戦争に反対する組織作りの緊急性

以下は、前の投稿に続き、TSSのウエッブからの呼びかけの訳。TSSは昨年10月に会議を開催したのに続いて、2月10日からフランクフルトで会議を開く。この会議に向けた呼びかけ。なお共催のドイツの団体、Interventionisische LinkeのウエッブにもILからの集会参加の呼びかけ文が掲載されている。このILの呼びかけでは次にような言及があるので紹介しておく。

「数回のトランスナショナルな会議(ポズナン、パリ、ベルリン、リュブリャナ、ストックホルム、ロンドン、トビリシ)を経て、昨年9月にブルガリアのソフィアに集った。私たちは、中東欧が安価な生産的・再生産的労働力の貯蔵庫であり、権威主義的・家父長的政治と産業再編の実験場であるだけでなく、数十年にわたる社会的再生産の危機の中心であることを認識している。東欧からは、EUの変容とそのトランスナショナルな次元をより明確に見ることができる。フランクフルトでの会議では、これらの経験を、いわゆるEUの金融センターにおける闘争と結びつけたいと考えている。私たちは、ヨーロッパ内で起こっていることに国境を越えた次元を加え、民族主義、人種差別、賃金、性差別の分断と闘う力を発展させたい。

すでに多くの闘争が始まっている。例えば、戦争反対の恒久的なアセンブリ、5月1日に始まった「反戦ストライキ」とトランスナショナルな平和政治のための動員などだ。英国での “Don’t Pay “キャンペーンは、他の国でにも波及している。生活費の高騰に対抗して組織される草の根的な取り組みがますます増えてきている。アマゾンでの賃上げを求めるストライキ、フランスでの運輸・エネルギー部門におけるストライキ、イタリアでの闘争。平和と気候正義を求めるデモ。ロシアにおけるフェミニストの反乱と家父長制の暴力に対するストライキ。ウクライナからの難民、特に女性を含む大規模な人の移動、ロシアではプーチン政権から部分的な動員を逃れるための人々の移動、そしてEUに向けた、あるいは国境を越えた移動の動きが続いている。女性の自由の名の下で起きたイランでの決起。私たちは、こうした異なる形態のストライキや拒否を、異なる未来を求める運動として統合したい。私たちは、共にに闘うことを学ばなければならない。私たちは、搾取、人種差別、家父長制を意味する当たり前の状態に戻るだけではない平和のために闘いたい。」


2023年2月7日

by 戦争反対の恒久的なアセンブリ

ロシアがウクライナに侵攻し、無差別戦争が勃発してから約1年、あらゆる方面からの言葉や 動きは、戦争のエスカレーションを意味するものばかりである。この戦争が、崩壊しつつある世界秩序の柱を揺るがしているとき、戦争マシーンに直接関与する行為者や国家もあれば、事態の進展を見守りながら、適切な機会をとらえて、対抗するための軍備を整える者もいる。この利己的な政治ゲームの中で、また核災害の予兆にかかわらず、どの制度的イニシアティブもウクライナの戦争を積極的に止めようとはしていない。戦争は国家政治の中に組み込まれるようになり、私たちは第三次世界大戦の状況に生きていることを認識するために、ウクライナや他の場所でさらなる悲劇を待ち望む必要はないのである。戦争が始まってほぼ1年、プーチンの侵略に対する無条件の非難は、私たちがさまざまなアクターによって血生臭いゲーム引きこまれてきたことを隠すことはできない。このような状況の中で、私たちは、国境を越えた平和の政治を構築するために、たゆまぬ努力を傾ける必要がある。

戦争の政治の中で、グローバルなバランスとバリューチェーンにおける位置づけが再構築されつつある。侵略と破壊が見られるところでは、ロシアの政治家がサプライヤーとして権力を維持する可能性を見出し、死と社会的再生産の危機が深まるところでは、ヨーロッパやアメリカの政治家が大企業にとっての機会を見出し、戦争を止めなければならない場所では、トルコ、イラン、中国を含む他の政府がより高い経済・政治の役割を獲得する機会を狙っている。よく知られているように、ウクライナでは汚職との闘いにさえ、復興のための莫大な投資をめぐる競争が見え隠れしている。これは、EUの民主主義の基準とはほとんど関係がなく、一部のオリガルヒの代わりに、金融投資家に「復興」から利潤を確保させるためのものである。損傷したウクライナのインフラ修復の受注競争と、欧州委員会、グローバルなコンサルタント会社、金融機関の復興の見通しに対する意気込みは、恥知らずにもほどがある。

欧米からの戦車、ミサイル、弾薬、軍事インフラへの投資が増えることで、どのような形で戦争の行方が変わるのか、私たちには分からない。ここ数カ月、戦争がエスカレートするたびに終結が近づくという声が聞こえてくるが、現実には誰もが戦争の長期化に備えている。プーチンの殺人的な猛攻にもかかわらず、戦争の利益を夢想しているのは彼一人ではない。ヨーロッパ中の議会での決定は、政府の側近が指示する通常の選択肢の承認へと帰結している。ウクライナへの兵器提供に関して、わずかでも意見の相違を表明した政治家は、敵の側についたと非難される。ゼレンスキー大統領が率直に述べたように、「自由、財産、利潤」を守るという名目で、どんな些細な抵抗も抑圧される。一方、新しい「博士の異常な愛情」[冷戦期の核戦争を風刺した映画のタイトル(訳注)]は、自分たちが完全にコントロールしており、行動の限界もわかっていると主張する。しかし、私たちは彼らの安心感に納得することはできない。このような図式の中では、国粋主義的な言説が反対意見を封じ込め、戦争の霧の背後にある社会的対立を黙殺しようと目論まれている。この数週間の戦車の騒動はその一例だ。数週間の緊張の末に、私たちはより多くの国々が戦争に深く関与し、ジェット戦闘機を含むさらなる兵器を新たに要求している状況を見ている。

戦争がウクライナの人々の生活を破壊する一方で、この戦争から直接的に利益を得ているのは、軍事産業であり、この産業は大きな後押しを受けている。現在、戦争に関心を持つ産業やサプライチェーンは増え続けている。ドイツの兵器メーカーであるRheinmetallが脚光を浴びており、その株主はこのエスカレーションから利益を得るだろう。同じことは、この戦争のそれぞれの側にいる他の国々の軍産複合体にも当てはまる。しかし、これらのことがすべて明らかになったとしても、それが簡単な答えになるわけではあるまい。軍需産業は孤立しているわけではない。研究、部品や電子機器、資源や物流、サービスや労働力を動かす複雑なサプライチェーンの一部なのだ。このような絡み合いの結果、単に反軍事主義者であることは自立した主張にはならない。私たちは、ウクライナ戦争の結果を掘り下げ、それによって生活が一変する主体の条件と闘いに、私たちの反対を根付かせる必要がある。もし私たちが長期的に戦争に効果的に反対したいのなら、もし私たちが国境を越えた平和の政治に貢献したいのなら、戦争が経済、金融、産業部門全体に影響を与え、社会の再生産を揺るがすという事実に対処する必要がある。実際に反軍主義者であることは、今日、国境を越えて戦争の政治がもたらす高い代償を払う労働者、移民、女性の側に立つことを意味する。

そして、私たちについてはどうだろうか。私たちは、戦争と戦争が生み出す変化に反対するために組織化することの緊急の責任を感じている。私たちは、現在の課題の大きさに取り組み、共通の土台を築くために、私たちの間の違いを確認することから始める場合にのみ、このようなことが起こり得ることを知っている。私たちは、戦争イデオロギーによって押しつけられた分断と陣営主義を超える必要がある。私たちは国民国家の論理を拒否し、ナショナリスティックな言説や地政学的な位置づけが私たちの政治的想像力を奪うことを受け入れない。

同時に、私たちの多くが生活し闘っている世界の一部が、ウクライナの戦争に直接的に関与しているという事実を直視しなければならない。欧州機関の代表者たちは、直接的にも間接的にも「我々は戦争状態にある」と認めており、欧州の政策と政治的バランスはそれに応じて再編成されている。ポーランドやチェコ、ドイツやフランスなど、かつてはEU加盟国の間で比較的距離を置いていた立場が、戦争が続く中で、アメリカの後押しを受け、警戒心をもって収斂されていく様を見ることができる。ヨーロッパ政治の現状において、私たちは「東」と「西」の間の分断に取り組み、異なる経験や組織化の形態の間の断絶を回避したい。その目的は、互いに学び合い、戦争の政治を拒否し、私たちが経験するさまざまな形態の搾取、人種差別、家父長制に対して闘う共通の力を構築することにある。ヨーロッパを越えて、私たちは、地中海や中央アジアのさまざまな地域の間にある既存のつながりを強化し、新たなつながりを築きたいと考えている。

実のところ、戦争は世界中で貧困を増大させる生活費の上昇を助長し、気候危機に取り組む公約に鞭打ち、市民的・社会的権利の促進は議題にならない。労働者は自分たちの要求 を棚に上げてこれらすべてに貢献すること を求められ、家父長的な役割が強化され、移民 に関する言説全体がハイブリッドな脅威の 境界の中で再構成され、国境のさらなる軍事化 が正当化さているのである。「ヨーロッパの価値」と称される言説の背後には、難民の不平等な扱い、ウクライナ人に一時的な保護を与える一方で彼らを過酷な搾取にさらす偽善、ウクライナ、ロシア、ベラルーシのいずれからの脱走兵や異議申立人をも歓迎しないことなどを通じて、人々の憎悪を煽る現実が横たわっている。

しかし、戦争が政治的な風景を変える一方で、労働争議は増加の一途をたどっている。ストライキの波がいくつかの国を席巻し、労働者は生活水準への打撃と、より厳しく、より長い労働を強いられることに抵抗している。リュッツェラートに集う気候変動活動家は、新たな力と新たな要求を獲得し、移民は国境体制と制度的人種差別に挑戦し続けている。これらのすべての経験において、ストライキは職場や社会条件の境界を常に越えるツールである。これらの闘いの中から、私たちは、戦争の政治を覆し、異なる世界のための集団的戦略への道を開くことを目的とした、国境を越えた平和の政治を発展させるというコミットメントを強化する。このことは、私たちにとって、戦争によってより深くなった異なる運動、異なる条件、異なる場所の間の分裂やコミュニケーションの欠如に取り組むことも意味する。

このような理由から、私たちは2月10日から12日までフランクフルト・アム・マインで開催される、トランスナショナル・ソーシャル・ストライキ・プラットフォームとInterventionistische-Linkeによるトランスナショナル・ミーティングに参加する予定です。そこでは、国境を越えたコミュニケーションを深め、新しい関係を築き、長期的な共通の戦略を開発することを目指すとともに、3月3日の気候変動ストライキや3月8日のフェミニストストライキなど、次の動員について議論する。これらの瞬間は、平和のトランスナショナルな政治を定義する上で不可欠なものだ。しかし、私たちはもっと多くのことが必要であ ることを知っている。ウクライナの戦争と戦争の政治に反対するトランスナショナルな動員が必要なのです。トランスナショナルな平和の政治を構築するために、私たちは組織化する必要がある。これは、私たちが共に計画することができるし、そうしなければならないことであり、戦争に反対する恒久的なアセンブリの主要な目標である:私たちはもっと多くを求めており、フランクフルトでそれを始めることにしよう。

戦争を内部から拒否し、平和のために打って出る――ソフィアからの発信

以下に訳出したのは、昨年ブルガリアのソフィアで開催された戦争に反対する恒久的なアセンブリthe Permanent Assembly Against the War(PAAW)で出された宣言である。この集会は、トランスナショナル・ソーシャル・ストライキ・フォーラム(TSS)とブルガリアのLevFemが共催した集会のなかで企画された。

TSSについては、別途訳した自己紹介文を参照してください。LevFemは、ウエッブによると以下のような活動をしている団体だ。

「LevFemは2018年に設立された左翼フェミニスト団体。 資本主義経済の中で生み出される社会経済的不平等が、ジェンダー不平等の拡大に直結していることに関連する問題を取り上げている。LevFemは主に、保健、社会福祉、教育、介護などの女性化された主要部門の女性労働者や、疎外されたコミュニティの代表者をフェミニズム運動の目標に一致させるために活動している。交差性の原則に基づいて、フェミニスト運動をLGBTI+の活動や反人種差別と結びつけている。」

この集会にはロシアのフェミニスト反戦レジスタンス、ウクライナ、クルディスタン、グルジアの活動家など、戦争当事国やこの戦争に深刻な影響を受けている国々からの参加者を得て開催されたと述べられている。ロシアのフェミニスト反戦レジスタンスについては私のブログでも紹介してきた。この集会を組織したトランスナショナル・ソーシャル・ストライキ(TSS)は、昨年7月に宣言を出し、この戦争へのスタンスを示しており、以下の宣言もこの昨年7月の線を踏襲している。

私は、彼らの戦争へのスタンスに非常に強いシンパシーを感じるのだが、なかでも、私達が、国家に収斂するような動き――その最たるものが戦争になる――に加担すべきではないという原則を、「トランスナショナル」な観点で打ち出していることだ。しかも、この観点には、家父長制がもたらす暴力や戦争を忌避し逃亡する人達にこそ目をむけるべきだとする主張が重ねあわされており、ウクライナ(あるいはNATO)かロシアか、という国別で色分けして踏み絵にすることを拒否し、むしろ、労働者であること、マイノリティであること、女性であること、などトランスナショナルなアイデンティティを連帯の基礎に置いて、戦争には加担しない立場を鮮明にしている。だから、避難する人達や戦争を忌避したり拒否したり脱走する人達への視点を重視し、領土のために、国家ために殺すこと、殺されることを拒否することこそが、祖国なきプロレタリアの立ち位置だ、ということを鮮明にしていると思う。また、EUや日本がロシアに対して口にする西側資本主義の価値についても、その欺瞞的な姿勢との闘い――だからトランスナショナルなストライキが運動課題の中心になる――が必要だと主張している。以下の宣言の最後に、「核の脅威を拒否すること、服従して死ぬことを拒否すること、前線で殺すか死ぬかの運命にある人のヒロイン、母親になることを拒否すること、殴られレイプされることを拒否すること、戦争とその副作用の代償を支払うことを拒否すること、これらすべてが、私たちが今生きている戦争政治に対する一つの強力なトランスナショナル・ストライキになり得る」とあり、この言葉は力づよい。この運動が目下目標にしているのは、主にヨーロッパ圏だと思われるが、ぜひ日本の反戦平和運動にもこうした動きがあることを知ってほしいと思い訳した。(小倉利丸)

2022年10月7日

戦争反対の恒久的なアセンブリのステートメント

9月10日、ブルガリアのソフィアにおいて、TSSプラットフォームとLevfemが主催するトランスナショナル集会の中で、戦争に反対する恒久的なアセンブリ(PAAW)の最初のオフライン会合が開かれ、ヨーロッパ各地と中央アジアから120人以上の人々が集まりました。ソフィアでは、オンライン会議と冬に開催される予定の別のトランスナショナル会議を通じて、平和のトランスナショナル・ポリティクスに向けた可能な限り幅広い収束を求め続けることを決定しました。その間、私たちは戦争とその致命的な結末に反対するすべての闘争と行動を支援し、その可視性を高めていくつもりです。私たちは、総会の報告に加え、最新の動向とそれに対する闘いを強化する必要性を強調する必要があると考えています。

ソフィアでの集会は、ロシアのフェミニスト反戦レジスタンス、ウクライナ、クルディスタン、グルジアの活動家など、戦争の影響を直接受けている、あるいは受けていた国々からの参加で幕を開けました。現地の状況から出発することで、私たちは、現状に対するあらゆる政治的代替案を打ち消そうとする、グローバルな関係の再構築の継続的な致命的な過程を把握することができました。PAAWは当初から、ウクライナの戦争が、大西洋主義と親プーチン主義 の間のオルタナティブ、東西間の文明の衝突、包括的な人種差別と植民地主義的言説を あらゆる場所に押し付けようとする、過激な分裂主義であると認識していました。これに対する応答として、PAAWは、これらの分断を乗り越え、それを超える戦争に反対するトランスナショナルな大衆運動を構築する必要性を確認しました。ソフィアでの議論とこの声明は、戦争を率直に議論し、搾取と抑圧のない未来のために闘う可能性を取り戻すトランスナショナルな平和政治を構築する場として、PAAWの重要性を確認するものです。

私たちが第三次世界大戦と呼んでいるものの兆候が、ますます恐ろしく浮かび上がってきています。中央アジアのキルギスとタジキスタン、そしてアゼルバイジャンとアルメニアの国境地帯で、軍事的緊張がエスカレートしているのを私たちは目の当たりにしてきました。この地域ではロシアの派兵解除により、民族主義者と宗教団体の間の緊張が爆発し、より多くの暴力と多くの死者を出しています。これらの地域は、資産やオリガルヒだけでなく、数百万世帯の生活を支える移民の送金にも大きな打撃を与えた制裁の影響に、すでに屈服しています。エルドアン政権は、現在進行中の覇権争いを利用し、国際戦争における新たな中心性から利益を得て、シリア北東部に対する低強度戦争と山岳部での化学兵器の使用によって権力を拡大し、クルディスタンでの革命を阻止しようと試みているのです。EUによれば、ウクライナでは「ヨーロッパのための戦争」が戦われています。このプロパガンダの姿勢は、プーチンの侵略と西側の反応がヨーロッパの国境を越えて生み出す暴力と悲惨さのレベルを無視し、正当化するために使われています。

ウクライナでは、近づく冬によって深刻化した大規模な人道的危機が進行中であり、何百万人もの避難民が到着することのない支援を必要としている。一方、ロシアは核による脅威を強めており、その反対勢力は「相応の報いを受けるだろう」と断言しています。この差し迫った破滅は、現在の生存を超えた何かを主張するあらゆる可能性を阻止することを目的としています。しかし、プーチンが約30万人の部分動員を発表して以来、ほぼ同数の人々がロシアを離れ、ロシアの数十の都市で女性主導の抗議行動が起こり、数千人が逮捕さ れました。

これに対して、ヨーロッパのいくつかの国は、国境を越えるロシア市民に厳しい制限を課しています。当初は、ロシア連邦をさらに苦しめ、国内の反体制的な感情を醸成することが目的だと明言されていました。しかし、プーチンが部分動員を発表した後、EUは「動員を逃れることは戦争を拒否することとイコールではない」「EUは自国の安全を第一に考え、これまで通り亡命権を制限する必要がある」と宣言したのです。ヨーロッパ諸国は、ウクライナからの女性や子どもたちを受け入れることで、慈愛に満ちた父性的な態度を示しました。彼女たちは今、すべての移民女性が最終的に行き着くところ、つまり、重要な部門における低賃金と搾取された仕事、そして制度的人種差別にさらされているのですが、国のために死ぬという当然の義務を果たすのを拒否した男性に対しては、残酷さを示しているのです。

ヨーロッパのエリートたちのこうした態度は、プーチンの家父長制的な戦争と明確につながっています。男性は戦い、死ぬことを強いられ、「母親のヒロイン」を珍重し、胎児や 子ども兵士の広告で中絶反対キャンペーンを展開し、こう言っています。「今日、私を守ってくれれば、明日はあなたを守ることができます。」女性は兵士の産みの親であり、子どもは未来の兵士なのだ。私たちは、エルドアンの性的自由に反対する家父長的政治と、クルド人の抵抗と民主的フェミニスト・プロジェクトを黙らせようとする意志の間に越えられない一線があるのを見ています。家父長的で愛国的な線が、戦争の前線を横切っているのです。

戦争によって悪化した世界的な不安定と金融投機のために、ヨーロッパ全土でエネルギー価格が高騰しているのを私たちは目の当たりにしています。これが、長年の不安定な生活と公共支出の削減によって、すでに困窮している労働者や移民に特に大きな打撃を与えています。NATO同盟のヨーロッパの末端の中心で、各国政府は、労働者、女性、移民、LGBTQ+の人々に対するさらなる悪質な攻撃を実行するために、国旗をまとい登場したのです。ここ数週間、議会の大騒ぎは、ハンガリーやポーランドのような政府に加え、スウェーデンやイタリアなど、さらに多くの政府をも巻き込んで広がっています。英国では、新たに首相に任命されたリズ・トラスを中心とする徒党が、国家給付と公共サービスに対する攻撃を準備しており、その一方で、彼らは賃金レベルがインフレによって破壊されるのを確実にしようと試みています。

英国の政治家たちは、ウクライナ戦争のためにエネルギー料金やその他のコストが急騰していると何度も繰り返しています。何年にもわたる緊縮財政の後、労働者は今、職場や地域社会で抵抗しています。賃金を守ろうとするストライキの波が続いており、「もうたくさんだ」「金を払うな」キャンペーンのような草の根の抵抗への支持が高まっています。ストライキはヨーロッパ全土に広がり、冬には拡大し、インフレによる賃金の引き下げを拒否する大衆的な姿勢が示されるでしょう。

私たちは、戦争の論理と、それが押し付ける国家的・宗教的分裂を拒否します。私たちは、自らを守る人々とともに、徴兵制を拒否し、自分の国に従わず死なないことを決めたすべての人々とともに、立ち上がります。私たちは、戦争の代価を支払うことを拒否するすべての人々と共に立ち上がります。私たちは、すべての人に開かれた国境と移動の自由を要求します。

私たちは、以前はバラバラで、点在する地域の緊張の一部と思われた出来事を、同じ世界の再構築と紛争の一部と見なすことができるようになりました。私たちには、これらの断片を一つにまとめるという任務があります。キルギスタンから英国まで、北シリアからブルガリアまで、スウェーデンからイタリア、ギリシャまで、目の前の死の混乱を乗り切るために、国境を越えた絆を強めていくことになるでしょう。

国境は、国民国家とその同盟によって、私たちを閉じ込め、それがボスのシステムに適さない場合は、私たちが非常に危険な状態でしか移動できないようにするために使用されてきました。そして今、私たちは国境を守るため、あるいは国境を引き直すために、ますます命を捧げることを期待されています。こうした悲惨な命令の代わりに、私たちは国境を越えた平和の政治を必要としています。

私たちは今、軍事化の進展と利潤のために労働者階級の生活水準に課された攻撃に抵抗するストライキと大規模デモの波を見ています。核の脅威を拒否すること、服従して死ぬことを拒否すること、前線で殺すか死ぬかの運命にある人のヒロイン、母親になることを拒否すること、殴られレイプされることを拒否すること、戦争とその副作用の代償を支払うことを拒否すること、これらすべてが、私たちが今生きている戦争政治に対する一つの強力なトランスナショナル・ストライキになり得るのです。

変ってしまうと困る「社会」とは何なのか――戸籍制度も天皇制もジェンダー平等の障害である

荒井勝喜・前首相秘書官発言に対して、岸田が早々に更迭を決めた背景には、ジェンダーの多様性を本気で認めるつもりのない岸田が、これ以上傷口を拡げないための措置だと思う。 ジェンダーはG7の議題のなかでも優先順位が高い課題だが、日本はこれを、リップサービスだけで乗り切る積りだったと思う。

同性婚を法的に認めていないG7の国は日本だけだということがメディアでも報じられるようになった。岸田が「社会が変わってしまう」と発言したことも注目されている。この発言は、ほぼ荒井のオフレコ発言と主張の基本線に変りはないため、荒井が答弁原稿を書いたのではとの憶測があったが、朝日は、これを否定して岸田のアドリブだと報じている。ここで岸田のいう「社会」とは、法制度のことではない。法制度に同性婚を組み込むと変わる「社会」のことだ。ではその社会とは何なのか、このことをメディアは議論していないし、野党も議論できない?

岸田のいう「社会」とは、日本に固有だと岸田が考える伝統的な社会、つまり家族観のことだと解釈しないと、荒井=岸田が同性婚や性的マイノリティに否定的なのかを理解できない。どこの国にも伝統的な家族観はあり、それを変えてきたが、日本は変えられないでいる。これは、LGCTQ+の運動が非力だとかではなく、逆に、性的マジョリティがマイノリティの権利を理解して平等な権利主体として認識して行動することができないというマジョリティ側の問題なのだ。では、なぜそれほどマジョリティがマイノリティへの理解や共感をもてないのか、これを私のようなマジョリティが考えないといけない重要な問題だ。 荒井が語ったのは、理屈ではなく好き嫌いの感情だったことも、ここでは重要な意味をもつ。

どこの国でも資本主義的な家父長制が支配的なことには変りない。しかし、日本に固有なのは、個人よりも家族を優先させる特異な制度上の縛りがあることと、大衆的な婚姻文化――結婚式が両性の合意ではなく両家の合意として演出される違憲状態が定着しているとか――、そして何よりも戸籍制度だ。そしてこの国の強固な家父長制とセクシズム+レイシズムは、象徴天皇制を後ろ盾にした日本的な近代家族観と「日本人」のアイデンティティとも密接な関りがあると思う。 他方で、G7を舞台に、性的マイノリティの権利についての提言を主張するかもしれないが、「市民社会」組織のスタンスから戸籍制度と天皇制をジェンダー不平等の根源にある制度として廃止を提言できるかどうか、私はこの点に注目している。

荒井は秘書官室全員が同性愛嫌いだと発言してもいて、岸田も価値観を共有していることは明らかで、この価値観が戦後生れであってもしっかりと保守層い定着していることは注目すべきことだ。そして、旧統一教会など保守・極右の宗教団体や圧力団体もまた同性婚やジェンダーの多様性を嫌悪してきたことと今回の差別発言とはシームレスに繋がっている。

近代日本が戦前から構築してきた家族観が戦後民法によって改革されたかのように論じる向きもあるが、それは紙に書かれた法律の世界の問題であって、庶民の家族観は戦前からの明確な切断を自覚していない。核家族かどうか、とか専業主婦か共働きか、といった女性差別を解消するかもしれないと期待されてきた家族の変化も、実は期待外れで、戦後生れの核家族の男たちがしっかりと伝統的な家父長制意識を内面化しており、そのことが企業の「風土」を作り、労働運動や革新・左翼の運動もまた主流になればなるほどこの「風土」を共有している。あえて「庶民」と書いたのは、男性の所得が比較的低く共働きを必要とする世帯においても、家父長制意識は再生産されているし、結婚=入籍という等式が常識を形成しているからだ。女性の「社会進出」は自分の人生のために働くのではなく、「家」の家計のために働くことの結果にすぎない。女性の「社会進出」は日本ではジェンダー平等に寄与しているとは思えない。だから日本のジェンダーギャップは、あの不愉快な資本家クラブ、世界経済フォーラムの統計でも世界の120位なのも、こうした日本の現実を象徴している。ある程度の制度的な保障がある女性の場合ですらこうした状況だから、ましてや、権利を大幅に奪われている性的マイノリティの人達の場合の困難は、物理的にも精神的にも更に深刻だ。

たぶん、戸籍制度をなくさないと、多様な性的アイデンティティを平等に権利として保障できない。制度的には戸籍制度がかなりネックになっていると思う。こんな制度があるのは日本だけで、韓国も廃止した。戸籍制度は本来個人を基盤に人権を定義している憲法とは真っ向から対立しているが、このことに自覚的なのはむしろ保守派で、憲法の個人主義を家族主義に従属させる意図をもっているのが自民党の改憲草案だ。だから、今回露呈した問題は、荒井とか岸田といった個人の問題ではなく、政権政党をはじめとする保守派総体も問題であり、それは、価値観だけではなく、この国が近代の統治機構を構築する際に、その根幹に据えた戸籍制度と天皇制という奇妙な装置に由来するものだとはっきりと自覚する必要があると思う。

『戸籍と天皇制』の著者、遠藤正敬は、次にように書いている

「結婚の時には夫婦が氏を同一にしなければならないという面倒事がありながら、みんながそうしているから自分たちもと"自然"に婚姻届を役所に出す。戸籍に登録され、血縁や氏に帰属することを尊重する風潮は、自我の突出を抑制して集団への恭順ないし同調を美徳とする精神を内包している。
 戸籍制度に対する日本人のこうした無抵抗な順応は一体、何に由来するのであろうか。そう考える時、天皇制に対する国民意識のなかに、これと酷似したものを見出さざるを得ない。」

世論調査で同性婚やLGBTQを容認する人達が多数であるという結果が報じられているが、これも私は疑問だ。遠藤の言い回しを借りれば「無抵抗な順応」のなかで無自覚でいられる場合と、そうではなく自分事として身にふりかかっている場合とでは、回答が変わるからだ。たぶん回答者の多くは電通の調査でも示されているように「他人事」なので、容認しているにすぎず、性的マイノリティが抱えている日常的な偏見や制度的な差別を理解しているわけではないと思う。だから、たとえば、自分自身の「家」に関わる問題として自覚されると、この容認の数は、減るだろう。つまり、同性との婚姻ですら「本人が誰を好きになろうと構わないが、結婚は別だ。籍をどうするんだ」といった議論が必ず家族の誰かが持ち出して、入籍できないなら、結婚はできない、みたいな議論がでてきて紛糾するに違いないからだ。このときに、戸籍制度があることで個人の性に関わる差別が制度化されているということに気づくよりも、逆に、戸籍制度を容認・前提して「仕方がないこと」として婚姻の自由を抑制する判断が支配的になるだろうことは容易に推測できる。

実は、私達の日常生活いおいて戸籍も天皇も必需品ではない。ほとんど意識することにない、存在であるが、にもかかわらず廃止を主張することへの抵抗は極めて大きい。これは、戸籍制度と近代天皇制は表裏一体で家族観や価値観に関わるからだ。人々の価値観が変って戸籍も天皇も制度としては不要であるという方向に向かうことを保守派は異常に危惧しているようにめいるが、私は社会的平等い基く個人の自由が何よりも重要な人権の基礎だと考えているので、戸籍も天皇制も廃止すること以外の選択肢はありえないと思っている。

ロシアとウクライナ、良心的兵役拒否が機能していない!!

