転向の強要としての共謀罪に対する刑罰制度
●治安維持法と思想犯保護観察法 刑法は、1907年に制定されたものが、一部改正されながら現在まで基本的な枠組をそのまま維持している。戦前・戦中の刑法がいまだに現役なのだ。治安維持法も戦時中の軍事関連の刑事法も現行刑法の土台の上に構築されてきたものだ。だから、戦前の治安立法を回顧するのは、今現在の刑法のありかたと直結していることを忘れるべきではないだろう。 かつて改正治安維持法の時代に、当時の有力な刑法学者でもあった牧野英一は、治安維持法を大正後期の社会運動の高揚がもたらした「思想的悪化」への対抗手段として必要な法律としながらも「その性質は専ら威嚇的のもの」であり「違反事件に対する捜査の手続は、刑事訴訟法というものの現に存しているかを疑わしめるものであったとさえされている」(『改正刑法仮案とナチス刑法』有斐閣、1941年)と特高警察などの捜査を批判した。また牧野は、治安維持法は「国家が自己の保全に焦燥を感ぜねばならぬ限り刑政は威嚇を出で得ないこと、これは刑法の沿革のすでに事を明かにしているところである」とも述べて、統治機構の脆弱化を示唆した。 しかし他方で牧野は、「威嚇主義にもかかはらず […]