マイケル・クェット
2022年5月31日
このエッセイは、ROAR誌とのコラボレーションで企画されたTNIのDigital Futuresシリーズ「テクノロジー、パワー、解放」の一部である。マイケル・クェットのエッセイの後半になる。前半はこちら。
グローバルな不平等を根付かせるビッグ・テックの役割を、もはや無視することはできない。デジタル資本主義の力を抑制するために、私たちはエコソーシャリズムによるデジタル技術のルールを必要としている。
ここ数年、ビッグテックをいかに抑制するかという議論が主流となり、政治的な傾向の違いを超えて議論がなされるようになった。しかし、これまでのところ、こうした規制は、デジタル権力の資本主義、帝国主義、環境の諸次元に対処することにほとんど失敗し、これらが一体となってグローバルな不平等を深化させ、地球を崩壊に近づけている。私たちは、早急に、エコ社会主義のデジタル・エコシステムを構築することが必要であるが、しかし、それはどのようなもので、どのようにすれば目的に到達できるのだろうか。
このエッセイは、21世紀において社会主義経済への移行を可能にする反帝国主義、階級廃絶、修復[lreparation]、脱成長の原則を中心としたデジタル社会主義のアジェンダ――デジタル技術の取り決めDigital Tech Deal(DTD)の中核となるいくつかの要素に焦点を当てることを目的としている。DTDは、変革のための提案やスケールアップ可能な既存のモデルを活用し、資本主義のオルタナティブを求める他の運動、特に脱成長運動との統合を目指している。必要な変革の規模は極めて大きいが、社会主義的なデジタル技術の取り決めの概要を示すこの試みが、平等主義的なデジタルエコシステムとはどのようなものか、そしてそこに到達するためのステップについてさらなるブレインストーミングと議論を引き起スことを期待している。
デジタル植民地主義に関する最初のものは、こちらでご覧いただけます。
デジタル資本主義と反トラスト法の問題点
テック部門に対する進歩的な批判は、しばしば反トラスト、人権、労働者の福利を中心とした主流の資本主義の枠組みから導き出されている。北半球のエリートの学者、ジャーナリスト、シンクタンク、政策立案者によって策定され、資本主義、西洋帝国主義、経済成長の持続を前提とした米国・欧州中心主義の改革主義的アジェンダを推進するものである。
反トラスト改革主義が特に問題なのは、デジタル経済の問題は、デジタル資本主義そのものの問題ではなく、単に大企業の規模や「不公正な慣行」の問題だと想定している点である。反トラスト法は、19世紀後半に米国で、競争を促進し、独占企業(当時は「トラスト」と呼ばれていた)の横暴を抑制するために作られた法律である。現代のビッグテックの規模と影響力が、この法律に再び光をあてることになった。反トラスト法の擁護者たちは、大企業が消費者や労働者、中小企業を弱体化させるだけでなく、いかに民主主義の基盤そのものにさえ挑戦しているかを指摘している。
反トラスト法擁護派は、独占は理想的な資本主義システムを歪めるものであり、必要なのは誰もが競争できる公平な土俵だと主張する。しかし、競争は、競争する資源を持つ人々にとってのみ意味のあるものであって、1日7.40ドル以下で生活している世界人口の半分以上の人びとが、欧米の反トラスト法支持者が思い描く「競争市場」でどうやって「競争」していくのか、誰もこのことを問うおうとはしていない。こうした競争は、インターネットの大部分がボーダーレスであることを考えれば、低・中所得国にとってより一層困難なことだ。
ROARで発表した以前の論文で論じたように、より広いレベルでは、反トラスト法擁護者は、グローバル経済のデジタル化によって深化したグローバルに不平等な分業と財やサービスの交換を無視している。Google、Amazon、Meta、Apple、Microsoft、Netflix、Nvidia、Intel、AMD、その他多くの企業は、世界中で使用されている知的財産と計算手段を所有しているため、大きな存在となっている。反トラスト法の理論家たち、特にアメリカの理論家たちは、結局、アメリカ帝国とグローバル・サウスを組織的にこの構図から消し去ってしまう。