戦争状態になると、当然のように市民的自由の制約がまかり通ってしまう。それを、戦争だから、国家の緊急事態だから、という言い訳で容認する世論が後押しする。ロシアでもウクライナでもほぼ同じように、良心的兵役拒否の権利が事実上機能できない状態にある。両国とも良心的兵役拒否は法律上も明文化されている。また市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)18条の2「何人も、自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制を受けない」によって、宗教の教義で殺人を禁じている場合は、この教義に基づいて軍隊で武器を持つことや武力行使の幇助となるような行為を拒否できる。日本もロシアもウクライナも締約国だから、この条約を遵守する義務がある。さらに、この自由権規約で重要なことは、宗教の信仰だけでなく「信念」もまた兵役拒否の正当な理由として認められている点だ。

しかし、実際には、ロシアもウクライナも良心的兵役拒否の権利が機能していない。現在、ロシアとウクライナでは兵役拒否の実態がどのようになっているのかについて、下記に二つの記事を翻訳して紹介した。いずれもForum18.org という自由権規約18条の思想、良心及び宗教の自由についての権利を守る活動に取り組むノルウェーに本部がある団体のレポートだ。

ロシア:動員中の代替役務に関する法的規定がない

ウクライナ:ヴィタリィ・アレクセンコに対するすべての告発を直ちに取り下げよ

それぞれの国の具体的な状況については、このレポートを是非読んでほしいのだが、少しだけ書いておく。別のブログでも言及したことだが、ロシアにおける兵役拒否あるいは徴兵や軍への動員を忌避して民間での仕事に振り替える権利は、不当に狭められ、正当な権利行使を違法行為として訴追されるケースがある一方で、人権団体や弁護士の活動で兵役拒否の正当性を裁判所に認めさせることができたケースもあり、法的な権利が大きく侵害されながらも、むしろ権力による人権侵害に対してはっきりと闘う姿勢をとる人達がいることで、権利の完全な壊死を免れている。ウクライナでは、正義の戦争にもかかわらず、この戦争を遂行する国内の動員体制や戦争協力を拒否する人達への締め付けは厳しく、正義が危機に瀕している状況だ。上の記事にあるアレクセンコは、良心的兵役拒否を申立てたが、認められず、有罪となった。ロシア侵略以降ウクライナの裁判で有罪判決を受けたのは彼で5人目だが、初めて実刑1年の判決が下された。兵役拒否裁判では執行猶予がついていたが、アレクセンコはそうならなかった。兵役拒否の問題は、自分の思想・信条を捜査官や裁判官が信じるかどうかにある、ともいわれている。単に、「殺したくない」とか「軍隊は嫌だ」ということでは理由にならない、とされてしまっている。しかし、わたしは、そもそも国家の命令で「殺す」という行為そのものが不条理である以上、単純に「殺したくない」という(信条というよりも)心情のレベルでの忌避感情であっても十分兵役拒否の理由として認めらるべきだ、と考えている。

自由権規約は国家の緊急事態、つまり戦争のような場合に、4条1稿で個人の自由権を一定程度制約することを認めている。

国民の生存を脅かす公の緊急事態の場合においてその緊急事態の存在が公式に宣言されているときは、この規約の締約国は、事態の緊急性が真に必要とする限度において、この規約に基づく義務に違反する措置をとることができる。ただし、その措置は、当該締約国が国際法に基づき負う他の義務に抵触してはならず、また、人種、皮膚の色、性、言語、宗教又は社会的出身のみを理由とする差別を含んではならない。

しかし、この国家による自由権規約に対する義務違反を認める条文は、第2項で18条には適用できないと定められているので、良心的兵役拒否の権利は例外なく常に国家がその義務として保障しなければならない。

ロシアでは、姑息な手段を使って、兵役拒否や代替役務の権利を認めない扱いが横行しているようだ。兵役拒否は、徴兵制に対応した制度であるというのがロシア政府の解釈だそうで、徴兵制とは別の動員体制の場合には兵役拒否の権利は適用できない、というのだ。実はウクライナも似たり寄ったりで、戒厳令と動員の法体系の条件下で、期限付き兵役への徴兵がないために、代替(非軍事)役務の憲法上の権利の実施は、適用されないという。上のレポートにあるように、このような法解釈などをめぐっても闘いが続いている。

社会の大半の人々が兵役拒否あるいは戦争への動員を拒否すれば戦争は遂行できない。人々の多数の意思が非戦であるなら、好戦的な政権を選挙で選ぶはずがないだろう(選挙のトリックは別にして)。だから、問題の根源にあるのは、むしろ政権の戦争指向を明確に否定する声の存在が希薄であり、戦争を拒否する人達が社会のなかの少数として様々な圧力に晒されて、戦争への同調を強制されるなかで、自由に自分の信条を表明できない状態がつくられてしまうことだ。

日本には、軍隊が存在しないという建前のために、良心的兵役拒否を明文化した憲法も法律も存在しない。しかし「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」(19 条)「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」(20条)があり、これらが殺さない権利のとりあえずの根拠にはなる。

また、一般に、軍隊や国家の戦力保有、あるいは自衛力の保持と個人の殺さない権利とは別とみなされるかもしれないが、国家が軍隊をもつことは、主権者としての私の良心や信仰の自由への侵害でもあるという観点は、重要だろう。

戦後の日本では良心的兵役拒否は遠い世界の議論のように感じられるかもしれないが、むしろ、きちんとした議論が今ほど必要になっている時はないのでは、とも思う。

「いかなる場合であれ武器はとらない」のは何故なのか

ロシアの侵略に対するウクライナによる武装抵抗をめぐって、左翼や反戦平和運動のなかに様々な立場や考え方の対立がある。私は、「いかなる場合であれ武器はとらない」という立場なので、ウクライナの武装抵抗あるいはロシア軍への武力による反撃を支持する人達からはこれまでも何度か批判されてきた。私なりに批判の内容を了解したつもりだが、残念ながら、だからといって私の考えを変えるということにはなっていない。

他方で、私の立場についても、ブログで書いたり、あちこちのメーリングリストに投稿したりして、お読みいただいている方は承知されていると思う。しかし、私の考え方も多くの皆さんの納得を得られていているとは判断していない。つまり、私はまだ、十分に納得を得られるような議論を展開することができていない、という自覚がある。だから、少なくとも、私がすべきことは、私とは異なる意見の人達をやりこめたり、一方的になじるような詰問を投げかけることではなく、自分の言葉がなぜ届かないのかということについて反省しつつ、自分の考えをよりきちんと述べる努力をすることだろうと思う。メーリングリストでの意見の対立はよくあることだが、意見の違いが解消することはまずない、というのが私のこれまでの経験だ。お互いの意見を知り、違いがあることがわかれば、それで十分メーリングリストの役割は果たせていると思う。いずれ場合によっては、熟考したりいろいろな人と議論したり、状況が変化する中で、自分の思い到らないことに気づいて見解を変えることもありえるだろう。なじられたり罵倒されて考えが変わることはまずない。

(注)わたしはブログで「いかなる理由があろうとも武器はとらない」と書きました。

「いかなる理由があろうとも武器はとらない」という立場は原則的な立場なので、ロシアの侵略戦争についても例外ではないということになる。だから、私のような主張は、結果として、ウクライナの武装抵抗を批判することになるので、武装抵抗を支持する人達にとっては許しがたい主張だということになる。なぜ私が武力を手段とすべきではない、と考えるのかをより突っ込んで説明しないと、たぶん同じ主張と批判の繰り返しにしかならない。今直ちに、説明できる余裕はないが、ロシアとウクライナに関連して私が重要だと感じていることをもう少し書いておきたい。

私は、基本的に、ウクライナで暮す人であれロシアで暮す人であれ、自らの意思に反して兵士として強制的に動員されないこと、戦争関連の労働を強制されないこと、戦場からの避難の権利が保障されること、つまり戦争によって国家間の問題を解決することに自分の命を賭けるつもりのない人たちの権利が尊重されるべきだ、と考えている。とりわけ明確に戦争に反対する主張をし、行動する人達の表現の自由は、権利として保障されるべきだ。私が注目するのはこうした人々になるが、どちらの国の政府にもこうした立場をとる人達へのリスペクトがなく、戦争する国では例外なく、こうした国家の戦争行為に背を向ける人々が様々な抑圧や時には命を奪われたり暴力の被害にあう事態がみられる。国家であれ何らかの集団であれ、軍事的な組織行動をとるときには、戦争を拒否する権利の保障がないがしろにされるのは、あってはならない市民的権利の侵害だと私は考えている。

今回のロシアとウクライナの戦争に関連していえば、

  • 兵士、戦闘員としての強制的な動員や事実上の道徳的倫理的な圧力による動員の体制がどちらの国にもあり、これは良心的兵役拒否国内法にも国際法にも反していると思う。
  • ロシアでは兵役、徴兵を忌避できても、懲罰的な代替労働や戦争に協力する銃後の労働に動員されることがあり、これも本人の自由意志に反している場合がある。
  • ロシアでもウクライナでも戦場からの離脱の自由が権利として保障されていない。部隊からの離脱は一般に「脱走兵」扱いで犯罪化される。兵士を辞める自由は重要な市民的自由の権利であり、会社を辞める権利と同様保障されなければならないと思う。
  • 学校や右翼団体の活動で軍事訓練戦争を賛美する教育や戦争を支える活動が行なわれているのは、子どもの権利の侵害だと思う。
  • どちらの国にも表現の自由を保障する憲法の枠組があるが、これが事実上機能していない。とくにロシアでは、軍へのちょっとした批判も許容されない厳しい言論弾圧体制がある。
  • ウクライナでは成人男性が国外に脱出できない状況は、私にとっては容認できない事態だ。
  • ロシアでは、高齢者や病気を抱えている人たちにさえ強制的に動員される事態になっている。
  • どちらの国でも、相手国に関連する言語や文化への不寛容が制度化され、著しく自由な表現への規制がみられる。
  • ウクライナでは政府に反対する政治活動や労働運動への規制が厳くなっている

ウクライナでもロシアでも、戦争に背を向ける人たちがおり、だから国内には戦争に関して相反する考え方をもつ人達がおり、こうした違いを棚上げにして、「ウクライナ人」「ロシア人」というような括りかたで論じることはできないと思う。自分が「日本人」として一括りにされてしまうことに違和感があるからかもしれない。

上に挙げたことは、一般的にいえば、国家安全保障領域においては人権が例外的に制約されてもいい、という考え方を国家がとっており、これを一般の人々もいつのまにか共有してしまっている、という問題だ。国家安全保障を別格扱いにする考え方は日本でも明白にある。軍隊は、企業以上に人権とはあいいれない組織であり、その行動や意思決定もまた人権とはあいいれない。力の行使は、軍隊であれDVを引き起こす家族制度であれ、刑務所であれ、みな同じように基本的人権とは矛盾する組織原理をとらないと、力での統制は見込めない。力=暴力とはそのような本質をもつものだと思うので、力による問題の解決は選択肢にはならない、と思う。

他方で、国家安全保障が突出している戦争体制でも、人々は唯唯諾諾として従属しているばかりではないし、抵抗とは武力の行使だというわけでもない。むしろ不服従や非協力、力の行使であっても、それは人を殺害する目的を伴わない行為の方が圧倒的に多い。ウクライナの状況はあまりよくわかっていないのでロシアについて例示する。

  • ロシアは、兵役忌避のための手続きなどで人権団体が精力的に支援をしており、忌避に必要なノウハウがネットで共有されているのは心強い。
  • ロシアはプーチンの独裁のような印象がありますが、徴兵など軍事動員については様々な法制度があり、動員しやすいように法改正を目論む政府ですが、国会では必ずしも政府の思惑通りに法案が通過しているわけではないようだ。
  • ロシアでは裁判で徴兵忌避や軍からの離脱が認められるケースがあり、一定程度の司法の機能が効いている場面もあるようだ。これも人権弁護士などの団体による努力が大きいように思う。
  • ロシア国内の情報統制は完璧ではないので若者たちは、政府寄りの情報だけでなく、かなり様々な情報に接することができており、ゲリラ的な抗議行動が続いている。

私は、ウクライナの情勢を、日本が今直面しているかなり危機的な「戦争」を扇動するような状況と重ねあわせて考えるべきだと思うが、他方で、ウクライナによる武力による反撃を支持することと日本の自衛のための武力行使の議論とは切り離して論じるべきだ、という意見があることも承知している。その上で以下のように考えている。

日本の反戦平和運動が、ウクライナの状況を経験するなかで、9条護憲を掲げてきた人達のなかにも、敵基地攻撃は憲法の枠を越えていて容認できないが、専守防衛としての自衛隊は必要ではないか、という意見をとる人達が増えているように感じている。

私は専守防衛という議論は、軍事論として成り立たないと考えている。防衛白書では「専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう」と定義している。攻められたときに最小限度の攻撃だけを行なう戦争で勝つことはほぼありえない。だから、自衛隊は肥大化してきた。専守防衛とか必要最小限などの言葉に平和や戦争放棄の可能性を期待すべきことは何もない。こうした言葉に惑わされるべきではない。だから、軍隊をもつか、もたないか、という二者択一の問題として考える必要があり、はっきりと軍隊は不要であると主張しないといけない。

いちばん問題なのは、軍事力を背景とした外交は、武力による解決を最後の手段だと前提しての交渉になるので、非武装の外交とは全く次元が異なるということを理解することだと思う。力による解決という選択肢がないばあい、解決は「対話」による以外にないので、「対話」がもつ問題解決の能力が問われる一方で、武力によらない解決の可能性がずっと大きくなる。こうした異次元の外交を日本が戦後やってきたことはない。外交のコンセプトがそもそも武力を背景としたものしかもっていなかったために、結果として、岸田のような力による脅しの外交しかできなくなるのだと思う。

だから、自衛隊も米軍も排除することが日本にとって必須だと思うが、同時に、どこの国の軍隊も、そしてまた傭兵や軍事請け負い会社もすべて廃止すべきだが、これがグローバルな反戦平和運動の共通の了解事項にまでなっていないのが現実ではないかと思う。

最後に、私は死刑廃止論者だ。欧米諸国の多くが死刑を廃止しているが、なぜか軍隊は廃止していない。死刑は廃止されてもなぜ国家の命令による殺人行為としての軍事行動の廃止が大きな声にならないのだろうか。ここに、たぶん、近代国家がかかえる本質的な矛盾があるように思う。ついでにいえばBlack Lives Matterをきっかけに警察廃止の主張をよく目にするようになったが、やはり軍隊の廃止という主張には繋っていないように思う。

このほか本当は書きたいこと(戦争とPTSDのこと、領土と近代国家のこと、ナショナリズムのこと、非暴力不服従のことなどなど)がいくつかあるが、別の機会にしたい。

ロシアの反戦運動2023年に入っても活発に展開されている(ビジュアル・プロテスト)

ロシアの反戦運動は、さまざまな不服従運動が小グループに分かれながら、したたかに繰り広げられている。以下は、「ビジブル・プロテスト」として、屋外や公共空間、店舗などで展開されている抗議の行動で、2023年になってhttps://t.me/nowarmetro に投稿されたものからいくつかを紹介します。こうした行動の担い手は、分散的だが、抗議に必要なノウハウ(ステッカーやグラフィティの方法、印刷の方法などから弾圧対策まで)についてはかなりしっかりとしたアンダーグラウンドの基盤があるように思います。これは、帝政からソ連時代、そして現在のロシアまで長い年月をつうじて受け継がれてきた民衆の「地下」活動の文化なしには成り立たないようにも思います。一人一人の行動のキャパシティが大きく、それを支える人的ネットワークや人権団体による弾圧への対処は日本よりずっと厚いと思います。日本は街頭の規制が極めて厳しく、ステッカーやグラフィティなどを政治目的で利用する文化がこの半世紀近く途絶えてしまった。戦争になったとき、私たちはこれだけの抗議を中央でも地方でも展開できるだろうか。

ベルゴロドやブリャンスクでも抗議!?

ボロネジ、プーチンと戦争に反対するキャンペーンを積極的に行っている

モスクワでは、反戦銀行券や緑のリボンが盛んに配布されている
エカテリンブルクの街には、反戦を訴えるグラフィティが随所に。
モスクワで。
クラスノヤルスクでも抗議は続いている!
サンクトペテルブルでも抗議は収まらない!
サンクトペテルブルクで
スィフティグカルでの抗議
サマラで反戦グラフィティが活発に
反戦モスクワ
サラトフは反戦グラフィティを精力的に展開している!
サンクトペテルブルクでは、リーフレットを配布し、独立系メディアへのリンクを共有

以下は https://t.me/nowarmetro/12869 から。

ビジブル・プロテストの10ヶ月間。私たちは、目に見えるアジテーションの統計を共有し、戦争と動員について情報を提供し続けることをお願いします。

今日は、私たちのストリートキャンペーンプロジェクト「Visible Protest」の新しい統計データを紹介することにしました。 (https://t.me/nowarmetro)本当に感動的!

戦争、動員、独裁政治に反対する声を上げている皆さんに感謝します。戦争や残忍な弾圧の時代にあっても、あなた方は本当に勇敢な人たちです。なぜなら、私たちの国に実際に何が起こっているのかについて、恐れずに抗議し、他の人たちに知らせることができているからです。

何千人ものロシア人がすでに戦争に反対する声を上げています。彼らと一緒に大衆的な反戦の姿勢を示そう! また、ビジュアルキャンペーンの配布は、最も効果的で安全な抗議の表現方法の一つです。

私たちのガイド(https://vesna.democrat/2022/03/18/kak-sdelat-protest-zametnee-polnyj-g/4)[日本語、ただし若干内容が違います]を読んで配布し、キャンペーンに参加し、あなたの家族や友人に、戦争、動員、当局の犯罪行為についての真実を伝えてください。そして、キャンペーンの方法をソーシャルネットワークで共有しましょう

選挙運動はしましたか?あなたの街を写した写真をボットに送信してください(完全に匿名で、写真のメタデータも消去されます)。@picket_against_war_bot

ウクライナ防衛コンタクトグループの会合を目前にして。あらためてG7も軍隊もいらない、と言いたい。

メディアでも報道されているが、20日からドイツのラムシュタイン米空軍基地でウクライナ防衛コンタクトグループ(NATOが中心となり、米国が議長をつとめてきたと思う)の会議がある。50ヶ国が参加すると米国防省が発表している。当然日本も参加することになるだろう。

これまでに、日本は防衛大臣や防衛省幹部が出席しており、事実上NATOに同伴するような態度をとっているので、とくに20日からの会議には、日本が安保・防衛3文書と軍事予算増額という方針を――国会での議論がないままに――既定の事実とみなし、かつ、G7議長国+安保非常任理理事国として参加するので、参加の意味はこれまでとは違って、とても重要なものになる。

この間のG7諸国のウクライナへの軍事支援は異例なことづくめだ。 英国が自国の主力戦車「チャレンジャー2」14台を提供したことはかなり報じられているが、それだけでなく、戦車は「AS90自走砲、ブルドッグ装甲車、弾薬、誘導多連装ロケットシステム、スターストリーク防空システム、中距離防空ミサイルなどの大規模な軍事援助パッケージの一部」である。(VOA報道 ) ドイツも主力戦車「レオパルド2」戦車、マーダー装甲兵員輸送車、パトリオット防空ミサイル砲台、榴弾砲、対空砲、アイリスT地対空ミサイルを提供。[日本報道では、戦車の提供については、保留と報じている。そのほかの武器については不明、21日加筆]ドイツの戦車提供は、ポーランドやフィンランドからの圧力があり、また武器供与に関しては、緑の党が極めて積極的な姿勢をみせている。 欧州連合(EU)理事会のシャルル・ミシェル議長も戦車提供を支持している。戦車提供の是非が議論になっていたが、英国が掟破りをしたことがきっかけで、戦車提供のハードルが一気に下がった。ウクライナは春までに戦車を数百台規模で必要としているといわれている。(上記VOA)

肝心の米国は、ニューヨークタイムスの報道では、かなり姑息で、中東での紛争に備えてイスラエルに供与した30万発をポーランド経由で提供されると報じられている。また、韓国にある米軍の備蓄もウクライナに送られているようだ。戦闘が膠着状態にあるなかで、ウクライナもロシアも砲弾不足とみられている。タイムズは「米欧の当局者によると、ウクライナ軍は月に約9万発の砲弾を使用しているが、これは米国と欧州諸国を合わせた製造量の約2倍に相当する。残りは、既存の備蓄や商業販売など、他の供給源から調達しなければならない。」と報じている。春までに供給を確保できるかどうかが勝敗の鍵を握るという専門家の話も紹介されている。 こうした報道では、砲弾の消費とは人の命の「消費」でもあり、どちらがより多くの人命を奪えるかが勝敗を決める、と言っているに等しい。しかし、あといったい何人が戦争で殺し・殺されなければならないのか、といった話はでてこない。むしろ、ロシアを凌駕する武器、弾薬の供給の必要、という話ばかりだ。

20日のドイツでの会議では、こうした武器弾薬の供給についての具体的な話になると思われ、そうなれば、日本は何も提供しない、などということは言えないということになるだろう。昨年から一貫して続いているNATOやウクライナからの武器供与の圧力を政府は見すえて、安保・防衛戦略と予算見直しをしているので、ウクライナの問題が重要な意味をもっている。それに加えて東アジアの「危機」キャンペーンで世論の不安を煽る。昨年、岸田は初めてNATOの首脳会議い出席する。また、日本は2014年からNATOのパートナーシップ相互運用性イニシアティブに関与してきているし、人的交流もある。日本がNATOとの関係をより具体的に緊密化するだけでなくアジア最初のNATO加盟国にすらなりかねない勢いとも感じる。

20日の会議がドイツで開催されるのは、米国の思惑として、NATOへのドイツの関与をより一層強固なものにしたい、ということもあるかもしれない。ドイツはもはや、かつての第二次世界大戦のホロコーストと戦争を反省したドイツではない。ウクライナへのロシアによる「ホロコースト」を許さないためには戦争も辞さない、というように世論も政党も、その態度が変化しており、これが平和運動の一部にも受け入れられてしまっている。スティーブン・ミルダーは、戦後ドイツの平和運動の変質を扱ったエッセイ「ウクライナと蝕まれる平和主義」(Boston Review)でこのことを指摘している。 ミルダーの指摘が正しいとすると、日本は、繰り返し朝鮮民主主義共和国による核の脅威や中国による軍事的な覇権といった危機の扇動を人々の心理に刷り込むことを通じて、核の脅威を抑えるためには(自衛のための)戦争以外の選択肢はない、だから戦争はやむなし、という世論を構築してきた。岸田が口にする「非核」は、核の脅威を口実とした平和の軍事化にほかならない。武力による反撃や先制攻撃を正当化するために、もっぱらロシア、中国、朝鮮の核の脅威が利用され、核抑止力の論理は、むしろ、通常兵器による際限のない殺し合い――核さえ使わなければいくら殺し合ってもいいだろう、というモラルハザード――を加速化してしまい、ここに日本も自ら積極的に加担しうるための理論武装をしてきた。こうして平和運動のなかですら非武装や自衛隊違憲論は少数派となり――わたしはこの少数派だが――「侵略されたら、攻撃されたら、核の先制攻撃をされたら、それでも非武装でいいのか」という脅しの前に、「それでも非武装であることがベストだ」という当然の答えを出せずに、武力による平和という欺瞞に屈服してしまった。

今年は広島でG7開催になるが、日本とG7との関わりは、同時にNATOとの関わりでもあり、安保・防衛3文書と軍事予算問題は、こうした国際関係の観点を抜きにはできない極めて大切な問題だと思う。20日の会議には注目したい。G7から芋蔓式にNATOへの関与や武力による解決へと引き込まれている現実をみたとき、私たちがとるべき主張は、G7の解体はもとより、外国であれ自国であれ軍隊を廃止すること、という当然の主張を何度でも繰り返す必要がある。

(Brandalism)トヨタの欧州全域のビルボードキャンペーンをハッキングし、誤解を招く広告と反温暖化ロビー活動で非難を浴びる

(訳者前書き) トヨタが気候変動の元凶としてのガソリン車メーカーだとしても、自動車メーカーであればどこであれどっちもどっちなんじゃないか、と軽くみているのが多分日本の大方の理解なのかもしれない。しかし、ヨーロッパでの理解は全く違う。ここに訳出したのはBrandalismというアートタクティビストのサイトの記事(体裁は記者発表)だが、この記事をみると、Toyotaは自動車メーカーで最低(最悪)の評価をもらっていることがわかる。ヨーロッパや国連ではガソリン車の広告規制すら議論されているというのに、日本ではこうした議論はほとんど聞かれない。

野外広告(ビルボード)のハッキング(勝手に書き変える)の歴史は長い。日本では、こうした行動への刑事罰が厳しいだけでなく、そもそもこうしたアクションの是非を論じる余地すらほとんどない。しかし、実は、公共空間を特定の私企業が営利目的で長期にわたって占有することは公共空間の公共性の趣旨と整合するのか、という議論があり、営利目的占有よりも公共性の高い政治的な表現が優位にたつ、という考え方もありうるのだ。実は、日本でも、憲法では公共の福祉とかの条件なしで「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」(21条)とあるのに、これを公共の福祉との兼ね合いで解釈しようとする。他方で財産権もまた29条で保護されている。では、公共空間において、表現の自由(トヨタの広告を書き変える)と企業の財産権(トヨタの広告)のどちらを優先させるべきなのかは、実は自明ではない。このことはグラフィティや路上のパフォーマンスからデモや集会まで、ストリートの表現全てに関わる問題だ。私は、今回のアクションは、広告そのものに内在する一方的な企業の主張への抗議の表現としてありえると思っている。金で空間を買える企業と、そうした余地のない庶民との間にある公共空間へのアクセスの不平等の問題が私たちの世界観や価値観に対して無意識のうちにある種の偏りをもたらしている、ということをこうした表現を通じて気づかされることも少くない。(小倉利丸)

2023年1月16日

  • Subvertisers’ International、Brandalism、Extinction Rebellionの活動家が、ヨーロッパ全土に400以上のパロディ広告看板を設置する。
  • この活動は、トヨタとBMWによる誤解を招く広告や気候政策に対する積極的なロビー活動をターゲットにしている。
  • 活動家たちは、国際的な機運が高まる中、大型SUV車など環境に有害な製品に対する「たばこ式」の広告禁止を導入するよう各国政府に呼びかけている。

ブリュッセルで開催される欧州自動車ショーが100周年を迎える今週末、ベルギー、フランス、ドイツ、イギリスの400以上の広告看板やバス停が気候変動活動家によって占拠され、トヨタとBMWに呼びかけが行われた。

ヨーロッパ各地で乗っ取られた看板は、トヨタとBMWが使用している誤解を招く広告や攻撃的なロビー活動戦術を強調している。2022年、トヨタは、InfluenceMapによって、反気候のロビー活動に関して、自動車メーカーとしては最悪のランキングである世界第10位に選ばれ、これに続いて、BMWが総合第16位にランクさ れた。[1]

トヨタとBMWの広告は電気自動車(EV)のラインナップを強調しているにもかかわらず、両メーカーは依然として汚染を引き起こす内燃機関自動車の販売に多大な投資をしている。[2] 2021年、トヨタが販売した車のうち、EVはわずか0.2%だった]。[3]

Subvertisers International、Brandalism、Extinction Rebellionの気候活動家によって設置されたビルボードは、ロンドン、ベルリン、シュトゥットガルト、パリ、ナント、ブリュッセル、ゲント、ブリストル、ダービー、グラスゴー、ノリッジ、ブライトン、エクセター、リーディングのバス停、広告板、地下鉄広告スペースなどに表示されている。活動家たちはこの行動を通じて、環境に危害を与える製品の広告を規制し、大規模な汚染者による誤解を招くようなグリーン・クレームを防止するため、政府に対してより強固な政策を要求している。

(c)SimonBeavis

化石燃料車やSUVなど、気候を破壊する製品について、タバコのような広告禁止令を導入しようという国際的な機運が高まる中、ヨーロッパ全域でこの行動が起こされている。市町村、さらには国全体が、環境への影響を理由に広告の禁止を導入している。一方で、国連のハイレベル専門家グループによる最近の報告書は、誤解を招く環境に関する主張を避け、ロビー活動を制限するために、企業がネットゼロを達成できるように、自発的措置ではなく規制要件を導入することを求めている[4]。

ヨーロッパ中に貼られたポスターは、Lindsay Grime, Michelle Tylicki, Merny Wernz, Fokawolf, Matt Bonner, Darren Cullenといったアーティストによってデザインされている。彼らは、トヨタ自動車のランドクルーザーやBMWのX5やX7など、高汚染車やBMWの車両を描いている。ある作品では、トヨタのランドクルーザーが、乳母車に乗った歩行者、子ども、自転車が殺到する都会の道路を走り抜ける様子が描かれている。また、最近ブリュッセル・ミディ駅で見かけたものでは、「Add Driving Pleasure」と書かれた本物のBMWの広告のパロディとして、「Add Climate Breakdown」と書かれた偽物のBMW広告もある。

ブリュッセル・ミディ駅で目撃されたBMWの広告(2022年12月)

Brandalismの広報担当者であるTona Merrimanは、次のように述べている。

「トヨタは “Beyond Zero” 持続可能性広告を押し進める一方で、世界中の政府に働きかけて大気保全計画を緩和させ、生存可能な気候よりも自分たちの利益を守るために法的措置を取ると脅しています。トヨタの広告はまやかしです」

英国では、2030年までにガソリン車とディーゼル車、2035年までにハイブリッド車の販売が禁止されるのを前に、キャンペーンに参加している活動家は、最も汚染度の高い車、特にSUVの広告を直ちに中止するよう求めている。Adfree Cities(英国)、Badvertising(英国)、Résistance à l’Agression Publicitaire(フランス)、Climáximo(ポルトガル)、Greenpeace International、その他35の団体からなるキャンペーン担当者は、高炭素製品の広告を廃止するためにタバコのような法律が必要であると訴えている。

また、Tona Merrimanは次のように述べている。

「トヨタとBMWは、巧みなマーケティングキャンペーンで、都市部の居住空間を塞ぐような大きすぎるSUVを宣伝しています。電気自動車のSUVは、ほとんどの駐車スペースには大きすぎるし、その高いバンパーサイズと過剰な重量は、歩行者、特に子どもたちが道路で事故に巻き込まれるリスクを高めています」
ブリュッセルに設置されたパロディBMWのサブヴァート、2023年1月

[1] https://influencemap.org/report/Corporate-Climate-Policy-Footprint-2022-20196

[2] トヨタの広告エージェンシーはThe&Partnership https://theandpartnership.com 、電通はBMWの広告エージェンシーの一つである https://www.dentsu.com/nl/en

[3] https://thedriven.io/2022/09/09/toyota-ranks-last-in-global-green-car-report-accused-of-anti-climate-lobbying/

[4] 国連、2022年、「Integrity Matters: 企業、金融機関、都市、地域によるネット・ゼロ・コミットメント」、「非国家主体によるネット・ゼロ・エミッションのコミットメントに関する国連ハイレベル専門家会合」、https://www.un.org/sites/un2.un.org/files/high-level_expert_group_n7b.pdf

Brandalismは、大企業とその広報広告の力に立ち向かうアーティストと活動家の国際的な集団である。彼らは「サブバーティシング」(広告を破壊する芸術)を用いて、大手汚染企業によるグリーンウォッシュ に対抗している。http://brandalism.ch/

Subvertisers’ International は、ヨーロッパ、米国、アルゼンチン、オーストラリ アの反広告グループのネットワークです。https://subvertisers-international.net/about/members/

Extinction Rebellion (XR) 非暴力直接行動を用いて、気候および生態系の緊急事態に 対して行動するよう政府を説得する国際的な運動です。https://www.extinctionrebellion.be/en

出典:http://brandalism.ch/projects/toyota-bmw-greenwash/

(Boston Review)ウクライナと蝕まれる平和主義

(訳者前書き) ここに訳出したのは、戦後ドイツの平和運動がウクライナの戦争のなかで直面している、平和主義そのものの危機、つまり、武力による平和の実現への屈服の歴史を概観したもので、日本の現在の平和運動が陥いっている矛盾や課題と主要な点で深く重なりあう。その意味でとても示唆的な論文だ。

ドイツは戦後ヨーロッパの平和運動の重要な担い手だった。ナチスによるホロコーストという戦争犯罪への反省から、二度とホロコーストを引き起こさないという誓いとともに、二度と戦争を引き起こさない、「武器によらない平和」という考え方を支えてきた。自らの加害責任を明確にすることから戦後のドイツの平和への道が拓かれる。これは、日本が戦争責任、加害責任を一貫して曖昧にしてきたのとは対照的な姿だと受けとめられてきた。一方で、ドイツは日本のような戦争放棄の憲法を持つことなく、軍隊を維持し、NATOにも加盟してきた。とはいえ、ドイツの民衆は米軍やNATOによる軍拡や核兵器反対運動の重要な担い手であり、それが、ドイツの議会内左翼や緑の党を一時期特徴づけてもいた。しかし、日本同様、ドイツもまた、ポスト冷戦期に、戦後の平和主義そのものが左翼のなかで事実上崩壊する。ただし、特徴的なことは、ホロコーストは二度と起こさない、という誓いが、ホロコーストを招来するような武力紛争い対しては、武力によって介入することも厭わない、というようになり、それが、コソボからウクライナへと継承されるとともに、国連の対応にも本質的な変化が生まれてくることを著者は指摘する。このあたりの著者の記述は、私たちにとっても重要だし、示唆的でもある。

決定的に軍拡に前のめりになったのがウクライナの戦争においてだった。以下でスティーブン・ミルダーが述べている平和主義が壊死するに到る経緯は、ある意味で、日本の護憲主義が絶対平和主義や非武装中立の理念を放棄して、9条護憲といいながら専守防衛と自衛隊合憲を当然の前提にするという欺瞞に陥いった経緯と多くの点で重なりあう。緑の党が平和主義を放棄して積極的な武力介入へと変質する経緯も他人事とはいえない。ウクライナへの軍事支援や武力抵抗の是非をめぐって日本の左翼のなかにも考え方の対立がある。同様のの対立がドイツでも起きている状況をみると、今日本で起きている軍拡と平和主義の解体的な危機の問題は、日本だけの問題ではなく、ある種の普遍的な問題でもあるということに気づかされる。私は、いかなる場合であれ、武器をとることは選択すべきではない、という立場だが、このような立場が日を重ねるごとに無力化される現実に直面するなかで、平和主義者が国家にも資本にも幻想を抱くことなく、国家と資本から解放された未来の社会の実現を暴力に依拠しないで実現するための構想ができていただろうか、ということをあらためて考えなければならないと感じている。平和主義(これは議会主義と同じ意味ではない)の敗北の歩みは、平和主義の破綻ではなく、そのパラダイム転換が求められていることを示している、と思う。(小倉利丸)

A mass peace demonstration in Bonn, Germany, on June 10, 1982, on the occasion of a NATO summit. Image: Wikipedia

ドイツの指導者たちは、戦争に対応して国防費を大幅に増やし、第二次世界大戦後に生まれた平和主義の文化との決定的な決別を示し、軍縮の大義に大きな打撃を与えている。

スティーブン・ミルダー
ヨーロッパ, グローバル・ジャスティス, 軍国主義, ウクライナ, 戦争と国家安全保障

    2023年1月11日

11カ月前、ロシアがウクライナに侵攻した日、Alfons Mais中将は自身のLinkedInアカウントにこう書き込んだ。「私が率いる連邦軍は、多かれ少なかれ破たんしている」「(NATO)同盟を支援するために政府に提示できる選択肢は、極めて限られている」と彼は書いた

ドイツの装備の悪い軍隊は、戦争を拒否するドイツの誇らしい象徴というよりは、西ヨーロッパが自らを守ることができないことの兆しと受け止められているのだ。

報道では、マイスの悲観的な見方は事実に基づくものだ。ドイツ連邦軍はNATOのアフガニスタン長期作戦に参加し、現在もドイツの兵士は国連平和維持活動の一環としてマリに派遣されているが、ロシアのような核保有国に対抗するには明らかに力不足だった。昨年2月現在、ドイツ連邦軍は40台の最新型戦車しか保有しておらず、ヘリコプターの約6割が戦闘不能とされている。一方、海軍は、新たな任務を担うことはおろか、以前から計画していた作戦を遂行するのに十分な艦船があることも確認されていない

これらの統計は、米国の莫大な国防費や軍事力とは対照的であり、ドイツが1945年以来数十年の間、攻撃的な軍国主義から平和主義的な抑制へと転じたことの証拠である。戦場で大国と対峙するつもりのない軍隊に、戦車やヘリコプターは何の役に立つのだろうか。しかし、ウクライナで戦争が勃発すると、不手際で装備の整わない連邦軍というイメージは突然、別の意味合いを持つようになった。それは、ドイツの誇り高い戦争拒否の象徴ではなく、西ヨーロッパの自衛能力の欠如の象徴として注目を集めるようになったのである。

