(WILPF)その世界秩序に F*** you! 平和、自由、連帯のための声

(訳者前書き)以下はWILPF(Women’s International League for Peace and Freedom)に掲載されたエッセイの翻訳です。WILPFは1915年に設立された長い歴史をもつ平和団体で日本にも支部がある国連NGOだ。WILPFのウクライナのコーディネーターでウクライナ東部で活動しているニーナ・ポタルスカへのインタビューをこのブログで既に紹介している。ポロビッチは「戦争が常態化し、死と破壊がロマンチックに語られる状況下で反戦活動家であることの意味」を考えたいと冒頭に述べている。国家は常に死を美化する言説によって、人々を戦場へと駆りたてようとする。すでに死と破壊はロマンチックに語られており、侵略者との闘いは武器によってのみ可能であるかのように、メディアには軍事評論家や戦争の専門家たちが連日戦況を講釈し、戦争のスペクタクル化が著しい。このエッセイでポロビッチは戦時下の反戦運動の困難さを指摘しながらも、「ひとたび戦争が始まれば、自らを守ることができない場合、それはほぼ確実な死を意味します。一方、武器を増やせば戦争はなくならず、死者が増えます」というジレンマを論じながら、戦争を許せば必ず次の戦争を招き寄せること、そして繰り返される戦争をもたらす背景をきちんと見すえてウクライナの戦争を越えた長期的な反戦運動がもつべき世界観を提示している。

「私の立場は、フェミニストや反戦活動家として、私たちの責任は抑圧された人々にあるということです。資本主義的な国民国家という概念に対しての責任はありません。私たちの義務は、国旗や国境、地政学的な物語の支持や再生産にあるのではありません。100年以上にわたるフェミニストの反資本主義、反戦闘争を通じて私たちの先祖から受け継いだ私たちの責任は、平和、連帯、平等、正義、そして家父長制権力と軍国主義の転覆に向けられているのです。私たちの責任は、民衆と私たちが平和のうちに尊厳ある生活を営む集団的な権利に向けられたものです。」

私たちは国家を背負って戦争などしないし、国家にまつわる物語を引き受けない、という明確な姿勢は、ウクライナへのロシアの侵略に武力による自衛が必要ではないか…という選択肢への誘惑をきっぱりと断ち切って戦争を考える上で重要な主張だ。(小倉利丸)

追記:ATTAC関西のブログにロシアのフェミニストによる声明などが掲載されています。

30もの言語で「ネバー・アゲイン」:なぜロシアのフェミニストは抗議行動をやめないのか?(ダリア・セレンコ)

フェミニスト反戦レジスタンス(ロシア)の声明 ロシアのフェミニストは、プーチンの戦争に抗議するために街頭に出ている


このブログのタイトルは不適切と思われるかもしれません。しかし、本当に考えてみると、この言葉はここでは最も不適切なものではありません。不謹慎なのは、私たちの住む世界なのです。

画像引用元:E.V

ネーラ・ポロビッチ
2022年3月7日
このスローガンは、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボで反戦活動家の非公式グループが最近開催した、ウクライナの人々を支援する集会から拝借したものです。私たちはこのスローガンをスローガンのひとつに使い、すぐに最も人気のあるスローガンになりました。ボスニア・ヘルツェゴビナの戦後の復興と回復にきちんと織り込まれたこの世界秩序の結果を、他の無数の人々と同様に、自分たちが求めたわけでもなく、参加したくもない戦争を生き抜き、今も生きているボスニア人の人たちに評価されたからです。

ウクライナの人々を支援する反戦集会(2月、ボスニア・ヘルツェゴビナ、サラエボ)。看板には(左から)「F*** you and your world order」、「反戦こそが唯一の選択肢」と書かれている。写真左から、Gorana Mlinarević、Nela Porobić、Lejla Huremović。

私たちは、ロシア軍がウクライナの主権領域に侵入し、またもや帝国主義的な侵略を開始する映像に対する純粋な怒りとフラストレーションからこのスローガンを使用しました。なぜなら、ウクライナ、アフガニスタン、シリア、イエメン、イラク、パレスチナ、その他無数の国々で、グローバルパワーがこの世界秩序を維持するためにどれだけの人々が死ななければならないかという冷酷な計算が、不適切なのである。不謹慎なのは、帝国主義と破壊が、拡大、収奪、搾取、利潤を追求する終わりのない資本主義プロジェクトの正当な道具として使われる世界秩序なのです

この軍事化された世界秩序の維持に参加している人々のリストは長く、ロシア連邦をはるかに超えて広がっている。米国、中国、イスラエル、日本、パキスタン、インド、EUとその加盟国、NATO、などなどである。南スーダン、カメルーン、シリア、イエメン、アフガニスタン、ナゴルノ・カラバフ、パレスチナ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ラテンアメリカの多くのクーデターと同様、ウクライナ戦争でも、これらの国々の間に無実の傍観者は存在しません。

計算や政治的発言の先にあるもの

私たちは、なぜこのような混乱に陥ったのか、皆知っています。Ray AchesonTom BrambleAlmut RochowanskiVolodymyr Ishchenkoなど、多くの素晴らしい分析があるので、繰り返す必要はありません。私が書きたいのは、平和のために立ち上がり、武器や軍国主義に反対するすべての勇敢な人々、そして戦争が常態化し、死と破壊がロマンチックに語られる状況下で反戦活動家であることの意味です。

冷酷な計算や政治的発言の向こう側には、死や破壊、家族の絆の崩壊、夢の破れなど、それぞれの物語を抱えた何千人もの人間がいます。その中には、大きな悲しみと恐怖の物語もあれば、強さ、思いやり、愛、そして生存の物語もあるのです。ウクライナの戦争に関するほとんど恍惚としたメディアの報道から表面を削り取れば、私たちは個人的、集団的、社会的トラウマを見つけ出すでしょう。それは、戦争責任者やその地政学的ゲームが次の戦争に移行した後も、生き残った人々の間に必然的に長く留まるものなのです。

抵抗の行為

私たちの反戦闘争の文脈はダイナミックであり、急速に変化しています。抑圧的な政権に対する平和的な蜂起があっという間に血なまぐさい戦争に変わるのを見たシリアの女性活動家や、尊厳と平等を求めて闘うために、これらの価値を高く掲げる人々から文字通り一夜にして見捨てられたアフガニスタンの女性たちほどそのことを知っている人はいないでしょう。ウクライナの女性たちは、マイダン以降、平和構築への女性の参加のための条件を整えるため、たゆまぬ努力を続けてきました。彼女たちは皆、反戦活動家であることが安全であるかと思えば、次の瞬間には命を危険にさらすことになるということを身をもって学んだのです。

今、ウクライナの人々にとって最大の抵抗行為は、ロシア政府の帝国主義戦争を生き延びることであり、殺される一人一人が戦争機械の勝利となるのだから。生き残る一人一人は、車輪の歯車なのです。しかし、もちろん、ウクライナの人々は生き延びるだけでなく、戦争に立ち向かっています。彼らはコミュニティーの中で助け合い、国内避難民にシェルターや食料を提供し、戦争犯罪や戦争・避難生活の経験を記録し、道路標識を変えたり戦車を取り囲むなど非暴力による抵抗を行い、身体を使って戦争機械に対抗しているのです。ウクライナ平和運動代表のユーリイ・シェリアジェンコは、『デモクラシー・ナウ』のインタビューで、ウクライナの平和運動が「無謀な軍事化は戦争につながると何年も前から警告」し、非暴力行動の準備をしていたことを語っています。

ウクライナ人の多くももちろん武器を手にしました。女性も男性も同じです。ある者は自発的に、ある者は選択肢を与えられなかったために。時には、人々は生き残るために自らを守ることを余儀なくされます。そのような状況に陥った人は、その選択が非常に困難であることを知っているでしょう。フェミニストとして、そして何よりも戦争を経験した者として、私は各人がその決断を下さなければならない状況を単純化しすぎないように気をつけています。 男性にとって、これは選択の問題ですらないことが多い。なぜなら、(徴兵制を通じて)守る義務を課され、武器を取らず、強制的な軍事化にノーと言う権利を否定されるからです。

軍事化された “連帯”

ウクライナを支援する国々は、ある種の軍事的な連帯を示すために、ウクライナに武器を供給することを急いでいる。これも反戦活動という観点からは難しい問題です。ひとたび戦争が始まれば、自らを守ることができない場合、それはほぼ確実な死を意味します。一方、武器を増やせば戦争はなくならず、死者が増えます。自衛権は必要なのか?もちろんです。その権利によって、彼らの命が救われ、未来が保証されるのでしょうか?私はそうは思いません。私が知っているボスニア・ヘルツェゴビナ出身のほとんどの人は、昔はボスニアを「守る」ことが重要だと認識していたと言うでしょう。今、彼らは、私たちは皆、多くのものを失ってしまったので、死ぬ価値のある国家や国はないと言います。一方、私たちの目の前で戦争を引き起こした世界秩序は残り、私たちをまた新たな紛争へと導いているのです。

私たちフェミニストの責任

しかし、確かにこれらの問題はどれも単純ではありません。私の立場は、常に、どこでも、戦争と軍国主義化に反対するというもので、それは私の生活体験に基づいていますが、同時にフェミニストの価値観に導かれたものでもあります。

私の立場は、フェミニストや反戦活動家として、私たちの責任は抑圧された人々にあるということです。資本主義的な国民国家という概念に対しての責任はありません。私たちの義務は、国旗や国境、地政学的な物語の支持や再生産にあるのではありません。100年以上にわたるフェミニストの反資本主義、反戦闘争を通じて私たちの先祖から受け継いだ私たちの責任は、平和、連帯、平等、正義、そして家父長制権力と軍国主義の転覆に向けられているのです。私たちの責任は、民衆と私たちが平和のうちに尊厳ある生活を営む集団的な権利に向けられたものです。

だからこそ私たちは、たとえ命が危険にさらされても、平和のために声を上げる人々を支援するためにできる限りのことをしなければならないのです。私たちは彼らにそれだけの借りがあります。彼らは危険を承知の上で命をかけています。そうすることで、平和はより良い明日を築くための私たちの集団的努力にしっかりと根ざしているのであって、あまりにも簡単に片付けられてしまうユートピア的な夢になってはならないのです。

平和のために立ち上がるすべての人たち

ウクライナの人々、そして戦争機械に立ち向かい、生き残ろうとする彼らの闘いを支援することは、必須です。その他、ロシアで最も強い反戦の声を上げているロシアのフェミニストたちの行動も重要であり、支持されなければなりません。ウクライナでの戦争に反対することは、プーチンの抑圧的な体制の下では危険であり、最大で15年の懲役になる可能性があります。 フェミニストはロシア各地で反戦デモに参加し、また最近、戦争に反対するマニフェストを発表し、「ロシアのフェミニスト団体と個人のフェミニストはフェミニスト反戦レジスタンスFeminist Anti-War Resistanceに参加し、力を合わせて戦争とそれを始めた政府に積極的に反対しよう」と呼びかけています。また、世界中のフェミニストに参加を呼びかけています。彼らは、プーチンのプロパガンダやフェイクニュースを超えて、フェミニストの立場にしっかりと立ち、いかなるフェミニストも侵略、軍事占領、帝国主義の試みを支持することはできないと知っています。

プーチンの帝国主義的戦争のなかで、ロシアベラルーシで反戦運動に関わることは勇敢な振舞いです。ロシアの独立人権監視団体OVD-infoによると、ロシアでは2月24日から3月6日の間に、1万2702人の反戦デモ参加者が逮捕されています。その数は日々増え続けています。ウクライナでの戦争を止めるための請願書は、現在までに118万人以上の署名を集めています。ロシアの文化労働者科学者学生、教授ソムリエやワイン商出版社、編集者、書店員など、さまざまな立場の人々がロシアの侵略に反対する声を上げているのです。

これで、プーチンのウクライナでの戦争を止めることができるの でしょうか。そう願うしかありません。それは、私たち残りの者がどれだけこれらの声を動員し、支援し、拡大するかによるのです。私たちは皆、分極化し、ますます孤立した世界において(ソーシャルメディアのプラットフォームがあるにもかかわらず)、これが簡単な仕事ではないことを知っています。なぜなら、もし私たちが今、戦争に飢えた声や物語に反撃しなければ、すぐにそれが私たちの知る限りのことになってしまうからです。次の戦争が起こるたびに、戦争はより容易になり、一人一人の死はより受け入れやすくなり、私たちの社会と地球の破壊はより見えづらくなっていくでしょう。私たちはすでにそれを目の当たりにしています。

戦争がどこで起ころうとも、それに反対するフェミニストの責任

止められなかった戦争は、それぞれ新たな戦争の種を蒔くことになります。シリアの活動家は、シリアでプーチンを止められなかったことが、まさにこの瞬間に一役買ったことを私たちに思い起こさせます。彼らは、ウクライナでの戦争に反対する声を上げることの重要性を認識しています。なぜなら、フェミニストの国際連帯の観点からすれば、それぞれの戦争は、それがどこで行われようと、自国での戦争であるからです。

世界が米国のアフガニスタンとイラクへの侵攻を止められなかったとき、多くの国がいわゆる「世界テロ戦争」を受け入れたとき、彼らは国際法を守り、いわゆるグローバルパワーによる帝国主義のゲームを告発することに失敗したのです。こうした失敗や他の多くの失敗が、後に起こるあらゆる戦争への道を開いたのです。

ですから、ウクライナの人々に連帯しながらも、私たちの平和への呼びかけ、反戦運動は、それをはるかに超えるものでなければならないのです。なぜまた戦争が起こってしまったのか、そして戦争を止めるために何をしなければならないのか、私たちの分析は、軍国主義、家父長制、帝国主義、資本主義が、戦争を道具として利用し、繁栄する構造であることを理解した上で行わなければなりません。したがって、これらの構造を廃絶することに同時に取り組まなければ、ウクライナでも他の地域でも、持続可能な平和を築くことはできないのです。

一つ一つの声が重要です。一つ一つの反戦行動が重要です。戦争の影響を受けた人々の声が届くように支援すること、緊急の人道的ニーズを満たすこと、平和に暮らせるように引き裂かれた国を離れる人々を支援すること、集会を開くこと、戦争に対して声を上げること、これらすべてが重要なのです。

2016年、ボスニアの女性活動家は、ウクライナの女性たちとの連帯対話を主催しました。このブログの最後にふさわしいのは、ボスニアの平和活動家、ジャスミンカ・ドリノ・キルリッチが歓迎スピーチで述べた言葉かもしれません。

平和とは非暴力の行動であり、不正義に対する行動であり、平和とは私たちの人生の最も困難な部分について議論を開くことです。平和とは慎重さであり、平和とは解決策を見出す創造性である。平和とは、信頼を築き、私たちの間に連帯感を回復させることです。. . 私はピースメーカーなのです。そして、「それは何ですか?」と聞かれたことがあります。それは何かといえば、私たちに強制されていることを受け入れないこと、つまり、私が気高くラディカルであることです。気高くラディカルであるということは、あなたの意見に反対するときは、その都度あなたに伝えると同時に、あなたを敵とは見なさないということです。

このブログへの情報提供をしてくれたRay AchesonとGorana Mlinarevićに感謝します。

ネーラ・ポロビッチ
Nela Porobić IsakovićはWILPFのフェミニスト政治経済に関する活動を率いている。この仕事は、紛争と紛争後の復興と回復のための介入の政治経済の研究と分析、この分野におけるWILPFの活動の推進、ネットワーキングとアドボカシー、そしてフェミニストの知識の共有と対話への参加に携わるものです。

(Commons)ウクライナの平和のための組織化:ニーナ・ポタルスカへのインタビュー


(訳者前書き)以下は、ニーナ・ポタルスカへの2019年に行なわれたインタビューです。ポタルスカは、社会研究者・活動家であり、ウクライナにおける国際女性平和自由連盟(WILPF)のコーディネーターと紹介されている。彼女はLeftOppsitionという新しい左翼政党にも関わってきた。インタビューのなかで、彼女たちが必死の思いで戦争を止めること、そしてウクライナ西部、東部、ロシアや更には近隣諸国の女性たちと共同で停戦と境界を越えての共通の課題を議論する枠組を作ろうとしてきたことが語られている。私がこれまでも紹介してきた沖縄での民衆の安全保障の視点と多くの共通する問題意識が見られるが、状況はもっと厳しいなかでの民衆のための安全保障の実現になる。事実上の戦時下にあり、「平和」という言葉すら口に出せず、正直な気持も口外せずに、公式的な発言をするか沈黙する多くの市民たちの状況についても語られている。このインタビューのなかで戦争が「デエスカレーション」しつつあると将来への楽観的な見通しが語られているが、残念なことに事態は悪化の方向をとった。今、東部で活動していた女性たちのグループがどのような状況に置かれているのかはわからない。翻訳は、ウクライナの左派系メディアCommonsに掲載された英語からの重訳です。

なおWILFPのウクライナのサイトが下記にあります。
https://www.wilpf.org/focus-countries/ukraine/

(小倉利丸)


06.12.2019
オクサナ・ダッチャク
ニーナ・ポタルスカ
タラス・ビロウズ

ウクライナ東部の戦争は6年目に突入した。戦争が「緩やかな」、しかしそれに劣らず致命的な段階に入ったため、特に西側では関心が低下している。openDemocracyの寄稿者は、ロシアとウクライナの間の溝を埋めようとする活動家、性的暴力と免責に関する問題失われたものや損害を受けたものへの補償を求める闘い、あるいは女性兵士の役割に関する議論など、報道されない傾向にある様々な問題に注意を向けようとしてきた。

ウクライナ東部での戦争に関する報道の一環として、社会研究者・活動家であり、ウクライナにおける国際女性平和自由連盟(WILPF)のコーディネーターでもあるニーナ・ポタルスカへのインタビューを翻訳し、掲載します。

ウクライナの雑誌『コモンズ』の取材に応じたニーナ・ポタルスカは、包括的平和と、キエフ統治地域と非キエフ統治地域の境界線の両側の人々の間の対話の可能性について、ここで語っている。

ここ数年、ドンバスでどのような活動をされてきたのでしょうか。

私は「平和と自由のための国際女性連盟」と地元の組織との橋渡し役です。決まった仕事はありません。その時々で、一緒に活動するグループのニーズに応じて決めています。私の仕事のひとつは、女性活動家、あるいは単に活動的な女性やグループとその支援を見つけることです。もうひとつは、女性の権利状況、つまり社会経済的権利や前線地帯における女性の権利をモニターすることです。そして3つ目の役割は、国連と地域の両レベルで女性の擁護者となることです。

また、私は「対話と包括的平和のための女性ネットワークWomen’s Network for Dialogue and an Inclusive Peace」にも参加しています。このネットワークには、主にドネツクとルハンスク地域の約10の団体が加盟しています。彼女たちの取り組みは、さまざまな問題に及んでいます。例えば、ヴフレダルには活発な女性エコ活動家グループがあります。また、ヴォルノヴァハでは、女性が集まって、(紙や布で)花を作るだけでなく、差別の問題を話し合う場があります。これは良い支援になります。ある取り組みが生まれるには、ちょっとしたきっかけや映画の上映が必要です。

さまざまな地域の女性を集めるとき、まず最初にすることは、彼女たちが直面している問題の範囲を明確にすることです。もちろん、問題の80%は社会経済的なものです。女性の雇用、社会インフラの不足、特に小さな町では医療サービスや子どもの保育所などです。これらは、私たちがダイアログを開催するための基本的な課題です。

すべての団体が年に1、2回ディスカッションやディベートに代表を派遣する余裕があるわけではありませんから、私たちはペーパーをまとめ、WILPFの誰かがプレゼンテーションを行います。お金の節約にもなります。しかし、そのプレゼンテーションは、オンブズパースン事務所や政府部門の誰かが出席するセッションで行われるかもしれないので、彼らはそれを聞き、私たちのコメントを受け取ることになるのです。ニューヨークでプレゼンをすると、政府の人たちはむしろ好意的になって、熱心に聞いてくれたり、メモをとってくれたりします。しかし、こちらではなかなか伝わりません。おそらく彼らの強力な立場が話を聞くのを邪魔しているのでしょう。

ニーナ・ポタルスカ

ウクライナ東部の状況について話してください。市民社会はどうなっているのでしょうか。

例えば、キエフとドンバスを比較すると、キエフの人々は常に自分たちの意見を表明するために、より積極的に街頭に出てきています。東ウクライナでは、人々は不満があっても、それをなかなか口に出しません。選挙期間中だけで、ちょっとした妨害行為や静かなつぶやき程度です。プライベートで話を聞くと、多くの人が何かに不満を持っていても、街頭に出て抗議することはない。それは、結果を恐れているのかもしれないし、単に経験がないのかもしれない。

人は、あなたを信頼していれば、論争の的になっている問題について、プライベートで自分の意見を述べることができます。しかし、彼らは対立を避けるために、公の場でこれらの事柄を話し合ったり、政治的な議論に加わったりはしないのです。メディアや政府の言うことに同意しないことはあっても、公然と反対することはないのです。

信頼と安心の問題は非常に重要です。東部の人たちがもっと自分の意見を表明するのはいいことですが、一方で、それをどうやったら論争の的にならないようにできるかを学ぶ必要があります。ウズホロドには少数民族がいるのですが、その中でこんなことに遭遇しました。彼らは自分たちが納得できないことはあっても、口をつぐんでしまうので、なかなか意見を言ってもらえません。ウズホロドで調査結果を発表したとき、聴衆の中にロシア語を話す人がいました。彼女はその後、私のところにやってきてこう言いました。「あのね、これはとても異例なことなの。この場を作ってくれてありがとう 」と。支配的な考え方があり、他の人は黙っていなければならない。私たちは、さまざまなコミュニティで政治的な議論を展開することに、もっと注意を払う必要があります。

しかし、どんな議論も、人々が安全だと感じるときに初めて可能になるのです。今、私たちは、国のあらゆる場所で、声を大にして意見を述べることができるでしょうか。東部の治安については、従来からかなり問題があったように思う。産業界と絡んで、大金が動くと無法地帯になる。生き残るため、あるいは紛争を避けるために、人々は自分の意見を黙っていることが非常に多かったのです。

あなた自身は、自己検閲に走ったことがありますか?

もちろんです。例えば、インタビューや他人の発言は、いざというときに「あれは私ではない」と言えるように、引用することが多いですね。論文や講演では、なるべく非難されないように書かなければならないこともあります。この5年間、他人が私の発言を文脈から切り取って、何を言っているのかわからないと非難する場面がたびたびありました。私が中立の立場でいようとすると、あらゆる方面から非難される。中立の立場でいれば、「『あいつらの味方だ』ということになる。」と。

先の選挙以降、雰囲気はどのように変わったのでしょうか?

私たちのグループにはさまざまな意見がありましたが、それが原因でグループがバラバラになったり、対立したりすることはありませんでした。コミュニケーションで大切なのは、自分の意見ではなく、一人ひとりの価値観だったのです。明らかに対立する意見を持つ女性同士であっても、取り返しのつかない事態を前にして、誰もがストレスを抱えていることを自覚し、共感をもって人間的な関わりを持とうとしていました。一般に、選挙をめぐって多くの緊張がありましたが、ウクライナの他の地域よりも、国境線沿いはこうしたことがより敏感になっていました。選挙結果は、紛争を激化させるか、逆に和解に向けた動きの可能性を生み出すか、どちらかになると思われました。

なぜ、そのようなことが可能になったのでしょうか。私たちの多くは、5年来の知り合いであり、長い間一緒に仕事をしてきました。20人ほどの特に活動的なメンバーを中心とした、小さなグループです。その一方で、対話、調停、心理・情動の支援について学び、感情的に成熟し、有能な人々のグループでもあります。私たちの計画は、選挙よりももっと先を見据えています。私たちは、私たちが共に生き、共に働くことができるよう、私たちを結びつけるものに焦点を合わせています。

ウクライナのナショナリズムに基づく言説か、あるいは「ロシアの世界」なのか、誰かの思惑にはまることなくメッセージを打ち出すのは簡単なことではありません。

ウクライナの新政権には懐疑的で、私たちの社会領域がある種の地獄と化していることに気づいているからです。例えば、1カ月前、アヴディフカという町で女性とその赤ちゃんが亡くなりました。内部調査が行われ、医師と助産師が解雇されました。つまり、そこにはもう医師がおらず、妊婦は次に近い産科に行く途中で出産しなければならないのです。つまり、東部の医療改革は、多少なりとも違う方向に進んだはずなのです。医療スタッフの流出が深刻で、他のウクライナ地域の農村部よりもロジスティックに問題がありました。開業医・小手術部門をすべて閉鎖したのはまずかったでしょう。逆に、こうしたネットワークを拡大すべきだったのです。今、人々は注射や診察を受ける手段を失っているのですから。その結果、疾病率が急上昇してしまったのです。

一方、交渉の結果、小さな隙間ができたので、そこに入り込んでチャンスを広げようと積極的に動いています。私たちは、少しでも前進できる場所や事柄に集中しています。私や仲間の活動家たちは、今年の選挙の後、特定のテーマについてのタブーがなくなり、もっと自由に話ができるようになったと感じますが、この考えにはまだ抵抗があります。これは、ソーシャルメディアはもちろんのこと、例えばクラマトルスク市やセベロドネツク市でもはっきりと見て取れました。

しかし、個人的な関係では、攻撃的な発言や否定的な発言はかなり少なくなっています。けれども、私たちが何らかの声明を出すと、地元の活動家はそれを再投稿することを拒みます。なぜなら、人々は必ず、自分たちに関する悪口を拡散し始めるからです。例えば、クラマトルスクの活動家たちが触れられないテーマはたくさんあります。そこでは、法的な活動家の集団がナショナル・リベラルであるためです。だから、私が主張したほうがいいアイデアもあるし、国の西部の人が主張したほうがいいアイデアもある。

2016年から2017年にかけて、政府軍の撤退について語られ始めたとき、この話題には多くのナーバスな要素があり、特に潜在的な結果について理解が不足していました。今は状況がはっきりしています。砲撃の頻度や輸送の仕組みがわかっています。もう慣れっこです。しかし、現状が変われば、パニックになります。撤退が良いことなのか悪いことなのか、判断に迷うところです。人々は、いくつかのリスクは我慢できても、それがどのようなものであるかはわかりませんでした。政府は何も説明できないし、今もできないので、推測の余地が非常に大きいのです。撤退という考え方は、信頼関係や、双方がどのように交渉し、合意を遵守できるかということでもあります。しかし、私たちは撤退の話ではなく、停戦の話をしているのです。そうすることで、「賛成」「反対」という粗野な二分法から逃れ、両者にレッテルを貼るような言葉や概念を使わないようにしているのです。そうでなければ、活動家を危険にさらすことになりかねません。政府支配地域でない場所で、潜在的な可能性に言及することは、単純に致命的な危険性を伴いますから。

10月には、スタニツァ・ルハンスカの橋の上で「国境なき女性たちの対話」アクションに参加されましたね。このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?

最初は、何か象徴的なアクションを行おうというアイデアから始まりました。2016年当時、私たちのセミナーで多くの女性が「ミンスクに行って、武力紛争を放棄し、平和的な発展段階へ移行する必要性についてオープンに話したい」と話していたのです。しかし、状況が明確でも安全でもなかったため、私は彼女たちにアクションへの関与を思いとどまらせました。私たちはどうすればいいのかわからなかった。知識も経験も、そしておそらく要求を出す勇気さえも不足していると感じました。

誰かの思惑にはまらないようにメッセージを作るのは簡単ではありません。ウクライナのナショナリストの言説に合わせるか、「ロシアの世界」に合わせるか、どちらかです。

4月には、私たちの平和創造プロセスにおける包括的なフォーカス・グループ研究の発表会を開催し、この問題について考え、話し合うための時間と場所を設けました。そして8月には、バルト・グローリーのホリデーキャンプに出かけ、国境線の両側だけでなく、ロシア、フィンランド、スウェーデンの女性たちが集まりました。3日目は、それぞれの女性が、なぜその場にいたのか、なぜ戦争というテーマに関わるようになったのか、個人的な話をする時間に充てられました。中には、本当に重い話もありました。しかし、この後、誰がどのような立場で、どのように話をすればいいのかが明確になっていきました。そして、3日目か4日目には、私たちウクライナ・ロシア代表団は、すでにいくつかの一般的な方針を立て始めることができました。

そして、双方の女性が参加するアクションを起こそうというアイデアが浮かびました。私たちのグループは、それは危険だと思う人、誰もそれを許さないだろうと思う人、双方からひどく非難されるだろうと思う人など、いくつかの小さなグループに分かれていました。結局、最もリスクの少ない方法、つまり緩衝地帯で2対2で話し合うという方法をとることになりました。

その前に、1カ月かけて電話会議を行い、要望リストを作成し、2つの同じリスト(別々のリストもあるが)を作成することを決定した後、議論しました。私たちは、最も重要な要望しか話し合うことができないことに気づきました。長い時間をかけて停戦の問題を提起するかどうか決めましたが、女性たちの中には、私たちが一番大事なことを要求していないのに、なぜそんなことをするのかと疑問を持つ人もいました。そこで、基本的な要求であるセキュリティを残すことにしました。

境界線に沿って検問所を増やし、人々が何時間もウロウロすることがないように、そして安全であるようにという議論がなされたのです。また、実際に快適で安全な戦争を望んでいるのか、という議論もしました。一方では、日常的に戦争に対処しなければならない人々にとって基本的なニーズです。しかし、他方では、忘れたい戦争のための軍事的インフラのようなものを残しておきたいと考えているようにも思われます。しかし、私たちは検問所を残しています。ここはすぐにでも改善する必要があるからです。

人道的な問題は、しばしば非人間的な方法で解決さ れます。それは、彼らが影響を及ぼす人々によって決定がなされないからです。この1年で、主要な検問所にはトイレが必要なことが明らかになり、欧州委員会からそのための資金提供がなされました。それ以前は、人々はどうしていたのだろう、トイレに行かなかっただけなのだろうか。検問所の警備員もトイレに行かなかったのだろうか?これらは、考えてみれば当たり前のことなのです。それまでは、地雷原にしゃがみこんでいるようなものだったのです。そして、水道の蛇口や日よけの状況も同じでした:2015年から2016年にかけては、誰もそれらについて考えもしなかったのです。赤十字は出入りする老女に紙製の帽子を配っていたが、それだけだった。

ウクライナの軍事予算は年明けに決まります。それは軍隊のための予算を網羅しており、長期的な支出のための戦略も立てられています。しかし、一般市民の基本的な人間的ニーズは、一時的な問題としてとらえられてきました。北キプロスでは、トルコ領からギリシャ領への検問所を通過するのにほんの1分ほどしかかからないが、トイレや日除けはある。もちろん紛争は30年続いていますが、このようなインフラはコストがかからないんです。

キエフの支配下にない側の女性も、あなたのようなネットワークを持っているのでしょうか?

2015年に向こうへ行った際に何人かに会いました。ネットワークがあるとは言えませんが、この線が現れる前からお互いを知っていて、人道的な分野で働いていた女性たちがいます。医療機関や緩和ケア施設での支援に従事していた人もいました。彼女たちは、技術も人脈も失ってはいなかった。信頼関係を築くのは簡単ではありませんでしたが、現地に赴き、話を聞いてみると、戦争に関わる問題や、戦争に対して私たちができることについて、これからも話し合っていけると思いました。

紛争を平和的なステージに移行させるというあなたたちの請願は、多くのコメンテーターから攻撃的な反応を受けました。これについてはどう思われますか?

自分たちの抱えるトラウマから生じた問題もあれば、無関係な問題もありました。興味深いコメントをいくつか要約してみよう。検問所の数についての指摘は、「分離主義者との接触点を増やすつもりなのか」という疑問を生みました。これは閣議決定815号で、前政権が通過させたものだという答えが返ってきた。

また、停戦の要求に関する質問もありました。「なぜこの点をプーチンに訴えないのか」。しかし、私たちの要求は、三国間コンタクトグループとOSCEに向けたものだと即座に答えることができます。私たちは中立性を保つために、意図的にすべての側と接触しているのです。

また、「女性兵士を侮辱している」という意見もあります。しかし、女性退役軍人の中には、停戦を含む私たちの要求を支持してくれる人もいます。

最後に、ウクライナの強力な隣国である「ロシアは侵略者であり、戦争を止められる唯一の国」に関連する疑問についてです。しかし、OSCEの報告書を見ると、双方が武力衝突しており、技術的には双方が武器を置く必要があることがわかります。

一般的に、私たちのイニシアチブに対する批判は、実際に書かれていることではなく、それぞれの人が抱えているトラウマや 問題が凝縮されているのです。その一つひとつに目を向ける前に、ただ悪意と非難をこちらに向けてくるのは悲しいことです。

今のところ、すべてが脱エスカレーションに向かっています。ウクライナの公式レトリックのレベルでさえも。人権擁護団体の間でさえ、以前にはなかった会話が交わされているように感じます。

なぜ、停戦と平和的局面への移行が問題なのか?交渉はできないのでしょうか?停戦は悪いことなのか。もっと戦闘が必要なのか。誰も譲歩しろとは言っていない。私たちは平和を望んでいるという事実についてさえ話していないのです。なぜなら、「平和」という言葉はタブーであり、それを口にしたとたん、人々は石を投げつけるようになるからです。私たちはこの言葉を意図的に避け、安全保障と対話について話し合っているのですが、対話もまた難しいものなのです。

それでも、私たちの署名運動は盛んに行われています。正直なところ、署名した人たちが誰なのかさえ知りません。私にとって興味深いのは、意図的なプロモーションをしなくても、おそらく1カ月でその数がどのように増えていくかということです。また、人々は拡散することを恐れていることが多い。署名すること自体が、自分だけの意見ではないと感じ、少なくとも小さな一歩を踏み出し、何らかの活動を示す人々のプールを作る方法だと私は想像していました。これは、おそらく最も安全な活動形態で、街頭に出るよりもずっと安全なのです。(訳注:請願署名の本文を参考までに、最後に掲載しました)

和平交渉に女性を参加させるべきだというのは、あなたが何年も前から話していることの一つです。なぜそれが重要だとお考えなのでしょうか。また、女性の視点は男性の視点とどのように違うのでしょうか。

最も単純な説明は、社会化と、人々が背負っているさまざまな経験についてです。例えば、検問所では女性の衛生ニーズに対応する規定がありません。まるで戦時中は女性の生理が止まってしまうかのように。もし女性が意思決定に関与していれば、このような問題はすぐに解決するはずです。女性同士で平和について話し合うと、医療問題や教育の話になりますが、男性と安全保障について話し合うと、武器や戦闘の話ばかりになります。このように、紛争の解決には2つの視点が必要なのです。そして、各派閥のニーズにバランスを導入するためには、会議のテーブルに「女性」の視点を入れる必要があるのです。

もちろん、女性も紛争の中で働くということは、課題もチャンスも山積みです。最初の2年間は男性の友人と一緒に行動していましたが、一人で行動した方が落ち着くし、安全だということに気づきました。検問のたびに服を脱がされ、武器の痕跡がないかチェックされるなど、余計に頭が痛くなりました。また、何度も聞かれた。「なぜ、軍隊に入らなかったんだ」。攻撃的な話し方で、困難な状況に陥ると、彼らは私を怒鳴りますが、もし彼らが男性の同僚と関わると、いつも喧嘩になります。女性はIDすら見せずに普通の検問を通過することもできます。これらはステレオタイプですが、私たちに有利に働くので、この状況を利用するのもいいかもしれません。

政府は、女性の参画をどのように考えているのでしょうか。

前政権は、ジェンダー主流化を支持し、多くの政治資金を得ました。そして、現政権もそれを支持しています。一方では、便利なコミュニケーション手段ですが、他方では、多くの問題を提起しています。国連決議1325「女性、平和、安全」は主に4つの分野をカバーしていますが、ここではゆがんだ視点で紹介されています。

セミナーなどで「決議1325を知っていますか」と聞かれ、「はい、もちろんです」と答えます。しかし、その内容を聞かれると、「軍隊にもっと女性が必要だということです」としか答えられない。しかし、その条文は議題全体の16分の1を占めるに過ぎず、私たちが知っているのはそれだけなのです。ですから、この問題に取り組んだのはいいことかもしれませんが、焦点があまりに偏っていたのはまずかったと思います。このアジェンダの背景には、安全保障の概念を国家の安全保障から人間の安全保障に広げるという考えがあったのですが、国家の安全保障のセクションに女性についてちょっと付け加えただけなのです。

このアジェンダは本当に拡大する必要があります。今、状況は私たちの方向に少し振れているようで、ゲストリストに入ることが多くなりました。以前は、代替案を持つ人は無視されるか、議論から排除されるかのどちらかでした。そして、私たちは今、決議1325に新たな要素をもたらそうとしているのです。

決議1325は、人間の基本的なニーズに関する枠組みです。快適さと社会経済的な保証という観点からこれらのニーズを満たすには、必然的に争いを伴います。争いは、力の不平等な共有とそれを求める戦いから発生するのです。決議1325を実践することは、矛盾を取り除くために、対立する要因を均等化しようとする方法です。

豊かな社会では、紛争を引き起こす機会は限られています。代議制の機関が重要な機能を持つ環境では、社会が崩壊するような状況を作り出すことは容易ではありません。民主主義と意思決定に参加する機会が不可欠であり、そこでは異なる集団の利益が考慮され、人々は社会の未来を創造する役割を担っていると感じています。人々は、自分たちの判断で投票したり、外部からの支援という考えに頼ったりはしないでしょう。政府、村、都市、どのレベルであれ、状況に影響を与えることができるのなら、なぜそうしないのでしょうか。

非支配地域の雰囲気について教えてください。

それについては、人それぞれの意見があり、割合について話すことはできません。私は、彼らが私に話す言葉から、人々のニーズを推測しようとします。言葉というのは、私にとって、そのニーズを示すための手段なのです。

数週間前、ルハンスクのFacebookグループで、ある女性がロシアのパスポートを手に入れたという投稿を読みました。彼女は、ようやく政府という組織の一員になることができ、帰属意識と保護を感じることができたと、とても喜んでいました。私はそれを、ウクライナと距離を置きたいという願望ではなく、彼女が5年間、何らかの国家機構に守られようと努力したけれども、ウクライナにも自称「ルハンスク人民共和国」にも何も見つからなかったという事実の確認だと思ったのです。しかし、今、彼女はようやく市民権を得て、自由に移動でき、社会保障費を受け取ることのできるパスポートを手に入れたいという希望を持っていました。

問題は、公式の議題で異なる意見を認めるという点で、人口の多くのグループを除外してしまっていることです。そして、彼らは排除され、貶められたと感じ、生活の不安から、罪悪感を押し付けられているのです。彼らはまた、年金を受け取るために検問所を通らなければならないという、構造的な国家レベルでの屈辱を経験しています。このような屈辱の連続から、ついに解放されたいと思うようになる。あの女性がロシアのパスポートを欲しがったのは、ロシアへの愛というより、自分が二流市民であることを感じなくなるためだったような気がします。

今後の展開はどうでしょうか。紛争が緩和されることはあるのでしょうか?

今のところ、すべてがデエスカレーション(緩和)に向かっています。ウクライナの公式なレトリックのレベルでさえも。人権擁護者の間でも、以前はなかったような会話ができるようになったと感じています。私たちはこれまで出会い、議論し合ってきましたが、中立的なことを声に出して言ってきました。私たちは5年前から何らかのアジェンダを作ろうとしてきましたが、ようやく形になり始めたところです。請願書のすべてのポイントを100%支持しているわけではありませんが、単純に、すべてを議論できるようにしたいと思っています。

ロシア語からOpenDemocracyによって翻訳された

このニナ・ポタルスカヤへのインタビューは、Memory Guidesの支援を受けて行われました。ドイツ外務省の支援を受け、ベルリンの独立社会研究センターで行われた「平和的紛争解決のための情報資源」プロジェクトであり、「東方パートナーシップ諸国およびロシアにおける市民社会との協力拡大the Expanding Cooperation with Civil Society in the Eastern Partnership Countries and Russia」プログラムの一部である。

https://commons.com.ua/en/nina-potarskaya-o-mire-vojne-i-zhenshinah-na-donbasse/

(参考) 請願署名

ウクライナ東部の武力紛争を平和的局面へ

毎日何千人もの人々がOOS検問所を通過しており、彼らの命と健康は大きな危険にさらされています。多くの国際機関(Human Rights Watch, OSCE, UN Ukraine, Ukrainian Helsinki Union)から、検問所での不当に長い待ち時間、適切な衛生・保健環境の欠如、境界線を越える際に銃撃を受けたり地雷や砲弾に遭遇する可能性がある事例が増えていると報告された。ウクライナ東部で未解決の武力紛争の結果、市民が直面する危険を理解するために、当局は、国および地方レベルの意思決定において、公共部門と密接に連携することに焦点を当てるべきである。このようなアプローチは、紛争の平和的な交渉による解決に向けた移行を可能にするでしょう。その上で、長期的な平和の保証として、NGCAとNGCA双方の民間人の利益とニーズを考慮した交渉が必要である。紛争双方の女性が集まる「対話と包括的平和のための女性ネットワーク」は、次のような要求リストを提示している。

安全な待機場所と人道的サービス(着替え台付きトイレ、手洗い場、飲料水、保温施設、砲撃時の避難所)を備えたNGCA発着の横断地点の数を増やすこと。国の資金ですべての検問所に救急医療施設を組織する。
ウクライナの支配地域と一時的な非支配地域を結ぶ双方向の直通鉄道およびバスサービスの復旧。
民間人の安全を確保するための双方による停戦。紛争の平和的かつ交渉による解決に移行すること。
国際、国内、地方のすべてのレベルの交渉プロセスに、十分な数の市民社会(女性、平和構築、人権)団体の代表者と代表を含めること。特に、ミンスクやその他の平和構築プロセスへの参加、国家や地方の予算編成に関する議論への参加などが挙げられます。
紛争双方のすべての参加者と対話プロセスの参加者の安全が保証されること。
要求文は、ウクライナ大統領、日中韓コンタクトグループの参加者、OSCE特別監視団の議長に転送されました。

この署名活動に賛同し、ソーシャルメディアへの投稿をお願いします。

一緒に平和を築きましょう

出典:http://chng.it/mpyXnLjYrW

(illiberalism)ウクライナの西側軍事訓練の主要なハブに極右グループが拠点を構えた

(訳者まえがき) アゾフはネオナチなのかどうか、ウクライナはネオナチが跋扈する国なのか、などをめぐって日本の反戦平和運動のなかでも判断が分れていると思う。以下は、昨年(現在の2月からのウクライナ戦争以前だが2014年以降の東部の戦争(内戦)以後)に書かれたウクライナ軍内部の極右の動向についてのレポートでジョージワシントン大学のilliberalismのサイトに掲載されたものだ。

見解が分かれる理由は様々なのだが、今世界中で起きているのは、もはや極右や右翼という座標軸の原点そのものが右側に大きくシフトしており、極右の主流化という現象が生まれている、ということだ。ウクライナもロシアも同様だ。ウクライナは、選挙で極右の得票率は極めて低い。これは、米国や日本の極右政党の得票率が低いことをみればわかるように、そのことが極右が台頭していないという目安にはならない。米国なら共和党に、英国なら保守党に、日本ならば自民党や維新に極右とみなしうる傾向が浸透しており、政治の主流を乗っ取りつつある。安倍政権を極右政権だと正しく理解したメディアは日本には皆無だったように、極右やファシズムは、そうとは気づかれないままで浸透するものだ。もちろん極右の政党がそれ自身で政治的な影響力を国政にもつような国もある。既存の支配的な政党を乗っ取るのか、新たな政党で権力に握るのかは、手段の違いでしかなく、目標は同じだ。

ウクライナの場合、下記のレポートにあるように、深刻なことは、軍の幹部のなかに極右のイデオロギーを持つ者たちが、組織的に形成されている(のではないか)という状況と、こうした状況を承知した上で、ウクライナ軍当局は極右の活動家たちを受け入れ、その軍事教育を西側の軍事教育機関が積極的に担ってきたということだ。下記のレポートではCenturiaという思想的には明かなファシストといっていい価値観を持つ組織を中心にアゾフなど関連する団体にも言及している。これがウクライナの軍にどの程度の影響力を実際にもっているのかは、私には判断できない。しかし、無視しえない影響がありうるとは思う。Centuriaやウクライナの極右がナショナリズムのイデオロギー的なヘゲモニーを握りつつあるのではないか、という危惧もある。思想的な武装をしたナショナリストが軍や政権に大きな影響力を持ったばあい、合理的な軍事的な勝敗とその後の統治よりも、世界観を賭けて戦争は収束ではなく泥沼化しうるということだ。日本はかつてこの道を歩んだし、対テロ戦争もまた宗教や価値観を賭けた戦争として収拾がつきようのないものになってしまった。しかもウクライナの場合、欧米は、軍事支援をしつつも自らの人的犠牲を最小化する政策をとるために、負けてもいいから戦争を回避しようという意思は希薄だ。ゼレンスキー政権には自国民の犠牲を最小化するための政治的な判断よりも軍事的な抵抗を優先させる傾向が顕著だ。他方で侵略者のロシアもプーチンの狂気などといった話では収まらないロシア固有の極右が背後に控えている。ユーラシア主義、ロシア正教、またナショナル・ボルシェビキのような右翼スターリン主義(?)や右翼ナロードニキまで豊富なファシズム資源を有しており、これが左翼や国内の反政府運動を抑圧する環境をつくりだしている。世界観をめぐる戦争になると収束は難しいかもしれない。いずれの側も戦時の緊急事態を口実に市民的自由を抑圧しており、戦争の長期化は市民的自由そのものを支える基本的な理念を壊死させるだろう。

今一番足りないのは、自国を情けない国にしようとする思想だ。国家とは命を賭けて戦うようなものではないという当たり前の生存への権利の基礎がほとんど存在しない。哲学も思想も社会科学もほとんど役立たずだ。

訳文について。私はウクライナ語やロシア語を理解できないので、固有名詞の正しい発音のカタカナ表記にはなっていないところがある。なるべく原文の表記を併記しました。また、nationalの訳語は、すべてカタカナで「ナショナル」としたので、「ナショナル部隊」のように、ややみっともない訳語になっている場合があります。ナショナルは国民、民族、国家などと訳せてしまい、いずれも概念としては重要な違いがあるので、誤解を避けるためにナショナルとしました。(小倉利丸)

Copy-of-foreign-policy

目次
概要
・タイムライン
・NAA:欧米の支援で同国の軍事エリートや最前線の戦闘員を形成する
・ビデオ、写真の証拠から、NAA内にゾンネンクロイツを冠した「軍事集団」が存在することが判明
・グループの見かけ上の指導者。極右団体「アゾフ運動」との関係やNAAでの役割など
・西へ:Centuriaのメンバーが英サンドハーストで11カ月訓練、独OSHでも歓迎される
・グループのドクトリンは、モスクワ、ブリュッセルから「ヨーロッパのアイデンティティ」を守るために国際的な連帯を強調し、明らかにメンバーと思われる者たちは人種差別を口走り、ナチス式敬礼を行う。
・国際的な非難、メディアの批判を浴びる極右の盟友とのメッセージの拡散
・「より洗練された極秘活動」 ウクライナ軍への影響力増大の主張と動員呼びかけ
・ウクライナ政府、西側軍部はウクライナ人軍人の過激派を審査せず、極右が有利な地位を占めてきた

ウクライナの西側軍事訓練の一大拠点に極右グループが拠点を構える
By illiberalism.org2021年09月21日

オレクシー・クズメンコ

IERES Occasional Papers, no.11, September 2021 Transnational History of the Far Rightシリーズ

概要

本稿で明らかになった証拠によると、2018年以降、ウクライナの最高峰の軍事教育機関であり、同国に対する欧米の軍事支援の主要拠点であるヘットマン・ペトロ・サハイダクニー国立陸軍士官学校the Hetman Petro Sahaidachny National Army Academy(NAA)に、右翼思想路線に沿って同国の軍隊を再形成し、欧州の人々の「文化・エスニック・アイデンティティ」を 「ブリュッセルの政治家と官僚 」に対して防衛するという目標を掲げる自称「欧州伝統主義」軍人の集団Centuriaが置かれていることが明らかになった。このグループは、「ヨーロッパの右翼勢力が強化され、ナショナルな伝統主義がヨーロッパ人民の規律あるイデオロギー的基盤として確立される 」未来を思い描いている。

このグループは、国際的に活発なウクライナの極右運動であるアゾフ運動とつながりのある人物に率いられており、現在ウクライナ軍に所属するNAAの現・元士官候補生など複数のメンバーを集めている。メンバーらしき人物は、ナチスの敬礼をして写真に写っていたり、ネット上で過激と思われる発言をしている。

このグループは、NAA内部でウクライナの将来の軍事エリートにこうした思想を広めることに成功してきた。また、メンバーらしき人物は、西側の軍事教育・訓練機関にもアクセスしている。このグループのメンバーと思われる1人、当時NAA士官候補生だったKyrylo Dubrovskyiは、英国の王立陸軍士官学校サンドハースト校で11カ月間の士官訓練コースに参加し、2020年末に卒業した。その間、ドゥブロフスキーはグループとの関係を維持していたようだ。もう一人のメンバーと思われる人物で当時NAA士官候補生だったウラジスラフ・ヴィンターゴラーVladyslav Vintergollerは、2019年4月にドイツのドレスデンでドイツ陸軍士官学校(Die Offizierschule des Heeres、OSH)が開催した第30回国際週間に参加した。一方、ウクライナ国内では、メンバーがアメリカの軍事訓練生や、アメリカやフランスの士官候補生と接触していたようだ。2021年4月の時点で、同グループは、発足以来、メンバーがフランス、英国、カナダ、米国、ドイツ、ポーランドとの合同軍事演習に参加したと主張している。

同グループは、メンバーがウクライナ軍の複数の部隊で将校として勤務していると主張している。これらの主張は、同グループがNAAに存在することが確認されていることと、一部の明かにメンバーとおもわれる者が2019年から2021年の間に卒業後、ウクライナ軍(AFU)の部隊に入隊した可能性が高いことから、信憑性が高いと思われる。少なくとも2019年以降、Centuriaは何度か動員を告知しており、AFUのイデオロギー的に一致したメンバーに対して、グループのメンバーが勤務する特定の部隊への異動を求めるよう呼びかけている。新しいメンバーを集めるために、同グループは、1200人以上のフォロワーと専用の動員ボットを持つTelegramチャンネルを通じて、AFUでの役割と西側の訓練、軍事、交換プログラムへのアクセスを勧誘し続けている。

このグループはウクライナの極右運動であるアゾフ運動Azov movementと強い結びつきがあり、NAA士官候補生にアゾフ運動を宣伝し、そのメンバーがアゾフ運動の軍事部門である国家警備隊National Guardのアゾフ大隊Azov Regimentで講義をしていると信憑性のある主張をしている。前者とCenturiaの間に強い結びつきがあるというイメージは、アゾフと関わるりのある雑誌が2018年に同グループのNAA内での存在を同時期に報じたこと、アゾフの人物による支持声明、グループのリーダーやメンバーと見られる人物がアゾフのリーダーたちと写っている写真、そしてCenturiaがアゾフ運動とともに政治集会に参加していることによってさらに裏付けられている。オンラインでは、Centuriaはアゾフ運動の主要人物から支持されており、グループのリーダーやメンバーらしき人物は、アゾフのリーダーであるアンドリー・ビレツキーAndriy Biletskyや運動の主要スポークスマンであるユーリイ・ミハルチシンYuriy Mykhalchyshynと写真に写っている。アゾフ運動の政治的団体である国民軍団党The National Corps partyとアゾフ大隊は、筆者のコメント要請に応じなかった。

Centuriaとアゾフ運動の結びつきは、米国議会が2018年に「アゾフ大隊への武器、訓練、その他の支援の提供」のために米国の予算資金を使うことを禁止し、その後も2021年の政府支出法案を含めその規定を維持していることから、警戒が必要だ。CenturiaがNAAを通じて西側の軍事訓練にアクセスし、AFUに存在することが、アゾフ運動に利益をもたらす可能性がある。アメリカの議員たちは、国務省に対してアゾフを外国人テロ組織(FTO)に指定するよう繰り返し求めている。最も最近のそうした呼びかけでは、2021年4月に民主党のエリッサ・スロトキン下院議員がアントニー・ブリンケン米国務長官に宛てて、「アゾフ大隊は[中略]インターネットを使って新しいメンバーを勧誘し、そのメンバーを過激化させて白人のアイデンティティー政治課題を追求するために暴力を行使させている」と書いている。しかし、アメリカや西側諸国政府は、ウクライナ政府に対してアゾフ運動との関係を断つよう求めておらず、極右組織は、アゾフ大隊を通じて、依然としてウクライナ政府に組み込まれている。

Centuriaの活動、指導者らしき人物、イデオロギーについてコメントを求められた国立陸軍士官学校は、同団体が同校内で活動していることを否定し、同団体の活動とされるものを調査したが、そのような活動の証拠は何も見つからなかったと述べている。しかし、この論文で収集された証拠は、グループが士官学校内にあることを確固として示している。NAAスポークスマンは、アカデミーが過激主義に不寛容であることを強調した。このような発言とは裏腹に、別のケースでは、2021年にウクライナのユダヤ人連合が反ユダヤ主義プロパガンダを広めていると非難したアゾフ運動関連の極右団体にNAA士官候補生が銃器の教官として関わっていた疑いがある。NAA士官候補生は、ナチスの敬礼を連想させるジェスチャーをしている写真にも写っている。

CenturiaがNAA内で活動する能力を有している証拠、ウクライナ軍におけるそのプレゼンスや欧米の訓練や軍隊にアクセスできることに関する信頼できる主張は、ウクライナ当局や欧米政府によるウクライナ軍人の過激な見解や過激派グループとの関係が明かに審査されていないことの結果の1つに過ぎないように思われる。ウクライナ軍がCenturiaの活動をチェックしなかったことは、ウクライナ軍内での極右思想の拡散や影響力に対して、軍部が寛容であることを示唆している。

ウクライナ国防省は、軍隊に入隊する者や士官候補生が過激派的な考え方やつながりを持っているかどうかを審査することはないと述べている。一方、ウクライナ軍の訓練や武装に関与している欧米諸国の政府は、筆者の問い合わせに対して、欧米が訓練したウクライナ人兵士の審査はウクライナの責任であると述べている。米国、カナダ、英国、ドイツといった西側諸国政府は、ウクライナの訓練対象者が過激派的な考え方やつながりがあるかどうかを審査していない。

これらのわかったこととその結論は、筆者が2019年初頭から Centuriaのオンラインプレゼンスの変化を監視し、文書化したことで可能となった。その時以来、Centuriaは秘密主義を強化する方向に進んでおり、オンラインプレゼンスのそれ以前のバージョンの消去もその結果だと思われる。Centuriaの現在のTelegramチャンネル、@ArmyCenは、2020年4月から活動している。その前には、2018年から2019年後半にかけて活動し現在はアクセスできない@european_centuriaと@euro_order Telegramチャンネル、さらに現在はアクセスできないFacebookページ https://www.facebook.com/centuriaNASV/ 、2020年後半まで活動していたInstagramページ https://www.instagram.com/euro_order_centuria/ 、現在は休眠中のVKページ https://vk.com/european_centuria があった。注目すべきは、このグループが宣伝のためにアカデミーのブランドに依存しているもう一つの兆候として、そのFacebookページのURLには、広く認知されたNAAの正式名称の公式頭文字NASVが含まれており、これはウクライナ語の「Національна Академія Сухопутних Військ」を表し、直訳すれば国立陸軍アカデミーという意味だ。

