(+972magazine、LocalCall)「Amazonからのオーダー」: ハイテク大手がイスラエルの戦争のために大量のデータをいかに保存しているか

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(+972magazine、LocalCall)「Amazonからのオーダー」: ハイテク大手がイスラエルの戦争のために大量のデータをいかに保存しているか

(訳者まえがき)ここに訳出したのは、イスラエルで発行されている独立系のネットニュースマガジン、+972に掲載された記事です。amazonとgoogleがいかにジェノサイドに加担しているのかについて、主にイスラエルの軍関係者への取材をもとにして報道したものです。この記事のタイトルは「‘Order from Amazon’: How tech giants are storing mass data for Israel’s war」です。Order from Amazonをどう訳すべきか迷い、「Amazonからのオーダー」としました。orderには、命令、注文、順序などの意味があり、このいずれをも意味するようなニュアンスがこのorder from Amazonにはありそうですが何ともいえないので、そのままにしました。

高度な情報機関をもつイスラエルですら対処できなかったのが、ガザの人口に関する膨大なデータを網羅的に保管し、爆撃など必要なときに利用できるように対処する、ということだったようです。言い換えれば、一国の政府すら保管に困るほどの莫大なガザ住民のデータを日々蓄えつづけ、これをどんなに些細なデータであっても捨てないで保存することで将来の標的生成に生かそうとしている、ということです。同時に、これほど膨大なデータであってもGoogleやAmazonは対処できるだけの能力をもっている、ということでもあります。これをGoogleとAmazonがイスラエルの軍部と共同で実現したことがこの記事では述べられています。そしてGoogelもAmazonもジェノサイドに加担する企業であることをかなりはっきりと指摘しています。

日本政府もAmazonのクラウドなどを使っています。同時に、日本に暮す人々の個人データを網羅的に把握することが可能なマイナンバーなどの情報インフラが年々強化されています。日本にいる人達の個人データを無限に溜め込み統治の手段に使うだろうことは明かですが、同時に、こうした日本政府が保有する膨大なデータをいわゆる「同盟国」と共有することも可能になりうると思います。ガザにおけるジェノサイドの技術と私たちの生活とは決して遠く離れてはいないと思います。(小倉利丸)


イスラエル軍はガザの住民の監視情報を保存するためにAmazonのクラウドサービスを使用しており、軍事目的のためにGoogleとMicrosoftからさらにAIツールを調達していることが調査で明らかになった。

ByYuval Abraham 2024年8月4

Local Callとの提携

7月10日、テルアビブ近郊のリション・レジオンで開催された「IDFのためのIT」と題された会議で、全軍にデータ処理を提供するイスラエル軍のコンピューティング・情報システムセンター部隊の司令官が講演した。ラチェリ・デンビンスキー大佐は、+972誌とLocalCallその録音を入手した約100人の軍関係者と産業関係者を前にした講演で、イスラエル軍がガザ地区への継続的な攻撃において、民間ハイテク大手が提供するクラウドストレージや人工知能サービスを使用していることを初めて公に認めた。デンビンスキーの講演スライドには、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azureのロゴが2度登場した。

クラウドストレージとは、大量のデジタルデータをオフサイト[現場から離れた場所]で保存する手段で、多くの場合、サードパーティーのプロバイダーが管理するサーバー上にある。デンビンスキーは当初、ヘブライ語の頭文字Mamramで知られる彼女の軍の部隊は、民間企業が運営するパブリッククラウドではなく、軍内部のサーバーでホストさ れている「軍事作戦クラウド」をすでに使用していると説明していた。彼女はこの内部クラウドを「兵器プラットフォーム」と表現し、爆撃の標的をマーキングするアプリケーションや、ガザ上空の無人偵察機からのライブ映像を見るためのポータル、攻撃・指揮・管理システムなどが含まれていると説明した。

しかし、2023年10月下旬のイスラエル軍によるガザへの地上侵攻が始まると、ユーザーとしてプラットフォームに追加された膨大な数の兵士や 軍関係者のために内部軍事システムは瞬く間に過負荷となり、技術的な問題を引き起こし、イスラエルの軍事機能を減速させる恐れがあった、と彼女は続けた。

