受けた人々の声が届くように支援すること、緊急の人道的ニーズを満たすこと、平和に暮らせるように引き裂かれた国を離れる人々を支援すること、集会を開くこと、戦争に対して声を上げること、これらすべてが重要なのです。

2016年、ボスニアの女性活動家は、ウクライナの女性たちとの連帯対話を主催しました。このブログの最後にふさわしいのは、ボスニアの平和活動家、ジャスミンカ・ドリノ・キルリッチが歓迎スピーチで述べた言葉かもしれません。

平和とは非暴力の行動であり、不正義に対する行動であり、平和とは私たちの人生の最も困難な部分について議論を開くことです。平和とは慎重さであり、平和とは解決策を見出す創造性である。平和とは、信頼を築き、私たちの間に連帯感を回復させることです。. . 私はピースメーカーなのです。そして、「それは何ですか?」と聞かれたことがあります。それは何かといえば、私たちに強制されていることを受け入れないこと、つまり、私が気高くラディカルであることです。気高くラディカルであるということは、あなたの意見に反対するときは、その都度あなたに伝えると同時に、あなたを敵とは見なさないということです。

このブログへの情報提供をしてくれたRay AchesonとGorana Mlinarevićに感謝します。

ネーラ・ポロビッチ
Nela Porobić IsakovićはWILPFのフェミニスト政治経済に関する活動を率いている。この仕事は、紛争と紛争後の復興と回復のための介入の政治経済の研究と分析、この分野におけるWILPFの活動の推進、ネットワーキングとアドボカシー、そしてフェミニストの知識の共有と対話への参加に携わるものです。

(Commons)ウクライナの平和のための組織化:ニーナ・ポタルスカへのインタビュー


(訳者前書き)以下は、ニーナ・ポタルスカへの2019年に行なわれたインタビューです。ポタルスカは、社会研究者・活動家であり、ウクライナにおける国際女性平和自由連盟(WILPF)のコーディネーターと紹介されている。彼女はLeftOppsitionという新しい左翼政党にも関わってきた。インタビューのなかで、彼女たちが必死の思いで戦争を止めること、そしてウクライナ西部、東部、ロシアや更には近隣諸国の女性たちと共同で停戦と境界を越えての共通の課題を議論する枠組を作ろうとしてきたことが語られている。私がこれまでも紹介してきた沖縄での民衆の安全保障の視点と多くの共通する問題意識が見られるが、状況はもっと厳しいなかでの民衆のための安全保障の実現になる。事実上の戦時下にあり、「平和」という言葉すら口に出せず、正直な気持も口外せずに、公式的な発言をするか沈黙する多くの市民たちの状況についても語られている。このインタビューのなかで戦争が「デエスカレーション」しつつあると将来への楽観的な見通しが語られているが、残念なことに事態は悪化の方向をとった。今、東部で活動していた女性たちのグループがどのような状況に置かれているのかはわからない。翻訳は、ウクライナの左派系メディアCommonsに掲載された英語からの重訳です。

なおWILFPのウクライナのサイトが下記にあります。
https://www.wilpf.org/focus-countries/ukraine/

(小倉利丸)


06.12.2019
オクサナ・ダッチャク
ニーナ・ポタルスカ
タラス・ビロウズ

ウクライナ東部の戦争は6年目に突入した。戦争が「緩やかな」、しかしそれに劣らず致命的な段階に入ったため、特に西側では関心が低下している。openDemocracyの寄稿者は、ロシアとウクライナの間の溝を埋めようとする活動家、性的暴力と免責に関する問題失われたものや損害を受けたものへの補償を求める闘い、あるいは女性兵士の役割に関する議論など、報道されない傾向にある様々な問題に注意を向けようとしてきた。

ウクライナ東部での戦争に関する報道の一環として、社会研究者・活動家であり、ウクライナにおける国際女性平和自由連盟(WILPF)のコーディネーターでもあるニーナ・ポタルスカへのインタビューを翻訳し、掲載します。

ウクライナの雑誌『コモンズ』の取材に応じたニーナ・ポタルスカは、包括的平和と、キエフ統治地域と非キエフ統治地域の境界線の両側の人々の間の対話の可能性について、ここで語っている。

ここ数年、ドンバスでどのような活動をされてきたのでしょうか。

私は「平和と自由のための国際女性連盟」と地元の組織との橋渡し役です。決まった仕事はありません。その時々で、一緒に活動するグループのニーズに応じて決めています。私の仕事のひとつは、女性活動家、あるいは単に活動的な女性やグループとその支援を見つけることです。もうひとつは、女性の権利状況、つまり社会経済的権利や前線地帯における女性の権利をモニターすることです。そして3つ目の役割は、国連と地域の両レベルで女性の擁護者となることです。

また、私は「対話と包括的平和のための女性ネットワークWomen’s Network for Dialogue and an Inclusive Peace」にも参加しています。このネットワークには、主にドネツクとルハンスク地域の約10の団体が加盟しています。彼女たちの取り組みは、さまざまな問題に及んでいます。例えば、ヴフレダルには活発な女性エコ活動家グループがあります。また、ヴォルノヴァハでは、女性が集まって、(紙や布で)花を作るだけでなく、差別の問題を話し合う場があります。これは良い支援になります。ある取り組みが生まれるには、ちょっとしたきっかけや映画の上映が必要です。

さまざまな地域の女性を集めるとき、まず最初にすることは、彼女たちが直面している問題の範囲を明確にすることです。もちろん、問題の80%は社会経済的なものです。女性の雇用、社会インフラの不足、特に小さな町では医療サービスや子どもの保育所などです。これらは、私たちがダイアログを開催するための基本的な課題です。

すべての団体が年に1、2回ディスカッションやディベートに代表を派遣する余裕があるわけではありませんから、私たちはペーパーをまとめ、WILPFの誰かがプレゼンテーションを行います。お金の節約にもなります。しかし、そのプレゼンテーションは、オンブズパースン事務所や政府部門の誰かが出席するセッションで行われるかもしれないので、彼らはそれを聞き、私たちのコメントを受け取ることになるのです。ニューヨークでプレゼンをすると、政府の人たちはむしろ好意的になって、熱心に聞いてくれたり、メモをとってくれたりします。しかし、こちらではなかなか伝わりません。おそらく彼らの強力な立場が話を聞くのを邪魔しているのでしょう。

ニーナ・ポタルスカ

ウクライナ東部の状況について話してください。市民社会はどうなっているのでしょうか。

例えば、キエフとドンバスを比較すると、キエフの人々は常に自分たちの意見を表明するために、より積極的に街頭に出てきています。東ウクライナでは、人々は不満があっても、それをなかなか口に出しません。選挙期間中だけで、ちょっとした妨害行為や静かなつぶやき程度です。プライベートで話を聞くと、多くの人が何かに不満を持っていても、街頭に出て抗議することはない。それは、結果を恐れているのかもしれないし、単に経験がないのかもしれない。

人は、あなたを信頼していれば、論争の的になっている問題について、プライベートで自分の意見を述べることができます。しかし、彼らは対立を避けるために、公の場でこれらの事柄を話し合ったり、政治的な議論に加わったりはしないのです。メディアや政府の言うことに同意しないことはあっても、公然と反対することはないのです。

信頼と安心の問題は非常に重要です。東部の人たちがもっと自分の意見を表明するのはいいことですが、一方で、それをどうやったら論争の的にならないようにできるかを学ぶ必要があります。ウズホロドには少数民族がいるのですが、その中でこんなことに遭遇しました。彼らは自分たちが納得できないことはあっても、口をつぐんでしまうので、なかなか意見を言ってもらえません。ウズホロドで調査結果を発表したとき、聴衆の中にロシア語を話す人がいました。彼女はその後、私のところにやってきてこう言いました。「あのね、これはとても異例なことなの。この場を作ってくれてありがとう 」と。支配的な考え方があり、他の人は黙っていなければならない。私たちは、さまざまなコミュニティで政治的な議論を展開することに、もっと注意を払う必要があります。

しかし、どんな議論も、人々が安全だと感じるときに初めて可能になるのです。今、私たちは、国のあらゆる場所で、声を大にして意見を述べることができるでしょうか。東部の治安については、従来からかなり問題があったように思う。産業界と絡んで、大金が動くと無法地帯になる。生き残るため、あるいは紛争を避けるために、人々は自分の意見を黙っていることが非常に多かったのです。

あなた自身は、自己検閲に走ったことがありますか?

もちろんです。例えば、インタビューや他人の発言は、いざというときに「あれは私ではない」と言えるように、引用することが多いですね。論文や講演では、なるべく非難されないように書かなければならないこともあります。この5年間、他人が私の発言を文脈から切り取って、何を言っているのかわからないと非難する場面がたびたびありました。私が中立の立場でいようとすると、あらゆる方面から非難される。中立の立場でいれば、「『あいつらの味方だ』ということになる。」と。

先の選挙以降、雰囲気はどのように変わったのでしょうか?

私たちのグループにはさまざまな意見がありましたが、それが原因でグループがバラバラになったり、対立したりすることはありませんでした。コミュニケーションで大切なのは、自分の意見ではなく、一人ひとりの価値観だったのです。明らかに対立する意見を持つ女性同士であっても、取り返しのつかない事態を前にして、誰もがストレスを抱えていることを自覚し、共感をもって人間的な関わりを持とうとしていました。一般に、選挙をめぐって多くの緊張がありましたが、ウクライナの他の地域よりも、国境線沿いはこうしたことがより敏感になっていました。選挙結果は、紛争を激化させるか、逆に和解に向けた動きの可能性を生み出すか、どちらかになると思われました。

なぜ、そのようなことが可能になったのでしょうか。私たちの多くは、5年来の知り合いであり、長い間一緒に仕事をしてきました。20人ほどの特に活動的なメンバーを中心とした、小さなグループです。その一方で、対話、調停、心理・情動の支援について学び、感情的に成熟し、有能な人々のグループでもあります。私たちの計画は、選挙よりももっと先を見据えています。私たちは、私たちが共に生き、共に働くことができるよう、私たちを結びつけるものに焦点を合わせています。

ウクライナのナショナリズムに基づく言説か、あるいは「ロシアの世界」なのか、誰かの思惑にはまることなくメッセージを打ち出すのは簡単なことではありません。

ウクライナの新政権には懐疑的で、私たちの社会領域がある種の地獄と化していることに気づいているからです。例えば、1カ月前、アヴディフカという町で女性とその赤ちゃんが亡くなりました。内部調査が行われ、医師と助産師が解雇されました。つまり、そこにはもう医師がおらず、妊婦は次に近い産科に行く途中で出産しなければならないのです。つまり、東部の医療改革は、多少なりとも違う方向に進んだはずなのです。医療スタッフの流出が深刻で、他のウクライナ地域の農村部よりもロジスティックに問題がありました。開業医・小手術部門をすべて閉鎖したのはまずかったでしょう。逆に、こうしたネットワークを拡大すべきだったのです。今、人々は注射や診察を受ける手段を失っているのですから。その結果、疾病率が急上昇してしまったのです。

一方、交渉の結果、小さな隙間ができたので、そこに入り込んでチャンスを広げようと積極的に動いています。私たちは、少しでも前進できる場所や事柄に集中しています。私や仲間の活動家たちは、今年の選挙の後、特定のテーマについてのタブーがなくなり、もっと自由に話ができるようになったと感じますが、この考えにはまだ抵抗があります。これは、ソーシャルメディアはもちろんのこと、例えばクラマトルスク市やセベロドネツク市でもはっきりと見て取れました。

しかし、個人的な関係では、攻撃的な発言や否定的な発言はかなり少なくなっています。けれども、私たちが何らかの声明を出すと、地元の活動家はそれを再投稿することを拒みます。なぜなら、人々は必ず、自分たちに関する悪口を拡散し始めるからです。例えば、クラマトルスクの活動家たちが触れられないテーマはたくさんあります。そこでは、法的な活動家の集団がナショナル・リベラルであるためです。だから、私が主張したほうがいいアイデアもあるし、国の西部の人が主張したほうがいいアイデアもある。

2016年から2017年にかけて、政府軍の撤退について語られ始めたとき、この話題には多くのナーバスな要素があり、特に潜在的な結果について理解が不足していました。今は状況がはっきりしています。砲撃の頻度や輸送の仕組みがわかっています。もう慣れっこです。しかし、現状が変われば、パニックになります。撤退が良いことなのか悪いことなのか、判断に迷うところです。人々は、いくつかのリスクは我慢できても、それがどのようなものであるかはわかりませんでした。政府は何も説明できないし、今もできないので、推測の余地が非常に大きいのです。撤退という考え方は、信頼関係や、双方がどのように交渉し、合意を遵守できるかということでもあります。しかし、私たちは撤退の話ではなく、停戦の話をしているのです。そうすることで、「賛成」「反対」という粗野な二分法から逃れ、両者にレッテルを貼るような言葉や概念を使わないようにしているのです。そうでなければ、活動家を危険にさらすことになりかねません。政府支配地域でない場所で、潜在的な可能性に言及することは、単純に致命的な危険性を伴いますから。

10月には、スタニツァ・ルハンスカの橋の上で「国境なき女性たちの対話」アクションに参加されましたね。このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

最初は、何か象徴的なアクションを行おうというアイデアから始まりました。2016年当時、私たちのセミナーで多くの女性が「ミンスクに行って、武力紛争を放棄し、平和的な発展段階へ移行する必要性についてオープンに話したい」と話していたのです。しかし、状況が明確でも安全でもなかったため、私は彼女たちにアクションへの関与を思いとどまらせました。私たちはどうすればいいのかわからなかった。知識も経験も、そしておそらく要求を出す勇気さえも不足していると感じました。

誰かの思惑にはまらないようにメッセージを作るのは簡単ではありません。ウクライナのナショナリストの言説に合わせるか、「ロシアの世界」に合わせるか、どちらかです。

4月には、私たちの平和創造プロセスにおける包括的なフォーカス・グループ研究の発表会を開催し、この問題について考え、話し合うための時間と場所を設けました。そして8月には、バルト・グローリーのホリデーキャンプに出かけ、国境線の両側だけでなく、ロシア、フィンランド、スウェーデンの女性たちが集まりました。3日目は、それぞれの女性が、なぜその場にいたのか、なぜ戦争というテーマに関わるようになったのか、個人的な話をする時間に充てられました。中には、本当に重い話もありました。しかし、この後、誰がどのような立場で、どのように話をすればいいのかが明確になっていきました。そして、3日目か4日目には、私たちウクライナ・ロシア代表団は、すでにいくつかの一般的な方針を立て始めることができました。

そして、双方の女性が参加するアクションを起こそうというアイデアが浮かびました。私たちのグループは、それは危険だと思う人、誰もそれを許さないだろうと思う人、双方からひどく非難されるだろうと思う人など、いくつかの小さなグループに分かれていました。結局、最もリスクの少ない方法、つまり緩衝地帯で2対2で話し合うという方法をとることになりました。

その前に、1カ月かけて電話会議を行い、要望リストを作成し、2つの同じリスト(別々のリストもあるが)を作成することを決定した後、議論しました。私たちは、最も重要な要望しか話し合うことができないことに気づきました。長い時間をかけて停戦の問題を提起するかどうか決めましたが、女性たちの中には、私たちが一番大事なことを要求していないのに、なぜそんなことをするのかと疑問を持つ人もいました。そこで、基本的な要求であるセキュリティを残すことにしました。

境界線に沿って検問所を増やし、人々が何時間もウロウロすることがないように、そして安全であるようにという議論がなされたのです。また、実際に快適で安全な戦争を望んでいるのか、という議論もしました。一方では、日常的に戦争に対処しなければならない人々にとって基本的なニーズです。しかし、他方では、忘れたい戦争のための軍事的インフラのようなものを残しておきたいと考えているようにも思われます。しかし、私たちは検問所を残しています。ここはすぐにでも改善する必要があるからです。

人道的な問題は、しばしば非人間的な方法で解決さ れます。それは、彼らが影響を及ぼす人々によって決定がなされないからです。この1年で、主要な検問所にはトイレが必要なことが明らかになり、欧州委員会からそのための資金提供がなされました。それ以前は、人々はどうしていたのだろう、トイレに行かなかっただけなのだろうか。検問所の警備員もトイレに行かなかったのだろうか?これらは、考えてみれば当たり前のことなのです。それまでは、地雷原にしゃがみこんでいるようなものだったのです。そして、水道の蛇口や日よけの状況も同じでした:2015年から2016年にかけては、誰もそれらについて考えもしなかったのです。赤十字は出入りする老女に紙製の帽子を配っていたが、それだけだった。

ウクライナの軍事予算は年明けに決まります。それは軍隊のための予算を網羅しており、長期的な支出のための戦略も立てられています。しかし、一般市民の基本的な人間的ニーズは、一時的な問題としてとらえられてきました。北キプロスでは、トルコ領からギリシャ領への検問所を通過するのにほんの1分ほどしかかからないが、トイレや日除けはある。もちろん紛争は30年続いていますが、このようなインフラはコストがかからないんです。

キエフの支配下にない側の女性も、あなたのようなネットワークを持っているのでしょうか?

2015年に向こうへ行った際に何人かに会いました。ネットワークがあるとは言えませんが、この線が現れる前からお互いを知っていて、人道的な分野で働いていた女性たちがいます。医療機関や緩和ケア施設での支援に従事していた人もいました。彼女たちは、技術も人脈も失ってはいなかった。信頼関係を築くのは簡単ではありませんでしたが、現地に赴き、話を聞いてみると、戦争に関わる問題や、戦争に対して私たちができることについて、これからも話し合っていけると思いました。

紛争を平和的なステージに移行させるというあなたたちの請願は、多くのコメンテーターから攻撃的な反応を受けました。これについてはどう思われますか?

自分たちの抱えるトラウマから生じた問題もあれば、無関係な問題もありました。興味深いコメントをいくつか要約してみよう。検問所の数についての指摘は、「分離主義者との接触点を増やすつもりなのか」という疑問を生みました。これは閣議決定815号で、前政権が通過させたものだという答えが返ってきた。

また、停戦の要求に関する質問もありました。「なぜこの点をプーチンに訴えないのか」。しかし、私たちの要求は、三国間コンタクトグループとOSCEに向けたものだと即座に答えることができます。私たちは中立性を保つために、意図的にすべての側と接触しているのです。

また、「女性兵士を侮辱している」という意見もあります。しかし、女性退役軍人の中には、停戦を含む私たちの要求を支持してくれる人もいます。

最後に、ウクライナの強力な隣国である「ロシアは侵略者であり、戦争を止められる唯一の国」に関連する疑問についてです。しかし、OSCEの報告書を見ると、双方が武力衝突しており、技術的には双方が武器を置く必要があることがわかります。

一般的に、私たちのイニシアチブに対する批判は、実際に書かれていることではなく、それぞれの人が抱えているトラウマや 問題が凝縮されているのです。その一つひとつに目を向ける前に、ただ悪意と非難をこちらに向けてくるのは悲しいことです。

今のところ、すべてが脱エスカレーションに向かっています。ウクライナの公式レトリックのレベルでさえも。人権擁護団体の間でさえ、以前にはなかった会話が交わされているように感じます。

なぜ、停戦と平和的局面への移行が問題なのか?交渉はできないのでしょうか?停戦は悪いことなのか。もっと戦闘が必要なのか。誰も譲歩しろとは言っていない。私たちは平和を望んでいるという事実についてさえ話していないのです。なぜなら、「平和」という言葉はタブーであり、それを口にしたとたん、人々は石を投げつけるようになるからです。私たちはこの言葉を意図的に避け、安全保障と対話について話し合っているのですが、対話もまた難しいものなのです。

それでも、私たちの署名運動は盛んに行われています。正直なところ、署名した人たちが誰なのかさえ知りません。私にとって興味深いのは、意図的なプロモーションをしなくても、おそらく1カ月でその数がどのように増えていくかということです。また、人々は拡散することを恐れていることが多い。署名すること自体が、自分だけの意見ではないと感じ、少なくとも小さな一歩を踏み出し、何らかの活動を示す人々のプールを作る方法だと私は想像していました。これは、おそらく最も安全な活動形態で、街頭に出るよりもずっと安全なのです。(訳注:請願署名の本文を参考までに、最後に掲載しました)

和平交渉に女性を参加させるべきだというのは、あなたが何年も前から話していることの一つです。なぜそれが重要だとお考えなのでしょうか。また、女性の視点は男性の視点とどのように違うのでしょうか。

最も単純な説明は、社会化と、人々が背負っているさまざまな経験についてです。例えば、検問所では女性の衛生ニーズに対応する規定がありません。まるで戦時中は女性の生理が止まってしまうかのように。もし女性が意思決定に関与していれば、このような問題はすぐに解決するはずです。女性同士で平和について話し合うと、医療問題や教育の話になりますが、男性と安全保障について話し合うと、武器や戦闘の話ばかりになります。このように、紛争の解決には2つの視点が必要なのです。そして、各派閥のニーズにバランスを導入するためには、会議のテーブルに「女性」の視点を入れる必要があるのです。

もちろん、女性も紛争の中で働くということは、課題もチャンスも山積みです。最初の2年間は男性の友人と一緒に行動していましたが、一人で行動した方が落ち着くし、安全だということに気づきました。検問のたびに服を脱がされ、武器の痕跡がないかチェックされるなど、余計に頭が痛くなりました。また、何度も聞かれた。「なぜ、軍隊に入らなかったんだ」。攻撃的な話し方で、困難な状況に陥ると、彼らは私を怒鳴りますが、もし彼らが男性の同僚と関わると、いつも喧嘩になります。女性はIDすら見せずに普通の検問を通過することもできます。これらはステレオタイプですが、私たちに有利に働くので、この状況を利用するのもいいかもしれません。

政府は、女性の参画をどのように考えているのでしょうか。

前政権は、ジェンダー主流化を支持し、多くの政治資金を得ました。そして、現政権もそれを支持しています。一方では、便利なコミュニケーション手段ですが、他方では、多くの問題を提起しています。国連決議1325「女性、平和、安全」は主に4つの分野をカバーしていますが、ここではゆがんだ視点で紹介されています。

セミナーなどで「決議1325を知っていますか」と聞かれ、「はい、もちろんです」と答えます。しかし、その内容を聞かれると、「軍隊にもっと女性が必要だということです」としか答えられない。しかし、その条文は議題全体の16分の1を占めるに過ぎず、私たちが知っているのはそれだけなのです。ですから、この問題に取り組んだのはいいことかもしれませんが、焦点があまりに偏っていたのはまずかったと思います。このアジェンダの背景には、安全保障の概念を国家の安全保障から人間の安全保障に広げるという考えがあったのですが、国家の安全保障のセクションに女性についてちょっと付け加えただけなのです。

このアジェンダは本当に拡大する必要があります。今、状況は私たちの方向に少し振れているようで、ゲストリストに入ることが多くなりました。以前は、代替案を持つ人は無視されるか、議論から排除されるかのどちらかでした。そして、私たちは今、決議1325に新たな要素をもたらそうとしているのです。

決議1325は、人間の基本的なニーズに関する枠組みです。快適さと社会経済的な保証という観点からこれらのニーズを満たすには、必然的に争いを伴います。争いは、力の不平等な共有とそれを求める戦いから発生するのです。決議1325を実践することは、矛盾を取り除くために、対立する要因を均等化しようとする方法です。

豊かな社会では、紛争を引き起こす機会は限られています。代議制の機関が重要な機能を持つ環境では、社会が崩壊するような状況を作り出すことは容易ではありません。民主主義と意思決定に参加する機会が不可欠であり、そこでは異なる集団の利益が考慮され、人々は社会の未来を創造する役割を担っていると感じています。人々は、自分たちの判断で投票したり、外部からの支援という考えに頼ったりはしないでしょう。政府、村、都市、どのレベルであれ、状況に影響を与えることができるのなら、なぜそうしないのでしょうか。

非支配地域の雰囲気について教えてください。

それについては、人それぞれの意見があり、割合について話すことはできません。私は、彼らが私に話す言葉から、人々のニーズを推測しようとします。言葉というのは、私にとって、そのニーズを示すための手段なのです。

数週間前、ルハンスクのFacebookグループで、ある女性がロシアのパスポートを手に入れたという投稿を読みました。彼女は、ようやく政府という組織の一員になることができ、帰属意識と保護を感じることができたと、とても喜んでいました。私はそれを、ウクライナと距離を置きたいという願望ではなく、彼女が5年間、何らかの国家機構に守られようと努力したけれども、ウクライナにも自称「ルハンスク人民共和国」にも何も見つからなかったという事実の確認だと思ったのです。しかし、今、彼女はようやく市民権を得て、自由に移動でき、社会保障費を受け取ることのできるパスポートを手に入れたいという希望を持っていました。

問題は、公式の議題で異なる意見を認めるという点で、人口の多くのグループを除外してしまっていることです。そして、彼らは排除され、貶められたと感じ、生活の不安から、罪悪感を押し付けられているのです。彼らはまた、年金を受け取るために検問所を通らなければならないという、構造的な国家レベルでの屈辱を経験しています。このような屈辱の連続から、ついに解放されたいと思うようになる。あの女性がロシアのパスポートを欲しがったのは、ロシアへの愛というより、自分が二流市民であることを感じなくなるためだったような気がします。

今後の展開はどうでしょうか。紛争が緩和されることはあるのでしょうか?

今のところ、すべてがデエスカレーション(緩和)に向かっています。ウクライナの公式なレトリックのレベルでさえも。人権擁護者の間でも、以前はなかったような会話ができるようになったと感じています。私たちはこれまで出会い、議論し合ってきましたが、中立的なことを声に出して言ってきました。私たちは5年前から何らかのアジェンダを作ろうとしてきましたが、ようやく形になり始めたところです。請願書のすべてのポイントを100%支持しているわけではありませんが、単純に、すべてを議論できるようにしたいと思っています。

ロシア語からOpenDemocracyによって翻訳された

このニナ・ポタルスカヤへのインタビューは、Memory Guidesの支援を受けて行われました。ドイツ外務省の支援を受け、ベルリンの独立社会研究センターで行われた「平和的紛争解決のための情報資源」プロジェクトであり、「東方パートナーシップ諸国およびロシアにおける市民社会との協力拡大the Expanding Cooperation with Civil Society in the Eastern Partnership Countries and Russia」プログラムの一部である。

https://commons.com.ua/en/nina-potarskaya-o-mire-vojne-i-zhenshinah-na-donbasse/

(参考) 請願署名

ウクライナ東部の武力紛争を平和的局面へ

毎日何千人もの人々がOOS検問所を通過しており、彼らの命と健康は大きな危険にさらされています。多くの国際機関(Human Rights Watch, OSCE, UN Ukraine, Ukrainian Helsinki Union)から、検問所での不当に長い待ち時間、適切な衛生・保健環境の欠如、境界線を越える際に銃撃を受けたり地雷や砲弾に遭遇する可能性がある事例が増えていると報告された。ウクライナ東部で未解決の武力紛争の結果、市民が直面する危険を理解するために、当局は、国および地方レベルの意思決定において、公共部門と密接に連携することに焦点を当てるべきである。このようなアプローチは、紛争の平和的な交渉による解決に向けた移行を可能にするでしょう。その上で、長期的な平和の保証として、NGCAとNGCA双方の民間人の利益とニーズを考慮した交渉が必要である。紛争双方の女性が集まる「対話と包括的平和のための女性ネットワーク」は、次のような要求リストを提示している。

安全な待機場所と人道的サービス(着替え台付きトイレ、手洗い場、飲料水、保温施設、砲撃時の避難所)を備えたNGCA発着の横断地点の数を増やすこと。国の資金ですべての検問所に救急医療施設を組織する。
ウクライナの支配地域と一時的な非支配地域を結ぶ双方向の直通鉄道およびバスサービスの復旧。
民間人の安全を確保するための双方による停戦。紛争の平和的かつ交渉による解決に移行すること。
国際、国内、地方のすべてのレベルの交渉プロセスに、十分な数の市民社会(女性、平和構築、人権)団体の代表者と代表を含めること。特に、ミンスクやその他の平和構築プロセスへの参加、国家や地方の予算編成に関する議論への参加などが挙げられます。
紛争双方のすべての参加者と対話プロセスの参加者の安全が保証されること。
要求文は、ウクライナ大統領、日中韓コンタクトグループの参加者、OSCE特別監視団の議長に転送されました。

この署名活動に賛同し、ソーシャルメディアへの投稿をお願いします。

一緒に平和を築きましょう

出典:http://chng.it/mpyXnLjYrW

(illiberalism)ウクライナの西側軍事訓練の主要なハブに極右グループが拠点を構えた

(訳者まえがき) アゾフはネオナチなのかどうか、ウクライナはネオナチが跋扈する国なのか、などをめぐって日本の反戦平和運動のなかでも判断が分れていると思う。以下は、昨年(現在の2月からのウクライナ戦争以前だが2014年以降の東部の戦争(内戦)以後)に書かれたウクライナ軍内部の極右の動向についてのレポートでジョージワシントン大学のilliberalismのサイトに掲載されたものだ。

見解が分かれる理由は様々なのだが、今世界中で起きているのは、もはや極右や右翼という座標軸の原点そのものが右側に大きくシフトしており、極右の主流化という現象が生まれている、ということだ。ウクライナもロシアも同様だ。ウクライナは、選挙で極右の得票率は極めて低い。これは、米国や日本の極右政党の得票率が低いことをみればわかるように、そのことが極右が台頭していないという目安にはならない。米国なら共和党に、英国なら保守党に、日本ならば自民党や維新に極右とみなしうる傾向が浸透しており、政治の主流を乗っ取りつつある。安倍政権を極右政権だと正しく理解したメディアは日本には皆無だったように、極右やファシズムは、そうとは気づかれないままで浸透するものだ。もちろん極右の政党がそれ自身で政治的な影響力を国政にもつような国もある。既存の支配的な政党を乗っ取るのか、新たな政党で権力に握るのかは、手段の違いでしかなく、目標は同じだ。

ウクライナの場合、下記のレポートにあるように、深刻なことは、軍の幹部のなかに極右のイデオロギーを持つ者たちが、組織的に形成されている(のではないか)という状況と、こうした状況を承知した上で、ウクライナ軍当局は極右の活動家たちを受け入れ、その軍事教育を西側の軍事教育機関が積極的に担ってきたということだ。下記のレポートではCenturiaという思想的には明かなファシストといっていい価値観を持つ組織を中心にアゾフなど関連する団体にも言及している。これがウクライナの軍にどの程度の影響力を実際にもっているのかは、私には判断できない。しかし、無視しえない影響がありうるとは思う。Centuriaやウクライナの極右がナショナリズムのイデオロギー的なヘゲモニーを握りつつあるのではないか、という危惧もある。思想的な武装をしたナショナリストが軍や政権に大きな影響力を持ったばあい、合理的な軍事的な勝敗とその後の統治よりも、世界観を賭けて戦争は収束ではなく泥沼化しうるということだ。日本はかつてこの道を歩んだし、対テロ戦争もまた宗教や価値観を賭けた戦争として収拾がつきようのないものになってしまった。しかもウクライナの場合、欧米は、軍事支援をしつつも自らの人的犠牲を最小化する政策をとるために、負けてもいいから戦争を回避しようという意思は希薄だ。ゼレンスキー政権には自国民の犠牲を最小化するための政治的な判断よりも軍事的な抵抗を優先させる傾向が顕著だ。他方で侵略者のロシアもプーチンの狂気などといった話では収まらないロシア固有の極右が背後に控えている。ユーラシア主義、ロシア正教、またナショナル・ボルシェビキのような右翼スターリン主義(?)や右翼ナロードニキまで豊富なファシズム資源を有しており、これが左翼や国内の反政府運動を抑圧する環境をつくりだしている。世界観をめぐる戦争になると収束は難しいかもしれない。いずれの側も戦時の緊急事態を口実に市民的自由を抑圧しており、戦争の長期化は市民的自由そのものを支える基本的な理念を壊死させるだろう。

今一番足りないのは、自国を情けない国にしようとする思想だ。国家とは命を賭けて戦うようなものではないという当たり前の生存への権利の基礎がほとんど存在しない。哲学も思想も社会科学もほとんど役立たずだ。

訳文について。私はウクライナ語やロシア語を理解できないので、固有名詞の正しい発音のカタカナ表記にはなっていないところがある。なるべく原文の表記を併記しました。また、nationalの訳語は、すべてカタカナで「ナショナル」としたので、「ナショナル部隊」のように、ややみっともない訳語になっている場合があります。ナショナルは国民、民族、国家などと訳せてしまい、いずれも概念としては重要な違いがあるので、誤解を避けるためにナショナルとしました。(小倉利丸)

Copy-of-foreign-policy

目次
概要
・タイムライン
・NAA:欧米の支援で同国の軍事エリートや最前線の戦闘員を形成する
・ビデオ、写真の証拠から、NAA内にゾンネンクロイツを冠した「軍事集団」が存在することが判明
・グループの見かけ上の指導者。極右団体「アゾフ運動」との関係やNAAでの役割など
・西へ:Centuriaのメンバーが英サンドハーストで11カ月訓練、独OSHでも歓迎される
・グループのドクトリンは、モスクワ、ブリュッセルから「ヨーロッパのアイデンティティ」を守るために国際的な連帯を強調し、明らかにメンバーと思われる者たちは人種差別を口走り、ナチス式敬礼を行う。
・国際的な非難、メディアの批判を浴びる極右の盟友とのメッセージの拡散
・「より洗練された極秘活動」 ウクライナ軍への影響力増大の主張と動員呼びかけ
・ウクライナ政府、西側軍部はウクライナ人軍人の過激派を審査せず、極右が有利な地位を占めてきた

ウクライナの西側軍事訓練の一大拠点に極右グループが拠点を構える
By illiberalism.org2021年09月21日

オレクシー・クズメンコ

IERES Occasional Papers, no.11, September 2021 Transnational History of the Far Rightシリーズ

概要

本稿で明らかになった証拠によると、2018年以降、ウクライナの最高峰の軍事教育機関であり、同国に対する欧米の軍事支援の主要拠点であるヘットマン・ペトロ・サハイダクニー国立陸軍士官学校the Hetman Petro Sahaidachny National Army Academy(NAA)に、右翼思想路線に沿って同国の軍隊を再形成し、欧州の人々の「文化・エスニック・アイデンティティ」を 「ブリュッセルの政治家と官僚 」に対して防衛するという目標を掲げる自称「欧州伝統主義」軍人の集団Centuriaが置かれていることが明らかになった。このグループは、「ヨーロッパの右翼勢力が強化され、ナショナルな伝統主義がヨーロッパ人民の規律あるイデオロギー的基盤として確立される 」未来を思い描いている。