このグループの初期のオンライン・プレゼンスでは、時折、顔、固有のコールサイン、グループのメンバーが運営するTelegramチャンネル、メンバーに関する識別情報、あるいは活動が行われた場所などが明らかにされていた。これらの情報は筆者によって保存され、事件の場所を確認し、特定のメンバーをソーシャルメディア上の存在まで追跡することができた(顔認識ウェブサイトFindclone.ruなどのツールを使って、検索した顔に一致するVK.com上のプロフィールや写真を表示させることも可能だ)。その結果、個人情報がすぐに判明したケースもあれば、自分の身元、グループのイベントや活動、他のメンバーに関する追加的な証拠が見つかったケースもあった。その結果、20人近くがCenturiaに関わっていることがわかったが、この記事では全員の名前を挙げてはいない。グループのプロパガンダやソーシャルメディアのプロフィールから得られた証拠は、アカデミーやその士官候補生に関する公開情報、グループが参加したと主張する公的イベントのメディア報道、ウクライナ住民に関する公開情報のデータベース等と照合された。Microsoft Azureの顔認証ツールを使用して、特定の写真やビデオに特定の個人が写っていることを確認した。また、報告書に記載されている団体や政府に対してインタビューを行い、あるいは連絡を取り、コメントの機会を提供した。また、「Centuria」の指導者らしき人物や、個々のメンバーにも接触するよう努めた。

筆者がCenturiaとそのメンバーらしき人々、およびNAAにコメントを求めたところ、同グループとそれにつながる個人は、オンライン上の存在の一部を削除する措置をとった。筆者は、同グループの声明、同グループとそのメンバーと思われる人物が運営するページのアーカイブを保存している。

この研究は、欧州・ロシア・ユーラシア研究所(IERES)のために著者が作成したものである。IERES所長のDr Marlene Laruelleとこの作業で調整した。

タイムライン

2017年後半~2018年前半:グループのリーダーらしき人物がNAAと関連する写真に登場

2018年

●グループ発足。Centuriaのネット上の投稿では、2018年5月を活動開始日として挙げている。しかし、その最も古いネット上の活動は、2018年2月にまでさかのぼる。
●CenturiaがNAA内でイベントを開催。
●極右運動アゾフに連なる雑誌「Національна(英語:National Defense)」が、NAAにおけるCenturiaの存在を報道。

2019年

●メンバーがウクライナ国家警備隊アゾフ大隊のために講義を行ったとされる。
●Centuriaリヴィウで開催された極右政党主催の集会でデモ行進。
●グループのイデオロギーと目標を詳細に記述したテキストが、Centuriaによってオンラインで公開される。
●Centuria、NAAを卒業したメンバーを祝福する。
●同グループは、メンバーがいくつかのAFUの部隊で将校としての役割を担ってきたと述べている。
●ウクライナ軍内の信奉者に対し、センチュリアメンバーが将校として勤務しているとされる特定の軍部隊への異動を求める。
●メンバーらしき人物がドイツ陸軍士官学校がドレスデンで開催した第30回国際ウィークに出席した。

2020年

●英国王立陸軍士官学校サンドハースト校の11カ月にわたる将校訓練コースに、Centuriaのメンバーらしき人物が参加し、卒業する。
●Centuria、メンバーのNAA卒業を祝福する。
●Centuria、引き続き、信奉者に対し、メンバーが将校として勤務しているとされる特定のAFU部隊への転属を求めるよう呼びかけている。
●Centuria、軍隊のメンバー以外にも、治安維持機関や法執行機関のメンバーにも門戸を開いていると述べる。
●Centuria、以前はアゾフ運動のストリート部門であるNational Militiaとして知られていた同名の新たに結成されたグループと距離を置くとの声明を発表。
●グループは、NAA内での活動継続を主張。
●国際平和維持・安全保障センターで撮影された米軍訓練生との写真に、同グループのメンバーらしき人物が写っている。

2021年

●グループはウクライナの外国部隊との協力に新たに焦点を当て、「より洗練された秘密主義」の活動への移行を発表する。
●Centuria、メンバーのNAA卒業を祝福する。
●Centuria、キエフ、オデッサ、ハリコフ、リヴィウでメンバーが活動していると表明。
ウクライナ国軍の将校として活躍しているとのこと。
●Centuriaは、信奉者たちに、メンバーが将校として勤務しているとされる特定のAFU部隊への転属を求めるよう呼びかけ続けている。
●グループ発足以来、複数のメンバーがフランス、英国、カナダ、米国、ドイツ、ポーランドとの軍事演習に参加したと主張している。

NAA:欧米の支援で同国の軍事エリートや最前線の戦闘員を形成する

ヘットマン・ペトロ・サハイダクニー国立陸軍士官学校(NAA-ウクライナ語。Національна академія сухопутних військ імені гетьмана Петра Сагайдачного)はウクライナの軍事教育システムにおける重要な機関である。リヴィウ市の中心部に位置する広大なキャンパスには、ウクライナ国軍の将校を目指す数千人の士官候補生が在籍しており、そのスケールの大きさは、同アカデミーのサイトで公開されている3Dツアーで確認することができる。同アカデミー長のパブロ・トゥカチュク中将によると、「将来のウクライナ軍の偉大な指揮官たちは、このアカデミーで技術を習得している」のだそうだ。

ウクライナの西側パートナーは、将来の軍事リーダーの育成に関与している。同アカデミーの2020-2025年戦略では、「NATOへの統合の促進」が重要な任務の一部として取り上げられており、NATO(軍事)教育機関との協力が重視されている。現在、NAAでは、ドイツ、カナダ、デンマークの専任アドバイザーとNATOの防衛教育強化プログラム(DEEP)の専門家が、学生に教えるカリキュラムの形成に携わっている。アカデミーの施設にも欧米の関与が反映されており、例えば2018年、NAAはカナダがスポンサーとなったハイテクな「デルタ教室Delta Classroom」を公開した。

1 Photo posted to the NAA’s Facebook page shows cadets lined up in front of the buildings of the Academy
NAA の Facebook ページに投稿された写真には、アカデミーの建物の前に並ぶ士官候補生たちが写っている。

ウクライナ国防省の情報機関であるArmy Informによる2019年の報告書では、アカデミーは 「国際軍事協力のイベント 」に関して、ウクライナの軍事教育機関の中で「疑いようのない」リーダーであると述べられている。また、ポーランドのタデウシュ・コウスチスコ陸軍大学General Tadeusz Kościuszko Military University of Land Forces 、リトアニアのヨナス・ジェマイティス陸軍大学General Jonas Žemaitis Military Academy、テレジア陸軍大学Theresian Military Academy(オーストリア)、ドレスデン(ドイツ)の陸軍士官学校(Officierschule des Heeres、OSH)や「その他の有名な外国の大学」と「密接な関係」を持っていると報告されている。その報告書によると、2019年の最初の11カ月間だけで、63の外国代表団がNAAを訪問し、NAAの軍人は37回海外に渡航している。

「我々の優秀な士官候補生は、外国の軍大学で(最長1年間のコースに)参加する機会がある。例えば、イギリスのサンドハースト(王立陸軍士官学校)やフランスのサン・シール(サン・シール特別陸軍士官学校)だ」とNAA広報担当のアントン・ミロノビッチは筆者に電話で語り、頻度は低いものの、士官候補生たちはNATO諸国の軍事教育施設への短期「研修訪問」にも参加していることを付け加えた。

ウクライナの西側諸国とNAAとの関わりは、NAAの重要なイベントにも表れている。例えば、2020年の将校卒業式には、米国、カナダ、ドイツ、デンマーク、リトアニア、スウェーデンの政府関係者が出席し、ウクライナ首相の挨拶と大統領の事前録画による演説が行われた。また、欧米の軍関係者も卒業生を前に講演を行った。2021年、NAA将校の卒業式にアメリカ、カナダ、デンマーク、ドイツ、リトアニア、ポーランドの軍関係者が来賓として出席した。

2 Photo posted to the Joint Multinational Training Group—Ukraine Facebook page shows leaders of Task Force Carentan at the Oath of Allegiance ceremony at the NAA in August 2
多国籍共同訓練グループ・ウクライナのFacebookページに投稿された写真は、8月2日にNAAで行われた忠誠の誓いの儀式に参加した Task Force Carentan のリーダーたち。

NAA士官候補生が欧米のウクライナへの軍事支援の恩恵を受けているのは、アカデミー本体を通じたものだけではない。ロシアとの戦争が7年目を迎えたウクライナにとって、アカデミーはウクライナ軍の主要な訓練・教育拠点として欠かせない存在となっている。NAAは、国際平和維持・安全保障センター(IPSC)と第184訓練センターを監督している。ウクライナ国防省の広報による2017年のビデオレポートによると、最盛時には、この2つのセンターの間で数千人の軍人を受け入れている。IPSCは、その場所(リヴィウ州ヤヴォリブ地域のスタリチ)から、メディアでは単にヤヴォリブと呼ばれることが多いが、間違いなくウクライナ軍の訓練の主要拠点であり、そのなかで米国やカナダなどが大きな役割を担っている。このセンターには、カナダ軍のウクライナ軍支援ミッションであるUNIFIER作戦と、米国主導の多国籍合同訓練グループJoint Multinational Training Group—Ukraine(JMTG-U)があり、ウクライナ軍(AFU)の訓練と装備などの支援をしている。IPSCのFacebookページで公開されている12分間の英語版ビデオでは、ヨーロッパ最大級の軍事ポリゴンであるIPSCの規模と精巧さが詳細に説明されている。IPSCに対する欧米のインプットは絶大だ。米国政府の支援により、2016年にIPSC内にヤヴォリブ戦闘訓練センターが設立された。その1年後には、米国の支援でハイテクな「シミュレーション・センター」が立ち上げられた。2020年のIPSCについて、NAAチーフのトカチュクTkachukは、「掛け値なしでウクライナとその軍隊にとって国際軍事協力の前哨基地」と呼ぶことができると述べた。2021年5月、トカチュクは、米国主導のJMTG-Uの専門家だけでも、AFUのために2万人以上の軍人の訓練を支援したと述べている。ウクライナのアンドリイ・タランAndrii Taran国防大臣は2021年2月、ウクライナの防衛・治安部隊の訓練における(UNIFIER作戦を通じた)カナダの役割は 「重要 」で 「疑う余地もない 」と述べている

3 Photo posted to the Canadian Armed Forces in Ukraine Facebook page shows the 2020 NAA graduation ceremony at the International Peacekeeping and Security Center in Yavoriv
在ウクライナカナダ軍のFacebookページに投稿された写真は、ヤヴォリウの国際平和維持・安全保障センターで行われた2020年NAA卒業式の様子。

特筆すべきは、NAA士官候補生がIPSCの射撃場と訓練場を利用できることだ。また、そこでウクライナ軍と協力している外国人教官にもある程度アクセスすることができる。また、IPSCで行われるメープルアーチMaple ArchやラピッドトライデントRapid Tridentなどの国際軍事演習には、通訳から参加部隊の中で直接演習に携わる役割まで、さまざまな形で参加している。

4 Photo posted to the Canadian Armed Forces in Ukraine Facebook page shows then Commanding Officer of Canada’s Operation UNIFIER Lieutenant-Colonel (LCol) Ryan Stimpson spea
在ウクライナカナダ軍のFacebookページに投稿された写真。カナダのUNIFIER作戦の司令官であったライアン・スティンプソン中佐(LCol)がスピーチしている様子。

在キエフ米国大使館は、筆者のコメント要請に電子メールで回答し、「NAA士官候補生はJMTG-Uミッション諸国と非公式な関係を持っている 」と述べた。同大使館によると、JMTG-Uの職員は、NAA士官候補生がウクライナ軍スタッフから訓練を受ける際に、監視およびコンサルティングの役割を担っているという。一方、在ウクライナカナダ大使館国防部長のロバート・フォスター大佐は、カナダ軍の教官がIPSCのNAA士官候補生に関わることは限定的であると述べている。

ビデオ、写真の証拠から、NAA内にゾンネンクロイツを冠した「軍事集団」が存在することが判明

少なくとも2018年初頭から、NAA(およびアカデミーを支援する欧米政府)がその士官候補生や訓練生に提供する訓練や機会は、自らを「軍事集団military order」と称し、特定のイデオロギー路線に沿ってウクライナの軍隊を再編成するという目標を表明しているアカデミー士官候補生と卒業生で構成される組織、Centuriaにも提供されている。

同団体の広範囲にわたるオンライン・プレゼンスは、一連のオンライン・アカウントによって維持されており、イデオロギー的な声明だけでなく、同団体の活動やメンバーらしき人々に関する最新情報も含まれている。信頼性を獲得・維持し、新しいメンバーを集めるための一貫した努力のなかに見られるように、グループはユニークなビデオや写真を投稿してきた。NAA内で行われたイベントの映像や写真、Centuriaとわかるバナーを持った士官候補生の映像、NAA内でCenturiaとわかるパッチをつけたメンバーの写真や映像、政治的イベントに参加するメンバーの映像など、ユニークな素材を掲載している。バナーは数種類使用されている。白人のナショナリストの日輪Sonnenkreuz[訳注1]とヴォルフスアンゲルWolfsangel のマークと組織のスローガン「Virtus et Honestas」をあしらったものと、ゾンネクロイツの代わりに標的の十字を思わせるマークをあしらったものがあり、後者がNAA内で使用するのに安全だと判断した可能性がある。また、Centuriaはネット上に掲載した写真の一部を加工し、顔を隠したり、バナーをゾンネンクロイツのものに変えたりしているようだ。

Centuriaがアカデミーで自由に活動できることを示しているのは、ネット上だけではない。2020年8月、Centuriaの自称メンバーがウクライナの人気メディア「KP.ua」の取材に応じた。KP.uaの記事によると、NAAの士官候補生でアゾフ大隊(大隊はウクライナ国家警備隊the National Guard of Ukraineの一部だが、この地位と極右運動アゾフの軍事部門としての役割を兼ねている)のベテランである「ユーリイYuriy」は、NAAとウクライナ軍参謀本部がともに「組織の存在を知っており、将校たちの精鋭を形成しようとする動きに反対の声を上げてはいない」と述べているという。この記事はまた、ユーリイのグループが他のいくつかの軍事教育機関やAFU部隊と「協力」しているとの彼の言葉を引用している。

さらに「ユーリイ」はKP.uaに、彼がより高い軍事教育を追求するためにアゾフ大隊を去った後、Centuriaが設立されたと語った。「友人と私は、将校になってアゾフに戻ろうと思っていた。しかしその後、私たちはウクライナの正規軍で奉仕し、国家の価値を宣伝し、将校貴族主義を普及させたいと考えるようになった」と説明したと伝えられている。

自分のグループの活動が事実上NAAに許可され、AFUに知られているという「ユーリイ」の主張は、当時否定的に報道されていた別の物議を醸す公然の極右団体と自分の組織を区別するためになされたものである。2020年8月1日、以前は「ナショナルミリシア」(ウクライナ語:Національні дружини)として知られていたアゾフ運動の路上部隊は、Centuriaとして再ブランド化し、メディアで大々的に報じられるような数百人の覆面集団と銃を携帯した敬礼を含む式典を開催した。アゾフが制作したこのイベントに関するプロモーションビデオの中で、新しく生まれ変わった組織のリーダー、Ihor Mykhailenkoは、「領土を獲得することによって外敵に勝利を収める」必要があり、「国内の敵を倒す」必要があると述べている。

こうした発言を背景に、「ユーリイ 」は自らの組織を、今や極めて公的な存在となったグループから切り離そうとしたのである。KP.uaは、「私たちは、誰が私たちの名前とアイデアを使用したのかを解明しようとしている」と、「Yuriy」の発言を引用している。 KP.uaへの「Yuriy」のコメントと同時に、Centuriaもテレグラムチャンネルで、新しく立ち上げた同名の組織と区別する声明を発表していつ。KP.uaによると、同様の声明は、現在アクセスできないCenturiaのFacebookページでも発表された。筆者の質問に答えたKP.uaの記者は、今は削除されたFacebookページに掲載されていた電話番号を使って「Yuriy」に連絡を取ったという。彼女はその番号を保存していなかった。KP.uaの記事には、Centuriaの主張に対する事実確認は含まれていない。

KP.uaの記事には、Centuriaの主張に対するアカデミーの否定も掲載されている。「このような組織は存在しない。少なくとも、このような活動やイベントを承認する公式要請は受けていない」と、NAA広報担当者は述べたという。ウクライナ軍参謀本部も同様に、「このような組織は、軍や由緒ある士官学校とは何の関係も持ち得ない」と、このメディアに対して否定している。

筆者がNAA報道官のアントン・ミロノビッチにCenturiaの活動について尋ねたところ、彼はこのグループが機関内で活動していることを否定し、このグループの主張する活動に関するNAA自身の調査でも、そのような活動の証拠は見つかっていない、と述べた。

筆者がメールでウクライナ国防省に、ウクライナ軍内でのCenturiaの活動疑惑に関するメディアの報道について調査が行われたかどうかを尋ねたところ、別の組織であるウクライナ軍から電話で回答があった。インナ・マレヴィチ情報官は、自分たちではなく、本来の宛先である国防省が答えるべきだと考えているようだったが、それでもウクライナ軍はCenturiaに関する疑惑に根拠がないと考えていることを示した。「私たちは、Centuriaは根も葉もないものであり、軍とは無関係だと考えています。陸軍は根拠のないことについてコメントしない」とマレビッチは電話口で語った。

ウクライナ軍とNAAによるこれらの声明とは反対に、筆者は、アカデミー内での存在と活動に関するグループの主張のいくつかを裏づけることができた。

CenturiaはNAA内での活動を誇示し続けているが、その存在を最も確かな証拠として示しているのは、同グループがNAA敷地内で開催したイベントなど、以前のテレグラム・チャンネルのマルチメディア投稿である。例えば、グループの1周年とアゾフ大隊の5周年を記念した2019年5月の投稿には、20人近くの制服を着た集団(写真では顔がぼかされている)がグループのバナーを持ってポーズをとっている冬の写真が掲載されている。その背後には、アカデミー敷地内にあるNAAを象徴する建物のひとつが写っている。

「1年前、右翼の志願者とナショナリスト組織の活動家によって形成されたCenturiaの戦士たちは、我々の共通の大義に忠誠を誓い、その結果、士官の高い専門性だけでなく、彼らの信頼できる思想的バックボーンの上に築かれた新しいタイプの軍隊の創設が実現した」と投稿されている。

筆者はまた、2019年6月付けのソーシャルメディアに、NAA敷地内でCenturiaの旗を掲げる制服姿の士官候補生が、その年の卒業式の様子と思われる投稿を複数発見している。これらの写真は、テレグラム上の同時期のCenturiaの投稿と対応しており、コールサイン「Wild」と「Slav」で識別されるグループの2人の「戦友」のNAA卒業を祝福し、NAA敷地内でCenturiaのバナーを持った、パレードの制服を着た者を含むグループの写真を掲載している。「諸君はウクライナ軍を率いる国家の誇りであり、国際的で専門的な新しい形式の将校の基礎となる[…] 旧クラスの将校が軍隊を乗っ取るのを許さないようにしよう!”」写真は、キャンパス内の礼拝堂に隣接するNAA敷地内で撮影された。

5 A photo posted to Centuria’s Telegram shows a group of uniformed men posing next to one of the buildings of the National Army Academy. The building is part of the NAA’s ca
Centuria’s Telegramに投稿された写真には、国立陸軍士官学校の建物の1つの横でポーズをとる制服姿の男性たちが写っています。この建物は、リヴィウにあるNAAのキャンパスの一部である。セントーリアが元の写真を加工した際、出来上がった画像のバナーを、標的を連想させるシンボルではなく、日輪をあしらったものに変更した可能性がある。
6 A 2019 photo posted to Centuria’s Telegram congratulates “comrades” Slav (Ukrainian Слов’янин) and Wild (Ukrainian Дикий) on graduating from the NAA. “Wild” is a call sign
センチュリアのテレグラムに投稿された、Slav(ウクライナ語:Слов’Янин)とWild(ウクライナ語:Дикий)の「同志」がNAAを卒業することを祝福する2019年の写真。「Wild」は、NAA士官候補生のローマン・ルスニクにちなんだコールサイン。写真はNAA敷地内の礼拝堂の隣で撮影された。Centuriaが元の写真を加工した際、出来上がった画像のバナーを、標的に十字を連想させるシンボルではなく、日輪をあしらったものに変更する加工が施されていたと思われる。
7 Screenshot of a June 2019 Instagram post made by then NAA Cadet Roman Rusnyk (wearing parade uniform in the photo) on his personal Instagram profile. The photo appears to
2019年6月、当時のNAA士官候補生ローマン・ルスニク(写真ではパレード用ユニフォームを着用)が個人のInstagramのプロフィールに投稿したスクリーンショット。同時期にCenturiaが投稿した写真と酷似しているが、違いはRusnykが投稿した写真のCenturiaのバナーに掲載されているシンボルで、ゾンネンクロイツではなく、標的の十字線を連想させるシンボルが描かれているようだ。

Rusnykは投稿の中で、「将校の階級 」を受けたことについて書いている。投稿には、NAAからのルスニクのBA卒業証書の写真も含まれている。写真は、NAA敷地内の礼拝堂の隣で撮影された。左から右へ Vladyslav Chuguenko、身元不明者、Yuriy Gavrylyshyn、Roman Rusnyk、Mykhailo Alfanov、Danylo Tikhomirov、Oleksandr Gryshkin(Gryshkinは本人の母親と関連する姓、ソーシャルメディアによる)。

Centuriaのテレグラム投稿でパレードの制服を着ている人物は、Instagramに投稿した卒業証書の写真によると、2019年にNAAを卒業したRoman Rusnyk。Centuriaの投稿と同時期に、RusnykはCenturiaのバナーを持った人物たちと一緒に写っている同様の写真を個人のInstagramに投稿している。

どうやら、Rusnykが投稿した画像は、Centuriaも使用した写真をトリミングしたとはいえ、オリジナルであるようだ。CenturiaとRusnykが投稿した画像を並べて比較すると、Rusnykが投稿した写真に見られる標的に十字を連想させるシンボルとは対照的に、Centuriaがオリジナルの写真を加工して、その画像のバナーにはSonnenkreuzが描かれていることがわかる。その他にも、オリジナルに見える顔をぼかすなど、Centuriaによる加工が施されています。

ルスニクのInstagramのキャプションには、”14/88 демократию приносим!!!” というフレーズの一部として、白人至上主義の「14/88」という数字シンボル[訳注3]が含まれている。(ロシア語で「14/88 私たちは民主主義をもたらす!!」の意)を使用しています。

8 A screenshot of a June 2019 Instagram post by then NAA Cadet Roman Rusnyk shows Rusnyk’s BA diploma from the NAA
当時のNAA士官候補生ロマン・ルスニクによる2019年6月のInstagram投稿のスクリーンショットには、ルスニクのNAAからのBA卒業証書が写っている。
9.1 9 Screenshot of a June 2019 Instagram post by then NAA cadet Roman Rusnyk (wearing parade uniform). In his post, Rusnyk writes about receiving “officer rank.” The NAA’s
当時のNAA士官候補生Roman Rusnykによる2019年6月のInstagram投稿のスクリーンショット(パレード用ユニフォームを着用)。投稿の中で、ルスニクは “士官位 “を受けたことについて書いている。背景にはNAA本館がはっきりと見える。写真には、日輪ではなく、標的の十字線を連想させるシンボルのバナーが描かれている。左はVladyslav Chuguenkoで、Stanyslavという名前のそっくりな弟がいる。右はNAA士官候補生のSerhiy Vasylechkoで、同時期にNAAを卒業したRusnykを祝福するInstagramの投稿で同じ写真を使用した。

同じように、NAA士官候補生が敷地内で、グループのシンボルであるゾンネンクロイツをあしらったセンチュリアパッチを身に着けている様子も、さまざまなソーシャルメディアに投稿されている。例えば、2019年5月のあるインスタグラムの投稿には、各自のサービスブランチに対応する制服やNAAトラックスーツを着たNAA士官候補生のグループが写っている。彼らはアカデミーの「砲兵横丁」で、認識できるミサイルランチャーの横でポーズをとっています。12人のグループのうち、少なくとも5人にはセンチュリアのパッチが見える。写真に写っている投稿者自身は、Instagramの投稿に「#центурия(ロシア語でCenturia)」というハッシュタグを含めている。

10 Photo posted to Instagram by an apparent Centuria member, Yevhen Romanchenko (far right), shows individuals with Centuria patches on the premises of the Academy. The phot
センチュリアのメンバーと見られるYevhen Romanchenko氏(右端)がInstagramに投稿した、アカデミー敷地内にCenturiaのパッチを付けた個人が写っている写真。写真はアカデミーの「砲兵横丁」で撮影され、投稿には「#центурия」というハッシュタグが添えられている。注目すべきは、2019年の政治集会で撮影されたロマンチェンコ自身のInstagramのプロフィール写真で、ロマンチェンコがCenturiaのワッペンをつけていることだ。

同団体はNAAで記念撮影を行っただけでなく、アカデミーの敷地内でイベントを開催していたことが証拠によって確認されている。CenturiaのTelegramの投稿によると、そのようなイベントの1つが2018年7月に開催されたようだ。投稿では、グループのメンバー(独自のコールサインで識別)がNAA士官候補生を対象に「国家の誇り」をテーマにした講演会を開催したとされている。このイベントに関する投稿では、「壮大な」ものであり、士官候補生たちが熱狂的に迎えていると説明されている。写真数点とともに、3分近い動画も掲載されています。そのビデオには、6人の若者たち(4人は制服でNAAパッチ、2人はカジュアルな服装でCenturiaパッチをつけている)が、30人近い制服の士官候補生のグループを率いて、「ウクライナナショナリストの祈り」を暗唱している様子が映っている。 「ウクライナナショナリズト組織(OUN)」の指導者ヨゼフ・マシュチャクが書いた第二次世界大戦前の思想的テキストで、アゾフ大隊など極右につながる武装集団が開催するイベントに取り入れられ始めた2014年から注目されるようになったものだ。この祈りは、「英雄の聖母ウクライナ 」に宛てられ、「あなた(ウクライナ)のために拷問で甘美な死を 」と懇願している。歴史学者ジョン=ポール・ヒムカJohn-Paul Himkaが筆者に寄せたコメントによれば、「神にも聖母にも言及しないこの祈りの作成は、ナショナリストがキリスト教とその制限的道徳を捨て去ったことの副産物である 」という。ヒムカは、この祈りがウクライナで復活しているのを見るのは「不安だ」と付け加えた。

11 Screenshot of Centuria Telegram post about a “Pride of the Nation”-themed lecture held by Centuria members for NAA cadets. The post identifies three participating Centuria
Centuria会員がNAA士官候補生のために開催した「祖国の誇り」をテーマにした講演会についてのCenturia Telegram投稿のスクリーンショット。この投稿では、参加した3人のCenturia会員のコールサインが確認できる。スキタイ(ウクライナ語:Скіф)、セイント(ウクライナ語:Святий)、リリシスト(ウクライナ語:Лірик)だ。後者のコールサインは、2021年NAA卒業のKyrylo Dubrovskyiが、2019-2020年に11ヶ月間の訓練コースで英国の王立陸軍士官学校サンドハーストに通い、長年にわたって使用してきたもの。また、このイベントに関する投稿には、複数のCenturia会員が確認できる高画質の動画も含まれている。ドゥブロフスキーに似た人物が動画に映っている。

写真と動画は、その外観と家具が士官候補生が利用できるNAAの兵舎の外観と一致する大きな部屋の中で暗唱が行われたことを示しています(オンラインやソーシャルメディアに投稿された兵舎の写真に見られるように)。「Centuriaのメンバーは、士官候補生の思想的教育を自分たちの手で行う」と、暗唱の動画を紹介する投稿があった。

12 A still from the video posted to Centuria’s Telegram shows the individuals leading NAA cadets in the “Prayer of the Ukrainian Nationalist.” From left Yuriy Gavrylyshyn, I
Centuriaのテレグラムに投稿されたビデオの静止画。”Prayer of the Ukrainian Nationalist “でNAA士官候補生をリードする個人たち。左から。Yuriy Gavrylyshyn、Illya Boyko、Kyrylo Dubrovskyi、Danylo Tikhomirov。

この祈りのビデオは驚くほど高画質で、投稿に記載されたコールサインと組み合わせることで、イベントに参加したセンチュリアメンバーを識別することができた。

13 A still from the video posted to Centuria’s Telegram shows NAA cadets, led by members of Centuria, reciting the “Prayer of the Ukrainian Nationalist.”
CenturiaのTelegramに投稿されたビデオの静止画で、Centuriaのメンバーに率いられたNAA士官候補生が “Prayer of the Ukrainian Nationalist “を暗唱している。

Centuriaの別のTelegramの投稿では、NAAの教室と思われる場所でのグループの活動が紹介されている。その投稿では、2018年12月に行われたとされるNAA士官候補生向けの「国家の誇り」をテーマとした別の講義について説明している。

14 Post to Centuria’s Telegram about the “Pride of the Nation”-themed lecture for NAA cadets that allegedly took place in December 2018
2018年12月に行われたとされるNAA士官候補生向けの「国家の誇り」をテーマとした講義について、CenturiaのTelegramに投稿。
15 Post to Centuria’s Telegram about the “Pride of the Nation”-themed lecture for NAA cadets that allegedly took place in December 2018
2018年12月に行われたとされるNAA士官候補生向けの「国家の誇り」をテーマとした講義について、CenturiaのTelegramに投稿。

投稿の内容は以下の通り。

●トラック搭載型マルチミサイルランチャーの特徴的な大型ポスターの上に投影されたパワーポイントのようなものを見ている制服姿の士官候補生たちの前に、制服姿の講演者が写っている写真。このポスターは、壁にある特徴的なアーチ状のニッチを埋めている。投影された映像には「Pride of the Nation」と書かれており、武装した制服姿の兵士たちのビジュアルにその文字が重ねられている。Centuriaのバナーも写っている。教室自体は、2021年にNAA士官候補生がSNSに投稿した写真に登場したものと酷似している。2組の写真の間に明らかな違いがあるのは、2018年以降、部屋に新しいカーペットが敷かれたからかもしれない。

16 Photo posted to Centuria’s Telegram. A video is being projected over a screen placed on a wall that bears a recognizable poster. Other elements of the room, like the arch
CenturiaのTelegramに投稿された写真。壁面に設置されたスクリーンに映像が映し出されている。壁にあるアーチ型のニッチなど、部屋の他の要素も認識できる。この写真には、標的に十字を連想させるシンボルではなく、ゾンネンクロイツをモチーフにしたバナーも含まれていたようだ。
18 A side-by-side comparison of a photo (left) posted to social media by an NAA cadet and a vertically-flipped Centuria photo from what looks, save for the carpeting, like t
NAA士官候補生がSNSに投稿した写真(左)と、カーペットを除けば同じ部屋に見えるCenturiaの写真を並べて比較したもの。
19 A photo posted by an NAA cadet to social media shows the same poster in an arched niche as is seen in a photo posted by Centuria
NAA士官候補生がソーシャルメディアに投稿した写真には、センチュリアが投稿した写真と同じポスターがアーチ型のニッチに貼られている。

●壁に描かれたエンブレムを覆う白い布の上にCenturiaのマークが映し出された、特徴的な教室内を撮影した写真。エンブレムのシルエットが見えるのは、NAAが学部や学科を示すエンブレムと一致している。さらに、紋章の上にはウクライナ語で “28-Навчальний Курс “(第28期研修コース)という文字が見える。エンブレムの一部を構成しているようだ。NAAが公開している文書やサイト上のニュースでは、「(番号)訓練コース」という用語は、NAA内の特定の教育専門分野を指す言葉として使われている。NAA士官候補生は、しばしば特定の(番号の)訓練コースの士官候補生と呼ばれる。例えば、この2019年のNAAニュースアイテムは、キャデットの体育への参加に特化しており、キャデットの名前の横に、この特定のケースでは、28番目のトレーニングコースのほか、44番目、14番目などのトレーニングコースを含む、特定の(番号の)トレーニングコースにが表示されている。したがって、写真の講堂の壁に描かれた「第28回訓練コース」の文字は、当該講堂が「第28回訓練コース」のために定期的に使用されていたことを示すものと思われる。

20 Photo posted to Centuria’s Telegram. An image is projected onto a screen that has been placed over a distinct symbol. There is also recognizable writing on the wall that
Centuria Telegramに投稿された写真。シンボルマークの上に置かれたスクリーンに映像が投影される。壁には “第28回トレーニングコース “と書かれた認識できる文字もある。

投稿によると、このいわゆるイベントの間、Centuriaは書籍「Націократія(英語:Natiocracy)」と雑誌「Національна оборона(英語:National Defense)」のコピーを配布したという。前者は、ウクライナのナショナリスト組織(OUN)の理論家であるミコラ・シュティボルスキーMykola Stsiborskyi(1897年 – 1941年8月30日)の思想テキストである。近年、極右のアゾフ運動で盛んに宣伝されており、同組織のイデオロギーの中心となっている。ナチオクラシーとは、アゾフ運動の政治団体であるナショナル軍団党the National Corps partyによって、「社会的に有用なすべての(社会)層かななる政府によって遂行される国家体制 」と定義されている。2021年初頭、「ナチオクラシー2.0」(ウクライナ語:Націократія 2.0)思想について語ったアゾフの運動指導者ミコラ・クラフチェンコMykola Kravchenkoは、これをシュティボルスキーの仕事と結びつけ、西洋における国民国家の現在の危機の原因を民主主義と普通選挙に求めた。クラフチェンコによれば、ナチオクラシー2.0は、「市民権は出生権だけではなく、一定の能力システムに従って獲得されること 」と規定し、これが「西洋文明を救済するアルゴリズムとなる可能性がある 」という。雑誌『国防』は、アゾフ運動の軍事部門であるアゾフ大隊が出版している。

この投稿に含まれる別の写真には、書籍と雑誌の両方が写っている-書籍スタンドの横に制服を着た士官候補生の一団がいる。「我々の運動は、国家精神に育まれたウクライナの若い将校の形成にさらに貢献することを企図している」と投稿している。Національна оборона(英語:National Defense国防)との関連は、このグループにとって繰り返し出てくるモチーフで、アゾフに関連した雑誌の宣伝が投稿され、アゾフ大隊とのつながりが強調されている。

NAAにおけるCenturiaの存在を示す証拠は、自分の不利になるような投稿にとどまらない。同グループが後押ししている『国防Національна оборона(英語:National Defense)』誌は、2018年のFacebook投稿で、NAA内のCenturiaの存在に関する主張の同時期の裏付けとなるものを提供している。

21 Photo from a post by the Azov-linked Національна оборона (English National Defense) magazine. The individual in the photo is likely Nazar Livenets. When reached for comme
写真はアゾフに連なるНаціональна оборона(英語:National Defense)誌の投稿から。写真の人物はナザル・リヴェネツと思われる。コメントを求められたリヴェネッツは、センチュリアに関する知識を否定した。本人の上腕にあるCenturiaのパッチに注目。

2018年5月、同誌はアカデミー内での普及についてFacebookに書き込んだ。この投稿では、「Centuriaのメンバー」がこの雑誌を賞賛していることが具体的に書かれていた。投稿には、NAAの図書館内で撮影されたと思われる写真が含まれており、その中には複数の制服を着た人物が写っており、そのうちの一人はCenturiaのパッチを付けていた。

同年11月、『国防』誌は、その最新号で「『Centuria』のメンバー」が「国立陸軍士官学校の士官候補生を紹介」している。その投稿には、この雑誌の号を手にした数十人のNAA士官候補生の写真も含まれている。注目すべきは、同じ投稿が、同じ日付でウクライナ国家警備隊アゾフ連隊のVKページにも掲載されていることだ。

22 Screenshot of a Facebook post by the Національна оборона (English National Defense) magazine that mentions Centuria
雑誌『国防』によるセンチュリアに言及したFacebook投稿の画面。

また、Centuriaについては明確に言及されていないが、2018年2月のНаціональна оборона(英語:National Defense)によるFacebook投稿で、同学院への雑誌導入について記述したものに、同組織の主要メンバーが登場している。この投稿には、2人のセンチュリアメンバーを含むパッチワークをしたNAA士官候補生の写真が掲載されており、アカデミー内で撮影されたものと思われる。

23 Screenshot of a Facebook post by the Національна оборона (English National Defense) magazine. The bottom right photo shows several apparent members of Centuria.
Національна оборона(英語版National Defense)誌によるFacebook投稿のスクリーンショット。右下の写真には、センチュリアのメンバーと思われる人物が数名写っている。
24 Photo posted by the Національна оборона (English National Defense) magazine. First from the left is Serhiy Blinov, second from the left is Danylo Tikhomirov, and second f
Національна оборона(英語:National Defense)」誌の投稿写真。左から1人目がSerhiy Blinov、左から2人目がDanylo Tikhomirov、右から2人目がYuriy Gavrylyshyn

グループの見かけ上の指導者。極右団体「アゾフ運動」との関係やNAAでの役割など

2018年7月に行われたとみられるイベントで撮影された前述の祈りの映像では、Centuriaのパッチをつけたカジュアルな服装の二人をはじめ、NAA士官候補生を率いて国歌を暗唱する人物の姿がはっきりと確認できた。2019年の夏には、同じ二人が、NAAの壁の外で唯一認められた公の場-2019年6月30日にリヴィウで行われた「ウクライナ国家千年の行進(ウクライナ語:Марш тисячоліття Українсько держави)」でCenturiaを先導する姿が確認された。この行進は、7月21日のウクライナ議会選挙でスヴォボーダの共同投票に出馬するウクライナの極右政党「ナショナル軍団」「右派セクター」「自由(ウクライナ語:Свобода)」が合同で行ったものだ。

25 Photo posted by Centuria on Telegram showing the group at the March of the Millennium of the Ukrainian State (Ukrainian Марш тисячоліття Української держави) on June 30,
CenturiaがTelegramに投稿した写真で、2019年6月30日にリヴィウで行われた「ウクライナ国家千年の行進」(ウクライナ語:Марш тисячоліття Української держави)での一行を紹介している。

数千人の参加者が集まったこのイベントで、Centuriaは文字通り世界にその顔をさらけ出した。十数人の男性グループは、ゾンネンクロイツの旗の下、お揃いの黒いシャツの袖にセンチュリアのパッチを付けて行進した。同グループは、Telegramの投稿で、このイベントへの参加について、顔をぼかしたメンバーの写真を複数枚添えて、「緊密な隊列で、ナショナル部隊、スヴォボダ、右派セクター、その他の右翼組織の同胞活動家と肩を並べて、Centuriaの戦士は古代リヴィウの中心に向かって行進した」と書いている。しかし、同団体はTelegramに投稿した写真に写っているメンバーの顔を隠す措置を取ったものの、このイベントに関するメディアの報道をコントロールすることはできなかった。特に、同グループはこのイベントをライブ配信した「ナショナル部隊党」によって、撮影された。

26 Photo posted by Centuria on Telegram showing the group at the March of the Millennium of the Ukrainian State (Ukrainian Марш тисячоліття Української держави) on June 30,
CenturiaがTelegramに投稿した写真で、2019年6月30日にリヴィウで行われたウクライナ国家千年祭(ウクライナ語:Марш тисячоліття Української держави)の行進での一行を示している。

ビデオの品質は不揃いだが、高品質の2018年の祈りのビデオ、Centuriaのオンライン投稿で明らかになった重要な詳細(固有のコールサインとメンバーの役割)、Centuriaのメンバーと見られる人物が個人のソーシャルメディアアカウントに投稿したイベントの写真を組み合わせることで、筆者はさまざまなオープンソース調査の手法とツールを使用してグループのコアメンバーと見られるリーダーを特定することができている。

私たちの調査の結果、27歳のユーリー・ガヴリーシン(ウクライナ語:Юрій Гаврилишин)と24歳のダニーロ・ティホミロフ(ウクライナ語:Данило Тихоміров)というNAA候補生と卒業生の二人がCenturiaのリーダーの可能性が高い。彼らは以前のオンライン上で、既知のそれぞれのコールサイン、”Milan “と “Moriak”(ウクライナ語で「船乗り」の意)で、ガヴリーシンを「Centuria」の「指導者の一員」、ティホミロフを「団体の兄弟」と説明するなどとしばしば言及されていた。2人は2018年の祈りのビデオと2019年とナショナリストのデモ行進の両方に登場し、引き続き「Centuria」に関与している。両人とも、それぞれのソーシャルメディアに関連するメールアドレスに送った筆者のコメント要請には応じなかった。しかし筆者は、ガヴリーシンと関連があると見られるTelegramのアカウントから、Centuriaは “過激派の化身 “ではないとするコメントを入手した。Telegramは、ガヴリーシンがこれを運営していることを否定していない。

27 A still from the video that was livestreamed by the National Corps party, the political wing of the Azov movement, shows Centuria at the March of the Millennium of the Uk
2019年6月30日、リヴィウで開催された「ウクライナ国家千年の行進」(ウクライナ語:Марш тисячоліття Українсько держави)でのセンチュリアが、アゾフ運動の政治翼である国民軍団党がライブ配信した映像の静止画像。動画には、ゾンネンクロイツのシンボルをあしらった旗の下にいるグループがはっきりと映っているが、一方、前述のようにセントーリアがテレグラムに投稿した一部の写真は、標的の十字線を連想させるシンボルをゾンネンクロイツに変更する操作が行われていた可能性がある。

2人がNAAでの学習を正確にいつ開始したのか、あるいは完了/終了するのかは不明だが、2人は前述の2018年2月のアゾフに連なるНаціональна оборона(英語:National Defense)誌によるNAA内のプロモーションに特化したFacebook投稿に登場し、その時点ですでに2人が同アカデミーの士官候補生だったことが強く示唆されている。ティホミロフが自身のVKページに投稿したいくつかの写真は、2人が2017年の時点でNAA士官候補生であった可能性を示唆している。

28 Photo posted to VK by apparent Centuria leader Yuriy Gavrylyshyn clearly shows himself (center) with Danylo Tikhomirov to his right and Yevhen Romachenko to his left.
CenturiaのリーダーであるYuriy GavrylyshynがVKに投稿した写真には、右側にDanylo Tikhomirov、左側にYevhen Romachenkoと共にいる彼自身(中央)がはっきりと写っている。
29 Screenshot of a social media post by Danylo Tikhomirov (center) standing next to Yuriy Gavrylyshyn (second from left) and Serhiy Vasylechko (far left). Vasylechko left a
Yuriy Gavrylyshyn(左から2番目)とSerhiy Vasylechko(左端)の隣に立つDanylo Tikhomirov(中央)のソーシャルメディア投稿のスクリーンショットです。Vasylechkoは投稿の下に”[showing up] to the event like it’s a holiday “というコメントを残している。
30 Screenshot of the Instagram profile picture of Yevhen Romanchenko (left). The profile picture is a photo from the 2019 far-right rally in which Centuria participated. The
Yevhen Romanchenko(左)のInstagramのプロフィール写真のスクリーンショット。プロフィール画像は、Centuriaが参加した2019年の極右集会の写真。リヴィウのステパン・バンデラ記念碑の横で撮影された写真には、Centuriaのバナーが見える。写真の右側にはイリヤ・ボイコがいる。
31 Screenshot of the Instagram profile picture of Illya Boyko. The profile picture is a photo from the 2019 far-right rally in which Centuria participated. The photo was tak
イルヤ・ボイコのInstagramのプロフィール写真のスクリーンショット。プロフィール画像は、センチュリアが参加した2019年の極右集会の写真。リヴィウにあるステパン・バンデラ記念碑の横で撮影された。

NAAは、ガヴリリュシンとティホミロフのアカデミーでの現状について、そのような情報は機密事項であり、本人の同意なしに共有することはできないとして、情報の提供を拒否したが、ガヴリリュシンとティホミロフの両名はNAAのサイトに、ミサイル部隊・砲兵学部長(ウクライナ語。Факультет ракетних військ і артилерії), Colonel Artem Dzyuba (Ukrainian: Артем Дзюба)、その学部での「道徳的・心理的支援」業務(ウクライナ語:Морально-психологічне забезпечння)についての記事に添えられた写真の一つであった。NAAの記事で明らかなように、このような「支援」には、学部の学生に対するイデオロギー的教化も含まれるのである。

ガブリシンとティホミロフがミサイル軍・砲兵学部に所属していることは、数年にわたり投稿されたソーシャルメディアの写真によって裏付けられている。この写真には、稲妻に打たれた2つの交差した大砲を描いたエンブレムの付いた、特徴ある赤いベレーの制服を着た2人の姿が写っている。さらに、ガヴリリュシンは、現在アクセスできないFacebookページで、自分はアカデミーで 「2019年のクラス 」の一員であり、「砲兵部隊の指揮 」を学んでいると公然と述べている。また、フルネームを明かしたガヴリシンは、Facebookのプロフィールで、2014年7月から2016年8月までアゾフ連隊に所属し、その後、2017年4月から8月までAFUの第10山岳突撃旅団に所属し、NAAに入学したとされることを明記している。

32 Photo posted to the NAA site shows Centuria figures Yuriy Gavrylyshyn (on the left in the front row) and Danylo Tikhomirov (second from right in the middle row) next to t
NAAサイトに掲載された写真は、ミサイル部隊・砲兵学部長の隣にいるセンチュリアのユーリー・ガヴリーシン(前列左)とダニーロ・ティホミロフ(中列右から2番目)(ウクライナ語: Факультет ракетних військ і артилерії), Colonel Artem Dzyuba (中央)。
33 A screenshot of the now-deleted Facebook profile of Yuriy Gavrylyshyn
現在削除されているYuriy GavrylyshynのFacebookのプロフィールのスクリーンショット。

Gavrylyshynのソーシャルメディアで明らかにされ、複数のメディアの報道で裏付けられた経歴の詳細は、2020年8月にCenturiaの代理としてKP.uaと話をした「ユーリイYuriy」とCenturiaのオンライン投稿で言及された「ミランMilan」のものと一致する。「ミラン」は、長年にわたって多くのメディアの報道でガヴリリュシンGavrylyshynと関連付けられてきたコールサインだ。当時20歳だったガヴリリュシンは、2015年3月にアゾフ連隊のYouTubeチャンネルに投稿されたウクライナでの戦闘に関する報告ビデオで「ミラン」と紹介された。そのビデオの中でガヴリリュシンは、2013年に家族とイタリアのミラノに住んでいたが(コールサインを決めたのは彼が認めた経歴的要素)、マイダン革命に参加するためにまずウクライナに渡り、マイダン後にイタリアに一時帰国した後に再びドンバスの戦争に参加したと説明している。ビデオには、ガヴリリュシンが「アゾフ連隊が参加したすべての戦闘に参加した」と言う仲間の戦闘員によるガヴリリュシンの紹介が含まれていた。Gavrylyshynは、ShyrokyneでのAzov連隊の戦闘に関するZIK TVチャンネルによる2015年4月のビデオレポートにも登場した。2015年11月にアゾフ連隊のYouTubeチャンネルに投稿された別のビデオレポートは、ガヴリリュシンのことだけに費やされている。「ここ(アゾフ大隊)で私は[…]さらに協力したいと思う多くの仲間に出会った。間違いなく、私は軍隊のキャリアを追求する」と彼はビデオの中で語っている。

筆者が発見したロシアのソーシャル・メディア・ネットワークVK上のガヴリリュシンのプロフィールには、アゾフ大隊での従軍中の複数の写真と、ガヴリリュシンが白人至上主義のケルト十字マークと “White Pride World Wide” というスローガンが目立つTシャツを着ていると思われるコメディーのスキット動画が注目される。

ガヴリリュシンのアゾフ運動への関与は、アゾフ大隊での戦闘にとどまらない。ガヴリリュシンの出身地であるイワノフランキフスク州の極右政党「ナショナル部隊」の支部による同時期のVK投稿によると、2015年11月に彼は同党が地元の大学の学生向けに開催した宣伝イベントに参加している。ナショナル部隊支部は別途、ガヴリリュシンが学生たちにアゾフ大隊の野望を語るイベントの動画を投稿している。「アゾフ大隊の司令官であるAndriy Biletskyアンドリー・ビレツキーは、アゾフがウクライナの中核となることを望んでいる」と述べた場面もあった。

34 A screenshot of a video posted to the Azov Regiment’s YouTube page shows Yuriy Gavrylyshyn under his call sign “Milan.”
アゾフ大隊のYouTubeページに投稿されたビデオのスクリーンショットには、コールサイン 「ミランMilan 」のユーリー・ガヴリシンが写っている。

同じCenturiaの中心人物であるティホミロフTikhomirovについては、確実なことはあまり知られていない。ティホミロフは長年にわたって一貫して「ドミトロ・クリニュクDmytro Klinyuk」(ウクライナ語:Дмитро Клинюк)という別名を使用しているようで、多くのソーシャルメディアプラットフォームに広がる彼の多量のオンラインプレゼンスと、2014年から2015年頃に彼の出身地マリウポリでのナショナリストの活動に関わるメディア出演の両方において、この別名を使用している。(なお、クリニュクという姓は、ティホミロフの家族の一部と関連している)。

ティホミロフ自身のソーシャルメディアや家族による投稿は、極右のアゾフ運動と長年にわたって密接に関わった人物の姿を描き出している。「5年前、マリウポリの分離主義が権力を握り始めたとき、17歳の子どもでありながら分離主義者の大群に立ち向かうことを恐れなかった孫のダニールDaniil(ロシア語でダニロ)のことを誇りに思う。だから(アゾフ)大隊のビレツキー司令官は彼を尊敬している」と親戚自身が2018年9月に投稿したFacebookのコメントで親戚がティホミロフについて書いた。ティホミロフとガブリシンはミサイル部隊と大砲の制服と赤いベレーを着用しながら、極右アゾフ運動のリーダー、アンドリイ・ビレツキーとポーズを取って、その手をティホミロフの肩に乗せてている写真が掲載されたものである。

筆者がティホミロフとCenturiaについて質問したところ、ティホミロフの親族であるヴィクトル・クリニュクViktor Klinyukは、ティホミロフは 「あの党の創設者 」だと書いてきた。

35 Photo posted to Facebook by Viktor Klinyuk, a relative of Danylo Tikhomirov, shows Tikhomirov (right) and Gavrylyshyn (left) with the leader of the internationally active
ダニロ・ティホミロフの親族であるヴィクトル・クリニュークがFacebookに投稿した写真。ティホミロフ(右)とガヴリリュシン(左)が、国際的に活動するアゾフ運動のリーダー、アンドレイ・ビレツキー(中央)と一緒に写っている。
36 Screenshot of a Facebook comment by Viktor Klinyuk providing some background regarding Danylo Tikhomirov
ダニロ・ティホミロフに関するビクトール・クリニュクのFacebookコメント画面。

ティホミロフは2017年4月のVK投稿で、アゾフ大隊に「決意と規律」を植え付けられたことに感謝の意を表し、連隊に関連するシンボルのTシャツを着て2段ベッドの列の間に立っている。ティホミロフのソーシャルメディアには、銃を持ったポーズ、軍服の着用、アゾフの記章の着用、2015年にマリウポリでアゾフ運動が主催した準軍事訓練に参加した写真など、数多くの写真が掲載されている。2016年9月に投稿された、銃を持ち、タクティカルベストを着用した写真のコメントは、彼がある時点で右翼セクターと関わっていたことを示唆している。他のソーシャルメディアの投稿は、ティホミロフがアゾフのナショナル部隊党の前身である「市民軍団アゾフCivic Corps Azov」に早くから関わっていたことを示唆している。

37 Screenshot of a VK post by Danylo Tikhomirov.
ダニロ・ティホミロフによるVK投稿のスクリーンショット。
38 Screenshot of a VK post by Danylo Tikhomirov.
Danylo TikhomirovによるVK投稿のスクリーンショット。

ティホミロフとガヴリシンの過去と現在の大隊との関わり、アゾフとCenturiaとの接触疑惑などについてのコメントをアゾフ大隊に求めたが、アゾフ大隊は回答しなかった。

ガヴリリュシンもティホミロフも、NAA最高の士官候補生の一人かもしれない。2019年6月、Centuriaは2人(片側から撮影しているが一見わかる)の写真を掲載し、アカデミー長のパブロ・トゥカチュク中将Pavlo Tkachukから記念の盾や卒業証書を受け取っているようだ。NAA内で公然と活動するCenturiaの能力を誇示することを繰り返し、Telegramの投稿では、グループのメンバーがその月に注目された国際科学会議(ウクライナ語: Людина і техніка у визначних битвах світових воєн Х століття)に参加し、ウクライナのボランティア部隊に関するセクションを共同主催したことを明らかにしている。この会議は2019年6月25日にNAAで行われ、NAA長官のFacebook投稿によると、参加者には複数のポーランド軍事教育機関の代表者が含まれていた。トカチュクは投稿の中で、在リヴィウ・ポーランド総領事(当時)のラファル・ウォルスキらに謝辞を述べている。投稿には、ティホミロフとガヴリリュシンの両名が盾を手にしていると思われる参加者の集合写真も掲載されている。

39 Screenshot of a photo from a Centuria Telegram post. In it, the NAA Chief is apparently handing Danylo Tikhomirov a commemorative plaque
Centuria Telegramの投稿写真のスクリーンショット。NAA長官がダニロ・ティホミロフに記念の盾を手渡しているようだ。
40 Screenshot of a photo from a Centuria Telegram post. In it, the NAA Chief is apparently handing Yuriy Gavrylyshyn a commemorative plaque
Centuria Telegramの投稿写真のスクリーンショット。NAA長官がYuriy Gavrylyshynに記念の盾を手渡しているようだ。
41 Photo posted to Facebook by the NAA Chief. Danylo Tikhomirov and Yuriy Gavrylyshyn appear to be on the right in the bottom row wearing red berets
NAA長官がFacebookに投稿した写真。下段右が赤いベレー帽をかぶったDanylo TikhomirovとYuriy Gavrylyshynのようだ。

NAAにおけるCenturiaの指導者らしき人物の注目すべき地位は、ウクライナ国防省の支援を受けた2020年11月のオデッサでの科学会議の一環として発表された論文の著者として、「NAAの士官候補生ガヴリリュシン(Гаврилишин Юрій Іванович)」が記載されていることからもうかがい知ることができる。

Centuriaがウクライナの将来の軍事エリートで構成される集団であるという主張は、そのリーダーらしき人物がNAAに所属していることに加え、NAA士官候補生として西側の有名な軍事教育機関に進学した人物をメンバーに含んでいるという事実によって裏付けられている。

西へ:Centuriaのメンバーが英サンドハーストで11カ月訓練、独OSHでも歓迎される

前述したように、NAA広報担当者は筆者に対し、同校の優秀な士官候補生は欧米の権威ある軍事教育機関との国際交流プログラムに参加していると語った。Centuriaのメンバーらしい2人―2021年卒業生で、コールサイン「リリシストLyricist」(ウクライナ語: Кирило Дубровський)でも知られるキリーロ・ドブロフスキーKyrylo Dubrovskyi(ウクライナ語: Дубровський)、そして2020年の卒業生であるヴラディスラフ・ヴィンターゴラーVladyslav Vintergoller(ウクライナ語:Владислав Вінтерголлєр)―がこれを実現した。

ドゥブロフスキーは、イギリスの王立陸軍士官学校サンドハースト(RMAS)の11カ月間の陸軍士官候補生課程に参加し、2020年末に卒業する。英国大使館キエフ事務所によると、毎年2名のウクライナ人士官候補生がRMASの陸軍士官候補生コースに参加しているとのことである。ドゥブロフスキーの卒業を、ウクライナ外務省は祝福し、NAAプレスサービスによる12分間のビデオプロフィールなど、ウクライナの複数のメディアによって報道された。ヴィンターゴラーの欧米の軍事教育機関の経験は、その性質上、さほど大々的なものではなかった。2019年4月、NAA士官候補生である彼は、ドレスデンのドイツ陸軍士官学校(Die Offizierschule des Heeres, OSH)が開催する「第30回国際週間」のイベントに参加した。

