第二回自由大学「あらゆるアートは共謀/狂暴である」

反政府プロパガンダを共謀する! 国会で上程が予定されている共謀罪(政府は「テロ等準備罪」と言う)は、600以上の違法行為を対象に、相談や目配せだけで(実際にやろうとやるま いと)犯罪にするというとんでもない法案だ。この法案はアーティストにとってもかなりヤバい!共謀罪は文化弾圧でもあり、ストリートの自由を圧殺し、対抗 文化を根絶やしにする。だからこそ、今あえて、共謀罪に反対するアクションを共謀し、戦時極右政権の下での反政府プロパガンダを共謀しなければならないの ではないか!? スピーカー:小倉利丸(『絶望のユートピア』著者) 共謀罪批判のアウトラインとアート・文化運動との関りについて話します。 日 時:2017年4月1日(土)19:00~21:00/18:30 Open 場 所:素人の乱12号店|自由芸術大学 杉並区高円寺北3丁目8-12 フデノビル2F 奥の部屋 資料代:500円+投げ銭(ワンドリンクオーダー) 出典 自由藝術大学

共謀罪も越境組織犯罪防止条約もテロを防止できない

共謀罪の閣議決定後の記者会見で、金田法相と岸田外相は次にように共謀罪の必要に言及した。 金田法務大臣の記者会見発言 「今回の改正は,近年における犯罪の国際化及び組織化の状況に鑑み,テロを含む組織犯罪を未然に防止し,これと戦うための国際協力を可能とする「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」,いわゆるTOC条約を締結するための法整備として行うものです。3年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を控えた中,TOC条約の締結のための法整備は重要なものであり,急務であると考えています。」 岸田外務大臣の記者会見発言 「ご指摘のように,本日の閣議で国際組織犯罪防止条約の国内担保法が閣議決定されました。この条約は,既に187か国が締結をしています。こうした条約を我が国も締結し,テロを含む組織犯罪と闘うことは,2019年のラグビーワールドカップ,2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控える我が国にとって,重要なことであると考えます。 この条約締結に必要な「テロ等準備罪」を創設することで,テロを含む組織犯罪を未然に防ぐことが可能になるほか,国際協力が促進され,深刻化する […]

既遂処罰原則を揺がす共謀罪と監視社会に対抗する視点とは

ついに共謀罪法案が閣議決定された。法案の条文についての逐条批判は私の役割ではないので、これまで書いてきた批判の流れのなかで、いくつか述べる。 私は悲観論者なので反対運動にとって元気になるようなことは書けない。むしろ危惧すべきことばかりを書いてしまうのだが、やはり率直に私が感じている危惧を書いておく必要があると思う。 共謀罪の反対世論はようやく徐々に拡がり始め、たぶん現状は賛否拮抗というところだろう。国会の動向は私には何ともいえないが(政局を論じるのは苦手だ)、不安材料がいくつかある。ひとつは、法律の専門家たちの動向だ。少なくとも共謀罪のような行為以前の意思を犯罪化するような発想を、少なからぬ刑事法の専門家たち、たとえば、法務省刑事局の立法担当者や国会の法曹資格をもつ与党議員たち、学界や法曹界の実務家が肯定しているのではないかという疑問だ。「暴力団」(これは警察用語なので中立的な用語ではない。当事者に即せば「やくざ組織」ということか)の被害者対策の弁護士らを中心に130名の弁護士が、越境組織犯罪防止条約の締結のために共謀罪成立の必要を提言したと報じられている。(弁護士ドットコム)他方で刑 […]

