共謀罪は改憲の先取りである
共謀罪批判の議論で不十分なのは改憲との関わりだろうと思う。 現行刑法は明治刑法が維持され、その成立は1907年である。第一章の大逆罪や不敬罪などの「皇室ニ對スル罪」が削除され、治安維持法、国防保安法なども廃止されたが、刑法の基本的な発想はそのまま残っており、内乱罪など国家への犯罪が刑法冒頭を占める構造は、最大の犯罪行為を国家に対する犯罪とする発想を示している。 しかも、戦時期に刑法学者が果した戦争責任問題への追及は曖昧なままだ。天皇主義イデオロギーを前提とした戦前・戦中の刑法学者(国体の本義に基づく日本固有の法学の確立を目指した「日本法理研究会」がその代表格か)が戦後も有力者としてそのまま残った。たとえば、小野清一郎は、法に「日本の道義」を持ち込み、天皇主義的な国家主義法学を唱道して西欧由来の法制度を批判したが、彼は戦時中の立場を戦後も公然と肯定しつつ、東京第一弁護士会会長、法務省顧問、70年代の刑法改正の中心的な役割をも担った。刑法学者の戦争責任問題への批判は、中山研一や白羽祐三(民法学者だが)など少数に限られ、法曹界総体の反省のスタンスは曖昧なままではないか。だから、憲法と違って、 […]