(Tor Project)サービスとしての監視: イスラエルの「防衛」テクノロジーがプライバシーと人権に与えるグローバルな影響

Categories
< Back
You are here:
Print

(Tor Project)サービスとしての監視: イスラエルの「防衛」テクノロジーがプライバシーと人権に与えるグローバルな影響

(訳者前書き)イスラエルによるガザの戦争が、サイバー戦争と呼ばれるような戦争状態として無視できな局面を示していることは、様々な報道や人権団体のレポートによって指摘されてきた。このTor Projectのブログに掲載された記事は、こうしたサイバー戦争を支えるテクノロジーの動向、とりわけイスラエルに拠点を置く企業の動向を全体として概観するものになっており、私たちにとって、戦争のテクノロジーに加担する企業――ほとんどは名前も聞いたことがないかもしれない――とはどのようなものなのかを知る上でとても参考になる。従来型の軍事産業と重なりつつ大きな違いがあるのは、これらの企業の多くが巨大な製造工場や製造に必要なサプライチェーンをもたず、ベンチャー資本から莫大な資金を調達し、必要とあれば社名を変え、拠点国を変えるという「身軽」さそのものが隠れ蓑になっているという点かもしれない。しかも殺傷兵器そのものを製造しておらず、殺傷対象となる人を特定したり、その居場所を特定する(だけの?)技術ちみなされがちだが、実際の殺傷行為を可能にしているのがこうしたテクノロジーであり、反政府運動の活動家を弾圧する上で必須の手段となっているが、目立ちにくい。そのために、いわゆる武器輸出の監視の目をくぐりぬけやすい。しかも、この監視テクノロジーの分野には、イスラエルvsアラブという構図が成り立たない。多くのアラブ諸国の警察や軍などがガザの膨大な犠牲者を生み出しているイスラエルの監視テクノロジーの顧客だからだ。

戦争のプロセスが重層的な構造をもっていることを理解する必要があると思う。軍事行動そのもの(殺すことを目的とした手段の世界)、この軍事行動を政治に媒介することで成り立つ当事国や国際機関による「交渉」(駆け引きであり狐と狸の化かしあいのプロセス)、そしてこれらを制御する情報のプロセス(情報収集による標的の生産から偽情報や愛国心を鼓舞するプロパガンダまで)だ。こうした構造のなかで情報の構造が肥大化して軍事行動そのものを規定するまでになったのがAIが軍事化した現状だ。日本政府はこれを「能動的サイバー防御」として自衛隊の枠を越え、政府の枠も越えて官民一体の体制として構築しようとしている。

この状況のなかで、経済の基軸が情報分野にシフトしていることを念頭に置いたとき、情報の領域を支配する資本こそが新たな死の商人として、敵味方関係なく戦争を煽るシステムを売ることで儲けることになるが、ここに、「金融」という情報領域が組込まれることによって、際限のない投資資金の調達が可能になる。戦争に反対することの意味は、こうした事態のなかで、その意味の射程距離そのものを再構築することが必要になっている。

以下の記事が掲載されたTor Projectは、Torブラウザなどプライバシーと匿名性を重視したツールの開発などで重要な活動をしている。この反監視情報の検索窓でTorで検索してみてください。(小倉利丸)


by Esra’a Al Shafei, Falastine Saleh | April 8, 2024

監視テクノロジーの拡散と常態化に光を当て、暴露し、積極的に反対することは、世界中の人権を守る上で極めて重要である。Torプロジェクトでは、私たちは集団的な認識と行動を通じて、監視と抑圧の蔓延からあらゆる人々を守ることを目的としたプライバシー保護テクノロジーを構築し、貢献できることを知っている。企業の責任を追及し、監視技術の源流や実現者を認識することも同様に重要である。特に現在進行中のガザでのジェノサイドにおいて、これらのテクノロジーが積極的に利用されているのを目の当たりにしている今、なおさらである。

この投稿では、パレスチナにおけるイスラエルの監視技術の影響について掘り下げ、私たちは監視技術を使用することで、いかにローカルな事例が広範囲に影響を及ぼし、そのような抑圧的な慣行が広く受け入れられ、世界的に採択されるための道を開くかを説明する。

抑圧にテクノロジーを使用することに反対するグローバルな態度が必要となってきている。テクノロジーに携わる人々やより広範な国際社会は、利潤のためよりも誠実さを優先させ、プライバシーを守り、私たちの生活への監視の浸透による悪影響を防ぐよう求められている。AIによって強化され深刻化する監視ソリューションへの需要が高まる中、これらの問題に対処する緊急性がさらに高まっている。

