(EngageMedia)米中のAI対抗戦は東南アジアにとって何を意味するのか?

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(EngageMedia)米中のAI対抗戦は東南アジアにとって何を意味するのか?

米中のAI対抗戦は東南アジアにとって何を意味するのか?
ジュン・イー・タン
2022年1月26日
午前10時30分
一言コメント
人工知能(AI)の地政学、そしてそれが東南アジアにとってどのような意味を持つのかを2回に分けて紹介するパート2です。パート1はこちらから。

この記事は、AIが東南アジアにどのような影響を与えるのか、その利点や用途から複雑さや危険性までを記録するEngageMediaの広範な取り組みの一部です。AIガバナンスに関する最新のレポートをお読みください。

東南アジアの国々は、AIレディネス(AI readiness) あるいは変化を実行するためにAI技術を開発・利用するための準備と能力の度合いが様々だ。この地域は主に、AI競争の2つのフロントランナー、中国と米国から輸入された技術のユーザーだ。

AI競争は、中国と米国が5Gネットワークなどの技術インフラにおいて別々の標準やエコシステムを開発することで、世界的にAI開発の断片化を引き起こす可能性があると指摘されている(注1)。この断片化は、一方では技術の進化や国際協力を脅かす可能性があるが、他方では、多様性をもたらし、イノベーションを促進し、権力の分散によるチェックアンドバランスを導入する可能性がある(注2)。

東南アジアは、中国の台頭とAI空間における米国の継続的な優位性の戦略的意味合いと、これら2つの国の技術の切り離しを考慮する必要があるろう。2回にわたる連載の第2回では、米中の技術競争がこの地域にとってどのような意味を持つのかを考える。一方の国の技術を選択することにはどのような意味があるのだろうか。東南アジアの国々は、デジタル植民地化や国家主権national sovereigntyに関わる問題に直面するのだろうか?

データ植民地化という視点を超えて

一部の学者は、地政学の言説におけるグローバル・サウスの立場を分析するために、デジタルまたはデータの植民地化という理論的な視点を用いて、脆弱な人々を抑圧、搾取、収奪するためにアルゴリズムが使用される手法を列挙している(注3,4)。しかし、地域におけるAIガバナンスに関するEngageMediaの調査のなかでインタビューしたAI分野の専門家や学者たちは、東南アジアの状況を議論するための包括的なフレームワークとして、デジタル植民地化という考え方を支持していない。一般的な感覚としては、導かれる結果が類似しているにもかかわらず、国家主権に焦点を当てることで、国家と市場の諸力が互いに作用し合い、また相互に敵対する複雑な相互作用として問題全体を見ることができなくなるからだ(注5)。

データは主に中国と米国に流れており、東南アジアが2つのAI超大国の技術に依存することで、東南アジアの国々やその国民が不利益を被る可能性があることは認められているが、インタビューに答えた専門家の中には、東南アジアではデータ保護規制が脆弱か存在しないため、外国企業の関与の有無にかかわらず、データの搾取が行われるだろうと述べる者もいる。同様のデータ収集の誤用や侵害は、ローカルなプレイヤー(東南アジアの諸国政府)によっても引き起こされるかもしれないのだ。したがって、データ保護やテクノロジーの利用が、単にテクノロジーの所有者の倫理観や善意に依存するのではなく、その国の強力な規制・政策基盤に焦点を当てることがより重要となる(その起源は問わない)。

インタビューへの回答者の一人は、データローカリゼーション(国境を越えたデータの流れの制限)に反対し、データを現地で管理することがより良い管理を意味するわけではないと指摘している。データ保護の観点からは、データ主権は、個人やコミュニティが自分のデータを所有するなど、国家レベルよりもはるかに下のレベルで考えるべきだ。

何よりも考慮すべきは国益

また、東南アジアの国々は、使用する技術を選択したり、有利な条件で交渉する権限を認識することも重要だ。米国と中国の技術競争の影響に関する質問では、東南アジアの国々は、価格、機能、あるいは戦略的な観点から、自国にとって最適なものを選択するだろうと述べて、このことを示唆する回答者もいた。

例えば、Alibabaがマレーシアで行っている活動(デジタル自由貿易区やAlibabaのスマートシティプログラム「シティ・ブレイン」など)に関するケーススタディでは、地政学的な問題やプライバシーに関する懸念はともかく、マレーシアがAlibabaと協力することで経済的にもインフラ的にも実質的な利益を得ていると論じている。この研究は最終的に、他の国々は「東南アジアでのゲームの質を高めることが切実に重要」であり、「中国政府主導のイニシアチブやDSR(デジタル・シルクロード)に反論することは適切な戦略ではない」と結論づけている(注6)。