このグループは、国際的に活発なウクライナの極右運動であるアゾフ運動とつながりのある人物に率いられており、現在ウクライナ軍に所属するNAAの現・元士官候補生など複数のメンバーを集めている。メンバーらしき人物は、ナチスの敬礼をして写真に写っていたり、ネット上で過激と思われる発言をしている。

このグループは、NAA内部でウクライナの将来の軍事エリートにこうした思想を広めることに成功してきた。また、メンバーらしき人物は、西側の軍事教育・訓練機関にもアクセスしている。このグループのメンバーと思われる1人、当時NAA士官候補生だったKyrylo Dubrovskyiは、英国の王立陸軍士官学校サンドハースト校で11カ月間の士官訓練コースに参加し、2020年末に卒業した。その間、ドゥブロフスキーはグループとの関係を維持していたようだ。もう一人のメンバーと思われる人物で当時NAA士官候補生だったウラジスラフ・ヴィンターゴラーVladyslav Vintergollerは、2019年4月にドイツのドレスデンでドイツ陸軍士官学校(Die Offizierschule des Heeres、OSH)が開催した第30回国際週間に参加した。一方、ウクライナ国内では、メンバーがアメリカの軍事訓練生や、アメリカやフランスの士官候補生と接触していたようだ。2021年4月の時点で、同グループは、発足以来、メンバーがフランス、英国、カナダ、米国、ドイツ、ポーランドとの合同軍事演習に参加したと主張している。

同グループは、メンバーがウクライナ軍の複数の部隊で将校として勤務していると主張している。これらの主張は、同グループがNAAに存在することが確認されていることと、一部の明かにメンバーとおもわれる者が2019年から2021年の間に卒業後、ウクライナ軍(AFU)の部隊に入隊した可能性が高いことから、信憑性が高いと思われる。少なくとも2019年以降、Centuriaは何度か動員を告知しており、AFUのイデオロギー的に一致したメンバーに対して、グループのメンバーが勤務する特定の部隊への異動を求めるよう呼びかけている。新しいメンバーを集めるために、同グループは、1200人以上のフォロワーと専用の動員ボットを持つTelegramチャンネルを通じて、AFUでの役割と西側の訓練、軍事、交換プログラムへのアクセスを勧誘し続けている。

このグループはウクライナの極右運動であるアゾフ運動Azov movementと強い結びつきがあり、NAA士官候補生にアゾフ運動を宣伝し、そのメンバーがアゾフ運動の軍事部門である国家警備隊National Guardのアゾフ大隊Azov Regimentで講義をしていると信憑性のある主張をしている。前者とCenturiaの間に強い結びつきがあるというイメージは、アゾフと関わるりのある雑誌が2018年に同グループのNAA内での存在を同時期に報じたこと、アゾフの人物による支持声明、グループのリーダーやメンバーと見られる人物がアゾフのリーダーたちと写っている写真、そしてCenturiaがアゾフ運動とともに政治集会に参加していることによってさらに裏付けられている。オンラインでは、Centuriaはアゾフ運動の主要人物から支持されており、グループのリーダーやメンバーらしき人物は、アゾフのリーダーであるアンドリー・ビレツキーAndriy Biletskyや運動の主要スポークスマンであるユーリイ・ミハルチシンYuriy Mykhalchyshynと写真に写っている。アゾフ運動の政治的団体である国民軍団党The National Corps partyとアゾフ大隊は、筆者のコメント要請に応じなかった。

Centuriaとアゾフ運動の結びつきは、米国議会が2018年に「アゾフ大隊への武器、訓練、その他の支援の提供」のために米国の予算資金を使うことを禁止し、その後も2021年の政府支出法案を含めその規定を維持していることから、警戒が必要だ。CenturiaがNAAを通じて西側の軍事訓練にアクセスし、AFUに存在することが、アゾフ運動に利益をもたらす可能性がある。アメリカの議員たちは、国務省に対してアゾフを外国人テロ組織(FTO)に指定するよう繰り返し求めている。最も最近のそうした呼びかけでは、2021年4月に民主党のエリッサ・スロトキン下院議員がアントニー・ブリンケン米国務長官に宛てて、「アゾフ大隊は[中略]インターネットを使って新しいメンバーを勧誘し、そのメンバーを過激化させて白人のアイデンティティー政治課題を追求するために暴力を行使させている」と書いている。しかし、アメリカや西側諸国政府は、ウクライナ政府に対してアゾフ運動との関係を断つよう求めておらず、極右組織は、アゾフ大隊を通じて、依然としてウクライナ政府に組み込まれている。

Centuriaの活動、指導者らしき人物、イデオロギーについてコメントを求められた国立陸軍士官学校は、同団体が同校内で活動していることを否定し、同団体の活動とされるものを調査したが、そのような活動の証拠は何も見つからなかったと述べている。しかし、この論文で収集された証拠は、グループが士官学校内にあることを確固として示している。NAAスポークスマンは、アカデミーが過激主義に不寛容であることを強調した。このような発言とは裏腹に、別のケースでは、2021年にウクライナのユダヤ人連合が反ユダヤ主義プロパガンダを広めていると非難したアゾフ運動関連の極右団体にNAA士官候補生が銃器の教官として関わっていた疑いがある。NAA士官候補生は、ナチスの敬礼を連想させるジェスチャーをしている写真にも写っている。

CenturiaがNAA内で活動する能力を有している証拠、ウクライナ軍におけるそのプレゼンスや欧米の訓練や軍隊にアクセスできることに関する信頼できる主張は、ウクライナ当局や欧米政府によるウクライナ軍人の過激な見解や過激派グループとの関係が明かに審査されていないことの結果の1つに過ぎないように思われる。ウクライナ軍がCenturiaの活動をチェックしなかったことは、ウクライナ軍内での極右思想の拡散や影響力に対して、軍部が寛容であることを示唆している。

ウクライナ国防省は、軍隊に入隊する者や士官候補生が過激派的な考え方やつながりを持っているかどうかを審査することはないと述べている。一方、ウクライナ軍の訓練や武装に関与している欧米諸国の政府は、筆者の問い合わせに対して、欧米が訓練したウクライナ人兵士の審査はウクライナの責任であると述べている。米国、カナダ、英国、ドイツといった西側諸国政府は、ウクライナの訓練対象者が過激派的な考え方やつながりがあるかどうかを審査していない。

これらのわかったこととその結論は、筆者が2019年初頭から Centuriaのオンラインプレゼンスの変化を監視し、文書化したことで可能となった。その時以来、Centuriaは秘密主義を強化する方向に進んでおり、オンラインプレゼンスのそれ以前のバージョンの消去もその結果だと思われる。Centuriaの現在のTelegramチャンネル、@ArmyCenは、2020年4月から活動している。その前には、2018年から2019年後半にかけて活動し現在はアクセスできない@european_centuriaと@euro_order Telegramチャンネル、さらに現在はアクセスできないFacebookページ https://www.facebook.com/centuriaNASV/ 、2020年後半まで活動していたInstagramページ https://www.instagram.com/euro_order_centuria/ 、現在は休眠中のVKページ https://vk.com/european_centuria があった。注目すべきは、このグループが宣伝のためにアカデミーのブランドに依存しているもう一つの兆候として、そのFacebookページのURLには、広く認知されたNAAの正式名称の公式頭文字NASVが含まれており、これはウクライナ語の「Національна Академія Сухопутних Військ」を表し、直訳すれば国立陸軍アカデミーという意味だ。

このグループの初期のオンライン・プレゼンスでは、時折、顔、固有のコールサイン、グループのメンバーが運営するTelegramチャンネル、メンバーに関する識別情報、あるいは活動が行われた場所などが明らかにされていた。これらの情報は筆者によって保存され、事件の場所を確認し、特定のメンバーをソーシャルメディア上の存在まで追跡することができた(顔認識ウェブサイトFindclone.ruなどのツールを使って、検索した顔に一致するVK.com上のプロフィールや写真を表示させることも可能だ)。その結果、個人情報がすぐに判明したケースもあれば、自分の身元、グループのイベントや活動、他のメンバーに関する追加的な証拠が見つかったケースもあった。その結果、20人近くがCenturiaに関わっていることがわかったが、この記事では全員の名前を挙げてはいない。グループのプロパガンダやソーシャルメディアのプロフィールから得られた証拠は、アカデミーやその士官候補生に関する公開情報、グループが参加したと主張する公的イベントのメディア報道、ウクライナ住民に関する公開情報のデータベース等と照合された。Microsoft Azureの顔認証ツールを使用して、特定の写真やビデオに特定の個人が写っていることを確認した。また、報告書に記載されている団体や政府に対してインタビューを行い、あるいは連絡を取り、コメントの機会を提供した。また、「Centuria」の指導者らしき人物や、個々のメンバーにも接触するよう努めた。

筆者がCenturiaとそのメンバーらしき人々、およびNAAにコメントを求めたところ、同グループとそれにつながる個人は、オンライン上の存在の一部を削除する措置をとった。筆者は、同グループの声明、同グループとそのメンバーと思われる人物が運営するページのアーカイブを保存している。

この研究は、欧州・ロシア・ユーラシア研究所(IERES)のために著者が作成したものである。IERES所長のDr Marlene Laruelleとこの作業で調整した。

タイムライン

2017年後半~2018年前半:グループのリーダーらしき人物がNAAと関連する写真に登場

2018年

●グループ発足。Centuriaのネット上の投稿では、2018年5月を活動開始日として挙げている。しかし、その最も古いネット上の活動は、2018年2月にまでさかのぼる。
●CenturiaがNAA内でイベントを開催。
●極右運動アゾフに連なる雑誌「Національна(英語:National Defense)」が、NAAにおけるCenturiaの存在を報道。

2019年

●メンバーがウクライナ国家警備隊アゾフ大隊のために講義を行ったとされる。
●Centuriaリヴィウで開催された極右政党主催の集会でデモ行進。
●グループのイデオロギーと目標を詳細に記述したテキストが、Centuriaによってオンラインで公開される。
●Centuria、NAAを卒業したメンバーを祝福する。
●同グループは、メンバーがいくつかのAFUの部隊で将校としての役割を担ってきたと述べている。
●ウクライナ軍内の信奉者に対し、センチュリアメンバーが将校として勤務しているとされる特定の軍部隊への異動を求める。
●メンバーらしき人物がドイツ陸軍士官学校がドレスデンで開催した第30回国際ウィークに出席した。

2020年

●英国王立陸軍士官学校サンドハースト校の11カ月にわたる将校訓練コースに、Centuriaのメンバーらしき人物が参加し、卒業する。
●Centuria、メンバーのNAA卒業を祝福する。
●Centuria、引き続き、信奉者に対し、メンバーが将校として勤務しているとされる特定のAFU部隊への転属を求めるよう呼びかけている。
●Centuria、軍隊のメンバー以外にも、治安維持機関や法執行機関のメンバーにも門戸を開いていると述べる。
●Centuria、以前はアゾフ運動のストリート部門であるNational Militiaとして知られていた同名の新たに結成されたグループと距離を置くとの声明を発表。
●グループは、NAA内での活動継続を主張。
●国際平和維持・安全保障センターで撮影された米軍訓練生との写真に、同グループのメンバーらしき人物が写っている。

2021年

●グループはウクライナの外国部隊との協力に新たに焦点を当て、「より洗練された秘密主義」の活動への移行を発表する。
●Centuria、メンバーのNAA卒業を祝福する。
●Centuria、キエフ、オデッサ、ハリコフ、リヴィウでメンバーが活動していると表明。
ウクライナ国軍の将校として活躍しているとのこと。
●Centuriaは、信奉者たちに、メンバーが将校として勤務しているとされる特定のAFU部隊への転属を求めるよう呼びかけ続けている。
●グループ発足以来、複数のメンバーがフランス、英国、カナダ、米国、ドイツ、ポーランドとの軍事演習に参加したと主張している。

NAA:欧米の支援で同国の軍事エリートや最前線の戦闘員を形成する

ヘットマン・ペトロ・サハイダクニー国立陸軍士官学校(NAA-ウクライナ語。Національна академія сухопутних військ імені гетьмана Петра Сагайдачного)はウクライナの軍事教育システムにおける重要な機関である。リヴィウ市の中心部に位置する広大なキャンパスには、ウクライナ国軍の将校を目指す数千人の士官候補生が在籍しており、そのスケールの大きさは、同アカデミーのサイトで公開されている3Dツアーで確認することができる。同アカデミー長のパブロ・トゥカチュク中将によると、「将来のウクライナ軍の偉大な指揮官たちは、このアカデミーで技術を習得している」のだそうだ。

ウクライナの西側パートナーは、将来の軍事リーダーの育成に関与している。同アカデミーの2020-2025年戦略では、「NATOへの統合の促進」が重要な任務の一部として取り上げられており、NATO(軍事)教育機関との協力が重視されている。現在、NAAでは、ドイツ、カナダ、デンマークの専任アドバイザーとNATOの防衛教育強化プログラム(DEEP)の専門家が、学生に教えるカリキュラムの形成に携わっている。アカデミーの施設にも欧米の関与が反映されており、例えば2018年、NAAはカナダがスポンサーとなったハイテクな「デルタ教室Delta Classroom」を公開した。

1 Photo posted to the NAA’s Facebook page shows cadets lined up in front of the buildings of the Academy
NAA の Facebook ページに投稿された写真には、アカデミーの建物の前に並ぶ士官候補生たちが写っている。

ウクライナ国防省の情報機関であるArmy Informによる2019年の報告書では、アカデミーは 「国際軍事協力のイベント 」に関して、ウクライナの軍事教育機関の中で「疑いようのない」リーダーであると述べられている。また、ポーランドのタデウシュ・コウスチスコ陸軍大学General Tadeusz Kościuszko Military University of Land Forces 、リトアニアのヨナス・ジェマイティス陸軍大学General Jonas Žemaitis Military Academy、テレジア陸軍大学Theresian Military Academy(オーストリア)、ドレスデン(ドイツ)の陸軍士官学校(Officierschule des Heeres、OSH)や「その他の有名な外国の大学」と「密接な関係」を持っていると報告されている。その報告書によると、2019年の最初の11カ月間だけで、63の外国代表団がNAAを訪問し、NAAの軍人は37回海外に渡航している。

「我々の優秀な士官候補生は、外国の軍大学で(最長1年間のコースに)参加する機会がある。例えば、イギリスのサンドハースト(王立陸軍士官学校)やフランスのサン・シール(サン・シール特別陸軍士官学校)だ」とNAA広報担当のアントン・ミロノビッチは筆者に電話で語り、頻度は低いものの、士官候補生たちはNATO諸国の軍事教育施設への短期「研修訪問」にも参加していることを付け加えた。

ウクライナの西側諸国とNAAとの関わりは、NAAの重要なイベントにも表れている。例えば、2020年の将校卒業式には、米国、カナダ、ドイツ、デンマーク、リトアニア、スウェーデンの政府関係者が出席し、ウクライナ首相の挨拶と大統領の事前録画による演説が行われた。また、欧米の軍関係者も卒業生を前に講演を行った。2021年、NAA将校の卒業式にアメリカ、カナダ、デンマーク、ドイツ、リトアニア、ポーランドの軍関係者が来賓として出席した。

2 Photo posted to the Joint Multinational Training Group—Ukraine Facebook page shows leaders of Task Force Carentan at the Oath of Allegiance ceremony at the NAA in August 2
多国籍共同訓練グループ・ウクライナのFacebookページに投稿された写真は、8月2日にNAAで行われた忠誠の誓いの儀式に参加した Task Force Carentan のリーダーたち。

NAA士官候補生が欧米のウクライナへの軍事支援の恩恵を受けているのは、アカデミー本体を通じたものだけではない。ロシアとの戦争が7年目を迎えたウクライナにとって、アカデミーはウクライナ軍の主要な訓練・教育拠点として欠かせない存在となっている。NAAは、国際平和維持・安全保障センター(IPSC)と第184訓練センターを監督している。ウクライナ国防省の広報による2017年のビデオレポートによると、最盛時には、この2つのセンターの間で数千人の軍人を受け入れている。IPSCは、その場所(リヴィウ州ヤヴォリブ地域のスタリチ)から、メディアでは単にヤヴォリブと呼ばれることが多いが、間違いなくウクライナ軍の訓練の主要拠点であり、そのなかで米国やカナダなどが大きな役割を担っている。このセンターには、カナダ軍のウクライナ軍支援ミッションであるUNIFIER作戦と、米国主導の多国籍合同訓練グループJoint Multinational Training Group—Ukraine(JMTG-U)があり、ウクライナ軍(AFU)の訓練と装備などの支援をしている。IPSCのFacebookページで公開されている12分間の英語版ビデオでは、ヨーロッパ最大級の軍事ポリゴンであるIPSCの規模と精巧さが詳細に説明されている。IPSCに対する欧米のインプットは絶大だ。米国政府の支援により、2016年にIPSC内にヤヴォリブ戦闘訓練センターが設立された。その1年後には、米国の支援でハイテクな「シミュレーション・センター」が立ち上げられた。2020年のIPSCについて、NAAチーフのトカチュクTkachukは、「掛け値なしでウクライナとその軍隊にとって国際軍事協力の前哨基地」と呼ぶことができると述べた。2021年5月、トカチュクは、米国主導のJMTG-Uの専門家だけでも、AFUのために2万人以上の軍人の訓練を支援したと述べている。ウクライナのアンドリイ・タランAndrii Taran国防大臣は2021年2月、ウクライナの防衛・治安部隊の訓練における(UNIFIER作戦を通じた)カナダの役割は 「重要 」で 「疑う余地もない 」と述べている

3 Photo posted to the Canadian Armed Forces in Ukraine Facebook page shows the 2020 NAA graduation ceremony at the International Peacekeeping and Security Center in Yavoriv
在ウクライナカナダ軍のFacebookページに投稿された写真は、ヤヴォリウの国際平和維持・安全保障センターで行われた2020年NAA卒業式の様子。

特筆すべきは、NAA士官候補生がIPSCの射撃場と訓練場を利用できることだ。また、そこでウクライナ軍と協力している外国人教官にもある程度アクセスすることができる。また、IPSCで行われるメープルアーチMaple ArchやラピッドトライデントRapid Tridentなどの国際軍事演習には、通訳から参加部隊の中で直接演習に携わる役割まで、さまざまな形で参加している。

4 Photo posted to the Canadian Armed Forces in Ukraine Facebook page shows then Commanding Officer of Canada’s Operation UNIFIER Lieutenant-Colonel (LCol) Ryan Stimpson spea
在ウクライナカナダ軍のFacebookページに投稿された写真。カナダのUNIFIER作戦の司令官であったライアン・スティンプソン中佐(LCol)がスピーチしている様子。

在キエフ米国大使館は、筆者のコメント要請に電子メールで回答し、「NAA士官候補生はJMTG-Uミッション諸国と非公式な関係を持っている 」と述べた。同大使館によると、JMTG-Uの職員は、NAA士官候補生がウクライナ軍スタッフから訓練を受ける際に、監視およびコンサルティングの役割を担っているという。一方、在ウクライナカナダ大使館国防部長のロバート・フォスター大佐は、カナダ軍の教官がIPSCのNAA士官候補生に関わることは限定的であると述べている。

ビデオ、写真の証拠から、NAA内にゾンネンクロイツを冠した「軍事集団」が存在することが判明

少なくとも2018年初頭から、NAA(およびアカデミーを支援する欧米政府)がその士官候補生や訓練生に提供する訓練や機会は、自らを「軍事集団military order」と称し、特定のイデオロギー路線に沿ってウクライナの軍隊を再編成するという目標を表明しているアカデミー士官候補生と卒業生で構成される組織、Centuriaにも提供されている。

同団体の広範囲にわたるオンライン・プレゼンスは、一連のオンライン・アカウントによって維持されており、イデオロギー的な声明だけでなく、同団体の活動やメンバーらしき人々に関する最新情報も含まれている。信頼性を獲得・維持し、新しいメンバーを集めるための一貫した努力のなかに見られるように、グループはユニークなビデオや写真を投稿してきた。NAA内で行われたイベントの映像や写真、Centuriaとわかるバナーを持った士官候補生の映像、NAA内でCenturiaとわかるパッチをつけたメンバーの写真や映像、政治的イベントに参加するメンバーの映像など、ユニークな素材を掲載している。バナーは数種類使用されている。白人のナショナリストの日輪Sonnenkreuz[訳注1]とヴォルフスアンゲルWolfsangel のマークと組織のスローガン「Virtus et Honestas」をあしらったものと、ゾンネクロイツの代わりに標的の十字を思わせるマークをあしらったものがあり、後者がNAA内で使用するのに安全だと判断した可能性がある。また、Centuriaはネット上に掲載した写真の一部を加工し、顔を隠したり、バナーをゾンネンクロイツのものに変えたりしているようだ。

Centuriaがアカデミーで自由に活動できることを示しているのは、ネット上だけではない。2020年8月、Centuriaの自称メンバーがウクライナの人気メディア「KP.ua」の取材に応じた。KP.uaの記事によると、NAAの士官候補生でアゾフ大隊(大隊はウクライナ国家警備隊the National Guard of Ukraineの一部だが、この地位と極右運動アゾフの軍事部門としての役割を兼ねている)のベテランである「ユーリイYuriy」は、NAAとウクライナ軍参謀本部がともに「組織の存在を知っており、将校たちの精鋭を形成しようとする動きに反対の声を上げてはいない」と述べているという。この記事はまた、ユーリイのグループが他のいくつかの軍事教育機関やAFU部隊と「協力」しているとの彼の言葉を引用している。

さらに「ユーリイ」はKP.uaに、彼がより高い軍事教育を追求するためにアゾフ大隊を去った後、Centuriaが設立されたと語った。「友人と私は、将校になってアゾフに戻ろうと思っていた。しかしその後、私たちはウクライナの正規軍で奉仕し、国家の価値を宣伝し、将校貴族主義を普及させたいと考えるようになった」と説明したと伝えられている。

自分のグループの活動が事実上NAAに許可され、AFUに知られているという「ユーリイ」の主張は、当時否定的に報道されていた別の物議を醸す公然の極右団体と自分の組織を区別するためになされたものである。2020年8月1日、以前は「ナショナルミリシア」(ウクライナ語:Національні дружини)として知られていたアゾフ運動の路上部隊は、Centuriaとして再ブランド化し、メディアで大々的に報じられるような数百人の覆面集団と銃を携帯した敬礼を含む式典を開催した。アゾフが制作したこのイベントに関するプロモーションビデオの中で、新しく生まれ変わった組織のリーダー、Ihor Mykhailenkoは、「領土を獲得することによって外敵に勝利を収める」必要があり、「国内の敵を倒す」必要があると述べている。

こうした発言を背景に、「ユーリイ 」は自らの組織を、今や極めて公的な存在となったグループから切り離そうとしたのである。KP.uaは、「私たちは、誰が私たちの名前とアイデアを使用したのかを解明しようとしている」と、「Yuriy」の発言を引用している。 KP.uaへの「Yuriy」のコメントと同時に、Centuriaもテレグラムチャンネルで、新しく立ち上げた同名の組織と区別する声明を発表していつ。KP.uaによると、同様の声明は、現在アクセスできないCenturiaのFacebookページでも発表された。筆者の質問に答えたKP.uaの記者は、今は削除されたFacebookページに掲載されていた電話番号を使って「Yuriy」に連絡を取ったという。彼女はその番号を保存していなかった。KP.uaの記事には、Centuriaの主張に対する事実確認は含まれていない。

KP.uaの記事には、Centuriaの主張に対するアカデミーの否定も掲載されている。「このような組織は存在しない。少なくとも、このような活動やイベントを承認する公式要請は受けていない」と、NAA広報担当者は述べたという。ウクライナ軍参謀本部も同様に、「このような組織は、軍や由緒ある士官学校とは何の関係も持ち得ない」と、このメディアに対して否定している。

筆者がNAA報道官のアントン・ミロノビッチにCenturiaの活動について尋ねたところ、彼はこのグループが機関内で活動していることを否定し、このグループの主張する活動に関するNAA自身の調査でも、そのような活動の証拠は見つかっていない、と述べた。

筆者がメールでウクライナ国防省に、ウクライナ軍内でのCenturiaの活動疑惑に関するメディアの報道について調査が行われたかどうかを尋ねたところ、別の組織であるウクライナ軍から電話で回答があった。インナ・マレヴィチ情報官は、自分たちではなく、本来の宛先である国防省が答えるべきだと考えているようだったが、それでもウクライナ軍はCenturiaに関する疑惑に根拠がないと考えていることを示した。「私たちは、Centuriaは根も葉もないものであり、軍とは無関係だと考えています。陸軍は根拠のないことについてコメントしない」とマレビッチは電話口で語った。

ウクライナ軍とNAAによるこれらの声明とは反対に、筆者は、アカデミー内での存在と活動に関するグループの主張のいくつかを裏づけることができた。

CenturiaはNAA内での活動を誇示し続けているが、その存在を最も確かな証拠として示しているのは、同グループがNAA敷地内で開催したイベントなど、以前のテレグラム・チャンネルのマルチメディア投稿である。例えば、グループの1周年とアゾフ大隊の5周年を記念した2019年5月の投稿には、20人近くの制服を着た集団(写真では顔がぼかされている)がグループのバナーを持ってポーズをとっている冬の写真が掲載されている。その背後には、アカデミー敷地内にあるNAAを象徴する建物のひとつが写っている。

「1年前、右翼の志願者とナショナリスト組織の活動家によって形成されたCenturiaの戦士たちは、我々の共通の大義に忠誠を誓い、その結果、士官の高い専門性だけでなく、彼らの信頼できる思想的バックボーンの上に築かれた新しいタイプの軍隊の創設が実現した」と投稿されている。

筆者はまた、2019年6月付けのソーシャルメディアに、NAA敷地内でCenturiaの旗を掲げる制服姿の士官候補生が、その年の卒業式の様子と思われる投稿を複数発見している。これらの写真は、テレグラム上の同時期のCenturiaの投稿と対応しており、コールサイン「Wild」と「Slav」で識別されるグループの2人の「戦友」のNAA卒業を祝福し、NAA敷地内でCenturiaのバナーを持った、パレードの制服を着た者を含むグループの写真を掲載している。「諸君はウクライナ軍を率いる国家の誇りであり、国際的で専門的な新しい形式の将校の基礎となる[…] 旧クラスの将校が軍隊を乗っ取るのを許さないようにしよう!”」写真は、キャンパス内の礼拝堂に隣接するNAA敷地内で撮影された。

5 A photo posted to Centuria’s Telegram shows a group of uniformed men posing next to one of the buildings of the National Army Academy. The building is part of the NAA’s ca
Centuria’s Telegramに投稿された写真には、国立陸軍士官学校の建物の1つの横でポーズをとる制服姿の男性たちが写っています。この建物は、リヴィウにあるNAAのキャンパスの一部である。セントーリアが元の写真を加工した際、出来上がった画像のバナーを、標的を連想させるシンボルではなく、日輪をあしらったものに変更した可能性がある。
6 A 2019 photo posted to Centuria’s Telegram congratulates “comrades” Slav (Ukrainian Слов’янин) and Wild (Ukrainian Дикий) on graduating from the NAA. “Wild” is a call sign
センチュリアのテレグラムに投稿された、Slav(ウクライナ語:Слов’Янин)とWild(ウクライナ語:Дикий)の「同志」がNAAを卒業することを祝福する2019年の写真。「Wild」は、NAA士官候補生のローマン・ルスニクにちなんだコールサイン。写真はNAA敷地内の礼拝堂の隣で撮影された。Centuriaが元の写真を加工した際、出来上がった画像のバナーを、標的に十字を連想させるシンボルではなく、日輪をあしらったものに変更する加工が施されていたと思われる。
7 Screenshot of a June 2019 Instagram post made by then NAA Cadet Roman Rusnyk (wearing parade uniform in the photo) on his personal Instagram profile. The photo appears to
2019年6月、当時のNAA士官候補生ローマン・ルスニク(写真ではパレード用ユニフォームを着用)が個人のInstagramのプロフィールに投稿したスクリーンショット。同時期にCenturiaが投稿した写真と酷似しているが、違いはRusnykが投稿した写真のCenturiaのバナーに掲載されているシンボルで、ゾンネンクロイツではなく、標的の十字線を連想させるシンボルが描かれているようだ。

Rusnykは投稿の中で、「将校の階級 」を受けたことについて書いている。投稿には、NAAからのルスニクのBA卒業証書の写真も含まれている。写真は、NAA敷地内の礼拝堂の隣で撮影された。左から右へ Vladyslav Chuguenko、身元不明者、Yuriy Gavrylyshyn、Roman Rusnyk、Mykhailo Alfanov、Danylo Tikhomirov、Oleksandr Gryshkin(Gryshkinは本人の母親と関連する姓、ソーシャルメディアによる)。

Centuriaのテレグラム投稿でパレードの制服を着ている人物は、Instagramに投稿した卒業証書の写真によると、2019年にNAAを卒業したRoman Rusnyk。Centuriaの投稿と同時期に、RusnykはCenturiaのバナーを持った人物たちと一緒に写っている同様の写真を個人のInstagramに投稿している。

どうやら、Rusnykが投稿した画像は、Centuriaも使用した写真をトリミングしたとはいえ、オリジナルであるようだ。CenturiaとRusnykが投稿した画像を並べて比較すると、Rusnykが投稿した写真に見られる標的に十字を連想させるシンボルとは対照的に、Centuriaがオリジナルの写真を加工して、その画像のバナーにはSonnenkreuzが描かれていることがわかる。その他にも、オリジナルに見える顔をぼかすなど、Centuriaによる加工が施されています。

ルスニクのInstagramのキャプションには、”14/88 демократию приносим!!!” というフレーズの一部として、白人至上主義の「14/88」という数字シンボル[訳注3]が含まれている。(ロシア語で「14/88 私たちは民主主義をもたらす!!」の意)を使用しています。

8 A screenshot of a June 2019 Instagram post by then NAA Cadet Roman Rusnyk shows Rusnyk’s BA diploma from the NAA
当時のNAA士官候補生ロマン・ルスニクによる2019年6月のInstagram投稿のスクリーンショットには、ルスニクのNAAからのBA卒業証書が写っている。
9.1 9 Screenshot of a June 2019 Instagram post by then NAA cadet Roman Rusnyk (wearing parade uniform). In his post, Rusnyk writes about receiving “officer rank.” The NAA’s
当時のNAA士官候補生Roman Rusnykによる2019年6月のInstagram投稿のスクリーンショット(パレード用ユニフォームを着用)。投稿の中で、ルスニクは “士官位 “を受けたことについて書いている。背景にはNAA本館がはっきりと見える。写真には、日輪ではなく、標的の十字線を連想させるシンボルのバナーが描かれている。左はVladyslav Chuguenkoで、Stanyslavという名前のそっくりな弟がいる。右はNAA士官候補生のSerhiy Vasylechkoで、同時期にNAAを卒業したRusnykを祝福するInstagramの投稿で同じ写真を使用した。

同じように、NAA士官候補生が敷地内で、グループのシンボルであるゾンネンクロイツをあしらったセンチュリアパッチを身に着けている様子も、さまざまなソーシャルメディアに投稿されている。例えば、2019年5月のあるインスタグラムの投稿には、各自のサービスブランチに対応する制服やNAAトラックスーツを着たNAA士官候補生のグループが写っている。彼らはアカデミーの「砲兵横丁」で、認識できるミサイルランチャーの横でポーズをとっています。12人のグループのうち、少なくとも5人にはセンチュリアのパッチが見える。写真に写っている投稿者自身は、Instagramの投稿に「#центурия(ロシア語でCenturia)」というハッシュタグを含めている。

10 Photo posted to Instagram by an apparent Centuria member, Yevhen Romanchenko (far right), shows individuals with Centuria patches on the premises of the Academy. The phot
センチュリアのメンバーと見られるYevhen Romanchenko氏(右端)がInstagramに投稿した、アカデミー敷地内にCenturiaのパッチを付けた個人が写っている写真。写真はアカデミーの「砲兵横丁」で撮影され、投稿には「#центурия」というハッシュタグが添えられている。注目すべきは、2019年の政治集会で撮影されたロマンチェンコ自身のInstagramのプロフィール写真で、ロマンチェンコがCenturiaのワッペンをつけていることだ。

同団体はNAAで記念撮影を行っただけでなく、アカデミーの敷地内でイベントを開催していたことが証拠によって確認されている。CenturiaのTelegramの投稿によると、そのようなイベントの1つが2018年7月に開催されたようだ。投稿では、グループのメンバー(独自のコールサインで識別)がNAA士官候補生を対象に「国家の誇り」をテーマにした講演会を開催したとされている。このイベントに関する投稿では、「壮大な」ものであり、士官候補生たちが熱狂的に迎えていると説明されている。写真数点とともに、3分近い動画も掲載されています。そのビデオには、6人の若者たち(4人は制服でNAAパッチ、2人はカジュアルな服装でCenturiaパッチをつけている)が、30人近い制服の士官候補生のグループを率いて、「ウクライナナショナリストの祈り」を暗唱している様子が映っている。 「ウクライナナショナリズト組織(OUN)」の指導者ヨゼフ・マシュチャクが書いた第二次世界大戦前の思想的テキストで、アゾフ大隊など極右につながる武装集団が開催するイベントに取り入れられ始めた2014年から注目されるようになったものだ。この祈りは、「英雄の聖母ウクライナ 」に宛てられ、「あなた(ウクライナ)のために拷問で甘美な死を 」と懇願している。歴史学者ジョン=ポール・ヒムカJohn-Paul Himkaが筆者に寄せたコメントによれば、「神にも聖母にも言及しないこの祈りの作成は、ナショナリストがキリスト教とその制限的道徳を捨て去ったことの副産物である 」という。ヒムカは、この祈りがウクライナで復活しているのを見るのは「不安だ」と付け加えた。