42 Tweet about Kyrylo Dubrovskyi by the Embassy of Ukraine to the United Kingdom
在英国ウクライナ大使館によるKyrylo Dubrovskyiに関するツイート

ドゥブロフスキーは、自他ともに認めるように、2021年6月にNAAを卒業し、ウクライナ海軍歩兵隊に入隊したが、Centuriaでの経験についてコメントを求めたが、回答はなかった。これに対し、2020年のアカデミー卒業生であるヴィンターゴラーは同様の要請に応じ、このグループはウクライナの軍隊のあらゆる面を「変革し改革しようと努力する兄弟団」であり、「頭を下げて黙って命令に従うつもりのない型破りの考えを持つ人間だけを受け入れる」とTelegramで書いている。ヴィンターゴラーはまた、ウクライナ軍を 「ソ連基準で生きている 」と批判している。Vintergollerは筆者への返信後すぐに、自分の返信を削除し(Telegramでは送信されたメッセージをすべての関係者が削除できる)、Telegramアカウントの可視性を変更したが、彼の返信のスクリーンショットが保存されていた。

筆者が発見した証拠は、ドゥブロフスキーとヴィンターゴラーをCenturiaと結びつけるものである。

2021年6月にヴィンターゴラーがInstagramで公開した動画には、Centuriaのバナーがはっきりと見える背景で腕立て伏せをする彼の姿が映っていた。ヴィンターゴラーは、インスタグラムに投稿した卒業証書によると、2020年にNAAを卒業し、砲兵部隊統制を専門としている。同年、彼はTelegramで、NAAを卒業したメンバーを祝うCenturiaの2020年6月のプロパガンダ投稿に登場したようだ。この投稿には、パレード用の制服を着た7人の男性グループ(顔はぼかしてある)がジープの前に立っている写真が掲載されていた。2020年に国際平和維持・安全保障センターで行われるNAA卒業式の当日に撮影されたと思われる写真には、「Pride of the Centuria」の文字が重ねられている。背が高く筋肉質な体格に、突き出た耳が特徴的なヴィンターゴラーは、写真の左端にいる人物だろう。彼は2020年、「Graduation 」と題したストーリー集の一部として、この画像を自身のインスタグラムで公開した。Telegramの投稿では、「Centuria騎士団の若い将校メンバー がまもなくそれぞれのAFU部隊に到着する」とし、「明確な考えを持って奉仕する意思のある者は全員、ウクライナ軍Centuria騎士団の指揮下で奉仕する機会を得るだろう」と述べている。

43 Screenshot from an Instagram story posted by Vladyslav Vintergoller in 2021. Note the Centuria banner on the wall
2021年にVladyslav Vintergollerが投稿したInstagramのストーリーのスクリーンショット。壁に貼られたセンチュリアのバナーに注目。
44 Screenshot from an Instagram story posted by Vladyslav Vintergoller in 2020
2020年にVladyslav Vintergollerが投稿したInstagramのストーリーのスクリーンショット。
2020年にVladyslav Vintergollerが投稿したInstagramストーリーのスクリーンショット

ヴィンターゴラーのInstagramストーリーには、ヴィンターゴラー本人と思われる男性がCenturiaのバナーを持っている写真も掲載されていた。写真に写っている男性の顔は、絵文字で隠されていた。

ヴィンターゴラーは自身のSNSで、2019年4月にドレスデンにあるドイツの陸軍士官学校(Die Offizierschule des Heeres、OSH)で開催されたイベントに参加した際の写真を公開している。「第30回インターナショナルウィーク に参加したすべての人に感謝します。あなたは私にたくさんの感情、気持ち、新しい出会い、訓練を与えてくれました 」とInstagramに英語で書いている。ヴィンターゴラーは、「第30回インターナショナルウィーク」イベント参加者の公式集合写真と思われる写真で、別のNAA士官候補生の隣に写っているのが見える。2019年のOSHイベントへのヴィンターゴラーの参加についてコメントを求められたドイツ国防省は、「ウクライナを含む他の国家との二国間軍事協力の詳細を提供する立場にはない 」と回答した。

46 Screenshot of an April 2019 Instagram post by Vladyslav Vintergoller. Vintergoller is on the left in the bottom row
Vladyslav Vintergollerによる2019年4月のInstagram投稿画面。下段左がヴィンターゴラー。
47 Screenshot of an Instagram post by another apparent participant in the 30th International Week event held by Germany’s Army Officers’ Academy. Vintergoller is on the righ
ドイツ陸軍士官学校が開催したイベント「第30回インターナショナルウィーク」の別の参加者と思われる方のInstagramの投稿画面。下段右がヴィンターゴラー。

ドゥブロフスキーのCenturiaにおける役割は大きいと見られ、少なくとも2018年までさかのぼり、英国の名門RMASで訓練を受けていた期間も継続されていた。

ドゥブロフスキーは、2018年7月に行われたらしいNAA士官候補生とのCenturiaイベントに参加し、NAA士官候補生と「ウクライナンショナリストの祈り」を朗読したことが証拠からうかがえる。「リリシスト」というコールサインで、ドゥブロフスキーはそのイベントに関するTelegramの投稿で「Centuriaのメンバー」として言及されている。また、朗読のビデオにも彼の姿が確認できる。

2019年夏、ドゥブロフスキーは極右政党が主催するリヴィウのデモにCenturiaとともに参加した。Microsoft Azureの顔認証では、集会で他のメンバーの隣にいるCenturiaのパッチをつけた黒いTシャツを着た人物がドゥブロフスキーであると高い信頼度スコア(0.72)で結論付けられている。他のメンバーと思われる人物と同様、ドゥブロフスキーは、集会で撮影されたCenturiaのパッチをつけた男性の写真(カメラに背を向けている)を自分のWhatsAppプロフィール画像として使用するなど、このイベントの写真をオンラインプレゼンスで使用している。

2019年にリヴィウで行われた極右デモ行進のYouTube動画から切り出した静止画。左側がKyrylo Dubrovskyi。
49 Screenshot of the results of Face Verification by Microsoft Azure. On the left is a still from the rally, on the right is a photo taken from Dubrovskyi’s Facebook. “The t
Microsoft Azureによる顔認証の結果の画面。左は集会の静止画、右はドゥブロフスキーのFacebookから引用した写真。「2つの顔は同一人物のものである。信頼度は0.72208」

RMAS在籍時のドゥブロフスキーのネット上での活動は、彼とCenturiaとの結びつきをさらに強めている。Instagram(非公開の@kd_lirikと公開の@lirik_tac、後者は4,600人以上のフォロワーを持つ)、YouTubeTelegramに複数のページを持つ多作のブロガーであるドゥブロフスキイは、英国軍の訓練を受けていた期間もグループの宣伝担当として働いていたようだ。

2020年5月31日、CenturiaはTelegramに貴重なプロモーションビデオを投稿した。「最近、外部的要因でCenturiaの活動報告がなされていない。しかし、我々は短いビデオを撮影し、Centuriaの生活の一齣をお見せすることにした」と、ビデオに添えられた文章には書かれていた。映像には、リヴィウで行進するCenturiaメンバー、NAA内のイベント、男性が機関銃を撃つショット、RPG、大砲を撃つショットなどの映像が収められていた。前述のダニロ・ティホミロフをはじめ、Centuriaのメンバーが何人か映っているのが目を引くが、ドゥブロフスキーの声に酷似した若者のナレーションも入っている。「ウクライナのすべての軍隊で、我々を探してほしい。我々将校はウクライナの新しい軍隊を育てている[…]我々はCenturiaである。血の最後の一滴まで、諸君の領土、諸君の伝統を守れ」。

ドゥブロフスキーは英国陸軍士官学校サンドハースト校に在学中、Centuriaに強い関心を示していた。2020年8月初旬、前述のアゾフ運動が同名のグループで公然活動を開始したことで、「軍事集団military order」はオンラインやメディアへのコメントで距離を置くようになると、ドゥブロフスキーはInstagramに長い投稿を行い、同名の二つのグループの違いについてCenturiaの発言を繰り返した。同日、同名のグループ「アゾフ」のリーダー、イホル・”チェルカス”・ミハイルエンコIhor “Cherkas” Mykhailenkoとの彼自身による独占インタビューを投稿した。かつてナショナル民兵National Militiaとして知られたアゾフ運動の「Centuria」は、筆者にドゥブロフスキーがミハイルエンコにインタビューしたことを認めたが、ミハイルエンコは「現時点では」彼らのリーダーではない、と主張した。ドゥブロフスキーの投稿には、「軍事集団センチュリアmilitary order Centuria」についてのミハイルエンコのコメントが引用されている。「個人的には、同じ名前を持つ軍隊の連中を尊敬している。彼らはウクライナ軍の未来だ」とアゾフの指導者はドゥブロフスキーに語っている。なお、アゾフのミハイルエンコが2019年に自称「軍事集団センチュリア」をプロモートしたことは注目すべきだ。同年8月、彼は自身のTelegramチャンネルでこのグループについて「国家最高の代表例を見習い[…]参加せよ」と書き、リンクを共有した。

50 Screenshot of a now-deleted Instagram post by Dubrovskyi with a text written on behalf of Centuria. On the left is the emblem of the group that is part of the Azov moveme
ドゥブロフスキーがCenturiaを代表して書いた文章が書かれた、現在削除されているInstagramの投稿のスクリーンショット。左側はアゾフ運動の一翼を担うグループのエンブレム。右側はCenturiaの紋章。

ドゥブロフスキイのRMASでの訓練と同時期の2020年4月、CenturiaはTelegramで匿名の「女王陛下の軍隊の士官候補生」のインタビュー記事を公開した。匿名のインタビュー対象者は、読者に「英国国軍の将校」と紹介され、ウクライナと英国の「士官候補生の一日」の違いについて質問されている。その回答では、軍事教育機関での体験談として、早朝5時50分の起床、構内の「掃除」、朝食、「授業」などの1日のスケジュールが紹介された。「1年を通してのスケジュールが決まっている」と彼は言う。英国での体験とウクライナでの体験の最も大きな違いは、英国軍隊の「野外演習」が「本当に厳しく、疲れる」ことだという。最後に、英国の将校訓練は、彼の経験では、ウクライナの訓練よりも理論に重きを置いていないとの発言で短い文章が締めくくられている。「その点、AFUの将校の訓練の仕方の方が好きだ」と、取材者はCenturiaに語り、取材班が接触してきたことを喜んでいると付け加えた。匿名のインタビュー対象者がドゥブロフスキーであることは間違いない。

51 Screenshot of a now-deleted Instagram post by Dubrovskyi containing an exclusive interview with the leader of Azov’s street wing. Formerly known as the National Militia,
アゾフのストリートウィングのリーダーとの独占インタビューを含む、Dubrovskyiによる現在削除されているInstagramの投稿のスクリーンショット。以前は国家民兵として知られていたが、2020年8月、その組織は “センチュリア “に名称を変えた。そのエンブレムは、アゾフ運動の一翼を担う集団が使用している。

ドゥブロフスキーとCenturiaが、サンドハーストの士官候補生である彼の地位を利用してグループを宣伝したという印象は、ドゥブロフスキーのYouTubeチャンネルの「About」セクションに、RMAS士官候補生としての彼の同時期の自己紹介とともにCenturiaのスローガン(「Virtus et Honestas」)が掲載されていることからも裏づけられる。「私は英国王立アカデミーの士官候補生で、1年間の訓練を受けている[…] Virtus et honestas」と、ドゥブロフスキーは書いている。彼はこのチャンネルに、RMASの寮の11分間のビデオツアーなど、RMASでの体験を詳しく紹介するビデオをいくつか投稿している。また、ドゥブロフスキーのYouTubeには、ドゥブロフスキー自身が制作したと思われるアゾフ大隊へのオマージュビデオが掲載されている。ドゥブロフスキーは自身のInstagram(@lirik_tac)で、2021年にRMAS時代、アゾフ大隊に入隊するために中退(RMASとNAAのどちらからという意味かは不明)を考えたと書いている。

また、NAA時代、ドゥブロフスキーはアカデミーを訪れた外国人士官候補生と接触していたことも注目される。彼はアカデミーの国際協力イベントに参加し、何度かアカデミーを訪れた外国人代表団をエスコートした。2019年3月には、アカデミー本体と、アカデミーが統括する国際平和維持・安全保障センターを訪問していた米空軍士官学校の士官候補生の一団に同行している。2021年初頭、ドゥブロフスキーは、NAAで2週間を過ごしたフランスのサン・シール(サン・シール特別軍事学校)のフランス軍士官候補生2人の付き添いをした。

グループのドクトリンは、モスクワ、ブリュッセルから「ヨーロッパのアイデンティティ」を守るために国際的な連帯を強調し、明らかにメンバーと思われる者たちは人種差別を口走り、ナチス式敬礼を行う。

2018年初頭からCenturiaは、ウクライナ社会全体に影響を与えるという長期的な目標について説明し、そのイデオロギーについて議論し、Centuriaが影響を与えようと目論む機関に対する批判の膨大な声明や文章を作成している。

「Centuriaは、軍隊組織の中で重要な影響力を持つことができる権威ある中核となるために、(ウクライナの)軍隊の中で最高のランクを獲得することを目的としたこれまでにない軍事エリートを形成している」と、同グループは2020年12月のTelegramの投稿で述べている。同グループによれば、軍内での影響力は第一段階に過ぎず、第二段階と最終段階は、「社会変革を実行する」ために「ウクライナの政治的エリート」に入りこむことが究極の目標とでされている。同じ投稿の中で、同グループは、「それら(2つのステージ)は非常に長期にわたり、困難だが、生産的である」と、その任務の大きさを十分に認識していることを示した。

ウクライナ軍内に影響を及ぼすことを決意したCenturiaは、一貫してウクライナ軍がソ連時代のメンタリティーによって行き詰っていると描く一方で、自らを軍の病弊を癒す存在であるかのように装っている。例えば、2021年5月のTelegramの投稿では、Centuriaの3周年を振り返り、その活動を「ウクライナ国家を守り、ソビエト王国と戦う」(ウクライナ語:совдепія)と表現している。「フランス、イギリス、カナダ、アメリカ、ドイツ、ポーランドなどの外国人同僚と」国際的な関係を築き、AFU部隊のアルコール中毒を根絶し、部隊に高い水準のプロ意識と愛国心を植え付けたと、Centuria幹部の成功を誇っている。2020年4月の「部隊の準備-戦闘における勝利」と題する文章で、同団体はウクライナ軍司令部が 「完全な物を見返りとして忠誠や命令にも従う 」人たちを司令部に据えていると批判している。同団体は、ウクライナ軍司令部が昇進のために選んだ将校は、「アルコール中毒者 」や 「時代遅れのソ連軍」であると主張した。軍司令部の「人員政策」は、「紛争と腐敗の蔓延」をもたらしたとCenturiaは主張する。このグループは、何年もNAA内部に潜伏し、軍の教育制度に対する攻撃も辞さない。2020年4月に発表した「新形式の士官候補生」と題する文章で、Centuriaは、士官候補生が野暮ったいのは「士官団、司令官、教育者の仕事が悪い、仕組みが悪い」せいだとしている。

AFU指導部の無能とされる部分とは対照的に、Centuriaは自分たちの美点とされる部分を褒め称えている。「やる気のある士官候補生、兵士、軍曹、将校[…]我々は、部隊を改善し、国家とすべてのウクライナ人のための信頼できるサポートにしたいという願いによって団結している 」と、2020年11月にCenturiaが発表したテキスト “The New Warrior” は述べている。同文書では、Centuriaのメンバーが勤務する部隊では、「前線や国際演習で」得た経験を共有したり、講義を開いたりして、兵士の教育に積極的に関与していると主張されている。「Centuriaは後方で活動するだけでなく、前線でも積極的に戦っている」。

ネット上では、クラウゼヴィッツパットン孫子など、やる気を起こさせるための引用文がしばしば掲載されている。改革派のレトリックと軍事的なトリビアが混在する中で、Centuriaはナチスの人物を賞賛し、紛れもない極右のイデオロギーをフォロワーに紹介している。

Centuriaが崇拝するナチスの人物のなかには、ベルギー人のナチス協力者でSS将校のレオン・デグレルLéon Degrelle、フィンランドのSS将校ブルノルフ・パルムグレンBrunolf Palmgren、そしてウクライナ民族のSS第14ヴァッフェン・グレナディア師団Ukrainian 14th Waffen Grenadier Division of the SSの多くの人物が含まれている。2020年4月に発表された文章で、Centuriaはナチス部隊を「ウクライナの敵が恐れる象徴」と称賛し、批判の攻撃から守るよう支持者たちに呼びかけた。「手本となるイメージ がある限り、われわれは無敵だ」と宣言している。CenturiaがSSガリシアSS Galiciaを敬愛するのは、ウクライナの穏健なナショナリストの一部でも見られる姿勢と似ていなくもない。しかし、2021年4月にキエフの繁華街で極右勢力によってナチスの軍事部隊を称える行進が行われると、ウクライナ大統領ヴォロディミル・ゼレンスキーは公式サイトを通じてこれを非難した。

52 Screenshot of a Centuria Telegram post about Belgian Nazi collaborator and SS officer Léon Degrelle
ベルギーのナチス協力者でありSS将校のレオン・デグレルに関するCenturia Telegramの投稿のスクリーンショット。

Centuriaのイデオロギーを最も一貫して簡潔に表現しているのは、その重要なテキスト「Centuria運動のマニフェスト」 である。2019年末に初めて公開されたこのテキストは、2021年5月までグループのTelegramチャンネルを飾っていたが、多数の関係者へのCenturiaに関する問い合わせを背景に突然消えた。マニフェストへのリンクを張るTelegram投稿は削除されたが、テキスト自体はまだ入手可能で、著者はコピーを保存している。2021年7月現在、Centuriaは、2018年以降に作成されたマニフェストやその他の文書、投稿等での発言を否定する措置をとっていない。

53 Screenshot of a Centuria Telegram post dedicated to SS Galicia.
SSガリシアに捧げられたCenturia Telegramの投稿のスクリーンショット。

マニフェストは、Centuriaが自由主義に反対する組織であると同時に、モスクワやブリュッセルにも等しく反対する組織であると強調して定義づけ、その野心と自らの存在理由をウクライナの国境をはるかに越えた広がりをもつ集団として描いている点が注目される。

長い自己紹介の中で、マニフェストは自らを次のように定義する。「ヨーロッパの伝統主義者の共同体であり、ウクライナと同様に(中略)ヨーロッパの破滅的な状態を認識し、ウクライナを全ヨーロッパ空間の不可侵部分と信じるナショナルな志向をもつ軍人、ボランティア戦士、ボランティアの統一と統合をその目標とする。キセフ大公国の後継者であるウクライナのルネッサンスには、ヨーロッパの英雄的な過去を守り、我々の後継者のためにさらに良い未来を獲得するチャンスがある」

この文書は次に、その「重要なイデオロギー的概念」を「ネーション(複数)のヨーロッパ―その神聖な目標が内外のあらゆる脅威からヨーロッパ人民のアイデンティティを守ることにある単一の文明的空間」だと定義している。

「以前、我々人民は分離され、何千年もの間、同盟を図り、互いに宗教戦争、征服戦争、解放戦争などを行ってた。今日、我々は皆、祖先の聖地であるヨーロッパを、その存在を脅かすあらゆるものから救わなければならないという一点で団結している」と宣言する。

54 An image included in Centuria’s Manifesto.
Centuria’s Manifestoに含まれるイメージ図。

この文書では15の「重要目標」のリストが提示されているが、そのうちの6つはウクライナの軍事に焦点を当てたものである。その中には、「軍事環境におけるヨーロッパ軍事貴族精神の再生」という難解な目標や、AFUと各種戦闘部隊との経験交流、軍事教育・訓練の改善など、より明白な目標も含まれている。さらに2つの目標は政治的なもので、ウクライナの極右政党が提唱する政策に沿ったものである。

マニフェストのうち合計5つの目標は、グループの国際的な野心やヨーロッパのグループとしての自己認識に明確に関連している。例えば、Centuriaは12番目の目標として、「ヨーロッパの人民peoplesの連帯を強化し、ブリュッセルの政治家や官僚、クレムリンのユーラシア主義者やネオ・ボルシェヴィキの両方から共通の利益、文化、民族のアイデンティティを守ること 」を挙げている。マニフェストの他の部分では、Centuriaは「汎ヨーロッパおよびウクライナのナショナリズムと伝統主義の考えを中心に、同じ考えを持つ人々を団結させる」ことを目指している(9)。「将校、一般戦闘員、志願兵の間で、全ヨーロッパおよびナショナルな連帯の原則を広く煽り、宣伝すること」(10)、「ヨーロッパ人の人生の目的および世界における彼の特別な使命に対する英雄的理解を活性化すること」(13)を目指している。

「Centuriaは伝統を尊敬すべき美徳として宣言している。我々は、ヨーロッパ人の伝統であるすべての宗教的宗派の平等な権利を支持する。ただし、それが我々のイデオロギーに反しない限りにおいてである」と、14番目の目標に書かれている。

マニフェストの最後には、「メンバーの思想的・身体的強健に基づき、Centuriaは『破壊、消費、平等、退化、[エスニック集団の]混在の社会』に反対し『秩序、発展、規律』の理想を掲げる」と書かれている。

Centuriaが以前作成した「アストゥリアス新王国The New Kingdom of Asturias」と題する文章は、ウクライナでのグループの活動を、ナショナリスト勢力によるヨーロッパの再征服という文脈で明確に位置づけている。

「強力でナショナルなウクライナは、ヨーロッパのレコンキスタの新しいアストゥリアス王国になる運命にあると我々は考えている。これは、ヨーロッパの遺産と自由のためのヨーロッパ人のこれからの闘争その最終目標でもある。その目標は、ヨーロッパの右翼勢力の強化であり、全ヨーロッパ人にナショナル―伝統主義の規律あるイデオロギー基盤を与えることだと、我々は信じている」と、この文章には書かれている。

このCenturiaによるレコンキスタへの言及は、国際的に活発なウクライナのアゾフ運動における同名の白人至上主義的地政学的イニシアチブと共鳴している。2019年2月のBellingcatの記事で筆者が詳述したように、Azovの人物による声明によれば、レコンキスタとは、土地と文化の奪還を旗印にヨーロッパ起源の国々をまとめることを意味する長期戦略である。

ウクライナ軍内のこのCenturiaによるレコンキスタへの言及は、国際的に活発なウクライナのアゾフ運動における同名の白人至上主義的地政学的イニシアチブと同じ考え方だ。2019年2月のBellingcatの記事で筆者が詳述したように、Azovの人物たちによる声明によれば、レコンキスタとは、土地と文化の奪還を旗印にヨーロッパ起源の国々をまとめることを意味する長期戦略である。

ウクライナ軍内部でのCenturiaの活動や、同グループが西側諸国の軍隊や軍事教育機関のメンバーに接近していることについて深められるべき理解は、これらの明言された目標とイデオロギーである。

Centuriaは単に「ヨーロッパ右翼勢力の統合」に関心があると主張していたわけではない。同グループはその初期から、ヨーロッパの極右勢力の最も極端な要素について信奉者を教育する措置を取っていた。2018年4月、同団体はVKページに「北欧抵抗運動のロシア語を話す代表者」との独占インタビューと思われるものを掲載した。このインタビューは、Centuriaの発足時期である2018年5月よりも前に行われ、同グループが必ずしも北欧抵抗運動(NRM)の見解を共有しているわけではないという免責事項が掲載されていた。汎北欧のネオナチ組織であるNRMは、フィンランドで2020年末に最高裁の決定により禁止された。

さらに別の注目に値する文章で、Centuriaはウクライナの政治に関与する意思を表明した。2019年7月下旬、メンバーがリヴィウで極右と行進したわずか数週間後、ウクライナの議会選挙の数日後、このグループは、選挙で2%強の投票率でコンセンサスを失った極右に、単一の政党を結成してイメージを改善するよう呼びかけたのだ。声明によれば、Centuriaのメンバーは、「右翼シーンの質的変化を促進し、内外の敵と戦うことができる新しい統一された国家エリートの形成に参加する」用意があるという。

このグループの多くの声明は、それを直ちに実現する能力とはかけはなれているのだが、早くからこうした遠大な野望の大枠を抱いていたという点で重要なものだ。

55 VK photo showing apparent Centuria members, presumably in early 2018, before the group’s self-described launch in the May of that year. From left Mykhailo Alfanov, Nazar
2018年初頭、同年5月のグループ自称立ち上げ前のCenturiaメンバーらしき人物が写っているVK写真。左から。Mykhailo Alfanov、Nazar Livenets、Serhiy Blinov、Oleksandr Komarov、Danylo Tikhomirov。コマロフは、筆者の求めに応じて、このグループとの関係についてコメントした。彼は「過去に」Centuriaのメンバーであったと言い、「ウクライナ軍を変えようとする愛国的な若い将校」のグループであると説明した。なぜメンバーでなくなったのかと問われ、現在は軍に所属しておらず、ウクライナ国外に住んでいると答えた。

Centuriaの極右的性格を示すさらなる証拠として、その主要メンバーとみられる何人かは、で表向きNAA兵舎内撮影されたとされる2018年初頭の写真でナチス式の敬礼をしているのを見ることができる。筆者は、この写真に写っているすべての人物の身元を確定した。ダニエロ・ティホミロフDanylo Tikhomirov、セルヒイ・ブリノフSerhiy Blinov、そしておそらくナザール・リベネツNazar Livenetsは、アカデミー内のNAAとCenturiaの活動について2018年を通してAzov系列の雑誌 Національна оборона(英語:National Defense)誌が行ったFacebook投稿に含まれている写真に登場した。ティホミロフとミハイロ・アルファノフMykhailo Alfanovは2019年にリヴィウでCenturiaと共に行進した。

Centuriaに所属する一部の個人のオンラインからは、極右思想との親和性が指摘できる。例えば、キリロ・ドゥブロフスキー Kyrylo Dubrovskyiのソーシャルメディアの投稿には、ナチズムやウクライナの極右の最も極端な要素への関心を示唆している。ドゥブロフスキーの4,600人以上のフォロワーがいる公開Instagram、@lirik_tacのまさにプロフィール写真は、ドゥブロフスキー自身と思われる覆面の男が、ウクライナのネオナチ系衣料ブランドSva Stoneのロゴを大きく表示した野球帽をかぶった写真になっている。

56 Kyrylo Dubrovskyi uses this photo as his Instagram profile picture. Sva Stone is a clothing brand catering to the far right
Kyrylo Dubrovskyiはこの写真をInstagramのプロフィール写真として使用している。Sva Stoneは極右向けのアパレルブランド。

2021年2月、ドゥブロフスキーは自身の@lirik_tac Instagramページを通じて、臆面もなくネオナチとアゾフに連なる Nord Storm groupのリーダーらしい人物もフォローするよう数千人のフォロワーに勧め、彼のことを 「真面目な人々 」と表現している。「Latvian(Nord Stormの人物のコールサイン)に100%従わなければならない 」と、ドゥブロフスキーは書いている。2021年初めには、白人至上主義者のゾンネンラートの旗の横で軍服を着た数人の男性が踊っている動画も公開した。動画の上に重ねられたテキストには、「夢のライフスタイル 」と書かれていた。

57 Screenshot of an Instagram story by Kyrylo Dubrovskyi in which he called on his followers to follow a leader of the neo-Nazi Nord Storm group.
ネオナチ集団「ノルドストーム」のリーダーをフォローするようフォロワーに呼びかけたKyrylo DubrovskyiによるInstagramストーリーのスクリーンショット。
58 Screenshot from an Instagram story posted by Kyrylo Dubrovskyi. Note the Sonnenrad banner on the wall.
Kyrylo Dubrovskyiが投稿したInstagramのストーリーのスクリーンショット。壁に貼られたSonnenradのバナーに注目。

2019年5月、ドゥブロフスキーは、ネット上で広くヒトラーのものとされるロシア語の引用を、現在は非公開の@kd_lirik Instagramのプロフィールに投稿した。”For achieving a great aim no sacrifice will seem too great”(偉大な目的を達成するためには、どんな犠牲も大きすぎるとは思わない)(ロシア語。Перед лицом великой цели никакие жертвы не покажутся слишком большими)だ。この短い引用文は、極右向けのウクライナのブランドであるStay Braveが制作したゾンネンラートのシンボルをあしらったTシャツを着たドゥブロフスキーの写真に添えられていた。ドゥブロフスキーが使った引用文は、『我が闘争』の原文の一部を引用したもので、英訳すると “For achieving this aim no sacrifice must be too great.”となる。原文は、ヒトラーがナチ党の始まりと 「物理的な力 」の使用を受け入れたことを振り返った長い文章の一部である。

59 Screenshot of a photo from Kyrylo Dubrovskyi’s now-private Instagram. Dubrovskyi is wearing a T-shirt featuring the Sonnenrad symbol. The quote in the post is a bastardiz
Kyrylo Dubrovskyiの現在非公開のInstagramに掲載された写真のスクリーンショット。ドゥブロフスキーが着ているのは、ゾンネンラートのマークが描かれたTシャツ。投稿にある引用文は、『我が闘争』の一節を揶揄したものだ。「この目的を達成するためには、いかなる犠牲も大きすぎてはならない」。

ドゥブロフスキーとは対照的に、Centuriaの中心人物と見られるティホミロフは、「ドミトロ・クリニュクDmytro Klinyuk 」という名で、あからさまな過激な論評をネットに残している。彼の投稿の多くは、明確なイデオロギー的発言になっている。例えば、2016年に行われた一連のVK投稿で、ティホミロフはユダヤ人を「人類の破壊者」と書き、ユダヤ人が 「世界の歴史と世界地図からウクライナを排除しようとした 」という投稿をシェアした。同年、ティホミロフは、民主主義がウクライナを 「奪い、疲弊させた 」と書き、「排除 」する必要があるとした。注目すべきは、その1年後の2017年、ティホミロフはCenturiaの思想と活動の青写真のような投稿をしたことだ。「革命には支持と確信が必要だ。ナショナリストのグループが政府機構に組織的に潜り込むだけで十分だろう。その過程で、支配体制を強制的に変更し、ナショナリストの隊列に置き換えることができるだろう」。同年、ティホミロフは人種に関する考えも披露し、「(人種の)純粋さの消失とともに、秩序は滅びるだろう 」と書いている

これらの発言を裏付けるのが、2016年12月、十数人の若者のグループの中でナチスの敬礼をするティホミロフの写真である。この写真は、アゾフ運動の前身であるネオナチ組織「パトリオット・オブ・ウクライナ」の周年祭を説明するティホミロフのVKの投稿に掲載されている。

60 Photo of Danylo Tikhomirov (center, wearing a tie) in a group of about a dozen young people making Nazi salutes that was posted to his VK in 2016
2016年に自身のVKに投稿された、十数人の若者のグループでナチスの敬礼をするダニーロ・ティホミロフ(中央、ネクタイを着用)の写真。

ティホミロフの発言もCenturiaのイデオロギーも、ティホミロフがフランスの君主主義(ヴァンデ君主主義)に触発され、現在Centuriaに関わっているらしい別の人物ヤニス・クリムリスYannis Khrimlisが率いているとされるあまり研究されていないヴァンデア・アルバVandea Alba(露:Белая Вандея)グループと明らかに提携していたことが、ある程度は関係しているのかもしれない。ヴァンデア・アルバのプロパガンダは、現在Centuriaが使用している「Virtus et Honestas」のスローガンを特徴としており、同様のイデオロギー的目標を掲げている。

「ヨーロッパ中の自治グループにおける同じ考えを持つ人々の統一のなかで、我々の暗黒時代に再び避けられなくなった文明闘争の新たな段階へヨーロッパ社会を準備する唯一の道を見出す[…] バンデア、戦士と信者の秩序は、ヨーロッパの偉大な先祖の遺産の保護者にふさわしい、絶対に政治的に純粋な組織として自らを成さなければならない」と、ティホミロフは2017年2月に自身のVK上で共有したバンデア・アルバのプロパガンダで述べているる。VKの投稿には、ヴァンデア・アルバの旗を掲げた仮面の武装集団の写真が掲載されていた。

「カール・クランツCarl Cranz」という名で、ヤニス・クリムリスは2016年にアゾフ運動と関連したポッドキャストに出演し、ヴァンデア・アルバについて話したようだ。クリムリスは、長年にわたるあるCenturia Telegramの投稿者である可能性があり、彼自身の発言の痕跡をオンラインに残している。また、Centuriaのティホミロフ、ユーリー・ガブリリーシンYuriy Gavrylyshyn、そしておそらくクリムリスが、Centuriaに関連する他の写真にも登場する7人の制服組に話しかけている2018年5月の写真の黒衣の人物である可能性も高い。クリムリスと思われる人物、ティホミロフとガブリリーシンは集合写真でCenturiaのパッチをつけている。クリミリスは、彼のCenturia活動に関連して、著者がTelegramチャンネルに送ったコメントの要求に返答をしていない。

61 Presumably Yannis Khrimlis (on the left), Yuriy Gavrylyshyn (second on the left), and Danylo Tikhomirov (third on the left) with other apparent members of Centuria. The p
Yannis Khrimlis(左)、Yuriy Gavrylyshyn(左から2番目)、Danylo Tikhomirov(左から3番目)と思われる他のCenturiaのメンバーたち。写真は2018年にKhrimlisのVKに投稿されたもの。

Centuriaと強いつながりを持つ複数の人物が、白人至上主義との親和性を示唆する内容を投稿している。例えば、2020年11月、Centuriaと親しいと見られるNAA士官候補生ヴィタリー・ロソロフスキーVitaliy Rosolovskiyは、タスクフォース・イリニ Task Force Illini (当時、合同多国籍訓練グループ・ウクライナを率いていた)のメンバーだった2人のアメリカ軍人(いずれも黒人)と撮った写真をInstagramに投稿している。写真は、NAA士官候補生が日常的に訓練を行っている国際平和維持・安全保障センターで撮影されたものと思われる。ロソロフスキーは写真に、白人至上主義者の「14/88」という数字のシンボルを含むコメントを添えた。また、この投稿には 「Zimbabwe 」というジオタグが付けられていた。この投稿の下のコメント欄で、アメリカ人の肌の色を暗示しているかのように、アメリカ人の軍人は「eggplantナス[黒人の蔑称]」なのかと尋ねると、ロソロフスキーは肯定的に答えた。2020年、ロソロフスキーは、束桿の上に鷲が乗っているCenturiaの紋章(ぼやけているがわかる)が描かれたTシャツを着ていると思われる写真と、ナチスの敬礼をしていると思われる写真を投稿している。2021年のこれまで、ロソロフスキーは自身のインスタグラムで、Centuriaのプロパガンダ、ネオナチの「14/88」という数字記号を暗示する写真、ヒトラーの胸像の写真、2人の黒人の子どもの背中に、まるで乗るように座っている白人の子どもたちの写真などを公開してきた。

Centuriaとの関係についてコメントを求められたロソロフスキーは、ガヴリリュシンのものと見られるTelegramアカウントの詳細を、”you can pose all your questions to [telegram handle]” という言葉とともに公開した。このアカウントには、GavrylyshynがInstagramで使用しているプロフィール写真が掲載されている。その後、Rosolovskiyは自分のTelegramチャンネルを削除した。

62 Screenshot of an Instagram post by Vitaliy Rosolovskiy showing him with members of the Task Force Illini (which led the Joint Multinational Training Group—Ukraine at the
タスクフォース・イリニ(当時、多国籍合同訓練グループ・ウクライナを率いていた)のメンバーと一緒に写っているVitaliy RosolovskiyのInstagram投稿の画面。NAA国際平和維持・安全保障センターで撮影された。ロソロフスキーが投稿に入れた白人至上主義の14/88の数字記号に注目。
63 Screenshot of an Instagram post by Vitaliy Rosolovskiy. “There once was a dinosaur over there,” reads the text of the post
Vitaliy RosolovskiyによるInstagramの投稿画面。”There once was a dinosaur over there “と投稿のテキストが読み取れる。
65 Screenshot of an Instagram story posted by Vitaliy Rosolovskiy.
Vitaliy Rosolovskiyが投稿したInstagramのストーリーのスクリーンショット。

国際的な非難、メディアの批判を浴びる極右の盟友とのメッセージの拡散

Centuriaの活動に関して得られた情報からは、ウクライナの極右団体とつながりと、つながることによって活動が促進されてきた様子を描き出している。特にアゾフ運動との関係は深い。

前述のように、2020年8月にKP.uaの取材に応じたCenturiaのメンバーで「ユーリイ」と名乗る人物(Centuriaのリーダー、ユーリイ・ガヴリイシンYuriy Gavrylyshynであろう)は、グループの創設者はもともとNAAを卒業したらアゾフ運動の軍事組織であるアゾフ大隊に復帰するつもりだったが、その後「ウクライナ正規軍で奉仕して国家価値を宣伝し、士官貴族主義を普及させよう」と決意したと述べている。アゾフへの言及と大隊への崇拝は、Centuriaのオンラインプレゼンスに多く見られる。特筆すべきは、2019年5月2020年5月のグループの記念日に捧げられたTelegramの投稿で、Centuriaはアゾフのそれと並んで自らの創設に言及し、アゾフ大隊を 「伝説のウクライナ軍最高の軍事ユニットの一つ 」として記述していることである。

Centuriaによると、2018年9月に行われたNAA適正内で行われたとされる同グループの最初のイベントは、アゾフ運動に捧げられたものだった。Centuriaによると、「Idea of the Nation」(アゾフが多用するWolfsangelシンボルの独自の用語)と題したこのイベントでは、NAA士官候補生にアゾフ運動の歴史、その前身であるネオナチ組織Patriot of Ukraine、そしてアゾフ大隊の紹介が行われたという。同団体によると、士官候補生はアゾフ大隊に所属したことのあるCenturiaメンバーと話すこともできたという。Centuriaは、教室で十数人の制服を着た男たちが壁に映し出されたCenturiaのロゴを見ている、言われるところのこのイベントからの画像を複数掲載している。筆者は、これらの写真がNAA内部で撮影されたものであることを確認できなかった。

Centuriaのメンバーは、ウクライナ国家警備隊アゾフ大隊も訪問し、講義を行ったようだ。アゾフ運動と密接な関係にあるウクライナ内務省の部隊、「東部」特別分遣隊(ウクライナ語:Спеціальний підрозділ МВС “Схід” )による2019年8月のFacebookTelegramの投稿によると、Centuriaのメンバーは、前者の基地でアゾフ大隊および「東部」特別分遣隊の戦闘員のための講義を行っている。投稿には、「アゾフ」と「イースト」のTシャツを着た20人近い制服組が、教室内で講師(顔はぼかされている)の話を聞いている写真が何枚も掲載されている。投稿によると、「ヨーロッパの宗教文化現象」と題されたこの講義は、「イデオロギー的に強固な軍人の新しい世代の形成」に貢献するものとして重要であったという。それから数週間後の9月、CenturiaはFacebookで、メンバーが今度は「ウクライナ革命の100年」というテーマでさらに別の講演会をアゾフ大隊の基地で開催したと述べている。この投稿には写真も添えられていた。アゾフ大隊は筆者のコメントに答えていない。ヤニス・クリムリスYannis Khrimlisは、当然だが、「Centuria」を代表して、両方のいわゆるイベントに参加した。

66 Screenshot of a Facebook post by the Special Detachment “East,” a unit of Ukraine’s Ministry of Internal Affairs closely linked to the Azov movement.
アゾフ運動と密接な関係にあるウクライナ内務省の部隊「東部」特別分遣隊のフェイスブックへの投稿画面。
67 A screenshot of a now-deleted Facebook post by Centuria
Centuriaによる、現在削除されているFacebook投稿のスクリーンショット。

注目すべきは、Centuriaによると、2019年9月、このグループは、アゾフ運動とつながりのある出版社兼読書クラブの注目すべきは、Centuriaによると、2019年9月、このグループは、アゾフ運動とつながりのある出版社兼読書クラブのプロミンProminが、フランスの極右歴史学者ドミニク・ベネールDominique Vennerの著書『Le cœur rebelle』のウクライナ語訳の発表会を開催するのを手伝ったことである。ベネールは2013年、ノートルダム寺院の祭壇の傍らで拳銃自殺した。BBCが引用したベネールの手紙によると、この自殺は、「伝統的な家族を守るため、不法移民との戦い 」のための行為だった。発表会は、リヴィウのダウンタウンにあるリヴィウ地域万国科学図書館で行われたと伝えられている。このイベントに先だって、Centuriaが共同主催者であることが、プロミンと密接な関係にある人物やグループによってTelegramで共有された。イベントに関するCenturiaのTelegram投稿には、2019年9月の発表会で撮影されたと思われる、Centuriaのパッチをつけた人物(顔はぼかされている)が、極右の主催者でProminの編集者であるセルヒイ・ザイコフスキーの隣に立っている写真も含まれている。

アゾフ大隊の将校で、アゾフ運動の重要人物で演説家のユーリイ・ミハルチシンYuriy Mykhalchyshynが、2019年6月にリヴィウでイベントを開催した際、プロミンのメンバーらしき人物と一緒にいる姿が確認できた。アゾフ運動が「ナショナル部隊の有力講師」と表現するミハルチシンは、2012年から2014年にかけて極右政党「自由党」の代表としてウクライナ国会議員を務め、2014年から2016年にかけてウクライナ治安局(SBU)に勤務していた。ミハルチシンが自身のFacebookページで共有した写真には、Centuriaのパッチをつけたガヴリイシンやダニョーロ・ティホミロフDanylo Tikhomirovなど、Centuriaのメンバーと思われる8人と一緒に写っている。ミハルチシンと一緒に写っている人物の1人は、同時期に自身のインスタグラムページに「#центурия(ロシア語でセンチュリア)」というハッシュタグをつけてこの写真を投稿している。ミハルチシンは筆者のコメント要請に応じなかった。

68 Photo posted by Azov figure Yuriy Mykhalchyshyn. The same photo was also posted on Instagram by an apparent Centuria member, Yevhen Romanchenko, seen on the far right of
アゾフの人物Yuriy Mykhalchyshynが投稿した写真。また、同じ写真を、写真右端に見えるCenturiaのメンバーらしいYevhen Romanchenko氏が、ハッシュタグ「#центурия」を付けてInstagramに投稿している。左から。Oleksandr Gryshkin(名前と思われる)、Mykhailo Alfanov、Oleksandr Zbozhnyi、Yuriy Gavrylyshyn、Yuriy Mykhalchyshyn、Dmytro Shuleshov、Vladyslav Chuguenko、Danylo Tikhomirov、Yevhen Romanchenkoの6名。

前述のように、CenturiaのNAA内での活動は、2018年にはアゾフに連なるНаціональна оборона(英語:National Defense)誌やアゾフ大隊の正規のオンラインが認め、2019年と2020年にはアゾフの街頭部隊のリーダー、Ihor Mykhailenkoイホル・ミハイレンコがグループを褒めたたえている。このような言及は、グループの知名度を高めた。

他のアゾフの人物やアゾフに連なるグループもCenturiaを賞賛し、そのメッセージをオンラインで共有した。例えば2019年1月、アゾフ運動の思想家であるエドゥアルド・ユルチェンコEduard Yurchenkoは、現在1,100人以上の購読者を獲得しているTelegramで同グループを賞賛した。ユルチェンコはCenturiaについて「これが我々の成長しつつある伝説的な未来であることを知るべきだ 」と書き、このグループがNAA内でイベントを開催していることを強調した。同年、ユルチェンコはCenturiaのマニュフェストその他の声明を再共有した。アゾフ運動とつながり、ウクライナ西部で活動するグループ「Galician Youth」も同様に、2019年にCenturiaのプロパガンダをTelegramで共有した。Centuriaの声明は、@sriblotroyandy(反フェミニストのSliver of the Rose groupusculeはTelegramで1600人以上のフォロワーを持つ)や@lichtwarts(ヨーロッパのニヒリズムのチャンネルで、1800人以上のフォロワーを持ち、アゾフの重要人物イエウヘン・ウリアドニクYevhen Vriadnykが運営している)などのアゾフ関連のtelegramチャンネルでもシェアされた。

アゾフとCenturiaの関係は、共同イベント(前述のリヴィウでの政治集会を含む)、明示的な支持などが特徴だが、カルパツカ・シチKarpatska Sichや伝統と秩序Tradition and Orderなど、ウクライナの著名な極右グループが、Centuriaの声明やテレグラムへのリンクをシェアして、このグループをオンラインで後押ししている。カルパツカ・シチは2019年と2021年にCenturiaのメッセージを共有し、伝統と秩序は2019年末に、”the most interesting on the Internets (sic!)” と特徴付けられる右翼のTelegramチャンネルのリストを掲載した投稿でCenturiaのTelegramへのリンクを共有した。伝統と秩序が宣伝したTelegramチャンネルの中には、それに近いグループや人物を代表するものもあった。前述の投稿では、Centuriaを 「ヨーロッパの伝統主義者のコミュニティ 」と表現していた。注目すべきは、2019年の夏、Centuriaはカルパツカ・シチや伝統と秩序を含むウクライナの極右グループが、LGBTQの「キエフ・プライド」イベントに対抗して開催された集会を支持することを表明したことだ。TelegramでCenturiaは、「現在、キエフの街をLGBT運動とその左翼シンパの変質者から守っている右翼愛国者、民族主義者、保守派、キリスト教徒 」への支持を表明したのである。

69 Screenshot of a 2019 Centuria Telegram post stating its opposition to the LGBT Kyiv Pride event.
LGBTの「キエフ・プライド」イベントに反対することを表明した2019年のCenturia Telegramの投稿画面。

アゾフ運動(すなわナショナル部隊の政治組織)、カルパツカ・シチ、伝統と秩序は、国際人権監視団体フリーダムハウスによって「過激派」とされ、監視団体によって暴力とつながりがあるとされている。この3つの組織はいずれも国際的に活動している。アゾフの国際的なつながりは欧州各国と米国にまたがり、多くのメディアで報道されている。カルパツカ・シチは東欧の極右グループと広範なつながりを持ち、2019年初めには、西ウクライナで開催した訓練キャンプに「ヨーロッパの兄弟関係にある運動の代表者」が訪れたと信憑できる筋は主張をしている。同グループによると、このキャンプには 「軍事戦術的な訓練 」が含まれていたという。Centuriaとカルパツカ・シチはともに、ゾンネンクロイツのシンボルをエンブレムに組み込んでいる。

「伝統と秩序」もまた、国際的な存在感が際立つウクライナの極右団体である。2019年末、同グループはドイツに支部を立ち上げたと発表した。現在、悪名高い国際的なネオナチ組織者であるデニス・ニキティンDenis Nikitinが国際的な連絡役に含まれている。2020年5月、同グループは、志を同じくするヨーロッパ人にウクライナでの安全な避難所と準軍事訓練を提供する用意があることを表明した。

Centuriaの発言は、特定のウクライナ人グループと公然とは提携していない極右Telegramチャンネルによってさらに拡散された。例えば、2020年初頭以降、同グループのメッセージは自称文化保守同盟Union of Cultural Conservatives(@catars_is、フォロワー数9,400人以上)によって共有されている。臆面もないネオナチのTelegramチャンネル@knpu_division(5,000人以上のフォロワー)および@LTERROR88(現在は@BOOKSLTとして運営、「LITERARY_TERRORISM」と呼ばれるチャンネルは12,000人を超えるフォロワーを有する)、そして一時フォロワー数は6,400を越えていて現在は規制されているScene of Hatredによって共有されていた。TelegramでCenturia発言を推進するものとしては他に、@intolerant_warfighter(登録者数2000人以上)と@intolerant_historian(登録者数5000人以上)のチャンネルがある。このグループは、極右的なコンテンツを日常的に共有する、軍隊をテーマにしたウクライナのTelegramチャンネル、@shinobi_blog(6,000人以上のフォロワー)でも宣伝されている。

Centuriaの@european_centuria@ArmyCen Telegramチャンネルに関連するいくつかの統計データは、現在、Tgstat.comという何千ものTelegramチャンネルに関する統計データを提供するサイトで入手可能だ。注目すべきは、Tgstat.comによると、Telegramチャンネル@european_centuriaは、Centuriaが自称する創設日2018年5月の3カ月前の2018年2月にすでにアクティブになっていたことだ。同グループによる2018年2月24日の投稿には、後に同グループのマニフェストに見られるようになる格言や自己紹介がすでに多く含まれていた。

「より洗練された極秘活動」 ウクライナ軍への影響力増大の主張と動員呼びかけ

Centuriaは、メンバーがウクライナ軍の特定の部隊で将校として勤務していると繰り返し主張している。同グループは、そのイデオロギーに共感するウクライナの軍人に、これらの部隊への異動を希望するよう呼びかけ、このプロセスへの支援を約束している。これらの主張は、Centuriaのメンバーらしき者が2019年から2021年の間にNAAを卒業し、AFUに入隊したという筆者の調査結果と一致する。同グループは、参加に関心を示した軍のメンバーとオンラインで連絡をとり、Telegramの一部として、動員努力に特化したボットを運営しているようだ。

「我々は3周年になり、これを誇りに思う理由がある 」と、Centuriaは2021年5月にオンラインのフォロワーに語った。このグループの成果をまとめたTelegramの投稿によると、メンバーは現在、AFUの将校として勤務し、ウクライナ中の[軍事]教育機関で活動し、「フランス、英国、カナダ、米国、ドイツ、ポーランドといった国々の外国人同僚と協力を確立することに成功した 」とある。ちょうど数週間前の2021年4月下旬、Centuriaは前述の国々と「協力し、合同軍事演習に参加した」と述べていた。同グループの投稿によると、「西側パートナー」から「日常的に」学んでいるとのことだ。この投稿には、ウクライナと西側の軍人が写っている写真や、RMASの建物の前にいるらしい制服を着た男性たちが写っている、ぼかしのかかった写真が添えられている。

先に述べたように、筆者はNAAでの存在などに関するセンチュリアの主張のいくつかを裏づけることができたが、このグループは、自らの声明によれば、AFU内の活動に焦点を移して以来、より秘密主義的になり、自滅的な証拠を投稿することに慎重になっている。Centuriaは2021年2月にTelegramで、「我々の仕事はより洗練され、秘密裏なものなった」と述べ、講義の実施から 「外国の部隊 」を含む軍内での作業に移行したと説明している。また、同グループはフォロワーに対し、Centuriaの姿をあまり目にしないかもしれないが、「進展はしている 」と断言した。これとは別に、2021年1月、CenturiaはTelegramに 「秘密裏に活動している 」と書き、「理由があって 」秘密組織と称していることを明かした。

Centuriaが秘密主義を強めているにもかかわらず、そのメンバーたちが、前の年にNAAを将校として卒業し、現在AFUにいる可能性があるという指摘がある。

2019年、明らかにCenturiaのメンバーであるロマン・ルスニクRoman RusnykはNAAを卒業した。ルスニクはコールサイン「Dykyi」(英語で「野生の」の意)で、同団体が2019年6月にNAA卒業を祝った2人のCenturiaメンバーの1人である。ルスニク自身は同時期に、2019年6月にCenturiaのバナーを持った自分を含むグループとの写真を投稿している。また、Instagramに投稿した別の写真では、2019年の卒業式中と思われるNAA敷地内で同団体のバナーを持っている姿も確認されている。注目すべきは、SNSに投稿された別の写真で、AFUの第128山岳突撃旅団のパッチを袖につけたルスニクが写っていることだ。卒業後、ルスニクは軍服姿の写真を投稿しており、CenturiaのTelegramチャンネルで活動していたようだ。ルスニクとAFU第128山岳突撃旅団の明らかな結びつきは、ルスニクがNAAを卒業してから1年以上たった2020年11月にInstagramに投稿された写真によっても裏づけられる。写真には、ルスニクと他の2人が、第128山岳突撃旅団の一部とされる部隊「第15山岳突撃セヴァストポリ大隊」のシンボルが入った旗を手にしている様子が写っている。

70 Photo posted to Instagram in 2019 by apparent Centuria member Serhiy Vasylechko shows fellow Centuria member and 2019 NAA graduate Roman Rusnyk showing off a patch of the
CenturiaのメンバーらしいSerhiy Vasylechkoが2019年にInstagramに投稿した写真には、Centuriaの仲間で2019年のNAA卒業生のRoman RusnykがAFUの第128山岳突撃旅団のパッチを誇示している。
71 Screenshot of a November 2020 Instagram post by Roman Rusnyk. The photo shows Rusnyk (right) with two other men holding a banner bearing the symbol of the 15th Mountain-A
ローマン・ルスニクによる2020年11月のInstagram投稿画面。写真は、第128山岳強襲旅団に所属するとされる部隊「第15山岳強襲セヴァストポリ大隊」のシンボルが描かれたバナーを持ったルスニク(右)と他の男性2人が写っている。

現在は削除されているFacebookのプロフィールで、ユーリイ・ガヴリシンYuriy GavrylyshynはAFUの第10山岳突撃旅団で過ごしたことがあると主張している。NAAにいる間、そして卒業後も、当然だがこの部隊と連絡を取り続けていた。

2020年6月NAA卒業生でCenturiaのメンバーらしいヴラディスラフ・ヴィンターゴラー Vladyslav Vintergollerは、卒業後AFUの第55砲兵旅団との写真を掲載している。この旅団はザポリージアを拠点としており、ヴィンターゴラーは現在ここに住んでいる。この年、卒業したCenturiaは彼だけではなかったようだ。前述したように、彼の卒業に際し、Centuriaは、式典が行われたIPSCでパレード用の制服を着た7人の男性たち(顔はぼかしてある)の写真に「Pride of the Centuria」というテキストを重ねて投稿し、ヴィンターゴラーがシェアしている。

72 Mobilization graphic posted by Centuria in June 2021. It features the emblems of those AFU units where members of Centuria allegedly serve as officers. “Mobilization. Ent
2021年6月にCenturiaが投稿した動員グラフィック。Centuriaのメンバーが将校を務めるとされるAFU部隊のエンブレムが描かれている。「モビライゼーション。最高の指揮の下、軍隊の隊列に入れ 」という文章が書かれている。

2021年6月NAA卒業生でCenturiaのメンバーと見られるキリロ・ドゥブロフスキーKyrylo Dubrovskyiは、オデッサ地方に駐屯する第35海軍歩兵旅団に入隊すると自身のInstagramで述べている。

ドゥブロフスキーの卒業と同時に、Centuriaは恒例となっている、最近NAAを卒業したメンバーに関するTelegramへの投稿を行った。その投稿には、パレードの制服を着た5人の男性(顔はぼかしてある)が、Centuriaのバナーを持っている写真が掲載されている。写真は、2021年6月19日にNAAの士官候補生卒業式が行われたIPSCで撮影されたものだ。

注目すべきは、2018年初頭に投稿されたナチスの敬礼写真など、Centuriaの人物との写真に見られるセルヒイ・ブリノフが2021年のNAA卒業生の中におり、NAAプレスサービスが制作した卒業式のビデオに登場していることだ。Centuriaと関係のある別のNAA士官候補生、オレクサンダー・ズボジーニOleksandr Zbozhnyiも、家族がオンラインで共有した写真によると、2021年にアカデミーを卒業した。

