(マルレーヌ・ラリュエル)プーチン侵略の知的原点:現代ロシアの宮廷にラスプーチンはいない
(訳者前書き)先にヴァロファキスのインタビューを紹介したが、そこでは、もっぱら軍事的な力学の政治に焦点を宛てて戦争の去就を判断するというクールな現実主義に基づく判断があった。ここでは、戦争へと至る経緯の背景にあるもっと厄介な世界観やイデオロギーの観点から、この戦争をみるための参考としてマレーネ・ラルエルのエッセイを紹介する。イデオロギーが残虐で非人道的な暴力を崇高な美学の装いをもって人々を陶酔の罠へと陥れることは、日本の歴史を回顧すればすぐに見出せる。いわゆる皇国史観と呼ばれ日本の侵略戦争を肯定する世界観や天皇制イデオロギーは、これまでもっぱら日本に固有のイデオロギーとして、その固有性に着目した批判が主流だったが、今世紀に入って極右の欧米での台頭のなかで論じられる価値観の構造に着目すると、そのほとんどが、日本がかつて公然と主張し、現在は地下水脈としてナショナリズムの意識を支えてきた世界観との共通性に気づく。ロシアにとっての主要なイデオロギー的な課題は「近代の超克」であり、それは西欧でもなければコミュニズムでもない、第三の道をある種の宗教的な信条と「伝統」として再定義された歴史や民族を基 […]