(UnHerd)ウクライナ、極右民兵の真実―ロシアは、ゼレンスキー軍の危険な派閥に力を与えている

(訳者前書き) ロシアがウクライナへの侵略を正当化するために、ウクライナのネオナチを一掃すること、「非ナチ化」を主張したのに対して西側の政府やメディアが一斉に反発して、ロシアの主張を偽情報だと言いたてたときに、私はとても奇妙に思ったことを思いだす。この戦争以前にウクライナの政権にネオナチが影響力を行使しようとしてきたことや、国内で(あるいは東部で) 深刻な人権侵害を引きおこしてきたことを西側政府もメディアも知っていたのでは、と思っていたからだ。しかし、このウクライナ政権と極右との関わりは、発言のちょっとした表現やニュアンスによってはロシアの侵略を正当化しかねないことにもなる。しかし、やはりきちんと議論しておく必要があると強く思うようになったのは、最近の日本のメディアにアゾフ大隊がネオナチあるいは極右の軍事組織であることを指摘することなく「東部の屈強なウクライナ軍」といった紹介であったり、公安調査庁がアゾフをネオナチ指定から外すなどの歴史の改竄が始まっている。以下に紹介する記事は、UnHerdに掲載されたもの。この問題を非常にうまく扱っていると思う。特に西側がプーチンのネオナチキャンペーンにびびって、ウクライナの権力内部の極右を黙認し、さらに武器まで与えてしまっていることが、戦後のウクライナの統治機構に深刻な影響をもたらすことを指摘しているのは重要だ。ロシアもウクライナもある種のファシズム的な要素を権力に内包させているというのが私の見方だが、そうなると、世界はファシズムに席巻されているということか。かつての世界戦争が帝国主義間の戦争であって、どちらに見方しても帝国主義に見方することになったように、今の戦争はどちらに見方してもファシストに見方することになるのでは、と思う。(ファシズムはやっかいだが重要な概念なので情緒的に使うべきではないが、とりあえず、ここでは「ファシズム」と呼んでおきたい) (小倉利丸)


ウクライナ、極右民兵の真実―ロシアは、ゼレンスキー軍の危険な派閥に力を与えている
Aris Roussinos (UnHerdの海外部門編集者、元戦争記者)

どのような戦争でもそうだが、ウクライナ戦争では、おそらく他の戦争以上に、それぞれの側のネット上の支持者による主張と反論が錯綜している。真実、部分的真実、そして真っ赤な嘘が、メディアのシナリオの中で覇権を争っている。ロシアがウクライナを「脱ナチス化」するために侵攻したというウラジーミル・プーチンの主張は、間違いなく最も明確な例の1つである。2014年のマイダン革命は「ファシストのクーデター」であり、ウクライナはナチス国家であるというロシアの主張は、クリミア占領と同国東部のロシア語を話す分離主義者への支援を正当化するためにプーチンとその支持者によって何年も用いられ、多くのオンライン信奉者を獲得してきた。

しかし、このロシアの主張は誤りである。ウクライナは、不完全ではあるが、真の自由民主主義国家であり、自由選挙によって、2019年にリベラル・ポピュリストの改革者であるVolodymyr Zelenskyyが選ばれるなど、重要な権力交代が行われている。ウクライナは明らかに、ナチス国家ではない。ロシアの詭弁は嘘である。しかし、ロシアのプロパガンダに弾みをつけたくないというウクライナや欧米のコメンテーターの当然の願いが、行き過ぎた修正につながり、最終的にウクライナにとって有益なものとはならない危険性があるのだ。

BBCラジオ4の最近のニュース番組で、特派員が「プーチンがウクライナ国家がナチスを支持しているという根拠のない主張」に言及した。これは、それ自体が偽情報である。ウクライナ国家が2014年以降、ネオナチを含む極右民兵に資金、武器、その他の支援を提供していることは、BBC自身が以前から正確かつ十分に報道している観察可能な事実である。これは、新しい観察でもなければ、議論を呼ぶようなものでもない。2019年、私は『ハーパーズ』誌の取材で、国が支援する極右集団の幹部たちにウクライナで時間をかけてインタビューしたが、彼らは皆、自分たちのイデオロギーと将来計画についてかなりオープンだった。

実際、ウクライナの極右グループに関する最も優れた報道のいくつかは、オープンソースの情報発信源であるBellingcatによるものだ。Bellingcatは、ロシアのプロパガンダに肯定的な態度を示すことで知られているわけではないのだが。過去数年間、このあまり議論されていないトピックに関するBellingcatの優れた報道は、主にウクライナで最も強力な極右団体であり、国家の大盤振る舞いを最も受けているアゾフ運動に焦点を当てたものである。