自民党改憲草案と共謀罪──反政府運動の非犯罪化のために

前の投稿で改憲問題に簡単に言及したが、ここではやや詳しく私見を述べておきたい。 共謀罪法案の国会審議が本誌発行の時点でどのように進展しているのか、現在の執筆段階(三月一九日)からは見通しがたてにくい。二〇〇三年以降幾度となく上程‐廃案を繰り返してきたことからもわかるように、「共謀」の犯罪化は刑法の根底を覆す深刻な問題をはらんでおり、専門家の間ですら合意がとられていない。(注1)廃案を繰り返してきた法案を執拗に再上程する与党側の対応は尋常とはいえず、表向きの立法の必要性(越境組織犯罪防止条約の批准)に必要な前提となる国内法整備とは別の思惑がるのではないかと判断せざるをえない。誤解を恐れずに言えば、共謀罪への強いこだわりは、安倍政権がしきりに口にするようになったテロ対策ですらないと思う。それよりももっと根源的なところでの制度の転換が意図されているのではないか。それは一言で言えば、自民党が目論む改憲(二〇一二年「改憲草案」)を先取りした刑事法制全体の転換を意図したものではないかということである。自民党改憲草案(注2)では、憲法二一条の表現の自由条項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の […]

共謀罪は改憲の先取りである

共謀罪批判の議論で不十分なのは改憲との関わりだろうと思う。 現行刑法は明治刑法が維持され、その成立は1907年である。第一章の大逆罪や不敬罪などの「皇室ニ對スル罪」が削除され、治安維持法、国防保安法なども廃止されたが、刑法の基本的な発想はそのまま残っており、内乱罪など国家への犯罪が刑法冒頭を占める構造は、最大の犯罪行為を国家に対する犯罪とする発想を示している。 しかも、戦時期に刑法学者が果した戦争責任問題への追及は曖昧なままだ。天皇主義イデオロギーを前提とした戦前・戦中の刑法学者(国体の本義に基づく日本固有の法学の確立を目指した「日本法理研究会」がその代表格か)が戦後も有力者としてそのまま残った。たとえば、小野清一郎は、法に「日本の道義」を持ち込み、天皇主義的な国家主義法学を唱道して西欧由来の法制度を批判したが、彼は戦時中の立場を戦後も公然と肯定しつつ、東京第一弁護士会会長、法務省顧問、70年代の刑法改正の中心的な役割をも担った。刑法学者の戦争責任問題への批判は、中山研一や白羽祐三(民法学者だが)など少数に限られ、法曹界総体の反省のスタンスは曖昧なままではないか。だから、憲法と違って、 […]

刑法をめぐる二つの危機(既遂処罰原則の危機と犯罪概念の危機)──日弁連の共謀罪反対意見書へのコメント

日弁連が、2017年2月17日付で「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」を公表した。 共謀罪についての政府側の最近の主張を踏まえた批判となっており、その内容の大筋については異論はない。内容もわかりやすく、法律の専門家ではない人たちにも理解できる内容になっていると思う。この日弁連の批判を踏まえた上で、日弁連の意見書では言及されていない論点について言及してみたい。 日弁連意見書は、批判の論点を「共謀罪法案は,現行刑法の体系を根底から変容させるものとなること 」「共謀罪法案においても,犯罪を共同して実行しようとする意思を処罰の対象とする基本的性格は変わらないと見るべきこと 」「罪名を「テロ等準備罪」と改めても,監視社会を招くおそれがあること 」に分けて展開している。これらの批判の論点に異論はなく、説得力のある批判だと思う。 現行刑法体系の原則とは以下のことだと説明されている。 「現行刑法は、犯罪行為の結果発生に至った「既遂」の処罰を原則としつつ、例外的に、犯罪の実行行為には着手されたが結果発生に至らなかった「未遂」について処罰する(刑法第44条)という体系から構 […]

絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(4・終)

絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(1) 1.今国会への共謀罪上程に際しての政府・自民党のスタンス 2.戦後体制はそもそも絵に描いた餅だったのかもしれない 絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(2) 3.共謀罪容疑での捜査に歯止めをかけることはできない 4.越境組織犯罪防止条約は批准する必要がない 絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(3) 5.共謀罪を支える操作された「不安」感情 6.テロリズムのレトリック 7.オリンピックと共謀罪(以上前回まで) 8.国会の審議は、法とその執行とは本質的に異なる次元の事柄だ 今回テロ対策を前面に据えていることから、共謀罪のターゲットが刑事犯罪一般を包摂しつつ、政治的な行為への取り締まりに重点を置くように、その対象が質的に拡大されたといえる。このことを踏まえて私が危惧するのは、これまでの警備公安警察の対応からもはっきりしていることだが、警察による恣意的な法解釈に対して、国会の議論は全く歯止めにはならないということだ。(だから審議をするこ […]

絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(3)

絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(1) 1.今国会への共謀罪上程に際しての政府・自民党のスタンス 2.戦後体制はそもそも絵に描いた餅だったのかもしれない 絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(2) 3.共謀罪容疑での捜査に歯止めをかけることはできない 4.越境組織犯罪防止条約は批准する必要がない(以上前回まで) 5.共謀罪を支える操作された「不安」感情 かつての共謀罪では、越境組織犯罪防止条約でいう文字通りの意味での組織犯罪(薬物、銃器、人身売買などを念頭に置いた条約である)を主要なターゲットとするものとされたが、その対象犯罪や処罰の内容から、深刻な副作用として、社会運動や市民運動あるいは政治活動などへの弾圧の手段として共謀罪が用いられるであろうという危惧がもたれた。しかし今回は、条約を根拠にしながらテロ対策を前面に打ち出した。このことが、反政府運動にとっては、深刻な副作用どころか、自らの運動が主要なターゲットとされて共謀罪が登場したということを意味している。こうなると共謀罪を活用するのも、刑事警察よりも警 […]

絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(2)

絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(1) 1.今国会への共謀罪上程に際しての政府・自民党のスタンス 2.戦後体制はそもそも絵に描いた餅だったのかもしれない (前回まで) 3.共謀罪容疑での捜査に歯止めをかけることはできない 政府が共謀罪から「テロ等準備罪」に名称変更したこと、そしてテロ対策を前面に押し出してきたことは、前述したように、共謀罪の本質が維持されただけでなく、政治活動や思想信条への監視・取り締まりにシフトすることになったことを意味している。また、「共謀」と呼ばずに「準備」と呼ぶことによって、準備罪の定義が共謀を含むものに拡張されることになった。安倍政権は、治安立法としての共謀罪という性格を公然と打ち出しても世論の批判は少数に留まるという強気の判断をしているのだろうと思う。 「準備罪」という名称をどう考えたらよいだろうか。これは共謀罪という評判の悪い名称を隠蔽するずる賢い手口であるだけでなく、従来からある「準備罪」の概念を共謀まで含むものに拡大してしまう恐れをもつのではないだろうか。また、犯罪を実行する目的で行なわれる準備行為を「予備罪」 […]

絵に描いた餅としての「憲法」と茶番劇の「議会制民主主義」が共謀罪を産み落す(1)

テロ対策を共謀罪法案の軸に据えてきた今回の安倍政権の戦術を念頭に置いて以下の文章を書いている。長いので分載とする。 共謀罪は、一般の刑事犯罪などにも適用されるし、反政府運動——日本ではこの表現はほとんど使われないが、あえてこの表現を復活させたい——などの政治活動にも適用される。この二つは、刑法上区別はできないが、捜査機関の捜査体制は全く異なる対応をとる。政治活動では、主として警備公安警察が共謀罪を捜査活動の道具として利用するが、その利用の手法も動機も一般刑事事件の捜査とは異なるであろうことは、多言を要さないだろう。しかし、国会における法案審議では、もっぱら一般刑事事件を念頭に置いた議論になり、警備公安警察による捜査の手法や逮捕・拘留、取調べについて、それ自身の固有の問題としては審議されることはマレではないのか。一般刑事事件における共謀罪の問題は、極めて深刻である。だから一般刑事事件を前提にして共謀罪の問題を検討し、廃案を主張することは十分可能であるし必要な主張である。その上で、あえて共謀罪が反政府運動に与える問題について別途検討することは必要なことだと思う。このことは政治犯罪を一般刑事 […]

