(EFF)民主主義のためのTor

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(EFF)民主主義のためのTor

(訳者まえがき)この記事はEFFのポッドキャスト『インターネットを修理しよう』シリーズから2025年6月4日配信『Torはなぜ3段?』の前半の抄訳です。全文の文字起こしと音声(どちらも英語)は下記から。(大熊直彦)
https://www.eff.org/deeplinks/2025/05/podcast-episode-why-three-tors-magic-number

シンディー・コーエン(ホスト)
今日はトーア・プロジェクトの執行役員、イザベラ・フェルナンデスさんにお話を伺います。Tor Projectでは開発に携わるいろんなグループの人々がうまく協調してるし、新技術もどんどん生み出しています。フリーソフトで「世界の鏡」といっていいくらいです。もちろん将来の、もっといい社会とインターネットのために活発な活動を続けています。このポッドキャスト・シリーズの基調テーマでもあります。

私はEFFの執行役員をしているシンディー・コーエンです。

ジェイソン・ケリー(ホスト)
そして私はEFFの社会運動担当役員のジェイソン・ケリーです。では、さっそく今回の『インターネットを修理しよう』をお届けしましょう。

シンディ
イザベラさんは2018年からTor Projectの執行役員ですが、それまではプロジェクト・マネージャーでしたね。私がTor Projectの役員会メンバーだったとき、イザベラさんを執行役員に強く推したんです。今でも誇りに思ってますよ。Tor Projectはオープンソース開発のモデル的存在だし、みんなから信頼されているし、そしてなにより世界中で、文字通り人命を救っています。イザベラさんのお話を聞けるので、今日はワクワクです。

イザベラ・フェルナンデス(ゲスト)
こんにちは。お招きありがとう。

ジェイソン
いきなりですけど、きっとみんながTorを知りたがってるでしょう、簡単なところから教えてください。TorとTorブラウザって何が違う…いや、まずTor Projectって何をしてるんですか。

イザベラ
Tor Project自体は非営利団体で、人権のためのテクノロジーを推進しています。Torという技術はVPNに似てるけど、ずっとスグレモノです。Torは分散型なので地球上のあちこちにサーバーがあって、どれもボランティアたちが運営しています。あなたがどっかのウェブサイトにアクセスすると、Torは3つのサーバーを通してあなたとウェブサイトの間でデータを暗号化して運びます。

世界に何千台もあるトーアの分散サーバーは一つの会社が運営しているわけでもないし、1つの団体がやってるわけでもないんです。

Torブラウザも私たちが作りました。Firefoxを改造してますけど、これがあるのでTorのネットワークを誰でも簡単に使えるようになりました。しかもプライバシー保護もバッチリで、サード・パーティ・クッキーは受け付けないし、ブラウザ・フィンガー・プリントも漏らしません

ジェイソン
ええと、つまり、VPNだったら途中のサーバーをどれにするか、どこの国にあるとか、どっかの都市にあるサーバーから選んで、それを通して目的のウェブサイトとかサービしとかにつなぐわけですね。
でもトーアは途中のサーバーを選べない、途中の「3段階サーバー」も選べない、けど、3段階はVPNの1段よりも多いわけだから、その分だけプライバシー保護になるって、そんなところかな。でもどうして3段なんですか、5段でもない、2段でもないのはなぜですか。

イザベラ
不思議ですよね。でも3段がちょうど良いんです。というのも、まず1段目はあなたのブラウザから接続要求を受けるので、あなたのIPアドレスがわかるんですけど、どこが目的のサーバーかは(暗号化されているので)ぜんぜんわかりません。2段目はあなたのIPアドレスも、あなたの目的のサーバーも、ぜんぜんわかりません。3段目(出口サーバー)だけは目的地のウェブサーバーとかがわかって、だからそこに接続できます。

もし2段だけだとあなたがいる場所(IPアドレス)、目的地はどこか、をそれぞれのサーバーが知っていますから、情報を集めてあなたと目的地とをつないでしまうことができるのです。3段あればそれはできません。