デンビンスキーは、この問題を解決するための最初の試みとして、軍の倉庫にある利用可能な予備のサーバーをすべてアクティブにし、別のデータセンターを設置した、と説明した。しかし、それだけでは不十分だった。彼らは、「民間人の世界に出て行く 」必要があると考えたのだ。彼女によれば、大手ハイテク企業が提供するクラウド・サービスを利用すれば、軍のコンピューター・センターに物理的にサーバーを保管する必要もなく、ボタンをクリックするだけで無制限のストレージと処理用サーバーを購入できるという。

しかし、クラウド企業が提供する「最も重要な」利点は、人工知能における高度な能力だとデンビンスキーは言う。「サービス、ビッグデータ、AIの異常なまでの充実ぶりは、我々のシステムが本当に必要とする段階にすでに達している」と彼女は笑顔で語った。これらの企業と協力することで、ガザ地区での軍事作戦に「非常に大きな効果をもたらしている」と彼女は付け加えた。

デンビンスキーは、どのサービスをクラウド企業から購入したのか、またそれらがどのように軍の役に立っているのかは明言しなかった。972とLocal Callへのコメントで、イスラエル軍は、内部クラウドに保存されている機密情報や攻撃システムは、テック企業が提供するパブリッククラウドには移されていないと強調した。

しかし、+972とLocal Callの新たな調査によって、イスラエル軍がガザ住民の大量監視によって収集した情報収集の一部を、実際にアマゾンのAWSが管理するサーバーに保存していたことが明らかになった。この調査では、ガザ戦争が始まって以来、特定のクラウド・プロバイダーがイスラエル軍の部隊に豊富なAI機能とサービスを提供していたことも明らかになった。

2023年5月2日、ブラジルのリオデジャネイロで開催されたWeb Summit Rioのアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のブース。(ウェブサミット・リオ/CC BY 2.0)

イスラエル国防省、イスラエルの兵器産業、クラウド企業3社、そして10月の地上侵攻開始以来、軍事作戦に携わってきたイスラエル情報当局の関係者7人は、+972とLocal Callに、軍が戦時技術能力を強化するために民間企業のリソースをどのように調達しているかを説明した。3人の情報筋によると、軍とAWSの協力関係は特に緊密だという。クラウド大手のAWSは、イスラエルの軍事情報総局Military Intelligence Directorateにサーバーファーム[ビルまたはフロア全体にコンピューター・サーバーが設置された施設]を提供しており、戦争で軍を支援する大量のインテリジェンス情報を保存するために使用されている。

複数の情報筋によると、AWSのパブリック・クラウド・システムの膨大な容量により、軍はガザにいるほぼ「全員」の情報を保持するための「無限のストレージ」を持つことができるという。現在の戦争中にクラウドベースのシステムを使用したある情報筋は、2つの画面(1つは軍のプライベート・システムに接続され、もう1つはAWSに接続されている)で、軍事作戦を遂行しながら情報を「Amazonに指示」して作業していると述べた。

軍情報筋は+972とLocal Callに対し、ガザのパレスチナ人住民全員を監視して収集する情報範囲は非常に大きく、軍のサーバーだけでは保存しきれないと強調している。特に、情報筋によると、(文字情報やメタデータだけでなく)何十億もの音声ファイルを保管するためには、はるかに大規模なストレージ機能と処理能力が必要であり、そのため軍はハイテク企業が提供するクラウドサービスに頼らざるを得なかったという。

Amazonのクラウドに保存された膨大な情報は、まれにガザでの空爆(パレスチナ民間人をも殺害し、危害を加えることになる空爆)を確認するのに役立った、と軍関係者は証言している。全体として見れば、私たちの調査は、大手ハイテク企業がイスラエルの進行中の戦争に貢献していることをさらに明らかにした。この戦争は、不法に占領された領土での 戦争犯罪や人道に対する罪の疑いがあるとして、複数の国際的な裁判所から警告を受けている。

100万ドル払えば、さらに1000台のサーバーが手に入る」。

2021年、イスラエルはGoogleとAmazonとProject Nimbusと呼ばれる共同契約を結んだ。12億ドル相当のこの入札の目的は、政府省庁の情報システムを落札企業のパブリック・クラウド・サーバーに移行させ、そこから高度なサービスを受けることを奨励することだった。

この契約は大きな物議を醸し、両企業の従業員数百人が数カ月足らずのうちにイスラエル軍との関係断絶を求める公開書簡に署名した。10月7日以降、AmazonとGoogleの従業員による抗議行動が拡大し、No Tech For Apartheidの旗の下に組織された。4月には、Google(デンビンスキーが講演したIT For IDF会議のスポンサーに一時名を連ねていたが、その後ロゴは削除された)は、ニューヨークの同社オフィスでの抗議行動に参加したことを理由に、50人のスタッフを解雇した