ヨーロッパの反トラスト法に関する取り組みも、これと同じである。ここでは、ビッグ・テックの悪弊を嘆く政策立案者が、ひそかに自国を技術大国として築こうとしている。英国は1兆ドル規模の自国の巨大企業を生み出すことを目指している。エマニュエル・マクロン大統領は、2025年までにフランスに少なくとも25社のいわゆる「ユニコーン」(評価額10億ドル以上の企業を指す)を誕生させるべく、ハイテク新興企業に50億ユーロを投じる予定だ。ドイツは、グローバルなAI大国とデジタル産業化における世界のリーダー(=市場の植民地開拓者)になるために30億ユーロを投じている。一方、オランダも “ユニコーン国家 “を目指している。そして2021年、広く称賛されている欧州連合の競争コミッショナー、マルグレーテ・ヴェスタガーMargrethe Vestagerは、欧州は独自の欧州テック・ジャイアントを構築する必要があると述べている。2030年に向けたEUのデジタル目標の一環として、ヴェスタガーは、”ヨーロッパのユニコーンの数を現在の122社から倍増させる “ことを目指すと述べている。
ヨーロッパの政策立案者は、大企業であるハイテク企業に原則的に反対するのではなく、自分たちの取り分を拡大しようとするご都合主義者なのである。
その他、累進課税、パブリックオプションとしての新技術の開発、労働者保護など、改革的資本主義の施策が提案されているが、根本原因や核心的問題への対処にはまだ至っていない。進歩的なデジタル資本主義は、新自由主義より優れてはいる。しかし、それはナショナリズムを志向し、デジタル植民地主義を防ぐことはできず、私有財産、利潤、蓄積、成長へのコミットメントを保持するものである。
環境危機と技術
デジタル改革論者のもう一つの大きな欠点は、地球上の生命を脅かす気候変動と生態系破壊という2つの危機に関するものである。
環境危機は、成長を前提とした資本主義の枠組みでは解決できないことを示す証拠が増えている。この枠組みは、エネルギー使用とそれによる炭素排出を増加させるだけでなく、生態系に大きな負担をかけている。
UNEPは、気温上昇を1.5度以内に抑えるという目標を達成するためには、2020年から2030年の間に排出量を毎年7.6%ずつ減らしていかなければならないと見積もっている。学者による評価では、持続可能な世界の資源採取の限界は年間約500億トンとされているが、現在、私たちは年間1000億トンを採取し、主に富める者と北半球が恩恵を受けている。
脱成長を早急に実現しなければならない。進歩的な人々が主張する資本主義のわずかばかりの改革は、依然として環境を破壊する。予防原則を適用すれば、永久に生態系の破局を招くリスクを冒す余裕はない。テック部門は、ここでは傍観者ではなく、今やこうしたトレンドの主要な推進者の一人だ。
最近のレポートによると、2019年には、デジタルテクノロジー(通信ネットワーク、データセンター、端末(パーソナルデバイス)、IoT(モノのインターネット)センサーと定義)は、温室効果ガス排出量の4パーセントに加担し、そのエネルギー使用量は年間9パーセント増加している。
また、この数値は大きいようにも見えるかもしれないが、これはデジタル部門によるエネルギー使用量を過少評価している可能性が高い。2022年の報告書によると、大手テック企業はバリューチェーン[訳注]全体の排出量削減には取り組んでいないことが判明した。Appleのような企業は、2030年までに「カーボンニュートラル」になると主張しているが、これは「現在、直営のみが含まれており、カーボンフットプリントの1.5パーセントという微々たるものに過ぎない」。
地球を過熱させることに加えて、コンゴ民主共和国、チリ、アルゼンチン、中国といった場所で、エレクトロニクスに使われるコバルト、ニッケル、リチウムといった鉱物の採掘は、しばしば生態系を破壊することになる。
