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(EFF)米国政府は金融監視の範囲を拡大するために暗号通貨を標的にしている

(訳者まえがき)

以下に訳出したのは電子フロンティア財団のブログ記事です。トランプ政権は、政権の移行期間のどさくさのなかで、仮想通貨への新たな規制を画策しています。日本でも仮想通貨の業界ではこの新たな規制案に関心が集まりつつありますが、監視社会やプライバシー問題にとりくむ人々の間ではまだ注目されていません。日本では仮想通貨(法制上は「暗号資産」と呼ばれる)は金融庁が主な監督官庁だが、マネーロンダリングなどの問題を口実に、金融全般への監視・規制の強化が繰り返されており、金融庁は政府機関のなかでも警察、公安関係組織、自衛隊とならんで監視社会の主要な一翼を担っている。

下記のブログに言及がないが、仮想通貨をめぐる国際的な規制強化の動きで注目しなければな金融検閲らないのは、金融作業部会FATFと呼ばれる国際機関だろう。FATFは昨年、G20に対して「いわゆるステーブルコインに関する G20 財務大臣・中央銀行総裁への FATF 報告書」を出し、次のように述べている。

FATF は、ステーブルコインは、匿名性、グローバルな普及、違法資金の多層化(による本人確認の困難化)の可能性という点において、一部の暗号資産と同様に潜在的な ML/TF リスクを抱えていると認識している。コインの設計次第で、ステーブルコインは、アンホステッド・ウォレット(unhosted wallet)を経由した匿名での個人間取引(P2P 取引)を許容する可能性がある。これらの特徴は、(ステーブルコインの)ML/TF 上の脆弱性を示すものであり、こうした脆弱性は、マス・アダプションが発生すれば高まることになる。https://www.fsa.go.jp/inter/etc/20200701.pdf

米国の規制強化はこうした国際的な文脈のなかに位置づくとすれば、問題は米国一国の問題とはいえないことになる。そして四点にわたる提言をしているが、そのなかで次のように述べられている。

FATF は、暗号資産に関する広範な FATF ガイダンス6改訂の作業の一環として、ステーブルコイン及び暗号資産に関し、各法域に対してガイダンスを提供する。このガイダンスでは、アンホステッド・ウォレットを経由した匿名での P2P 取引がもたらす ML/TF リスクに対処するために各法域において利用可能な手段を含めて、AML/CFT 統制が、ステーブルコインにどのようにして適用されるかという点について、更なる詳細を提示することになる。

下記のブログ記事でも指摘されているように、通貨流通は、低所得の者たちには縁のないことではない。通貨は、その所有者の様々な関係を明かにする手段になる。集会に参加して参加費を払う、カンパを振り込む、本を買うなどの行動は、人の思想信条を推測させる重要なデータになる。現金は、こうした行動をプライバシーの権利として保護する上で重要な意義があり、ブログは、香港のデモ参加者が地下鉄に乗るときにカードではなく現金を使っていることを指摘しながら、現金の匿名性の重要性を指摘しつつ、デジタル経済が普及するなかで必要なことは、いかにして仮想通貨を現金の匿名性に近付けるか、これがプライバシーの権利を保護する上で喫緊の課題だと指摘している。(小倉利丸)

米国政府は金融監視の範囲を拡大するために暗号通貨を標的にしている
by マルタ・ベルチャー、アーロン・マッキー2020年12月21日

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市民の自由の観点から見た暗号通貨の最も重要な側面の一つは、ユーザーのプライバシー保護を提供できることだ。しかし、EFFは、米国政府がクリプトカレンシー取引の匿名性を弱め、従来の銀行システムの広範な金融監視を暗号通貨に持ち込もうとする動きを強めていることを懸念している。

金曜日[18日]、財務省の金融犯罪執行ネットワーク(FinCEN)は、マネーサービス事業者(例えば、暗号通貨取引所を含む)に、自己ホスト型の暗号通貨ウォレットや外国の取引所を利用して顧客と取引する人々の身元データの収集を義務付ける規制案を発表した。提案された規制では、こうしたデータを保管し、状況によっては政府に引き渡すことを要求することになる(1日の取引額が一定のしきい値を超えた場合など)。

この提案へのパブリックコメントの期間は15日間と異常に短く、冬休みと重なっているため、現大統領政権が終わる前に押し切って成立させる規制(midnight reglation)として計画されているようだ。この規制の立案者は、この短期のパブリックコメント期間は、これらの技術がもたらす「米国の国益に対する脅威」に対処するために必要だと書いているが、この主張には何の事実の裏づけによる根拠も示されていない。