過去数年間、Bellingcatの記者たちは、アゾフのアメリカ白人民族主義者への働きかけや、ウクライナ国家による「愛国心教育」と復員兵の支援のための資金提供を調査してきた。また、アゾフがネオナチのブラックメタル音楽祭を主催していることや、亡命中の反プーチン系ロシア人ネオナチグループWotanjugendの支援についても調べている。Wotanjugendは非常に周縁な形の秘教的ナチズムの実践者で、キエフ本部でAzovと場所を共有し、前線で彼らと共に戦っており、クライストチャーチ銃撃犯のマニフェストのロシア語版の翻訳と普及にも一役かっている。残念ながら、ウクライナの極右エコシステムに関するBellingcatの貴重な報道は、ロシアとの戦争がこれらのグループにある種のルネッサンスをもたらしたにもかかわらず、現在の敵対行為が始まってから更新されていない。

アゾフ運動は、ウクライナのネオナチ集団「パトリオット・オブ・ウクライナPatriot of Ukraine」の元リーダーであるアンドリー・ビレツキーAndriy Biletskyが、選挙によってロシア寄りの大統領となったヴィクトール・ヤヌコヴィッチに対するマイダン革命の際にキエフの中心部の独立広場を占拠しようとした闘いの中で2014年に創設されたものである。2010年当時、ビレツキーは、「世界の白色人種を率いて、セム人主導の野蛮人に対する最後の聖戦を行う」ことが、いつの日かウクライナの使命になるだろうと主張していた。革命とそれに続く戦争は、彼が長い間切望していた国家の舞台を提供することになる。

右翼セクターRight Sectorなどの他の極右グループと並んで、新生アゾフ運動はウクライナ治安警察との戦闘で外敵としての役割を果たし、121人の死者を出して、革命の成功を確かなものにしたのである。独立広場のすぐ近くにある大きな敷地を国防省から取得したアゾフは、現在コサックハウスと名付けられたその建物をキエフの本部とリクルートセンターにした。アゾフはその後、そのレトリックをトーンダウンさせ、その戦士の多くはイデオロギーを持たず、単にその武闘派の評判に惹かれているのかもしれないが、その活動家はしばしばSSのトテンコップや稲妻のルーンの刺青で身を包み、あるいはナチの秘教的シンボルのゾネンラート SonnenradやブラックサンBlack Sunを身につけていることが見受けられる。ゾンネンラートは、SS幹部がオカルト的な聖地として選んだドイツのヴェヴェルスブルク城でヒムラーのために作られた模様に由来し、アゾフの公式シンボルの一つであるSS Das Reich部門のWolfsangelのルーンのように、彼らの部隊パッチや戦闘員が松明をともす儀式で行進する際の盾に付けられていたものである。

コサックハウスには、ウクライナ警察のパトロールを補佐する民兵組織 National Militia のリーダー、イホール・ミハイレンコIhor Mikhailenkoや、アゾフの国際書記局で知性派の中心人物、オレナ・セメニャカ Olena Semenyakaらアゾフの幹部を何度も訪ね、インタビューしたことがある。コサックハウスには、国の資金で提供する教育講義用の教室のほかに、Azovの文学サロンと出版社「プロミンPlomin」があり、三島由紀夫、コルネリウス・コドレアヌCornelius Codreanu、ユリウス・エボラJulius Evolaといったファシストの著名人の豪華なポスターの下に、若いヒップスター知識人が右派セミナーや本の翻訳にいそしんでいる。

しかし、アゾフの力は銃に由来するものであり、彼らの文学的努力に由来するものではない。2014年、ウクライナ軍が弱体で装備不足だった頃、ビレツキー率いるアゾフの志願兵は、東部のロシア語圏分離主義者との戦いで前衛として戦い、現在包囲されているマリウポリ市を再制圧した。アゾフの東部での活動は、効果的で勇敢な、高度にイデオロギー的な戦士として、国家の防衛者として大きな名声を得、感謝するウクライナ国家の支持を得て、アゾフはウクライナ国家警備隊の公式連隊として編入された。この際、アゾフは有力なオリガルヒであり、2014年から2019年にかけてウクライナの内相を務めたアルセン・アヴァコフArsen Avakovの支援を受けたとされる。