73 Image from Centuria’s June 2021 Telegram post. The photo used in the post was taken at the IPSC, where the NAA’s officer cadets graduation ceremony took place on June 19,
画像は、Centuriaの2021年6月Telegram投稿より。投稿に使用された写真は、2021年6月19日にNAA士官候補生卒業式が行われたIPSCで撮影されたもの。
74 Screenshot from a video report about the June 2021 officer cadets graduation ceremony shows Serhiy Blinov (center), who appeared in an early 2018 photo of Centuria member
。2021年6月の士官候補生卒業式に関する動画レポートのスクリーンショットには、2018年初めにセントーリアのメンバーがナチスの敬礼をする写真に登場したセルヒイ・ブリノフSerhiy Blinov(中央)が写っている。
75 Mobilization graphic posted by Centuria in October 2020 features the emblems of those AFU units where members of “Centuria” allegedly serve as officers. “Mobilization. En
2020年10月にCenturiaが投稿した動員グラフィックには、Centuriaのメンバーが将校を務めるとされるAFU部隊のエンブレムが描かれている。”Mobilization”(動員)。最前線で 「Centuriaの隊列に入れ 」と書かれている。

現在AFUに所属していると見られる複数の人物が、ネット上でCenturiaとの関わりを示唆している。例えば、AFUの将校と見られる人物で、元NAAの学生であるオレクサンドル・リシツキーOleksandr Lisitskyは、自身のInstagramページでCenturiaのTelegramへのリンクを紹介している。ウクライナでアメリカ軍人と一緒に写真に写っているリシツキーは、彼のソーシャルメディアに記載されているメールアドレスに送られた筆者のコメント要請には返答しなかった。

Centuriaが主張するAFU内での存在の特異性は注目に値する。Centuriaの最初の動員要請は、早くも2019年9月に行われ、同グループはAFUの現役軍人が「Centuria将校の直接指揮下」で勤務できるようになったと発表し、専用のTelegram botを介して追加情報の提供を約束した。ナショナル部隊のイデオローグであるエドゥアルド・ユルチェンコEduard Yurchenkoが直ちに共有したこの発表では、同団体は健康状態が良好で、「思想的にやる気のある」、できれば戦闘経験のある候補者を求めていることを強調していた。AFUの部隊としては、第15山岳突撃セヴァストポリ大隊、第24機械化旅団、第35海軍歩兵旅団が挙げられている。

10カ月後の2020年7月、Centuriaは新たな動員要請を出した。今回は、第10山岳突撃旅団、第128山岳突撃旅団、第35海軍歩兵旅団、第36海軍歩兵旅団、第16戦闘支援連隊、第55砲兵旅団、第24機械化旅団、第25空挺旅団の8部隊に増えた。Centuriaはオープンポジションのリストも提供した。同団体は再び、応募者に「忠誠心、思想的献身、名誉、知性、気高さ」を求めると述べ、Centuriaが率いる部隊に「名誉、思想への献身、戦闘訓練、部隊の団結」を約束した。同年10月、同団体は同じ告知を再投稿した。

ウクライナ国軍の指揮下の兵士を受け入れるという発言に加え、2020年11月には、ウクライナの法執行機関の士官候補生と将校を受け入れると発表している。

2021年も動員要請は続く。2021年3月、Centuriaは第24機械化旅団への募集を発表した。4月には、ティホミロフがInstagramに、Centuriaが第406砲兵旅団の応募を受け付けていると投稿した。そして2021年6月のTelegramの投稿では、「兵士や将校を仲間に受け入れる準備はいつでもできている 」とフォロワーに通知していた。その投稿には、Centuriaのメンバーが将校を務めるAFU部隊の最新リストが含まれており、応募者にはCenturiaのTelegram botに詳細を書き込むよう勧めていた。

Centuriaの専用Telegram bot、@centuria_mobilization_botが起動すると、応募者は候補者の軍歴や所属した軍部隊から、過去の「あらゆる組織」との関わりやCenturiaのイデオロギーに対する理解度まで、15の質問に答えるように促される。

どうやら、ウクライナ軍のメンバーは、Telegramを通じてCenturiaに入隊の打診をしているようだ。AFUに所属していると主張するユーザーが、所属していたと思われる部隊について具体的に説明し、返事を得たケースもある。

例えば、2020年11月には、AFUの軍人ローマン・ジーウンRoman Zhyvunとそのプロフィール名と写真が一致するTelegramユーザーがCenturiaのTelegramでグループへの加入を打診し、その後、専用の動員ボットに進むよう促された。「私はCenturiaの思想に親近感を覚え、将校としてその記事から多くを学びました 」と、このユーザーはTelegramでCenturiaに書いた。ローマン・ヴァシロヴィッチ・ジヴンRoman Vasylyovych Zhyvunが2017年に提出した公的情報申告書によると、彼は当時、ウクライナのジトーミル地方に駐屯するAFU部隊に所属していたことが示されている。これは、Facebookユーザー「ロマ・ジヴン」 “Roma Zhyvun”がFacebook上で「ジトーミルに拠点を置く第95航空攻撃旅団に所属している」と述べた自己紹介や個人情報と一部一致する。筆者がTelegramでロマ・ジヴンにコメントを求めたところ、彼はセンチュリアの件を否定した。

筆者がウクライナ国防省に、ルスニク、ヴィンターゴラー、リシツキ、ドブロフスキー、ジヴン、ブリノフ、ダニロ・ティホミロフ、ガヴリーシンのウクライナ軍での現況を確認するよう要請したところ、イナ・マレビッチ空軍情報官は、電話で、「ウクライナ軍はこの要求を追求するだけの材料を持っていない、それは可能かもしれないが、多くの時間を要し、軍は戦争状態にあり、人々を追跡することはしない」と述べている。

76 Screenshot of the questions Centuria’s mobilization bot, centuria_mobilization_bot, asks applicants.
Centuriaの動員ボット、@centuria_mobilization_botが応募者に問いかける質問のスクリーンショット。

ウクライナ政府、西側軍部はウクライナ人軍人の過激派を審査せず、極右が有利な地位を占めてきた

この調査から、CenturiaがNAAやAFUの中で活動できたのは、異常なことではなく、むしろウクライナ軍内での極右思想の普及と影響力を促進する寛容な文化の反映であることが示唆されるものだ。

実例として、ボリス・ヴァツィクBorys Vatsykの例がある。2018年からNAA士官候補生となったヴァツィクは、アゾフの政治組織であるナショナル部隊と親しいようで、ナショナル部隊のTシャツを着て同団体のバナーを持った人たちのグループと一緒に写っている写真が何枚もある。ヴァツィクが自身のVKページに投稿したそうした写真の1枚には、2018年9月のNAA宣誓式での彼の姿が写っている。写真では、NAA本館の前で制服を着たヴァツィクがナショナル部隊のバナーを持っているのが見え、彼の周りにはナショナル部隊のTシャツやキャップをかぶった若者たちがいる。この写真は、ヴァツィクが宣誓の際に家族と「ナショナル部隊リヴィウの活動家」に感謝の意を表した投稿の一部だ。ヴァツィクはソーシャルメディアの投稿で、ファシズムへの支持を表明している。彼のInstagramのプロフィールには、ナチス親衛隊のモットーである「Meine ehre heißt treue」(ドイツ語で「私の名誉は忠誠と呼ばれる」)が大きく掲げられている。ヴァツィックはまた、白人ナショナリズトのゾンネンラートSonnenradのシンボルをタトゥーとして入れている。

77 Screenshot of a VK post by Borys Vatsyk shows him holding the far-right National Corps party banner during his September 2018 NAA swearing-in ceremony.
Borys VatsykによるVK投稿のスクリーンショットは、彼が2018年9月のNAA宣誓式で極右のナショナル部隊党のバナーを手にする様子を示している。

驚くべきことに、ヴァツィクはNAAでの勉強と極右の銃器インストラクターとしての役割を兼ねているようだ。ヴァツィクは、ナショナル部隊党とつながりのあるガリシア青年団Galician Youthが2020年7月に投稿した写真に登場する。ガリシア青年団によれば、この写真は、同月初めに行われたSS第14ヴァッフェン・グレナディア師団を称える2つの準軍事訓練イベント(ウクライナ語:вишколи)で、銃器と戦術の訓練を含むものである。写真には、ガリシア青年団の紋章をつけたヴァツィクが訓練参加者に指示を出し、ゾンネンラートのシンボルが目立つガリシア青年団の旗を持つグループの一員として写っている。ヴァツィクは同時期に自身のInstagramに訓練の写真を投稿している。

78 NAA cadet Borys Vatsyk (center, wearing a cap and carrying what looks like a firearm) with participants in a paramilitary training held by the Galician Youth organization
NAA士官候補生Borys Vatsyk(中央、帽子をかぶり銃器らしきものを携行)とガリシア青年団が開催した準軍事訓練の参加者。
79 Screenshot of an Instagram post by NAA cadet Borys Vatsyk
NAA士官候補生Borys VatsykによるInstagramの投稿画面。
80 Screenshot of an Instagram post by NAA cadet Borys Vatsyk
NAA士官候補生Borys VatsykによるInstagramの投稿画面。

2021年5月、全国の138のユダヤ人コミュニティや組織を代表しているとされる the United Jewish Community of Ukraineウクライナ連合ユダヤ人コミュニティは、ガリシア青年団がリヴィウで反ユダヤ主義ポスターを広めたことを非難した。同団体は反ユダヤ主義ポスターとの関係を否定し、反ユダヤ主義や外国人排斥を非難していると述べた。しかし、これらの声明に反して、ガリシア青年団のイベントやパッチなどには、白人ナショナリストのシンボルが描かれている。さらに、ガリシア青年団はクライストチャーチの銃撃犯のマニフェストをウクライナ語に翻訳した写真をテレグラムに投稿した。今では削除されたこの投稿は、筆者によってアーカイブされており、ブレントン・タラントの『Great Replacement』のハードカバーのウクライナ語版が、ガリシア青年団とネオナチのMisanthropic Divisionグループのパッチの隣にテーブルの上に転がっているのが写っていた。

81 Now-deleted Telegram post by the Galician Youthgroup shows the hardcover Ukrainian translation of the Christchurch shooter’s manifesto, the Great Replacement.
ガリシア青年団の削除されたTelegramの投稿は、クライストチャーチの銃撃犯のマニフェストである「偉大なる交換」のハードカバーのウクライナ語の翻訳を示している。

NAAが極右問題を抱えている可能性があることは明白である。2021年7月現在、NAAウェブサイトのトップページで紹介されているNAAの公式Instagramアカウント、@army_academy_ukrは、「Nur für Arien」(ドイツ語で「アーリア人専用」の意)のアカウントをフォローしている。NAAのアカウントは、2021年7月現在、60以下のInstagramページをフォローしているが、フォロワー数は4,500人を超えている。そのアカウントのプロフィール画像は白人ナショナリストのゾンネンラートマークで、内容は映画「アメリカン・ヒストリーX」の主人公が黒人を殺す映像、ナチズムを軽んじるユーモア等である。

82 Screenshot of an Instagram post by NAA cadet Borys Vatsyk. Vatsyk and another apparent NAA cadet, Andriy Bagmet, are pictured making a gesture that alludes to the Nazi sa
NAA士官候補生Borys VatsykのInstagram投稿のスクリーンショット。Vatsykともう一人のNAA士官候補生と見られるAndriy Bagmetは、ナチスの敬礼を連想させるジェスチャーをしている。

NAAとAFUは、ウクライナ軍、同国に対する西側の支援、同国における西側の軍事的プレゼンスにとって中心的存在であるため、本稿で紹介したNAAとAFUにおける極右勢力の存在は憂慮すべきものである。同校はウクライナ軍と西側諸国の支援、そして西側諸国の軍隊の駐留の中心であり、外国人軍事教官が同校の士官候補生と日常的に交流している。さらに、同校は欧米の軍事顧問などを頼りにしている。

ウクライナ政府も欧米の主要パートナーも、欧米の軍事訓練を受けたウクライナ人が過激派思想を持っていないか、過激派グループとつながりがないかを審査する一貫した措置をとっていないようである。ウクライナ国防省は電子メールで、徹底した身元調査を義務付ける同省の規則には、軍隊に入る者や軍事訓練を受ける者の中に過激派の考え方や過激派グループとのつながりがあるかどうかを審査することは含まれていないと述べている。ウクライナが自国の軍人や士官候補生に過激派の見解やつながりを審査していないという事実は、少なくとも主要な軍事パートナーの一部がそうすることを期待していることからも注目される。筆者は、NAA国際平和維持・安全保障センターを拠点とするカナダ、米国の両政府と、英国、ドイツの両政府に問い合わせを行った。後者2カ国には、先に紹介したキーロ・ドゥブロフスキーKyrylo Dubrovskyi とウラジスラフ・ヴィンターゴラーVladyslav Vintergoller の事件に関連して連絡を取った。

在ウクライナカナダ国防部長のロバート・フォスター大佐は筆者とのインタビューで、ウクライナ人が訓練を受ける際に過激派の考え方や結びつきがないかどうかを審査する際、カナダはウクライナ政府が正しい候補者を選び、識別していることを信用していると語った。「それは彼らの責任だ」とフォスター大佐は述べ、カナダは「過激派や反体制的な考えを持つ人々の訓練を受け入れることはない」と明言した。実際、カナダは、あからさまに過激派の意見を表明するウクライナ人への訓練を拒否するとし、彼は次のように述べた。「万が一、そのような態度を示したりするウクライナ人を見つけたら、次の段階として、カナダが提供するあらゆる訓練から退出させることになる」

83 A post on Borys Vatsyk’s VK page
Borys VatsykのVKページへの投稿。

フォスターによると、カナダは自国内の過激な意見や行動を容認していない。しかし、カナダ国防部長は、審査には継続的な監視が必要で、問題行動の目撃者が名乗り出ないとうまくいかないため、実際には「どの国にとっても」難しいことだと指摘している。

英国大使館に筆者が接触したのは、CenturiaのメンバーらしいドゥブロフスキーがRMASで訓練を受けたからである。英国は2015年からORBITAL作戦を通じてウクライナ軍を訓練している。英国国防省によると、それ以来、2万人以上のウクライナ軍が訓練を受けている。ウクライナ人訓練生に過激派の見解やつながりがないかスクリーニングすることについて尋ねると、英国大使館は、「ウクライナ軍も国際コースに選ばれた者を含む軍人のために独自の審査方針を運用している 」と電子メールで回答している。イギリス自国軍に関しては、「イギリス政府は自国軍のメンバーに対して厳格な審査方針を運用している 」と大使館は強調している。

ドイツ国防省の報道官は筆者にメールで、「ドイツとのあらゆる協力活動におけるウクライナ人参加者の選定は、ウクライナの主権的決定である。これには適切な審査プロセスの責任が伴う 」と述べている。一方、同省報道官によると、ドイツ軍への志願者の審査に関しては、「テロ、過激派、暴力事件に関する所見があれば、総合武器訓練への参加、連邦軍への採用の不適格基準であり、即時除隊の根拠となる 」とのことだ。ウクライナ国防省によると、ドイツ軍のグレゴール・ブランド中佐は現在、NAAの軍事顧問として働いている。筆者が先に詳述したように、明かなCenturiaのメンバーであるヴィンターゴラーは、2019年4月にドイツ陸軍士官学校の第30回国際ウィークに出席している。

ウクライナの軍事訓練生が過激派の見解や結びつきがないか審査することについて尋ねられた在ウクライナ米国大使館は、「その部隊またはその部隊内の個人が重大な人権侵害(GVHR)の遂行に関与していると信憑性のある情報がある場合、外国の治安部隊への支援のための資金使用は禁止される 」と強調した。米軍に関しては、大使館は「国防総省の方針では、軍人が至上主義、過激派、犯罪組織の教義、思想、大義を積極的に支持することを明示的に禁止している」と指摘した。予備軍を含むすべての軍人は、身元調査を受け、継続的な評価を受けている。

この記事で詳述されている事実に基づけば、ウクライナ政府とその国際的支持者は、ウクライナ軍内に極右の影響が広がっていることを認識した方が良いのは当然である。この研究が、この問題に取り組む多くの報告のひとつとなることを期待したい。

本稿で使用したオープンソースの調査手法に関して助言と洞察を提供してくれたBellingcat.com調査チームに感謝したい。

Oleksiy Kuzmenkoは2019年4月、TwitterのスレッドでCenturiaに関する初期の発見と観察を共有した。2019年9月、ロシアの国営情報機関Russia Todayが設立したメディアUkraina.ruは、ウクライナの極右を専門とするVladislav Maltsevが執筆したこのグループに関する記事を掲載した。Maltsevの記事は、同グループの主張を俯瞰し、多くの考察を行った。2019年10月、Maltsevは、AFUのメンバーが政府の命令に背き、ドンバスで戦い続けるというCenturiaの主張について報じた。コメントを求められたMaltsevによると、執筆時点ではKuzmenkoのツイートを知らず、独自にCenturiaを発見したという。

Oleksiy Kuzmenko
ILLIBALISM.ORG
イリベラリズム研究プログラムは、今日の世界における非自由主義的な政治や思想のさまざまな顔を、その文化的背景の多様性、知的系譜、大衆的支持の社会学、そして国際舞台での意味合いを考慮に入れて研究している。

出典:https://www.illiberalism.org/far-right-group-made-its-home-in-ukraines-major-western-military-training-hub/

[訳注1] 日輪Sonnenkreuz

北欧を中心に世界中の白人差別主義者が、北欧民族の優位性を主張するシンボルとして日輪を使用している。視覚的に鉤十字に似ており、特に鉤十字の表示が禁止されている地域では、その使用が社会的に受け入れられるため、しばしば鉤十字の代わりに使用される。また、横断幕やポスターの「O」の文字の代わりにも使われる。ウクライナでは、使用者が特定の組織や団体に所属することなく、人種差別的な意見を示すために使われることがある。日輪は、その人気と単純さゆえに誤って使用されることがある。このシンボルは、特に新教皇主義者などによって広く使用されている。そのため、日輪が出現する文脈を調べ、他のヘイトシンボルの存在を確認し、ヘイトシンボルとして使用されているかどうかを見分けることが重要。https://reportingradicalism.org/en/hate-symbols/movements/modern-racist-symbols/sun-wheel

[訳注2] ヴォルフスアンゲルWolfsangel

1910年にドイツの作家ヘルマン・ローエンスの小説『人狼』が出版された後、狼天使はドイツの民族主義者の間で人気のシンボルとなり、第一次世界大戦の勝者に対する抵抗のシンボルとして使われるようになった。ヴォルフスアンゲルはナチス・ドイツで広く使われた。第2SSパンツァー師団「ダス・ライヒ」、第4SS警察パンツァーグレナディア師団、第34SSボランティア・グレナディア師団「ランドストーム・ネザーランド」、ナチのゲリラ活動「Werewolf」、ドイツ国防軍の多くの部隊、国防軍人民慈善団体など、ナチのいくつかの組織や軍のシンボルとなった。

現代のネオナチは、抵抗のシンボルとして使用している。ネオナチのシンボルとして最も一般的なものの一つであり、各国の極右がナチ、ネオナチ、人種差別の指標として広く使用している。アメリカのネオナチ系テロ組織「アーリア・ネイション」をはじめ、多くのネオナチ系組織のエンブレムに含まれている。ウクライナでは、狼煙はナチスの見解を示す印として広く使われており、しばしば特定の組織や団体に所属することなく使用されています。カルパツカ・シチのシンボルにも含まれている。アゾフ大隊に所属するグループは、「国家の理念」を象徴するエンブレムの一部として、ヴォルフスアンゲルの鏡面版を使用している。https://reportingradicalism.org/en/hate-symbols/movements/nazi-symbols/wolfsangel

[訳注3]

1488は、白人至上主義者に人気のある2つの数字記号を組み合わせたものである。最初の記号は14で、”14の言葉 “というスローガンの略語です。”私たちは民族の生存と白人の子供たちの未来を確保しなければならない “という意味。もうひとつは88で、これは「ハイル・ヒトラー」(Hはアルファベットの8文字目)の略である。これらの数字は、白人至上主義やその信条を一般的に支持するものである。落書き、グラフィック、タトゥー、そしてスクリーンネームや電子メールアドレス(aryanprincess1488@hate.net)など、白人至上主義運動ではいたるところにこの数字が使われている。 一部の白人至上主義者は、Tシャツやコンパクトディスクなどの人種差別的な商品を14.88ドルで販売することさえある。この記号は1488または14/88と書かれるのが最も一般的だが、14-88や8814のようなバリエーションもよく見受けられる。https://www.adl.org/education/references/hate-symbols/1488

(UnHerd)ウクライナ、極右民兵の真実―ロシアは、ゼレンスキー軍の危険な派閥に力を与えている

(訳者前書き) ロシアがウクライナへの侵略を正当化するために、ウクライナのネオナチを一掃すること、「非ナチ化」を主張したのに対して西側の政府やメディアが一斉に反発して、ロシアの主張を偽情報だと言いたてたときに、私はとても奇妙に思ったことを思いだす。この戦争以前にウクライナの政権にネオナチが影響力を行使しようとしてきたことや、国内で(あるいは東部で) 深刻な人権侵害を引きおこしてきたことを西側政府もメディアも知っていたのでは、と思っていたからだ。しかし、このウクライナ政権と極右との関わりは、発言のちょっとした表現やニュアンスによってはロシアの侵略を正当化しかねないことにもなる。しかし、やはりきちんと議論しておく必要があると強く思うようになったのは、最近の日本のメディアにアゾフ大隊がネオナチあるいは極右の軍事組織であることを指摘することなく「東部の屈強なウクライナ軍」といった紹介であったり、公安調査庁がアゾフをネオナチ指定から外すなどの歴史の改竄が始まっている。以下に紹介する記事は、UnHerdに掲載されたもの。この問題を非常にうまく扱っていると思う。特に西側がプーチンのネオナチキャンペーンにびびって、ウクライナの権力内部の極右を黙認し、さらに武器まで与えてしまっていることが、戦後のウクライナの統治機構に深刻な影響をもたらすことを指摘しているのは重要だ。ロシアもウクライナもある種のファシズム的な要素を権力に内包させているというのが私の見方だが、そうなると、世界はファシズムに席巻されているということか。かつての世界戦争が帝国主義間の戦争であって、どちらに見方しても帝国主義に見方することになったように、今の戦争はどちらに見方してもファシストに見方することになるのでは、と思う。(ファシズムはやっかいだが重要な概念なので情緒的に使うべきではないが、とりあえず、ここでは「ファシズム」と呼んでおきたい) (小倉利丸)


ウクライナ、極右民兵の真実―ロシアは、ゼレンスキー軍の危険な派閥に力を与えている
Aris Roussinos (UnHerdの海外部門編集者、元戦争記者)

どのような戦争でもそうだが、ウクライナ戦争では、おそらく他の戦争以上に、それぞれの側のネット上の支持者による主張と反論が錯綜している。真実、部分的真実、そして真っ赤な嘘が、メディアのシナリオの中で覇権を争っている。ロシアがウクライナを「脱ナチス化」するために侵攻したというウラジーミル・プーチンの主張は、間違いなく最も明確な例の1つである。2014年のマイダン革命は「ファシストのクーデター」であり、ウクライナはナチス国家であるというロシアの主張は、クリミア占領と同国東部のロシア語を話す分離主義者への支援を正当化するためにプーチンとその支持者によって何年も用いられ、多くのオンライン信奉者を獲得してきた。

しかし、このロシアの主張は誤りである。ウクライナは、不完全ではあるが、真の自由民主主義国家であり、自由選挙によって、2019年にリベラル・ポピュリストの改革者であるVolodymyr Zelenskyyが選ばれるなど、重要な権力交代が行われている。ウクライナは明らかに、ナチス国家ではない。ロシアの詭弁は嘘である。しかし、ロシアのプロパガンダに弾みをつけたくないというウクライナや欧米のコメンテーターの当然の願いが、行き過ぎた修正につながり、最終的にウクライナにとって有益なものとはならない危険性があるのだ。

BBCラジオ4の最近のニュース番組で、特派員が「プーチンがウクライナ国家がナチスを支持しているという根拠のない主張」に言及した。これは、それ自体が偽情報である。ウクライナ国家が2014年以降、ネオナチを含む極右民兵に資金、武器、その他の支援を提供していることは、BBC自身が以前から正確かつ十分に報道している観察可能な事実である。これは、新しい観察でもなければ、議論を呼ぶようなものでもない。2019年、私は『ハーパーズ』誌の取材で、国が支援する極右集団の幹部たちにウクライナで時間をかけてインタビューしたが、彼らは皆、自分たちのイデオロギーと将来計画についてかなりオープンだった。

実際、ウクライナの極右グループに関する最も優れた報道のいくつかは、オープンソースの情報発信源であるBellingcatによるものだ。Bellingcatは、ロシアのプロパガンダに肯定的な態度を示すことで知られているわけではないのだが。過去数年間、このあまり議論されていないトピックに関するBellingcatの優れた報道は、主にウクライナで最も強力な極右団体であり、国家の大盤振る舞いを最も受けているアゾフ運動に焦点を当てたものである。

過去数年間、Bellingcatの記者たちは、アゾフのアメリカ白人民族主義者への働きかけや、ウクライナ国家による「愛国心教育」と復員兵の支援のための資金提供を調査してきた。また、アゾフがネオナチのブラックメタル音楽祭を主催していることや、亡命中の反プーチン系ロシア人ネオナチグループWotanjugendの支援についても調べている。Wotanjugendは非常に周縁な形の秘教的ナチズムの実践者で、キエフ本部でAzovと場所を共有し、前線で彼らと共に戦っており、クライストチャーチ銃撃犯のマニフェストのロシア語版の翻訳と普及にも一役かっている。残念ながら、ウクライナの極右エコシステムに関するBellingcatの貴重な報道は、ロシアとの戦争がこれらのグループにある種のルネッサンスをもたらしたにもかかわらず、現在の敵対行為が始まってから更新されていない。

アゾフ運動は、ウクライナのネオナチ集団「パトリオット・オブ・ウクライナPatriot of Ukraine」の元リーダーであるアンドリー・ビレツキーAndriy Biletskyが、選挙によってロシア寄りの大統領となったヴィクトール・ヤヌコヴィッチに対するマイダン革命の際にキエフの中心部の独立広場を占拠しようとした闘いの中で2014年に創設されたものである。2010年当時、ビレツキーは、「世界の白色人種を率いて、セム人主導の野蛮人に対する最後の聖戦を行う」ことが、いつの日かウクライナの使命になるだろうと主張していた。革命とそれに続く戦争は、彼が長い間切望していた国家の舞台を提供することになる。

右翼セクターRight Sectorなどの他の極右グループと並んで、新生アゾフ運動はウクライナ治安警察との戦闘で外敵としての役割を果たし、121人の死者を出して、革命の成功を確かなものにしたのである。独立広場のすぐ近くにある大きな敷地を国防省から取得したアゾフは、現在コサックハウスと名付けられたその建物をキエフの本部とリクルートセンターにした。アゾフはその後、そのレトリックをトーンダウンさせ、その戦士の多くはイデオロギーを持たず、単にその武闘派の評判に惹かれているのかもしれないが、その活動家はしばしばSSのトテンコップや稲妻のルーンの刺青で身を包み、あるいはナチの秘教的シンボルのゾネンラート SonnenradやブラックサンBlack Sunを身につけていることが見受けられる。ゾンネンラートは、SS幹部がオカルト的な聖地として選んだドイツのヴェヴェルスブルク城でヒムラーのために作られた模様に由来し、アゾフの公式シンボルの一つであるSS Das Reich部門のWolfsangelのルーンのように、彼らの部隊パッチや戦闘員が松明をともす儀式で行進する際の盾に付けられていたものである。

コサックハウスには、ウクライナ警察のパトロールを補佐する民兵組織 National Militia のリーダー、イホール・ミハイレンコIhor Mikhailenkoや、アゾフの国際書記局で知性派の中心人物、オレナ・セメニャカ Olena Semenyakaらアゾフの幹部を何度も訪ね、インタビューしたことがある。コサックハウスには、国の資金で提供する教育講義用の教室のほかに、Azovの文学サロンと出版社「プロミンPlomin」があり、三島由紀夫、コルネリウス・コドレアヌCornelius Codreanu、ユリウス・エボラJulius Evolaといったファシストの著名人の豪華なポスターの下に、若いヒップスター知識人が右派セミナーや本の翻訳にいそしんでいる。

しかし、アゾフの力は銃に由来するものであり、彼らの文学的努力に由来するものではない。2014年、ウクライナ軍が弱体で装備不足だった頃、ビレツキー率いるアゾフの志願兵は、東部のロシア語圏分離主義者との戦いで前衛として戦い、現在包囲されているマリウポリ市を再制圧した。アゾフの東部での活動は、効果的で勇敢な、高度にイデオロギー的な戦士として、国家の防衛者として大きな名声を得、感謝するウクライナ国家の支持を得て、アゾフはウクライナ国家警備隊の公式連隊として編入された。この際、アゾフは有力なオリガルヒであり、2014年から2019年にかけてウクライナの内相を務めたアルセン・アヴァコフArsen Avakovの支援を受けたとされる。

ウクライナの人権活動家も、対立する極右団体のリーダーも、アヴァコフの後援によってアゾフ運動がウクライナの右翼圏で支配的な役割(選挙監視員国家公認の補助警察としての公式機能を含む)を確立するという不公平な立場を得たと、私にインタビューで訴えた。ウクライナはナチス国家ではないが、ウクライナ国家が正当な理由であれ何であれ、ネオナチやナチスに連なる集団を支援することは、この国をヨーロッパの中でも異端な存在にしている。欧州大陸には極右団体が数多くあるが、国家の支援を受けて自前の戦車部隊や大砲部隊を保有しているのはウクライナだけである。

欧米が支援するリベラル・デモクラシー国家と大きく異なるイデオロギーの武装勢力との間のこのぎこちない密接な関係は、過去にウクライナの欧米支援者に不快感を与えたことがある。アメリカ議会は近年、アゾフがアメリカの武器輸送を受け取るのを阻止すべきかどうかで一進一退を繰り返しており、2019年には民主党議員がアゾフをグローバルなテロ組織としてリストアップするよう要求しているほどだ。セメニャカはインタビューで、こうした不安はロシアのプロパガンダに耳を傾けた結果だと苦言を呈し、アメリカがアゾフに協力することは双方にとって有益であると主張している。

その意味で、今回の戦争はアゾフにとって幸いなことであったことは間違いない。ビレツキーが立ち上げた政党「ナショナル部隊 the National Corps」の成果はほとんどなく、ウクライナの極右政党の連合体でさえ、前回の選挙で議会代表の非常に低いハードルをクリアすることができなかった。ウクライナの有権者は、彼らが売っているものを欲しがらず、彼らの世界観を拒否しているだけなのだ。しかし、戦時下においては、アゾフや 同様のグループが最前線に立ち、ロシアの侵攻によって、アヴァコフが国際的な圧力によって辞任した後の下降スパイラルから反転したかのようである。彼らのソーシャルメディアから判断すると、アゾフの武装部隊は拡大を続けている。ハリコフとドニプロでは新しい大隊を、キエフでは新しい特殊部隊(ビレツキーは少なくとも首都防衛の一部を組織している)を、イワノ=フランキフスクなど西部の都市では地方防衛民兵を組織している。

カルパツカ・シチKarpatska Sich(ロマ人などウクライナ西部のハンガリー語を話す少数民族に対して過激な攻撃を行い、ハンガリー政府から批判を浴びた)、東方正教会グループ「伝統と秩序Tradition and Order」、ネオナチグループC14、および極右武装集団フライコルプスFreikorpsのような他の極右集団とともに、ロシアの侵略によってアゾフは以前の名声を取り戻し、通常のウクライナ海兵隊とともにマリウポリで頑強に戦ったことで 英雄の評判を高めることができたのである。ほんの数週間前までは、アゾフを直接武装させないという西側の努力があったが、今では西側の軍需品と訓練の主要な恩恵を受けているようだ。ベラルーシの野党放送局NEXTAがツイートしたこれらの写真では、アゾフの戦闘員がぼかしたトレーナーからイギリス製のNLAW対戦車弾の使い方を教わっているのが写っている。

同様に、ロシアの侵攻まで、西側政府や報道機関は、西側のネオナチや白人至上主義者がアゾフやその同盟国のナチス下部組織と一緒に戦う経験を積む危険性について、頻繁に警告を発していた。キエフに新しく到着したイギリス人を含む西洋人ボランティアの最近の写真には、スウェーデンのネオナチで元アゾフのスナイパーだったミハエル・スキルトMikael Skilltと並んで、アゾフのOlena Semenyakaが後ろで楽しそうに微笑んでいるのが写っている。実際、アゾフとともに戦う西側のネオナチの部隊であるミサントロピック師団Misanthropic Divisionは、現在テレグラムで、ヨーロッパの過激派が志願者の流れに加わり、「勝利とヴァルハラのために」ウクライナで彼らと合流するよう宣伝している。

ウクライナの他の極右民兵と同様に、アゾフは執念深く、規律正しく、献身的な戦士だ。だからこそ、弱いウクライナ国家は、マイダン革命、2014年以降の分離主義者との戦い、そして現在のロシアの侵略をかわすために、最も必要な時に彼らの力に頼らざるを得なかった。海外では、彼らの役割について率直に語ることに対して、ある種の遠慮が新たに生じている。それは間違いなく、そうすることでロシアのプロパガンダに弾みをつけてしまうことを恐れてのことだろう。ロシアがウクライナに干渉しているからこそ、アゾフのような集団が存在するのだ。ロシアの攻撃は、ウクライナを脱ナチス化するどころか、ウクライナ軍における極右派の役割と存在を強固にし、ウクライナ人の圧倒的多数が拒絶する衰えかけた政治勢力を再活性化させるのに役立っているのだ。

アゾフのような集団がもたらす第一の脅威は、ロシア国家にあるわけではない。ロシアはワグネル傭兵団Wagner mercenary group分離主義共和国の極右勢力を喜んで支援しており、また、不満を持つ市民が彼らとともに戦闘的役割を果たすことになるかもしれない西側諸国にとっても同様である。むしろ、アムネスティヒューマン・ライツ・ウォッチが以前から警告してきたように、将来のウクライナ国家の安定に対する脅威なのである。今はまだ役に立つかもしれないが、ウクライナの自由主義政権が崩壊するか、キエフからポーランドやリヴィウに避難するか、もっと可能性が高いのは、ゼレンスキーが何かのきっかけでウクライナの領土を明け渡す和平協定にサインさせられた場合、アゾフのようなグループは国家の生き残りに挑戦して、局所的にでも自らの権力基盤を強化する絶好機を見出すかもしれないのである。

2019年に、私はセメンヤカに、アゾフはまだ自分たちを革命的な運動と見なしているのかと尋ねた。慎重に考えて、彼女は「私たちはさまざまなシナリオに対応する準備ができています」と答えた。もしゼレンスキーが(元大統領の)ポロシェンコよりもさらに悪い人物で、同じようなポピュリストでありながら、ある種のスキルやコネクション、背景を持たずにいたら、もちろん、ウクライナ人は大きな危険にさらされるでしょう。そして私たちはすでに、たとえば(ゼレンスキーが)クレムリンの操り人形になってしまうような場合に、ウクライナ国家を救うために何ができるか、どのようにパラレルな国家構造を構築できるか、これらの参加戦略をどのように調整するか、という計画を立てている。それは十分にあり得ることだからだ。」。

アゾフの幹部は、長年にわたって、ウクライナはリベラルな者、同性愛者、移民からヨーロッパの「奪還」のための跳躍台として独自の可能性を持っていると明言してきた。彼らの大陸横断的な野望が成功する可能性は非常に疑わしいかもしれないが、戦後の荒廃し、貧しく、怒りに満ちたウクライナ、あるいはさらに悪いことに、中央政府の管理外の広大な地域で長年の砲撃と占領に苦しむウクライナは、ヨーロッパで何十年も見られなかった極右過激派の繁殖地となるに違いないのである。

今、ウクライナとゼレンスキーは、国家の存亡をかけた戦いに勝利するために、ナショナリストや 極右の民兵の軍事能力やイデオロギー的熱意を必要としているのかもしれない。しかし、戦争が終わったとき、ゼレンスキーも彼の西側支援者も、自分たちが誓った自由民主主義の規範と真っ向から対立する目標を持つ集団に力を与えないよう、十分に注意しなければならない。アゾフ、伝統と秩序カルパツカ・シチに武装させ資金を提供することは、戦争によって強いられた難しい選択の一つかもしれない。しかし、戦争が終わったときには、武装解除が優先さ れるべきであることは確かである。

シリアで見たように、市民を過激化させるものは、土地を奪われ、爆撃を受け、砲撃されること以外にはないのである。シリアと同様、軍事的有用性のために過激派に一時的に力を与えることは、間接的にせよ、重大で意図しない結果をもたらす危険性があることは確かである。シリアでも、西側の論者たちは、反政府勢力はすべてテロリストであるというアサドのプロパガンダを正当化することを恐れて、後に反政府勢力を共食いさせることになる過激派民兵の台頭を論じることに早くから強いタブーを設けていた。この初期の遠慮は、結局、反政府勢力に有利に働くことはなかったのである。

ウクライナにプーチンに対抗する過激派がいることを率直に認めることは、プーチンの仕事を助けることにはならない。実際、彼らの活動を注意深く監視し、おそらくは抑制することによってのみ、今後数年間に彼らがウクライナの惨状を深めることがないようにすることができるのである。何年もの間、西側のリベラルな論者たちは、ウクライナ国家が右翼過激派に対して目をつぶっていると苦言を呈してきた。同じ論者たちが今度は自分たちで同じことをしても、何の意味もないだろう。

出典:https://unherd.com/2022/03/the-truth-about-ukraines-nazi-militias

付記:下訳にDeepLを用いました。

「戦争放棄」を再構築するために

目次

1. 民衆の安全保障再考 1

1. 軍隊が民衆を守るという「神話」 1

2. ウクライナ戦争のなかで民衆の安全保障をどう提起できるか 3

3. 国家への向きあいかた―あるいはナショナリズムの問題 4

2. 戦時に戦争を放棄する 6

1. 暴力と正義 6

2. 日常の暴力と国家の暴力 7

3. 9条が絵に描いた餅である理由 8

4. 戦争=暴力を越える拡がり 10

5. ロシアの反戦運動とウクライナの反戦運動それぞれにみられる固有の困難とは 10

6. 権力は敵前逃亡を許さない 13

1. 民衆の安全保障再考

1. 軍隊が民衆を守るという「神話」

ウクライナへのロシアによる侵略戦争があからさまな形で顕在化した今年の2月からの1ヶ月半の戦争反対の声の大半は、ロシアの侵略戦争に反対しつつ、侵略に抵抗するウクライナの民衆の武装抵抗をウクライナの軍であれ義勇軍であれ、いずれにせよ、もっと多くのもっと高性能の武器・兵器を提供して武装能力を高めることについては大いに支援するような雰囲気が一般的なように思う。だから別のところ(注)に書いたように、日本の平和運動や大衆運動のウクライナ戦争から得ている教訓は、日本を侵略から守るための自衛力は必要だということになり、そうであるなら、自衛隊をまともな軍隊として憲法上も認めることに前のめりになりつつあるように思う。もはや日本政府と革新野党の間にはほとんど戦争への向き合い方に差がない。

(注)ウクライナ経由ナショナリズムと愛国心をそれとなく煽るマスメディア

軍隊は、国家の「防衛」のために兵士としての民衆(敵であれ味方であれ)を犠牲にするか、国家に敵対する自国の民衆に銃口を向けることを通じて、国家権力の安全を確保しようとするものであって、民衆の安全を確保することは、その従属変数、あるいは行き掛かりの駄賃に過ぎない。ある時期までの日本の反戦平和運動は、自衛隊を違憲とし、一切の武力の保持を認めないことを平和の原則としてきた。しかし、1990年代以降、つまり冷戦終結以降、日本の平和運動は次第に、最低限の自衛力の保持を容認することに始まり、すでに存在する自衛隊と防衛省を合憲とみなすことが常識にすらなってしまった。憲法学者の自衛隊違憲論者は今では少数派だ。(注)

(注)吉川勇一「世論の動向に寄り添うのではなく、それを変えさせる努力が必要なのだ」ピープルズプラン研究所編『9条と民衆の安全保障』、2006年所収。

しかし、私は、むしろ、2000年に入って一時期活発に議論されていた「民衆の安全保障」の主張を今一度想起する必要があると考えている。沖縄の少女暴行事件をきっかけに沖縄で繰り広げられた基地反対運動の高揚のなかで、戦前・戦中・戦後、そして復帰以後の沖縄が経験してきた、自国の軍隊、敵の軍隊、外国の軍隊がもたらした暴力の経験から提起された国家安全保障とは真っ向から対立する民衆の安全保障の提起は、ウクライナの戦争への私たちのスタンスを再確認する上での重要な出発点を与えてくれる。(注)

(注)民衆の安全保障のコンセプトの構築と沖縄の反基地運動については、武藤一羊「民衆が動かなければ戦争はできない」前掲『9条と民衆の安全保障』所収、参照。

2000年7月に出された「<民衆の安全保障>沖縄国際フォーラム宣言」(以下、民衆の安全保障宣言と呼ぶ)(注)は、「国家の安全は民衆の安全と矛盾します。軍隊は民衆を守りません。軍隊は社会の安定を脅かします」として、軍事化された安全保障の問題点を三点にわたり指摘した。第一に、日本の安全保障なるものは「企業利益と、米国とその同盟国の経済的利益を擁護する以外の目的を持っていない」こと。第二に、「自国の軍隊が私たちの日常生活と自国の歴史とを支配し、影響を及ぼしてきた経験から、私たちは、軍隊組織というものが、民衆を保護するのではなく、軍隊自身を防衛し保護するだけであること」、第三に「軍事機構とそのイデオロギーが、しばしばもっとも残酷で暴力的な男性支配、性的な抑圧と搾取に基礎を置いているばかりか、それを永続させ、増殖させている」と指摘した。そして次のように、民衆の安全保障の主体における女性が果たしてきた重要な役割を強調した。

(注)<民衆の安全保障>沖縄国際フォーラムのウエッブが現在でも存在している。 宣言はここ

「軍隊は、しばしば、いけにえとして、またその暴力と支配の対象として、女性、少女、子どもを求め、狙います。軍隊、軍事基地、軍国主義へのもっとも強力な批判が、女性と女性運動から起こっているのは驚くにあたりません。女性の闘いと平和への女性の努力の歴史、そしてとくに、戦争と軍事化のだなかで伝統的な境界を越え、国境を越える女性たちの連帯の成果は、民衆の安全保障のためのオルタナティブなシステムと構造を作り上げ、平和をかちとるよう、私たちを励まし、私たちに教訓を与えてくれます」

軍隊と戦争のなかで抑圧され安全を奪われた民衆自身による民衆の安全を創出する主体の構築こそが目指されるべきであり、そのための手段は非暴力に基くものでなければならないということを強調している。

「私たちは、人種、宗教、エスニシティ、性差、性的指向の差、地域差などを越えて、合流し、民衆の連合をつくり、その中で不平等を永続化し維持するさまざまな構造を変革することで、民衆の安全を創り出そうとつとめます。民衆自身、とくに社会的に抑圧され、安全を奪われている人々こそが、恐怖と不安なく暮らせる民衆の安全保障を創り出す主役です。民衆の安全保障は、人権、ジェンダーにおける正義、エコロジーにおける正義、そして社会的連帯にもとづくものです。民衆の安全保障は非軍事化を要求します。そしてそれを達成する手段は非暴力的なものです。」

そして6点にわたって民衆としての「私たち」が取り組むべき長期的な行動目標を定めている。そのなかには以下のような指摘がある。

「民衆間の争い、また過去の憎しみや猜疑心を、率直な話し合いと相互の働きかけを通じて乗り越えなければなりません。このような紛争は、しばしば軍事機構自身によってけしかけられています。」

「私たち自身の社会の紛争状況に取り組み、地域社会や民族や民衆集団の間に相互信頼と尊敬を築くために活動することが必要です。ある地域社会の安全が他の地域社会の安全を犠牲にすることがあってはなりません。」

2. ウクライナ戦争のなかで民衆の安全保障をどう提起できるか

ウクライナの戦争をどのように判断し、どのようなスタンスで戦争に反対するのかを見定めるためにも上に指摘されている論点は重要だ。ウクライナとロシアの間の国家間の戦争は、同時に、両国の民衆相互の敵意を醸成するだけでなく、それぞれの国内に暮す、相手国の住民たち、とりわけ、ウクライナ東部のロシア語系住民や、ロシア国内のウクライナ系の住民、そして、ロマなどもともと差別と迫害を被ってきたエスニックマイノリティの人々の存在をはっきりと視野に入れた「民衆」の相互理解を構築することが重要になる。

この民衆の安全保障宣言は2000年に出された。2001年9月のいわゆる「同時多発デロ」をきっかけに、その後世界は、終りのない対テロ戦争の時代に入り、日本もまた「参戦」してきた。こうした時代にあって、「地域社会や民族や民衆集団の間に相互信頼と尊敬を築くために活動すること」「ある地域社会の安全が他の地域社会の安全を犠牲にすることがあってはなりません」という上の提起が示している「地域」「民衆集団」は、国家の視点からみれば「敵」とみなされている民衆や地域との相互信頼と尊敬でなければならない。

この国の野党やいままで平和運動や護憲運動の中心を担ってきた人達にとって、この民衆の安全保障がどのくらい真剣に受け止められてきたのか、私には判断できない。しかし、たぶん、いわゆる「平和憲法」を擁護する人達のなかで軍隊こそが民衆の安全を脅かすのだ、ということを明確に自覚して、だから自衛を口実とした武力を一切容認しないという立場をとる人達は、政治の世界でもアカデミズムのなかでも、そして市民運動のなかでもますます数が減ってきている。実のところ、多くの平和運動の担い手たちは軍隊を積極的に肯定しているわけではなく、むしろ軍隊などない方がいいという思いは強い。だが、そうであっても、ウクライナの現実を見せられたとき、「もし日本が侵略されたらどうするのか、そうしたときに自衛隊はやはり必要なのではないか」という保守派や政権側の脅し文句に対して「国家の安全は民衆の安全と矛盾します。軍隊は民衆を守りません。軍隊は社会の安定を脅かします」では答えにはならないだろう。侵略されたときに、国家の安全が民衆の安全と重なりあう状況が生まれる。軍隊は国家の安全を守る上で民衆の安全を守る必要に迫られる。なぜならば、民衆の安全を国家が守るということを現実に証明してみせることこそが国家権力の正統性を支えるからだ。リスクは相対的なものだ。自国軍隊が民衆に対してもたらすかもしれないリスクよりも侵略者によるリスクが上回るとき、容易に自国軍隊のリスクは容認されてしまう。だからこそ、戦争状態を目の当たりにしてもなお、軍隊は私たちを守らないのだから、私たちは軍隊を認めない、と主張しうる思想的な根拠をきちんと議論しておく必要がある。

3. 国家への向きあいかた―あるいはナショナリズムの問題

民衆の安全保障宣言は正しい原則を提起したと思う。しかし、戦争状態や緊急事態(それがいかに欺瞞的であったとしても)のなかで、敵や侵略者の脅威を誇張し煽る自国政府は、必ず、自国軍隊がもたらすリスクを過小評価して民衆に甘受させようとする。いわゆる「敵」の脅威なるものによって人々の不安を煽り、不安に対する唯一の解決が国家による武力であるという軍備強化の古典的なプロパガンダの常套手段を、この宣言は突破しきれたといえるだろうか。正しい原則を提起したにもかかわらず、反戦平和運動のなかの共通理解を獲得することができなかったのはなぜなのだろうか。この問いは、現下のウクライナ戦争でいえば、ロシアがいかに侵略者としての暴力を振おうとも、ウクライナの民衆に軍隊は民衆を守らないという基本的な視点を提起することがどうしたら可能なのか、という問題でもある。この問いは対テロ戦争のなかで、実際に戦場となり戦火に見舞われた国や地域いずれに対してもあてはまる問い難き問いかもしれない。多分、民衆の安全保障を議論してきた人達の間で、こうした課題については様々議論されてきたのではないかとも思う。日本国内のウクライナ反戦のなかにみられる自衛のための戦争への肯定感はこれまでの次元を明らかに越えて、日本の武力行使を容認する合意形成へと向いはじめているように思う。自衛隊違憲論や非武装中立論はもはやマイナーなたわごとの類いにまでランクダウンしてしまったように感じる。これはウクライナで突然起きてきたことではなく、ポスト冷戦期に少しづつ自衛隊違憲論が切り崩され、同時に日米同盟や日米安保体制を疑問視する声もマイナーになってこれらを当然の前提とした上での「平和」の議論が主流を占めてきた過程の上に登場してきたものだ。

この民衆の安全保障宣言ではナショナリズムへの言及がない。宣言には「人種、宗教、エスにシティ、性差、性的指向の差、地域差などを越えて」民衆の連帯を構築すべきとする視点は明言されているが、「ネーション」としての人口集合を越えること、あるいは幅広い意味あいも含めてナショナリズムを越えることについては明示されていない。つまり民衆がネーションとどのように向き合うべきなのか、についての基本的な問題提起が上記の人種が地域差に含意されていると解釈しうるにすぎない。たぶん、このことがこの宣言の原理的な部分に関する大きな限界だったのではないかと思う。軍隊と戦争を論じる以上、ナショナリズムは避けられない課題だ。

国家の安全から区別される民衆の安全保障の創出にとって、そもそも国家とどのように向き合うべきなのか。軍隊は民衆を守らないとして、それでは、国家はどうなのか。国家は民衆を守るのか?国家が民主主義の統治体制をとり、まがりなりにも主権者が「国民」と呼ばれる狭い枠に限定されるとしても、「民衆」に基盤を置くことでその権力の正統性が支えられているのであれば、そうした国家に対して民衆は、軍隊は民衆を守らないが国家は守りうるものとして向き合うのか、それとも、国家もまた民衆を守らないものとして、向き合うのか。民衆の安全保障の考え方の背景には、国家もまた民衆を守らないという判断があったと思う。たとえば武藤一羊は、国連の「人間の安全保障」を批判して次のように書いている。

「私たちが人間の安全保障の最大の弱点だと感じたのは、日常生活における人々の安全が何より大事だと宣言されているのに、それを保障する基本的なパワーがどこにあるのかを語らず、国家が人間の安全を保障するのだと暗黙の内に前提にしていることだった。つまり、民衆自身が自身の安全を守るもっとも大事な行為者と考えられていないこと、「オブ・ザ・ピープル、フォー・ザ・ピープル」はあっても、「バイ・ザ・ピープル」が欠如していることだった」(注)

(注)前掲武藤論文

結局こうなると国家はテロ対策や治安維持から災害、感染症などに至る生活総体を国家国家安全保障に従属させその補完物にしてしまうことになる。この問題は単なる法や行政の制度の問題ではなく、民衆自身が国家をどのようなものと理解し、国家に対してどのように自らがアイデンティティを構築するのか、という国家との向き合い方が問われることになる。国家に依存しない「バイ・ザ・ピープル」を日常生活のなかから実践することは、同時に、民衆自身がネーションを相対化するような生活様式を獲得するということと同義だといってもいい。

この問題はナショナリズムと深く関わる。とりわけ敵対する国家間の摩擦のなかで、民衆が国境を越えて信頼関係を相互に構築するときに、このナショナリズムやネーションの枠組による自他の区別意識は障害になる。この障害をそれぞれの国家はそのイデオロギー装置によって構築しようとするから、こうした意味での国家に「主権者」として巻き込まれている私たちの国家との向き合い方は狭義のいみでの国家安全保障だけでなく、総体としてのこの国が統治する社会のありかた全体に関わる。宣言が「民衆の安全保障を、軍事、外交、政治などの領域ばかりでなく、家族関係、ジェンダー関係、社会運動、文化など日常生活の領域でも追求し、創造するため行動しなければなりません」と指摘していることの意義は、国家が仕切る日常生活領域を、軍事費を削って福祉に回せといった国家に私たちの日常生活領域を従属させかねない要求でいいのかどうか、という問いでもある。戦争する国家はケインズ主義のような国家による福祉と統制を一体化させた統治を展開する。そのなかで民衆の意識は国家による軍事的な庇護だけでなく日常生活上の庇護をも自らの権利だと勘違いしてしまう。実際には国家なしには日常生活すら営めない従属をもたらし、それが戦争への動員の構図をつくることになる。

2. 戦時に戦争を放棄する

1. 暴力と正義

戦争の問題は、必ず正義をめぐる問題を内包することになる。戦争とは国家あるいは集団による暴力だから、暴力と正義の問題と言い換えてもいい。戦争に限らず国家が行使する暴力が関与する場合に、正義は、暴力を正当化するために必ず持ち出される。ところが、国際関係のなかでは、この正当性の根拠としての正義はひとつではなく、国家の数だけ存在する。正義はこの意味において相対的な概念でしかない。にもかかわらず、国家の数だけある様々な正義は、お互い、みずからの正義のみを唯一絶対の不変的正義とし、それ以外を不正義あるいは偽物の正義としかみなさない。結局のところ、正義を主張する複数の主体相互の間に譲れない対立が生じたとき、暴力による解決という事態をまねくことになる。こうして暴力の強い側が、正義を主張する権利を獲得することを暗黙のルールとして戦争が遂行される。国際関係において、正義それ自体が構成される文脈のなかに、暴力を引き寄せ、暴力によってのみその正当性を証明するというルールがあらかじめ組み込まれている。現実には正義は暴力の従属変数でしかない。この現実に比べて、正義という言葉に込められた否定しがたい高邁さが、現実の正義が暴力に加担する悲劇を巧妙に隠蔽してしまう。この意味でいうと、正義とは実は不正義の別名だといってもいいくらいだ。

国家間の暴力と正義の関係をこのようにみてみると、暴力の強さが正義の強さと比例するという単純な構図によって暴力に固有の役割が与えられることになる。こうして軍事力の拡大は正義を主張しうる権利を獲得するための不可欠な前提をなす、ということになる。近代国家は、どこの国であれ、この暴力と正義をめぐる不条理を担うのだが、私たちはこのことに気づきにくい。

2. 日常の暴力と国家の暴力

しかし日常生活のなかでは、私たちは暴力と正義の不条理と常に直面していることに気づいている。女性に対する男性の暴力、親の子どもへの暴力、性的マイノリティに対する性的マジョリティの暴力、宗教的マイノリティに対する宗教的マジョリティの暴力、こうした事態は日常茶飯事といっていい暴力の光景だ。そして、こうした暴力が不条理であることを私たちは理解しており、加害者=暴力の強い側に正義があるとは考えないし、暴力によって正義を実現することにもなっていないことを理解している。いったんこの不条理に気づくと、暴力による問題解決を容認したり正当化する社会の価値観や伝統や文化それ自体の不条理に気付くことになる。

現代の世界体制では、暴力による勝者に正義を総取りさせてきた。暴力の強い者が正義であるということはいかなる学問においても証明されたことがない、奇妙な方程式だ。もっと奇妙なのは、誰にでも日常的な経験からは理解できる力を正義とみなす傲慢な振舞いが、なぜいつまでも国家や集団に対しては容認されたり肯定されるような発想ががどこから生まれ、どうしたらこの不条理をなくすことができるのか、という問題が正面から論じられることはあまりにも多くないことだ。少なくとも、日本の国会で防衛や警察の問題を議論するときに、暴力と正義の関係が議論になったことがどれほどあるだろうか。