11 Screenshot of Centuria Telegram post about a “Pride of the Nation”-themed lecture held by Centuria members for NAA cadets. The post identifies three participating Centuria
Centuria会員がNAA士官候補生のために開催した「祖国の誇り」をテーマにした講演会についてのCenturia Telegram投稿のスクリーンショット。この投稿では、参加した3人のCenturia会員のコールサインが確認できる。スキタイ(ウクライナ語:Скіф)、セイント(ウクライナ語:Святий)、リリシスト(ウクライナ語:Лірик)だ。後者のコールサインは、2021年NAA卒業のKyrylo Dubrovskyiが、2019-2020年に11ヶ月間の訓練コースで英国の王立陸軍士官学校サンドハーストに通い、長年にわたって使用してきたもの。また、このイベントに関する投稿には、複数のCenturia会員が確認できる高画質の動画も含まれている。ドゥブロフスキーに似た人物が動画に映っている。

写真と動画は、その外観と家具が士官候補生が利用できるNAAの兵舎の外観と一致する大きな部屋の中で暗唱が行われたことを示しています(オンラインやソーシャルメディアに投稿された兵舎の写真に見られるように)。「Centuriaのメンバーは、士官候補生の思想的教育を自分たちの手で行う」と、暗唱の動画を紹介する投稿があった。

12 A still from the video posted to Centuria’s Telegram shows the individuals leading NAA cadets in the “Prayer of the Ukrainian Nationalist.” From left Yuriy Gavrylyshyn, I
Centuriaのテレグラムに投稿されたビデオの静止画。”Prayer of the Ukrainian Nationalist “でNAA士官候補生をリードする個人たち。左から。Yuriy Gavrylyshyn、Illya Boyko、Kyrylo Dubrovskyi、Danylo Tikhomirov。

この祈りのビデオは驚くほど高画質で、投稿に記載されたコールサインと組み合わせることで、イベントに参加したセンチュリアメンバーを識別することができた。

13 A still from the video posted to Centuria’s Telegram shows NAA cadets, led by members of Centuria, reciting the “Prayer of the Ukrainian Nationalist.”
CenturiaのTelegramに投稿されたビデオの静止画で、Centuriaのメンバーに率いられたNAA士官候補生が “Prayer of the Ukrainian Nationalist “を暗唱している。

Centuriaの別のTelegramの投稿では、NAAの教室と思われる場所でのグループの活動が紹介されている。その投稿では、2018年12月に行われたとされるNAA士官候補生向けの「国家の誇り」をテーマとした別の講義について説明している。

14 Post to Centuria’s Telegram about the “Pride of the Nation”-themed lecture for NAA cadets that allegedly took place in December 2018
2018年12月に行われたとされるNAA士官候補生向けの「国家の誇り」をテーマとした講義について、CenturiaのTelegramに投稿。
15 Post to Centuria’s Telegram about the “Pride of the Nation”-themed lecture for NAA cadets that allegedly took place in December 2018
2018年12月に行われたとされるNAA士官候補生向けの「国家の誇り」をテーマとした講義について、CenturiaのTelegramに投稿。

投稿の内容は以下の通り。

●トラック搭載型マルチミサイルランチャーの特徴的な大型ポスターの上に投影されたパワーポイントのようなものを見ている制服姿の士官候補生たちの前に、制服姿の講演者が写っている写真。このポスターは、壁にある特徴的なアーチ状のニッチを埋めている。投影された映像には「Pride of the Nation」と書かれており、武装した制服姿の兵士たちのビジュアルにその文字が重ねられている。Centuriaのバナーも写っている。教室自体は、2021年にNAA士官候補生がSNSに投稿した写真に登場したものと酷似している。2組の写真の間に明らかな違いがあるのは、2018年以降、部屋に新しいカーペットが敷かれたからかもしれない。

16 Photo posted to Centuria’s Telegram. A video is being projected over a screen placed on a wall that bears a recognizable poster. Other elements of the room, like the arch
CenturiaのTelegramに投稿された写真。壁面に設置されたスクリーンに映像が映し出されている。壁にあるアーチ型のニッチなど、部屋の他の要素も認識できる。この写真には、標的に十字を連想させるシンボルではなく、ゾンネンクロイツをモチーフにしたバナーも含まれていたようだ。
18 A side-by-side comparison of a photo (left) posted to social media by an NAA cadet and a vertically-flipped Centuria photo from what looks, save for the carpeting, like t
NAA士官候補生がSNSに投稿した写真(左)と、カーペットを除けば同じ部屋に見えるCenturiaの写真を並べて比較したもの。
19 A photo posted by an NAA cadet to social media shows the same poster in an arched niche as is seen in a photo posted by Centuria
NAA士官候補生がソーシャルメディアに投稿した写真には、センチュリアが投稿した写真と同じポスターがアーチ型のニッチに貼られている。

●壁に描かれたエンブレムを覆う白い布の上にCenturiaのマークが映し出された、特徴的な教室内を撮影した写真。エンブレムのシルエットが見えるのは、NAAが学部や学科を示すエンブレムと一致している。さらに、紋章の上にはウクライナ語で “28-Навчальний Курс “(第28期研修コース)という文字が見える。エンブレムの一部を構成しているようだ。NAAが公開している文書やサイト上のニュースでは、「(番号)訓練コース」という用語は、NAA内の特定の教育専門分野を指す言葉として使われている。NAA士官候補生は、しばしば特定の(番号の)訓練コースの士官候補生と呼ばれる。例えば、この2019年のNAAニュースアイテムは、キャデットの体育への参加に特化しており、キャデットの名前の横に、この特定のケースでは、28番目のトレーニングコースのほか、44番目、14番目などのトレーニングコースを含む、特定の(番号の)トレーニングコースにが表示されている。したがって、写真の講堂の壁に描かれた「第28回訓練コース」の文字は、当該講堂が「第28回訓練コース」のために定期的に使用されていたことを示すものと思われる。

20 Photo posted to Centuria’s Telegram. An image is projected onto a screen that has been placed over a distinct symbol. There is also recognizable writing on the wall that
Centuria Telegramに投稿された写真。シンボルマークの上に置かれたスクリーンに映像が投影される。壁には “第28回トレーニングコース “と書かれた認識できる文字もある。

投稿によると、このいわゆるイベントの間、Centuriaは書籍「Націократія(英語:Natiocracy)」と雑誌「Національна оборона(英語:National Defense)」のコピーを配布したという。前者は、ウクライナのナショナリスト組織(OUN)の理論家であるミコラ・シュティボルスキーMykola Stsiborskyi(1897年 – 1941年8月30日)の思想テキストである。近年、極右のアゾフ運動で盛んに宣伝されており、同組織のイデオロギーの中心となっている。ナチオクラシーとは、アゾフ運動の政治団体であるナショナル軍団党the National Corps partyによって、「社会的に有用なすべての(社会)層かななる政府によって遂行される国家体制 」と定義されている。2021年初頭、「ナチオクラシー2.0」(ウクライナ語:Націократія 2.0)思想について語ったアゾフの運動指導者ミコラ・クラフチェンコMykola Kravchenkoは、これをシュティボルスキーの仕事と結びつけ、西洋における国民国家の現在の危機の原因を民主主義と普通選挙に求めた。クラフチェンコによれば、ナチオクラシー2.0は、「市民権は出生権だけではなく、一定の能力システムに従って獲得されること 」と規定し、これが「西洋文明を救済するアルゴリズムとなる可能性がある 」という。雑誌『国防』は、アゾフ運動の軍事部門であるアゾフ大隊が出版している。

この投稿に含まれる別の写真には、書籍と雑誌の両方が写っている-書籍スタンドの横に制服を着た士官候補生の一団がいる。「我々の運動は、国家精神に育まれたウクライナの若い将校の形成にさらに貢献することを企図している」と投稿している。Національна оборона(英語:National Defense国防)との関連は、このグループにとって繰り返し出てくるモチーフで、アゾフに関連した雑誌の宣伝が投稿され、アゾフ大隊とのつながりが強調されている。

NAAにおけるCenturiaの存在を示す証拠は、自分の不利になるような投稿にとどまらない。同グループが後押ししている『国防Національна оборона(英語:National Defense)』誌は、2018年のFacebook投稿で、NAA内のCenturiaの存在に関する主張の同時期の裏付けとなるものを提供している。

21 Photo from a post by the Azov-linked Національна оборона (English National Defense) magazine. The individual in the photo is likely Nazar Livenets. When reached for comme
写真はアゾフに連なるНаціональна оборона(英語:National Defense)誌の投稿から。写真の人物はナザル・リヴェネツと思われる。コメントを求められたリヴェネッツは、センチュリアに関する知識を否定した。本人の上腕にあるCenturiaのパッチに注目。

2018年5月、同誌はアカデミー内での普及についてFacebookに書き込んだ。この投稿では、「Centuriaのメンバー」がこの雑誌を賞賛していることが具体的に書かれていた。投稿には、NAAの図書館内で撮影されたと思われる写真が含まれており、その中には複数の制服を着た人物が写っており、そのうちの一人はCenturiaのパッチを付けていた。

同年11月、『国防』誌は、その最新号で「『Centuria』のメンバー」が「国立陸軍士官学校の士官候補生を紹介」している。その投稿には、この雑誌の号を手にした数十人のNAA士官候補生の写真も含まれている。注目すべきは、同じ投稿が、同じ日付でウクライナ国家警備隊アゾフ連隊のVKページにも掲載されていることだ。

22 Screenshot of a Facebook post by the Національна оборона (English National Defense) magazine that mentions Centuria
雑誌『国防』によるセンチュリアに言及したFacebook投稿の画面。

また、Centuriaについては明確に言及されていないが、2018年2月のНаціональна оборона(英語:National Defense)によるFacebook投稿で、同学院への雑誌導入について記述したものに、同組織の主要メンバーが登場している。この投稿には、2人のセンチュリアメンバーを含むパッチワークをしたNAA士官候補生の写真が掲載されており、アカデミー内で撮影されたものと思われる。

23 Screenshot of a Facebook post by the Національна оборона (English National Defense) magazine. The bottom right photo shows several apparent members of Centuria.
Національна оборона(英語版National Defense)誌によるFacebook投稿のスクリーンショット。右下の写真には、センチュリアのメンバーと思われる人物が数名写っている。
24 Photo posted by the Національна оборона (English National Defense) magazine. First from the left is Serhiy Blinov, second from the left is Danylo Tikhomirov, and second f
Національна оборона(英語:National Defense)」誌の投稿写真。左から1人目がSerhiy Blinov、左から2人目がDanylo Tikhomirov、右から2人目がYuriy Gavrylyshyn

グループの見かけ上の指導者。極右団体「アゾフ運動」との関係やNAAでの役割など

2018年7月に行われたとみられるイベントで撮影された前述の祈りの映像では、Centuriaのパッチをつけたカジュアルな服装の二人をはじめ、NAA士官候補生を率いて国歌を暗唱する人物の姿がはっきりと確認できた。2019年の夏には、同じ二人が、NAAの壁の外で唯一認められた公の場-2019年6月30日にリヴィウで行われた「ウクライナ国家千年の行進(ウクライナ語:Марш тисячоліття Українсько держави)」でCenturiaを先導する姿が確認された。この行進は、7月21日のウクライナ議会選挙でスヴォボーダの共同投票に出馬するウクライナの極右政党「ナショナル軍団」「右派セクター」「自由(ウクライナ語:Свобода)」が合同で行ったものだ。

25 Photo posted by Centuria on Telegram showing the group at the March of the Millennium of the Ukrainian State (Ukrainian Марш тисячоліття Української держави) on June 30,
CenturiaがTelegramに投稿した写真で、2019年6月30日にリヴィウで行われた「ウクライナ国家千年の行進」(ウクライナ語:Марш тисячоліття Української держави)での一行を紹介している。

数千人の参加者が集まったこのイベントで、Centuriaは文字通り世界にその顔をさらけ出した。十数人の男性グループは、ゾンネンクロイツの旗の下、お揃いの黒いシャツの袖にセンチュリアのパッチを付けて行進した。同グループは、Telegramの投稿で、このイベントへの参加について、顔をぼかしたメンバーの写真を複数枚添えて、「緊密な隊列で、ナショナル部隊、スヴォボダ、右派セクター、その他の右翼組織の同胞活動家と肩を並べて、Centuriaの戦士は古代リヴィウの中心に向かって行進した」と書いている。しかし、同団体はTelegramに投稿した写真に写っているメンバーの顔を隠す措置を取ったものの、このイベントに関するメディアの報道をコントロールすることはできなかった。特に、同グループはこのイベントをライブ配信した「ナショナル部隊党」によって、撮影された。

26 Photo posted by Centuria on Telegram showing the group at the March of the Millennium of the Ukrainian State (Ukrainian Марш тисячоліття Української держави) on June 30,
CenturiaがTelegramに投稿した写真で、2019年6月30日にリヴィウで行われたウクライナ国家千年祭(ウクライナ語:Марш тисячоліття Української держави)の行進での一行を示している。

ビデオの品質は不揃いだが、高品質の2018年の祈りのビデオ、Centuriaのオンライン投稿で明らかになった重要な詳細(固有のコールサインとメンバーの役割)、Centuriaのメンバーと見られる人物が個人のソーシャルメディアアカウントに投稿したイベントの写真を組み合わせることで、筆者はさまざまなオープンソース調査の手法とツールを使用してグループのコアメンバーと見られるリーダーを特定することができている。

私たちの調査の結果、27歳のユーリー・ガヴリーシン(ウクライナ語:Юрій Гаврилишин)と24歳のダニーロ・ティホミロフ(ウクライナ語:Данило Тихоміров)というNAA候補生と卒業生の二人がCenturiaのリーダーの可能性が高い。彼らは以前のオンライン上で、既知のそれぞれのコールサイン、”Milan “と “Moriak”(ウクライナ語で「船乗り」の意)で、ガヴリーシンを「Centuria」の「指導者の一員」、ティホミロフを「団体の兄弟」と説明するなどとしばしば言及されていた。2人は2018年の祈りのビデオと2019年とナショナリストのデモ行進の両方に登場し、引き続き「Centuria」に関与している。両人とも、それぞれのソーシャルメディアに関連するメールアドレスに送った筆者のコメント要請には応じなかった。しかし筆者は、ガヴリーシンと関連があると見られるTelegramのアカウントから、Centuriaは “過激派の化身 “ではないとするコメントを入手した。Telegramは、ガヴリーシンがこれを運営していることを否定していない。

27 A still from the video that was livestreamed by the National Corps party, the political wing of the Azov movement, shows Centuria at the March of the Millennium of the Uk
2019年6月30日、リヴィウで開催された「ウクライナ国家千年の行進」(ウクライナ語:Марш тисячоліття Українсько держави)でのセンチュリアが、アゾフ運動の政治翼である国民軍団党がライブ配信した映像の静止画像。動画には、ゾンネンクロイツのシンボルをあしらった旗の下にいるグループがはっきりと映っているが、一方、前述のようにセントーリアがテレグラムに投稿した一部の写真は、標的の十字線を連想させるシンボルをゾンネンクロイツに変更する操作が行われていた可能性がある。

2人がNAAでの学習を正確にいつ開始したのか、あるいは完了/終了するのかは不明だが、2人は前述の2018年2月のアゾフに連なるНаціональна оборона(英語:National Defense)誌によるNAA内のプロモーションに特化したFacebook投稿に登場し、その時点ですでに2人が同アカデミーの士官候補生だったことが強く示唆されている。ティホミロフが自身のVKページに投稿したいくつかの写真は、2人が2017年の時点でNAA士官候補生であった可能性を示唆している。

28 Photo posted to VK by apparent Centuria leader Yuriy Gavrylyshyn clearly shows himself (center) with Danylo Tikhomirov to his right and Yevhen Romachenko to his left.
CenturiaのリーダーであるYuriy GavrylyshynがVKに投稿した写真には、右側にDanylo Tikhomirov、左側にYevhen Romachenkoと共にいる彼自身(中央)がはっきりと写っている。
29 Screenshot of a social media post by Danylo Tikhomirov (center) standing next to Yuriy Gavrylyshyn (second from left) and Serhiy Vasylechko (far left). Vasylechko left a
Yuriy Gavrylyshyn(左から2番目)とSerhiy Vasylechko(左端)の隣に立つDanylo Tikhomirov(中央)のソーシャルメディア投稿のスクリーンショットです。Vasylechkoは投稿の下に”[showing up] to the event like it’s a holiday “というコメントを残している。
30 Screenshot of the Instagram profile picture of Yevhen Romanchenko (left). The profile picture is a photo from the 2019 far-right rally in which Centuria participated. The
Yevhen Romanchenko(左)のInstagramのプロフィール写真のスクリーンショット。プロフィール画像は、Centuriaが参加した2019年の極右集会の写真。リヴィウのステパン・バンデラ記念碑の横で撮影された写真には、Centuriaのバナーが見える。写真の右側にはイリヤ・ボイコがいる。
31 Screenshot of the Instagram profile picture of Illya Boyko. The profile picture is a photo from the 2019 far-right rally in which Centuria participated. The photo was tak
イルヤ・ボイコのInstagramのプロフィール写真のスクリーンショット。プロフィール画像は、センチュリアが参加した2019年の極右集会の写真。リヴィウにあるステパン・バンデラ記念碑の横で撮影された。

NAAは、ガヴリリュシンとティホミロフのアカデミーでの現状について、そのような情報は機密事項であり、本人の同意なしに共有することはできないとして、情報の提供を拒否したが、ガヴリリュシンとティホミロフの両名はNAAのサイトに、ミサイル部隊・砲兵学部長(ウクライナ語。Факультет ракетних військ і артилерії), Colonel Artem Dzyuba (Ukrainian: Артем Дзюба)、その学部での「道徳的・心理的支援」業務(ウクライナ語:Морально-психологічне забезпечння)についての記事に添えられた写真の一つであった。NAAの記事で明らかなように、このような「支援」には、学部の学生に対するイデオロギー的教化も含まれるのである。

ガブリシンとティホミロフがミサイル軍・砲兵学部に所属していることは、数年にわたり投稿されたソーシャルメディアの写真によって裏付けられている。この写真には、稲妻に打たれた2つの交差した大砲を描いたエンブレムの付いた、特徴ある赤いベレーの制服を着た2人の姿が写っている。さらに、ガヴリリュシンは、現在アクセスできないFacebookページで、自分はアカデミーで 「2019年のクラス 」の一員であり、「砲兵部隊の指揮 」を学んでいると公然と述べている。また、フルネームを明かしたガヴリシンは、Facebookのプロフィールで、2014年7月から2016年8月までアゾフ連隊に所属し、その後、2017年4月から8月までAFUの第10山岳突撃旅団に所属し、NAAに入学したとされることを明記している。

32 Photo posted to the NAA site shows Centuria figures Yuriy Gavrylyshyn (on the left in the front row) and Danylo Tikhomirov (second from right in the middle row) next to t
NAAサイトに掲載された写真は、ミサイル部隊・砲兵学部長の隣にいるセンチュリアのユーリー・ガヴリーシン(前列左)とダニーロ・ティホミロフ(中列右から2番目)(ウクライナ語: Факультет ракетних військ і артилерії), Colonel Artem Dzyuba (中央)。
33 A screenshot of the now-deleted Facebook profile of Yuriy Gavrylyshyn
現在削除されているYuriy GavrylyshynのFacebookのプロフィールのスクリーンショット。

Gavrylyshynのソーシャルメディアで明らかにされ、複数のメディアの報道で裏付けられた経歴の詳細は、2020年8月にCenturiaの代理としてKP.uaと話をした「ユーリイYuriy」とCenturiaのオンライン投稿で言及された「ミランMilan」のものと一致する。「ミラン」は、長年にわたって多くのメディアの報道でガヴリリュシンGavrylyshynと関連付けられてきたコールサインだ。当時20歳だったガヴリリュシンは、2015年3月にアゾフ連隊のYouTubeチャンネルに投稿されたウクライナでの戦闘に関する報告ビデオで「ミラン」と紹介された。そのビデオの中でガヴリリュシンは、2013年に家族とイタリアのミラノに住んでいたが(コールサインを決めたのは彼が認めた経歴的要素)、マイダン革命に参加するためにまずウクライナに渡り、マイダン後にイタリアに一時帰国した後に再びドンバスの戦争に参加したと説明している。ビデオには、ガヴリリュシンが「アゾフ連隊が参加したすべての戦闘に参加した」と言う仲間の戦闘員によるガヴリリュシンの紹介が含まれていた。Gavrylyshynは、ShyrokyneでのAzov連隊の戦闘に関するZIK TVチャンネルによる2015年4月のビデオレポートにも登場した。2015年11月にアゾフ連隊のYouTubeチャンネルに投稿された別のビデオレポートは、ガヴリリュシンのことだけに費やされている。「ここ(アゾフ大隊)で私は[…]さらに協力したいと思う多くの仲間に出会った。間違いなく、私は軍隊のキャリアを追求する」と彼はビデオの中で語っている。

筆者が発見したロシアのソーシャル・メディア・ネットワークVK上のガヴリリュシンのプロフィールには、アゾフ大隊での従軍中の複数の写真と、ガヴリリュシンが白人至上主義のケルト十字マークと “White Pride World Wide” というスローガンが目立つTシャツを着ていると思われるコメディーのスキット動画が注目される。

ガヴリリュシンのアゾフ運動への関与は、アゾフ大隊での戦闘にとどまらない。ガヴリリュシンの出身地であるイワノフランキフスク州の極右政党「ナショナル部隊」の支部による同時期のVK投稿によると、2015年11月に彼は同党が地元の大学の学生向けに開催した宣伝イベントに参加している。ナショナル部隊支部は別途、ガヴリリュシンが学生たちにアゾフ大隊の野望を語るイベントの動画を投稿している。「アゾフ大隊の司令官であるAndriy Biletskyアンドリー・ビレツキーは、アゾフがウクライナの中核となることを望んでいる」と述べた場面もあった。

34 A screenshot of a video posted to the Azov Regiment’s YouTube page shows Yuriy Gavrylyshyn under his call sign “Milan.”
アゾフ大隊のYouTubeページに投稿されたビデオのスクリーンショットには、コールサイン 「ミランMilan 」のユーリー・ガヴリシンが写っている。

同じCenturiaの中心人物であるティホミロフTikhomirovについては、確実なことはあまり知られていない。ティホミロフは長年にわたって一貫して「ドミトロ・クリニュクDmytro Klinyuk」(ウクライナ語:Дмитро Клинюк)という別名を使用しているようで、多くのソーシャルメディアプラットフォームに広がる彼の多量のオンラインプレゼンスと、2014年から2015年頃に彼の出身地マリウポリでのナショナリストの活動に関わるメディア出演の両方において、この別名を使用している。(なお、クリニュクという姓は、ティホミロフの家族の一部と関連している)。

ティホミロフ自身のソーシャルメディアや家族による投稿は、極右のアゾフ運動と長年にわたって密接に関わった人物の姿を描き出している。「5年前、マリウポリの分離主義が権力を握り始めたとき、17歳の子どもでありながら分離主義者の大群に立ち向かうことを恐れなかった孫のダニールDaniil(ロシア語でダニロ)のことを誇りに思う。だから(アゾフ)大隊のビレツキー司令官は彼を尊敬している」と親戚自身が2018年9月に投稿したFacebookのコメントで親戚がティホミロフについて書いた。ティホミロフとガブリシンはミサイル部隊と大砲の制服と赤いベレーを着用しながら、極右アゾフ運動のリーダー、アンドリイ・ビレツキーとポーズを取って、その手をティホミロフの肩に乗せてている写真が掲載されたものである。

筆者がティホミロフとCenturiaについて質問したところ、ティホミロフの親族であるヴィクトル・クリニュクViktor Klinyukは、ティホミロフは 「あの党の創設者 」だと書いてきた。

35 Photo posted to Facebook by Viktor Klinyuk, a relative of Danylo Tikhomirov, shows Tikhomirov (right) and Gavrylyshyn (left) with the leader of the internationally active
ダニロ・ティホミロフの親族であるヴィクトル・クリニュークがFacebookに投稿した写真。ティホミロフ(右)とガヴリリュシン(左)が、国際的に活動するアゾフ運動のリーダー、アンドレイ・ビレツキー(中央)と一緒に写っている。
36 Screenshot of a Facebook comment by Viktor Klinyuk providing some background regarding Danylo Tikhomirov
ダニロ・ティホミロフに関するビクトール・クリニュクのFacebookコメント画面。

ティホミロフは2017年4月のVK投稿で、アゾフ大隊に「決意と規律」を植え付けられたことに感謝の意を表し、連隊に関連するシンボルのTシャツを着て2段ベッドの列の間に立っている。ティホミロフのソーシャルメディアには、銃を持ったポーズ、軍服の着用、アゾフの記章の着用、2015年にマリウポリでアゾフ運動が主催した準軍事訓練に参加した写真など、数多くの写真が掲載されている。2016年9月に投稿された、銃を持ち、タクティカルベストを着用した写真のコメントは、彼がある時点で右翼セクターと関わっていたことを示唆している。他のソーシャルメディアの投稿は、ティホミロフがアゾフのナショナル部隊党の前身である「市民軍団アゾフCivic Corps Azov」に早くから関わっていたことを示唆している。

37 Screenshot of a VK post by Danylo Tikhomirov.
ダニロ・ティホミロフによるVK投稿のスクリーンショット。
38 Screenshot of a VK post by Danylo Tikhomirov.
Danylo TikhomirovによるVK投稿のスクリーンショット。

ティホミロフとガヴリシンの過去と現在の大隊との関わり、アゾフとCenturiaとの接触疑惑などについてのコメントをアゾフ大隊に求めたが、アゾフ大隊は回答しなかった。

ガヴリリュシンもティホミロフも、NAA最高の士官候補生の一人かもしれない。2019年6月、Centuriaは2人(片側から撮影しているが一見わかる)の写真を掲載し、アカデミー長のパブロ・トゥカチュク中将Pavlo Tkachukから記念の盾や卒業証書を受け取っているようだ。NAA内で公然と活動するCenturiaの能力を誇示することを繰り返し、Telegramの投稿では、グループのメンバーがその月に注目された国際科学会議(ウクライナ語: Людина і техніка у визначних битвах світових воєн Х століття)に参加し、ウクライナのボランティア部隊に関するセクションを共同主催したことを明らかにしている。この会議は2019年6月25日にNAAで行われ、NAA長官のFacebook投稿によると、参加者には複数のポーランド軍事教育機関の代表者が含まれていた。トカチュクは投稿の中で、在リヴィウ・ポーランド総領事(当時)のラファル・ウォルスキらに謝辞を述べている。投稿には、ティホミロフとガヴリリュシンの両名が盾を手にしていると思われる参加者の集合写真も掲載されている。

39 Screenshot of a photo from a Centuria Telegram post. In it, the NAA Chief is apparently handing Danylo Tikhomirov a commemorative plaque
Centuria Telegramの投稿写真のスクリーンショット。NAA長官がダニロ・ティホミロフに記念の盾を手渡しているようだ。
40 Screenshot of a photo from a Centuria Telegram post. In it, the NAA Chief is apparently handing Yuriy Gavrylyshyn a commemorative plaque
Centuria Telegramの投稿写真のスクリーンショット。NAA長官がYuriy Gavrylyshynに記念の盾を手渡しているようだ。
41 Photo posted to Facebook by the NAA Chief. Danylo Tikhomirov and Yuriy Gavrylyshyn appear to be on the right in the bottom row wearing red berets
NAA長官がFacebookに投稿した写真。下段右が赤いベレー帽をかぶったDanylo TikhomirovとYuriy Gavrylyshynのようだ。

NAAにおけるCenturiaの指導者らしき人物の注目すべき地位は、ウクライナ国防省の支援を受けた2020年11月のオデッサでの科学会議の一環として発表された論文の著者として、「NAAの士官候補生ガヴリリュシン(Гаврилишин Юрій Іванович)」が記載されていることからもうかがい知ることができる。

Centuriaがウクライナの将来の軍事エリートで構成される集団であるという主張は、そのリーダーらしき人物がNAAに所属していることに加え、NAA士官候補生として西側の有名な軍事教育機関に進学した人物をメンバーに含んでいるという事実によって裏付けられている。

西へ:Centuriaのメンバーが英サンドハーストで11カ月訓練、独OSHでも歓迎される

前述したように、NAA広報担当者は筆者に対し、同校の優秀な士官候補生は欧米の権威ある軍事教育機関との国際交流プログラムに参加していると語った。Centuriaのメンバーらしい2人―2021年卒業生で、コールサイン「リリシストLyricist」(ウクライナ語: Кирило Дубровський)でも知られるキリーロ・ドブロフスキーKyrylo Dubrovskyi(ウクライナ語: Дубровський)、そして2020年の卒業生であるヴラディスラフ・ヴィンターゴラーVladyslav Vintergoller(ウクライナ語:Владислав Вінтерголлєр)―がこれを実現した。

ドゥブロフスキーは、イギリスの王立陸軍士官学校サンドハースト(RMAS)の11カ月間の陸軍士官候補生課程に参加し、2020年末に卒業する。英国大使館キエフ事務所によると、毎年2名のウクライナ人士官候補生がRMASの陸軍士官候補生コースに参加しているとのことである。ドゥブロフスキーの卒業を、ウクライナ外務省は祝福し、NAAプレスサービスによる12分間のビデオプロフィールなど、ウクライナの複数のメディアによって報道された。ヴィンターゴラーの欧米の軍事教育機関の経験は、その性質上、さほど大々的なものではなかった。2019年4月、NAA士官候補生である彼は、ドレスデンのドイツ陸軍士官学校(Die Offizierschule des Heeres, OSH)が開催する「第30回国際週間」のイベントに参加した。

42 Tweet about Kyrylo Dubrovskyi by the Embassy of Ukraine to the United Kingdom
在英国ウクライナ大使館によるKyrylo Dubrovskyiに関するツイート

ドゥブロフスキーは、自他ともに認めるように、2021年6月にNAAを卒業し、ウクライナ海軍歩兵隊に入隊したが、Centuriaでの経験についてコメントを求めたが、回答はなかった。これに対し、2020年のアカデミー卒業生であるヴィンターゴラーは同様の要請に応じ、このグループはウクライナの軍隊のあらゆる面を「変革し改革しようと努力する兄弟団」であり、「頭を下げて黙って命令に従うつもりのない型破りの考えを持つ人間だけを受け入れる」とTelegramで書いている。ヴィンターゴラーはまた、ウクライナ軍を 「ソ連基準で生きている 」と批判している。Vintergollerは筆者への返信後すぐに、自分の返信を削除し(Telegramでは送信されたメッセージをすべての関係者が削除できる)、Telegramアカウントの可視性を変更したが、彼の返信のスクリーンショットが保存されていた。

筆者が発見した証拠は、ドゥブロフスキーとヴィンターゴラーをCenturiaと結びつけるものである。

2021年6月にヴィンターゴラーがInstagramで公開した動画には、Centuriaのバナーがはっきりと見える背景で腕立て伏せをする彼の姿が映っていた。ヴィンターゴラーは、インスタグラムに投稿した卒業証書によると、2020年にNAAを卒業し、砲兵部隊統制を専門としている。同年、彼はTelegramで、NAAを卒業したメンバーを祝うCenturiaの2020年6月のプロパガンダ投稿に登場したようだ。この投稿には、パレード用の制服を着た7人の男性グループ(顔はぼかしてある)がジープの前に立っている写真が掲載されていた。2020年に国際平和維持・安全保障センターで行われるNAA卒業式の当日に撮影されたと思われる写真には、「Pride of the Centuria」の文字が重ねられている。背が高く筋肉質な体格に、突き出た耳が特徴的なヴィンターゴラーは、写真の左端にいる人物だろう。彼は2020年、「Graduation 」と題したストーリー集の一部として、この画像を自身のインスタグラムで公開した。Telegramの投稿では、「Centuria騎士団の若い将校メンバー がまもなくそれぞれのAFU部隊に到着する」とし、「明確な考えを持って奉仕する意思のある者は全員、ウクライナ軍Centuria騎士団の指揮下で奉仕する機会を得るだろう」と述べている。

43 Screenshot from an Instagram story posted by Vladyslav Vintergoller in 2021. Note the Centuria banner on the wall
2021年にVladyslav Vintergollerが投稿したInstagramのストーリーのスクリーンショット。壁に貼られたセンチュリアのバナーに注目。
44 Screenshot from an Instagram story posted by Vladyslav Vintergoller in 2020
2020年にVladyslav Vintergollerが投稿したInstagramのストーリーのスクリーンショット。
2020年にVladyslav Vintergollerが投稿したInstagramストーリーのスクリーンショット

ヴィンターゴラーのInstagramストーリーには、ヴィンターゴラー本人と思われる男性がCenturiaのバナーを持っている写真も掲載されていた。写真に写っている男性の顔は、絵文字で隠されていた。

ヴィンターゴラーは自身のSNSで、2019年4月にドレスデンにあるドイツの陸軍士官学校(Die Offizierschule des Heeres、OSH)で開催されたイベントに参加した際の写真を公開している。「第30回インターナショナルウィーク に参加したすべての人に感謝します。あなたは私にたくさんの感情、気持ち、新しい出会い、訓練を与えてくれました 」とInstagramに英語で書いている。ヴィンターゴラーは、「第30回インターナショナルウィーク」イベント参加者の公式集合写真と思われる写真で、別のNAA士官候補生の隣に写っているのが見える。2019年のOSHイベントへのヴィンターゴラーの参加についてコメントを求められたドイツ国防省は、「ウクライナを含む他の国家との二国間軍事協力の詳細を提供する立場にはない 」と回答した。

46 Screenshot of an April 2019 Instagram post by Vladyslav Vintergoller. Vintergoller is on the left in the bottom row
Vladyslav Vintergollerによる2019年4月のInstagram投稿画面。下段左がヴィンターゴラー。
47 Screenshot of an Instagram post by another apparent participant in the 30th International Week event held by Germany’s Army Officers’ Academy. Vintergoller is on the righ
ドイツ陸軍士官学校が開催したイベント「第30回インターナショナルウィーク」の別の参加者と思われる方のInstagramの投稿画面。下段右がヴィンターゴラー。