ドイツ連邦軍の装備を改善し、ヨーロッパの安全保障に対するコミットメントを証明するために、ドイツの指導者たちが昨年精力的に行った努力は、戦後のドイツ史における劇的な転機と評されるようになった。オラフ・ショルツ首相は昨年2月、1000億ユーロという前代未聞のローンを組むと宣言し、それを正当化するために「必要な投資と軍備プロジェクト」のための「特別基金」といった言い回しを使った。軍備強化へのコミットメントを疑う余地のないようなものにするために、ショルツは国防予算の年次増額を発表した。戦争が始まって3日後、ショルツは国会で、ロシアの侵攻は「わが大陸の歴史の分岐点」だと述べて、この国防費のすさまじい増額を正当化した。この主張は、ドイツ人の歴史的想像力の大きな事柄との関連で理解されなければならない。すなわち、第二次世界大戦である。首相は、「私たちの多くは、両親や祖父母の戦争の話をまだ覚えています。そして、若い人たちにとっては、ヨーロッパで戦争が起こることはほとんど想像もつかないことなのです」と説明した。彼の主張は広く受け入れられた。6月までに連邦議会は、連邦軍資金の大幅増額というショルツの計画を実行に移すために必要な憲法改正案を可決した。

現実には、実際の分水嶺は、第二次世界大戦以来初めて「ヨーロッパでの戦争」が突然出現したことでは ない。それは、1990年代のユーゴスラビアでの熱い戦争だけでなく、冷戦時代の数十年にわたる軍国主義を消し去った、歴史的な記憶喪失の驚くべき一連の出来事である。真のより大きな変化は、ほとんど何も語られることはなかった。つまり、これは、この30年間、ドイツは、ポスト・ファシストの国――これは、歴史家Thomas Kühneが言うところの「平和の文化」によってナチスの過去を克服したかに見えたのだが――から、防衛費を増大させ、重武装の侵略者に反撃する態勢を伝えることに熱心なポスト平和主義の国へのこの30年間のドイツの変容の頂点をなすものなのである。確かに、東西ドイツは第二次世界大戦後すぐに再軍備を行い、冷戦時代には何十万人もの米ソの兵士を受け入れたが、この時期を通じて、二人の東ドイツ反体制者のよく知られた「武器なしで平和を作る」(Frieden schaffen ohne Waffen)という主張を熱心に支持するドイツ人もかなりの数にのぼった。この冷戦時代の平和主義は、1990年代以降、西側諸国が武力による自衛と人道的介入を広く求めるようになったことに直面するなかで転換に迫られ、ショルツのレトリックから消え去った。

過去75年間の戦争を無視することは、プーチンの侵略戦争の深刻さを伝えるのに役立つかもしれないが、ドイツ人の過去、特に第二次世界大戦の教訓に照らして戦争と平和について考える方法の大きな変化をも見落とすことになる。また、ウクライナ戦争に対するドイツのタカ派的な対応がもたらすリスクと結果も見えにくくなっている。かつて多くのドイツ人が第二次世界大戦を、あらゆる形態の軍国主義に反対する理由としてきた。しかし、今日では、これが、残虐行為を防ぐという名目で、国防費の増大を正当化する議論に利用されているのである。


軍国主義に対するドイツの反発は、1945年直後に生まれ、冷戦の間ずっと続いてきた。敗戦と占領の経験に懲りた西ドイツと東ドイツは、ともに平和な国として認識されることを望んだ。両国の憲法は侵略戦争を禁じ、軍隊の役割を平和維持に限定し、西ドイツの軍需メーカーが紛争地域に武器を輸出することを法律で禁止していた。しかし平和への誓いは、ここまでだった。ドイツは、いずれも冷戦時代の軍事同盟の再軍備や積極的なメンバーになることをおろそかにはしなかった。「鉄のカーテン」に沿って位置する両国は、何十万人もの米軍とソ連軍を受け入れ、徴兵制が採用され、冷戦の最盛期には50万人以上のドイツ人が現役兵として兵役についていた。それでも、公式の声明や政府のポリシーは、第三次世界大戦を防ぐことに期待をかけて軍事紛争を制限することに重点を置いていた。

かつて多くの人が第二次世界大戦を軍国主義に反対する理由とみなしたが、今では軍国主義を正当化するために利用されている。

このような態度は、ドイツ社会全体に見受けられた。冷戦時代には、一般の人々が民衆感情と草の根の活動を通じて、重要な「平和の文化」を築き上げた。第二次世界大戦末期にドイツ人が経験した悲惨さと、1945年の敗戦後に彼らが耐えた窮乏が、平和への抗議の第一波を促進したのである。戦争直後、一般ののドイツ人は、自国の再軍備に対して、下からの「私抜きで!」 (Ohne mich!)運動への参加を通じて、個人的に加担したくないという意思を表明した。1949年に西ドイツと東ドイツが成立すると、国家社会主義の東ドイツでは、草の根の抗議運動は難しくなった。しかし、西ドイツでは再軍備や核兵器に対する抗議が1950年代を通じて起こり、ある意味で再軍備や1955年の西ドイツのNATO加盟に影を落すことになった。確かに、スイス、オーストリア、スウェーデンといった中欧の隣国とは異なり、ドイツ連邦共和国は中立国ではなかったが、戦争反対のイメージを醸成することに成功し、この時期に生まれた抗議の文化は長期にわたって影響を与えることになる。

1980年代初頭、軍拡競争が再び激化し、歴史家が「第二次冷戦」と呼ぶ戦争が始まると、両国の市民は再びより積極的な平和推進派に転じた。彼らは、主に、NATOやワルシャワ条約機構による中距離核ミサイルのヨーロッパへの配備に抗議した。西側では、NATOの中距離ミサイル配備の根拠となった「デュアルトラック決定」への反対運動が起き、政治学者ペーター・グラーフ・キールマンゼグの言葉を借りれば「連邦共和国がかつて経験したことのない大衆運動」に発展していった。1983年10月22日、西ドイツの「暑い秋」の中で最大の抗議行動となったこの日、120万人のドイツ人が街頭に立っていた。反ミサイルの運動は、さらに広く、深く拡がった。西ドイツの人々は、多くの市や町に非核地帯を設けるよう地元当局に要求し、NATOのミサイル基地を封鎖するために市民的不服従の訓練を受けた。

社会運動というと「SA(ナチスの準軍事組織)の行進」を想起させ、民主主義秩序の全面的な否定と同一視されかねないこの国において、こうした広範な抗議行動は大きな進展であった。しかし、国会がミサイル配備を承認するのを止めることはできなかった。西ドイツ連邦議会は1983年11月22日、キリスト教民主・自由党の連立政権政党と一部の社会民主党の賛成で、ミサイル配備を容認する議決を可決した。米軍は翌日午前1時からドイツへのミサイル輸送を開始した。西ドイツの人々が、反対を貫きながらも議会の決定を受け入れたことで、ストリート・デモが議会制民主主義の枠内で存在し得ることを証明することになった。その結果、歴史家は1980年代の平和運動が西ドイツで抗議行動を「正常化」したと論じている。

東ドイツでも、核軍拡競争に反対する運動が、1980年代前半に大きな盛り上がりを見せた。ロバート・ヘーブマンとライナー・エッペルマンは、1982年の「ベルリン・アピール」で、社会主義政権に対し、「武器なしで平和をつくる」という平和主義の理想に忠実であるよう挑んだのである。東西に備蓄された兵器は「我々を守るどころか、我々を破壊する」と主張し、ハーベマンとエッペルマンは政府に「兵器を廃棄する」ことを要求した。牧師ハラルド・ブレットシュナイダーは、社会主義圏のスローガン「剣を鋤に」を軍事政策への批判に転化し、この言葉をプロテスタント教会の庇護の下で展開された初期の平和運動のモットーにした。ブレットシュナイダーのグループは、社会主義政権が独自の社会活動を禁止していたにもかかわらず、1982年に「平和フォーラム」を開催し、約6000人の参加者を得た。秘密警察の監視にさらされる中、東ドイツの平和活動家たちは、西ドイツの人々との間で個人として「個人的平和条約」を結ぶなど、平和に向けた新たな活動の方法を見出した。西ドイツの「緑の党」議員で平和活動家のペトラ・ケリーは、1983年10月の会合で東ドイツの指導者エーリッヒ・ホーネッカーに「個人的平和条約」に署名するよう求めたほど、この習慣は広く浸透し、注目されるようになった。しかし、側近の一人のささやかな仲介により、ホーネッカーはこの条約の最後の論点である「一方的な軍縮の開始を支持することをここに約束する」ことへの同意を拒否した。

冷戦時代、一般のドイツの人々は、民衆の感情や草の根の活動を通じて、重要な「平和の文化」を築き上げた。

両国の政府は、武力防衛政策を撤回して一方的な軍縮を進めることを拒否したが、平和活動家が形成したネットワークと彼らが提唱した批判は、深い意味を持っていた。西ドイツは多くの米軍基地とNATOの膨大な兵器を抱えていたが、強力な平和運動が民衆の平和主義的ムードをとらえ、草の根の政治的関与を促したように思われる。東ドイツでは、平和運動はより大きな影響を与えたと思われる。平和運動は、1989年秋の大規模な街頭抗議行動を組織するためのネットワークづくりに重要な役割を果たし、それがドイツ民主共和国の崩壊を促したのである。冷戦がほぼ非暴力で終結したことで、武力紛争のない未来像――戦争はもちろん暴力的な闘いではなく平和的な民衆の抗議が、地政学的変化を促す世界――が描かれるようになった。

国家社会主義が崩壊した後、統一されたばかりのドイツでは、熱い戦争とそれをめぐる論争が身近なものとなった。戦争が続く大陸で復活した大国の責任と、イラクやアフガニスタンに介入したアメリカとの同盟の責任に直面し、ドイツの反戦文化は揺らいだ。1990年8月のイラクのクウェート侵攻に対する米軍主導の対応に消極的だった。これが冷戦時代の平和主義の終りを意味するものだった。冷戦時代の軍拡競争の中で、表向きは武力紛争を否定し、その一方で誠実な軍事同盟メンバーであるという、一見逆説的な組み合わせに象徴される国になった。

1990年のペルシャ湾紛争は、イラクのクウェート侵攻で始まったが、多くのドイツ人は、イラクの侵略者に対して武力を行使する理由はほとんどないと考えていた。むしろ、イラク軍をクウェートから追い出し、イラク領内に深く侵入したアメリカ主導の「砂漠の嵐」作戦に反対し、統一ドイツ全土で抗議行動を起こし、反米感情を高揚させた。例えば、ペーター・シュナイダーは、ドイツ人が米国の介入を批判すると同時に、イラクのクウェート侵攻を非難することに消極的であることを懸念し、その姿勢は、戦争で危害を受けた米兵を看護しないことを宣言したドイツの看護師の行動などにも表れているとコメントした。

統一ドイツで抗議を呼び起こし、激しい論争を引き起こしたのは、海外への武力介入だけではなかった。ほぼ10年続いたユーゴスラビア戦争は、サラエボを4年近くも包囲し、スレブレニツァの虐殺を引き起こし、ついにはドイツ軍の1945年以来の海外派兵を引き起こすなど、恐ろしい事件を含んでいたが、こうした問題にも劇的な影響を及ぼした。特にボスニアとコソボの戦争は、ドイツ軍の海外派遣の可能性や平和維持活動における統一ドイツの役割といった根本的な問題をめぐる議論を引き起こした。このような議論の中で、冷戦時代に多くのドイツ人が抱いていた「戦争の火種を増やすべきではない」という反軍国主義的な考え方が変容していった。

武力介入に対するドイツの態度の変容を最も明確に示しているのは、おそらく緑の党だろう。緑の党は、平和運動が最高潮に達していた1983年に西ドイツ連邦議会に初めて議席を得た。反ミサイルデモへの広範な参加は、緑の党を国会に押し上げることにつながった。緑の党の有力者は、自分たちの党を平和運動の「議会の翼」(より具体的には、緑の党の有力議員ペトラ・ケリーの言葉を借りれば、運動において「立法の役割を演じることplaying leg」)とまで呼び、党の綱領は「連邦共和国が平和と軍縮のために単独で活動できるような政府」を呼びかけていた。1983年の選挙に向け、大西洋の両岸の政界は、緑の党の一方的な軍縮支持がドイツのNATOからの脱退になると警鐘を鳴らしていた。例えば、ロバート・ヘーガーはUS News and World Report誌に、「緑の党は急進的な社会主義者と組み、ドイツを中立主義に導く破壊的な少数派を形成する可能性がある」と警告している。このような大げさな懸念は杞憂に終わった。結局のところ、緑の党の獲得議席数は5%にとどまった。NATOの核ミサイルをドイツ国内に配備することを承認する議決を議会で阻止することも、ましてやドイツを同盟から完全に排除することもできる数ではなかった。

反軍国主義の文化は1990年代に変容し、軍事力が人道的利益のために展開されるようになった。

しかし、かつてドイツの草の根平和運動の議会的表現と理解されていた政党は、1990年代の戦争の中で、NATOを力強く支持する方向に向かう新たな立場を採択した。1998年、社会民主党のゲアハルト・シュレーダー首相の連立政権に緑の党が加わって外相となったヨシュカ・フィッシャーは、この変化の先頭に立ち、ドイツ人が第二次世界大戦から引き出した教訓も変化していることを示唆する発言を繰り返している。ボスニア・セルビア軍によって8000人以上のボスニア・イスラム教徒が殺害された1995年のスレブレニツァ事件直後のインタビューで、フィッシャーは、いつまでたってもぐずぐずしてボスニア・イスラム教徒の武装自衛に貢献しようとしない姿勢を「裸と血のシニスム」と表現した。彼は介入主義を糾弾したり、武力抵抗は紛争の火種になるだけだと主張するのではなく、ボスニアのイスラム教徒の「自衛権」を代弁したのである。

戦争を否定しながら、このように主張をするために、フィッシャーは相反する二つの原則を打ち出した。「二度と戦争はしない!」(Nie wieder Krieg!)と「二度とアウシュビッツを繰り返さない」(Nie wieder Auschwitz!)である。)である。 スレブレニツァの虐殺のような大量殺戮を防ぐために使われる可能性がある限り、フィッシャーにとって、戦争は許容できる――必要でさえある――ものであった。アウシュビッツへの明確な言及は、フィッシャーの主張がドイツの過去への熟考に基づくものであることを明らかにした。同時に、彼の考えは、脅威を受け搾取されている少数民族の武装自衛権、さらには武装蜂起を長い間受け入れてきた自民党の一部と一致するものだった。例えば、西ベルリンの緑の活動家で後に国会議員となったハンス・クリスチャン・シュトレーベレは、サルバドール内戦のさなか、明らかに軍国主義的なスローガンである「エルサルバドルに武器を」を掲げて資金調達キャンペーンの先頭に立った。

しかし、フィッシャーは、ボスニアに小型武器を送るような草の根の募金キャンペーンを考えてはいなかった。その代わりに彼が考えていたのは、ドイツ連邦共和国を含む国家の軍隊が、劣勢に立たされた少数民族のために海外に派遣されるべきかどうかということであった。大量虐殺には武力で対抗しなければならないと主張した同じインタビューの中で、フィッシャーは、ボスニアのイスラム教徒を保護するというプロジェクトにおけるドイツの役割を後悔し、「再びドイツが(戦争で)果す役割はない」(Nie wieder eine Rolle Deutschlands)と宣言している。他のヨーロッパ諸国が凶悪な戦争犯罪を防ぐためにボスニアに介入するのは良いことだが、フィッシャーの葛藤からすれば、自国固有の歴史的犯罪のため、大量虐殺を武力で止める努力にドイツが関与することは許されないのだ。

4年後、この問題が頂点に達した。緑の党が連立政権に入り、外相となったフィッシャーは、NATOのコソボ介入へのドイツの関与について党内の支持を取り付ける必要に迫られたのである。1999年5月13日、ドイツ空軍を含むNATO軍がボスニア・セルビア・インフラへの空爆でコソボ戦争に介入してから50日後、緑の党はビーレフェルト市で特別党大会を開き、NATOの行動とドイツの参加について過去に遡って議論した。

マスコミは、コソボへの武力行使に代表が同意するかどうかで、党が分裂するのではと推測していた。NATOの空爆中止を求めるデモ隊の群集から緑の党代表を守るために、1500人もの警察が出動したのだ。緑の党は崩壊するどころか、444対318という僅差でNATOの介入を遡及的に承認する票が投じられた。ビーレフェルト党大会の忘れがたいイメージは、デモ参加者が会場に押し入り、フィッシャーにペンキ爆弾で襲いかかり、彼の鼓膜を破ったことである。劣勢で脅威にさらされている集団の武力防衛に自国の軍隊が貢献することを激しく拒否するドイツ人は、依然として相当数いたのである。同時に、多くのドイツ人にとって、軍事介入の論理は変化しつつあった。旧ユーゴスラビアでは、この5年間で2度目となる西側の介入によって武力紛争の火蓋が切って落とされたのである。

1990年代の教訓は、ドイツだけでなく西側諸国でも急速に取り込まれた。戦争犯罪や大量虐殺を阻止するためには軍事力が最も有効であるという考え方が支持され、2005年に国連加盟国が全会一致で「保護する責任Responsibility to Protect」(R2P)という枠組みを承認したことで、国際社会は、国家が自国の住民を大量虐殺から守ることができない場合には集団行動が必要であるという考えを採択した。つまり、戦争犯罪やジェノサイドに対して、軍事介入を含む行動を起こすことが、新しい国際秩序の規範となったのである。


このレガシーは、現在に至るまで影響している。緑の党の有力政治家たちは、ショルツ内閣の閣僚として、ウクライナにドイツの武器を送ることを最も強く主張してきた。マスコミはこうした呼びかけを、かつて平和主義だった緑の党が突然の変化を遂げたかのように報じているが、実はこの変化は1990年代から進行していたのである。例えば、2022年4月の『シュピーゲル』誌のカバーストーリーでは、緑の党が「親平和の理想主義者から戦車ファンへ」と変化したことを理由に、緑の党のリーダーたちを「オリーブの緑」と呼んだ。この表現は、2001年11月に同じ雑誌に掲載された、米国のアフガニスタン侵攻への支持を強化するために精力的に活動した、「オリーブグリーン」アンゲリカ・ベア(緑の議会代表団の防衛担当報道官)を取り上げた記事の見出しと直接対応している。2001年、シュピーゲル誌はすでに、緑の党を「かつては平和主義者だった」と評していた。

2005年までには、戦争犯罪から防衛するための軍事化が、新しい国際秩序の規範となった。

ビールの活動の成果もあって、アメリカの侵攻を支持する投票を辞退した緑の議員はわずか4人で、緑の代表団の大多数がこの決定を支持し、ドイツ軍はアフガニスタンに派兵されたのである。フィッシャーは、再び軍事介入支持を主張し、投票後、「共和国を決定的に刷新した」と論じた。しかし、フィッシャーの政治キャリアを「ベルリン共和国の形成」と結びつける伝記を書いたパウル・ホッケノスにとっては、統一後のドイツの外交政策を規定したのは、転換といえるほどの刷新ではなかった。シュレーダー=フィッシャー政権の下で、ドイツは「自信に満ちた、時には独立心のある行動主体であることを示した」とホッケノスは主張する。「経済の巨人、政治の小人」と評された冷戦時代の西ドイツとは大違いである。こうして、統一ドイツは戦争を遂行することで平和をつくる道をとることになる。かつて平和主義者であった多くの人々が、あらゆる戦争反対から武装による自衛の支持に転じたのは、ドイツの敗戦と喪失よりもホロコーストの犯罪を重視する第二次世界大戦観の変化、「二度と戦争をしない!」という原則よりも「二度とアウシュビッツを繰り返さない!」という原則に一貫して重きを置いてきたためであった。

その結果、かつては外国の紛争に介入すること自体に反発があった国が、今では脅威を受けた集団の武装自衛を支援する姿勢を示すことに四苦八苦している。それが顕著になったのは、ロシアのウクライナ侵攻以降である。ショルツは防衛費の大幅な増額を主張しながらも、当初はウクライナへの武器供与をためらい、保守系野党だけでなく連立政権のパートナーからも繰り返し激しく非難された。ショルツ政権の外相である緑の政治家アナレナ・バーボックは、ウクライナへの「重火器を含むさらなる軍事物資」の送付を支持する太鼓を叩き続けている。(アメリカのジャーナリスト、スティーブン・キンザーによれば、ベールボックのタカ派的な発言は、「ドイツの前の世代を形成した恥や反軍国主義を埋め込まずに育った」若い世代の政治家の立場を象徴しているのだという。ベールボックのような政治家は、武力介入がボスニア戦争やコソボ戦争の終結に一役買った1990年代の経験により大きな影響を受けていると思われる)。ベールボックらの圧力に押され、ショルツは徐々に後退し、ウクライナへの武器輸送をどんどん許可していった。

7月までに連邦政府は戦車の納入を開始した。連邦軍にはほとんど装備がなかったため、政府はドイツの兵器メーカーからウクライナに17億ユーロで自走砲100基を売却し、今後数年間に渡って納入するよう取り計らった。ロシアの侵攻から1年近くが経過し、和平交渉に応じる兆しが見えない中、和平のための武器使用を否定する声は、ドイツの議論から消えている。国会では、2021年秋の選挙でNATOからの離脱を主張し、批判が殺到して支持率が半減した左翼党だけが、ロシア侵攻に対して武力闘争よりも平和を優先する立場を取り続けた。左翼党は引き続きドイツの軍備増強に反対し、「危機的地域や紛争地域に武器を送り込む」ことで「大火災を引き起こすリスク」を警告したが、党内は悲惨な危機に陥り、連邦議会の議論ではますます蚊帳の外的な存在に見えるようになってしまった。

議会外の「武器なしでの平和」の提唱者たちにとっても、状況はほぼ同じであった。著名なフェミニストのアリス・シュヴァルツァーは4月、28人の知識人や芸術家が署名したショルツへの公開書簡を、自身の雑誌『エマ』のウェブサイトに掲載し、ウクライナへのドイツの武器援助の中止を訴えた。「追い詰められたなかで行われているエスカレートした軍備増強は、世界的な軍拡スパイラルの始まりとなり、少なくとも世界の健康や気候変動に破滅的な結果をもたらすかもしれない」と、書簡は訴えた。「そして、「あらゆる相違にもかかわらず、世界平和のために努力することが必要である」と結んでいる。

プーチンの侵略をきっかけに、武力闘争の政策提言活動は、急速に新しい常識になりつつある。

10月に米国議会進歩的議員連盟 the Congressional Progressive Caucusが同様の書簡を発表し、米国内で論争が起きたことからも予想されように、エマ書簡の署名者は、緑の党をはじめドイツの政界全体から憤りの言葉を浴びせられた。緑の党の国会議長の一人であるブリッタ・ハッセルマンは、「プーチンが国際法に違反してヨーロッパの自由な国を侵略し、都市全体を破壊し、市民を殺害し、女性に対する武器としてレイプを組織的に展開しているのに」、平和を目指すという考え方自体がナイーブだと示唆した。一方、ラルフ・フックスとマリエルイーズ・ベックという二人のベテラン緑の党は、ショルツへの二番目の公開書簡を組織し、57人の署名を得てスタートすることで対抗した。シュヴァルツァーが「軍拡のエスカレート」に帰結すると注意したのとは正反対に、フックスとベックは「ウクライナに有利な軍事バランスへとシフトするために、武器と弾薬を継続的に供給する」ことを支持する。プーチンが「勝者として戦場を去る」のを阻止することによってのみ、「ヨーロッパの平和秩序」は保たれる、と彼らは主張した。つまり、平和は武器がなければ作れない、銃口で作るものだ、というのだ。

こうした態度は、ドイツの平和主義者の間で、侵略戦争、とりわけ大量虐殺の防止が武力闘争の回避に取って代わりはじめた1990年代の議論と明らかに連続性がある。シュヴァルツァーの手紙に署名したベテランの 緑の党員であるアンティエ・フォルマーにとって、この変化は、今日の緑の党員たちが「ヨシュカの子ども」であることの証拠である。フィッシャーは、”二度と戦争をしないNever again war!” と “二度とアウシュビッツは起さないNever again Auschwitz!” の対比で、戦争に対するドイツ人の態度の変化を見事に表現した。1945年の敗戦と戦後のドイツが置かれた荒涼とした状況が、かつて戦争を全力で拒否するきっかけになったとすれば、ホロコーストに対するドイツ人の責任を果たそうという意欲が高まったことは、別の教訓を引き起こすことになった。ウクライナ戦争をめぐる議論においてドイツの若い政治家が相対的に好戦的であるのは、戦争体験の欠如というよりも、むしろ戦争体験のおかげである。それどころか、ユーゴスラビアやルワンダなどで恐ろしい戦争犯罪が行われるのを見続けた経験が、ロシアの猛攻から自らを守ろうとするウクライナの人々に対する若い政治家の率直な支持を促す義憤を後押ししている。1990年代に10代だったベールボックは、4月にバルカン半島に足を運んだ。スレベルニツァの虐殺を記録した写真展を訪れた彼女は、この恐ろしい事件が「社会的にも政治的にも、ドイツにおける彼女の世代を形成した」とコメントした。

1990年代の教訓を生かすことは、今回の侵略者が膨大な核兵器を保有する主要な軍事大国であることを考えれば、より容易である。かつてフィッシャーは、「アウシュビッツを再び繰り返すな!」というスローガンを、彼にとっては戦争否定の残念な例外としてとらえたが、武力闘争の政策提言活動は、急速に新しい常識となりつつある。


ある者は、ドイツの平和主義の衰退をポジティブな展開と見るだろう。つまり、ドイツの平和主義の衰退は、国際舞台におけるドイツの責任を認め、ドイツ国内に保有するNATOとワルシャワ条約の膨大な兵器庫に支えられた冷戦時代の平和文化の偽善を認めたものだと考える。私たちは、ドイツにおける一般大衆の平和文化の終焉と、断固とした平和主義者の声を軽視することを、そう簡単に喜ぶべきではない。

武力勝利のために行進するのではなく、平和のために活動することについて議論することさえ論外になってしまうなら、あらゆる恐ろしい結果を伴う軍事力による威嚇が常態化することになる。

ひとつには、こうなることで、暴力の拡大が懸念される中で、新たな宿命論を制度化するリスクをはらむことになる。ウクライナにドイツが直接軍事介入することは、今のところ考えられていないのは事実である。ドイツ連邦軍の惨状を見れば、直接介入することで戦場に大きな変化がもたらされるとは到底思えない。しかし、武器がなくても平和は実現できるという考え方にドイツが消極的であることによって、せっかくの資源と権力を平和活動のために活用することが妨げられているのは間違いない。外交官トップのベールボックは「ウクライナに必要なだけ武器を供給する」と繰り返し公言し、同じ緑の党の政治家も停戦交渉は「ウクライナの立場を弱める」と主張するなど、誰も非軍事的解決の方法を考えていないようだ。

むしろ、「ウクライナは勝たなければならない」という感情がドイツや西欧諸国全体に広がっているのは、戦争に勝つことができるという信念と、平和ではなく勝利をドイツの政策の目標にすべきだという信念の表れなのである。プーチンの侵略戦争に対峙する外交にどのような限界があるにせよ、このような態度には、この姿勢には、強い諦めの気持ちと、銃声が止んだときに何が起こるのかを無視する姿勢が顕著に表れている。アドム・ゲタチュウがR2Pの失敗について書いているように。

「  人道的介入の批判者は、残虐行為に対して「何かする」ことを拒否していると常に悪口を言われるが、往々にしてその「何か」は軍事介入と同一視される。その代わりに、NATOのリビア空爆を引き起こしたような人道危機や内戦への対応は、地域のパートナーの役割を重視し、紛争のデスケーリングを目指し、政治的移行にすべての利害関係者を含める多国間・外交プロセスを優先させるべきだろう。… 究極的には、人道的危機の特定のケースに対するわれわれの対応は、より広範な非軍事化キャンペーンの中に組み込まれなければならない。集団的軍縮のための多国間の努力は、世界中の暴力的紛争に対するより広範な対応の一部でなければならない。」

もし、武力勝利のために行進するのではなく、平和のために活動することを話すことさえ、公的な議論の埒外であれば、あらゆる醜い結果を伴う妨害行為が常態化し、平和への努力は例外的なものとなってしまう。不都合なことに、このようなタカ派的な態度は、戦争犯罪や大量虐殺から身を守るための正当な責任なのだと訴えることで容易に正当化されてしまう。実際、ここには、優れた兵器、そして必要な場合には西側の軍事介入が、国際紛争を解決するための最も確実で正しい手段であるという考え方が根底にある。この考えは、「我々の兵器の提供が命を救う」というベーボックの最近の発言に要約される。このように西側の軍事力をもってはやすことは、戦争がもたらす悲惨な人的コストを帳消しにしてしまい、アウシュビッツの再び起こさない、という枠をはるかに超えて、軍事化の暴走を助長するおそれがある。

ポスト・ファシスト、そしてポスト・平和主義の国の観点からすれば、長い間発展してきたこの変化の頂点にあるのが、軍事化と戦争のために人道的懸念を運用することであり、これが歴史の分水嶺になるということである。

スティーブン・ミルダー

Stephen Milder フローニンゲン大学助教授(欧州政治・社会)、ミュンヘンのレイチェル・カーソン・センター研究員(Research Fellow)。著書に『Greening Democracy: Greening Democracy: The Antinuclear Movement in West Germany and Beyond, 1968-1983』の著者。

ロシアの反戦活動家への連帯行動の呼びかけ

ロシアの反戦活動家への連帯行動の呼びかけ

1月19日のデモの写真。マリア・ラフマニノワ

10年以上にわたって、ロシアの反ファシストたちは1月19日を連帯の日として記念してきた。この日は、2009年にモスクワの中心部で、人権・左翼活動家のShanislav Markelovとジャーナリストで無政府主義者のAnastasia Baburovaがネオナチによって銃殺された日である。

マルケロフとバブロワの殺害は、数百人の移民と数十人の反ファシストを殺害した2000年代の極右テロの頂点となった。長年、まだ可能なうちは、ロシアの活動家たちは1月19日に “To remember is to fight!”というスローガンのもと、反ファシストのデモや集会を開催していた。

プーチン政権がウクライナに侵略し、戦争に反対する自国民に対して前例のない弾圧を行なっている現在、1月19日という日付は新たな意味を持っている。当時、危険なのはネオナチ集団であり、しばしば当局と共謀して行動していた。

今日、右翼的な急進派の思想と実践は、ウクライナ侵略の過程で急速にファシスト化しつつあるロシア政権そのものの思想と実践になっているのである。

ウラジーミル・プーチンは、ウクライナの人々に対してだけでなく、侵略に抵抗するロシアの市民社会に対しても戦争を仕掛けている。残忍な弾圧は、とりわけ社会主義者、アナキスト、フェミニスト、労働組合員などの左翼運動を直撃している。

新年を迎える前に、ロシアで最も有名な左翼政治家である民主社会主義者のMikhail Lobanovが逮捕され、暴行を受けた。彼が作ったプラットフォーム「Nomination」は、2022年9月のモスクワの市議選で反戦反対派を団結させた。

Courier労働組合のリーダーで、左翼ビデオブロガーとして知られるKirill Ukraintsevは、4月から身柄を拘束されている。逮捕の理由は、クーリエが労働条件の改善を求めて組織した抗議行動やストライキだった。

反戦シンボルを配布したフェミニスト、アーティスト、反戦活動家のAlexandra Skochilenkoは、長期間の収監に直面している。

6人のアナキスト、Kirill Brik, Deniz Aydin, Yuri Neznamov, Nikita Oleinik, Roman Paklin, Daniil Chertykovは、いわゆる「Tyumen事件」で逮捕された。彼らは、破壊工作の準備に関する自白を求められて、残酷な拷問を受けた。

左翼レジスタンスグループの活動家であるDaria Polyudovaは、最近、「過激主義への呼びかけ」の罪で9年(!)の禁固刑を言い渡された。左翼ジャーナリストのIgor Kuznetsovは、反戦と反プーチンの見解のために “過激主義 “と非難され、1年前から服役している。

これらは、最近自分の信念のために投獄されたり迫害されたりしたロシアの左翼の網羅的なリストにはほど遠いものである。政治的な理由でロシアを離れることを余儀なくされた活動家として、私たちは外国の同志や関心を寄せるすべての人々に、1月19日にスローガンのもとで行われる反ファシスト行動を支援するよう要請します。

プーチンの戦争、ファシズム、独裁に反対!

すべてのロシア人政治犯に自由を!

ロシアの反ファシストと連帯しよう!

記憶することは戦うことだ!