近代国民国家は常備軍という暴力装置を持ち、国内的には警察と刑務所を持つことに疑いが持たれることはほとんどない。そしてまた、家庭内暴力、ジェンダー、エスニシティ、宗教をめぐる暴力と正義の構図は、ほとんどの国、地域を越えてグローバルに共通しているようにみえる。この意味で、私たちの日常生活意識のなかの暴力と正義をめぐる構造は、国や文化などの特異性を越えて、より一般的に見出せる構造的な要因に由来すると仮定してみる必要がある。これは、人類の超歴史的な生物学的とか本能的とかと言いあらわせそうな種の特性と結びつけられがちかもしれないが、そうではないだろう。家族やジェンダーといった暴力と正義を生成する関係は特殊歴史的な要因に強く規定されている。現在の状況でいえば、家父長制に基づく資本主義という近代社会がグローバルに普及させてきた国民国家の枠組を越えてグローバルに浸透している共通の構造が暴力と正義の方程式を規定している。日本における暴力の配置をみたとき、日常のなかにある暴力と(欺瞞としての)正義との相関関係に何か特に9条に象徴されるような特別な平和主義的な特徴がみいだせるわけではないことに9条の脆弱さがある。

国家の暴力という問題は、国家がその領域内にある人口に対して、暴力において絶対的に優位にあるか暴力を独占しているという事態そのものが、国家が正義を表象するイデオロギーを支えることになっている。人々の身体的な自由や思想信条の自由を制約したり、もっぱら警察官や自衛官だけが武器を携行でき、裁判によって人の自由や生命まで奪う権利を行使できるのは、国家が正義の体現者だと(建前でしかない場合も含めて)見なされている場合に限って、人々に受け入れられる。暴力の強さは正義を象徴すると単刀直入に言われることはあまりない。しかし国家が暴力を行使する背景には「正義」による暴力の妥当性をめぐる制度的な手続があることを言い訳にして、国家の暴力は正当化される。私生活における親の暴力や夫の暴力の正当化、コミュニティにおけるマイノリティへの暴力も人々の暴力と正義との相関心理という点でいえば、同じものだ。

私たちは、日常生活のなかの暴力の不条理にかなりのところまで気づき、正義の実現の手段として暴力を行使することには合理的な根拠がないことも理解してきた。今、私たちが直面しているのは、この正義と暴力の間の不条理な繋りを国家の暴力に関する限り断ち切ることができていない、という問題だ。人類が有する最も大きな暴力は、現代では国家による暴力である。暴力が正義とは何の関係もないことが明らかであるとすれば、正義の実現の手段として暴力を行使することは、全く見当外れのやりかただ。にもかかわらず、国家に関する限り、この暴力と正義の関係の結びつきは極めて強固だ。

この強固さは、まず、国家が国内統治において行使する暴力に体現されている。暴力を通じた正義の実現の典型は、法を犯した者に対して刑罰を科すという司法制度にある。死刑制度は、正義の名のもとに命を奪うことを国家の特権として認める。同じことは、軍隊による戦争行為にもいえることになる。正義の実現にとって障害となる対象を物理的に除去するわけだが、前述したように、そもそも前提に置かれている「正義」の普遍妥当性を証明することはできない。

3. 9条が絵に描いた餅である理由

暴力と正義をめぐる国家の存在、とりわけ、統治機構としての国家権力が暴力一般をどのように正義と関わらせているのか、という問題の軍事的な側面として憲法9条を理解することが必要だ。憲法9条の戦争放棄は、国家が暴力を放棄することを前提としては構築されていない。国家間の紛争を武力行使によって解決しないというに過ぎない。だから、多くの日本の有権者たちは、他国の軍事行動を羨望の眼差しでみながら、武力行使すべき事態に対して武力行使を禁じられていることに不満をもつ。こうした見方に陥ると、問題解決を武力を含む暴力によって解決するという手段と目的の間にある不条理それ自体を排除する方向で国家権力を再構築することができなくなる。戦後日本の「平和」の限界がここにある。このことが9条を孤立させ絵に描いた餅にしてしまったのだ。

もしそうだとすると、日常の暴力が正義を装うことの欺瞞に気づきながら、なぜ国家の暴力には寛容なのだろうか?国家が正義を体現しうる統治機構であるための様々な「装置」を近代国民国家は考案してきた。なかでも権力による意思決定における民主主義と人間の存在を平等と自由に基礎を置くべきものとする価値観は、権力に正義の装いを纏わせることになったが、だからといって、正義に暴力を委ねることが正当であるということにはならない。正義が暴力を振うことはどこまでいっても、論理的な道筋を与えることはできないのである。とすれば、それでもなお、国家が正義の名のもとに暴力を行使しようとする正当性はどのように人々の意識のなかで妥当なこととして理解されることになるのだろうか。

正義と暴力を繋ぐ理論的な回路がありえないとすれば、残るは、イデオロギー的な正当化しか道は残されていない。他方で、国家を政治的権力の装置とする観点からみたとき、権力は権力としての自己増殖をその本性とするから、国家権力の正義とは、自らの権力の正統性の支えそのものを意味する権力言説ということになる。権力にとって、自らを世界の中心に据えて構築される自己中心的な世界観は、権力の正統性をイデオロギー的に支える重要な柱になる。この柱は、合理的であるだけでは不十分であり、美的であるとともに、普遍性の証とみなしうるだけの歴史的な連続性に根拠をもつことが要求される。合理的であることは哲学に委ねられ、美的であることは文化に、そして歴史的根拠は神話に、それぞれその役割を振り分けつつ、イデオロギーが構成される。こうしたイデオロギーの構成をそのままにして、人々の意識や価値観から正義と暴力を繋ぐ擬制的な回路を断てないまま武力行使だけを放棄する憲法の戦争放棄条項は、逆に人々の意識に、暴力による裏付けのない正義は正義としては実現しえないものでしかない、という諦めの感情と強い暴力への羨望を醸成することになる。

戦争放棄を国家が実現できるかどうかは、近代国家それ自体の本質にかかわる問題なので、むしろ近代国家という統治の枠組そのものの根本的な組み換えなしには、実現できないだろうと思うが、しかし、同時に、国家における正義と暴力の不条理な「繋り」を断つ努力は重要な意味をもつ。警察が拳銃を持ち、裁判所が刑罰や死刑という暴力行使によって正義を体現するという制度そのものに内在する不条理を理解するとすれば、司法警察制度そのものの暴力を最小化することを通じて正義を最大化する、これまでにはない統治機構のありかたの模索には重要な意味があるだろう。権力の暴力の最小化こそが正義の最大化であるという回路が新しい統治の関係を想像しうるという予感は、DVを正当化しない家族関係が確実に家父長制それ自体の基盤をなしてきた男性性そのものに内在する「力」の存在を弱体化させ、家父長制それ自体を解体することはできないまでも相対化させうる契機をもたらす。この日常生活の経験を国家の権力装置に迫ることを通じて、国家という統治機構それ自体の歴史的な使命に終止符を打たせるきっかけを掴むことくらいはできるはずだ。

憲法9条を世界に誇れるものだとみなすためには、日本の国家が有している暴力と正義の関係構造そのものを断ち切ることだ。世界の人権水準にまで至っていない司法警察制度における暴力、たとえば、代用監獄、長期にわたる拘留(人質司法)、死刑制度、個人通報制度の不在などを少なくとも国際法の水準にまで引き上げることができなければ、9条は最悪の戦争正当化の条文に転用されることになるに違いない。たぶん、日本は、みずからのいかなる武力攻撃も、それは武力行使とは認めないだろう。それは「自衛力」の行使にすぎない、ということで正当化されるだろう。プーチンが侵略を「特殊軍事作戦」と呼んで戦争ではないと主張したり、NATOが空爆しても「人道的介入」と呼んで無差別殺戮とは認めないのと同じレトリックを日本は9条という格好のネタを使って実現できる。暴力と正義の欺瞞を見抜くことがなければ9条の戦争放棄条項は意味をなさない。

4. 戦争=暴力を越える拡がり

暴力を行使しないことが戦争に加担しないことを意味しないことは、容易に理解できるだろう。戦争の意思決定をする権力の中枢を握る支配者たちは、まず自らの手を汚すことはない。しかし、彼らは、戦場の兵士以上に戦争の加害者であり暴力の主体でもある。

軍隊を背後で支える兵站の担い手たち、武器を製造する軍事産業もまた、戦争の加担者だろう。更に、兵士たちを精神的に支え、士気を鼓舞するメディアや大衆の戦争賛美の声援もまた戦争への加担行為とみなければならない。自分では人を殺さないが「殺せ!」という掛け声がどのような結果をもたらすのかは、想像に難くない。

戦争を取り巻く環境は、戦場を中心にある種の同心円を描くようにして、戦争を支える構造を描くことができる。勝敗が決せられる戦場の周囲に兵站や補給が位置し、その外に兵員や装備などの供給を担う産業や動員の仕組みがあり、これら全体を経済システムが支えるとともに、法制度が戦争や緊急事態における権力行使を正当化する枠組を提供する。これらの全体がナショナリズムに収斂する感情の共同性に支えられる。権力は、この戦争をめぐる同心円のどこかに局在する実体なのではなく、この構造全体が生み出す「観念」だといった方がいいだろう。戦争への加担とは、突き詰めれば、この社会全体を覆う構造を通じる以上、私たち一人一人が、この加担への責任から逃れることはできない。

5. ロシアの反戦運動とウクライナの反戦運動それぞれにみられる固有の困難とは

ロシアはプーチン政権による強権的な反政府言論の弾圧によって、反戦運動の抑え込みが行なわれてきた。自国の「特別軍事作戦」が実際には侵略戦争であることを見抜いた人々は政治的マイノリティとして、その言論それじたいの犯罪化によって、弾圧・排除されている。言論の自由をめぐる古典的なアプローチが適用できるケースでもある。

ウクライナでも戦争反対は、プーチンの侵略戦争に反対することそれ自体は多数の共通した主張として受容されている。しかし、ゼレンスキー政権の自衛のための戦争に反対する声は少なくとも、ロシア語系住民が多く居住するドンバスを除くと聞こえてこない。侵略者を目の前にし、その暴力に晒されながら、それでもなお「自衛のための武力行使」を選択すべきではない、という主張はほとんど聞かれない。

私たちは、多くの非戦闘員が殺される状況のなかでも自衛のための武力行使は選択すべきではない、ということをどのように説得力をもって主張できるか。たぶん、この問いへの答えを私たちが持てるかどうかが今一番問われている。

この場合、ゼレンスキー政権やウクライナ軍に対して信頼に足る存在なのかどうかが評価基準の重要な要素となるだろう。この点に関しては、少なくとも2.24「開戦」以前、ゼレンスキー政権の成立以後のこの政権の政治と対露、対欧米との関係、そしてドンバス地域の「内戦」状態への関与などを通じて、その評価を出すとすれば、その信頼度は、現在のゼレンスキーへの諸手を挙げての賞賛には遠く及ばない評価にしかならないだろう。特に、ドンバス内戦の収束に深く関わるミンスク2合意へのゼレンスキーの態度や2021年の「内戦」への対応をみると、ドンバスのロシア語系住民への弾圧は人権侵害の疑いが濃厚であり、ゼレンスキーがそもそも戦争を本気で回避しようと考えていたのかどうかは、慎重に判断する必要がある。この問題は、NATOやCIA、そしてまた軍内部と周辺のいわゆるネオナチの勢力の影響力をどのように判断するのかにも関係する。しかしだからといってロシアの侵略は正当化することはできない。軍事侵略という選択肢しか残されていなかったとはとうていいえないからだ。

他方で、もし、ゼレンスキー政権が私たちからみて評価するに足りないという場合、このことを理由にゼレンスキー政権によるロシアの侵略に対する防衛戦争行為を否定できるだろうか。否定すればロシアの侵略行為を肯定しないまでも事実上容認することになりはしないか。

ウクライナの戦争を見るときに、私たちが忘れてならないのは下記の条件だ。

  • 人々の大半は、ロシアの侵略を否定し容認しない立場をとっているとしても、だからといって武器をとって抵抗するという道は選択していない。むしろ多くの人々は、戦場から避難することを選択している。難民となり過酷な将来が運命づけられるとしても戦争に命をかけるという選択をしていない。ウクライナ政府は、成人男性の出国を認めていないために、止むを得ず国内に留まり、直接間接に自衛のための戦争に関与することを余儀なくされている多くの人々がいる。もし、出国停止措置がとられていなければ、もっと多くの男性たちもまた国外に避難することを選択したに違いない。私は戦争に背を向ける彼らの行動にポジティブな意味を見出すことが必要だと考えている。戦争放棄の具体的な行動の核心にあるのは、この戦場からの逃避行動だからだ。戦争放棄とは戦争から逃げることに積極的な意味を与えることにある。
  • この戦争に対して、明らかに、国家や国家に準ずる武装勢力の組織的な暴力の前に、圧倒的に多くの人々は、物理的な力に関しては無力である。こうした暴力に関していえば無力な存在に、より肯定的な価値を見出すものとして、戦争放棄の思想を構築すべきだ。戦争放棄は国家の思想でもなければ国家の規範でもない。これは無力な一人ひとりの人間が暴力から逃れることを正当化するための規範なのだ。物理的な力における無力さは、思想的な無価値を意味しないし行動の無意味をも意味しない。社会が直面している問題の解決を暴力に委ねないということは、自らが暴力の主体にならないということなくしてはありえないだけでなく、自らに代って暴力を代行するようなこともあってはならないということが含まれていなければならない。日本が憲法9条の制約によって武力行使の制約があることから、この制約を解除するために、米軍に代行してもらうことによって、結果として暴力に加担するという戦後日本の欺瞞の平和主義の道を封じる立場を意識的に創り出すことが必要だ。

もし、ゼテンスキーが正真正銘の正義の政権であるとした場合はどうか。こうした間違った仮定を置いて議論することに意味がないように思われるかもしれないが、むしろ、今必要なのは、大半の西側の人々が政府やメディアによって、この間違った仮定を真実だと誤解していることを考えれば、この仮定についても考えておくことには意味がある。

悪の外来勢力が暴力的に正義の政権を制圧しようとしている場合、私たちは、それでも正義を防衛する暴力を否定すべきなのか。この問いへの答えは「暴力を否定すべきだ」である。悪によって正義が倒されることをよしとするということか。正義の政権を支えてきた正義を体現している人々が、この悪によって残虐に扱われ殺されることを私は許容しない。必要な選択肢は、この正義の人々が暴力を回避して生き延びることである。そのために、人々が暴力を駆使することには意味がない。むしろやはり、ここでも一人でも多くの人々が、この暴力の空間から避難することだ。暴力を行使する悪と闘うということは、暴力において圧倒的な劣位にある人々にとって、この悪の影響圏から逃れることそのものえある。避難することは闘わないことではなく、闘争の次元を転換することを意味している。人々が避難することによって、権力の空間構造が国境を越えて再編成される。理想的なことを言えば、悪の支配者たちが支配しようとする瞬間に、支配の対象となるべき人々がその手から逃がれて悪の支配空間には誰ひとりとしていなくなる、ということだ。悪の支配者は、当初の目論見である「支配」を実現することはできず、空間を囲い込んだとしても、そこは政治的にみて無意味で空虚な空間しか存在しないということになる。

空間が権力と政治を内包するためには、人口の条件が必要だが、この条件を可能な限りゼロにすることこそが、暴力に対抗する唯一の道だ。この空虚な場所で、八つ当たりの暴力を思う存分振うがいい。私たちは、彼らの力の及ばない「外野」から見物しようではないか。

6. 権力は敵前逃亡を許さない

実際の戦争状態にあるとき、上述したような展開は、空疎な絵空事でしかない。しかし、戦争によって人々が犬死にを選択しないためには、この絵空事を現実のものにしなければならない。どうすれば現実のものにすることができるかを考えるためには、なにがこの戦争放棄の実践を妨げる要因になっているのかを考えることでもある。

戦争を選択する人々がいるのはなぜなのか。権力者が戦争を選択するということと、一般の市民が自発的に戦争を選択することとは同じではない。市民があえて自らの命を捨てる覚悟をするのはなぜなのか、このことが説明できなければ、放棄を思想的な課題として捉えることもできない。この問題は、近代の戦争の典型でいえば、ナショナリズムや愛国心の問題として捉えられてきたが、ポスト冷戦の時代には、これに加えて、宗教的な信条をも念頭に置くことが必要だろう。他方で、権力者にとってナショナリズムは、権力の再生産に必要なイデオロギー的な要素であって、これは自らの内面に醸成すべきことではなく、社会を構成する人口が内面化できるようにイデオロギー装置を構築するという問題になる。権力者が戦争を選択するのはナショナリズムではなく権力それ自身の自己増殖作用による。

ナショナリズムの信条が集団心理として構築され、これがイデオロギー的な世界観によって正当化されるようなパラダイムのなかで社会の集団的な紐帯が構築されるとき、こうした集団は「国民ネーション」を構成することになる。この「国民」という枠組をまず解除することなしには、戦争放棄を具体的な実践的な構築物として具体化することは難しい。少なくとも「国民意識」を相対化すること、つまり、私の「国民」としてのアイデンティティは、普遍的なものでもなければ宿命でもなく、私の意思によっていつでも「捨てる」ことができるようなアイデンティティに過ぎないとみなすか、「国民」というアイデンティティは虚偽意識以外の何者でもないということを明確に理解して、情動の動員作用を忌避できるような意識をもつことが条件になる。

(マルレーヌ・ラリュエル)プーチン侵略の知的原点:現代ロシアの宮廷にラスプーチンはいない


(訳者前書き)先にヴァロファキスのインタビューを紹介したが、そこでは、もっぱら軍事的な力学の政治に焦点を宛てて戦争の去就を判断するというクールな現実主義に基づく判断があった。ここでは、戦争へと至る経緯の背景にあるもっと厄介な世界観やイデオロギーの観点から、この戦争をみるための参考としてマレーネ・ラルエルのエッセイを紹介する。イデオロギーが残虐で非人道的な暴力を崇高な美学の装いをもって人々を陶酔の罠へと陥れることは、日本の歴史を回顧すればすぐに見出せる。いわゆる皇国史観と呼ばれ日本の侵略戦争を肯定する世界観や天皇制イデオロギーは、これまでもっぱら日本に固有のイデオロギーとして、その固有性に着目した批判が主流だったが、今世紀に入って極右の欧米での台頭のなかで論じられる価値観の構造に着目すると、そのほとんどが、日本がかつて公然と主張し、現在は地下水脈としてナショナリズムの意識を支えてきた世界観との共通性に気づく。ロシアにとっての主要なイデオロギー的な課題は「近代の超克」であり、それは西欧でもなければコミュニズムでもない、第三の道をある種の宗教的な信条と「伝統」として再定義された歴史や民族を基盤に構築しようとしているようにみえる。もしそうだとすると、ヴァロファキスの合理的な戦争終結への見通しはここでは通用しない。もっと長期化するのではないか、という最悪の状況が目に浮ぶ。

ラルエルが紹介しているように、ロシア正教は「あなたの任務は、ウクライナ民族を地球上から一掃することである」という民族浄化に免罪符を与えるものだと報じられている。ロシアだけでなく正教会内部にも大きな波紋を呼んでいるとも報じられているが、宗教的な信条が関わるようなばあい、人口の世俗化の程度にもよるし宗教的ナショナリズムが権力の弾圧の枠組としてどの程度まで有効性をもつのかにもよるとしても、問題は合理的な近代の政治力学の範疇には収まらないかもしれない。この問題は、日本にいる私たちにとっては、日本のナショナリズムが戦争と関わるときにもたらされる果てしない侵略の加害を美化するイデオロギーの問題として、捉えておく必要があると思う。(小倉利丸)


Marlène Laruelle ジョージ・ワシントン大学欧州・ロシア・ユーラシア研究所の所長。

2022年3月16日

西側諸国はこの3週間、プーチンのウクライナ侵攻の動機を理解するのに苦労している。合理的な行動だったのか、それとも狂人の反応だったのか。プーチンは、ある種のエミネンス・グライズ(ラスプーチンのような人物)に触発されたと主張する者もいる。しかし、そう単純な話ではない。

「教祖」は一人もいない。現実はもっと複雑で、悲惨な侵攻を引き起こすために融合した複数のイデオロギー的源があり、そのすべてが彼が信頼する人々や軍事顧問のグループの「法廷」を通じて媒介され、その多くが、力によってロシアの軌道に戻す必要のある国としてのウクライナというビジョンで一致しているのである。

2021年9月に行われたヴァルダイ・クラブValdai Club(ロシアのエリート会議場、ダボス会議に相当)の講演で、プーチンは3人の影響力のある著者に言及した。ロシアから出国した[ロシア革命後フランスに移住:訳注]宗教哲学者のニコライ・ベルジャエフNikolay Berdyaev、ソ連の民族学者レフ・グミレフLev Gumilev、白人移民社会の反動思想家イヴァン・イリインIvan Ilyinである。プーチンはベルジャエフの本を読んでいることはあまり明かさなかったが、他の2人についてはより明確に述べている。

第一に、ユーラシア民族の歴史的運命の共通性と、ロシア民族ナショナリズムとは対照的なロシアの真の多民族性、第二に、「情念性」―生物宇宙エネルギーと内なる力からなる各民族固有の生きた力―の考えである。2021年2月にプーチンが述べたように、「私は情念主義、情念主義の理論を信じている・・・ロシアはそのピークに到達していない。我々は発展の道を歩んでいる…我々は無限の遺伝暗号を持っている。それは、血の混ざり合いに基づいている。”

グミレフがポストソビエトの文化の中でよく知られる存在であるのに対し、イワン・イリインはずっと周縁的な存在であり続けている。イワン・イリインは、ロシアの歴史を脱共産主義化させようとする反動的な思想家や政治家たちによって、最近になって復活を遂げた

プーチンは何度か、ロシア独自の運命とロシア史における国家権力の中心性についてのイリインの見解に言及したことがある。そして、イリインのウクライナに対する激しい憎悪にも気づいているのは確かである。イリインにとって、ロシアの敵は、偽善的な民主主義的価値の宣伝によってウクライナをロシアの軌道から引き離し、ロシアを戦略的敵対者として消滅させることを目的としている。イリインは「ウクライナはロシアの中で最も分裂と征服の危機に瀕している地域である。ウクライナの分離主義は人為的なもので、真の基盤がない。それは指導者の野心と国際的な軍事的陰謀から生まれたものだ」と述べている

しかし、プーチンのウクライナに関するビジョンをイリインだけに求めるのは誤りである。なぜなら、ロシアの思想家にとって、ウクライナはロシアの不可分の一部であり、西欧との対立におけるアキレス腱の一つであると言うのは当たり前のことだからである。ピョートル・トルベツコイはウクライナの文化を「文化ではなく戯画」と非難し、ゲオルギー・ヴェルナスキーGeorgy Vernasky は「(ウクライナ人とベラルーシ人の)文化的分裂は政治的フィクションに過ぎない。歴史的に見れば、ウクライナ人もベラルーシ人も、一人のロシア人の支流であることは明らかだ」と説明した。これは兄弟間の敵意であり、そこには多くの源泉がある。

現代の思想家では、アレクサンドル・ドゥーギンAlexander Duginもプーチンに強い影響を与えたとして、西側の観察者たちは盛んに引用している。そして、ドゥーギンは常にウクライナの独立を激しく非難してきた(「国家としてのウクライナは地政学的に意味を持たない」と彼は『地政学の基礎Foundations of Geopolitics』の中で書いている)。彼は、ウクライナをほぼ完全にロシアに吸収させ、ウクライナの最西部だけをロシアの管轄外におくことを要求した。

しかし、ドゥーギンはクレムリンの理解を得られない。彼はその定式化があまりに過激で、あまりに不明瞭で難解で、ヨーロッパの極右の古典に言及する「高尚な」知的水準の持ち主であり、プーチン政権のニーズには応えられないのである。彼は90年代にユーラシアとロシアを独特の文明とする地政学的概念を最初に提唱した一人だが、その後の数十年間、これらのテーマはドゥーギンの用法とは別に、あるいはそれに反して主流となった。彼は、軍産や安全保障関連機関にパトロンを持つことができたとしても、体制内の多くの市民社会組織のいかなるメンバーになることもなかった。

ロシアの帝国的使命を主張する思想家の中には、ドゥーギンのパトロンである2人の人物がいる。正教会の君主制実業家で、インターネットチャンネル「ツァルグラード」や討論グループ「カテホン」を主宰するコンスタンティン・マロフェエフ Konstantin Malofeevと、ロシア正教会の有力者でプーチンの聴罪司祭の1人と噂されているティホン司教Bishop Tikhonである。

二人とも、「伝統的価値観」の観点から反動的なアジェンダ(中絶反対、先天性主義、軍国主義、ロシアの歴史的役割モデルとしてのビザンチウムの崇拝、若い世代への激しい思想的教化)を推進し、クレムリンに話を聞いてもらおうとしてきた。マロフェエフはロシアの欧州極右や 財界貴族への働きかけの中心人物となり、ティホンは教会とクレムリンの橋渡しをし、その思想的融合を図ることに重点を置いている。

ここで、ロシア正教会の機関であるモスクワ大主教座the Moscow Patriarchateを話題にする必要があるのだが、同教会はウクライナに対して常に曖昧な態度をとり続けている。一方では、教会は教会法上の領土canonical territoryという概念を提唱する。つまり、教会の精神的領土はロシア連邦の国境よりも広く、ベラルーシ、ウクライナの一部、カザフスタンを含むという考え方である。教会の世界観では、東スラブ諸国はすべて、キエフを精神的発祥地とする一つの歴史的国家を形成している。プーチンが2021年の論文で宣言したように、ロシアとウクライナの統一という考えを教会が長い間先行して受け入れてきたのである。しかし大主教座はウクライナに多くの教区を持っていたため、ウクライナの国家としての主権も認めなければならず、ウクライナ正教会の教会としての独立を回避しようとしたが、これは結局2018年にコンスタンティノープル総主教座に認められるに至った。プーチンの宗教心がどこまで本物かはわからないが、ロシア自身の文明が文化の中心的な核である正教に依存していると考えていることは確かだろう。

これには、教会が鮮明に推し進めている「ロシア世界」という概念が加わっているはずだ。もともとは、領土を超えたロシアを意味する言葉だったが、次第にウクライナを含む「ロシアの領土」の再統一というロシアの使命を表す言葉に変化していった。

プーチンの親友であるユーリ・コヴァルチュクYuri Kovalchukは、ロシアの偉大さについて保守的かつ宗教的な見解を持っていることで知られている。コバルチュクはプーチンの側近の中でも最も秘密めいた人物で、国家機関では何の地位もない。ロシアの主要銀行ロシヤRossiyaの筆頭株主であり、複数の主要メディアチャンネルや新聞を支配し、プーチン個人の銀行家とも言われ、大統領の主要な邸宅を建設してきた人物である。プーチンはコバルチュックとコロナウイルス感染症の封鎖期間の大部分を過ごした。コバルチュックは、現在よりも歴史が重要であり、プーチンはロシアの長い歴史の中で自分自身のレガシーを考える必要があるという考えを彼に植え付けたようだ。

しかし、プーチンに思想的な影響を与えた人物を特定できたとしても、プーチンを行動に駆り立てるものは捕らえられない。

ソ連文化全体が数十年にわたって、ウクライナには明確な地政学的アイデンティティがないとされ、この地域(国ですらない:ロシア語でウクライナは「周辺」の意)が数世紀にわたって競合する庇護者の間で延々と揺れ動いたとする軽蔑的な物語を生み出してきた。また、第二次世界大戦中の反ユダヤ主義的な協調主義の汚点を決して「浄化」することができず、深く根付いたウクライナのナショナリズムというビジョンを培ってきた。これらの表現は、ソビエト政権の政治的道具立ての一部であり、多くのウクライナ人を「(ブルジョワ)ナショナリズム」の名の下に弾圧した。また、より非政治的なレベルでは、ウクライナ人を「バンデロヴィッツBanderovites」(ステパン・バンデラ、戦時中のウクライナ民族主義・協力主義の中心人物)と呼ぶジョークを通じて共有されていた。

これらは、一方のロシアと他方のポーランド、バルト諸国、ウクライナとを戦わせる現在の記憶戦争刷新され、再び利用されているのである。2012年以降、歴史の安全保障化がすすみ、ロシアを1945年の勝利の主役とする歴史的真実を確立しようとする法律が数多く制定され、1939年から1941年の独ソ条約と、ポーランド、フィンランド、ルーマニアの一部とともにバルト諸国への侵攻が軽視されるようになった。また、第二次世界大戦に関する別の記憶や、ソ連の指導者の意思決定の正当性を問うようなことは一切処罰された。

このような安全保障化は、憲法に刻まれることで最高レベルに達し、2020年の新改正では、国家が「歴史の真実」を保護する、と宣言している。軍事歴史学会のような多くの国家機関は、記憶戦争を激化させ、したがって、ウクライナのナチス化に関する物語をウラジーミル・プーチンに与える上で中心的な役割を担ってきた。

また、大統領は、たとえ権威主義的、独裁的な大統領であっても、自らの社会の文化的枠組みの外で生きているわけではないことを忘れてはならない。プーチンは定期的に自分の好きな音楽や映画──ソ連のスパイものの古典や愛国的な色彩の強い現代のバンド──を披露しており、彼がテレビを見ていることは推して知るべしである。

多くの国民がそうであるように、彼もまた、反ウクライナ感情を煽る政治トーク番組や、ロシア帝国の偉大さと領土征服を称える愛国映画に酔いしれているのであろう。ロシア帝国とその中でのウクライナ人の従属的役割の記憶は、ロシアの文化生活の多くの構成要素に浸透しているので、彼を鼓舞する教義的テキストを探す必要はないかもしれない。

プーチンの世界観は長年にわたって構築されたものであり、イデオロギーの影響というよりも、西側に対する個人的な憤りによって形成されたものである。ロシア哲学の古典を読むと、ロシアと西欧の歴史的な闘争が強調され、両者の文明的な境界線としてのウクライナの役割が強調されているが、これが彼自身の生活体験の裏付けに確証を与えている。

このように、ロシアがウクライナへの侵攻を決めたのは、間違いなくきわめてイデオロギー的な要素が強い。しかし、この戦争の背景には、ウクライナに関する低レベルの情報収集という別の側面もある。軍事顧問も安全保障局も、この戦争は簡単に勝てると思っているようだ。そして、ここで大統領の仮面が剥がれ落ちる。プーチンは高齢で孤立した権威主義的指導者であり、彼に勝利の可能性に関する現実的な評価をもたらすことを恐れる顧問に囲まれていることが明らかになる。その結果、ロシアは主権を持つウクライナを他のヨーロッパ諸国とともに第二次世界大戦以来最悪の破局に向かって引きずり込むことを加速させているのである。

出典:https://unherd.com/2022/03/the-brains-behind-the-russian-invasion/

付記:下訳にDeepLを用いました。

(ヤニス・バロファキス)ウクライナはこの戦争に勝てない―私たちは、プーチンに出口を与える道徳的な義務がある


(訳者前書き)以下は、ヤニス・バロファキスへのインタビューの翻訳。ウクライナはこの戦争に勝てない、というタイトルは、このインタビューの冒頭でヴァロファキスが断言しているものだ。ヴァロファキスは、この観点をウクライナ支持者たちが忘れがちだと警告している。この指摘は、とても重要な観点だ。ロシアのウクライナへの侵略戦争に対して、徹底して抵抗して戦うことを物心両面で支援しようとすることが反戦平和運動の主流になっているように感じるが、私は、正義を実現するまで戦い続けることは正しい「答え」だとは思っていない。ではどのように考えるべきなのかについては別途私の考えを述べる機会をつくりたいが、ヴァロファキスへのインタビューでは、私の答えとは違うのだが、しかし示唆に富むひとつのありうべき答えが示されている。彼は、政治家としての実務を担ってきた経験を踏まえて、一刻も早く人命の犠牲を増やさないための選択肢をどうつくるかについて、ゼレンスキーを「批判的に支持する」という何とも中途半端なスタンスをとるのだが、逆に、そうだからこそ、ある種の現実主義的な答えを提起できているともいえる。バロファキスは理想主義者ではなく、理念に過剰な価値も置かないことで、命を賭けるだけの価値のあることとはいいがたい妥協や譲歩がいくらでも可能なレベルの政治的な課題に、ウクライナの問題を引き下げよることができている。これは感情的に熱くなり善悪二元論に陥りがちな戦争の議論では重要なスタンスだ。インタビューの最後の方で、そもそもヴァロファキスの出身国であるギリシアもスマントルコとヨーロッパ列強の政治的な打算や妥協のなかで独立を獲得したというその国家の成り立ちを指摘しているところは、興味深い。バロファキスは、プーチンのこの戦争がウクライナのNATO加盟を阻止したという大義名分を与えられることで収束への可能性が見出せるとしているが、本当にそういえるかどうかについては、私はやや疑問もある。また、ウクライナにおけるネオナチ問題についてのヴァロファキスの言及も私には納得できないところはあるが、戦争を止めるための問題提起としては、検討されていい内容を含んでいると思う。(小倉利丸)


ヤニス・バロウファキス

ヤニス・バルファキス 経済学者、元ギリシャ財務大臣。ベストセラーの著書があり、最近の著書では Another Now: Dispatches from an Alternative Present がある。
2022年4月6日

ウクライナで戦争が起きて以来、ギリシャの政治家・経済学者のヤニス・バルファキスは、プーチン擁護派、「ウェストスプレナー」、陰謀論者であると非難されている。しかし、彼はこの紛争について本当はどう考えているのだろうか?フレディ・セイヤーズは、リベラルな温情主義、戦争で利益を得ているのは誰か、ウクライナ人の命を第一に考える西側諸国の道徳的義務について、彼に話を聞いた。


欧米の対露措置に不安を表明したことで、プーチン派とされた経験がありますね?

大いにあります。しかし、はっきり言って、私の痛みは、残虐行為や殺人、プーチンの軍隊によって国全体が荒廃しているときには、私がSNSでどう扱われようと、どうでもいいでしょう。

2001年、私はチェチェンのグロズヌイで25万人が殺害されたことから、ウラジーミル・プーチンに戦争犯罪者のレッテルを貼りました。それは、ロシアの大統領になったばかりのプーチンに名誉博士号を授与する動議を議論していたアテネ大学の評議会の席上でのことでした。そして、私は少数派の一人として反対していたのです。だから、かつて思い切ってプーチンを非難したことがあったので、今回何人かのコメンテーターから “プーチンの便利屋 “となじられたのは、ちょっと意外でしたね。

今回の危機をNATOの拡大だと非難したことが、あなたに対する非難だったのでしょうか。

私が受けた最も的確な批判は、私が「ウェストスプレイン」(これは一種の「マンスプレイン[男性が女性に上から目線であれこれ説明したりする態度:訳注]」のバージョンです)、つまり、東欧の人々に何が彼らの利益になるかを西側目線で語るやり方は東欧を見下している、というものでした。これは大変な言いがかりです。なぜなら、マンスプレイニングは、私たち男性がよくやってしまうことですが私の批判はそういうものではないです。

私は真実を独占しているとは言いませんが、ヨーロッパ人として、世界市民として、例えば、ウラジーミル・プーチンの権威主義的権力は、西側とロシアの間の反感という岩盤の上に築かれており、プーチンはロシア人に対する屈辱を利用した、とコメントする権利があると信じています──NATOの手で、国際通貨基金の手で、です。

90年代には、ロシアのリベラル派や新自由主義者といった改革派でさえ、西側や国際通貨基金に押しつぶされ、1998年にはロシアの男性の平均寿命が75歳から58歳にまで下がるというひどいデフォルトを強いられたことを忘れてはいけません。 これは大惨事、人道的大惨事だったのです。プーチンはKGBの戦略家であり、西側に対するロシア人の鬱積した不満を利用して、恐ろしい帝国を築き上げたの です。

NATOの東欧進出がなければ、このような事態にはならなかったというのが、あなたの主張ですか?

ゴルバチョフとジョージ・ブッシュの間には、NATOが東方へ拡大しないことを条件に、ゴルバチョフが東欧を独立させるという合意があったのです。これはよく知られていることです。プーチンがロシアを再軍国主義的な姿勢に押し戻し、NATOとロシアが常に敵対関係を築くことになることを考えると、両者の間に中立地帯を設けるのは良い考えとは言えないのでしょうか。ロシアの核兵器とNATOの核兵器が隣り合わせになることを本当に望んでいるの でしょうか?私にとっては、東欧の中立は二番手ではなく、一番手になる。東欧の人々にとっても、NATOにとっても、そしてロシアにとっても、できる限り緊張を緩和することができるのです。

しかし、いずれにせよ、私が間違っていると言ってくれる東欧の進歩的な人物を受け入れることは十分に可能です。私が耐えられないと思うのは、「お前は西側諸国の人間で、東欧で起こるべきことについて意見すること自体が間違いだ」と言われるような寛容さのなさです。これでは、ヨーロッパ主義の基礎ができあがらない。

戦争が始まると、真実はあっという間に死んでしまう、と言われます。しかし、それは単なる真実ではない。私たち西洋人が持っているのは、文明的で合理的な議論をする能力なのです。

対ロシア制裁についてはどうでしょうか、支持しますか?

独裁的な政権に制裁を加えると、独裁者ではなく国民が被害を受けるのはいつものことです。特にプーチンの場合はそうです。プーチンには軍資金があり、それはかなり大きい。そして、彼はロシア国民の窮状など気にも留めない。しかし、これだけははっきりさせておきたい。私は制裁に反対しているわけではありません。ロシア軍が立ち退いた町や村、ウクライナ東部の沿岸部の惨状を目の当たりにして、「この人たちと単純に取引したくない、ヨットやお金にアクセスさせたくない」と言う人がいるのはわかりますが、私はそれでいいと考えています。

しかし、結局のところ、西ヨーロッパの貧困層は、物価、特に電気料金の上昇によって、さらに多くの苦しみを味わうことになると思います。基軸通貨であるドルは、非常に大きな圧力にさらされていると思います。ですから、アメリカの政権は、ロシア中央銀行をドル決済システムから切り離したことを後悔することになるのではないでしょうか。

しかし、今この瞬間、そんなことはどうでもいいのです。なぜなら、重要なのは戦争だからです。私が夜も眠れないのは、人々が殺されていることです。どうすれば、ロシア軍の即時停戦と撤退を実現できるのでしょうか?

ウクライナを支持すると称し、私の立場を攻撃している人々について私が呆れるのは、彼らが、ウクライナが戦争に勝ってプーチンを打倒する可能性を真剣に考えようとしているように見えるからです。これは完全に絵空事です。そんなことを信じている人は、何十万人ものウクライナ人の命を危険にさらしているのです。

せいぜい膠着状態になるのが関の山です。ウクライナの人々にとって、膠着状態は最悪です。なぜなら、プーチンが何をしようとしているか分かっているからです。彼はグロズヌイでやったことをやるつもりです。彼は放棄する必要がある地域を徹底的に破壊するつもりです。ウクライナ軍は非常に英雄的であり、私は彼らの抵抗に賞賛を送りたい。しかし、彼らは戦争に勝つことはできない。この痛々しく、殺人的な膠着状態が延々と続くことを本当に望んでいるのだろうか。米国に扇動されたロシアの政権交代に、本当に介入したいのだろうか。米国が政権交代を試みるたびに、我々は完全な破滅を経験してきた。アフガニスタン、イラク、リビアを見ればわかる。そして、この国は核保有国です。この火と、この核の火と、戯れていたいのだろうか。

直ちに停戦すべきです。ゼレンスキー大統領は、その信用に応え、私が最初の日から行ってきた提案を採用しました。ジョー・バイデンとウラジミール・プーチンの間で──もちろん、ゼレンスキーと、欧州連合も参加して──非常にシンプルな取引、合意を行うべきだという提案です。ロシアはウクライナから撤退し、その代わりに西側は制裁をやめ、ウクライナは西側の一部にはなるがNATOの一員にはならないと約束する。

EUの一員になることも含まれるのですか?

プーチンは逃げ道を求めているのです。米国とゼレンスキー、そしてEUが一緒になって、彼に出口を与えなければならないと思います。もし彼が勝利を収めたと見なすことができれば、つまり自国民に勝利として提示できるもの(「私はNATOの東方への拡張を終わらせた。私はNATOの拡張を止めるために戦争をし、成功させた」)、私たちは彼にこの出口を与える道義的な義務があると思います。今、彼がそれを受け入れるかどうかは保証できません。しかし、西側諸国は、殺戮を止めるために、彼にこの方法を提案することができます。

数週間前までは、プーチンに逃げ道を提供することは、人気を博したかもしれません。しかし、今は状況が違うように感じます。キエフ周辺からロシア軍が全面撤退し、本格的な敗北のようなものが実際に見えてくるかもしれないという確信が高まっているようです。それについてはどうお考えですか?

それは狂気の沙汰です。マリウポリやクリミア、ドンバスでウクライナ軍がロシア軍の全軍を撃破できるわけがない。それができれば万々歳だ。ゼレンスキーがそれを信じているとは思えない。誰も信じていない。そう、プーチンがキエフに堂々と乗り込まなかったのは喜ばしいことです。彼は血まみれになったが、それはとても良いことだ。今こそ平和を訴えるべき時です。

西側諸国がユーゴスラビアのひどい内戦の後にそうしたように。スレブレニツァを思い出してください。ボスニア全土で残虐行為が行われました。ボスニアだけでなく、クロアチア、ウクライナ、ユーゴスラビア内の内戦で荒廃したさまざまな地域で。しかし、アメリカ大統領の支援のもと、西側諸国はミロシェビッチと話し合い、ボスニアに不完全な平和を作り出し、それが今に続いているのです。それは間違いだったのでしょうか?一方が他方を完全に消滅させることを願いながら、血を流し続けるべきだったの でしょうか。私はそうは思いません。

ウクライナの戦争を支援するために送られる武器の量を大幅に増やすという話もあります。あなたはそれに反対なのでしょうか?

ウクライナ軍が抵抗している間、私たちは彼らを軍事的に支援する道徳的義務があると思います。私やあなた個人ではなく、欧米がウクライナの抵抗勢力に武器を送ることを批判するつもりはない。しかし、抵抗することの要点は、和平を訴えられるところまで到達することです。誰もが少し不満に思うような協定を結ぶことができれば、それが最適な協定となるのです。例えば、ウクライナはNATOに加盟せず、武装解除をする。ロシアとウクライナの国境の両側には非武装地帯ができるかもしれない。クリミアは10年後くらいに議論すればいい。

このような合意は、ウクライナのEU加盟を妨げないという理解で補強することもできるでしょう。まあ、その合意は、双方の軍拡競争を終わらせることと密接に関係しているの ですがね。だって、もしかしたら明日のプーチンは中国軍の支援を受けるかもしれないんですよ?そんなエスカレーションを私たちは本当に望んでいるのでしょうか?

そのような発言をすれば、裏切り行為と見なされるようなことが、突然起こってしまったのです。

戦争が始まると、私たちの頭は混乱します。戦争が始まると、私たちは冷静さを失い、温情主義が主流になります。今、ヨーロッパには絶望している冷静な人たちがいることは間違いありません。しかし、彼らは声を上げることができない。ドイツでは、連邦共和国政府の中にそれが見て取れます。自分たちの髪を引っ張っているのです。なぜなら、もし彼らが声を上げれば、戦争屋が大はしゃぎして、すぐに責任を取らされるからです。

だからこそ、私たちは団結して、議論にわずかな理性を取り戻し、今重要な唯一のことに集中することが重要なのです。それはお金ではありません。貿易でもない。天然ガスでもない。ウクライナの人命だ。どうすれば人の死を止められるのか。なぜなら、もしこのままでは、ウクライナの人々の命よりも、ウクライナ人がNATOに加盟する理論上の権利を優先させ、人々の命よりもウクライナがEU内やNATO外の西欧民主主義国家として繁栄する機会を優先させるような人たちが、泥沼を作り出すことになり、その結果二つのことが確実に起こるからです。第一に、救えるはずの何千人もの人々が犠牲になること、第二に、ウクライナは砂漠と化すということです。

あなたが言うように、この戦争を先導する人々は、主に自らをリベラル派と表現するのでしょうか?

ええ、その通りです。しかし、それは今に始まったことではありません。アメリカがイラクに侵攻しようとしたとき、私が生涯尊敬していたクリストファー・ヒッチェンズのような左翼人でさえ、リベラルな帝国主義者になったのを覚えています。彼はイラクに侵攻して民主主義を広めようと意気込んでいました。1960年代初頭を考えてみると、当初ベトナムを占領することにある種の意気込みを見せたのは、JFKでした。

一部のリベラルな帝国主義者やリベラルな戦争支持者が、最終的な勝利が得られるまで戦争する、まるでモスクワに侵攻することが想像できるかのようになることを、私は恐れているのです。そこには何か、欠けているものがあるような気がします。金の流れを追ってみましょう。アメリカは非常に複雑な経済を持つ国です。そして、均質ではないのです。戦争や原油価格の高騰により、アメリカ経済の各分野は苦境に立たされています。シリコンバレーは、非常に困難な状況に置かれているので、満足していないのではないでしょうか。銀行部門、ウォール街でさえ、何が起こっているのか、本当に喜んでいるわけがないのです。

しかし、兵器を売っている企業は、パーティーを楽しんでいるのです。ドイツのオラフ・ショルツ首相は、1000億ユーロ相当のアメリカの装備を注文しようとしています。ニューメキシコやミネソタ、テキサスで採掘された石油やガスを供給している人は、EUとアメリカの間で交わされるLNG(液化天然ガス)の新しい取引を見て、嬉しそうに手を揉んでいることでしょう。なぜなら、アメリカでは瀕死の状態だった産業が、突然、大きな生命を得たのですから。これは陰謀ではありません。リベラルな帝国主義者がいて、このリベラルな帝国主義で大儲けしようとする人たちがいて、これらを一緒にすれば、紛争を維持することに賛成する非常に強力な有権者がいることになるのです。

多くの人は、今の話を聞いて、スーツを着た邪悪なアメリカ人が取締役会のテーブルを囲んで、利益を得るために戦争を起こそうとしている、という陰謀に近いと思うでしょう。

陰謀ではありません。私が言ったことは何も陰謀ではありません。武器を売れば大儲けできるというのは事実です。米国で採掘された石油やガスを売っているなら、大儲けしていることになります。私たちはそれを知っています。

でも、因果関係はないでしょう?それを観察するのもひとつの方法ですが、その人たちは意思決定をする立場にないんです。

もちろんです。だって、10年前になぜそうしなかったのか?10年前ならやる気満々だったはずです。誰もプーチンに侵攻を強要していません。彼が侵略したのはNatoのせいではない、たとえNatoは彼が力を発揮できるような状況を作り出したとしても、私の考えではそうだ。ウクライナに侵攻したのはプーチンの犯罪的な選択だった。そして、それがウクライナ人の軍事的抵抗を生んだのですが、私はそれを高く評価します。そして、このような自分とは関係のない動きに便乗して、政治的、金銭的な意図など、特定の動機を持った人たちが集まってくる。それで、全体が勢いづくのです。これは陰謀論ではありません。これは陰謀論ではなく、何が起きていたかを合理的に分析したものです。

では、ウクライナの人気者で成功した大統領をどう扱えばいいのか。彼は、国際的な注目を集めるのに、信じられないほど効果的でした。彼を支援すべきなのか?批判すべきなのか。

私たちは、批判的に支持すべきなのです。私はゼレンスキー氏の経歴を追ってきました。モスクワと和解し、ウクライナの寡頭制や極右勢力を排除することを公約に掲げて当選したのは興味深い。その点には注意しなければなりません。彼はこれに非常に大きな失敗をしたことも事実です。彼が闘うつもりだったオリガルヒが、事実上、彼を支配してしまったのです。彼の統治は容易ではありませんでした。そして、オリガルヒは、ゼレンスキーを屈服させることで、何とか国の支配を維持することができたと言う人もいる。

マリウポリのネオナチ・アゾフ大隊などは鉤十字を掲げています。ゼレンスキーは彼らを追い出したかったのだろうが、できなかった。しかし、そんなことはどうでもいい。なぜなら、ある国が侵略されたとき、私は侵略された人々を支持し、その指導者を支持する当然の義務を感じるからだ──たとえそれが、私が彼らの一員であったとしても投票しなかったであろう人物であったとしても、だ。

しかし、欧米の直接的な軍事介入を促すゼレンスキーによるあからさまなキャンペーンはどうでしょうか。

彼は侵略されている国の指導者なのだから、世界の国々に援助を求めるのは至極当然のことでしょう。核兵器による大惨事につながることを理解していても、NATOが介入してくれば、彼は喜ぶにちがいありません。私たちに介入を求めるのは彼の仕事です。

しかし、彼の名誉のために言っておくと、彼は他のこともやっている。彼は中立的な解決策を受け入れているのです。そして、 ロシア人との議論や交渉に参加している。現実的に考えて、EUは私たちの想像の産物です。私たちはあまりにも分断され、実際には非当事者なのです。ゼレンスキーがプーチンとの交渉に必要な後ろ盾となるのは、アメリカだけなのです。

それに対して人々が異を唱えるのは、小国に頭越しに決断を迫るような胡散臭さがあるためです。ウクライナの人々が何を望んでいるかは、どちらでもありません。

私の国だって、1820年代後半にそういう取り決めがなかったら、存在しなかったんです。私たちは400年、500年もオスマントルコの支配下にあったのです。私たちは独自の革命を起こし、オスマン帝国軍に対して独自の抵抗を行ったのです。結局、ギリシャはどうなったのでしょうか。イギリス、フランス、ロシアといった列強が、オスマン帝国と交渉した結果、ギリシャが誕生したのです。そして彼らはこう言った。「ギリシャは独立国家となり、オスマン帝国と西洋の間の緩衝地帯のような存在になる」と。そして、私たちは存在するチャンスを与えられたのです。

ウクライナへの侵攻に反対しつつも、欧米の関与に深い不安を感じている人々へのメッセージは何でしょうか?プーチン支持者と呼ばれたとき、どう反応すればいいのでしょうか。

寛容であることです。最近、すでに多くの反感を買っているので、誰も敵に回してはいけないと思うのです。冷静さを保ち、プーチンの軍隊に対抗するウクライナのレジスタンスを支持すること。軍国主義や永久戦争という名の沈黙に屈しないように。そして、常に勝利を見据えること。それは、即時の平和とロシア軍の撤退、そして中立的で民主的なウクライナの立ち直りを、私たち全員が支援することでしかないの です。

https://unherd.com/2022/04/ukraine-cannot-win-this-war/

前代未聞の弾圧を受けるロシアの反戦デモ

以下はAvtonomに掲載されたロシア国内の反戦運動と権力による弾圧についてのレポートです。Avtomomはロシアとウクライナを拠点とするグループで、「直接民主主義、自治、連邦主義などの原則に基づいたリバータリアンコミュニズム(自由社会主義)の実践を目標とする地域のアナルココミュニズムの団体」と自己紹介しています。ロシア国内の反戦運動についての情報は日本でも様々紹介されているが、この記事はロシア国内のフェミニストたちの活動に注目するとともに、ロシア警察、治安機関の弾圧や弾圧目的の法制度がいかに過酷な状況をもたらしているかについても言及している。丁寧なリンクもある。(小倉利丸)

3月5日、モスクワ北東部の小都市イワノボの公共広場に、手製の看板を掲げた一人ピケが立っていた。”*** *****”. これは、プーチン大統領のウクライナ侵攻を戦争と呼ぶことが刑罰の対象となり、ロシアの独立系メディアの最後の痕跡が放送中止するという検閲の新しい波を暗示している。前日、最高刑期3年の「ロシア軍の信用毀損」禁止の新法がロシア国会で可決され、警察がこのスタンディングの抗議者を逮捕したのは、この法律を理由にしたものだった。その後も、アスタリスクだけの看板を掲げたり、白紙を掲げる抗議者を逮捕するために、同じ法律が使われた。ロシアの人権メディア団体OVD-Infoによると、3週間前の開戦以来、少なくとも14,906人が侵攻抗議を理由に逮捕されたという。

原文はAvtonomが発表した。

政府の弾圧が厳しくなっているにもかかわらず、ロシア全土で戦争に対する目に見える分散した抵抗が起こっている。デモ隊は少なくとも150の都市で抗議行動を起こしている。彼らは公共スペースに反戦の落書きをし、一人ピケット(最近まで、政府が大規模な抗議活動の許可を差し止めたとき、一個人が反対意見を表明する安全な方法だった)を張り、何千人もの参加者を集めた無許可のデモ行進に参加した。これは首都に限った抗議運動だとは言えない」と、旧ソ連のアナーキストとリバタリアン共産主義者の運動『自治行動(AD)』のメンバーが暗号化された電子メールサービスを通じて私たちに書いてきた。「カリーニングラードからウラジオストクまで」、言い換えれば、ロシアの最も西から最も東の国境まで人々が通りに出たと述べている。このメールには次のように書かれている。「人々は、次々に明かになる恐怖に対して反対意識を共有することによって、街頭に繰り出した。『戦争は止めなければならない、プーチンは退陣すべきだ』という以上の政治的信条を共有しているわけではない」(ロシアで話を聞いた活動家たちは、反戦の意見を表明すると刑務所に入る恐れがあるため、全員匿名を希望した)。

ADによれば、反戦デモにはナチスのレニングラード封鎖を生き延びた高齢者や幼い子どもを持つ親など、ロシア民衆の多世代が参加しているが、デモ参加者の大半は30歳未満で、10代や10代もかなり参加しているという。40年前にボストンで始まり、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアに支部を持つビーガン反戦団体「Food Not Bombs」の若い主催者は、彼らが住むロシアの主要都市では、「多くの大人は無関心かプロパガンダに洗脳されている」が、若い人々は、確証はないとはいえ、現在の弾圧以前に国家統制のないソースからニュースを探す傾向が強かったと言う。

ロシアの政治理論家であり活動家であり、ニューヨークのニュースクールの博士課程に在籍するアナスタシア・カルクAnastasia Kalkは、Zoomコールで「これらの抗議は、既存の活動家のネットワークを利用しながらも、ほとんどが自然発生的で分散的です」と語っている。同時に、参加者のなかには、サンクトペテルブルクを拠点とするフェミニスト集団「Eighth Initiative Group(EIG)」や社会主義フェミニスト「SocFem Alternative」など、長年活動しているグループもおり、それらのコミュニケーションチャネルは、チラシの掲示やデモ隊の動員などで地元で活用されてきた。EIGのあるメンバーは、テキストメッセージの中で、緊密に結びついたフェミニストの親密なグループは「コミュニティを形成し、確立された絆」を持っており、それは「新しい脅威に直面したときに活性化」できる、と述べている。抵抗の最初の組織的な呼びかけは、ロシアとロシアのディアスポラ内のフェミニストの友好関係にある諸団体による新たな運動フェミニスト反戦レジスタンスFeminist Anti-War Resistanceからのもので、抗議行動に一定の組織性を持たせようとするものである。Kalkが翻訳を手伝ったこの運動のマニフェスト[日本語訳、こことかここ:訳注]では、「ウクライナの戦争とプーチンの独裁に反対するオフラインとオンラインのキャンペーン」を呼びかけている。

この抗議運動は、10年以上にわたって積み重ねられてきた抑圧の文脈の中で行われている。2011年と2012年に行われた不正な議会選挙結果に端を発した反政府デモの大波の後、プーチンは2013年に2つの抑圧的な新法を成立させ、その権力を強固なものにした。1つは、同性愛者の権利や同性間の関係の存在について公に議論することを違法とする法律。もうひとつは、フェミニストのパンクグループ、プッシー・ライオットPussy Riot’がモスクワの救世主キリスト大聖堂[救世主ハリストス大聖堂]で行った反プーチン抗議パフォーマンスをきっかけに、「宗教的感情に対する違反」を最高3年の禁固刑に処するものだ。どちらの法律も、プーチン政権とロシア正教の結束を固め、女性やLGBTQ+の人々に対する国家の暴力に道徳的な援護を与えるものだ。亡命したロシア人活動家で学者のリョーシャ・ゴルシコフLyosha Gorshkovは、RUSA LGBT(ロシア語圏アメリカLGBTIQA+協会)の共同代表として、反同性愛法が現在の弾圧の波の土台を作るのに役立ったと指摘している。政府は、まず社会から疎外されたコミュニティをターゲットにすることで、「世間の様子を伺った」のだ。