ドゥブロフスキーのCenturiaにおける役割は大きいと見られ、少なくとも2018年までさかのぼり、英国の名門RMASで訓練を受けていた期間も継続されていた。

ドゥブロフスキーは、2018年7月に行われたらしいNAA士官候補生とのCenturiaイベントに参加し、NAA士官候補生と「ウクライナンショナリストの祈り」を朗読したことが証拠からうかがえる。「リリシスト」というコールサインで、ドゥブロフスキーはそのイベントに関するTelegramの投稿で「Centuriaのメンバー」として言及されている。また、朗読のビデオにも彼の姿が確認できる。

2019年夏、ドゥブロフスキーは極右政党が主催するリヴィウのデモにCenturiaとともに参加した。Microsoft Azureの顔認証では、集会で他のメンバーの隣にいるCenturiaのパッチをつけた黒いTシャツを着た人物がドゥブロフスキーであると高い信頼度スコア(0.72)で結論付けられている。他のメンバーと思われる人物と同様、ドゥブロフスキーは、集会で撮影されたCenturiaのパッチをつけた男性の写真(カメラに背を向けている)を自分のWhatsAppプロフィール画像として使用するなど、このイベントの写真をオンラインプレゼンスで使用している。

2019年にリヴィウで行われた極右デモ行進のYouTube動画から切り出した静止画。左側がKyrylo Dubrovskyi。
49 Screenshot of the results of Face Verification by Microsoft Azure. On the left is a still from the rally, on the right is a photo taken from Dubrovskyi’s Facebook. “The t
Microsoft Azureによる顔認証の結果の画面。左は集会の静止画、右はドゥブロフスキーのFacebookから引用した写真。「2つの顔は同一人物のものである。信頼度は0.72208」

RMAS在籍時のドゥブロフスキーのネット上での活動は、彼とCenturiaとの結びつきをさらに強めている。Instagram(非公開の@kd_lirikと公開の@lirik_tac、後者は4,600人以上のフォロワーを持つ)、YouTubeTelegramに複数のページを持つ多作のブロガーであるドゥブロフスキイは、英国軍の訓練を受けていた期間もグループの宣伝担当として働いていたようだ。

2020年5月31日、CenturiaはTelegramに貴重なプロモーションビデオを投稿した。「最近、外部的要因でCenturiaの活動報告がなされていない。しかし、我々は短いビデオを撮影し、Centuriaの生活の一齣をお見せすることにした」と、ビデオに添えられた文章には書かれていた。映像には、リヴィウで行進するCenturiaメンバー、NAA内のイベント、男性が機関銃を撃つショット、RPG、大砲を撃つショットなどの映像が収められていた。前述のダニロ・ティホミロフをはじめ、Centuriaのメンバーが何人か映っているのが目を引くが、ドゥブロフスキーの声に酷似した若者のナレーションも入っている。「ウクライナのすべての軍隊で、我々を探してほしい。我々将校はウクライナの新しい軍隊を育てている[…]我々はCenturiaである。血の最後の一滴まで、諸君の領土、諸君の伝統を守れ」。

ドゥブロフスキーは英国陸軍士官学校サンドハースト校に在学中、Centuriaに強い関心を示していた。2020年8月初旬、前述のアゾフ運動が同名のグループで公然活動を開始したことで、「軍事集団military order」はオンラインやメディアへのコメントで距離を置くようになると、ドゥブロフスキーはInstagramに長い投稿を行い、同名の二つのグループの違いについてCenturiaの発言を繰り返した。同日、同名のグループ「アゾフ」のリーダー、イホル・”チェルカス”・ミハイルエンコIhor “Cherkas” Mykhailenkoとの彼自身による独占インタビューを投稿した。かつてナショナル民兵National Militiaとして知られたアゾフ運動の「Centuria」は、筆者にドゥブロフスキーがミハイルエンコにインタビューしたことを認めたが、ミハイルエンコは「現時点では」彼らのリーダーではない、と主張した。ドゥブロフスキーの投稿には、「軍事集団センチュリアmilitary order Centuria」についてのミハイルエンコのコメントが引用されている。「個人的には、同じ名前を持つ軍隊の連中を尊敬している。彼らはウクライナ軍の未来だ」とアゾフの指導者はドゥブロフスキーに語っている。なお、アゾフのミハイルエンコが2019年に自称「軍事集団センチュリア」をプロモートしたことは注目すべきだ。同年8月、彼は自身のTelegramチャンネルでこのグループについて「国家最高の代表例を見習い[…]参加せよ」と書き、リンクを共有した。

50 Screenshot of a now-deleted Instagram post by Dubrovskyi with a text written on behalf of Centuria. On the left is the emblem of the group that is part of the Azov moveme
ドゥブロフスキーがCenturiaを代表して書いた文章が書かれた、現在削除されているInstagramの投稿のスクリーンショット。左側はアゾフ運動の一翼を担うグループのエンブレム。右側はCenturiaの紋章。

ドゥブロフスキイのRMASでの訓練と同時期の2020年4月、CenturiaはTelegramで匿名の「女王陛下の軍隊の士官候補生」のインタビュー記事を公開した。匿名のインタビュー対象者は、読者に「英国国軍の将校」と紹介され、ウクライナと英国の「士官候補生の一日」の違いについて質問されている。その回答では、軍事教育機関での体験談として、早朝5時50分の起床、構内の「掃除」、朝食、「授業」などの1日のスケジュールが紹介された。「1年を通してのスケジュールが決まっている」と彼は言う。英国での体験とウクライナでの体験の最も大きな違いは、英国軍隊の「野外演習」が「本当に厳しく、疲れる」ことだという。最後に、英国の将校訓練は、彼の経験では、ウクライナの訓練よりも理論に重きを置いていないとの発言で短い文章が締めくくられている。「その点、AFUの将校の訓練の仕方の方が好きだ」と、取材者はCenturiaに語り、取材班が接触してきたことを喜んでいると付け加えた。匿名のインタビュー対象者がドゥブロフスキーであることは間違いない。

51 Screenshot of a now-deleted Instagram post by Dubrovskyi containing an exclusive interview with the leader of Azov’s street wing. Formerly known as the National Militia,
アゾフのストリートウィングのリーダーとの独占インタビューを含む、Dubrovskyiによる現在削除されているInstagramの投稿のスクリーンショット。以前は国家民兵として知られていたが、2020年8月、その組織は “センチュリア “に名称を変えた。そのエンブレムは、アゾフ運動の一翼を担う集団が使用している。

ドゥブロフスキーとCenturiaが、サンドハーストの士官候補生である彼の地位を利用してグループを宣伝したという印象は、ドゥブロフスキーのYouTubeチャンネルの「About」セクションに、RMAS士官候補生としての彼の同時期の自己紹介とともにCenturiaのスローガン(「Virtus et Honestas」)が掲載されていることからも裏づけられる。「私は英国王立アカデミーの士官候補生で、1年間の訓練を受けている[…] Virtus et honestas」と、ドゥブロフスキーは書いている。彼はこのチャンネルに、RMASの寮の11分間のビデオツアーなど、RMASでの体験を詳しく紹介するビデオをいくつか投稿している。また、ドゥブロフスキーのYouTubeには、ドゥブロフスキー自身が制作したと思われるアゾフ大隊へのオマージュビデオが掲載されている。ドゥブロフスキーは自身のInstagram(@lirik_tac)で、2021年にRMAS時代、アゾフ大隊に入隊するために中退(RMASとNAAのどちらからという意味かは不明)を考えたと書いている。

また、NAA時代、ドゥブロフスキーはアカデミーを訪れた外国人士官候補生と接触していたことも注目される。彼はアカデミーの国際協力イベントに参加し、何度かアカデミーを訪れた外国人代表団をエスコートした。2019年3月には、アカデミー本体と、アカデミーが統括する国際平和維持・安全保障センターを訪問していた米空軍士官学校の士官候補生の一団に同行している。2021年初頭、ドゥブロフスキーは、NAAで2週間を過ごしたフランスのサン・シール(サン・シール特別軍事学校)のフランス軍士官候補生2人の付き添いをした。

グループのドクトリンは、モスクワ、ブリュッセルから「ヨーロッパのアイデンティティ」を守るために国際的な連帯を強調し、明らかにメンバーと思われる者たちは人種差別を口走り、ナチス式敬礼を行う。

2018年初頭からCenturiaは、ウクライナ社会全体に影響を与えるという長期的な目標について説明し、そのイデオロギーについて議論し、Centuriaが影響を与えようと目論む機関に対する批判の膨大な声明や文章を作成している。

「Centuriaは、軍隊組織の中で重要な影響力を持つことができる権威ある中核となるために、(ウクライナの)軍隊の中で最高のランクを獲得することを目的としたこれまでにない軍事エリートを形成している」と、同グループは2020年12月のTelegramの投稿で述べている。同グループによれば、軍内での影響力は第一段階に過ぎず、第二段階と最終段階は、「社会変革を実行する」ために「ウクライナの政治的エリート」に入りこむことが究極の目標とでされている。同じ投稿の中で、同グループは、「それら(2つのステージ)は非常に長期にわたり、困難だが、生産的である」と、その任務の大きさを十分に認識していることを示した。

ウクライナ軍内に影響を及ぼすことを決意したCenturiaは、一貫してウクライナ軍がソ連時代のメンタリティーによって行き詰っていると描く一方で、自らを軍の病弊を癒す存在であるかのように装っている。例えば、2021年5月のTelegramの投稿では、Centuriaの3周年を振り返り、その活動を「ウクライナ国家を守り、ソビエト王国と戦う」(ウクライナ語:совдепія)と表現している。「フランス、イギリス、カナダ、アメリカ、ドイツ、ポーランドなどの外国人同僚と」国際的な関係を築き、AFU部隊のアルコール中毒を根絶し、部隊に高い水準のプロ意識と愛国心を植え付けたと、Centuria幹部の成功を誇っている。2020年4月の「部隊の準備-戦闘における勝利」と題する文章で、同団体はウクライナ軍司令部が 「完全な物を見返りとして忠誠や命令にも従う 」人たちを司令部に据えていると批判している。同団体は、ウクライナ軍司令部が昇進のために選んだ将校は、「アルコール中毒者 」や 「時代遅れのソ連軍」であると主張した。軍司令部の「人員政策」は、「紛争と腐敗の蔓延」をもたらしたとCenturiaは主張する。このグループは、何年もNAA内部に潜伏し、軍の教育制度に対する攻撃も辞さない。2020年4月に発表した「新形式の士官候補生」と題する文章で、Centuriaは、士官候補生が野暮ったいのは「士官団、司令官、教育者の仕事が悪い、仕組みが悪い」せいだとしている。

AFU指導部の無能とされる部分とは対照的に、Centuriaは自分たちの美点とされる部分を褒め称えている。「やる気のある士官候補生、兵士、軍曹、将校[…]我々は、部隊を改善し、国家とすべてのウクライナ人のための信頼できるサポートにしたいという願いによって団結している 」と、2020年11月にCenturiaが発表したテキスト “The New Warrior” は述べている。同文書では、Centuriaのメンバーが勤務する部隊では、「前線や国際演習で」得た経験を共有したり、講義を開いたりして、兵士の教育に積極的に関与していると主張されている。「Centuriaは後方で活動するだけでなく、前線でも積極的に戦っている」。

ネット上では、クラウゼヴィッツパットン孫子など、やる気を起こさせるための引用文がしばしば掲載されている。改革派のレトリックと軍事的なトリビアが混在する中で、Centuriaはナチスの人物を賞賛し、紛れもない極右のイデオロギーをフォロワーに紹介している。

Centuriaが崇拝するナチスの人物のなかには、ベルギー人のナチス協力者でSS将校のレオン・デグレルLéon Degrelle、フィンランドのSS将校ブルノルフ・パルムグレンBrunolf Palmgren、そしてウクライナ民族のSS第14ヴァッフェン・グレナディア師団Ukrainian 14th Waffen Grenadier Division of the SSの多くの人物が含まれている。2020年4月に発表された文章で、Centuriaはナチス部隊を「ウクライナの敵が恐れる象徴」と称賛し、批判の攻撃から守るよう支持者たちに呼びかけた。「手本となるイメージ がある限り、われわれは無敵だ」と宣言している。CenturiaがSSガリシアSS Galiciaを敬愛するのは、ウクライナの穏健なナショナリストの一部でも見られる姿勢と似ていなくもない。しかし、2021年4月にキエフの繁華街で極右勢力によってナチスの軍事部隊を称える行進が行われると、ウクライナ大統領ヴォロディミル・ゼレンスキーは公式サイトを通じてこれを非難した。

52 Screenshot of a Centuria Telegram post about Belgian Nazi collaborator and SS officer Léon Degrelle
ベルギーのナチス協力者でありSS将校のレオン・デグレルに関するCenturia Telegramの投稿のスクリーンショット。

Centuriaのイデオロギーを最も一貫して簡潔に表現しているのは、その重要なテキスト「Centuria運動のマニフェスト」 である。2019年末に初めて公開されたこのテキストは、2021年5月までグループのTelegramチャンネルを飾っていたが、多数の関係者へのCenturiaに関する問い合わせを背景に突然消えた。マニフェストへのリンクを張るTelegram投稿は削除されたが、テキスト自体はまだ入手可能で、著者はコピーを保存している。2021年7月現在、Centuriaは、2018年以降に作成されたマニフェストやその他の文書、投稿等での発言を否定する措置をとっていない。

53 Screenshot of a Centuria Telegram post dedicated to SS Galicia.
SSガリシアに捧げられたCenturia Telegramの投稿のスクリーンショット。

マニフェストは、Centuriaが自由主義に反対する組織であると同時に、モスクワやブリュッセルにも等しく反対する組織であると強調して定義づけ、その野心と自らの存在理由をウクライナの国境をはるかに越えた広がりをもつ集団として描いている点が注目される。

長い自己紹介の中で、マニフェストは自らを次のように定義する。「ヨーロッパの伝統主義者の共同体であり、ウクライナと同様に(中略)ヨーロッパの破滅的な状態を認識し、ウクライナを全ヨーロッパ空間の不可侵部分と信じるナショナルな志向をもつ軍人、ボランティア戦士、ボランティアの統一と統合をその目標とする。キセフ大公国の後継者であるウクライナのルネッサンスには、ヨーロッパの英雄的な過去を守り、我々の後継者のためにさらに良い未来を獲得するチャンスがある」

この文書は次に、その「重要なイデオロギー的概念」を「ネーション(複数)のヨーロッパ―その神聖な目標が内外のあらゆる脅威からヨーロッパ人民のアイデンティティを守ることにある単一の文明的空間」だと定義している。

「以前、我々人民は分離され、何千年もの間、同盟を図り、互いに宗教戦争、征服戦争、解放戦争などを行ってた。今日、我々は皆、祖先の聖地であるヨーロッパを、その存在を脅かすあらゆるものから救わなければならないという一点で団結している」と宣言する。

54 An image included in Centuria’s Manifesto.
Centuria’s Manifestoに含まれるイメージ図。

この文書では15の「重要目標」のリストが提示されているが、そのうちの6つはウクライナの軍事に焦点を当てたものである。その中には、「軍事環境におけるヨーロッパ軍事貴族精神の再生」という難解な目標や、AFUと各種戦闘部隊との経験交流、軍事教育・訓練の改善など、より明白な目標も含まれている。さらに2つの目標は政治的なもので、ウクライナの極右政党が提唱する政策に沿ったものである。

マニフェストのうち合計5つの目標は、グループの国際的な野心やヨーロッパのグループとしての自己認識に明確に関連している。例えば、Centuriaは12番目の目標として、「ヨーロッパの人民peoplesの連帯を強化し、ブリュッセルの政治家や官僚、クレムリンのユーラシア主義者やネオ・ボルシェヴィキの両方から共通の利益、文化、民族のアイデンティティを守ること 」を挙げている。マニフェストの他の部分では、Centuriaは「汎ヨーロッパおよびウクライナのナショナリズムと伝統主義の考えを中心に、同じ考えを持つ人々を団結させる」ことを目指している(9)。「将校、一般戦闘員、志願兵の間で、全ヨーロッパおよびナショナルな連帯の原則を広く煽り、宣伝すること」(10)、「ヨーロッパ人の人生の目的および世界における彼の特別な使命に対する英雄的理解を活性化すること」(13)を目指している。

「Centuriaは伝統を尊敬すべき美徳として宣言している。我々は、ヨーロッパ人の伝統であるすべての宗教的宗派の平等な権利を支持する。ただし、それが我々のイデオロギーに反しない限りにおいてである」と、14番目の目標に書かれている。

マニフェストの最後には、「メンバーの思想的・身体的強健に基づき、Centuriaは『破壊、消費、平等、退化、[エスニック集団の]混在の社会』に反対し『秩序、発展、規律』の理想を掲げる」と書かれている。

Centuriaが以前作成した「アストゥリアス新王国The New Kingdom of Asturias」と題する文章は、ウクライナでのグループの活動を、ナショナリスト勢力によるヨーロッパの再征服という文脈で明確に位置づけている。

「強力でナショナルなウクライナは、ヨーロッパのレコンキスタの新しいアストゥリアス王国になる運命にあると我々は考えている。これは、ヨーロッパの遺産と自由のためのヨーロッパ人のこれからの闘争その最終目標でもある。その目標は、ヨーロッパの右翼勢力の強化であり、全ヨーロッパ人にナショナル―伝統主義の規律あるイデオロギー基盤を与えることだと、我々は信じている」と、この文章には書かれている。

このCenturiaによるレコンキスタへの言及は、国際的に活発なウクライナのアゾフ運動における同名の白人至上主義的地政学的イニシアチブと共鳴している。2019年2月のBellingcatの記事で筆者が詳述したように、Azovの人物による声明によれば、レコンキスタとは、土地と文化の奪還を旗印にヨーロッパ起源の国々をまとめることを意味する長期戦略である。

ウクライナ軍内のこのCenturiaによるレコンキスタへの言及は、国際的に活発なウクライナのアゾフ運動における同名の白人至上主義的地政学的イニシアチブと同じ考え方だ。2019年2月のBellingcatの記事で筆者が詳述したように、Azovの人物たちによる声明によれば、レコンキスタとは、土地と文化の奪還を旗印にヨーロッパ起源の国々をまとめることを意味する長期戦略である。

ウクライナ軍内部でのCenturiaの活動や、同グループが西側諸国の軍隊や軍事教育機関のメンバーに接近していることについて深められるべき理解は、これらの明言された目標とイデオロギーである。

Centuriaは単に「ヨーロッパ右翼勢力の統合」に関心があると主張していたわけではない。同グループはその初期から、ヨーロッパの極右勢力の最も極端な要素について信奉者を教育する措置を取っていた。2018年4月、同団体はVKページに「北欧抵抗運動のロシア語を話す代表者」との独占インタビューと思われるものを掲載した。このインタビューは、Centuriaの発足時期である2018年5月よりも前に行われ、同グループが必ずしも北欧抵抗運動(NRM)の見解を共有しているわけではないという免責事項が掲載されていた。汎北欧のネオナチ組織であるNRMは、フィンランドで2020年末に最高裁の決定により禁止された。

さらに別の注目に値する文章で、Centuriaはウクライナの政治に関与する意思を表明した。2019年7月下旬、メンバーがリヴィウで極右と行進したわずか数週間後、ウクライナの議会選挙の数日後、このグループは、選挙で2%強の投票率でコンセンサスを失った極右に、単一の政党を結成してイメージを改善するよう呼びかけたのだ。声明によれば、Centuriaのメンバーは、「右翼シーンの質的変化を促進し、内外の敵と戦うことができる新しい統一された国家エリートの形成に参加する」用意があるという。

このグループの多くの声明は、それを直ちに実現する能力とはかけはなれているのだが、早くからこうした遠大な野望の大枠を抱いていたという点で重要なものだ。

55 VK photo showing apparent Centuria members, presumably in early 2018, before the group’s self-described launch in the May of that year. From left Mykhailo Alfanov, Nazar
2018年初頭、同年5月のグループ自称立ち上げ前のCenturiaメンバーらしき人物が写っているVK写真。左から。Mykhailo Alfanov、Nazar Livenets、Serhiy Blinov、Oleksandr Komarov、Danylo Tikhomirov。コマロフは、筆者の求めに応じて、このグループとの関係についてコメントした。彼は「過去に」Centuriaのメンバーであったと言い、「ウクライナ軍を変えようとする愛国的な若い将校」のグループであると説明した。なぜメンバーでなくなったのかと問われ、現在は軍に所属しておらず、ウクライナ国外に住んでいると答えた。

Centuriaの極右的性格を示すさらなる証拠として、その主要メンバーとみられる何人かは、で表向きNAA兵舎内撮影されたとされる2018年初頭の写真でナチス式の敬礼をしているのを見ることができる。筆者は、この写真に写っているすべての人物の身元を確定した。ダニエロ・ティホミロフDanylo Tikhomirov、セルヒイ・ブリノフSerhiy Blinov、そしておそらくナザール・リベネツNazar Livenetsは、アカデミー内のNAAとCenturiaの活動について2018年を通してAzov系列の雑誌 Національна оборона(英語:National Defense)誌が行ったFacebook投稿に含まれている写真に登場した。ティホミロフとミハイロ・アルファノフMykhailo Alfanovは2019年にリヴィウでCenturiaと共に行進した。

Centuriaに所属する一部の個人のオンラインからは、極右思想との親和性が指摘できる。例えば、キリロ・ドゥブロフスキー Kyrylo Dubrovskyiのソーシャルメディアの投稿には、ナチズムやウクライナの極右の最も極端な要素への関心を示唆している。ドゥブロフスキーの4,600人以上のフォロワーがいる公開Instagram、@lirik_tacのまさにプロフィール写真は、ドゥブロフスキー自身と思われる覆面の男が、ウクライナのネオナチ系衣料ブランドSva Stoneのロゴを大きく表示した野球帽をかぶった写真になっている。

56 Kyrylo Dubrovskyi uses this photo as his Instagram profile picture. Sva Stone is a clothing brand catering to the far right
Kyrylo Dubrovskyiはこの写真をInstagramのプロフィール写真として使用している。Sva Stoneは極右向けのアパレルブランド。

2021年2月、ドゥブロフスキーは自身の@lirik_tac Instagramページを通じて、臆面もなくネオナチとアゾフに連なる Nord Storm groupのリーダーらしい人物もフォローするよう数千人のフォロワーに勧め、彼のことを 「真面目な人々 」と表現している。「Latvian(Nord Stormの人物のコールサイン)に100%従わなければならない 」と、ドゥブロフスキーは書いている。2021年初めには、白人至上主義者のゾンネンラートの旗の横で軍服を着た数人の男性が踊っている動画も公開した。動画の上に重ねられたテキストには、「夢のライフスタイル 」と書かれていた。

57 Screenshot of an Instagram story by Kyrylo Dubrovskyi in which he called on his followers to follow a leader of the neo-Nazi Nord Storm group.
ネオナチ集団「ノルドストーム」のリーダーをフォローするようフォロワーに呼びかけたKyrylo DubrovskyiによるInstagramストーリーのスクリーンショット。
58 Screenshot from an Instagram story posted by Kyrylo Dubrovskyi. Note the Sonnenrad banner on the wall.
Kyrylo Dubrovskyiが投稿したInstagramのストーリーのスクリーンショット。壁に貼られたSonnenradのバナーに注目。

2019年5月、ドゥブロフスキーは、ネット上で広くヒトラーのものとされるロシア語の引用を、現在は非公開の@kd_lirik Instagramのプロフィールに投稿した。”For achieving a great aim no sacrifice will seem too great”(偉大な目的を達成するためには、どんな犠牲も大きすぎるとは思わない)(ロシア語。Перед лицом великой цели никакие жертвы не покажутся слишком большими)だ。この短い引用文は、極右向けのウクライナのブランドであるStay Braveが制作したゾンネンラートのシンボルをあしらったTシャツを着たドゥブロフスキーの写真に添えられていた。ドゥブロフスキーが使った引用文は、『我が闘争』の原文の一部を引用したもので、英訳すると “For achieving this aim no sacrifice must be too great.”となる。原文は、ヒトラーがナチ党の始まりと 「物理的な力 」の使用を受け入れたことを振り返った長い文章の一部である。

59 Screenshot of a photo from Kyrylo Dubrovskyi’s now-private Instagram. Dubrovskyi is wearing a T-shirt featuring the Sonnenrad symbol. The quote in the post is a bastardiz
Kyrylo Dubrovskyiの現在非公開のInstagramに掲載された写真のスクリーンショット。ドゥブロフスキーが着ているのは、ゾンネンラートのマークが描かれたTシャツ。投稿にある引用文は、『我が闘争』の一節を揶揄したものだ。「この目的を達成するためには、いかなる犠牲も大きすぎてはならない」。

ドゥブロフスキーとは対照的に、Centuriaの中心人物と見られるティホミロフは、「ドミトロ・クリニュクDmytro Klinyuk 」という名で、あからさまな過激な論評をネットに残している。彼の投稿の多くは、明確なイデオロギー的発言になっている。例えば、2016年に行われた一連のVK投稿で、ティホミロフはユダヤ人を「人類の破壊者」と書き、ユダヤ人が 「世界の歴史と世界地図からウクライナを排除しようとした 」という投稿をシェアした。同年、ティホミロフは、民主主義がウクライナを 「奪い、疲弊させた 」と書き、「排除 」する必要があるとした。注目すべきは、その1年後の2017年、ティホミロフはCenturiaの思想と活動の青写真のような投稿をしたことだ。「革命には支持と確信が必要だ。ナショナリストのグループが政府機構に組織的に潜り込むだけで十分だろう。その過程で、支配体制を強制的に変更し、ナショナリストの隊列に置き換えることができるだろう」。同年、ティホミロフは人種に関する考えも披露し、「(人種の)純粋さの消失とともに、秩序は滅びるだろう 」と書いている

これらの発言を裏付けるのが、2016年12月、十数人の若者のグループの中でナチスの敬礼をするティホミロフの写真である。この写真は、アゾフ運動の前身であるネオナチ組織「パトリオット・オブ・ウクライナ」の周年祭を説明するティホミロフのVKの投稿に掲載されている。

60 Photo of Danylo Tikhomirov (center, wearing a tie) in a group of about a dozen young people making Nazi salutes that was posted to his VK in 2016
2016年に自身のVKに投稿された、十数人の若者のグループでナチスの敬礼をするダニーロ・ティホミロフ(中央、ネクタイを着用)の写真。

ティホミロフの発言もCenturiaのイデオロギーも、ティホミロフがフランスの君主主義(ヴァンデ君主主義)に触発され、現在Centuriaに関わっているらしい別の人物ヤニス・クリムリスYannis Khrimlisが率いているとされるあまり研究されていないヴァンデア・アルバVandea Alba(露:Белая Вандея)グループと明らかに提携していたことが、ある程度は関係しているのかもしれない。ヴァンデア・アルバのプロパガンダは、現在Centuriaが使用している「Virtus et Honestas」のスローガンを特徴としており、同様のイデオロギー的目標を掲げている。

「ヨーロッパ中の自治グループにおける同じ考えを持つ人々の統一のなかで、我々の暗黒時代に再び避けられなくなった文明闘争の新たな段階へヨーロッパ社会を準備する唯一の道を見出す[…] バンデア、戦士と信者の秩序は、ヨーロッパの偉大な先祖の遺産の保護者にふさわしい、絶対に政治的に純粋な組織として自らを成さなければならない」と、ティホミロフは2017年2月に自身のVK上で共有したバンデア・アルバのプロパガンダで述べているる。VKの投稿には、ヴァンデア・アルバの旗を掲げた仮面の武装集団の写真が掲載されていた。

「カール・クランツCarl Cranz」という名で、ヤニス・クリムリスは2016年にアゾフ運動と関連したポッドキャストに出演し、ヴァンデア・アルバについて話したようだ。クリムリスは、長年にわたるあるCenturia Telegramの投稿者である可能性があり、彼自身の発言の痕跡をオンラインに残している。また、Centuriaのティホミロフ、ユーリー・ガブリリーシンYuriy Gavrylyshyn、そしておそらくクリムリスが、Centuriaに関連する他の写真にも登場する7人の制服組に話しかけている2018年5月の写真の黒衣の人物である可能性も高い。クリムリスと思われる人物、ティホミロフとガブリリーシンは集合写真でCenturiaのパッチをつけている。クリミリスは、彼のCenturia活動に関連して、著者がTelegramチャンネルに送ったコメントの要求に返答をしていない。

61 Presumably Yannis Khrimlis (on the left), Yuriy Gavrylyshyn (second on the left), and Danylo Tikhomirov (third on the left) with other apparent members of Centuria. The p
Yannis Khrimlis(左)、Yuriy Gavrylyshyn(左から2番目)、Danylo Tikhomirov(左から3番目)と思われる他のCenturiaのメンバーたち。写真は2018年にKhrimlisのVKに投稿されたもの。

Centuriaと強いつながりを持つ複数の人物が、白人至上主義との親和性を示唆する内容を投稿している。例えば、2020年11月、Centuriaと親しいと見られるNAA士官候補生ヴィタリー・ロソロフスキーVitaliy Rosolovskiyは、タスクフォース・イリニ Task Force Illini (当時、合同多国籍訓練グループ・ウクライナを率いていた)のメンバーだった2人のアメリカ軍人(いずれも黒人)と撮った写真をInstagramに投稿している。写真は、NAA士官候補生が日常的に訓練を行っている国際平和維持・安全保障センターで撮影されたものと思われる。ロソロフスキーは写真に、白人至上主義者の「14/88」という数字のシンボルを含むコメントを添えた。また、この投稿には 「Zimbabwe 」というジオタグが付けられていた。この投稿の下のコメント欄で、アメリカ人の肌の色を暗示しているかのように、アメリカ人の軍人は「eggplantナス[黒人の蔑称]」なのかと尋ねると、ロソロフスキーは肯定的に答えた。2020年、ロソロフスキーは、束桿の上に鷲が乗っているCenturiaの紋章(ぼやけているがわかる)が描かれたTシャツを着ていると思われる写真と、ナチスの敬礼をしていると思われる写真を投稿している。2021年のこれまで、ロソロフスキーは自身のインスタグラムで、Centuriaのプロパガンダ、ネオナチの「14/88」という数字記号を暗示する写真、ヒトラーの胸像の写真、2人の黒人の子どもの背中に、まるで乗るように座っている白人の子どもたちの写真などを公開してきた。

Centuriaとの関係についてコメントを求められたロソロフスキーは、ガヴリリュシンのものと見られるTelegramアカウントの詳細を、”you can pose all your questions to [telegram handle]” という言葉とともに公開した。このアカウントには、GavrylyshynがInstagramで使用しているプロフィール写真が掲載されている。その後、Rosolovskiyは自分のTelegramチャンネルを削除した。

62 Screenshot of an Instagram post by Vitaliy Rosolovskiy showing him with members of the Task Force Illini (which led the Joint Multinational Training Group—Ukraine at the
タスクフォース・イリニ(当時、多国籍合同訓練グループ・ウクライナを率いていた)のメンバーと一緒に写っているVitaliy RosolovskiyのInstagram投稿の画面。NAA国際平和維持・安全保障センターで撮影された。ロソロフスキーが投稿に入れた白人至上主義の14/88の数字記号に注目。
63 Screenshot of an Instagram post by Vitaliy Rosolovskiy. “There once was a dinosaur over there,” reads the text of the post
Vitaliy RosolovskiyによるInstagramの投稿画面。”There once was a dinosaur over there “と投稿のテキストが読み取れる。
65 Screenshot of an Instagram story posted by Vitaliy Rosolovskiy.
Vitaliy Rosolovskiyが投稿したInstagramのストーリーのスクリーンショット。

国際的な非難、メディアの批判を浴びる極右の盟友とのメッセージの拡散

Centuriaの活動に関して得られた情報からは、ウクライナの極右団体とつながりと、つながることによって活動が促進されてきた様子を描き出している。特にアゾフ運動との関係は深い。

前述のように、2020年8月にKP.uaの取材に応じたCenturiaのメンバーで「ユーリイ」と名乗る人物(Centuriaのリーダー、ユーリイ・ガヴリイシンYuriy Gavrylyshynであろう)は、グループの創設者はもともとNAAを卒業したらアゾフ運動の軍事組織であるアゾフ大隊に復帰するつもりだったが、その後「ウクライナ正規軍で奉仕して国家価値を宣伝し、士官貴族主義を普及させよう」と決意したと述べている。アゾフへの言及と大隊への崇拝は、Centuriaのオンラインプレゼンスに多く見られる。特筆すべきは、2019年5月2020年5月のグループの記念日に捧げられたTelegramの投稿で、Centuriaはアゾフのそれと並んで自らの創設に言及し、アゾフ大隊を 「伝説のウクライナ軍最高の軍事ユニットの一つ 」として記述していることである。

Centuriaによると、2018年9月に行われたNAA適正内で行われたとされる同グループの最初のイベントは、アゾフ運動に捧げられたものだった。Centuriaによると、「Idea of the Nation」(アゾフが多用するWolfsangelシンボルの独自の用語)と題したこのイベントでは、NAA士官候補生にアゾフ運動の歴史、その前身であるネオナチ組織Patriot of Ukraine、そしてアゾフ大隊の紹介が行われたという。同団体によると、士官候補生はアゾフ大隊に所属したことのあるCenturiaメンバーと話すこともできたという。Centuriaは、教室で十数人の制服を着た男たちが壁に映し出されたCenturiaのロゴを見ている、言われるところのこのイベントからの画像を複数掲載している。筆者は、これらの写真がNAA内部で撮影されたものであることを確認できなかった。

Centuriaのメンバーは、ウクライナ国家警備隊アゾフ大隊も訪問し、講義を行ったようだ。アゾフ運動と密接な関係にあるウクライナ内務省の部隊、「東部」特別分遣隊(ウクライナ語:Спеціальний підрозділ МВС “Схід” )による2019年8月のFacebookTelegramの投稿によると、Centuriaのメンバーは、前者の基地でアゾフ大隊および「東部」特別分遣隊の戦闘員のための講義を行っている。投稿には、「アゾフ」と「イースト」のTシャツを着た20人近い制服組が、教室内で講師(顔はぼかされている)の話を聞いている写真が何枚も掲載されている。投稿によると、「ヨーロッパの宗教文化現象」と題されたこの講義は、「イデオロギー的に強固な軍人の新しい世代の形成」に貢献するものとして重要であったという。それから数週間後の9月、CenturiaはFacebookで、メンバーが今度は「ウクライナ革命の100年」というテーマでさらに別の講演会をアゾフ大隊の基地で開催したと述べている。この投稿には写真も添えられていた。アゾフ大隊は筆者のコメントに答えていない。ヤニス・クリムリスYannis Khrimlisは、当然だが、「Centuria」を代表して、両方のいわゆるイベントに参加した。