さらに、デジタル企業は、持続不可能な採掘を支援する上で極めて重要な役割を担っている。ハイテク企業は、企業が化石燃料の新しい資源を探査・開発したり、工業的な農業のデジタル化を支援している。デジタル資本主義のビジネスモデルは、環境危機の主要因である大量消費を促進する広告を中心に展開されている。一方、億万長者の経営者の多くは、北半球の平均的な消費者の何千倍もの二酸化炭素を排出しているのだ。
デジタル改革論者は、ビッグ・テックは二酸化炭素排出や資源の過剰利用から切り離すことができると仮定し、その結果、彼らは個々の企業の特定の活動や排出に注意を向けることになる。しかし、資源利用と成長を切り離す考え方は、資源利用とGDPの成長が歴史上密接に関係していることを指摘する学者たちによって疑問視されている。最近、研究者たちは、経済活動を知識集約型産業を含むサービス業にシフトしても、サービス業従事者の家計消費レベルが上昇するため、地球環境への影響を低減する可能性は限定的であることを明らかにした。
まとめると、成長の限界はすべてを変えてしまう。もし資本主義が生態学的に持続不可能であるならば、デジタル政策はこの厳しい、挑戦的な現実に対応しなければならない。
デジタル社会主義とその構成要素
社会主義体制では、財産は共有される。生産手段は労働者協同組合を通じて労働者自身によって直接管理され、生産は交換、利潤、蓄積のためではなく、使用と必要性のために行われる。国家の役割については、社会主義者の間でも論争があり、統治と経済生産はできるだけ分散させるべきだと主張する人もいれば、より高度な国家計画を主張する人もいる。
これらと同じ原則、戦略、戦術がデジタル経済にも適用される。デジタル社会主義のシステムは、知的財産を段階的に廃止し、計算手段means of computationを社会化し、データとデジタル知能を民主化し、デジタル生態系の開発と維持をパブリックドメインのコミュニティの手に委ねることになるだろう。
社会主義的デジタル経済のための構成要素の多くは既に存在している。例えば、フリー・オープンソース・ソフトウェア(FOSS)とクリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、社会主義的生産様式のためのソフトウェアとライセンシングを提供する。James MuldoonがPlatform Socialismの中で述べているように、DECODE(DEcentralised Citizen-owned Data Ecosystems)のような都市プロジェクトは、コミュニティ活動向けのオープンソース公共利益ツールを提供しているが、ここでは、共有データのコントロールを保持しつつ市民が大気汚染のレベルからオンラインの請願や近隣のソーシャルネットワークまで、データにアクセスし貢献できるものだ。ロンドンのフードデリバリープラットフォーム「Wings」のようなプラットフォーム・コープは、労働者がオープンソースのプラットフォームを通じて労働力を組織化し、労働者自身が所有・コントロールする卓越した職場モデルを提供している。また、社会主義的なソーシャルメディアとして、共有プロトコルを用いて相互運用するソーシャルネットワークの集合体であるFediverseがあり、オンライン・ソーシャル・コミュニケーションの分散化を促進している。
しかし、これらの構成要素は、目標達成のためにはポリシーの変更を必要とするだろう。例えば、Fediverseのようなプロジェクトは、閉じたシステムと統合することはできないし、Facebookのような大規模な集中リソースと競争することもできない。したがって、大手ソーシャルメディアネットワークに相互運用、内部分散、知的財産(プロプライエタリなソフトウェアなど)の開放、強制広告(人々が「無料のサービス」と引き換えに受けとる広告)の廃止、国や民間企業ではなく個人やコミュニティがネットワークを所有・コントロールしコンテンツのモデレーションができるようデータホスティングへの助成を強制する一連のラディカルな政策変更が必要である。これによって、技術系大企業は事実上、その存在意義を失うことになる。