カルクは「正確にいつ事態が本格的に悪化したのかを言うことはできない」としながらも、2011年以降、「毎年、悪化の一途をたどっている」と指摘する。5、6年たつうちに、「大規模なデモを組織できることを誰も覚えていない状態になった」と彼女は語る。私たちの取材では、年配のロシア人活動家から、権力を強化し、社会から疎外された人々に対する暴力を合法化したプーチン政権を阻止するのに十分なことをしてこなかった、という後悔と怒りの言葉を何度も耳にした。「私の世代の多くは、ポジティブな政治的変化への希望を失っていました」と、2012年と2013年に抗議行動に参加したモスクワの30代の女性、ソーニャは書いている。

プッシー・ライオットのマリア・アリョーヒナMaria Alyokhina、ナデージダ・トロコンニコワNadezhda Tolokonnikova、エカテリーナ・サムツェビッチYekaterina Samutsevichといった有名な活動家の裁判を含む抗議行動への弾圧には、メディア企業や市民社会団体の閉鎖と検閲が伴った。TV Rainのような独立系テレビ局は放送を打ち切られ、インターネットに移行させられた。同時に、ロシアの左派グループは、組織化および情報発信の戦略を調整した。たとえばADは、「(会員制、地域支部などを持つ)組織のネットワークから、ウェブサイト、ソーシャルネットワーク、ポッドキャストを持つメディア集団に変貌した」とメンバーは書いている。しかし、独立系オンラインメディアの成長に伴い、国家はブロガーやYouTuber、そして独立系メディアのウェブサイトやTwitterなどのソーシャルメディアプラットフォームをホストしているロシアの通信事業者ターゲットにした。ウクライナ侵攻を控えた2021年末には、1990年代から放送されていた愛すべきラジオ局「Echo of Moscow」など、少数の独立系メディアしか残らなかったが、これらも放送を続けるために政府に大きく妥協をした。

プーチンのウクライナ侵攻以来、抗議者たちはオンライン・ネットワークを利用して嘆願書やデジタル・チラシを配布し続けているが、街頭にも戻ってきている。EIGの主催者は、「街頭でのアジテーション、ビラ、ステッカーが勢いを増している」と指摘した。FNBのオーガナイザーも、この意見に賛同している。「私たちは行動に出て、落書きやビラやステッカーを使って、戦争に反対するよう人々を扇動している」。

しかし、主催者は、抗議に人々を集めようとするときでさえ、デモ参加者を危険にさらすことを避けようとしている。3月6日3月13日にロシアの数十の都市を席巻した無許可の路上抗議行動は今も続いているが、フェミニストの主催者たちはより安全なタイプの行動を求めている。例えば、Feminist Anti-War Resistanceは、無料のメッセージングアプリTelegramの公開チャンネルで、国際女性デーを取り戻すことを呼びかけた。3月8日、ロシア全土(およびソビエト連邦後の移民コミュニティがある場所)で、孤独な抗議者たちが、戦争に対する抵抗の表現として、第二次世界大戦記念碑に静かに花を供えた。ある者はウクライナの国旗の色を表す青と黄色の花を残し、またある者は花束に反戦のメッセージを添えた。主催者は、警察がこの孤独な行動を見過ごす、あるいは愛国心と解釈することを期待した。Telegramチャンネルでは、参加者が写真を共有し、記念碑に到着して他の花束を見つけると、孤立感が和らいだと述べている。

抗議者がどのように自分の意見を表明しようとも、戦争に抵抗する者にとって投獄は非常に現実的なリスクだ。抗議者は常に「フーリガン」や「無許可の街頭行動」で逮捕される可能性があるが、「ロシア軍の平和維持活動の信用を傷つけること」を犯罪とする新法の下では、一度目の逮捕は罰金の対象となり、二度目の逮捕は「街を二度散歩しただけで3年の刑事罰につながる」(ADメンバー)という。カルクは、このような法律は恣意的に執行されていると強調する。「街頭抗議行動で逮捕されても、何もされないこともあれば、15日間、2年の刑に処せられることもある。警察は多くの場合、誰でも逮捕してしまうし、ベテランの活動家でない人も無作為に捕まえてしまうのです」。

こうした散発的な路上での逮捕に加え、政府は組織的に主催者を標的にしてきた。3月6日のデモの前日、EIGのフェミニストを含む有名な活動家の家に、軍国主義の連邦警察部隊(頭文字をとってOMONと呼ばれている)の警官が押し入った。「逮捕後に何が起こるかは、どの部署に拘束されるかによります」とADは説明する。「ある部署では、丁寧に尋問し、パスポートのデータを集めて、釈放される可能性があります」あるいは、デモ参加者アレクサンドラ・カルジスキフKaluzhskikhや他の女性たちは、3月6日のデモで拘束された後、モスクワ南西部のブラテエヴォ警察管区で殴られ、水をかけられた。彼らに使われたような戦術を、尋問者が用いることもできる。カルジスキフの拷問を密かに録音した記録は、ロシアに現存する数少ない独立系出版社Novoya Gazetaに掲載され、米国の雑誌n+1が翻訳した。この録音では、尋問官がカルジスキフの顔や頭を殴っているのが聞こえます。「彼らは誰を殴り、誰を拘束しようが気にしない。最近、妊婦まで拘束されたと聞いた」とFNBメンバーは書いている。このFNBメンバーは、すべての管区がすでに逮捕されたデモ参加者でいっぱいだったために、郊外に車で移送された。「無防備の人々に嫌がらせをし、虐待すること、それが彼らの仕事だ」とFNBメンバーは書いている。

逮捕の脅しや拘束中の身体的虐待のほかにも、政府がかけることのできる圧力はある。私たちが話を聞いた主催者の一人は、最近逮捕された後、上司が警察の注意を恐れたため、仕事を失ってしまった。フェミニスト反戦レジスタンスのTelegramチャンネルによると、ロシア連邦文化省は、さまざまな文化施設の館長に圧力をかけ、戦争反対の署名活動をした職員のリストを要求しているとのことだ。すでにレイオフも始まっている。Telegramのフェミニストやアナーキストのチャンネルでは、職場で反戦の意見を表明したことで標的にされたらどうするかというチラシが出回っているが、こうしたチラシを回すことさえ非常に危険なのだ。戦争が始まって数日後、ロシアの通信規制当局は、Echo of MoscowとTVRainが放送で「戦争」という言葉を使用したことを理由にブロックした。また、ロシア軍に関する「フェイクニュース」の出版を禁止する新しい法律では、15年の刑期が課すことができる。さらに政府は、外国組織に援助を提供した場合、反逆罪で最高20年まで投獄できるという休眠中の法律の復活も公表した(独立系ジャーナリストは、この法律が自分たちを標的にするために使われる可能性があると考えている)。これらの法律は本質的に、ソ連時代の言論の自由に対する制限に逆戻りさせ、反戦的なソーシャルメディアの投稿でさえ、反体制的なサミズダットの地位を与えてしまう。「FNBのメンバーは、「何かを再投稿しただけで刑に処されるのは恐ろしいことだ」と言う。

この弾圧によって、多くの活動家が限界に達している。2011年以降の弾圧の後、ロシアに残ったフェミニスト活動家たちは、「ここ数日のうちに国外に脱出せざるを得なくなった」とカルクは3月1日に述べた。実際、このような国外脱出は、反戦運動の組織化の多くが海外、つまり経験豊富な活動家の多くが行き、発言することが比較的安全なロシアのディアスポラで起きているということを意味していると、彼女は言う。それでも、侵攻以来、反戦運動家たちは毎週末、ロシアで行動を起こしている。彼らは「強権的な弾圧にもかかわらず、勇敢に」行動していると、ADのメンバーは書いている。

私たちは、ソーシャルメディア上で声高に戦争に反対していたロシアの若いオーガナイザーと連絡を取っていた。3月3日、彼らは 「安全な空間 」に入ったら、私たちの質問に回答するとメッセージを送ってきました。その後、彼らは連絡を絶った。数日後、彼らはInstagramに再登場し、今は亡命中であると書いた。「ウラジーミル・プーチンが放った野蛮な戦争に反対したことが理由で、まさか身の危険を感じて祖国や友人、家族を離れなければならないとは考えもしませんでした」と彼らは投稿した。

オクサナ・ミロノワ、ベン・ナドラー

出典:https://enoughisenough14.org/2022/03/31/russias-anti-war-protesters-are-facing-unprecedented-repression/

オリジナル記事は下記に投稿されました。

https://avtonom.org/en/news/russias-anti-war-protesters-are-facing-unprecedented-repression

下訳にDeepLを用いました。

ウクライナはなぜ11の「親ロシア」政党を停止したのか?(ソツヤルニ・ルークによる声明も加えて)

(訳者前書き)以下は、LINKS, Internasional Journal of Socialist Renewalに掲載された記事の翻訳です。イシチェンコの文章は、この他「ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアの政治秩序を不安定にしかねない」を訳してある。

戦時下には、平時には許されていた基本的人権が国家緊急事態を口実に制限されるようになるのは、民主主義を標榜する国においても一般的にみられる。特に政権に批判的な団体や個人を敵国の同調者などというレッテルを貼って排除・弾圧することに世論も容易に同意を与えてしまうために、戦争に便乗した権力の集中と人権への抑圧が進み、これが戦後の権威主義や独裁へと繋がることがある。こうした事態はロシアだけでなくウクライナでも起きている。

ウクライナの国内政治のなかで、とくにマイダン以降、左翼の運動がどのように扱われてきたのかについて、下記のエッセイでその概略がわかる。戦時にあって、労働者の権利や生存の権利はどう扱われているのか、政府への異論や反対運動を組織する余地は与えられているのか。こうした観点から戦争を見ることなく。ゼレンスキーを中心としたウクライナを一枚岩に還元していいのだろうか。私はロシアの侵略行為に正当性の欠片すら見出すことはできない。ウクライナの国内政治や統治機構が抱えてきた矛盾についても、戦争を理由に、この矛盾への批判を棚上げする理由を見出すこともできない。

2015年にウクライナでは2015年に「脱共産化」法が成立しており、左翼運動は周辺化されざるをえない制度的な条件があった。日本でも類似の偏見があるが、多様な共産主義(コミュニズム)、社会主義をかつてのソ連や中国など社会主義諸国と同一視することによって、左翼の反資本主義運動全体をありもしない画一的な存在に還元して切り捨てる政治統制の手法は、自由と民主主義を標榜する諸国が共通して持ち出すイデモロギー的な自己防衛だ。アナキズムも含めた反資本主義の無視できない有力な運動や思想の潮流が一貫して20世紀の社会主義諸国に対して厳しい批判を提起しつつ、資本主義にも与しない、という明確な立場をとってきたことを支配者たちは知っているハズにもかかわらずだ。イシチェンコの下記のエッセイの立場は、ゼレンスキー政権による左翼政党の活動停止措置は、親ロシア活動が原因ではなく、むしろ現在の戦争が終結した後のウクライナの統治機構における権力を確実に左翼を排除したある種の権威主義的な構造へと転換しようとする意図に基くものだととみているように思う。(小倉利丸 2022/3/27加筆)


ウクライナはなぜ11の「親ロシア」政党を停止したのか?(ソツヤルニ・ルークによる声明も加えて)。

ヴォロディミル・イシチェンコ著

2022年3月21日 – Links International Journal of Socialist Renewal reposted from Al Jazeera

週末、Volodymyr Zelenskyy大統領の政府は、「ロシアとのつながり」の疑いを理由に、ウクライナの11政党を活動停止処分にした。停止された政党の大半は小規模で、中には全く重要でないものもあったが、そのうちの一つである野党「生活のためのプラットフォーム」は最近の選挙で2位になり、現在450議席あるウクライナ議会で44議席を占めている。

これらの政党がウクライナの多くの人々から「親ロシア派」と認識されていることは事実である。しかし、現在の同国において「親露」が何を意味するのかを理解することが重要だ。

2014年以前のウクライナ政治には、欧州・大西洋圏の国際機関よりもロシア主導の国際機関との緊密な統合、あるいはウクライナがロシアやベラルーシと連邦国家になることを求める大きな陣営があった。しかし、ユーロマイダン革命やクリミア、ドンバスにおけるロシアの敵対的行動により、親ロシア派はウクライナ政治において周縁化された。同時に、親ロシア派というレッテルが誇張されるようになり、ウクライナの中立を求める者を指す言葉として使われるようになった。また、主権主義、国家開発主義、反欧米、非自由主義、ポピュリスト、左翼、その他多くの言説を貶め、黙らせるために使われ始めたのである。

このように多種多様な意見や立場が一つのレッテルの下にまとめられ、非難されるようになったのは、主に、2014年以来ウクライナの政治領域を支配してきた親欧米、新自由主義、ナショナリズトの言説を批判し、これらに疑問を投げかけるものに対してであり、ウクライナ社会の政治の多様性を実際に反映しているわけではなかった。

しかし、ウクライナで「親ロシア」の烙印を押され、最近ゼレンスキー政権によって停止処分を受けた政党や政治家は、ロシアとの関係は極めて様々だ。ある者はロシアのソフトパワーへの取り組みと関係があるかもしれないが–こうした関係が適切に調査・証明されることはほとんどないが–、他の者たちは実際には彼ら自身がロシアの制裁下にある。

ウクライナの「親ロシア」政党の多くは、何よりもまず「自己中心的な党」であり、ウクライナに独自の利益と収入源を有している。彼らは南東部に集中するロシア語を話す少数派のウクライナ人の現実的な不満を利用しようとしている。これらの政党は大衆の大きな支持を得ている。例えば、最近活動停止にされた3つの政党は2019年の議会選挙に参加し、合わせて約270万票(18.3%)を獲得し、ロシアの侵攻前に行われた最新の世論調査では、これらの政党は合わせて約16~20%の得票率を記録している。

ゼレンスキーの停止リストに載っていた他の政党は、左翼的な志向を持っていた。社会党や進歩社会党など、1990年から2000年代にかけてウクライナの政治で重要な役割を果たした政党もあるが、今ではすっかり周辺に追いやられている。実際、現在あるいは当面の間、ウクライナではその名前に「左翼」や「社会主義」を冠して一般投票のかなりの得票を確保できる政党は存在しない。ウクライナはすでに2015年に「脱共産化」法に基づいて国内のすべての共産主義政党を停止しており、ベニス委員会the Venice Commission[欧州評議会の憲法問題に関する独立諮問組織:訳注]から強く批判された。 今回の停止処分は、必ずしもウクライナの政治圏から左派を消したいという動機からではないかもしれないが、そうしたアジェンダに寄与していることは確かである。

皮肉なことに、これらの政党の活動停止はウクライナの安全保障にとって全く無意味である。確かに、「進歩的社会主義者」のように、停止された政党の中には長年にわたって強く純粋な親ロシア派であったものもある。しかし、ウクライナで実際的な影響力を持つこれらの政党の指導者や後援者は、実質的にすべてロシアの侵攻を非難し、現在はウクライナの防衛に貢献しているのである。

さらに、政党活動の停止が、これらの政党の党員や指導者によるウクライナ国家に対する何らかの行動の抑止にどのように役立つかは明らかでない。ウクライナの政党組織は、政治・活動家集団としては通常非常に弱く。おそらく、例外として、ウクライナで最も人気のある政治ブロガーの一人が設立した活動停止中の政党に含まれるシャリイ党があるが、現在は人道的活動に注力している。侵略の最中に、クレムリンと直接、あるいはそのプロパガンダ網を通じてロシアと協力しようと考えている人たちは、党組織の外でこうしたことを行うだろう。党の公式口座を通じてロシアの資金を動かそうとする理由もないだろう。

このことは、ウクライナ政府が左翼政党や野党を停止するという決定を下したのは、ウクライナの戦争時の安全保障上の必要性とはほとんど関係がなく、ユーロマイダン以降のウクライナ政治の分極化とウクライナ人のアイデンティティの再定義が、この国における許容可能な言論の境界を超えたさまざまな反対意見に大きく関係していることを示唆している。また、ロシア侵攻のはるか以前から始まったゼレンスキーの政治権力強化の試みとも関係がある。

実際、政党の活動停止という決定は、あるパターンに従っている。昨年以来、政府は定期的に野党メディアと一部の野党指導者に制裁を加えてきたが、不正行為の説得力のある証拠を国民に示すことはなかった。

例えば1年前、政府はプーチンの個人的友人であるヴィクトル・メドベチュクを制裁した。世論調査で、彼の政党がゼレンスキーの「人民のしもべ」党よりも国民の支持を得て、将来の選挙で彼を追い抜く可能性があるとされ始めた直後であった。当時、メドベチュクと彼のテレビ局に対する制裁は、在ウクライナ米国大使館からも支持されていた。この制裁は、プーチンに「ウクライナでロシア寄りの政治家が選挙で勝つことは許されない」と思わせ、戦争の準備を始めさせた要因の一つではないか、と複数のアナリストはその後推測している。

現在、メドベチュク氏は自宅軟禁を逃れ、ウクライナ当局から身を隠している。野党「生活のためのプラットフォーム」は彼を党首からはずし、ロシアの侵攻を非難し、ウクライナを守る軍に参加するよう党員に呼びかけている。

ロシアの侵攻の中で「親露派」政党の活動停止を安全保障上の必要性と分類するのは簡単だが、この動きはこうした広い文脈で分析・理解されるべきものであろう。また、野党、政治家、メディアに対する政府の制裁体制は、以前からウクライナ国内で広く批判を集めていることも指摘しておく必要がある。この制裁は、ウクライナの安全保障・防衛会議に出席している一部のグループが、真剣な議論もなく、怪しげな法的根拠に基づいて、腐敗した利益を追求するために計画し、実施したものだと考える人が国内には多いのである。

このため、戦争が終われば当事者たちの活動停止が解除されると期待する根拠は乏しい。法務省はおそらく法的措置をとり、政党を永久に禁止するだろう。

しかし、それでは戦争への努力も現政権の政治的野望も実現できない。それどころか、一部のウクライナ人をロシアとの協力に向かわせることになりかねない。

実際、これまでのところ、占領地における侵略者との協力は最小限にとどまっている。国民が親ロシア派の政党や政治家に大挙して賛同する気配はない。また、ロシアがウクライナに傀儡政権を樹立することになれば、まず間違いなくこれらの政党に接近するだろうが、彼らの政治幹部の多くはその申し出を断るだろう–彼らは自分の資本、財産、西側での利益を危険にさらしたくないのだから。これらの「親露」政党の支持を受けて当選した地方指導者の中には、すでに侵略軍に協力するつもりはないと明言している者もいる。

しかし、これらの政党が停止された後に、彼らの地方組織や議会のメンバー、および彼らの積極的な支持者が占領地においてロシア軍に協力する傾向が強まるかもしれない。実際、ウクライナに政治的な未来がなく、むしろ迫害に直面していると確信すれば、ロシアに目を向け始めるかもしれない。そうなれば、大衆が「裏切り者」を探して処罰し始め、ウクライナの「ナチズム」問題についてのロシアのプロパガンダが強化され、暴力が助長される可能性がある。すでにウクライナでは、野党や左翼のブロガーや活動家の捜索や逮捕に関する報道が憂慮されるほど増えている。

今日、ウクライナは存亡の危機に直面している。ウクライナ政府は、今回の停波のような、ウクライナ大衆の一部を疎外し、指導者の意図を疑わせるような動きは、国を強くするどころか弱くし、敵に仕えるだけだということを理解する必要がある。

Volodymyr Ishchenko ベルリン自由大学東欧研究所研究員。研究テーマは、抗議行動と社会運動、革命、急進的な右派・左派政治、ナショナリズム、市民社会。現在、書籍The Maidan Uprising: Mobilization, Radicalization, and Revolution in Ukraine, 2013-2014[マイダン蜂起、ウクライナにおける動員、急進化、革命2013-2014年]の共同原稿を執筆中。

ウクライナの一部政党の一時的な「禁止」についての声明

21/03/2022
Категорія: 英語, 日 本語
✖️最近、国家防衛安全保障会議が、多数のウクライナの政党の活動を一時的に停止することを決定した。このリストには、主要な野党と、名前に「進歩的」「左翼」「社会主義」という言葉が使われているあまり知られていない政党の両方が含まれている。ウクライナのVolodymyr Zelensky大統領は、これらの政党を「ロシアと関係がある」と非難したが、その主張には適法な根拠がなかった。

私たちは、これらの政党の少なくとも一部のメンバー、特にその指導者が、ロシアとつながっていることをはっきりと認識しており、とりわけ彼らのリーダーシップは、

*ロシアの排外主義的野心の危険性を軽視し、クレムリンと直接協力しない場合であっても、侵略を正当化することになる。

*政府の新自由主義的な政策によって引き起こされた民衆の不満を、「西側」が「スラブ文明」を破壊するという戯画的なイメージとの戦いに向けて誤導していた。

*外国人恐怖症、反ユダヤ主義、同性愛嫌悪、憎悪を広めた。

左翼的なフレーズを使い、そのフレーズを乗っ取った人々は、現実には寡頭制のコンセンサスに奉仕しているに過ぎない。

とはいえ、前述の組織やその個々のメンバーのロシア帝国主義者との協力の可能性は、調査されるべきだし、彼らは法廷で裁かれなければならない。人民的抵抗の妨害に関与した具体的な人物は、その行動に対して個々の責任を負わなければならない。我々は、民主的自由の重要性と象徴性を認識し、無差別な党員禁止は今日の闘争にふさわしくないと考えている。

我々はすでに、政府が戦争という状況を悪用してウクライナの労働者の労働権を攻撃しようとしたことを見てきた。そして今、その行動は政治的・市民的自由を制限することを目的としている。我々はこれを支持することはできない。

さらに、進歩的なアジェンダを自動的にクレムリンと結びつけることによって、左翼や社会運動一般に汚名を着せようとするあらゆる試みに警告を発したい。左翼や組合の活動家は今日、軍隊や領土防衛のメンバーとして、装備や食料、医薬品の提供、難民や国内避難民の避難や宿泊に携わるボランティアとして、国際連帯を築き、対外債務の帳消し、ロシア国家の資産の差し押さえ、オフショアリングの容認の停止を要求する団体として、侵略者と戦っている。

私たちは、すでに支持を表明し、ウクライナの自衛権を認め、自国政府に具体的な措置を講じるよう圧力をかけ続けている世界中の数多くの左翼運動に感謝する。

ウクライナの人々は、常に人々から経済的価値を搾取し海外に蓄えるために人々を利用する資本家ではなく、今日計り知れない苦難に耐えており、より公平な明日を手に入れる権利がある。社会主義は、我々の社会により多くの正義をもたらし、共通の目的を追求する最良の方法である。それこそが、我々ソシアルニ・ルークの主張するところなのだ!

出典:http://links.org.au/why-did-ukraine-suspend-11-pro-russia-parties-sotsyalnyi-rukh

下訳にDeepLを用いました。

ウクライナの労働運動や左翼運動のサイト(リンク集)

以下は、ウクライナ連帯キャンペーンのサイトに掲載されているウクライナの労働運動や左翼運動のサイトへのリンク集です。各運動体の考え方や思想的歴史的なバックグラウンドについては、みなさんで直接確認してみてください。ウクライナ語、ロシア語や英語など外国語のサイトですが、機械翻訳DeepLを使って日本語に訳すことである程度は内容を把握できると思います。(翻訳の精度は完璧ではありません)

Ukrainian Trade Unions

KVPU – The Confederation of Free Trade Unions

FPSU – Federation of Trade Unions of Ukraine

NGPU Independent Union of Miners of Ukraine

Regional Organisations of NGPU

Trade Union of the Coal Industry of Ukraine

Trade Union Labour Solidarity

Independent Trade Union Defence of Labour

Independent Media Trade Union of UkraineAll-Ukrainian Union of Finance Workers

Independent Trade Unions of the Energy Sector

Ukrainian Left Organisations

Left-Opposition (リンク切れ、weyback machineで過去のサイトを見る)

Spilne/Commons Journal

Assembly for Social Revolution

Vpered on-line journal

Bulletin of the Left-Opposition

Autonomous Workers Union

National-Communist Front

Strike, Solidarity Portal

Independent Student Union Direct Action

Ukraine: Activist Perspective (after Maidan)

Socialist Party of Ukraine

Research and Analysis

Centre for Social Research

Kharkiv human rights protection group

Amnesty International Ukraine

Observer Ukraine

LeftEast – platform where our common struggles and political commitments come together

Debatte: Journal of Contemporary Central and Eastern Europe

Journal of Ukrainian Studies

Labour Focus on Eastern Europe

Russian Left

Russian Socialist Movement

Praxis Centre Moscow

Solidarity

Irish Ukrainian Solidarity Group

Global Labour Institute

Press and Media

Krytyka, Journal of Critical Thinking

Glavred

Ukrainian Pravda

Community TV

Spilno TV

Ukraine Today

Ukraine and its History

ISN Ukraine Crisis Reader – sources

EuroMaidan Research Forum

BRAMA – History of Ukraine Chronologically Synchronized Tables

Ukrainian Socialists in Canada, 1900-1918

A Memoir of Auschwitz and Birkenau Roman Rosdolsky

Engels and the `Nonhistoric’ Peoples: the National Question in the Revolution of 1848, Roman Rosdolsky

The Dialectics of the Ukrainian Revolution – Introduction to Borotbism by Ivan Maistrenko

Borotbism: A Chapter in the History of the Ukrainian Revolution by Ivan Maistrenko

Internationalism or Russification?: A study in the Soviet nationalities problem, by Ivan Dzyuba

On the Current Situation in the Ukraine by Serhii Mazlakh and Vasyl’ Shakhrai

Ukrainian Marxists and Russian Imperialism 1918-1923: Prelude to the Present in Eastern Europe’s Ireland

Ukrainian National Communism in International Context Olena Palko

A Bolshevik Party with a National Face Being Ukrainian among Communists by Olena Palko

Canadian Institute of Ukrainian Studies

Internet Encyclopedia of Ukraine

Ukraine-related information on the Internet

ロシア:「戦争に反対する社会主義者」連合のマニフェスト


以下は、LEFTEASTに掲載されたロシアの戦争に反対する社会主義者連合の宣言です。英語からの重訳なので、訳文の後ろにロシア語原文を掲載しておきます。(小倉利丸)


2022年3月17日
LeftEast編集部注:ロシアの非公式グループ「戦争に反対する社会主義者」のマニフェストの原文(以下も同様)を英語版で転載します。

この勢力は、平和と安定の約束を基盤にしつつも、結局は国を戦争と経済的破局に導いた。

歴史上の他の戦争と同様、現在の戦争も皆を賛成派と反対派に二分している。クレムリンのプロパガンダは、国民全体が権力の周りに結集したと私たちに信じ込ませようとしている。そして、惨めな祖先、親欧米のリベラル派と外敵の傭兵が平和のために戦っている。まったくもって、どうしようもない嘘だ。今回、クレムリンの長老たちは少数派であった。ほとんどのロシア人は、ロシア当局をまだ信頼している人々の間でさえ、民族紛争的な戦争を望んでいない。彼らは、プロパガンダによって描かれた世界が崩壊するのを見ないように、目をつぶっている。彼らは、今起きていることは戦争ではなく、とりわけ攻撃的なものでもなく、ウクライナの人々を「解放」するための「特別作戦」であると、まだ願っているのである。残酷な爆撃や都市への砲撃の悲惨な映像は、すぐにこれらの神話を破壊するだろう。そして、プーチンの最も忠実な有権者たちでさえ、「こんな不当な戦争に同意した覚えはない!」と言うだろう。

しかし、すでに今、全国で数千万人の人々が、プーチン政権のやっていることに恐怖と嫌悪感を抱いている。こうした人々は、さまざまな信条を持った人たちだ。そのほとんどは、プロパガンダが主張するようなリベラル派ではまったくない。その中には、左翼、社会主義者、共産主義者がたくさんいる。そしてもちろん、これらの人々、つまりわが国民の大多数は、わが母国に対する誠実な愛国者である。

私たちは、この戦争に反対する人々は偽善者であると嘘を言われてきた。彼らは戦争に反対しているのではなく、西側諸国を支持しているだけなのだと。それは嘘だ。私たちは、米国とその帝国主義政策の支持者であったことは一度もない。ウクライナ軍がドネツクやルガンスクを砲撃したとき、私たちは黙っていなかった。プーチンとその仲間たちの命令でハリコフ、キエフ、オデッサが空爆されているいまも、黙ってはいない。

戦争に反対して闘う理由はたくさんある。社会正義、平等、自由を支持する私たちにとって、そのうちのいくつかは特に重要である。

  • 不公平な、征服のための戦争である。ロシア国家にとって、兵士を殺し殺さなければならないような脅威は存在しなかったし、現在も存在しない。今日、彼らは「誰も解放しない」のだ。人民の運動を支援することもない。ただ、ロシアに対する権力を永遠に維持することを夢見る一握りの億万長者の命令で、正規軍がウクライナの平和な都市を破壊しているに過ぎない。
  • この戦争は、我々の民衆に数え切れないほどの災いをもたらす。ウクライナ人もロシア人も、そのために血の犠牲を払っている。しかし、遠く離れた後方でも、貧困、インフレ、失業はすべての人に影響を与えている。そのツケは、オリガルヒや役人ではなく、貧しい教師、労働者、年金生活者、失業者が払うことになる。私たちの多くは、子どもたちに食べさせるものがなくなるだろう。
  • この戦争によって、ウクライナは廃墟と化し、ロシアは一つの大きな監獄と化すだろう。反対派のメディアはすでに閉鎖されている。ビラや無害なピケ、ソーシャルネットワークへの投稿であってさえ、人々は刑務所に入れられる。まもなくロシア人は、刑務所か軍隊の登録・入隊所のどちらかを選ぶしかなくなるだろう。戦争は、生きている世代がまだ見たことのない独裁政治をもたらす。
  • この戦争は、わが国に対するあらゆるリスクと脅威を著しく増大させる。一週間前にはロシアに同調していたウクライナ人でさえ、今では我が軍と戦うために民兵に入隊しているのだ。プーチンは、その侵略によって、ウクライナのナショナリストの犯罪や、アメリカやNATOのタカ派の陰謀をすべて無効にしてしまった。プーチンは、新たなミサイルや軍事基地が国境の周囲にほぼ確実に出現することを彼らに許してしまった。
  • 最後に、平和のための闘いは、すべてのロシア人の愛国的義務である。私たちは、歴史上最も恐ろしい戦争の記憶の保持者であるからだけではない。しかし、この戦争はロシアの完全性と存在そのものを脅かしているからでもある。

プーチンは、自分の運命をわが国の運命と緊密に結びつけようとしている。もし彼の思い通りになれば、彼の敗北は必然であり、国家全体の敗北となるだろう。そして、戦後のドイツのような運命が本当に待っていることになる。占領、領土分割、集団的罪悪感のカルト化である。

これらの災厄を防ぐ方法はただ一つである。戦争は、私たち自身によって、つまりロシアの男性と女性によって止められなければならない。この国は私たちのものであり、宮殿やヨットを持つ一握りの狂気の老人たちのものではない。取り戻すときが来たのだ。我々の敵は、キエフやオデッサではなく、モスクワにいる。彼らをそこから追い出す時が来たのだ。戦争はロシアではない。戦争はプーチンとその政権である。したがって、我々、ロシアの社会主義者、共産主義者は、この犯罪的な戦争に反対している。ロシアを救うために、プーチンを止めたいのだ。

介入するな!

独裁は許さない!

貧困はいらない!

下訳にDeepLを用いました。

Манифест коалиции «Социалисты против войны»

March 03, 2022

Эта власть держалась на обещаниях мира и стабильности, а в итоге привела страну к войне и экономической катастрофе. 

Как и любая другая война в истории, нынешняя делит всех на две партии: за и против. Кремлевская пропаганда пытается убедить нас, что вся нация сплотилась вокруг власти. А за мир борются жалкие отщепенцы, прозападные либералы и наемники внешнего врага. Это полностью несостоятельная ложь. На этот раз кремлевские старцы оказались в меньшинстве. Братоубийственной войны не хочет большинство россиян, даже среди тех, кто все еще доверяет российской власти. Они изо всех сил закрывают глаза, чтобы не видеть, как разваливается мир, нарисованный пропагандистами. Они еще надеются, что происходящее не война, тем более не агрессивная, а «специальная операция», призванная «освободить» украинский народ. Страшные кадры жестоких бомбежек и обстрелов городов скоро уничтожат эти мифы. И тогда даже самые верные избиратели Путина скажут: мы не давали вам согласия на эту несправедливую войну!

Но уже сейчас по всей стране десятки миллионов людей испытывают ужас и отвращение от того, что делает путинская администрация. Это люди разных убеждений. Большинство из них вовсе никакие не либералы, как утверждают пропагандисты. Среди них очень много людей левых, социалистических или коммунистических взглядов. И разумеется, эти люди – большинство нашего народа – искренние патриоты нашей Родины. 

Нам врут, что противники этой войны – лицемеры. Что они выступают не против войны, а лишь в поддержку Запада. Это – ложь. Мы никогда не были сторонниками США и их империалистической политики. Когда украинские войска обстреливали Донецк и Луганск, мы – не молчали. Не будем молчать и сейчас, когда Харьков, Киев и Одессу бомбят по приказу Путина и его камарильи.

Существует очень много причин бороться против войны. Для нас, сторонников социальной справедливости, равенства и свободы, несколько из них особенно важны.

– Это несправедливая, захватническая война. Не существовало и не существует такой угрозы российскому государству, ради которой нужно было отправлять наших солдат убивать и умирать. Сегодня они никого не «освобождают». Не помогают никакому народному движению. Просто регулярная армия разносит в щепки мирные украинские города по приказу горстки миллиардеров, мечтающих сохранить свою власть над Россией навеки.

– Эта война ведет к неисчислимым бедствиям для наших народов. И украинцы, и русские дорого платят за нее своей кровью. Но даже далеко в тылу нищета, инфляция, безработица коснется каждого. Платить по счетам будут не олигархи и чиновники, а нищие учителя, рабочие, пенсионеры и безработные. Многим из нас будет нечем кормить детей. 

– Эта война превратит Украину в руины, а Россию в одну большую тюрьму. Оппозиционные СМИ уже закрыты. За листовки, безобидные пикеты, даже за посты в социальных сетях людей бросают за решетку. Скоро у россиян останется только один выбор: между тюрьмой и военкоматом. Война несет с собой такую диктатуру, которой живущие поколения еще не видели.

– Эта война в разы увеличивает все риски и угрозы для нашей страны. Даже те украинцы, которые еще неделю назад симпатизировали России, теперь записываются в ополчение, чтобы сражаться с нашими войсками. Своей агрессией Путин обнулил все преступления украинских националистов, все интриги американских и натовских ястребов. Путин дал им в руки такие аргументы, что по периметру наших границ почти наверняка появятся новые ракеты и военные базы. 

– Наконец, борьба за мир – это патриотический долг каждого россиянина. Не только потому, что мы – хранители памяти о самой страшной войне в истории. Но и потому, что эта война угрожает целостности и самому существованию России. 

Путин пытается намертво связать свою собственную судьбу с судьбой нашей страны. Если ему это удастся, то его неизбежное поражение станет поражением всей нации. И тогда нас действительно может ждать судьба послевоенной Германии: оккупация, территориальный раздел, культ коллективной вины.

Есть только один способ предотвратить эти катастрофы. Войну должны прекратить мы сами – мужчины и женщины России. Эта страна принадлежит нам, а не горстке обезумевших стариков с дворцами и яхтами. Пора вернуть ее себе. Наши враги не в Киеве и Одессе, а в Москве. Пора выгнать их оттуда. Война – это не Россия. Война – это Путин и его режим. Поэтому мы, российские социалисты и коммунисты против этой преступной войны. Мы хотим остановить ее, чтобы спасти Россию. 

Нет интервенции!

Нет диктатуре!

Нет нищете!

Коалиция «Социалисты против войны»

ウクライナの戦争と新帝国主義に反対する。虐げられた人々との連帯の手紙

(訳者前書き)以下は、東欧の批判的左翼による優れた論評を掲載してきたLEFTEASTに掲載された論文の翻訳。著者のキルンは、ヨーロッパ世界が突然ウクライナ難民への門戸を開放する政策をとったことの背景にある「ヨーロッパ」と非ヨーロッパの間に引かれている構造的な排除に内在する戦争の問題を的確に指摘している。ヨーロッパが繰り返し引き起こしてきた戦争がもたらした難民には門戸を閉ざしているにもかかわらず、なぜウクライナはそうではないのか。ヨーロッパのレイシズムがここには伏在しているという。同時に、左翼が、ナショナリズムの罠に陥ることなく、国境や民族を越えて資本主義批判の原則を立てうるかどうかが試されているとも言う。ロシアにも米英EUにも与しない国際的な連帯を、ウクライナの問題としてだけではなく、欧米もロシアも仕掛けてきたグローバルサウスにおける戦争の問題を視野に入れて新たな階級闘争の理論化が必要だとも指摘している。私がこれまで読んできた論文のなかで共感できるところの多いもののひとつだ。(小倉利丸)


ガル・キルン著
投稿日
2022年3月10日

ウクライナの国旗の色で書かれた落書き。「ピース・ラブ」 [Photo Credit: Loco Steve, Flickr].

COVID-19の大流行による長い冬が終わり、初めて垣間見える春の訪れのなかで、新たな流血が目撃されるようになっている。ロシアによるウクライナへの侵攻と戦争が1週間以上続き、国際関係の断絶を否定できない時期が続いていることを私たちは目の当たりにした。地上、サイバースペース、国際空間において、信じられないほど速いスピードで事態が動いている。ウクライナへの侵攻は、NATOや米国政府によって数カ月前から予告されていたにもかかわらず、あらゆる戦争がそうであるように、多くの人々を驚かせた。キプロスや旧ユーゴスラビアでの戦争を除けば、ヨーロッパが戦争を経験したのは1945年以降初めてだと言う人さえいる。より広い視野に立てば、今週は、少数の超大国だけが小国や人々の将来を決定するという、一見すると過去の冷戦―熱戦の帝国主義的パラダイムへの回帰と呼ぶこともできる。このパラダイムは、冷戦のみならず、第一次世界大戦前のヨーロッパの大帝国間のグローバルな競争の時代にも明らかであった。冷戦だけでなく、第一次世界大戦前のヨーロッパ大帝国の世界的な競争時代にも見られたパラダイムである。例えば、プーチンはしばしば新しいヒトラーとして描かれ、彼自身もウクライナ政府を「ナチス化」だと描いている。どちらの同一視も誤りではあるが、1939年と第二次世界大戦の始まりとの類推が強まっていることを示している。むしろ、1914年の第一次世界大戦の勃発の方が、歴史的なアナロジーとしてふさわしい。しかし、戦争が地域的に収まったとしても、1991年以降の旧ユーゴスラビアにおける紛争や、過去20年間のポストソビエトの文脈でロシアの政治・軍事機構が行った一連の戦争を連想させるようになるかもしれない。この戦争は、ロシア的ミールの文明空間としてドゥーギンの新ファシズムの思想を体現している。おそらく、ようやく死につつある歴史的イメージはヨーロッパだけでなく、南半球の一部でも「解放」/「英雄」国家としてのロシアのイメージである。

批判的で唯物論的な分析を主張するならば、歴史を心理学的に分析し、ある人格(ここではプーチン)を病理学的に分析するという、メディアを通じてしばしば繰り返される言葉の綾には反対せざるを得ない。プーチンのイデオロギー装置は、少なくとも外交政策においては、アメリカによる世界支配に反対するという、ますます説得力のない反帝国主義のスタンスを必死になって主張してきたことは注目に値する。シリアは、主要超大国の最初の大きなにらみ合い、つまり代理戦争となった。それ以外ではISILに対する共通の戦いで結束しているにもかかわらず、である。この現在のロシアの「反帝国主義」姿勢は、第二次世界大戦中のソ連に遡り、反植民地闘争によって部分的に担われつつ長いこと議論の的になってきたイデオロギーに基づくものだ。 ソ連は、ファシズムに対する現実的で血なまぐさい闘いに基づいて、自らを国際的な反ファシスト闘争の象徴として宣伝することができた。この遺産は、戦後ヨーロッパの公式の記憶の礎となっていた。しかし、反ファシズムは、反全体主義のイデオロギーと、EUの特殊な記憶政治に取って代わられることになった。反全体主義とは、主に(新たな)ナショナリズムと反共産主義に基づくもので、ロシア(「旧ソ連」)が第一の敵となり、ファシズムの過去はホロコーストの追憶に還元されることになった。この記憶の転換は、今日も西側諸国における反ロシアの立場に影響を与え続けている。

ウクライナ戦争によって、反帝国主義・反ファシスト闘争の継承者として自らを提示するロシアのイデオロギー的な遮蔽(ドネツク地方でこれに言及することは偶然ではない)は、ついに枯れ果てた(願わくば、あまりにも長い間「反西洋」または「反米」の外観をロマンティックに描いてきた左翼も、願わくはそうであってほしい)。はっきりさせておきたいのは、プーチンはいかなる約束も、「より良い世界」のイメージさえも提供していないことである。ロシアでは、間違いなく、反ファシズム、左翼、民主的な反対派をすでに押しつぶし、もし許されるなら、ロシアの外でも同じことをするだろうということだ。左翼の新たな課題の一つは、「愚か者たちの反帝国主義」と呼ばれてきたもので今やついに息切れしてしまったアメリカの覇権主義に反対する権威主義的指導者たちに対する古い左翼のロマン主義を振り払うことである。

今日、私たちはどこに希望の光を指し示すことができるのか、また指し示すべきなのだろうか。この論文のタイトルが示すように、私たちの希望はウクライナやロシア、そしてそれ以外の国々の抑圧された人々に託されるべきものだ。つまり、ロシアや他の場所での戦争に反対する意志と希望を持っている人々、今日ウクライナで命をかけて戦う人々、自分自身を守る人々、戦場から逃げてくる人々との連帯ネットワークを組織するボランティア、そして戦争によるエスニシティの武器化にもかかわらず、社会変革と平和のプロジェクトに深く献身しているすべての人々である。

しかし、このような希望を明確にするためには、この特別な戦争を始めたのが誰であるかを明確にする必要がある。私は、この批判的な左翼の立場が、地政学的にアメリカの覇権主義に加担する新しいヨーロッパに関する主流のリベラルと保守のコンセンサスに吸収される必要はないと主張したい(『New Left Review』のWolfgang Streeckの論文を参照されたい)。左翼は、迫り来る環境と社会の破局がますます顕著になる世界において、反戦の遺産とその将来の地平を省みる必要がある。このような風潮は、デフォルトで恐怖と不安を中心に動員される。恐怖、不安、絶望は、人間の自然な反応や原動力ではなく、数十年にわたる新自由主義的改革と2年間のパンデミックの後、大きく不安定化した社会構造が有する徴候だ。この絶望の高まりが、ディストピアの地平線、戦争への明確で短絡的な道筋を提供している。今や、世界中の多くの人々にとって、大規模な世界大戦が(あらゆる)紛争に対するあたりまえの答えであるようにさえ思えてきた。NATOとEUの加盟国が最近発表したヨーロッパの再軍事化には、戦争のラッパが強く鳴り響いている。ドイツの現政権は、2022年に1000億ユーロ(ロシアの3倍)というこれまでで最も野心的な軍事予算を提案し、この点で先導的な役割を担っている。このように軍需産業と軍に現金を投入することで、ドイツは今後数年間、軍事的攻勢をかける勢力に変貌していくだろう。そして、より多くの武器への要求が、石油産業や軍需産業の大喝采を招きつつも、軍事化は、より大きな安定をもたらすことも戦争を防ぐことも決してないというかつての常識を拭い去っている。

では、今日および将来の寡頭政治的、地政学的戦争にどう対処すればよいのだろうか。手短に言えば、ロシア軍がこの戦争を直ちに停止し、いわゆる超大国がひとつのテーブルに着いて、ウクライナの将来について議論することである。その一方で、より長い回答の一部ではあるが、非軍事化の未来のための立場を明確にすることがこれまで以上に必要である。これは、人種やネーションの線引きではなく、むしろ階級的認識と反帝国主義であり、今再び非同盟である。全世界の指導者、特にEUの軍国主義の高まりを応援するのではなく、非軍国主義化と軍拡競争の終結を応援すべきなのは確かであろう。この戦争と将来の戦争の終結を考えるには、平和のパラダイムを理論的、政治的に考え直す必要がある。バリバールがかつて書いたように、西洋の政治哲学全体が戦争によって深く刻み込まれてきたとすれば、これを平和のパラダイムへと方向転換するときが来たのである。軍事ブロックや超大国を超えた積極的中立の政治を推進し、非同盟運動や反帝国主義闘争の遺産を再考することが、今すぐできる具体的な措置であろう。

最後に、公然と人種差別的、民族主義的な政策を押し付けることによって状況を武器化し、ヨーロッパの現実にとって危険が高まっている2つの警告のサインを指摘することによって、結論としたい。この2つの警告は、「白い」西欧文明空間を優先させ、ある生命が他の生命よりも重要であると繰り返す道徳の二重基準を呼び起こす二つの憂慮すべき傾向を示している。

第一に、EUが単純に、突然、難民を受け入れているのを見るのは悲劇的である。公然と保守的な政治家たちは、この変化を「自然なこと」として受け入れ、現在のウクライナからの難民は同じ「文化的」「文明的」な場所から来ているのだと述べる。しかし、ウクライナ以外の場所から来た難民は全く異なる扱いを被りつづけている。シェンゲンの国境では、武装した沿岸警備隊、有刺鉄線、警棒、拷問などで出迎え、また、2022年以前、一部のヨーロッパ政府は、公然と参戦した地域(特にアフガニスタン)からの人々に対して、反難民・反移民の風潮があったことは注目すべきだ。神聖なEUにやってくる人々は、疑わしい、我々の文化に対する潜在的な脅威とみなされ、ある人々にはイスラム過激派やテロリストとさえ映った。反移民、反難民の政策やレトリックは、EUをはるかに過激で保守的な空間にし、ヨーロッパ内から難民がやってきたらヨーロッパのオルバンやヤンシャがみなあっという間に難民推進派になり、国境を開放し、戦争で荒廃したインフラに資金を提供することを認めたのだ。言うまでもなく、連帯は、自分たちの「Blut und Boden」文明分化にとってより都合のよい、ある「タイプ」の難民だけに留保されるものではない。だから、現場でも議会でも、左翼にとっては、今こそ難民や移民をもっと受け入れるアプローチを推し進め、イエメンやソマリア、アフガニスタン、シリアからの人々にも、今ウクライナからの人々に与えられているのと同じ援助を与え、そこでも戦争を止めるために同じだけの労力を発揮する時なのである。

第二に、今回の制裁は、ロシアの産業界や一部のオリガルヒまで対象として、急ピッチで実施されたことである。しかし、私たちは公然と検閲する時代に入り、敵との関連や遺産からあらゆる空間を浄化/純化することを目的とするキャンセルカルチャー2.0に突入している。しかし、この敵がどのように定義されているかは重要な問題である。パスポートを理由に誰かを排除することを目的とした制裁がさらに強化されれば、これは悪影響を及ぼし、おそらく我々の社会の軍事化と不安定化を長引かせることになるのは周知の事実である。戦争を止めるというよりも、このようなキャンセルや制裁は現在、プーチンの権威主義を強化し、「ロシア」の統一と自己破壊に手を貸し、それまで暗黙あるいは公然と彼を批判してきた人々の多くにマイナスの影響を及ぼす。「私たちの側」「私たちに反対する側」の人たちの間のどこで線を引くのか(一部の文化施設では、チャイコフスキーやドストエフスキーなど、ロシアの芸術家の演劇やコンサートをレパートリーから外すことさえしている)。これは、ファシスト思想家カール・シュミットが精緻に描いた、友/敵の人種的論理である。私たちは、すべての寡頭政治家、そして「自由世界」のすべての指導者に対しても、階級意識と反帝国の立場を実践しつつ彼らの戦争と占領に反対して階級の次元で染めあげるような基準を課す準備ができているのだろうか。彼らの戦争犯罪のリスト増えつづけ、終わりがない。今こそ、上述したような平等な倫理を課すのか、それとも単に、このヘゲモン/帝国権力に沿って従っていくのかを決める時ではないか。後者の場合、将来の戦争の再生産は間違いなく起きる。前者の場合、私たちは非軍事化の地平に基づく世界のビジョンを明示するチャンスを得る。

ロシア当局が主導するこの恐ろしい戦争とそれがもたらすであろう影響に照らして、怒り、不安、恐怖、さらには絶望を感じるのは普通のことだ。同時に、批判的な左翼は、道徳的で人種化された自由主義者や保守主義者のコンセンサスに基づいてヨーロッパを統一しようとする安易な努力と歩調を合わせるべきではない。戦争はしばしばイデオロギー的言説をヘゲモニー化し、右傾化させる。厳密な国家/人種化された枠組みの強化にこの領域を委ねることには意味がない。私たちは、抑圧された人々との連帯に参加し、反戦キャンペーンを組織し、国旗を越えて互いに支え合う方法を見出す必要がある。未来の平和のために本当に組織化するためには、非軍事化をエコロジーや社会正義の問題と結びつけることが必要なのだ。

リュブリャナ大学の研究員で、ユーゴスラビア崩壊後の移行期に関する研究プロジェクトを主導。また、国際研究グループPartisan Resistances(グルノーブル大学)の一員でもあり、スロベニアでは左派(Levica)党員である。

下訳にDeepLを用いました。

戦争とアナキスト:ウクライナにおける反権威主義の視点


(訳者まえがき)この論文は、アナキストのサイトCrimethIncに掲載された論文。2014年以降のウクライナの民衆運動をアナキストの観点から分析している。商業メディアや国主導のメディアはどこの国であれ、戦争を常に国家と国家の武力行使として捉え、国のなかに存在する多様な異論を無視する。国家の視線は、いつのまにか多様なはずの大衆を「国民」という心情に統合し、自らを国家と同一化して「戦争」を論じるような言論空間を作り出す。ウクライナも例外ではないが、以下の文章にあるように、ウクライナはひとつではない。西側の支配者たちにとって好都合なウクライナ、ロシアの支配者にとって好都合な別のウクライナがあり、それらがメディアを席巻しているが、そのどちらでもないウクライナがある。このどちらでもないウクライナは、まさに、ウクライナという国家と社会システムが抱えてきた矛盾の歴史を体現しており、それ自体が闘争の構造をなしている。スターリン主義とナチズムによる弾圧、そして資本主義化のなかで旧ソ連、東欧圏の反体制運動は、三重の弾圧を経験してきた。この意味でアナキズムが反体制運動に占める格別の位置があると思う。ウクライナのアナキストたちが直面した思想的な試練は、明かな侵略者を前にして、この侵略者とどう対峙するかという問いは、無傷では答えられない問いであることが以下の文章からもわかる。戦うとすれば、ウクライナの腐敗した政府や極右の武装集団との連携は避けられない。他方で、戦わないという選択は、侵略を肯定することであり権力の増殖を許すことでもあり、それ自体もまた権力の否定への道を自ら閉すことになる。彼らが直面した選択肢の問題は、言うまでもなく私たちの選択の問題でもある。日本にいる私自身に即していえば、常備軍を持つことを否定し、武力による解決を放棄しているハズのこの国で、国家間の武力行使の問題に武力をもってこの国の「軍隊」と肩を並べて、この国が「敵」と呼ぶ相手に銃口を向けるという選択肢は。私には「ない」。だからといってウクライナで抵抗する人々にも同じ選択肢をとるべきだということは言えない。私たちが抱えてきた「戦後」の課題、つまり国家を武装解除することを大前提とした社会構築という課題は、私たちの課題であって、彼らとの共通の課題だということはできないからだ。

なお、この論文に対してアナキストの間で批判もある。Fighter Anarchistは、全体として分析に高い評価を与えつつも、いくつかの論点で異論を提起している。ウクライナの社会構造への分析がないこと、たとえば「マイダン後のヴェルホヴナ議会は、ロシア語の使用を制限することを目的とした法案No.5670-dによって、「ロシア世界」の代表者に切り札を与えてしまった」こと、クリミアが新自由主義政策のなかで貧困問題を抱えてきたことなどを指摘している。アナキスト運動が与えた影響の評価にも異論が述べられている。こうした異論があることをCrimethInc自身が紹介していることは議論をオープンに受けいれる姿勢として好感がもてる。(小倉利丸)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

この記事は、ウクライナの社会運動参加者が、過去9年間にそこで繰り広げられた困難な出来事をどのように見ているかという文脈を与えるために、ウクライナのアナキストによって書かれたものである。私たちは、世界中の人々にとって、彼らが以下に述べる出来事と、それらの展開がもたらす疑問と取り組むことが重要であると信じている。この文章は、私たちがこれまでに発表したウクライナロシアの他の視点との関連で読まれるべきものだ。


この文章は、ウクライナのアクティブな反権威主義活動家数名によって構成された。我々は一つの組織を代表しているわけではないが、この文章を書きつつ起こりうる戦争に備えるために集まったのである。

私たちの他に、文章に書かれている出来事の参加者、私たちの主張の正確さをチェックしたジャーナリスト、ロシア、ベラルーシ、ヨーロッパのアナーキストなど10人以上によってこの文章は編集された。できるだけ客観的な文章を書くために、多くの修正や説明や論点の明確化をおこなった。

戦争が勃発した場合、反権威主義運動が生き残れるかどうかはわからないが、私たちはそうなるように努力する。とりあえず、この文章は、私たちが蓄積してきた経験をネット上に残すための試みである。


現在、世界ではロシアとウクライナの戦争の可能性が盛んに議論されている。まずロシアとウクライナの戦争は、2014年から続いていることを明らかにしておく必要がある。

しかし、その前に。

キエフのマイダン抗議運動

2013年、ウクライナでは、当時のヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領がEUとの協定に署名しないことに不満を持つ学生デモ隊に対するベルクトBerkut(警察の特殊部隊)の暴行をきっかけに、大規模な抗議活動が始まった。この暴行事件は、社会の多くの層に行動を喚起するものとなった。ヤヌコビッチ大統領が一線を越えたことは、誰の目にも明らかだった。この抗議運動は、最終的に大統領の逃亡につながった。

ウクライナでは、これらの出来事は “尊厳の革命 “と呼ばれている。ロシア政府は、ナチスのクーデター、アメリカ国務省のプロジェクトなどと表現している。デモ参加者自体は、シンボルを掲げた極右活動家、ヨーロッパの価値観やヨーロッパ統合について語るリベラルな指導者、政府に反対して出かけた普通のウクライナ人、少数の左翼など、雑多な人々であった。デモ参加者の間では反オリガルヒ的な感情が支配的であり、ヤヌコヴィッチがその任期中に側近とともに大企業を独占しようとしたため、それを快く思わないオリガルヒがデモに資金を提供した。つまり、他のオリガルヒにとっては、今回のデモは自分たちのビジネスを守るチャンスだったのである。また、中堅・中小企業の代表の多くは、ヤヌコビッチ一派が彼らに金を要求して自由に商売をすることを許さなかったために、抗議行動に参加した。一般市民は、警察の著しい腐敗や恣意的な行為に不満を抱いていた。親ロシア派の政治家であることを理由にヤヌコビッチに反対していたナショナリストたちが、再び幅をきかせるようになった。ベラルーシやロシアの国外居住者は、ヤヌコヴィッチがベラルーシやロシアの独裁者アレクサンドル・ルカシェンコやウラジミール・プーチンの友人であると認識して抗議行動に参加した。