ウクライナの人権活動家も、対立する極右団体のリーダーも、アヴァコフの後援によってアゾフ運動がウクライナの右翼圏で支配的な役割(選挙監視員国家公認の補助警察としての公式機能を含む)を確立するという不公平な立場を得たと、私にインタビューで訴えた。ウクライナはナチス国家ではないが、ウクライナ国家が正当な理由であれ何であれ、ネオナチやナチスに連なる集団を支援することは、この国をヨーロッパの中でも異端な存在にしている。欧州大陸には極右団体が数多くあるが、国家の支援を受けて自前の戦車部隊や大砲部隊を保有しているのはウクライナだけである。

欧米が支援するリベラル・デモクラシー国家と大きく異なるイデオロギーの武装勢力との間のこのぎこちない密接な関係は、過去にウクライナの欧米支援者に不快感を与えたことがある。アメリカ議会は近年、アゾフがアメリカの武器輸送を受け取るのを阻止すべきかどうかで一進一退を繰り返しており、2019年には民主党議員がアゾフをグローバルなテロ組織としてリストアップするよう要求しているほどだ。セメニャカはインタビューで、こうした不安はロシアのプロパガンダに耳を傾けた結果だと苦言を呈し、アメリカがアゾフに協力することは双方にとって有益であると主張している。

その意味で、今回の戦争はアゾフにとって幸いなことであったことは間違いない。ビレツキーが立ち上げた政党「ナショナル部隊 the National Corps」の成果はほとんどなく、ウクライナの極右政党の連合体でさえ、前回の選挙で議会代表の非常に低いハードルをクリアすることができなかった。ウクライナの有権者は、彼らが売っているものを欲しがらず、彼らの世界観を拒否しているだけなのだ。しかし、戦時下においては、アゾフや 同様のグループが最前線に立ち、ロシアの侵攻によって、アヴァコフが国際的な圧力によって辞任した後の下降スパイラルから反転したかのようである。彼らのソーシャルメディアから判断すると、アゾフの武装部隊は拡大を続けている。ハリコフとドニプロでは新しい大隊を、キエフでは新しい特殊部隊(ビレツキーは少なくとも首都防衛の一部を組織している)を、イワノ=フランキフスクなど西部の都市では地方防衛民兵を組織している。

カルパツカ・シチKarpatska Sich(ロマ人などウクライナ西部のハンガリー語を話す少数民族に対して過激な攻撃を行い、ハンガリー政府から批判を浴びた)、東方正教会グループ「伝統と秩序Tradition and Order」、ネオナチグループC14、および極右武装集団フライコルプスFreikorpsのような他の極右集団とともに、ロシアの侵略によってアゾフは以前の名声を取り戻し、通常のウクライナ海兵隊とともにマリウポリで頑強に戦ったことで 英雄の評判を高めることができたのである。ほんの数週間前までは、アゾフを直接武装させないという西側の努力があったが、今では西側の軍需品と訓練の主要な恩恵を受けているようだ。ベラルーシの野党放送局NEXTAがツイートしたこれらの写真では、アゾフの戦闘員がぼかしたトレーナーからイギリス製のNLAW対戦車弾の使い方を教わっているのが写っている。

同様に、ロシアの侵攻まで、西側政府や報道機関は、西側のネオナチや白人至上主義者がアゾフやその同盟国のナチス下部組織と一緒に戦う経験を積む危険性について、頻繁に警告を発していた。キエフに新しく到着したイギリス人を含む西洋人ボランティアの最近の写真には、スウェーデンのネオナチで元アゾフのスナイパーだったミハエル・スキルトMikael Skilltと並んで、アゾフのOlena Semenyakaが後ろで楽しそうに微笑んでいるのが写っている。実際、アゾフとともに戦う西側のネオナチの部隊であるミサントロピック師団Misanthropic Divisionは、現在テレグラムで、ヨーロッパの過激派が志願者の流れに加わり、「勝利とヴァルハラのために」ウクライナで彼らと合流するよう宣伝している。

ウクライナの他の極右民兵と同様に、アゾフは執念深く、規律正しく、献身的な戦士だ。だからこそ、弱いウクライナ国家は、マイダン革命、2014年以降の分離主義者との戦い、そして現在のロシアの侵略をかわすために、最も必要な時に彼らの力に頼らざるを得なかった。海外では、彼らの役割について率直に語ることに対して、ある種の遠慮が新たに生じている。それは間違いなく、そうすることでロシアのプロパガンダに弾みをつけてしまうことを恐れてのことだろう。ロシアがウクライナに干渉しているからこそ、アゾフのような集団が存在するのだ。ロシアの攻撃は、ウクライナを脱ナチス化するどころか、ウクライナ軍における極右派の役割と存在を強固にし、ウクライナ人の圧倒的多数が拒絶する衰えかけた政治勢力を再活性化させるのに役立っているのだ。