1月19日から24日の1週間に行われる連帯行動(ピケ、公開ミーティング、オンライン・ディスカッション、さらにはポスターとの個人的な写真など)に関する情報を、rsdzoom@proton.me までメールで送ってくださるようお願いします。

ロシア社会主義運動

Twitterをめぐる政府と資本による情報操作――FAIRの記事を手掛かりに

本稿は、FAIRに掲載された「マスクの下で、Twitterは米国のプロパガンダ・ネットワークを推進し続ける」を中心に、SNSにおける国家による情報操作の問題について述べたものです。Interceptの記事「Twitterが国防総省の秘密オンラインプロパガンダキャンペーンを支援していたことが判明」も参照してください。(小倉利丸)

Table of Contents

1. FAIRとInterceptの記事で明らかになったTwitterと米国政府の「癒着」

SNSは個人が自由に情報発信可能なツールとしてとくに私たちのコミュニケーションの権利にとっては重要な位置を占めている。これまでSNSが問題になるときは、プラットフォーム企業がヘイトスピーチを見逃して差別や憎悪を助長しているという批判や、逆に、表現の自由の許容範囲内であるのに不当なアカウント停止措置への批判であったり、あるいはFacebookがケンブリッジ・アナリティカにユーザーのデータを提供して選挙に介入したり、サードパーティクッキーによるデータの搾取ともいえるビジネスモデルで収益を上げたり、といったことだった。これだけでも重大な問題ではあるが、今回訳出したFAIRの記事は、これらと関連しながらも、より密接に政府の安全保障と連携したプラットフォーム企業の技術的な仕様の問題を分析している点で、私にとっては重要な記事だと考えた。

戦争や危機の時代に情報操作は当たり前の状況になることは誰もが理解はしていても、実際にどのような情報操作が行なわれているのかを、実感をもって経験することは、ますます簡単ではなくなっている。

別に訳出して掲載したFAIRの記事 は、昨年暮にInterceptが報じたtwitterの内部文書に基くtwitterと米国政府との癒着の報道[日本語訳]を踏まえ、更にそれをより広範に調査したものになっている。この記事では、Twitterによる投稿の操作は、「米国の政策に反対する国家に関連するメディアの権威を失墜させること」であり、「もしある国家が米国の敵であると見なされるなら、そうした国家と連携するメディアは本質的に疑わしい」とみなしてユーザーの判断を誘導する仕組みを具体的に示している。twitterは、企業の方針として、米国のプロパガンダ活動を周到に隠蔽したり、米国の心理戦に従事しているアカウントを保護するなどを意図的にやってきたのだが、世界中のtwitterのユーザーは、このことに気づかないカ十分な関心を抱かないまま、公平なプラットフォームであると「信じて」投稿し、メッセージを受け取ってきた。しかし、こうしたSNSの情報の流れへの人為的な操作の結果として、ユーザーひとりひとりのTwitterでの経験や実感は、実際には、巧妙に歪められてしまっている。

ウクライナへのロシアによる侵略以後、ロシアによる「偽旗作戦」への注目が集まった。そして、日本でも、自民党は、「偽旗作戦」を含む偽情報の拡散による情報戦などを「新たな『戦い方』」と呼び、これへの対抗措置が必要だとしている。[注]いわゆるハイブリッド戦では「ンターネットやメディアを通じた偽情報の流布などによる世論や投票行動への影響工作を複合的に用いた手法」が用いられることから、非軍事領域を包含して「諸外国の経験・知見も取り入れながら、民間機関とも連携し、若年層も含めた国内外の人々にSNS等によって直接訴求できるように戦略的な対外発信機能を強化」が必要だとした。この提言は、いわゆる防衛3文書においてもほぼ踏襲されている。上の自民党提言や安保3文書がハイブリッド戦争に言及するとき、そこには「敵」に対する組織的な対抗的な偽情報の展開が含意されているとみるべきで、日本も遅れ馳せながら偽旗作戦に参戦しようというのだ。日本の戦争の歴史を振り返れば、まさに日本は偽旗作戦を通じて世論を戦争に誘導し、人々は、この偽情報を見抜くことができなかった経験がある。この意味でtwitterと米国政府機関との関係は、日本政府とプラットーム企業との関係を理解する上で重要な示唆を与えてくれる。

[注]新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言(2022/4/26)

2. インターネット・SNSが支配的な言論空間における情報操作の特殊性

伝統的なマスメディア環境では、政府の世論操作は、少数のマスメディアへの工作によって大量の情報散布を一方的に実現することができた。政府だけでなく、企業もまた宣伝・広告の手段としてマスメディアを利用するのは、マスメディアの世論操作効果を期待するからだ。

しかしインターネットでは、ユーザーの一人一人が、政府や企業とほぼ互角の情報発信力をもつから、国家も資本も、この大量の発信をコントロールするというマスメディア時代にはなかった課題に直面した。ひとりひとりの発信者の口を封じたり、政府の意向に沿うような発言を強制させることはできないから、これはある種の難問とみなされたが、ここにインターネットが国家と資本から自立しうる可能性をみる――私もそうだった――こともできたのだ。

現実には、インターネットは、少数のプラットフォーム企業がこの膨大な情報の流れを事実上管理できる位置を獲得したことによって、事態は庶民の期待を裏切る方向へと突き進んでしまった。こうした民間資本が、アカウントの停止や投稿への検閲の力を獲得することによって、検閲や表現の自由の主戦場は政府とプラットーム企業の協調によって形成される権力構造を生み出した。政府の意図はマスメディアの時代も現代も、権力の意志への大衆の従属にある。そのためには、情報の流通を媒介する資本は寡占化されているか国家が管理できることが必要になる。現代のプラットフォーム企業はGAFAMで代表できるように少数である。これらの企業は、自身が扱う情報の流れを調整することによって、権力の意志をトップダウンではなくボトムアップで具現化させることができる。つまり、不都合な情報の流れを抑制し、国家にとって必要な情報を相対的に優位な位置に置き、更に積極的な情報発信によって、この人工的な情報の水路を拡張する。人びとは、この人工的な情報環境を自然なコミュニケーションだと誤認することによって、世論の自然な流れが現行権力を支持するものになっていると誤認してしまう。更にここにAIのアルゴリズムが関与することによって、事態は、単なる一人一人のユーザーの生の投稿の総和が情報の流れを構成する、といった単純な足し算やかけ算の話ではなくなる。twitterのAIアルゴリムズには社会的なバイアスがあることがすでに指摘されてきた。(「TwitterのAIバイアス発見コンテスト、アルゴリズムの偏りが明らかに」CNETJapan Sharing learnings about our image cropping algorithm )AIのアルゴリズムに影響された情報の流れに加えてSNSにはボットのような自動化された投稿もあり、こうした機械と人間による発信が不可分に融合して全体の情報の流れが構成される。ここがハイブリッド戦争の主戦場にもなることを忘れてはならない。

[注]検閲や表現領域のようなマルクスが「上部構造」とみなした領域が土台をなす資本の領域になっており、経済的土台と上部構造という二階建の構造は徐々に融合しはじめている。

3. ラベリングによる操作

FAIRの記事で問題にされているのは、政府の情報発信へのtwitterのポリシーが米国政府の軍事・外交政策を支える世論形成に寄与する方向で人びとのコミュニケーション空間を誘導している、という点にある。その方法は、大きく二つある。ひとつは、各国政府や政府と連携するアカウントに対する差別化と、コンテンツの選別機能でもある「トピック」の利用である。このラベルは2020年ころに導入された。日本語のサイトでは以下のように説明されている。

「Twitterにおける政府および国家当局関係メディアアカウントラベルについて

国家当局関係メディアアカウントについているラベルからは、特定の政府の公式代表者、国家当局関係報道機関、それらの機関と密接な関係のある個人によって管理されているアカウントについての背景情報がわかります。

このラベルは、関連するTwitterアカウントのプロフィールページと、それらのアカウントが投稿、共有したツイートに表示されます。ラベルには、アカウントとつながりのある国についてと、そのアカウントが政府代表者と国家当局関係報道機関のどちらによって運用されているかについての情報が含まれています。 」https://help.twitter.com/ja/rules-and-policies/state-affiliated

ラベリングが開始された2020年当時は、国連安全保障理事会の常任理事国を構成する5ヶ国(中国、フランス、ロシア、英国、米国)に関連するTwitterアカウントのなかから、地政学と外交に深くかかわっている政府アカウント、国家当局が管理する報道機関、国家当局が管理する報道機関と関連する個人(編集者や著名なジャーナリストなど) にラベルを貼ると表明していた。その後2022年になると中国、フランス、ロシア、英国、米国、カナダ、ドイツ、イタリア、日本、キューバ、エクアドル、エジプト、ホンジュラス、インドネシア、イラン、サウジアラビア、セルビア、スペイン、タイ、トルコ、アラブ首長国連邦が対象になり、2022年4月ころにはベラルーシとウクライナが追加される。こうした経緯をみると、当初と現在ではラベルに与えられた役割に変化があるのではないかと思われる。当初は国連安保理常任理事国の背景情報を提供することに主眼が置かれ、これが米国の国益にもかなうものとみなされていたのかもしれない。twitterをグローバルで中立的なプラットフォーマであることを念頭にその後のラベル対象国拡大の選択をみると、これが何を根拠に国を選択しいるのかがわかりづらいが、米国の地政学を前提にしてみると、米国との国際関係でセンシティブと推測できる国が意図的に選択されているともいえそうだ。他方でイスラエルやインドがラベルの対象から抜けているから、意図的にラベルから外すことにも一定の政治的な方針がありそうだ。(後述)そして、ロシアの侵略によって、このラベルが果す世論操作機能がよりはっきりしてくる。

ロシアへのラベリングは、ウクライナへの侵略の後に、一時期話題になった。(itmedia「Twitter、ロシア関連メディアへのリンクを含むツイートに注意喚起のラベル付け開始」)

上のラベルに関してtwitterは「武力紛争を背景に、特定の政府がインターネット上の情報へのアクセスを遮断する状況など、実害が及ぶ高いリスクが存在する限られた状況において、こうしたラベルが付いた特定の政府アカウントやそのツイートをTwitterが推奨したり拡散したりすることもありません。」と述べているのだが、他方で、「ウクライナ情勢に対するTwitterの取り組み」 では、これとは反するようなことを以下のように述べている。

「ツイートにより即座に危害が生じるリスクは低いが、文脈を明確にしなければ誤解が生じる恐れがある場合、当該ツイートをタイムラインに積極的に拡散せず、ツイートへのリーチを減らすことに注力します。コンテンツの拡散を防いで露出を減らし、ラベルを付与して重要な文脈を付け加えます。」

FAIRの報道には、実際の変化について言及があるので、さらに詳しい内容についてはFAIRの記事にゆずりたい。

4. トピック機能と恣意的な免責

ラベリングとともにFAIRが問題視したのがトピック機能だ。この機能についてもこれまでさほど深刻には把えられていなかったかもしれない。

FAIRは次のように書いている。

「Twitterのポリシーは、事実上、アメリカのプロパガンダ機関に隠れ蓑と手段を提供することになっている。しかし、このポリシーの効果は、全体から見ればまだまだだ。Twitterは様々なメカニズムを通じて、実際に米国が資金を提供するニュース編集室を後押しし、信頼できる情報源として宣伝しているのだ。

そのような仕組みのひとつが、「トピック」機能である。「信頼できる情報を盛り上げる」努力の一環として、Twitterはウクライナ戦争について独自のキュレーションフィードをフォローすることを推奨している。2022年9月現在、Twitterによると、このウクライナ戦争のフィードは、386億以上の “インプレッション “を獲得している。フィードをスクロールすると、このプラットフォームが米国の国家と連携したメディアを後押ししている例が多く、戦争行為に批判的な報道はほとんど、あるいは全く見られない。米国政府とのつながりが深いにもかかわらず、Kyiv IndependentとKyiv Postは、戦争に関する好ましい情報源として頻繁に提供されている。」

ここで「独自のキュレーションフィード」と記述されているが、日本語のTwitterのトピックでは、「キュレイーション」という文言はなく、主要な「ウクライナ情勢」の話題を集めたかのような印象が強い。Twitterは、ブログ記事「トピック:ツイートの裏側」 で「あるトピックを批判をしたり、風刺をしたり、意見が一致しなかったりするツイートは、健全な会話の自然な一部であり、採用される資格があります」とは書いているが、実際には批判と炎上、風刺と誹謗の判別など、困難な判断が多いのではないか。日本語での「ウクライナ情勢」のトピック では、日本国内の大手メディア、海外メディアで日本語でのツイート(BBC、CNN、AFP、ロイターなど)が大半のような印象がある。つまり、SNSがボトムアップによる多様な情報発信のプラットフォームでありながら、Twitter独自の健全性やフォローなどの要件を加味すると、この国では結果として伝統的なマスメディアがSNSの世界を占領するという後戻りが顕著になるといえそうそうだ。反戦運動や平和運動の投稿は目立たなくなる。情報操作の目的が権力を支える世論形成であるという点からみれば、SNSとプラットフォームが見事にこの役目を果しているということにもなり、言論が社会を変える力を獲得することに資本のプラットフォームはむしろ障害になっている。

しかも「トピック」は単純なものではなさそうだ。twitterによれば「トピック」機能は、会話におけるツイート数と健全性を基準に、一過性ではないものをトピックを選定するというが、次のようにも述べられている。

「機械学習を利用して、会話の中から関連するツイートを見つけています。ある話題が頻繁にツイートされたり、その話題について言及したツイートを巡って多くの会話が交わされたりすると、その話題がトピックに選ばれる場合があります。そこからさらにアルゴリズムやキーワード、その他のシグナルを利用して、ユーザーが強い興味関心を示すツイートを見つけます」

Twitterでは、「トピックに含まれる会話の健全性を保ち、また会話から攻撃的な行為を排除するため、数多くの保護対策を実施してい」るという。何が健全で何が攻撃的なのかの判断は容易ではない。しかし「これには、操作されていたり、スパム行為を伴ったりするエンゲージメントの場合、該当するツイートをトピックとして推奨しない取り組みなどが含まれます」 と述べられている部分はFAIRの記事を踏まえれば、文字通りのこととして受けとれるかどうか疑問だ。

トピックの選別をTwitterという一企業のキュレション担当者やAIに委ねることが、果して言論・表現の自由や人権にとってベストな選択なのだろうか。イーロン・マスクの独裁は、米国や西側先進国の民主主義では企業の意思決定に民主主義は何にひとつ有効な力を発揮できないという当たり前の大前提に、はじめて多くの人々が気づいた。Twitterにせよ他のSNSにせよ、伝統的なメディアの編集部のような「報道の自由」を確保するための組織的な仕組みがあるのあどうか、あるいはそもそもキュレイーションの担当者やAIに私たちの権利への関心があるのかどうかすら私たちはわかっていない。

もうひとつは、上で述べたラベリングと表裏一体の問題だが、本来であれば政府系のメディアとしてラベルを貼られるべきメディアが、あたかも政府からの影響を受けていない(つまり公正で中立とみなされかねない)メディアとして扱われている、という問題だ。FAIRは米軍、国家安全保障局、中央情報局のアカウント、イスラエル国防軍、国防省、首相のアカウントがラベリングされていないことを指摘している。

またFAIRが特に注目したのは、補助金など資金援助を通じて、特定のメッセージや情報の流れを強化することによる影響力強化だ。FAIRの記事で紹介されているメディアの大半は、米国の政府や関連する財団――たとえば全米民主主義基金(National Endowment for Democracy、USAID、米国グローバルメディア局――などからの資金援助なしには、そもそも情報発信の媒体としても維持しえないか、維持しえてもその規模は明かに小規模に留まらざるをえないことは明らかなケースだ。

5. 自分の直感や感性への懐疑は何をもたらすか

FAIRやInterceptの記事を読まない限り、twitterに流れる投稿が米国の国家安全保障の利害に影響されていることに気づくことは難しいし、たとえ投稿のフィードを読んだからといって、この流れを実感として把握することは難しい。フェイクニュースのように個々の記事やサイトのコンテンツの信憑性をファクトチェックで判断する場合と違って、ここで問題になっているのは、ひとつひとつの投稿には嘘はないが、グローバルな世論が、プラットフォーム企業が総体として流す膨大な投稿の水路や流量の調整によって形成される点にある。私たちは膨大な情報の大河のなかを泳ぎながら、自分をとりまく情報が自然なものなのか人工的なものなのか、いったいどこから来ているのか、情報全体の流れについての方向感覚をもてず、実感に頼って判断するしかない、という危うい状態に放り出される。このような状況のなかで、偏りを自覚的に発見して、これを回避することは非常に難しい。

こうしたTwitterの情報操作を前提としたとき、私たちは、ロシアやウクライナの国や人びとに対して抱く印象や戦争の印象に確信をもっていいのかどうか、という疑問を常にもつことは欠かせない。報道の体裁をとりながらも、理性的あるいは客観的な判断ではなく、好きか嫌いか、憎悪と同情の感情に訴えようとするのが戦争状態におけるメディアの大衆心理作用だ。ロシアへの過剰な憎悪とウクライナへの無条件の支持の心情を構成する客観的な出来事には、地球は平面だというような完璧な嘘があるわけではない。問題になるのは、出来事への評価や判断は、常に、出来事そのものと判断主体の価値観や世界観あるいは知識との関係のなかでしか生まれないということだ。私は、ロシアのウクライナへの侵略を全く肯定できないが、だからといって私の関心は、ウクライナであれロシアであれ、国家やステレオタイプなナショナリズムのアイデンティティや領土への執着よりも、この理不尽な戦争から背を向けようとする多様な人々が武器をとらない(殺さない)という選択のなかで生き延びようとする試みのなかにあるラディカリズムにあるのだが、このような国家にも「国民」にも収斂しないカテゴリーはプラットフォーム企業の関心からは排除され、支配的な戦争のイデオロギーを再生産する装置としてしか私には見えない。

国家に対する評価とその国の人びとへの評価とを区別するのに必要なそれなりの努力をないがしろにさせるのは、既存のマスメディアが得意とした世論操作だが、これがSNSに受け継がれると、SNSの多様な発信は総じて平板な国家の意志に収斂して把えられる傾向を生み出す。どの国にもある人びとの多様な価値観やライフスタイルやアイデンティティが国家が表象するものに単純化されて理解されてしまう。敵とされた国の人びとを殺すことができなければ戦争に勝利できないという憎悪を地下水脈のように形成しようとするのがハイブリッド戦争の特徴だが、これが日本の現在の国際関係をめぐる感情に転移する効果を発揮している。こうしたことが、一人一人の発信力が飛躍的に大きくなったはずのインターネットの環境を支配している。その原因は、寡占化したプラットフォーム企業が資本主義の上部構造を構成するイデイロギー資本として、政治的権力と融合しているからだ、とみなす必要がある。

6. それでもTwitterを選択すべきか

政府関連のツィートへのラベリングは、開始された当初に若干のニュースになったものの、その背景にTwitterと米国の安全保障政策との想定を越えた密接な連携があるということにまではほとんど議論が及んでいなかったのでは、と思う。さらにFAIRがイーロン・マスクのスペースXを軍事請け負い企業という観点から、その活動を指摘していることも見逃せない重要な観点だと思う。

情報操作のあり方は、独裁国家や権威主義国家の方がいわゆる民主主義や表現の自由を標榜する国よりも、素人でもわかりやすい見えすいた伝統的なプロパガンダや露骨な言論弾圧として表出する。ところが民主主義を標榜する国では、その情報操作手法はずっと洗練されており、より摩擦の少ない手法が用いられ、私たちがその重大性に気づくことが難しい。私たち自身による自主規制、政府が直接介入しない民間による「ガイドライン」、あるいは市場経済の価格メカニズムを用いた採算のとれない言論・表現の排除、さらには資源の希少性を口実にアクセスに過剰なハードルを課す(電波の利用)、文化の保護を名目としつつナショナリズムを喚起する公的資金の助成など、自由と金を巧妙に駆使した情報操作は、かつてのファシズムやマスメディアの時代と比較しても飛躍的に高度化した。そして今、情報操作の主戦場はマスメディアからプラットフォーム企業のサービスと技術が軍事技術の様相をとるような段階に移ってきた。

コミュニケーションの基本的な関係は、人と人との会話であり、他者の認識とは私の五感を通じた他者理解である、といった素朴なコミュニケーションは現在はほとんど存在しない。わたしは、あなたについて感じている印象や評価と私がSNSを通じて受けとるあなたについての様々な「情報」に組み込まれたコンピュータによって機械的に処理されたデータ化されたあなたを的確に判別することなどできない。しかし、コミュニケーションを可能な限り、資本や政府による恣意的な操作の環境から切り離すことを意識的に実践することは、私たちが世界に対して持つべき権利を偏向させたり歪曲させないために必要なことだ。そのためには、コンピュータ・コミュニケーションを極力排除するというライフスタイルが一方の極にあるとすると、もう一方の極には、資本の経済的土台と国家のイデオロギー的上部構造が融合している現代の支配構造から私たちのコミュニケーションを自立させうるようにコンピュータ・コミュニケーションを再構築するという戦略がありうる。この二つの極によって描かれる楕円の世界を既存の世界からいかにして切り離しつつ既存の世界を無力化しうるか、この課題は、たぶん武力による解放では実現できない課題だろう。

Author: toshi

Created: 2023-01-09 月 18:29

Validate

(FAIR)マスクの下で、Twitterは米国のプロパガンダ・ネットワークを推進し続ける

(訳者のコメントはこちらをごらんください。)

2023年1月6日

Bryce Greene


Twitterの「国家関連メディアstate-affiliated media」ポリシー[日本語]には、米国政府が資金を提供し、コントロールするニュースメディアのアカウントに対する不文律の免責規定がある。Twitterは、ロシアとウクライナの戦争中に、これらのアカウントを「権威ある」ニュースソースとしてブーストさえしている。

Intercept: Twitterは国防総省の秘密オンラインプロパガンダキャンペーンを支援した。Twitterの所有者が変わっても、このプラットフォームと米国の国家安全保障との特別な関係は変わっていないようだ(Intercept, 12/20/22

Elon Muskが「Twitter Files」と呼ばれる文書の公開をコントロールしたことで、このソーシャルメディアプラットフォームの内部活動についての知見が得られている。12月20日に公開された一連の文書は、間違いなく最も衝撃的なもので、Twitterが米国のプロパガンダ活動を周到に隠蔽していることが詳細に示されている。InterceptのLee Fang記者は、Twitterの内部システムに限定的にアクセスした後、Twitterのスタッフが、中東を統括する米軍中央司令部(CENTCOM)が運営するアカウントを、秘密のプロパガンダキャンペーンの一環として「ホワイトリスト」に載せていたことを明らかにした(2022年12月20日 日本語訳)。言い換えれば、Twitterは、明らかに利用規約に違反しているにもかかわらず、米国の心理戦に従事しているアカウントを保護していたのである。

しかし、これはTwitterが米国の影響力作戦に協力したことを示す全容からはほど遠い。FAIRの調査によると、Twitter自身のポリシーにあからさまに違反して、米国のあからさまなプロパガンダ・ネットワークの一部をなす数十の大規模アカウントが、同社から特別な扱いを受けていることが明らかになった。

Twitterは、「国家と連携する」メディアポリシーを偏って適用することを通じて、実はユーザーに「文脈」を提供するという自らの使命に違反している。より深刻なのは、ウクライナにおいて、Twitterが、表向きは「権威ある」情報源を集約した「トピック」機能の一部において、米国が資金提供したメディア組織を積極的に宣伝したことだ。プラットフォーム上でこれらの報道機関が目立つことによって、国内のメディア・エコシステムへの影響力が強められ、戦争全体に対する世論の認識を形成するのに寄与した。

「国家と連携するメディア」

ユーザーがプラットフォーム上で遭遇する情報に「さらなる文脈を提供する」取り組みの一環として、Twitter(2020年8月6日)は、「政府の特定の公式代表、国家と連携するメディア団体、それらの団体に関連する個人がコントロールするアカウント」にラベルを追加する方針を発表した。

Twitterはそのブログへの投稿で、「メディアアカウントが国家と直接または間接的に連携している場合、人々はそれを知る権利があると信じている」と表明している。Twitterはさらに、「これらのラベルを持つアカウントやそのツイートを推奨したり、拡散したりしない」と述べた。

当時、明確な主要ターゲットはロシアの国家と連携するメディアだったが、このポリシーは他の国にも拡大されている。Twitterの数字によると、「国家と連携する」というラベルを貼られたアカウントは、最大で30%流通量が減少する。

ウクライナ戦争時のポリシーとして、Twitterは(2022年3月16日)、「信頼性の高い、信頼できる情報を高める 」という意向を表明した。Twitterはブログ記事で、ロシア政府系アカウントに対する 「効果的な 」ポリシーの実施を評価した。彼らは、「ツイートあたりのエンゲージメントが約25%減少した」、「それらのツイートとエンゲージしたアカウント数が49%減少した 」と主張した。

しかし、Twitterのポリシーが一律に適用されているわけではないことは明らかだ。米国政府と密接な関係にあるメディアは数多く存在し、中には完全に政府の資金で運営されているものもあるが、これらのアカウントは「国家と連携している」というレッテルを貼られていないのだ。この偏ったポリシーの下では、Twitterは米国のプロパガンダ機関がプラットフォーム上で独立性を維持可能にし、米国のソフトパワーと影響力の行使を黙認していることになる。

この偏ったアプローチは、Twitterのポリシーがユーザーへの「文脈の提供」ではなく、米国の支配的な世界観の促進であることが明らかである。つまり、Twitterは現在進行中の情報戦争に積極的に加担しているのである。

公式の敵の合法性を認めない

Twitterは「国家と連携するメディア」を次のように定義している。

国家当局関係メディアとは、国家が財源や直接的/間接的な政治圧力をもって報道内容を統制したり、制作および配信を管理したりする報道機関をいいます。

このポリシーは表向きは非政治的で、すべての国家メディアのアカウントに等しく適用されるが、実際にはポリシーの真の目的は明確で、米国の政策に反対する国家に関連するメディアの権威を失墜させることである。Twitterのポリシーに内在する前提は、もしある国家が米国の敵であると見なされるなら、そうした国家と連携するメディアは本質的に疑わしいということだ。したがって、ユーザーが閲覧しているコンテンツに注意を喚起する必要がある。FAIRは、明らかにこうした説明に合致すると思われる多くのメディアがあるにもかかわらず、「米国国家と連携するメディア」とラベル付けされたアカウントの例を見つけることができなかった。

ツイッター: 現在、どのアカウントにラベルが貼られているか?[訳注’現在、この国別のラベルのリストは削除されている。2022年12月10日頃の時点では、「中国、フランス、ロシア、イギリス、アメリカ、ベラルーシ、カナダ、ドイツ、イタリア、日本、キューバ、エクアドル、エジプト、ホンジュラス、インドネシア、イラン、サウジアラビア、セルビア、スペイン、タイ、トルコ、ウクライナ、アラブ首長国連邦の関連Twitterアカウントにラベルが表示」と記載されていた。waybackmachine2022/12/13 ]

Twitterは、ポリシーの対象となる国をリストアップしているが、いくつかの顕著な欠落がある。例えば、このリストにはカタールが含まれておらず、カタールが資金を提供するメディア、Al JazeeraとAJ+のアカウントには「国家と連携している」というラベルが貼られていない。しかし、リストアップされた国の中でさえ、このポリシーが平等に適用されているわけでは ない。

Twitterは「関連するTwitterアカウントにラベルが表示される」国として、米国、英国やカナダなどの米国の同盟国を挙げているが、これは、これらの国に拠点を置き、他の国に所属しているメディアを指していると思われる。確かに、米国と連携しているアカウントで、「国家と連携している」というカテゴリーにこれ以上なく明確に当てはまるにもかかわらず、ラベルが表示されないものがある。

いくつかのあからさまな監督機能の例として、米軍国家安全保障局、あるいは中央情報局のアカウントは、「地政学と外交に深く関わる政府のアカウント」であるにもかかわらず、現在どれも国家や政府機関としてラベル付けされていない。さらに、イスラエル国防軍国防省首相のアカウントは、すべてラベルが貼られていない。

一方、Twitterは米国が敵視する国家に対しては厳格にルールを適用している。ロシア、中国、イランの主要な国家機関のアカウントには、一般的に国家機関というラベルが貼られる。これらの国のメディアもターゲットにされている。イランのPressTV、ロシアのRTSputnik、中国のChina DailyGlobal Times、CGTN、China Xinhua Newsはすべて、「国家と連携したメディア 」というレッテルを貼られている。

Twitterは、今回の侵攻後、ロシアに対して特別な対策をとっており、「ロシアの国家と連携したメディアのウェブサイト」にリンクしている投稿には、明確な警告を追加している。

Twitterの情報提供

この規制対象メディアを含む投稿にユーザーが「いいね」、リツイート、引用ツイートをしようとすると、2度目の警告が表示される。

Twitter このツイートは、ロシア国家と連携しているメディアウェブサイトにリンクしています。

この警告は、ユーザーがコンテンツにアクセスすることは可能だが、アクセスしないように誘導し、不適切な情報の拡散を抑制するためのものだ。

人為的な例外

Twitterのポリシーでは、「国家と連携するメディア」を、国家が「財源、直接的・間接的な政治的圧力、制作・配信の管理を通じて編集内容をコントロールする」ニュース編集室と定義している。しかし、この説明に当てはまるような大手メディアのアカウントには、そのような注意書きがないものがいくつかある。

米国、英国、カナダの主要な公共メディアは、いずれもこのラベルを受けていない。2017年、NPRはその資金の4%を米国政府から受け取っている。BBCは、その資金の大部分を英国外務英連邦省から受け取っている。CBCはカナダ政府から12億ドルの資金援助を受けている。しかし、BBC、CBC、NPRのTwitterアカウントは、プラットフォーム上ではすべてラベルが貼られていない。

この矛盾を説明するために、Twitterは「国家が出資している」メディアと「国家と連携している」メディアを区別している。 Twitterは次のように書いている。

例えばイギリスのBBCやアメリカのNPRのように、編集の独立性がある国家出資のメディア組織は、このポリシーの目的上、国家と連携するメディアとして定義されてはいない。

英米の公的支援を受けているメディアが国家から独立しているという考え方は、非常に疑わしい。第一に、なぜ国家からの資金提供がTwitterのポリシーの「財源」の文言に該当しないのか不明である。政府は、編集上の判断を強制するために資金提供の停止という脅しを使うことができるし、そうしてきた(Extra!, 3-4/95; FAIR.org, 2005年5月17日) 。第二に、研究者のTom Mills(OpenDemocracy, 2017年1月25日)がBBCについて注釈しているように、政府の影響力は官僚的なレベルで作用している。

政府は、BBCの運営条件を設定し、最も高位の人物を任命し、彼らは将来、日々の経営上の意思決定に直接関与することになるだろうし、また、BBCの主要な収入源であるライセンス料の水準も設定する。

全米民主主義基金(National Endowment for Democracy

米国のソフトパワーに関する取り組みを見ると、「国家と連携する」というレッテルが貼られるべきメディアがはるかに多くあることがわかる。そのような資金の受け皿のひとつが、National Endowment for Democracy(全米民主化基金)である。レーガン政権時代に設立されたNEDは、アメリカの政策に友好的な政権の擁護や樹立を目的とする団体に年間1億7000万ドルを投じている。

National Endowment for Democracy Logo

ProPublica (2010年11月24)はNEDを「事実上、CIAの秘密宣伝活動を引き継ぐために議会によって設立された」と説明している。Washington PostのDavid Ignatius(1991年9月22日)は、「CIAが秘密裏にやっていたことを公の場でやっている」として、「スパイなきクーデター」のための手段としての組織と報じた。初代NED会長のCarl Gershman(MintPress, 2019年9月9日)は、この切り替えは、組織の意図するところを覆い隠すためのPR活動が主であったことを認めている。つまり、「世界中の民主主義団体にとって、CIAから補助金をもらっていると見られるのは極めて不愉快だ」という。

2014年のマイダンのクーデターとロシアの侵攻をめぐる情報戦争でNEDが果たした役割を考えると、ウクライナでのNEDの活動は特に詳細に調査する必要がある。2013年、ガースマンはウクライナを東西対立における「最大の獲物」と表現した(Washington Post、2013年9月26日付)。同年末、NEDは他の欧米が支援する影響力あネットワーク結束し、後に大統領罷免につながった抗議運動を支援した。

NEDの理事会の歴史は、政権交代論者と帝国のタカ派の錚々たる顔ぶれである。現在の理事会には、『Atlantic』誌の反ロシア派の人気スタッフライターで、ケーブルニュースのコメンテーターとしても頻繁に登場し、その活動は新冷戦のメンタリティーを象徴するAnne Applebaumや、イラン/コントラ疑惑の主要人物で後にトランプ政権のベネズエラ政府転覆キャンペーンで重要な役割を果たすEliott Abramsがいる。Victoria Nulandは元Dick Cheney副大統領の外交政策顧問で、米国の外交政策のキーパーソンであり、2014年にはウクライナ政府を再編するために裏で干渉していたことが発覚した米国高官の一人でさえある。彼女はオバマ政権とバイデン政権の国務省勤務の合間にNEDの理事を務めていた。他の元理事には、Henry Kissinger、Paul Wolfowitz、Zbigniew Brzezinski、現CIA長官のWilliam Burnsらがいる

戦争が始まった後、NEDはそのウェブサイトからウクライナのプロジェクトをすべて削除したが、それらはまだInternet ArchiveのWayback Machineで見ることができる。2021年のプロジェクトを見ると、「政府の説明責任を果たす」あるいは「独立したメディアを育てる」という表向きの目標で、ウクライナ中のメディア組織を対象に広範な資金援助活動を行っていることがわかる。よく知られたアメリカのプロパガンダ機関からあからさまな資金提供を受けているにもかかわらず、これらの組織のTwitterアカウントには「国家と連携したメディア」というラベルはない。NEDのTwitterアカウントでさえ、米国政府との関係を示していない。

このことは、現在のウクライナ戦争に大いに関係がある。CHESNOZN.UAZMiSTUkrainian Toronto TelevisionVox UkraineはすべてウクライナにおけるNEDのメディアネットワークの一部だが、彼らのTwitterアカウントには国家と連携しているというラベルはない。さらに、このネットワークに属するニュース編集室の中には、他の米国政府組織と広範なつながりを誇るものもある。European PravdaUkraine Crisis Media Center、Hromadskeは、いずれも2014年にアメリカが支援したマイダンのクーデターの最中か直後に設立されたが、NATOとの明確パートナーシップを誇示している。HromadskeとUCMCは、米国国務省、在キエフ米国大使館、米国国際開発庁(USAID)ともパートナーシップを結んでいることをアピールしている。

USAIDはNEDと同じような役割を担っている。人道的援助や開発プロジェクトという隠れ蓑のもと、USAIDはアメリカの政権交代作戦やソフトパワーによる影響力の売り込みのパイプ役を務めている。とりわけ、この組織はニカラグアの「民主化促進」を隠れ蓑にしており、ベネズエラの選挙で選ばれた政府に対するクーデターを進めるために5億ドルを提供している。