66 Screenshot of a Facebook post by the Special Detachment “East,” a unit of Ukraine’s Ministry of Internal Affairs closely linked to the Azov movement.
アゾフ運動と密接な関係にあるウクライナ内務省の部隊「東部」特別分遣隊のフェイスブックへの投稿画面。
67 A screenshot of a now-deleted Facebook post by Centuria
Centuriaによる、現在削除されているFacebook投稿のスクリーンショット。

注目すべきは、Centuriaによると、2019年9月、このグループは、アゾフ運動とつながりのある出版社兼読書クラブの注目すべきは、Centuriaによると、2019年9月、このグループは、アゾフ運動とつながりのある出版社兼読書クラブのプロミンProminが、フランスの極右歴史学者ドミニク・ベネールDominique Vennerの著書『Le cœur rebelle』のウクライナ語訳の発表会を開催するのを手伝ったことである。ベネールは2013年、ノートルダム寺院の祭壇の傍らで拳銃自殺した。BBCが引用したベネールの手紙によると、この自殺は、「伝統的な家族を守るため、不法移民との戦い 」のための行為だった。発表会は、リヴィウのダウンタウンにあるリヴィウ地域万国科学図書館で行われたと伝えられている。このイベントに先だって、Centuriaが共同主催者であることが、プロミンと密接な関係にある人物やグループによってTelegramで共有された。イベントに関するCenturiaのTelegram投稿には、2019年9月の発表会で撮影されたと思われる、Centuriaのパッチをつけた人物(顔はぼかされている)が、極右の主催者でProminの編集者であるセルヒイ・ザイコフスキーの隣に立っている写真も含まれている。

アゾフ大隊の将校で、アゾフ運動の重要人物で演説家のユーリイ・ミハルチシンYuriy Mykhalchyshynが、2019年6月にリヴィウでイベントを開催した際、プロミンのメンバーらしき人物と一緒にいる姿が確認できた。アゾフ運動が「ナショナル部隊の有力講師」と表現するミハルチシンは、2012年から2014年にかけて極右政党「自由党」の代表としてウクライナ国会議員を務め、2014年から2016年にかけてウクライナ治安局(SBU)に勤務していた。ミハルチシンが自身のFacebookページで共有した写真には、Centuriaのパッチをつけたガヴリイシンやダニョーロ・ティホミロフDanylo Tikhomirovなど、Centuriaのメンバーと思われる8人と一緒に写っている。ミハルチシンと一緒に写っている人物の1人は、同時期に自身のインスタグラムページに「#центурия(ロシア語でセンチュリア)」というハッシュタグをつけてこの写真を投稿している。ミハルチシンは筆者のコメント要請に応じなかった。

68 Photo posted by Azov figure Yuriy Mykhalchyshyn. The same photo was also posted on Instagram by an apparent Centuria member, Yevhen Romanchenko, seen on the far right of
アゾフの人物Yuriy Mykhalchyshynが投稿した写真。また、同じ写真を、写真右端に見えるCenturiaのメンバーらしいYevhen Romanchenko氏が、ハッシュタグ「#центурия」を付けてInstagramに投稿している。左から。Oleksandr Gryshkin(名前と思われる)、Mykhailo Alfanov、Oleksandr Zbozhnyi、Yuriy Gavrylyshyn、Yuriy Mykhalchyshyn、Dmytro Shuleshov、Vladyslav Chuguenko、Danylo Tikhomirov、Yevhen Romanchenkoの6名。

前述のように、CenturiaのNAA内での活動は、2018年にはアゾフに連なるНаціональна оборона(英語:National Defense)誌やアゾフ大隊の正規のオンラインが認め、2019年と2020年にはアゾフの街頭部隊のリーダー、Ihor Mykhailenkoイホル・ミハイレンコがグループを褒めたたえている。このような言及は、グループの知名度を高めた。

他のアゾフの人物やアゾフに連なるグループもCenturiaを賞賛し、そのメッセージをオンラインで共有した。例えば2019年1月、アゾフ運動の思想家であるエドゥアルド・ユルチェンコEduard Yurchenkoは、現在1,100人以上の購読者を獲得しているTelegramで同グループを賞賛した。ユルチェンコはCenturiaについて「これが我々の成長しつつある伝説的な未来であることを知るべきだ 」と書き、このグループがNAA内でイベントを開催していることを強調した。同年、ユルチェンコはCenturiaのマニュフェストその他の声明を再共有した。アゾフ運動とつながり、ウクライナ西部で活動するグループ「Galician Youth」も同様に、2019年にCenturiaのプロパガンダをTelegramで共有した。Centuriaの声明は、@sriblotroyandy(反フェミニストのSliver of the Rose groupusculeはTelegramで1600人以上のフォロワーを持つ)や@lichtwarts(ヨーロッパのニヒリズムのチャンネルで、1800人以上のフォロワーを持ち、アゾフの重要人物イエウヘン・ウリアドニクYevhen Vriadnykが運営している)などのアゾフ関連のtelegramチャンネルでもシェアされた。

アゾフとCenturiaの関係は、共同イベント(前述のリヴィウでの政治集会を含む)、明示的な支持などが特徴だが、カルパツカ・シチKarpatska Sichや伝統と秩序Tradition and Orderなど、ウクライナの著名な極右グループが、Centuriaの声明やテレグラムへのリンクをシェアして、このグループをオンラインで後押ししている。カルパツカ・シチは2019年と2021年にCenturiaのメッセージを共有し、伝統と秩序は2019年末に、”the most interesting on the Internets (sic!)” と特徴付けられる右翼のTelegramチャンネルのリストを掲載した投稿でCenturiaのTelegramへのリンクを共有した。伝統と秩序が宣伝したTelegramチャンネルの中には、それに近いグループや人物を代表するものもあった。前述の投稿では、Centuriaを 「ヨーロッパの伝統主義者のコミュニティ 」と表現していた。注目すべきは、2019年の夏、Centuriaはカルパツカ・シチや伝統と秩序を含むウクライナの極右グループが、LGBTQの「キエフ・プライド」イベントに対抗して開催された集会を支持することを表明したことだ。TelegramでCenturiaは、「現在、キエフの街をLGBT運動とその左翼シンパの変質者から守っている右翼愛国者、民族主義者、保守派、キリスト教徒 」への支持を表明したのである。

69 Screenshot of a 2019 Centuria Telegram post stating its opposition to the LGBT Kyiv Pride event.
LGBTの「キエフ・プライド」イベントに反対することを表明した2019年のCenturia Telegramの投稿画面。

アゾフ運動(すなわナショナル部隊の政治組織)、カルパツカ・シチ、伝統と秩序は、国際人権監視団体フリーダムハウスによって「過激派」とされ、監視団体によって暴力とつながりがあるとされている。この3つの組織はいずれも国際的に活動している。アゾフの国際的なつながりは欧州各国と米国にまたがり、多くのメディアで報道されている。カルパツカ・シチは東欧の極右グループと広範なつながりを持ち、2019年初めには、西ウクライナで開催した訓練キャンプに「ヨーロッパの兄弟関係にある運動の代表者」が訪れたと信憑できる筋は主張をしている。同グループによると、このキャンプには 「軍事戦術的な訓練 」が含まれていたという。Centuriaとカルパツカ・シチはともに、ゾンネンクロイツのシンボルをエンブレムに組み込んでいる。

「伝統と秩序」もまた、国際的な存在感が際立つウクライナの極右団体である。2019年末、同グループはドイツに支部を立ち上げたと発表した。現在、悪名高い国際的なネオナチ組織者であるデニス・ニキティンDenis Nikitinが国際的な連絡役に含まれている。2020年5月、同グループは、志を同じくするヨーロッパ人にウクライナでの安全な避難所と準軍事訓練を提供する用意があることを表明した。

Centuriaの発言は、特定のウクライナ人グループと公然とは提携していない極右Telegramチャンネルによってさらに拡散された。例えば、2020年初頭以降、同グループのメッセージは自称文化保守同盟Union of Cultural Conservatives(@catars_is、フォロワー数9,400人以上)によって共有されている。臆面もないネオナチのTelegramチャンネル@knpu_division(5,000人以上のフォロワー)および@LTERROR88(現在は@BOOKSLTとして運営、「LITERARY_TERRORISM」と呼ばれるチャンネルは12,000人を超えるフォロワーを有する)、そして一時フォロワー数は6,400を越えていて現在は規制されているScene of Hatredによって共有されていた。TelegramでCenturia発言を推進するものとしては他に、@intolerant_warfighter(登録者数2000人以上)と@intolerant_historian(登録者数5000人以上)のチャンネルがある。このグループは、極右的なコンテンツを日常的に共有する、軍隊をテーマにしたウクライナのTelegramチャンネル、@shinobi_blog(6,000人以上のフォロワー)でも宣伝されている。

Centuriaの@european_centuria@ArmyCen Telegramチャンネルに関連するいくつかの統計データは、現在、Tgstat.comという何千ものTelegramチャンネルに関する統計データを提供するサイトで入手可能だ。注目すべきは、Tgstat.comによると、Telegramチャンネル@european_centuriaは、Centuriaが自称する創設日2018年5月の3カ月前の2018年2月にすでにアクティブになっていたことだ。同グループによる2018年2月24日の投稿には、後に同グループのマニフェストに見られるようになる格言や自己紹介がすでに多く含まれていた。

「より洗練された極秘活動」 ウクライナ軍への影響力増大の主張と動員呼びかけ

Centuriaは、メンバーがウクライナ軍の特定の部隊で将校として勤務していると繰り返し主張している。同グループは、そのイデオロギーに共感するウクライナの軍人に、これらの部隊への異動を希望するよう呼びかけ、このプロセスへの支援を約束している。これらの主張は、Centuriaのメンバーらしき者が2019年から2021年の間にNAAを卒業し、AFUに入隊したという筆者の調査結果と一致する。同グループは、参加に関心を示した軍のメンバーとオンラインで連絡をとり、Telegramの一部として、動員努力に特化したボットを運営しているようだ。

「我々は3周年になり、これを誇りに思う理由がある 」と、Centuriaは2021年5月にオンラインのフォロワーに語った。このグループの成果をまとめたTelegramの投稿によると、メンバーは現在、AFUの将校として勤務し、ウクライナ中の[軍事]教育機関で活動し、「フランス、英国、カナダ、米国、ドイツ、ポーランドといった国々の外国人同僚と協力を確立することに成功した 」とある。ちょうど数週間前の2021年4月下旬、Centuriaは前述の国々と「協力し、合同軍事演習に参加した」と述べていた。同グループの投稿によると、「西側パートナー」から「日常的に」学んでいるとのことだ。この投稿には、ウクライナと西側の軍人が写っている写真や、RMASの建物の前にいるらしい制服を着た男性たちが写っている、ぼかしのかかった写真が添えられている。

先に述べたように、筆者はNAAでの存在などに関するセンチュリアの主張のいくつかを裏づけることができたが、このグループは、自らの声明によれば、AFU内の活動に焦点を移して以来、より秘密主義的になり、自滅的な証拠を投稿することに慎重になっている。Centuriaは2021年2月にTelegramで、「我々の仕事はより洗練され、秘密裏なものなった」と述べ、講義の実施から 「外国の部隊 」を含む軍内での作業に移行したと説明している。また、同グループはフォロワーに対し、Centuriaの姿をあまり目にしないかもしれないが、「進展はしている 」と断言した。これとは別に、2021年1月、CenturiaはTelegramに 「秘密裏に活動している 」と書き、「理由があって 」秘密組織と称していることを明かした。

Centuriaが秘密主義を強めているにもかかわらず、そのメンバーたちが、前の年にNAAを将校として卒業し、現在AFUにいる可能性があるという指摘がある。

2019年、明らかにCenturiaのメンバーであるロマン・ルスニクRoman RusnykはNAAを卒業した。ルスニクはコールサイン「Dykyi」(英語で「野生の」の意)で、同団体が2019年6月にNAA卒業を祝った2人のCenturiaメンバーの1人である。ルスニク自身は同時期に、2019年6月にCenturiaのバナーを持った自分を含むグループとの写真を投稿している。また、Instagramに投稿した別の写真では、2019年の卒業式中と思われるNAA敷地内で同団体のバナーを持っている姿も確認されている。注目すべきは、SNSに投稿された別の写真で、AFUの第128山岳突撃旅団のパッチを袖につけたルスニクが写っていることだ。卒業後、ルスニクは軍服姿の写真を投稿しており、CenturiaのTelegramチャンネルで活動していたようだ。ルスニクとAFU第128山岳突撃旅団の明らかな結びつきは、ルスニクがNAAを卒業してから1年以上たった2020年11月にInstagramに投稿された写真によっても裏づけられる。写真には、ルスニクと他の2人が、第128山岳突撃旅団の一部とされる部隊「第15山岳突撃セヴァストポリ大隊」のシンボルが入った旗を手にしている様子が写っている。

70 Photo posted to Instagram in 2019 by apparent Centuria member Serhiy Vasylechko shows fellow Centuria member and 2019 NAA graduate Roman Rusnyk showing off a patch of the
CenturiaのメンバーらしいSerhiy Vasylechkoが2019年にInstagramに投稿した写真には、Centuriaの仲間で2019年のNAA卒業生のRoman RusnykがAFUの第128山岳突撃旅団のパッチを誇示している。
71 Screenshot of a November 2020 Instagram post by Roman Rusnyk. The photo shows Rusnyk (right) with two other men holding a banner bearing the symbol of the 15th Mountain-A
ローマン・ルスニクによる2020年11月のInstagram投稿画面。写真は、第128山岳強襲旅団に所属するとされる部隊「第15山岳強襲セヴァストポリ大隊」のシンボルが描かれたバナーを持ったルスニク(右)と他の男性2人が写っている。

現在は削除されているFacebookのプロフィールで、ユーリイ・ガヴリシンYuriy GavrylyshynはAFUの第10山岳突撃旅団で過ごしたことがあると主張している。NAAにいる間、そして卒業後も、当然だがこの部隊と連絡を取り続けていた。

2020年6月NAA卒業生でCenturiaのメンバーらしいヴラディスラフ・ヴィンターゴラー Vladyslav Vintergollerは、卒業後AFUの第55砲兵旅団との写真を掲載している。この旅団はザポリージアを拠点としており、ヴィンターゴラーは現在ここに住んでいる。この年、卒業したCenturiaは彼だけではなかったようだ。前述したように、彼の卒業に際し、Centuriaは、式典が行われたIPSCでパレード用の制服を着た7人の男性たち(顔はぼかしてある)の写真に「Pride of the Centuria」というテキストを重ねて投稿し、ヴィンターゴラーがシェアしている。

72 Mobilization graphic posted by Centuria in June 2021. It features the emblems of those AFU units where members of Centuria allegedly serve as officers. “Mobilization. Ent
2021年6月にCenturiaが投稿した動員グラフィック。Centuriaのメンバーが将校を務めるとされるAFU部隊のエンブレムが描かれている。「モビライゼーション。最高の指揮の下、軍隊の隊列に入れ 」という文章が書かれている。

2021年6月NAA卒業生でCenturiaのメンバーと見られるキリロ・ドゥブロフスキーKyrylo Dubrovskyiは、オデッサ地方に駐屯する第35海軍歩兵旅団に入隊すると自身のInstagramで述べている。

ドゥブロフスキーの卒業と同時に、Centuriaは恒例となっている、最近NAAを卒業したメンバーに関するTelegramへの投稿を行った。その投稿には、パレードの制服を着た5人の男性(顔はぼかしてある)が、Centuriaのバナーを持っている写真が掲載されている。写真は、2021年6月19日にNAAの士官候補生卒業式が行われたIPSCで撮影されたものだ。

注目すべきは、2018年初頭に投稿されたナチスの敬礼写真など、Centuriaの人物との写真に見られるセルヒイ・ブリノフが2021年のNAA卒業生の中におり、NAAプレスサービスが制作した卒業式のビデオに登場していることだ。Centuriaと関係のある別のNAA士官候補生、オレクサンダー・ズボジーニOleksandr Zbozhnyiも、家族がオンラインで共有した写真によると、2021年にアカデミーを卒業した。

73 Image from Centuria’s June 2021 Telegram post. The photo used in the post was taken at the IPSC, where the NAA’s officer cadets graduation ceremony took place on June 19,
画像は、Centuriaの2021年6月Telegram投稿より。投稿に使用された写真は、2021年6月19日にNAA士官候補生卒業式が行われたIPSCで撮影されたもの。
74 Screenshot from a video report about the June 2021 officer cadets graduation ceremony shows Serhiy Blinov (center), who appeared in an early 2018 photo of Centuria member
。2021年6月の士官候補生卒業式に関する動画レポートのスクリーンショットには、2018年初めにセントーリアのメンバーがナチスの敬礼をする写真に登場したセルヒイ・ブリノフSerhiy Blinov(中央)が写っている。
75 Mobilization graphic posted by Centuria in October 2020 features the emblems of those AFU units where members of “Centuria” allegedly serve as officers. “Mobilization. En
2020年10月にCenturiaが投稿した動員グラフィックには、Centuriaのメンバーが将校を務めるとされるAFU部隊のエンブレムが描かれている。”Mobilization”(動員)。最前線で 「Centuriaの隊列に入れ 」と書かれている。

現在AFUに所属していると見られる複数の人物が、ネット上でCenturiaとの関わりを示唆している。例えば、AFUの将校と見られる人物で、元NAAの学生であるオレクサンドル・リシツキーOleksandr Lisitskyは、自身のInstagramページでCenturiaのTelegramへのリンクを紹介している。ウクライナでアメリカ軍人と一緒に写真に写っているリシツキーは、彼のソーシャルメディアに記載されているメールアドレスに送られた筆者のコメント要請には返答しなかった。

Centuriaが主張するAFU内での存在の特異性は注目に値する。Centuriaの最初の動員要請は、早くも2019年9月に行われ、同グループはAFUの現役軍人が「Centuria将校の直接指揮下」で勤務できるようになったと発表し、専用のTelegram botを介して追加情報の提供を約束した。ナショナル部隊のイデオローグであるエドゥアルド・ユルチェンコEduard Yurchenkoが直ちに共有したこの発表では、同団体は健康状態が良好で、「思想的にやる気のある」、できれば戦闘経験のある候補者を求めていることを強調していた。AFUの部隊としては、第15山岳突撃セヴァストポリ大隊、第24機械化旅団、第35海軍歩兵旅団が挙げられている。

10カ月後の2020年7月、Centuriaは新たな動員要請を出した。今回は、第10山岳突撃旅団、第128山岳突撃旅団、第35海軍歩兵旅団、第36海軍歩兵旅団、第16戦闘支援連隊、第55砲兵旅団、第24機械化旅団、第25空挺旅団の8部隊に増えた。Centuriaはオープンポジションのリストも提供した。同団体は再び、応募者に「忠誠心、思想的献身、名誉、知性、気高さ」を求めると述べ、Centuriaが率いる部隊に「名誉、思想への献身、戦闘訓練、部隊の団結」を約束した。同年10月、同団体は同じ告知を再投稿した。

ウクライナ国軍の指揮下の兵士を受け入れるという発言に加え、2020年11月には、ウクライナの法執行機関の士官候補生と将校を受け入れると発表している。

2021年も動員要請は続く。2021年3月、Centuriaは第24機械化旅団への募集を発表した。4月には、ティホミロフがInstagramに、Centuriaが第406砲兵旅団の応募を受け付けていると投稿した。そして2021年6月のTelegramの投稿では、「兵士や将校を仲間に受け入れる準備はいつでもできている 」とフォロワーに通知していた。その投稿には、Centuriaのメンバーが将校を務めるAFU部隊の最新リストが含まれており、応募者にはCenturiaのTelegram botに詳細を書き込むよう勧めていた。

Centuriaの専用Telegram bot、@centuria_mobilization_botが起動すると、応募者は候補者の軍歴や所属した軍部隊から、過去の「あらゆる組織」との関わりやCenturiaのイデオロギーに対する理解度まで、15の質問に答えるように促される。

どうやら、ウクライナ軍のメンバーは、Telegramを通じてCenturiaに入隊の打診をしているようだ。AFUに所属していると主張するユーザーが、所属していたと思われる部隊について具体的に説明し、返事を得たケースもある。

例えば、2020年11月には、AFUの軍人ローマン・ジーウンRoman Zhyvunとそのプロフィール名と写真が一致するTelegramユーザーがCenturiaのTelegramでグループへの加入を打診し、その後、専用の動員ボットに進むよう促された。「私はCenturiaの思想に親近感を覚え、将校としてその記事から多くを学びました 」と、このユーザーはTelegramでCenturiaに書いた。ローマン・ヴァシロヴィッチ・ジヴンRoman Vasylyovych Zhyvunが2017年に提出した公的情報申告書によると、彼は当時、ウクライナのジトーミル地方に駐屯するAFU部隊に所属していたことが示されている。これは、Facebookユーザー「ロマ・ジヴン」 “Roma Zhyvun”がFacebook上で「ジトーミルに拠点を置く第95航空攻撃旅団に所属している」と述べた自己紹介や個人情報と一部一致する。筆者がTelegramでロマ・ジヴンにコメントを求めたところ、彼はセンチュリアの件を否定した。

筆者がウクライナ国防省に、ルスニク、ヴィンターゴラー、リシツキ、ドブロフスキー、ジヴン、ブリノフ、ダニロ・ティホミロフ、ガヴリーシンのウクライナ軍での現況を確認するよう要請したところ、イナ・マレビッチ空軍情報官は、電話で、「ウクライナ軍はこの要求を追求するだけの材料を持っていない、それは可能かもしれないが、多くの時間を要し、軍は戦争状態にあり、人々を追跡することはしない」と述べている。

76 Screenshot of the questions Centuria’s mobilization bot, centuria_mobilization_bot, asks applicants.
Centuriaの動員ボット、@centuria_mobilization_botが応募者に問いかける質問のスクリーンショット。

ウクライナ政府、西側軍部はウクライナ人軍人の過激派を審査せず、極右が有利な地位を占めてきた

この調査から、CenturiaがNAAやAFUの中で活動できたのは、異常なことではなく、むしろウクライナ軍内での極右思想の普及と影響力を促進する寛容な文化の反映であることが示唆されるものだ。

実例として、ボリス・ヴァツィクBorys Vatsykの例がある。2018年からNAA士官候補生となったヴァツィクは、アゾフの政治組織であるナショナル部隊と親しいようで、ナショナル部隊のTシャツを着て同団体のバナーを持った人たちのグループと一緒に写っている写真が何枚もある。ヴァツィクが自身のVKページに投稿したそうした写真の1枚には、2018年9月のNAA宣誓式での彼の姿が写っている。写真では、NAA本館の前で制服を着たヴァツィクがナショナル部隊のバナーを持っているのが見え、彼の周りにはナショナル部隊のTシャツやキャップをかぶった若者たちがいる。この写真は、ヴァツィクが宣誓の際に家族と「ナショナル部隊リヴィウの活動家」に感謝の意を表した投稿の一部だ。ヴァツィクはソーシャルメディアの投稿で、ファシズムへの支持を表明している。彼のInstagramのプロフィールには、ナチス親衛隊のモットーである「Meine ehre heißt treue」(ドイツ語で「私の名誉は忠誠と呼ばれる」)が大きく掲げられている。ヴァツィックはまた、白人ナショナリズトのゾンネンラートSonnenradのシンボルをタトゥーとして入れている。

77 Screenshot of a VK post by Borys Vatsyk shows him holding the far-right National Corps party banner during his September 2018 NAA swearing-in ceremony.
Borys VatsykによるVK投稿のスクリーンショットは、彼が2018年9月のNAA宣誓式で極右のナショナル部隊党のバナーを手にする様子を示している。

驚くべきことに、ヴァツィクはNAAでの勉強と極右の銃器インストラクターとしての役割を兼ねているようだ。ヴァツィクは、ナショナル部隊党とつながりのあるガリシア青年団Galician Youthが2020年7月に投稿した写真に登場する。ガリシア青年団によれば、この写真は、同月初めに行われたSS第14ヴァッフェン・グレナディア師団を称える2つの準軍事訓練イベント(ウクライナ語:вишколи)で、銃器と戦術の訓練を含むものである。写真には、ガリシア青年団の紋章をつけたヴァツィクが訓練参加者に指示を出し、ゾンネンラートのシンボルが目立つガリシア青年団の旗を持つグループの一員として写っている。ヴァツィクは同時期に自身のInstagramに訓練の写真を投稿している。

78 NAA cadet Borys Vatsyk (center, wearing a cap and carrying what looks like a firearm) with participants in a paramilitary training held by the Galician Youth organization
NAA士官候補生Borys Vatsyk(中央、帽子をかぶり銃器らしきものを携行)とガリシア青年団が開催した準軍事訓練の参加者。
79 Screenshot of an Instagram post by NAA cadet Borys Vatsyk
NAA士官候補生Borys VatsykによるInstagramの投稿画面。
80 Screenshot of an Instagram post by NAA cadet Borys Vatsyk
NAA士官候補生Borys VatsykによるInstagramの投稿画面。

2021年5月、全国の138のユダヤ人コミュニティや組織を代表しているとされる the United Jewish Community of Ukraineウクライナ連合ユダヤ人コミュニティは、ガリシア青年団がリヴィウで反ユダヤ主義ポスターを広めたことを非難した。同団体は反ユダヤ主義ポスターとの関係を否定し、反ユダヤ主義や外国人排斥を非難していると述べた。しかし、これらの声明に反して、ガリシア青年団のイベントやパッチなどには、白人ナショナリストのシンボルが描かれている。さらに、ガリシア青年団はクライストチャーチの銃撃犯のマニフェストをウクライナ語に翻訳した写真をテレグラムに投稿した。今では削除されたこの投稿は、筆者によってアーカイブされており、ブレントン・タラントの『Great Replacement』のハードカバーのウクライナ語版が、ガリシア青年団とネオナチのMisanthropic Divisionグループのパッチの隣にテーブルの上に転がっているのが写っていた。

81 Now-deleted Telegram post by the Galician Youthgroup shows the hardcover Ukrainian translation of the Christchurch shooter’s manifesto, the Great Replacement.
ガリシア青年団の削除されたTelegramの投稿は、クライストチャーチの銃撃犯のマニフェストである「偉大なる交換」のハードカバーのウクライナ語の翻訳を示している。

NAAが極右問題を抱えている可能性があることは明白である。2021年7月現在、NAAウェブサイトのトップページで紹介されているNAAの公式Instagramアカウント、@army_academy_ukrは、「Nur für Arien」(ドイツ語で「アーリア人専用」の意)のアカウントをフォローしている。NAAのアカウントは、2021年7月現在、60以下のInstagramページをフォローしているが、フォロワー数は4,500人を超えている。そのアカウントのプロフィール画像は白人ナショナリストのゾンネンラートマークで、内容は映画「アメリカン・ヒストリーX」の主人公が黒人を殺す映像、ナチズムを軽んじるユーモア等である。

82 Screenshot of an Instagram post by NAA cadet Borys Vatsyk. Vatsyk and another apparent NAA cadet, Andriy Bagmet, are pictured making a gesture that alludes to the Nazi sa
NAA士官候補生Borys VatsykのInstagram投稿のスクリーンショット。Vatsykともう一人のNAA士官候補生と見られるAndriy Bagmetは、ナチスの敬礼を連想させるジェスチャーをしている。

NAAとAFUは、ウクライナ軍、同国に対する西側の支援、同国における西側の軍事的プレゼンスにとって中心的存在であるため、本稿で紹介したNAAとAFUにおける極右勢力の存在は憂慮すべきものである。同校はウクライナ軍と西側諸国の支援、そして西側諸国の軍隊の駐留の中心であり、外国人軍事教官が同校の士官候補生と日常的に交流している。さらに、同校は欧米の軍事顧問などを頼りにしている。

ウクライナ政府も欧米の主要パートナーも、欧米の軍事訓練を受けたウクライナ人が過激派思想を持っていないか、過激派グループとつながりがないかを審査する一貫した措置をとっていないようである。ウクライナ国防省は電子メールで、徹底した身元調査を義務付ける同省の規則には、軍隊に入る者や軍事訓練を受ける者の中に過激派の考え方や過激派グループとのつながりがあるかどうかを審査することは含まれていないと述べている。ウクライナが自国の軍人や士官候補生に過激派の見解やつながりを審査していないという事実は、少なくとも主要な軍事パートナーの一部がそうすることを期待していることからも注目される。筆者は、NAA国際平和維持・安全保障センターを拠点とするカナダ、米国の両政府と、英国、ドイツの両政府に問い合わせを行った。後者2カ国には、先に紹介したキーロ・ドゥブロフスキーKyrylo Dubrovskyi とウラジスラフ・ヴィンターゴラーVladyslav Vintergoller の事件に関連して連絡を取った。

在ウクライナカナダ国防部長のロバート・フォスター大佐は筆者とのインタビューで、ウクライナ人が訓練を受ける際に過激派の考え方や結びつきがないかどうかを審査する際、カナダはウクライナ政府が正しい候補者を選び、識別していることを信用していると語った。「それは彼らの責任だ」とフォスター大佐は述べ、カナダは「過激派や反体制的な考えを持つ人々の訓練を受け入れることはない」と明言した。実際、カナダは、あからさまに過激派の意見を表明するウクライナ人への訓練を拒否するとし、彼は次のように述べた。「万が一、そのような態度を示したりするウクライナ人を見つけたら、次の段階として、カナダが提供するあらゆる訓練から退出させることになる」

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フォスターによると、カナダは自国内の過激な意見や行動を容認していない。しかし、カナダ国防部長は、審査には継続的な監視が必要で、問題行動の目撃者が名乗り出ないとうまくいかないため、実際には「どの国にとっても」難しいことだと指摘している。

英国大使館に筆者が接触したのは、CenturiaのメンバーらしいドゥブロフスキーがRMASで訓練を受けたからである。英国は2015年からORBITAL作戦を通じてウクライナ軍を訓練している。英国国防省によると、それ以来、2万人以上のウクライナ軍が訓練を受けている。ウクライナ人訓練生に過激派の見解やつながりがないかスクリーニングすることについて尋ねると、英国大使館は、「ウクライナ軍も国際コースに選ばれた者を含む軍人のために独自の審査方針を運用している 」と電子メールで回答している。イギリス自国軍に関しては、「イギリス政府は自国軍のメンバーに対して厳格な審査方針を運用している 」と大使館は強調している。

ドイツ国防省の報道官は筆者にメールで、「ドイツとのあらゆる協力活動におけるウクライナ人参加者の選定は、ウクライナの主権的決定である。これには適切な審査プロセスの責任が伴う 」と述べている。一方、同省報道官によると、ドイツ軍への志願者の審査に関しては、「テロ、過激派、暴力事件に関する所見があれば、総合武器訓練への参加、連邦軍への採用の不適格基準であり、即時除隊の根拠となる 」とのことだ。ウクライナ国防省によると、ドイツ軍のグレゴール・ブランド中佐は現在、NAAの軍事顧問として働いている。筆者が先に詳述したように、明かなCenturiaのメンバーであるヴィンターゴラーは、2019年4月にドイツ陸軍士官学校の第30回国際ウィークに出席している。

ウクライナの軍事訓練生が過激派の見解や結びつきがないか審査することについて尋ねられた在ウクライナ米国大使館は、「その部隊またはその部隊内の個人が重大な人権侵害(GVHR)の遂行に関与していると信憑性のある情報がある場合、外国の治安部隊への支援のための資金使用は禁止される 」と強調した。米軍に関しては、大使館は「国防総省の方針では、軍人が至上主義、過激派、犯罪組織の教義、思想、大義を積極的に支持することを明示的に禁止している」と指摘した。予備軍を含むすべての軍人は、身元調査を受け、継続的な評価を受けている。

この記事で詳述されている事実に基づけば、ウクライナ政府とその国際的支持者は、ウクライナ軍内に極右の影響が広がっていることを認識した方が良いのは当然である。この研究が、この問題に取り組む多くの報告のひとつとなることを期待したい。

本稿で使用したオープンソースの調査手法に関して助言と洞察を提供してくれたBellingcat.com調査チームに感謝したい。

Oleksiy Kuzmenkoは2019年4月、TwitterのスレッドでCenturiaに関する初期の発見と観察を共有した。2019年9月、ロシアの国営情報機関Russia Todayが設立したメディアUkraina.ruは、ウクライナの極右を専門とするVladislav Maltsevが執筆したこのグループに関する記事を掲載した。Maltsevの記事は、同グループの主張を俯瞰し、多くの考察を行った。2019年10月、Maltsevは、AFUのメンバーが政府の命令に背き、ドンバスで戦い続けるというCenturiaの主張について報じた。コメントを求められたMaltsevによると、執筆時点ではKuzmenkoのツイートを知らず、独自にCenturiaを発見したという。

Oleksiy Kuzmenko
ILLIBALISM.ORG
イリベラリズム研究プログラムは、今日の世界における非自由主義的な政治や思想のさまざまな顔を、その文化的背景の多様性、知的系譜、大衆的支持の社会学、そして国際舞台での意味合いを考慮に入れて研究している。

出典:https://www.illiberalism.org/far-right-group-made-its-home-in-ukraines-major-western-military-training-hub/

[訳注1] 日輪Sonnenkreuz

北欧を中心に世界中の白人差別主義者が、北欧民族の優位性を主張するシンボルとして日輪を使用している。視覚的に鉤十字に似ており、特に鉤十字の表示が禁止されている地域では、その使用が社会的に受け入れられるため、しばしば鉤十字の代わりに使用される。また、横断幕やポスターの「O」の文字の代わりにも使われる。ウクライナでは、使用者が特定の組織や団体に所属することなく、人種差別的な意見を示すために使われることがある。日輪は、その人気と単純さゆえに誤って使用されることがある。このシンボルは、特に新教皇主義者などによって広く使用されている。そのため、日輪が出現する文脈を調べ、他のヘイトシンボルの存在を確認し、ヘイトシンボルとして使用されているかどうかを見分けることが重要。https://reportingradicalism.org/en/hate-symbols/movements/modern-racist-symbols/sun-wheel