EFFはまだこの提案を検討中であるが、我々はいくつかの懸念を抱いている。第一に、この規制により、(専門サービスを利用せず)自分のウォレットに暗号通貨を保管している人は、通貨サービス事業者に暗号通貨を保管している人との間で匿名での取引が事実上できなくなるということだ。この規制により、現金のプライバシーと同等のプライバイシーを保ったまま自己所有のウォレットを使用して取引を行うことができなくなる可能性が高い。

第二に、ビットコインのような一部の暗号通貨では、ユーザーのビットコインアドレスを含む取引データが公開ブロックチェーンに永久に記録される。つまり、特定のビットコインアドレスに関連付けられたユーザーの名前を知っていれば、そのアドレスを使用するすべてのビットコイン取引について情報を得ることができるということだ。このように、通貨サービス事業者がウォレットのアドレスに関連する識別情報を収集するという規制案の要件は、政府が規制対象としている範囲を超えた大量のデータにアクセスできる可能性があることを意味している。

第三に、規制は自己ホスト型ウォレットとそれに依存するテクノロジーの普及を妨げる可能性があり、少なくとも取引所のような仲介業者とこれらのテクノロジーを統合することを困難にする可能性がある。規制は、自己ホスト型ウォレットのユーザーが、規制の対象となるサービスによって提供されるウォレットを持つ他のユーザーとシームレスにやりとりすることを著しく困難にする。提案されている規則の下では、これらのホスト型ウォレットサービスは、状況によっては顧客と取引を行う自己ホスト型ウォレットユーザーに関する特定の情報を収集しなければならないことになる。そのため、スマートコントラクトのような特定の自動化された取引が複雑になったり、分散型取引所が関与するシナリオでの実装が困難になったりする可能性がある。「ウォレット」とは名乗っているものの、単なる個人的な通貨の貯蔵庫ではない。このような種類の取引に摩擦を加えることは、個人が自分の財政をコントロールできるようにするこの技術の重要性を損なうことになる。また、広範囲にわたる合法的な利用法を持つ分散型金融プラットフォームを創造するイノベーターの能力を阻害する可能性もある。

第四に、提案されている規則は、現金取引に関する既存の規制を単に暗号通貨に適用することを目的としているが、これらのデジタル金融ツールは、従来の現金と同等かおそらくそれを超えるプライバシーと匿名性を提供するために存在しているのだということを無視している。この点で、提案されている規制は、米国政府が従来の銀行システムの金融監視を暗号通貨にまで拡大するという、より大きな厄介な傾向の一部となっている。この提案は、司法省が暗号通貨のユーザーが匿名で取引できる能力を弱体化させたいと考えていることを明確にした「暗号通貨執行フレームワークCryptocurrency Enforcement Framework」を発表してからわずか2カ月後に発表されたものだ。

このフレームワークが述べていることがこの規制でも繰り返され、ZcashやMoneroのようなプライバシーコインを使用するだけで「犯罪行為の可能性を示している」とされる。また、フレームワークでは、暗号通貨取引を追跡しにくくするミキサーやタンブラー(訳注)を操作している人は、マネーロンダリングで刑事責任を問われる可能性があるとしている。金融規制当局は、NSA同様、金融プライバシーを保護しようとする者は誰もが何らかの違法なことをしていると疑っている。

このフレームワークはまた、分散型取引所(訳注)をターゲットにしている。分散化された交換は典型的にオープンソースのソフトウェアであり、人々は、他者の関与なしに、当事者相互で直接暗号通貨の交換を可能にする。司法省は、こうしたプロジェクトはFinCENに登録し、「顧客と取引データを収集・保持しなければならない」と述べている。

その他にも、今年の動向としては、法執行機関が暗号通貨取引所から金融取引データを取得するために令状を取得する必要はないという第5巡回区裁判所の決定や、「トラベルルール」(訳注)の義務を満たすために機関が取引データを収集・保存しなければならない閾値を3,000ドルから250ドル(暗号通貨またはフィアット通貨(訳注))に引き下げるというFinCENの提案などがあった。

これらの動きは、オンラインでの個人的な取引能力への攻撃であり、従来の銀行システムの広範な金融監視を暗号通貨に拡大しようとするものだ。金融記録には、人々の個人的な生活、信条、所属に関する機密情報が山のように含まれている。それにもかかわらず、裁判所や法律家は、従来の銀行システムにおける広範囲の令状なしの金融監視を許可してきた。銀行秘密保護法は、捜査に役立つという理由で銀行に財務記録の維持を義務付けており、1976年には最高裁が(ミラー事件で)令状なしに政府が銀行の顧客データを入手することを認めた。EFFは、米国政府がこの監視を暗号通貨取引にまで拡大しようとしていることを懸念している。

