連載:意味と搾取第4章を公開しました。
青弓社のサイトで連載している「意味と搾取」の第4章 「パラマーケットと非知覚過程の弁証法――資本主義的コミュニケーション批判」が公開されました。以下、これまでの連載の目次と、4章冒頭のみ掲載します。全文は青弓社のサイトでお読みください。
目次
序章 資本主義批判のアップデートのために
第1章 拡張される搾取――土台と上部構造の融合
第2章 監視と制御――行動と意識をめぐる計算合理性とそこからの逸脱
第3章 コンピューターをめぐる同一化と恋着
第4章 パラマーケットと非知覚過程の弁証法――資本主義的コミュニケーション批判
[第4章構成]
4-1 資本主義批判の枠組みの組み替え
・上部構造への資本の介入
・監視資本主義
・資本主義と機械
・支配的構造の歴史的変容
4-2 予測と制御:意味生成過程
・使用価値とパーソナリティ――〈労働力〉再生産過程と意味使用価値
・買い手にとっての意味使用価値
・パラマーケットの変容
・選択の自由と操作的言語
4-3 空間の解体
・プライバシーと空間
・空間の配置とパラマーケット
・資本主義における自己同一性
4-4 非知覚過程
・モノの回路とコミュニーションの回路
・資本に有機的に組み込まれたパラマーケット
・ユーザー追跡技術
・監視システムとしてのパラマーケット
・ユーザー追跡技術への批判と抵抗
・政府による非知覚過程の利用
4-5 コミュニケーション労働と非知覚過程
・コミュニケーション労働の実質的包摂へ
・コミュニケーション労働とデータ化する「私」
・コンピューターと身体性
4-6 フェティシュな人工知能
・フィードバックの副作用
・恋着と同一化の対象としての人工知能
4-7 官僚制と法の支配の終焉
・政治過程にコンピューターが介在するとはどのようなことか
・では現行の法の支配のほうがマシなのか
・個人の意思と集団の意思
4-8 ナショナリズムの再生産構造
・ナショナルアイデンティティ
・パラマーケットとナショナリズム
4-1 資本主義批判の枠組みの組み替え
本稿全体の冒頭で、マルクスの資本主義認識に立ち返りながら、現代資本主義の基本構造を、土台―上部構造の定式に対する資本主義的な応答としての、上部構造の土台化、土台の上部構造化について述べた。つまり、政治権力と資本の意思決定構造が相似形をとるようになる、ということだ。マルクスの資本循環図式を形式的に当てはめて表現すると、以下のようにも言うことができる。権力の生産過程は、統治機構の物質的条件(権力の生産手段)と官僚、議員、裁判官などの人的な資源によって、構造への「従属」という政治的生産物が生産される。これを「国民」やこのカテゴリーから排除された人々が「消費」することを通じて、「従属」が再生産される。
資本が介入する伝統的な回路は、ケインズ主義の公共投資と土木建設資本の関係のようなインフラ投資の時代から新自由主義の公共サービスを民間資本に開放する時代へと展開してきた。この前提には、公共サービスを生存権の保障のための国家の義務として理解することから、財政負担を伴う「費用」とみなして採算を優先させるような国家の側の義務理解の根本的な転換があり、その結果として、公共サービスが資本に利潤をもたらすことが可能な領域に組み込まれることになった。一般に、この過程は民営化とか小さな政府と解釈されてきたが、私は、逆に、権力の生産過程が資本の生産過程と融合しはじめたのであって、小さな政府ではなく、政府機能が市場経済に有機的に結合しながら、市場そのものが政治化する契機となったとみたほうがいいと考えている。政府は小さくなったのではなく、民主主義的な統制の外部で大きくなったのだ。従来の公共投資では、資本は、政治的生産手段を担うこと(道路や港湾、都市開発など)を通じて政治過程と外的・形式的に接合していたにすぎなかった。いま起きていることは、官僚制など権力の生産過程を担う人的な組織の資本との内的・実質的接合である。伝統的な近代の権力の人的組織が担ってきたのは、意思決定と、その前提にあるコミュニケーションや情報の管理である。さらには、法の「生産」とこれを適用することができる力である。コンピューター・テクノロジー/コミュニケーション(CTC)が支配的技術となる時代には、デジタル庁のように、この過程がデジタル・トランスフォーメーション(DX)として展開されることになる。
以下、全文は青弓社のサイトへ。