ジェイソン
なるほど。では、別の質問ですけど、最近はどのウェブサーバーもhttpsで暗号化されるようになってますね。EFFでもいろんなプロジェクトでもってウェブサーバーの暗号化を後押ししてきました。ウェブサーバーが暗号化されているのに、どうしてさらにTorが必要になるんですか。何が違うんですか。

イザベラ
そうですね、httpsだったらもう暗号化されていますね。ユーザー名とかパスワードとかは暗号化されます。でも誰かが監視していると、あなたが誰で、どこからアクセスしているかはわかってしまいます。Torを使えばそれも隠しますから、誰なのか、どこからアクセスしているか、わからないようにできるんです。あなたが誰だかわかるのは、httpsの相手先のウェブサーバーだけ、です。監視していてもわからないし、トラッカーの追跡もできなくします。

Torを使って、さらにhttpsも使うのがベストですね。

ジェイソン
そうだったんですね。Torの役員からユーザーサポートを受けてるみたいですごいなあ。
プライバシーとかセキュリティに関心のある人からEFFはたくさん問い合わせをもらうんです。でも、プロキシとか、httpsのウェブサイトとか、VPNとか、Torとか、それぞれの役目があるけど、なかなかうまく説明できない。

シンディー
そうです、セキュリティーって、イマイチ難しいですよね。「これだけあれば完璧」っていう、フリーサイズのTシャツみたいなセキュリティー対策があればいいのにね。でも確かにTor Projectはそういう方向を目指してます。

EFFには「Torは特別な人だけが使うもの」とか「隠したいこともないから、セキュリティはいらない」といった問い合わせもよく来るんです。Tor Projectでユーザーに合わせた開発をしている立場から、どんなユーザーがなぜTorを使うのか、紹介してもらえますか。

イザベラ
いろんな人がいろんな理由でTorを使っています。その両極端を紹介することにしましょう。一人は、ブライアンという名前にしましょう。ブライアンにはティーンエイジャーの息子が2人います。ティーンだから、いろんな疑問が出てきますね、セックスのこととか、ジェンダーとか、ドラッグとか、とにかくいろいろ。ブライアンは息子たちに、こういった話題でネットを使うときはTorを通すように言っています。ブライアン自身もTorを使います。そうすることで息子たちのこれからの長い人生に「あのときの検索」がついてまわることがないように防げるのです。

別の例は、キャロライナという名前にしましょう。ウガンダに住んでいるレスビアンです。ウガンダではレスビアンが犯罪とされているので、とても危険なのです。キャロライナは友だちとおしゃべりしたり、ライフスタイルを語ったり、とにかく普通の生活を続けるために危険を避けなくてはいけないのです。キャロライナにはトーアが必需品なのです。

Torブラウザがどのくらい頻繁に使われるのか、アンケートをとったことがあります。オンラインで5万人以上から回答があって、半分以上の人たちが1日に数回から1週間に数回はTorブラウザを使っていました。これほどたくさんの人たちが「この瞬間だけは私のネット履歴を持っていかないで」と望んでTorを使ったんです。とても大切なプライバシーを守るために、デジタル履歴に「空白期間」を作ったのです。

いつも言うんですけど、匿名であること自体がプライバシーの大事な部分で、その部分と何か恥ずかしいとかヤバいことを隠しておくプライバシーとを、ごっちゃにしないでほしいんです。選挙の投票は匿名ですね、理由があってそうなっているんです。匿名性は民主主義の根幹のひとつです。プライバシーは市民の権利を行使するために必要なものなんです。

シンディー
まったくそのとおりです。しかもこの時代は何でもすごいスピードで変わっていきますから、たった今、この場に限ってプライバシーを気にしないと思えても、次の瞬間に別の場面ではまるっきり事情が違うことだってあります。でも私たちはこうして、ボランティアやフリーソフトで市民の安全や権利を守るテクノロジーが使える、だから団結して、抗議して、社会を変えていけるのですね。

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