暗号通貨は、現金のように匿名での取引が可能であるため、市民の自由にとって重要である。香港の抗議デモの写真には、抗議者が現金で切符を購入するために地下鉄の駅で長い列を作っている様子が写っている。これらの写真は、キャッシュレス社会が監視社会であること、そして現金の匿名性をデジタル世界に取り込むことの重要性を強調している。

また、暗号通貨は検閲に強いという点でも重要だ。多くの伝統的な金融仲介業者は、アダルトソーシャルネットワークやアダルトブックセラー、物議を醸しているウェブサイトなどの金融機関へのアクセスを、法律に違反していない場合でも遮断するなど、恣意的な金融検閲を行ってきた。

今回の新たな規則案を含む米国の規制当局の最近の行動は、ピアツーピア技術が提供するプライバシーと市民的自由の保護を弱体化させる恐れがある。このルールメイキングでは、2021年1月4日までに一般市民からのコメントを求めている。EFFは、市民の自由のコミュニティや、金銭的プライバシーの保護を望む個人が、期限が急に迫っていることもあるが、この規則案に反対するコメントを提出してくれることを期待している。

出典:https://www.eff.org/deeplinks/2020/12/us-government-targeting-cryptocurrency-expand-reach-its-financial-surveillance

訳注:ミキサ、タンブラー
「ミキシングサービスは、全体のビットコインを何百もの小さなトランザクションに切り分け、難読化させるために異なるトランザクションを他のソースと混ぜ合わせ、入力金額から手数料を引いたものを特定の出力アドレスに送り出します。合法的に取得したビットコインを混ぜ合わせることは犯罪ではなく、数学の練習になること以外には実際の利益は生じません。」https://blogs.mcafee.jp/crypto-currency-laundering-service-bestmixer-io-taken-down-by-law-enforcement

「ビットコインの「洗浄」には、「タンブラー」と呼ばれる専用ソフトが開発されています。タンブラーは、盗み出した「汚い」ビットコイン同士を混ぜ合わせることで追跡を困難にします。タンブラーは、ビットコインを細分化し、一定量のビットコインを時間をかけて相互交換することでアドレス間を移動させます。また、タンブラーは匿名ネットワークTorを通じてのみアクセス可能なソフトであり、盗まれたビットコインの流通経路をたどろうとしても、さまざまなアドレスに散らばったビットコインの所有歴は膨大なものとなるため、結局、背後にいるハッカーにたどり着くのは現実的に極めて困難な作業になります。」https://gigazine.net/news/20131225-how-to-steal-bitcoin/

訳注:分散型取引所
「暗号資産取引所は、消費者が暗号資産(トークン)を購入および販売するための手段です。取引所は、暗号資産で取引するためのプラットフォームで買い手と売り手を集めることで、特定のトークンの市場価格を確立するのに役立ちます。

これまでの多くの暗号資産取引所は一元化されており、それらは中央当局によって作成および管理されます。

海外ではBinance(バイナンス)、Kraken(クラーケン)、Coinbase(コインベース)、Gemini(ジェミニ)、国内ではbitFlyer(ビットフライヤー)、Coincheck(コインチェック)などの取引所はすべて、重要なユーザーベースを持つ集中管理された暗号資産取引所です。

しかし、新しい形式の暗号通貨取引所「分散型取引所(DEX)」が市場に参入し、月ごとに勢いを増しているようです。分散型取引所(DEX)は、集中型暗号通貨取引所と同じまたは非常に類似した機能を提供しますが、集中管理されていません。

代わりに、分散型取引所は、プログラムされたコードに基づいて取引を実行するスマートコントラクトの結果として主に機能する可能性があります。特徴は、仲介者(特定の取引所のマネージャー)をトランザクションから除外することです。」https://coin-box.jp/newbie/dex/

訳注:トラベルルール
暗号資産取引所にて高額の送金が行われた場合、送信者と受信者に該当する顧客の情報を両取引所間で共有すること  https://withb.co.jp/contents/14326/

訳注:フィアット通貨
通常の各国中央銀行が発行する通貨のこと。原語は不換紙幣を指していた。

付記:下訳にhttps://www.deepl.com/translatorを用いました。

(2020/12/25改訂、訳注の追加)

 

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