(Popular Information)戦争犯罪省

(訳者前書き)米国のカリブ海での軍事行動が明かな国際法違反、戦争犯罪であることについて、日本の与党や米国との軍事同盟を支持している野党がどれほど危惧しているのかわからない。米国内ですら、米軍が麻薬密輸船を空爆し、ヘグセスが殺害命令を出したことについて、国際法だけでなく米国の交戦規則にも反するのではないかという批判がある。しかし、日本国内ではこうした声は大きくはないように思う。最近の米軍の動向や、米国との同盟関係にある国の軍事的な動きには今までにはない、例外事態の常態化があるように思う。

以下は、popular informationというサイトに掲載された論評を機械翻訳を借りて若干の修正をほどこしただけのもの。この記事では、ヘグセスが国際法を遵守する気が全くないばかりか、米国の従来の交戦規則についても、これに縛られるべきではなく、最大限の殺傷力を行使すべきだ、ということを公言してきた人物であることを指摘している。また、この記事では、こうした人物が国防総省を戦争省と改名した組織のトップについている、という米軍の現在のありかたに注目し、米国内の批判を紹介している。

国際法上における戦争についてのルールを私は国家による殺人を正当化するためのルールとして容認する立場にはないが、多くの国では、戦争という手段を認めており、このことを前提にして、「正しい殺し方」を国際法で規定した。ヘグセスは米国がこの国際法上の戦争の規範に縛られるべきではない、という。なぜなら、敵は縛られていないからだ。戦争の唯一の目的は武力による勝利であり、そのために最適な手段をとることが必要なのであり、国際法に縛られべきではない、というのがヘグセスの言い分だ。あるいは、「アメリカ・ファースト」の政策では、米国の戦争規範だけが米軍にとっての規範である、ということになる。しかも彼は従来の米国の戦争規範はあまりにも規制が厳しいと批判し、戦場の兵士により大きな決定権を与えるべきだともいう。

米国の「戦争省」トップはもはや国際法を遵守するつもりがないことははっきりしている。彼らは、戦争のルールは自分たちが決めることだといい、敵は、たとえ民間人であっても徹底的に殺してしまえ、という。このような軍隊と日本は同盟を結び、基地を提供し、軍事組織の統合を進めているのだ。政権与党や極右政党はヘグセスやトランプ政権による国際法のある種の極右DXを当然了解しており、このことを折り込み済で、新たな安保戦略などを改訂するつもりだろう。たぶん、現在の同盟関係を前提にすれば、日本もまた既存の国際法秩序を否定する以外になくなるのは必至だ。自衛隊もまたこの米軍の国際法違反の行動の共犯者になる。またもや戦争犯罪の加害国になる。

しかし、実は、ヘグセスはとても正直に戦争のあるべき姿を主張しただけなのではないか、とも思う。というのは戦争=暴力による紛争や対立の決着という方法は、結局のところ力の優劣に依存し、それ以外の様々な条件は暴力の従属変数にしかならないからだ。暴力行使にルールを定めることができるのは、敵と味方双方が同じ価値観の基盤の上にある場合だけであって(その典型が騎士道とか武士道などと呼ばれる暴力の規範かもしれない)、他者との間に成立したことはない。他者との間にある暴力は、常にジェノサイドを指向してきた。国際法は国連の枠組が世界性を国民国家の集合として包摂することが可能な範囲で形式的に正統性を得てきたが、これが今では破綻しつつある、ということでもある。欧米が基軸となって構築してきた戦後のルールがここ四半世紀に経済で破綻し、次第にルールメーカーの地位を中国など非西欧世界が獲得しつつあるなかで、同様のことが戦争のルールでも起きつつあることは、20世紀末以降の対テロ戦争のなかで実感されてきた。ヘグセスは、このことを率直に語ったにすぎないかもしれない。とすれば、既存の国際法を遵守せよ、とか国民国家の自衛権を認め、その限りで国家の武装を正当化することで戦争を一定の規範のなかに押し込めることが平和構築の基礎となる、といった考え方ではヘグセスや、確信犯的な戦後の戦争規範を否定しつつより高度で凄惨な戦争を勝ち抜こうという権力者たちには太刀打ちできないと思う。とるべきスタンスはこうした現実に対して、国民国家体制では破綻した暴力=戦争と軍隊による支配の廃棄という普遍的な生存の権利を、既存の統治機構にとらわれることなく、実現可能な未だない社会を構想することしか、この絶望的な暴力から逃れる道はない、と思う。どこの国の指導者もみな内心ヘグセスにような本音を隠し持ちつつ、平和主義の仮面を被っているに過ぎない。とりわけこの日本では、その傾向が強い。自衛隊を含めて軍隊の廃止を明言せず、日米同盟の廃棄も曖昧にする一切の平和主義者を私は信じない。

