左派は国民国家の統治とは別な何かを創造できるか──『絶望のユートピア』出版に際して

以下は、『人民新聞』10月15日号に寄稿したものです。

私は、この30年ほどの時間のなかで、雑多な文章を書いてきた。この雑多な産物を雑多なままに、『絶望のユートピア』というタイトルを付して本にした。一二〇〇ページを越える大部だが、時系列にもカテゴリー別にも分類することを排した混沌とした本である。特定のテーマはない。現代資本主義批判もあれば現代美術の批評もある。原発への言及もあれば、天皇制や右翼言論への批判もある。サイバースペースや監視社会批判もある。しかし、これらをカテゴリーのなかに押し込んで相互に別々の課題とするようなことはしたくなかった。結果として、混沌が生まれた。

左派が、日本だけでなくどこにおいてもグローバルに直面しているのは、左派としてのアイデンティティの危機だと思う。この危機は、西欧近代が普遍的な価値としてきた自由、平等、人権、民主主義の擬制と虚構に左派もまた加担してきたしてきたところにある。もはやいかなる意味においてもこうした価値は、その一切の正統性を喪失してしまったと思う。底辺に生きる民衆たちは、こうした価値とは別な何か、国民国家の統治(憲法がそれを体現しているのだが)とは別な何かを直感的な欲望として抱きはじめている。左派に必要なことは、こうした普遍的価値からいかにして自らを切り離し、そうではない「何か」を思想的にも実践的にも創造できるかということだろう。こうした問題意識を具体化できる能力は私にはない。とりあえず自分にできることとして、この30年を混沌の坩堝に投げ入れる不細工な仕儀の産物が、本書なのかもしれないと感じている。

5000円という高額の本はそう手軽に買える値段ではない。そこで本書については、異例な販売方法をとることにした。分割後払いでの購入ができるようにした。文末に掲載した問い合わせ先にメールで注文すると、本と一緒に郵便振替口座など支払いの案内と振替用紙が同封されてくる。何回払いにするか、一回の支払い金額は買い手が自分で決めてよい。文庫本ですら1000円では買えないご時世だ。失業と非正規低賃金の労働者が圧倒的に多くなっているなかで、読みたい本が高くて買えないということは、そもそも知へのアクセスから貧困層を排除するということでもある。月々数百円とか1000円程度なら支払えるという皆さんに是非手にとってもらえたらと思う。全てを読む必要はないが、何か考えるヒントの一つでも得られるものでありたいとも思う。分割後払いは一般の書店では扱ってもらえないが、こうした販売に協力していただける方、団体、お店などがあればぜひ下記に連絡をいただければと思います。

分割後払いでの購入申し込み先
daRa revo
dararevo@alt-movements.org
詳しくはウエッブをご覧ください。
https://dararevo.wordpress.com/

『絶望のユートピア』桂書房、5000円

小倉利丸

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