(Statewatch) 欧州警察の顔認識システムは停止すべき、新たな文書で注意喚起 警察 バイオメトリクス データベース 監視 EU 英国

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(Statewatch) 欧州警察の顔認識システムは停止すべき、新たな文書で注意喚起 警察 バイオメトリクス データベース 監視 EU 英国

(訳者前書き)EUは、GDPRのようなプライバシー保護の模範的な取り組みとして、日本のプライバシー運動でも評価が高いが、実際には、全ての人々が平等にプライバシーの権利の保護の対象になっているわけではない。とくに、EU域内、域外からの移動などでは、捜査機関や国境警備組織による監視が、従来以上に強化される傾向にある。顔などの生体情報の共有が急速に進む危険性が指摘されている。以下に訳出したStatewatchのプレスリリースは、こうした現状を端的に示して、警鐘を鳴らしている。Statewatchは英国の反監視運動団体として、とくに移民、難民問題に高い関心を寄せて活動してきている。英国はもはやEUではないが、国境警備や人の移動では、EUの枠組みよりも、国際的な捜査機関の連携が優先される傾向がある。日本の場合も、米国やEUとの捜査機関の連携が進むなかで、現在EUで進められている状況は決して他人事ではないだけでなく、逆に、日本のような監視社会化に寛容な国が、国際的に悪影響を及ぼす元凶にもなりうる。日本における生体情報の政府、捜査機関、民間企業における使用野放し状態を放置することは、私たちだけでなくグローバルな人権危機を招く危険性がある。(小倉利丸)


欧州警察の顔認識システムは停止すべき、新たな文書で注意喚起 警察 バイオメトリクス データベース 監視 EU 英国

2022年9月7日

欧州デジタル上の権利(the European Digital Rights、EDRi)ネットワークが本日発表した新しいポジションペーパーは、欧州議会議員に対し、将来的には英国も対象となる可能性のある、EU全域を対象とした警察の顔認識 システム構築の計画に反対するよう求めている。この計画は、EUの基本原則の1つである国家間の人の自由な移動を手段として利用し、さらなる取り締まりの必要性を正当化する「Prüm II」提案の一部である。

警察の権限強化

2021年12月、欧州委員会は「加盟国間の法執行協力を強化し、EUの警察官に情報交換のためのより最新の手段を与える」計画を発表し、3つの提案を提示した。

● 警察官の業務協力に関する本理事会勧告
● 各国の法執行機関間の情報交換に関する指令
● 警察の協力のための自動データ交換に関する規則(通称「Prüm II」)

である。

このうち、最初の勧告the Council Recommendationは、国境を越えた警察活動に関する一定のルールを成文化しようとするものである。この勧告には拘束力はないが、「ホット・パシュート[緊急越境追跡]、監視、合同パトロール」などの「国境を越えた行動」を促進するために加盟国が実施すべき一連の法的措置やその他の措置を定めている。

情報交換に関する指令は、「Swedish Framework Decision」と呼ばれる2006年の法律に代わるもので、警察情報の「入手可能性の原則」を導入しており、これは、ある加盟国の法執行当局が入手できる情報を、他の加盟国の当局が同じ条件で入手できるようにすべきでないという考えを軸に制定されたものである。この原則は、各国の法執行機関が相互に情報を要求し、送信する方法とタイミングに関する規則を定めたものである。

Prüm II

指令案と同様に、Prüm II案も加盟国とユーロポール間のデータ共有を拡大しようとするもので、特に機密性の高い個人データを対象としている。

これは、各国のDNA、指紋、車両登録データベースを相互接続するPrümとして知られる既存のデータ共有ネットワークを基に構築されるものだ。法執行機関は、互いのシステムを検索し、一致した場合には、担当する国に当該のデータの送付を要請することができる。

この提案では、顔画像データベースと、任意で「警察記録」の相互接続を要求している。欧州委員会は、運転免許証に関連して保存されている顔画像を含め、運転免許証のデータにもネットワークを通じてアクセスできるようにしたいと考えている。