1月26日民権com.講演会:支配階級に逆らう者には人権がない!―「共謀罪」が狙うもの―

民権com.講演会 支配階級に逆らう者には人権がない! ―「共謀罪」が狙うもの― 2017年1月26日(木)pm6:30~ 会場 ベルブ永山(永山公民館) 集会室 講師 小倉利丸さん 富山大学名誉教授・(元ピープルズプラン 研究所、元「インパクション」編集員、著書「絶望のユートピア」「抵抗 の主体とその思想」など多数) 〈オスプレイ墜落は沖縄辺野古―高江基地建設反対運動の正義を証明した〉 「支配階級に逆らう者には人権がない!」 この言葉は、現在の沖縄が 見舞われている情況、新基地建設に抵抗する人々を襲う弾圧を直視すると き、身につまされる。私たちは、この言葉の転覆を、沖縄連帯の先に見と うしていきたい。 〈「共謀罪」は民衆の声を圧殺する「治安維持法」の再来です〉 戦争法強行成立から1年がたち、安倍自民党政権はいまや自衛隊の海外 での武力行使に踏み出そうとしています。その背景には戦争のできる国と して、世界市場の覇権の一翼を担おうとする日本の支配階級―安倍自民党 政権の野望があります。こうした支配階級の暴走に立ちふさがる民衆の声 を圧殺するために、沖縄反基地闘争やアンチヘイトグループへの […]

1月22日:オリンピック災害おことわり!− Read in Speak Out −

オリンピックはもういらないと思う。予算の透明性とかナショナリズムに利用されないようにとか、様々な「改革」の提言に、実はぼくはほとんど魅力を感じない。オリンピックを口実に、野宿者が排除され、住み慣れた住居を奪われた人たちがいる。そのことだけで、そうした行政や政府の意思と権力の行使のありかたを見るだけで、オリンピックはいらないと主張するのに十分な根拠となると思う。22日の集会は、文字通り「おことわり」をメインの主張に据えたガチな集会になると思う。 オリンピック災害おことわり!− Read in Speak Out − 「2020オリンピック災害」おことわり連絡会 (東京オリンピックおことわリンク)結成へ 日 時:1月22日(日)13:30〜16:30 場 所:千駄ヶ谷区民館 集会場 資料代:500円 交 通:明治神宮前駅・JR原宿駅から徒歩9分 地 図:http://www.j-theravada.net/tizu-sendagaya.html ※11:30からは神宮橋(原宿)で反五輪の会のデモもあるってよ! 詳細はこちら → http://hangorin.tumblr.com/ ◆20 […]

Rio反オリンピック報告―オリンピックの開催都市に何が起きるか?

2016年12月21日(水)19時- 渋谷・隠田区民会館 集会室 東京都渋谷区神宮前6-31-5 ※JR原宿 6分 東京メトロ千代田線明治神宮前駅 徒歩2分 8月5日、2016リオリンピックの開会式が華やかに開催されたと報道されました。しかし、現地リオでは、巨大なデモ・学校でのオキュパイ・地下鉄、空港の関税員たちや教員のストライキなどが起り、オリンピック反対とテメル副大統領退陣の声が響く中での開幕でした。 Planetary No Olympics、反五輪の会のいちむらみさこさんが、7月27日-8月10日までリオに滞在し、オリンピックがもたらす状況をリサーチし、オリンピックに対する抵抗アクション「Jogos da exculusao(排除のゲーム)」に参加しました。 これまでもオリンピック開催都市ではたくさんの反対運動があり、オリンピックについての問題意識は確実に広がっています。ハンブルグ、ボストンでは、住民投票で招致しないことを決め、ロシアでは新市長が辞退しています。 今年、リオオリンピック・パラリンピックは開催されましたが、リオの住人たちは黙っておらず開幕中も声を上げ、確実に押し返 […]

もうこれ以上我慢ならない!──理性を越える情念の革命の復権?