インフラの社会化は、強固なプライバシーコントロール、国家による監視の規制、監獄セキュリティ国家の後退とバランスをとる必要がある。現在、国家は、しばしば民間部門と連携して、デジタルテクノロジーを強制の手段として利用している。移民や移動中の人々は、カメラ、航空機、モーションセンサー、ドローン、ビデオ監視、バイオメトリクスなどを織り交ぜたテクノロジーによって厳しく監視されている。記録とセンサーのデータは、国家によって融合センターやリアルタイム犯罪センターに集中化され、コミュニティを監視、予測、コントロールするようになってきている。マージナル化され人種差別化されたコミュニティや活動家は、ハイテク監視国家によって不当に標的にされている。活動家はこれらの組織的暴力の機関を解体し、廃止するよう活動し、国家のこうした実践は禁止されるべきだ。
デジタル技術の取り決め
大きなハイテク企業、知的財産、および計算手段の私的所有権は、デジタル社会に深く埋め込まれ、一晩で消し去ることはできない。したがって、デジタル資本主義を社会主義モデルに置き換えるには、デジタル社会主義への計画的な移行が必要だ。
環境保護主義者たちは、グリーン経済への移行のアウトラインを描く新たな「取り決め」を提案している。米国のグリーン・ニューディールや欧州のグリーン・ディールのような改革派の提案は、最終的な成長、帝国主義、構造的不平等といった資本主義の危害を保持したまま、資本主義の枠組みの中で実施される。対照的に、レッド・ネイションRed Nationのレッド・ディールRed Deal、コチャバマバ協定Cochabamaba Agreement、南アフリカの気候正義憲章Climate Justice Charterのようなエコ社会主義モデルは、より優れた代替案を提供している。これらの提案は、成長の限界を認め、真に持続可能な経済への公正な移行に必要な平等主義的原則を組み込んでいる。
しかし、これらのレッドディールもグリーンディールも、現代の経済と環境の持続可能性と中心的な関連性があるにもかかわらず、デジタルエコシステムのための計画を組み込んでいない。一方、デジタル・ジャスティス運動は、脱成長の提案と、デジタル経済の評価をエコ社会主義の枠組みに統合する必要性をほぼ完全に無視している。環境正義とデジタル正義は密接に関係しており、この2つの運動はその目標を達成するために連携しなければならない。
そのために、私は反帝国主義、環境の持続可能性、疎外されたコミュニティのための社会正義、労働者の権利拡大、民主的コントロール、階級の廃絶という交差する価値を具体化するエコソーシャリストのデジタル技術の取り決めDigital Tech Dealを提案する。以下は、こうしたプログラムを導くための10の原則である。
1. デジタル経済が社会的、惑星的な境界線に収まるようにする。
私たちは、北半球の富裕国がすでに炭素予算の公正な取り分を超えて排出しているという現実に直面している。これは、富裕国に不釣り合いな利益をもたらしているビッグテック主導のデジタル経済にも当てはまる。したがって、デジタル経済が社会的・惑星規模の限界内に収まるようにすることが不可欠だ。私たちは、科学的な情報に基づき、使用できる材料の量と種類に制限を設け、どの材料資源(バイオマス、鉱物、化石エネルギーキャリア、金属鉱石など)をどの用途(新しい建物、道路、電子機器など)にどの程度、誰のために割くべきかを決定する必要があるのではないないか。北から南へ、富裕層から貧困層への再分配政策を義務付けるエコロジー債務を確立することができるはずだ。
2. 知的財産の段階的廃止
知的財産、特に著作権や特許は、知識、文化、アプリやサービスの機能を決定するコードに対するコントロールを企業に与え、企業がユーザーの関与を上限を規定し、イノベーションを私有化し、データとレントを引き出すことを可能にするものである。経済学者のディーン・ベイカーDean Bakerは、特許や著作権の独占がない「自由市場」で得られるものと比べて、知的財産のレントは消費者に年間さらに1兆ドルの損失を与えていると見積もっている。知的財産を廃止し、知識を共有するコモンズ・ベースのモデルを採用すれば、価格を下げ、すべての人に教育を提供し、富の再分配とグローバル・サウスへの賠償として機能する。
