瀬戸際の組対法・盗聴法審議

 組対法・盗聴法をめぐる攻防は、立法の瀬戸際にきている。自民党、政府の方針では、三月一○日に法務省案の原案で閣議決定し、国会に上程するというスケジュールになっている。

 一九九八年三月六日に、組対法・盗聴法に反対する弁護士有志が呼びかけて、衆議院第二議員会館で院内集会が開かれた。社民党、民主党、共産党、新党さきがけ、新社会党の議員も参加し、一三○名におよぶ参加者でかなり盛況だった。野党議員のなかからは、選挙の秘密が守られるのだろうか、といった不安の声すら聞かれるようになったことは、盗聴捜査について議員も少しずつ認識を改めつつあるということを印象づけるものだった。合衆国では、FBIが与野党議員や政治家に対して盗聴を繰り返してきたことはよく知られているし、ペルーでも先の大統領選挙でフジモリ側による盗聴疑惑が問題になっているなど、警察による違法な盗聴は、反体制勢力に限られることなく上幅広く行われているという実態がある。日本も例外ではないはずなのだが、共産党国際部長宅盗聴事件のように有罪判決が確定してもなおかつ警察庁はその事実を認めないなど、実態解明がまったく進んでいない。

 法務省が提案した「法案要綱骨子」は、きわめてずさんであり、すでに盗聴の法制化をおこなっている諸外国と比べてもずっと甘い内容だ。たとえば、合衆国の場合では、無関係通信については、録音することも聞くこともできないのだが、法務省案では、録音はできないもののずっと聞いていていいことになっている。だから、メモをとったりすることももちろん可能であり、情報収集に都合の良い内容になっている。また、合衆国における盗聴捜査に関する議会報告書は、令状一件ごとに、発布した裁判官、担当検事の氏名、盗聴期間、盗聴した通信件数などはかりでなく、逮捕者数、起訴数、有罪者数から要した経費の金額までが詳細に記載されている。こうしたかなり厳しい規制があるにもかからわず、公式統計に出てきている分だけで計算しても、犯罪関連通信は、盗聴された通信の二割にも満たないのだ。かなり厳しい条件を付しても、プライバシー侵害は深刻なのである。日本の場合には、こうした合衆国のケースを上回る権力による不当な盗聴行為が横行することは間違いないと言われている。

 さらに、警察庁はこの盗聴捜査の合法化を見越して、暗号通信の法制化による規制にすでに乗り出そうとしている。つまり、盗聴しても暗号での通信が認められてしまうと、意味をなさないからだ。警察庁が現在提案しようとしているのは、裁判所等の許可があればいつでも暗号を解読できるようにするために、暗号解読のマスターキーを管理し、このマスターキーでは解読できない暗号を違法とするということだ。遠距離での通信にとって唯一のプライバシー保護の方法は暗号による通信しかない現状で、こうした暗号解読の権利を捜査当局に特権として認めるということになると、私たちの通信のプライバシーはほぼ完全に裸同然になってしまう。

 盗聴法の成立は、このように更に次々と通信監視体制の肥大化を招くことになる。この点からも、なんとしても、法案の上程、成立の阻止が必要になっている。

出典:インパクション107号1998年