Kyiv PostとIndependent

キエフ・ポストのロゴ

NEDの資金を最も多く受け取っているのは、同じくNEDの資金を受けたニュース編集室、Kyiv Postを改組したKyiv Independentである。Kyiv Independentは広告と購読料で資金の大半を得ていると主張しているが、PostのウェブサイトではNEDを「Kyiv Postのジャーナリストが作成したコンテンツのスポンサーとなった寄付者」として紹介している。

2021年11月にスタッフ間の紛争でPostが一時的に閉鎖されたとき、ジャーナリストの多くがKyiv Independentを結成した。彼らはカナダ政府からの20万ドルの助成金と、ブリュッセルに本部を置き、NEDをモデルとし、NEDから資金提供を受けている組織、European Endowment for Democracyからの緊急助成金によってこれを実現した。

Kyiv Independentのロゴ

戦争勃発後、Independentは200万人以上のTwitterフォロワーを獲得し、数百万ドルの寄付を集めた。Independentのスタッフは、米国のメディア・エコシステムに溢れた。New York Times(2022年3月5日)やWashington Post(2022年2月28日)など、米国の主要紙で論説が掲載された。CNN(2022年3月21日)、CBS(2022年12月21日)、Fox News(2022年3月31日)、MSNBC(2022年4月10日)といった米国のテレビ局にもしばしば出演している。

CNNのBrian Stelter(2022年3月20日)は、ニュース編集室とアメリカ政府との結びつきは無視して、Independentが 「設立3ヶ月の新興企業で西側世界では比較的無名だったのが、今ではウクライナ戦争に関する主要情報源の1つになった 」と賞賛している。その資金調達活動は、CBSやPBSといった米国の放送局によって推進されている(MintPress, 2022年4月8日)。

Independentのトップスタッフは、他のアメリカ政府のプロジェクションに幅広いコネクションを持っている。寄稿編集者のLiliane Bivingsは、米国や他の政府から資金提供を受け、NATOの事実上の頭脳集団として機能するシンクタンク、大西洋評議会Atlantic Councilでウクライナ・プロジェクトに従事していた。最高財務責任者のJakub Parusinskiは、USAIDが出資するInternational Center for Policy Studiesで活動していた(MintPress, 2022年4月8日)。

最高経営責任者のDaryna Shevchenkoは以前、国務省とフォード財団によって設立された教育・開発関連の非営利団体IREXで活動し、現在もその資金の大半を米国政府から受け取っている。また、NEDとキエフの米国大使館が資金提供し、ウクライナの「独立」メディアを促進する組織、Media Development Foundationの共同設立者でもある。最高執行責任者のOleksiy Sorokinは、米国務省や他のNATO寄りの政府から資金提供を受けているNGO、Transparency Internationalでスタートを切った(Covert Action, 2022年4月13日)。

アメリカのプロパガンダを後押しする

Twitterのポリシーは、事実上、アメリカのプロパガンダ機関に隠れ蓑と手段を提供することになっている。しかし、このポリシーの効果は、全体から見ればまだまだだ。Twitterは様々なメカニズムを通じて、実際に米国が資金を提供するニュース編集室を後押しし、信頼できる情報源として宣伝しているのだ。

そのような仕組みのひとつが、「トピック」機能である。「信頼できる情報を盛り上げる」努力の一環として、Twitterはウクライナ戦争について独自のキュレーションフィードをフォローすることを推奨している。2022年9月現在、Twitterによると、このウクライナ戦争のフィードは、386億以上の “インプレッション “を獲得している。フィードをスクロールすると、このプラットフォームが米国の国家と連携したメディアを後押ししている例が多く、戦争行為に批判的な報道はほとんど、あるいは全く見られない。米国政府とのつながりが深いにもかかわらず、Kyiv IndependentとKyiv Postは、戦争に関する好ましい情報源として頻繁に提供されている。

このアカウントは、彼らが信頼できると主張する紛争に関する情報源に基づくリストを作成した。このリストには現在55人のメンバーがいる。このうち、少なくとも22人はアメリカの資金提供を受けている報道機関か、その系列のジャーナリストである。資金提供のルートは複雑であり、これらのニュース編集室のウェブサイトには情報がないものもあるので、この数はおそらく少なめであろう。

New Voice of Ukraine (NED, State Department)

Euan MacDonald

Kyiv Post (NED)

Natalie Vikhrov

Kyiv Independent (NED)

Anastasiia Lapatina, Oleksiy Sorokin, Anna Myroniuk, Illia Ponomarenko

Zaborona (NED)

Katerina Sergatskova

Media Development Foundation of Georgia (NED, USAID, State Department)

Myth Detector

Radio Free Europe/Radio Liberty (USAGM)

Reid Standish

Center for European Policy Analysis (NED, State Department)

Anders Ostlund, Alina Polyakova

EurasiaNet (NED)

Peter Leonard

Atlantic Council (NATO)

Terrell Jermaine Starr

もしTwitterが独自の「国家と連携するメディア」ポリシーを一貫して適用していれば、これらのユーザーはこのようなリストに含まれないだろう。実際、Twitterはこれらのアカウントの影響力を積極的に低下させるだろう。

世界的なプロパガンダ・ネットワーク

NYT CIAが構築した世界的なプロパガンダ・ネットワーク。ニューヨーク・タイムズ(1977/12/26)が1977年に言えて、2023年に言えないことがある。

米国政府は現在、より露骨に国家の武器として機能する別のメディア組織に資金を提供しているが、彼らのTwitterアカウントに「国家と連携したメディア」というラベルが貼られているものはない。これらの報道機関は、冷戦時代にアメリカの視点を世界中に広めるために設置されたメディア装置の一部である。ニューヨークタイムズ(1977年12月26日)は、かつて彼らを「CIAが構築した世界的なプロパガンダネットワーク」の一部であると表現した。

このネットワークは、エージェンシー内で「プロパガンダ資産目録Propaganda Assets Inventory」として知られ、CBS、AP通信、ロイターなどの主要メディアの工作員から、CIAの「完全な」「編集コントロール」下にある小規模の報道機関に至るまで、かつて約500の個人と組織を包含していた。Radio Free Asia、Voice of America、Radio Free Europe/Radio Libertyはこのプロパガンダ作戦の先陣を切っていた。タイムズ紙は1977年に、このネットワークが「意図的に誤解を招いたり、まったくの虚偽であったりする」米国メディアの記事の流れをもたらしたと報じた。

米国政府はこれらの組織のいくつかを直接運営し続けている。これらの組織は現在、米国グローバルメディア局US Agency for Global Media(USAGM)の管理下にあり、2022年に8億1000万ドルを受け取った連邦機関である。この数字は2021年の予算から27%増加し、RTが2021年にロシアから受け取ったグローバル事業の金額の2倍以上である(RFE/RL、2021年8月25日)。

エージェンシーのウェブサイトに記載されている第一の「放送基準」は、”米国の広範な外交政策目的に合致していること “である。USAGMの構造には、表向きは編集の独立性を守る「ファイアウォール」があるが、この主要目標に違和感を持つ者を採用することはないだろう。Twitterが別の場所で定義した “財源によるコントロール “を米国政府はUSAGMに対して持っていることは確かだ。

USエージェンシー・フォー・グローバル・メディアの組織図

ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティー

Radio Free Europe/Radio Libertyのロゴ

RFE/RLは1億2600万ドルの予算で運営され、27の言語で3700万人の人々にサービスを提供している。その報道は、「Washington Post, the New York Times, AP, Reuters, USA Today, Politico, CNN, NBC, CBS and ABCなどのグローバルメディアで毎日引用されている」ことを自負している。

RFE/RLはウクライナでの活動を活発化させている。同ネットワークによれば、「ウクライナのメディアリーダーとして、頻繁に注目度の高いインタビューを行い、ウクライナのトップメディアで取り上げている」。USAGMの資料によると、この報道活動には「現地の報道局の広大なネットワークと広範なフリーランスのネットワーク」が含まれているそうです。RFE/RLの傘下にあるTwitterアカウントは、いずれも “国家と連携したメディア “というレッテルを貼られていない。これにはRFE/RLプレスルームとRFE/RLのペルシャ語サービス、Radio Fardaが含まれる。

ラジオ・フリー・アジア

Radio Free Asiaのロゴ

Radio Free Asiaは、主に東アジアの国々に焦点を当て、9つの言語で約6000万人にサービスを提供している。RFAは4760万ドルの予算で、”権威主義的な偽情報や誤った物語に対抗する “という使命を担っている。「米国が外交的、経済的に重要な問題で世界のパートナーとの再協力を目指すなか、RFAは「中国の偽情報の巨大な影響力と戦う必要がある」とUSAGMは述べている。

RFAのメインアカウントには「国家と連携するメディア」のラベルはなく、RFA UyghurRFA BurmeseRFA KoreanRFA TibetanRFA VietnameseRFA Cantoneseのアカウントにもラベルはない。RFAの最大のチャンネルであるRFA Chineseには110万人のフォロワーがいるが、ラベルはない。

ボイス・オブ・アメリカ

Voice of Americaのロゴ

2億5700万ドルの予算を持つVoice of America(VoA)は、USAGMの最大の事業である。961人の従業員が、3億1180万人(うち中国4000万人、イラン1000万人)にサービスを提供している。このメディア・ネットワークの目標は、「アメリカの物語を伝える」ことと、ターゲットとなる人々の「アメリカのポリシーに対する理解を深める」ことである。

イランを対象とするVoA Farsiは、2019年、ある元幹部が「客観性も事実もない」「あからさまなプロパガンダ」を押し出していると述べている(Intercept, 2019年8月13日)。トランプの「最大限の圧力」キャンペーンの最中、この放送局は ” トランプ一筋、トランプ以外の何者でもない ” となった。米国が支援するイランのテロ組織MEKを宣伝することに加え、同アウトレットは “ドナルド・トランプ大統領のイラン政策を支持しないと見なす人々に怒りをぶつける “ようになった。

170万人のフォロワーを持つVoAのTwitterメインアカウント、180万人のフォロワーを持つVoA Chineseアカウント、170万人のフォロワーを持つVoA Farsiアカウントのいずれも、「国家と連携したメディア」のラベルは付いていない。

キューバ放送局

Martiのロゴ

USAGMにはOffice of Cuba Broadcasting (OCB)があり、マイアミに拠点を置き、キューバの「自由と民主主義を促進する」ために年間1290万ドルを受け取って活動している。最近のUSAGMの報告書は、OCBの「キューバの反体制運動に関する継続的でタイムリーかつ徹底的な報道」を指摘している。OCBのファクトシートによると、OCBが監督する主要ネットワークであるRadio Television Martiは、音声、ビデオ、デジタルコンテンツを通じて毎週キューバの人口の11%にサービスを提供している。同ネットワークのTwitterアカウントには、国家と連携しているというラベルは貼られていない。

Middle East Broadcasting Networks

MBNのロゴ

USAGMはMiddle East Broadcasting Networks(MBN)も統括している。このネットワークはバージニア州スプリングフィールドに本社を置き、中東/北アフリカ諸国の「考え、意見、展望のスペクトルを拡大する」ことを使命とするアラブ語のネットワークである。USAGMは、MBNが「この地域で他に類を見ないほどアメリカを代表する存在になる」ことを表明している。このネットワークは、1億890万ドルの予算で “完全に “賄われている。

同エージェンシーによると、MBNはMENA22カ国で3300万人以上の人々にサービスを提供している。イラクのクルド人居住地域以外では、MBNのメディアは人口の76%にサービスを提供しており、パレスチナでは、MBNのメディアは50%にサービスを提供している。MBNのネットワークには、Alhurra TV、Radio Sawa、MBN Digitalが含まれている。360万人のフォロワーをもつAlhurra TVのTwitterアカウントには、「国家と連携する」というレッテルは貼られていない。

これらの事業はいずれも、その全部または一部が政府から資金提供を受けているが、Twitterはこれらを国家と連携した事業とはみなしていない。したがって、これらのアカウントにはラベルが貼られず、プラットフォームがラベル付きアカウントに適用する制限も適用さ れない。もしTwitterが、米国政府から「全額出資」されているニュース編集室を「国家と連携している」と見なさないなら、「文脈」を提供するという目標は、米国のプロパガンダの機関には適用されないことは明らかであろう。この機能は、米国に敵対する国家に属する、国家の資金援助を受けた組織からユーザーを遠ざけるだけのものである。

ツイッターと支配者層(エスタブリッシュメント)

Twitterが西側の外交政策目標に固執するのは、何も新しいことではない。Twitterは、自社のポリシーにNATOへの支援が含まれていることを公然と発表しているほどだ。2021年、ロシアとウクライナの緊張が高まる中、Twitterは “国家と連携した活動 “として数十のロシア人アカウントを削除したことを発表した。Twitter(2021年2月23日)が削除の理由として挙げたのは、”NATO同盟とその安定性に対する信頼を損なっている “というものだった。米国の世界目標への支持は、他の地域にも及んでいる。

2019年、トランプがベネズエラに対するクーデター未遂と残忍な制裁体制を強化していたとき、Twitterは選挙で選ばれたベネズエラ政府を弱体化させようとする米国の努力を支援した。Twitterは、Nicolas Maduro大統領自身の英語アカウントを含む、ベネズエラ政府高官やエージェンシーのアカウントを停止した。同時に、Twitterは、ベネズエラの選挙で選ばれた行政を転覆させようとする、米国が支援する自称「政府」の関係者を「認証」した(Grayzone, 2019年8月24日)。

このプラットフォームの長年の問題は、米国のポリシーに対する批評家に対するルールの恣意的な適用である。同プラットフォームはしばしば、違反の疑いがあるユーザーを何の説明もなく停止または禁止している。

Middle East Eye。 Twitterの中東担当幹部は英軍の「サイコパス」兵士だった。Twitterの中東担当編集幹部は、同時に英軍に「戦術レベルでのナラティブ戦争に対抗する能力」を与える部隊で働いていた(Middle East Eye, 2019年9月30日)。

Twitterは、他のSiliconValleyの巨大企業と同様、国家安全保障国家と数多くのつながりを持っている。Middle East Eye(19年9月30日付)の調査により、Twitterのトップの1人は、英軍の心理戦部隊の1つである第77旅団にも所属していたことが判明した。Twitterで中東・北アフリカ地域の編集トップを務めるGordon MacMillanは、Twitter在籍中の2015年に英国の「情報戦」部隊に入隊していた。ある英国の将軍はMEEに、この部隊は “戦術レベルでナラティブの戦争に対抗する能力 “を開発することに特化していると語った。この話は、米国と英国の報道機関ではほぼ完全に黙殺され(FAIR.org、2019年10月24日)、MacMillanは今もTwitterで働いている

Twitterは、軍需産業や米国政府から資金提供を受けているタカ派シンクタンク、Australian Strategic Policy Instituteとも提携し、コンテンツモデレーションポリシーを策定している。2020年、TwitterはASPIと密接に活動し、中国共産党に好意的であるとする17万以上のフォロワーの少ないアカウントを削除した。最近では、TwitterとASPIは、表向きは偽情報と誤報の撲滅を目的とした提携を発表している。

TwitterのStrategic Response Teamは、どのコンテンツを規制すべきかの判断を担当し、以前CIAとFBIの両方で活動していたJeff Carltonがその責任者だった。実際、MintPress News(2022年6月21日)は、Twitterに入社した元FBI捜査官が数年にわたり数十人いることを報じている。Elon Muskが「Twitter Files」と呼ばれる内部通信をコントロールリークしたことで、エージェンシーとプラットフォームの密接な関係に改めて注目が集まっている。

機密解除されたオーストラリア オーストラリアの研究者が暴露した大規模な反ロシアの「ボット軍団」。「ウクライナ/ロシア戦争の最初の週に、親ウクライナのハッシュタグbot活動が大量にあった 」「ハッシュタグ#IStandWithUkraineを使った約350万件のツイートが、その最初の週にbotによって送信された」と、Declassified Australia(2022年11月3日)は報じた。


Twitterはこれまで、「コンテンツモデレーションを決定する際に他の団体と調整する」ことを直接否定してきたが、最近の報道により、連邦情報機関、およびTwitterのコンテンツモデレーションポリシーの間に深いレベルでのつながりがあることが明らかになっている。Twitter Files “のパート6で、Matt Taibbiは、FBIは、プラットフォーム上のコンテンツにフラグを立て、Twitterの指導者と直接対話するために、80以上のエージェントを専門に抱えていると報じた。昨年、Interceptにリークされたメール(2022年10月31日)には、国土安全保障省(DHS)とTwitterが、選挙セキュリティに関する同省からのコンテンツテイクダウン要請のプロセスを確立していたことが紹介されている。

このプラットフォームは明らかにオンライン上の親ウクライナ感情の重要なハブとなっているが、その活動のすべてが有機的であるわけではない。実際、昨年発表されたある研究(Declassified Australia, 2022年11月3日)では、親ウクライナのボットの大群が発見された。オーストラリアの研究者が戦争に関する500万件以上のツイートを調査したところ、全体の90%が親ウクライナ派(#IStandWithUkraineのハッシュタグまたはそのバリエーションを使用して特定)であり、そのうちの最大80%がボットであると推定されたのである。これらのアカウントの正確な出所は不明だが、”親ウクライナ当局 “がスポンサーとなっていることは明らかだった。膨大な量のツイートが、戦争に関するオンライン感情の形成に役立ったことは間違いない。

ワシントンDCは、人々の感情を形成する上でTwitterが重要であることを理解しているようだ。マスクがTwitterの買収に乗り出したとき、ホワイトハウスは、マスクの “ロシア寄りの姿勢 “を理由に、マスクのビジネスベンチャーに対する国家安全保障上の審査を開始することさえ検討した。こうした懸念は、マスクとウクライナの高官との間で諍いが起きた後、マスクがスペースXのスターリンクシステムをウクライナで使用することを禁止する計画を立てたことに端を発している。また、マスクがロシアとウクライナの間の潜在的な和平提案の概要をツイート(2022年10月3日)した後にも、懸念が生じた。この提案は、平和よりもエスカレーションが支配的なアメリカのエリート界隈では、軽蔑と衝撃をもって迎えられた(FAIR.org、2022年3月22日)。

マスクと国家安全保障国家

ミントプレス イーロン・マスクは反逆のアウトサイダーではない──彼は国防総省の巨大な請負業者である。Alan MacLeod (MintPress, 2022年5月31日)。イーロン・マスクは「強力で凝り固まったエリートを脅かす存在ではなく、彼らの一人である」。

しかし、ウクライナ戦争に関するマスクのホットな発言は、マスクの反エスタブリッシュメントの善意の証明として受け取られるべきではない。イーロン・マスク自身は、体制側のアウトサイダーとは程遠く、軍産複合体の主要人物であり、シリコンバレーの巨人が軍事・情報戦争に徹底的に巻き込まれるという長い伝統を象徴する存在である。

マスクのロケット会社スペースXは、米国の国家安全保障国家から数十億ドルを得ている主要な軍事請負企業である。スペースX社は、アメリカの無人機戦争を支援するためにGPSテクノロジーを軌道に打ち上げる契約を結んでいる。また、国防総省はミサイル防衛衛星の製造も同社と契約している。スペースXはさらに、空軍、宇宙防衛局、国家偵察機構から契約を獲得し、CIAやNSAなどの情報機関が使用するスパイ衛星を打ち上げている(MintPress、2022年5月31日)。

実際、SpaceXの存在は、軍や諜報機関との結びつきに負うところが大きい。同社の初期の支援者の1人は、ペンタゴンの国防高等研究計画局(DARPA)で、これは現代のインターネット時代を定義するテクノロジーの多くをもたらしたのと同じ軍事研究機関である。

当時CIAのベンチャーキャピタルであるIn-Q-Telの社長だったMike Griffinはマスクの側近で、SpaceXの構想に深く関与していた。GriffinはBush Jr.の下でNASAのトップになったとき、SpaceXがロケットを飛ばすことに成功する前に、3億9600万ドルの契約をMuskに授与している。これは後に、国際宇宙ステーションへの物資補給という10億ドルの契約へと膨らんだ。

ロシアによるウクライナ侵攻の後、マスクは、Starlinkのテクノロジーをウクライナ政府に提供し、同国のオンラインを維持することを申し出て、大きな話題となった。ロシアの攻撃で従来の軍事通信がほとんど機能しなくなったウクライナにとって、衛星を使ったインターネット・プロバイダーであるStarlinkは戦争に欠かせない存在となった。これにより、ウクライナ人は戦場の情報を素早く共有し、米国の支援部隊と接続して “テレメンテナンス “を行うことができるようになった。

マスクがこのテクノロジーを “寄付 “するという申し出は、多くの好意的な報道を得たが、後に、SpaceXの関係者が公表していたこととは異なり、米国政府がこのテクノロジーに対して数百万ドルを支払っていたことが、密かに明らかになったのである。Washington Post (2022年4月8日)によると、その金はUSAIDを通して流れた。USAIDは長い間、米国による政権交代活動の道具であり、秘密諜報活動の隠れ蓑となってきた組織である。

複数の報告書が、スターリンクのテクノロジーを戦争におけるゲームチェンジャーと呼んでいる。国防総省の電子戦担当部長は、スターリンクの能力を「目を見張るようなものだ」と賞賛している。統合参謀本部議長はマスクを名指しで称え、”民間と軍の協力とチームワークの組み合わせが、米国を宇宙で最も強力な国にしている “ことを象徴していると述べている。

マスクのスターリンクが関わっているのは、ウクライナだけではない。イランで女性への処遇をめぐる抗議運動が始まると、米国は、この地域における米国の政策の長年の目標である、イラン政府に対する内政上の不安定化圧力を高める好機と捉えた。イランがインターネットを取り締まる中、バイデン政権はマスクに、Starlinkを使って通信遮断を回避するための支援を要請した。その後、Starlinkの端末がイランに密輸されるようになった

マスクと安全保障国家の関係は非常に強く、ある関係者はBloomberg(10/20/22)に対し、「米国政府は通信が停止した場合にもStarlinkを使うだろう」とまで語り、国家レベルの高度な有事対策との関連性を示唆している。

ガバナンスの継続性?

Twitterをめぐる話題は、イーロン・マスクが言論の自由の支持者であるかどうかに集中しているが、軍事請負業者がこのような重要なプラットフォームを完全にコントロールすることの意味については、ほとんど焦点が当てられていない。マスクはCEOを辞任するかもしれないが(あるいは辞任しないかもしれないが)、このプラットフォームは彼の支配下にあり続けるだろう。

マスクのTwitterの下で多くのことが変わったが、米国政府系メディアのメガホンとしてのTwitterの役割は変わっていない。Twitterが自らのポリシーを誤用していることが伝播にどれほどの影響を及ぼしているかを正確に把握するには、大規模な調査研究が必要だろう。しかし、このデータがなくても、プラットフォームの設計は、ワシントンに非協力的な政府が資金提供するほとんどのメディアからユーザーを遠ざけ、ウクライナ戦争の場合には、アメリカ政府が資金提供するメディアへとユーザーを導く役割を果たしていることは明らかである。マスクが軍事請負業者であることは、米国の外交政策目標に異議を唱えることが同社にとって優先事項とはなりそうもないことを強調しているに過ぎない。

訳注 文中で言及されたtwitterの機能について、twitter社が日本語で提供している情報

twitterのトピック機能

Twitterにおける政府および国家当局関係メディアアカウントラベルについて

マイケル・クェット:デジタル・エコ社会主義――ビッグテックの力を断ち切る

イラスト:Zoran Svilar

マイケル・クェット
           
2022年5月31日

このエッセイは、ROAR誌とのコラボレーションで企画されたTNIのDigital Futuresシリーズ「テクノロジー、パワー、解放」の一部である。マイケル・クェットのエッセイの後半になる。前半はこちら

グローバルな不平等を根付かせるビッグ・テックの役割を、もはや無視することはできない。デジタル資本主義の力を抑制するために、私たちはエコソーシャリズムによるデジタル技術のルールを必要としている。

ここ数年、ビッグテックをいかに抑制するかという議論が主流となり、政治的な傾向の違いを超えて議論がなされるようになった。しかし、これまでのところ、こうした規制は、デジタル権力の資本主義、帝国主義、環境の諸次元に対処することにほとんど失敗し、これらが一体となってグローバルな不平等を深化させ、地球を崩壊に近づけている。私たちは、早急に、エコ社会主義のデジタル・エコシステムを構築することが必要であるが、しかし、それはどのようなもので、どのようにすれば目的に到達できるのだろうか。

このエッセイは、21世紀において社会主義経済への移行を可能にする反帝国主義、階級廃絶、修復[lreparation]、脱成長の原則を中心としたデジタル社会主義のアジェンダ――デジタル技術の取り決めDigital Tech Deal(DTD)の中核となるいくつかの要素に焦点を当てることを目的としている。DTDは、変革のための提案やスケールアップ可能な既存のモデルを活用し、資本主義のオルタナティブを求める他の運動、特に脱成長運動との統合を目指している。必要な変革の規模は極めて大きいが、社会主義的なデジタル技術の取り決めの概要を示すこの試みが、平等主義的なデジタルエコシステムとはどのようなものか、そしてそこに到達するためのステップについてさらなるブレインストーミングと議論を引き起スことを期待している。

デジタル植民地主義に関する最初のものは、こちらでご覧いただけます。

デジタル資本主義と反トラスト法の問題点

テック部門に対する進歩的な批判は、しばしば反トラスト、人権、労働者の福利を中心とした主流の資本主義の枠組みから導き出されている。北半球のエリートの学者、ジャーナリスト、シンクタンク、政策立案者によって策定され、資本主義、西洋帝国主義、経済成長の持続を前提とした米国・欧州中心主義の改革主義的アジェンダを推進するものである。

反トラスト改革主義が特に問題なのは、デジタル経済の問題は、デジタル資本主義そのものの問題ではなく、単に大企業の規模や「不公正な慣行」の問題だと想定している点である。反トラスト法は、19世紀後半に米国で、競争を促進し、独占企業(当時は「トラスト」と呼ばれていた)の横暴を抑制するために作られた法律である。現代のビッグテックの規模と影響力が、この法律に再び光をあてることになった。反トラスト法の擁護者たちは、大企業が消費者や労働者、中小企業を弱体化させるだけでなく、いかに民主主義の基盤そのものにさえ挑戦しているかを指摘している。

反トラスト法擁護派は、独占は理想的な資本主義システムを歪めるものであり、必要なのは誰もが競争できる公平な土俵だと主張する。しかし、競争は、競争する資源を持つ人々にとってのみ意味のあるものであって、1日7.40ドル以下で生活している世界人口の半分以上の人びとが、欧米の反トラスト法支持者が思い描く「競争市場」でどうやって「競争」していくのか、誰もこのことを問うおうとはしていない。こうした競争は、インターネットの大部分がボーダーレスであることを考えれば、低・中所得国にとってより一層困難なことだ。

ROARで発表した以前の論文で論じたように、より広いレベルでは、反トラスト法擁護者は、グローバル経済のデジタル化によって深化したグローバルに不平等な分業と財やサービスの交換を無視している。Google、Amazon、Meta、Apple、Microsoft、Netflix、Nvidia、Intel、AMD、その他多くの企業は、世界中で使用されている知的財産と計算手段を所有しているため、大きな存在となっている。反トラスト法の理論家たち、特にアメリカの理論家たちは、結局、アメリカ帝国とグローバル・サウスを組織的にこの構図から消し去ってしまう。

ヨーロッパの反トラスト法に関する取り組みも、これと同じである。ここでは、ビッグ・テックの悪弊を嘆く政策立案者が、ひそかに自国を技術大国として築こうとしている。英国は1兆ドル規模の自国の巨大企業を生み出すことを目指している。エマニュエル・マクロン大統領は、2025年までにフランスに少なくとも25社のいわゆる「ユニコーン」(評価額10億ドル以上の企業を指す)を誕生させるべく、ハイテク新興企業に50億ユーロを投じる予定だ。ドイツは、グローバルなAI大国とデジタル産業化における世界のリーダー(=市場の植民地開拓者)になるために30億ユーロを投じている。一方、オランダも “ユニコーン国家 “を目指している。そして2021年、広く称賛されている欧州連合の競争コミッショナー、マルグレーテ・ヴェスタガーMargrethe Vestagerは、欧州は独自の欧州テック・ジャイアントを構築する必要があると述べている。2030年に向けたEUのデジタル目標の一環として、ヴェスタガーは、”ヨーロッパのユニコーンの数を現在の122社から倍増させる “ことを目指すと述べている

ヨーロッパの政策立案者は、大企業であるハイテク企業に原則的に反対するのではなく、自分たちの取り分を拡大しようとするご都合主義者なのである。

その他、累進課税、パブリックオプションとしての新技術の開発、労働者保護など、改革的資本主義の施策が提案されているが、根本原因や核心的問題への対処にはまだ至っていない。進歩的なデジタル資本主義は、新自由主義より優れてはいる。しかし、それはナショナリズムを志向し、デジタル植民地主義を防ぐことはできず、私有財産、利潤、蓄積、成長へのコミットメントを保持するものである。

環境危機と技術

デジタル改革論者のもう一つの大きな欠点は、地球上の生命を脅かす気候変動と生態系破壊という2つの危機に関するものである。

環境危機は、成長を前提とした資本主義の枠組みでは解決できないことを示す証拠が増えている。この枠組みは、エネルギー使用とそれによる炭素排出を増加させるだけでなく、生態系に大きな負担をかけている。

UNEPは、気温上昇を1.5度以内に抑えるという目標を達成するためには、2020年から2030年の間に排出量を毎年7.6%ずつ減らしていかなければならないと見積もっている学者による評価では、持続可能な世界の資源採取の限界は年間約500億トンとされているが、現在、私たちは年間1000億トンを採取し、主に富める者と北半球が恩恵を受けている。

脱成長を早急に実現しなければならない。進歩的な人々が主張する資本主義のわずかばかりの改革は、依然として環境を破壊する。予防原則を適用すれば、永久に生態系の破局を招くリスクを冒す余裕はない。テック部門は、ここでは傍観者ではなく、今やこうしたトレンドの主要な推進者の一人だ。

最近のレポートによると、2019年には、デジタルテクノロジー(通信ネットワーク、データセンター、端末(パーソナルデバイス)、IoT(モノのインターネット)センサーと定義)は、温室効果ガス排出量の4パーセントに加担し、そのエネルギー使用量は年間9パーセント増加している。

また、この数値は大きいようにも見えるかもしれないが、これはデジタル部門によるエネルギー使用量を過少評価している可能性が高い。2022年の報告書によると、大手テック企業はバリューチェーン[訳注]全体の排出量削減には取り組んでいないことが判明した。Appleのような企業は、2030年までに「カーボンニュートラル」になると主張しているが、これは「現在、直営のみが含まれており、カーボンフットプリントの1.5パーセントという微々たるものに過ぎない」。

地球を過熱させることに加えて、コンゴ民主共和国、チリ、アルゼンチン、中国といった場所で、エレクトロニクスに使われるコバルト、ニッケル、リチウムといった鉱物の採掘は、しばしば生態系を破壊することになる。

さらに、デジタル企業は、持続不可能な採掘を支援する上で極めて重要な役割を担っている。ハイテク企業は、企業が化石燃料の新しい資源を探査・開発したり、工業的な農業のデジタル化支援している。デジタル資本主義のビジネスモデルは、環境危機の主要因である大量消費を促進する広告を中心に展開されている。一方、億万長者の経営者の多くは、北半球の平均的な消費者の何千倍もの二酸化炭素を排出しているのだ。

デジタル改革論者は、ビッグ・テックは二酸化炭素排出や資源の過剰利用から切り離すことができると仮定し、その結果、彼らは個々の企業の特定の活動や排出に注意を向けることになる。しかし、資源利用と成長を切り離す考え方は、資源利用とGDPの成長が歴史上密接に関係していることを指摘する学者たちによって疑問視されている。最近、研究者たちは、経済活動を知識集約型産業を含むサービス業にシフトしても、サービス業従事者の家計消費レベルが上昇するため、地球環境への影響を低減する可能性は限定的であることを明らかにした

まとめると、成長の限界はすべてを変えてしまう。もし資本主義が生態学的に持続不可能であるならば、デジタル政策はこの厳しい、挑戦的な現実に対応しなければならない。

デジタル社会主義とその構成要素

社会主義体制では、財産は共有される。生産手段は労働者協同組合を通じて労働者自身によって直接管理され、生産は交換、利潤、蓄積のためではなく、使用と必要性のために行われる。国家の役割については、社会主義者の間でも論争があり、統治と経済生産はできるだけ分散させるべきだと主張する人もいれば、より高度な国家計画を主張する人もいる。

これらと同じ原則、戦略、戦術がデジタル経済にも適用される。デジタル社会主義のシステムは、知的財産を段階的に廃止し、計算手段means of computationを社会化し、データとデジタル知能を民主化し、デジタル生態系の開発と維持をパブリックドメインのコミュニティの手に委ねることになるだろう。

社会主義的デジタル経済のための構成要素の多くは既に存在している。例えば、フリー・オープンソース・ソフトウェア(FOSS)とクリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、社会主義的生産様式のためのソフトウェアとライセンシングを提供する。James MuldoonがPlatform Socialismの中で述べているように、DECODE(DEcentralised Citizen-owned Data Ecosystems)のような都市プロジェクトは、コミュニティ活動向けのオープンソース公共利益ツールを提供しているが、ここでは、共有データのコントロールを保持しつつ市民が大気汚染のレベルからオンラインの請願や近隣のソーシャルネットワークまで、データにアクセスし貢献できるものだ。ロンドンのフードデリバリープラットフォーム「Wings」のようなプラットフォーム・コープは、労働者がオープンソースのプラットフォームを通じて労働力を組織化し、労働者自身が所有・コントロールする卓越した職場モデルを提供している。また、社会主義的なソーシャルメディアとして、共有プロトコルを用いて相互運用するソーシャルネットワークの集合体であるFediverseがあり、オンライン・ソーシャル・コミュニケーションの分散化を促進している。