3. 物理的インフラの社会化
クラウドサーバー施設、無線電波塔、光ファイバーネットワーク、大洋横断海底ケーブルなどの物理的インフラは、それを所有する者に利益をもたらす。これらのサービスをコミュニティの手に委ねることができるコミュニティが運営するインターネットサービスプロバイダやワイヤレスメッシュネットワークの構想もある。海底ケーブルのようなインフラは、利潤のためではなく、公共の利益のためにコストをかけて建設・維持する国際コンソーシアムによって維持さできるだろう。
4. 私的な生産投資を、公的な補助金と生産に置き換える。
Dan HindのBritish Digital Cooperativeは、社会主義的な生産モデルが現在の状況下でどのように活動しうるかについての最も詳細な提案であろう。この計画では、”市民や多かれ少なかれまとまった集団が集まって政治に対する主張を確保できる場を、地方、地域、国レベルの政府を含む公共部門の機関が提供する “とされている。オープンデータ、透明性のあるアルゴリズム、オープンソースのソフトウェアやプラットフォームによって強化され、民主的な参加型計画によって実現されるこのような変革は、デジタルエコシステムと広範な経済への投資、開発、維持を促進することになる。
Hindは、これを一国内での公的オプションとして展開することを想定しており、民間セクターと競合することになるが、その代わりに、技術の完全な社会化のための予備的な基礎を提供することができる。さらに、私たちは、グローバル・サウスに賠償金としてインフラを提供するグローバルな正義の枠組みを含むように拡張することも可能だろう。これは、気候正義のイニシアチブが、グローバル・サウスが化石燃料をグリーンエネルギーに置き換えるのを助けるよう富裕国に圧力をかけるのと同じ方法だ。
5. インターネットの分散化
社会主義者たちは、富と権力と統治を労働者と地域社会の手に分散させることを長い間支持してきた。FreedomBoxのようなプロジェクトは、電子メール、カレンダー、チャットアプリ、ソーシャルネットワーキングなどのサービスのためのデータをまとめてホストしルーティングできる安価なパーソナルサーバーを動かすためのフリー・オープンソースソフトウェアを提供している。また、Solidのようなプロジェクトでは、各自がコントロールする「ポッド」内にデータをホスティングすることが可能です。アプリ・プロバイダーやソーシャル・メディア・ネットワーク、その他のサービスは、ユーザーが納得できる条件でデータにアクセスすることができ、ユーザーは自分のデータをコントロールすることができる。これらのモデルは、社会主義に基づいてインターネットを分散化するためにスケールアップすることができる。
6. プラットフォームの社会化
Uber、Amazon、Facebookなどのインターネット・プラットフォームは、そのプラットフォームのユーザーの間に立って私的仲介業者として、所有権とコントロールを集中させている。FediverseやLibreSocialのようなプロジェクトは、ソーシャルネットワーキングを越えて拡張できる可能性のある相互運用性の青写真を提供している。単純に相互運用できないサービスは社会化され、利潤や成長のためではなく、公共の利益のためにコストをかけて運営できるだろう。
7. デジタル・インテリジェンスとデータの社会化
データとそこから得られるデジタル・インテリジェンスは、経済的な富と権力の主要な源だ。データの社会化は、データの収集、保存、使用方法において、プライバシー、セキュリティ、透明性、民主的な意思決定といった価値観や慣行を埋め込むことになる。バルセロナやアムステルダムのプロジェクトDECODEなどのモデルをベースにすることができるだろう。
8. 強制的な広告とプラットフォームの消費主義を禁止する
デジタル広告は、一般大衆を操り、消費を刺激するように設計された企業のプロパガンダを絶え間なく押し出している。多くの「無料」サービスは広告によって提供され、まさにそれが地球を危険にさらす時に、さらに大量消費主義を刺激している。Google検索やAmazonのようなプラットフォームは、生態系の限界を無視して消費を最大化するために構築されている。強制的な広告の代わりに、製品やサービスに関する情報は、ディレクトリでホストされて自主的にアクセスすることができよう。
