前代未聞の弾圧を受けるロシアの反戦デモ

以下はAvtonomに掲載されたロシア国内の反戦運動と権力による弾圧についてのレポートです。Avtomomはロシアとウクライナを拠点とするグループで、「直接民主主義、自治、連邦主義などの原則に基づいたリバータリアンコミュニズム(自由社会主義)の実践を目標とする地域のアナルココミュニズムの団体」と自己紹介しています。ロシア国内の反戦運動についての情報は日本でも様々紹介されているが、この記事はロシア国内のフェミニストたちの活動に注目するとともに、ロシア警察、治安機関の弾圧や弾圧目的の法制度がいかに過酷な状況をもたらしているかについても言及している。丁寧なリンクもある。(小倉利丸)

3月5日、モスクワ北東部の小都市イワノボの公共広場に、手製の看板を掲げた一人ピケが立っていた。”*** *****”. これは、プーチン大統領のウクライナ侵攻を戦争と呼ぶことが刑罰の対象となり、ロシアの独立系メディアの最後の痕跡が放送中止するという検閲の新しい波を暗示している。前日、最高刑期3年の「ロシア軍の信用毀損」禁止の新法がロシア国会で可決され、警察がこのスタンディングの抗議者を逮捕したのは、この法律を理由にしたものだった。その後も、アスタリスクだけの看板を掲げたり、白紙を掲げる抗議者を逮捕するために、同じ法律が使われた。ロシアの人権メディア団体OVD-Infoによると、3週間前の開戦以来、少なくとも14,906人が侵攻抗議を理由に逮捕されたという。

原文はAvtonomが発表した。

政府の弾圧が厳しくなっているにもかかわらず、ロシア全土で戦争に対する目に見える分散した抵抗が起こっている。デモ隊は少なくとも150の都市で抗議行動を起こしている。彼らは公共スペースに反戦の落書きをし、一人ピケット(最近まで、政府が大規模な抗議活動の許可を差し止めたとき、一個人が反対意見を表明する安全な方法だった)を張り、何千人もの参加者を集めた無許可のデモ行進に参加した。これは首都に限った抗議運動だとは言えない」と、旧ソ連のアナーキストとリバタリアン共産主義者の運動『自治行動(AD)』のメンバーが暗号化された電子メールサービスを通じて私たちに書いてきた。「カリーニングラードからウラジオストクまで」、言い換えれば、ロシアの最も西から最も東の国境まで人々が通りに出たと述べている。このメールには次のように書かれている。「人々は、次々に明かになる恐怖に対して反対意識を共有することによって、街頭に繰り出した。『戦争は止めなければならない、プーチンは退陣すべきだ』という以上の政治的信条を共有しているわけではない」(ロシアで話を聞いた活動家たちは、反戦の意見を表明すると刑務所に入る恐れがあるため、全員匿名を希望した)。

ADによれば、反戦デモにはナチスのレニングラード封鎖を生き延びた高齢者や幼い子どもを持つ親など、ロシア民衆の多世代が参加しているが、デモ参加者の大半は30歳未満で、10代や10代もかなり参加しているという。40年前にボストンで始まり、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアに支部を持つビーガン反戦団体「Food Not Bombs」の若い主催者は、彼らが住むロシアの主要都市では、「多くの大人は無関心かプロパガンダに洗脳されている」が、若い人々は、確証はないとはいえ、現在の弾圧以前に国家統制のないソースからニュースを探す傾向が強かったと言う。

ロシアの政治理論家であり活動家であり、ニューヨークのニュースクールの博士課程に在籍するアナスタシア・カルクAnastasia Kalkは、Zoomコールで「これらの抗議は、既存の活動家のネットワークを利用しながらも、ほとんどが自然発生的で分散的です」と語っている。同時に、参加者のなかには、サンクトペテルブルクを拠点とするフェミニスト集団「Eighth Initiative Group(EIG)」や社会主義フェミニスト「SocFem Alternative」など、長年活動しているグループもおり、それらのコミュニケーションチャネルは、チラシの掲示やデモ隊の動員などで地元で活用されてきた。EIGのあるメンバーは、テキストメッセージの中で、緊密に結びついたフェミニストの親密なグループは「コミュニティを形成し、確立された絆」を持っており、それは「新しい脅威に直面したときに活性化」できる、と述べている。抵抗の最初の組織的な呼びかけは、ロシアとロシアのディアスポラ内のフェミニストの友好関係にある諸団体による新たな運動フェミニスト反戦レジスタンスFeminist Anti-War Resistanceからのもので、抗議行動に一定の組織性を持たせようとするものである。Kalkが翻訳を手伝ったこの運動のマニフェスト[日本語訳、こことかここ:訳注]では、「ウクライナの戦争とプーチンの独裁に反対するオフラインとオンラインのキャンペーン」を呼びかけている。