報道では、イスラエルの軍と国防省は、Project Nimbusの枠組みの中で、機密でない資料のみをパブリック・クラウドにアップロードするとされていた。しかし、私たちの調査では、少なくとも2023年10月以降、大手クラウド企業が機密情報を扱う軍の部隊にデータストレージやAIサービスを提供していることが明らかになった。複数のセキュリティ情報筋が+972とLocal Callに語ったところによると、10月以降のイスラエル軍への圧力により、Googleクラウド、AmazonのAWS、Microsoft Azureからのサービス購入が劇的に増加し、前者2社からの購入のほとんどがNimbus契約を通じて行われているという。

Google Cloud Summitでは講演を行うスピーカー(2017年10月17日)。(パブリックドメイン)

ある安全保障関係者は、戦争当初、イスラエル軍のシステムは非常に過負荷で、ガザでの多くの攻撃の基礎となった情報システムをパブリック・クラウド・サーバーに移すことを検討したと説明した。「30倍以上のユーザーがいたため、クラッシュしてしまった」と、この情報筋はこのシステムについて語った。

「[パブリック]クラウドで何が起こるかというと、ボタンを押して、その月にさらに1000ドル払えば、10台のサーバーが使えるようになる」と情報筋は続けた。戦争が始まる?100万ドル払えば、さらに1000台[10000台の誤記か:訳注]のサーバーが手に入る。それがクラウドの力だ。だから(戦争中)IDFの人たちはクラウドでの作業を強く勧めた。それはジレンマだった」。

Project Nimbusはこのジレンマを解消した。入札条件の一部として、落札した2つの企業、GoogleとAmazonは、それぞれ2022年と2023年にイスラエルにデータセンターを設立した。イスラエルのハイテク企業Comm-ITの共同設立者で、10月から軍のクラウド移行を支援しているアナトリー・クシュニールは、+972とLocal Callの取材に対し、Nimbusはイスラエルの管轄下にある高度なコンピューターセンターの「インフラを構築した」と説明した。

この取り決めによって、「安全保障機関、それも機密性の高い機関」は、戦争中、海外の裁判所(おそらく、イスラエルに対する訴訟の際に情報を求める可能性がある)からの心配をすることなく、クラウドに情報を保存することが容易になった、と同氏は述べた。

「戦争中、「以前には存在しなかったニーズが(軍に)生まれ、このインフラを使用することで、それらを実装することがはるかに容易になった、なぜならこのインフラは、最も単純なものから最も複雑なものまでサービスを提供することができるグローバルな所有者のインフラだからだ」とクシュニールは続けた。これらの企業はイスラエル軍に「最先端のサービス」を提供し、それが今回のガザ戦争で使用されたと彼は付け加えた。

このような軍の手順の劇的な変化は、戦争が始まってから大きく加速した。クシュニールによれば、以前は、軍は主に 「on-prem」(「on premises 」の略)と呼ばれる自前で開発したシステムに頼っていた。しかしこれでは、不足している新しいサービスを構築するために、何年とは言わないまでも、何カ月も待たなければならなかった。一方、パブリック・クラウドでは、AI、ストレージ、処理能力が 「はるかに利用しやすい」。

クシュニールは自分のコメントに限定をつけながら、「本当に機密性の高い情報、最も秘密のものは(民間人のクラウドには)ない」と説明した。軍事作戦に関するものは間違いなくそこにはない。しかし、部分的にはそこに保管されているインテリジェンス的なものもある」。

しかし軍内部でも、データ漏洩の可能性について懸念を表明する者はいる。「彼らはクラウドについて私たちに話し始め、私たちはサードパーティ企業に私たちの情報を送ることに情報セキュリティ上の問題はないのかと尋ねたとき、私たちはこの(リスクは)それを使用する価値に比べて小さいと言われた」とある情報筋は語った。

2024年5月6日、ガザ地区南部のカーン・ユーニスでイスラエル軍の空爆後、煙が上がる。(Abed Rahim Khatib/Flash90)

クラウドは全ての人の情報を把握している

情報筋が+972とLocal Callに語ったところによると、イスラエル軍のパレスチナ人の軍事戦闘員に関する諜報情報のほとんどは、インターネットに接続されているパブリック・クラウドではなく、軍内部のコンピューターに保存されているという。しかし、3人のセキュリティー情報筋によると、イスラエルの軍事情報総局が使用しているデータ・システムのひとつは、Amazonのパブリック・クラウドであるAWSに保存されているという。