グローバルな監視と抑圧

以下の例は、監視資本主義の憂慮すべき巧妙さと、そのますますグローバルに広がる足跡を示している。また、このような例は、イスラエルのスパイウェアや監視企業が、世界的なブランド再構築や世界各地の拠点設立によって、どのように世界的な監視の目をかいくぐっているのか、その一方で、ベンチャーキャピタルのネットワークがどのように彼らの軍事作戦を促進し、必要な説明責任を回避する手助けをしているのかも明らかにしている。

  • Elbit Systemsはイスラエルの主要な軍事技術輸出企業であり、宇宙、空、海、地上の軍事作戦に恐るべき勢いで導入されている様々な高度監視テクノロジーに特化した企業である。その監視システム、ドローン、その他のハイテクツールは、暴力的占領やアパルトヘイトの強制に使用され、世界中で高い需要がある。
  • この蔓延する監視テクノロジーはパレスチナで終わるのではなく、しばしばパレスチナから始まる
  • 少なくとも2014年以降、Elbit Systemsはこれらのツールを米国南部国境UAE英国に配備している。これらの取引の一部は、Elbit Systems of Americaの子会社であるKollsman Inc.を通じて行われているが、このKollsman Inc.は、サウジアラビアへの出張中に従業員が死亡するという物議を醸した事件に関わっている。
  • こうした関係は、VC投資を通じてさらに強化されている。UAEはイスラエルのVC企業に少なくとも1億ドルを投資しているが、これはイスラエルのスパイウェアツールの長年の顧客であることを考えれば驚くことではない。例えば、アブダビの大規模監視システムを支えているのは、6億ドル相当の契約を結んでいるイスラエル企業だ。ドバイはまた、イスラエル情報機関のベテランが率いるBlack Wall Globalという現地法人を通じて、イスラエルの監視テクノロジーの導入を希望するアラブ諸国のためのバックチャンネルを運営している。
  • 同じような仕組みの取引として、IntuViewのようなイスラエル企業はサウジアラビアと契約を結び、サウジアラビア市民のデータをスキャンするなどの取り組みを行っている。同社の諮問委員会は、モサドの元トップとCIAの元長官で構成されている。
  • テクノロジーはますます進歩し、権威主義的な政府にとって魅力的なものになっている。イスラエルは米国企業の協力を得て、多数のセンサーとカメラを搭載したロボットを配備し、建物や空き地を監視している。
  • ゴスペル」のようなAIベースのシステムは、主にドローンの映像、傍受された通信、監視データ、個人や大規模集団の動きや行動パターンの監視から引き出された情報から構成され、爆撃の標的を作り出している。
  • 同様の仕組みで、イスラエルは「ラベンダー」を通じて、ガザ住民の大量監視を通じて収集した情報によって、人間による監督機能をほとんど使わずに暗殺目標を検知するためにAIを使用している。この報道は、こうした攻撃の多くが、民間人や家族全員を、しばしば自宅で大量に殺害する結果をもたらしていることを浮き彫りにしている。
  • イスラエルでは、スパイウェアは常に非常に儲かるビジネスであり、ますます注目を集めている。Citizen Labは、サウジアラビア、バーレーン、アラブ首長国連邦など、反体制派を投獄、殺害、口封じし、市民社会組織を監視してきた長い歴史を持つ政府と契約を結んでいるNSOのようなイスラエル企業から提供された高度なスパイウェアを、何年もかけて明らかにしてきた。これらの政府がイスラエルと関係を正常化さ せているのは、こうしたテクノロジーへのアクセスを容易にするためであり、そのテクノロジーを市民の抑圧に利用するためである。
  • イスラエルを拠点とするVoyager Labsは、コロンビアの軍事情報機関も含め、ジャーナリストや活動家をプロファイルし、脅迫するために使用されてきた監視ツールを積極的に販売した。彼らは最近、本社をアメリカに移し、「世界トップクラスのAI研究者 」のチームとともにこのようなツールの開発を続けている。
  • 米国・イスラエルの企業Verintは、監視カメラや大規模な音声・映像データセットを監視・分析する分析ソフトウェアなどの製品を持ち、アゼルバイジャン、インドネシア、南スーダン、ウズベキスタン、カザフスタンの抑圧的な政権にテクノロジーを販売していた。彼らのツールの使用の中には、LGBTQ+コミュニティや人権活動家に対する暴力的な弾圧も含まれている。
  • こうした企業は単独で活動しているわけではない。監視や暴露に直面すると、彼らは新しい事業体をスピンオフさせ、多くの場合、同じく加担しているベンチャーキャピタルの支援を受ける。例えば、VerintはCognyteという別企業をスピンオフさせて有利な取引を続けているが、イスラエルの人権弁護士は「人道に対する犯罪を幇助している」と述べている。ニューヨークを拠点とするヘッジファンド、Edenbrook Capitalは、この会社の大株主である。
  • もうひとつ、より最近の例では、Pegasus Softwareの元CEOによるDream Securityがある。彼らの最新の取引は、ロサンゼルスを拠点とするVC企業Group 11と共同で行われた。これは、回避の難しい連鎖を示している。
  • イスラエルの企業であるCorsightは、顔認識とGoogleフォトを使用して、パレスチナ人を彼らの知らないうちに、あるいは同意なしに大量監視している。Googleは今日に至るまで、彼らの技術を 「差し迫った危害 」のために使用することを禁止しているにもかかわらず、それに対する回答を拒否している。重大なプライバシー侵害であるだけでなく、このテクノロジーは人々を誤認し、彼らの生命をリスクにさらしている。カナダ・イスラエルのVCである AWZ ventures,は、その主要投資家の一人である。AWZベンチャーズのツールは、また、米国国土安全保障省が顔認識のために導入している。
  • 国際的に事業を展開するイスラエル企業AnyVisionは、パレスチナ人の動きを監視するために使用する「高度な戦術的監視」ソフトウェアを開発している。同社の最高経営責任者(CEO)は、SoftBankの投資部門の元オペレーティング・パートナーであり、コネティカット州に本社を置くアメリカの持株会社Eldridgeとともに、同社の大規模な資金調達ラウンドを共同主導した。米国の学校[複数]での監視システムが暴露された数ヵ月後、同社はOostoに社名を変更し、再び活動を開始した。
  • こうした協力関係の最も顕著な例のひとつがPalantirで、同社は英国政府や米国のさまざまな機関、最近ではAIを搭載したターゲット・システムで米軍との大型契約を獲得し続けているほか、新たな 「戦略的パートナーシップ 」によってイスラエルに再び監視製品を供給する予定だ。
  • 「国境警備テクノロジー」の世界市場は、2022年の480億ドルから2027年には700億ドルを超えると予測されている。この市場の大幅な成長は、パレスチナ人に対して抑圧的なテクノロジーを試験するイスラエル企業によって可能となった、AIを統合した監視塔の採用が増加していることにも起因している。このやり方によって、イスラエルは実際の場面で自社製品を改良し、その有効性を実証することができ、これが国際的な買い手にとってより魅力的なものになる。