しかし、これらの構成要素は、目標達成のためにはポリシーの変更を必要とするだろう。例えば、Fediverseのようなプロジェクトは、閉じたシステムと統合することはできないし、Facebookのような大規模な集中リソースと競争することもできない。したがって、大手ソーシャルメディアネットワークに相互運用、内部分散、知的財産(プロプライエタリなソフトウェアなど)の開放、強制広告(人々が「無料のサービス」と引き換えに受けとる広告)の廃止、国や民間企業ではなく個人やコミュニティがネットワークを所有・コントロールしコンテンツのモデレーションができるようデータホスティングへの助成を強制する一連のラディカルな政策変更が必要である。これによって、技術系大企業は事実上、その存在意義を失うことになる。

インフラの社会化は、強固なプライバシーコントロール、国家による監視の規制、監獄セキュリティ国家の後退とバランスをとる必要がある。現在、国家は、しばしば民間部門と連携して、デジタルテクノロジーを強制の手段として利用している。移民や移動中の人々は、カメラ、航空機、モーションセンサー、ドローン、ビデオ監視、バイオメトリクスなどを織り交ぜたテクノロジーによって厳しく監視されている。記録とセンサーのデータは、国家によって融合センターやリアルタイム犯罪センターに集中化され、コミュニティを監視、予測、コントロールするようになってきている。マージナル化され人種差別化されたコミュニティや活動家は、ハイテク監視国家によって不当に標的にされている。活動家はこれらの組織的暴力の機関を解体し、廃止するよう活動し、国家のこうした実践は禁止されるべきだ。

デジタル技術の取り決め

大きなハイテク企業、知的財産、および計算手段の私的所有権は、デジタル社会に深く埋め込まれ、一晩で消し去ることはできない。したがって、デジタル資本主義を社会主義モデルに置き換えるには、デジタル社会主義への計画的な移行が必要だ。

環境保護主義者たちは、グリーン経済への移行のアウトラインを描く新たな「取り決め」を提案している。米国のグリーン・ニューディールや欧州のグリーン・ディールのような改革派の提案は、最終的な成長、帝国主義、構造的不平等といった資本主義の危害を保持したまま、資本主義の枠組みの中で実施される。対照的に、レッド・ネイションRed Nationのレッド・ディールRed Deal、コチャバマバ協定Cochabamaba Agreement、南アフリカの気候正義憲章Climate Justice Charterのようなエコ社会主義モデルは、より優れた代替案を提供している。これらの提案は、成長の限界を認め、真に持続可能な経済への公正な移行に必要な平等主義的原則を組み込んでいる。

しかし、これらのレッドディールもグリーンディールも、現代の経済と環境の持続可能性と中心的な関連性があるにもかかわらず、デジタルエコシステムのための計画を組み込んでいない。一方、デジタル・ジャスティス運動は、脱成長の提案と、デジタル経済の評価をエコ社会主義の枠組みに統合する必要性をほぼ完全に無視している。環境正義とデジタル正義は密接に関係しており、この2つの運動はその目標を達成するために連携しなければならない。

そのために、私は反帝国主義、環境の持続可能性、疎外されたコミュニティのための社会正義、労働者の権利拡大、民主的コントロール、階級の廃絶という交差する価値を具体化するエコソーシャリストのデジタル技術の取り決めDigital Tech Dealを提案する。以下は、こうしたプログラムを導くための10の原則である。

1. デジタル経済が社会的、惑星的な境界線に収まるようにする。

私たちは、北半球の富裕国がすでに炭素予算の公正な取り分を超えて排出しているという現実に直面している。これは、富裕国に不釣り合いな利益をもたらしているビッグテック主導のデジタル経済にも当てはまる。したがって、デジタル経済が社会的・惑星規模の限界内に収まるようにすることが不可欠だ。私たちは、科学的な情報に基づき、使用できる材料の量と種類に制限を設け、どの材料資源(バイオマス、鉱物、化石エネルギーキャリア、金属鉱石など)をどの用途(新しい建物、道路、電子機器など)にどの程度、誰のために割くべきかを決定する必要があるのではないないか。北から南へ、富裕層から貧困層への再分配政策を義務付けるエコロジー債務を確立することができるはずだ。

2. 知的財産の段階的廃止

知的財産、特に著作権や特許は、知識、文化、アプリやサービスの機能を決定するコードに対するコントロールを企業に与え、企業がユーザーの関与を上限を規定し、イノベーションを私有化し、データとレントを引き出すことを可能にするものである。経済学者のディーン・ベイカーDean Bakerは、特許や著作権の独占がない「自由市場」で得られるものと比べて、知的財産のレントは消費者に年間さらに1兆ドルの損失を与えていると見積もっている。知的財産を廃止し、知識を共有するコモンズ・ベースのモデルを採用すれば、価格を下げ、すべての人に教育を提供し、富の再分配とグローバル・サウスへの賠償として機能する。

3. 物理的インフラの社会化

クラウドサーバー施設、無線電波塔、光ファイバーネットワーク、大洋横断海底ケーブルなどの物理的インフラは、それを所有する者に利益をもたらす。これらのサービスをコミュニティの手に委ねることができるコミュニティが運営するインターネットサービスプロバイダやワイヤレスメッシュネットワークの構想もある。海底ケーブルのようなインフラは、利潤のためではなく、公共の利益のためにコストをかけて建設・維持する国際コンソーシアムによって維持さできるだろう。

4. 私的な生産投資を、公的な補助金と生産に置き換える。

Dan HindのBritish Digital Cooperativeは、社会主義的な生産モデルが現在の状況下でどのように活動しうるかについての最も詳細な提案であろう。この計画では、”市民や多かれ少なかれまとまった集団が集まって政治に対する主張を確保できる場を、地方、地域、国レベルの政府を含む公共部門の機関が提供する “とされている。オープンデータ、透明性のあるアルゴリズム、オープンソースのソフトウェアやプラットフォームによって強化され、民主的な参加型計画によって実現されるこのような変革は、デジタルエコシステムと広範な経済への投資、開発、維持を促進することになる。

Hindは、これを一国内での公的オプションとして展開することを想定しており、民間セクターと競合することになるが、その代わりに、技術の完全な社会化のための予備的な基礎を提供することができる。さらに、私たちは、グローバル・サウスに賠償金としてインフラを提供するグローバルな正義の枠組みを含むように拡張することも可能だろう。これは、気候正義のイニシアチブが、グローバル・サウスが化石燃料をグリーンエネルギーに置き換えるのを助けるよう富裕国に圧力をかけるのと同じ方法だ。

5. インターネットの分散化

社会主義者たちは、富と権力と統治を労働者と地域社会の手に分散させることを長い間支持してきた。FreedomBoxのようなプロジェクトは、電子メール、カレンダー、チャットアプリ、ソーシャルネットワーキングなどのサービスのためのデータをまとめてホストしルーティングできる安価なパーソナルサーバーを動かすためのフリー・オープンソースソフトウェアを提供している。また、Solidのようなプロジェクトでは、各自がコントロールする「ポッド」内にデータをホスティングすることが可能です。アプリ・プロバイダーやソーシャル・メディア・ネットワーク、その他のサービスは、ユーザーが納得できる条件でデータにアクセスすることができ、ユーザーは自分のデータをコントロールすることができる。これらのモデルは、社会主義に基づいてインターネットを分散化するためにスケールアップすることができる。

6. プラットフォームの社会化

Uber、Amazon、Facebookなどのインターネット・プラットフォームは、そのプラットフォームのユーザーの間に立って私的仲介業者として、所有権とコントロールを集中させている。FediverseやLibreSocialのようなプロジェクトは、ソーシャルネットワーキングを越えて拡張できる可能性のある相互運用性の青写真を提供している。単純に相互運用できないサービスは社会化され、利潤や成長のためではなく、公共の利益のためにコストをかけて運営できるだろう。

7. デジタル・インテリジェンスとデータの社会化

データとそこから得られるデジタル・インテリジェンスは、経済的な富と権力の主要な源だ。データの社会化は、データの収集、保存、使用方法において、プライバシー、セキュリティ、透明性、民主的な意思決定といった価値観や慣行を埋め込むことになる。バルセロナやアムステルダムのプロジェクトDECODEなどのモデルをベースにすることができるだろう。

8. 強制的な広告とプラットフォームの消費主義を禁止する

デジタル広告は、一般大衆を操り、消費を刺激するように設計された企業のプロパガンダを絶え間なく押し出している。多くの「無料」サービスは広告によって提供され、まさにそれが地球を危険にさらす時に、さらに大量消費主義を刺激している。Google検索やAmazonのようなプラットフォームは、生態系の限界を無視して消費を最大化するために構築されている。強制的な広告の代わりに、製品やサービスに関する情報は、ディレクトリでホストされて自主的にアクセスすることができよう。

9. 軍、警察、刑務所、国家安全保障機構を、コミュニティ主導の安全・安心サービスへと置き換える

デジタルテクノロジーは、警察、軍隊、刑務所、諜報機関の力を増大させた。自律型兵器のような一部のテクノロジーは、暴力以外の実用性がないため、禁止されるべきだ。その他のAI駆動型テクノロジーは、間違いなく社会的に有益な用途を持つが、社会におけるその存在を制限するために保守的なアプローチをとり、厳しく規制する必要があるだろう。大規模な国家監視の抑制を推進する活動家は、これらの機関の標的となる人々に加えて、警察、刑務所、国家安全保障、軍国主義の廃止を推進する人々とも手を結ぶべきである。

10. デジタル・デバイドをなくす

デジタルデバイドとは、一般的にコンピュータデバイスやデータなどのデジタル資源への個人の不平等なアクセスを指すが、クラウドサーバー設備やハイテク研究施設などのデジタルインフラが裕福な国やその企業によって所有・支配されていることも含める必要がある。富の再分配の一形態として、課税と賠償のプロセスを通じて資本を再分配し、世界の貧困層に個人用デバイスとインターネット接続を補助し、クラウドインフラやハイテク研究施設などのインフラを購入できない人口に提供することができるだろう。

デジタル社会主義を実現する方法

抜本的な改革が必要だが、やるべきことと現在の状況には大きな隔たりがある。とはいえ、私たちにできること、そしてやらなければならない重要なステップがいくつかある。

まず、デジタル経済の新しい枠組みを共に創造するために、コミュニティ内外で意識を高め、教育を促し、意見交換することが不可欠だ。そのためには、デジタル資本主義や植民地主義に対する明確な批判が必要である。

知識の集中的な生産をそのままにしておくと、このような変化をもたらすことは困難であろう。北半球のエリート大学、メディア企業、シンクタンク、NGO、ビッグテックの研究者たちが、資本主義の修正に関する議論を支配し、アジェンダを設定し、こうした議論のパラメータを制限し、制約している。例えば、大学のランキング制度を廃止し、教室を民主化し、企業や慈善家、大規模な財団からの資金提供を停止するなど、彼らの力を奪うための措置が必要だ。南アフリカで最近起こった学生による#FeesMustFallという抗議運動や、イェール大学でのEndowment Justice Coalitionなどは、教育を脱植民地化する取り組みが必要となる運動の例を示している。

第二に、私たちはデジタル正義の運動を他の社会的、人種的、環境的正義の運動と結びつける必要がある。デジタル上の権利運動の活動家は、環境保護主義者、人種差別廃止活動家、食の正義の擁護者、フェミニストなどと一緒に活動する必要がある。例えば、草の根の移民は主導しているネットワークMijenteの#NoTechForIceキャンペーンは、米国における移民取り締まりのテクノロジーの供給に挑戦している。しかし、特に環境との関連で、まださらなる運動が必要だ。

第三に、私たちはビッグ・テックと米帝国主義に対する直接行動と情宣を強化する必要がある。グローバル・サウスにおけるクラウドセンターの開設(例:マレーシア)や、学校へのビッグテック・ソフトウェアの押しつけ(例:南アフリカ)など、一見すると難解なテーマであるために、多数の支持を動員することが困難な場合がある。特に、食料、水、住居、電気、保健医療、仕事へのアクセスを優先しなければならない南半球では難しいことでもある。しかし、インドにおけるフェイスブックのFree Basicsや、南アフリカのケープタウンにおける先住民族の聖地でのアマゾン本社建設といった開発に対する抵抗の成功は、市民による反対の可能性と潜在力を示している。

こうした活動家のエネルギーは、さらに進んで、ボイコット、投資撤収、制裁(BDS)の戦術を取り入れることができる。これは、反アパルトヘイト活動家が南アフリカのアパルトヘイト政府に機器を販売するコンピューター企業を標的にした戦術である。活動家は、今度は巨大なハイテク企業の存在をターゲットに、#BigTechBDS運動を構築することができるだろう。ボイコットによって、巨大ハイテク企業との公共部門の契約を取り消し、社会主義的な民衆の技術ソリューションに置き換えることもできるだろう。投資撤収キャンペーンは、最悪のハイテク企業から大学などの機関への投資を撤回させることも可能だ。そして活動家たちが、米国や中国、その他の国のハイテク企業に的を絞った制裁を適用するよう国家に圧力をかけることも可能となろう。

第四に、私たちは、新しいデジタル社会主義経済のための構成単位となりうる技術労働者協同組合を構築する活動が必要だ。ビッグテックを組合化する運動があり、これはハイテク労働者を保護するのに役立つだろう。しかし、ビッグテックの組合化は、東インド会社や兵器メーカーのRaytheon、Goldman Sachs あるいは Shellの組合化のようなもので、社会正義ではなく、穏やかな改革しか実現しない可能性がある。南アフリカの反アパルトヘイト活動家が、アパルトヘイト下の南アフリカでアメリカ企業がビジネスから利益を出し続けることを可能にした「サリバン原則」――企業の社会的責任に関する一連のルールと改革――やその他の穏やかな改革を拒否し、アパルトヘイト体制を窒息させることを優先したように、私たちはビッグテックとデジタル資本主義のシステムを完全に廃止することを目指していかなければならない。そして、そのためには、改革不可能なものを改革するのではなく、業界の公正な移行を実現するために、代替案を作り、技術労働者との関係を持つことが必要だ。

最後に、あらゆる階層の人々が、デジタル技術の取り決めを構成する具体的なプランを開発するために、技術専門家と協働で活動する必要がある。これは、現在の環境に対するグリーン「ディール」と同じくらい真剣に取り組む必要がある。デジタル技術の取り決めによって、広告業界など一部の労働者は職を失うことになるので、これらの業界で働く労働者のための公正な移行が必要である。労働者、科学者、エンジニア、社会学者、弁護士、教育者、活動家、そして一般市民は、このような移行を実現するための方法を共同でブレーンストーミングすることができるだろう。

今日、進歩的資本主義は、ビッグ・テックの台頭に対する最も現実的な解決策であると広く考えられている。しかし、彼らは同じ進歩主義者でありながら、資本主義の構造的危害、米国主導のハイテク植民地化、脱成長の必要性を認識していない。私たちは、自分たちの家を暖かく保つために壁を焼き払うことはできない。唯一の現実的な解決策は、唯一無二の家を破壊しないために必要なことをすることであり、それはデジタル経済を統合することでなければならない。デジタル技術の取り決めによって実現されるデジタル社会主義は、私たちが抜本的な改革を行うための短い時間枠の中で最良の希望を与えてくれるが、議論し、討論し、構築することが必要だろう。この記事が、読者のみなさんたちに、この方向に向かって協力的に構築するよう促すことができれば幸いである。

著者について
ロードス大学で社会学の博士号を取得。エール大学ロースクール情報社会プロジェクトを客員研究員として務める。著書に「デジタル植民地主義」(原題:Digital colonialism)がある。また、VICE News、The Intercept、The New York Times、Al Jazeera、Counterpunchで記事を発表している。

TwitterでMichealを見つける。マイケル・クウェット(@Michael_Kwet)。

訳注:バリューチェーン:企業の競争優位性を高めるための考え方で、主活動の原材料の調達、製造、販売、保守などと、支援活動にあたる人事や技術開発などの間接部門の各機能単位が生み出す価値を分析して、それを最大化するための戦略を検討する枠組み。価値連鎖と邦訳される。(日本大百科全書)

【経営・企業】原材料の調達,製造,販売などの各事業が連鎖して,それぞれが生み出す利益を自社内で取り込むやり方.(imidas)

私たちはハイブリッド戦争の渦中にいる――防衛省の世論誘導から戦争放棄概念の拡張を考える

戦争に前のめりになる「世論」

防衛省がAIを用いた世論操作の研究に着手したと共同通信など各紙が報道し、かなりの注目を浴びた。この研究についてのメディアの論調は大方が批判的だと感じたが、他方で、防衛予算の増額・増税、敵基地攻撃能力保持については、世論調査をみる限り、過半数が賛成している。(NHK毎日時事日経サンケイ) 内閣の支持率低迷のなかでの強引な政策にもかかわらず、また、なおかつ与党自民党内部からも批判があるにもかかわらず、世論の方がむしろ軍拡に前のめりなのではないか。与党内部の意見の対立は、基本的に日本の軍事力強化を肯定した上でのコップのなかの嵐であって、実際には、防衛予算増額に反対でもなければ、東アジアの軍事的な緊張を外交的に回避することに熱心なわけでもない。

私は、政権与党や右翼野党よりも、世論が敵基地攻撃含めて戦争を肯定する傾向を強めているのはなぜなのかに関心がある。政府とメディアによる国際情勢への不安感情の煽りが効果を発揮しているだけではなく、ウクライナへのロシアの侵略に対して、反戦平和運動内部にある、自衛のための武力行使の是非に関する議論の対立も影響していると推測している。私はいかなる場合であれ武器をとるな、という立場だが、9条改憲に反対する人達のなかでも、私のようなスタンスには批判もあり、専守防衛や自衛のための戦力保持を肯定する人達も少なくないのでは、と思う。こうした状況のなかで、鉄砲の弾が飛び交うような話でもない自衛隊による世論誘導の話題は、ややもすれば、問題ではあっても、核兵器やミサイルや戦車ほどには問題ではない、とみなされかねないと危惧している。実際は、違う。世論誘導という自衛隊の行動は、それ自体が戦争の一部をなしている、というのが現代の戦争である。戦争放棄を主張するということは、こうした一見すると戦争とは思えない事態を明確に否定し、こうしたことが起きないような歯止めをかける、ということも含まれるべきだと思う。

防衛省の次年度概算要求にすでに盛り込まれている

信濃毎日の社説では、世論誘導の研究を来年度予算案に必要経費を盛り、国家安全保障戦略の改定版にも明記する方針を固めていると書いている。防衛省の次年度概算要求書では「重要政策推進枠」としてサイバー領域における能力強化に8,073,618千円の要求が計上されている。AIに関しては『我が国の防衛と予算、令和5年度概算要求の概要』のなかに以下のような記述がある。

「指揮統制・情報関連機能
わが国周辺における軍事動向等を常時継続的に情報収集するとともに、ウクライナ侵略でも見られたような認知領域を含む情報戦等にも対応できるよう情報機能を抜本的に強化し、隙のない情報収集態勢を構築する必要。迅速・確実な指揮統制を行うためには、抗たん性のあるネットワークにより、リアルタイムに情報共有を行う能力が必要。
こうした分野におけるAIの導入・拡大を推進」

https://www.mod.go.jp/j/yosan/yosan_gaiyo/2023/yosan_20220831.pdf

上で「ウクライナ侵略でも見られたような認知領域を含む情報戦等にも対応」とある記述は、偽旗作戦と呼ばれるような情報操作、世論操作を念頭に置いていると解釈できる。そして情報機能の強化のために「AIを活用した公開情報の自動収集・分析機能の整備」とも書かれている。また民間人材の活用にも言及し「AI適用システムの構築等への実務指導を実施」と述べられている。民間とは日本の場合は、AIの商業利用におけるノウハウを軍事転用することが含意されるが、そうなればいわゆるステルスマーケティングなどメディアが報じた自衛隊による世論誘導技術が含まれて当然と思う。また、サイバー政策の企画立案体制等を強化するため、「サイバー企画課(仮称)」及び情報保証・事案対処を担当する「大臣官房参事官」を新設するとしている。

法的規制は容易ではないかもしれない:反戦平和運動のサイバー領域での取り組みが必須と思う

信濃毎日も社説で批判してように、政府が率先して虚偽の情報を拡散させたり、逆に、言論統制で自由な言論を抑圧するなど、世論誘導の軍事的な展開の危険性は問題だらけだが、政府側が言うように、民間資本がステルスマーケティングなどとして展開している手法であって、違法性はない、という主張に反論するのは、実はかなりやっかいかもしれない。倫理的に政府による世論誘導は認めるべきではない、という議論は立てられても、違法性や犯罪とみなすことは、戦前によくあった意図的な誤報や流言蜚語を流すようなことでもない限り、反論は容易ではない。政府が広報として政府の政策や主張を述べることを通じて、世論は常に誘導されている。この誘導技術をAIを用いてより洗練されたものにしようということであると解釈すると、現在の日本の法制度の枠組を前提として、防衛省の世論誘導技術の導入を効果的に阻止できる仕組みは果たしてあるのか。だからこそ、こうした行為を自衛隊が主体となって実施する場合、それが「戦争」概念に含まれる行為だという戦争についての新たな定義を提起しておく必要がある。言い換えれば、自衛隊がAIやサイバー領域で行動すること自体を違法とする枠組が必要だということだ。

しかし、法的な枠組が全くないともいえない。ありうるとすれば、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律あたりかもしれないが、この法律は商取引を前提としたプラットフォーマーへの規制だ。こうしたプラットーマーに対する規制を政府の世論誘導や軍事安全保障の目的での不透明な世論誘導をも対象にするように拡大することは容易ではないとも思う。

今回のような防衛省の研究開発は、法制度上も、反戦平和運動や議会内の左派野党の問題意識と運動の取り組みという対抗軸の弱さからみても、野放し状態だといっていい。対抗運動による弁証法が機能していないのだ。

これまでの防衛省のAIへの関わり:ヒューマン・デジタル・ツイン

ターゲティング広告など企業の消費者誘導技術や、その選挙などへの転用といった、これまで繰り返し批判されてきたAIについての疑問(たとえばEFF「マジックミラーの裏側で」参照)があるにもかかわらず、こうした批判を自衛隊の世論操作技術研究はあきらかに無視している。

この報道があったあとで、岸田は、この報道を否定する見解を出したことが報じられた。 「岸田総理は、「ご指摘の報道の内容は、全くの事実誤認であり、政府として、国内世論を特定の方向に誘導するような取組を行うことは、あり得ません」と文書で回答」 とテレ朝 は報じている。しかし、上述の概算要求をみても、この否定は、それこそ意図的な官邸発のフェイクの疑いが拭えない。

概算要求の他に、防衛省のAIへの取り組みについては、すでに今年4月に イノベーション政策強化推進のための有識者会議「AI戦略」(AI戦略実行会議)第9回資料 として防衛省は「防衛省におけるAIに関する取組」という資料を提出している。 このなかで、「AI技術がゲームチェンジャーになり得る」という認識を示し、また「AIによる利活⽤の基礎となるデジタル・ツインの構築」という項目がある。曲者はこの「デジタルツイン」という一般には聞き慣れない言葉にある。デジタル・ツインとは、「現実世界で得られたデータに基づいて、デジタル空間で同様の環境を再現・シミュレーションし、得られた結果を現実世界にフィードバックする技術である。」(NTTdata経営研究所、山崎 和行)と説明されるものだ。現実空間とそっくりな仮想空間を構築して、現実世界を操作するような技術をいう。上の防衛省の資料のなかに「ヒューマン・デジタル・ツイン」という概念が示され「⾏動・神経系のデータと神経科学的知⾒に基づいてヒトのデジタル・ツ
インを構築し、教育訓練や診断治療への応⽤のための研究開発を推進する」とも書かれている。前述の山崎のエッセイによれば、ヒューマン・デジタル・ツインとは「人間の身体的特徴や、価値観・嗜好・パーソナリティなどの内面的な要素を再現するデジタルツイン」のことであり、「実際の人間の行動や意思決定をシミュレーション可能なヒューマン・デジタルツインが実現すれば、産業分野でのデジタルツインのようにビジネスに大きな変革を与える」と指摘している。こうした分野を軍事安全保障に応用しようというのが先の防衛省の資料である。ビッグデータを用いた行動解析や予測に基く世論操作技術そのものであり、防衛省としては、こうした研究は既に既定の事実になっている。もし私のこうした理解が正しければ、岸田の否定は意図的に虚偽の情報を流してことになる。

海外でのAIの軍事利用批判

AIの軍事利用の規制を求める国際的な運動はあるものの(たとえばこれとかこれ) EU域内市民への世論調査でも政府の国家安全保障のためのAI利用への危惧が金融機関での利用に次いで二番目に大きくなっている。(ECNLの調査)他方日本では反戦平和運動のなかでのAIやサイバーへの関心が極めて薄いために、取り組みが遅れているところを突かれた印象がある。

AIが悪用される危険性についてはかなり前から指摘さていました。たとえば、2018年に発行さいれた14の団体、26名が執筆しているレポート、The Malicious Use of Artificial Intelligence: Forecasting, Prevention, and Mitigation (人工知能の悪意ある利用。予測、予防、緩和)では次のように指摘されている。

「政治的な安全保障。監視(大量収集データの分析など)、説得(標的型プロパガンダの作成など)、騙し(動画の操作など)に関わる作業をAIで自動化することで、プライバシー侵害や社会的操作に関わる脅威が拡大する可能性がある。また、利用可能なデータに基づいて人間の行動、気分、信念を分析する能力の向上を利用した新しい攻撃も予想さ れる。これらの懸念は、権威主義的な国家において最も顕著に現れるが、民主主義国家が真実の公開討論を維持する能力も損なわれる可能性がある。」

https://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/hankanshi-info/knowledge-base/ecnl_new-poll-public-fears-over-government-use-artificial-intelligence_jp/

ここで危惧されていることがまさに今回露呈した防衛省によるAIを用いた世論誘導に当てはまるといえる。 (日本でも下記のような記事がずいぶん前に出ている。「 AIがフェイクニュース、自然なつぶやきで世論操作が可能に」 )以上のように、岸田が否定しているにもかかわらず実際には、世論誘導技術が防衛省で研究が進めらているのではないかという状況証拠は多くあるのだ。

防衛省の世論誘導研究は、あきらかに日本の世論を、軍隊が存在して当たり前という近代国家の定石に沿った価値観の上からの形成として構想されているに違いないと思う。自衛隊のアイデンティティ戦略としてみれば、まさに国民の総意によって自衛隊=人殺しができる集団への支持を獲得することが至上命題であり、改憲はそのための最後の仕上げでもあるといる。改憲のためには世論誘導は欠かせないハイブリッド戦争の一環をなすともいえる。

自民党「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」は偽旗作戦もフェイクも否定しない

自民党は今年4月に「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」を出した。そのなかに「戦い方の変化」という項目があり、サイバー領域にかなり重点を置いた記述になっている。ここで次のように書いていまる。

「今般のロシアによるウクライナ侵略においても指摘されるように、軍事・非軍事の境界を曖昧にした「ハイブリッド戦」が行われ、その一環としての「偽旗作戦」を含む偽情報の拡散による情報戦など、新たな「戦い方」は今、まさに顕在化している。」

https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/news/policy/203401_1.pdf

デマを拡散させることが新たな戦い方だと指摘し、こうした戦い方を否定していない。より具体的には「ハイブリッド戦」として次のように述べている。やや長いが、以下引用する。

「いわゆる「ハイブリッド戦」は、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にし、様々な手段を複合的に用いて領土拡大・対象国の内政のかく乱等の政策目的を追求する手法である。具体的には、国籍不明部隊を用いた秘密裏の作戦、サイバー攻撃による情報窃取や通信・重要インフラの妨害、さらには、インターネットやメディアを通じた偽情報の流布などによる世論や投票行動への影響工作を複合的に用いた手法と考えられる。このような手法に対しては、軍事面にとどまらない複雑な対応を求められる。 こうした「ハイブリッド戦」は、ロシアによる2014年のクリミア侵攻で広く認識され、本年のウクライナ侵略においてもロシアがその手法をとっていると指摘されている。このような情勢を踏まえ、「ハイブリッド戦」への対応に万全を期すため、サイバー分野や認知領域を含めた情報戦への対応能力を政府一体となって強化する。」

「情報戦への対応能力(戦略的コミュニケーションの強化を含む。) 本年のロシアによるウクライナへの侵略を踏まえれば、情報戦への備えは喫緊の課題である。情報戦での帰趨は、有事の際の国際世論、同盟国・同志国等からの支援の質と量、国民の士気等に大きくかかわる。日本政府が他国からの偽情報を見破り(ファクト・チェック)、戦略的コミュニケーションの観点から、迅速かつ正確な情報発信を国内外で行うこと等のために、情報戦に対応できる体制を政府内で速やかに構築し、地方自治体や民間企業とも連携しながら、情報戦への対応能力を強化する。 また、諸外国の経験・知見も取り入れながら、民間機関とも連携し、若年層も含めた国内外の人々にSNS等によって直接訴求できるように戦略的な対外発信機能を強化する。」

自民党の提言は、偽旗作戦も情報操作も戦争の一環とみなし否定するどころか、これをどのようにして軍事安全保障の戦略に組み込むか、という観点で論じられている。こうした自民党の動向を踏まえれば防衛省がAIを用いた世論誘導を画策していてもおかしくない。

ハイブリッド戦争と戦争放棄

もうひとつ重要なことは、ハイブリッド戦では、軍事と非軍事の境界が曖昧になるみている点だ。こうなると非軍事技術が軍事技術と不可分一体となって、非軍事領域が戦争の手段になり戦争のコンテクストのなかに包摂されてしまう。戦争の中核にあるのは、戦車や戦闘機、ミサイルなどであるとしても、それだけが軍事ではない、ということだ。ハイブリッド戦を念頭に置いたばあい、いわゆる自衛隊の武力とされる装備や兵力の動員だけを念頭に置いて、戦争反対の陣形を組むことでは全く不十分になる。バイブリッド戦は現代の総力戦であり、前線と銃後の区別などありえない。とりわけサイバー空間は、この混沌とした状況に嵌り込むことになる。こうした事態を念頭に置いて、戦争放棄とは、どのようなことなのかを具体的にイメージできなければならないし、憲法9条は、こうした事態において、今まで以上に更に形骸化する可能性がありうる。9条をある種の神頼み的に念じれば、平和な世界へと辿りつくのではという期待は、ますます理念としても成り立たなくなっている。これは、9条に期待をしてきた人達には非常に深刻な事態だということをぜひ理解してほしいと思う。私のように9条は、はじめから一度たりとも現実のものになったことがない絵に描いた餅にすぎない(だからこそ、戦争放棄は憲法や法をアテにしては実現できない)、と冷やかな態度をとってきた者にとってすら、とても危機的だと感じている。

世論操作の技術が民間の広告技術であっても、それが戦争の技術になりうると考えて対処することが、平和運動にとっても必要になっている。そのためには、私たちが日常生活で慣れ親しんでいる、ネットの環境に潜んでいる、私たちの実感では把えられない監視や意識操作の技術にもっと警戒心をもたなければならないと思う。実感や経験に依拠して、自分たちの判断の正しさを確信することはかなり危険なことになっている。パソコンやスマホはハイブリッド戦争における武器であり、知覚しえないプロセスを通じて私たちの情動を構築することを政府や軍隊がAIに期待している。しかし、台所の包丁のように、デジタルのコミュニケーションを人殺しや戦争に使うのではない使い方を自覚的に獲得すること、私たちが知らない間に戦争に加担させられないような感情動員(世論誘導)の罠から逃れる術を獲得することが必要になる。しかし、反戦平和運動は、なかなかそこまで取り組めていないのが現状だろう。

サイバー空間は私たちの日常生活でのコミュニケーションの場所だ。この場所が戦場になっている、ということを深刻にイメージできないといけないと思う。サイバー戦争の放棄とは、自衛隊や軍隊はサイバースペースから完全撤退すべきであり、サイバー部隊は解体すべきだ、ということだが、これは喫緊の課題だ。戦争や武力や威嚇、あるいは自衛の概念は従来の理解ではあまりにも狭すぎて、戦争を放棄するには不十分だと思う。サイバー空間も含めて、「戦争」の再定義が必要だ。そのための議論が必要だと思う。コミュニケーションは人を殺すためにあってはならないと強く思う。

「G7広島サミットを問う市民のつどい」ニュース
2022年12月12日

「G7広島サミットを問う市民のつどい」ニュース2022年12月12日

Table of Contents

  • 1. 12月17日にキックオフ集会:No War No G7 戦争と軍隊は最大の人権侵害・環境破壊だ
    • 1.1. 集会内容
      • 1.1.1. G7サミットとは何か?
      • 1.1.2. 各地から
      • 1.1.3. 広島から
      • 1.1.4. 5月行動提起
      • 1.1.5. オンラインでライブ配信します。
  • 2. 「つどい」への賛同を集めています。サミットはいらない!!の声を拡げましょう
  • 3. カンパのお願い
  • 4. サミットとは何なのか、なぜ反対なのか、なぜ広島なのか…
  • 5. 問い合わせ、連絡先

1. 12月17日にキックオフ集会:No War No G7 戦争と軍隊は最大の人権侵害・環境破壊だ

2023年5月に岸田政権は、G7首脳会合を広島で、大臣級会合を全国各地14ヶ所で開催します。私たちは、主要な核保有国が核武装への反省も軍縮の意志もないまま、広島に集まることに強い危機感を感じています。

G7は国際法上も何の正当性をもたない集まりです。G7はこれまでも世界各地で戦争や紛争の原因をつくりつづけ、グローバルな貧困や環境破壊に加担してきました。私たちは、こうした会合に、一切の決定を委ねるつもりはありません。

私たちは、来年5月のG7サミットに対抗する運動のキックオフ集会を以下のように広島で開催します。オンラインでの中継も予定しています。多くの皆さんの参加を呼びかけます。

■日時:12月17日(土)18時-20時
■場所:広島市まちづくり市民交流プラザ北棟6階
マルチメディアスタジオ (地図) http://www.cf.city.hiroshima.jp/m-plaza/kotsu.html
(袋町小学校の複合建物。電停「本通り」徒歩5分。電停「袋町」徒歩3分。

■カンパ:一口500円のカンパをお願いします。
地元の方には、できれば二口をお願いしたいのです。
来場できない方については、下記の「カンパのお願い」の郵便振替口座を利用してください。

1.1. 集会内容

1.1.1. G7サミットとは何か?

  • 「戦争、貧困、差別、環境破壊を招くG7――民主主義を殺すボス交の仕組み」●小倉利丸さん(JCA-NET)
  • 「G7サミットと共に人類は滅ぶのか それとも、すべての生き物が生き残れる道を選ぶのか!」●田中利幸さん(歴史家)(オンライン)

1.1.2. 各地から

  • 「北海道をエネルギー『植民地』にさせない」●七尾寿子さん(元G8洞爺湖サミットキャンプ実行委員会)(札幌・オンライン)
  • 「首都圏からG7を問う」●京極紀子さん(首都圏ネットワーク)(オンライン)
  • 「多国間安保の拠点となりつつある横須賀・厚木基地」●木元茂夫さん(「自衛隊は何をしているのか」編集委員会)(オンライン)
  • 「茨城に三度も来るな!やめろ、内務・安全担当大臣会合!」●加藤匡通さん(戦時下の現在を考える講座)(オンライン)
  • 「気候変動と途上国債務の被害はG7が賠償すべき」●稲垣 豊さん(ATTAC Japan 首都圏)
  • 「戦時下のG7外相会合を問う」●鵜飼 哲さん(一橋大学元教員)(長野・オンライン)
  • 「五輪・万博・G7、民衆不在のイベントはもうたくさん」●喜多幡佳秀さん(関西共同行動)
  • 「米国の原爆投下の責任を問う」●松村高夫さん(米国の原爆投下の責任を問う会、慶應大学名誉教授)(東京・オンライン)

1.1.3. 広島から

  • 西岡由紀夫さん(被爆二世、ピースリンク広島・呉・岩国世話人)
  • 溝田一成さん(ヒロシマ・エネルギー・環境研究室)

1.1.4. 5月行動提起

5月の広島サミットでの私たちの取り組みについて提起します。

1.1.5. オンラインでライブ配信します。

https://vimeo.com/event/2622621
下記の私たちのウエッブからも視聴できます。
ウエッブ
https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/

2. 「つどい」への賛同を集めています。サミットはいらない!!の声を拡げましょう

私たちは、5月に、「G7広島サミットを問う市民のつどい」を開催することを提案しています。
https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/

提案目次

  • G7サミットを広島で開催することの政治的目的は何なのか
  • G7、NATOとウクライナ侵略戦争の歴史的背景
  • 中国・ロシア封じ込めのためのNATOのインド太平洋進出計画と日本
  • G7広島サミット批判に向けて市民の力の結集を!