わたしはこの記事を読むまでヘグセスがトランプ政権の閣僚になる直前にthe War on Warriorsという本を出版していたことを知らなかった。以下の記事でもこの本からの引用があり、この本についてもあわてて序文だけ読んだが、露骨な差別主義者の言動に唖然とした。この本については別に論じるかもしれない。かつてナチズムに傾倒したカール・シュミットが『政治的なるものの概念』(未来社、岩波文庫など)で友・敵関係を軸に戦争を徹底した殺戮とみなして、それこそが国家権力の本質、あるいは政治的なるものの本質でもあるとして、国際法など全く眼中にない議論を展開していたことを思い出した。(としまる)


(Popular Information)戦争犯罪省

レベッカ・クロスビー

ノエル・シムズ

2025年12月2日

9月2日以降、国防総省(DOD)はドローンを使用して、カリブ海および太平洋東部を船で移動していた80人以上の人々を殺害した。政府は、この攻撃は米国に麻薬を密輸する「テロリスト」を標的にしたものだと主張している。

ニューヨーク・タイムズ紙の報道によれば、軍は殺害した人々それぞれの名前をすべて把握しているわけではない。それどころか軍は、「船上に麻薬カルテルと関係のある人物が乗っており、船上に麻薬が積まれていると確信できる場合」に、その船を攻撃している。公に証拠は提示されておらず、コロンビア政府は、少なくとも1回の攻撃で無実の漁師が死亡したと述べている。

たとえドローン攻撃で殺害された者が全員、実際に麻薬密売人であったとしても、国防総省が彼らを殺害する権限をどこから得ているのかは不明である。司法省は、カルテルが米国に対する「非国際的なnon-international武力紛争」の資金源のために麻薬取引を行っていると主張し、憲法第2条に基づき、議会が戦争の宣戦布告に署名する前であっても、行政機関が麻薬密売人を殺害する権限を有するとの見解を示している。しかし、米国への麻薬密輸が「戦争」の開始に該当するのかどうかについては、議員や法律専門家から疑問の声が上がっている。

最近、ピート・ヘグセス国防長官が少なくとも攻撃の1つを命じたことで戦争犯罪を犯したということにについて、これまでで最も強力な証拠となる新たな情報が明らかになった。

先週、ワシントン・ポスト紙は、9月2日にカリブ海で実施された、麻薬密輸船に対する国防総省による軍事作戦の最初の攻撃において、ヘグセスが生存者を残さないよう口頭で命令したと報じた。同紙によると、最初の攻撃から数分後、攻撃を指揮していた特殊作戦司令官は、ヘグセスの命令に従うため、燃え盛る船の残骸にしがみついている2人の男を殺害するよう、2回目の攻撃を命じた。

この報道は、ジュネーブ条約に違反している可能性が高い。同条約は、「武器を捨てた軍人、病気、負傷、拘束、その他の理由により『戦闘不能』となった者など、敵対行為に積極的に関与していない者は、いかなる状況においても人道的に扱われなければならない」と規定しており、「生命および身体に対する暴力、特にあらゆる種類の殺害」を具体的に禁止している。