この計画に関する当初の議論では、パスポートやIDカードなど、その他の市民IDデータベースを国境を越えて検索できるようにする可能性も指摘されていたが、この可能性は現在のところ検討されていないようである。

しかし、それでも、この提案は警察の権限を大幅に拡大するものであり、その詳細は、European Digital Rights (EDRi)が本日発表した新しいブリーフィングで説明されている。このブリーフィングは、EDRiのスタッフおよび以下の加盟団体とともに、Statewatchが共同執筆を担当した。Access Now, Digital Society (Switzerland), Državljan D (Citizen D, Slovenia), the European Center for Not-for-profit Law (ECNL), the IT-Political Association of Denmark (IT-Pol).

この提案は、顔画像データベースの作成を奨励するものである。この提案は、(最初のPrum法がDNAデータベースに対して行ったように)国家的な顔データベースの作成を義務付けるものではないが、欧州委員会は、まだデータベースを持たない加盟国にその作成のための費用を提供し、それによって、民主主義社会に存在しないか、せいぜい非常に限られた領域にしかないテクノロジーをさらに常態化しようとしているのである。

この提案の下では、これらのデータベースは相互接続され、参加するすべての加盟国の当局が相互に検索できるようになる。

この提案はまた、ユーロポールのデータ収集と交換の権限を強化し、EUの急成長中の「相互運用性」アーキテクチャを拡張するものであり、今後数年間は、協調的で実質的な反対なしに拡大し続けるものと思われる。

他の加盟国の警察記録を検索できることは、伝聞や噂が国境を越えて伝わることを意味し、あからさまな政治的取り締まりの可能性を大きく広げることになる。

ポジションペーパーからの提言

  1. 基本的権利の高度な保護を確保するため、加盟国の警察データベースについて、Prüm IIシステムに接続する前に特別な規則を導入すること。
  2. 2. 欧州警察が保有する第三国の生体情報の共有を廃止し、法的根拠を欠く欧州警察独自の生体情報検索を廃止する。
  3. 3. 法執行指令に整合させるために、参照データの共有に、またPrüm システム全体により広範に追加のセーフガードを設ける。
  4. 4. Prüm II の提案について、現在の枠組みが有効かどうかを明らかにするための証拠と統計を要求することを含め、必要性と比例性を徹底的に評価することを要求する。もしそうでなければ、共同立法者は、明らかに必要性と比例性がない提案のすべての項目を削除すること。
  5. 5. 未確認のDNAデータの大規模な自動交換を削除すること。
  6. 6. 捜索は、真に個別の事案に基づいて、重大な犯罪の場合にのみ、追加的な保護措置とともに行われるようにすること。
  7. 7. 個人情報交換の前に、加盟国に有効な拒否権を付与する。
  8. 基本的人権侵害の深刻なリスクを理由に、顔画像交換をPrüm IIに含めることを完全に拒否すること。
  9. 9. 警察記録の定義を限定し、偏った推測、伝聞、その他の違法な記録がPrüm IIを通じて共有されないようにすること。
  10. 全住民を重大な犯罪の容疑者であるかのように扱うことになる国家運転免許制度の追加という試みに反対すること。

ポジションペーパーはこちら

反対運動の必要性

目標は、2027年までに拡張されたネットワークを稼働させることである。欧州委員会は、すでに交渉姿勢を打ち出しており、欧州議会は間もなくこの提案の討議を開始する予定である。

また、2020年末にEUと英国の間で署名された貿易・協力協定(TCA)の条件により、英国も参加する可能性がある。

欧州委員会の報道官は2月、Statewatchに対し、この提案について「法執行や司法協力に関する欧州委員会と英国当局の会合で言及されている」と述べたが、これまでのところ「…提案の内容も、EU英国貿易協力協定第541条(英国が拡張プリュムネットワークへの参加を選択できる)の適用の可能性も議論されていない」と述べている。

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images、ドン・レリヤー, CC BY 2.0

出典:https://www.statewatch.org/news/2022/september/european-police-facial-recognition-system-must-be-halted-warns-new-paper/

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