共謀罪と「道義刑法」の亡霊
以前、述べたように、共謀罪は、現行刑法の基本的な枠組みを根底から覆し、自民党改憲草案に対応した国家による犯罪と刑罰の体制を構築する試みの一環として位置づけなければならないから、問題は、憲法を含むこの国の統治の基本を根底から覆す可能性をもつものだ。 戦後憲法は戦前の憲法と比べて基本的人権の保障を大幅に拡張したことが最大の特徴の一つだと言われてきた。憲法は前文で「わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保」することを宣言し、第三章はまず個人の自由を権利として保障することをとりわけ強調した戦後憲法の理念は、国家権力が個人の自由に干渉・介入してはならないということを戦前の憲法との大きな差異として打ち出したことを意味した。戦後の憲法が大幅な人権保障を国家に命ずるものであるなら、同時に刑法の基本的な考え方も根本から改訂されなければならないように思う、現実にはそうはならなかった。 刑法には、戦前と戦後を通底するこの国の近代国民国家としての権力とイデオロギー、あるいは秩序と支配における一貫した国家観を読み取ることができる。明治期に成立した刑法は、現在まで、資本主義的な国民国家としての一貫性を保つため […]