[訳注2] ヴォルフスアンゲルWolfsangel

1910年にドイツの作家ヘルマン・ローエンスの小説『人狼』が出版された後、狼天使はドイツの民族主義者の間で人気のシンボルとなり、第一次世界大戦の勝者に対する抵抗のシンボルとして使われるようになった。ヴォルフスアンゲルはナチス・ドイツで広く使われた。第2SSパンツァー師団「ダス・ライヒ」、第4SS警察パンツァーグレナディア師団、第34SSボランティア・グレナディア師団「ランドストーム・ネザーランド」、ナチのゲリラ活動「Werewolf」、ドイツ国防軍の多くの部隊、国防軍人民慈善団体など、ナチのいくつかの組織や軍のシンボルとなった。

現代のネオナチは、抵抗のシンボルとして使用している。ネオナチのシンボルとして最も一般的なものの一つであり、各国の極右がナチ、ネオナチ、人種差別の指標として広く使用している。アメリカのネオナチ系テロ組織「アーリア・ネイション」をはじめ、多くのネオナチ系組織のエンブレムに含まれている。ウクライナでは、狼煙はナチスの見解を示す印として広く使われており、しばしば特定の組織や団体に所属することなく使用されています。カルパツカ・シチのシンボルにも含まれている。アゾフ大隊に所属するグループは、「国家の理念」を象徴するエンブレムの一部として、ヴォルフスアンゲルの鏡面版を使用している。https://reportingradicalism.org/en/hate-symbols/movements/nazi-symbols/wolfsangel

[訳注3]

1488は、白人至上主義者に人気のある2つの数字記号を組み合わせたものである。最初の記号は14で、”14の言葉 “というスローガンの略語です。”私たちは民族の生存と白人の子供たちの未来を確保しなければならない “という意味。もうひとつは88で、これは「ハイル・ヒトラー」(Hはアルファベットの8文字目)の略である。これらの数字は、白人至上主義やその信条を一般的に支持するものである。落書き、グラフィック、タトゥー、そしてスクリーンネームや電子メールアドレス(aryanprincess1488@hate.net)など、白人至上主義運動ではいたるところにこの数字が使われている。 一部の白人至上主義者は、Tシャツやコンパクトディスクなどの人種差別的な商品を14.88ドルで販売することさえある。この記号は1488または14/88と書かれるのが最も一般的だが、14-88や8814のようなバリエーションもよく見受けられる。https://www.adl.org/education/references/hate-symbols/1488

(UnHerd)ウクライナ、極右民兵の真実―ロシアは、ゼレンスキー軍の危険な派閥に力を与えている

(訳者前書き) ロシアがウクライナへの侵略を正当化するために、ウクライナのネオナチを一掃すること、「非ナチ化」を主張したのに対して西側の政府やメディアが一斉に反発して、ロシアの主張を偽情報だと言いたてたときに、私はとても奇妙に思ったことを思いだす。この戦争以前にウクライナの政権にネオナチが影響力を行使しようとしてきたことや、国内で(あるいは東部で) 深刻な人権侵害を引きおこしてきたことを西側政府もメディアも知っていたのでは、と思っていたからだ。しかし、このウクライナ政権と極右との関わりは、発言のちょっとした表現やニュアンスによってはロシアの侵略を正当化しかねないことにもなる。しかし、やはりきちんと議論しておく必要があると強く思うようになったのは、最近の日本のメディアにアゾフ大隊がネオナチあるいは極右の軍事組織であることを指摘することなく「東部の屈強なウクライナ軍」といった紹介であったり、公安調査庁がアゾフをネオナチ指定から外すなどの歴史の改竄が始まっている。以下に紹介する記事は、UnHerdに掲載されたもの。この問題を非常にうまく扱っていると思う。特に西側がプーチンのネオナチキャンペーンにびびって、ウクライナの権力内部の極右を黙認し、さらに武器まで与えてしまっていることが、戦後のウクライナの統治機構に深刻な影響をもたらすことを指摘しているのは重要だ。ロシアもウクライナもある種のファシズム的な要素を権力に内包させているというのが私の見方だが、そうなると、世界はファシズムに席巻されているということか。かつての世界戦争が帝国主義間の戦争であって、どちらに見方しても帝国主義に見方することになったように、今の戦争はどちらに見方してもファシストに見方することになるのでは、と思う。(ファシズムはやっかいだが重要な概念なので情緒的に使うべきではないが、とりあえず、ここでは「ファシズム」と呼んでおきたい) (小倉利丸)


ウクライナ、極右民兵の真実―ロシアは、ゼレンスキー軍の危険な派閥に力を与えている
Aris Roussinos (UnHerdの海外部門編集者、元戦争記者)

どのような戦争でもそうだが、ウクライナ戦争では、おそらく他の戦争以上に、それぞれの側のネット上の支持者による主張と反論が錯綜している。真実、部分的真実、そして真っ赤な嘘が、メディアのシナリオの中で覇権を争っている。ロシアがウクライナを「脱ナチス化」するために侵攻したというウラジーミル・プーチンの主張は、間違いなく最も明確な例の1つである。2014年のマイダン革命は「ファシストのクーデター」であり、ウクライナはナチス国家であるというロシアの主張は、クリミア占領と同国東部のロシア語を話す分離主義者への支援を正当化するためにプーチンとその支持者によって何年も用いられ、多くのオンライン信奉者を獲得してきた。

しかし、このロシアの主張は誤りである。ウクライナは、不完全ではあるが、真の自由民主主義国家であり、自由選挙によって、2019年にリベラル・ポピュリストの改革者であるVolodymyr Zelenskyyが選ばれるなど、重要な権力交代が行われている。ウクライナは明らかに、ナチス国家ではない。ロシアの詭弁は嘘である。しかし、ロシアのプロパガンダに弾みをつけたくないというウクライナや欧米のコメンテーターの当然の願いが、行き過ぎた修正につながり、最終的にウクライナにとって有益なものとはならない危険性があるのだ。

BBCラジオ4の最近のニュース番組で、特派員が「プーチンがウクライナ国家がナチスを支持しているという根拠のない主張」に言及した。これは、それ自体が偽情報である。ウクライナ国家が2014年以降、ネオナチを含む極右民兵に資金、武器、その他の支援を提供していることは、BBC自身が以前から正確かつ十分に報道している観察可能な事実である。これは、新しい観察でもなければ、議論を呼ぶようなものでもない。2019年、私は『ハーパーズ』誌の取材で、国が支援する極右集団の幹部たちにウクライナで時間をかけてインタビューしたが、彼らは皆、自分たちのイデオロギーと将来計画についてかなりオープンだった。

実際、ウクライナの極右グループに関する最も優れた報道のいくつかは、オープンソースの情報発信源であるBellingcatによるものだ。Bellingcatは、ロシアのプロパガンダに肯定的な態度を示すことで知られているわけではないのだが。過去数年間、このあまり議論されていないトピックに関するBellingcatの優れた報道は、主にウクライナで最も強力な極右団体であり、国家の大盤振る舞いを最も受けているアゾフ運動に焦点を当てたものである。

過去数年間、Bellingcatの記者たちは、アゾフのアメリカ白人民族主義者への働きかけや、ウクライナ国家による「愛国心教育」と復員兵の支援のための資金提供を調査してきた。また、アゾフがネオナチのブラックメタル音楽祭を主催していることや、亡命中の反プーチン系ロシア人ネオナチグループWotanjugendの支援についても調べている。Wotanjugendは非常に周縁な形の秘教的ナチズムの実践者で、キエフ本部でAzovと場所を共有し、前線で彼らと共に戦っており、クライストチャーチ銃撃犯のマニフェストのロシア語版の翻訳と普及にも一役かっている。残念ながら、ウクライナの極右エコシステムに関するBellingcatの貴重な報道は、ロシアとの戦争がこれらのグループにある種のルネッサンスをもたらしたにもかかわらず、現在の敵対行為が始まってから更新されていない。

アゾフ運動は、ウクライナのネオナチ集団「パトリオット・オブ・ウクライナPatriot of Ukraine」の元リーダーであるアンドリー・ビレツキーAndriy Biletskyが、選挙によってロシア寄りの大統領となったヴィクトール・ヤヌコヴィッチに対するマイダン革命の際にキエフの中心部の独立広場を占拠しようとした闘いの中で2014年に創設されたものである。2010年当時、ビレツキーは、「世界の白色人種を率いて、セム人主導の野蛮人に対する最後の聖戦を行う」ことが、いつの日かウクライナの使命になるだろうと主張していた。革命とそれに続く戦争は、彼が長い間切望していた国家の舞台を提供することになる。

右翼セクターRight Sectorなどの他の極右グループと並んで、新生アゾフ運動はウクライナ治安警察との戦闘で外敵としての役割を果たし、121人の死者を出して、革命の成功を確かなものにしたのである。独立広場のすぐ近くにある大きな敷地を国防省から取得したアゾフは、現在コサックハウスと名付けられたその建物をキエフの本部とリクルートセンターにした。アゾフはその後、そのレトリックをトーンダウンさせ、その戦士の多くはイデオロギーを持たず、単にその武闘派の評判に惹かれているのかもしれないが、その活動家はしばしばSSのトテンコップや稲妻のルーンの刺青で身を包み、あるいはナチの秘教的シンボルのゾネンラート SonnenradやブラックサンBlack Sunを身につけていることが見受けられる。ゾンネンラートは、SS幹部がオカルト的な聖地として選んだドイツのヴェヴェルスブルク城でヒムラーのために作られた模様に由来し、アゾフの公式シンボルの一つであるSS Das Reich部門のWolfsangelのルーンのように、彼らの部隊パッチや戦闘員が松明をともす儀式で行進する際の盾に付けられていたものである。

コサックハウスには、ウクライナ警察のパトロールを補佐する民兵組織 National Militia のリーダー、イホール・ミハイレンコIhor Mikhailenkoや、アゾフの国際書記局で知性派の中心人物、オレナ・セメニャカ Olena Semenyakaらアゾフの幹部を何度も訪ね、インタビューしたことがある。コサックハウスには、国の資金で提供する教育講義用の教室のほかに、Azovの文学サロンと出版社「プロミンPlomin」があり、三島由紀夫、コルネリウス・コドレアヌCornelius Codreanu、ユリウス・エボラJulius Evolaといったファシストの著名人の豪華なポスターの下に、若いヒップスター知識人が右派セミナーや本の翻訳にいそしんでいる。

しかし、アゾフの力は銃に由来するものであり、彼らの文学的努力に由来するものではない。2014年、ウクライナ軍が弱体で装備不足だった頃、ビレツキー率いるアゾフの志願兵は、東部のロシア語圏分離主義者との戦いで前衛として戦い、現在包囲されているマリウポリ市を再制圧した。アゾフの東部での活動は、効果的で勇敢な、高度にイデオロギー的な戦士として、国家の防衛者として大きな名声を得、感謝するウクライナ国家の支持を得て、アゾフはウクライナ国家警備隊の公式連隊として編入された。この際、アゾフは有力なオリガルヒであり、2014年から2019年にかけてウクライナの内相を務めたアルセン・アヴァコフArsen Avakovの支援を受けたとされる。

ウクライナの人権活動家も、対立する極右団体のリーダーも、アヴァコフの後援によってアゾフ運動がウクライナの右翼圏で支配的な役割(選挙監視員国家公認の補助警察としての公式機能を含む)を確立するという不公平な立場を得たと、私にインタビューで訴えた。ウクライナはナチス国家ではないが、ウクライナ国家が正当な理由であれ何であれ、ネオナチやナチスに連なる集団を支援することは、この国をヨーロッパの中でも異端な存在にしている。欧州大陸には極右団体が数多くあるが、国家の支援を受けて自前の戦車部隊や大砲部隊を保有しているのはウクライナだけである。

欧米が支援するリベラル・デモクラシー国家と大きく異なるイデオロギーの武装勢力との間のこのぎこちない密接な関係は、過去にウクライナの欧米支援者に不快感を与えたことがある。アメリカ議会は近年、アゾフがアメリカの武器輸送を受け取るのを阻止すべきかどうかで一進一退を繰り返しており、2019年には民主党議員がアゾフをグローバルなテロ組織としてリストアップするよう要求しているほどだ。セメニャカはインタビューで、こうした不安はロシアのプロパガンダに耳を傾けた結果だと苦言を呈し、アメリカがアゾフに協力することは双方にとって有益であると主張している。

その意味で、今回の戦争はアゾフにとって幸いなことであったことは間違いない。ビレツキーが立ち上げた政党「ナショナル部隊 the National Corps」の成果はほとんどなく、ウクライナの極右政党の連合体でさえ、前回の選挙で議会代表の非常に低いハードルをクリアすることができなかった。ウクライナの有権者は、彼らが売っているものを欲しがらず、彼らの世界観を拒否しているだけなのだ。しかし、戦時下においては、アゾフや 同様のグループが最前線に立ち、ロシアの侵攻によって、アヴァコフが国際的な圧力によって辞任した後の下降スパイラルから反転したかのようである。彼らのソーシャルメディアから判断すると、アゾフの武装部隊は拡大を続けている。ハリコフとドニプロでは新しい大隊を、キエフでは新しい特殊部隊(ビレツキーは少なくとも首都防衛の一部を組織している)を、イワノ=フランキフスクなど西部の都市では地方防衛民兵を組織している。

カルパツカ・シチKarpatska Sich(ロマ人などウクライナ西部のハンガリー語を話す少数民族に対して過激な攻撃を行い、ハンガリー政府から批判を浴びた)、東方正教会グループ「伝統と秩序Tradition and Order」、ネオナチグループC14、および極右武装集団フライコルプスFreikorpsのような他の極右集団とともに、ロシアの侵略によってアゾフは以前の名声を取り戻し、通常のウクライナ海兵隊とともにマリウポリで頑強に戦ったことで 英雄の評判を高めることができたのである。ほんの数週間前までは、アゾフを直接武装させないという西側の努力があったが、今では西側の軍需品と訓練の主要な恩恵を受けているようだ。ベラルーシの野党放送局NEXTAがツイートしたこれらの写真では、アゾフの戦闘員がぼかしたトレーナーからイギリス製のNLAW対戦車弾の使い方を教わっているのが写っている。

同様に、ロシアの侵攻まで、西側政府や報道機関は、西側のネオナチや白人至上主義者がアゾフやその同盟国のナチス下部組織と一緒に戦う経験を積む危険性について、頻繁に警告を発していた。キエフに新しく到着したイギリス人を含む西洋人ボランティアの最近の写真には、スウェーデンのネオナチで元アゾフのスナイパーだったミハエル・スキルトMikael Skilltと並んで、アゾフのOlena Semenyakaが後ろで楽しそうに微笑んでいるのが写っている。実際、アゾフとともに戦う西側のネオナチの部隊であるミサントロピック師団Misanthropic Divisionは、現在テレグラムで、ヨーロッパの過激派が志願者の流れに加わり、「勝利とヴァルハラのために」ウクライナで彼らと合流するよう宣伝している。

ウクライナの他の極右民兵と同様に、アゾフは執念深く、規律正しく、献身的な戦士だ。だからこそ、弱いウクライナ国家は、マイダン革命、2014年以降の分離主義者との戦い、そして現在のロシアの侵略をかわすために、最も必要な時に彼らの力に頼らざるを得なかった。海外では、彼らの役割について率直に語ることに対して、ある種の遠慮が新たに生じている。それは間違いなく、そうすることでロシアのプロパガンダに弾みをつけてしまうことを恐れてのことだろう。ロシアがウクライナに干渉しているからこそ、アゾフのような集団が存在するのだ。ロシアの攻撃は、ウクライナを脱ナチス化するどころか、ウクライナ軍における極右派の役割と存在を強固にし、ウクライナ人の圧倒的多数が拒絶する衰えかけた政治勢力を再活性化させるのに役立っているのだ。

アゾフのような集団がもたらす第一の脅威は、ロシア国家にあるわけではない。ロシアはワグネル傭兵団Wagner mercenary group分離主義共和国の極右勢力を喜んで支援しており、また、不満を持つ市民が彼らとともに戦闘的役割を果たすことになるかもしれない西側諸国にとっても同様である。むしろ、アムネスティヒューマン・ライツ・ウォッチが以前から警告してきたように、将来のウクライナ国家の安定に対する脅威なのである。今はまだ役に立つかもしれないが、ウクライナの自由主義政権が崩壊するか、キエフからポーランドやリヴィウに避難するか、もっと可能性が高いのは、ゼレンスキーが何かのきっかけでウクライナの領土を明け渡す和平協定にサインさせられた場合、アゾフのようなグループは国家の生き残りに挑戦して、局所的にでも自らの権力基盤を強化する絶好機を見出すかもしれないのである。

2019年に、私はセメンヤカに、アゾフはまだ自分たちを革命的な運動と見なしているのかと尋ねた。慎重に考えて、彼女は「私たちはさまざまなシナリオに対応する準備ができています」と答えた。もしゼレンスキーが(元大統領の)ポロシェンコよりもさらに悪い人物で、同じようなポピュリストでありながら、ある種のスキルやコネクション、背景を持たずにいたら、もちろん、ウクライナ人は大きな危険にさらされるでしょう。そして私たちはすでに、たとえば(ゼレンスキーが)クレムリンの操り人形になってしまうような場合に、ウクライナ国家を救うために何ができるか、どのようにパラレルな国家構造を構築できるか、これらの参加戦略をどのように調整するか、という計画を立てている。それは十分にあり得ることだからだ。」。

アゾフの幹部は、長年にわたって、ウクライナはリベラルな者、同性愛者、移民からヨーロッパの「奪還」のための跳躍台として独自の可能性を持っていると明言してきた。彼らの大陸横断的な野望が成功する可能性は非常に疑わしいかもしれないが、戦後の荒廃し、貧しく、怒りに満ちたウクライナ、あるいはさらに悪いことに、中央政府の管理外の広大な地域で長年の砲撃と占領に苦しむウクライナは、ヨーロッパで何十年も見られなかった極右過激派の繁殖地となるに違いないのである。

今、ウクライナとゼレンスキーは、国家の存亡をかけた戦いに勝利するために、ナショナリストや 極右の民兵の軍事能力やイデオロギー的熱意を必要としているのかもしれない。しかし、戦争が終わったとき、ゼレンスキーも彼の西側支援者も、自分たちが誓った自由民主主義の規範と真っ向から対立する目標を持つ集団に力を与えないよう、十分に注意しなければならない。アゾフ、伝統と秩序カルパツカ・シチに武装させ資金を提供することは、戦争によって強いられた難しい選択の一つかもしれない。しかし、戦争が終わったときには、武装解除が優先さ れるべきであることは確かである。

シリアで見たように、市民を過激化させるものは、土地を奪われ、爆撃を受け、砲撃されること以外にはないのである。シリアと同様、軍事的有用性のために過激派に一時的に力を与えることは、間接的にせよ、重大で意図しない結果をもたらす危険性があることは確かである。シリアでも、西側の論者たちは、反政府勢力はすべてテロリストであるというアサドのプロパガンダを正当化することを恐れて、後に反政府勢力を共食いさせることになる過激派民兵の台頭を論じることに早くから強いタブーを設けていた。この初期の遠慮は、結局、反政府勢力に有利に働くことはなかったのである。

ウクライナにプーチンに対抗する過激派がいることを率直に認めることは、プーチンの仕事を助けることにはならない。実際、彼らの活動を注意深く監視し、おそらくは抑制することによってのみ、今後数年間に彼らがウクライナの惨状を深めることがないようにすることができるのである。何年もの間、西側のリベラルな論者たちは、ウクライナ国家が右翼過激派に対して目をつぶっていると苦言を呈してきた。同じ論者たちが今度は自分たちで同じことをしても、何の意味もないだろう。

出典:https://unherd.com/2022/03/the-truth-about-ukraines-nazi-militias

付記:下訳にDeepLを用いました。

「戦争放棄」を再構築するために

目次

1. 民衆の安全保障再考 1

1. 軍隊が民衆を守るという「神話」 1

2. ウクライナ戦争のなかで民衆の安全保障をどう提起できるか 3

3. 国家への向きあいかた―あるいはナショナリズムの問題 4

2. 戦時に戦争を放棄する 6

1. 暴力と正義 6

2. 日常の暴力と国家の暴力 7

3. 9条が絵に描いた餅である理由 8

4. 戦争=暴力を越える拡がり 10

5. ロシアの反戦運動とウクライナの反戦運動それぞれにみられる固有の困難とは 10

6. 権力は敵前逃亡を許さない 13

1. 民衆の安全保障再考

1. 軍隊が民衆を守るという「神話」

ウクライナへのロシアによる侵略戦争があからさまな形で顕在化した今年の2月からの1ヶ月半の戦争反対の声の大半は、ロシアの侵略戦争に反対しつつ、侵略に抵抗するウクライナの民衆の武装抵抗をウクライナの軍であれ義勇軍であれ、いずれにせよ、もっと多くのもっと高性能の武器・兵器を提供して武装能力を高めることについては大いに支援するような雰囲気が一般的なように思う。だから別のところ(注)に書いたように、日本の平和運動や大衆運動のウクライナ戦争から得ている教訓は、日本を侵略から守るための自衛力は必要だということになり、そうであるなら、自衛隊をまともな軍隊として憲法上も認めることに前のめりになりつつあるように思う。もはや日本政府と革新野党の間にはほとんど戦争への向き合い方に差がない。

(注)ウクライナ経由ナショナリズムと愛国心をそれとなく煽るマスメディア

軍隊は、国家の「防衛」のために兵士としての民衆(敵であれ味方であれ)を犠牲にするか、国家に敵対する自国の民衆に銃口を向けることを通じて、国家権力の安全を確保しようとするものであって、民衆の安全を確保することは、その従属変数、あるいは行き掛かりの駄賃に過ぎない。ある時期までの日本の反戦平和運動は、自衛隊を違憲とし、一切の武力の保持を認めないことを平和の原則としてきた。しかし、1990年代以降、つまり冷戦終結以降、日本の平和運動は次第に、最低限の自衛力の保持を容認することに始まり、すでに存在する自衛隊と防衛省を合憲とみなすことが常識にすらなってしまった。憲法学者の自衛隊違憲論者は今では少数派だ。(注)

(注)吉川勇一「世論の動向に寄り添うのではなく、それを変えさせる努力が必要なのだ」ピープルズプラン研究所編『9条と民衆の安全保障』、2006年所収。

しかし、私は、むしろ、2000年に入って一時期活発に議論されていた「民衆の安全保障」の主張を今一度想起する必要があると考えている。沖縄の少女暴行事件をきっかけに沖縄で繰り広げられた基地反対運動の高揚のなかで、戦前・戦中・戦後、そして復帰以後の沖縄が経験してきた、自国の軍隊、敵の軍隊、外国の軍隊がもたらした暴力の経験から提起された国家安全保障とは真っ向から対立する民衆の安全保障の提起は、ウクライナの戦争への私たちのスタンスを再確認する上での重要な出発点を与えてくれる。(注)

(注)民衆の安全保障のコンセプトの構築と沖縄の反基地運動については、武藤一羊「民衆が動かなければ戦争はできない」前掲『9条と民衆の安全保障』所収、参照。

2000年7月に出された「<民衆の安全保障>沖縄国際フォーラム宣言」(以下、民衆の安全保障宣言と呼ぶ)(注)は、「国家の安全は民衆の安全と矛盾します。軍隊は民衆を守りません。軍隊は社会の安定を脅かします」として、軍事化された安全保障の問題点を三点にわたり指摘した。第一に、日本の安全保障なるものは「企業利益と、米国とその同盟国の経済的利益を擁護する以外の目的を持っていない」こと。第二に、「自国の軍隊が私たちの日常生活と自国の歴史とを支配し、影響を及ぼしてきた経験から、私たちは、軍隊組織というものが、民衆を保護するのではなく、軍隊自身を防衛し保護するだけであること」、第三に「軍事機構とそのイデオロギーが、しばしばもっとも残酷で暴力的な男性支配、性的な抑圧と搾取に基礎を置いているばかりか、それを永続させ、増殖させている」と指摘した。そして次のように、民衆の安全保障の主体における女性が果たしてきた重要な役割を強調した。

(注)<民衆の安全保障>沖縄国際フォーラムのウエッブが現在でも存在している。 宣言はここ

「軍隊は、しばしば、いけにえとして、またその暴力と支配の対象として、女性、少女、子どもを求め、狙います。軍隊、軍事基地、軍国主義へのもっとも強力な批判が、女性と女性運動から起こっているのは驚くにあたりません。女性の闘いと平和への女性の努力の歴史、そしてとくに、戦争と軍事化のだなかで伝統的な境界を越え、国境を越える女性たちの連帯の成果は、民衆の安全保障のためのオルタナティブなシステムと構造を作り上げ、平和をかちとるよう、私たちを励まし、私たちに教訓を与えてくれます」

軍隊と戦争のなかで抑圧され安全を奪われた民衆自身による民衆の安全を創出する主体の構築こそが目指されるべきであり、そのための手段は非暴力に基くものでなければならないということを強調している。

「私たちは、人種、宗教、エスニシティ、性差、性的指向の差、地域差などを越えて、合流し、民衆の連合をつくり、その中で不平等を永続化し維持するさまざまな構造を変革することで、民衆の安全を創り出そうとつとめます。民衆自身、とくに社会的に抑圧され、安全を奪われている人々こそが、恐怖と不安なく暮らせる民衆の安全保障を創り出す主役です。民衆の安全保障は、人権、ジェンダーにおける正義、エコロジーにおける正義、そして社会的連帯にもとづくものです。民衆の安全保障は非軍事化を要求します。そしてそれを達成する手段は非暴力的なものです。」

そして6点にわたって民衆としての「私たち」が取り組むべき長期的な行動目標を定めている。そのなかには以下のような指摘がある。

「民衆間の争い、また過去の憎しみや猜疑心を、率直な話し合いと相互の働きかけを通じて乗り越えなければなりません。このような紛争は、しばしば軍事機構自身によってけしかけられています。」

「私たち自身の社会の紛争状況に取り組み、地域社会や民族や民衆集団の間に相互信頼と尊敬を築くために活動することが必要です。ある地域社会の安全が他の地域社会の安全を犠牲にすることがあってはなりません。」

2. ウクライナ戦争のなかで民衆の安全保障をどう提起できるか

ウクライナの戦争をどのように判断し、どのようなスタンスで戦争に反対するのかを見定めるためにも上に指摘されている論点は重要だ。ウクライナとロシアの間の国家間の戦争は、同時に、両国の民衆相互の敵意を醸成するだけでなく、それぞれの国内に暮す、相手国の住民たち、とりわけ、ウクライナ東部のロシア語系住民や、ロシア国内のウクライナ系の住民、そして、ロマなどもともと差別と迫害を被ってきたエスニックマイノリティの人々の存在をはっきりと視野に入れた「民衆」の相互理解を構築することが重要になる。

この民衆の安全保障宣言は2000年に出された。2001年9月のいわゆる「同時多発デロ」をきっかけに、その後世界は、終りのない対テロ戦争の時代に入り、日本もまた「参戦」してきた。こうした時代にあって、「地域社会や民族や民衆集団の間に相互信頼と尊敬を築くために活動すること」「ある地域社会の安全が他の地域社会の安全を犠牲にすることがあってはなりません」という上の提起が示している「地域」「民衆集団」は、国家の視点からみれば「敵」とみなされている民衆や地域との相互信頼と尊敬でなければならない。

この国の野党やいままで平和運動や護憲運動の中心を担ってきた人達にとって、この民衆の安全保障がどのくらい真剣に受け止められてきたのか、私には判断できない。しかし、たぶん、いわゆる「平和憲法」を擁護する人達のなかで軍隊こそが民衆の安全を脅かすのだ、ということを明確に自覚して、だから自衛を口実とした武力を一切容認しないという立場をとる人達は、政治の世界でもアカデミズムのなかでも、そして市民運動のなかでもますます数が減ってきている。実のところ、多くの平和運動の担い手たちは軍隊を積極的に肯定しているわけではなく、むしろ軍隊などない方がいいという思いは強い。だが、そうであっても、ウクライナの現実を見せられたとき、「もし日本が侵略されたらどうするのか、そうしたときに自衛隊はやはり必要なのではないか」という保守派や政権側の脅し文句に対して「国家の安全は民衆の安全と矛盾します。軍隊は民衆を守りません。軍隊は社会の安定を脅かします」では答えにはならないだろう。侵略されたときに、国家の安全が民衆の安全と重なりあう状況が生まれる。軍隊は国家の安全を守る上で民衆の安全を守る必要に迫られる。なぜならば、民衆の安全を国家が守るということを現実に証明してみせることこそが国家権力の正統性を支えるからだ。リスクは相対的なものだ。自国軍隊が民衆に対してもたらすかもしれないリスクよりも侵略者によるリスクが上回るとき、容易に自国軍隊のリスクは容認されてしまう。だからこそ、戦争状態を目の当たりにしてもなお、軍隊は私たちを守らないのだから、私たちは軍隊を認めない、と主張しうる思想的な根拠をきちんと議論しておく必要がある。

3. 国家への向きあいかた―あるいはナショナリズムの問題

民衆の安全保障宣言は正しい原則を提起したと思う。しかし、戦争状態や緊急事態(それがいかに欺瞞的であったとしても)のなかで、敵や侵略者の脅威を誇張し煽る自国政府は、必ず、自国軍隊がもたらすリスクを過小評価して民衆に甘受させようとする。いわゆる「敵」の脅威なるものによって人々の不安を煽り、不安に対する唯一の解決が国家による武力であるという軍備強化の古典的なプロパガンダの常套手段を、この宣言は突破しきれたといえるだろうか。正しい原則を提起したにもかかわらず、反戦平和運動のなかの共通理解を獲得することができなかったのはなぜなのだろうか。この問いは、現下のウクライナ戦争でいえば、ロシアがいかに侵略者としての暴力を振おうとも、ウクライナの民衆に軍隊は民衆を守らないという基本的な視点を提起することがどうしたら可能なのか、という問題でもある。この問いは対テロ戦争のなかで、実際に戦場となり戦火に見舞われた国や地域いずれに対してもあてはまる問い難き問いかもしれない。多分、民衆の安全保障を議論してきた人達の間で、こうした課題については様々議論されてきたのではないかとも思う。日本国内のウクライナ反戦のなかにみられる自衛のための戦争への肯定感はこれまでの次元を明らかに越えて、日本の武力行使を容認する合意形成へと向いはじめているように思う。自衛隊違憲論や非武装中立論はもはやマイナーなたわごとの類いにまでランクダウンしてしまったように感じる。これはウクライナで突然起きてきたことではなく、ポスト冷戦期に少しづつ自衛隊違憲論が切り崩され、同時に日米同盟や日米安保体制を疑問視する声もマイナーになってこれらを当然の前提とした上での「平和」の議論が主流を占めてきた過程の上に登場してきたものだ。

この民衆の安全保障宣言ではナショナリズムへの言及がない。宣言には「人種、宗教、エスにシティ、性差、性的指向の差、地域差などを越えて」民衆の連帯を構築すべきとする視点は明言されているが、「ネーション」としての人口集合を越えること、あるいは幅広い意味あいも含めてナショナリズムを越えることについては明示されていない。つまり民衆がネーションとどのように向き合うべきなのか、についての基本的な問題提起が上記の人種が地域差に含意されていると解釈しうるにすぎない。たぶん、このことがこの宣言の原理的な部分に関する大きな限界だったのではないかと思う。軍隊と戦争を論じる以上、ナショナリズムは避けられない課題だ。

国家の安全から区別される民衆の安全保障の創出にとって、そもそも国家とどのように向き合うべきなのか。軍隊は民衆を守らないとして、それでは、国家はどうなのか。国家は民衆を守るのか?国家が民主主義の統治体制をとり、まがりなりにも主権者が「国民」と呼ばれる狭い枠に限定されるとしても、「民衆」に基盤を置くことでその権力の正統性が支えられているのであれば、そうした国家に対して民衆は、軍隊は民衆を守らないが国家は守りうるものとして向き合うのか、それとも、国家もまた民衆を守らないものとして、向き合うのか。民衆の安全保障の考え方の背景には、国家もまた民衆を守らないという判断があったと思う。たとえば武藤一羊は、国連の「人間の安全保障」を批判して次のように書いている。

「私たちが人間の安全保障の最大の弱点だと感じたのは、日常生活における人々の安全が何より大事だと宣言されているのに、それを保障する基本的なパワーがどこにあるのかを語らず、国家が人間の安全を保障するのだと暗黙の内に前提にしていることだった。つまり、民衆自身が自身の安全を守るもっとも大事な行為者と考えられていないこと、「オブ・ザ・ピープル、フォー・ザ・ピープル」はあっても、「バイ・ザ・ピープル」が欠如していることだった」(注)

(注)前掲武藤論文

結局こうなると国家はテロ対策や治安維持から災害、感染症などに至る生活総体を国家国家安全保障に従属させその補完物にしてしまうことになる。この問題は単なる法や行政の制度の問題ではなく、民衆自身が国家をどのようなものと理解し、国家に対してどのように自らがアイデンティティを構築するのか、という国家との向き合い方が問われることになる。国家に依存しない「バイ・ザ・ピープル」を日常生活のなかから実践することは、同時に、民衆自身がネーションを相対化するような生活様式を獲得するということと同義だといってもいい。

この問題はナショナリズムと深く関わる。とりわけ敵対する国家間の摩擦のなかで、民衆が国境を越えて信頼関係を相互に構築するときに、このナショナリズムやネーションの枠組による自他の区別意識は障害になる。この障害をそれぞれの国家はそのイデオロギー装置によって構築しようとするから、こうした意味での国家に「主権者」として巻き込まれている私たちの国家との向き合い方は狭義のいみでの国家安全保障だけでなく、総体としてのこの国が統治する社会のありかた全体に関わる。宣言が「民衆の安全保障を、軍事、外交、政治などの領域ばかりでなく、家族関係、ジェンダー関係、社会運動、文化など日常生活の領域でも追求し、創造するため行動しなければなりません」と指摘していることの意義は、国家が仕切る日常生活領域を、軍事費を削って福祉に回せといった国家に私たちの日常生活領域を従属させかねない要求でいいのかどうか、という問いでもある。戦争する国家はケインズ主義のような国家による福祉と統制を一体化させた統治を展開する。そのなかで民衆の意識は国家による軍事的な庇護だけでなく日常生活上の庇護をも自らの権利だと勘違いしてしまう。実際には国家なしには日常生活すら営めない従属をもたらし、それが戦争への動員の構図をつくることになる。