ロルドンの新著の邦訳は『私たちの”感情”と”欲望”は、いかに資本主義に偽造されているか』というものだが、「偽造」というよりもむしろ飼い馴らされた感情に耐え切れずに内破するマルチチュードの激情への熱い期待、とでもいった方がいいような内容であり、理性主義的な資本主義批判への徹底した疑義に貫かれた刺激的な本でもある。 ロルドンがとりわけ槍玉にあげるのが、合理的経済人を前提として組み立てられた支配的な経済学だが、それだけではなく、理性的な資本主義批判や善意にヒューマニズムに溢れる「一人でもできる社会を変えるための第一歩」的な身の回り革命ごっこ、あるいはヒッピー風ライフスタイルの革命への辛辣なダメ出しである。 「自由意志や自己決定といった主張を退けて──ことによって、自由主義思想の形而上学的土台を破壊する。他方、自由主義思想の反対者が自由主義に対して自由主義の(主観主義的)文法の枠内で異議を唱え続けているという実態をも自覚しなくてはならない。こうした反対者たちは、無意識のうちに自由主義の根本的前提を共有していて、それは予め敗北のリスクを犯していることを意味するのである」27(断らない限り、数字は […]

越境するアンダークラス──映画『バンコクナイツ』

空族の新作『バンコクナイツ』は、今年観た映画のなかで最も印象に残り、わたしがうかつにも忘れかけていた1970年代のタイの熱い民衆の闘争を思い起させてくれた。とはいえ、決して「政治的に正しい」行儀のいい映画ではない。そこが空族の最大の魅力だ。(以下、ネタばれは最低限に抑えたつもりだが、予断なしに映画を観たい方は読むのを控えてください) バンコクの歓楽街タニヤ、60年代から70年代にかけてラオスへの米軍空爆でできた巨大なクレーター、1976年タイ軍事クーデタで追われた反政府運動の活動家たちが逃げ込んだ漆黒の森。今回の空族の作品は、バンコクからタイ東北部、そしてラオスへと連なる現に存在する不可視の動線を移動する。セックスとドラッグにしか関心をもたない日本人が、東南アジアで「ビジネスマン」と称する無自覚な植民地主義者として、タイのアングラ経済を支える。しかし、その更に舞台裏で、越境するアンダークラスの逆賊たちの群れが蠢くことを予感させる物語、それがこの映画のある種の示唆するところでもあるように思う。 空族の映画の主人公は、たいていアンダークラスの能天気なノンポリとして登場する。彼らは、いつのま […]

米大統領選挙が露呈させた国民国家と民主主義のもはやこれまで!

今回の米国大統領選挙ほどグローバルな資本主義のもとでの国民国家における民主主義が、明確にその限界を露呈したことはなかった。もともと国民国家は、階級構造が生成してきた搾取の構造を「国民」という普遍的価値を装って均質なアイデンティティを扮装することによって隠蔽する仕掛けでもあった。しかし、資本蓄積の構造(言い換えれば搾取の構造)が否応なく資本の出自を越えて(あるいは資本の出自を裏切って)展開しないではいられないほど成長=肥大化するなかで、自国とその外部という国民国家の境界に沿って、自国内の階級構造がもたらした失業や貧困の矛盾を、外部の「敵」に転嫁し、この「敵」と内通する自国内の既得権益に固執する特権層や、境界を密かに越境して「非合法」に自国の富や雇用を脅かす自国内部の他者にその責任を転嫁し、有権者である特権的な犠牲者の地位を白人労働者階級に付与するという構図が今回の大統領選挙を席巻した。トランプ陣営は白人労働者階級の一部が抱く人種的優越主義を刺激しながら「偉大なアメリカ」というイメージを構築するプロパガンダを展開した。トランプのプロパガンダは、伝統的な共和党のイデオロギーと相入れないだけで […]