マイダン集会のビデオをご覧になった方は、非常に暴力的であることに気づいたかもしれない。デモ隊は引き揚げる場所がないため、最後まで闘うしかなかった。ベルクトはスタングレネード[音や光で一時的に混乱させることで戦闘不可能にする装備]にスクリューナットを巻いていて、爆発した後に破片が目に入ったりして、負傷者が続出した。終盤、治安部隊は軍事兵器を使用し、106人のデモ隊を殺害した。

これに対し、デモ隊はDIYで手榴弾や爆発物を作り、マイダンに銃器を持ち込んだ。ちょっとした分業体制で火炎瓶が製造された。

2014年のマイダン抗議デモでは、当局は傭兵(titushkas)を使い、彼らに武器を与え、調整し、組織的な忠誠勢力として使おうとした。彼らとの棍棒やハンマー、ナイフを使った戦いがあった。

マイダンは「EUとNATOが操作したもお」であるという意見に反して、欧州統合支持者は平和的な抗議行動を呼びかけ、戦闘的な抗議者たちを手先だと揶揄していた。EUと米国は、政府ビルの占拠を批判した。もちろん、「親欧米」の勢力や組織も抗議行動に参加したが、彼らが抗議行動全体をコントロールしたわけではない。極右を含むさまざまな政治勢力が積極的に運動に介入し、自分たちのアジェンダを指示しようとした。彼らはすぐにとるべきスタンスを確認し、最初の戦闘分遣隊を作り、皆に参加を呼びかけ、訓練と指導を行った結果として、組織的な勢力になった。

しかし、どの勢力も絶対的な支配力を持つことはなかった。主な傾向は、腐敗し不人気なヤヌコビッチ政権に向けられた自然発生的な抗議動員であったということだ。おそらくマイダンは、数ある “盗まれた革命 “のひとつに分類できるだろう。何万人もの一般市民の犠牲と努力は、権力と経済を支配する道を歩む一握りの政治家によって簒奪されたのである。

2014年の抗議活動におけるアナーキストの役割

ウクライナのアナキストには長い歴史があるにもかかわらず、スターリンの時代には、アナキストと何らかの形でつながった者はみな弾圧され、運動は消滅し、結果として革命的経験の伝達も途絶えてしまった。1980年代に歴史家たちの努力によって運動は回復し始め、2000年代にはサブカルチャーや反ファシズムの発展によって大きな盛り上がりを見せた。しかし、2014年当時、それはまだ深刻な歴史的課題に対応できる状態ではなかった。

デモが始まる前、アナーキストは個人の活動家であったり、小さなグループに散らばっていたりしていた。運動が組織化され、革命的であるべきだと主張する者はほとんどいなかった。このような出来事に備えていたよく知られている組織としては、マフノ・アナルコ・シンジカリスト革命同盟(RCAS of Makhno)があったが、暴動の始まりに、参加者が新しい状況に対する戦略を立てられなかったため、解散してしまった。

マイダンの出来事は、特殊部隊が家に押し入り、決定的な行動をとらなければならないのに、自分の武器はパンクの歌詞、菜食主義、100年前の本、せいぜい街頭での反ファシズムや地域の社会紛争に参加した経験だけ、といった状況のようなものだった。その結果、人々は何が起こっているのかを理解しようとするなかで、多くの混乱が生じた。

当時は、状況に対する統一的なビジョンを形成することは不可能だった。多くのアナーキストたちが、ナチスとバリケードの同じ側に立つことを望まず、抗議行動を支持しない判断をしたのは、極右勢力の存在による。このことは、デモに参加することを決めた人たちをファシズムと非難する人たちもいて、運動に多くの論争をもたらした。

デモに参加したアナーキストたちは、警察の蛮行やヤヌコビッチ自身や彼の親ロシア的な立場に対して不満を抱いていた。しかし、彼らは本質的にアウトサイダーの範疇にあったため、デモに大きな影響を与えることはできなかった。

結局、アナーキストたちはマイダン革命に個人または小グループで、主にボランティア/非軍事的な取り組みに参加した。しばらくして、彼らは協力して自分たちの「百人組」(60〜100人の戦闘グループ)を作ることにした。しかし、分遣隊detachment の登録(マイダンでは必須の手続き)の際、多勢に無勢のアナキストたちは、武器を持った極右の参加者たちによって排除された。アナキストたちは存続し続けはしたものの、もはや大規模な組織的集団を作ろうとはしなかった。

マイダンで殺された者の中には、皮肉にもその死後にウクライナの英雄とされたアナーキスト、セルゲイ・ケムスキーがいた。彼は、治安部隊との対立が激しくなった局面で、狙撃手に撃たれたのである。抗議デモの最中、セルゲイは「聞こえるか、マイダン」と題する抗議文を出し、その中で、直接民主主義と社会変革を強調しながら、革命を発展させる可能な方法を論じている。この文章は、こちらで英語版をご覧いただけます。

アナーキスト部隊の集結。

戦争の始まり:クリミア併合

ロシアとの武力衝突は、8年前の2014年2月26日から27日の夜、クリミア議会議事堂と閣僚理事会が正体不明の武装集団に占拠されたことから始まった。彼らはロシアの武器、制服、装備を使っていたが、ロシア軍のシンボルは持っていなかった。プーチンはこの作戦にロシア軍が参加した事実を認めなかったが、後にドキュメンタリー宣伝映画「クリミア:祖国への道」の中で自ら認めている。

2014年3月9日、クリミアでウクライナ軍部隊を阻止する記章のない制服を着た武装した男たち。

ここで、ヤヌコビッチの時代、ウクライナ軍の状態が劣悪だったことを理解する必要がある。クリミアで22万人のロシア正規軍が活動していることを知っていながら、ウクライナ臨時政府はあえてそれに立ち向かおうとはしなかった。

占領後、多くの住民が今日まで続く弾圧に直面した。弾圧された人々の中に私たちの同志もまた含まれている。最も有名なケースをいくつか簡単に振り返ることができる。アナキストのアレクサンドル・コルチェンコは、民主化運動家のオレグ・センソフとともに逮捕され、2014年5月16日にロシアに移送されたが、5年後、囚人交換の結果、釈放された。アナキストのアレクセイ・シェスタコビッチは拷問を受け、頭にビニール袋を被せられて窒息状態にされ、殴られ、報復の脅しを受けたが、何とか逃亡した。アナキストのエフゲニー・カラカシェフは2018年にVkontakte(ソーシャルネットワーク)への再投稿で逮捕され、現在も拘束されている。

囚人交換後のアナキストのアレクサンドル・コルチェンコ。

偽情報(ディスインフォメーション)

ロシア国境に近いロシア語圏の都市では、親ロシア派の集会が開催された。参加者はNATOや過激なナショナリスト、ロシア語圏の人々を標的にした弾圧を恐れていた。ソ連崩壊後、ウクライナ、ロシア、ベラルーシの多くの家庭には家族の絆があったが、マイダンの出来事は個人的な関係に深刻な裂け目を生じさせることになった。キエフの外にいてロシアのテレビを見ていた人たちは、キエフがナチスに占領され、そこでロシア語を話す人たちが粛清されていると思い込んでいた。

ロシアは、次のようなメッセージングでプロパガンダを展開した。「キエフからドネツクにナチスがやってきて、ロシア語圏の住民を粛清しようとしている(キエフもロシア語圏の都市のひとつだが)。偽情報の言説では、プロパガンダ担当者は極右の写真を使い、あらゆる種類のフェイクニュースを流した。戦争行為で最も悪名高いでっちあげび次にようなものがある。戦車にくくりつけられて道路を引きずられたとされる3歳の男の子の磔刑というものだ。ロシアでは、この話は連邦政府のチャンネルで放送され、インターネット上で広まった。

ロシアのチャンネルによるフェイクニュース。3歳児の処刑とはりつけを見たという女性がその様子を語る。

2014年、私たちの意見では、偽情報は武力紛争を発生させる上で重要な役割を果たた。ドネツクとルガンスクの一部の住民は、自分たちが殺されることを恐れ、武器を取り、プーチンの軍隊を呼び寄せた。

ウクライナ東部の武力紛争

「戦争の引き金が引かれた」、ロシア連邦保安庁(FSB、KGBの後継組織)の大佐であるイゴール・ガーキンの言葉だ。ロシア帝国主義の支持者であるガーキンは、親ロシア派の抗議を過激化させることを決意した。彼はロシア人の武装集団と国境を越え、スラビャンスクの内務省の建物を占拠して武器を手に入れた。(2014年4月12日)親ロシア派の治安部隊はガーキンと合流するようになった。ガーキンの武装集団に関する情報が明らかになると、ウクライナは反テロ作戦を発表した。

軍隊の能力が低いことをがわかると、ウクライナ社会の一部は、国家主権を守ろうと決意し、大規模な志願運動を組織した。ある程度軍事的能力のある者が教官となり、あるいは義勇軍の大隊を結成した。また、人道的なボランティアとして正規軍や義勇軍に参加する人々もいた。彼らは、武器、食料、弾薬、燃料、輸送、民間車のレンタルなどのために資金を調達した。義勇大隊の参加者は、しばしば国軍の兵士よりも優れた武装と装備を持っていた。これらの分遣隊は、かなりのレベルの連帯と自己組織化を示し、実際に領土防衛という国家機能を代替し、(当時は装備が貧弱だった)軍隊が敵にうまく対抗できるようにしたのである。

親ロシア派が支配する地域は急速に縮小し始めた。そこにロシア正規軍が介入してきた。

時系列で3つのポイントを挙げることができる。

1.ウクライナ軍は、武器やボランティア、軍事専門家がロシアからやってくることを認識した。そこで、2014年7月12日、ウクライナ・ロシア国境での作戦を開始した。しかし、軍事行軍中にウクライナ軍はロシアの大砲の攻撃を受け、作戦は失敗に終わった。武装勢力は大きな損失を被った。
2.ウクライナ軍はドネツクを占領しようとした。進軍中、イロヴァイスク付近でロシア正規軍に包囲された。義勇軍の大隊に所属していた私たちの知人も捕虜になった。彼らはロシア軍を目の当たりにしたのだ。3カ月後、捕虜交換で帰国することができた。
3.ウクライナ軍は、大きな鉄道の分岐点があるデバルツェフ市を制圧した。これにより、ドネツクとルガンスクを結ぶ直通道路は寸断された。長期停戦に向けたポロシェンカ(当時のウクライナ大統領)とプーチンの交渉の前夜、ロシア軍の支援を受けた部隊によりウクライナ陣地が攻撃された。ウクライナ軍は再び包囲され、大きな損害を被った。

2014年、イロヴァイスクで行動を行う義勇軍の戦闘員たち。

当面は(2022年2月現在)、停戦と条件付きの「平和と静寂」の秩序に合意し、一貫して違反があるものの維持されている。毎月数人が死亡している。

ロシアは、正規のロシア軍の存在と、ウクライナ当局が管理していない地域への武器の供給を否定している。捕虜になったロシア軍は、訓練のために警戒態勢を敷き、目的地に到着して初めて、自分たちがウクライナの戦争の真っ只中にいることに気づいたと主張している。国境を越える前に、彼らはクリミアで同僚たちがしたように、ロシア軍のシンボルを取り除いた。ロシアでジャーナリストたちが戦死した兵士の墓地を見つけたが、墓石に刻まれた碑文には2014年としか書かれておらず、彼らの死に関する情報はすべて不明だ。

未承認共和国の支持者たち

マイダンの反対派の思想的基盤も多様であった。主な統一思想は、警察への暴力への不満と、キエフでの暴動への反対であった。ロシアの文化的な物語や映画、音楽で育った人たちは、ロシア語の破壊を恐れていた。ソ連の支持者や第二次世界大戦の勝利の賛美者たちは、ウクライナはロシアと同盟を結ぶべきだと考え、過激なナショナリストの台頭を不満に思っていた。ロシア帝国の支持者たちは、マイダンの抗議行動をロシア帝国の領土に対する脅威と受け止めた。これらの同盟国の考えは、ソ連とロシア帝国の国旗、そして第二次世界大戦の勝利のシンボルであるセント・ジョージ・リボンを示すこの写真で説明することができるだろう。彼らを権威主義的な保守派、旧秩序の支持者として描くことができる。

ソ連、ロシア帝国、そして第二次世界大戦の勝利のシンボルであるセント・ジョージ・リボンの国旗。

親ロシア派は、ロシアに同調する警察、企業家、政治家、軍人、フェイクニュースに怯える一般市民、ロシア愛国主義者や各種君主主義者など様々な極右思想をもつ個人、親ロシア帝国主義者、タスクフォースグループ「ルシッチRusich」、PMC(民間軍事会社)グループ「ワグナーWagner」、悪名高いネオナチのアレクセイ・ミルチャコフAlexei Milchakov、最近亡くなった、排外主義のロシアナショナリストのメディアプロジェクト「スプートニクとポグロム」の創設者のエゴール・プロスビルニンEgor Prosvirnin、その他多くの人たちで構成されていた。タスクフォースグループ「ルシッチRusich」、PMC(民間軍事会社)グループ「ワグナーWagner」、悪名高いネオナチのアレクセイ・ミルチャコフAlexei Milchakov、最近亡くなった、排外主義のロシアナショナリズロのメディアプロジェクト「スプートニックとポグロム」の創設者のエゴール・プロスビルニンEgor Prosvirnin、その他多くの人たちが含まれている。また、ソ連と第二次世界大戦の勝利を称える権威主義的な左翼もいた。

ウクライナにおける極右勢力の台頭

説明したように、右翼は戦闘部隊を組織し、ベルクトと物理的に対決する準備を整えることで、マイダンの間に共感を得ることに成功した。彼らは武力を持つことで、独立性を維持し、他の者たちは、彼らを考慮に入れることを余儀なくされた。彼らが鉤十字、狼の鉤、ケルト十字、SSのロゴといったあからさまなファシズムのシンボルを使用していたにもかかわらず、ヤヌコヴィッチ政権の勢力と戦う必要性から、多くのウクライナ人が彼らとの協力を呼びかけ、彼らの信用を落とすことは困難だった。

マイダン後、右翼は親ロシア勢力の集会を積極的に弾圧した。軍事作戦が始まると、彼らは義勇軍を結成し始めた。最も有名なのは「アゾフ」大隊だ。当初は70人の戦闘員で構成されていたが、今では装甲車、大砲、戦車中隊、そしてNATOの基準に沿った軍学校の独立プロジェクトを持つ800人の連隊になっている。アゾフ大隊は、ウクライナ軍で最も戦闘力の高い部隊の一つである。このほか、ウクライナ義勇軍「右派セクターRight Sector」部隊やウクライナ・ナショナリスト組織the Organization of Ukrainian Nationalistsなどのファシスト軍団もあったが、あまり広く知られてはいない。

その結果、ウクライナの右翼はロシアのメディアで悪評を買った。しかし、ウクライナの多くの人々は、ロシアで嫌われているものをウクライナの闘争のシンボルだと考えていた。例えば、ロシアでは主にナチスの協力者として知られるナショナリスト、ステパン・バンデラStepan Banderaの名前は、デモ参加者が嘲笑の対象として積極的に使用した。また、ネットでユダヤ教・メソニック陰謀論の支持者に挑発的なメッセージを送るために、ユダヤ教・バンデラ派Judeo-Banderansを名乗る者もいた。

やがて、このような荒らしが極右の活動を活発化させるようになった。右翼は公然とナチスのシンボルを身につけ、マイダンの一般支持者は自分たちはロシアの赤ん坊を食べるバンデラ主義者だと主張し、そのような趣旨の情報をネットで拡散した。極右が主流派になり、テレビ番組や他の企業メディアのプラットフォームに招かれ、そこで愛国者、ナショナリズトとして紹介された。マイダンのリベラルな支持者たちは、ナチスはロシアのメディアが作り出したデマだと信じて、彼らの味方をした。2014年から2016年にかけては、ナチスであろうと、アナキストであろうと、組織犯罪シンジケートの幹部であろうと、公約を何一つ実行しない政治家であろうと、戦う覚悟のある者は誰でも受け入れられたのである。

鉤十字とNATO旗を持つ極右の戦闘員たち。アゾフ大隊はNATOに対して否定的な態度をとっている。現在、米国はアゾフに武器を譲渡していない。

極右台頭の理由は、危機的状況においてよりよく組織化され、他の反乱軍に効果的な戦闘方法を提案することができたからである。ベラルーシでもアナキストが同様のことを提供し、大衆の共感を得ることができたが、ウクライナでの極右のような大きな規模にはならなかった。

停戦が始まり、過激な戦闘員の必要性が低下した2017年までに、SBU(ウクライナ治安局)と州政府は「反システム」あるいは右翼運動の展開方法について独自の視点を持つオレクサンドル・ムジチコ、オレグ・ムジチル、ヤロスラフ・バビッチなどを投獄したり無力化したりして、右翼運動を引き込んだ。

現在も右翼は大きな運動ではあるが、その人気は小さいといってよく、指導者も保安庁や警察、政治家と関係があり、本当に独立した政治勢力とは言い難い。民主主義陣営では、極右の問題についての議論が頻繁に行われるようになり、人々は懸念を黙って否定するのではなく、自分たちが扱っているシンボルや組織について理解を深めている。

戦時中のアナキストと反ファシストの活動

軍事作戦の開始とともに、親ウクライナ派といわゆるDNR/LNR(「ドネツク人民共和国」「ルハンスク人民共和国」)支持派に分かれるようになった。

戦争の最初の数カ月間、パンク・シーンには「戦争にノーと言え」という感情が広がっていたが、それは長くは続かなかった。親ウクライナ派と親ロシア派を分析してみよう。

親ウクライナ派

大規模な組織がなかったため、最初のアナキストと反ファシストの志願者は、個人としての戦士、軍医、ボランティアとして個々に戦場に赴いた。彼らは自分たちの部隊を作ろうとしたが、知識も資源も不足していたため、この試みは失敗に終わった。中には、アゾフ大隊やOUN(ウクライナ・ナショナリスト組織)に参加する者もいた。理由はありふれたもので、最もアクセスしやすい部隊に入隊したのだ。その結果、右翼的な政治に転向する者もいた。

[編集部注:これらの出来事の詳細は分からないし、著者たちが全面的に戦争の渦中にいる間は確認することも難しいが、ファシストが組織する民兵に参加した反ファシストあるいは「アナキスト」とされる者は、そもそも本当のアナキストではなかったのは明らかであるが、私たちは、このパラグラフをそのまま維持する。それは、批判的であること、そして出来事の渦中にいる人々の声を中心に据えることが重要であると考えるからである。それについての私たち[CrimethInc]の考えは、ここで読むことができる] 。

デスナの右翼セクターの基地で訓練を受ける反ファシストたち。この写真には、武力紛争に参加したモスクワの反ファシスト2人が含まれていることに注目したい。

戦闘に参加しなかった人たちは、東部で負傷した人たちのリハビリや、前線近くにある幼稚園に防空壕を建設するための資金集めを行った。また、ハリコフには「自治Autonomy」という名のスクワットがあり、アナーキストの社会文化センターとして開放されていた。当時、彼らは難民の救済に力を注いでいた。彼らは住宅と恒久的な本当に自由な市場を提供し、新しく到着した人たちの相談に乗り、資源を案内し、教育活動も行いました。さらに、センターは理論的な議論の場となった。残念ながら、2018年、このプロジェクトは消滅した。

これらの行動はすべて、特定の人たちやグループの個人的な取り組みであり、一つの戦略の枠組みの中で起きたものではない。

この時期の最も重要な現象のひとつは、かつて大規模だった過激なナショナリスト組織「Autonomnyi Opir」(自治的抵抗)ダッた。彼らは2012年に左傾化し始め、2014年にはメンバー個人が “アナキスト “と自称するほど左傾化していた。彼らは自分たちのナショナリズムを「自由」のための闘争とし、サパティスタ運動とクルド人をロールモデルとして、ロシアのナショナリズムに対抗するものとしている。ウクライナ社会の他のプロジェクトと比較して、彼らは最も親密な同盟者と見なされたので、アナキストたちのなかには彼らに協力する者たちもいたが、また別の者たちはこの協力や組織自体を批判した。AOのメンバーはまた、志願大隊に積極的に参加し、軍人の間で「反帝国主義」の思想を発展させようとした。また、女性の戦争参加の権利も擁護し、女性隊員も戦闘に参加した。AOは戦闘員や医師を養成する訓練所を支援し、軍隊に志願し、リヴィウでは難民を収容する社会センター「シタデルCitadel」を組織した。

2014年、モスクワ。ロシアの侵略に反対して行進するアナキストたち。

親ロシア派

現代のロシア帝国主義は、ロシアがソ連の後継者であるという認識に基づいている。これは、政治体制においてではなく、領土においてである。プーチン政権は、第二次世界大戦におけるソ連の勝利を、ナチズムに対する思想的な勝利ではなく、ロシアの強さを示すヨーロッパに対する勝利とみなしている。ロシアやロシアが支配力を及ぼしている諸国では、人々が情報にアクセスすることが少ないため、プーチンのプロパガンダマシンは複雑な政治的概念をわざわざ作り出すこともない。そのシナリオは、基本的に次のようなものだ。アメリカとヨーロッパは強いソ連を恐れていた、ロシアはソ連の後継者であり、旧ソ連の全領土はロシアである、ロシアの戦車は[第二次大戦で]ベルリンに入った、だから同じことは「もう一度できる」、ここで誰が一番強いかをNATOに見せつける、ヨーロッパが「腐っている」のは、そこでゲイと移民がすべて手におえないからだ。

2014年、2015年にロシアで大人気だったステッカー。碑文には “We can do it again. “とある。

左翼の間で親ロシアの立場を維持するイデオロギー基盤は、ソ連と第二次世界大戦での勝利の遺産としてだ。ロシアは、キエフの政府がナチスとその軍に掌握されたと主張しているので、マイダンの反対派は自分たちを反ファシズム、反キエフ政権の闘士だと表現したのである。このブランド戦略は、権威主義的な左派-たとえばウクライナの「ボロトバBorotba」組織など-に共感を呼んだ。2014年の最も重要な出来事の際、彼らはまず革命に忠誠的な立場をとり、その後、親ロシア的な立場をとった。オデッサでは、2014年5月2日、彼らの活動家数名が街頭暴動で殺害された。また、ドネツク州やルガンスク州の戦闘にもこのグループが参加し、そこで死亡した者もいる。

“ボロトバ “は、自分たちの動機をファシズムと戦いたいからだと説明した。彼らはヨーロッパの左翼に、”ドネツク人民共和国 “と “ルハンスク人民共和国 “に連帯するよう促した。ウラジスラフ・スルコフVladislav Surkov(プーチンの政治戦略家)の電子メールがハッキングされて、ボロトバのメンバーがスルコフから資金提供を受け、スルコフの部下に監督されていたことが明らかにされた。

ロシアの権威主義的な共産主義者が離脱した共和国を受け入れたのも、同様の理由からである。

マイダンの極右支持者の存在も、非政治的な反ファシストたちに “DNR “や “LNR “を支持する動機を与えた。ここでも、彼らの一部はドネツク州やルガンスク州での戦闘に参加し、そこで命を落とした者もいた。

ウクライナの反ファシストの中には、「非政治的 」な反ファシスト、つまり 「祖父たちがそれと戦ったから」ファシズムに対して否定的な態度をとるというサブカルチャーに属する人たちがいた。彼らのファシズムに対する理解は抽象的で、彼ら自身、政治的に支離滅裂で、性差別主義で同性愛嫌悪でロシアへの愛国者、などということがよくあった。

いわゆる共和国を支持するという考えは、ヨーロッパの左翼の間で広く支持されるようになった。イタリアのロックバンド「バンダ・バソッティBanda Bassotti」やドイツの政党「ディ・リンケDie Linke」がその代表的な支持者である。バンダ・バソッティは資金集めのほか、「ノボロシアNovorossia」にも遠征した。欧州議会の一員であるディ・リンケは、あらゆる方法で親ロシア派のシナリオを支持し、親ロシア派過激派とのビデオ会議を手配し、クリミアや未承認共和国へも足を運んだ。ディ・リンケの若手メンバーやローザ・ルクセンブルク財団(ディ・リンケ党財団)は、こうした立場は参加者全員が共有しているわけではなく、サハラ・ワーゲンクネヒトSahra Wagenknechtやセヴィム・ダーデレンSevim Dağdelenといった党の最も著名なメンバーが流布させていると主張している。

2014年、ドネツクでのバンダ・バソッティ。

親ロシアの立場は、アナキストの間で人気を得ることはなかった。個人の発言では、アナキストのシンボルのタトゥーを入れたアメリカ出身の総合格闘技選手、ジェフ・モンソンJeff Monsonの立場が最も目立っていた。彼は以前は自分をアナキストだと思っていたが、ロシアでは公然と与党「統一ロシア」のために働き、ロシア下院の代議士を務めている。

親ロシア「左派」陣営を要約すると、ロシア特務機関の仕事と思想的無能力の結末が見えてくる。クリミア占領後、ロシア連邦保安庁の職員が地元の反ファシストやアナキストに接触し、活動の継続を許可するが、今後はクリミアがロシアの一部であるべきだという考えを扇動に盛り込むようにと話を持ちかけた。ウクライナには、反ファシストを標榜しながらも、本質的には親ロシア的な立場を表明する小規模な情報・活動グループがあり、ロシアのために活動しているのではないかと疑う人も少なくない。ウクライナではその影響力は小さいが、メンバーは “内部告発者 “としてロシアのプロパガンダに奉仕している。

また、ロシア大使館やイリヤ・キヴァIlya Kivaのような親ロシア派の国会議員から「協力」の申し出があることもある。彼らは、アゾフ大隊のようなナチスへの否定的な態度を利用しようとし、立場を変えれば金を出すといった提案する。今のところ、リタ・ボンダールRita Bondarだけがこのような方法で金を受け取ったことを公然と認めている。彼女はかつて左翼やアナキズムのメディアに書いていたが、金の必要性から、ロシアの扇動家ドミトリー・キゼレフDmitry Kiselevに属するメディアのプラットフォームにペンネームで書いたりした。

ロシア自身、アナキズム運動の排除と、反ファシズムのサブカルチャーからアナキズトを追い出す権威主義的共産主義者の台頭を目の当たりにしている。最近で最も示唆的なのは、2021年に “ソ連兵 “を追悼する反ファシスト大会が開催されたことだ。


ロシアとの本格的な戦争の危機はあるのか?アナーキストの立場

10年前、ヨーロッパで本格的な戦争が起こるという考えは、狂気の沙汰に思えた。21世紀の世俗的なヨーロッパ諸国は、「ヒューマニズム」を誇示し、彼らの犯罪を隠そうとしてきた。軍事行動を起こすにしても、ヨーロッパから遠く離れた場所で行う。しかし、ロシアといえば、クリミア占領とその後の偽の住民投票、ドンバス戦争、MH17便の墜落事故などを目撃している。ウクライナは、国の建物だけでなく、学校や幼稚園の中まで、ハッカー攻撃や爆破予告を常に経験している。

2020年のベラルーシでは、ルカシェンカが投票率80%という結果で選挙の勝利を宣言した。ベラルーシでの蜂起は、ベラルーシのプロパガンダ担当者のストライキにまで発展した。しかし、ロシア連邦保安庁の飛行機の到着後、状況は一変し、ベラルーシ政府は抗議デモを暴力的に制圧することに成功した。

カザフスタンでも同様のシナリオが展開されたが、そこではCSTO(集団安全保障条約機構)協力の一環として、ロシア、ベラルーシ、アルメニア、キルギスの正規軍が体制を支援し反乱鎮圧のために投入された。

ロシアの特務機関は、EUとの国境で紛争を起こすため、シリアからベラルーシに難民を引き入れた。また、ロシア連邦保安庁の中に、すでにおなじみの化学兵器 “ノビチョク “を使って政治的暗殺を行うグループがあったことも明らかになった。スクリパリ一家やナヴァルヌイ以外にも、ロシア国内の政治家を殺害している。プーチン政権は、あらゆる非難に対して、「我々はやってない、おまえたちは嘘をついている」と言う。一方、プーチン自身は半年前に 「ロシア人とウクライナ人は一つの国家であり、共にあるべきだ 」と主張する文章を書いている。ウラジスラフ・スルコフ Vladislav Surkov(ロシアの国家政策を構築する政治戦略家で、いわゆるDNRやLNRの傀儡政権とつながっている)は、「帝国は拡大されなければならない、さもなければ滅びる 」と宣言する文章を発表している。過去2年間、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンでは、抗議運動は残酷に弾圧され、独立系メディアや反対派メディアは破壊されている。ロシアの活動については、こちらで詳しく紹介しているので読むことをお勧めします。

総合的に判断して、本格的な戦争が起こる可能性は高く、昨年よりも今年の方がやや高い。しかし、鋭いアナリストでさえ、いつ戦争が始まるかを正確に予測することは不可能であろう。ロシアで革命が起これば、この地域の緊張は緩和されるかもしれないが、先に書いたように、ロシアでの抗議運動は封じ込められている。

ウクライナ、ベラルーシ、ロシアのアナキストたちは、ほとんどがウクライナの独立を直接または暗黙のうちに支持している。なぜなら、国家的ヒステリー、腐敗、多くのナチスがいるとしても、ロシアやその支配下にある国々に比べれば、ウクライナは自由の島のように見えるからである。大統領の交代制、名目以上の権力を持つ議会、平和的な集会の権利など、ポストソビエト地域特有の現象が残っており、社会からの注目度も加味して、裁判所が公言通りに機能することもある。これがロシアの状況より望ましいと言うのは、何も新しいことを言っているわけではない。バクーニンが書いたように、「最も不完全な共和国は、最も賢明な君主制よりも千倍も優れていると固く信じている」のである。

ウクライナ国内には多くの問題があるが、これらの問題はロシアの介入なしに解決する可能性の方が高い。

万が一、ロシア軍が侵攻してきた場合、戦う価値があるのだろうか?私たちは、その答えは「イエス」だと考えている。ウクライナのアナキストが現時点で考えている選択肢は、ウクライナ軍への入隊、領土防衛への従事、党派活動、ボランティア活動などだ。

ウクライナは今、ロシア帝国主義との闘いの最前線にある。ロシアは、ヨーロッパの民主主義を破壊する長期的な計画を持っている。私たちは、ヨーロッパにおけるこの危険性にまだほとんど注意が払われていないことを知っている。しかし、著名な政治家、極右組織、権威主義的共産主義者の発言を時系列で追っていけば、ヨーロッパにはすでに大規模なスパイ網が存在することに気づくだろう。たとえば、退任後にロシアの石油会社の役職に就く高官もいる(ゲルハルト・シュレーダーGerhard Schröder、フランソワ・フィヨンFrançois Fillon)。

私たちは、「戦争にノーと言おう」とか「帝国の戦争」というスローガンは、効果がなく、ポピュリスト的だと考えている。アナキスト運動はこのプロセスに何の影響も及ぼさないので、そのような声明は全く何の影響も与えない。

私たちの立場は、逃げ出したくない、人質になりたくない、戦わずして殺されたくないという事実に基づいている。アフガニスタンを見れば、「戦争反対」の意味がわかる。タリバンが進出すると、人々は一斉に逃げ出し、空港の混乱で死に、残った人々は粛清される。これはクリミアで起こっていることを描いてもおり、ウクライナの他の地域でロシアが侵攻した後に何が起こるかが想像できる。

2021年、アフガニスタン。タリバンから逃れるためにNATOの飛行機に乗り込もうとする人々。

NATOに対する態度については、この文章の執筆者は2つの立場に分かれている。この状況に対して、肯定的なアプローチをとる者もいる。ウクライナが自力でロシアに対抗できないことは明らかである。大規模なボランティア活動を考慮しても、近代的な技術や武器が必要である。NATOは別として、ウクライナにはそれを助けてくれる同盟国がない。

ここで、シリアのクルディスタンの話を思い出すことができる。現地の人々は、ISISに対抗するためにNATOに協力することを余儀なくされた。NATOからの支援は、西側諸国が新たな利益を得たり、プーチン大統領と妥協点を見出したりすれば、あっという間に消えてしまうことを私たちはよく理解している。現在でも、クルド自治区the Self-Administrationは、代替案がほとんどないことを理解しており、アサド政権に協力せざるを得ない。

ロシアの侵攻の可能性があると、ウクライナの民衆はモスクワとの戦いにおいて、ソーシャルメディア上ではなく、現実の世界で味方を探さざるを得なくなる。アナキストは、プーチン政権の侵略に効果的に対応するための十分な資源をウクライナや他の地域に持っていない。したがって、NATOからの支援を受け入れることを考えなければならない。

もう一つの立場は、この執筆グループの他のメンバーも支持していることだが、NATOもEUも、ウクライナでの影響力を強めることで、現在の「野生の資本主義」の体制を固め、社会革命の可能性をさらに低くしてしまうというものだ。NATOのリーダーであるアメリカを旗艦とするグローバル資本主義のシステムにおいて、ウクライナは、安価な労働力と資源の供給者という、謙虚な辺境という位置づけにある。したがって、ウクライナ社会は、あらゆる帝国主義からの独立の必要性を認識することが重要だ。国の防衛力という文脈では、NATOの技術や正規軍への支援の重要性ではなく、草の根ゲリラ抵抗向う社会の潜在力に重点を置くべきだ。

私たちは、この戦争を主にプーチンとその支配下にある政権に対するものと考えている。独裁者のもとで暮らしたくないというありふれた動機に加え、この地域で最も活動的で独立心が強く、反抗的なウクライナ社会に可能性を見出している。過去30年にわたる人々の長い抵抗の歴史が、その確かな証拠だ。したがって、ウクライナ社会は、あらゆる帝国主義からの独立の必要性を認識することが重要である。国の防衛力という文脈では、NATOの技術や正規軍への支援の重要性ではなく、草の根ゲリラ抵抗の社会の潜在力に重点を置くべきである。

私たちは、この戦争を主にプーチンとその支配下にある政権に対するものと考えている。独裁者のもとで暮らしたくないというありふれた動機に加え、この地域で最も活動的で独立心が強く、反抗的なウクライナ社会に可能性を見出しているのである。過去30年にわたる人々の長い抵抗の歴史が、その確かな証拠だ。このことは、直接民主制の概念がここに肥沃な土壌を持つという希望を私たちに与えてくれる。

ウクライナにおけるアナキストの現状と新たな課題

マイダンと戦争中のアウトサイダーという立場は、運動における士気低下効果があった。ロシアのプロパガンダが 「反ファシズム 」という言葉を独占したため、アウトリーチが阻害された。親ロシア派過激派の中にソ連のシンボルがあったため、「共産主義」という言葉に対する態度は極めて否定的で、「アナルココミュニズム」という組み合わせさえ否定的に受け止められた。親ウクライナの極右勢力に反対するという宣言は、一般庶民の目にはアナキストに疑いの影を投げかけた。ウルトラ右翼は、集会などでシンボルを掲げなければアナキストや反ファシストを攻撃しないという暗黙の了解があった。右翼は多くの武器を手にしていた。この状況はフラストレーションのようなものを生み出し、警察がうまく機能していないため、結果を出さずに誰かが簡単に殺される可能性があった。例えば、2015年には親ロシア派の活動家であるオレス・ブジナOles Buzinaが殺された。

こうしたことが、アナーキストたちがより真剣に問題に取り組むよう促した。

2016年から過激な地下活動が発展し始め、過激な行動に関するニュースが出始めた。火炎瓶だけに限定された旧来のものとは対照的に、武器の買い方や武器貯蔵庫の設置方法を説明する過激なアナキストの資料が登場した。

アナキストの世界では、合法的な武器を持つことが許容されるようになった。銃器を使用するアナキストの訓練キャンプのビデオが出回るようになった。

こうした変化の反響は、ロシアやベラルーシにも及んだ。ロシアでは、FSBが合法的な武器を持ち、エアソフトを練習していたアナキスト・グループのネットワークを一掃した。逮捕者は、テロ行為を自白させるために電気拷問を受け、6年から18年の刑に処された。ベラルーシでは、2020年の抗議デモの際、「黒旗」という名のアナキストの反乱グループが、ベラルーシとウクライナの国境を越えようとして拘束されたことがある。彼らは銃と手榴弾を持っていた。Igor Olinevichの証言によると、彼はキエフで武器を購入したとのことだ。

アナキストの反乱集団 “黒旗”

アナキストの経済的課題についての時代遅れのアプローチも変わった。以前は大多数が「被抑圧者に近い」低賃金の仕事に就いていたとすれば、今は多くの人が高給の仕事、多くはIT部門に就こうとしている。

街頭の反ファシスト団体も活動を再開し、ナチスの襲撃に際して報復行動をとっている。アンティファの戦士たちによる「No Surrender」という名の模擬戦闘競技を開催したり、キエフのアンティファ集団の誕生を描いたドキュメンタリー「Hoods」(英語字幕あり)をリリースしたりと、さまざまな活動を行っている。。

ウクライナにおける反ファシズムは重要な戦線である。なぜなら、地元の多数の極右活動家に加えて、ロシアから多くの悪名高いナチス(セルゲイ・コロトキフSergei Korotkikhやアレクセイ・レフキンAlexei Levkinなど)、ヨーロッパから(デニス「ホワイトレックス」カプースチンDenis “White Rex” Kapustinなど)、さらにはアメリカから(ロバート・ランドRobert Rando)移住してきたのである。アナキストたちは、極右の活動を調査してきた。

様々な種類の活動家グループ(古典的アナキスト、クィア・アナキスト、アナルコ・フェミニスト、フード・ノット・ボムズ、エコ・イニシアチブなど)や、小さな情報プラットフォームが存在する。最近では、テレグラムの@uantifaに、英語での出版物を複製した政治的な反ファシスト資料が登場した。

現在、グループ間の緊張関係は徐々に滑らかになりつつあり、最近では共同行動や社会的紛争への共同参加も多く見られるようになった。中でも、ベラルーシのアナーキスト、アレクセイ・ボレンコフAleksey Bolenkov の国外追放に反対するキャンペーン(彼はウクライナの特殊部隊との裁判に勝ち、ウクライナに残ることができた)や、キエフのある地区(ポディルPodil)を警察の襲撃や極右の攻撃から守ることなどは大きな出来事だった。

私たちはまだ社会全体にほとんど影響を及ぼしていない。これは、組織やアナキストの構造の必要性という考えそのものが、長い間無視されたり否定されたりしてきたことが大きな原因だ。(ネストル・マフノも回顧録の中で、アナーキストの敗北後、この欠点を訴えている)。アナーキストのグループは、SBU[ウクライナ治安維持局]や極右勢力によって、あっという間に破滅させられてしまった。

今、私たちは停滞を脱し、発展しつつあり、それゆえ、新たな弾圧やSBUによる運動の支配を狙う新たな試みが予想される。

現段階では、私たちの役割は、民主主義陣営の中で最もラディカルなアプローチと見解にあると言える。リベラル派が、警察や極右による攻撃があった場合に警察に苦情を申し立てることを好むとすれば、アナーキストは、同様の問題に苦しむ他のグループと協力し、攻撃される可能性がある場合には、施設やイベントの防衛に乗り出すことを提案する。

アナキストは今、共通の関心に基づき、社会の中で草の根的な横のつながりを作り、コミュニティが自衛を含む自分たちの必要に対応できるようにしようとしている。これは、組織や代表者、あるいは警察を中心に団結することが提案されることの多い、ウクライナの一般的な政治的実践とは大きく異なるものである。組織や代表者はしばしば賄賂を受け取り、その周りに集まった人々は騙されたままである。例えば、警察はLGBTのイベントを擁護しても、その活動家が警察の横暴に反対する暴動に参加すれば警察は怒るだろう。実は、だからこそ、私たちのアイデアに可能性があるのだが、戦争が起きてしまえば、また再び武力紛争に参加できる能力が主題になってしまうだろう。

出典:https://ja.crimethinc.com/2022/02/15/war-and-anarchists-anti-authoritarian-perspectives-in-ukraine

下訳にDeepLを用いました。

戦争とプロパガンダ

以下は、Realmediaに掲載された記事の翻訳です。

March 15, 2022

戦争では、真実が最初の犠牲となる。現代ではありがたいことに、YouTube、Twitter、Facebookなどの巨大企業は、たとえその真実が後に間違いであることが判明したとしても、私たちが受け取る情報が真実であることの保証を高めてきた。

私たちのテレビは、国家公認のロシア・トゥデイが見られないことを伝え、スプートニクとともに、Twitter、YouTube、Meta、その他のプラットフォームから削除されたことを伝えている。

YouTubeは、そのシステムが「人々を信頼できるニュースソースにつなぐ」と言うが、その中には国家公認のBBCも含まれている。BBCは、イラクが大量破壊兵器で西側を攻撃する可能性があると言い、アフガニスタンを侵略しなければならず、リビアがバイアグラで住民をレイプしようとしていると報じたことを覚えているだろうか。すべてが嘘だった。

企業の検閲の津波の中で、前例のない犠牲者がこの戦争で出ている。


長年問題なく過ごしてきたグローバル・ツリー・ピクチャーズGlobal Tree Picturesは、突然、オリバー・ストーンの映画「Ukraine On Fire」を「グラフィックコンテンツポリシーに違反したため」YouTubeから削除される事態に見舞われた。

これを受けて、イゴール・ロパトノクIgor Lopatonok監督は著作権者として、Vimeoのリンクから自由に映画をダウンロードする権利を与え、どこに投稿してもよいと発表したが、このリンクも検閲されたようで、現在は機能していない。この映画は、YouTubeのさまざまなアカウントで再投稿されて見ることができ、2014年のウクライナのクーデターに関するいくつかの隠された真実をタイムリーに思い出させてくれるものである。

YouTubeの親会社はGoogleで、その信頼と安全担当ディレクターは、ベン・レンダBen Rendaだが、NATOで戦略プランナーおよび情報マネージャーとして雇われていた人物だ。


アメリカ国民は、イラク国民が砲撃されたように、砲撃されたのです。それは私たちに対する戦争であり、嘘と偽情報と歴史の省略の戦争だった。湾岸戦争が向こうで行われている間に、そういう圧倒的で壊滅的な戦争がここアメリカで行われたのです。- ハワード・ジン

リー・キャンプ – 写真 Real Media


コメディアンで活動家のリー・キャンプ(2019年にReal Mediaがインタビュー)は、過去8年間、風刺番組「Redacted Tonight」を毎週発表し、反帝国主義のニュースをコメディータッチで満載して配信していた。RT Americaが米国の制裁で閉鎖されたとき、彼は巻き添えとでもいうべき形でそこでの仕事を失った。しかし、金曜日、8年間にわたる強烈なインデペンデントな風刺は削除され、彼のチャンネルはYouTubeによって警告なしに閉鎖された。

リー・キャンプの作品の一部は、今のところまだYouTubeで見ることができる。一見の価値ありだ。

キャンペーンを展開中の調査ジャーナリスト、アビー・マーティンAbby Martinは、2012年から2015年までRTアメリカで「Breaking The Set」番組を運営し、その間、ウクライナでのロシアの軍事行動を極めて公然と非難した。その後、彼女はインタビューとドキュメンタリー番組「The Empire Files」を立ち上げ、2018年にアメリカの制裁まで、ベネズエラを拠点とするTeleSurで放送されていた。次にこれは、YouTubeとVimeoでインデペンデントな支援者が資金を提供してシリーズ化された。

彼女のパワフルなドキュメンタリー『Gaza Fights For Freedom』は現在も配信されているが、土曜日に彼女は、キャンプのそれと同様、彼女の作品全体が万能のYouTubeによって予告なしに削除されたことを発表した。


ロイターは、欧米のハイテク検閲の背後にある別の議題を暴露し、Metaプラットフォームが独自のルールを中止し、数十億のFacebookとInstaのユーザーがウクライナのネオナチ・アゾフ大隊を賞賛し(通常は危険な個人と組織に関するポリシーに抵触するので禁止される)、ロシア軍、リーダー、そして市民に対する暴力的脅迫を「その文脈がロシアのウクライナ侵攻にあることが明らかな場合」には許可するという異例の措置を取ったことを明らかにした

Metaの社長であるNick Cleggは、言論の自由を守っているという理由で同社の立場を擁護しているが、これは例外的な状況であることを率直に認めている。明らかに、この言論の自由は、最近の禁止されたユーザーや投稿の嵐には適用されていない。

検閲とプロパガンダは常に戦争の一部であったが、最近の出来事は、一握りの超富裕層のエリートが、我々が見たり共有したりできる情報に口を出すことをより容易なものにしている巨大なハイテク企業の力を露骨に示している。


「現在を支配するものは過去を支配し、過去を支配するものは未来を支配する」 – ジョージ・オーウェル

活動家ラッパーのLowkeyによると、TikTokのヨーロッパ・中東・アフリカ担当ライブストリーム・ポリシー・マネージャーのGreg Andersonは、NATOの「心理作戦」に携わっていたとのことだが、この記事を出稿する時点でこれを独自に確認することはできていない。

調査ジャーナリスト、エイサ・ウィンスタンリーAsa Winstanleは先週、ウクライナのナチスに関するツイートを削除することに同意するまで、自身のツイッターアカウントを停止させられた。彼が投稿したナチスのシンボルをつけたウクライナの女性戦士の画像は、AIによるファクトチェック企業「Logically」によって異議が唱えられたようだが、特に国際女性デーにウクライナ政府のアカウント2つが同じ画像を投稿しているように、彼らは何等きちんとした調査を行なっていない。Logicallyは問い合わせに回答していない。Asaは、このような組織がネット上の自由な発言を阻止する力を持つべきかどうかと問うている。


欧米のメディアは、ウクライナへの侵攻をノンストップで報道し、破壊、難民の殺到、そして非常に多くの悲劇的な個々の人間の物語を紹介している。メディアは、これは私たちの戦争であり、私たちはウクライナと共に立ち向かわなければならないと報じている。

英国が支援するイエメンでのサウジの戦争(Amnestyによれば、約25万人が殺され、1600万人が飢餓に直面している)と比較対照してみてほしい。サウジアラビアに対する厳しい制裁と、いたるところでのメディア報道によって、何百万人もの人々が救われたかもしれないことを想像してほしい。

また、実際に我々の戦争であったアフガニスタンでの報道と比べてみてほしい。ここでも25万人が殺されている。人口の98%が十分な食料を持たず、飢餓に陥っており、300万人の罪のない子供たちが栄養失調に苦しんでいる。


安全保障条約を求めるロシアのこれまでの平和的アプローチを西側諸国が考慮することを拒否していることについて、どれほどの分析、言及があっただろうか。あるいは、ロシアの現在の要求がどのようなものであるのかさえも。ある時点で、私たちは世界大戦と核兵器による全滅の可能性へとエスカレートするか、さもなくば合意に達しなければならない。どうすればそれが実現できるのか、ある程度の見当をつけておくのが合理的ではないだろうか。

最後に、もし欧米のメディアがウクライナの報道のように気候変動に関する報道をしていたらと想像してみよう。相互確証破壊mutually-assured destructionを回避し、平和的解決に至る方法を見つけることができたとしても、我々は緊急かつ根本的に生活様式を再構築し、有限の惑星における無限の経済成長神話を終わらせ、化石燃料の燃焼を止める必要がある。さもなければ、ウクライナは、私たちの周りでほとんど無視されながら展開されている大災害に比べれば、脇役に終わりかねない。

今月初め、アントニオ・グテーレス(国連事務総長)が警告したように、「人類の半分は今、危険地帯に住んでいる」のである。

(The New Fascism Syllabus)純粋な暴力の非合理的な核心へ。ネオ・ユーラシア主義とクレムリンのウクライナ戦争の収束をめぐって


(訳者前書き)以下はThe New Fascism Syllabusに掲載された論文の翻訳である。著者のひとり、アレクサンダー・リード・ロスは、西側左翼運動のなかに気づかれない形で浸透しつつある極右の思想や運動について詳細に論じたAgainst Fascist Creep のなかで、米国からヨーロッパ、ロシアに至る地域を包括する網羅的な現代の極右の動向を批判的に分析した。以下の論文でも彼のこれまでの仕事が踏まえられており、とくに、プーチンの思想的な後ろ盾ともなってきたアキサンダー・ドゥーギンについての記述は、プーチンのウクライナ戦略を支える世界観を理解する上で参考になる。ドゥーギンがほとんど日本では知られていないこともあって、その反米反グローバリズムに基くヨーロッパとアジアを架橋する「ユーラシアニズム」は見過ごされがちだが、現代の極右思想の無視できない一部をなしている。(ユーラシアニズムについてはチャールズ・クローヴァー『ユーラシアニズム』越智道雄訳、NHK出版が参考になる)

ウクライナとの戦争でロシアがしきりに口にするウクライナの現政権=ネオナチとみなす言説は、日本ではほとんどまともには受けとられていないが、以前にこのブログでも紹介したように、ウクライナの政権や軍部あるいは武装民兵のなかにはネオナチや極右の流れに属する者たちがいる。しかし同時に、ロシアの政権の側にもドゥーギンに代表されるれっきとして極右の影響があり、いずれの側にも現代のファシズムの一端を担う存在が少からぬ影響力をもっていることを軽視しない方がいいと思う。権力者たちの暴力を支える思想や哲学あるいは歴史的な系譜などは、戦争の暴力によって一方的に犠牲になる民衆にとってはいずれにせよ人道に対する犯罪を正当化する欺瞞でしかないのだが、同時に、また、その民衆のなかの少なからぬ人々もまたこのイデオロギーのいずれかを内面化して戦争に加担することを選択してしまうことも無視できない。これはフェイクニュースといった次元の問題よりも深刻だ。世界観やイデオロギーが西欧近代を支えた資本主義的な自由と民主主義を中心とするヘゲモニー構造に最初に亀裂を入れたのが、イスラーム原理主義による西欧近代の価値観の否定だったとすると、トランプ現象やブレクジット、EU内部の極右の台頭を経てプーチンの帝国の野望を列ぬく世界観の軸は、左翼を相対的に周辺に追いやる一方で、伝統主義や反啓蒙主義に基く排外主義の正当化とナショナリズムの再構築が主流の政治意識になるという最悪の方向に傾いてきた。日本の文脈でいえば例の「近代の超克」による西欧リベラリズムとマルクス主義を串刺しにして否定しようとするかつての日本主義イデオロギーとほぼ同質のイデオロギーが世界中を席巻しはじめているという風にみてもいい。フェイクニュースはこうした構図の氷山の一角にすぎない。

プーチンを理性を欠いた狂気の独裁者だとみなすのは簡単だが、現実はもっと錯綜しており、思想のレベルでいえば、かつて日本が陥った「近代の超克」とか欧米帝国主義に対するアジア人民の解放戦争とかといった戯言を本気で信じた知識人たちのことを想起すればわかるように、戦争がもたらす狂気をある種の「思想」へと昇華してイデオロギーとして構成する力をあなどってはいけない。私が言いたいのは、分りやすいドゥーギンのユーラシアニズムの欺瞞のことだけではなく、これらをも包含する近代国民国家=近代資本主義の罠のことを言っている。多くのファシズム運動が何らかの左翼のイデオロギー/運動のなかから生み出されてきたことを真摯に反省することが左翼にとって今ほど必要な時はないだろうと思うからだ。多くの反戦運動が、目前の深刻な生命の危機をもたらしているロシアの侵略を厳しく批判しつつも、単純な反ロシア、親ウクライナ(EU+NATO)という構図をとっていないことが救いだ。(小倉利丸)


2022年3月4日 アレクサンダー・リード・ロス、シェーン・バーリー

ナチス軍が3万3000人以上のユダヤ人を虐殺したキエフの渓谷のバビ・ヤール記念館でロシア軍が弾薬を爆破すると同時に、ロシアは「反ファシスト」会議を開催すると発表した。プーチン大統領は、中国、インド、サウジアラビアなどロシアが提携を望む国々を招待し、ウクライナを極右勢力に支配されている国として、その蔑視を図ったのである。プーチンは、ロシアがウクライナを「脱ナチス化」していると主張することで、同国を体制転換の場に位置づけ、その行為を進歩的な博愛として表現している。反ファシズムをアピールすることで、ロシア指導部は第二次世界大戦中にソビエトが東部戦線でナチスを破ったという歴史を利用し、他方でグローバルは紛争を引き起こすことにおける極右の役割について、すでに混乱ししばしば恐怖を感じている人々の会話に歪みをもたらしている。

2月26日、New Fascism Syllabusは、ポツダム大学ライプニッツ現代史センター「共産主義と社会」部門の共同ディレクター、ユリアネ・フュルストJuliane Fürstの「On Ukraine, Putin, and the Realities and Rhetoric of War[ウクライナ、プーチン、そして戦争の現実とレトリックについて]」を公開した。これは、現在ロシアのプーチン大統領が用いている「ファシズム」のレトリックについての研究に対して重要な貢献をするものだ。フュルストは、ドイツで育った経験を振り返り、ソ連がドイツ人とナチズムの関係を「ファシズム」という広いカテゴリーに置き換えたことにやや安堵したと述べ、「そのカテゴリーは悪い意味で、柔軟で包括的だった」と説明している。特に西部ウクライナ人にとっては、ソ連の抑圧を否定したことで、「ファシズムとナチの占領からのソ連の解放という物語に反したニュアンスや個人の回想の余地がない(スターリンが作り、ブレジネフが強化した)ソ連の公式な物語に対する」ナショナリスト的な反応に彼らをさらすことになった。

このような反ソナショナリズムは、ウクライナだけでなくソビエト共和国中のボヘミアンの間で、一種のカウンターカルチャーとなった。モスクワでは、ユージンスキー・サークルYuzhinsky circleと呼ばれるナチスの象徴を好む秘教主義的で伝統主義グループが、ファシズムの祝典のために集まっていた。ユージンスキー・サークルの超国家主義的なコミットメントは本物だが、本気とはいえない反啓蒙主義も蔓延していた。フュルストが指摘するように、「ファシズムは、そのダークな性格と不気味な歴史が滲み出た挑発という漠然とした概念の暗号に劣化してきた」という。しかし、この転換によって、反ファシズムも、特定のイデオロギーを否定するのではなく劣化に、つまり敵の汚染と感染に関する問題になってきた。こうして、プーチンは「脱ナチス化」を通じて、スターリン主義の脱ナチス化―汚染された人々をすべて粛清するキャンペーン―の含意を展開する。フュルストの言葉では、「自分の国家で暮らすというウクライナ人の現実のみならず、プーチンのロシア人像とは別の民衆としての概念そのもの」を変えるためにである。

プーチンの脱ナチス化は、脱ウクライナ化を意味する。プーチンによれば、ウクライナには歴史がなく、「現代のウクライナは、ボルシェビキ、共産主義のロシアによって…歴史的にロシアの土地であるものを分離、切断するというロシアに対して極めて厳しい方法で完全に作られた」ものでだ。2月21日の1時間に及ぶ拷問のような演説で、プーチンはウクライナを「(ロシアの)歴史、文化、精神空間の不可分の一部…親族、血縁、家族の絆で結ばれた人々」と表現している。プーチンは、「極めて過酷」といった感情的な言葉に訴え、ドンバスは「実際にウクライナにむりやり押し込まれた」という彼の主張は、最終的にソ連が準自治共和国に権限を委譲したことが、ウクライナの究極の崩壊につながったと主張しうるような歴史的なフィクションの背景を構成している。

ウクライナの独立について、プーチンは好戦的に「脱共産化を望むか?そうだ、それがまさにお似合いだ。しかし、なぜそれを途中でやめるのか?ウクライナにとって本当の脱共産化が何を意味するのか、我々は示す用意がある」という。つまり、脱共産化とは、ウクライナに与えられた自治権の遺産を、たとえわずかであっても断ち切り、2月24日の演説で彼が「歴史的故郷」としたロシア帝国空間への究極の再同化を意味するのは明らかである。