アゾフのような集団がもたらす第一の脅威は、ロシア国家にあるわけではない。ロシアはワグネル傭兵団Wagner mercenary group分離主義共和国の極右勢力を喜んで支援しており、また、不満を持つ市民が彼らとともに戦闘的役割を果たすことになるかもしれない西側諸国にとっても同様である。むしろ、アムネスティヒューマン・ライツ・ウォッチが以前から警告してきたように、将来のウクライナ国家の安定に対する脅威なのである。今はまだ役に立つかもしれないが、ウクライナの自由主義政権が崩壊するか、キエフからポーランドやリヴィウに避難するか、もっと可能性が高いのは、ゼレンスキーが何かのきっかけでウクライナの領土を明け渡す和平協定にサインさせられた場合、アゾフのようなグループは国家の生き残りに挑戦して、局所的にでも自らの権力基盤を強化する絶好機を見出すかもしれないのである。

2019年に、私はセメンヤカに、アゾフはまだ自分たちを革命的な運動と見なしているのかと尋ねた。慎重に考えて、彼女は「私たちはさまざまなシナリオに対応する準備ができています」と答えた。もしゼレンスキーが(元大統領の)ポロシェンコよりもさらに悪い人物で、同じようなポピュリストでありながら、ある種のスキルやコネクション、背景を持たずにいたら、もちろん、ウクライナ人は大きな危険にさらされるでしょう。そして私たちはすでに、たとえば(ゼレンスキーが)クレムリンの操り人形になってしまうような場合に、ウクライナ国家を救うために何ができるか、どのようにパラレルな国家構造を構築できるか、これらの参加戦略をどのように調整するか、という計画を立てている。それは十分にあり得ることだからだ。」。

アゾフの幹部は、長年にわたって、ウクライナはリベラルな者、同性愛者、移民からヨーロッパの「奪還」のための跳躍台として独自の可能性を持っていると明言してきた。彼らの大陸横断的な野望が成功する可能性は非常に疑わしいかもしれないが、戦後の荒廃し、貧しく、怒りに満ちたウクライナ、あるいはさらに悪いことに、中央政府の管理外の広大な地域で長年の砲撃と占領に苦しむウクライナは、ヨーロッパで何十年も見られなかった極右過激派の繁殖地となるに違いないのである。

今、ウクライナとゼレンスキーは、国家の存亡をかけた戦いに勝利するために、ナショナリストや 極右の民兵の軍事能力やイデオロギー的熱意を必要としているのかもしれない。しかし、戦争が終わったとき、ゼレンスキーも彼の西側支援者も、自分たちが誓った自由民主主義の規範と真っ向から対立する目標を持つ集団に力を与えないよう、十分に注意しなければならない。アゾフ、伝統と秩序カルパツカ・シチに武装させ資金を提供することは、戦争によって強いられた難しい選択の一つかもしれない。しかし、戦争が終わったときには、武装解除が優先さ れるべきであることは確かである。

シリアで見たように、市民を過激化させるものは、土地を奪われ、爆撃を受け、砲撃されること以外にはないのである。シリアと同様、軍事的有用性のために過激派に一時的に力を与えることは、間接的にせよ、重大で意図しない結果をもたらす危険性があることは確かである。シリアでも、西側の論者たちは、反政府勢力はすべてテロリストであるというアサドのプロパガンダを正当化することを恐れて、後に反政府勢力を共食いさせることになる過激派民兵の台頭を論じることに早くから強いタブーを設けていた。この初期の遠慮は、結局、反政府勢力に有利に働くことはなかったのである。

ウクライナにプーチンに対抗する過激派がいることを率直に認めることは、プーチンの仕事を助けることにはならない。実際、彼らの活動を注意深く監視し、おそらくは抑制することによってのみ、今後数年間に彼らがウクライナの惨状を深めることがないようにすることができるのである。何年もの間、西側のリベラルな論者たちは、ウクライナ国家が右翼過激派に対して目をつぶっていると苦言を呈してきた。同じ論者たちが今度は自分たちで同じことをしても、何の意味もないだろう。

出典:https://unherd.com/2022/03/the-truth-about-ukraines-nazi-militias

付記:下訳にDeepLを用いました。