正確な身元や麻薬取引における役割が不明な2人が、大海原の真ん中で難破船にしがみついている状況は、間違いなく「戦闘不能」―つまり闘うことができない状態―であり、彼らを殺害することは戦争犯罪にあたる。これは、ジュネーブ条約を米国法に組み込んだ1996 年の戦争犯罪法にも違反する。

ワシントン・ポスト紙の報道を受けて、民主党と共和党の両方がヘグセスの命令について深刻な懸念を表明している。ティム・ケイン上院議員(民主党、バージニア州)は CBS で、「これが事実であれば、これは戦争犯罪のレベルに達する」と述べた。マイク・ターナー下院議員(共和党、オハイオ州)は、「明らかに、そのようなことが起こったならば、それは非常に深刻な問題であり、それは違法行為であることに同意する」と述べた。下院と上院の軍事委員会は、この命令について調査中だと発表した。

月曜日、ホワイトハウスのキャロライン・リービット報道官は、9月2日の作戦における2回目の攻撃を擁護し、すべては軍の法的権限の範囲内だったと述べた。リービット報道官は、この主張を裏付ける詳細については何も明らかにしなかった。

ヘグセスが、戦争犯罪に該当する可能性のあるような命令を下すだろうということは驚くにあたらない。ヘグセスは、ジュネーブ条約や法的交戦規則を軽蔑する発言を長年にわたり繰り返してきた。

ヘグセスは、国際法に従うことは「片手を背中に縛って戦うようなもの」だと示唆した

2024年に出版された著書『The War on Warriors(戦士たちの戦争)』の中で、ヘグセスは、米軍がジュネーブ条約に従うべきかどうかについて疑問を投げかけた。ヘグセスは、ジュネーブ条約に従うことは「片手を背中に縛って戦うようなもの」だと主張した。

ジュネーブ条約に従うべきだろうか?敵が我々にしたように、我々も敵を扱ったらどうなるだろう?それは、敵側に彼らの野蛮な行為を再考させるきっかけになるのではないか?そうだろう?、アルカイダよ。降伏すれば、命は助かるかもしれない。降伏しなければ、腕を引きちぎって豚の餌にしてやる。

2024 年、勝利を望むならば、公然の紛争において人々を殺害する行為について、どうして普遍的なルールを策定できるのか、と私は疑問に思う。特に、あらゆる場面で人命を軽視し、野蛮人のように闘う敵に対してはなおさらだ。おそらく、その代わりに、我々は片手を背中に縛られた状態で戦闘しているだけなのである。そして敵はそれを知っている。

ヘグセスはさらに、米軍は「自国の規則」に従うべきであり、「国際法廷」は無視すべきだと提案した。

もし我々の戦士たちが、国際法廷の機嫌をとるために、恣意的なルールに従うことを強制され、より多くの命を犠牲にすることを求められるなら、我々自身のルールに従って戦争に勝つほうが良いのではないか?他国がどう思うかなど、気にすべきではない。我々自身が自問すべきは、戦いを強いられた場合、勝利のために戦うのか?それとも、左派を満足させるために闘うのか?つまり、勝利せず、永遠に戦い続けるのか?ということだ。

上院承認公聴会で、ヘグセスはジュネーブ条約の順守に関する質問を回避

ヘグセスの上院承認公聴会で、アンガス・キング上院議員(無所属、メイン州)は、ヘグセスがジュネーブ条約の順守を確信してかどうかについて質問した。ヘグセスは直接の回答を避けた

上院議員、私が…何度も述べたように、ジュネーブ条約は私たちの行動の基盤である…アメリカ第一主義の国家安全保障政策がやるつもりのないことは、戦場で我々の兵士たちがどのように決断を下すかについて国際機関に指図させるような特権を与えることである。アメリカ第一とは、我々が明確な使命と明確な目標のためにアメリカ人を派遣し、我々がその目標達成のために適切な装備を提供し、我々が必要なものはすべて与え、そして、アメリカの敵を打ち負かすために断固として闘うことを可能にする交戦規則で彼らを支援することだ。だからこそ、我々はこの議場で静かに、平和に腰を下ろしているのだ。