2. 戦時に戦争を放棄する

1. 暴力と正義

戦争の問題は、必ず正義をめぐる問題を内包することになる。戦争とは国家あるいは集団による暴力だから、暴力と正義の問題と言い換えてもいい。戦争に限らず国家が行使する暴力が関与する場合に、正義は、暴力を正当化するために必ず持ち出される。ところが、国際関係のなかでは、この正当性の根拠としての正義はひとつではなく、国家の数だけ存在する。正義はこの意味において相対的な概念でしかない。にもかかわらず、国家の数だけある様々な正義は、お互い、みずからの正義のみを唯一絶対の不変的正義とし、それ以外を不正義あるいは偽物の正義としかみなさない。結局のところ、正義を主張する複数の主体相互の間に譲れない対立が生じたとき、暴力による解決という事態をまねくことになる。こうして暴力の強い側が、正義を主張する権利を獲得することを暗黙のルールとして戦争が遂行される。国際関係において、正義それ自体が構成される文脈のなかに、暴力を引き寄せ、暴力によってのみその正当性を証明するというルールがあらかじめ組み込まれている。現実には正義は暴力の従属変数でしかない。この現実に比べて、正義という言葉に込められた否定しがたい高邁さが、現実の正義が暴力に加担する悲劇を巧妙に隠蔽してしまう。この意味でいうと、正義とは実は不正義の別名だといってもいいくらいだ。

国家間の暴力と正義の関係をこのようにみてみると、暴力の強さが正義の強さと比例するという単純な構図によって暴力に固有の役割が与えられることになる。こうして軍事力の拡大は正義を主張しうる権利を獲得するための不可欠な前提をなす、ということになる。近代国家は、どこの国であれ、この暴力と正義をめぐる不条理を担うのだが、私たちはこのことに気づきにくい。

2. 日常の暴力と国家の暴力

しかし日常生活のなかでは、私たちは暴力と正義の不条理と常に直面していることに気づいている。女性に対する男性の暴力、親の子どもへの暴力、性的マイノリティに対する性的マジョリティの暴力、宗教的マイノリティに対する宗教的マジョリティの暴力、こうした事態は日常茶飯事といっていい暴力の光景だ。そして、こうした暴力が不条理であることを私たちは理解しており、加害者=暴力の強い側に正義があるとは考えないし、暴力によって正義を実現することにもなっていないことを理解している。いったんこの不条理に気づくと、暴力による問題解決を容認したり正当化する社会の価値観や伝統や文化それ自体の不条理に気付くことになる。

現代の世界体制では、暴力による勝者に正義を総取りさせてきた。暴力の強い者が正義であるということはいかなる学問においても証明されたことがない、奇妙な方程式だ。もっと奇妙なのは、誰にでも日常的な経験からは理解できる力を正義とみなす傲慢な振舞いが、なぜいつまでも国家や集団に対しては容認されたり肯定されるような発想ががどこから生まれ、どうしたらこの不条理をなくすことができるのか、という問題が正面から論じられることはあまりにも多くないことだ。少なくとも、日本の国会で防衛や警察の問題を議論するときに、暴力と正義の関係が議論になったことがどれほどあるだろうか。

近代国民国家は常備軍という暴力装置を持ち、国内的には警察と刑務所を持つことに疑いが持たれることはほとんどない。そしてまた、家庭内暴力、ジェンダー、エスニシティ、宗教をめぐる暴力と正義の構図は、ほとんどの国、地域を越えてグローバルに共通しているようにみえる。この意味で、私たちの日常生活意識のなかの暴力と正義をめぐる構造は、国や文化などの特異性を越えて、より一般的に見出せる構造的な要因に由来すると仮定してみる必要がある。これは、人類の超歴史的な生物学的とか本能的とかと言いあらわせそうな種の特性と結びつけられがちかもしれないが、そうではないだろう。家族やジェンダーといった暴力と正義を生成する関係は特殊歴史的な要因に強く規定されている。現在の状況でいえば、家父長制に基づく資本主義という近代社会がグローバルに普及させてきた国民国家の枠組を越えてグローバルに浸透している共通の構造が暴力と正義の方程式を規定している。日本における暴力の配置をみたとき、日常のなかにある暴力と(欺瞞としての)正義との相関関係に何か特に9条に象徴されるような特別な平和主義的な特徴がみいだせるわけではないことに9条の脆弱さがある。

国家の暴力という問題は、国家がその領域内にある人口に対して、暴力において絶対的に優位にあるか暴力を独占しているという事態そのものが、国家が正義を表象するイデオロギーを支えることになっている。人々の身体的な自由や思想信条の自由を制約したり、もっぱら警察官や自衛官だけが武器を携行でき、裁判によって人の自由や生命まで奪う権利を行使できるのは、国家が正義の体現者だと(建前でしかない場合も含めて)見なされている場合に限って、人々に受け入れられる。暴力の強さは正義を象徴すると単刀直入に言われることはあまりない。しかし国家が暴力を行使する背景には「正義」による暴力の妥当性をめぐる制度的な手続があることを言い訳にして、国家の暴力は正当化される。私生活における親の暴力や夫の暴力の正当化、コミュニティにおけるマイノリティへの暴力も人々の暴力と正義との相関心理という点でいえば、同じものだ。

私たちは、日常生活のなかの暴力の不条理にかなりのところまで気づき、正義の実現の手段として暴力を行使することには合理的な根拠がないことも理解してきた。今、私たちが直面しているのは、この正義と暴力の間の不条理な繋りを国家の暴力に関する限り断ち切ることができていない、という問題だ。人類が有する最も大きな暴力は、現代では国家による暴力である。暴力が正義とは何の関係もないことが明らかであるとすれば、正義の実現の手段として暴力を行使することは、全く見当外れのやりかただ。にもかかわらず、国家に関する限り、この暴力と正義の関係の結びつきは極めて強固だ。

この強固さは、まず、国家が国内統治において行使する暴力に体現されている。暴力を通じた正義の実現の典型は、法を犯した者に対して刑罰を科すという司法制度にある。死刑制度は、正義の名のもとに命を奪うことを国家の特権として認める。同じことは、軍隊による戦争行為にもいえることになる。正義の実現にとって障害となる対象を物理的に除去するわけだが、前述したように、そもそも前提に置かれている「正義」の普遍妥当性を証明することはできない。

3. 9条が絵に描いた餅である理由

暴力と正義をめぐる国家の存在、とりわけ、統治機構としての国家権力が暴力一般をどのように正義と関わらせているのか、という問題の軍事的な側面として憲法9条を理解することが必要だ。憲法9条の戦争放棄は、国家が暴力を放棄することを前提としては構築されていない。国家間の紛争を武力行使によって解決しないというに過ぎない。だから、多くの日本の有権者たちは、他国の軍事行動を羨望の眼差しでみながら、武力行使すべき事態に対して武力行使を禁じられていることに不満をもつ。こうした見方に陥ると、問題解決を武力を含む暴力によって解決するという手段と目的の間にある不条理それ自体を排除する方向で国家権力を再構築することができなくなる。戦後日本の「平和」の限界がここにある。このことが9条を孤立させ絵に描いた餅にしてしまったのだ。

もしそうだとすると、日常の暴力が正義を装うことの欺瞞に気づきながら、なぜ国家の暴力には寛容なのだろうか?国家が正義を体現しうる統治機構であるための様々な「装置」を近代国民国家は考案してきた。なかでも権力による意思決定における民主主義と人間の存在を平等と自由に基礎を置くべきものとする価値観は、権力に正義の装いを纏わせることになったが、だからといって、正義に暴力を委ねることが正当であるということにはならない。正義が暴力を振うことはどこまでいっても、論理的な道筋を与えることはできないのである。とすれば、それでもなお、国家が正義の名のもとに暴力を行使しようとする正当性はどのように人々の意識のなかで妥当なこととして理解されることになるのだろうか。

正義と暴力を繋ぐ理論的な回路がありえないとすれば、残るは、イデオロギー的な正当化しか道は残されていない。他方で、国家を政治的権力の装置とする観点からみたとき、権力は権力としての自己増殖をその本性とするから、国家権力の正義とは、自らの権力の正統性の支えそのものを意味する権力言説ということになる。権力にとって、自らを世界の中心に据えて構築される自己中心的な世界観は、権力の正統性をイデオロギー的に支える重要な柱になる。この柱は、合理的であるだけでは不十分であり、美的であるとともに、普遍性の証とみなしうるだけの歴史的な連続性に根拠をもつことが要求される。合理的であることは哲学に委ねられ、美的であることは文化に、そして歴史的根拠は神話に、それぞれその役割を振り分けつつ、イデオロギーが構成される。こうしたイデオロギーの構成をそのままにして、人々の意識や価値観から正義と暴力を繋ぐ擬制的な回路を断てないまま武力行使だけを放棄する憲法の戦争放棄条項は、逆に人々の意識に、暴力による裏付けのない正義は正義としては実現しえないものでしかない、という諦めの感情と強い暴力への羨望を醸成することになる。

戦争放棄を国家が実現できるかどうかは、近代国家それ自体の本質にかかわる問題なので、むしろ近代国家という統治の枠組そのものの根本的な組み換えなしには、実現できないだろうと思うが、しかし、同時に、国家における正義と暴力の不条理な「繋り」を断つ努力は重要な意味をもつ。警察が拳銃を持ち、裁判所が刑罰や死刑という暴力行使によって正義を体現するという制度そのものに内在する不条理を理解するとすれば、司法警察制度そのものの暴力を最小化することを通じて正義を最大化する、これまでにはない統治機構のありかたの模索には重要な意味があるだろう。権力の暴力の最小化こそが正義の最大化であるという回路が新しい統治の関係を想像しうるという予感は、DVを正当化しない家族関係が確実に家父長制それ自体の基盤をなしてきた男性性そのものに内在する「力」の存在を弱体化させ、家父長制それ自体を解体することはできないまでも相対化させうる契機をもたらす。この日常生活の経験を国家の権力装置に迫ることを通じて、国家という統治機構それ自体の歴史的な使命に終止符を打たせるきっかけを掴むことくらいはできるはずだ。

憲法9条を世界に誇れるものだとみなすためには、日本の国家が有している暴力と正義の関係構造そのものを断ち切ることだ。世界の人権水準にまで至っていない司法警察制度における暴力、たとえば、代用監獄、長期にわたる拘留(人質司法)、死刑制度、個人通報制度の不在などを少なくとも国際法の水準にまで引き上げることができなければ、9条は最悪の戦争正当化の条文に転用されることになるに違いない。たぶん、日本は、みずからのいかなる武力攻撃も、それは武力行使とは認めないだろう。それは「自衛力」の行使にすぎない、ということで正当化されるだろう。プーチンが侵略を「特殊軍事作戦」と呼んで戦争ではないと主張したり、NATOが空爆しても「人道的介入」と呼んで無差別殺戮とは認めないのと同じレトリックを日本は9条という格好のネタを使って実現できる。暴力と正義の欺瞞を見抜くことがなければ9条の戦争放棄条項は意味をなさない。

4. 戦争=暴力を越える拡がり

暴力を行使しないことが戦争に加担しないことを意味しないことは、容易に理解できるだろう。戦争の意思決定をする権力の中枢を握る支配者たちは、まず自らの手を汚すことはない。しかし、彼らは、戦場の兵士以上に戦争の加害者であり暴力の主体でもある。

軍隊を背後で支える兵站の担い手たち、武器を製造する軍事産業もまた、戦争の加担者だろう。更に、兵士たちを精神的に支え、士気を鼓舞するメディアや大衆の戦争賛美の声援もまた戦争への加担行為とみなければならない。自分では人を殺さないが「殺せ!」という掛け声がどのような結果をもたらすのかは、想像に難くない。

戦争を取り巻く環境は、戦場を中心にある種の同心円を描くようにして、戦争を支える構造を描くことができる。勝敗が決せられる戦場の周囲に兵站や補給が位置し、その外に兵員や装備などの供給を担う産業や動員の仕組みがあり、これら全体を経済システムが支えるとともに、法制度が戦争や緊急事態における権力行使を正当化する枠組を提供する。これらの全体がナショナリズムに収斂する感情の共同性に支えられる。権力は、この戦争をめぐる同心円のどこかに局在する実体なのではなく、この構造全体が生み出す「観念」だといった方がいいだろう。戦争への加担とは、突き詰めれば、この社会全体を覆う構造を通じる以上、私たち一人一人が、この加担への責任から逃れることはできない。

5. ロシアの反戦運動とウクライナの反戦運動それぞれにみられる固有の困難とは

ロシアはプーチン政権による強権的な反政府言論の弾圧によって、反戦運動の抑え込みが行なわれてきた。自国の「特別軍事作戦」が実際には侵略戦争であることを見抜いた人々は政治的マイノリティとして、その言論それじたいの犯罪化によって、弾圧・排除されている。言論の自由をめぐる古典的なアプローチが適用できるケースでもある。

ウクライナでも戦争反対は、プーチンの侵略戦争に反対することそれ自体は多数の共通した主張として受容されている。しかし、ゼレンスキー政権の自衛のための戦争に反対する声は少なくとも、ロシア語系住民が多く居住するドンバスを除くと聞こえてこない。侵略者を目の前にし、その暴力に晒されながら、それでもなお「自衛のための武力行使」を選択すべきではない、という主張はほとんど聞かれない。

私たちは、多くの非戦闘員が殺される状況のなかでも自衛のための武力行使は選択すべきではない、ということをどのように説得力をもって主張できるか。たぶん、この問いへの答えを私たちが持てるかどうかが今一番問われている。

この場合、ゼレンスキー政権やウクライナ軍に対して信頼に足る存在なのかどうかが評価基準の重要な要素となるだろう。この点に関しては、少なくとも2.24「開戦」以前、ゼレンスキー政権の成立以後のこの政権の政治と対露、対欧米との関係、そしてドンバス地域の「内戦」状態への関与などを通じて、その評価を出すとすれば、その信頼度は、現在のゼレンスキーへの諸手を挙げての賞賛には遠く及ばない評価にしかならないだろう。特に、ドンバス内戦の収束に深く関わるミンスク2合意へのゼレンスキーの態度や2021年の「内戦」への対応をみると、ドンバスのロシア語系住民への弾圧は人権侵害の疑いが濃厚であり、ゼレンスキーがそもそも戦争を本気で回避しようと考えていたのかどうかは、慎重に判断する必要がある。この問題は、NATOやCIA、そしてまた軍内部と周辺のいわゆるネオナチの勢力の影響力をどのように判断するのかにも関係する。しかしだからといってロシアの侵略は正当化することはできない。軍事侵略という選択肢しか残されていなかったとはとうていいえないからだ。

他方で、もし、ゼレンスキー政権が私たちからみて評価するに足りないという場合、このことを理由にゼレンスキー政権によるロシアの侵略に対する防衛戦争行為を否定できるだろうか。否定すればロシアの侵略行為を肯定しないまでも事実上容認することになりはしないか。

ウクライナの戦争を見るときに、私たちが忘れてならないのは下記の条件だ。

  • 人々の大半は、ロシアの侵略を否定し容認しない立場をとっているとしても、だからといって武器をとって抵抗するという道は選択していない。むしろ多くの人々は、戦場から避難することを選択している。難民となり過酷な将来が運命づけられるとしても戦争に命をかけるという選択をしていない。ウクライナ政府は、成人男性の出国を認めていないために、止むを得ず国内に留まり、直接間接に自衛のための戦争に関与することを余儀なくされている多くの人々がいる。もし、出国停止措置がとられていなければ、もっと多くの男性たちもまた国外に避難することを選択したに違いない。私は戦争に背を向ける彼らの行動にポジティブな意味を見出すことが必要だと考えている。戦争放棄の具体的な行動の核心にあるのは、この戦場からの逃避行動だからだ。戦争放棄とは戦争から逃げることに積極的な意味を与えることにある。
  • この戦争に対して、明らかに、国家や国家に準ずる武装勢力の組織的な暴力の前に、圧倒的に多くの人々は、物理的な力に関しては無力である。こうした暴力に関していえば無力な存在に、より肯定的な価値を見出すものとして、戦争放棄の思想を構築すべきだ。戦争放棄は国家の思想でもなければ国家の規範でもない。これは無力な一人ひとりの人間が暴力から逃れることを正当化するための規範なのだ。物理的な力における無力さは、思想的な無価値を意味しないし行動の無意味をも意味しない。社会が直面している問題の解決を暴力に委ねないということは、自らが暴力の主体にならないということなくしてはありえないだけでなく、自らに代って暴力を代行するようなこともあってはならないということが含まれていなければならない。日本が憲法9条の制約によって武力行使の制約があることから、この制約を解除するために、米軍に代行してもらうことによって、結果として暴力に加担するという戦後日本の欺瞞の平和主義の道を封じる立場を意識的に創り出すことが必要だ。

もし、ゼテンスキーが正真正銘の正義の政権であるとした場合はどうか。こうした間違った仮定を置いて議論することに意味がないように思われるかもしれないが、むしろ、今必要なのは、大半の西側の人々が政府やメディアによって、この間違った仮定を真実だと誤解していることを考えれば、この仮定についても考えておくことには意味がある。

悪の外来勢力が暴力的に正義の政権を制圧しようとしている場合、私たちは、それでも正義を防衛する暴力を否定すべきなのか。この問いへの答えは「暴力を否定すべきだ」である。悪によって正義が倒されることをよしとするということか。正義の政権を支えてきた正義を体現している人々が、この悪によって残虐に扱われ殺されることを私は許容しない。必要な選択肢は、この正義の人々が暴力を回避して生き延びることである。そのために、人々が暴力を駆使することには意味がない。むしろやはり、ここでも一人でも多くの人々が、この暴力の空間から避難することだ。暴力を行使する悪と闘うということは、暴力において圧倒的な劣位にある人々にとって、この悪の影響圏から逃れることそのものえある。避難することは闘わないことではなく、闘争の次元を転換することを意味している。人々が避難することによって、権力の空間構造が国境を越えて再編成される。理想的なことを言えば、悪の支配者たちが支配しようとする瞬間に、支配の対象となるべき人々がその手から逃がれて悪の支配空間には誰ひとりとしていなくなる、ということだ。悪の支配者は、当初の目論見である「支配」を実現することはできず、空間を囲い込んだとしても、そこは政治的にみて無意味で空虚な空間しか存在しないということになる。

空間が権力と政治を内包するためには、人口の条件が必要だが、この条件を可能な限りゼロにすることこそが、暴力に対抗する唯一の道だ。この空虚な場所で、八つ当たりの暴力を思う存分振うがいい。私たちは、彼らの力の及ばない「外野」から見物しようではないか。

6. 権力は敵前逃亡を許さない

実際の戦争状態にあるとき、上述したような展開は、空疎な絵空事でしかない。しかし、戦争によって人々が犬死にを選択しないためには、この絵空事を現実のものにしなければならない。どうすれば現実のものにすることができるかを考えるためには、なにがこの戦争放棄の実践を妨げる要因になっているのかを考えることでもある。

戦争を選択する人々がいるのはなぜなのか。権力者が戦争を選択するということと、一般の市民が自発的に戦争を選択することとは同じではない。市民があえて自らの命を捨てる覚悟をするのはなぜなのか、このことが説明できなければ、放棄を思想的な課題として捉えることもできない。この問題は、近代の戦争の典型でいえば、ナショナリズムや愛国心の問題として捉えられてきたが、ポスト冷戦の時代には、これに加えて、宗教的な信条をも念頭に置くことが必要だろう。他方で、権力者にとってナショナリズムは、権力の再生産に必要なイデオロギー的な要素であって、これは自らの内面に醸成すべきことではなく、社会を構成する人口が内面化できるようにイデオロギー装置を構築するという問題になる。権力者が戦争を選択するのはナショナリズムではなく権力それ自身の自己増殖作用による。

ナショナリズムの信条が集団心理として構築され、これがイデオロギー的な世界観によって正当化されるようなパラダイムのなかで社会の集団的な紐帯が構築されるとき、こうした集団は「国民ネーション」を構成することになる。この「国民」という枠組をまず解除することなしには、戦争放棄を具体的な実践的な構築物として具体化することは難しい。少なくとも「国民意識」を相対化すること、つまり、私の「国民」としてのアイデンティティは、普遍的なものでもなければ宿命でもなく、私の意思によっていつでも「捨てる」ことができるようなアイデンティティに過ぎないとみなすか、「国民」というアイデンティティは虚偽意識以外の何者でもないということを明確に理解して、情動の動員作用を忌避できるような意識をもつことが条件になる。

(マルレーヌ・ラリュエル)プーチン侵略の知的原点:現代ロシアの宮廷にラスプーチンはいない


(訳者前書き)先にヴァロファキスのインタビューを紹介したが、そこでは、もっぱら軍事的な力学の政治に焦点を宛てて戦争の去就を判断するというクールな現実主義に基づく判断があった。ここでは、戦争へと至る経緯の背景にあるもっと厄介な世界観やイデオロギーの観点から、この戦争をみるための参考としてマレーネ・ラルエルのエッセイを紹介する。イデオロギーが残虐で非人道的な暴力を崇高な美学の装いをもって人々を陶酔の罠へと陥れることは、日本の歴史を回顧すればすぐに見出せる。いわゆる皇国史観と呼ばれ日本の侵略戦争を肯定する世界観や天皇制イデオロギーは、これまでもっぱら日本に固有のイデオロギーとして、その固有性に着目した批判が主流だったが、今世紀に入って極右の欧米での台頭のなかで論じられる価値観の構造に着目すると、そのほとんどが、日本がかつて公然と主張し、現在は地下水脈としてナショナリズムの意識を支えてきた世界観との共通性に気づく。ロシアにとっての主要なイデオロギー的な課題は「近代の超克」であり、それは西欧でもなければコミュニズムでもない、第三の道をある種の宗教的な信条と「伝統」として再定義された歴史や民族を基盤に構築しようとしているようにみえる。もしそうだとすると、ヴァロファキスの合理的な戦争終結への見通しはここでは通用しない。もっと長期化するのではないか、という最悪の状況が目に浮ぶ。

ラルエルが紹介しているように、ロシア正教は「あなたの任務は、ウクライナ民族を地球上から一掃することである」という民族浄化に免罪符を与えるものだと報じられている。ロシアだけでなく正教会内部にも大きな波紋を呼んでいるとも報じられているが、宗教的な信条が関わるようなばあい、人口の世俗化の程度にもよるし宗教的ナショナリズムが権力の弾圧の枠組としてどの程度まで有効性をもつのかにもよるとしても、問題は合理的な近代の政治力学の範疇には収まらないかもしれない。この問題は、日本にいる私たちにとっては、日本のナショナリズムが戦争と関わるときにもたらされる果てしない侵略の加害を美化するイデオロギーの問題として、捉えておく必要があると思う。(小倉利丸)


Marlène Laruelle ジョージ・ワシントン大学欧州・ロシア・ユーラシア研究所の所長。

2022年3月16日

西側諸国はこの3週間、プーチンのウクライナ侵攻の動機を理解するのに苦労している。合理的な行動だったのか、それとも狂人の反応だったのか。プーチンは、ある種のエミネンス・グライズ(ラスプーチンのような人物)に触発されたと主張する者もいる。しかし、そう単純な話ではない。

「教祖」は一人もいない。現実はもっと複雑で、悲惨な侵攻を引き起こすために融合した複数のイデオロギー的源があり、そのすべてが彼が信頼する人々や軍事顧問のグループの「法廷」を通じて媒介され、その多くが、力によってロシアの軌道に戻す必要のある国としてのウクライナというビジョンで一致しているのである。

2021年9月に行われたヴァルダイ・クラブValdai Club(ロシアのエリート会議場、ダボス会議に相当)の講演で、プーチンは3人の影響力のある著者に言及した。ロシアから出国した[ロシア革命後フランスに移住:訳注]宗教哲学者のニコライ・ベルジャエフNikolay Berdyaev、ソ連の民族学者レフ・グミレフLev Gumilev、白人移民社会の反動思想家イヴァン・イリインIvan Ilyinである。プーチンはベルジャエフの本を読んでいることはあまり明かさなかったが、他の2人についてはより明確に述べている。

第一に、ユーラシア民族の歴史的運命の共通性と、ロシア民族ナショナリズムとは対照的なロシアの真の多民族性、第二に、「情念性」―生物宇宙エネルギーと内なる力からなる各民族固有の生きた力―の考えである。2021年2月にプーチンが述べたように、「私は情念主義、情念主義の理論を信じている・・・ロシアはそのピークに到達していない。我々は発展の道を歩んでいる…我々は無限の遺伝暗号を持っている。それは、血の混ざり合いに基づいている。”

グミレフがポストソビエトの文化の中でよく知られる存在であるのに対し、イワン・イリインはずっと周縁的な存在であり続けている。イワン・イリインは、ロシアの歴史を脱共産主義化させようとする反動的な思想家や政治家たちによって、最近になって復活を遂げた

プーチンは何度か、ロシア独自の運命とロシア史における国家権力の中心性についてのイリインの見解に言及したことがある。そして、イリインのウクライナに対する激しい憎悪にも気づいているのは確かである。イリインにとって、ロシアの敵は、偽善的な民主主義的価値の宣伝によってウクライナをロシアの軌道から引き離し、ロシアを戦略的敵対者として消滅させることを目的としている。イリインは「ウクライナはロシアの中で最も分裂と征服の危機に瀕している地域である。ウクライナの分離主義は人為的なもので、真の基盤がない。それは指導者の野心と国際的な軍事的陰謀から生まれたものだ」と述べている

しかし、プーチンのウクライナに関するビジョンをイリインだけに求めるのは誤りである。なぜなら、ロシアの思想家にとって、ウクライナはロシアの不可分の一部であり、西欧との対立におけるアキレス腱の一つであると言うのは当たり前のことだからである。ピョートル・トルベツコイはウクライナの文化を「文化ではなく戯画」と非難し、ゲオルギー・ヴェルナスキーGeorgy Vernasky は「(ウクライナ人とベラルーシ人の)文化的分裂は政治的フィクションに過ぎない。歴史的に見れば、ウクライナ人もベラルーシ人も、一人のロシア人の支流であることは明らかだ」と説明した。これは兄弟間の敵意であり、そこには多くの源泉がある。

現代の思想家では、アレクサンドル・ドゥーギンAlexander Duginもプーチンに強い影響を与えたとして、西側の観察者たちは盛んに引用している。そして、ドゥーギンは常にウクライナの独立を激しく非難してきた(「国家としてのウクライナは地政学的に意味を持たない」と彼は『地政学の基礎Foundations of Geopolitics』の中で書いている)。彼は、ウクライナをほぼ完全にロシアに吸収させ、ウクライナの最西部だけをロシアの管轄外におくことを要求した。

しかし、ドゥーギンはクレムリンの理解を得られない。彼はその定式化があまりに過激で、あまりに不明瞭で難解で、ヨーロッパの極右の古典に言及する「高尚な」知的水準の持ち主であり、プーチン政権のニーズには応えられないのである。彼は90年代にユーラシアとロシアを独特の文明とする地政学的概念を最初に提唱した一人だが、その後の数十年間、これらのテーマはドゥーギンの用法とは別に、あるいはそれに反して主流となった。彼は、軍産や安全保障関連機関にパトロンを持つことができたとしても、体制内の多くの市民社会組織のいかなるメンバーになることもなかった。

ロシアの帝国的使命を主張する思想家の中には、ドゥーギンのパトロンである2人の人物がいる。正教会の君主制実業家で、インターネットチャンネル「ツァルグラード」や討論グループ「カテホン」を主宰するコンスタンティン・マロフェエフ Konstantin Malofeevと、ロシア正教会の有力者でプーチンの聴罪司祭の1人と噂されているティホン司教Bishop Tikhonである。

二人とも、「伝統的価値観」の観点から反動的なアジェンダ(中絶反対、先天性主義、軍国主義、ロシアの歴史的役割モデルとしてのビザンチウムの崇拝、若い世代への激しい思想的教化)を推進し、クレムリンに話を聞いてもらおうとしてきた。マロフェエフはロシアの欧州極右や 財界貴族への働きかけの中心人物となり、ティホンは教会とクレムリンの橋渡しをし、その思想的融合を図ることに重点を置いている。

ここで、ロシア正教会の機関であるモスクワ大主教座the Moscow Patriarchateを話題にする必要があるのだが、同教会はウクライナに対して常に曖昧な態度をとり続けている。一方では、教会は教会法上の領土canonical territoryという概念を提唱する。つまり、教会の精神的領土はロシア連邦の国境よりも広く、ベラルーシ、ウクライナの一部、カザフスタンを含むという考え方である。教会の世界観では、東スラブ諸国はすべて、キエフを精神的発祥地とする一つの歴史的国家を形成している。プーチンが2021年の論文で宣言したように、ロシアとウクライナの統一という考えを教会が長い間先行して受け入れてきたのである。しかし大主教座はウクライナに多くの教区を持っていたため、ウクライナの国家としての主権も認めなければならず、ウクライナ正教会の教会としての独立を回避しようとしたが、これは結局2018年にコンスタンティノープル総主教座に認められるに至った。プーチンの宗教心がどこまで本物かはわからないが、ロシア自身の文明が文化の中心的な核である正教に依存していると考えていることは確かだろう。

これには、教会が鮮明に推し進めている「ロシア世界」という概念が加わっているはずだ。もともとは、領土を超えたロシアを意味する言葉だったが、次第にウクライナを含む「ロシアの領土」の再統一というロシアの使命を表す言葉に変化していった。

プーチンの親友であるユーリ・コヴァルチュクYuri Kovalchukは、ロシアの偉大さについて保守的かつ宗教的な見解を持っていることで知られている。コバルチュクはプーチンの側近の中でも最も秘密めいた人物で、国家機関では何の地位もない。ロシアの主要銀行ロシヤRossiyaの筆頭株主であり、複数の主要メディアチャンネルや新聞を支配し、プーチン個人の銀行家とも言われ、大統領の主要な邸宅を建設してきた人物である。プーチンはコバルチュックとコロナウイルス感染症の封鎖期間の大部分を過ごした。コバルチュックは、現在よりも歴史が重要であり、プーチンはロシアの長い歴史の中で自分自身のレガシーを考える必要があるという考えを彼に植え付けたようだ。

しかし、プーチンに思想的な影響を与えた人物を特定できたとしても、プーチンを行動に駆り立てるものは捕らえられない。

ソ連文化全体が数十年にわたって、ウクライナには明確な地政学的アイデンティティがないとされ、この地域(国ですらない:ロシア語でウクライナは「周辺」の意)が数世紀にわたって競合する庇護者の間で延々と揺れ動いたとする軽蔑的な物語を生み出してきた。また、第二次世界大戦中の反ユダヤ主義的な協調主義の汚点を決して「浄化」することができず、深く根付いたウクライナのナショナリズムというビジョンを培ってきた。これらの表現は、ソビエト政権の政治的道具立ての一部であり、多くのウクライナ人を「(ブルジョワ)ナショナリズム」の名の下に弾圧した。また、より非政治的なレベルでは、ウクライナ人を「バンデロヴィッツBanderovites」(ステパン・バンデラ、戦時中のウクライナ民族主義・協力主義の中心人物)と呼ぶジョークを通じて共有されていた。

これらは、一方のロシアと他方のポーランド、バルト諸国、ウクライナとを戦わせる現在の記憶戦争刷新され、再び利用されているのである。2012年以降、歴史の安全保障化がすすみ、ロシアを1945年の勝利の主役とする歴史的真実を確立しようとする法律が数多く制定され、1939年から1941年の独ソ条約と、ポーランド、フィンランド、ルーマニアの一部とともにバルト諸国への侵攻が軽視されるようになった。また、第二次世界大戦に関する別の記憶や、ソ連の指導者の意思決定の正当性を問うようなことは一切処罰された。

このような安全保障化は、憲法に刻まれることで最高レベルに達し、2020年の新改正では、国家が「歴史の真実」を保護する、と宣言している。軍事歴史学会のような多くの国家機関は、記憶戦争を激化させ、したがって、ウクライナのナチス化に関する物語をウラジーミル・プーチンに与える上で中心的な役割を担ってきた。

また、大統領は、たとえ権威主義的、独裁的な大統領であっても、自らの社会の文化的枠組みの外で生きているわけではないことを忘れてはならない。プーチンは定期的に自分の好きな音楽や映画──ソ連のスパイものの古典や愛国的な色彩の強い現代のバンド──を披露しており、彼がテレビを見ていることは推して知るべしである。

多くの国民がそうであるように、彼もまた、反ウクライナ感情を煽る政治トーク番組や、ロシア帝国の偉大さと領土征服を称える愛国映画に酔いしれているのであろう。ロシア帝国とその中でのウクライナ人の従属的役割の記憶は、ロシアの文化生活の多くの構成要素に浸透しているので、彼を鼓舞する教義的テキストを探す必要はないかもしれない。

プーチンの世界観は長年にわたって構築されたものであり、イデオロギーの影響というよりも、西側に対する個人的な憤りによって形成されたものである。ロシア哲学の古典を読むと、ロシアと西欧の歴史的な闘争が強調され、両者の文明的な境界線としてのウクライナの役割が強調されているが、これが彼自身の生活体験の裏付けに確証を与えている。

このように、ロシアがウクライナへの侵攻を決めたのは、間違いなくきわめてイデオロギー的な要素が強い。しかし、この戦争の背景には、ウクライナに関する低レベルの情報収集という別の側面もある。軍事顧問も安全保障局も、この戦争は簡単に勝てると思っているようだ。そして、ここで大統領の仮面が剥がれ落ちる。プーチンは高齢で孤立した権威主義的指導者であり、彼に勝利の可能性に関する現実的な評価をもたらすことを恐れる顧問に囲まれていることが明らかになる。その結果、ロシアは主権を持つウクライナを他のヨーロッパ諸国とともに第二次世界大戦以来最悪の破局に向かって引きずり込むことを加速させているのである。

出典:https://unherd.com/2022/03/the-brains-behind-the-russian-invasion/

付記:下訳にDeepLを用いました。

(ヤニス・バロファキス)ウクライナはこの戦争に勝てない―私たちは、プーチンに出口を与える道徳的な義務がある


(訳者前書き)以下は、ヤニス・バロファキスへのインタビューの翻訳。ウクライナはこの戦争に勝てない、というタイトルは、このインタビューの冒頭でヴァロファキスが断言しているものだ。ヴァロファキスは、この観点をウクライナ支持者たちが忘れがちだと警告している。この指摘は、とても重要な観点だ。ロシアのウクライナへの侵略戦争に対して、徹底して抵抗して戦うことを物心両面で支援しようとすることが反戦平和運動の主流になっているように感じるが、私は、正義を実現するまで戦い続けることは正しい「答え」だとは思っていない。ではどのように考えるべきなのかについては別途私の考えを述べる機会をつくりたいが、ヴァロファキスへのインタビューでは、私の答えとは違うのだが、しかし示唆に富むひとつのありうべき答えが示されている。彼は、政治家としての実務を担ってきた経験を踏まえて、一刻も早く人命の犠牲を増やさないための選択肢をどうつくるかについて、ゼレンスキーを「批判的に支持する」という何とも中途半端なスタンスをとるのだが、逆に、そうだからこそ、ある種の現実主義的な答えを提起できているともいえる。バロファキスは理想主義者ではなく、理念に過剰な価値も置かないことで、命を賭けるだけの価値のあることとはいいがたい妥協や譲歩がいくらでも可能なレベルの政治的な課題に、ウクライナの問題を引き下げよることができている。これは感情的に熱くなり善悪二元論に陥りがちな戦争の議論では重要なスタンスだ。インタビューの最後の方で、そもそもヴァロファキスの出身国であるギリシアもスマントルコとヨーロッパ列強の政治的な打算や妥協のなかで独立を獲得したというその国家の成り立ちを指摘しているところは、興味深い。バロファキスは、プーチンのこの戦争がウクライナのNATO加盟を阻止したという大義名分を与えられることで収束への可能性が見出せるとしているが、本当にそういえるかどうかについては、私はやや疑問もある。また、ウクライナにおけるネオナチ問題についてのヴァロファキスの言及も私には納得できないところはあるが、戦争を止めるための問題提起としては、検討されていい内容を含んでいると思う。(小倉利丸)


ヤニス・バロウファキス

ヤニス・バルファキス 経済学者、元ギリシャ財務大臣。ベストセラーの著書があり、最近の著書では Another Now: Dispatches from an Alternative Present がある。
2022年4月6日

ウクライナで戦争が起きて以来、ギリシャの政治家・経済学者のヤニス・バルファキスは、プーチン擁護派、「ウェストスプレナー」、陰謀論者であると非難されている。しかし、彼はこの紛争について本当はどう考えているのだろうか?フレディ・セイヤーズは、リベラルな温情主義、戦争で利益を得ているのは誰か、ウクライナ人の命を第一に考える西側諸国の道徳的義務について、彼に話を聞いた。


欧米の対露措置に不安を表明したことで、プーチン派とされた経験がありますね?