上に示したように、当初は暴力的な占領、アパルトヘイト、ジェノサイドを強制するために使用されたこれらのテクノロジーは、パレスチナの枠をはるかに超えて、儲かる世界市場を発見したのである。『The Palestine Laboratory』の著者であるAntony Loewensteinは、Torに次のように書いている。「2023年10月7日以来、イスラエルはガザでドローン、クアッドコプター、顔認識ツール、監視技術などの新兵器を実戦テストしている。その目的は、ガザでパレスチナ人を無差別に殺すことだけでなく、これらの戦争兵器をグローバル市場に売り込むことだ。AIを活用した戦争は、イスラエル国家とその民間支援者にとって重要なセールスポイントだ。パレスチナで始まったことは、決してパレスチナに留まることはない」。

説明責任の文化を築く

イスラエルによる軍事システムの輸出は、監視テクノロジーがパレスチナの現地配備から世界的な流通に至るまでの悲惨な道のりを示しており、その製造とテストの過程で行われる重大な人権侵害が常態化し、容認されるという懸念と憂慮に満ちた傾向を示している。このようなテクノロジーの普及にベンチャーキャピタルが加担していることは、基本的人権よりも権力と利潤を優先する利害関係が複雑に絡み合っていることを浮き彫りにしている。

これは、私たちすべてを巻き込み続ける監視に立ち向かうことが、世界的な責任であることを思い出させるものだ。技術労働者、企業、市民社会団体、そしてグローバル・コミュニティ全体が、人権とプライバシーへのコミットメントを堅持するために、一貫した早急な行動を呼びかける必要がある。私たちは企業に説明責任を果たさせ、監視テクノロジーの起源を分析し、暴露し、その常態化に抵抗しなければならない。

私たちは、No Tech For Apartheidキャンペーンに参加した企業や市民団体に拍手を送るとともに、雇用のリスクを冒してまで参加した多くの人々を含め、他の企業にもこの重要な取り組みに参加するよう促す。多くの技術労働者は投資ポートフォリオも持っているため、自分の価値観に沿った投資を行うことを強く勧める。これは、戦争犯罪の実行を可能にする強烈な監視を使用している兵器メーカー、不法占領、アパルトヘイト、ジェノサイド、国境の軍事化から利益を得ていないことを確認するために使える無償のスクリーニングツールのひとつである。

https://blog.torproject.org/surveillance-as-a-service-global-impact-of-israeli-defense-technologies-on-privacy-human-rights

Table of Contents