軍は少なくとも2022年末からガザでこのシステムを集団監視に使用しているが、今回の戦争以前は特に軍事作戦とは考えられていなかった。現在、これらの情報筋によると、Amazonのシステムには軍が使用する情報が「無限に蓄積」されているという。

軍情報筋は、AWSに保管されている諜報情報は、軍の内部システムに保管されているものに比べれば、軍事作戦で使用するという点ではまだ「ごくわずか」だと考えられていると断言した。しかし、軍の攻撃に参加した3人の情報筋によると、AWSは、軍の戦闘員と疑われる者に対する空爆の前に「補足情報」を提供するために多くのケースで使用され、そのうちのいくつかは多くの民間人を殺害したという。

972とLocal Callが以前の調査で明らかにしたように、イスラエル軍は、旅団司令官や時には大隊司令官レベルのハマース幹部に対する攻撃で、「数百人の民間人」の殺害を許可した。こうしたケースのいくつかで、Amazonのクラウドが運用されていたと、安全保障筋は説明した。

情報筋によると、AWSベースのシステムは、ストレージに制限がなく「すべての人の」情報を保持できるため、イスラエルの諜報機関にとって特に有用だという。ある情報筋は、戦争中、軍がハマースの軍事組織の幹部を、何百人もの難民や病人がいる大きな雑居ビルの中に発見したときのことを、「本当に運命的だった」と語っている。その情報源は、AWSを使用して誰がそのビルにいるのか情報を集めたと述べた。その情報筋によると、この軍事作戦は最終的に中止されたという。なぜなら、幹部戦闘員がどこに隠れているのか正確には不明であり、軍はこの作戦を続行することでイスラエルのイメージがさらに悪化することを危惧したからだ。

「[Amazonの]クラウドは無限のストレージ(空間)だ」と別のイスラエル情報筋は言う。「まだ通常の(軍の)サーバーがあり、それはかなり大きい……しかし、情報収集中に、時々、興味のある人物を見つけ、こう言う。「なんと残念なことに、彼は(監視対象として)含まれていない、私は彼についての情報を持っていない。しかし、クラウドにはすべての人の情報があるから、クラウドは彼の情報を教えてくれるだろう」。

以前は、軍は新しい情報を入れるスペースを確保するために、データベースに蓄積された無駄な情報を削除するのが通例だった。しかし、7月10日の講演でデンビンスキーは、軍は10月から 「すべての戦闘資料を保護し、保存し、保管する 」ことに取り組んでいると指摘した。ある安全保障関係者は、ストレージ容量が増えたのはパブリック・クラウド企業のおかげだとし、実際にそうなっていることを認めた。

2023年5月、陸軍基地内にいるイスラエル軍兵士。(IDF Spokesperson’s Unit/CC BY-SA 3.0)

クラウド大手と協力するもうひとつの大きなインセンティブは、彼らの人工知能の能力と、それをサポートするグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)サーバーファームだ。軍事情報をパブリック・クラウドに移行する議論に参加したある情報筋によると、彼らの上司は「クラウドに移行すれば、(クラウド企業は)独自のSTT(音声テキスト化機能)も持っていると話していた」という。これらは優れている。すでにその機能が存在するのであれば、なぜ軍隊内ですべてを開発する必要があるのだろうか」。

情報将校が+972とLocal Callに説明したワークフロー(AWSのパブリック・クラウドからデータを 「取り寄せ」、それを軍の閉じたネットワークに送信する)は、イスラエルの軍事情報総局のエリート部隊である8200部隊の現指揮官が2021年に執筆した本の詳細と一致しており、その指揮官は最近『The Guardian』によってヨッシ・サリエル(Yossi Sariel)であることが明らかにされた。

「どうすれば安全保障機関は 「Amazonクラウド 」を使用し、安全だと感じることができるのか」サリエルはこう書いている。サリエルは、軍の内部システムとパブリック・クラウドが安全に 「常に相互に通信できる 」特別なネットワークを解決策として提唱している。イスラエル諜報機関が収集する秘密情報の範囲は非常に広いため、「AmazonやGoogle、Microsoftなどの企業にしか 」保管できないと彼は付け加えた。