「われわれは規則に従うが、戦争に勝つことを不可能にするような煩わしい交戦規則は必要ない」 ヘグセスはそう述べた。

ヘグセスはまた、上院の承認公聴会でジャック・リード上院議員(民主党、ロードアイランド州選出)に対し、「最前線で戦う兵士たちが敵を破壊し、包囲する機会を確実に得られ、弁護士たちがその邪魔をしないように、合法性と殺傷力のバランスについて深く考えた」と語ったと、ABCニュースは報じている

ヘグセスは軍指導者に「愚かな交戦規則」を脇に置くよう指示

9月の演説で、ヘグセスは上級軍指導者のグループに、「愚かな交戦規則」を無視するよう指示した。彼はこの規則を「行き過ぎ」だと表現した。交戦規則とは武力行使に関する法的ガイドラインである。

我々敵に対して圧倒的かつ懲罰的な暴力を解き放つ。また、愚かな交戦規則で闘うこともない。 我々は、我が国の敵を威嚇し、士気をくじき、追い詰め、殺害する(hunt and kill)ために、戦闘員の手を縛らない。 政治的に正しい、横暴な交戦規則はもう必要ない。必要なのは、常識と、最大限の殺傷力、そして戦闘員への権限だ。

ヘグセスは「最大限の殺傷力」を求めた

9月、トランプ大統領は、国防総省(DOD)の名前を戦争省(Department of War)に変更する大統領令に署名した。署名する際に、ヘグセスは、同省は「生ぬるい合法性ではなく、最大限の殺傷力」に焦点を当てると述べた。

この名称変更は、単なる改名ではない。それは回復である。言葉は重要だ。それは、大統領が私たちに指導してくださったように、戦士精神の回復、最終目標としての勝利と明確さの回復、武力行使への意図性の回復である… 我々は防御だけでなく、攻撃も行う。生ぬるい合法性ではなく、最大限の殺傷力。政治的正しさではなく、暴力的な効果。防衛者だけでなく、戦士を育成する。

ヘグセス、戦争犯罪で起訴された者たちの恩赦をトランプに働きかける

ヘグセスは、トランプの最初の任期中に、「イラクおよびアフガニスタンで犯したとされる戦争犯罪」で有罪判決を受けた者、あるいは起訴された者たちの恩赦をトランプに働きかけた。トランプは結局、陸軍中尉のクリント・ロランスと陸軍少佐のマシュー・ゴルステインの両者を恩赦し、海軍特殊部隊(ネイビーシールズ)のエドワード・ギャラガーの「降格を取り消した」。

「彼らは、私たちを守る任務を帯びて地球上で最も危険な場所へ赴き、瞬時に厳しい判断を下した者たちだ」と、ヘグセスは2019年5月に述べた。ヘグセスは、彼らは「戦争犯罪者ではなく、戦士だ」と主張した。

2024年6月、CNNは、ヘグセスはポッドキャストで自身の立場を擁護した報じている

ドナルド・トランプは、彼の任期最後の数年間に私が擁護した者たちを赦免した。誰かの言うところによれば、彼らは正しい者たちを間違った方法で殺害したそうだ。その件は終わった。我々は敵に対して全面戦争を戦う必要がある。そして、確かに、意図的に民間人を殺害してはならないが、悪者を殺害することは必要だ。全員だ。死体を積み上げ、終わったら、事態が落ち着くのを待って、誰が優勢かを見極めるんだ。

2024年11月のポッドキャストのインタビューで、ヘグセスは交戦規則の無視を擁護した。AP通信によると、ヘグセスは2005年にバグダッドで軍の弁護士から交戦規則について説明を受けたと語った。ヘグセスは、ブリーフィングの後、小隊に「みんな、そんなことはやらない」と伝えたと述べた。

ヘグセスは、「ニューヨーク・タイムズ紙や左派、民主党員たちは… 1つの事件を取り上げて『戦争犯罪者だ』と叫んでるにすぎない」と主張した

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