本文 https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/

短縮版 https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/yobikake-short/

英語 https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/proposal-for-a-citizens-rally-to-question-the-hiroshima-g7-summitin-may-2023/

ちらし(PDF) https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/wp-content/uploads/2022/10/%E5%91%BC%E3%81%B3%E3%81%8B%E3%81%91%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B7%E7%A2%BA%E5%AE%9Anog7_blog.pdf

賛同方法は下記をごらんください。 https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/sando_onegai/

12月11日現在で、賛同人は147名、団体賛同は33団体です。ぜひ多くの皆さんのサミットに反対の意思表示をお願いします。

3. カンパのお願い

私たちの活動は、有給の専従や事務所を構えることなく、集会における発言者も含めてボランティアベースを原則として、極力出費を抑えて活動する努力をしています。しかし、会場の借り上げや情宣など、避けられない出費があります。これらは、皆さんからのカンパで賄うことになります。カンパを是非お寄せください。カンパについては特に金額についての規定を設けません。皆さんの無理のない範囲でお願いします。

郵便振替口座 01320-6-7576

口座名義 「8・6つどい」

通信欄に「G7を問うカンパ」と明記してください。

4. サミットとは何なのか、なぜ反対なのか、なぜ広島なのか…

ブログに「ドキュメント」のコーナーを開設しました。

G7首脳会合だけでなく、G20などの様々な首脳会合や国際会議などへの批判、あるいは、これらの会合などで議論される議題に関連する諸問題に関する議論などを集めて提供しています。また、サミットは、広島だけでなく、全国各地でも開催されます。各地の動きや、過去のサミット反対運動の資料なども順次掲載する予定です。

5. 問い合わせ、連絡先

このメールニュースは、「つどい」実行委員会が発行しています。
問い合わせ、取材依頼などは下記までおねがいします。
info-nog7-hiroshima2023@proton.me
広島市中区堺町1-5-5-1001 〒730-0853
090-4740-4608(久野)

(Boston Review)デジタル植民地主義との闘い方

以下は、Boston Reviewに掲載されたトゥーサン・ノーティアスの記事の翻訳である。日本語による「デジタル植民地主義」への言及が最近目立つようになっている。たとえば、「技術革新がもたらしたデジタル植民地主義」は、以下で翻訳した記事でも言及されているFacebookなどによるアフリカなどグローバルサウスの囲い込みと先進国やビッグテックとの溝を紹介しつつも世界銀行による問題解決に期待しているような論調になっている。米国ビッグテックの一人勝ちのような現象を前に、「日本はこのままだとデジタル植民地に、迫り来る危機の「正体」」のように日本経済の危機感を全面に押し出してナショナリズムを喚起するような記事もある。植民地という概念に含意されている政治、歴史、文化、経済を横断する抑圧の人類史の文脈――ここには明確な資本主義否定の理論的な関心が含意されている――を踏まえた上で、そうだからこを「デジタル」における植民地主義は深刻な問題であると同時に、民衆によるグローバルな闘争の領域としても形成されつつある、ということを見ておくことが重要になる。そうだとすれば、果して世界銀行に期待しうるだろうか。別途書くつもりだが、世界銀行による貧困や格差へのグローバルな取り組みのなかに組みこまれているデジタルIDのグローバルサウスへの普及のためのインフラ整備といった事業には、かつての植民地主義にはないあらたな特徴も見出せる。ここに訳した記事は、先に訳したマイケル・クェットの論文とは違って、より戦略的に植民地主義と対抗する運動のありかたに焦点をあてている。(小倉利丸)

関連記事:マイケル・クェット:デジタル植民地主義の深刻な脅威

Image: oxinoxi / iStock


ビッグテックによるデータと利潤の追求が世界中に広がる中、グローバル・サウスの活動家たちは、より公正なデジタル社会の未来への道を指し示している。

トゥーサン・ノーティアス Toussaint Nothias

2022年11月14日
昨年1月6日は、親トランプ派の暴力的な暴徒が米国連邦議会議事堂を襲撃した日として歴史書に刻まれることになるだろう。しかし、ラテンアメリカ、アジア、アフリカに住む何百万人もの人々にとって、この日は全く異なるものをもたらした。それは、いつもと違うWhatsAppからの通知であった。

WhatsAppは世界で最も人気のあるメッセージングアプリで、20億人以上のユーザーを誇っている。Facebookは2014年にこのサービスを約220億ドルで買収したが、これは技術史上最大規模の買収であり、WhatsAppが世界的な成長でFacebook自身のMessengerを上回り始めた後だった。2016年までに、WhatsAppはグローバル・サウスに住む何億人ものユーザーにとって、インターネットコミュニケーションの主要な手段となった。

2009年に設立されたWhatsAppは、ユーザーの個人情報を絶対に売らないという約束で、Facebookの買収時にもその信条が繰り返された。しかし、昨年1月、WhatsAppは利用規約とプライバシーポリシーの更新を開始し、ユーザーに通知を出して、新しい規約に同意するように求めた。新ポリシーによると、WhatsAppはユーザーの電話番号、デバイス識別子、他のユーザーとのやり取り、支払いデータ、クッキー、IPアドレス、ブラウザーの詳細、モバイルネットワーク、タイムゾーン、言語などのユーザーデータを親会社と共有できることになった。実際には、WhatsAppとFacebook間のデータ共有は2016年に始まっていた。2021年の違いは、ユーザーがオプトアウトできなくなったことだ。新しいポリシーを受け入れられなければ、アプリの機能は低下し、使えなくなる。

WhatsAppの事例は、グローバル・サウス全域のコミュニティに浸透している、ビッグテックによる危害の一例だ。これは、独占的な市場での地位がいかにデータの抽出を促進し、人々は選択肢や説明責任に関する正式な仕組みをともなわずにプラットフォームに依存することになるかを示している。これらの問題は世界中で起きているが、その危害はグローバル・サウスではより深刻である。

オンライン偽情報の例を見てみよう。ミャンマーの活動家たちは、Facebookがロヒンギャに対する暴力を煽っているとして、何年も前からその役割を非難してきたが、最近のAmnesty Internationalの報告書で明らかになったように、こうした懸念は聞き入れられないでいる。一方、フィリピンでは、ロドリゴ・ドゥテルテの権威主義的な政府がソーシャルメディアを武器にした。2015年、ジャーナリストでノーベル賞受賞者のマリア・レッサと彼女の新聞社Rapplerは、基本的なオンラインサービスへの無料アクセスをフィリピン人に提供するため、Facebookと提携してInternet.orgイニシアチブを立ち上げた。しかし、アルゴリズムを駆使した大規模な偽情報の拡散を何年も目撃した後、レッサは2021年までに、テック業界で最も声高な一般市民の批判者の一人になっていた。ミャンマーとフィリピンでは、Facebookが「無料」アクセスの取り組みを積極的に推進したことで、オンライン上の偽情報の拡散が加速された。

グローバル・サウスにおけるこうした課題に対するテック企業の投資は、米国での取り組みとは比べものにならない。内部文書によると、Facebookは、米国はこのプラットフォームのユーザーの10%未満しかいないにもかかわらず、誤報に関する予算全体の84%を米国に割り当てている。案の定、Mozilla財団は最近、TikTok、Twitter、Meta(Facebookが今年ブランド名を変更したもの)が、大統領選挙の際にケニアでさまざまな地元の選挙法に違反したことを明らかにした。ついこの間も、NGOのGlobal Witnessは、2022年のブラジル選挙を前に、不正な選挙関連情報を含む広告を出稿することによって、Metaのポリシーをテストにかけた。その結果、同社の選挙広告ポリシーに真っ向から違反する広告がすべて承認さ れた。Global Witnessは、ミャンマー、エチオピア、ケニアでも同様のパターンを発見している。

テクノロジー企業はしばしば、技術者が「低リソース」と呼ぶ言語での誤報や不当な情報をキャッチするのは難しいと主張し、この問題を解決するために必要なのはより多くの言語データであると主張する。しかし、実際には、この問題の多くは、ヨーロッパ以外の地域に対する投資不足に起因している。ケニアの事例では、メタ社のシステムはスワヒリ語と英語の両方でヘイトスピーチを検出することができなかったのだが、これはデータ不足が原因であるという主張とは矛盾する。一方、ビッグテックのコンテンツモデレーターの多くはグローバル・サウスに配置され、その多くが劣悪な環境で活動している。

このような状況を憂えて、Sareeta Amrute, Nanjala Nyabola, Paola Ricaurte, Abeba Birhane, Michael Kwet, Renata Avilaら学者や活動家は、ビッグテックが世界に与える影響をデジタル植民地主義の一形態で特徴づけている。この見解では、主に米国を拠点とするハイテク企業は、多くの点でかつての植民地大国のように機能している、というのだ。米国を拠点とするハイテク企業は、拡張主義的なイデオロギーに基づき、世界規模で自社の経済的ニーズに合わせてデジタル・インフラを整備している。そして、世界中の低賃金で社会から疎外された労働者を搾取している。そして、地域社会に危害を加えながら、ほとんど説明責任を果たさず、実に驚異的な利益を引き出している。主に白人で、男性で、アメリカ人のソフトウェア・エンジニアからなる小さなグループによって設計された社会的慣習を制度化し、彼らが拡大しようとする社会の自己決定を損なう。そして、このすべてをいわゆる「文明化」の使命に結びつけた昔の植民地支配者のように、彼らは「進歩」「開発」「人々の結びつき」「善行」の名において、これらすべてを行うと主張している。

しかし、不当な力が存在する場所には、抵抗があるものだ。世界中の活動家は、デジタル植民地主義の台頭に対抗する独自のデジタル正義のビジョンを持って対応してきた。説明責任を求め、ポリシーや規制の変更を推し進め、新しいテクノロジーを開発し、これらの議論にさまざまな人々を巻き込むことから、グローバル・サウスにおけるデジタル上の権利コミュニティは、すべての人にとってより公正なデジタル社会の未来への道を指し示している。彼らは困難な闘いに直面しているが、すでに大きな成果を上げ、拡大する運動の触媒となり、変革のための強力な新戦略を開発している。その中から、特に3つの戦略について考えてみる。

戦略 1: 言葉を見つける

デジタル上の権利に関する議論は誰にとっても難解なものだが、米国内の関係者の影響力が非常に大きいため、世界の人口の4分の3が英語を話せず、これらの問題について話すための母国語の専門用語がないため、特に不透明なものとなっている。ナイロビ在住の作家で活動家のNanjala Nyabolaは、この課題を解決するために、彼女の「スワヒリ語のデジタル上の権利プロジェクト」を立ち上げた。単純な事実として、世界中の人々が自分たちのコミュニティで、自分たちの言葉でこれらの問題を議論することができなければ、デジタル政策に関する包括的で民主的なアジェンダは存在し得ないということなのだ。

Nyabolaは、ケニアの小説家Ngugi Wa Thiongoがアフリカの母国語で執筆するよう呼びかけた反植民地主義的な活動からヒントを得た。昨年から、Nyabolaは東アフリカの言語学者や活動家と協力し、デジタル上の権利やテクノロジーに関するキーワードにキスワヒリ語の翻訳を提供する活動を開始した。この共同作業の一環として、Nyabolaと彼女のチームは、キスワヒリ語で出版している地元や海外のメディアと協力し、テクノロジー問題の報道にこの語彙を採択するよう働きかけた。また、この地域の学校で配布され、図書館で販売されるフラッシュカードのセットも開発し、オンラインでも入手できるようにした。

このプロジェクトのパワーは、そのシンプルさ、共同作業という性質、そして簡単に再現できることにある。このビジョンの核心は、人々は自分たちの生活を形成しているシステムについて、文脈に応じた知識を得ることで力を得るべきであるということだ。もしグローバルなデジタル上の権利に関する政策提言活動が世界中の多くの人々にとって意味のあるものになるのであれば、このような辞書を数多く開発する必要がある。

戦略2:パブリック・オピニオンを獲得する

デジタル上の権利提言活動は、その根拠となる法律により、しばしば規制を変更し影響を与えることを目指す。この活動は、時に法律の専門家による技術的な作業に陥りがちだが、広く世論を形成することもまた、ポリシーを変える上で中心的な役割を果たす。2015年にインドの活動家が主導したネット中立性(インターネットサービスプロバイダは干渉や優遇措置なしに、すべてのウェブサイトやプログラムへのアクセスを許可すべきであるという原則)を求めるキャンペーンほど適切な例はないだろう。

Facebookは2013年にInternet.org(後にFree Basicsと改名)を立ち上げ、Facebookがコントロールするポータルを通じて、世界中のユーザーがデータ料金なしで選りすぐりのオンラインサービスにアクセスできるようにすることを目指していた。この提案は、グローバル展開とユーザー拡大というFacebookの積極的な戦略の中心をなすものだった。

偶然にも、2015年にインドでFree Basicsが導入されたとき、インドでは「ゼロレーティング」(オンラインサービスへのアクセスを「無料」で提供する慣行)に関する新たな議論が起きていた。当時、いくつかの通信事業者はゼロレーティングの導入に熱心だったが、デジタル上の権利活動家はこれをネット中立性の侵害と批判していた。ゼロレーティングの明確な例として、フリーベーシックスは攻撃や非難などを対象からそらす役割をになうことになった。地元の活動家、プログラマー、政策通は、Save the Internetというキャンペーンを立ち上げ、このプログラムに強く反対する。彼らのウェブサイトでは、人気コメディアンのグループ、All India Bakchodによるネット中立性に関する説明ビデオが紹介され、このビデオは350万ビューを記録し、大流行となった。活動家たちは1年近くにわたり、ネット中立性の解釈をめぐってFacebookと全国的かつ大々的な闘いを繰り広げた。彼らは、自己決定の価値、地元企業の保護、外国企業によるデータ抽出への抵抗などを力強く主張した。

このキャンペーンは、企業の大きな反発を受けた。活動家がデモ行進を行うと、Facebookは地元新聞に広告を掲載した。活動家がTwitterやYouTubeに投稿すると、Facebookは国中の看板広告を購入した。そして、Access NowやColor of Changeといったデジタル上の権利提言活動の国際的なネットワークから活動家が支援を受けると、Facebookはコンピュータを利用した偽の草の根運動キャンペーンを行い、インドの通信規制当局にFree Basicsの支持を表明するメッセージをあらかじめ記入したものを送るようユーザーに呼びかけた。(約1600万人のユーザーがこれに参加した) しかし、このような反対運動にもかかわらず、一般向けのキャンペーンは成功した。インドの規制当局は、ネットの中立性を維持し、ゼロレーティングを禁止し、Free Basicsを事実上インドから追い出すことを決定したのだ。

この勝利は、世界中のデジタル上の権利活動家の間で当然のことながら広く祝福さ れたが、それは同時に、永続的な挑戦の重要性を物語っている。インドで禁止されたにもかかわらず、Free Basicsは他の地域、特にアフリカ大陸で拡大を続け、2019年までに32カ国に達した。また、インドのキャンペーンは、貧困層や農村部の声を除外し、中小企業のためにネット中立性についての中産階級の見解を定着させたと主張する人もいる。とはいえ、このキャンペーンは、グローバルなデジタル上の権利提言活動の将来にとって重要な教訓を含んでいる。おそらく最も重要なことは、デジタル上の権利に関する政策の技術的な問題に対して広範な人々を動員することが、多国籍ハイテク企業の力を抑制する上で大きな役割を果たし得るということである。

戦略3:階級横断的かつ国境を越えた組織化

組合結成と組織化は、ビッグテック自体における変化と説明責任のための有望な手段としても浮上している。2018年、2万人を超えるGoogleの社員が、給与の不平等や同社のセクハラへの対応などに抗議して、ウォーキングアウトを行った。同年、マイクロソフトの社員は、同社の米国移民税関捜査局との業務提携に抗議した。2020年6月1日には、ドナルド・トランプによる扇動的な投稿に対して何もしないという同社の選択に反対するため、数百人のFacebook社員が就業拒否を行った。今日のハイテク企業の組織化は、ホワイトカラー本社の枠を超え、アップルストアで働く小売労働者やアマゾンの倉庫で働くピッカーや パッカーにまで及んでいる。このような組織化の次のフロンティアは、世界中の労働者を取り込むことだ。そして、誰が “テックワーカー “なのか、私たちの理解を広げなければならない。

Adrienne Williams、Milagros Miceli、Timnit Gebruは最近、人工知能の誇大広告の背後にある国境を越えた労働者のネットワーク、あるいは人類学者のMary Grayとコンピュータ科学者のSiddarth Suriがこの業界に蔓延する「ゴーストワーク」と呼ぶものに注目するよう呼びかけている。これにはコンテンツモデレーターだけでなく、データラベラー、配送ドライバー、あるいはチャットボットになりすました人などが含まれ、その多くはグローバル・サウスに住み、搾取的で不安定な条件で労働している。こうした不安定な労働者の抗議のコストは、シリコンバレーの高給取りのハイテク労働者よりもはるかに高い。Williams、Miceli、Gebruが、ハイテク企業の説明責任の将来は、低所得と高所得の従業員の間の横断的な組織化にあると主張するのは、まさにこのためである。

Daniel Motaungのケースを見てみよう。2019年、南アフリカ出身の大学を卒業したばかりの彼は、Facebookの下請け企業であるSamaのコンテンツモデレーターとして最初の仕事を引き受けた。彼はケニアに転勤し、秘密保持契約に署名し、その後、彼が校閲するコンテンツの種類が明らかにされた。1時間2.20ドルで、同僚の一人が「精神的拷問」と表現するほど、Motaungは絶え間なく流れるコンテンツにさらされていた。Motaungと彼の同僚の何人かが、より良い賃金と労働条件(メンタルヘルスサポートを含む)を求めて労働組合活動を行ったところ、彼らは脅迫され、Motaungは解雇された。

この特別な組合結成の努力は失敗に終わったが、Motaungの話は広く知られ、『Time』の表紙を飾った。彼は現在、メタ社とサマ社を不当労働行為と組合潰しで訴えている。グローバル・サウスにおけるコンテンツモデレータの非人間的な労働条件を勇敢に告発することで、Motaungは、技術的説明責任を求める現在の運動の一部となるべき労働者のカテゴリーに対して必要な注意を喚起したのである。彼の活動は、低賃金で働くハイテク労働者が侮れない存在であることを示している。また、明日の内部告発者や組織化された人々のための着地点を準備することを含め、ハイテク業界と外部とのパイプラインを変えることの重要性を示している。


これらの取り組みや他の多くの取り組みを通じて、グローバルなデジタル上の権利提言活動の未来が今まさに描かれようとしている。ある者はハイテク権力に抵抗し、ある者は代替策を開発する。しかし、その場しのぎの進歩にとどまらず、このような活動には持続的な資金調達、制度化、そして国際的な協力が必要だ。

デジタル上の権利提言活動の「グローバル」な側面は、当たり前のことと考えるのではなく、意識的かつ慎重に育成されなければならない。グローバルなデジタル上の権利コミュニティの最も重要なイベントであるRightsCon会議の最近の分析では、Rohan Groverは、セッションを主催する組織の37パーセントが米国を拠点とし、「グローバル」な範囲を主張する組織の49パーセントが米国で登録された非営利団体であることを発見した。現在のデジタル上の権利活動は、そのほとんどが欧米の資金による組織的な支援に依存しており、そこには企業による取り込みが潜んでいる。

しかし、すべての人にとってより公正なデジタルの未来への道筋は、すでに明らかになりつつある。グローバル・サウスで生まれた戦略の中核には、集団的な力の緊急性と必要性を示すビジョンがある。彼らは、企業内外から圧力をかける必要があること、ビッグテックの大都市といわゆる周辺地域から、政策立案者、弁護士、ジャーナリスト、組織者、そしてさまざまなハイテク労働者から圧力をかける必要があることを指摘している。そして何より、テクノロジーがすべての人に説明できるようにするために、なぜ人々によって主導される運動が必要なのかを、彼らは示しているのだ。

トゥーサン・ノーティアス(Toussaint Nothias
スタンフォード大学デジタル市民社会研究所のアソシエイト・ディレクター、アフリカ研究センターの客員教授。

(ラディカル・エルダーズ)私たちの “小綱領(ミニ・プログラム)”

長年社会運動や市民運動などに関わりながら高齢者となった世代にとって、ここに紹介する米国の運動は、ちょっとした問題提起として受けとめてもらえるのでは、と思う。ラディカル・エルダーズは、コロナ下で、1年半にわたる組織化、議論、計画の後、2022年3月26日に設立され、米国内の55歳以上の左翼運動活動家の集団だとその紹介文にある。私も含めて高齢者のアクティビスト(私はこう自称するにはかなり躊躇するが)は、つい、自分を主体としつつも、やはり次の世代への継承に腐心し、資本主義が高齢者に対して固有の矛盾や問題を生み出しているということについての当事者としての関わりについては、優先順位が下りがちかもしれない。しかし、COVID-19が今では、高齢者がもっぱらリスクを負う感染症になるなかで、若年層の重症化リスクが低減していると判断されるにつれて、政府の対応はますます不十分になっている。これは米国でも日本でも同じ状況だ。他方で、米国では、マスク着用へのイデオロギー的な反発もあって、高齢者が感染予防でマスクを着用しづらい環境があることについても危惧している。当然のことだが、資本主義が必要とする人間とは資本が利用できる<労働力>であるか、その可能性をもつ人びとであって、いかなる意味においてももはやその可能性をもたない人びとは文字通りの「コスト」でしかない。やっかいなことに、このコストでしかない人間にも選挙権があり人権があるために、完全には無視できない、ということだ。だから、<労働力>ではありえないか、そうであっても高齢者であるが故に買いたたかれる人びとが、制度への抵抗の意思を明確に示すことが重要になる。福祉や医療産業が、こうした人びとに市場を通じてサービスを供給するとしても、所得に応じてサービスは差別化され、貧困層はサービスから排除される。ラディカル・エルダーズは、医療・福祉領域での完全な無料化を主張している。しかし、以下にあるように、彼らは、これだけではなく、気候変動やグローバルな貧困、戦争への強い関心とともに、デジタルとリアル空間におけるアクセスの権利や高齢の受刑者の解放も要求している。(小倉利丸)

関連記事:ラディカル・エルダーズ」現在進行中のCovidの危機について

私たちの “小綱領(ミニ・プログラム)”
(ここをクリックすると、私たちのミニ・プログラムのPDFがプリントアウトできます(英文))

私たちは、米国とその植民地に住む年配者で、破綻した抑圧的な社会システムを、公正で安定した持続可能な社会に置き換えるための闘争に人生を捧げてきた者たちです。

私たちの経験は、それらの闘いが成功するためには、資本主義、植民地主義、帝国主義に明確に反対し、人種差別や白人至上主義、性差別や同性愛嫌悪、年齢差別や能力差別、組織的に排除または抑圧された人々の非人間的な扱いなど、それらの抑圧の実現形態を特に標的としなければならないことを教えています。だからこそ、私たちはこれらの抑圧された集団が直面している問題に細心の注意を払い、意識的にこれらの集団の中にリーダーシップを求めるのです。

私たちのプログラム、要求、計画は、高齢者が公正な社会のための闘いにおいて重要な役割を果たすという理解、そして私たちの闘いは、支配者が私たちが平和で快適な自然な生活を送る手段を否定する社会における生存のためのものだという信念から生じています。

また、私たちの闘いは、同じような生活を求めるこの社会のすべての人々の闘いに寄与するものであり、私たちは自分たちのためだけでなく、子どもや孫、そして将来の世代のためにも闘うのだということを理解しています。

この精神に基づき、私たちは次のことを確実にできる生活を要求します。

– 私たちは人類最後の世代ではありません。私たちの子どもや孫は、私たちが与えようと努力した人生を歩むことができます。

– 私たちの社会は以下のようであるべきでしょう…

  • 気候変動や水・空気の汚染に立ち向かう。
  • 世界の飢餓と疾病をなくすために活動する。
  • すべての化石燃料プロジェクトを終了し、再生可能なエネルギー経済へ移行する。
  • 米国の軍国主義的な外交政策をやめ、戦争、戦争煽動、国際的な威嚇のための莫大な予算をなくす。
  • すべての人々の権利を尊重する。

– 私たちは皆、生活できる連邦年金を保証される。

– 私たちは、プライバシーと家族や友人との接触を守り、私たちの尊厳を尊重し、私たちの安全を優先させる住居を保証される。

– 私たちは、完全に無料で利用できる医療、医薬品、健康維持、在宅医療、介護施設にアクセスすることができる。

– すべての税金は、人間の生命の質と保護を保証するために使われる。

– 私たちは、都市と地方、ローカルと長距離の効果的な公共交通の国家プログラムを利用することができる。

– 私たちは、あらゆるレベルの対面式およびデジタル式の教育を、自由かつ完全に利用することができる。

– 私たちは、フィルタリングされていない高速ブロードバンド・サービスを、自由かつ十分に利用することができる。

– 私たちは、すべての投票所と、すべての人が真に利用しやすく融通の利く投票手続きに、十分かつ簡単にアクセスすることができる。

– 現在投獄されているすべての高齢者を直ちに解放する。

私たちは、これらの点に同意するすべての人が、これらの点を支持し、あなたのコミュニティ内でこれを配布し、あなたの組織がこれらを公に支持するようにすることを求めます。

私たちはあなた方の過去と現在の一部であり、私たちの闘いはあなた方の未来の一部なのです。

Contact us

To contact us, please use the form or email us at:

info@radicalelders.net

12・17「G7広島サミットを問う市民のつどい」キックオフ集会

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇      12・17「G7広島サミットを問う市民のつどい」キックオフ集会

No War No G7 戦争と軍隊は最大の人権侵害・環境破壊だ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━      

2023年5月に岸田政権は、G7首脳会合を広島で、大臣級会合を全国各地14ヶ所で開催します。私たちは、主要な核保有国が核武装への反省も軍縮の意志もないまま、広島に集まることに強い危機感を感じています。

  G7は国際法上も何の正当性をもたない集まりです。G7はこれまでも世界各地で戦争や紛争の原因をつくりつづけ、グローバルな貧困や環境破壊に加担してきました。私たちは、こうした会合に、一切の決定を委ねるつもりはありません。

  私たちは、来年5月のG7サミットに対抗する運動のキックオフ集会を以下のように広島で開催します。オンラインでの中継も予定しています。多くの皆さんの参加を呼びかけます。

■日  時:12月17日(土)18時-20時
■場  所:広島市まちづくり市民交流プラザ北棟6階
      マルチメディアスタジオ

http://www.cf.city.hiroshima.jp/m-plaza/kotsu.html(地図)
      (袋町小学校の複合建物。電停「本通り」徒歩5分。電停「袋町」徒歩3分。

■カンパ :一口500円のカンパをお願いします。

地元の方には、できれば二口をお願いしたいのです。


      

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

司会 岡原美知子さん

◆G7サミットとは何か?