この抗議運動は、10年以上にわたって積み重ねられてきた抑圧の文脈の中で行われている。2011年と2012年に行われた不正な議会選挙結果に端を発した反政府デモの大波の後、プーチンは2013年に2つの抑圧的な新法を成立させ、その権力を強固なものにした。1つは、同性愛者の権利や同性間の関係の存在について公に議論することを違法とする法律。もうひとつは、フェミニストのパンクグループ、プッシー・ライオットPussy Riot’がモスクワの救世主キリスト大聖堂[救世主ハリストス大聖堂]で行った反プーチン抗議パフォーマンスをきっかけに、「宗教的感情に対する違反」を最高3年の禁固刑に処するものだ。どちらの法律も、プーチン政権とロシア正教の結束を固め、女性やLGBTQ+の人々に対する国家の暴力に道徳的な援護を与えるものだ。亡命したロシア人活動家で学者のリョーシャ・ゴルシコフLyosha Gorshkovは、RUSA LGBT(ロシア語圏アメリカLGBTIQA+協会)の共同代表として、反同性愛法が現在の弾圧の波の土台を作るのに役立ったと指摘している。政府は、まず社会から疎外されたコミュニティをターゲットにすることで、「世間の様子を伺った」のだ。

カルクは「正確にいつ事態が本格的に悪化したのかを言うことはできない」としながらも、2011年以降、「毎年、悪化の一途をたどっている」と指摘する。5、6年たつうちに、「大規模なデモを組織できることを誰も覚えていない状態になった」と彼女は語る。私たちの取材では、年配のロシア人活動家から、権力を強化し、社会から疎外された人々に対する暴力を合法化したプーチン政権を阻止するのに十分なことをしてこなかった、という後悔と怒りの言葉を何度も耳にした。「私の世代の多くは、ポジティブな政治的変化への希望を失っていました」と、2012年と2013年に抗議行動に参加したモスクワの30代の女性、ソーニャは書いている。

プッシー・ライオットのマリア・アリョーヒナMaria Alyokhina、ナデージダ・トロコンニコワNadezhda Tolokonnikova、エカテリーナ・サムツェビッチYekaterina Samutsevichといった有名な活動家の裁判を含む抗議行動への弾圧には、メディア企業や市民社会団体の閉鎖と検閲が伴った。TV Rainのような独立系テレビ局は放送を打ち切られ、インターネットに移行させられた。同時に、ロシアの左派グループは、組織化および情報発信の戦略を調整した。たとえばADは、「(会員制、地域支部などを持つ)組織のネットワークから、ウェブサイト、ソーシャルネットワーク、ポッドキャストを持つメディア集団に変貌した」とメンバーは書いている。しかし、独立系オンラインメディアの成長に伴い、国家はブロガーやYouTuber、そして独立系メディアのウェブサイトやTwitterなどのソーシャルメディアプラットフォームをホストしているロシアの通信事業者ターゲットにした。ウクライナ侵攻を控えた2021年末には、1990年代から放送されていた愛すべきラジオ局「Echo of Moscow」など、少数の独立系メディアしか残らなかったが、これらも放送を続けるために政府に大きく妥協をした。

プーチンのウクライナ侵攻以来、抗議者たちはオンライン・ネットワークを利用して嘆願書やデジタル・チラシを配布し続けているが、街頭にも戻ってきている。EIGの主催者は、「街頭でのアジテーション、ビラ、ステッカーが勢いを増している」と指摘した。FNBのオーガナイザーも、この意見に賛同している。「私たちは行動に出て、落書きやビラやステッカーを使って、戦争に反対するよう人々を扇動している」。

しかし、主催者は、抗議に人々を集めようとするときでさえ、デモ参加者を危険にさらすことを避けようとしている。3月6日3月13日にロシアの数十の都市を席巻した無許可の路上抗議行動は今も続いているが、フェミニストの主催者たちはより安全なタイプの行動を求めている。例えば、Feminist Anti-War Resistanceは、無料のメッセージングアプリTelegramの公開チャンネルで、国際女性デーを取り戻すことを呼びかけた。3月8日、ロシア全土(およびソビエト連邦後の移民コミュニティがある場所)で、孤独な抗議者たちが、戦争に対する抵抗の表現として、第二次世界大戦記念碑に静かに花を供えた。ある者はウクライナの国旗の色を表す青と黄色の花を残し、またある者は花束に反戦のメッセージを添えた。主催者は、警察がこの孤独な行動を見過ごす、あるいは愛国心と解釈することを期待した。Telegramチャンネルでは、参加者が写真を共有し、記念碑に到着して他の花束を見つけると、孤立感が和らいだと述べている。