同年、イスラエルの諜報機関誌に寄稿した8200部隊の副司令官は、パブリック・クラウド・プロバイダーとの「新たな提携」を呼びかけた。彼らのAI能力は「代替不可能」であり、軍のものより優れているからだ。彼は、クラウド企業も軍と提携することで利益を得られるとほのめかした: 「Aman(Military Intelligence)は、様々なセンサーから、敵に関するデータなど、民間人が大金を払ってでもアクセスしたいようなデータを含め、IDFのほとんどのデータを保有している。

「IDFが使用するものは、最高のセールスポイントのひとつになる」。

軍や兵器業界の情報筋によると、Microsoft Azureは何年もの間、イスラエルの主要なクラウドプロバイダーとみなされ、国防省や機密情報を扱う陸軍部隊にサービスを販売していた。ある情報筋によると、Azureはイスラエル軍に監視情報を保存するクラウドを提供するはずだったが、Amazonの方が良い価格を提示したという。イスラエル国防省との関係を知るクラウド企業の情報筋によると、アマゾンがNimbusの入札を獲得して以来、Amazonは軍のトップ・サービス・プロバイダーとしてAzureに取って代わろうと、Azureと積極的に競争しているという。

Comm-ITのクシュニールは、過去には 「ほとんどの政府機関や軍機関は開発に多くの投資を行い、Azureをベースとしたシステムを構築していた 」と説明する。しかし、Nimbusの入札でAzureが落札できなかったため、国防省ではGoogleとAmazonのサーバーへの 「ある種の移行プロセス」が行われており、今回の戦争でそれが加速した、と彼は続けた。

ハイテク業界の情報筋によると、イスラエル国防省は、クラウド企業3社にとって重要かつ「戦略的」カスタマーとみなされているという。これは、取引の金銭的範囲が大きいという理由だけでなく、イスラエルが世界中の安全保障機関の間での意見形成に影響力を持ち、他の機関が採用する「トレンド」をリードしていると認識されているためだ。

2020年10月30日、ヘルツリーヤ・ピトゥアにあるマイクロソフトの開発センター。(ギリ・ヤアリ/Flash90)

長年にわたって国防省の調達ポリシーを指揮し、クラウド大手との接触を保ってきた人々の一人が、今回の調査のために+972とLocal Callの取材に応じてくれたアヴィ・ダドン大佐だ。彼は2023年まで国防省の調達管理者を率い、年間100億NIS(約27億ドル)以上の軍事調達に責任を負っていた。

「[クラウド企業にとっては]これが最強のマーケティングだ」とダドンは言う。「IDFが使用しているものは、これまでも、そしてこれからも、世界で最も優れた製品やサービスのセールスポイントのひとつになるだろう。彼らにとってそれは実験室なのだ。もちろん、彼らは[私たちとの仕事を]望んでいる」。

ダドンは、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudの代表者とイスラエルで何度もミーティングを行い、米国にも出向いたという。彼はまた、Project Siriusと呼ばれる機密入札についてもクラウド大手と接触していた。

2021年にイスラエルの金融専門紙『Globes』で初めて報道されたSiriusは、Nimbusよりもはるかに機密性が高いとされ、まだどのハイテク企業とも契約していない。5月、軍はウェブサイト上で、「(軍の)システムをパブリック・クラウド(ニンバス)に移行」するために「大手クラウド・プロバイダーと協力」し、シリウス入札の枠組みの下で「中核となるオペレーティング・システムをセキュリティ・クラウドにアップロードする準備をする」専門家の採用を求めていると発表した。

「Siriusは、パブリック・クラウドや他のネットワークから隔離されたプライベート・セキュリティ・クラウドであり、IDFと国防省のみを対象としている」とダドンは説明する。「これがどのようなものになるかについては、10年以上前から議論されてきた」。3人のセキュリティ情報筋によると、この新しいクラウドはインターネットから切り離され、大手クラウドプロバイダーのインフラ上に構築されることになっており、イスラエルのすべての安全保障機関が機密システムのために使用することができる。

ダドンによれば、パブリック・クラウド・サービスは軍の殺傷能力を高める可能性があるという。「抹殺」すべき人物を探すとき、彼は「一見興味のなさそうな何十億もの詳細を収集することになる。しかし、それらを保存しなければならない。すべてを処理(融合)して、「ターゲットがこの時間にここにいる 」という情報を作り出すには、5分しかない、一昼夜もあるわけではないのだ。だから、当然情報が必要なんだ」と語った。

「私たちのサーバーではできない。不要だと思うものは常に削除しなければならないからだ」とダドンは続けた。「ここには非常に重要なトレードオフがある。いったんクラウドにアップロードしてしまうと、『オンプレミス』に戻ることはほとんど不可能だ。新しい世界を知ることになる。すでに数桁大きな情報をアップロードしてしまったのに、これからどうするのか?削除を始めるのか?