この地域の5G導入に関するISEASの調査によると、東南アジアの国々では中国に対する信頼度が異なることがわかっている(ラオスとカンボジアは中国のプロバイダーに対する好意度が最も高く、対してフィリピン、ベトナム、シンガポールは最も低くなっている)。2019年には中国に対する信頼度が高かったものの、米国による中国技術の規制が注目を集めたことを受けて、2020年には同地域の通信事業者はベンダー選択の多様化をみせている。現時点では、ノキア(フィンランド)とエリクソン(スウェーデン)に加えて、ファーウェイとZTE(ともに中国)が東南アジアの5G事情における最大のプレイヤーであり、米国企業(アルティオスター、シスコ、クアルコム)は目立った存在感を示していない(注7)。

短期的には、この地域における米国と中国のライバル関係は、東南アジア諸国に、他の方法では得られないような好条件の交渉力を与え、自国の利益のバランスを取るための選択肢を増やすことになるかもしれない。しかし、長期的には、中国とアメリカの間で技術、基準、規範が二分されることで、多国間主義の衰退につながる。これは、弱小国にとっては、ブロックのような交渉力や強制力を持たないため、不利益をもたらす可能性がある。さらに、共通の規範を構築し、地域の法律に浸透させるという国際的な取り組みが頓挫する可能性もある(注8)。

東南アジア諸国は、AI技術の導入を計画し支援する能力を損なう固有の弱点や課題を特定し、それに対処する方法を見つけなければならない。そうすることで、自分たちの条件でAIの恩恵を受け、2つの超大国が支配するAIエコシステムの中で自分たちの居場所を見つけることができる。

1 (Cheney, 2019)
2 (Feijóo et al., 2020)
3 (Mohamed et al., 2020)
4 (Couldry & Mejias, 2019)
5 引用された学術論文も国家主権に焦点を当てたものではなく、グローバル・サウスを地理的に見るのではなく、脆弱な人々によって見るべきだと表現している。しかし、回答者は通常、「植民地化」とは、ある国から別の国への権力の行使を意味し、植民地化した者が別の国の主権を侵害する意図を持っていると考えている。
6 (Naughton, 2020)
7 https://www.iseas.edu.sg/wp-content/uploads/2020/11/ISEAS_Perspective_2020_130.pdf
8 インタビューデータより

著者について
ジュン・イー・タン博士は、クアラルンプールを拠点とする独立系の政策研究者。彼女の研究とアドボカシー活動の関心は、デジタルコミュニケーション、人権、持続可能な開発の分野に広く根ざしている。また、東南アジアにおけるデジタル著作権やAIガバナンスに関する論文を多数発表しており、これらのテーマに関する多くの国際会議や地域会議に参加している。彼女の活動についての詳細は、彼女のウェブサイト、jun-etan.comをご覧ください。

参考文献
Cheney, C. (2019). China’s Digital Silk Road: Strategic Technological Competition and Exporting Political Illiberalism (Working Paper No. 8; Issues & Insights). Pacific Forum. https://pacforum.org/wp-content/uploads/2019/08/issuesinsights_Vol19-WP8FINAL.pdf

Couldry, N., & Mejias, U. A. (2019). Data Colonialism: Rethinking Big Data’s Relation to the Contemporary Subject. Television & New Media, 20(4), 336–349. https://doi.org/10.1177/1527476418796632

Feijóo, C., Kwon, Y., Bauer, J. M., Bohlin, E., Howell, B., Jain, R., Potgieter, P., Vu, K., Whalley, J., & Xia, J. (2020). Harnessing artificial intelligence (AI) to increase wellbeing for all: The case for a new technology diplomacy. Telecommunications Policy, 44(6), 101988. https://doi.org/10.1016/j.telpol.2020.101988

Mohamed, S., Png, M.-T., & Isaac, W. (2020). Decolonial AI: Decolonial Theory as Sociotechnical Foresight in Artificial Intelligence. Philosophy & Technology. https://doi.org/10.1007/s13347-020-00405-8

Naughton, B. (2020). Chinese Industrial Policy and the Digital Silk Road: The Case of Alibaba in Malaysia. Asia Policy, 27(1), 23–39. https://doi.org/10.1353/asp.2020.0006

出典:https://engagemedia.org/2022/artificial-intelligence-southeast-asia/

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