抗議者がどのように自分の意見を表明しようとも、戦争に抵抗する者にとって投獄は非常に現実的なリスクだ。抗議者は常に「フーリガン」や「無許可の街頭行動」で逮捕される可能性があるが、「ロシア軍の平和維持活動の信用を傷つけること」を犯罪とする新法の下では、一度目の逮捕は罰金の対象となり、二度目の逮捕は「街を二度散歩しただけで3年の刑事罰につながる」(ADメンバー)という。カルクは、このような法律は恣意的に執行されていると強調する。「街頭抗議行動で逮捕されても、何もされないこともあれば、15日間、2年の刑に処せられることもある。警察は多くの場合、誰でも逮捕してしまうし、ベテランの活動家でない人も無作為に捕まえてしまうのです」。

こうした散発的な路上での逮捕に加え、政府は組織的に主催者を標的にしてきた。3月6日のデモの前日、EIGのフェミニストを含む有名な活動家の家に、軍国主義の連邦警察部隊(頭文字をとってOMONと呼ばれている)の警官が押し入った。「逮捕後に何が起こるかは、どの部署に拘束されるかによります」とADは説明する。「ある部署では、丁寧に尋問し、パスポートのデータを集めて、釈放される可能性があります」あるいは、デモ参加者アレクサンドラ・カルジスキフKaluzhskikhや他の女性たちは、3月6日のデモで拘束された後、モスクワ南西部のブラテエヴォ警察管区で殴られ、水をかけられた。彼らに使われたような戦術を、尋問者が用いることもできる。カルジスキフの拷問を密かに録音した記録は、ロシアに現存する数少ない独立系出版社Novoya Gazetaに掲載され、米国の雑誌n+1が翻訳した。この録音では、尋問官がカルジスキフの顔や頭を殴っているのが聞こえます。「彼らは誰を殴り、誰を拘束しようが気にしない。最近、妊婦まで拘束されたと聞いた」とFNBメンバーは書いている。このFNBメンバーは、すべての管区がすでに逮捕されたデモ参加者でいっぱいだったために、郊外に車で移送された。「無防備の人々に嫌がらせをし、虐待すること、それが彼らの仕事だ」とFNBメンバーは書いている。

逮捕の脅しや拘束中の身体的虐待のほかにも、政府がかけることのできる圧力はある。私たちが話を聞いた主催者の一人は、最近逮捕された後、上司が警察の注意を恐れたため、仕事を失ってしまった。フェミニスト反戦レジスタンスのTelegramチャンネルによると、ロシア連邦文化省は、さまざまな文化施設の館長に圧力をかけ、戦争反対の署名活動をした職員のリストを要求しているとのことだ。すでにレイオフも始まっている。Telegramのフェミニストやアナーキストのチャンネルでは、職場で反戦の意見を表明したことで標的にされたらどうするかというチラシが出回っているが、こうしたチラシを回すことさえ非常に危険なのだ。戦争が始まって数日後、ロシアの通信規制当局は、Echo of MoscowとTVRainが放送で「戦争」という言葉を使用したことを理由にブロックした。また、ロシア軍に関する「フェイクニュース」の出版を禁止する新しい法律では、15年の刑期が課すことができる。さらに政府は、外国組織に援助を提供した場合、反逆罪で最高20年まで投獄できるという休眠中の法律の復活も公表した(独立系ジャーナリストは、この法律が自分たちを標的にするために使われる可能性があると考えている)。これらの法律は本質的に、ソ連時代の言論の自由に対する制限に逆戻りさせ、反戦的なソーシャルメディアの投稿でさえ、反体制的なサミズダットの地位を与えてしまう。「FNBのメンバーは、「何かを再投稿しただけで刑に処されるのは恐ろしいことだ」と言う。

この弾圧によって、多くの活動家が限界に達している。2011年以降の弾圧の後、ロシアに残ったフェミニスト活動家たちは、「ここ数日のうちに国外に脱出せざるを得なくなった」とカルクは3月1日に述べた。実際、このような国外脱出は、反戦運動の組織化の多くが海外、つまり経験豊富な活動家の多くが行き、発言することが比較的安全なロシアのディアスポラで起きているということを意味していると、彼女は言う。それでも、侵攻以来、反戦運動家たちは毎週末、ロシアで行動を起こしている。彼らは「強権的な弾圧にもかかわらず、勇敢に」行動していると、ADのメンバーは書いている。

私たちは、ソーシャルメディア上で声高に戦争に反対していたロシアの若いオーガナイザーと連絡を取っていた。3月3日、彼らは 「安全な空間 」に入ったら、私たちの質問に回答するとメッセージを送ってきました。その後、彼らは連絡を絶った。数日後、彼らはInstagramに再登場し、今は亡命中であると書いた。「ウラジーミル・プーチンが放った野蛮な戦争に反対したことが理由で、まさか身の危険を感じて祖国や友人、家族を離れなければならないとは考えもしませんでした」と彼らは投稿した。

オクサナ・ミロノワ、ベン・ナドラー

出典:https://enoughisenough14.org/2022/03/31/russias-anti-war-protesters-are-facing-unprecedented-repression/

オリジナル記事は下記に投稿されました。

https://avtonom.org/en/news/russias-anti-war-protesters-are-facing-unprecedented-repression

下訳にDeepLを用いました。