972とLocal Callが以前の調査で明らかにしたように、戦争初期にイスラエルがガザで行った攻撃の多くは、「Lavender 」と呼ばれるプログラムの提案に基づいていた。AIの助けを借りて、このシステムはほとんどのガザ住民の情報を処理し、暗殺のために下級戦闘員を含む疑わしい軍事戦闘員のリストを作成した。イスラエルはこれらの戦闘員を組織的に個人宅で攻撃し、家族全員を殺害した。そのうちに、軍は Lavenderが十分な「信頼性」を持っていないことに気づき、他のソフトウェアに切り替えて使用するようになった。+972とLocal Callは、Lavenderがパブリック・クラウド企業を含む民間の助けを借りて開発されたかどうかを確認することはできなかった。

2024年4月29日、ガザ地区南部のラファで、イスラエルの空爆で破壊されたアル・ハティブ家の破壊状況を視察するパレスチナ人。(Abed Rahim Khatib/Flash90)

「ノートパソコンで戦う」

デンビンスキーは先月の講演で、現在のガザでの軍事作戦を 「初めてのデジタル戦争」と呼んだ。2021年のガザ攻撃でもデジタル機能が使用されたことを考えると、これは誇張のようにも思えるが、イスラエル国防筋によれば、今回の戦争で軍のデジタル化プロセスは大幅に加速したという。彼らによれば、現場の指揮官は暗号化されたスマートフォンを持って歩き回り、WhatsAppに似た軍事作戦チャット(企業とは無関係だが)でメッセージをやりとりし、共有ドライブにファイルをアップロードし、無数の新しいアプリケーションを使用しているという。

ガザの軍事作戦室に勤務していた将校は、「ノートパソコンの中から戦闘しているようなものだ」と語った。以前は、「敵の目の白目を見たり、双眼鏡を覗いたり、相手が爆死するのを見たりしていた」。しかし今日では、標的が現れたら、「ノートパソコンを通じて(兵士たちに)『戦車で撃て』と言うのだ」。

軍内部のクラウド上にあるアプリのひとつに、「Z-Tube」(ZはIDFの頭文字Zahalの略)というものがある。これはYoutubeによく似たウェブサイトで、兵士たちは無人偵察機を含むガザにある軍のすべての撮影デバイスのライブ映像にアクセスできる。MapIt “と呼ばれる別のアプリでは、兵士たちが協力的でインタラクティブな地図上にリアルタイムでターゲットをマークすることができる。「ターゲットは地図上で最も重要なレイヤーだ」と、ある治安情報筋は+972とLocal Callに語った。「すべての家にターゲットがいるかのようだ」。

Hunter と呼ばれる関連アプリは、ガザの標的を示すサインや AI を使った行動パターンの検知に使用される。これは、ヘブライ語の頭文字Matzpenで知られる部隊の司令官で、戦闘用のシステム開発を担うEli Birenbaum大佐によって、IDFのIT会議で発表された。

内部クラウドは軍のサーバーで管理され、民間企業のクラウドには接続されないことになっているが、複数の情報筋によると、民間クラウド企業が運用システムに同様のサービスを提供する「安全な」方法があるという。

「IDFは、機密性の高いものを外部に持ち出すことはない。こうしたものは(エアギャップされた軍用ネットワーク[物理的な隔離によって、外部と通信できないようにしたシステム]の)内部にとどまる」と、元陸軍ICT高官で、現在はComm-ITの防衛部門を率いるアサフ・ナボット大佐は+972とLocal Callに語った。彼によれば、AIサービスなど民間のクラウド企業の 「頭脳 」を軍の内部システムに取り込むことが課題だという。外部で使うのではなく、内部で使うのだ。だから、外部と一対一ですべてを実現することはできないが、驚くべき進歩を遂げることはできる」。

