書評:武藤一羊著『戦後レジームと憲法平和主義』れんが書房新社、2016
刺激的な本に出会うということは、本の内容をそのまま受け入れるということよりも、本の内容に触発されて、著者がどう思うかとは別に、私自身の考え方に一歩でも新たな展開をもたらすようなことだと思う。武藤一羊の議論は、とくに私とは目のつけどころも方法論も違うけれども、現状への危機感は多くの点で共有できるという意味で、刺激的である。本書もまたそうであった。以下では主に、本書の理論的な枠組を提示している「総論」を中心に私の雑駁な感想を述べたい。 本書は、武藤がこの間提起してきた彼の戦後日本国家論を再度整理して、とりわけ安倍政権が目指す方向への根底的な否定の根拠を論じるものだといえる。武藤は、戦後日本国家の構成原理はアメリカの覇権原理、戦後憲法の平和・民主主義原理、そして帝国継承原理の三つからなるという基本認識を提起するが、これら三原則は「相互に矛盾する構成原理で成り立つ歴史的個性を備えた国家」であるというのが武藤の重要な方法論であると同時に、ここから安倍政権が目論む帝国継承原理一元論とでもいうべき改憲を通じた戦後レジームからの脱却戦略へのオルタナティブも導き出される。武藤は安倍の歴史認識をつぎのよう […]