「脱共産化」という言葉の意味をただちに理解したのは、ファシズム化したソ連のカウンターカルチャーの第一人者で、ユージンスキー・サークルの元メンバー、アレクサンドル・ドゥーギンだった。「大統領は脱共産化について語った。ロシアには1世紀以上の歴史があり、そして、明かにリベラルでもコミュニストでもない新たなイデオロギーの担い手なのだということを言いたかったにすぎないと思う。私たちは帝国の人民である。われわれロシア人は過去ではなく、未来に目を向けているのだ」と応答した。

そして、ウクライナに関するドゥーギンの初期の著作は、プーチンの最近の主張と非常に近いものがある。「ウクライナという国家には地政学的な意味がない」と、ドゥギンは1997年に出版した痛烈な非難に満ちた本『地政学の基礎』で書いている。「文化的な重要性も普遍的な意義もなく、地理的な独自性も民族的な排他性もない」。もちろん、歴史的、哲学的、文化的、その他の口実でウクライナの生存権を否定して行動することは、それ自体が大量殺戮行為である。ドゥーギンにとって、ウクライナ西部の3つの地域だけは―1つの西ウクライナ連邦としてまとめられたボリニア、ガリシア、トランスカルパチア―、大ロシアから切り離すことは可能だが、非NATOに加盟しないという但し書きが伴う。

しかし、こうした共通点にもかかわらず、プーチンの言う「脱ナチス化」、とりわけ反ファシズムは、ドゥーギンにとって特に厄介なものに映ったようだ。ドゥ=ギンが最も大きな影響を受けた一人であるファシスト地政学者のジャン=フランソワ・ティリアールJean-François Thiriartは、ウクライナの超民族主義者ステパン・バンデラStepan Banderaを支持し、ソ連の国境を1939年のモロトフ・リベントロップ条約以前の境界線(つまり、ドゥーギンが考える大ロシアと仮想の西ウクライナ連邦という区分)に押し戻そうと考えた。ドゥーギンが影響を受けたもう一人のベルギー人レキシスト[注:Rexist、ベルギーの戦前のカトリック系極右]、レオン・デグレルLeon Degrelleは、バンデラ軍と協力してウクライナで残忍な武装親衛隊とともにソビエトと戦った自身の経験を賞賛して一冊の本にまとめている。

ドゥギンもクレムリンも、「ナチズム」や「ファシズム」というレッテルを使って、リベラルな反対派を躊躇なく杓子定規に批判する。FSB[ロシア連邦保安庁、ロシアの治安機関]のセルゲイ・ナリシキンSergey Naryshkinは最近、西側がロシアに科した制裁を非難し、それが「『寛容な』リベラル・ファシスト状況」の現だと主張している。ナリシキンが展開した「リベラル・ファシズム」のなかの「キャンセル文化」の一部としての制裁という考え方は、元Foxニュースのパーソナリティ、ジョナ・ゴールドバーグを念頭に置いている。ファシズムの根はリベラルなイデオロギーにあるという彼のテーゼは、この分野の専門家によって完全に否定されているものだ。同時に、ゴールドバーグよりもはるかに本物のファシズムの伝統に精通しているドゥギンが、このような定義の誤りを犯すとは想像しがたい。

3月4日にフェイスブックにドゥギンが、ウクライナ人はアメリカ由来の「ひどいナチス・リベラルのプロパガンダ」に振り回されていると投稿した見解は、ナリシキンと比較・対照できるものだ。ドゥギンは、2004-5年のオレンジ革命と2013-4年のマイダン抗議行動でモスクワに友好的な強権者ヴィクトル・ヤヌコーヴィチを追放するのに貢献したウクライナの自由主義運動を、自由主義とナチズムの合成物であると見なしている。ここでドゥギンは、親欧米(つまりリベラル)の立場を支持するナショナリズト的感情を打ち砕く目的でウクライナを征服するというクレムリンに再び近づいた。

しかし、ウクライナの左翼タラス・ビロウズTaras Bilousが指摘するように、ウクライナではナショナリズムの感情が高揚することもあるが、世代や家族間の争い、社会経済的対立、国の政治的地理的条件に関わる思想的複雑さもまた然りなのである。極右勢力は、世界のあらゆる軍隊でそうであるように軍隊内では存在感を示しているが、大きな政治的権力をウクライナで獲得することができなかった。こうした複雑で多次元的な亀裂を考慮すれば、ドゥギンの立場はおそらくナリシキンの立場よりもさらに説得力がないままであろう。

複数の政治的立場の存在は、その国が指導者原理を志向するシンクレティックなイデオロギー―それはまさにドゥーギンの世界理解の全体主義的枠組みだが―に支配されないとすれば、シームレスな異種混合を示すものにはならない。ウクライナにおけるファシズムの政治的役割を誇張することはさておくとして、ウクライナがナチ・リベラルの国であるという主張は、イギリスが複数政党制民主主義ではなく「愛国的代替労働の国Patriotic Alternative-Labour country」であるという考えと類ていることになるだろう。ナリシキンのリベラル・ファシズムに対する視点が米国の極右の感性に訴えかけるのに対し、ドゥーギンの「ナチ・リベラル」の理解は、彼自身の単純化された世界観の枠内に限定されたものでしかない。残念ながら、彼はこの特徴をクレムリンと共有しているようだ。

現実的なレベルでは、ウクライナの「脱ナチス化」という偽善は、2014年以来、侵略はファシスト、正教会の超国家主義者、そしてドゥギン自身の自称 “ネオ・ユーラシア主義” のネットワークのプロジェクトであったという事実に見出すことができる。当初から、ウクライナに対する侵略は、ドゥギンの後援者であるロシアの「正教会のオリガルヒ」、コンスタンティン・マロフェーエフKonstantin Malofeevによって銀行融資されていた。最初の数年間は、マロフェーエフの仲間のアレクサンダー・ボロダイAlexander Borodaiとイゴール・ガーキンIgor Girkin(マロフェーエフの警備主任になる前にボスニアのジェノサイドに参加した超国家主義者)が現場での活動を主導していた。ギルキンとドゥーギンは、ロシアの反体制派アンドレイ・ピオトコフスキーAndrey Piontkovskyによる辛辣な記事の中で、ロシアの「本物の高邁なヒトラー主義者、真のアーリア人」の一人としてリストアップされている。

オルト・ライトやヨーロッパのファシスト的な「アイデンティティ主義」運動の中で影響力のある人物ドゥギンのイデオロギーは、伝統的なナチズムよりも幾分混交的で複雑である。彼は、現代世界とそれが象徴すると考えているリベラリズムの完全な破壊を確信している。この世界の激変は、彼が 「政治的兵士 」と呼ぶ戦士-司祭に支配されるカースト制度によって識別される家父長制の血と土の共同体の再生へと導くものだ。ドゥーギンは、モスクワがダブリンからウラジオストクまで広がるユーラシア帝国を支配し、イスタンブールがコンスタンティノープル(または「ツァルグラード」)へと回帰することを望んでいる。ドゥギンにとって、ウクライナ侵攻はこの「スラブ大レコンキスタ」の最初のステップに過ぎない。

もちろん、「コンスタンティノープルの再征服」は、ドゥーギンの広範な地理的目的の中の王冠の宝石としての役割を果たすに過ぎない。8月の反ファシスト会議に招待された国々には、現在、極右の強者ナレンドラ・モディが率いるインドがいる。彼のヒンドゥーナショナリズムは、インドのイスラム教徒に対する「最終解決」を唱えたヴァヤック・サヴァルカルVayak Savarkarなどのヒトラー崇拝に由来する。ロシアはまた、新疆ウイグル自治区で多数占めイスラム教徒を大虐殺したにもかかわらず、ナショナリズムを強めている中国の政権をあえて参加させた。

ドゥーギンにとって、この2カ国はロシア、イランとともに「ユーラシア大陸の大国」を構成しているのである。上海の復旦大学中国研究所の上級研究員であるドゥーギンは、中国は国家ボルシェビズムに似た「国家共産主義」路線をとっていると考えており、これを「左翼反ヒトラー国家社会主義」と呼び、自身の「第四政治理論」の「第二のバリエーション」として新ユーラシア主義と結びつけている。つまり、モディのヒンドゥトヴァがヒトラーに共感する超国家主義的な立場をとっていることには疑いようがないが、ドゥーギンは、中国がナチズムの一系統に連なる思想を守り、このこと自体が彼自身の伝統主義に不可欠であると考えているのである。まさに反ファシスト会議なのだ!

一般的な意味で、ドゥーギンの新ユーラシア主義思想は、ファシズム研究者のロジャー・グリフィンが「霊的再生超国家主義palingenetic ultranationalism」と呼ぶ、神話的国家の精神的かつ暴力的な復活を求めるモデルとほぼ合致している。ドゥーギンはプーチンのロシア排外主義と新帝国の下での「大ロシア」への願望を共有しており、それによってファシズムと共産主義の対立を乗り越えたと主張している。そのため、例えばInfowarsにゲスト出演する際、ドゥギンはある意味では「反ファシズム」を主張しながら、他の文脈、例えば『第四政治理論』では、ファシズムと共産主義に必須の「共通根」のようなものとして(つまり、国家社会主義のより至高のバージョンとして)自らの思想を宣伝する、という逆説的な行動をとっているのである。

反ファシズムを「ナチ・リベラリズム」の否定へと改竄することは、形勢逆転のためのシニカルな戦術を表わしている。この戦術は他の場所でも使われている。例えば、ドゥギンの親しい同志であるセルゲイ・グラジエフSergei Glazyevは、イスラエルがウクライナでロシア人をユダヤ人に置き換えようとしていると主張した後、プーチンによってユーラシア統合の顧問の役割を解任されるのだが、こうした人達によるロシア語を話すウクライナ人を「大量虐殺」から守るといった主張でも使われているのだ。このように、ロシアのウクライナ復権論は、「大規模入れ替え理論」の形をとっている。つまり、民族的国民を外国のコスモポリタンに入れ替えるというディープ・ステートの陰謀が、過激さのレベルに応じて、大量のエスニック、人種、宗教的マイノリティの国外追放、さらなる周辺化、あるいはただ絶滅させるのみという口実になる。

同様のレトリックの反転において、ドゥーギンは「反帝国主義」の推進力を利用して、「グローバリズム」に対抗する「伝統主義インターナショナル」を召集し、左派の周辺部分を引き寄せようとしている。彼は、帝国の時代への回帰を唱えながらも、グローバリズムを西洋の「制海権」に内在するとみなしている。ドゥギンは最近、「ロスチャイルド、ソロス、シュワブ、ビル・ゲイツ、ザッカーバーグ」のリベラリズムと切り離されたヨーロッパの基準をロシアが担うと主張した。モスクワの帝国を軸に、海洋パートナーシップや諸権力は、神を破壊する近代主義的な傾向とともに、屈服させられるだろう。-その実現には、少なからぬ残虐性が必要であるような純粋のファンタジーの上に成り立っている妙技

-その実現には、少なからぬ残虐性が必要であるような純粋のファンタジーの上に成り立っている妙技

プーチンは過去に新ユーラシア主義的な思想への沈潜と、より伝統的な熱狂的ロシア愛国主義との間で揺れ動いていたようだが、侵略によってロシアの西側との金融関係が断たれたことで、ロシアはヨーロッパから遠く離れ、この巨体は経済崩壊をインドと中国という地域パートナーに頼って乗り切ろうとしているのである。このような立場から、ドーゥギンが精神的使命と考えること、すなわち近代を抹殺するであろう「大西洋主義者」に対する本質的に保守的なユーラシア戦争においては、ロシアは西洋に対する反発を強めるしかない。ドゥーギンの意味不明な世界では、これは「真の西洋」(すなわちユーラシア)の位置から西洋に引き返し、破壊することを意味する。「ロシアが(西側から)早く完全に切り離されれば切り離されるほど、ロシアは自らのルーツに戻るだろう…つまり、本当の西洋と共通のルーツに…そしてヨーロッパは西洋と手を切る必要があるし、アメリカでさえ、グローバリズムを拒否する人たちに従う必要があるのだ」。西洋を救済するためにこれを破壊する-あまりにもよく知られた無力な運動である。

近代西洋を戦闘的かつ完全に否定し、プーチンの反ファシズムという欺瞞に満ちた主張を利用して反ファシズムそのものに泥を塗ろうとする極右の努力をよそに、西側極右もまた超国家主義政治を世界の舞台へと引き上げる「希望の光」としてのロシアの役割を長らく受け入れてきた。プーチンのウクライナ戦争を最も熱心に支持した一人であるロシア帝国運動the Russian Imperial Movementは、ヨーロッパの極右メンバーを養成する準軍事キャンプを運営しており、アメリカからのファシスト・テロリストはこの国の右翼的政治生活に避難場所を見出そうとしている。マリーヌ・ルペンからマテオ・サルヴィーニに至る政治家たちはプーチンのEU懐疑モデルのラディカル右翼政治を受け入れ、世界支配を目指す彼の努力に付き合ってきた。そして、ドゥーギンの国際的な同志たちは、彼の非自由主義的な立場の故に、今度はイランの神権主義者たちに受け入れられている。

アメリカでは、共和党議員との関係を築いてきた白人民族主義者のニック・フエンテスNick Fuentesがアメリカン・ファースト政治行動会議American First Political Action Conferenceを通じて、プーチンを自分のブランドの政治を再定位するリーダーとして歓迎している。2月25日に開催されたAFPACの会議で、フエンテスは「ロシアに拍手を」と呼びかけ、「プーチン!プーチン! 」の掛け声が飛び交った。

米国では、ロシアのウクライナ攻撃を歓迎するのはファシストの端くれだけのように見えるかもしれないが、AFPACの影響力は議会にも及んでいる。ウェンディ・ロジャーズ下院議員は、自身もAFPACに参加しており、極右民兵組織「オース・キーパーズthe Oath Keepers」のメンバーである。ユダヤ系ウクライナ人の大統領について、「ゼレンスキーはソロスとクリントンのグローバル主義者の傀儡だ」と述べ、ロシアを人民の真の代表、ウクライナを富裕層が支配する人工国家とする反ユダヤ的陰謀物語に同調している。マージョリー・テイラー・グリーンMarjorie Taylor Green下院議員も、親ロシア派の祝賀と喝采の中、AFPACで演説を行った。

ドゥーギンのネオ・ユーラシア主義とクレムリンのウクライナに対するイデオロギーの押しつけ、そしてそれが築きつつある同盟国との間の収束点の現実を考えると、反ファシズムのレトリックを用いることは何を意味しているのだろうか。米国のメディアの言説でよく見られるように、この言葉はブギーマンとして、あるいは政治的美徳の表れとして歪曲されてしまう。現実には、ロシアのファシズムは、君主主義者、正統派神権主義者、変人の地政学者に満ちており、常に危ういものであった。1941年にナチスに侵略されたこの国は、全体としてまとまりがあるというよりも、ファシズムのように見え、話し、歩きながら、自らをより高みにある至高の形とみなす熱狂的な超国家主義のシンクレティズムを展開してきた。右翼伝統主義の教祖ユリウス・エヴォラJulius Evolaが「スーパーファシズム」、あるいは学者ウンベルト・エコの言う「ウルファシスム」がそれである。

私たちは、純粋な暴力における不合理な核心として、反ヨーロッパ、反帝国主義的帝国、反ファシズム的ファシズム、反ナショナリストのウルトラナショナリズム、そしてネーションの存在の抹殺と民間人への砲撃を伴うジェノサイドに対する防衛策をみることができる。ロシアは主権を行使するために、理性に頼ることなく、粗野な強制力、パワーポリティクスに頼りつつ、一方の極にある米帝国へのオルタナティブを提起する。米国の敵として自らを押し出すことで、新たな友好国を獲得しようとするのである。ロシアのナショナリズムは、協調から離れて二元的で非自由主義的な対立へと地政学を再調整するのを手助けしつつ、極右運動の前衛の一部としての役割りを担っている。そして、この現実は、反ファシズムのアピールに揺り動かされる人々には、ほとんど何の意味ももっていない。プーチンとドゥーギンは、逆説を呼び込むことによって、極右の実際の役割について混乱している人々の機嫌を取り、アメリカ、ウクライナ、欧州連合の批判者を、ロシアの攻撃に対する支持的または中立的な立場に引き込むことを望んでいるのである。それゆえ、ウクライナにおける帝国主義との闘いは、そこだけでなく、あらゆる場所での自由と平等のための闘いというレベルで普遍化されなければならない。

このことを理解するためには、反ファシズムにとって重要な「三者の闘い」という分析的枠組みが役に立つ。ロシアは、欧米諸国への挑戦として行動しているにもかかわらず、欧米列強の改革を目指す人々の友人ではない。むしろ、極右の造反者的な役割は、様々なイデオロギー的な支持者たちをこの紛争以上に危険な連合体に結びつける能力を持っている。反ファシズムの歴史的役割は、本質化されたアイデンティティと権威主義的統制に訴えることによって民主的価値を損なおうとする造反者的極右運動から身を守ることだった。しかし、反ファシズムは、政治でもイデオロギーでもなく、エートス、つまり、プーチンが破壊したい戦後世界のバックボーンとして機能する道徳的要請なのである。この点で、プーチン自身が全体主義的支配とネオ・ユーラシアの拡大に向けて「ファシスト的転回」をしてきたかどうかについての議論は続くだろうが、彼の反ファシズムの主張は議論の余地なくまやかしなのである。

Alexander Reid Ross ポートランド州立大学地理学講師、フリーランス・ジャーナリスト。

Shane Burleyはフリーランスのジャーナリストで、The Baffler, The Independent, Jacobin, Truthout, In These Times, Commune, Alternet, and Waging Nonviolenceに記事を書いている。
出典:http://newfascismsyllabus.com/contributions/into-the-irrational-core-of-pure-violence-on-the-convergence-of-neo-eurasianism-and-the-kremlins-war-in-ukraine/

ウクライナ経由ナショナリズムと愛国心をそれとなく煽るマスメディア

8日の夜7時過ぎのNHK「クローズアップ現代」は、ウクライナに残っている人達の深刻な事態を、現地の人達と繋いで報道していたのだが、同時に、ウクライナの外にいるウクライナ出身の人々の様子も取材しており、戦争が否応なく喚起させる庶民への理不尽な暴力を映像を通じて、私たちの感情を動員する番組になっていた。ロシア国内やロシア軍兵士への取材はない。敵のロシア軍の人間たちは砲弾や戦車といった暴力によって象徴される抽象的な存在としてしか実感できない。「こちら」の側には生身の人間が、敵はプーチンか、さもなくばプーチンの手先でしかない非人間的な機械か鉄の塊。こうして私たちの感情は、ウクライナの側に同化するような構図になる。どちらの側にも殺されるべきではない人間が同じようにいることが感じられないのだ。

NHKが取材対象とした人達、とりわけ若い男性たちには共通した傾向がある。それは、ロシア軍に侵略された国を救うために戦うことを(やむなく)決意した若者や、戦うために帰国する若者の姿だ。他方で、意識的に戦うという選択をしない若者(男性)や戦いたくないという気持ちをもって逃げてきた若者は存在しないかのようだ。ウクライナの若者たちは皆武器をとって戦うことを選択しているかのように描かれ、結果として臆病であることが言外にネガティブな態度であるかのような印象が与えられる。そして、戦場に向う自分の息子や夫を涙で送る家族たちが情緒的に描かれる。こうした映像はこの番組に限ったことではなく、ほとんどすべてのニュースや情報番組(ワイドショー)がとる戦争のステレオタイプだ。この構図のなかで、この番組をみた視聴者の心理は、臆病であることを率直に表明することそれ自体を心理的抑えられてしまうような作用が働くのではないか。

そして、こうしたスタンスに重ねあわせられるようにして、日本政府のウクライナ支援の言説が受けとめられるのだろう。日本政府は防衛装備である防弾チョッキを人道支援名目で送るというが、これらが軍事目的で利用される可能性は否定できない。学校でもウクライナ情勢が授業で取り上げられているとも報じられている。一見すると戦争の悲惨さ子どもたちに伝える平和教育のようにも印象づけられるが、果してどうなのか。

マスメディアの報道や政府、政治家たちの言動の前提になっている感情には、侵略者に対して武力によって自国の領土を防衛する軍や市民たちの行動を暗黙のうちに支持するスタンスが大前提になっていると感じる。侵略者に対して、ウクライナにおける自衛のための武力行使を肯定する立場は、誰もが、このウクライナの問題を日本に置き換えて考えるとき、やはり日本もまた自衛のための武力行使は必要であり、だから自衛隊もまた必要だ、という理屈に誘導されてしまうのは目にみえている。しかもこれが「理屈」だけでなく、感情的にもまた国家のために戦うことを正義と感じる情動、つまり愛国心とかナショナリズムを喚起してしまう。ウクライナ国旗やその色をモチーフにした戦争反対は、戦争がナショナリズムや国家に収斂する感情の動員を必須の条件としており、国旗はその象徴的な作用を果しているというシンボリックな効果に対して十分な防御ができていないように思う。国家や宗教的な絶対者に収斂するような一切のシンボルを排することこそが平和への道だからだ。

日本のメディア環境は、国家のために人命を犠牲にすることを肯定する感情が、人々を支配するように促す危険な傾向をかなり濃厚に内包していると思うのだ。やっかいなのは、こうした感情は、常に、非力な庶民を犠牲にする侵略者を撃退して、家族や地域を守るためのいたしかたない戦いという感情を内包させつつこれを国家の防衛に収斂させていく、という仕掛けをともなっているという点だ。私は、国家という観念は、人ひとりの命の重さと比べたら、比べものにならないくらい無意味な観念だと考えるから、国家間紛争などジャンケンで決着つければいいような問題だ、と前にも書いた。しかも正義と暴力の間には、力の強い者が正義であるという一般論が成り立つような相関関係はないことも明らかだ。

日本政府や改憲を見すえている自民党や右翼は、ウクライナを経由して自衛のための武力行使を支えるナショナリズムや愛国心の喚起の絶好のチャンスとみて、自衛隊合憲論をとるリベラルや野党を巻き込み、また世論に根強い9条改憲反対の雰囲気を切り崩そうとするに違いない。私たちが問われているのは、侵略されても自衛権の行使はしない、という選択を支える思想を鍛えることにある。この思想の基盤にあるのは、人間の命を賭けででも守るに値する国家など存在したためしはない、ということをいかにして説得力をもって主張できるか、にある。非武装中立とか自衛隊違憲といった主張すら稀になってしまったこの時代に、再度国家を疑うことから議論を始める必要がある。

(付記)上のエッセイには重大な問うべき問いの回避がある。一切の暴力を否定することは、可能なのか、人類史のなかで、解放のための暴力の歴史を一切否定するのか?というこれまでも繰り返し論じられてきた問いに一言も答えていないし、上のエッセイではこの問いへの答えとしてはまったく不十分だ。今、ウクライナで起きていることと、そこから日本で起きつつある国家の自衛権への肯定感情を批判するという目的を越えて、より普遍的な問いとしての暴力の問題は、別途検討すべき課題だと思っている。国家や普遍的な力(神とか民族とか性にまつわる優劣の序列)に収斂する暴力を認めるつもりはないが、暴力をめぐるそうではない在り方をも完全に否定することが可能かどうかはまだ私のなかでは留保が必要な領域である。

警察法改悪―まだ論じられていない大切な課題について

警察法改悪―まだ論じられていない大切な課題についていくつか簡単に述べておきたい。

衆議院をあっという間に通過してしまった警察法改悪法案だが、たぶんこのままでられば、参議院の審議もほとんど実質的な内容を伴うことなく、成立してしまいそうだ。

今回の警察法改悪とサイバー警察局新設は突然降って湧いたような話ではなく、昨年夏前にはすでに基本的は方向性については警察庁が公表し、マスメディアも報じていた。私たちの取り組みはとても遅く、昨年秋くらいから議論になりはじめたに過ぎず、この遅れの責任は反監視運動として真摯に反省しなければならないと感じている。自分たちの運動の問題を棚に上げた勝手な言い分になるが、従来の刑事司法の改悪に関わる立法問題―たとえば盗聴法や共謀罪が想起される―では、いち早く法曹界や学会の関係団体が批判や抗議声明を出したが、今回は様変りだ。弁護士会は日弁連も都道府県弁護士会も警察法改悪については一言も公式見解すら出していない。研究者や弁護士などのグループでも反対声明が出はじめたのは法案が上程されて審議に入ってからだ。しかも、国民民主党も立憲民主党もこの法案に賛成した。共産党も衆議院内閣委員会での審議直前にやっと反対をかろうじて決定した。明かに、なぜか皆腰が引けているのだ。

通信の秘密、表現の自由、結社の自由について

警察法改悪の問題で見落されているのは、憲法が定めている私たちの言論表現の自由や結社の自由、そして通信の秘密を国家が侵すことへの厳格な禁止との関係だ。これらは言うまでもなく、文字通りの権利としてはもはや私たちにものにはなっておらず、捜査機関が大幅な権限を既に握ってきたことは繰り返すまでもない。

ただし、今回のサイバー局新設の問題は、従来と質的に異なって、捜査機関が憲法で保障さている言論表現の領域を専門に捜査対象とする組織を新設するということ、つまり、真っ向から憲法21条を否定することを目的とした組織を創ろうというものだ、という点にある。法案では「サイバー事案」として捜査対象となる領域を次のように規定している。

「サイバーセキュリティ(サイバーセキュリティ基本法(平成二十六年法律第百四号)第二条に規定するサイバーセキュリティをいう。)が害されることその他情報技術を用いた不正な行為により生ずる個人の生命、身体及び財産並びに公共の安全と秩序を害し、又は害するおそれのある事案(以下この号及び第二十五条第一号において「サイバー事案」という。)のうち次のいずれかに該当するもの(第十六号及び第六十一条の三において「重大サイバー事案」という。)
(1) 次に掲げる事務又は事業の実施に重大な支障が生じ、又は生ずるおそれのある事案
(i) 国又は地方公共団体の重要な情報の管理又は重要な情報システムの運用に関する事務
(ii)国民生活及び経済活動の基盤であつて、その機能が停止し、又は低下した場合に国民生活又は経済活動に多大な影響を及ぼすおそれが生ずるものに関する事業
(2) 高度な技術的手法が用いられる事案その他のその対処に高度な技術を要する事案
(3) 国外に所在する者であつてサイバー事案を生じさせる不正な活動を行うものが関与する事案」
https://www.gov-base.info/2022/02/22/148741

つまり「国又は地方公共団体の重要な情報の管理又は重要な情報システム」と「国民生活及び経済活動の基盤」などでサイバーセキュリティが関係する分野である。高度な技術的な対処や海外を含む事案が更に対象になる。サイバーセキュリティ基本法2条では次にようにサイバーセキュリティを定義している。

「「サイバーセキュリティ」とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式(以下この条において「電磁的方式」という。)により記録され、又は発信され、伝送され、若しくは受信される情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の当該情報の安全管理のために必要な措置並びに情報システム及び情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保のために必要な措置(情報通信ネットワーク又は電磁的方式で作られた記録に係る記録媒体(以下「電磁的記録媒体」という。)を通じた電子計算機に対する不正な活動による被害の防止のために必要な措置を含む。)が講じられ、その状態が適切に維持管理されていることをいう。」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=426AC1000000104

コンピュータ上のデータやネット上のデータの全てがサイバーセキュリティの対象ということになる。スマホやパソコンだけでなく、Suicaとか家庭のスマートメーター、ケーブルテレビなどあらゆる日常生活必需品がサイバー警察局の捜査領域になりうる。いったん警察の捜査対象になるとどうなるか。たとえば、交通取り締まりでは、ドライバーを常にスピード違反や飲酒運転の疑いの眼をもって監視することが「交通安全」の名目で当然視されてているように、私たちの日常のコミュニケーションを犯罪の可能性がありうるものとして警察が常時監視することになる。道路のNシステムが24時間稼動するように、ネットのコミュニケーションも24時間監視されることになるのだ。

ところで、憲法21条を念のために、引用しておこう。

「第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」

21条は、22条のように「公共の福祉に反しない限り」という限定がないところがこの条文の特徴であり重要な点だ。集会、結社、言論など一切の表現の自由のなかには公共の福祉に抵触する表現があってもよいという含意がある。この含意は、公共の福祉が時には「国益」や多数者の利益や利害、あるいは支配的な道徳や倫理と読み替えられて解釈されることによって、反政府的な言論や多数者のそれとは相容れない少数者の道徳や倫理を統制することを正当化しえない歯止めとなっている。

日に日に反政府的な言動や、ナショナリズムを否定する言論への攻撃や規制が厳しくなるなかで、この「公共の福祉」という限定のない21条は重要な意味をもっている。ところがそうであっても、この領域を犯罪捜査の対象として専門に取り締る警察組織が設置されてしまえば、事実上「公共の福祉」という枠のなかに私たちの言論表現の自由が押え込まれることになる。

ネットを念頭に21条を表現すると以下のようになる。

「ネットにおける集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。ネットの検閲は、これをしてはならない。ネットの通信の秘密は、これを侵してはならない。」

予測と行動変容を促す技術との一体化

同時に、捜査機関が私たちのコミュニケーションを網羅的に監視するためには、「検閲」を伴わないわけにはいかないだろう。しかし、かつてのように、集会に警察官が臨席したり、出版物が「×」印の伏せ字を強いられるといったいかにもみっともない不自由な強権発動はやらずに、もっと巧妙になる。ひとつは、公権力による検閲ではなく、民間による自主規制に委ね、民間団体を背後から指導するというやりかただ。映画、音楽、放送や新聞がすでにこうした自主規制によって国家の検閲を回避しつつ実態として公権力の検閲の代弁者となってきたが、この伝統的なやりかたが、インターネットのプラットフォーム企業にまで拡大されるということだ。

もうひとつは、予測と行動変容を促すというより巧妙な方法だ。ビッグデータとAIの時代に政府もIT企業もこぞって研究・開発を進めているのが、この分野だ。膨大な個人データプロファイルし、人々の行動を予測するだけでなく、人々の行動変容を促すような情報操作を官民総がかりで取り組もうとしている。人々は自発的な意思によって、誰に強制されることなく、政権を支持するようなメンタリティが構築される。このような世界はSF映画が先取りしてきたが、むしろ現実がフクションを越えはじめている。

警察領域では、こうした予測と行動変容が行政警察機能の拡大と予防的な取り締まりの歯止めのない拡大としてあらわれることになる。サイバー警察局はこうした方向をもった警察による捜査の実働部隊として全国規模で私たちのコミュニケーションを捜査=監視対象とすることになる。

長官官房による情報の一元管理

国会では全く議論されていないもうひとつの重大な問題が、これまで独立した「局」だった情報通信局が廃止され、その機能の多くが警察庁長官官房に移されることになる点だ。デジタル鑑識などの分野はたぶんサイバー警察局に移されるだろうが、それ以外の警察の情報システムやデータ管理などは長官官房に移され、ここで都道府県警察が保有している個人データなどと合わせて統合的に管理されることになるのではないかと推測している。これまでも都道府県警が保有している個人データの全国的な共有システムが存在したが、これが更に高度化されて、文字通リの意味でのビッグデータとして機能しうることになる。そして、これだけではなく、重要なことは、この長官官房の情報システムが内閣官房のサイバセキュリティーセンターを介して他の省庁や、更には省庁と連携する民間企業との間のデータとも少なくとも構造上は連携可能になるだろうということだ。マイナンバーはもちろん枢要な位置を占めるだろう。

ここで重要なことはサイバー警察局が捜査対象とする官民の重要インフラについては、すでに14分野が指定され、「セプター」(下図参照)と呼ばれる組織を通じて省庁との間で連携がとられる構造ができあがっていることだ。この構造に警察庁長官官房が介入することによって、一気に警察の影響力が大きくなることは間違いない。

この意味でいうと、サイバー警察局は、コミュニケーション領域を捜査する実働部隊あるいは「手足」であり、長官官房は都道府県警からサイバー警察局までを網羅する情報ネットワーク神経系を統合する「頭脳」部分をなし、この両者が一体となって21条領域を骨抜きにする構造として理解する必要がある。

自民党改憲草案との関係

上記のような見立ては決して反監視運動の我田引水的な誇大妄想あるいは被害妄想なわけではない。それは自民党改憲草案の21条改正案をみればはっきりわかると思う。改憲草案は下記のようになっている。

「第二十一条集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
3検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。」
https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf

この改憲草案を踏まえると、捜査機関が「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動」を行なっているかどうかを捜査することや、公共の秩序を害することを「目的として結社をする」可能性を捜査することが当然のこととされるだろうし、捜査機関はわたしたちのコミュニケーションを監視し予防的な措置をとることになるだろう。この改憲草案の文言を念頭に、警察法の改悪=サイバー警察局の設置の含意を解釈しなければならない。言うまでもなく、警察法改悪は改憲を先取りし、改憲によって実現可能な捜査機関の体制を準備するものだ。

サイバー攻撃は私たちの自由の権利を制約する理由にならない

最後に、「サイバー攻撃」の脅威との関係について私の考え方を述べておきたい。国会審議では、与野党揃って「サイバー攻撃」を天下国家の一大事だと口をそろえてその脅威に立ち向かうべきだと主張している。私もサイバー攻撃という事実があり、それが時には私たちの私生活に深刻な事態を招くこともありうることは理解している。しかし、だからといって、捜査機関にフリーハンドで捜査権限を委ねたり、私たちの21条の権利を制限することを認めるような権限を捜査機関に与えることには反対だ。捜査機関の捜査は21条の権利をわずかたりとも制約するものであってはならない。サイバーセキュリティに関しては私たちが権力に依存することなく対処しうる余地がまだまだあるし、そうした試みは世界中の権力による干渉を拒否する民衆のサイバーセキュリティの活動家たちが創意工夫してもいる。

権力にフリーハンドを与えるべきではなく、捜査機関は私たちの自由の権利を侵害しない範囲で捜査すべきなのだ。この点は一歩たりとも譲れない一線だ。すでに私たちの自由は警察によって大幅に削りとられてしまっている。しかもレイシストたちが「自由」という理念そのものを横取りし、まさに政権政党もまた自由と民主主義の名ももとに、私たちの自由を土足で踏みにじってきた。私たちの自由とは、あくまで社会的平等の基盤の上に築かれた自由の実現、つまり自由の再定義のための実践であり、そのためには既存の体制が擁護しようとする「公共の福祉」とは確実に相容れない実践でもあるのだ。

あくまでも反対を

警察法改悪を容認する野党は、この改憲草案への道を容認することになる。また、警察法改悪の問題に沈黙することは、言論表現の自由や通信の秘密の権利が侵害されかねない警察制度の大幅な改変を黙認していることにならないか。本来なら反対していいはずの野党が賛成した今回の事態は、もはや議会野党が与党の補完物にしかなっていないことを示しているのではないかと危惧する。他方で、警察法改革に反対する団体賛同署名は、短期間であるにもかかわらず3月5日時点で140を越える賛同がきている。とても小さな声だが、しかしこのような草の根からの異議申し立ては、議会政党が次第に翼賛化しつつあるなかで重要な力だと思う。

(Truthout)戦争はウクライナの左翼に暴力についての難しい決断を迫っている

以下は、the Truthoutに掲載された記事の翻訳です。ウクライナの左翼は、以下の記事で象徴的に紹介されているように、ウクライナに残るという決断をしたばあいの二つの選択肢、つまり、徹底して非暴力不服従を選択するのか、それとも武器をとるのか、の二つの選択肢の間で決断を迫られている。ウクライナの文脈のなかで、この二つの選択肢がどのような意味をもつのかは下記の記事にあるように、容易な問題ではない。これまでも武力行使を否定してきたウクライナ平和主義運動は国内の極右に狙われ続け、他方でロシア軍に対する武装闘争を選択したイリヤらはアナキストでありながら腐敗した政府の国軍との連携を余儀なくされる。

さて、私の関心はむしろこの戦争への日本国内の論調が、反戦運動も含めて、ナショナリズムの罠を回避しきれていないことへの危惧にある。日本のなかのロシアの侵略戦争への反対という正しい主張が、侵略に対して自衛のための戦争は必要であり、だから自衛力としての自衛隊もまた必要なのだという間違った考え方を正当化しかねないのではないか。人々のナショナリズムの感情が軍事力の行使を正当化する心情として形成されてしまうのではないか、という危惧だ。ウクライナの国や「民族」を防衛すべきとするウクライナイ・ナショナリズムの感情形成への回路があることを反映して、ウクライナの現状を学校で教える日本の教師たちが、「だから、日本もまた、国土を守るために自衛隊が必要であり、私たちも侵略者と闘う覚悟が必要だ」といった感情を子どもたちに与えかねないし、大人も地域の人々も同じようなナショナリズムへの同調という心情の共同体を容易に形成してしまうのではないか。もちろん政権や政治家たちも、この戦争事態を格好のナショナリズムと自衛隊肯定から自衛力としても武力行使の肯定へ、つまり9条改憲の正当化へと繋ごうとすることは目にみえている。

改憲反対という人達のなかで、どれだけの人達が自衛のための戦争もすべきではない、戦争という選択肢は侵略されようともとるべき手段ではない、ということを主張できているだろうか。

(3月6日追記) ユーリイ・シェリアジェンコは、Democracy Nowに何度か登場しています。

https://www.democracynow.org/2022/3/1/ukrainian_pacifist_movement_russia_missile_strike

https://www.democracynow.org/2022/2/16/yurii_sheliazhenko_russian_invasion_ukraine



投稿者
マイク・ルートヴィヒ、トゥルースアウト
発行
2022年3月5日

ロシアが2月24日にウクライナに侵攻して以来、キエフにあるユーリイ・シェリアジェンコYurii Sheliazhenkoさんの5階建ての家に毎日サイレンと爆発音が響いている。シェリアジェンコは「ウクライナ平和主義運動the Ukrainian Pacifist Movement」の事務局長であり、戦争状態にあるこの国で、孤立しながらも断固として平和を求める声を上げている。彼は、武器を持つことを拒否し、ロシア軍の進攻をかわすために隣人と一緒に火炎瓶を作ることを拒否し、「多くのヘイト」を経験してきた。そのロシア軍は、ウクライナ防衛を決意した民間人と戦闘員の厳しい抵抗に直面している。

シェリアジェンコは、ウクライナの活動家を支援するために米国の人々ができることについて電子メールで尋ねられたとき、「まず、平和への暴力的な手段はない、という真実を伝えることだ」と答えた。

キエフ近郊のどこかでは、「イリヤ」とその仲間たちがロシア軍に対抗して武器を取り、戦闘訓練をしている。暴力が激化しているため身元を隠さなければならないイリヤは、隣国の政治的抑圧から逃れ、ロシアの侵攻に抵抗することを決意した無政府主義者である。ウクライナや世界中のアナキスト、民主社会主義者、反ファシストなどの左翼の仲間とともに、イリヤはウクライナ軍の下である程度の自治権をもって自主的な民兵のように活動する「領土防衛territorial defense」部隊のひとつに参加した。抵抗委員会と呼ばれるグループによれば、共済グループや文民的任務を持つボランティアの水平同盟からの支援を受け、反権力者たちは領土防衛機構の中に独自の「国際分遣隊」を持ち、物資のための資金を調達しているとのことである。

「敵が自分を攻撃しているとき、反戦平和主義の立場をとることは極めて困難です。というのも、自分自身を守る必要があるからです」と、イリヤはTruthoutのインタビューで語っている。

シェリアジェンコとイリヤの異なる道は、ウクライナの活動家や進歩的な社会運動が直面している困難でしばしば極めて限定的な選択肢を物語っている。注目すべきは、彼らの政治における暴力の役割に関する異なる見解が、両活動家に、互いに敵対するのではなく、むしろ補完し合うような積極的な闘争を行わせている点である。

イリヤと彼の同志たちは、彼が「明らかに多くの欠点と腐ったシステムをもっている」と言うウクライナ国家について、何の幻想も抱いていない。しかし、ウクライナ、ロシア、東ウクライナの親ロシア分離主義者は2014年以来、低レベルの戦争を行っており、他の多くの左派と同様に、プーチン流の残忍な権威主義を押し付けかねない「ロシア帝国主義の侵略」が現時点での最大の共通の脅威だとイリヤは考えている。ウクライナは民主主義が十分に機能しているとは言えないが、反権威主義の活動家たちは、ロシアの介入とそれに伴う信じられないほど抑圧的な政治状況によって、この国の問題が解決されることはないと語っている。ロシアでは現在、デモ隊が警察の残忍な弾圧に逆らい、長い実刑判決の危険を冒して戦争に抗議している。

「ロシアでは広範な反戦運動が起こっており、私はそれを断固として歓迎します。しかし、私が推測する限り、ここではほとんどの進歩的、社会的、左翼的、自由主義的な運動は、現在ロシアの侵略に反対しており、それは必ずしもウクライナ国家と連帯することを意味していません」とイリヤは言った。

シェリアジェンコは、これまでに何百、何千もの民間人の命を奪った致命的な戦争について、双方の右翼バショナリストを非難している。シェリアジェンコと仲間の平和活動家は、街頭でネオナチに襲われる前に、ウクライナの極右ウェブサイトによって、ロシアに支援された分離主義者との戦争に反対する裏切り者として個人情報をネットに晒されたり「ブラックリスト」入りされたりした。しかし、ウクライナで親ロシア派大統領を退陣させた2014年のマイダン蜂起以降、ファシスト集団や極右ウルトラナショナリストが台頭したことは、プーチンが主張するような流血のロシア侵攻の言い訳にはならないとしている。

「現在の危機には、すべての陣営で不品行が行われてきた長い歴史があり、「我々天使は好き勝手できる」、「彼ら悪魔はその醜さに苦しむべきだ」といった態度をさらに取れば、核の終末も例外とはならないさらなるエスカレーションにつながります。真実は双方の沈静化と平和交渉の助けとなるべきです。とシェリアジェンコは述べてる。

多くの民間人がウクライナ軍に志願しているが、戦争が2週目に入ると、ロシア軍と戦う以外にも活動家にはやることがたくさんある。イリヤによると、「市民ボランティア」は暴力から逃れる家族を助け、世界中のメディア関係者に語りかけ、レジスタンス戦士の家族を支援し、寄付や物資を集め、前線から戻った人たちをケアしているという。労働組合は現在、資源を整理し、戦争で荒廃した東ウクライナから西側やポーランドなどの近隣諸国に逃れる難民を支援している。

ボランティアには様々な政治的背景があるが、イリヤのようなアナキストにとって、抵抗活動に参加することは、現在および戦後の政治や社会発展に影響を与える急進派の力を高めるための手段である。相互扶助と自律的な抵抗を行う草の根の「自己組織」もまた、生き残りの手段としてあちこちで生まれている。

「はっきりさせておくと、私たちの部隊の全員がアナキストを自認しているわけではありません。それよりも重要なのは、多くの人々が自発的に組織して、互いに助け合い、近所や町や村を守り、占領軍に火炎瓶で立ち向かうことです」とイリヤは言う。

一方、シェリアジェンコと散在する平和活動家たちは、非暴力による市民的不服従を含む戦術で、強制的な徴兵制に反対し続けている。シェリアジェンコによると、18歳から60歳までの男性は「移動の自由を禁じられ」、軍関係者の許可がなければホテルの部屋を借りることさえできないという。

シェリアジェンコは、官僚的なお役所仕事と兵役以外の選択肢への差別があり、宗教家でさえ良心的兵役拒否を妨害していると述べた。米国の活動家は、人種、性別、年齢に関係なく、すべての民間人を紛争地域から避難させるよう呼びかけ、紛争をエスカレートさせるような武器をウクライナに持ち込まない援助団体に寄付をすべきだと、彼女は付け加えた。米国主導のNATO連合はすでに軍に多くの武器を供給しており、ウクライナのNATO加盟の可能性が戦争の大きな口実となった。

「平和文化の未発達、創造的な市民や責任ある有権者よりもむしろ従順な徴兵を養成する軍国主義教育は、ウクライナ、ロシア、ポストソビエトのすべての国に共通する問題です」「平和文化の発展と市民としての平和教育への投資なくして、真の平和は達成されないだろう」ととシェリアジェンコは語った。

出典:https://truthout.org/articles/war-is-forcing-ukrainian-leftists-to-make-difficult-decisions-about-violence

(声明)警察法改悪反対、サイバー警察局新設に反対します

以下、転載します。(警察法改悪反対・サイバー局新設反対2・6実行委員会のウエッブから) 団体賛同は3月4日に第二次締め切り


団体賛同を募っています。(詳しくはこちらへ)

1月28日に国会に提出された「警察法の一部を改正する法律案」において、警察庁は新たに「サイバー警察局」の新設と長官官房機能の大幅強化を打ち出し、大幅な組織再編を計画しています。私たちは、以下の理由から、警察法改正案には絶対反対です。

(1) 言論・表現を専門に取り締る警察組織の新設。

「サイバー」領域とは、私たちが日常生活の基盤として利用している電子メール、SNSなどによるコミュニケーションの領域そのものであり、憲法電気通信事業法などで「通信の秘密」が保障されている領域でもあります。また、コミュニケーションの自由は、言論、表現の自由、思想信条や信教の自由の必須条件でもあり、民主主義の基盤をなすものです。このような私たちのコミュニケーション領域は、一般の市民だけでなく報道機関も利用し、選挙など政治活動の場でもあり、医療関係者や弁護士など人権に関わって活動する人々の基盤をなすものです。サイバー警察局は、高度な技術力を駆使して、こうした活動そのものを犯罪の疑いの目をもって捜査対象に据えることになります。

(2) 都道府県の警察の枠組を超えて警察庁が捜査権限を持つことが可能な組織再編。

法案では「サイバー」領域について、警察庁みずからが各都道府県の警察の枠組を超えた捜査権限をもつことを可能にする制度、人事、そして技術力の確保を提案しています。各都道府県警察の権限は大幅に後退することになり、将来、更に「サイバー」以外の分野での警察の中央集権化への道筋をつけるものになりかねません。また、警察庁長官官房が、情報技術に関連する広範囲にわたる権限を持つことになり、技術が重要な役割を果す「サイバー」領域に関しては、民主主義的な検証が行なえず、警察が思いのままに網羅的な監視技術を拡大させうるものになります。戦前の国家警察の反省から生まれた自治体警察の枠組は、事実上骨抜きにされることになるでしょう。

警察はこれまでにわかっているだけでもすでに、被疑者写真約1170万件、指紋1135万件、DNA型141万件など膨大な個人情報収集しています。(204回国会 参議院 内閣委員会2021年5月11日) また捜査機関の民間通信事業者への問い合わせ件数も膨大な数です。(2021年上半期、Lineだけで1,421件の情報開示)しかし、その実態はほとんど明らではありません。そして、人々のコミュニケーションがインターネットのメールやSNSを中心としたものになるなかで、ビッグデータと呼ばれる膨大な個人情報収集の仕組みが普及し、これをAIで解析することによって人々の行動や考え方に影響を及ぼすことができる時代になっています。

こうした時代状況を踏えたとき、法案が意図するサイバー警察局は、私たちの日常的なコミュニケーションを常時監視し、分析し、取り締る言論警察、思想警察あるいはサイバー特高警察と言ってもいいような存在になることは容易に予想できることです。

以上から、私たちは、警察法の一部を改正する法律案に強く反対します。

2022年2月14日

呼びかけ団体:警察法改悪反対・サイバー局新設反対2・6実行委員会(注)

(LeftEast)プーチンのウクライナに対する帝国主義的戦争を非難する

以下は、LeftEastが出した声明の翻訳です。包括的に、左派がとるべきスタンスを端的に提起していると思います。LeftEastは、東欧からロシアの地域を中心に左翼運動と思想の発信メディアとして優れた論評の公開の場となってきました。最近は特にジェンダーの問題にも傾注しています。


LeftEast
2022年2月25日
LeftEastのメンバーは、ウクライナで戦争にエスカレートした暴力的な軍事侵略に愕然としている。これは、この数十年間見られなかった規模の流血に我々の地域を投げ込む恐れがある。私たちは、クレムリンの犯罪的な侵略を明確に非難し、ロシア軍を国際国境まで撤退させることを要求する。私たちは、この戦争を引き起こした米国、NATO、およびその同盟国の責任を忘れてはいないが、現在の状況における明らかな侵略者は、ロシアの政治的・経済的エリートである。私たちは、ロシアの許しがたい帝国主義的なウクライナ侵略を暴露することに努力を傾注するが、NATOのアグレッシブな拡大とウクライナのポスト・マイダン体制もこうした方向に道を開いたのである。革命的精神とウクライナ、ロシア、地域の人民との連帯のもとに、私たちは、今日のモスクワに「ノー!」と言い、将来のモスクワとNATOの間の誤った選択に「ノー!」と言う。私たちは、即時停戦と交渉のテーブルへの復帰を要求する。グローバル資本の利益とその軍事機械は、人民の血の一滴にも値しない。平和と土地とパンを!

「サンクトペテルブルクで発見されたグラフィティ。画像は https://twitter.com/submedia より

私たちは、私たちをこうした状況に導いた、少数独裁資本主義oligarchic capitalism、権威主義的新自由主義、そしてグローバルな反共勢力によって培われた地域反共主義を拒否する。プーチン自身が2月21日の「歴史演説」で「非共産化を望むか?まあ、私たちにはそれがお似合いだ。しかし、よく言われるように、中途半端なところでやめる必要はない。ウクライナにとって本当の非共産化が何を意味するのか、見せる用意がある 」と脅した。今日のクレムリンによる攻撃は、断絶が一気に進んだことを表している。少数の右翼政治家が利益を得ることは確かだが、ほとんどの人にとって、極端なナショナリズムや極右思想は、苦しみと憎しみの連鎖をもたらすだけである。経済的には、この反共産主義が、ロシア、ウクライナ、東欧全域で見られる少数独裁資本主義、そして貧困をもたらした。政治的には、かろうじて国民の代表であるかのように装う政府をもたらした。

私たちは、次のことを強く主張する。

(1) 私たちは、この直接的な戦争行為についてクレムリンの責任を追及する! ロシア国家は、まったく反動的な帝国への郷愁の名において、また、過去と現在の東欧の革命運動によって例示された国際主義的連帯に明確に対抗して、ウクライナに侵攻したのである。プーチンの「偉大なるロシア」ナショナリズムは、東欧の豊かな文化的多様性を否定することによって、国際的地位を獲得しようとする犯罪的かつ無益な試みである。私たちは、この地域のすべてのエスニックコミュニティとともに立ち、すべての人のためのよりよい世界のための闘いを通じた平和的連帯のビジョンを支持する。

(2) 私たちは、この戦争の発端はクレムリンであり、今日の主要な侵略者であると考えるが、この悲惨な状況に対して米国とその多くの同盟国、そして多国籍資本が負っている責任も念頭に置いている。NATOの拡大に対するロシアの懸念についてロシアとの交渉を拒否したことが、ウクライナ政府を含む多くの人々が非エスカレーションを求めたにもかかわらず、戦争の炎を燃え上がらせてしまったのである。パンデミックの後、米国や他の先進資本主義国の経済・政治エリートは、失敗しつつある民主主義の正当性と欧州大西洋「統合」の経済ヘゲモニーから人々の目をそらそうと考えた。彼らは、東欧の人々の犠牲の上に、資本蓄積の活性化を推し進めた。好戦的な敵であり、現代の帝国主義者であるプーチンは、ロシアとウクライナの社会的再生産の悲惨なポスト社会主義とパンデミック関連の危機を利用して、ナショナリズムの感情に火をつけ、古いエスノナショナリズムの紛争から利益を得つつこれを(再)生産するために、今、このようなことをしている。搾取的で拡張主義的な欧州大西洋「統合」は、今や権威主義者にとっての開戦理由となっている。それが、ウクライナで本格的な戦争に発展している。

(3) 私たちは、皮肉にもプーチンと彼の「非共産化」の約束によって具現化された地域的反共産主義を拒否する。彼は羊の皮をかぶった狼のような連帯を左派の一部から得ており、プーチンを「共産主義者」とみなそうとするリベラルな人々がいるが、彼の政府は野党のロシア左翼the Russian Left、反ファシスト、アナキスト、反戦運動を排除し、残忍な扱いをしてきた。しかしまた、決定的に重要なこととして、私たちは、ロシア、ウクライナ、および東欧の小市民的日和見主義的政権において、軍国主義的右翼のレトリックと他人の不幸から利益を得ることを組み合わせて、ナショナリズムと極右思想を育む少数独裁資本主義に基づく反社会的な体制を拒否する。

(4) 私たちは、ここ数年のロシアとウクライナ双方における、いわゆる「非共産化法および非共産化改革decommunization laws and reforms」を拒否する。ロシアとUSA/NATOという私たちにとっての二つの「敵の陣営」は、権威主義的反共主義的新自由主義の道を歩んできた帝国主義・資本主義勢力である。彼らが共有するこの道をウクライナもまた歩んでいるが、とりわけ、新自由主義的労働法、土地へのアクセスを妨げることを目的とした土地「改革」、小農民の追い立て、そしてここ数年の経済・社会政策改革によって証明されているように、人々は搾取や貧困のリスクに極めて脆弱になり、ロシアとウクライナだけではなく地域とグローバル双方に影響を与える前例のない社会経済危機を招いている。
(5) 現在のウクライナ政府を美化して完全に民主的な自由の担い手であるというのと現実は異なり、私たちはウクライナのポストマイダン体制に疑問を投げかけている。すなわち、左翼や野党への弾圧、主要野党の追放、人気のある反政府メディアの封鎖、差別的言語政策、ウクライナの政治・エスニック・文化の多様性を認識し受け入れようとしないこと、過去7年間のミンスク合意への妨害行為などだ。ウクライナの極端な「非共産化」改革もまた、私たちが単に過去の持続不可能な状況への回帰を望むことはできないことを明らかにしている。

(6) 私たちは、人種差別的で軍国主義的な欧州大西洋の統一や、報復主義的なユーラシア主義に救いを求める陣営主義の解決を拒否し、その代りに、ラディカルな社会変革、民主主義、労働者の権力、インクルーシブであること、そして解放のための真の闘いを支持する。

(7)血と貧困と分裂しか予感させないこれらの反動的イデオロギーに対して、私たちは、東欧の革命運動の遺産を支持する。その(多くの)伝統の中で我々は、資本主義、帝国主義、軍国主義に対する闘いと宗教、エスニック、ジェンダー平等の約束を批判的に追及する。この闘いは、ウクライナ人とロシア人、そしてこの地域の歴史的に抑圧されてきたグループ―ロマ、ユダヤ、タタール、移民コミュニティ、女性、性的マイノリティ―にとって、より良い未来への唯一の希望であり、すべての労働者とこの地域で抑圧されている人々との連帯である。この精神に基づき、我々はウクライナとロシアの政治犯への連帯と、両国のラディカルな反資本主義的な民主主義のための運動とその勢力への支持を宣言する。

私たちは、即時停戦、経済的・政治的エリートには影響を与えるが影響を受ける国の労働者や人民には影響を与えない反戦の努力、そして私たちの地域を戦争に巻き込んだ平和プロセスと社会・経済政策における過去の過ちを棚卸しする交渉を求める。私たちは、ウクライナとロシアの反資本主義・反戦運動と連帯する。私たちは、自由民主主義の約束に幻想を抱いていない。階級闘争以外に戦争はない!

私たちは、まだ戦争の影響を受けていない国の同志に、ウクライナや他のすべての紛争地域からの難民を完全かつ人道的に受け入れるよう自国政府に圧力をかけ、平和への道を迅速に描くことを要求し、侵略と好戦的愛国主義によって生活(命)の影響を受けている人々との連帯を表明するよう求めます。私たちには、左翼の国際主義と平和主義の歴史がある。