書評:武藤一羊著『戦後レジームと憲法平和主義』れんが書房新社、2016

刺激的な本に出会うということは、本の内容をそのまま受け入れるということよりも、本の内容に触発されて、著者がどう思うかとは別に、私自身の考え方に一歩でも新たな展開をもたらすようなことだと思う。武藤一羊の議論は、とくに私とは目のつけどころも方法論も違うけれども、現状への危機感は多くの点で共有できるという意味で、刺激的である。本書もまたそうであった。以下では主に、本書の理論的な枠組を提示している「総論」を中心に私の雑駁な感想を述べたい。 本書は、武藤がこの間提起してきた彼の戦後日本国家論を再度整理して、とりわけ安倍政権が目指す方向への根底的な否定の根拠を論じるものだといえる。武藤は、戦後日本国家の構成原理はアメリカの覇権原理、戦後憲法の平和・民主主義原理、そして帝国継承原理の三つからなるという基本認識を提起するが、これら三原則は「相互に矛盾する構成原理で成り立つ歴史的個性を備えた国家」であるというのが武藤の重要な方法論であると同時に、ここから安倍政権が目論む帝国継承原理一元論とでもいうべき改憲を通じた戦後レジームからの脱却戦略へのオルタナティブも導き出される。武藤は安倍の歴史認識をつぎのよう […]

12月17日:今日の反核反戦展2016 関連企画 ―ディスカッション:反核・反戦と表現の自由 『核×戦争のアートアクティヴィズム』

今日の反核反戦展2016 関連企画  ―ディスカッション:反核・反戦と表現の自由 『核×戦争のアートアクティヴィズム』 12月17日(土)13時~15時(12時30分 開場) 場所:原爆の図丸木美術館 小高文庫 ※参加者数により変更 〒355-0076  埼玉県東松山市下唐子 1401 TEL:0493-22-3266 参加費:500円 (資料・茶菓子代) ※美術館入場料別途要 ■小倉利丸《批評家》 遊動と根拠地:アナログ・アートアクティビズムへ ■岡村幸宣《原爆の図丸木美術館 学芸員》 《原爆の図》の活動期――占領下、1980年代、そして現在 ■狩野 愛《アートアクティヴィズム研究》 アートアクティヴィズムは国境を越える 《原爆の図》の全国巡回は、原爆被害の報道が禁じられていた占領期に始まり、1950〜53年の約4年間で、全国170カ所以上で開催されました。丸木位里・俊が、美術作家として反核・反戦の悲惨さを表現し、全国行脚して展示し、物語を伝えていく活動は、社会教育やジャーナリズムとも結びついた実践だといえます。ただ、現在の「自由に制作・発表出来ている」状況におけるアートの制作と展示 […]

左派は国民国家の統治とは別な何かを創造できるか──『絶望のユートピア』出版に際して

以下は、『人民新聞』10月15日号に寄稿したものです。 私は、この30年ほどの時間のなかで、雑多な文章を書いてきた。この雑多な産物を雑多なままに、『絶望のユートピア』というタイトルを付して本にした。一二〇〇ページを越える大部だが、時系列にもカテゴリー別にも分類することを排した混沌とした本である。特定のテーマはない。現代資本主義批判もあれば現代美術の批評もある。原発への言及もあれば、天皇制や右翼言論への批判もある。サイバースペースや監視社会批判もある。しかし、これらをカテゴリーのなかに押し込んで相互に別々の課題とするようなことはしたくなかった。結果として、混沌が生まれた。 左派が、日本だけでなくどこにおいてもグローバルに直面しているのは、左派としてのアイデンティティの危機だと思う。この危機は、西欧近代が普遍的な価値としてきた自由、平等、人権、民主主義の擬制と虚構に左派もまた加担してきたしてきたところにある。もはやいかなる意味においてもこうした価値は、その一切の正統性を喪失してしまったと思う。底辺に生きる民衆たちは、こうした価値とは別な何か、国民国家の統治(憲法がそれを体現しているのだが) […]