2022年、当時Microsoft Azureに所属し、現在はAWSに所属するAIの専門家であるイタイ・ビニャミンは、デンビンスキーのMamramユニットの卒業生たちに、このシステムによって「(インターネットから)切り離された環境において、(Microsoftの)AI機能をオンプレミスでも、自分たちのサーバー上でも配備する」ことが可能になると説明した。ビニャミンはビデオでの説明の中で、Microsoftの顔認識ツールがどのようにニュースビデオを分析し、ハマースの指導者イスマイル・ハニェがそのビデオに出演していることを識別できるかを学生に示した。

2024年1月30日、ガザ地区南部のハーン・ユーニスから逃げ出すパレスチナ人を監視するイスラエル軍。(アティア・モハメッド/Flash90)

Microsoft Azureのウェブサイトでは、情報を安全に保つ必要のある「戦略的パートナー」向けに設計された「非接続コンテナ」と呼ばれるツールを紹介している。このウェブサイトによると、このツールには、文字起こし、翻訳、感情認識、言語、要約、文書、画像分析などの機能が含まれている。
ナボットは、デジタルテクノロジーの開発ペースは非常に速く、軍が「追いつく」ためには民間の市場やクラウド企業からサービスを購入するしかないと説明する。「M16(突撃ライフル)を見てほしい。M16を最後に作ったのはベトナム戦争だ。あまり変わっていない。しかし、デジタル・ソフトウェアに関しては、「数年単位ではなく、数ヶ月単位で 」変化すると彼は言う。
たとえそれが軍事作戦に直結するものでなくても、情報資料が民間のクラウドにアップロードされるという事実そのものが、イスラエル軍の一部に懸念を抱かせている。ある軍関係者は、「何か怖い感じがする」と言う。「軍が今日持っている情報は、(占領地の)多くの人々に関する詳細な情報だ。それを、金儲けを目的とする巨大な民間企業や営利企業に明け渡すのか?」
一方、他の安全保障関係者は、特定のターゲットではなく、広く収集された生の情報は、攻撃目標に変換されて初めて機密になるため、特に機密になることはないという。「イラン人がこの情報にアクセスすることが本当に怖いというわけではない」と、ある情報筋は述べた。
Mamramを担当する陸軍の軍事技術強化部門(ヘブライ語の頭文字をとってLotemと呼ばれる)の司令官であるヤエル・グロスマン准将は、5月のポッドキャストで、現在の戦争では民間のテクノロジーに依存しているため、「短期間でとんでもない飛躍が可能になった」と述べている。しかしダドンは、クラウドに資料をアップロードすることを「メルセデスのキーを他人に渡す」ことに例えている。私たちはメルセデスを使用しないほうがいいのだろうか?使う必要がある。ではどうやって?わからない」。

「パレスチナ人を殺すために使用する道具に直接手を染めることになる」

近年、Amazonはイスラエル軍のパートナーになっただけでなく、欧米の複数の諜報機関にクラウドサービスを提供するようになった。2021年、AWSは英国の諜報機関GCHQ、MI5、MI6と「機密」情報を保管し、AIツールの使用を加速させる契約を締結した。オーストラリア政府も同様に今月、13億ドルを投じて「極秘」情報資料用のクラウドをアマゾンのサーバー上に構築すると発表した。この巨大ハイテク企業はまた、他の大企業3社とともに、米国防総省の 「あらゆるレベルの機密 」に対応する巨大クラウドを構築する契約を結んだ。

Amazonは、「責任あるAIの構築」に関する漠然としたルールを公表している。そのルールは、「データを適切に取得、使用、保護すること 」と、「有害なシステム出力や誤用を防止すること 」にのみ言及している。Microsoftの「責任あるAIの原則とアプローチ」にはこうある: 「我々は、AIシステムが責任を持って開発され、人々の信頼を得られるような方法で開発されることを確認することに責任を負う」と述べている。

2017年1月31日、テルアビブで開催されたサイバーテック・イスラエル会議・展示会に参加した大手多国籍企業、中小企業、新興企業、個人・企業投資家、ベンチャーキャピタル、専門家、クライアント。(ミリアム・アルスター/Flash90)