 ■「戦争、貧困、差別、環境破壊を招くG7――民主主義を殺すボス交の仕組み」        
 
  ●小倉利丸さん(JCA-NET)

 ■「G7サミットと共に人類は滅ぶのか それとも、すべての生き物が生き残れる道を選ぶのか!」

  ●田中利幸さん(歴史家)(オンライン)

◆各地から

 ■「北海道をエネルギー『植民地』にさせない」
  
  ●七尾寿子さん(元G8洞爺湖サミットキャンプ実行委員会)(札幌・オンライン) 

 ■「首都圏からG7を問う」
 
  ●京極紀子さん(首都圏ネットワーク)(オンライン)

 ■「多国間安保の拠点となりつつある横須賀・厚木基地」

  ●木元茂夫(「自衛隊は何をしているのか」編集委員会)(オンライン)

 ■「茨城に三度も来るな!やめろ、内務・安全担当大臣会合!」

  ●加藤匡通さん(戦時下の現在を考える講座)(オンライン)

 ■「気候変動と途上国債務の被害はG7が賠償すべき」

  ●稲垣 豊さん(ATTAC Japan 首都圏)

 ■「戦時下のG7外相会合を問う」

  ●鵜飼 哲さん(一橋大学元教員)(長野・オンライン)

 ■「五輪・万博・G7、民衆不在のイベントはもうたくさん」

  ●喜多幡佳秀さん(関西共同行動)

 ■「米国の原爆投下の責任を問う」

  ●松村高夫さん(米国の原爆投下の責任を問う会、慶應大学名誉教授)(東京・オンライン)

◆広島から

  ●西岡由紀夫さん(被爆二世、被爆教職員の会会員、ピースリンク広島・呉・岩国)

  ●溝田一成さん(ヒロシマ・エネルギー・環境研究室)

◆5月行動提起

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■呼びかけ人

田中利幸 (歴史家)
豊永恵三郎(被爆者)
土井桂子 (日本軍 「慰安婦」 問題解決ひろしまネットワーク)
藤井純子 (被爆二世、第九条の会ヒロシマ) 
上羽場隆弘(九条の会・三原) 
小武正教 (浄土真宗本願寺派 僧侶) 
永冨彌古 (呉 YWCA We Love9 条)
木村浩子 (呉 YWCA We Love9 条)
中峠由里 (呉 YWCA We Love9 条) 
新田秀樹 (ピースリンク広島・呉・岩国世話人)
西岡由紀夫(被爆二世、ピースリンク広島・呉・岩国世話人) 
実国義範 (人民の力協議会)
日南田成志(ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)・広島)
久野成章 (8・6ヒロシマ平和へのつどい)
岡原美知子
七尾寿子 (元G8洞爺湖サミットキャンプ実行委員会)
中北龍太郎(関西共同行動)
小倉利丸 (JCA-NET)

■オンラインでの視聴

https://vimeo.com/event/2622621
 下記の私たちのウエッブからも視聴できます。
 ウエッブ
 https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/

■問い合わせ

info-nog7-hiroshima2023@proton.me
 広島市中区堺町1-5-5-1001 〒730-0853 
 090-4740-4608(久野)

■「つどい」への個人・団体賛同を募集中

私たちの活動に是非賛同してください。
 賛同方法など詳しくはホームページをごらんください。
 https://www.jca.apc.org/no-g7-hiroshima/

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(参考)
G7サミット会合の場所と日程

●外務大臣会合            長野県・軽井沢町4月14日(金)~16日(土)
●気候・エネルギー・環境大臣会合   札幌市     4月15日(土)~16日(日) 
●労働雇用大臣会合          岡山県・倉敷市 4月22日(土)~23日(日)
●農業大臣会合            宮崎県・宮崎市 4月22日(土)~23日(日)
●デジタル・技術大臣会合       群馬県・高崎市 4月29日(土)~30日(日)
●財務大臣・中央銀行総裁会議     新潟県・新潟市 5月11日(木)~13日(土)
●科学技術大臣会合          仙台市     5月12日(金)~14日(日)
●教育大臣会合        富山市・金沢市 共催  5月12日(金)~15日(月)
●保健大臣会合            長崎県・長崎市 5月13日(土)~14日(日)
★G7首脳会合             広島市     5月19日(金)~21日(日)
 対抗アクションを                  5月13日(土)~14日(日)
●交通大臣会合            三重県・志摩市 6月16日(金)~18日(日)
●男女共同参画・女性活躍担当大臣会合 栃木県・日光市 6月24日(土)~25日(日)
●都市大臣会合            香川県・高松市 7月7日(金)~9日(日)
●内務・安全担当大臣会合       茨城県・水戸市 12月8日(金)~10日(日)

●貿易大臣会合            大阪府・堺市  不明

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

エジプト人の活動家、ブロガー、ソフトウェア開発者であるアラ・アブ・エル・ファッタさんを救え

JCA-NETのウェッブから転載します。

エジプトの活動家、ブロガーでソフトウェア開発者でもあるアラ・アブ・エル・ファッタAlaa Abd El-Fattahさんは、いわゆるアラブの春にエジプトで大きな活躍をした人ですが、2006年以降、「フェイクニュース拡散」、「国家の安全への毀損」、「ソーシャルメディアによる出版犯罪」、「テロリスト集団への所属」など様々な容疑によって繰り返し投獄されてきました。この間1日100カロリーしか摂取しないハンガーストライキを決行してきましたが、COP27がエジプトで開催されるのをきっかけに、死を覚悟しての水もとらないハンガーストライキを決行しています。
これまでも彼への支援は、JCA-NETが加盟しているAPCや多くのネットアクティビストの団体がとりくんできました。最近も米国のデモクライーナウPBSがアラさんの問題をとりあげるなど注目が集まっています。まだ日本では広く知られていません。ぜひ、アラさんへの関心をもっていただければと思います。以下、アラさんに関する三つの記事を紹介します。

・(AccessNow)COP27 を見据え、エジプトは手遅れになる前に、英国人エジプト人活動家アラさんを解放せよ!
・署名要請
・(APC) 英国人とエジプト人の政治犯、アラさん(Alaa Abdel Fattah)の釈放を求める団体が相次ぐ

日本からできることとしては、署名運動があります。
https://www.change.org/p/help-free-my-brother-before-it-s-too-late-jame…
日本語で署名が可能です。ぜひ下記の記事をお読みいただき、協力してください。(小倉利丸 JCA-NET理事)

COP27 を見据え、エジプトは手遅れになる前に、英国籍のエジプト人活動家アラさんを解放せよ!

https://www.accessnow.org/free-alaa/
エジプト人の活動家、ブロガー、ソフトウェア開発者であるアラ・アブ・エル・ファッタさんは、数ヶ月にわたるハンガーストライキの結果、衰弱した身体と、長年にわたる不当な扱いを受け、最後の紅茶を口にし、これまで彼を生かしてきた1日約100カロリーの食事を絶ち切りました。彼は今、カロリーゼロのストライキを行っている、と最近家族に書いています。2022年11月6日、エジプトのシャルムエルシェイクで開催される世界有数の気候変動サミット、COP27の開幕を前に、アラさんは水を飲むのを止めます。時間がない。アラさんはあと数日で解放されるか、世界が見守る中、COP27の期間中にエジプトの刑務所で死んでしまうかもしれない。イギリス外務省は、彼の命を救うためにすぐに介入しなければならない! #FreeAlaa #フリーアラア

“危機は気候変動の危険性を認識することにあるのではなく、私たちの生活を組織するための代替方法を想像することができないことにある。”
– 世界の重み:気候変動との戦いの枠組みについて、アラ・アブド・エル・ファタ

一方、この会議が、アブデル・ファタフ・エル・シシの権威主義的な政権が引き起こした人権侵害隠蔽するのではないか、という極めて妥当な懸念もあります。権利を尊重した気候変動対策を進めるには、オープンで包括的、かつ制限のない市民空間が必要であり、エジプト当局は会議の前にアラさんを含む全ての良心の囚人を釈放すべきです。

アクセス・ナウは、気候変動活動家および団体であるグレタ・トゥンベル気候行動ネットワーク・インターナショナル(CAN)グリーンピースを含む200近くの団体と500人以上の個人とともに、エジプト当局に対し、COP27の前にエジプト国内のジャーナリストと政治犯を解放するよう要請しています。

アラさんの健康状態は急速に悪化しており、脱脂粉乳やスプーン1杯の蜂蜜を紅茶に入れてしのいできました。彼は、自分の体という唯一の武器で闘っているの です。11月6日、アラさんは断水行動に出ます。

アラさんのハンガーストライキから200日目、妹のサナ・セイフさんがロンドンの外務省前で座り込みを始め、政府に弟の救出を求めました。また、60人以上の英国議員ジェームズ・クレバリー英国国務長官に対し、COP27の前にアラさんを解放するよう要請した。これだけの圧力にもかかわらず、アラさんはまだ英国の領事訪問を受けておらず、英国の弁護士とも連絡が取れず、彼と彼の家族が不当な拘束に対して起こした訴えを裁判官に調査してもらうよう、今も要求し続けています。

2000年代初頭から自国のテクノロジーと政治活動の中心人物であり、2010年代初頭のアラブ反乱の際には世界的な声望を集めたアラさんは、この10年の大半、エジプト当局から不法な投獄によって口封じされようとしてきました。

アラさんはあらゆる拷問や非人道的な扱いを受け、彼の友人や家族は嫌がらせや脅迫を受け、さらには自らも拘束されました。時計も本も運動もなく、出廷と面会のときだけ独房から出されるという、カイロの悪名高い最高セキュリティーのトラ刑務所内の小さな独房に閉じ込められ、裁判を待ってすでに2年以上をアラさんは過ごしています。最近、彼は新しいワディ・エル・ナトラン刑務所に移され、「何年ぶりかにマットレスで寝た」し、本や筆記用具を受け取り運動することも許されたが、当局は依然としてアラさんを標的にし、彼の基本的権利を否定しているので す。当局はアラさんを罰するだけでは不十分で、この活動家の周辺にいる人々を迫害し、彼と同じ監房にいる人々がラジオにアクセスすることを禁じています。アラさんの刑期は2027年1月3日に終了します。

私たちと一緒に、エジプトと英国外務省に対し、エジプトの刑務所に不当に拘束されている他の数千人の人権擁護者とともに、#FreeAlaaを要求してください。

エジプト当局はアラさんを沈黙に追い込もうとしていますが、私たちは彼の声を確実に届けることができます。あなたの国会議員に手紙を書き、彼の新しい本「You Have Not Yet Been Defeated」を購入し、バーチャル読書会は視聴・共有し、ソーシャルメディアで#FreeAlaaを使ってアラさんのビジョンについて会話することで、#FreeAlaaへの活動をサポートすることができます。

アラさんのストーリー

アラさんは、常に言論の自由の支持者でした。2006年、彼は平和的な抗議行動に参加したために投獄されました。2011年の1月25日革命の数ヵ月後、アラさんは投獄され軍事裁判を待っていたため、息子の誕生を見送ることを余儀なくされました。2013年、彼は裁判を受けることなく115日間を刑務所で過ごし、5年の刑期とさらに5年の保護観察期間が与えられるという結果に終わった。2019年、アラさんはフェイクニュースの拡散とテロ組織への加入の疑いで不当に再逮捕された。それ以来、アラさんはトラ刑務所の最高セキュリティ棟の中に閉じ込められています。2021年12月、この活動家はでっち上げの罪で5年の刑を言い渡されましたが、裁判を待つ間、刑務所にいた年月は刑期としてカウントされませんでした。2022年4月2日、不法な投獄、虐待、拷問を何年も受けた後、エジプトの活動家、ブロガー、ソフトウェア開発者のアラ・アブ・エル・ファッタは、ラマダンの初日に頭を剃り、ハンガーストライキを開始しました。数日後の4月11日、アラさんの家族は、母親を通じて彼が英国市民になったことを発表しました。


手遅れになる前に、弟を解放してください。

https://www.change.org/p/help-free-my-brother-before-it-s-too-late-jame…
モナ・セイフさんがこのキャンペーンを開始
私の兄、アラさん(Alaa Abd el-Fattah)のことを書きます。彼は、民主主義についての著作と、中東の民主的な未来についてのビジョンから、「世代の声」と呼ばれています。彼はもう8年も刑務所にいます。直近の判決は、エジプトの刑務所の状況についてFacebookに投稿したことを理由に5年間服役したもので、私たちは、すぐに彼を助け出さない限り、刑務所の中で死んでしまうのではないかと恐れているのです。

アラさんはエジプトに収監されていますが、イギリス市民です。私たちの母親は1956年にロンドンで生まれ、私たちの祖父母である両親は博士課程にいました。

私がこの署名を始めたのは、多くの人が要求すれば、英国はアラさんを帰国させることができると信じているからです。彼はアムネスティ・インターナショナルの良心の囚人であり、英国ペンの名誉会員であり、何十人もの英国の国会議員が彼の解放を要求しているのです。私たちはただ、英国政府が交渉において確固たる態度を示すことが必要なのです。

アラさんは拷問を受け、ひどい状態で拘束されてきました。何年もの間、彼は独房から出ることも、時刻を知ることも、外の世界に関する情報にアクセスすることも全く許されなかった。自分のアイデアのために投獄された作家にとって、これは残酷な拷問だった。

彼は10歳になる息子カレドの父親であり、人生のほとんどを失ってしまいました。

世界中の人々が彼の釈放を求めるキャンペーンを展開し、彼の状況は少し改善された。しかし、エジプト当局は、英国大使館員の面会を拒否している。

英国のリズ・トラス外相(当時)は6月27日、国会で “彼の解放を確保するために労働と活動 “を行っていると述べました。私たちと一緒に、彼女とジェームズ・クレバリー新外務大臣に、できる限りの労力を使って行動するようお願いしてください。アラさんは4月からハンガーストライキを続けており、私たちは毎日、彼の命の危険におびえています。

エジプトからフランス、アメリカ、カナダへと二重国籍者が解放された前例があるので、私たちはイギリス政府がアラさんを連れ戻すことができることを知っています。どれだけ多くの人が心配しているかを知ることです。

アラさんの労働と(まだ読んでいなければ、昨年、彼の全作品集が英語で出版されました。そして、あなたの助けによって、私たちはすぐにでも彼を解放し、自由にし、再び書くことができるのです。


英国籍のエジプト人の政治犯、アラさん(Alaa Abdel Fattah)の釈放を求める団体が相次ぐ

https://www.apc.org/en/pubs/organisations-call-release-british-egyptian…

掲載日:2022年5月26日
ページ最終更新日:2022年6月2日
2022年5月27日

英国エリザベス・トラス外務・英連邦・開発担当国務長官および英国外務省あて

英国系エジプト人の活動家、ブロガー、ソフトウェア開発者であるアラ・アブデル・ファッタさん(彼の活動を封じるためにエジプトで監禁されている)は、英国外務省が彼の保護のために直ちに介入しない限り、死の危険という非常に現実的なリスクに直面しています。この記事を書いている2022年5月27日現在、アラさんは投獄のひどい状況に抗議してハンガーストライキを始めて56日目に突入しています。彼の健康状態は急速かつ著しく悪化しています。

2022年5月12日、アラさんの家族から、アラさんが刑務所で身体的暴行を受けたとの報告がありました。2022年5月18日、国会議員10名と貴族院議員17名が、エリザベス・トラス国務長官と英国政府に対し、活動家の釈放を確保するために直ちに行動するよう要請しました。同日、アラさんは家族に知らせることなく、ワディ・エル・ナトルンの新しい刑務所施設に移送されました。2022年5月19日、アラさんの姉モナ・セイフは、移送後、弟が “何年ぶりかでマットレスの上で眠った “ことを確認しました。

現在、イギリスとエジプトの二重国籍者であるアラさんは、まだイギリスの領事訪問を受けておらず、彼と彼の家族が彼の拘束に関して提出した苦情を調査し、イギリスの弁護士と連絡を取るよう、裁判官に対してまだ求めているところである。我々、以下に署名した団体は、アラさんの解放と英国への安全な移送を確保することを確認した英国外務省に緊急に求めるとともに、以下のことを要請する。

エジプト政府との二国間外交チャンネルを通じてアラさんのケースを提起し、彼の即時解放を要求する。

アラさんの即時解放を求める公的な声明を発表すること。

アラさんが英国にいる彼の弁護士に自由にアクセスできるようにすること。

アラさんは、エジプトで政権を握るすべての政府の下で投獄または起訴されており、2011年以降、3000日以上を獄中で過ごしている。これまで「偽ニュースの拡散」、「国家の安全を損なう」、「ソーシャルメディアを使って出版犯罪を犯した」、「テロリスト集団に所属した」などの罪で判決を受け、何年にもわたって恣意的に拘束されてきたのです。

2021年9月、当局は裁判なしの禁固刑の法定期限である2年に達しても、アラさんの釈放を拒みました。この時点まで、アラさんはなぜ逮捕されたのか知らされていなかった。「検察は23カ月間、私の事件に関して何も問題視してきませんでした。そして23カ月後に、あるニュースをシェアしたことで訴えられていることがわかったのです」とアラさんは説明する。明白な公正な裁判と適正手続きの侵害にまみれた裁判で、2021年12月20日、アラさんは5年の禁固刑を言い渡された。人権派弁護士のモハメド・エル・バカーとブロガーのモハメド・”オキシジェン”・イブラヒムは、彼とともにそれぞれ4年の刑を言い渡された。アラさんが公判前に拘留されていた2年余りは、現在の5年の実刑判決には算入されていない。つまり、アラさんの実刑判決は2027年1月3日まで終わらないということだ。

先見の明のあるアラさんは、不正で抑圧的な諸国家に対して人々を団結させ、動員するためのテクノロジーの力をいち早く認識した。彼は一貫して、地域全体の技術者をつなぐための活動を続けていた。2011年のエジプトでの反乱の後、アラさんはエジプトのTwitterユーザーを集めて、当時「Tweet Nadwa」として知られていた、政治問題について議論し、直接参加できない人たちに最新情報を提供するツールとしてTwitterを使うことに成功した。アラさんの投獄は、反対意見を封じ込め、彼に触発された人々の意欲を失わせようとするものだ。

英国当局は4月にアラさんに市民権を与えたとき、他の市民と同じように彼の権利を守る責任を負った。アラさんの命と運命は危機に瀕しており、英国外務省は彼の命を救うために今すぐ行動を起こさなければならない。

署名者

Access Now

SMEX

ALQST for Human Rights

ARTICLE19

Association for Freedom of Thought and Expression (AFTE)

Association for Progressive Communications (APC)

Committee for Justice (CFJ)

Damj for Justice and Equality

Electronic Frontier Foundation

Forum Tunisien pour les Droits Économiques et Sociaux (FTDES)

Freedom House

Front Line Defenders

Fundación InternetBolivia.org

Global Voices

GreenNet

Gulf Centre for Human Rights

IFEX

Masaar – Technology and Law Community

Meedan

MENA Rights Group

PEN America

Project on Middle East Democracy (POMED)

Red Line for Gulf

Reporters Without Borders (RSF)

The Cairo Institute for Human Rights Studies (CIHRS)

The Coalition For Women In Journalism (CFWIJ)

The Freedom Initiative (FI)

2023年5月「G7広島サミットを問う市民のつどい」について

来年の5月に広島で先進7ヶ国首脳会合なるものが開かれる。この会合は、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、米国、英国、日本とEUの首脳が集まり、「首脳がトップダウンで物事を決める」(外務省)ための会合として、毎年持ち回りで開催される。来年は日本が議長国(1月から12月の1年間)となり、岸田は広島での開催を決定した。つまり、世界有数の核保有国が広島に集まり、中国、ロシア、朝鮮民主主義人民共和国の核武装を抑え込み(実際にはむしろ核武装を強化するだけだが)、自らの核抑止力の正当性を宣伝する場として、広島を利用しようというものだ。広島をめぐる文脈は単純ではない。日本の戦争責任・加害責任の問題を「ヒロシマ」によって忘却しがちな日本における、被害に基づく平和感情に内在する決定的な限界が露呈しつつある時代状況も見据える必要があると思う。

以下は、このG7に反対する人びとによる行動の呼びかけである。私もこの呼びかけ人のひとりになった。G7に対するいわゆる「市民社会」の対応は二つに分かれてきた。ひとつは、G7を政策提言などの場と位置づけて取り組む対応で、主に、NGO団体などがこの立場をとってきた。これに対して、私も含めてだが、より批判的な立場として、そもそもG7の会合そのものを認めない、という立場がある。つまりG7は解散すべきである、という主張になる。なぜなのか。冒頭にも書いたように、首脳が国際的な重要課題について、各国の国内の民主主義的な意思決定の手続きを軽視して、トップダウンで意思形成するための枠組みであり、この枠組みそのものが、民主主義の手続きや理念と真っ向から対立する。首脳会合として実効的な力を発揮できるために、政策提言型のNGOや連合のような労働組合が、この会合への直訴に取り組む。実際に会合を準備するのは、シェルパと呼ばれるサポートを担う官僚たちであり、各省庁の組織だ。そして、首脳会合とともに、課題別の閣僚級会合が各地で開催される。この閣僚級会合の上に首脳会合が乗り、これらが多くの合意文書を出し、これが1年間の約束=宿題となり、次の年の会合で宿題の点検が行なわれることになる。有力な国際NGOなどは個別に政府とのパイプを利用して、「市民社会」の代弁者として政策提言を担い、これがG7側からすると、トップダウンを支えるボトムアップやアウトリーチとなり、トップの意思形成の正当性の証でもあるかのように利用されてきた。だから、広島で開催されるということは、核兵器廃絶を主張してきた様々な団体や運動が、G7という枠組みへの批判なしに、G7の核保有国への批判を展開するのであれば、日本政府は、こうした対応を見越した上で、問題提起や批判を形の上では受け止める態度をとりながら、実質的には核抑止力の正当性を再確認するために利用することに終るだろう。だから、私は、G7を交渉相手であるとか、その枠組みを承認して何らかの意思決定がなされることに期待すべきではない、と主張するのだ。たとえ好ましい決定であったとしても、それが、民主主義の手続きを踏まないトップダウンである限り、必ず、将来、同じように最悪の政策もまたトップダウンで形成されて帳消しになる。とりわけG7の多くが、極右による政治的な圧力に晒されている現在、トップダウンはますます危険なものになっている。だから、認めてはならない。これは統治機構の根本に関わる問題なのであり、このことを軽視すべきではない。G7は何も決めずに解散すべきだ。

以下の呼びかけについては、賛同の募集も行なっています。ぜひ多くの皆さんの賛同をよろしくお願いします。

======================

2023年5月「G7広島サミットを問う市民のつどい」提案

賛同人(団体)になってください

短縮版はこちら PDF版はこちら

この取り組みの呼びかけ人賛同人(団体)等は、ページの最後に記載されています。

G7サミットを広島で開催することの政治的目的は何なのか

78年前に米軍が原爆無差別大量殺戮という由々しい「人道に対する罪」を犯した広島という都市で、来年5月にG7首脳会談(以下、G7サミット)を開く政治的目的は何なのであろうか。議長国となる日本が広島を開催地に選んだ目的は何なのであろうか。

広島は2008年9月に開かれたG8下院議長会合、2016年4月のG7外相会合の開催地にも選ばれ、2016年5月にはオバマ大統領が「慰霊」と称して平和公園を訪れた。ところが、いずれの場合も、原爆無差別大量殺戮に対して最も責任の重い米国政府の代表をはじめ、マンハッタン原爆開発計画に参加した英国、カナダを含む7カ国(あるは8カ国)の代表も、おざなりの慰霊のために平和公園を訪れるだけの「政治的な見世物」に終わっている。

かくして、オバマと安倍が広島の犠牲者の霊を政治的に利用し、米国も日本も、それぞれが戦時中に犯した戦争犯罪の犠牲者に対しての謝罪は一切せずに、結局は広島を日米軍事同盟の強化のために利用したのと同様、来年も再び、広島が欺瞞的で汚い政治目的のために利用され、市民が踊らされるだけという結果になるであろうことは初めから目に見えている。

「唯一の戦争被爆国」を売り物にしながら、「最終的な核廃絶」というごまかしの表現で市民を騙し続け、実際には米国の拡大核抑止力に全面的に依拠し続けている日本政府。その日本政府の岸田首相が自分の選挙区である広島市をG7サミットに選んだのも、見せかけは「反核」という姿勢を欺瞞的に表示するための政治的たくらみ以外の何ものでもない。あるいは、ロシア・中国・朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の「核の脅威」をことさらに強調することで、核抑止力を正当化し、市民の間に無自覚のうちにその正当化を浸透させてしまおうと岸田政権は考えているのかもしれない。

よって、名称だけの「国際平和文化都市」広島で開く会議が発表する公式声明文に、「被爆者の霊」があたかもG7にお墨付きを与えたかのような、欺瞞的な印象を世界に向けて発信することがG7サミットの一番の目的なのである。

G7という7カ国の経済大国グループが設置されたのは、1973年のオイルショックとそれに原因する世界不況に直面して、7カ国が自分たちの経済利益を守り且つ拡大していくための共通の政治経済方針を決定し、協力しあうことを確認するためであった。したがって、その設置以来、全ての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている国連という場での決定を、自分たちにとって都合の悪い場合には拒否または無視する形で、世界の重要な出来事に対して影響力を及ぼし、恣意的に介入するという政策を引き続きとり続けてきた。その結果、実は、G7にこそ地球温暖化などの環境破壊、原油高騰、金融危機、食糧・農業危機、戦争と貧困など、様々な危機を作り出している重大な責任があるにも関わらず、全く問題解決の能力がないこと、このことを私たちは問題にしなければならない。

ところが岸田政権の日本は、安倍政権の政策をほとんどそのまま継承し、ますますG7の決定に、とりわけ軍事面での決定に、全面的に日本を組み込んでいこうという政策を強化しつつある。

G7、NATOとウクライナ侵略戦争の歴史的背景

G7(=米英仏独伊日加+欧州連合)は、歴史的には、カナダ以外の6カ国が20世紀前半までの帝国主義時代における列強国=軍事大国であり、今も米英独仏日の5ヶ国の各国の年間軍事費は世界のトップ10を占めている(日本は9番目)。しかも米英仏3カ国が核兵器保有国で、日本を除いた6カ国がNATO加盟国である。したがってG7とNATOは緊密に重複しており、その両方の主導権を握っているのは、あらためて言うまでもなく米国。つまり、米国の最も重要な国家政策であるパックス・アメリカーナ(覇権主義による世界支配の下での「平和維持」)を支え推進することが、G7とNATOの二大組織の重要な役割の一つである。

1999年以来NATOの軍事活動は、毎回、その行動範囲が、西欧を中心としたNATO加盟国地域をはるかに超えて、中東や東欧地域をはじめ世界各地に広がり、様々な武器開発と購入にも多額の資金が投入されてきた。この行動範囲と活動の広がりは、とりわけ2001年の9/11同時多発テロから始まったブッシュ政権の「対テロ戦争」に、密接に協力する形で進められてきた。

米国とNATOは、東欧への拡大政策に沿って、2014年からはウクライナへの最新式の武器の供与と軍事訓練・合同演習などを通して、NATOの支配下にウクライナ軍を事実上統合させる戦略を着実に推進してきた。この背景には、2014年のウクライナの民衆蜂起による政権交代を受けたプーチン政権のクリミア併合、それに続く東部ドンバス地域の内戦もあった。2022年2月の、ロシアの非道なウクライナへの侵略戦争開始につながった要因として、こうしたロシア、NATOとG7のこれまでの動きを忘れてはならない。

端的に言えば、一方では東欧に向けての米国の挑発的な覇権拡大主義、他方でNATO内に分裂が起きるものと誤信してウクライナの強制的再統合を目論んだ、プーチンのロシア帝国復活の野望。この両者の帝国主義的な対立の根を根本から取り除く必要がある。

この侵略戦争の結果、無数のウクライナの人々のみならず、戦争に駆り出されたロシアの人々も犠牲者となり、戦争の影響で食糧が入手できなくなった数百万人にのぼる数のアフリカやアジアの人々が餓死の危機にさらされている。そのうえ、このまま戦争が長引き戦況がさらに悪化すれば、小型核兵器の使用という最大の危機が起きることも十分ありうる。また原発が繰り返し軍事攻撃目標となっており、いつ原発大事故が起きてもおかしくない。こうした現在の状況を打破するには、戦争当事国のみならずグローバルな反戦・平和運動と外交による交渉での、相互的な妥協による戦争終結によるほかに道はない。

中国・ロシア封じ込めのためのNATOのインド太平洋進出計画と日本

そんな状況の中で、ドイツで行われたG7サミットに続き、6月29〜30日にはスペインのマドリッドでNATO首脳会合が開催された。ここに、NATOの主要パートナー国として、インド太平洋地域の日本、豪州、ニュージーランド、韓国が招かれた。これは、NATOの「新戦略構想」が、インド太平洋地域のいわゆる「自由主義諸国」との軍事協力のもとに、中国、ロシア、朝鮮を欧州側とインド太平洋側の両地域から強力な軍事力で囲い込み、封じ込めるという、文字通りのグローバル化戦略となっていることを示している。しかも、その「戦略地域」のなかには先端技術、サイバー空間、さらには宇宙空間までもが入れられている。

このNATOの「新戦略構想」は、最近実施されたRIMPAC(環太平洋諸国海軍合同演習)にすでに強く反映されている。2年に1回行われる世界最大の海戦演習であるRIMPACは、今回は6月29日から始まり、8月4日まで行われた。日本を含む26カ国から2万5千人を超える兵員と、38隻の戦艦、170の航空機、4隻の潜水艦が参加し、さらに9カ国からの陸上部隊が水陸両用車による上陸演習を行った。

26の参加国の中の、(イタリアを除く)6カ国がG7のメンバーであり、6カ国(米国、英国、フランス、デンマーク、オランダ、カナダ)がNATOメンバー国。5カ国(日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、コロンビア)がNATOのグローバル・パートナーとなっている。すなわちRIMPAC参加国の42パーセントがNATOと緊密に繋がっている。

こうした米国主導のRIMPACの目的は、中国、朝鮮との戦争を想定する米国主導の同盟諸国軍による軍事演習を展開することで、中国、朝鮮さらにはロシアに対して威嚇を行うことであった。この威嚇は、すでに米軍のインド太平洋地域における広範囲で活発な行動に対抗して、同じように敵対的な軍事活動を強力に展開している中国・朝鮮との緊迫状況をさらに悪化させこそすれ、緊張緩和には全く役立たない。

実際、RIMPAC終了3日後の8月7日から4日間にわたり、中国は、ナンシー・ペロシ下院議長の台湾訪問に合わせて、台湾を取り囲む6カ所の海空域で合計66機の戦闘機・爆撃機と14隻の艦艇を使って大規模な軍事演習を行った。さらに8月4日には、台湾の周辺海域に向けて11発の弾道ミサイルを発射するという、実に無謀な示威活動を展開した。かくして、アジア太平洋地域も、状況はむしろ冷戦時代よりも危機的である。

こんな状況の中でNATOは、2014年に日本政府(安倍政権)が、憲法に明らかに違反する集団的自衛権を容認したことを、高く評価している。その集団自衛権の行使との関連で、NATOはとりわけ「ヘリコプター搭載護衛艦」と称する「いずも」が、2020年にステルス多用途戦闘機F-35Bの発着を可能にする「改修」(=事実上の「空母」化)を行ったことも積極的に評価している。かくして、NATO=米軍ならびにその同盟軍との集団的軍事活動への「自衛隊」の積極的な参加が、着々と推進されている。岸田首相の公約の一つである「敵地攻撃能力の向上」も、「自衛の範囲」というメチャクチャな論理の下、このNATOへの統合化のための一戦略として、誰もが違憲と明確に理解していながら欺瞞的に進められている政策である。

このように、岸田内閣は、安倍内閣の憲法のあからさまな空洞化をそのまま受け継ぎ、それをさらに押し進めていると同時に、5月のバイデン米大統領との会談では、防衛予算=軍事予算の大幅増大(=GDP1%をNATO諸国と同じレベルの2%にまで引き上げること)を約束した。これが現実化されれば、日本の軍事予算は約11兆3千億円にもなり、今年度より一挙におよそ5兆1千億円の増額枠を認めることになる。この増額は、皮肉なことには憲法9条をもつ日本が、米中に次ぐ世界第3位の軍事大国になることを確実にする。しかもその金額の大部分が、米国からの高額のさまざまな武器の爆買いに当てられることになる。

現実には、これだけの巨額の予算を急遽準備するためには税収でまかなう他はない。よって、消費税を現在の10%から最低でも12%に引き上げる必要があり、その重い負担が市民一人一人に課せられることになり、すでに日々の生活費高騰に苦しんでいる多くの一般市民、とりわけ母子家庭や高齢者の生活がさらに逼迫することは目に見えている。

7月10日の参議院選挙の惨憺たる結果、以上のような日本の軍事大国化=一般市民のさらなる貧困化、憲法改悪と東アジア地域のさらなる不安定化・軍事衝突勃発の危険性は一挙に高まりつつある。かくして、日本は今や、歴史的に極めて重大な分岐点に立たされている。

G7広島サミット批判に向けて市民の力の結集を!

来年5月に広島で開催が予定されているG7サミットでは、したがって、インド太平洋地域諸国、とりわけG7のメンバー国である日本、さらには韓国やオーストラリアの軍事力を、米軍・NATOの軍事力に統合し、それを中国・ロシア・朝鮮の封じ込めという「新戦略構想」のために極力利用するという米国とNATOによる政策の、いっそうの強化がはかられると考えられる。この「新戦略構想」には、もちろん、核抑止力が重要な戦略として引き続き維持される。

冒頭で見たように、広島でG7サミットが開催されるからといって、核兵器削減に向けて参加国が真剣に議論するとは全く考えられない。こんな状況を黙って見過ごすことは、広島の市民としての、また日本の市民としての責任を、同時に人間としての責任を、ないがしろにすることを意味している。

そこで、私たちはG7サミットが開かれる1週間前の2023年5月13〜14日に、広島市内でG7広島サミットを徹底的に批判する大規模な市民集会を開催することを提案し、実現に向けてこれから活動を展開していくための呼びかけをここに行う。

なお、私たちはG7各国政府に対して、とりわけ次のような要求を行う。

  1. G7を即時解散し、広島でのサミット開催も中止し、あくまでも国連の場での議論と決定に基づいて世界の安定と平和構築を目指すこと。
  2. バイデン大統領は、広島・長崎への原爆無差別大量虐殺と、東京をはじめその他の多くの市町村への焼夷弾無差別爆撃殺傷行為が由々しい「人道に対する罪」であったことを真摯に認め、被害者ならびにその親族に謝罪すべきである。同時に、核抑止力(=核兵器保有)が「平和に対する罪」であることも明確に認め、核兵器を即刻廃棄すべきである。
  3. 日本がアジア太平洋で侵略戦争を行いその戦争を長期化させた結果、米国の焼夷弾・原爆無差別大量虐殺を誘引した責任が日本にもあったことを、岸田首相は明確に認めるべきである。その自覚に基づいて、日本、韓国をはじめ今も日本国内外に在住するすべての犠牲者のための医療福祉政策を充実させるべきである。同時に、速やかに核禁止条約に署名し批准すべきである。
  4. 岸田首相は、日本軍国主義によるアジア太平洋侵略戦争の加害責任を誠実に認め、戦争中に日本軍や日本政府がアジア太平洋各地で犯した残虐な戦争犯罪行為や人権侵害の多数の被害者ならびにその親族に謝罪すべきである。
  5. 岸田内閣は日米軍事同盟を廃棄し、NATOへの加担を止め、沖縄をはじめ日本各地に設置されている米軍基地の即刻撤去を米国政府に要求すべきである。日米の軍事関係を、日米両国市民の真に平和的で文化的な多様な交流の連繋に基づく、人間味溢れる国際関係へと変更すべきである。
  6. G7各国政府は、軍拡でロシア・中国・朝鮮を封じ込めることをやめ、それらの国々との平和的共存を目指して、外交交渉を粘り強くすすめていくべきである。また、そのためには、ロシア軍がウクライナ侵略戦争遂行をただちにやめ、ウクライナ大統領・ゼレンスキーとロシア大統領・プーチンが和平交渉のテーブルに1日も早くつくように、各国首脳も奮励努力しなければならない。
  7. 国連憲章では、大小にかかわらず各国が同権であり、国連が「そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている」ことを明確に謳っている。したがって、国連加盟国であるG7各国もこの国連憲章をあくまでも尊重し、「国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない」ことを肝に銘じて行動すべきである。同時に、国連機構がこの国連憲章に真に沿うようなものとなるように改正することに努力すべきである。
  8. G7各国政府は、気候危機を発生させ且つ今もその危機状況をさらに悪化させている、いわゆる「先進工業諸国」としての責任を自覚し、生物多様性を保持、発展させ、環境保護に努め、脱原発と化石燃料極力削減による脱炭素社会実現に向けて懸命の努力をしなければならない。また、気候変動による巨大な災害に見舞われているパキスタンやアフリカ諸国をはじめとするグローバルサウス諸国の債務を無条件に帳消しすること。それが地球上の人類と他のあらゆる生物・植物に対する私たちの重大な責任であることを、明瞭に認識する必要がある。

2022年9月25日

「G7広島サミットを問う市民のつどい」実行委員会

賛同人(団体)になってください