大いにあります。しかし、はっきり言って、私の痛みは、残虐行為や殺人、プーチンの軍隊によって国全体が荒廃しているときには、私がSNSでどう扱われようと、どうでもいいでしょう。

2001年、私はチェチェンのグロズヌイで25万人が殺害されたことから、ウラジーミル・プーチンに戦争犯罪者のレッテルを貼りました。それは、ロシアの大統領になったばかりのプーチンに名誉博士号を授与する動議を議論していたアテネ大学の評議会の席上でのことでした。そして、私は少数派の一人として反対していたのです。だから、かつて思い切ってプーチンを非難したことがあったので、今回何人かのコメンテーターから “プーチンの便利屋 “となじられたのは、ちょっと意外でしたね。

今回の危機をNATOの拡大だと非難したことが、あなたに対する非難だったのでしょうか。

私が受けた最も的確な批判は、私が「ウェストスプレイン」(これは一種の「マンスプレイン[男性が女性に上から目線であれこれ説明したりする態度:訳注]」のバージョンです)、つまり、東欧の人々に何が彼らの利益になるかを西側目線で語るやり方は東欧を見下している、というものでした。これは大変な言いがかりです。なぜなら、マンスプレイニングは、私たち男性がよくやってしまうことですが私の批判はそういうものではないです。

私は真実を独占しているとは言いませんが、ヨーロッパ人として、世界市民として、例えば、ウラジーミル・プーチンの権威主義的権力は、西側とロシアの間の反感という岩盤の上に築かれており、プーチンはロシア人に対する屈辱を利用した、とコメントする権利があると信じています──NATOの手で、国際通貨基金の手で、です。

90年代には、ロシアのリベラル派や新自由主義者といった改革派でさえ、西側や国際通貨基金に押しつぶされ、1998年にはロシアの男性の平均寿命が75歳から58歳にまで下がるというひどいデフォルトを強いられたことを忘れてはいけません。 これは大惨事、人道的大惨事だったのです。プーチンはKGBの戦略家であり、西側に対するロシア人の鬱積した不満を利用して、恐ろしい帝国を築き上げたの です。

NATOの東欧進出がなければ、このような事態にはならなかったというのが、あなたの主張ですか?

ゴルバチョフとジョージ・ブッシュの間には、NATOが東方へ拡大しないことを条件に、ゴルバチョフが東欧を独立させるという合意があったのです。これはよく知られていることです。プーチンがロシアを再軍国主義的な姿勢に押し戻し、NATOとロシアが常に敵対関係を築くことになることを考えると、両者の間に中立地帯を設けるのは良い考えとは言えないのでしょうか。ロシアの核兵器とNATOの核兵器が隣り合わせになることを本当に望んでいるの でしょうか?私にとっては、東欧の中立は二番手ではなく、一番手になる。東欧の人々にとっても、NATOにとっても、そしてロシアにとっても、できる限り緊張を緩和することができるのです。

しかし、いずれにせよ、私が間違っていると言ってくれる東欧の進歩的な人物を受け入れることは十分に可能です。私が耐えられないと思うのは、「お前は西側諸国の人間で、東欧で起こるべきことについて意見すること自体が間違いだ」と言われるような寛容さのなさです。これでは、ヨーロッパ主義の基礎ができあがらない。

戦争が始まると、真実はあっという間に死んでしまう、と言われます。しかし、それは単なる真実ではない。私たち西洋人が持っているのは、文明的で合理的な議論をする能力なのです。

対ロシア制裁についてはどうでしょうか、支持しますか?

独裁的な政権に制裁を加えると、独裁者ではなく国民が被害を受けるのはいつものことです。特にプーチンの場合はそうです。プーチンには軍資金があり、それはかなり大きい。そして、彼はロシア国民の窮状など気にも留めない。しかし、これだけははっきりさせておきたい。私は制裁に反対しているわけではありません。ロシア軍が立ち退いた町や村、ウクライナ東部の沿岸部の惨状を目の当たりにして、「この人たちと単純に取引したくない、ヨットやお金にアクセスさせたくない」と言う人がいるのはわかりますが、私はそれでいいと考えています。

しかし、結局のところ、西ヨーロッパの貧困層は、物価、特に電気料金の上昇によって、さらに多くの苦しみを味わうことになると思います。基軸通貨であるドルは、非常に大きな圧力にさらされていると思います。ですから、アメリカの政権は、ロシア中央銀行をドル決済システムから切り離したことを後悔することになるのではないでしょうか。

しかし、今この瞬間、そんなことはどうでもいいのです。なぜなら、重要なのは戦争だからです。私が夜も眠れないのは、人々が殺されていることです。どうすれば、ロシア軍の即時停戦と撤退を実現できるのでしょうか?

ウクライナを支持すると称し、私の立場を攻撃している人々について私が呆れるのは、彼らが、ウクライナが戦争に勝ってプーチンを打倒する可能性を真剣に考えようとしているように見えるからです。これは完全に絵空事です。そんなことを信じている人は、何十万人ものウクライナ人の命を危険にさらしているのです。

せいぜい膠着状態になるのが関の山です。ウクライナの人々にとって、膠着状態は最悪です。なぜなら、プーチンが何をしようとしているか分かっているからです。彼はグロズヌイでやったことをやるつもりです。彼は放棄する必要がある地域を徹底的に破壊するつもりです。ウクライナ軍は非常に英雄的であり、私は彼らの抵抗に賞賛を送りたい。しかし、彼らは戦争に勝つことはできない。この痛々しく、殺人的な膠着状態が延々と続くことを本当に望んでいるのだろうか。米国に扇動されたロシアの政権交代に、本当に介入したいのだろうか。米国が政権交代を試みるたびに、我々は完全な破滅を経験してきた。アフガニスタン、イラク、リビアを見ればわかる。そして、この国は核保有国です。この火と、この核の火と、戯れていたいのだろうか。

直ちに停戦すべきです。ゼレンスキー大統領は、その信用に応え、私が最初の日から行ってきた提案を採用しました。ジョー・バイデンとウラジミール・プーチンの間で──もちろん、ゼレンスキーと、欧州連合も参加して──非常にシンプルな取引、合意を行うべきだという提案です。ロシアはウクライナから撤退し、その代わりに西側は制裁をやめ、ウクライナは西側の一部にはなるがNATOの一員にはならないと約束する。

EUの一員になることも含まれるのですか?

プーチンは逃げ道を求めているのです。米国とゼレンスキー、そしてEUが一緒になって、彼に出口を与えなければならないと思います。もし彼が勝利を収めたと見なすことができれば、つまり自国民に勝利として提示できるもの(「私はNATOの東方への拡張を終わらせた。私はNATOの拡張を止めるために戦争をし、成功させた」)、私たちは彼にこの出口を与える道義的な義務があると思います。今、彼がそれを受け入れるかどうかは保証できません。しかし、西側諸国は、殺戮を止めるために、彼にこの方法を提案することができます。

数週間前までは、プーチンに逃げ道を提供することは、人気を博したかもしれません。しかし、今は状況が違うように感じます。キエフ周辺からロシア軍が全面撤退し、本格的な敗北のようなものが実際に見えてくるかもしれないという確信が高まっているようです。それについてはどうお考えですか?

それは狂気の沙汰です。マリウポリやクリミア、ドンバスでウクライナ軍がロシア軍の全軍を撃破できるわけがない。それができれば万々歳だ。ゼレンスキーがそれを信じているとは思えない。誰も信じていない。そう、プーチンがキエフに堂々と乗り込まなかったのは喜ばしいことです。彼は血まみれになったが、それはとても良いことだ。今こそ平和を訴えるべき時です。

西側諸国がユーゴスラビアのひどい内戦の後にそうしたように。スレブレニツァを思い出してください。ボスニア全土で残虐行為が行われました。ボスニアだけでなく、クロアチア、ウクライナ、ユーゴスラビア内の内戦で荒廃したさまざまな地域で。しかし、アメリカ大統領の支援のもと、西側諸国はミロシェビッチと話し合い、ボスニアに不完全な平和を作り出し、それが今に続いているのです。それは間違いだったのでしょうか?一方が他方を完全に消滅させることを願いながら、血を流し続けるべきだったの でしょうか。私はそうは思いません。

ウクライナの戦争を支援するために送られる武器の量を大幅に増やすという話もあります。あなたはそれに反対なのでしょうか?

ウクライナ軍が抵抗している間、私たちは彼らを軍事的に支援する道徳的義務があると思います。私やあなた個人ではなく、欧米がウクライナの抵抗勢力に武器を送ることを批判するつもりはない。しかし、抵抗することの要点は、和平を訴えられるところまで到達することです。誰もが少し不満に思うような協定を結ぶことができれば、それが最適な協定となるのです。例えば、ウクライナはNATOに加盟せず、武装解除をする。ロシアとウクライナの国境の両側には非武装地帯ができるかもしれない。クリミアは10年後くらいに議論すればいい。

このような合意は、ウクライナのEU加盟を妨げないという理解で補強することもできるでしょう。まあ、その合意は、双方の軍拡競争を終わらせることと密接に関係しているの ですがね。だって、もしかしたら明日のプーチンは中国軍の支援を受けるかもしれないんですよ?そんなエスカレーションを私たちは本当に望んでいるのでしょうか?

そのような発言をすれば、裏切り行為と見なされるようなことが、突然起こってしまったのです。

戦争が始まると、私たちの頭は混乱します。戦争が始まると、私たちは冷静さを失い、温情主義が主流になります。今、ヨーロッパには絶望している冷静な人たちがいることは間違いありません。しかし、彼らは声を上げることができない。ドイツでは、連邦共和国政府の中にそれが見て取れます。自分たちの髪を引っ張っているのです。なぜなら、もし彼らが声を上げれば、戦争屋が大はしゃぎして、すぐに責任を取らされるからです。

だからこそ、私たちは団結して、議論にわずかな理性を取り戻し、今重要な唯一のことに集中することが重要なのです。それはお金ではありません。貿易でもない。天然ガスでもない。ウクライナの人命だ。どうすれば人の死を止められるのか。なぜなら、もしこのままでは、ウクライナの人々の命よりも、ウクライナ人がNATOに加盟する理論上の権利を優先させ、人々の命よりもウクライナがEU内やNATO外の西欧民主主義国家として繁栄する機会を優先させるような人たちが、泥沼を作り出すことになり、その結果二つのことが確実に起こるからです。第一に、救えるはずの何千人もの人々が犠牲になること、第二に、ウクライナは砂漠と化すということです。

あなたが言うように、この戦争を先導する人々は、主に自らをリベラル派と表現するのでしょうか?

ええ、その通りです。しかし、それは今に始まったことではありません。アメリカがイラクに侵攻しようとしたとき、私が生涯尊敬していたクリストファー・ヒッチェンズのような左翼人でさえ、リベラルな帝国主義者になったのを覚えています。彼はイラクに侵攻して民主主義を広めようと意気込んでいました。1960年代初頭を考えてみると、当初ベトナムを占領することにある種の意気込みを見せたのは、JFKでした。

一部のリベラルな帝国主義者やリベラルな戦争支持者が、最終的な勝利が得られるまで戦争する、まるでモスクワに侵攻することが想像できるかのようになることを、私は恐れているのです。そこには何か、欠けているものがあるような気がします。金の流れを追ってみましょう。アメリカは非常に複雑な経済を持つ国です。そして、均質ではないのです。戦争や原油価格の高騰により、アメリカ経済の各分野は苦境に立たされています。シリコンバレーは、非常に困難な状況に置かれているので、満足していないのではないでしょうか。銀行部門、ウォール街でさえ、何が起こっているのか、本当に喜んでいるわけがないのです。

しかし、兵器を売っている企業は、パーティーを楽しんでいるのです。ドイツのオラフ・ショルツ首相は、1000億ユーロ相当のアメリカの装備を注文しようとしています。ニューメキシコやミネソタ、テキサスで採掘された石油やガスを供給している人は、EUとアメリカの間で交わされるLNG(液化天然ガス)の新しい取引を見て、嬉しそうに手を揉んでいることでしょう。なぜなら、アメリカでは瀕死の状態だった産業が、突然、大きな生命を得たのですから。これは陰謀ではありません。リベラルな帝国主義者がいて、このリベラルな帝国主義で大儲けしようとする人たちがいて、これらを一緒にすれば、紛争を維持することに賛成する非常に強力な有権者がいることになるのです。

多くの人は、今の話を聞いて、スーツを着た邪悪なアメリカ人が取締役会のテーブルを囲んで、利益を得るために戦争を起こそうとしている、という陰謀に近いと思うでしょう。

陰謀ではありません。私が言ったことは何も陰謀ではありません。武器を売れば大儲けできるというのは事実です。米国で採掘された石油やガスを売っているなら、大儲けしていることになります。私たちはそれを知っています。

でも、因果関係はないでしょう?それを観察するのもひとつの方法ですが、その人たちは意思決定をする立場にないんです。

もちろんです。だって、10年前になぜそうしなかったのか?10年前ならやる気満々だったはずです。誰もプーチンに侵攻を強要していません。彼が侵略したのはNatoのせいではない、たとえNatoは彼が力を発揮できるような状況を作り出したとしても、私の考えではそうだ。ウクライナに侵攻したのはプーチンの犯罪的な選択だった。そして、それがウクライナ人の軍事的抵抗を生んだのですが、私はそれを高く評価します。そして、このような自分とは関係のない動きに便乗して、政治的、金銭的な意図など、特定の動機を持った人たちが集まってくる。それで、全体が勢いづくのです。これは陰謀論ではありません。これは陰謀論ではなく、何が起きていたかを合理的に分析したものです。

では、ウクライナの人気者で成功した大統領をどう扱えばいいのか。彼は、国際的な注目を集めるのに、信じられないほど効果的でした。彼を支援すべきなのか?批判すべきなのか。

私たちは、批判的に支持すべきなのです。私はゼレンスキー氏の経歴を追ってきました。モスクワと和解し、ウクライナの寡頭制や極右勢力を排除することを公約に掲げて当選したのは興味深い。その点には注意しなければなりません。彼はこれに非常に大きな失敗をしたことも事実です。彼が闘うつもりだったオリガルヒが、事実上、彼を支配してしまったのです。彼の統治は容易ではありませんでした。そして、オリガルヒは、ゼレンスキーを屈服させることで、何とか国の支配を維持することができたと言う人もいる。

マリウポリのネオナチ・アゾフ大隊などは鉤十字を掲げています。ゼレンスキーは彼らを追い出したかったのだろうが、できなかった。しかし、そんなことはどうでもいい。なぜなら、ある国が侵略されたとき、私は侵略された人々を支持し、その指導者を支持する当然の義務を感じるからだ──たとえそれが、私が彼らの一員であったとしても投票しなかったであろう人物であったとしても、だ。

しかし、欧米の直接的な軍事介入を促すゼレンスキーによるあからさまなキャンペーンはどうでしょうか。

彼は侵略されている国の指導者なのだから、世界の国々に援助を求めるのは至極当然のことでしょう。核兵器による大惨事につながることを理解していても、NATOが介入してくれば、彼は喜ぶにちがいありません。私たちに介入を求めるのは彼の仕事です。

しかし、彼の名誉のために言っておくと、彼は他のこともやっている。彼は中立的な解決策を受け入れているのです。そして、 ロシア人との議論や交渉に参加している。現実的に考えて、EUは私たちの想像の産物です。私たちはあまりにも分断され、実際には非当事者なのです。ゼレンスキーがプーチンとの交渉に必要な後ろ盾となるのは、アメリカだけなのです。

それに対して人々が異を唱えるのは、小国に頭越しに決断を迫るような胡散臭さがあるためです。ウクライナの人々が何を望んでいるかは、どちらでもありません。

私の国だって、1820年代後半にそういう取り決めがなかったら、存在しなかったんです。私たちは400年、500年もオスマントルコの支配下にあったのです。私たちは独自の革命を起こし、オスマン帝国軍に対して独自の抵抗を行ったのです。結局、ギリシャはどうなったのでしょうか。イギリス、フランス、ロシアといった列強が、オスマン帝国と交渉した結果、ギリシャが誕生したのです。そして彼らはこう言った。「ギリシャは独立国家となり、オスマン帝国と西洋の間の緩衝地帯のような存在になる」と。そして、私たちは存在するチャンスを与えられたのです。

ウクライナへの侵攻に反対しつつも、欧米の関与に深い不安を感じている人々へのメッセージは何でしょうか?プーチン支持者と呼ばれたとき、どう反応すればいいのでしょうか。

寛容であることです。最近、すでに多くの反感を買っているので、誰も敵に回してはいけないと思うのです。冷静さを保ち、プーチンの軍隊に対抗するウクライナのレジスタンスを支持すること。軍国主義や永久戦争という名の沈黙に屈しないように。そして、常に勝利を見据えること。それは、即時の平和とロシア軍の撤退、そして中立的で民主的なウクライナの立ち直りを、私たち全員が支援することでしかないの です。

https://unherd.com/2022/04/ukraine-cannot-win-this-war/

前代未聞の弾圧を受けるロシアの反戦デモ

以下はAvtonomに掲載されたロシア国内の反戦運動と権力による弾圧についてのレポートです。Avtomomはロシアとウクライナを拠点とするグループで、「直接民主主義、自治、連邦主義などの原則に基づいたリバータリアンコミュニズム(自由社会主義)の実践を目標とする地域のアナルココミュニズムの団体」と自己紹介しています。ロシア国内の反戦運動についての情報は日本でも様々紹介されているが、この記事はロシア国内のフェミニストたちの活動に注目するとともに、ロシア警察、治安機関の弾圧や弾圧目的の法制度がいかに過酷な状況をもたらしているかについても言及している。丁寧なリンクもある。(小倉利丸)

3月5日、モスクワ北東部の小都市イワノボの公共広場に、手製の看板を掲げた一人ピケが立っていた。”*** *****”. これは、プーチン大統領のウクライナ侵攻を戦争と呼ぶことが刑罰の対象となり、ロシアの独立系メディアの最後の痕跡が放送中止するという検閲の新しい波を暗示している。前日、最高刑期3年の「ロシア軍の信用毀損」禁止の新法がロシア国会で可決され、警察がこのスタンディングの抗議者を逮捕したのは、この法律を理由にしたものだった。その後も、アスタリスクだけの看板を掲げたり、白紙を掲げる抗議者を逮捕するために、同じ法律が使われた。ロシアの人権メディア団体OVD-Infoによると、3週間前の開戦以来、少なくとも14,906人が侵攻抗議を理由に逮捕されたという。

原文はAvtonomが発表した。

政府の弾圧が厳しくなっているにもかかわらず、ロシア全土で戦争に対する目に見える分散した抵抗が起こっている。デモ隊は少なくとも150の都市で抗議行動を起こしている。彼らは公共スペースに反戦の落書きをし、一人ピケット(最近まで、政府が大規模な抗議活動の許可を差し止めたとき、一個人が反対意見を表明する安全な方法だった)を張り、何千人もの参加者を集めた無許可のデモ行進に参加した。これは首都に限った抗議運動だとは言えない」と、旧ソ連のアナーキストとリバタリアン共産主義者の運動『自治行動(AD)』のメンバーが暗号化された電子メールサービスを通じて私たちに書いてきた。「カリーニングラードからウラジオストクまで」、言い換えれば、ロシアの最も西から最も東の国境まで人々が通りに出たと述べている。このメールには次のように書かれている。「人々は、次々に明かになる恐怖に対して反対意識を共有することによって、街頭に繰り出した。『戦争は止めなければならない、プーチンは退陣すべきだ』という以上の政治的信条を共有しているわけではない」(ロシアで話を聞いた活動家たちは、反戦の意見を表明すると刑務所に入る恐れがあるため、全員匿名を希望した)。

ADによれば、反戦デモにはナチスのレニングラード封鎖を生き延びた高齢者や幼い子どもを持つ親など、ロシア民衆の多世代が参加しているが、デモ参加者の大半は30歳未満で、10代や10代もかなり参加しているという。40年前にボストンで始まり、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアに支部を持つビーガン反戦団体「Food Not Bombs」の若い主催者は、彼らが住むロシアの主要都市では、「多くの大人は無関心かプロパガンダに洗脳されている」が、若い人々は、確証はないとはいえ、現在の弾圧以前に国家統制のないソースからニュースを探す傾向が強かったと言う。

ロシアの政治理論家であり活動家であり、ニューヨークのニュースクールの博士課程に在籍するアナスタシア・カルクAnastasia Kalkは、Zoomコールで「これらの抗議は、既存の活動家のネットワークを利用しながらも、ほとんどが自然発生的で分散的です」と語っている。同時に、参加者のなかには、サンクトペテルブルクを拠点とするフェミニスト集団「Eighth Initiative Group(EIG)」や社会主義フェミニスト「SocFem Alternative」など、長年活動しているグループもおり、それらのコミュニケーションチャネルは、チラシの掲示やデモ隊の動員などで地元で活用されてきた。EIGのあるメンバーは、テキストメッセージの中で、緊密に結びついたフェミニストの親密なグループは「コミュニティを形成し、確立された絆」を持っており、それは「新しい脅威に直面したときに活性化」できる、と述べている。抵抗の最初の組織的な呼びかけは、ロシアとロシアのディアスポラ内のフェミニストの友好関係にある諸団体による新たな運動フェミニスト反戦レジスタンスFeminist Anti-War Resistanceからのもので、抗議行動に一定の組織性を持たせようとするものである。Kalkが翻訳を手伝ったこの運動のマニフェスト[日本語訳、こことかここ:訳注]では、「ウクライナの戦争とプーチンの独裁に反対するオフラインとオンラインのキャンペーン」を呼びかけている。

この抗議運動は、10年以上にわたって積み重ねられてきた抑圧の文脈の中で行われている。2011年と2012年に行われた不正な議会選挙結果に端を発した反政府デモの大波の後、プーチンは2013年に2つの抑圧的な新法を成立させ、その権力を強固なものにした。1つは、同性愛者の権利や同性間の関係の存在について公に議論することを違法とする法律。もうひとつは、フェミニストのパンクグループ、プッシー・ライオットPussy Riot’がモスクワの救世主キリスト大聖堂[救世主ハリストス大聖堂]で行った反プーチン抗議パフォーマンスをきっかけに、「宗教的感情に対する違反」を最高3年の禁固刑に処するものだ。どちらの法律も、プーチン政権とロシア正教の結束を固め、女性やLGBTQ+の人々に対する国家の暴力に道徳的な援護を与えるものだ。亡命したロシア人活動家で学者のリョーシャ・ゴルシコフLyosha Gorshkovは、RUSA LGBT(ロシア語圏アメリカLGBTIQA+協会)の共同代表として、反同性愛法が現在の弾圧の波の土台を作るのに役立ったと指摘している。政府は、まず社会から疎外されたコミュニティをターゲットにすることで、「世間の様子を伺った」のだ。

カルクは「正確にいつ事態が本格的に悪化したのかを言うことはできない」としながらも、2011年以降、「毎年、悪化の一途をたどっている」と指摘する。5、6年たつうちに、「大規模なデモを組織できることを誰も覚えていない状態になった」と彼女は語る。私たちの取材では、年配のロシア人活動家から、権力を強化し、社会から疎外された人々に対する暴力を合法化したプーチン政権を阻止するのに十分なことをしてこなかった、という後悔と怒りの言葉を何度も耳にした。「私の世代の多くは、ポジティブな政治的変化への希望を失っていました」と、2012年と2013年に抗議行動に参加したモスクワの30代の女性、ソーニャは書いている。

プッシー・ライオットのマリア・アリョーヒナMaria Alyokhina、ナデージダ・トロコンニコワNadezhda Tolokonnikova、エカテリーナ・サムツェビッチYekaterina Samutsevichといった有名な活動家の裁判を含む抗議行動への弾圧には、メディア企業や市民社会団体の閉鎖と検閲が伴った。TV Rainのような独立系テレビ局は放送を打ち切られ、インターネットに移行させられた。同時に、ロシアの左派グループは、組織化および情報発信の戦略を調整した。たとえばADは、「(会員制、地域支部などを持つ)組織のネットワークから、ウェブサイト、ソーシャルネットワーク、ポッドキャストを持つメディア集団に変貌した」とメンバーは書いている。しかし、独立系オンラインメディアの成長に伴い、国家はブロガーやYouTuber、そして独立系メディアのウェブサイトやTwitterなどのソーシャルメディアプラットフォームをホストしているロシアの通信事業者ターゲットにした。ウクライナ侵攻を控えた2021年末には、1990年代から放送されていた愛すべきラジオ局「Echo of Moscow」など、少数の独立系メディアしか残らなかったが、これらも放送を続けるために政府に大きく妥協をした。

プーチンのウクライナ侵攻以来、抗議者たちはオンライン・ネットワークを利用して嘆願書やデジタル・チラシを配布し続けているが、街頭にも戻ってきている。EIGの主催者は、「街頭でのアジテーション、ビラ、ステッカーが勢いを増している」と指摘した。FNBのオーガナイザーも、この意見に賛同している。「私たちは行動に出て、落書きやビラやステッカーを使って、戦争に反対するよう人々を扇動している」。

しかし、主催者は、抗議に人々を集めようとするときでさえ、デモ参加者を危険にさらすことを避けようとしている。3月6日3月13日にロシアの数十の都市を席巻した無許可の路上抗議行動は今も続いているが、フェミニストの主催者たちはより安全なタイプの行動を求めている。例えば、Feminist Anti-War Resistanceは、無料のメッセージングアプリTelegramの公開チャンネルで、国際女性デーを取り戻すことを呼びかけた。3月8日、ロシア全土(およびソビエト連邦後の移民コミュニティがある場所)で、孤独な抗議者たちが、戦争に対する抵抗の表現として、第二次世界大戦記念碑に静かに花を供えた。ある者はウクライナの国旗の色を表す青と黄色の花を残し、またある者は花束に反戦のメッセージを添えた。主催者は、警察がこの孤独な行動を見過ごす、あるいは愛国心と解釈することを期待した。Telegramチャンネルでは、参加者が写真を共有し、記念碑に到着して他の花束を見つけると、孤立感が和らいだと述べている。

抗議者がどのように自分の意見を表明しようとも、戦争に抵抗する者にとって投獄は非常に現実的なリスクだ。抗議者は常に「フーリガン」や「無許可の街頭行動」で逮捕される可能性があるが、「ロシア軍の平和維持活動の信用を傷つけること」を犯罪とする新法の下では、一度目の逮捕は罰金の対象となり、二度目の逮捕は「街を二度散歩しただけで3年の刑事罰につながる」(ADメンバー)という。カルクは、このような法律は恣意的に執行されていると強調する。「街頭抗議行動で逮捕されても、何もされないこともあれば、15日間、2年の刑に処せられることもある。警察は多くの場合、誰でも逮捕してしまうし、ベテランの活動家でない人も無作為に捕まえてしまうのです」。

こうした散発的な路上での逮捕に加え、政府は組織的に主催者を標的にしてきた。3月6日のデモの前日、EIGのフェミニストを含む有名な活動家の家に、軍国主義の連邦警察部隊(頭文字をとってOMONと呼ばれている)の警官が押し入った。「逮捕後に何が起こるかは、どの部署に拘束されるかによります」とADは説明する。「ある部署では、丁寧に尋問し、パスポートのデータを集めて、釈放される可能性があります」あるいは、デモ参加者アレクサンドラ・カルジスキフKaluzhskikhや他の女性たちは、3月6日のデモで拘束された後、モスクワ南西部のブラテエヴォ警察管区で殴られ、水をかけられた。彼らに使われたような戦術を、尋問者が用いることもできる。カルジスキフの拷問を密かに録音した記録は、ロシアに現存する数少ない独立系出版社Novoya Gazetaに掲載され、米国の雑誌n+1が翻訳した。この録音では、尋問官がカルジスキフの顔や頭を殴っているのが聞こえます。「彼らは誰を殴り、誰を拘束しようが気にしない。最近、妊婦まで拘束されたと聞いた」とFNBメンバーは書いている。このFNBメンバーは、すべての管区がすでに逮捕されたデモ参加者でいっぱいだったために、郊外に車で移送された。「無防備の人々に嫌がらせをし、虐待すること、それが彼らの仕事だ」とFNBメンバーは書いている。

逮捕の脅しや拘束中の身体的虐待のほかにも、政府がかけることのできる圧力はある。私たちが話を聞いた主催者の一人は、最近逮捕された後、上司が警察の注意を恐れたため、仕事を失ってしまった。フェミニスト反戦レジスタンスのTelegramチャンネルによると、ロシア連邦文化省は、さまざまな文化施設の館長に圧力をかけ、戦争反対の署名活動をした職員のリストを要求しているとのことだ。すでにレイオフも始まっている。Telegramのフェミニストやアナーキストのチャンネルでは、職場で反戦の意見を表明したことで標的にされたらどうするかというチラシが出回っているが、こうしたチラシを回すことさえ非常に危険なのだ。戦争が始まって数日後、ロシアの通信規制当局は、Echo of MoscowとTVRainが放送で「戦争」という言葉を使用したことを理由にブロックした。また、ロシア軍に関する「フェイクニュース」の出版を禁止する新しい法律では、15年の刑期が課すことができる。さらに政府は、外国組織に援助を提供した場合、反逆罪で最高20年まで投獄できるという休眠中の法律の復活も公表した(独立系ジャーナリストは、この法律が自分たちを標的にするために使われる可能性があると考えている)。これらの法律は本質的に、ソ連時代の言論の自由に対する制限に逆戻りさせ、反戦的なソーシャルメディアの投稿でさえ、反体制的なサミズダットの地位を与えてしまう。「FNBのメンバーは、「何かを再投稿しただけで刑に処されるのは恐ろしいことだ」と言う。

この弾圧によって、多くの活動家が限界に達している。2011年以降の弾圧の後、ロシアに残ったフェミニスト活動家たちは、「ここ数日のうちに国外に脱出せざるを得なくなった」とカルクは3月1日に述べた。実際、このような国外脱出は、反戦運動の組織化の多くが海外、つまり経験豊富な活動家の多くが行き、発言することが比較的安全なロシアのディアスポラで起きているということを意味していると、彼女は言う。それでも、侵攻以来、反戦運動家たちは毎週末、ロシアで行動を起こしている。彼らは「強権的な弾圧にもかかわらず、勇敢に」行動していると、ADのメンバーは書いている。

私たちは、ソーシャルメディア上で声高に戦争に反対していたロシアの若いオーガナイザーと連絡を取っていた。3月3日、彼らは 「安全な空間 」に入ったら、私たちの質問に回答するとメッセージを送ってきました。その後、彼らは連絡を絶った。数日後、彼らはInstagramに再登場し、今は亡命中であると書いた。「ウラジーミル・プーチンが放った野蛮な戦争に反対したことが理由で、まさか身の危険を感じて祖国や友人、家族を離れなければならないとは考えもしませんでした」と彼らは投稿した。

オクサナ・ミロノワ、ベン・ナドラー

出典:https://enoughisenough14.org/2022/03/31/russias-anti-war-protesters-are-facing-unprecedented-repression/

オリジナル記事は下記に投稿されました。

https://avtonom.org/en/news/russias-anti-war-protesters-are-facing-unprecedented-repression

下訳にDeepLを用いました。