憎悪の美学――天皇=平和言説の根源にあるもの
(PDFはこちら) 天皇制廃止をめぐる問題の最大の課題は、天皇が戦後憲法擁護の象徴的な存在とみなされて、戦後日本の「平和」言説=イデオロギーの震源地のひとつをなしてきた点にある。好戦的で抑圧的な暴君を批判するのは容易い。しかし、伝統主義者や極右の戦後憲法批判者もまたシニフィアンとしての「平和」という記号を共有しているために、そもそもの「平和」の意味の本質的な違いが棚上げにされて、天皇が語る平和と、この平和を政治の文脈のなかで利用する政権の言う「平和」と、私たちが語る「平和」が、平和運動の担い手たちの間ですら混同されて、あたかも、私たちの「平和」の言説が天皇をはじめとする伝統主義者たちにも共有されたかのように誤信する雰囲気が広がっているように思う。言葉の定義は、政治的な事がらであって、多くの場合、定義の主導権は支配者たちが握る。こうした言語の政治において、「平和」という政治言語をめぐる政治もまたひとつの重要な闘いの場である。 そしてまた、昨今の人種差別主義の露骨な言動が、じつはその対極にあるかにみえる平和という記号を味方につけた象徴天皇制と表裏一体であるという問題を見据えておく必要がある […]