9. 軍、警察、刑務所、国家安全保障機構を、コミュニティ主導の安全・安心サービスへと置き換える
デジタルテクノロジーは、警察、軍隊、刑務所、諜報機関の力を増大させた。自律型兵器のような一部のテクノロジーは、暴力以外の実用性がないため、禁止されるべきだ。その他のAI駆動型テクノロジーは、間違いなく社会的に有益な用途を持つが、社会におけるその存在を制限するために保守的なアプローチをとり、厳しく規制する必要があるだろう。大規模な国家監視の抑制を推進する活動家は、これらの機関の標的となる人々に加えて、警察、刑務所、国家安全保障、軍国主義の廃止を推進する人々とも手を結ぶべきである。
10. デジタル・デバイドをなくす
デジタルデバイドとは、一般的にコンピュータデバイスやデータなどのデジタル資源への個人の不平等なアクセスを指すが、クラウドサーバー設備やハイテク研究施設などのデジタルインフラが裕福な国やその企業によって所有・支配されていることも含める必要がある。富の再分配の一形態として、課税と賠償のプロセスを通じて資本を再分配し、世界の貧困層に個人用デバイスとインターネット接続を補助し、クラウドインフラやハイテク研究施設などのインフラを購入できない人口に提供することができるだろう。
デジタル社会主義を実現する方法
抜本的な改革が必要だが、やるべきことと現在の状況には大きな隔たりがある。とはいえ、私たちにできること、そしてやらなければならない重要なステップがいくつかある。
まず、デジタル経済の新しい枠組みを共に創造するために、コミュニティ内外で意識を高め、教育を促し、意見交換することが不可欠だ。そのためには、デジタル資本主義や植民地主義に対する明確な批判が必要である。
知識の集中的な生産をそのままにしておくと、このような変化をもたらすことは困難であろう。北半球のエリート大学、メディア企業、シンクタンク、NGO、ビッグテックの研究者たちが、資本主義の修正に関する議論を支配し、アジェンダを設定し、こうした議論のパラメータを制限し、制約している。例えば、大学のランキング制度を廃止し、教室を民主化し、企業や慈善家、大規模な財団からの資金提供を停止するなど、彼らの力を奪うための措置が必要だ。南アフリカで最近起こった学生による#FeesMustFallという抗議運動や、イェール大学でのEndowment Justice Coalitionなどは、教育を脱植民地化する取り組みが必要となる運動の例を示している。
第二に、私たちはデジタル正義の運動を他の社会的、人種的、環境的正義の運動と結びつける必要がある。デジタル上の権利運動の活動家は、環境保護主義者、人種差別廃止活動家、食の正義の擁護者、フェミニストなどと一緒に活動する必要がある。例えば、草の根の移民は主導しているネットワークMijenteの#NoTechForIceキャンペーンは、米国における移民取り締まりのテクノロジーの供給に挑戦している。しかし、特に環境との関連で、まださらなる運動が必要だ。
第三に、私たちはビッグ・テックと米帝国主義に対する直接行動と情宣を強化する必要がある。グローバル・サウスにおけるクラウドセンターの開設(例:マレーシア)や、学校へのビッグテック・ソフトウェアの押しつけ(例:南アフリカ)など、一見すると難解なテーマであるために、多数の支持を動員することが困難な場合がある。特に、食料、水、住居、電気、保健医療、仕事へのアクセスを優先しなければならない南半球では難しいことでもある。しかし、インドにおけるフェイスブックのFree Basicsや、南アフリカのケープタウンにおける先住民族の聖地でのアマゾン本社建設といった開発に対する抵抗の成功は、市民による反対の可能性と潜在力を示している。