Googleはまた、AI原則の一覧表を公表しており、その中でGoogleは、「全体的な危害を引き起こす、または引き起こす可能性のあるテクノロジー、…人々に危害を与える、または直接それを助長することを主な目的や実装とする武器やその他のテクノロジー、…国際的に受け入れられている規範に違反する監視のために情報を収集または使用するテクノロジー、…(または)国際法や人権に関する広く受け入れられている原則に反するテクノロジーにおいて、AIの設計や配備を行わない」と明記している。
しかし、「No Tech For Apartheid」の活動家でオーガナイザーのガブリエル・シュビナーは、クラウド企業は「自分たちがいかに責任を負っているかを示すPRとして使用している」ため、これらの原則は「実質的な効果はない」と言う。彼によれば、企業はカスタマーがサービスをどのように使用しているかをリアルタイムで知る方法がないという。
シュビナーは以前Googleで働いており、ガザ戦争でイスラエル軍が使用していると主張するテクノロジーの提供に反対するGoogleの従業員による抗議活動に参加したことがある。同氏は、Googleが倫理原則を表明する際には常に「曖昧な言葉」を使用してきたと言う。さらに彼によれば、同社はイスラエルとの契約について、「Nimbusでの行動の多くが軍事利用を目的としていることは明らかであるにもかかわらず、何よりもまず民間人が使用するためだ 」と主張し続けているという。
ある国防関係者は+972とLocal Callに、戦争が始まって以来、軍とクラウド企業との間で新たに結ばれた契約のほとんどは、Nimbusの入札を通じて実現したものだと語った。しかし、軍は国防省の入札や、Project Nimbusよりも前の契約を通じて、クラウド企業との関係を築き、深めることも可能である。+972とLocal Callは、インテリジェンス情報の保存に使用されるAWSクラウドが、Project Nimbusの一部として購入されたかどうかを確認することはできなかった。
Human Rights Watchのデジタルの権利専門家であるザック・キャンベルは、「両企業とも、Project Nimbusに参加する前に、人権デューデリジェンスを実施したのかどうか、公表していない。彼らは、自社のテクノロジーを使用する際に、どのようなことが許されるのか、レッドラインがあるとすればどのラインなのかについて言及していない」 と説明する。

イスラエル軍部隊のクラウド移行を支援してきたクシュニールは、クラウド企業とイスラエルとの提携に対する抗議が成功することを恐れていない。「同じ企業が米国、英国、NATOで同様の政府・軍用クラウドを運営していることを忘れてはならない。これらは新興企業ではなく、世界的なICT大企業なのだ」と彼は言う。

パレスチナの人々のデジタルの権利に焦点を当てる7amleh – The Arab Center for the Advancement of Social Mediaのエグゼクティブ・ディレクターであるナディーム・ナシーフは、クラウド企業に対する基本的な要求は、「彼らの製品が人々を傷つけるために使用されないようにすること」であると述べた。彼によれば、人権への配慮という美辞麗句とは裏腹に、クラウド大手の製品はイスラエル軍を含む「人々を抑圧する政府や体制に」販売されているという。

2024年6月14日、カリフォルニア州サニーベールにあるGoogle Cloud CEOオフィスの前で、Googleとイスラエルの関係に反対するデモが行われた。(提供:No Tech for Apartheid)

クラウド企業のプロジェクトや提携に対する監督機能が欠如していることについて、ナシフは次のように付け加えた。「現地の状況では、占領の場合、(このサービスが)軍事的利用のために占領軍に販売されるのか、それとも民間利用として販売されるのかという疑問は、より重要になります」。 彼によれば、イスラエルに存在する民間セクターと軍との間の親密さは、レッドラインなしの協力を容易にし、それが「パレスチナ人」をより一層管理することにつながるという。

「米国がイスラエルに提供する直接的な軍事援助(軍需品、戦闘機、爆弾など)には常に注目が集まっていますが、民間と軍事の両方の環境にまたがるこのようなパートナーシップにはあまり注意が払われていません」とパレスチナのシンクタンク、Al-Shabakaの米国政策フェロー、タリク・ケニー=シャワは言う。「これは共犯関係以上のものであり、イスラエル軍がパレスチナ人を殺すために使用しているツールに直接関与し、協力しているのだ」。

GoogleやMicrosoftは、イスラエルと米国にあるオフィスからの複数のコメント要求に対して回答を拒否した。Amazon Web Servicesは次のように述べている: 「AWSは、世界をリードするクラウドテクノロジーのメリットを、カスタマーがどこにいても利用できるようにすることに注力している。我々は、従業員の安全を確保し、この恐ろしい出来事の影響を受けた同僚を支援し、人道支援パートナーと協力して戦争の影響を受けた人々を支援することに全力を尽くしている。」

この調査はローカル・コールにヘブライ語で共同掲載された。こちらを読む 。

ユヴァル・アブラハムはエルサレムを拠点とするジャーナリスト兼映画監督である。

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