こうした活動家のエネルギーは、さらに進んで、ボイコット、投資撤収、制裁(BDS)の戦術を取り入れることができる。これは、反アパルトヘイト活動家が南アフリカのアパルトヘイト政府に機器を販売するコンピューター企業を標的にした戦術である。活動家は、今度は巨大なハイテク企業の存在をターゲットに、#BigTechBDS運動を構築することができるだろう。ボイコットによって、巨大ハイテク企業との公共部門の契約を取り消し、社会主義的な民衆の技術ソリューションに置き換えることもできるだろう。投資撤収キャンペーンは、最悪のハイテク企業から大学などの機関への投資を撤回させることも可能だ。そして活動家たちが、米国や中国、その他の国のハイテク企業に的を絞った制裁を適用するよう国家に圧力をかけることも可能となろう。
第四に、私たちは、新しいデジタル社会主義経済のための構成単位となりうる技術労働者協同組合を構築する活動が必要だ。ビッグテックを組合化する運動があり、これはハイテク労働者を保護するのに役立つだろう。しかし、ビッグテックの組合化は、東インド会社や兵器メーカーのRaytheon、Goldman Sachs あるいは Shellの組合化のようなもので、社会正義ではなく、穏やかな改革しか実現しない可能性がある。南アフリカの反アパルトヘイト活動家が、アパルトヘイト下の南アフリカでアメリカ企業がビジネスから利益を出し続けることを可能にした「サリバン原則」――企業の社会的責任に関する一連のルールと改革――やその他の穏やかな改革を拒否し、アパルトヘイト体制を窒息させることを優先したように、私たちはビッグテックとデジタル資本主義のシステムを完全に廃止することを目指していかなければならない。そして、そのためには、改革不可能なものを改革するのではなく、業界の公正な移行を実現するために、代替案を作り、技術労働者との関係を持つことが必要だ。
最後に、あらゆる階層の人々が、デジタル技術の取り決めを構成する具体的なプランを開発するために、技術専門家と協働で活動する必要がある。これは、現在の環境に対するグリーン「ディール」と同じくらい真剣に取り組む必要がある。デジタル技術の取り決めによって、広告業界など一部の労働者は職を失うことになるので、これらの業界で働く労働者のための公正な移行が必要である。労働者、科学者、エンジニア、社会学者、弁護士、教育者、活動家、そして一般市民は、このような移行を実現するための方法を共同でブレーンストーミングすることができるだろう。
今日、進歩的資本主義は、ビッグ・テックの台頭に対する最も現実的な解決策であると広く考えられている。しかし、彼らは同じ進歩主義者でありながら、資本主義の構造的危害、米国主導のハイテク植民地化、脱成長の必要性を認識していない。私たちは、自分たちの家を暖かく保つために壁を焼き払うことはできない。唯一の現実的な解決策は、唯一無二の家を破壊しないために必要なことをすることであり、それはデジタル経済を統合することでなければならない。デジタル技術の取り決めによって実現されるデジタル社会主義は、私たちが抜本的な改革を行うための短い時間枠の中で最良の希望を与えてくれるが、議論し、討論し、構築することが必要だろう。この記事が、読者のみなさんたちに、この方向に向かって協力的に構築するよう促すことができれば幸いである。
著者について
ロードス大学で社会学の博士号を取得。エール大学ロースクール情報社会プロジェクトを客員研究員として務める。著書に「デジタル植民地主義」(原題:Digital colonialism)がある。また、VICE News、The Intercept、The New York Times、Al Jazeera、Counterpunchで記事を発表している。
TwitterでMichealを見つける。マイケル・クウェット(@Michael_Kwet)。
訳注:バリューチェーン:企業の競争優位性を高めるための考え方で、主活動の原材料の調達、製造、販売、保守などと、支援活動にあたる人事や技術開発などの間接部門の各機能単位が生み出す価値を分析して、それを最大化するための戦略を検討する枠組み。価値連鎖と邦訳される。(日本大百科全書)
【経営・企業】原材料の調達,製造,販売などの各事業が連鎖して,それぞれが生み出す利益を自社内で取り込むやり方.(imidas)